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特許7218403抗ウイルス活性効能を有するペプチド及びこれを含む組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】抗ウイルス活性効能を有するペプチド及びこれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/45 20060101AFI20230130BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230130BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20230130BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230130BHJP
【FI】
A61K38/45 ZNA
A61P31/14
A61P31/20
C07K14/47
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021124055
(22)【出願日】2021-07-29
(62)【分割の表示】P 2017567630の分割
【原出願日】2016-07-04
(65)【公開番号】P2021175746
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2015-0094840
(32)【優先日】2015-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2015-0115671
(32)【優先日】2015-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514286826
【氏名又は名称】ジェムバックス アンド カエル カンパニー,リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】514286848
【氏名又は名称】キム サン チェ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】キム サン チェ
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0037698(KR,A)
【文献】国際公開第2013/167574(WO,A1)
【文献】特表2011-515498(JP,A)
【文献】特表2013-519385(JP,A)
【文献】特表2002-520293(JP,A)
【文献】特表2012-500279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド及び該アミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するペプチドからなる群より選ばれる一つ以上を有効成分として含む、ウイルス性疾病を予防又は治療するための抗ウイルス用組成物であって、HSP90によって媒介される、ウイルスの複製抑制、転写抑制、再活性化抑制、抗原発現抑制、及びビリオン(Virion)形成抑制からなる群より選ばれる一つ以上によりウイルスを抑制前記ウイルスが、レトロウイルス科(retroviridae family)、フラビウイルス科(Flaviviridae family)、及びヘパドナウイルス科(HepaDNAviridae family)からなる群より選ばれる一つ以上に属する、抗ウイルス用組成物。
【請求項2】
前記組成物中の前記ペプチドの濃度は、0.0001~100μMである、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項3】
前記ペプチドの一日投与量は、0.01μg/kg/日~10g/kg/日である、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項4】
前記組成物は、薬学組成物である、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項5】
前記ペプチドは、標識物質とコンジュゲートした形態で含まれる、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項6】
前記標識物質は、蛍光物質又は照影物質である、請求項に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項7】
前記蛍光物質は、FITCである、請求項に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のうちいずれか一項に記載の抗ウイルス用組成物、及びウイルス性疾病の予防及び治療のための指示書を含む、ウイルス性疾病の予防及び治療用キットであって、
前記抗ウイルス用組成物が、HSP90によって媒介される、ウイルスの複製抑制、転写抑制、再活性化抑制、抗原発現抑制、及びビリオン(Virion)形成抑制からなる群より選ばれる一つ以上によりウイルスを抑制前記ウイルスが、レトロウイルス科(retroviridae family)、フラビウイルス科(Flaviviridae family)、及びヘパドナウイルス科(HepaDNAviridae family)からなる群より選ばれる一つ以上に属する、キット。
【請求項9】
前記ウイルス性疾病の予防及び治療は、前記抗ウイルス用組成物を、ウイルス性疾病にかかっているか、又はウイルスによる病理学的症状を示す個体に投与することを含む、請求項に記載のキット。
【請求項10】
請求項1~7のうちいずれか一項に記載の抗ウイルス用組成物の製造のための、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、及び前記アミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するペプチドからなるペプチドから選択されるペプチドの使用であって、前記抗ウイルス用組成物が、HSP90によって媒介される、ウイルスの複製抑制、転写抑制、再活性化抑制、抗原発現抑制、及びビリオン(Virion)形成抑制からなる群より選ばれる一つ以上によりウイルスを抑制前記ウイルスが、レトロウイルス科(retroviridae family)、フラビウイルス科(Flaviviridae family)、及びヘパドナウイルス科(HepaDNAviridae family)からなる群より選ばれる一つ以上に属する、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、抗ウイルス活性効能を有するペプチド及びこれを含む組成物に関し、より詳しくは、テロメラーゼに由来のペプチドを含み、ウイルスの自己複製及び活性を抑制することにより、ウイルスによる疾病の治療に効果的なウイルス性疾病の予防及び治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗ウイルス活性は、ウイルスタンパク質又はその一部を、直接認識して攻撃する方法、ウイルスのライフサイクルの各段階を阻害する方法、免疫を増進する方法等に分けられる。ウイルスのライフサイクルの各段階を阻害する方法は、各段階に応じて様々に分類できる。例えば、宿主細胞への侵入前段階を阻害するウイルス剤として、ウイルスが、細胞に侵入する段階を妨害する侵入阻害剤(entry-inhibitor)、侵入遮断剤(entry-blocking agent)、又はウイルスの浸透(penetration)及び脱殻(uncoating)ブロッキング剤が可能である。また、ウイルスが、宿主細胞内へ侵入した後に、宿主細胞内でウイルスの複製を行う段階における抗ウイルス活性が可能であるが、この例として、ウイルスのRNA又はDNAのビルディングブロックと類似であるものの、RNA、DNAの複製酵素を不活性化するヌクレオチド又はヌクレオシドの誘導体を通じて、ウイルスの複製を抑制する方法がある。代表的に、逆転写酵素阻害剤が挙げられる。その次の段階として、合成されたウイルスのDNAを切断するためのインテグラーゼ(integrase)酵素を抑制するか、又はウイルスの転写、翻訳、翻訳後修飾、又はその後のターゲッティングを抑制する方法がある。その他にも、ウイルスのプロテアーゼ(protease)を阻害するか、ウイルスのアッセンブリー段階を遮断するか、最終段階の宿主細胞からウイルスの放出段階(release phase)を遮断する方法が可能である。前記のような、ウイルスに対する直接作用でない、ウイルスによる多様な症状を緩和する薬剤も可能である。例えば、ウイルスにより誘発された炎症を緩和する抗炎症剤、ウイルスにより誘発された高熱を下げる解熱剤などが可能であるが、これは、ウイルスに対する根本的な治療剤とは言えない。
