(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】トランスフェクション試薬を生成するための拡大可能な方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20230130BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230130BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230130BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20230130BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C12N5/10
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2019561730
(86)(22)【出願日】2018-05-09
(86)【国際出願番号】 US2018031865
(87)【国際公開番号】W WO2018208960
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-07
(32)【優先日】2017-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513009107
【氏名又は名称】ウルトラジェニックス ファーマシューティカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】パンテリ, ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジン, イン
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532414(JP,A)
【文献】特表2015-527889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0013063(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフェクションマスターミックスを調製する方法であって、
(1)DNA溶液およびトランスフェクション試薬溶液を混合容器に導入して、トランスフェクションマスターミックスを作製するステップと、
(2)前記トランスフェクションマスターミックス中のDNAが定常状態濃度に達するのに十分な時間、水平軸に沿って繰り返し傾動可能な機械的揺動デバイスにより前記混合容器を揺動させるステップと、
(3)インキュベーション時間の間、前記トランスフェクションマスターミックスをインキュベートするステップであって、前記インキュベーション時間の間、前記トランスフェクションマスターミックスが実質的に静止している、ステップと
を含む、方法であって、
前記DNA溶液は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)cisプラスミド、rAAVtrans-rep-capプラスミド、およびrAAV生成のためのヘルパープラスミドの群から選択されるプラスミドを含み;
前記トランスフェクション試薬溶液は、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、活性化デンドリマー、およびカチオン性脂質の群から選択される化学的トランスフェクション試薬を含み;
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、1Lまたはそれよりも大きい、方法。
【請求項2】
前記インキュベーション時間が、(a)5~180分または(b)5分もしくはそれ未満、約2分または約1分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合容器が、単回使用の使い捨て容器、あらかじめ無菌化した容器、プラスチックバッグ、または単回使用の細胞培養バッグである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記バッグが、膨張させたものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記バッグが、完全に、または部分的に膨張させたものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記トランスフェクション試薬溶液が、カチオン性ポリマーを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記カチオン性ポリマーが、ポリエチレンイミンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリエチレンイミンが、1kDa~160kDaの間、または4kDa~40kDaの間の平均分子量を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記DNA溶液および/または前記トランスフェクション試薬が、無菌である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記DNA溶液を前記混合容器に導入する前に前記DNA溶液を無菌化するステップをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記DNA溶液が、濾過滅菌により無菌化される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記トランスフェクション試薬溶液を前記混合容器に導入する前に前記トランスフェクション試薬溶液を無菌化するステップをさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記トランスフェクション試薬溶液が、濾過滅菌により無菌化される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記機械的揺動デバイスが、揺動プラットフォームを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記混合容器が、前記揺動ステップにおいて前記揺動プラットフォームの上部に配置される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記揺動させるステップが、
i.1自由度におけるものである、かつ/または
ii.前記トランスフェクションマスターミックスにおいて波動運動を誘導するのに十分である、
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記揺動させるステップが、5~15度の範囲、約12度、または約5度の所定の角度におけるものである、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記揺動させるステップが、所定の速度におけるものである、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記所定の速度が、1~30rpmの間、5~25rpmの間、約10rpm、約12rpm、または約15rpmである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、(a)3Lもしくはそれよりも大きい、12Lもしくはそれよりも大きい、15Lもしくはそれよりも大きい、25Lもしくはそれよりも大きい、50Lもしくはそれよりも大きい、または100Lもしくはそれよりも大きい、あるいは(b)1L~100Lの間である、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、1L、3L、12L、15L、25L、または29Lである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記インキュベーション時間が、10~60分の間、20~30分の間、または10~20分の間である、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、4Lであり、前記所定の角度が、7度であり、前記所定の速度が、10rpmであり、揺動持続時間が、1~2分である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、12Lであり、前記所定の角度が、12度であり、前記所定の速度が、15rpmであり、揺動持続時間が、1~2分である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記DNA溶液および前記トランスフェクション試薬溶液を前記混合容器に導入するステップが、無菌的に達成される、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
複数の細胞をトランスフェクトする方法であって、
(1)DNA溶液およびトランスフェクション試薬溶液を混合容器に導入して、トランスフェクションマスターミックスを作製するステップと、
(2)前記トランスフェクションマスターミックス中のDNAが定常状態濃度に達するのに十分な時間、水平軸に沿って繰り返し傾動可能な機械的揺動デバイスにより前記混合容器を揺動させるステップと、
(3)インキュベーション時間の間、前記トランスフェクションマスターミックスをインキュベートするステップであって、前記インキュベーション時間の間、前記トランスフェクションマスターミックスが実質的に静止している、ステップと、
(4)前記トランスフェクションマスターミックスと前記細胞を接触させるステップ
と
を含
み、
前記DNA溶液は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)cisプラスミド、rAAVtrans-rep-capプラスミド、およびrAAV生成のためのヘルパープラスミドの群から選択されるプラスミドを含み;
