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  • 特許-フッ素ゴム架橋物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】フッ素ゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20230130BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230130BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20230130BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20230130BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
C08L27/16
C08K3/04
C08K5/14
C08F214/22
B29C33/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020501052
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006692
(87)【国際公開番号】W WO2019163928
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2018031230
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】荒井 将司
(72)【発明者】
【氏名】太田 大助
(72)【発明者】
【氏名】上田 明紀
(72)【発明者】
【氏名】小田 康博
(72)【発明者】
【氏名】折出 純一
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-000806(JP,A)
【文献】特開平04-324111(JP,A)
【文献】特開2004-010808(JP,A)
【文献】特開2002-188003(JP,A)
【文献】特開2003-201401(JP,A)
【文献】国際公開第2009/072606(WO,A1)
【文献】特開2003-096249(JP,A)
【文献】特開2009-185297(JP,A)
【文献】特開平10-212425(JP,A)
【文献】特開2016-204594(JP,A)
【文献】特開2013-253696(JP,A)
【文献】特開2012-233043(JP,A)
【文献】特開2011-017398(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026006(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/125735(WO,A1)
【文献】特開2011-236396(JP,A)
【文献】特開2006-096976(JP,A)
【文献】特開2019-034508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 214/22
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物架橋可能なフッ素ゴム(A)、カーボンブラック(B)および過酸化物系架橋剤(C)を含むフッ素ゴム組成物が過酸化物架橋されてなるフッ素ゴム架橋物であって、
過酸化物架橋可能なフッ素ゴム(A)100質量部あたり、カーボンブラック(B)を9~60質量部含み、
前記フッ素ゴム(A)は、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体であり、
前記カーボンブラック(B)は、下記の測定条件で測定した異物数が30個/mm以下であり、
前記フッ素ゴム組成物の、ラバープロセスアナライザ(RPA)による動的粘弾性試験(測定周波数:1Hz、測定温度:100℃)において、未架橋時の動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)および動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)の差δG’(G’(1%)-G’(100%))が、400kPa以上4000kPa以下であり、
25℃における硬度が60~90であり、
前記フッ素ゴム架橋物を170℃で引張破断させた破断面に存在するアスペクト比が1.1以下かつHeywood径が5μm以上の異物数が25個/mm以下である、フッ素ゴム架橋物。
・測定条件
前記カーボンブラック(B)をエタノールに分散させた分散液であって、前記カーボンブラック(B)の含有量が0.1質量%である分散液を1ml採取し、採取した前記分散液をフィルター(濾過面のフィルター直径は35mm、ポアサイズは0.8μm)で減圧濾過し、前記フィルターの表面に捕捉された前記カーボンブラック(B)の残渣を走査型電子顕微鏡で観察し、アスペクト比が1.1以下かつHeywood径が5μm以上の異物数を測定する。
【請求項2】
前記カーボンブラック(B)は、窒素吸着比表面積(N SA)が50m /g以上180m /g以下である請求項1に記載のフッ素ゴム架橋物。
【請求項3】
タイヤ製造用ブラダーに用いられる、請求項1に記載のフッ素ゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素ゴム組成物およびフッ素ゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムは、耐熱性、耐油性および耐薬品性等に優れていることから、自動車および機械産業等の幅広い分野で工業的に使用されている。近年、タイヤ製造用ブラダー等の高温で高い機械的物性が要求される分野で使用可能な、高温時の機械的特性に優れたフッ素ゴムが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フッ素ゴムを含有するゴム成分及びカーボンブラックを含んでなり、フッ素ゴムが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテル及びプロピレンから選ばれる少なくとも1種の単量体とフッ化ビニリデンとの共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体並びにテトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、ゴム成分にカーボンブラックを配合する混練工程(A)における混練機のローターチップ先端の平均せん断速度が100(1/秒)以上、混練最高温度Tが120℃以上200℃以下であり、ラバープロセスアナライザ(RPA)による未加硫ゴムでの動的粘弾性試験(測定温度:100℃、測定周波数:1Hz)における動的歪み1%時のせん断弾性率G’(1%)及び動的歪み100%時のせん断弾性率G’(100%)の差δGA’(G’(1%)-G’(100%))が、120kPa以上3000kPa以下であるフッ素ゴム組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、フッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)を含むフッ素ゴム組成物であって、フッ素ゴム(A)は、フッ化ビニリデンに由来する構造単位(VdF単位)、並びに、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)からなる群より選択される少なくとも1種に由来する構造単位からなるフッ化ビニリデン系フッ素ゴムであり、フッ素ゴム(A)におけるVdF単位と、HFP、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種に由来する構造単位とのモル比が50/50~78/22であり、ラバープロセスアナライザ(RPA)による動的粘弾性試験(測定周波数:1Hz、測定温度:100℃)において、未加硫時の動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)及び動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)の差δG’(G’(1%)-G’(100%))が、120kPa以上、3000kPa以下であることを特徴とするフッ素ゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/026006号
【文献】国際公開第2013/125735号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、高温時の耐亀裂進展性に優れたフッ素ゴム架橋物をもたらすことができるフッ素ゴム組成物、およびそのフッ素ゴム組成物を架橋したフッ素ゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の第3の要旨によれば、過酸化物架橋可能なフッ素ゴム(A)、カーボンブラック(B)および過酸化物系架橋剤(C)を含むフッ素ゴム組成物が過酸化物架橋されてなるフッ素ゴム架橋物であって、
過酸化物架橋可能なフッ素ゴム(A)100質量部あたり、カーボンブラック(B)を9~60質量部含み、
前記フッ素ゴム(A)は、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体であり、
前記カーボンブラック(B)は、下記の測定条件で測定した異物数が30個/mm以下であり、
前記フッ素ゴム組成物の、ラバープロセスアナライザ(RPA)による動的粘弾性試験(測定周波数:1Hz、測定温度:100℃)において、未架橋時の動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)および動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)の差δG’(G’(1%)-G’(100%))が、400kPa以上4000kPa以下であり、
25℃における硬度が60~90であり、フッ素ゴム架橋物を170℃で引張破断させた破断面に存在するアスペクト比が1.1以下かつHeywood径が5μm以上の異物数が25個/mm以下である、フッ素ゴム架橋物が提供される。
・測定条件
前記カーボンブラック(B)をエタノールに分散させた分散液であって、前記カーボンブラック(B)の含有量が0.1質量%である分散液を1ml採取し、採取した前記分散液をフィルター(濾過面のフィルター直径は35mm、ポアサイズは0.8μm)で減圧濾過し、前記フィルターの表面に捕捉された前記カーボンブラック(B)の残渣を走査型電子顕微鏡で観察し、アスペクト比が1.1以下かつHeywood径が5μm以上の異物数を測定する。
【0013】
上述のフッ素ゴム架橋物は、タイヤ製造用ブラダーに用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、上記特徴を有することにより、高温時の耐亀裂進展性に優れたフッ素ゴム架橋物をもたらすことができるフッ素ゴム組成物、およびそのフッ素ゴム組成物を架橋したフッ素ゴム架橋物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明においてカーボンブラック中の異物数を測定する際に減圧濾過を実施するために利用可能な減圧濾過装置の一例を示す分解透視斜視図である。
図2図2は、工程(2-1)および工程(2-2)における混練方法の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について具体的に説明するが、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物は、過酸化物架橋可能なフッ素ゴム(A)、カーボンブラック(B)および過酸化物系架橋剤(C)を含む。
【0018】
フッ素ゴム(A)としては、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VdF)及び式(1):
CF=CF-R (1)
(式中、R は-CF又は-OR (R は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基))で表されるパーフルオロエチレン系不飽和化合物(例えばヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)等)よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0019】
上記フッ素ゴム(A)としては、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(Pr)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(Pr)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン(Et)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン(Et)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン(Et)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、又はフルオロホスファゼン系フッ素ゴムなどが挙げられ、これらをそれぞれ単独で、又は本開示の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。これらの中でも、VdF系フッ素ゴム、TFE/Pr系フッ素ゴム、TFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴムが、耐熱老化性、耐油性が良好な点からより好適である。