【0003】
ウイルスは、細菌より小さいサイズの伝染性病原体である。遺伝物質であるRNA又はDNAと、その遺伝物質を囲んでいるタンパク質とから構成される。自らは物質代謝ができないため、自分のDNAやRNAを、宿主細胞内に浸透させた後、浸透された細胞の小器官を利用して、自分の遺伝物質を複製し、自分自身と同様のウイルスを産生する。この過程において、宿主細胞が損傷されるか、破壊されることにより、宿主に疾病を引き起こすこともある。
【0004】
1989年に初めて究明されたC型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus、以下、HCVという)は、フラビウイルス科(Flaviviridae) に属し、約9.5kbの遺伝子(genome)サイズを有す陽性一本鎖のRNAウイルスである。初期感染の時には症状がなく、約55~85%の患者において、慢性肝炎(chronic hepatitis)へ進行し、この中で約5~10%の患者は、肝硬変症(liver cirrhosis)に進み、次に肝癌に進行する。
【0005】
HCVは、その遺伝子の塩基配列の差異によって、大きく6個の遺伝子型に区分され、治療に対する反応等、臨床的差異が報告されている。地域によって、HCV遺伝子型分布の差が知られており、韓国内では、1b及び2aが主種であるという一部の報告があったが、十分な資料があるわけではない。HCVは、感染後、他のウイルスに比べて、突然変異率が高く、ストランド数が6本ともなり、単一ストランド内にも多くの擬似種(quasi-species)を作る。このような性質により、HCVは、単一治療剤が耐性を誘発すると予想され、様々な治療剤の複合治療が必要な実情である。したがって、HCVによる肝疾患の予防及び治療が可能な、より安定的で効果的な研究及び治療剤の開発が緊急な実情である。
【0006】
HCVは、ウイルス感染の後、自己自身の遺伝体を気質にして、3,030個のアミノ酸からなる一つの複合タンパク質を作製する。特に、HCVが複製するにあたって、5’非翻訳領域(untranslated region, UTR)と、3’UTRとが、非常に重要な役割を果たしていると知られている。5’UTRの場合、HCVストランドにおいて非常に保存されている内部リボソーム進入点(internal ribosome entry site, IRES)を有していることで、キャップ非依存的(cap-independent)翻訳過程が行われる。感染後、まず、生成された複合タンパク質は、宿主とウイルスのプロテアーゼにより加工され、C、E1、E2などの構造タンパク質と、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A、NS5Bなどのようなウイルス増殖に必要な調節タンパク質から作られるようになる。
【0007】
抗HCV製剤として、最近まで活発に開発が進まれているものは、主にHCVをターゲットにした阻害剤であって、NS3プロテアーゼと、NS5Bポリメラーぜ(polymerase)とがある。このようなウイルス特異酵素をターゲットにすることは、2003年にベーリンガーインゲルハイム(Boehringer-Ingelheim)のNS3プロテアーゼをターゲットにした薬物の臨床1相実験の結果が、ネイチャー雑誌に報告されてから知られている。しかし、NS3は、その構造上、薬物が浸透し難いので、基本構造に基づいた薬物のデザインに困っている反面、NS5Bは、典型的なポリメラーぜ構造である親指‐掌‐指(thumb-palm-finger)の形をしており、活性部位の他にも、非‐ヌクレオシド抑制剤(non-nucleoside inhibitor)をデザインできる可能性を持っていることが分かった。最近、HCVをターゲットにする治療法の開発でない、宿主をターゲットにする治療剤の開発が進行されている。
【0008】
また、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus, 以下、HBVという)の感染は、大きく無症状感染、慢性感染、肝硬変、肝細胞癌に移行する様々な臨床経過を示し、慢性疾患への移患率及び死亡率を増加させる。HBV保菌者は、全世界的に約3億5千万名が分布している程度に、HBV由来の肝疾患は、人類の健康への脅威となる疾患であって、全肝細胞癌(Hepatocellular Carcinoma, HCC)の発生原因の53%を占めているHBVは、HCV及び他の原因と共に、肝細胞癌を誘発する主要因子である。
【0009】
HBVは、3種のエンベロープ (envelope)タンパク質を生成し、これらは、全てpre-S/Sオープンリーディングフレーム(open reading frame)でコードされる。HBVラージ表面タンパク質(large surface proteins, LHBs)の役割は、明らかになっていない。
【0010】
既存の標準肝癌及び抗ウイルス治療法では、肝硬変症がないか、残存の肝機能が十分である場合、肝切除術が優先的に考慮されており、肝機能障害が同伴された場合、肝移植が一次治療として考慮されるが、肝細胞癌患者の大部分が、門脈圧亢進症、肝機能低下、多発性腫瘍、門脈浸湿、高齢などの理由で、施術が困難である。非手術的治療法では、高周波熱治療術と、エタノール注入術とが、主に使用されているが、腫瘍のサイズが大きな場合、治療成功率が低い。
【0011】
このように、主に手術及び熱治療などに依存しており、抗癌化学療法の治療率が、非常に低く、代替薬物の開発を要する。国内の場合、特にHBV由来の肝細胞癌が多くて、B型ウイルス由来の慢性肝炎の先制的治療が求められ、B型肝炎を伴った肝細胞癌の場合、肝炎の治療が先制的又は同時に進行する場合、肝癌治療の成功率が増加する。特に、慢性肝炎及び肝硬化により、肝細胞癌が発生した場合、肝細胞癌の治療の後にも、これによる再発が非常に高く、このような慢性的炎症の治療が、同時に行わなければならず、国内に排他的に存在するHBV遺伝子C型による肝癌の発生及び進行に特化された慢性肝炎及び肝細胞癌への治療戦略が求められる。これに従い、既存には、インターフェロン及びラミブジンが、抗ウイルス剤で、慢性B型肝炎の治療剤として使用されたが、副作用及び低い反応性を示し、最近、アデホビル(Adefovir)、テノホビル(Tenofovir)などが開発され、ウイルスの増殖を抑制することにより、肝の損傷を緩める薬物として用いられている。このような薬物は、ウイルスの増殖を抑制して、肝の損傷を緩和する効果を有しているものの、完全にウイルスを除去するか、肝炎を治療することはできない。したがって、持続的な処方が必要であるので、耐性が現れるようになり、薬物本然の特性により、肝毒性と腎毒性を示す。現在、臨床的に使用中の唯一の肝癌標的治療剤であるソラフェニブ (sorafenib)は、制限的な治療範囲と、綿密な治療推移の観察が要求される限界とを持っているため、全世界的に、新しい肝癌標的治療剤の開発に関する研究が進行中である。開発中の大多数の物質は、多重キナーゼ阻害剤であるソラフェニブに由来のキナーゼ阻害剤、又は肝癌の進行に必須的な血管生成を阻害する血管新生抑制剤(angiogenic inhibitor)である。HCC患者の66%において過発現することが知られた表皮細胞成長因子受容体(epidermal growth factor receptor)阻害剤は、臨床2相実験の結果、有意すべき結果を得られなかった。血管新生の抑制を目標として開発された低分子チロシンキナーゼ阻害剤であるブリバニブ(brivanib)、及び単一クローン抗体であるラムシルマブ(ramucirumab)などは、臨床2相においてよい結果を得られなかった。HCC患者の40~50%において、mTORシグナル伝達システムの異常が報告されており、エベロリムス(everolimus)を始めたmTOR阻害剤が、ソラフェニブ不応性患者を対象にして進行された臨床3相実験に進入したが、プラセブ(placebo)に比べて、意味のある効果があることを立証できなかった。新しい治療戦略として、c‐MET、MEK阻害低分子物質を用いたHCC治療剤の開発も試みている。