前記トランスフェクション試薬溶液は、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、活性化デンドリマー、およびカチオン性脂質の群から選択される化学的トランスフェクション試薬を含み;
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、1Lまたはそれよりも大きい、方法。
【請求項27】
前記細胞が、バイオリアクターに配置され、前記方法が、前記マスターミックスを前記バイオリアクターに無菌的に導入するステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記マスターミックスが、ポンプ、または1バッチもしくは複数バッチを伴う重力送りにより前記バイオリアクターに導入される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を生成する方法であって、
(1)DNA溶液およびトランスフェクション試薬溶液を混合容器に導入して、トランスフェクションマスターミックスを作製するステップと、
(2)前記トランスフェクションマスターミックス中のDNAが定常状態濃度に達するのに十分な時間、水平軸に沿って繰り返し傾動可能な機械的揺動デバイスにより前記混合容器を揺動させるステップと、
(3)インキュベーション時間の間、前記トランスフェクションマスターミックスをインキュベートするステップであって、前記インキュベーション時間の間、前記トランスフェクションマスターミックスが実質的に静止している、ステップと、
(4)rAAVを生成可能な細胞に、
前記トランスフェクションマスターミックスを
接触させるステップ
と、
(5)rAAVを生成するのに十分な条件下で、前記rAAVを生成可能な細胞を培養するステップと
を含
み、
前記DNA溶液は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)cisプラスミド、rAAVtrans-rep-capプラスミド、およびrAAV生成のためのヘルパープラスミドの群から選択されるプラスミドを含み;
前記トランスフェクション試薬溶液は、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、活性化デンドリマー、およびカチオン性脂質の群から選択される化学的トランスフェクション試薬を含み;
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、1Lまたはそれよりも大きい、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年5月9日出願の米国仮特許出願第62/503,660号の利益および優先権を主張し、この全内容をすべての目的において参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、概して、トランスフェクション試薬を生成するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
一過性トランスフェクションは、核酸分子を真核細胞に一時的に導入することである。名称が意味するように、一過性トランスフェクションの作用は、核酸が細胞内に存在し未分解である限りにおいてのみ持続する。一過性トランスフェクションによる一過性の遺伝子発現は、遺伝子サイレンシング、タンパク質生成、ウイルス生成等を包含する広範な適用を可能とする。
【0004】
一過性トランスフェクションは、安定な細胞株の生成と比較して、迅速で比較的安価であり、そのため、必要とされる材料の量が比較的少ない、毒物学的研究、前臨床試験、および早期臨床試験のための材料を提供するのに魅力的な選択肢となっている。一過性トランスフェクション方法の使用が潜在的可能性を有する1つの領域は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの生成にある。前臨床研究の成功は、臨床環境における患者への治療的遺伝子導入のためのrAAVベクターの使用を後押しした。臨床試験におけるrAAVの使用の成功は、高純度のrAAV粒子を大量に生成することが可能な、生成および精製システムの必要性を強調した。一過性トランスフェクションは、rAAV生成に必要な遺伝子の一部または全部を多数の培養細胞に迅速に送達し、これによりrAAV生成のための生ヘルパーウイルスの使用の必要性を回避し、安定な細胞株に基づくプロセスに必要とされる、開発および安定性試験のための時間を不要とすることが可能な効率的な方法である。
【0005】
多数の一過性トランスフェクション方法は、当技術分野において公知であり、リポソームをベースとするトランスフェクション;化学物質をベースとするトランスフェクション、例えば、リン酸カルシウム、カチオン性ポリマー、DEAEデキストラン、もしくは活性化デンドリマーを利用する方法;マイクロインジェクション;エレクトロポレーション;磁気ビーズ;ナノ粒子;または細胞圧搾(cell squeezing)を包含する。しかし、このような方法は、小規模なトランスフェクションには有用であるが、これらが、法外に高価な試薬を必要とするか、もしくは規模を拡大することが非現実的であるため、商業規模の生成(例えば、50Lおよびそれよりも大きい)には非現実的であるか(例えば、ナノ粒子、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションの場合)、またはリン酸カルシウム、カチオン性ポリマー、DEAEデキストラン、および活性化デンドリマーを包含する、多くの化学物質およびリポソームをベースとするトランスフェクション方法の場合のように、規模を拡大した方法を実行するため、および以前に小規模に最適化した方法の規模を拡大するための安定な方法がない。特に、DNA/トランスフェクション試薬マスターミックスを中および大規模に作製するための安定な方法がない。したがって、培養細胞の一過性トランスフェクションのための安定、拡大可能で安価な方法が当技術分野において求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一部分において、機械的揺動デバイスを使用してマスターミックスを揺動させることを含む、トランスフェクションマスターミックスを調製する、確実に有効な方法の発見に基づく。一態様では、本発明は、(1)DNA溶液およびトランスフェクション試薬溶液を混合容器に導入して、トランスフェクションマスターミックスを作製するステップと、(2)トランスフェクションマスターミックス中のDNAが定常状態濃度に達するのに十分な時間、機械的揺動デバイスにより混合容器を揺動させるステップと、(3)インキュベーション時間の間、トランスフェクションマスターミックスをインキュベートするステップであって、前記インキュベーション時間の間、トランスフェクションマスターミックスが実質的に静止している、ステップとを包含する、トランスフェクションマスターミックスを調製するための方法を提供する。一部の実施形態では、インキュベーション時間は、5~180分の間である。一部の実施形態では、方法はまた、細胞とトランスフェクションマスターミックスとを接触させることにより細胞をトランスフェクトするステップを包含する。一部の実施形態では、細胞は、バイオリアクターに配置され、方法はまた、マスターミックスをバイオリアクターに無菌的に導入するステップを包含する。一部の実施形態では、トランスフェクションマスターミックスは、重力送り(順次または同時に1バッチまたは複数バッチで)またはポンプによりバイオリアクターに導入する。特定の実施形態では、トランスフェクションマスターミックスは、例えば、1分あたり1リットル未満もしくはそれと等しい速度、1分あたり1~4リットルの速度、または1分あたり4リットルよりも大きいかもしくはそれと等しい速度でポンプによりバイオリアクター内に導入する。
【0007】
本発明の一態様では、トランスフェクションマスターミックスは、DNA溶液とトランスフェクション試薬溶液とを混合容器内で組み合わせることにより調製する。DNA溶液は、適切な溶媒に溶解したDNAから本質的になることが企図される。DNAは、任意の形態、例えば、二本鎖DNA、一本鎖DNA、またはベクター、例えば、プラスミド中のDNAであり得る。一部の実施形態では、DNA溶液は、cisプラスミド、trans-rep-capプラスミド、およびヘルパープラスミドの群から選択されるプラスミドを含む。一部の実施形態では、DNA溶液は、rAAVcisプラスミド、rAAVtrans-rep-capプラスミド、およびrAAV生成のためのヘルパープラスミドの群から選択されるプラスミドを含む。一部の実施形態では、DNAは、水または細胞培養培地に溶解する。DNA溶液は、例えば、濾過滅菌により無菌化され得ることが企図される。一部の実施形態では、DNA溶液は、DNA溶液を混合容器へ加える前に無菌化される。一部の実施形態では、DNA溶液は、混合容器に無菌的に導入する。
【0008】
トランスフェクション試薬溶液は、適切な溶媒、例えば、水または細胞培養培地に溶解したトランスフェクション試薬から本質的になることが企図される。トランスフェクション試薬は、溶液中のDNAとともに複合体を自然に形成する、任意の化学的トランスフェクション試薬であり得ることが企図される。一部の実施形態では、トランスフェクション試薬は、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、活性化デンドリマー、およびカチオン性脂質からなる群より選択される。特定の実施形態では、トランスフェクション試薬は、カチオン性ポリマー、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)である。PEIは、1kDa~160kDaの間、または4kDa~40kDaの間の平均分子量を有し得る。トランスフェクション試薬溶液は、例えば、濾過滅菌により無菌化され得ることが企図される。一部の実施形態では、トランスフェクション試薬溶液は、トランスフェクション試薬溶液を混合容器に加える前に無菌化する。一部の実施形態では、トランスフェクション試薬溶液は、混合容器に無菌的に導入する。
【0009】