【0020】
上記VdF系フッ素ゴムは、VdF繰り返し単位の含有量が、VdF繰り返し単位とその他の共単量体に由来する繰り返し単位との合計モル数に対し20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、45モル%以上が更に好ましく、50モル%以上が更により好ましく、55モル%以上が特に好ましく、60モル%以上が最も好ましい。VdF繰り返し単位の含有量はまた、VdF繰り返し単位とその他の共単量体に由来する繰り返し単位との合計モル数に対し90モル%以下が好ましく、85モル%以下がより好ましく、80モル%以下が更に好ましく、78モル%以下が更により好ましく、75モル%以下が特に好ましく、70モル%以下が最も好ましい。
【0021】
また、上記その他の共単量体に由来する繰り返し単位の含有量は、VdF繰り返し単位とその他の共単量体に由来する繰り返し単位との合計モル数に対し10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上が更に好ましく、22モル%以上が更により好ましく、25モル%以上が特に好ましく、30モル%以上が最も好ましい。その他の共単量体に由来する繰り返し単位の含有量はまた、VdF繰り返し単位とその他の共単量体に由来する繰り返し単位との合計モル数に対し80モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、55モル%以下が更に好ましく、50モル%以下が更により好ましく、45モル%以下が特に好ましく、40モル%以下が最も好ましい。
【0022】
上記VdF系フッ素ゴムにおける共単量体としてはVdFと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、TFE、HFP、PAVE、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテル、一般式(2)
CH=CFR (2)
(式中、R は炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表される含フッ素単量体などのフッ素含有単量体、一般式(3)
CHF=CHR (3)
(式中、R は炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表される含フッ素単量体などのフッ素含有単量体、エチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル等のフッ素非含有単量体、架橋性基(キュアサイト)を与える単量体、及び反応性乳化剤などが挙げられ、これらの単量体や化合物のなかから1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)がより好ましく、特にPMVEが好ましい。
【0024】
また、上記PAVEとして、一般式(4)
CF=CFOCFOR (4)
(式中、R は炭素数1~6の直鎖又は分岐状パーフルオロアルキル基、炭素数5~6の環式パーフルオロアルキル基、又は、1~3個の酸素原子を含む炭素数2~6の直鎖又は分岐状パーフルオロオキシアルキル基である)で表されるパーフルオロビニルエーテルを用いてもよく、例えば、CF=CFOCFOCF、CF=CFOCFOCFCF、又はCF=CFOCFOCFCFOCFを用いることが好ましい。
【0025】
上記式(2)で表される含フッ素単量体(2)としては、R が直鎖のフルオロアルキル基である単量体が好ましく、R が直鎖のパーフルオロアルキル基である単量体がより好ましい。R の炭素数は1~6であることが好ましい。上記式(2)で表される含フッ素単量体(2)としては、CH=CFCF、CH=CFCFCF、CH=CFCFCFCF、CH=CFCFCFCFCFなどが挙げられ、なかでも、CH=CFCFで示される2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンが好ましい。
【0026】
上記式(3)で表される含フッ素単量体(3)としては、R が直鎖のフルオロアルキル基である単量体が好ましく、R が直鎖のパーフルオロアルキル基である単量体がより好ましい。R の炭素数は1~6であることが好ましい。上記式(3)で表される含フッ素単量体(3)としては、CHF=CHCF、CHF=CHCFCF、CHF=CHCFCFCF、CHF=CHCFCFCFCFなどが挙げられ、なかでも、CHF=CHCFで示される1,3,3,3-テトラフルオロプロピレンが好ましい。
【0027】
TFE/プロピレン(Pr)系フッ素ゴムとは、TFE45~70モル%、プロピレン(Pr)55~30モル%からなる含フッ素共重合体をいう。これら2成分に加えて、特定の第3成分(例えばPAVE)を0~40モル%含んでいてもよい。
【0028】
TFE/PAVE系共重合体とは、TFE50~90モル%、PAVE50~10モル%からなる含フッ素共重合体をいう。TFE/PAVEの組成は、(50~90)/(50~10)(モル%)であることが好ましく、より好ましくは、(50~80)/(50~20)(モル%)であり、更に好ましくは、(55~75)/(45~25)(モル%)である。これら2成分に加えて、特定の第3成分、例えばエチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル等のフッ素非含有単量体、架橋性基(キュアサイト)を与える単量体を0~40モル%含む共重合体でもよい。
【0029】
エチレン(Et)/HFP系共重合体としては、Et/HFPの組成が、(35~80)/(65~20)(モル%)であることが好ましく、(40~75)/(60~25)(モル%)がより好ましい。
【0030】
Et/HFP/TFE系共重合体は、Et/HFP/TFEの組成が、(35~75)/(25~50)/(0~15)(モル%)であることが好ましく、(45~75)/(25~45)/(0~10)(モル%)がより好ましい。
【0031】
更に良好な高温時の耐亀裂進展性を実現できることから、上記フッ素ゴム(A)は、VdF/HFP共重合体、VdF/式(2)で表される含フッ素単量体(2)の共重合体及びVdF/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の2元共重合体であることが好ましい。
【0032】
また、上記フッ素ゴム(A)は、VdF/HFP共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体、VdF/1,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体及びVdF/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の2元共重合体であることがより好ましく、VdF/HFP共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体及びVdF/1,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の2元共重合体であることが更に好ましく、VdF/HFP共重合体及びVdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の2元共重合体であることが特に好ましい。
【0033】
上記フッ素ゴム(A)は、数平均分子量Mnが5000~500000のものが好ましく、10000~500000のものがより好ましく、20000~500000のものが更に好ましい。
【0034】
また、例えばフッ素ゴム組成物の粘度を低くしたい場合などでは、上記のフッ素ゴム(A)に更に他のフッ素ゴムをブレンドしてもよい。他のフッ素ゴムとしては、低分子量液状フッ素ゴム(数平均分子量1000以上)、数平均分子量が10000程度の低分子量フッ素ゴム、更には数平均分子量が100000~200000程度のフッ素ゴムなどが挙げられる。他のフッ素ゴムとして、1種類のフッ素ゴムを添加してよく、あるいは組成の異なる2種類以上のフッ素ゴムを添加してもよい。
【0035】
加工性の観点から、上記フッ素ゴム(A)は100℃におけるムーニー粘度が20~200、更には30~180の範囲にあることが好ましい。ムーニー粘度は、JIS K6300に準拠して測定する。
【0036】
上記フッ素ゴム(A)として例示したものは主単量体の構成である。本実施形態に係るフッ素ゴム(A)としては、上述したような主単量体と、過酸化物架橋可能な架橋性基を与える単量体とを共重合したものを用いることができる。過酸化物架橋可能な架橋性基を与える単量体としては、製造法等に応じて適切に過酸化物架橋可能な架橋性基を導入できるものであればよく、例えばヨウ素原子を含む公知の重合性化合物、連鎖移動剤などが挙げられる。
【0037】
好ましい過酸化物架橋可能な架橋性基を与える単量体としては、一般式(5):
CY =CY -X (5)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子又は-CH;R は1個以上のエーテル結合を有していてもよく、芳香環を有していてもよい、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子)
で示される化合物が挙げられる。具体的には、例えば、一般式(6):
CY =CY CHR-X (6)
(式中、Y、Y、Xは前記同様であり、R は1個以上のエーテル結合を有していてもよく水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐状の含フッ素アルキレン基、すなわち水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐状の含フッ素アルキレン基、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐状の含フッ素オキシアルキレン基、又は水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐状の含フッ素ポリオキシアルキレン基;Rは水素原子又はメチル基)で示されるヨウ素含有モノマー、
一般式(7)~(24):
CY =CY(CF-X (7)
(式中、Yは、同一又は異なり、水素原子又はフッ素原子、nは1~8の整数)
CF=CFCF -X (8)
(式中、
【化1】
であり、nは0~5の整数)
CF=CFCF(OCF(CF)CF
(OCHCFCFOCHCF-X (9)
(式中、mは0~5の整数、nは0~5の整数)
CF=CFCF(OCHCFCF
(OCF(CF)CFOCF(CF)-X (10)
(式中、mは0~5の整数、nは0~5の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))O(CF-X (11)
(式中、mは0~5の整数、nは1~8の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))-X (12)
(式中、mは1~5の整数)
CF=CFOCF(CF(CF)OCFCF(-X)CF (13)
(式中、nは1~4の整数)
CF=CFO(CFOCF(CF)-X (14)
(式中、nは2~5の整数)
CF=CFO(CF-(C)-X (15)
(式中、nは1~6の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))OCFCF(CF)-X (16)
(式中、nは1~2の整数)
CH=CFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)-X (17)
(式中、nは0~5の整数)
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF-X (18)
(式中、mは0~5の整数、nは1~3の整数)
CH=CFCFOCF(CF)OCF(CF)-X (19)
CH=CFCFOCHCF-X (20)
CF=CFO(CFCF(CF)O)CFCF(CF)-X (21)
(式中、mは0以上の整数)
CF=CFOCF(CF)CFO(CF-X (22)
(式中、nは1以上の整数)
CF=CFOCFOCFCF(CF)OCF-X (23)
CH=CH-(CF (24)
(式中、nは2~8の整数)
(一般式(7)~(24)中、Xは前記と同様)
で表されるヨウ素含有モノマーなどが挙げられ、これらをそれぞれ単独で、又は任意に組み合わせて用いることができる。
【0038】
一般式(6)で示されるヨウ素含有モノマーとしては、一般式(25):
【化2】
(式中、mは1~5の整数であり、nは0~3の整数)
で表されるヨウ素含有フッ素化ビニルエーテルが好ましく挙げられ、より具体的には、
【化3】
などが挙げられるが、これらの中でも、ICHCFCFOCF=CFが好ましい。
【0039】
一般式(7)で示されるヨウ素含有モノマーとしてより具体的には、ICFCFCF=CH、I(CFCFCF=CHが好ましく挙げられる。
【0040】
一般式(11)で示されるヨウ素含有モノマーとしてより具体的には、I(CFCFOCF=CFが好ましく挙げられる。
【0041】
一般式(24)で示されるヨウ素含有モノマーとしてより具体的には、CH=CHCFCFI、I(CFCFCH=CHが好ましく挙げられる。
【0042】