【0012】
現在、開発が進行中である大多数の新規の治療物質は、臨床実験の初期段階への進入水準にあり、臨床が仕上がっていく薬物の場合、1次薬物としては使えないか、既存のソラフェニブと併用して使用しなければ、有意な効果が得られない。したがって、開発が進行中であるこれらの既存の薬物とは異なるメカニズムで働き、肝癌患者において有意な効果があると同時に、肝炎の進行を抑制する新規薬物の開発は、関連の肝疾患の治療に革新的な発展を図ることができるようにすると期待される。
【0013】
既存の薬物は、全身的抗癌療法において、大部分の抗癌剤が、肝細胞癌(HCC)の治療効能を示すのに失敗し、ソラフェニブの場合のみが、約二ヶ月程度の生存期間の延長効果を示した。このようなソラフェニブの場合も、1次治療では考慮されていない。したがって、既存の製品を代替し、治療不応の患者に使用できるHCCに特化された専門抗癌剤の開発が求められている。
【0014】
一方、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、以下、HIV)は、レトロウイルス(retroviridae)科(family)レンチウイルス(Lentivirus)属(genus)に属するウイルスである。レンチウイルスは、様々な生物種に感染でき、長い潜伏期の慢性疾患を引き起こす原因体という特徴がある。
【0015】
HIVのライフサイクルは、大きく宿主細胞に侵入する段階、そして細胞内で複製及び転写をする段階、ウイルスが組換える段階、最終的に、ウイルスが合成され、細胞の外部に分泌される段階に分けられる。このようなHIVの増殖過程のうちいずれか一つの段階を遮断すると、HIVを抑制することができる。
現在、治療剤として開発され、患者に使っている薬剤は、複合抑制剤(fusion inhibitors)、RNAからDNAに変える逆転写酵素抑制剤(reverse transcriptase inhibitors)、タンパク質が切断される過程を、プロテアーゼにより遮断する薬物であるプロテアーゼ抑制剤(protease inhibitors)からなる。
【0016】
抗HIV治療の目標は、HIVを強力に抑制して、増殖できない状態にし、このような状態を、可能であれば、長期間維持することにより、患者の免疫能を回復させ、HIV感染症を発生する移患率と死亡率とを減らすことである。しかし、抗HIV治療を中断すると、HIVがさらに現れ、免疫能もまた低下するため、一度治療を始めたら、途中で中断できないことが、現在使用されている抗HIV治療の限界である。抗HIV治療は、少なくとも数年間に、完治法が開発されなければ、数十年間続けなければならないかも知れない問題があり、この問題は、患者に経済的な負担はもとより、薬物の長期間投与による副作用を甘受すべきことを意味し、特に薬物の副作用は、現在知られている副作用だけでなく、使用期間が長くなるにつれ、将来知られる副作用があり得ることを考慮すべき実情である。また、長い間、薬物をまともに服用することは、容易でないため、HIVが、薬剤耐性を獲得することにより、治療が困難になることも、現在、抗HIV薬剤が抱えている大問題であると言える。したがって、既存の治療剤の様々な短所を克服し、HIVウイルス自体に抑制効果を有しながら、免疫細胞の活性を増強できる新しい概念の治療剤を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
一態様において、本発明の目的は、効果的でありながら、同時に副作用のない抗ウイルス及びウイルス性疾病の予防及び治療用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様によると、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントであるペプチドからなる群より選択される一つ以上を、有効成分として含む、抗ウイルス用組成物が提供される。
【0019】
本発明の一態様による組成物において、前記フラグメントは、3個以上のアミノ酸から構成されたフラグメントであってもよい。
【0020】
本発明の一態様による組成物において、前記組成物は、ウイルスの複製を抑制することにより、対象のウイルスを抑制することをさらに特徴とする。
【0021】
本発明の一態様による組成物において、前記ウイルスの複製は、HSP90を媒介にすることをさらに特徴とする。
【0022】
本発明の一態様による組成物において、前記ウイルスは、HCV、HBV、又はHIVを含むことをさらに特徴とする。
【0023】
本発明の他の一態様によると、薬学的に有効な量の本発明による組成物を、ウイルス性疾病にかかっているか、ウイルスによる病理学的症状を示す個体に投与する段階を含む、ウイルス性疾病の予防及び治療方法が提供される。
【0024】
本発明の他の一態様によると、前記ウイルス性疾病の予防及び治療方法を含むウイルス性疾病の予防及び治療方法が記載されている指示書を含む、ウイルス性疾病の予防及び治療用キットが提供される。
【0025】
本発明の他の一態様によると、抗ウイルス用組成物の製造のための、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントであるペプチドの使用が提供される。
【0026】
本発明の一態様による抗ウイルス用組成物の製造用途において、前記組成物は、ウイルスのRNA複製を抑制することにより、対象のウイルスを抑制することをさらに特徴とする。
【0027】
本発明の一態様による抗ウイルス用組成物の製造用途において、前記ウイルスは、HCV、HBV、又はHIVを含むことをさらに特徴とする。
【0028】
本発明の他の一態様によると、ウイルス性疾病の予防及び治療用の薬学的組成物の製造のための、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントであるペプチドの使用が提供される。
【0029】
本発明の一態様によるウイルス性疾病の予防及び治療用の薬学的組成物の製造用途において、前記組成物は、ウイルスのRNA複製を抑制することにより、対象のウイルスを抑制することをさらに特徴とする。
【0030】
本発明の一態様によるウイルス性疾病の予防及び治療用組成物の製造用途において、前記ウイルスは、HCV、HBV、又はHIVを含むことをさらに特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様による配列番号の配列を有するペプチド、又は前記配列と80%の相同性を有する配列を有するペプチド又はそのフラグメントであるペプチドは、抗ウイルス抑制効能を有するので、ウイルス性疾病の治療又は予防法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、JFH‐1細胞株において、ビヒクル(vehicle)、既存の抗酸化剤(NAC(20mM)、PDTC(100μM)、ビタミンE(10μM))と、濃度の異なるPEP1と共に、それぞれ2時間培養し、ROSの生成程度を測定して示したグラフである。
図2図2は、JFH‐1細胞株を、ビヒクル、PEP1、NAC(20mM )、 PDTC(100μM)、及びビタミンE(10μM)で2時間処理した後、 HSP90、p‐p‐38、p38、p-JNK、JNK、p‐ERK、ERK、及びGAPDHに特異的な抗体で免疫ブロット分析を行った写真である。
図3図3は、JFH‐1細胞株にアイソタイプ(isotype)、抗HSP70抗体、抗HSP90抗体を処理したものに、PEP1を投与したとき、対照群(DMSO、vehicle)を処理したものと対比して、ROSの生成比率を示したグラフである。
図4図4は、JFH‐1細胞株にアイソタイプ(isotype)、抗HSP70抗体、抗HSP90抗体を処理したものに、抗酸化剤であるPDTCを投与したとき、対照群(DMSO、vehicle)を処理したものと対比して、ROSの生成比率を示したグラフである。
