(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】染料受容層用樹脂分散液
(51)【国際特許分類】
B41M 5/52 20060101AFI20230130BHJP
【FI】
B41M5/52 400
(21)【出願番号】P 2020526188
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(86)【国際出願番号】 US2018062214
(87)【国際公開番号】W WO2019104143
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-09-21
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福利 憲廣
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン クリストファー
【審査官】富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-036409(JP,A)
【文献】特開2011-255521(JP,A)
【文献】特開2013-000970(JP,A)
【文献】特開2015-116771(JP,A)
【文献】特開2011-136433(JP,A)
【文献】特開2014-037060(JP,A)
【文献】特開2014-037061(JP,A)
【文献】特開2014-218061(JP,A)
【文献】国際公開第2006/109875(WO,A1)
【文献】特開2013-001081(JP,A)
【文献】特開平05-077563(JP,A)
【文献】米国特許第05001106(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106592329(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/035
B41M 5/26-5/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂粒子及び水性媒体を含有する樹脂分散液であって、
前記ポリエステル樹脂粒子は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むアルコール成分と、炭素数6以上10以下の
飽和直鎖脂肪族ジカルボン酸化合物
、芳香族ジカルボン酸化合物、及び3価以上のカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステル樹脂を含有し、
前記アルコール成分中、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物/前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物のモル比が0/100以上40/60以下であり、
前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物と、前記炭素数6以上10以下の
飽和直鎖脂肪族ジカルボン酸化合物とのモル比が、2.1以上15以下である、熱転写受像シートの染料受容層用樹脂分散液。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度が、30℃以上60℃未満である、請求項1に記載の樹脂分散液。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂の軟化点が、80℃以上120℃以下である、請求項1又は2に記載の樹脂分散液。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂のカルボン酸成分は、前記
飽和直鎖脂肪族ジカルボン酸化合物を、カルボン酸成分中、7モル%以上50モル%以下含有する、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂分散液。
【請求項5】
前記
飽和直鎖脂肪族ジカルボン酸
化合物が、アジピン酸を含む、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂分散液。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂粒子の体積中位粒径(D
50)が、1μm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂分散液。
【請求項7】
前記樹脂分散液の固形分濃度が、20質量%以上50質量%以下である、請求項1~6のいずれかに記載の樹脂分散液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂分散液を含有する、熱転写受像シートの受容層形成用塗工液。
【請求項9】
造膜剤を更に含有する、請求項8に記載の塗工液。
【請求項10】
離型剤を更に含有する、請求項8又は9に記載の塗工液。
【請求項11】
離型剤のHLBが、3以上9以下である、請求項10に記載の塗工液。
【請求項12】
離型剤の動粘度が、1500mm
2/s以上8000mm
2/s以下である、請求項10又11に記載の塗工液。
【請求項13】
基材と、請求項8~12のいずれかに記載の塗工液を用いて形成された受容層とを有する熱転写受像シート。
【請求項14】
染料を含有する感熱転写記録媒体を請求項13に記載の熱転写受像シートに接触させること、
染料を熱転写受像シートへ熱転写すること、
を含む印刷方法。
【請求項15】
ポリエステル樹脂粒子及び水性媒体を含有する樹脂分散液を含有する塗工液を用いて受容層を基材上に形成すること、
を含み、
前記ポリエステル樹脂粒子は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むアルコール成分と、炭素数6以上10以下の
飽和直鎖脂肪族ジカルボン酸化合物
、芳香族ジカルボン酸化合物、及び3価以上のカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステル樹脂を含有し、
前記アルコール成分中、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物/前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物のモル比が0/100以上40/60以下であり、
前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物と、前記炭素数6以上10以下の
飽和直鎖脂肪族ジカルボン酸化合物とのモル比が、2.1以上15以下である、熱転写受像シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱転写記録装置による印刷のための熱転写受像シートの受容層を形成するため等に用いられる、熱転写受像シートの染料受容層用樹脂分散液、熱転写受像シート、印刷方法、及び熱転写受像シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華型熱転写プリンター等の熱転写記録装置は、写真印刷に用いられるプリンターとして広く知られている。熱転写記録装置においては、インクリボン等の感熱転写記録媒体に塗布された昇華性染料を、加熱した印字ヘッドによって熱転写受像シートに転写して印刷される。熱転写記録装置による印刷に用いられる熱転写受像シートは、その表面に染料の受容層が形成される。