本発明の一態様では、トランスフェクションマスターミックスは、混合容器において調製する。混合容器は、単回使用の使い捨て容器、および/またはあらかじめ無菌化した容器であり得ることが企図される。混合容器は、プラスチックバッグ、例えば、単回使用の細胞培養バッグであり得ることがさらに企図される。一部の実施形態では、細胞培養バッグは、膨張させたものであり、例えば、細胞培養バッグは、バッグの外面が強固であるように、部分的に膨張させ得るか、または完全に膨張させ得る。混合容器は、少なくとも1L、例えば、少なくとも5L、少なくとも10L、少なくとも20L、少なくとも50L、少なくとも100L、少なくとも200L、少なくとも500L、または少なくとも1000Lの容量を有し得ることが企図される。混合容器は、無菌化可能な任意の非毒性材料から作製され得ることが企図される。例示的な材料としては、プラスチック、例えば、EVA、PE、LDPE、ULDPE、またはPVCが挙げられる。
【0010】
本発明の一態様では、トランスフェクションマスターミックスは、機械的揺動デバイスを使用して調製する。一部の実施形態では、機械的揺動デバイスは、本発明の方法の揺動ステップにおいて、その上に混合容器が配置されている揺動プラットフォームを含む。一部の実施形態では、機械的揺動デバイスは、1自由度において混合容器を揺動させる。一部の実施形態では、機械的揺動デバイスは、波動運動により混合容器を揺動させる。一部の実施形態では、機械的揺動デバイスは、所定の速度で揺動するように設定することができる。一部の実施形態では、機械的揺動デバイスは、所定の揺動時間、揺動するように設定することができる。一部の実施形態では、機械的揺動デバイスは、所定の揺動角で揺動するように設定することができる。
【0011】
本発明の一態様では、混合容器は、トランスフェクションマスターミックス中のDNAが定常状態濃度に達するのに十分な時間、揺動させる。揺動は、トランスフェクションマスターミックスにおいて波動運動を誘導するのに十分であることが企図される。一部の実施形態では、揺動は、単一軸に沿ったものである(すなわち、1自由度による)。混合容器は、その開始位置(例えば、0°)から、混合容器の運動が逆転し容器が逆方向に揺動するポイントである最大傾斜角(例えば、15°、20°または25°)まで混合容器を揺動させることにより混合することが企図される。この最大傾斜角は、揺動角と呼ばれる。揺動角は、あらかじめ定められ得ることが企図される。一部の実施形態では、所定の揺動角は、5°~20°の範囲であり、例えば、一部の実施形態では、混合容器は、約15°の所定の角度で揺動させる。一部の実施形態では、混合容器は、約12°の所定の角度で揺動させる。一部の実施形態では、混合容器は、約7°の所定の角度で揺動させる。混合容器は、所定の速度で揺動させることが企図される。一部の実施形態では、所定の速度は1~30rpmの間、5~25rpmの間、または10~20rpmの間であり、例えば、所定の揺動速度は、10rpm、11rpm、12rpm、13rpm、14rpm、15rpm、16rpm、17rpmまたは18rpmであり得る。混合容器は、トランスフェクションマスターミックス中のDNAが定常状態濃度に達するのに十分な時間、揺動させることが企図される。一部の実施形態では、揺動時間は、10分またはそれ未満、例えば、約1分、約2分、約3分、約4分、約5分、約6分、約7分、約8分、約9分、または約10分である。
【0012】
本発明の一態様では、マスターミックスは、一定のインキュベーション時間の間、インキュベートする。一部の実施形態では、インキュベーション時間は、5~180分の間である。一部の実施形態では、インキュベーション時間は、10~60分の間、例えば、10~20分の間、20~30分の間、20~40分の間、20~50分の間、または20~60分の間である。一部の実施形態では、インキュベーション時間においてマスターミックスが、実質的な静止を維持することが企図される。一部の実施形態では、マスターミックスは、機械的揺動デバイスの揺動プラットフォーム上の混合容器に維持する。一部の実施形態では、インキュベーションは、室温で行う。一部の実施形態では、インキュベーションは、室温未満、例えば、4℃で行う。
【0013】
本発明の方法により調製するマスターミックスは、1Lよりも大きい容量を有することが企図される。例えば、トランスフェクションマスターミックスは、4Lもしくはそれよりも大きいか、12Lもしくはそれよりも大きいか、15Lもしくはそれよりも大きいか、25Lもしくはそれよりも大きいか、50Lもしくはそれよりも大きいか、100Lもしくはそれよりも大きいか、200Lもしくはそれよりも大きいか、500Lもしくはそれよりも大きいか、または1000Lもしくはそれよりも大きい容量を有し得る。一部の実施形態では、トランスフェクションマスターミックスは、1L~200Lの間、5L~100Lの間、または15L~50Lの間の容量を有し得る。例えば、トランスフェクションマスターミックスは、4L、12L、15L、25L、27L、29L、50L、100L、150Lまたは200Lの容量を有し得る。
【0014】
一部の実施形態では、4Lの容量を有するトランスフェクションマスターミックスは、7°の所定の角度、10rpmの速度で1~2分間の持続時間、揺動させる。他の一部の実施形態では、12Lの容量を有するトランスフェクションマスターミックスは、12°の所定の角度、15rpmの速度で1~2分間の持続時間、揺動させる。他の一部の実施形態では、15Lの容量を有するトランスフェクションマスターミックスは、10°~15°、例えば、12°の所定の角度、12~20rpm、例えば、15rpmの速度で、1~4分間、例えば、約1分、約2分、約3分、または約4分間の持続時間、揺動させる。他の一部の実施形態では、25Lの容量を有するトランスフェクションマスターミックスは、10°~15°、例えば、12°の所定の角度、12~20rpm、例えば、15rpmの速度で、1~4分間、例えば、約1分、約2分、約3分、または約4分間の持続時間、揺動させる。他の一部の実施形態では、29Lの容量を有するトランスフェクションマスターミックスは、10°~15°、例えば、12°の所定の角度、12~20rpm、例えば、15rpmの速度で、1~4分間、例えば、約1分、約2分、約3分、または約4分間の持続時間、揺動させる。
【0015】
本発明の別の態様は、rAAV生成細胞に上記のトランスフェクションミックスをトランスフェクトすることにより、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を生成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、カチオン性ポリマー(例えば、PEI)を用いた一過性トランスフェクションによるヘルパーを使用しないrAAV生成の模式図である。AAV生成のためのヘルパーを使用しない一過性トランスフェクションでは、パッケージング細胞に同時トランスフェクトする3つの別々のプラスミドを典型的に利用する。このようなプラスミドは、目的の遺伝子に隣接する逆位末端反復(「ITR」)配列を含むcisプラスミド(プロモーターおよび導入遺伝子を包含する);AAV複製遺伝子およびAAVカプシドタンパク質(VP1、VP2およびVP3)をコードする遺伝子を含むtrans-rep-capプラスミド;ならびにrAAVウイルス複製を促進する、アデノウイルスまたは他のヘルパーウイルス遺伝子を含むヘルパープラスミドである。3つのrAAVパッケージングプラスミドを用いる同時トランスフェクションは、トランスフェクション混合物、すなわち3つのプラスミドおよびトランスフェクション試薬、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)の混合物の調製を典型的に含む。PEIおよびプラスミドの混合は、rAAV生産の規模拡大に有効なPEI/DNA複合体を形成するために混合方法およびインキュベーション時間を最適化することを必要とする。
【0017】
【
図2】
図2は、ReadyToProcess WAVE(商標)25 Bioreactorを使用して大規模なトランスフェクションマスターミックスを調製するための方法の模式図である。トランスフェクションミックスは、細胞を含むバイオリアクターに重力送り(1バッチまたは複数バッチ)またはポンプにより導入する。
【0018】
【
図3A】
図3A、3Bおよび3Cは、種々の方法により調製したPEI/DNAマスターミックスを使用してトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価(GC/ml)を示す棒グラフである。
図3Aは、3つの異なる濃度(10μg/mlのDNAおよび20μg/mlのPEI、20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI、または40μg/mlのDNAおよび80μg/mlのPEIのいずれか)で、10回の反転の後、室温で20分のインキュベーションにより調製したマスターミックスをトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。
図3Bは、10回の反転の後、室温で20分のインキュベーションと、穏やかな撹拌(100rpmで20分)または激しい撹拌(150rpmで20分)により調製したマスターミックス(20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI)をトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。各条件の結果は、2回の反復の平均であり、各エラーバーは、標準偏差を表す。
図3Cは、10回の反転の後、室温で指示時間のインキュベーションにより調製したマスターミックス(20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI)をトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。各条件の結果は、2回の反復の平均であり、各エラーバーは、標準偏差を表す。
【
図3B】