上記フッ素ゴム(A)は、連鎖移動剤として臭素化合物またはヨウ素化合物を使用して行う重合方法によって得ることもできる。たとえば、実質的に無酸素状態で、臭素化合物又はヨウ素化合物の存在下に、加圧しながら水媒体中で乳化重合を行う方法(ヨウ素移動重合法)が挙げられる。使用する臭素化合物又はヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式:
Br
(式中、xおよびyはそれぞれ0~2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは炭素数1~16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1~3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物が挙げられる。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用することによって、ヨウ素または臭素が重合体に導入され、架橋点として機能する。
【0043】
臭素化合物またはヨウ素化合物としては、たとえば1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、2-ヨードパーフルオロプロパン、1,3-ジヨード-2-クロロパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨード-2,4-ジクロロパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8-ジヨードパーフルオロオクタン、1,12-ジヨードパーフルオロドデカン、1,16-ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨード-n-プロパン、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、3-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、ならびに(2-ヨードエチル)および(2-ブロモエチル)置換体などが挙げられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合わせて使用することもできる。これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、2-ヨードパーフルオロプロパンを用いるのが好ましい。
【0044】
上記フッ素ゴム(A)は、架橋性の観点から、架橋点としてヨウ素原子及び/又は臭素原子を含むフッ素ゴムが好ましい。ヨウ素原子及び/又は臭素原子の含有量としては、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.01~3質量%が特に好ましい。
【0045】
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物は、過酸化物架橋可能なフッ素ゴム(A)100質量部あたり、カーボンブラック(B)を10~60質量部含む。カーボンブラック(B)の配合量が多すぎるとフッ素ゴム架橋物の機械的物性が低下する傾向にあり、また、少なすぎてもフッ素ゴム架橋物の機械的物性が低下する傾向にある。更に、物性バランスが良好な点から、フッ素ゴム(A)100質量部に対して15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が更に好ましく、物性バランスが良好な点から55質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましく、45質量部以下が更により好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0046】
カーボンブラック(B)としては、製造方法の違いから、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられ、用途の違いから、ゴム用カーボンブラック、カラー用カーボンブラック、導電性カーボンブラックとして市販されている全てのカーボンブラックが挙げられる。具体的には例えば、ゴム用カーボンブラックとしては、SAF-HS(窒素吸着比表面積(NSA):142m/g、ジブチルフタレート吸油量(DBP):130ml/100g)、SAF(NSA:142m/g、DBP:115ml/100g)、N234(NSA:126m/g、DBP:125ml/100g)、ISAF(NSA:119m/g、DBP:114ml/100g)、ISAF-LS(NSA:106m/g、DBP:75ml/100g)、ISAF-HS(NSA:99m/g、DBP:129ml/100g)、N339(NSA:93m/g、DBP:119ml/100g)、HAF-LS(NSA:84m/g、DBP:75ml/100g)、HAF-HS(NSA:82m/g、DBP:126ml/100g)、HAF(NSA:79m/g、DBP:101ml/100g)、N351(NSA:74m/g、DBP:127ml/100g)、LI-HAF(NSA:74m/g、DBP:101ml/100g)、MAF-HS(NSA:56m/g、DBP:158ml/100g)、MAF(NSA:49m/g、DBP:133ml/100g)、FEF-HS(NSA:42m/g、DBP:160ml/100g)、FEF(NSA:42m/g、DBP:115ml/100g)、SRF-HS(NSA:32m/g、DBP:140ml/100g)、SRF-HS(NSA:29m/g、DBP:152ml/100g)、GPF(NSA:27m/g、DBP:87ml/100g)、SRF(NSA:27m/g、DBP:68ml/100g)など、カラー用カーボンブラックとしては、カーボンブラック便覧第3版(平成7年発行)の分類によるHCC、MCC、RCC、LCC、HCF、MCF、RCF、LCF、LFF、及び各種アセチレンブラックなどが挙げられる。これらの中でも、SAF-HS、SAF、N234、ISAF、ISAF-LS、ISAF-HS、N339、HAF-LS、HAF-HS、HAF、N351、LI-HAF、MAF-HS、アセチレンブラックが好ましい。これらのカーボンブラックは単独で使用してもよいし、また2種以上を併用してもよい。
【0047】
タイヤ製造用ブラダー等の高温で高い機械的物性が要求される分野では、高温での使用時における疲労破壊を抑制することが求められる。
【0048】
本発明者らは、フッ素ゴムを動的用途に用いた場合、100℃以上の高温条件の下では、一旦フッ素ゴムの内部に欠陥が発生すると亀裂が急激に進展し、破壊に至ることを発見した。この現象は、フッ素ゴムに特有のものであると考えられる。このことから、フッ素ゴムの内部における破壊起点の発生を抑制すること、特に、フッ素ゴム以外の汎用ゴムでは問題になり得なかった微細な破壊起点の発生を抑制することにより、高温使用時におけるフッ素ゴムの耐亀裂進展性が向上し得ることがわかった。本発明者らは、上述の新たな知見に基づいて鋭意検討を重ねた結果、高温においてカーボンブラック中に含まれる特定の異物がフッ素ゴム界面と剥離することで初期亀裂が発生し、耐亀裂進展性を低下させることをつきとめた。本発明者らは、このような発見に基づいて更に検討を行い、フッ素ゴム組成物に含まれるカーボンブラックとして、特定の寸法の異物(カーボンの塊、カーボングリット)の含有量が少ないものを用いることにより、高温時の耐亀裂進展性が向上し得ることを見出した。本実施形態に係るフッ素ゴム組成物に用いられるカーボンブラック(B)は、後述するように特定の測定条件で測定した異物数が30個/mm以下と少ない。このように異物数の少ないカーボンブラック(B)を用いることにより、フッ素ゴムの内部において破壊起点となる初期亀裂の発生を抑制することができ、その結果、高温使用時における初期亀裂を起点とする亀裂の進展を抑制することができる。
【0049】
フッ素ゴム組成物に用いられるカーボンブラック(B)としては、以下に説明する測定条件で測定した異物数が30個/mm以下であるものを用いる。まず、カーボンブラック(B)をエタノールに分散させた分散液であって、カーボンブラック(B)の含有量が0.1質量%である分散液を準備する。このカーボンブラック(B)/エタノール分散液は、エタノールに所定量のカーボンブラック(B)を加えて、発振周波数35000Hzの超音波照射機で2時間程度超音波を照射することにより調製することができる。この分散液を1ml採取し、採取した分散液をフィルターで減圧濾過する。その後、フィルターの表面に捕捉されたカーボンブラック(B)の残渣を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、観察倍率500倍で、濾過面中の任意の箇所を9か所撮影し、それぞれの画像について、アスペクト比が1.1以下かつHeywood径が5μm以上の異物数を測定する。SEM観察は、減圧濾過後のフィルターにPt蒸着したものの表面について行うことが好ましい。なお、本明細書において「アスペクト比」は、SEM画像で観察される粒子(異物)の最も短い径(短径)に対する最も長い径(長径)の比(長径)/(短径)を意味する。本発明者らは、Heywood径が5μm以上の比較的大きい異物であって、アスペクト比が1.1以下の球形に近い形状を有する異物数(異物の含有量)が30個/mm以下と少ないカーボンブラック(B)を用いることにより、高温時の耐亀裂進展性を向上させることができることを見出した。カーボンブラック(B)において、上述した測定条件で測定した異物数は、好ましくは0個/mm以上20個/mm以下、より好ましくは0個/mm以上15個/mm以下である。異物数が上記範囲内であると、高温時の耐亀裂進展性をより一層向上させることができる。
【0050】
減圧濾過は、濾過面が直径35mmの円形である減圧濾過装置を用いて実施できる。本発明を限定するものではないが、減圧濾過は、例えば図1に示す減圧濾過装置を用いて実施してよい。図1は、減圧濾過装置9の分解透視斜視図を示し、減圧濾過装置9は、図示するように、ファンネル1、フィルター(後述するメンブランフィルター)2、サポートスクリーン3、フィルターベース4、濾液捕集容器(またはフラスコ)5を含んで構成され得る。これらを組み立てる際は、濾液捕集容器5の上部にフィルターベース4を取り付け、ファンネル1とフィルターベース4との間にサポートスクリーン3およびフィルター2を挟んだ状態で、クランプを使用してファンネル1およびフィルターベース4を固定して、減圧濾過装置9を構成してよい。減圧濾過装置9において、上記濾過面は、ファンネル1の吐出側(下流側)開口面を指し、直径35mmの円形である。かかる減圧濾過装置9を用いて、図1中に矢印にて示すようにフィルターベース4の胴部から減圧しながら、上述の通り採取した分散液をファンネル1に供給し、サポートスクリーン3上のフィルター2により減圧濾過する。フィルター2の表面に、カーボンブラックの残渣が捕捉され、フィルター2を通過した濾液は、濾液捕集容器5に捕集される。
【0051】
フィルターとしては、メンブランフィルターを用いることができる。より詳細には、ポアサイズが0.1μm以上3μm以下(例えば約0.8μm)、質量が0.5mg/cm以上10mg/cm以下(例えば約0.9mg/cm)、厚さが1μm以上200μm以下(例えば約9μm)、面積が、上記濾過面(直径35mmの円形である)以上の面積(通常、略円形であり、例えば直径47mmの円形であり得るが、これに限定されない)、材質が、エタノールに対し耐薬品性を持つもの(例えばポリカーボネート、セルロールアセテート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)であるメンブランフィルターが使用される。例えば、直径が実質的に同じである複数の円筒状孔(ポア)を有するポリカーボネート製のメンブランフィルターを使用し得るが、これに限定されない。ポリカーボネート製のメンブランフィルターとしては、ポア密度が1×10個/cm以上4×10個/cm以下(例えば約3×10個/cm)のものが使用され得る。減圧濾過は、フィルターに対して濾過面の面内で均一に圧力(吸引力)が負荷されるように実施されることが好ましい。
【0052】
カーボンブラック(B)は、窒素吸着比表面積(NSA)が25m/g以上180m/g以下であり、かつジブチルフタレート(DBP)吸油量が40ml/100g以上250ml/100g以下であることが好ましい。
【0053】
窒素吸着比表面積(NSA)が小さすぎると、フッ素ゴム架橋物の機械的物性が低下する傾向にあり、この観点から、窒素吸着比表面積(NSA)は25m/g以上であり、50m/g以上が好ましく、70m/g以上がより好ましく、75m/g以上が更に好ましく、80m/g以上が特に好ましい。他方、一般的に入手しやすい観点から、窒素吸着比表面積(NSA)は180m/g以下が好ましい。窒素吸着比表面積は、JIS K 6217-2に準拠して測定する。
【0054】
ジブチルフタレート(DBP)吸油量が小さすぎると、フッ素ゴム架橋物の機械的物性が低下する傾向にあり、この観点から、40ml/100g以上であり、50ml/100g以上が好ましく、60ml/100g以上がより好ましく、70ml/100g以上が特に好ましい。他方、一般的に入手しやすい観点から、DBP吸油量は、250ml/100g以下であり、240ml/100g以下が好ましく、230ml/100g以下がより好ましく、220ml/100g以下が更に好ましく、例えば180ml/100gであってよい。DBP吸油量は、JIS K 6217-4に準拠して測定する。
【0055】