【0003】
特許文献1には、(1)LogP値が3.0~5.0であるポリエステルを有機溶剤に溶解しポリエステルの溶液を得る工程、(2)工程(1)で得られたポリエステルの溶液に、式:10≦A×B≦18(式中、Aはポリエステル溶液中のポリエステルの中和当量、Bはポリエステルの酸価(mgKOH/g)を示す。)を満たすように中和剤を添加して、ポリエステルを中和する工程、及び(3)工程(2)で中和されたポリエステルの溶液に水を添加してポリエステルを乳化させる工程、を有する、ポリエステル分散液の製造方法が記載されている。当該製造方法によれば、小粒径かつシャープな粒度分布を有し、離型性に優れた熱転写受像シートを得ることができるポリエステル分散液を安定して製造しうると記載されている。
【0004】
特許文献2には、水性媒体中にポリエステルを分散した樹脂分散液、及び離型剤を含有する染料受容層用樹脂分散液であって、該ポリエステルが、(a)式(1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上含有し、かつ(b)上記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物のアルキレンオキサイド付加物中における、エチレンオキサイド付加物とプロピレンオキサイド付加物の含有比率(エチレンオキサイド付加物/プロピレンオキサイド付加物)がモル比で50/50~0/100であるアルコール成分を用いて得られる、染料受容層用樹脂分散液が記載されている。当該樹脂分散液によれば、熱転写時の染料の染着性に優れるとともに、転写シートとの離型性にも優れ、かつ優れた転写画像性能が得られる熱転写受像シート等を形成できると記載されている。
【0005】
特許文献3には、酸価が300~2,500eq/106g、数平均分子量が2,000~50,000、であるポリエステル樹脂において、上記酸価のうち、樹脂骨格に組み込まれていない多価カルボン酸類由来の酸価が30%~80%であることを特徴とするポリエステル樹脂が記載されている。当該ポリエステル樹脂によれば、乳化剤、有機溶剤を使用することなく水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有し、なおかつ水分散性、保存安定性の高い水分散体樹脂組成物が得られると記載されている。
【0006】
特許文献1:特開2010-006976号公報
特許文献2:特開2009-73172号公報
特許文献3:特開2014-139264号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の実施形態は、以下の〔1〕~〔5〕に関する。
〔1〕ポリエステル樹脂粒子及び水性媒体を含有する樹脂分散液であって、
前記ポリエステル樹脂粒子は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むアルコール成分と、炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステル樹脂を含有し、
前記アルコール成分中、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物/前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物のモル比が0/100以上40/60以下であり、
前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物と、前記炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物とのモル比が、2.1以上15以下である、熱転写受像シートの染料受容層用樹脂分散液。
〔2〕〔1〕の樹脂分散液を含有する、熱転写受像シートの受容層形成用塗工液。
〔3〕基材と、〔2〕の塗工液を用いて形成された受容層とを有する熱転写受像シート。
〔4〕染料を含有する感熱転写記録媒体を〔3〕の熱転写受像シートに接触させること、染料を熱転写受像シートへ熱転写すること、を含む印刷方法。
〔5〕ポリエステル樹脂粒子及び水性媒体を含有する樹脂分散液を含有する塗工液を用いて受容層を基材上に形成すること、
を含み、
前記ポリエステル樹脂粒子は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むアルコール成分と、炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステル樹脂を含有し、
前記アルコール成分中、前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物/前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物のモル比が0/100以上40/60以下であり、
前記2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物と、前記炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物とのモル比が、2.1以上15以下である、熱転写受像シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特許文献2に記載の樹脂分散液は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物を多く含むことで、離型性を向上させる。しかしながら、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物を多く含む場合、印刷時の感熱転写記録媒体からの離型性が悪化するとされている。
更に、熱転写記録装置による印刷に用いられる熱転写受像シートは、その表面が染料により着色する染着性を有することが求められる。しかしながら、染着性を高めることで、分散液の保存安定性が低下するという問題を有していた。
本発明の一実施形態は、染着性、離型性及び保存安定性に優れる、樹脂分散液、熱転写受像シート、印刷方法及び熱転写受像シートの製造方法に関する。
本発明の一実施形態においては、ポリエステル樹脂のアルコール成分としての2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物と、カルボン酸成分としての脂肪族ジカルボン酸化合物とを組み合わせることにより、優れた膜強度が得られ、感熱転写記録媒体と受容層の離型性が向上するとともに、分散液中での長期安定性も向上した。
【0009】
つまり、本発明の実施形態は、ポリエステル樹脂粒子(以下、「ポリエステル樹脂粒子X」ともいう)及び水性媒体を含有する熱転写受像シートの樹脂分散液(以下、単に「樹脂分散液」ともいう)である。