図3A、3Bおよび3Cは、種々の方法により調製したPEI/DNAマスターミックスを使用してトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価(GC/ml)を示す棒グラフである。
図3Aは、3つの異なる濃度(10μg/mlのDNAおよび20μg/mlのPEI、20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI、または40μg/mlのDNAおよび80μg/mlのPEIのいずれか)で、10回の反転の後、室温で20分のインキュベーションにより調製したマスターミックスをトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。
図3Bは、10回の反転の後、室温で20分のインキュベーションと、穏やかな撹拌(100rpmで20分)または激しい撹拌(150rpmで20分)により調製したマスターミックス(20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI)をトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。各条件の結果は、2回の反復の平均であり、各エラーバーは、標準偏差を表す。
図3Cは、10回の反転の後、室温で指示時間のインキュベーションにより調製したマスターミックス(20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI)をトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。各条件の結果は、2回の反復の平均であり、各エラーバーは、標準偏差を表す。
【
図3C】
図3A、3Bおよび3Cは、種々の方法により調製したPEI/DNAマスターミックスを使用してトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価(GC/ml)を示す棒グラフである。
図3Aは、3つの異なる濃度(10μg/mlのDNAおよび20μg/mlのPEI、20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI、または40μg/mlのDNAおよび80μg/mlのPEIのいずれか)で、10回の反転の後、室温で20分のインキュベーションにより調製したマスターミックスをトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。
図3Bは、10回の反転の後、室温で20分のインキュベーションと、穏やかな撹拌(100rpmで20分)または激しい撹拌(150rpmで20分)により調製したマスターミックス(20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI)をトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。各条件の結果は、2回の反復の平均であり、各エラーバーは、標準偏差を表す。
図3Cは、10回の反転の後、室温で指示時間のインキュベーションにより調製したマスターミックス(20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEI)をトランスフェクトした細胞により生じたrAAV力価を示す。各条件の結果は、2回の反復の平均であり、各エラーバーは、標準偏差を表す。
【0019】
【
図4A-1】
図4Aは、20LのWave Cellbag(商標)において水(4L、12L、15L)中に濃縮グルコース溶液(100g/Lまたは400g/L)を添加し、表1に示す所定の速度および揺動角で揺動した後、試料採取ポート(
図5に示す)において採取したグルコースの濃度を経時的に示すグラフである。
図4Bは、50LのWave Cellbag(商標)において水(25L、26.5Lまたは29L)中に濃縮したグルコース溶液(400g/L)を添加し、表2に示す所定の速度および揺動角で揺動した後、試料採取ポート(
図5に示す)において採取したグルコースの濃度を経時的に示すグラフである。
【
図4A-2】
図4Aは、20LのWave Cellbag(商標)において水(4L、12L、15L)中に濃縮グルコース溶液(100g/Lまたは400g/L)を添加し、表1に示す所定の速度および揺動角で揺動した後、試料採取ポート(
図5に示す)において採取したグルコースの濃度を経時的に示すグラフである。
図4Bは、50LのWave Cellbag(商標)において水(25L、26.5Lまたは29L)中に濃縮したグルコース溶液(400g/L)を添加し、表2に示す所定の速度および揺動角で揺動した後、試料採取ポート(
図5に示す)において採取したグルコースの濃度を経時的に示すグラフである。
【
図4B】
図4Aは、20LのWave Cellbag(商標)において水(4L、12L、15L)中に濃縮グルコース溶液(100g/Lまたは400g/L)を添加し、表1に示す所定の速度および揺動角で揺動した後、試料採取ポート(
図5に示す)において採取したグルコースの濃度を経時的に示すグラフである。
図4Bは、50LのWave Cellbag(商標)において水(25L、26.5Lまたは29L)中に濃縮したグルコース溶液(400g/L)を添加し、表2に示す所定の速度および揺動角で揺動した後、試料採取ポート(
図5に示す)において採取したグルコースの濃度を経時的に示すグラフである。
【0020】
【
図5】
図5は、Wave Cellbag(商標)の模式図である。
【0021】
【
図6】
図6は、トランスフェクションマスターミックスを使用してトランスフェクトした細胞から生じたrAAV力価(GC/ml)に対する、20μg/mlのDNAおよび40μg/mlのPEIを混合後のインキュベーション時間の作用を示すグラフである。閉じた円は、100mlのビンにおける10回の反転の後、10、30または60分のインキュベーションにより小規模で生成したトランスフェクションミックスを使用して生じたrAAV力価を示す。閉じた四角は、20LのWave Cellbag(商標)バイオリアクターチェンバーにおける2分間の機械的揺動の後、10、20、30、45、60または80分のインキュベーションにより大規模(12L)で生成したトランスフェクションミックスを使用して生じたrAAV力価を示す。結果は、2回の反復の平均を示し、エラーバーは、標準偏差を表す。
【0022】
【
図7】
図7は、生じたrAAV力価に対するトランスフェクションマスターミックスのポンプ注入の作用を示すグラフである。波動最適化した(wave-optimized)トランスフェクションミックスを、パッケージング細胞を含むバイオリアクターにポンプで注入してrAAVを生成した。rAAV力価を各条件下で測定した。結果は、2回の反復の平均を示し、エラーバーは、標準偏差を表す。
【0023】
【
図8】
図8は、各トランスフェクションマスターミックスの生成に使用した手動混合および波動混合の方法のrAAV収量/細胞(GC/細胞)を比較したグラフである。前述のように、結果は、平均を表し、標準偏差は、2つのマスターミックスの複数の実行から導出した。
【0024】
【
図9】
図9は、トランスフェクションマスターミックス12Lの波動をベースとする調製方法の再現性を実証するグラフである。12Lの各トランスフェクションマスターミックスを使用して200Lの培養物のパッケージング細胞にトランスフェクトし、生じたrAAV力価をqPCRにより定量化した。計5回の実行が行われ、実行2~実行5から生じた結果は、実行1の平均値に対して正規化した。各実行は、生物学的二重反復の平均である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
化学的トランスフェクション試薬、例えば、PEI、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、活性化デンドリマー、およびカチオン性脂質を使用して培養細胞に一過性にトランスフェクトするための方法は、当技術分野において公知である。例えば、Kingston, R. E.ら、(2003年)、Calcium phosphate transfection. Current protocols in molecular biology、9-1(リン酸カルシウムトランスフェクション);Ehrhardt, C.ら、Polyethylenimine, a cost-effective transfection reagent. Signal Transduction6.3(2006年):179~184頁(PEIトランスフェクション);Selden, R. F.2001年、Transfection Using DEAE-Dextran. Current Protocols in Immunology.3巻:VI号:10.14:10.14.1~10.14.6頁(DEAEデキストラントランスフェクション);Dean, D. A.およびGasiorowski J. Z.「Dendrimer-mediated transfection」Cold Spring Harbor Protocols2011.3(2011年):prot5584(デンドリマートランスフェクション)を参照されたい。先行技術による方法は、化学的トランスフェクション試薬を含む溶液をトランスフェクトされるDNAを含む溶液と組み合わせて、マスターミックスを形成するステップと、その後に混合するステップとを一般に含む。混合は、回転振盪により、もしくはマスターミックスを含む容器の反転を繰り返すことにより、または他の手動による混合技術により達成することが多い。先行技術による方法は、何リットルもの多くのマスターミックスの容量が必要とされる大規模な一過性トランスフェクションには一般に不適である。本発明は、安価な装置を使用してマスターミックスを大量に生成するための安定な方法を提供する。
【0026】
A.トランスフェクション試薬
