(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】押し棒および押出方法
(51)【国際特許分類】
F27D 3/04 20060101AFI20230130BHJP
B21C 33/00 20060101ALI20230130BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
F27D3/04
B21C33/00
C21D1/00 113A
C21D1/00 117
(21)【出願番号】P 2020104469
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石井 毅
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-076267(JP,A)
【文献】実開昭54-120518(JP,U)
【文献】実開昭54-041412(JP,U)
【文献】実開昭63-143891(JP,U)
【文献】特開2004-218040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/00-5/00
C21D 1/00
F27B 9/00-9/40
B21C 33/00
H05B 6/00-6/10
H05B 6/14-6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の棒状体と、この棒状体どうしを軸方向に連結する連結部材とを備えていて、誘導加熱炉の内部のビレットを搬送方向に沿って押し出す押し棒において、
前記棒状体の端面が軸方向に直交する面に対して傾斜する面で構成されていて、対向する前記端面どうしが傾斜方向を同一とする状態で、隣接する前記棒状体どうしが前記連結部材で連結されていることを特徴とする押し棒。
【請求項2】
前記押し棒の軸方向に直交する方向に見通したとき、前記端面の一端側と他端側とが軸方向に間隔をあけて形成されている請求項1に記載の押し棒。
【請求項3】
対向配置される一対のピンチローラに挟まれる状態で前記押し棒が搬送される際に、前記端面が一方の前記ピンチローラに到達するタイミングと、他方の前記ピンチローラに到達するタイミングとが異なる状態に、前記端面が傾斜している請求項1または2に記載の押し棒。
【請求項4】
複数の棒状体を軸方向に連結部材で連結して構成される押し棒により、誘導加熱炉の内部のビレットを搬送方向に沿って押し出す押出方法において、
軸方向における前記棒状体の端面が軸方向に直交する面に対して傾斜する面で予め構成されていて、隣接する前記端面どうしが同じ方向に傾斜する面となる状態で前記連結部材により予め連結されていて、
軸方向に直交する方向において対向配置される一対のピンチローラに対して、一方の前記ピンチローラに前記端面が到達するタイミングと、他方の前記ピンチローラに前記端面が到達するタイミングが異なる状態で、前記押し棒が前記ピンチローラに送られることを特徴とする押出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱炉の内部のビレットを搬送方向に沿って押し出す押し棒および押出方法に関するものであり、詳しくは押し棒の曲がりを抑制するとともに効率よくビレットを押し出すことができる押し棒および押出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱炉からビレットを押し出す押し棒の構成が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には上下方向に対向配置される一対のピンチローラにより送り込まれて、誘導加熱炉の内部のビレットを押し出す押し棒の構成が開示されている。
【0003】
押し棒は誘導加熱炉と同等以上の長さが必要となるため比較的長尺となる。ビレットを効率よく押し出すために、押し棒は曲がりなく一直線状に製造されていることが望ましい。押し棒は例えば5mなど長尺に構成されるため、高い精度で曲がりなく製造することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は押し棒の曲がりを抑制するとともに効率よくビレットを押し出すことができる押し棒および押出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための押し棒は、複数の棒状体と、この棒状体どうしを軸方向に連結する連結部材とを備えていて、誘導加熱炉の内部のビレットを搬送方向に沿って押し出す押し棒において、前記棒状体の端面が軸方向に直交する面に対して傾斜する面で構成されていて、対向する前記端面どうしが傾斜方向を同一とする状態で、隣接する前記棒状体どうしが前記連結部材で連結されていることを特徴とする。
【0007】
上記の目的を達成するための搬送装置の押出方法は、複数の棒状体を軸方向に連結部材で連結して構成される押し棒により、誘導加熱炉の内部のビレットを搬送方向に沿って押し出す押出方法において、軸方向における前記棒状体の端面が軸方向に直交する面に対して傾斜する面で予め構成されていて、隣接する前記端面どうしが同じ方向に傾斜する面となる状態で前記連結部材により予め連結されていて、軸方向に直交する方向において対向配置される一対のピンチローラに対して、一方の前記ピンチローラに前記端面が到達するタイミングと、他方の前記ピンチローラに前記端面が到達するタイミングが異なる状態で、前記押し棒が前記ピンチローラに送られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の棒状体を連結して押し棒を構成しているので、押し棒の曲がりを抑制することができる。また棒状体どうしの接合面が傾斜する面で構成されているので、対向配置される一対のピンローラが同時に接合面に落ち込み押し棒が搬送されない状態となることを回避できる。効率よくビレットを押し出すには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】押し棒が使用される搬送装置を側面視で例示する説明図である。