ポリエステル樹脂粒子Xは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキサイド付加物(以下、単に「BPA-PO」ともいう)及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物(以下、単に「BPA-EO」ともいう)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むアルコール成分と、炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂A」ともいう)を含有する。
そして、ポリエステル樹脂Aのアルコール成分中、BPA-PO/BPA-EOのモル比が、0/100以上40/60以下である。当該BPA-PO/BPA-EOのモル比が規定範囲の場合、樹脂が適度なガラス転移温度及び親水性を示し、染着性、離型性、及び保存安定性の両立が可能である。
ポリエステル樹脂Aにおいて、BPA-EOと、炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物とのモル比が、2.1以上15以下である。BPA-EOと、所定の脂肪族ジカルボン酸化合物とのモル比が規定範囲の場合、樹脂が適度なガラス転移温度及び親水性を示し、染着性、離型性、及び保存安定性の両立が可能である。
以上の構成により、染着性、離型性及び保存安定性に優れる樹脂分散液が得られる。当該樹脂分散液を用いることで、染着性、及び離型性に優れる、熱転写受像シート、印刷方法及び熱転写受像シートの製造方法を提供することができる。
【0010】
本発明の実施形態において、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物と、カルボン酸成分として特定の脂肪族ジカルボン酸化合物とを組み合わせることにより、特許文献1又は2に記載されている樹脂と比較し、ガラス転移温度を低くすることができるため、染料が樹脂中に分散しやすくなり、染着性が向上すると考えられる。
一方で、単純にガラス転移温度を低くしただけでは、膜強度及び、感熱転写記録媒体と受容層の離型性が低下するというトレードオフに陥る。特許文献3に記載されている樹脂と比較して、本発明の実施形態に係る樹脂において、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物と、カルボン酸成分として特定の脂肪族ジカルボン酸化合物とを組み合わせることにより、樹脂の親水性が向上するため、疎水性である離型剤が受容層表面に局在化しやすくなり、その結果、ガラス転移温度が低くても離型性を確保することが可能となったと考えられる。更に、本発明の実施形態に係る樹脂のモノマーの組合せにより、樹脂中に一部の微結晶を形成させることができ、その微結晶がフィラー効果を持ち、それも膜強度を確保する因子として影響していると推測される。
樹脂分散液の保存安定性に関しては、樹脂のガラス転移温度が低くなると、可塑化しやすくなることで一般的に樹脂分散液の保存安定性が低下するが、本発明の実施形態においては、ガラス転移温度が低くても、樹脂の親水性を向上させることで、分散液中でも保存安定性の確保が可能となったと考えられる。
【0011】
本明細書における各種用語の定義等を以下に示す。
樹脂が結晶性であるか非晶質であるかについては、結晶性指数により判定される。結晶性指数は、後述する実施例に記載の測定方法における、樹脂の軟化点と吸熱の最高ピーク温度との比(軟化点(℃)/吸熱の最高ピーク温度(℃))で定義される。結晶性樹脂とは、結晶性指数が0.6以上1.4未満、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、好ましくは1.2以下の樹脂である。非晶質樹脂とは、結晶性指数が1.4以上、又は0.6未満、好ましくは1.5以上、又は0.5以下、より好ましくは1.6以上、又は0.5以下の樹脂である。結晶性指数は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性指数は、実施例に記載の樹脂の軟化点と吸熱の最高ピーク温度の測定方法により得られた値から算出することができる。
「カルボン酸化合物」とは、そのカルボン酸のみならず、反応中に分解して酸を生成する無水物、及びカルボン酸のアルキルエステル(例えば、アルキル基の炭素数1以上3以下)も含む概念である。
カルボン酸化合物がカルボン酸のアルキルエステルである場合、カルボン酸化合物の炭素数には、エステルのアルコール残基であるアルキル基の炭素数を算入しない。
【0012】
[樹脂分散液]
本発明の実施形態の染料受容層用樹脂分散液は、優れた染着性、離型性及び保存安定性を得る観点から、ポリエステル樹脂粒子X及び水性媒体を含有する。
【0013】
〔水性媒体〕
水性媒体としては、水を主成分とするものが好ましい。
水性媒体中の水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、より好ましくは100質量%である。水としては、脱イオン水又は蒸留水が好ましい。
水性媒体に含まれうる水以外の成分としては、例えば、炭素数1以上5以下のアルキルアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3以上5以下のジアルキルケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶剤が挙げられる。
【0014】
〔ポリエステル樹脂粒子X〕
ポリエステル樹脂粒子Xは、優れた染着性、離型性及び保存安定性を得る観点から、ポリエステル樹脂Aを含有する。
ポリエステル樹脂粒子Xは、その他、他のポリエステル樹脂、離型剤等を含有していてもよい。
ポリエステル樹脂Aの含有量は、ポリエステル樹脂粒子X中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、そして、100質量%以下、好ましくは100質量%である。
【0015】
<ポリエステル樹脂A>
ポリエステル樹脂Aは、優れた染着性、離型性及び保存安定性を得る観点から、BPA-PO及びBPA-EOからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むアルコール成分と、炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物である。
【0016】
BPA-POは、例えば、式(I):
【化1】
〔式中、OR
1及びR
1Oはプロピレンオキシ基であり、x及びyはプロピレンオキサイドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上であり、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下であり、好ましくは8以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。〕で表される化合物である。
【0017】
BPA-EOは、例えば、式(II):
【化2】
〔式中、OR
2及びR