本発明の方法は、溶液中のDNAと複合体を形成することにより機能する、任意の化学物質またはリポソームのトランスフェクション試薬であって、このDNA/トランスフェクション試薬複合体の形成が、穏やかに混合することにより促進される、トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクションマスターミックスを調製するために使用し得ることが企図される。本発明のこの方法は、次の一般的ステップ:(1)DNAおよびトランスフェクション試薬溶液を別々に調製するステップと、(2)DNA溶液およびトランスフェクション試薬溶液を組み合わせて、DNA/トランスフェクション試薬複合体(「マスターミックス」)を形成させるステップと、(3)例えば、マスターミックスを培養細胞の培地に加えることによりDNA/トランスフェクション試薬複合体と細胞を接触させるステップとを含む、任意のトランスフェクション方法に組み込み得ることが、さらに企図される。
【0027】
本発明において使用し得る例示的なトランスフェクション試薬としては、カチオン性ポリマー、例えば、ポリエチレンイミン(PEI);ならびにDEAEデキストラン;リン酸カルシウム;デンドリマー;リポフェクション試薬、例えば、カチオン性脂質、例えば、リポフェクタミントランスフェクション試薬、例えば、Lipofectamine(登録商標)2000(Life Technologies社)、および中性膜融合性脂質、例えば、FuGENE(登録商標)(Promega社)が挙げられる。ポリエチレンイミン(PEI)は、アミン基および2つの脂肪族炭素CH2CH2スペーサーで構成される繰り返し単位のカチオン性ポリマーである。PEIは、周知のトランスフェクション試薬であり、特定の理論に拘束されないが、正電荷を有する、凝縮したPEI/DNA粒子を形成することにより機能すると考えられている。このような粒子は、アニオン性の細胞表面残基に結合し、エンドサイトーシスにより細胞に侵入する。細胞内に侵入すると、PEIの高い緩衝能力により浸透圧膨張が生じ、これによりエンドソームが破裂して、PEI/DNA複合体の細胞質への放出が生じる。例示的なPEI製品としては、PEIpro(登録商標)(Polyplus社)、PEI-Max 4kDaまたは40 kDa(Polysciences社)が挙げられる。
【0028】
このような各トランスフェクション試薬が、溶液中のDNAと複合体を形成することにより機能し、複合体の形成が、DNAを細胞に輸送するのに必要であることが理論化されている。しかし、複合体形成の後、トランスフェクション試薬/DNA複合体は、複合体間で凝集する可能性があり、このような凝集体が形成されると、トランスフェクション効率が低下する。本発明の方法は、複合体間の凝集を制限しながら、複合体形成を促進するように最適化する。
【0029】
本発明の方法に使用するトランスフェクション試薬溶液は、当技術分野において公知の標準技術に従って調製することができる。例えば、トランスフェクション試薬は、無血清細胞培養培地を包含する、適切な任意の細胞培養培地に溶解するか、もしくは適切な任意の細胞培養緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解するか、または水に溶解することができる。トランスフェクション試薬溶液は、標準技術によるトランスフェクションマスターミックスの調製に適する任意の濃度、例えば、10μg/ml~400μg/mlであり得る。
【0030】
B.DNA溶液
本発明の方法は、真核細胞のトランスフェクションに適する任意の供給源由来のDNAを使用してトランスフェクションマスターミックスを調製するために使用し得ることが企図される。DNAは、任意の形態、例えば、二本鎖DNA、一本鎖DNA、またはベクター、例えば、プラスミド中のDNAであり得る。DNA溶液は、当技術分野において公知の標準技術に従って調製することができる。例えば、DNAは、無血清細胞培養培地を包含する、適切な任意の細胞培養培地中に溶解し得るか、またはPBSもしくは水に溶解し得る。DNA溶液は、標準技術によるトランスフェクションマスターミックスの調製に適する任意の濃度、例えば、10μg/ml~200μg/mlであり得る。
【0031】
C.機械的揺動デバイス
本発明の方法の揺動ステップは、機械的揺動デバイスを使用して混合容器を揺動させて達成し得ることが企図される。機械的揺動デバイスは、混合容器を水平軸に沿って繰り返し傾動可能な任意のデバイスであり得ることが企図される。一実施形態では、機械的揺動デバイスは、揺動プラットフォームを包含し、混合容器は、揺動ステップにおいて揺動プラットフォームの上部に配置され得る。機械的揺動デバイスの運動は、1自由度、および所定の揺動角に制限し得ることが企図される。機械的揺動デバイスは、所定の速度で混合容器を揺動させることが可能であることがさらに企図される。例示的な機械的揺動デバイスとしては、ReadyToProcess WAVE(商標)25(GE社)、WAVE Bioreactor(商標)システム20/50、200,および500/1000(GE社)、CHEMcell(登録商標)ROCKER BIOREACTOR SYSTEM(ChemGlass社)、BIOSTAT(登録商標)RM20,RM50、RM200およびRM600(Sartorius社)、ならびにSmartRockerシステム(Finesse社)が挙げられる。上述の各揺動デバイスはまた、製造者の指示に従って操作して、細胞培養バッグを膨張させることができる。
【0032】
D.混合容器
本発明による方法は、多様な容器を使用して行われ得ることが企図される。本発明の一部の実施形態では、方法は、あらかじめ無菌化した容器を使用して行う。これに関連して、あらかじめ無菌化したとは、本発明の方法において使用する前に容器を無菌化することを意味し、例えば、容器は、例えば、ガンマ線照射によって、容器の製造者により無菌化し得る。本発明の一部の実施形態では、混合容器は、使い捨てであるか、または単回使用であり得る。本発明の方法は、混合容器としてプラスチックバッグを使用して行われ得ることがさらに企図される。プラスチックバッグは、方法の揺動ステップにおいてトランスフェクションマスターミックスがバッグから漏れないように密封することが可能であり得ることが企図される。方法は、市販の細胞培養バッグを使用して行われ得る。細胞培養バッグは、真核細胞の培養のためのバイオリアクターとして適合している無菌の単回使用のバッグである。本発明における使用のための例示的な細胞培養バッグとしては、バッグ容量が20Lおよび50LのCHEMcell(登録商標)6または8ポート細胞培養バッグ(ChemGlass社);バッグ容量が20L、50L、200Lおよび600LのBIOSTAT(登録商標)CultiBags(Sartorius社);バッグ容量が10L、20L、25L、50L、500Lおよび1000LのCellbag(商標)Bioreactor Chambers(GE社);ならびにバッグ容量が10L、25Lおよび50LのSmartBags(Finesse社)が挙げられる。
【0033】
E.マスターミックスの質を決定する方法
ヘルパーウイルスを使用しないrAAVの一過性トランスフェクションによる生成は、トランスフェクションマスターミックスの質の代用として使用することができる。
図1は、例示的rAAV生成プロセスの図式的描写を提供する。rAAVベクターは、完全なrAAVの生成に必要な遺伝子を含む3つのプラスミド:目的の遺伝子に隣接する逆位末端反復(ITR)配列を含むcisプラスミド(プロモーターおよび導入遺伝子を一般に包含する)、AAV複製遺伝子およびAAVカプシドタンパク質(VP1、VP2およびVP3)をコードする遺伝子を含むtrans-rep-capプラスミド、ならびにrAAVウイルス複製を促進するアデノウイルスまたは他のヘルパーウイルス遺伝子を含むヘルパープラスミドをパッケージング細胞に同時トランスフェクトすることにより生成する。適するパッケージング細胞は、HeLa、HEK293、COS、A549、BHKまたはVero細胞を包含する。3つのプラスミドは、適する培地に溶解して本発明の方法における使用のためのDNA溶液を作製し、トランスフェクション試薬溶液と組み合わせてマスターミックスを作製する。次いで、マスターミックスは、混合し、所望されるようにインキュベートする。インキュベーション後、マスターミックスは、例えば、約5%~6.5%vol./vol.(v/v)で培養中のパッケージング細胞に加える。次いで、トランスフェクトしたパッケージング細胞は、3~5日間培養し、その後、rAAV粒子を採取する。rAAV粒子は、細胞を溶解することによりパッケージング細胞から得ることができる。パッケージング細胞の溶解は、細胞を化学的または酵素的に処理してウイルス粒子を放出する方法により達成することができる。このような方法は、ヌクレアーゼ、例えば、ベンゾナーゼ(benzonase)もしくはDNAse、プロテアーゼ、例えば、トリプシン、または洗剤もしくは界面活性剤の使用を包含する。物理的破壊、例えば、均質化もしくは粉砕、または細胞に加圧するマイクロフルイダイザーによる圧力の適用、あるいは凍結解凍サイクルをまた使用することができる。あるいは、上清は、細胞溶解の必要なく、パッケージング細胞から採取することができる。
【0034】
rAAV力価は、マスターミックスの質の尺度として使用する。rAAV力価は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)(Clarkら、Hum. Gene Ther.10巻、1031~1039頁(1999年))を包含する、多数の方法を使用して定量化することができる。DNase耐性粒子(DRP)は、リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)(DRP-qPCR)によりサーモサイクラー(thermocycler)(例えば、iCycler iQ96ウェルブロック形式サーモサイクラー(Bio-Rad社、Hercules、CA))において定量化する。この技術では、rAAV粒子を含む試料は、DNaseI(100U/ml;Promega社、Madison、WI)の存在下に37℃で60分間インキュベートし、その後、50℃で60分間プロテイナーゼK(Invitrogen社、Carlsbad、CA)消化(10U/ml)を行い、次いで、95℃で30分間変性させる。使用するプライマーとプローブのセットは、rAAVベクターゲノムの非天然の部分、例えば、目的のタンパク質のポリ(A)配列に特異的でなければならない。PCR産物は、プライマー、プローブ、および増幅する配列の長さおよび組成に基づいて、サイクリングパラメータの適切な任意のセットを使用して増幅することができる。代替プロトコルは、例えば、Lockら、Human Gene Therapy Methods25巻(2号):115~125頁(2014年)に開示されている。