【
図3】押し棒の棒状部材を斜視で例示する説明図である。
【
図4】ピンチローラにより送り込まれる押し棒を側面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、押し棒および押出方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。図中では押し棒の搬送方向を矢印x、この搬送方向xを直角に横断する幅方向を矢印y、上下方向を矢印zで示している。
【0011】
図1に例示するように押し棒1は、ビレット2を誘導加熱炉3の内部から押し出す際に使用される。ビレット2は例えば円柱形状や角柱形状に形成されている。ビレット2はその軸方向を搬送方向xとして搬送される。
図1では説明のためビレット2が移動する方向を白抜き矢印で示している。
【0012】
ビレット2は、例えば上下方向zにおいて対向配置される一対のピンチローラ4により、誘導加熱炉3の内部に搬送される。ピンチローラ4は図示しない駆動モータ等の動力により回転して、ビレット2を搬送方向xの前方側(
図1右方側)に搬送する。搬送方向xの前方側にピンチローラ4で押し出されるビレット2が、そのさらに前方側のビレット2を前方側に押し出す。複数のビレット2が搬送方向xに沿って連なって誘導加熱炉3に送られる状態となる。
図1では説明のため誘導加熱炉3の内部のビレット2を破線で示している。
【0013】
誘導加熱炉3による加熱作業を終了する場合、押し棒1は最後尾のビレット2を誘導加熱炉3の内部から押し出す。押し棒1はピンチローラ4により誘導加熱炉3の内部に送り込まれる。
【0014】
図2に例示するように押し棒1は、複数の棒状体5と、この棒状体5どうしを軸方向に連結する連結部材6を有している。棒状体5はその軸方向が搬送方向xと平行となる状態で誘導加熱炉3に送り込まれる。
【0015】
棒状体5は、軸方向の両端にそれぞれ端面7が形成されている。この実施形態では端面7は上下方向zに対して傾斜した面で構成されている。
図2では端面7と上下方向zとのなす角をθで示している。棒状体5は搬送方向xにおいて前方側(
図2右方側)となる端面7aと後方側(
図2左方側)となる端面7bとを有している。
【0016】
端面7の傾きは上記に限らない。端面7は棒状体5の軸方向に直交する面に対して傾斜する面であればよい。例えば幅方向yに対して角度θだけ傾いた面で端面7が構成されてもよい。角度θは例えば10°から75°の範囲で適宜設定できる。角度θは棒状体5の上下方向zまたは幅方向yの大きさによって適宜変更できる。
【0017】
図2に例示するように隣接する棒状体5の端面7どうしは、同じ方向に傾斜する面となる状態で連結部材6により連結されている。隣接する棒状体5の中心軸は互いに平行であり一直線となる。後方側(
図2左方側)に位置する棒状体5の前方側の端面7aと、前方側(
図2右方側)に位置する棒状体5の後方側の端面7bとはなす角θが等しくなる傾斜面でそれぞれ形成されている。
【0018】
対向する端面7aと端面7bとは連結部材6により連結される。端面7aと端面7bとの間には隙間が形成されることがある。以下、二つの端面7a、7bに挟まれる空間および二つの端面7a、7bを総称して棒状体5の接合部8ということがある。この実施形態では接合部8は、上方側の端部が後方側(
図2左方側)となり下方側の端部が前方側(
図2右方側)となる状態に傾斜している。
【0019】
図3に例示するように棒状体5は、上方に凸となる状態に湾曲した上面9と、下方に凸となる状態に湾曲した下面10と、この上面9と下面10とを連結する壁部11とを有している。壁部11は搬送方向xおよび上下方向zに延在する板状部材で構成されている。棒状体5の構成は上記に限定されない。例えば円筒形状や円柱形状に形成されていてもよい。またビレット2の形状に合わせて角筒形状や角柱形状に棒状体5が形成されていてもよい。
【0020】
この実施形態では搬送方向xにおける上面9の端部9a、9bおよび下面10の端部10a、10bは、搬送方向xに直交する面で構成されている。壁部11の端部は上下方向zに対して所定の角度θで傾斜する状態に形成されている。棒状体5の端面7a、7bは、上面9の端部9a、9bと下面10の端部10a、10bと壁部11の端部とで構成されている。本明細書において棒状体5の端面7a、7bが軸方向に直交する面に対して傾斜する面で構成される状態とは、端部9a、9b、10a、10bなど端面7を構成する部分の一部が上下方向zと平行となる状態を含むものである。
【0021】
図2に例示するように連結部材6は、例えば搬送方向xおよび上下方向zに延在する板状部材で構成される。この実施形態では連結部材6は、ボルト貫通穴12と溶接穴13とを有している。
【0022】
棒状体5どうしを連結する際には、まず連結部材6のボルト貫通穴12と、棒状体5の後端側に形成されるボルト貫通穴12aとの位置が合わされる。その後、ボルト14により連結部材6が棒状体5に固定される。幅方向yにおいて壁部11を両側から挟む状態で連結部材6が配置されてもよい。
【0023】