2Oはエチレンオキシ基であり、a及びbはエチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、aとbの和の値は、1以上であり、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下であり、好ましくは8以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。〕で表される化合物である。
【0018】
アルコール成分中、BPA-PO/BPA-EOのモル比は、優れた染着性及び保存安定性、特により優れた保存安定性を得る観点から、0/100以上40/60以下であり、好ましくは30/70以下、より好ましくは20/80以下、更に好ましくは10/90以下である。なお、当該BPA-PO/BPA-EOのモル比は、1/99以上であってもよく、好ましくは1.5/98.5以上、より好ましくは2/98以上であってもよい。
【0019】
BPA-PO及びBPA-EOの合計含有量は、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下、好ましくは100モル%である。なお、当該BPA-PO及びBPA-EOの合計含有量は、99モル%以下、好ましくは98モル%以下、より好ましくは97モル%以下であってもよい。
【0020】
アルコール成分としては、その他のアルコール成分が含まれていてもよい。
他のアルコール成分としては、脂肪族ポリオールが挙げられる。脂肪族ポリオールとしては、例えば、炭素数2以上20以下の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上の脂肪族アルコールが挙げられる。
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールが挙げられる。
脂肪族ポリオール、中でも、グリセリンの含有量は、アルコール成分中、好ましくは3モル%以下、より好ましくは2モル%以下、更に好ましくは1モル%以下であってもよい。
【0021】
カルボン酸成分として含まれる、炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物は、好ましくは飽和脂肪族ジカルボン酸化合物であり、より好ましくは飽和直鎖脂肪族ジカルボン酸化合物である。
炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いてもよい。これらの中でも、染着性、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、アジピン酸又はセバシン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。
炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、染着性及び離型性をより向上させる観点から、カルボン酸成分中、好ましくは5モル%以上、より好ましくは7モル%以上、更に好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、更に好ましくは25モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは47モル%以下、更に好ましくは40モル%以下である。
【0022】
BPA-EOと、炭素数6以上10以下の脂肪族ジカルボン酸化合物とのモル比は、優れた染着性、離型性及び保存安定性、特により優れた離型性及び保存安定性を得る観点から、15以下であり、好ましくは12以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは7以下、更に好ましくは5以下であり、そして、2.1以上、好ましくは2.4以上、より好ましくは2.7以上である。
【0023】
カルボン酸成分は、染着性、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは芳香族ジカルボン酸化合物を含む。
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いてもよい。これらの中では、染着性、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、テレフタル酸又はイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、保存安定性をより向上させる観点から、カルボン酸成分中、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上、更に好ましくは40モル%以上であり、そして、染着性及び離型性をより向上させる観点から、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下、更に好ましくは75モル%以下、更に好ましくは70モル%以下である。
【0024】
また、カルボン酸成分は、染着性、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは3価以上のカルボン酸化合物を含有する。
3価以上のカルボン酸化合物としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸又はこれらの無水物が挙げられる。これらの中では、トリメリット酸又はその酸無水物が好ましい。
【0025】
3価以上のカルボン酸の含有量は、染着性及び保存安定性をより向上させる観点から、カルボン酸成分中、好ましくは5モル%以上、より好ましくは8モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、そして、離型性をより向上させる観点から、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。
【0026】
カルボン酸成分としてその他のカルボン酸化合物が含まれていてもよい。
その他のカルボン酸化合物としては、炭素数5以下の脂肪族ジカルボン酸化合物、炭素数11以上の脂肪族ジカルボン酸化合物が挙げられる。
炭素数5以下の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸が挙げられる。
炭素数11以上の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、ドデカン二酸、ドデセニルコハク酸、オクチルコハク酸等の炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いてもよい。
【0027】
カルボン酸成分のカルボキシ基とアルコール成分のヒドロキシ基との当量比(COOH基/OH基)は、末端基を調整する観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下である。
【0028】