【0035】
特定の要素を有する、包含する、もしくは含むものとして器具、デバイス、およびシステムを説明するか、または特定のステップを有する、包含する、もしくは含むものとしてプロセスおよび方法を説明する記載を通じて、列挙する要素から本質的になる、もしくはそれからなる本発明の器具、デバイス、およびシステムがさらに存在し、列挙するプロセスステップから本質的になる、もしくはそれからなる本発明によるプロセスおよび方法が存在することが企図される。
【0036】
本発明の実施は、前述の例からより十分に理解され得る。これらは、例示目的のみのために本明細書において示し、決して本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
本発明の方法は、以下の例示的な実施形態により達成することができ、これはまた、
図2に示す。
1.DNAおよびトランスフェクション試薬溶液を、溶液ビンまたは適切な他の容器においてトランスフェクション培地または水中に調製する。
2.溶液を調製フラスコから内径(ID)3/8”のチューブにより0.2μmのフィルターを通して無菌バッグ内にポンプで注入することにより各溶液を別々に無菌化する。
3.DNA溶液およびトランスフェクション試薬溶液を含む無菌バッグをそれぞれ20LのWave Cellbag(商標)バイオリアクターチェンバー(「cellbag」)の3/8”IDのチューブの配線に無菌的に溶接する。cellbagをReadyToProcess WAVE(商標)25Rocker(「WAVE rocker」)の揺動プラットフォーム上に配置して膨張させ、無菌バッグをcellbagに接続する配線を閉塞するクランプとともに、DNAおよびトランスフェクション試薬溶液を含む各無菌バッグをrockerの2~3フィート上に吊るす。
4.DNA溶液を含む無菌バッグをcellbagに接続する配線を閉塞するクランプを開き、重力送りを介して、またはポンプによりDNA溶液をcellbagに注入させる。
5.DNA溶液をcellbagへ追加後、トランスフェクション試薬溶液を含む無菌バッグをcellbagに接続する配線を閉塞するクランプを開き、重力送りを介して、またはポンプによりトランスフェクション試薬溶液をcellbagに注入させて、トランスフェクションマスターミックスを形成する。
6.トランスフェクション試薬溶液をcellbagへ追加した直後に、混合プログラムを開始する。トランスフェクションマスターミックス3Lを1分間、10rpmで揺動角7°により混合することができ、トランスフェクションマスターミックス12Lを1分間、15rpmで揺動角12°により混合することができる。
7.混合プログラムの完了後、WAVE rockerを停止し、マスターミックスを20分間のインキュベーション時間の間、室温で、cellbagを移動することもマスターミックスをさらに撹拌することもなく静置する。
8.インキュベーション時間の完了後、マスターミックスを含むcellbagを重力送りまたはポンプによりバイオリアクターに加える。重力送り(A)では、マスターミックスを含むcellbagは、トランスフェクション用の細胞を含むバイオリアクターの2~3フィート上に穏やかに配置することができ、cellbagからの導入配線を、バイオリアクターの追加配線に無菌的に溶接してクランプを外し、マスターミックスを重力送りによりバイオリアクターに流入させる。ポンプ(B)では、cellbagは、バイオリアクターの追加配線に無菌的に溶接し、標的インキュベーション時間枠に十分にとどまる速度でリアクターにポンプで注入することができる。この速度は、トランスフェクションミックスの容量、チューブのサイズ、ポンプの種類およびサイズに依存する可能性があり、経験的に評価して、望ましくない任意の凝集体が形成されていないことを確認することができる。
9.バイオリアクターにおける細胞の大規模なトランスフェクションでは、マスターミックスの調製および追加は、繰り返して、いくつかのトランスフェクション混合物のバッチによる追加を順次または並行して可能とし、より大容量のバイオリアクターの適切なトランスフェクションを可能とすることができる。本発明は、2000Lまたはそれよりも大規模なバイオリアクターのためのトランスフェクション混合物の調製を可能とし得ることが想定される。
【0038】
(実施例2)
トランスフェクションマスターミックスを調製するための方法を比較した。PEI-MAX40kDa(PolySciences社)を20、40および80μg/mlの濃度でFreeStyle(商標)F17Expression Media(ThermoFisher社)に溶解することによりPEI溶液を作製した。
図1に示すように、cis rAAVプラスミド、trans-rep-capプラスミド、およびヘルパープラスミドを10、20および40μg/mlの濃度でFreeStyle(商標)F17Expression Mediaに溶解することによりDNA溶液を調製した。100mlのビン、または250mlのエルレンマイヤーフラスコのいずれかにおいて、表1に従ってPEI溶液50mlをDNA溶液50mlに注ぐことによりによりマスターミックス試料を調製した。
【表1】
【0039】
PEI溶液をDNA溶液へ追加後、マスターミックス試料を10回の反転により手動で混合し、その後、20分、室温でインキュベートした。
【0040】
インキュベーション時間の後、各マスターミックス10ml、5mlまたは2.5mlをそれぞれ表1に示すように、生成培地(8mMのLグルタミンおよび0.5g/Lのプルロニック(Pluronic)を添加したFreeStyle(商標)F17Expression Media)100ml中にFreeStyle(商標)293F細胞(Thermo社)を均一密度で含むエルレンマイヤー振盪フラスコに加えた。細胞を5日間培養し、その後、DNAse耐性粒子qPCRアッセイを使用してrAAV力価を測定した。
【0041】
この実験の結果を
図3Aに示す。各トランスフェクションミックスを10%v/v、5%v/vまたは2.5%v/vのいずれかでそれぞれ細胞培養物に加えて、等しい総量のDNAおよびPEIを培養物に送達した。各条件の結果は、2回の反復の平均であり、各エラーバーは、標準偏差を表す。高濃度のDNA(40μg/ml)およびPEI(80μg/ml)で調製したトランスフェクションマスターミックスは、低濃度の混合物(10μg/mlのDNAおよび20μg/mlのPEI)と比較して顕著に高いrAAV収量をもたらした。しかし、より希薄なトランスフェクションマスターミックスと比較して、DNAおよびPEIが高濃度である試料において、目に見える沈殿物が、より容易に、特に、より短いインキュベーション時間で、混合条件に対してより感受性に生じたことが観察された。
【0042】
(実施例3)
トランスフェクション混合物および後続のrAAV生成に対する混合速度の影響を検討するために、40μg/mlのPEIおよび20μg/mlのDNAのトランスフェクション混合物を、手動による10回の反転の後、室温での20分のインキュベーション、振盪プラットフォーム上で100rpm、20分間の穏やかな撹拌により、または振盪プラットフォーム上で150rpm、20分間の激しい撹拌のいずれかにより調製した。いずれの場合も振盪プラットフォームの軌道直径は、19mmであった。
【0043】
この実験の結果を
図3Bに示す。10回の反転または穏やかな撹拌により混合したマスターミックスは、激しい撹拌処理と比較して顕著に高いrAAV収量をもたらした。激しい撹拌を受けた試料において、目に見える沈殿物が生じたことが観察された。
【0044】
(実施例4)
rAAV生成に対するインキュベーション時間の作用を検討するために、マスターミックス100mlを、それぞれを10回の反転により混合したことを除いて、実施例3に記載のように調製し、マスターミックス試料を、上記のように細胞のトランスフェクションに使用する前に、5分間、20分間、1時間、または3時間のいずれかでインキュベートした。
【0045】
この実験の結果を
図3Cに示す。10回の反転後にインキュベートしたマスターミックスにより、rAAV生成の最適インキュベーション時間が20分~1時間の間であったことが示された。この時間枠(例えば、5分のインキュベーション)未満では、複合体は、十分には形成されない可能性があり、したがって、トランスフェクション効率が低下した。この時間枠(例えば、3時間のインキュベーション)以降では、目に見える沈殿物が形成された。これは、複合体間の凝集が始まったことを示し、またこれにより、トランスフェクション効率が低下した。
【0046】
(実施例5)
20Lおよび50LのWave Cellbag(商標)バイオリアクターチェンバーならびにReadyToProcess WAVE(商標)25Rockerシステムを使用する混合条件を試験して、マスターミックス生成の最適条件を見出した。20Lおよび50LのWave Cellbag(商標)バイオリアクターチェンバー(「cellbag」)(GE社)を揺動プラットフォームであるReadyToProcess WAVE(商標)25Rocker(「WAVE rocker」)(GE社)上に配置し、4L、12Lもしくは15L(20Lのcellbag中)または25L、26.5Lもしくは29L(50Lのcellbag中)の容量の水で満たした。バッグの膨張を必要とする条件では、バッグが吸気フィルターの配線を介して十分に膨張するまで、HMIによりエアーオーバーレイをオンにした。
【0047】
時間0において、cellbagに400g/Lまたは100g/Lいずれかのグルコース溶液を、4g/Lグルコースの最終バルク流体濃度を生じるのに必要な容量、cellbagの注入ポートを介して添加した。cellbagの略図を