連結部材6が固定された棒状体5の後方側に他の棒状体5を配置するとともに、二つの棒状体5の軸方向が一直線状となる状態に位置を合わせる。棒状体5の上面9の端部9a、9bおよび下面10の端部10a、10bが精度良く形成されている場合は、この端部9aと端部9bとを合わせて端部10aと端部10bとを合わせることで、二つの棒状体5の軸方向を容易に一直線状とすることができる。上面9および下面10の端部9a、9b、10a、10bが上下方向zと平行となる状態に形成されている場合は、軸方向を中心軸とするねじれがない状態で二つの棒状体5を容易に連結することができる。
【0024】
後方側の棒状体5の壁部11に連結部材6が溶接により固定されることで、二つの棒状体5の連結が完了する。連結部材6の周囲の縁部や溶接穴13を利用して、連結部材6が壁部11に溶接される。
【0025】
連結部材6の構成は上記に限定されない。隣接する二つの棒状体5どうしを連結できる構成を有していればよい。例えば溶接を行うことなく二つの棒状体5の両方に対してボルト14により固定される構成を連結部材6が有していてもよい。連結部材6による棒状体5の拘束が溶接を行う場合よりも緩やかになるため、押し棒1が加熱されて曲がることを抑制するには有利である。
【0026】
棒状体5どうしは隙間なく連結される。その際にボルト14で棒状体5に固定される連結部材6は、棒状体5に対して搬送方向xに若干移動可能な状態で設置される。棒状体5の熱膨張を連結部材6が拘束して押し棒1が歪むことを抑制できる。誘導加熱炉3の内部で棒状体5が熱膨張することを見越して、予め棒状体5どうしの隙間をあけて連結する構成としてもよい。
【0027】
以上を繰り返して押し棒1が構成される。例えば300mmの棒状体5を20本連結して6000mmの押し棒1を構成することができる。
【0028】
図4に例示するように上下方向zに対向配置される一対のピンチローラ4に対して、接合部8の上方側の端部と下方側の端部とが搬送方向xに間隔をあけて配置される状態で押し棒1は送られる。
【0029】
この実施形態では下方側のピンチローラ4が接合部8の下方側の端部を通過した後に、上方側のピンチローラ4が接合部8の上方側の端部を通過する。
図4では説明のため押し棒1が送られる方向を白抜き矢印で示している。ピンチローラ4が接合部8を通過する際には、ピンチローラ4が接合部8の隙間に落ち込んだりして、押し棒1を搬送方向xの前方側に押し出す力が比較的小さくなることがある。
【0030】
押し棒1は搬送方向xにおいて接合部8の上方側の端部と下方側の端部との位置がずれているため、二つのピンチローラ4が同時に接合部8を通過することがない。少なくとも一方のピンチローラ4が棒状体5の上面9または下面10と良好に接触している状態を維持できる。
【0031】
複数の棒状体5を連結して押し棒1を構成しているので、製造時に押し棒1を一直線状とすることが容易になる。また加熱による膨張を接合部8で吸収することにより、使用時の押し棒1の曲がりを抑制するには有利である。
【0032】
また押し棒1の分割部分である接合部8を搬送方向xと直交する面に対して傾斜する状態で構成できる。そのため一対のピンチローラ4が同時に接合部8と接触して搬送効率が低下する不具合を回避できる。誘導加熱炉3の内部のビレット2を押し棒1は効率よく押し出すことができる。
【0033】
図5に例示するように上面9の端部9a、9bおよび下面10の端部10a、10bも上下方向zに対して所定の角度で傾斜する状態に接合部8が構成されてもよい。この実施形態では壁部11の端面と同じ角度θで上面9および下面10の端部が傾斜している。
図5では説明のためボルト14および溶接のビードを省略している。
【0034】
この実施形態では上面9および下面10の端部が、壁部11の端部と同様に上下方向zに対して所定の角度θで傾斜する状態に形成されている。上面9および下面10の端部の傾きが、壁部11の端部の傾きと異なる角度に設定されていてもよい。
【0035】
上面9と下面10と壁部10との端部のうち少なくとも一つが棒状体5の軸方向と直交する面で構成されていることが望ましい。またピンチローラ4により搬送方向xに押し出される力を、搬送方向xに沿って棒状体5から他の棒状体5に効率よく伝達することができる。棒状体5が円筒形状など他の形状で構成されているときは、棒状体5の端面7において少なくとも一部が棒状体5の軸方向と直交する面で構成されていることが望ましい。
【0036】
図6に例示するように押し棒1の前方側の端面7aと後方側の端面7bとの傾きが上下方向zを中心軸として互いに反対方向であってもよい。棒状体5どうしを連結する際に対向する端面7どうしが同じ方向に傾いていればよい。
【0037】
棒状体5の端面7の傾斜する方向は、上下方向zに対して所定の角度θ傾く構成に限定されない。例えば一対のピンチローラ4が幅方向yに対向配置されている場合は、幅方向yにおいて端面7の一端側と他端側とが搬送方向xに間隔をあける状態で形成されていればよい。搬送方向xの前方側に向かって例えば左方側のピンチローラ4が接合部8を通過した後に、右方側のピンチローラ4が接合部8を通過すれば、押し棒1の搬送効率の低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0038】
1 押し棒
2 ビレット
3 誘導加熱炉
4 ピンチローラ
5 棒状体
6 連結部材
7 端面
7a (前方側の)端面
7b (後方側の)端面
8 接合部
9 上面
9a (前方側の)端部
9b (後方側の)端部
10 下面
10a (前方側の)端部
10b (後方側の)端部
11 壁部
12 ボルト貫通穴
12a ボルト貫通穴
13 溶接穴
14 ボルト
x 搬送方向
y 幅方向
z 上下方向
θ なす角