カーボンブラック(B)は、一次粒子の算術平均粒子径が1nm以上200nm以下であることが好ましい。更に、算術平均粒子径は、一般に入手しやすい観点から、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、15nm以上が更に好ましく、一次粒子の算術平均粒子径が大きすぎるとフッ素ゴム架橋物の機械的物性が低下する傾向にあり、この観点から、100nm以下がより好ましく、60nm以下が更に好ましく、50nm以下が更により好ましく、40nm以下が特に好ましい。
【0056】
過酸化物架橋剤の配合量としては、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~9質量部、特に好ましくは0.2~8質量部である。過酸化物架橋剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴム(A)の架橋が充分に進行しない傾向があり、10質量部を超えると、物性のバランスが低下する傾向がある。
【0057】
過酸化物系架橋剤(C)としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る過酸化物であればよく、具体的には、例えば1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-m-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの有機過酸化物を挙げることができる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3が好ましい。
【0058】
上記フッ素ゴム組成物は、更に、架橋促進剤を含むことが好ましい。上記架橋促進剤としては、二重結合を2個以上有する化合物であることが好ましい。二重結合を2個以上有する化合物は、パーオキサイド加硫が可能なもの、すなわち、パーオキシラジカルとポリマーラジカルとに対して反応活性を有するものであれば原則的に有効であって、特に種類は制限されないが、多価ビニル化合物、多価アリル化合物、多価(メタ)アクリル酸エステルなどを例示できる。好ましいものとしては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、フッ素化トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、エチレンビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリス(ジアリルアミン)-s-トリアジン、亜燐酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、トリアリルイソシアヌレートであることが好ましい。
【0059】
上記架橋促進剤の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~9質量部、特に好ましくは0.2~8質量部である。架橋促進剤が、0.01質量部より少ないと、アンダーキュアとなる傾向があり、10質量部を超えると、物性バランスが低下する傾向がある。
【0060】
上記フッ素ゴム組成物は、更に、架橋促進剤として、低自己重合性架橋促進剤を含むことも好ましい。低自己重合性架橋促進剤は、架橋促進剤としてよく知られているトリアリルイソシアヌレート(TAIC)とは異なり、自己重合性が低い化合物をいう。
【0061】
低自己重合性架橋促進剤としては、例えば、
【化4】
で示されるトリメタリルイソシアヌレート(TMAIC)、
【化5】
で示されるp-キノンジオキシム(p-quinonedioxime)、
【化6】
で示されるp,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム(p,p’-dibenzoylquinonedioxime)、
【化7】
で示されるマレイミド、
【化8】
で示されるN-フェニレンマレイミド、
【化9】
で示されるN,N’-フェニレンビスマレイミドなどが挙げられる。
【0062】
好ましい低自己重合性架橋促進剤は、トリメタリルイソシアヌレート(TMAIC)である。
【0063】
過酸化物架橋系で用いる架橋促進剤としてはまた、ビスオレフィンを用いることもできる。
【0064】
架橋促進剤として使用できるビスオレフィンとしては、例えば、式:
C=CR-Z-CR=CR
(式中、R、R、R、R、R及びRは同じか又は異なり、いずれもH、又は炭素数1~5のアルキル基;Zは、線状(直鎖状)もしくは分岐状の、酸素原子を含んでいてもよい、少なくとも部分的にフッ素化された炭素数1~18のアルキレンもしくはシクロアルキレン基、又は(パー)フルオロポリオキシアルキレン基)で示されるビスオレフィンが挙げられる。
【0065】
Zは好ましくは炭素数4~12のパーフルオロアルキレン基であり、R、R、R、R、R及びRは好ましくは水素原子である。
【0066】
Zが(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である場合、
-(Q)-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-(Q)
(式中、Qは炭素数1~10のアルキレン又はオキシアルキレン基であり、pは0又は1であり、m及びnはm/n比が0.2~5となり且つ該(パー)フルオロポリオキシアルキレン基の分子量が500~10000、好ましくは1000~4000の範囲となるような整数である。)で表される(パー)フルオロポリオキシアルキレン基であることが好ましい。この式において、Qは好ましくは、-CHOCH-及び-CHO(CHCHO)CH-(s=1~3)の中から選ばれる。
【0067】
好ましいビスオレフィンとしては、
CH=CH-(CF-CH=CH
CH=CH-(CF-CH=CH
式:CH=CH-Z-CH=CH
(式中、Zは-CHOCH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CHOCH-(m/nは0.5))
などが挙げられる。
【0068】
なかでも、CH=CH-(CF-CH=CHで示される3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8-ドデカフルオロ-1,9-デカジエンが好ましい。
【0069】
上記フッ素ゴム組成物には、必要に応じて通常のゴム配合物、例えば充填材、加工助剤、可塑剤、着色剤、粘着付与剤、接着助剤、受酸剤、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤のほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体などを本開示の効果を損なわない範囲で配合してもよい。
【0070】
充填材としては、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩;硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;合成ハイドロタルサイト;二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化銅などの金属硫化物;ケイ藻土、アスベスト、リトポン(硫化亜鉛/硫化バリウム)、グラファイト、フッ化カーボン、フッ化カルシウム、コークス、石英微粉末、タルク、雲母粉末、ワラストナイト、炭素繊維、アラミド繊維、各種ウィスカー、ガラス繊維、有機補強剤、有機充填材、ポリテトラフルオロエチレン、マイカ、シリカ、セライト、クレーなどが例示できる。また、受酸剤として、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトなどが挙げられ、これらの単独又は2種以上を適宜配合してもよい。これらは、後述する混練方法で、どの工程で添加するかは任意であるが、密閉式混練機やロール練り機でフッ素ゴム(A)とカーボンブラック(B)とを混練する際に添加するのが好ましい。
【0071】
加工助剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミド;オレイン酸エチルなどの高級脂肪酸エステル;カルナバワックス、セレシンワックスなどの石油系ワックス;エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールなどのポリグリコール;ワセリン、パラフィンワックス、ナフテン、テルペンなどの脂肪族炭化水素;シリコーン系オイル、シリコーン系ポリマー、低分子量ポリエチレン、フタル酸エステル類、リン酸エステル類、ロジン、(ハロゲン化)ジアルキルアミン、界面活性剤、スルホン化合物、フッ素系助剤、有機アミン化合物などが例示できる。
【0072】
なかでも受酸剤は、フッ素ゴム(A)とカーボンブラック(B)とを密閉式混練機やロール練り機で混練する際に共存させることにより、補強性が向上する点から好ましい配合剤である。
【0073】
受酸剤としては、先述したもののうち、例えば、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、ハイドロタルサイトなどが、補強性の観点から好ましい。
【0074】
上記受酸剤の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.01~10質量部が好ましい。受酸剤が多くなりすぎると物性が低下する傾向にあり、また、少なくなりすぎると補強性が低下する傾向にある。更に好ましい配合量は、補強性の観点から、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.1質量部以上であり、物性の観点と混練しやすさの観点から8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0075】
オイルとしては、ひまし油、菜種油、落花生油、オリーブ油、大豆油、綿実油、コーン油、ひまわり油などが例示できる。
【0076】
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物において、ラバープロセスアナライザ(RPA)による動的粘弾性試験(測定周波数:1Hz、測定温度:100℃)において、未架橋時の動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)および動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)の差δG’(G’(1%)-G’(100%))が、300kPa以上5000kPa以下であることが好ましい。δG’(G’(1%)-G’(100%))を上記範囲とすることにより、高い引張強度を得るのに十分なカーボンゲルネットワークを形成することができ、伸びを得るためのフレキシブルなカーボンゲルネットワーク補強形成することができる。δG’(G’(1%)-G’(100%))は400kPa以上4000kPa以下であることがより好ましく、500kPa以上3000kPa以下であることがさらに好ましい。ラバープロセスアナライザ(RPA)による動的粘弾性試験は、例えば以下に説明する手順で行うことができる。まず、ラバープロセスアナライザRPA-2000(アルファテクノロジーズ社製)を用いて、測定周波数1Hz、測定温度100℃の条件でフッ素ゴム組成物の歪分散を測定し、剪断弾性率G’を求める。このとき、動的歪みを1%、100%として各々G’を求め、G’(1%)およびG’(100%)とする。求めたG’(1%)およびG’(100%)を用いて、δG’(G’(1%)-G’(100%))を算出する。
【0077】
次に、本実施形態に係るフッ素ゴム組成物の製造方法について説明する。フッ素ゴム組成物は、例えば密閉式混練機やロール練り機などを用いて製造できる。具体的には、いっそう良好な高温時の耐亀裂進展性を有する架橋物を与えるフッ素ゴム組成物が得られる点で、次の製造方法(1)により製造することが好ましい。
【0078】
本実施形態に係るフッ素ゴム組成物の製造方法は、過酸化物架橋可能なフッ素ゴム(A)100質量部あたり、カーボンブラック(B)を10~60質量部、および過酸化物系架橋剤(C)を0.1~10質量部含むフッ素ゴム組成物の製造方法であって、
(1)密閉式混練機又はロール練り機により、最高温度が80~220℃に達するまで、フッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)を混練して、中間組成物を得る工程(1-1)と、50℃未満になるまで中間組成物を冷却する工程(1-2)と、最高温度が10℃以上80℃未満に達するまで、冷却した中間組成物を混練して、フッ素ゴム組成物を得る工程(2-1)と、を含む。
【0079】
工程(1-1)は、最高温度が80~220℃に達するまで、フッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)を混練して、中間組成物を得る工程である。
【0080】
工程(1-1)は、高温でフッ素ゴム(A)とカーボンブラック(B)とを混練することを特徴とする。工程(1-1)を経ることによって、高温時の耐亀裂進展性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を製造することができる。
【0081】
工程(1-1)における混練は、密閉式混練機又はロール練り機により実施する。工程(1-1)における混練は、高温での混練が可能である点で、密閉式混練機により実施することが好ましい。密閉式混練機としては、バンバリーミキサー等の接線式密閉式混練機、インターミックス等のかみ合い式密閉式混練機、加圧ニーダー、一軸混練機、二軸混練機などが挙げられる。
【0082】
密閉式混練機を使用する場合、ローターの平均剪断速度を20~1000(1/秒)とすることが好ましく、50~1000(1/秒)とすることがより好ましく、100~1000(1/秒)とすることが更に好ましく、200~1000(1/秒)とすることが更により好ましく、300~1000(1/秒)とすることが特に好ましい。