アルコール成分とカルボン酸成分の重縮合は、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒(以下、単に「触媒」ともいう)、重合禁止剤等の存在下、約180℃以上250℃以下の温度で行うことができる。触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。触媒とともに用い得るエステル化助触媒(以下、単に「助触媒」ともいう)としては、没食子酸等が挙げられる。触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.6質量部以下である。助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0029】
<ポリエステル樹脂Aの物性>
ポリエステル樹脂Aの軟化点は、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、そして、染着性をより向上させる観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは105℃以下である。
【0030】
ポリエステル樹脂Aのガラス転移温度は、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、そして、染着性をより向上させる観点から、好ましくは60℃未満であり、より好ましくは55℃以下、更に好ましくは50℃以下である。
【0031】
ポリエステル樹脂Aの酸価は、保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下であり、そして、好ましくは4mgKOH/g以上、より好ましくは8mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上である。
【0032】
ポリエステル樹脂Aの数平均分子量は、染着性をより向上させる観点から、好ましくは6,000以下、更に好ましくは5,500以下、更に好ましくは5,000以下であり、そして、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは3,000以上、更に好ましくは4,000以上、更に好ましくは4,300以上である。
【0033】
ポリエステル樹脂Aの重量平均分子量は、優れた染着性を得る観点から、65,000以下であり、好ましくは60,000以下、更に好ましくは55,000以下、更に好ましくは50,000以下であり、そして、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000以上、更に好ましくは30,000以上、更に好ましくは40,000以上である。
【0034】
軟化点、ガラス転移温度、酸価、数平均分子量、重量平均分子量の測定方法は、実施例に記載の方法による。2種以上の樹脂を含有する場合は、軟化点、ガラス転移温度、酸価、数平均分子量、重量平均分子量は、それぞれの加重平均値が上記範囲にあることが好ましい。
【0035】
樹脂分散液中のポリエステル樹脂粒子Xの体積中位粒径(D50)は、染着性、離型性及び保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは1μm以下、より好ましくは800nm以下、更に好ましくは400nm以下、更に好ましくは200nm以下であり、そして、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上である。
体積中位粒径(D50)は、後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0036】
ポリエステル樹脂粒子Xの含有量は、樹脂分散液に対して、染着性、及び離型性をより向上させる観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上であり、そして、保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0037】
その他、消泡剤、抗菌剤等の添加剤を加えてもよい。
消泡剤としては、例えば、消泡剤エマルション「TEGO Foamex 825」(Evonik社製)が挙げられる。
樹脂分散液中、消泡剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.003質量部以上、より好ましくは0.007質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下である。
【0038】
抗菌剤としては、例えば、ハロゲン化ベンザルコニウム塩が挙げられる。
ハロゲン化ベンザルコニウム塩としては、染着性及び分散液の保存安定性を向上させる観点から、式(1):
【化3】
〔式中、Rは炭素数8以上18以下のアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。〕で表される化合物が好ましい。
Rのアルキル基の炭素数は、好ましくは8以上14以下であり、より好ましくは8である。
Xのハロゲンは、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
染着性を向上できる理由は必ずしも定かではないが、ハロゲン化ベンザルコニウム塩の添加により、分散液中での粒子の凝集が抑えられ、その結果、染料が適正に拡散する為であると考えられる。
抗菌剤の市販品としては、例えば、「Proxel GXL」、「PROXEL XL2」、「PROXEL LV」、「PROXEL CRL2」(いずれもLonza Inc製)が挙げられる。
樹脂分散液中、抗菌剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、分散液の保存安定性及び染着性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.6質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0039】
樹脂分散液の固形分濃度は、染着性、及び離型性をより向上させる観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上であり、そして、保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
固形分濃度は、後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0040】
樹脂分散液のpHは、染着性、及び離型性をより向上させる観点から、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、より好ましくは6以上であり、そして、保存安定性をより向上させる観点から、好ましくは9以下、より好ましくは8以下である。
上述の樹脂分散液は、熱転写受像シートの染料受容層用として使用される。
【0041】
[熱転写受像シートの受容層形成用塗工液]
上述の樹脂分散液は、熱転写受像シートの受容層形成用塗工液(以下、単に「塗工液」ともいう)として使用することができる。
塗工液は、例えば、上述の樹脂分散液を含有する。
塗工液は、好ましくは離型剤を更に含有する。
塗工液は、造膜剤を更に含有していてもよい。
【0042】