図5図5は、JFH‐1細胞株に対照群(DMSO、vehicle)、HSP70抑制剤であるKNK(10μM)、HSP90抑制剤である17AAG(1μM)を処理したものに、PEP1を投与したとき、対照群(PBS)と対比して、ROSの生成比率を示したグラフである。
図6図6は、JFH‐1細胞株に対照群(DMSO、vehicle)、HSP70抑制剤であるKNK(10μM)、HSP90抑制剤である17AAG(1μM)を処理したものに、抗酸化剤であるPDTCを投与したとき、対照群(PBS)と対比して、ROSの生成比率を示したグラフである。
図7図7は、JFH‐1細胞株を、PEP1及びDMSOと共に培養するか、PDTC濃度を増加させて、2時間培養した後、ROSの生成比率を示したグラフである。
図8図8は、Huh7.5細胞株で、ROSの一種である過酸化水素を処理したとき、HSP90の発現濃度(ng/ml)を対照群(PBS)の処理時と比較して示したグラフである。
図9図9は、JFH‐1細胞株で、抗酸化剤PDTCを処理したとき、HSP90の発現濃度(ng/ml)を、ELISAを用いて、対照群(PBS)の処理時と比較して示したグラフである(エラーバーは、平均の標準エラー(SEM)を示す。ビヒクル対照群と比較して、*P<0.05であり、**P<0.01である。P値は、独立二票本t検定に基づいて得ており、結果は、2回~5回の独立的実験の代表値である)。
図10図10は、JFH‐1細胞株で、FITC(fluorescein isothiocyanate)‐コンジュゲートしたPEP1(FITC‐PEP1)と共に2時間、MbCD(5mM )を培養の後、細胞をフローサイトメーターにより分析、測定したグラフであり、結果は、3回の独立的実験の代表値である。
図11図11は、JFH‐1細胞株で、FITC‐コンジュゲートしたPEP1(FITC‐PEP1)と共に2時間、抗LRP1抗体と培養の後、細胞をフローサイトメーターにより分析、測定したグラフであり、結果は、3回の独立的実験の代表値である。
図12図12は、JFH‐1細胞株で、FITC‐コンジュゲートしたPEP1 (FITC‐PEP1)と共に2時間、LRP1 siRNA(200nM)と培養の後、細胞をフローサイトメーターにより分析、測定したグラフであり、結果は、3回の独立的実験の代表値である。
図13図13は、JFH‐1細胞株で、FITC‐コンジュゲートしたPEP1(FITC‐PEP1)と共に2時間、PDTCと培養の後、細胞をフローサイトメーターにより分析、測定したグラフであり、結果は、3回の独立的実験の代表値である。
図14図14は、JFH‐1細胞株で、FITC‐コンジュゲートしたPEP1 (FITC‐PEP1)と共に2時間 、Hと培養の後、細胞をフローサイトメーターにより分析、測定したグラフであり、結果は、3回の独立的実験の代表値である。
図15図15は、JFH‐1細胞株を、PEP1(10μM)、PDTC(100μM)又はPBSで2時間処理する前に、スクランブルsiRNA又はLRP1siRNAでトランスフェクションし、DCF-DA方法を用いて、ROSの生成を測定したグラフである(エラーバーは、SEMを示す。スクランブル対照群と比較して、**P<0.01である。P値は、独立二票本t検定に基づいて得ており、結果は、3回の独立的実験の代表値である)。
図16図16は、JFH‐1細胞株を、PEP1、NAC(20mM )、PDTC (100μM)及びビタミンE(10μM)で48時間培養したとき、HCVのNS2の転写量を、定量的PCRで測定して、イン・ビトロ(in vitro)でPEP1の抗HCVの活性を測定した結果を示す。
図17図17は、JFH‐1細胞株を、PEP1(10μM)が存在する状況で、 抗HSP70抗体、抗HSP90抗体、又はアイソタイプ(isotype)と共に、2時間培養した後、NS2の転写量を測定した結果を示す。
図18図18は、JFH‐1細胞株を、スクランブルsiRNA又はLRP1siRNAで18時間トランスフェクションした後、PEP1(10μM)又はPBSで2時間処理した結果を示す(エラーバーは、平均のSEMを示す。ビヒクル又はPBS対照群と比較して、*P<0.05であり、**P<0.01であり、***P<0.001である。P値は、独立二票本t検定に基づいて得ており、結果は、3回又は4回の独立的実験の代表値である)。
図19図19は、JFH‐1細胞株で、PEP1がHCV RNAの複製に関与する FKBP8と、これに結合するHSP90の相互作用を抑制することを示す(結果は、2回の独立的実験の代表値である)。
図20図20は、慢性HCV感染患者の肝組織におけるHSP90(赤色)の免疫蛍光染色で、核は、DAPI(青色)で対比染色(counterstain)し、自己免疫性肝炎(AIH)患者又はB型肝炎患者から得た肝組織を対照群として用いた。
図21図21は、JFH‐1細胞を、PEP1(10μM)又はPBSで2時間培養し、HSP90で染色したことであり、結果は、2回の独立的実験の代表値である。
図22図22は、PEP1の細胞生存性への影響を示したことで、MT‐4、1G5及びACH‐2細胞に、PEP1濃度を増加させて5日間処理し、MTTアッセイを行った結果を示す。
図23図23は、PEP1のHIV‐1ウイルス産生への影響を示したことで、HIV‐1に感染されたMT‐4細胞を、増加する濃度別のPEP1で処理した結果を示す(上清でウイルス性粒子(viral particle)の量は、p24ELISAで測定した)。
図24図24は、PEP1のeGFP発現への影響を示したことで(eGFPは、HIV‐1Nefと共に発現する)、HIV-4で感染したMT‐4細胞を、増加する濃度別のPEP1で処理し、eGFPの発現は、蛍光顕微鏡でモニターした結果を示す。
図25図25は、HIV‐1ウイルス性粒子生成の抑制を示したことで、HIV‐1で感染されたMT‐4細胞を、濃度を段階別に増加させたAZT又はPEP1で処理して、上清のウイルス性遺伝物質(viral genomes)のレベルを、RT‐qPCRを用いて測定した。
図26図26は、PEP1のHIV‐1感染‐関連の細胞死滅から細胞の保護効果を示したことで、MT‐4細胞(1x10個)は、HIV‐1ウイルス(4x10CCID50)で感染されたことであり、AZTで5日間処理し、細胞活性(viability)は、p24ELISAで測定した(データは、平均(means)±SD(標準偏差)と代表表記した)。
図27図27は、PEP1のHIV‐1感染‐関連の細胞死滅から細胞の保護効果を示したことで、MT‐4細胞(1x10個)は、HIV‐1ウイルス(4x10CCID50)で感染されたことであり、PEP1で5日間処理し、細胞活性(viability)は、p24ELISAで測定した(データは、平均(means)±SD(平均エラー)と代表表記した)。
図28図28は、追加時間(Time-of-addition)アッセイであって、PEP1を含んだ指名の抗‐HIV‐1薬物を、HIV‐1で感染されたMT‐4細胞に、感染後、それぞれ異なる時間帯(time point)別に処理し、HIV‐1の複製は、HIV‐1感染の5日後、p24ELISAで評価したことを示す。
図29図29は、追加時間(Time-of-addition)アッセイから得た代表的なeGFPのイメージを示す。
図30図30は、PEP1のHIV‐1ウイルス性mRNA合成の抑制を示したことで、MT‐4細胞は、HIV‐1により感染され、ビヒクル又は抗ウイルス薬物は、表示された時間帯に処理し、ウイルス性mRNAは、RT‐qPCRにより測定したことである(データは、平均(means)±SD(平均エラー)と代表表記した。*は、DMSO対比p<0.05であり、***は、p<0.001であることを表す)。
図31図31は、AZT又はPEP1処理で、HIV‐LTR-ルシフェラーゼ活性に対するHIV‐1感染の効果を、5倍ほど減少したことを示す。
図32図32は、PEP1によるTat‐依存のHIV‐1転写の抑制を示す写真である。
図33図33は、PEP1によるHIV‐1の潜伏期以降の再活性化への抑制効果を示す。
図34図34は、PEP1によるHIV‐1の潜伏期以降の再活性化への抑制効果を示す。
図35図35は、PEP1が抗‐HIV‐1活性を示すとき、HSP90の重要な役割を示すことである。
図36図36は、図35で得た代表的なeGFPのイメージを示す。
図37図37は、PEP1が抗‐HIV‐1活性を示すとき、HSP90の重要な役割を示すことである。