【0083】
平均剪断速度(1/秒)は、つぎの式により算出される。
平均剪断速度(1/秒)=(π×D×R)/(60(秒)×c)
(式中、
D:ローター径またはロール径(cm)
R:回転速度(rpm)
c:チップクリアランス(cm。ローターとケーシングとの間隙の距離、またはロール同士の間隙の距離)
【0084】
工程(1-1)において、更に、過酸化物系架橋剤(C)および/または架橋促進剤を混練してもよい。フッ素ゴム(A)と、カーボンブラック(B)と、過酸化物系架橋剤(C)および/または架橋促進剤とを同時に密閉式混練機に投入してから混練してもよいし、フッ素ゴム(A)と過酸化物系架橋剤(C)および/または架橋促進剤とを混練した後、カーボンブラック(B)を混練してもよい。また、工程(1-1)において、更に加工助剤および/または受酸剤を混練することも好ましい。
【0085】
工程(1-1)における混練は、混練中の混練物の最高温度が80~220℃に達するまで行うものである。上記混練は、最高温度が120℃以上に達するまで行うことが好ましく、最高温度が200℃以下に達するまで行うことが好ましい。上記最高温度は、混練機から排出された直後の混練物の温度を測定することにより把握することができる。
【0086】
上記製造方法(1)において、工程(1-2)は、工程(1-1)により得られた中間組成物を50℃未満になるまで冷却する工程である。工程(1-1)において得られる中間組成物は、温度が80~220℃であるが、中間組成物を充分に冷却してから工程(2-1)を実施することによって、高温時の耐亀裂進展性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を製造することができる。工程(1-2)は、中間組成物全体が上述した範囲の温度になるように冷却することが好ましい。冷却温度の下限は特に限定されないが、10℃であってよい。
【0087】
工程(1-2)において、ロール練り機および/またはシート成形装置を使用して、中間組成物を混練しながら冷却することも好ましい。
【0088】
工程(1-1)及び工程(1-2)は、任意の回数繰り返してもよい。繰り返す場合の工程(1-1)及び工程(1-2)において、最高温度が120~220℃に達するまで中間組成物を混練することが好ましく、最高温度が120~140℃に達するまで中間組成物を混練することがより好ましい。工程(1-1)及び工程(1-2)を繰り返す場合、混練を密閉式混練機により行なってもよいし、ロール練り機により行なってもよいが、密閉式混練機により行うことが好ましい。
【0089】
ロール練り機を使用する場合、ローターの平均剪断速度を20(1/秒)以上とすることが好ましく、50(1/秒)以上とすることがより好ましく、100(1/秒)以上とすることが更に好ましく、200(1/秒)以上とすることが更により好ましく、300(1/秒)以上とすることが特に好ましく、また、1000(1/秒)以下とすることが好ましい。
【0090】
上記製造方法(1)は、密閉式混練機又はロール練り機、好ましくは密閉式混練機に、フッ素ゴム(A)及びカーボンブラック(B)を投入する工程を有することも好ましい。上記工程において、過酸化物系架橋剤(C)および/または架橋促進剤を投入してもよいし、加工助剤および/または受酸剤を投入してもよい。
【0091】
工程(1-1)は、中間組成物を排出するまでの間に任意の添加剤を投入する工程を含んでもよい。該添加剤としては、1種又は2種以上を用いることができる。投入回数は1回でも複数回でもよい。2種以上の添加剤を投入する場合には、同時に投入してもよく、夫々別々の回に投入してもよい。また、1種の添加剤を複数回投入してもよい。「中間組成物を排出するまでの間に任意の添加剤を投入する工程」としては、例えば、工程(1-1)において最初に投入したカーボンブラック(B)とは異なるカーボンブラック(B’)を、中間組成物を排出するまでの間に投入する工程を挙げることができる。
【0092】
工程(1-1)及び工程(1-2)を繰り返す場合にも、各回の工程(1-1)は、上述した「中間組成物を排出するまでの間に任意の添加剤を投入する工程」を含んでよい。例えば、2回目の工程(1-1)において、1回目の工程(1-1)で用いたカーボンブラック(B)とは異なるカーボンブラック(B’)を更に投入してもよい。
【0093】
上記製造方法(1)において、工程(2-1)は、工程(1-2)で得られた冷却された中間組成物を混練して、フッ素ゴム組成物を得る工程である。
【0094】
工程(2-1)は、工程(1-2)において充分に冷却された中間組成物を、更に混練する工程であって、フッ素ゴム架橋物の高温時の耐亀裂進展性を改良するために重要となる工程である。
【0095】
工程(2-1)における混練は、組成物の最高温度が10℃以上140℃未満に達するまで行うことが好ましい。混練中の組成物の最高温度が高すぎると、高温時の引張特性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を得ることができないおそれがある。
【0096】
工程(2-1)は、工程(1-2)で得られた冷却された互いに異なる中間組成物同士を混練する工程を含んでもよい。この場合の混練は、上記互いに異なる中間組成物の混合物の最高温度が10℃以上140℃未満に達するまで行えばよい。
【0097】
上記製造方法(1)は、工程(2-1)を実施した後、更に、工程(2-1)をm-1回(mは2以上の整数である)繰り返す工程(2-2)を含むことが好ましい。工程(2-1)を合計で2回以上実施することにより、高温時の引張特性に優れたフッ素ゴム架橋物を与えるフッ素ゴム組成物を安定して製造することができる。上記mは5以上の整数であることが好ましく、10以上の整数であることがより好ましく、30以上の整数であることが更に好ましく、50以上の整数であることが特に好ましい。工程(2-2)おける各混練の前には中間組成物を冷却する工程を含むことも好ましい。
【0098】
工程(2-1)及び工程(2-2)における混練は、上述した密閉式混練機又はロール練り機で実施することができる。
【0099】
工程(2-1)及び工程(2-2)は、中間組成物をロール練り機に投入して薄通しを行うことにより中間組成物を混練する工程であることが好ましい。
【0100】
図2に薄通しによる混練の方法を概略的に示す。図2(a)に示すように、中間組成物13を第1のロール11と第2のロール12とを備えるオープンロール10に投入する。第1のロール11と第2のロール12とは矢印の方向に異なる速度で回転している。投入された中間組成物13は、次に、図2(b)に示すように、剪断力を受けながら第1のロール11と第2のロール12との間を通過することによりシート状に分出しされた後、図2(c)に示すように、分出しされた組成物14が任意の箇所で巻き取られる。
【0101】
1回の薄通しでも架橋物の高温時の機械物性を向上させることができるが、更に優れた高温時の機械物性を達成するために、上記薄通しを合計でm回(mは2以上の整数である)行うことが好ましい。上記mは5以上の整数であることが好ましく、10以上の整数であることがより好ましく、30以上の整数であることが更に好ましく、50以上の整数であることが特に好ましい。
【0102】
上記製造方法(1)は、更に、工程(2-1)又は工程(2-2)で得られたフッ素ゴム組成物と、過酸化物系架橋剤(C)および/または架橋促進剤とを混練する工程を含むことも好ましい。上述したとおり、過酸化物系架橋剤(C)および/または架橋促進剤は、工程(1-1)において混練してもよい。
【0103】
過酸化物系架橋剤(C)と架橋促進剤は同時に配合し混練してもよいし、まず架橋促進剤を配合混練し、ついで過酸化物系架橋剤(C)を配合混練してもよい。工程(1-1)において混練する場合、過酸化物系架架橋剤(C)と架橋促進剤の混練条件は、混練の最高温度が130℃以下であるほかは、上述した工程(1-1)と同じ条件であってよい。なかでも、ローターの平均速度を20(1/秒)以上、好ましくは50(1/秒)以上、より好ましくは100(1/秒)以上、更に好ましくは200(1/秒)以上、特に好ましくは300(1/秒)以上としたオープンロール、密閉式混練機等を使用して混練することが好ましい。工程(2-1)又は工程(2-2)で得られたフッ素ゴム組成物と過酸化物系架架橋剤(C)および/または架橋促進剤とを混練する場合は、最高温度が130℃未満となるように混練することが好ましい。
【0104】
上記製造方法(1)以外に、例えば以下の製造方法(2)を採用することもできる。
【0105】
(2)密閉式混練機又はロール練り機にフッ素ゴム(A)とカーボンブラック(B)、要すれば加工助剤および/または受酸剤を所定量投入し、ローターの平均剪断速度を20(1/秒)以上、好ましくは50(1/秒)以上、より好ましくは100(1/秒)以上、更に好ましくは200(1/秒)以上、特に好ましくは300(1/秒)以上、混練の最高温度Tmが80~220℃(好ましくは120~200℃)となる条件で混練する方法。製造方法(2)における混練は、高温での混練が可能である点で、密閉式混練機により実施することが好ましい。
【0106】
上記(2)の方法で得られるフッ素ゴム組成物は過酸化物系架橋剤(C)や架橋促進剤などを含んでいない。また、上記(2)の方法の混練を複数回行ってもよい。複数回行う場合、2回目以降の混練条件は、混練の最高温度Tmを140℃以下とする以外は上記(2)の方法と同じ条件でよい。
【0107】
上記製造方法(2)に基づく、本発明のフッ素ゴム組成物の調製法の1つは、たとえば、上記(2)の方法で得られた、あるいは上記(2)の方法を複数回繰り返して得られたフッ素ゴム組成物に、更に過酸化物系架橋剤(C)および/または架橋促進剤を配合し混練する方法である。
【0108】
過酸化物系架橋剤(C)と架橋促進剤は同時に配合し混練してもよいし、まず架橋促進剤を配合混練し、ついで過酸化物系架橋剤(C)を配合混練してもよい。架橋剤(C)と架橋促進剤の混練条件は、混練の最高温度Tmが130℃以下であるほかは、上記(2)の方法と同じ条件でよい。
【0109】
本発明のフッ素ゴム組成物の別の調製法は、たとえばロール練り機にフッ素ゴム(A)とカーボンブラック(B)、過酸化物系架橋剤(C)および/または架橋促進剤を適切な順序で所定量投入し、ローターの平均剪断速度を20(1/秒)以上、好ましくは50(1/秒)以上、より好ましくは100(1/秒)以上、更に好ましくは200(1/秒)以上、特に好ましくは300(1/秒)以上、混練の最高温度Tmが130℃以下の条件で混練する方法が挙げられる。
【0110】
上記フッ素ゴム組成物を架橋することにより、フッ素ゴム架橋物を得ることができる。
【0111】
フッ素ゴム組成物の架橋法は、適宜選択すればよいが、例えば圧縮成形、インジェクション成形、トランスファー成形や巻蒸し成形などの成形方法、オートクレーブなどを用いた架橋方法といったゴム工業で一般的に行われている架橋法が採用される。また、架橋物の使用目的によって二次架橋が必要な場合は、更にオーブン架橋を施してもよい。
【0112】
次に、本開示の一の実施形態に係るフッ素ゴム架橋物について以下に説明する。本実施形態に係るフッ素ゴム架橋物は、過酸化物架橋可能なフッ素ゴム(A)、カーボンブラック(B)および過酸化物系架橋剤(C)を含むフッ素ゴム組成物が過酸化物架橋されてなるフッ素ゴム架橋物である
【0113】
上記フッ素ゴム架橋物は、上記フッ素ゴム組成物から得られるものであることが好ましく、上述した製造方法により得られるものであることも好ましい。
【0114】
本実施形態に係るフッ素ゴム架橋物は、25℃における硬度が60~90である。フッ素ゴム架橋物の硬度は、カーボンブラック(B)、過酸化物系架橋剤(C)、架橋促進剤または通常のゴム配合物の配合量を選択することで適宜調整する事ができる。25℃における硬度が高くなりすぎると室温での取り扱いが困難になり、また、低くなりすぎるとゴムの補強性が不十分となり高温時の耐亀裂進展性が低下する。この観点から、25℃における硬度は87以下であることがより好ましく、85以下であることが更に好ましく、70以上であることが好ましく、75以上であることがより好ましい。
【0115】
上記硬度は、JIS-K6253-3に準じ、測定温度25℃で、デュロメータ(タイプA)にて測定する(3秒後値)。
【0116】
微細な初期亀裂を抑制し、高温時の耐亀裂進展性を向上させる観点から、フッ素ゴム架橋物を170℃で引張破断させた破断面に存在するアスペクト比が1.1以下かつHeywood径が5μm以上の異物数は、25個/mm以下である。上記異物数は、好ましくは0個/mm以上20個/mm以下、より好ましくは0個/mm以上10個/mm以下である。異物数は、上記破断面をSEMで観察することにより測定する。より詳細には、観察倍率500倍で破断面を均等に12か所撮影し、それぞれの画像について、アスペクト比が1.1以下かつ直径(Heywood径)が5μm以上の異物数を測定する。SEM観察は、フッ素ゴム架橋物について引張試験の試験片の破断面にPt蒸着したものの表面について行うことが好ましい。
【0117】
上記フッ素ゴム架橋物は、表面に潤滑剤が塗布されていてもよい。潤滑剤が塗布されていることで、摩擦係数が低下し、フッ素ゴム架橋物が動的環境下で他材と接触した際の、粘着や固着を抑制することができる。潤滑剤としては、例えば流動パラフィン、脂肪油、ナフテン、フッ素系オイル、シリコーン系オイル、イオン液体などの液体潤滑剤、グリース、ワセリンなどの半固体潤滑剤、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、タルク、マイカ、グラファイト、窒化ホウ素、窒化ケイ素、フッ化黒鉛、パラフィンワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステルなどの固体潤滑剤が挙げられる。塗布方法としては、潤滑剤を直接塗布する方法、潤滑剤を水あるいは有機溶剤に分散あるいは溶解させて塗布する方法などが挙げられる。