〔離型剤〕
樹脂分散液は、熱転写記録装置による印刷のための熱転写受像シートの受容層の形成に用いられるため、好ましくは離型剤を更に含有する。
離型剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、ジメチルシロキサン、アルコール変性シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、コロイダルシリカ等の無機微粒子が挙げられる。
ポリエーテル変性シリコーンとしては、例えば、ポリジアルキルシロキサン主鎖と、ポリエーテル鎖を有するポリエーテル変性シリコーンが挙げられる。
当該ポリエーテル変性シリコーンは、ポリジアルキルシロキサン主鎖に対してグラフト化したポリエーテル鎖を有していてもよく、ポリジアルキルシロキサン主鎖に対し、両末端にポリエーテル鎖を有していてもよい。これらの中でも、ポリジアルキルシロキサン主鎖に対してグラフト化したポリエーテル鎖を有しているポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
ポリエーテル鎖としては、例えば、ポリエチレンオキサイド鎖、ポリプロピレンオキサイド鎖、ポリエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド鎖が挙げられる。これらの中でもポリエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド鎖が好ましい。
以上の中でも、ポリジアルキルシロキサン主鎖に対してグラフト化したポリエーテル鎖を有するポリエーテル変性シリコーンが好ましく、ポリジアルキルシロキサン主鎖に対してグラフト化したポリエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド鎖を有するポリエーテル変性シリコーンがより好ましい。
【0043】
ポリエーテル変性シリコーンの市販品としては、例えば、「KF-6012」、「KF-615A」、「KF-6011」、「X-22-4515」(以上、信越化学工業株式会社製)、「SF-8410」、「L-7002」、「FZ2164」(以上、東レダウコーニング株式会社製)、「Silwet L-7210」、「Silwet L-7230」、「Silwet L-7600」、「Silwet L-7605」(以上、Momentive Performance Materials社製)が挙げられる。
【0044】
離型剤のHLB、或いは、離型剤の粘度により、樹脂分散液中の離型剤の浸透・拡散度合いが影響される。
離型剤のHLBは、離型性を向上させる観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、更に好ましくは6以上であり、そして、好ましくは14以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは11以下、更に好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下、更に好ましくは9以下、更に好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。
HLB値は、下記の方法により測定した曇数Aから下記の式(A)より算出される値である(参考:界面活性剤便覧324頁,西一郎ら編集,産業図書株式会社,昭和35年発行)。
HLB=0.89 × A + 1.11 式(A)
〔式中、Aは、下記の方法により測定した曇数である〕
(曇数Aの測定方法)
試料(離型剤)0.5gをエタノール5mLに溶解し、25℃に保ちながらかき混ぜながら2質量%フェノール水溶液で滴定し、液が混濁を呈する時を終点とする。この滴定に要した2質量%のフェノール水溶液の滴定量(mL)を曇数Aとする。
【0045】
離型剤の動粘度は、離型性を向上させる観点から、好ましくは500mm2/s以上、より好ましくは800mm2/s以上、更に好ましくは1100mm2/s以上、更に好ましくは1300mm2/s以上、更に好ましくは1500mm2/s以上、更に好ましくは1700mm2/s以上、であり、そして、好ましくは8000mm2/s以下、より好ましくは6000mm2/s以下、更に好ましくは4500mm2/s以下である。
なお、当該動粘度は、JIS Z8803:2011によるウベローデ粘度計により25℃で測定した値である。
【0046】
樹脂分散液中、離型剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは4質量部以上であり、そして、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下である。
【0047】
〔造膜剤〕
樹脂分散液は、熱転写記録装置による印刷のための熱転写受像シートの受容層の形成に用いられるため、好ましくは造膜剤を更に含有する。
造膜剤としては、例えば、ブチルカルビトールアセテート、ジエチルカルビトール、ゼラチンが挙げられる。これらの中でも、ブチルカルビトールアセテートが好ましい。
樹脂分散液中、造膜剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上であり、そして、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは13質量部以下である。
【0048】
[熱転写受像シートの製造方法]
本発明の実施形態に係る熱転写受像シートの製造方法は、例えば、
ポリエステル樹脂Aを水性媒体に分散させて樹脂分散液を調製すること(以下、「工程1」ともいう)、
樹脂分散液を含有する塗工液を用いて受容層を基材上に形成すること(以下、「工程2」ともいう)、
を含む。
【0049】
〔工程1〕
樹脂分散液は、ポリエステル樹脂Aを水性媒体中に分散させて得る。
分散は、公知の方法を用いて行うことができるが、転相乳化法により分散することが好ましい。転相乳化法としては、例えば、ポリエステル樹脂Aの有機溶媒溶液又は溶融したポリエステル樹脂Aに水性媒体を添加して転相乳化する方法が挙げられる。
【0050】
転相乳化に用いる有機溶媒としては、ポリエステル樹脂Aを溶解すれば特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトンが挙げられる。
有機溶媒溶液には、塩基性物質等の中和剤を添加することが好ましい。塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン等の含窒素塩基性物質が挙げられる。これらの中でもトリエチルアミンが好ましい。
ポリエステル樹脂Aの酸基に対する中和剤の使用当量(モル%)は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、更に好ましくは100モル%以下である。
なお、中和剤の使用当量(モル%)は、下記式によって求めることができる。なお、中和剤の使用当量は、100モル%以下の場合、中和度と同義である。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリエステル樹脂Aの酸価(mgKOH/g)×ポリエステル樹脂Aの質量(g)}/(56×1000)]〕×100