図5に示す。グルコース追加の直後に、時間0での試料をシリンジ試料採取ポートから採取した。時間0での試料の後、表2および3に列挙する、20Lのcellbagまたは50Lのcellbagについてのあらかじめプログラムした混合条件に従って、それぞれ揺動を開始した。試料採取ポートから一定の間隔で試料を採取し、ABL90Blood Gas Analyzer(Radiometer America社)を使用して、
図4に示すようにグルコース濃度を測定した。バルク流体グルコース濃度が4g/Lまたはその付近で安定するまで混合および試料採取を継続した。各条件の混合時間は、最終的に採取したグルコース濃度(約4g/L)の継続的に安定な測定を達成するのにかかった時間により決定した。この方法は、より大容量のマスターミックスの最適な混合条件を見出すために適用することができる。
【0048】
【0049】
種々の揺動パラメータの結果を
図4A、パネル(i~xi)および
図4B、パネル(i~viii)に示す。
図4Aは、評価した20Lのcellbag条件の条件を示す。
図4Bは、評価した50Lのcellbag条件の条件を示す。各試料容量について、最短混合時間で定常状態(4g/Lのグルコース)に達するパラメータを特定した。
【0050】
(実施例6)
大および小規模混合プロトコルにより作製したマスターミックス試料間でトランスフェクション効率を比較した。大規模(12L)マスターミックス生成は、次のように達成した:DNA溶液(FreeStyle(商標)F17Expression Media中に20μg/mlのプラスミドDNA)6LおよびPEI溶液(FreeStyle(商標)F17Expression Media中に40μg/mlのPEI)6Lそれぞれを無菌溶液容器に調製し、0.2μmのフィルターを通して個々の無菌バッグ内にポンプで注入した。次いで、PEI溶液のバッグおよびDNA溶液のバッグをcellbag上の2つの別々の3/8”×5/8”配線上に溶接した。cellbagをReadyToProcess WAVE(商標)25Rockerの揺動プラットフォームの上部に配置し、DNAおよびPEI溶液のバッグをcellbagの2~3フィート上に吊るした。次いで、DNA溶液を、その後PEI溶液を、cellbagに重力送りにより加えた。PEIの追加直後に、揺動を2分間、15rpmおよび12°の揺動角で開始した。混合後、cellbagを静止したrocker上に室温で維持し、次:10分、20分、30分、45分、60分、および80分のインキュベーション時間の後、アリコート5mlを試料採取ポートからシリンジにより二重で取り出した。
【0051】
小規模マスターミックス生成は、次のように達成した:上記のマスターミックス12Lの生成に使用したものと同一のDNAおよびPEI溶液のバッグから40μg/mlのDNA溶液50mlと20μg/mlのPEI溶液50mlとを組み合わせることによりマスターミックスの試料100mlを調製した。小規模マスターミックスを10回の反転により混合し、室温で経時的にインキュベートした。アリコート5mlを2つ、10分、30分、および60分のインキュベーション時間に取り出した。各アリコート5mlを5%v/vの追加で(1μg/mlのDNAおよび2μg/mlのPEIの最終濃度として)100mlの振盪フラスコ培養物のパッケージング細胞に加えた。細胞を5日間培養し、その後、DNAse耐性粒子qPCRアッセイを使用してrAAV力価を測定した。
図6は、トランスフェクションマスターミックスのインキュベーション時間の関数として細胞において生じたrAAV力価を示し、トランスフェクションマスターミックスが、大規模な混合方法とその後に行った20~30分のインキュベーションにより作製され、同様に、マスターミックスが、小規模な混合方法により作製されたことを示す。
【0052】
(実施例7)
トランスフェクションミックスのポンプによる送達を試験するために、トランスフェクション混合物4Lを、DNA溶液2Lを、その後PEI溶液2Lを、20Lのcellbagに重力送りにより追加することによって調製した。PEIの追加直後に、揺動を1分間、10rpmおよび7°の揺動角で開始した。波動最適化した混合の後、cellbagを静止したrocker上に室温で20分間維持した。インキュベーション時間の後、トランスフェクション混合物4Lのアリコート1Lを、3/8”×5/8”のチューブから1Lの試料容器内に重力送りにより取り出すか、または1L/分、2L/分もしくは4L/分で蠕動ポンプにより注入した。アリコート4.6mlを2つ、28分、50分、80分、および110分後に1Lの各試料容器から取り出した(重力送り、1L/分、2L/分、または4L/分)。各アリコートを30mlの振盪フラスコ培養物のパッケージング細胞に均一密度で加えた。細胞を5日間培養し、その後、DNAse耐性粒子qPCRアッセイを使用してrAAV力価を測定した。
図7は、重力送りまたはポンプ注入後のインキュベーション時間の関数としてrAAV力価を示し、重力送りまたは1L/分、2L/分もしくは4L/分でのポンプ注入による送達によって、生じるrAAV力価には殆ど違いがもたらされないことを示す。これまでに観察されたように、トランスフェクションマスターミックスを細胞培養物へ追加するタイミングは重要であり、早い時間(28分のインキュベーション)に追加すると、後の時間に追加するよりもrAAV力価は高くなる。
【0053】
(実施例8)
手動で調製した大規模マスターミックスと、Wave Rockerを使用して調製した大規模マスターミックスとの間でトランスフェクション効率を比較した。PEIおよびDNA溶液を上記のように調製した。手動調製を次のように達成した:DNA溶液2Lを、その後PEI溶液2Lを、5LのBiotainerのバッグ(ThermoFisher社)内にポンプで注入した。次いで、バッグの両端を手動で交互に上げ下げすることにより溶液を2分間混合した。PEIおよびDNA溶液をcellbag内に3Lまたは12Lの最終容量まで重力送りし、10rpmおよび7°の揺動角(3Lについて)または15rpmおよび12°の揺動角(12Lについて)のいずれかで2分間混合することにより波動最適化した混合を達成した。次いで、混合後、トランスフェクションミックス試料を室温で20~30分間インキュベートし、6.5%v/vの追加により50Lの培養物のパッケージング細胞のトランスフェクションに使用した。その後、DNAse耐性粒子qPCRアッセイによりrAAV力価を測定した。rAAV力価(GC/ml)をトランスフェクション時の生細胞密度(生細胞/ml)により正規化して種々の培養容量にわたる比較を可能とした。
図8は、機械的揺動により生成したトランスフェクションマスターミックスでは、手動混合と比較してrAAV力価が顕著に高かったことを示す。
【0054】
(実施例9)
機械的揺動によりトランスフェクションミックスを生成する方法の再現性を試験するために、トランスフェクションマスターミックス12Lを、このトランスフェクション混合物容量について上記の重力送り波動方法を使用してPEI溶液6LおよびDNA溶液6Lを混合することにより生成した。次いで、200Lの培養物のパッケージング細胞に追加する前に、ミックスを20分間室温でインキュベートした。次いで、DNase耐性粒子qPCRアッセイによりrAAV力価を測定した。各実行では、2回の反復(平均および標準偏差を示した)を含み、同一の実験をさらに4回行った。
図9は、5回の実行によるrAAV力価を示し、実行2~実行5は、実行1から生じた平均力価に対して正規化した。
【0055】
参照による組込み
本明細書において言及する、特許および科学文献のそれぞれの全開示は、すべての目的において参照により組み込まれる。
【0056】
均等物
本発明は、その趣旨または本質的特徴から逸脱することなく、特定の他の形態において実施することができる。したがって、前述の実施形態は、本明細書に記載の発明を制限するのではなく、あらゆる点で例示的であると考えられる。したがって、本発明の範囲は、前述の記載ではなく、添付の特許請求の範囲により示され、本特許請求の範囲の均等性の意義および範囲において生じるすべての変更は、その特許請求の範囲に包含することを意図する。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
トランスフェクションマスターミックスを調製する方法であって、
(1)DNA溶液およびトランスフェクション試薬溶液を混合容器に導入して、トランスフェクションマスターミックスを作製するステップと、
(2)前記トランスフェクションマスターミックス中のDNAが定常状態濃度に達するのに十分な時間、機械的揺動デバイスにより前記混合容器を揺動させるステップと、
(3)インキュベーション時間の間、前記トランスフェクションマスターミックスをインキュベートするステップであって、前記インキュベーション時間の間、前記トランスフェクションマスターミックスが実質的に静止している、ステップと
を含む、方法。
(項目2)
前記インキュベーション時間が、5~180分である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記混合容器が、単回使用の使い捨て容器である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4)
前記混合容器が、あらかじめ無菌化したものである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5)
前記混合容器が、プラスチックバッグである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記混合容器が、単回使用の細胞培養バッグである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記バッグが、膨張させたものである、項目4または5に記載の方法。
(項目8)
前記バッグが、完全に膨張させたものである、項目6に記載の方法。
(項目9)
前記バッグが、部分的に膨張させたものである、項目6に記載の方法。
(項目10)