図38図38は、MT‐4細胞を、NF‐κB蛍ルシフェラーゼ及びCMV‐プロモータレニラ(renilla)ルシフェラーゼリポータープラスミドで感染させ、その後、HIV‐1(1x10CCID50)で感染した後、指名された化合物で24時間処理した後、二重(dual)‐ルシフェラーゼ アッセイを実施した結果を示す(データは、平均(means)±SD(標準偏差)と代表表記した。***は、DMSO対比p<0.001であることを表す)。
図39図39は、MT‐4細胞を、HIV‐1で感染させ、DMSO、AZT又はPEP1を、図38で述べたように処理し、感染の後、24時間後に、核分画(nuclear fraction)を抽出して、EMSAアッセイ(electrophoretic mobility shift assay)を実施した結果を示す。
図40図40は、NF‐κB及びAP-2競争オリゴマーが、正確性の確認のために用いられたことを示す。
図41図41は、ACH‐2細胞を、TNF‐α(30ng/ml)又はPMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)(50nM)を用いて1時間刺激し、DMSO、AZT又はPEP1を24時間後処理した後、細胞を、抗p65NF‐κB抗体及びAlexa‐蛍光594‐コンジュゲートした2次抗体で透過した後、簡略なDAPI核の染色後、共焦点顕微鏡で観察したことを示す。
図42図42は、MT‐4細胞を、NF‐κB蛍ルシフェラーゼ及びCMV‐プロモータレニラ(renilla)ルシフェラーゼリポータープラスミドで感染させた後、細胞を、指名された抗体(10ng/ml)又は17‐AAG(1μM)でHIV‐感染の前に1時間処理し、HIV‐感染後、細胞をDMSO、AZT又はPEP1で24時間処理し、二重‐ルシフェラーゼ アッセイを実施した結果を示す(データは、平均(means)±SD(平均エラー)と代表表記した。***は、DMSO対比p<0.001であることを表す)。
図43図43は、全体HBV W4P遺伝体を注入した多様なヒト肝癌細胞株におけるPEP1によるHBsAgの合成能を比較したことである。
図44a図44aは、全体HBV W4P遺伝体を注入したHepG2細胞株におけるPEP1ペプチドによるビリオン(Virion)の形成能を比較したことである。
図44b図44bは、全体HBV W4P遺伝体を注入したHuh7細胞株におけるPEP1ペプチドによるビリオンの形成能を比較したことである。
図44c図44cは、全体HBV W4P遺伝体を注入したHuh7.5細胞株におけるPEP1ペプチドによるビリオンの形成能を比較したことである。
図45図45は、全体HBV W4P遺伝体を注入したHepG2細胞株におけるPEP1ペプチドの濃度によるHBsAgの合成能を比較したことである。
図46図46は、全体HBV W4P遺伝体を注入したHepG2細胞株におけるPEP1ペプチドの濃度によるビリオンの合成能を比較したことである。
図47図47は、PEP1ペプチドが、HNF4αの発現に及ぼす影響を、ウェスタンブロットにより確認したことである。
図48図48は、PEP1ペプチドが、IL-6に及ぼす影響を示すことである。
図49図49は、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1がHBsAg合成能とビリオンとに及ぼす影響を確認したことである。
図50図50は、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、タンパク質の発現に及ぼす影響を、ウェスタンブロットにより確認したことである。
図51a図51aは、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、免疫細胞(リンパ球CD8)の分布に及ぼす影響を示す。
図51b図51bは、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、免疫細胞(リンパ球CD4)の分布に及ぼす影響を示す。
図51c図51cは、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、免疫細胞(リンパ球B細胞)の分布に及ぼす影響を示す。
図51d図51dは、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、免疫細胞(リンパ球NK1.1)の分布に及ぼす影響を示す。
図51e図51eは、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、免疫細胞(骨髄樹状細胞(myeloid dendritic cells)、骨髄DC)の分布に及ぼす影響を示す。
図51f図51fは、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、免疫細胞(大食細胞)の分布に及ぼす影響を示す。
図51g図51gは、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、免疫細胞(好中球)の分布に及ぼす影響を示す。
図51h図51hは、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、免疫細胞(単核球)の分布に及ぼす影響を示す。
図52a図52aは、PEP1ペプチドが、免疫細胞(リンパ球CD4)とINFγ活性化との間に及ぼす影響を示す。
図52b図52bは、PEP1ペプチドが、免疫細胞(リンパ球CD4)とINFγ活性化との間に及ぼす影響を示す。
図52c図52cは、PEP1ペプチドが、免疫細胞(リンパ球CD8)とINFγ活性化との間に及ぼす影響を示す。
図52d図52dは、PEP1ペプチドが、免疫細胞(リンパ球CD8)とINFγ活性化との間に及ぼす影響を示す。
図52e図52eは、PEP1ペプチドが、免疫細胞(NK1.1)とINFγ活性化との間に及ぼす影響を示す。
図52f図52fは、PEP1ペプチドが、免疫細胞(NK1.1)とINFγ活性化との間に及ぼす影響を示す。
図52g図52gは、PEP1ペプチドが、免疫細胞(NK1.1)とINFγ活性化との間に及ぼす影響を示す。
図53図53は、全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおいて、PEP1ペプチドが、大食細胞(マクロファージ)の分化に及ぼす影響を示す。
図54図54は、全体HBV野生株遺伝体の形質注入細胞において、HSP90遮断(blocking)によるPEP1ペプチドの抗ウイルス効果を確認したことである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、一態様において、多様な変換を加えてもよく、様々な実施例を有してもよい。以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の実施形態に限定することではなく、本発明の一態様による思想及び技術範囲に含まれる全ての変換、均等物ないし代替物を含むことを理解すべきである。本発明を説明するにあたって、関連の公知技術に関する具体的な説明が、本発明の一態様による要旨を曖昧にする恐れがあると判断する場合、その詳細な説明を省略する。
【0034】
テロメア(telomere)は、染色体の末端に繰り返して存在する遺伝物質であって、当該染色体の損傷や他の染色体との結合を防止すると知られている。テロメアの長さは、細胞が分裂する度に、少しずつ短くなって、一定の回数以上の細胞分裂があれば、テロメアは非常に短くなり、その細胞は、分裂を止めて死になる。その反面、テロメアを長くすると、細胞の寿命が延長されると知られており、その例として、癌細胞では、テロメラーゼ(telomerase)という酵素が過発現され、テロメアが短くなることを防ぐため、癌細胞が死ぬことなく、増殖し続けることができると知られている。本発明者らは、テロメラーゼに由来のペプチドが、抗ウイルス及びウイルス関連疾病の予防及び治療に効果的であることを確認し、本明細書を完成するに至った。
【0035】