【0118】
170℃における引張破断伸びは、250%以上であることがより好ましく、300%以上であることが更に好ましく、600%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましい。
【0119】
上記引張破断伸びは次の方法により測定できる。JIS-K6251に準じ、恒温槽付きの引張試験機を使用してチャック間50mmに設定、引張速度500mm/min、6号ダンベルを用いて引張破断伸びを測定する。測定温度は170℃とする。
【0120】
上記フッ素ゴム架橋物は、170℃において、1MPa以上、更には1.5MPa以上、特に2MPa以上、また10MPa以下、特に8MPa以下の引張破断強度を有していることが、高温環境下での使用などに適したものとなることから好ましい。
【0121】
上記引張破断強度は次の方法により測定できる。JIS-K6251に準じ、恒温槽付きの引張試験機を使用してチャック間50mmに設定、引張速度500mm/min、6号ダンベルを用いて引張破断強度を測定する。測定温度は、170℃とする。
【0122】
上記フッ素ゴム架橋物は、種々の用途に利用できるが、特にタイヤ加硫用ブラダーとして好適に利用できる。タイヤ加硫用ブラダーであるフッ素ゴム架橋物も本開示の一つである。
【0123】
上記フッ素ゴム組成物及び上記フッ素ゴム架橋物は、種々の用途に利用できるが、特に例えばつぎのような各種の用途に好適に使用できる。
【0124】
(1)ホース
ホースとしては、本開示のフッ素ゴム組成物を架橋して得られるフッ素ゴム架橋物のみからなる単層構造のホースであってもよいし、他の層との積層構造の多層ホースであってもよい。また、ホースとしては、本開示のフッ素ゴム架橋物のみからなる単層構造ホースであってもよいし、他の層との積層構造の多層ホースであってもよい。
【0125】
単層構造のホースとしては、例えば排気ガスホース、EGRホース、ターボチャージャーホース、燃料ホース、ブレーキホース、オイルホースなどが例示できる。
【0126】
多層構造のホースとしても、例えば排気ガスホース、EGRホース、ターボチャージャーホース、燃料ホース、ブレーキホース、オイルホースなどが例示できる。
【0127】
ターボシステムはディーゼルエンジンに多く装備され、エンジンからの排気ガスをタービンに送って回転させることによりタービンに連結されているコンプレッサーを動かし、エンジンに供給する空気の圧縮比を高め、出力を向上させるシステムである。エンジンの排気ガスを利用し、かつ高出力を得るこのターボシステムは、エンジンの小型化、自動車の低燃費化及び排気ガスのクリーン化にも繋がる。
【0128】
ターボチャージャーホースは、圧縮空気をエンジンに送り込むためのホースとしてターボシステムに用いられている。狭いエンジンルームの空間を有効活用するためには、可撓性や柔軟性に優れたゴム製のホースが有利であり、典型的には、耐熱老化性や耐油性に優れたゴム(特にフッ素ゴム)層を内層とし、シリコーンゴムやアクリルゴムを外層とする多層構造のホースが採用されている。しかし、エンジンルームなどのエンジン周りは高温に曝されており、しかも振動も加えられる過酷な環境にあり、耐熱老化性だけでなく、高温時の機械特性が優れたものが必要になっている。
【0129】
ホースは、単層及び多層構造のゴム層として、本開示のフッ素ゴム組成物を架橋して得られる架橋フッ素ゴム層又は本開示のフッ素ゴム架橋物からなる架橋フッ素ゴム層を用いることにより、これらの要求特性を高い水準で満たすものであり、優れた特性を有するターボチャージャーホースを提供することができる。
【0130】
ターボチャージャーホース以外の多層構造のホースにおいて、他の材料からなる層としては、他のゴムからなる層や熱可塑性樹脂からなる層、各種繊維補強層、金属箔層などが挙げられる。
【0131】
他のゴムとしては、耐薬品性や柔軟性が特に要求される場合は、アクリロニトリル-ブタジエンゴム又はその水素添加ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、EPDM及びアクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル-ブタジエンゴム又はその水素添加ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムからなることがより好ましい。
【0132】
また、熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0133】
また、多層構造のホースを作製する場合、必要に応じて表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていないフッ素ゴムの表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したうえで、更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0134】
本開示のフッ素ゴム組成物を架橋して得られる架橋フッ素ゴム層又は本開示のフッ素ゴム架橋物からなる架橋フッ素ゴム層を有するホースには、金属管にホースを装着しやすいように、特に、室温における優れた柔軟性が要求される。また、ホースには、高温にさらされ、歪みが大きい箇所にはクラックが入るという課題がある。このような用途には、本開示のように、耐熱性に加え、高温引張物性及び引張耐久特性に優れた架橋物を与えるフッ素ゴム組成物又は本開示のフッ素ゴム架橋物を好適に用いることができ、クラックの発生を抑え、クラック進展を防止することができる。上記ホースは、上記フッ素ゴム組成物が、カーボンブラック(B)をフッ素ゴム(A)100質量部に対して5~20質量部含有することによって、室温時の柔軟性(低硬度)、耐クラック性、耐クラック進展性に優れる。
【0135】
上記ホースは、以下に示す分野で好適に用いることができる。
【0136】
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体製造関連分野では、高温環境に曝されるCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置などのホースに用いることができる。
【0137】
自動車分野では、エンジンならびに自動変速機の周辺装置に用いることができ、ターボチャージャーホースのほか、EGRホース、排気ガスホース、燃料ホース、オイルホース、ブレーキホースなどとして用いることができる。
【0138】
そのほか、航空機分野、ロケット分野及び船舶分野、化学プラント分野、分析・理化学機分野、食品プラント機器分野、原子力プラント機器分野などのホースにも用いることができる。
【0139】
(2)シール材
石油掘削装置に使用されているシール材は、深い井戸の中に存在する圧力が突然開放されたときの急減圧によって破損するという課題がある。また、高温で硫化水素といったガスにさらされる環境下で使用される。石油・ガス産業の製造条件は、高温、高圧化になっており、本開示のフッ素ゴム組成物を架橋して得られる架橋フッ素ゴム層を有するシール材には、このような耐急減圧性(RAPID GAS DECOMPRESSION RESISTANCE)に加えて、優れた耐熱性、耐薬品性が要求される。このような用途には、本開示のように、耐熱性に加え、高温引張物性及び引張耐久特性に優れた架橋物を与えるフッ素ゴム組成物又は本開示のフッ素ゴム架橋物を好適に用いることができる。高温引張物性(引張破断強度、引張破断伸び)及び引張耐久特性に優れた架橋物は、高い耐減圧性を有し、シールの破損(破壊、割れ)を回避することができる。本開示のシール材は、上記フッ素ゴム組成物が、カーボンブラック(B)をフッ素ゴム(A)100質量部に対して10~60質量部含有することによって、耐熱性、耐薬品性、及び高温高圧下における耐急減圧性に優れる。
【0140】
上記シール材としては、以下に示す分野で好適に用いることができる。
【0141】
例えば、自動車用エンジンのエンジン本体、主運動系、動弁系、滑剤・冷却系、燃料系、吸気・排気系;駆動系のトランスミッション系;シャーシのステアリング系;ブレーキ系;電装品の基本電装部品、制御系電装部品、装備電装部品などの、耐熱性・耐油性・燃料油耐性・エンジン冷却用不凍液耐性・耐スチーム性が要求されるガスケットや非接触型及び接触型のパッキン類(セルフシールパッキン、ピストンリング、割リング形パッキン、メカニカルシール、オイルシールなど)などのシール材などが挙げられる。
【0142】
自動車用エンジンのエンジン本体に用いられるシール材としては、特に限定されないが、例えば、シリンダーヘッドガスケット、シリンダーヘッドカバーガスケット、オイルパンパッキン、一般ガスケット、Oリング、パッキン、タイミングベルトカバーガスケットなどのシール材などが挙げられる。
【0143】
自動車用エンジンの主運動系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、クランクシャフトシール、カムシャフトシールなどのシャフトシールなどが挙げられる。
【0144】
自動車用エンジンの動弁系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、エンジンバルブのバルブステムオイルシール、バタフライバルブのバルブシートなどが挙げられる。
【0145】
自動車用エンジンの滑剤・冷却系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、エンジンオイルクーラーのシールガスケットなどが挙げられる。
【0146】
自動車用エンジン燃料系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、燃料ポンプのオイルシール、燃料タンクのフィラーシール、タンクパッキンなど、燃料チューブのコネクターOリングなど、燃料噴射装置のインジェクタークッションリング、インジェクターシールリング、インジェクターOリングなど、キャブレターのフランジガスケットなど、EGRのシール材などが挙げられる。
【0147】
自動車用エンジンの吸気・排気系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、マニホールドの吸気マニホールドパッキン、排気マニホールドパッキン、スロットルのスロットルボディパッキン、ターボチャージのタービンシャフトシールなどが挙げられる。
【0148】
自動車用のトランスミッション系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、トランスミッション関連のベアリングシール、オイルシール、Oリング、パッキンなど、オートマチックトランスミッションのOリング、パッキン類などが挙げられる。
【0149】
自動車用のブレーキ系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、オイルシール、Oリング、パッキンなど、マスターシリンダーのピストンカップ(ゴムカップ)など、キャリパーシール、ブーツ類などが挙げられる。
【0150】
自動車用の装備電装品に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、カーエアコンのOリング、パッキンなどが挙げられる。
【0151】
シール材としては、特にセンサー用シール材(ブッシュ)に適し、更には酸素センサー用シール材、酸化窒素センサー用シール材、酸化硫黄センサー用シール材などに適する。Oリングは角リングであってもよい。
【0152】
自動車分野以外の用途としては、特に限定されず、航空機分野、ロケット分野、船舶分野、油田掘削分野(例えばパッカーシール、MWD用シール、LWD用シール等)、プラント等の化学品分野、医薬品等の薬品分野、現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野、塗装設備等の塗装分野、分析・理化学機分野、食品プラント機器分野、原子力プラント機器分野、鉄板加工設備等の鉄鋼分野、一般工業分野、電気分野、燃料電池分野、電子部品分野、現場施工型の成形などの分野で広く用いることができる。
【0153】
例えば、船舶、航空機などの輸送機関における耐油、耐薬品、耐熱、耐スチーム又は耐候用のパッキン、Oリング、その他のシール材;油田掘削における同様のパッキン、Oリング、シール材;化学プラントにおける同様のパッキン、Oリング、シール材;食品プラント機器及び食品機器(家庭用品を含む)における同様のパッキン、Oリング、シール材;原子力プラント機器における同様のパッキン、Oリング、シール材;一般工業部品における同様のパッキン、Oリング、シール材などが挙げられる。
【0154】
(3)ベルト
苛酷な条件、例えば、高温、薬品(オイル)雰囲気下で使用される場合、プーリー部分での繰り返し伸張及び圧縮を受けるので、本開示のフッ素ゴム組成物を架橋して得られる架橋フッ素ゴム層を有するベルト及びベルト部材には、耐熱性、耐薬品性に加え、高温での繰り返し引張及び圧縮特性が要求される。また、ベルトは波形桟及び横桟など複雑な形状をしており、成型金型から取り出す際に、裂けてしまうという課題がある。このような用途には、本開示のように、耐熱性、耐薬品性に加え、高温引張物性及び引張耐久特性に優れた架橋物を与えるフッ素ゴム組成物又は本開示のフッ素ゴム架橋物を好適に用いることができる。本開示のベルト及びベルト部材は、上記フッ素ゴム組成物が、カーボンブラック(B)をフッ素ゴム(A)100質量部に対して5~60質量部含有することによって、耐熱性、耐薬品性、及び高温での繰り返し引張及び圧縮特性に優れる。