【0051】
有機溶媒溶液又は溶融した樹脂を撹拌しながら、水性媒体を徐々に添加して転相させる。
転相乳化の後に、必要に応じて、得られた分散液から蒸留等により有機溶媒を除去してもよい。
【0052】
得られた樹脂分散液に、造膜剤、離型剤、抗菌剤、消泡剤等の添加剤を添加してもよい。
【0053】
〔工程2〕
<基材>
工程2で用いる基材としては、例えば、紙、樹脂シート等が挙げられる。
紙としては、例えば、合成紙(ポリオレフィン系紙、ポリスチレン系紙等)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙、セルロース繊維紙が挙げられる
樹脂シートに用いられる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリカーボネートが挙げられる。樹脂シートは、例えば、白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明シート、又は発泡させた発泡樹脂シートであってもよい。
【0054】
基材の厚みは、例えば、10μm以上2mm以下,又は10μm以上300μm以下であってもよい。
また、基材の表面には、受容層や断熱層との密着力を向上させる観点から、プライマー処理やコロナ放電処理を施すことが好ましい。
【0055】
基材には、クッション性及び断熱性の観点から、表面に断熱層を有していてもよい。 断熱層は、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子及び中空粒子を含有することが好ましい。
中空粒子は、好ましくは、空孔を有するポリマー粒子である。当該ポリマーとしては、例えば、スチレン-アクリル共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体が挙げられる。
中空粒子の市販として、例えば、「Nipol MH8101」(日本ゼオン株式会社製)、「HP-1055」(ロームアンドハースジャパン株式会社製)、「SX8782(D)」(JSR株式会社製)が挙げられる。
中空粒子と水溶性高分子との質量比〔中空粒子/水溶性高分子〕は、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上、更に好ましくは50/50以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは75/25以下である。
断熱層の厚みは、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0056】
受容層は、樹脂分散液を、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等により基材上に塗工することで形成できる。
乾燥後の受容層1m2当たりの固形分量としては、好ましくは1g/m2以上、より好ましくは2 g/m2以上であり、そして、好ましくは10g/m2以下、より好ましくは5g/m2以下である。前述の塗工は、当該乾燥後の固形分量に合わせた量とすることが好ましい。
【0057】
形成した塗工膜を40℃以上110℃以下で乾燥してもよい。
塗工膜を乾燥させる温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上であり、そして、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
【0058】
[熱転写受像シート]
本発明の実施形態に係る熱転写受像シートは、基材と、樹脂分散液を用いて形成された受容層とを有する。
熱転写受像シートは、昇華型熱転写プリンター等の熱転写記録装置による印刷に用いられ、優れた染着性、及び離型性を有する。より具体的には、例えば、以下の方法により印刷される。
【0059】
[印刷方法]
本実施形態に係る印刷方法は、
染料を含有する感熱転写記録媒体を熱転写受像シートに接触させること、
染料を熱転写受像シートへ熱転写すること、
を含む。
【0060】
染料を含有する感熱転写記録媒体としては、例えば、インクリボンが挙げられる。
感熱転写記録媒体は、例えば、紙、ポリエステルフイルム等の基材と、昇華性染料を含む染料層と、染料を受像して得られた画像上に転写される保護層とをこの順で有する。
染料としては、昇華性染料が好ましい。昇華性染料としては、例えば、イエロー染料では、ピリドンアゾ系染料、ジシアノスチリル系染料、キノフタロン系染料、メロシアニン系染料;マゼンタ染料では、ベンゼンアゾ系染料、ピラゾロンアゾメチン系染料、イソチアゾール系染料、ピラゾロトリアゾール系染料;シアン染料では、アントラキノン系染料、シアノメチレン系染料、インドフェノール系染料、インドナフトール系染料が挙げられる。
なお、保護層は、染料を転写した後の画像の色褪せ、画像に水分や指紋といった汚れが付着することを防ぐ目的で形成される。
【0061】
熱転写には、公知の方法が用いられ、例えば、サーマルヘッドにより、熱転写受像シートに接触した感熱転写記録媒体を加熱して熱転写を行う。
本実施形態に係る印刷に使用する熱転写記録装置としては、公知のものを用いることができ、市販としては、例えば、昇華型熱転写プリンター「MEGAPIXEL III」(ALTECH ADS社製)、「DS40」(DNPフォトルシオ社製)が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0063】
[測定]
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070:1992の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K0070:1992の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0064】
〔樹脂の軟化点、吸熱の最高ピーク温度、ガラス転移温度〕
(1)軟化点
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
(2)吸熱の最高ピークの温度
示差走査熱量計「DSC 2 STAR」(Mettler-Toledo社製)を用いて、室温(20℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却した試料をそのまま1分間保持させ、その後、昇温速度10℃/minで180℃まで昇温しながら測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
(3)ガラス転移温度
示差走査熱量計「DSC 2 STAR」(Mettler-Toledo社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0065】