HSP90タンパク質は、分子シャペロン(molecular chaperone)の一つで、細胞の成長、分化、生存に関連した多様なタンパク質の安定化及び活性、特にストレス環境の下で恒常性を担当する。HSP90は、「細胞内HSP90(intracellular HSP90)」と呼ばれるiHSP90として細胞内に存在するだけではなく、「細胞外HSP90(extracellular HSP90)」と呼ばれるeHSP90として細胞外にも存在する。興味深く、排出されたHSP90及び細胞の表面HSP90が、がん細胞で観察され、これらの細胞外HSP90(eHSP90)タンパク質は、癌の成長及び血管新生(angiogenesis)を促進する。癌細胞でない細胞も、様々な環境条件、例えば、熱、低酸素、飢餓、及びサイトカインの存在の下で、eHSP90を生成する。eHSP90は、iHSP90とは異なる機能を発揮し、多様な細胞の表面タンパク質と相互作用をして、細胞シグナリング経路を調節することができる。
【0036】
本発明者らは、HSP90が、癌、硬化症、及びウイルス感染のような多数の病理学的症状と関連していることを確認した。HSP90と結合できる分子には、癌化、浸湿性及び転移と関連した多数のタンパク質を含むことを確認し、したがって、HSP90は、癌の治療剤として有力なターゲットになれることを確認した。
【0037】
本発明は、一態様において、PEP1ペプチドと知られているhTERT由来の16merペプチド(611-EARPALLTSRLRFIPK-626、配列番号1)が、タンパク質の恒常性に重要な役割を果たしているHSP90と相互作用をし、細胞のシグナルを調節することにより、抗ウイルス効果を示すことを確認したことである。
【0038】
本発明の他の一態様において、前記抗ウイルス効果は、ウイルスの複製抑制、転写抑制、再活性化抑制、及びビリオン(Virion)の形成抑制からなる群より選択される一つ以上によりウイルスを抑制することであってもよい。
【0039】
本発明は、一態様において、テロメラーゼ(telomerase)の逆転写酵素(reverse transcriptase)由来のペプチドワクチンを提供する。具体的には、本発明は、一態様において、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(human telomerase reverse transcriptase, hTERT)由来のアミノ酸ペプチドワクチンを提供する。より具体的には、本発明は、一態様において、hTERT由来の16個のアミノ酸ペプチドで、GV1001(登録商標)と知られているペプチドPEP1を、抗ウイルスワクチンとして提供する。
【0040】
本発明の一態様によるペプチド(以下、PEP1)は、ヒトテロメラーゼ由来の合成ペプチドで、様々な生物学的役割を果たすことができることを確認した。
【0041】
本発明者らは、PEP1は、熱ショックタンパク質(heat shock protein、HSP)と相互作用をし、細胞内シグナリングを調節することを明らかにした。本発明の一態様において示されているように、HSP90は、 PEP1が細胞内に透過することを助けることを確認し、PEP1が、細胞外HSPと相互作用をし、細胞の細胞質内に透過できることを確認した。この研究は、PEP1が、HSPを介した相互作用により、細胞内シグナリング経路を調節できることを示す。
【0042】
本発明は、他の一態様において、PEP1の抗酸化効能が、活性酸素の増加したHCV感染細胞で、HCVの複製を阻害する効果があることを明らかにした。具体的に、本発明は、一態様において、HCVで感染された細胞において、活性酸素が増加し、増加した活性酸素が、HSP90の分泌能を増やせ、HSP90に結合したPEP1の細胞浸透能が向上することにより、細胞内でHCV複製増殖を抑制できることを明らかにした。本発明は、一態様において、PEP1が、HSP90を介して示す様々な生物学的活性により、HCV複製増殖を抑制できる新規の薬物を提供する。
【0043】
本発明は、他の一態様において、ペプチドに基づいた、既存の抗レトロウイルス剤に対するHIV耐性及び薬剤の副作用を克服できる新しい形態の抗HIV治療剤を提供する。感染された細胞は、細胞死滅のメカニズムの刺激を受けて、自ら細胞死が起こると知られている。本発明者らは、PEP1が、HIVウイルス自体に対して、抗ウイルス効果を示してHIV増殖を抑制し、HIVが、感染された細胞株についての細胞死滅を防止することを確認した。本発明は、一態様において、細胞の状態を正常的に維持するようにし、HIV細胞毒性や細胞死滅を最小化することを確認した。
【0044】
本発明は、また他の一態様において、ペプチドに基づいた、既存のウイルス性B型肝炎薬剤の肝毒性、及び持続的な服用の際に現れる腎毒性などの薬剤の副作用を克服できる新しい形態の抗HBV治療剤を提供する。本発明者らは、PEP1を介したSTAT3シグナリング経路の抑制、直接的細胞毒性、IL-6生成の抑制による抗がん効能及び肝炎抑制効能の複合作用から、抗ウイルス抑制による新規のHCC治療物質を提供する。
【0045】
本発明の一態様において、配列番号1のペプチド、配列番号1のフラグメントであるペプチド、又は前記ペプチド配列と80%以上の配列相同性を有するペプチドは、テロメラーゼ、具体的に、ヒト(Homo sapiens)テロメラーゼに由来のペプチドを含む。
本発明は、他の一態様において、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、又はそのフラグメントである抗ウイルス用ペプチドであってもよい。
【0046】
本明細書に開示されたペプチドは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の配列相同性を有するペプチドを含んでもよい。また、本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1を含むペプチド又はそのフラグメントと、1個以上のアミノ酸、2個以上のアミノ酸、3個以上のアミノ酸、4個以上のアミノ酸、5個以上のアミノ酸、6個以上のアミノ酸又は7個以上のアミノ酸が変化されたペプチドとを含んでもよい。
【0047】
本発明の一態様において, 前記ペプチドは、標識物質とコンジュゲートされた形態で、前記組成物に含まれてもよい。他の一態様によると、前記標識物質は、蛍光物質又は照影物質であってもよい。本発明の他の一態様において、前記蛍光物質は、FITC(fluorescein isothiocyanate)であってもよい。
【0048】
本発明の一態様において、アミノ酸の変化は、ペプチドの物理化学的特性を変更させる性質に属する。例えば、ペプチドの熱安定性を向上し、気質特異性を変更させ、最適のpHを変化させるなどのアミノ酸の変化が行われてもよい。
【0049】
本明細書において、「アミノ酸」というのは、自然にペプチドに統合される22個の標準アミノ酸のみならず、D-異性体及び変形されたアミノ酸を含む。これにより、本発明の一態様において、ペプチドは、D-アミノ酸を含むペプチドであってもよい。一方、本発明の別の態様において、ペプチドは、翻訳後修飾(post-translational modification)の非標準アミノ酸などを含んでもよい。翻訳後修飾の例には、リン酸化(phosphorylation)、グリコシル化(glycosylation)、アシル化(acylation)(例えば、アセチル化(acetylation)、ミリストイル化(myristoylation)及びパルミトイル化(palmitoylation)を含む)、アルキル化(alkylation)、カルボキシル化(carboxylation)、ヒドロキシル化(hydroxylation)、糖化反応(glycation)、ビオチニル化(biotinylation)、ユビキチニル化(ubiquitinylation)、化学的性質の変化(例えば、ベータ除去脱アミド化 、脱アミド化)、及び構造的変化(例えば、二黄化物ブリッジの形成)が含まれる。また、ペプチドコンジュゲートを形成するための架橋剤(cROS slinker)との結合過程で起こる化学反応により生じるアミノ酸の変化、例えば、アミノ基、カルボキシ基、又は側鎖における変化のようなアミノ酸の変化が含まれる。
【0050】