【0155】
上記フッ素ゴム架橋物は、以下に示すベルトに好適に用いることができる。
【0156】
動力伝達ベルト(平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、歯付きベルトなどを含む)や搬送用ベルト(コンベアベルト)のベルト材に用いることができる。また、半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体製造関連分野では、高温環境に曝されるCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置などのベルト材に用いることができる。
【0157】
平ベルトとしては、例えば農業用機械、工作機械、工業用機械などのエンジン周りなど各種高温となる部位に使用される平ベルトが挙げられる。コンベアベルトとしては、例えば石炭、砕石、土砂、鉱石、木材チップなどのバラ物や粒状物を高温環境下で搬送するためのコンベアベルトや、高炉などの製鉄所などで使用されるコンベヤベルト、精密機器組立工場、食品工場などで、高温環境下に曝される用途におけるコンベアベルトが挙げられる。Vベルト及びVリブドベルトとしては、例えば農業用機械、一般機器(OA機器、印刷機械、業務用乾燥機など)、自動車用などのVベルト、Vリブドベルトが挙げられる。歯付きベルトとしては、例えば搬送ロボットの伝動ベルト、食品機械、工作機械の伝動ベルトなどの歯付きベルトが挙げられ、自動車用、OA機器、医療用、印刷機械などで使用される歯付きベルトが挙げられる。特に、自動車用歯付きベルトとしては、タイミングベルトが挙げられる。
【0158】
なお、多層構造のベルト材において、他の材料からなる層としては、他のゴムからなる層や熱可塑性樹脂からなる層、各種繊維補強層、帆布、金属箔層などが挙げられる。
【0159】
他のゴムとしては、耐薬品性や柔軟性が特に要求される場合は、アクリロニトリル-ブタジエンゴム又はその水素添加ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、EPDM及びアクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル-ブタジエンゴム又はその水素添加ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムからなることがより好ましい。
【0160】
また、熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0161】
また、多層構造のベルト材を作製する場合、必要に応じて表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていないフッ素ゴムの表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したうえで、更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0162】
(4)防振ゴム
上記フッ素ゴム架橋物は、防振ゴムにおける単層及び多層構造のゴム層として用いることにより、防振ゴムへの要求特性を高い水準で満たすものであり、優れた特性を有する自動車用防振ゴムを提供することができる。
【0163】
自動車用防振ゴム以外の多層構造の防振ゴムにおいて、他の材料からなる層としては、他のゴムからなる層や熱可塑性樹脂からなる層、各種繊維補強層、金属箔層などが挙げられる。
【0164】
他のゴムとしては、耐薬品性や柔軟性が特に要求される場合は、アクリロニトリル-ブタジエンゴム又はその水素添加ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、EPDM及びアクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル-ブタジエンゴム又はその水素添加ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムからなることがより好ましい。
【0165】
また、熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0166】
また、多層構造の防振ゴムを作製する場合、必要に応じて表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていないフッ素ゴムの表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したうえで、更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0167】
(5)免震ゴム
上記フッ素ゴム架橋物は、免震ゴムにおけるゴム層として用いることにより、優れた特性を有する免震ゴムを提供することができる。免震ゴムは、常に外気に曝されているため、酸素、水分、オゾン、紫外線、原子力用においては放射線、海辺における場合では潮風等により、その表面部より長期劣化を受ける。そのため、免震ゴムの側面は耐候性に優れたゴムで被覆されている。本フッ素ゴム組成物は、耐亀裂進展性が高い上、フッ素ゴムの持つ優れた耐候性や耐酸化性により、高寿命が期待できる。
【0168】
また、多層構造の免震ゴムを作製する場合、必要に応じて表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていないフッ素ゴムの表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したうえで、更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0169】
免震ゴムとしての用途としては、地震等の災害時に建造物を振動から保護するため免震装置、例えば橋梁等の構造物を支承する支承体などが挙げられる。
【0170】
(6)ダイヤフラム
本開示のフッ素ゴム組成物を架橋して得られる架橋フッ素ゴム層を有するダイヤフラムには、高温環境下での繰り返し耐屈曲性が要求される。このような用途には、本開示のように、耐熱性に加え、高温引張物性及び引張耐久特性に優れた架橋物を与えるフッ素ゴム組成物又は本開示のフッ素ゴム架橋物を好適に用いることができる。本開示のダイヤフラムは、上記フッ素ゴム組成物が、カーボンブラック(B)をフッ素ゴム(A)100質量部に対して5~30質量部含有することによって、耐熱性、耐薬品性、及び室温のみならず高温繰り返し屈曲性に優れる。
【0171】
上記フッ素ゴム架橋物は、以下に示すダイヤフラムに好適に用いることができる。
【0172】
例えば、自動車エンジンの用途としては、耐熱性、耐酸化性、耐燃料性、低ガス透過性などが求められる、燃料系、排気系、ブレーキ系、駆動系、点火系などのダイヤフラムが挙げられる。
【0173】
自動車エンジンの燃料系に用いられるダイヤフラムとしては、例えば燃料ポンプ用ダイヤフラム、キャブレター用ダイヤフラム、プレッシャレギュレータ用ダイヤフラム、パルセーションダンパー用ダイヤフラム、ORVR用ダイヤフラム、キャニスター用ダイヤフラム、オートフューエルコック用ダイヤフラムなどが挙げられる。
【0174】
自動車エンジンの排気系に用いられるダイヤフラムとしては、例えばウェイストゲート用ダイヤフラム、アクチュエータ用ダイヤフラム、EGR用ダイヤフラムなどが挙げられる。自動車エンジンのブレーキ系に用いられるダイヤフラムとしては、例えばエアーブレーキ用ダイヤフラムなどが挙げられる。自動車エンジンの駆動系に用いられるダイヤフラムとしては、例えばオイルプレッシャー用ダイヤフラムなどが挙げられる。自動車エンジンの点火系に用いられるダイヤフラムとしては、例えばディストリビューター用ダイヤフラムなどが挙げられる。
【0175】
自動車エンジン以外の用途としては、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐スチーム性、低ガス透過性などが求められる、一般ポンプ用ダイヤフラム、バルブ用ダイヤフラム、フィルタープレス用ダイヤフラム、ブロワー用ダイヤフラム、空調用機器用ダイヤフラム、制御機器用ダイヤフラム、給水用ダイヤフラム、給湯用の熱水を送液するポンプなどに用いられるダイヤフラム、高温蒸気用ダイヤフラム、半導体装置用ダイヤフラム(例えば製造工程などで使用される薬液移送用ダイヤフラム)、食品加工処理装置用ダイヤフラム、液体貯蔵タンク用ダイヤフラム、圧力スイッチ用ダイヤフラム、石油探索・石油掘削用途で用いられるダイヤフラム(例えば石油掘削ビットなどの潤滑油供給用ダイヤフラム)、ガス瞬間湯沸かし器やガスメーター等のガス器具用ダイヤフラム、アキュムレーター用ダイヤフラム、サスペンションなどの空気ばね用ダイヤフラム、船舶用のスクリューフィダー用ダイヤフラム、医療用の人工心臓用ダイヤフラムなどが挙げられる。
【0176】
(7)中空ゴム成形体
上記フッ素ゴム架橋物は、中空ゴム成形体にも好適に用いることができる。上記中空ゴム成形体としては、ブラダー、蛇腹構造成形体、プライマーバルブ等を挙げることができる。
【0177】
(7-1)ブラダー
上記フッ素ゴム架橋物は、タイヤの加硫工程及び成型工程で使用されるブラダー(タイヤ製造用ブラダー)にも好適に用いることができる。
【0178】
一般に、タイヤの製造工程においては、タイヤの各構成部材を組み立てて生タイヤ(未加硫タイヤ)を成型する際に用いるタイヤ成型用ブラダーと、加硫時に最終的な製品タイヤ形状を付与するために用いるタイヤ加硫用ブラダーとの、大きく分けて2種類のブラダーが使用されている。
【0179】
上記フッ素ゴム架橋物は、タイヤ成型用ブラダー及びタイヤ加硫用ブラダーのいずれにも用いることができるが、特に、加熱条件下で繰り返し使用され、高い耐熱性や高温時の引張特性が要求されるタイヤ加硫用ブラダーに用いることが好ましい。また、本開示に係るフッ素ゴム架橋物は、高温時の耐亀裂進展性に優れているため、高い耐熱性や高温時の引張特性が要求されるタイヤ加硫用ブラダーに用いるのに特に適している。
【0180】
(7-2)蛇腹構造成形体
蛇腹構造は、例えば、円筒の外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方を有する構造であり、山部又は谷部の形状は、円弧を帯びる波形状でもよいし、三角波形状でもよい。蛇腹構造成形体として、具体的には、例えば、フレキシブルジョイント、エキスパンションジョイント等のジョイント部材、ブーツ、グロメットなどが挙げられる。
【0181】
ジョイント部材とは、配管及び配管設備に用いられる継ぎ手のことであり、配管系統から発生する振動、騒音の防止、温度変化、圧力変化による伸縮や変位の吸収、寸法変動の吸収や地震、地盤沈下による影響の緩和、防止などの用途に用いられる。
【0182】
フレキシブルジョイント、エキスパンションジョイントは、例えば、造船配管用、ポンプやコンプレッサーなどの機械配管用、化学プラント配管用、電気配管用、土木・水道配管用、自動車用などとして好ましく用いることができる。
【0183】
ブーツは、例えば、等速ジョイントブーツ、ダストカバー、ラックアンドピニオンステアリングブーツ、ピンブーツ、ピストンブーツなどの自動車用ブーツ、農業機械用ブーツ、産業車両用ブーツ、建築機械用ブーツ、油圧機械用ブーツ、空圧機械用ブーツ、集中潤滑機用ブーツ、液体移送用ブーツ、消防用ブーツ、各種液化ガス移送用ブーツなどの各種産業用ブーツなどとして好ましく用いることができる。
【0184】
(7-3)プライマーバルブ
プライマーバルブは、エンジン始動が容易に行えるよう、あらかじめ、気化器(気化器のフロート室)へ燃料を送るためのポンプである。プライマーバルブは、例えば、円筒の外周方向に山部を一つ有するものであり、山部の形状は、円弧を帯びる波形状である。上記プライマーバルブとしては、自動車用、船舶用、航空機用、建設機械用、農業機械用、鉱業機械用などのプライマーバルブが挙げられる。例えば、船舶用プライマーバルブとして特に有用である。
【0185】
(8)フッ素ゴム塗料組成物
本開示のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム塗料組成物にも適用可能である。上記フッ素ゴム塗料組成物から得られる塗膜は、高温時の引張物性及び耐久性(引張疲労特性)に優れるため、高温条件下でも破断しにくい。
【0186】
上記フッ素ゴム塗料組成物は、本開示のフッ素ゴム組成物が液状媒体に溶解又は分散されてなるものであることが好ましい。
【0187】
上記フッ素ゴム塗料組成物は、フッ素ゴム組成物を構成するための各成分を例えば上述した方法によって混練し、得られたフッ素ゴム組成物をケトン類、エステル類、エーテル類等の液状媒体に溶解又は分散させることにより調製することができる。
【0188】
上記フッ素ゴム塗料組成物は、金属、ガラス、樹脂、ゴム等からなる基材上に直接塗布してもよく、エポキシ塗料等によってプライマー層を形成した後、その上に塗布してもよい。更に、上記フッ素ゴム塗料組成物から得られる塗膜の上に他の塗膜(トップコート層)を形成してもよい。
【0189】
上記フッ素ゴム塗料組成物から得られる塗膜は、例えば、シート及びベルト;シーリング部材のシーラント;プレコートメタル;パッキンゴム、O-リング、ダイヤフラム、耐薬品性チューブ、薬栓、燃料ホース、バルブシール、化学プラント用ガスケット、エンジンガスケット;複写機、プリンター、ファクシミリ等のOA機器用のロール(例えば、定着ロール、圧着ロール)及び搬送ベルト等が挙げられる。上記エンジンガスケットとしては、例えば、自動車エンジン等のヘッドガスケット等に利用できる。