前記トランスフェクション試薬溶液が、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、活性化デンドリマー、およびカチオン性脂質からなる群より選択される化学的トランスフェクション試薬を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記トランスフェクション試薬溶液が、カチオン性ポリマーを含む、項目1~9のいずれか1項に記載の方法。
(項目12)
前記カチオン性ポリマーが、ポリエチレンイミンである、項目10または11に記載の方法。
(項目13)
前記ポリエチレンイミンが、1kDa~160kDaの間の平均分子量を有する、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記ポリエチレンイミンが、4kDa~40kDaの間の平均分子量を有する、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記DNA溶液が、無菌である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記トランスフェクション試薬溶液が、無菌である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目17)
前記DNA溶液を前記混合容器に導入する前に前記DNA溶液を無菌化するステップをさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18)
前記DNA溶液が、濾過滅菌により無菌化される、項目16に記載の方法。
(項目19)
前記トランスフェクション試薬溶液を前記混合容器に導入する前に前記トランスフェクション試薬溶液を無菌化するステップをさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目20)
前記トランスフェクション試薬溶液が、濾過滅菌により無菌化される、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記機械的揺動デバイスが、揺動プラットフォームを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目22)
前記混合容器が、前記揺動ステップにおいて前記揺動プラットフォームの上部に配置される、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記揺動させるステップが、1自由度におけるものである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目24)
前記揺動させるステップが、前記トランスフェクションマスターミックスにおいて波動運動を誘導するのに十分である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目25)
前記揺動させるステップが、5~15度の範囲の所定の角度におけるものである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目26)
前記揺動させるステップが、約12度の所定の角度におけるものである、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記揺動させるステップが、約5度の所定の角度におけるものである、項目25に記載の方法。
(項目28)
前記揺動させるステップが、所定の速度におけるものである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目29)
前記所定の速度が、1~30rpmの間である、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記所定の速度が、5~25rpmの間である、項目28に記載の方法。
(項目31)
前記所定の速度が、約10rpmである、項目28に記載の方法。
(項目32)
前記所定の速度が、約12rpmである、項目28に記載の方法。
(項目33)
前記所定の速度が、約15rpmである、項目28に記載の方法。
(項目34)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、1Lまたはそれよりも大きい、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目35)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、3Lまたはそれよりも大きい、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目36)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、12Lまたはそれよりも大きい、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目37)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、15Lまたはそれよりも大きい、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目38)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、25Lまたはそれよりも大きい、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目39)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、50Lまたはそれよりも大きい、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目40)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、100Lまたはそれよりも大きい、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目41)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、1L~100Lの間である、項目1~34のいずれか1項に記載の方法。
(項目42)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、1Lである、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、3Lである、項目41に記載の方法。
(項目44)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、12Lである、項目41に記載の方法。
(項目45)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、15Lである、項目41に記載の方法。
(項目46)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、25Lである、項目41に記載の方法。
(項目47)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、29Lである、項目41に記載の方法。
(項目48)
揺動時間が、5分またはそれ未満である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目49)
前記揺動時間が、約2分である、項目48に記載の方法。
(項目50)
前記揺動時間が、約1分である、項目48に記載の方法。
(項目51)
前記インキュベーション時間が、10~60分の間である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目52)
前記インキュベーション時間が、20~30分の間である、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記インキュベーション時間が、10~20分の間である、項目51に記載の方法。
(項目54)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、4Lであり、前記所定の角度が、7度であり、前記所定の速度が、10rpmであり、揺動持続時間が、1~2分である、項目1~24のいずれか1項に記載の方法。
(項目55)
前記トランスフェクションマスターミックスの容量が、12Lであり、前記所定の角度が、12度であり、前記所定の速度が、15rpmであり、揺動持続時間が、1~2分である、項目1~24のいずれか1項に記載の方法。
(項目56)
前記DNA溶液が、プラスミドDNAから本質的になるDNAを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目57)
前記DNA溶液が、cisプラスミド、trans-rep-capプラスミド、およびヘルパープラスミドの群から選択されるプラスミドを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目58)
前記DNA溶液および前記トランスフェクション試薬溶液を前記混合容器に導入するステップが、無菌的に達成される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目59)
複数の細胞をトランスフェクトする方法であって、前記項目のいずれかに記載の方法により生成されたトランスフェクションマスターミックスと前記細胞を接触させるステップを含む、方法。
(項目60)
前記細胞が、バイオリアクターに配置され、前記方法が、前記マスターミックスを前記バイオリアクターに無菌的に導入するステップをさらに含む、項目59に記載の方法。
(項目61)
前記マスターミックスが、ポンプ、または1バッチもしくは複数バッチを伴う重力送りにより前記バイオリアクターに導入される、項目60に記載の方法。
(項目62)
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を生成する方法であって、rAAVを生成可能な細胞に、項目57に記載の方法により生成されたトランスフェクションマスターミックスをトランスフェクトするステップを含む、方法。