本明細書に開示されたペプチドは、自然そのままの供給源から、同定及び分離された野生型ペプチドであってもよい。一方、本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1のフラグメントであるペプチドと比較して、一つ以上のアミノ酸が、置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含む、人工変異体であってもよい。人工変異体のみならず、野生型ポリペプチドにおけるアミノ酸の変化は、タンパク質のフォールディング(folding)及び/又は活性に有意義な影響を及ばさないアミノ酸の保存性置換を含む。保存性置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン及びメチオニン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、及び小さいアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン及びトレオニン)の群の範囲内にある。一般に、特異的活性を変更させないアミノ酸の置換が、本分野に公知されている。最も頻繁に生じる交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、及びAsp/Gly、そしてこれらと逆のものである。保存的置換の他の例は、以下の表に示している。
【表1】
ペプチドの生物学的特性における実在的な変形は、(a)置換領域内のポリペプチド骨格の構造、例えば、シート又は螺旋立体構造の保持におけるこれらの効果、(b)標的部位での前記分子の電荷又は疎水性の保持におけるこれらの効果、又は(c)側鎖のバルクの保持におけるこれらの効果が、相当に異なる置換部を選択することにより行われる。天然の残基は、通常の側鎖の特性に基づいて、次のグループに分けられる:
(1) 疎水性:ノルロイシン、met、 ala、val、leu、ile、
(2) 中性親水性:cys、ser、thr、
(3) 酸性: asp、glu、
(4) 塩基性:asn、gln、his、lys、arg、
(5) 鎖の配向に影響を及ぼす残基:gly、 pro、及び
(6) 芳香族:trp、tyr、phe
非保存的置換は、これらの類型のうちの一つの構成員を、また他の類型に交換することにより行われる。ペプチドの適当な立体構造の保持と関連のないいかなるシステイン残基も、一般にセリンに置換されて、前記分子の酸化的安定性を向上し、異常な架橋結合を防ぐことができる。逆に言えば、システイン結合(複数の結合)を前記ペプチドに加え、その安定性を向上することができる。
【0051】
ペプチドの他の類型のアミノ酸変異体は、抗体のグリコシル化パターンが変化されたものである。変化とは、ペプチドで見付けられた一つ以上の炭水化物残基の欠失及び/又はペプチド内に存在しない一つ以上のグリコシル化部位の付加を意味する。
【0052】
ペプチドのグリコシル化は、典型的に、N-結合されるか、O-結合されるものである。N-結合されるとは、炭水化物残基が、アスパラギン残基の側鎖に付着したものを言う。トリペプチド配列のアスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-トレオニン(ここで、Xは、プロリンを除いた任意のアミノ酸である)は、炭水化物残基を、アスパラギン側鎖に酵素的付着するための認識配列である。従って、これらのトリペプチド配列のうちの一つが、ポリペプチドに存在することにより、潜伏的なグリコシル化部位が生成される。O-結合されたグリコシル化は、糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース及びキシロースのうちの一つを、ヒドロキシアミノ酸、最も通常的には、セリン又はトレオニンに付着することを意味するが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンを用いてもよい。
【0053】
ペプチドへのグリコシル化部位の付加は、前に挙げられたトリペプチド配列の一つ以上を含有するようにアミノ酸配列を変化することで、便宜に行われる(N-結合されたグリコシル化部位の場合)。このような変化は、一つ以上のセリン又はトレオニン残基を、最初の抗体の配列に付加するか、これらの残基で置換することにより行われてもよい(O-結合されたグリコシル化部位の場合)。
【0054】
また、本発明の一態様による配列番号1の配列を有するペプチド、配列番号1の配列のフラグメントであるペプチド又は前記ペプチド配列と80%以上の配列相同性を有するペプチドは、細胞内毒性が低く、生体内安定性が高いという長所を有する。本発明における配列番号1は、テロメラーゼに由来のペプチドとして、以下のように16個のアミノ酸からなるペプチドである。
【0055】
配列番号1に記載されたペプチドは、以下の表2の通りである。以下の表2における「名称」は、ペプチドを区別するために命名したものである。本発明の一態様において、配列番号1に記載されたペプチドは、ヒトのテロメラーゼの全ペプチドを示す。本発明の他の態様において、配列番号1の配列を有するペプチド、配列番号1の配列のフラグメントであるペプチド、又は前記ペプチド配列と80%以上の配列相同性を有するペプチドは、テロメラーゼに含まれたペプチドのうち、当該位置のペプチドを選別して合成した「合成ペプチド」を含む。配列番号2は、全テロメラーゼのアミノ酸配列を示したものである。
【表2】
本発明の一態様では、配列番号1のアミノ酸配列を含む(comprising)ペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントである、 抗ウイルス及びウイルス抑制の効能を有するペプチドを、有効成分として含む薬学的組成物を提供する。本発明の一態様によると、前記組成物は、薬学組成物であってもよい。
【0056】
本発明の一態様によると、前記ウイルスは、DNAウイルス、RNAウイルス、ダブルストランドDNA‐逆転写酵素(double-stranded DNA Reverse Transcriptase, dsDNA-RT)ウイルス、シングルストランドRNA‐逆転写酵素(single-stranded RNA Reverse Transcriptase, ssRNA-RT)ウイルス、又は ssRNAウイルスであってもよい。
本発明の他の一態様によると、前記ウイルスは、フラビウイルス科(Flaviviridae)、レトロウイルス科(Retroviridae)、又はヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)であってもよい。
【0057】
本発明のまた他の一態様によると、前記ウイルスは、HCV、HIV、又はHBVであってもよい。
【0058】
本発明の一態様による抗ウイルス及びウイルス抑制の効能を有する薬学組成物は、一態様においては、配列番号1のアミノ酸配列を含む(comprising)ペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントであるペプチドを、0.01mg/mL以上、0.02mg/mL以上、0.05mg/mL以上、0.07mg/mL以上、0.1mg/mL以上、0.15mg/mL以上、0.2mg/mL以上、0.25mg/mL 以上、0.3mg/mL以上、0.5mg/mL以上、0.7mg/mL以上、1mg/mL以上、2mg/mL以上、3mg/mL以上、5mg/mL以上、7mg/mL以上、10mg/mL以上、20mg/mL以上、30mg/mL以上、40mg/mL以上、50mg/mL以上、60mg/mL以上、70mg/mL以上、80mg/mL以上、又は90mg/mL以上であるか、100mg/mL以下、90mg/mL以下、80mg/mL以下、70mg/mL以下、60mg/mL以下、50mg/mL以下、40mg/mL以下、30mg/mL以下、20mg/mL以下、10mg/mL以下、7mg/mL以下、5mg/mL以下、3mg/mL以下、2mg/mL以下、1mg/mL以下、0.7mg/mL以下、0.5mg/mL以下、0.3mg/mL以下、0.25mg/mL以下、0.2mg/mL以下,0.15mg/mL以下、0.1mg/mL以下、0.07mg/mL以下、0.05mg/mL以下、又は0.02mg/mL以下の含量で含んでもよいが、容量による効果の差を示す場合、これを適切に調整することができる。前記範囲又はそれ以下の範囲で含む場合、本発明の一態様において意図した効果を奏するのに適切であるだけではなく、組成物の安定性及び安全性の両方を満たすことができ、費用対比効果の観点からも、前記範囲で含むことが適切であり得る。
【0059】