【0190】
(9)電線被覆材
上記フッ素ゴム組成物は、耐熱性及び柔軟性(可撓性)が求められる電線の絶縁被覆材や、電線における絶縁層の外周に設けられるシース層を形成するシース材にも好適に用いることができ、高温時の耐屈曲性に優れた被覆を与えることができる。
【0191】
上記絶縁被覆材又はシース材としては、特に耐熱性が要求される自動車や航空機、軍需車輌などの耐熱電線に用いられる絶縁被覆材又はシース材を挙げることができ、なかでも、内燃機関のトランスミッションオイル又はエンジンオイルに接触する環境で使用される被覆電線、又は自動車のオートマチックトランスミッション内又はエンジンのオイルパン内で使用される被覆電線の絶縁被覆材又はシース材として好適である。
【実施例
【0192】
本開示に係るフッ素ゴム組成物およびフッ素ゴム架橋物について、実施例を挙げて以下に説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0193】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0194】
(1)カーボンブラック中の異物数
カーボンブラック濃度が0.1質量%となるようにカーボンブラック/エタノール分散液を調整し、次いで発振周波数35000Hzの超音波で2時間処理した。得られた分散液1mlを採取し、ポリカーボネート製のメンブランフィルター(ADVANTEC社製、ポアサイズ0.8μm、ポア密度3×10個/cm、質量0.9mg/cm、厚さ9μm、直径47mmの略円形)を用いて、図1を参照して上述した濾過面が直径35mmの円形である減圧濾過装置により減圧濾過した。その後、フィルターをPt蒸着し、表面をSEM(株式会社キーエンス製、VE-9800)で観察した。観察倍率500倍で、濾過面中の任意の箇所を9か所撮影し、それぞれの画像について、アスペクト比が1.1以下かつ直径(Heywood径)5μm以上の異物数を測定し、単位面積あたりの異物数をカウントした。異物数の測定には、MOUNTECH Co.,Ltd.製のソフトウェア「Mac-View Version4」を使用した。
【0195】
(2)フッ素ゴム架橋物の硬度
JIS-K6253-3に準じ、測定温度25℃の条件で、デュロメータ タイプAにて測定した(3秒後値)。
【0196】
(3)フッ素ゴム架橋物の破断面における異物数
フッ素ゴム架橋物について引張試験の試験片の破断面を観察することで、破断面における異物数について評価を行った。具体的には、JIS-K6251に準じて、恒温槽付きの引張試験機を使用して、チャック間50mmに設定、引張速度500mm/min、6号ダンベルを用いて、170℃で引張試験を行った。引張試験後の試験片の破断面をPt蒸着し、SEM(株式会社キーエンス製、VE-9800)で観察した。観察倍率500倍で破断面を均等に12か所撮影し、それぞれの画像について、アスペクト比が1.1以下かつ直径(Heywood径)が5μm以上の異物数を測定し、単位面積あたりの異物数をカウントした。異物数の測定には、MOUNTECH Co.,Ltd.製のソフトウェア「Mac-View Version4」を使用した。
【0197】
(4)高温引張疲労試験
以下に説明する手順で、150℃で引張疲労試験を行った。なお、150℃での耐疲労試験結果は、高温時の耐亀裂進展性の指標となる。すなわち、150℃での耐疲労試験において、50%破壊までのサイクル数が多いほど、高温時の耐亀裂進展性が高いことを意味する。恒温槽付きの引張試験機を使用して、温調温度150℃、チャック間50mm、ストロークを50mm、周波数2Hzに設定した。試験片は6号ダンベル、試験片数を8本とした。最大サイクル回数を10000回とし、試験片が残り4本となった際のサイクル数を50%破壊までのサイクル数とした。
【0198】
(5)タイヤ加硫試験
フッ素ゴム組成物を用いて18インチタイヤ加硫用ブラダーを作製した。得られたタイヤ加硫用ブラダーを用いて、タイヤサイズ265/40R18のタイヤの加硫を、ブラダー表面及び生タイヤ内面に離型剤を塗布することなく加硫時間15分で実施した。タイヤ不良率が5%になるまでのタイヤ加硫回数を評価した。比較例5のタイヤ加硫回数を100として下記式にて指数表示した。
【0199】
タイヤ加硫回数指数={(供試ブラダーの加硫回数)/(比較例5のブラダーの加硫回数)}×100
【0200】
(6)動的粘弾性試験
動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)、動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)、差δG’(G’(1%)-G’(100%))の測定方法
アルファテクノロジーズ社製のラバープロセスアナライザ(型式:RPA2000)を用いて、100℃、1Hzで動的歪み1%時の剪断弾性率G’(1%)、および動的歪み100%時の剪断弾性率G’(100%)を測定した。測定により得られたG’(1%)およびG’(100%)を用いて、G’(1%)とG’(100%)との差δG’(G’(1%)-G’(100%))を算出した。
【0201】
実施例及び比較例では、次のフッ素ゴム(A)、カーボンブラック、過酸化物系架橋剤(C)およびその他の配合剤を使用した。
【0202】
(フッ素ゴム(A))
フッ素ゴム(A)として、以下の2種類のフッ素ゴムを調製した。
【0203】
(フッ素ゴムA1)
3Lのステンレススチール製のオートクレーブに純水1.7L、CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHの50質量%水溶液を0.17g、F(CFCOONHの50質量%水溶液6.8gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換した。600rpmで攪拌しながら80℃に昇温した後、初期槽内モノマー組成をVdF/HFP=45/55(モル比)、1.52MPaとなるようにモノマーを圧入した。ついで過硫酸アンモニウム(APS)60mgを5mlの純水に溶解した重合開始剤溶液を窒素ガスで圧入し、反応を開始した。重合の進行に伴い内圧が1.42MPaに降下した時点で追加混合モノマーであるVdF/HFP=77/23(モル比)の追加混合モノマーを内圧が1.52MPaとなるまで圧入した。このとき、ジヨウ素化合物I(CFIの2.40gを圧入した。昇圧、降圧を繰り返しつつ、3時間ごとにAPSの60mg/純水5ml水溶液を窒素ガスで圧入して、重合反応を継続した。混合モノマーを600g追加した時点で、未反応モノマーを放出し、オートクレーブを冷却して、固形分濃度26.2質量%のフッ素ゴムのディスパージョンを2351g得た。重合時間は7.5時間であった。このフッ素ゴムをNMR分析により共重合組成を調べたところ、VdF/HFP=77/23(モル比)であり、ムーニー粘度(ML1+10(100℃))は55であった。このフッ素ゴムをフッ素ゴムA1とする。
【0204】
(フッ素ゴムA2)
3Lのステンレススチール製のオートクレーブに純水1.5L、CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHの50質量%水溶液を1.20g、F(CFCOONHの50%水溶液6.0gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換した。600rpmで攪拌しながら80℃に昇温した後、初期槽内モノマー組成をVdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン=97/3(モル比)、1.47MPaとなるようにモノマーを圧入した。ついでAPS80mgを5mlの純水に溶解した重合開始剤溶液を窒素ガスで圧入し、反応を開始した。重合の進行に伴い内圧が1.42MPaに降下した時点で追加混合モノマーであるVdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン=79/21(モル比)の追加混合モノマーを内圧が1.52MPaとなるまで圧入した。昇圧、降圧を繰り返し、追加混合モノマーを13g仕込んだところで、ジヨウ素化合物I(CFIの2.10gを圧入した。昇圧、降圧を繰り返しつつ、3時間ごとにAPSの30mg/純水5ml水溶液を窒素ガスで圧入して、重合反応を継続した。混合モノマーを530g追加した時点で、未反応モノマーを放出し、オートクレーブを冷却して、固形分濃度26.5質量%のフッ素ゴムのディスパージョンを2081g得た。重合時間は10.5時間であった。このフッ素ゴムをNMR分析により共重合組成を調べたところ、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン=79/21(モル比)、ムーニー粘度(ML1+10(100℃))は42であった。このフッ素ゴムをフッ素ゴムA2とする。
【0205】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとして、以下の8種類のカーボンブラックを用いた。
(B1)シーストG600(東海カーボン株式会社製、NSA:106m/g、DBP吸油量:75ml/100g)
(B2)シーストG300(東海カーボン株式会社製、NSA:84m/g、DBP吸油量:75ml/100g)
(B3)シースト3(東海カーボン株式会社製、NSA:79m/g、DBP吸油量:101ml/100g)
(B4)シースト300(東海カーボン株式会社製、NSA:84m/g、DBP吸油量:75ml/100g)
(B5)シースト600(東海カーボン株式会社製、NSA:106m/g、DBP吸油量:75ml/100g)
(B6)シースト6(東海カーボン株式会社製、NSA:119m/g、DBP吸油量:114ml/100g)
(B7)シースト116(東海カーボン株式会社製、NSA:49m/g、DBP吸油量:133ml/100g)
(B8)デンカブラック(粒状品)(デンカ株式会社製、NSA:69m/g、DBP吸油量:197ml/100g)
これらのカーボンブラックB1~B8について、上述した方法で異物数を測定した。結果を表1に示す。
【0206】
【表1】
【0207】
(過酸化物系架橋剤(C))
過酸化物系架橋剤(C)として、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(PERHEXA25B-40またはPERHEXA25B、日油株式会社製)を用いた。
【0208】
(受酸剤)
受酸剤として、ハイドロタルサイトまたは酸化亜鉛を用いた。
【0209】
(加工助剤)
加工助剤として、ステアリン酸またはステアリルアミンを用いた。
【0210】
(架橋促進剤)
架橋促進剤として、トリアリルイソシアヌレート(TAICまたはTAIC M-60、日本化成株式会社製)を用いた。
【0211】
(実施例1)
加圧型ニーダーを用いて、フッ素ゴム(A)100質量部にカーボンブラック、ステアリン酸、ハイドロタルサイトを表3に示す配合で混練した。この混練物を25℃に温調したオープンロールで100℃以下になるように冷却混練してから排出した。続いて、冷却混練して得られた混練物を25℃で24時間熟成させて、フッ素ゴムプレコンパウンドを得た。
【0212】
次に、8インチオープンロールを用いて、フッ素ゴムプレコンパウンド、過酸化物系架橋剤(C)およびトリアリルイソシアヌレートを表3に示す配合で混練し、フッ素ゴムフルコンパウンドを調製した。
【0213】
フッ素ゴムフルコンパウンドを170℃で30分間プレスして架橋し、さらに電気炉を用いて180℃で4時間オーブン架橋を実施し、厚さ2mmの架橋フッ素ゴムシートを作製した。
【0214】
(実施例2~8および比較例1~8)
実施例1と同様の手順で、表3~4に示す配合で実施例2~8および比較例1~8の架橋フッ素ゴムシートを作製した。
【0215】
作製した実施例および比較例の架橋フッ素ゴムシートについて、上述した手順でフッ素ゴム架橋物の硬度および破断面における異物数の測定、高温引張疲労試験を行った。また、実施例2、5、6および比較例5については、タイヤ加硫用ブラダーを作製し、タイヤ加硫試験を行った。結果を表2に示す。
【0216】
【表2】
【0217】
【表3】
【0218】
【表4】
【0219】
カーボンブラックの配合量が同じである実施例2および5~7ならびに比較例1~4および6~8の結果より、異物数が16個/mm以下であるカーボンブラックを用いた実施例2および5~7のフッ素ゴム架橋物が150℃において高い引張耐疲労特性を示したのに対し、異物数が40個/mm以上であるカーボンブラックを用いた比較例1~4および6~8のフッ素ゴム架橋物は、実施例の約1/2以下の低い引張耐疲労特性を示した。
【0220】
また、実施例2、5および6のフッ素ゴム組成物を用いて作製したタイヤ加硫用ブラダーは、比較例5のフッ素ゴム組成物を用いて作製したタイヤ加硫用ブラダーと比較して約10倍の使用寿命(加硫回数)を有した。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本開示に係るフッ素ゴム組成物およびフッ素ゴム架橋物は、高温時において優れた耐亀裂進展性を有するので、高温で高い機械的物性が要求される用途に利用することができる。
【0222】
本願は、2018年2月23日付けで日本国にて出願された特願2018-31230に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0223】
1 ファンネル
2 フィルター(メンブランフィルター)
3 サポートスクリーン
4 フィルターベース
5 濾液捕集容器
9 減圧濾過装置
10 オープンロール
11 第1のロール
12 第2のロール
13 中間組成物
14 分出しされた組成物
図1
図2