〔樹脂の数平均分子量、重量平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、数平均分子量及び重量平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、試料をテトラヒドロフランに、25℃で溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ0.45μmのフッ素樹脂フィルター「Syringe Filter」(American Chromatography Supplies社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(「A-500」(5.0×102)、「A-1000」(1.01×103)、「A-2500」(2.63×103)、「A-5000」(5.97×103)、「F-1」(1.02×104)、「F-2」(1.81×104)、「F-4」(3.97×104)、「F-10」(9.64×104)、「F-20」(1.90×105)、「F-40」(4.27×105)、「F-80」(7.06×105)、「F-128」(1.09×106)(以上、東ソー株式会社製))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:「HLC-8320 GPC EcoSEC」(東ソー株式会社製)
分析カラム:「TSKgel Guard Super HZ-L」+「TSKgel Super HZM-H」+「TSKgel Super HZ3000」(以上、TOSOH Biosciences社製)
【0066】
〔樹脂分散液の固形分濃度〕
測定装置「Halogen Moisture Analyzer HR73」(METTLER TOLEDO社製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃(監視時間2.5min、変動幅0.05%)にて、水分(質量%)を測定する。固形分濃度は下記の式に従って算出する。
固形分濃度(質量%)=100 - 水分(質量%)
【0067】
〔樹脂分散液のpH〕
pHメーター「HM-20p」(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、水性分散液の温度を25℃として測定する。
【0068】
〔樹脂分散液中のポリエステル樹脂粒子X等の体積中位粒径(D50),体積平均粒径(DV)〕
(1)測定装置:レーザー回折型粒径測定機「Nanotrack Ultra」(Microtrack社製)
(2)測定条件:測定用セルに蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で体積中位粒径(D50) 及び体積平均粒径(DV)を測定する。
【0069】
[樹脂の製造]
製造例A1~A9, A51~A55〔樹脂A-1~A-9, A-51~A-55〕
表1に示す脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸無水物以外の原料、並びに触媒、助触媒を、窒素導入管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、235℃で6時間重縮合反応させ、反応率が80%以上に到達したのを確認し、235℃8.0kPaで1時間反応させた後、さらに脂肪族ジカルボン酸及びトリメリット酸無水物を添加し、210℃で反応させ、得られた樹脂が表に示す軟化点を有するまで10kPaにて反応を行って、非晶質ポリエステル樹脂A-1~A-9, A-51~A-55を得た。なお製造例において、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値を言う。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
[樹脂分散液の製造]
実施例X1~X9,比較例X1~X5
(樹脂分散液X-1~X-9, X-51~X-55の製造)
窒素導入管、還流冷却管、攪拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコにポリエステル樹脂及びメチルエチルケトンを入れ、40℃で溶解させた。
次いで、トリエチルアミンを添加して、樹脂の酸価に対して80モル%の中和度とし、攪拌下で脱イオン水を加えた後、消泡剤エマルション「TEGO Foamex 825」(Evonik社製、有効分26質量%)を0.2g加え、減圧下50℃でメチルエチルケトンを留去し、最後に抗菌剤「Proxel GXL」(Lonza Inc製)を1.8g加え、樹脂分散液X-1~X-9, X-51~X-55を得た。得られた樹脂分散液中の樹脂粒子の体積中位粒径D50、固形分濃度、及びpHを表2に示す。
【0074】
【0075】
実施例Y1~Y10,比較例Y1~Y5
(塗工液Y-1~Y-10, Y-51~Y-55の製造及び熱転写受像シートの製造)
表3に記載の各樹脂分散液及び添加剤を混合して、塗工液Y-1~Y-10, Y-51~Y-55を得た。
キャストコート紙(厚さ210μm)に得られた塗工液をワイヤーバーにより乾燥後に5.0g/m2になるように、25℃で塗布した後60℃で乾燥させて受容層を有する熱転写受像シートを得た。以下の方法により評価を行った。
【0076】
[評価]
〔染着性(画像濃度)〕
作製した熱転写受像シートに、市販の昇華型熱転写プリンター「MEGAPIXEL III」(ALTECH ADS社製)を用いて黒(K)の階調パターンを印画し、高画像濃度印画(18階調目(L=0:最高濃度))での転写色濃度を、グレタグ濃度計(GRETAG-MACBETH社製)で測定し、染着性を評価した。値が大きいほど、画像濃度が高く、染着性に優れる。
【0077】
〔離型性〕
黒ベタ画像(18階調目での全面印画)、階調パターン印画時のインクリボンと熱転写受像シートの剥離音から、下記の基準に基づき、離型性(熱融着性)を評価した。
5:黒ベタ画像印画時に剥離音とは異なるノイズはなく、剥離できる。
4:黒ベタ画像印画時に剥離音とは異なるノイズはあるが、階調パターン印画時には剥離音とは異なるノイズがない。
3:階調パターン印画時に剥離音とは異なるノイズがある。
2:階調パターン印画時に剥離音とは異なるノイズがし、画像の一部で欠損(白抜け)が確認された。
1:熱融着しており、剥離が困難もしくは剥離ができない。
【0078】
〔保存安定性〕
樹脂分散液を密閉容器内で、70℃恒温室下で保存試験を行った。14日後に取り出し、体積平均粒径(Dv)を測定することで、初期からの粒径変化を観察し、下記式により平均粒径変化率を算出(小数点以下は切り捨て)し、以下の評価基準にて保存安定性を評価した。
平均粒径変化率(%)=〔[(保存後の体積平均粒径 (Dv))-(保存前の体積平均粒径 (Dv))]/(保存前の体積平均粒径 (Dv))〕×100
A:70℃、14日後の平均粒径変化率の絶対値が5%未満である。
B:70℃、14日後の平均粒径変化率の絶対値が5%以上15%未満である。
C:70℃、14日後の平均粒径変化率の絶対値が15%以上30%未満である。
D:70℃、14日後の平均粒径変化率の絶対値が30%以上、又は塗工液が流動性を失い、平均粒径を測定できるレベルではない。
【0079】
【0080】
実施例及び比較例の対比から、本発明の実施形態に係る分散液によれば、染着性を維持しつつ、離型性及び保存安定性が優れることがわかる。