本発明の一態様による前記組成物は、配列番号1のアミノ酸配列を含む(comprising)ペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントであるペプチドを、0.0001μM以上、0.001μM以上、0.002μM以上、0.005μM以上、0.007μM以上、0.01μM以上、0.02μM以上、0.05μM以上、0.07μM以上、0.09μM以上、0.1μM以上、0.2μM以上、0.25μM以上、0.3μM以上、0.35μM以上、0.4μM以上、0.45μM以上、0.5μM以上、0.55μM以上、0.6μM以上、0.65μM以上、0.7μM以上、0.75μM以上、0.8μM以上、0.85μM以上、0.9μM以上、0.95μM以上、1μM以上、2μM以上、3μM以上、5μM以上、7μM以上、10μM以上、30μM以上、50μM以上、又は90μM以上であるか、100μM以下、90μM以下、50μM以下、30μM以下、10μM以下、9μM以下、7μM以下、5μM以下、3μM以下、2μM以下、1μM以下、0.95μM以下、0.9μM以下、0.85μM以下、0.8μM以下、0.75μM以下、0.7μM以下、0.65μM以下、0.6μM以下、0.55μM以下、0.5μM以下、0.45μM以下、0.4μM以下、0.35μM以下、0.3μM以下、0.25μM以下、0.2μM以下、0.1μM以下、0.09μM以下、0.07μM以下、0.05μM以下、0.02μM以下、0.01μM以下、0.007μM以下、0.005μM以下、0.002μM以下、0.001μM以下、又は0.0005μM以下の濃度で含んでもよく、好ましくは、0.001μMないし10μMの濃度で含んでもよいが、濃度による効果の差を示す場合、これを適切に調整することができる。前記範囲又はそれ以下の範囲で含む場合、本発明の一態様において意図した効果を奏するのに適切であるだけではなく、組成物の安定性及び安全性の両方を満たすことができ、費用対比効果の観点からも、前記範囲で含むことが適切であり得る。
【0060】
本発明の一態様による組成物は、ヒト、イヌ、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ギニアピグ又はサルを含む全ての動物に適用できる。
【0061】
本発明の一態様において、組成物は、配列番号1のアミノ酸配列を含む(comprising)ペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントである、抗ウイルス効能及びウイルス関連疾病の予防及び治療に効能を有するペプチドを含む薬学組成物を提供する。本発明の一態様による薬学組成物は、経口、直腸、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、骨髄内、硬膜内又は皮下内などに投与できる。
【0062】
経口投与のための剤形は、錠剤、丸剤、軟質又は硬質のカプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、又は乳濁剤であってもよいが、これに限定されない。非経口投与のための剤型は、注射剤、点滴剤、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、懸濁剤、乳剤、坐剤、パッチ、又は噴霧剤であってもよいが、これに限定されない。
【0063】
本発明の一態様による薬学組成物は、必要に応じて、希釈剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩解剤、緩衝剤、分散剤、界面活性剤、着色剤、香料、又は甘味剤などの添加剤を含んでもよい。本発明の一態様による薬学組成物は、当業界の通常的な方法により製造できる。
【0064】
本発明の一態様による薬学組成物の有効成分は、投与される対象の年齢、性別、体重、病理状態及びその重症度、投与経路又は処方者の判断によって異なる。このような因子に基づいた適用量の決定は、当業者のレベル内にあり、この一日投与量は、0.01μg/kg/日以上、0.1μg/kg/日以上、1μg/kg/日以上、0.0016mg/kg/日以上、0.005mg/kg/日以上、0.006mg/kg/日以上、0.0093mg/kg/日以上、0.01mg/kg/日以上、0.016mg/kg/日以上、0.05mg/kg/日以上、0.1mg/kg/日以上、0.5mg/kg/日以上、1mg/kg/日以上、5mg/kg/日以上、10mg/kg/日以上、50mg/kg/日以上、100mg/kg/日以上、1g/kg/日以上、5g/kg/日以上、又は9g/kg/日以上であるか、10g/kg/日以下、9g/kg/日以下,5g/kg/日以下,1g/kg/日以下,100mg/kg/日以下、50mg/kg/日以下、10mg/kg/日以下、5mg/kg/日以下、1mg/kg/日以下、0.5mg/kg/日以下、0.1mg/kg/日以下、0.05mg/kg/日以下、0.017mg/kg/日以下、0.01mg/kg/日以下、0.0094mg/kg/日以下、0.007mg/kg/日以下、0.005mg/kg/日以下、0.0017mg/kg/日以下、1μg/kg/日以下、0.1μg/kg/日以下、又は0.05μg/kg/日以下であってもよい。例えば、0.01μg/kg/日~10g/kg/日、具体的には、0.1μg/kg/日~1g/kg/日、より具体的には、1μg/kg/日~0.1g/kg/日、さらにより具体的には、1μg/kg/日~10mg/kg/日、好ましくは、1μg/kg/日~1mg/kg/日、好ましくは、0.005mg/kg /日~0.05mg/kg/日、最も好ましくは、0.01mg/kg/日となってもよいが、容量による効果の差を示す場合、これを適切に調整してもよい。成人(60kg)の場合、一日投与の際、0.1mg~1mg、好ましくは、0.4mg~0.6mgの投与、特に0.56mgの投与が好ましい。本発明の一態様による薬学組成物は、1日1回~3回投与してもよいが、これに限定されない。
【0065】
本発明の一態様において、組成物は、配列番号1のアミノ酸配列を含む(comprising) ペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントであるペプチドを、有効成分として含む抗ウイルス及びウイルス関連疾病の予防及び治療用組成物を提供する。
【0066】
本発明の一態様による組成物の剤形は、特に限定されないが、例えば、錠剤、顆粒剤、粉末剤、液剤、固形製剤などに剤形化することができる。各剤形は、有効成分の他に、当該分野において通常用いられる成分を、剤形又は使用目的に応じて、当業者が容易に適宜選択して配合でき、他の原料と同時に適用する場合、上昇効果を奏することができる。
【0067】
本発明は、他の一態様において、前記組成物は食品組成物であってもよい。
【0068】
本発明の一態様による食品組成物の剤形は、特に限定されないが、例えば、錠剤、顆粒剤、粉末剤、液剤、固形製剤などに剤形化することができる。各剤形は、有効成分の他に、当該分野において通常用いられる成分を、剤形又は使用目的に応じて、当業者が容易に適宜選択して配合でき、他の原料と同時に適用する場合、上昇効果を奏することができる。
本発明は、また他の一態様において、前記組成物を、ウイルス性疾病にかかっているか、ウイルスによる病理学的症状を見せる個体に投与することを含む、ウイルス性疾病の改善、予防、及び治療方法を提供する。
【0069】
本発明の一態様によると、前記ウイルス性疾病は、後天性免疫不全症候群、B型肝炎、C型肝炎、それらによる肝硬変、又はそれらによる肝癌であってもよい。
【0070】
本発明は、また他の一態様において、前記組成物、及びウイルス性疾病の予防及び治療
方法が記載されている指示書を含む、ウイルス性疾病の予防及び治療用キットを提供する。
本発明の一態様によると、前記ウイルス性疾病の予防及び治療方法は、前記抗ウイルス用組成物を、ウイルス性疾病にかかっているか、ウイルスによる病理学的症状を示す個体に投与することを含んでもよい。
【0071】
本発明は、また他の一態様において、前記組成物の製造に用いるための、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド又はそのフラグメントであるペプチドの使用を提供する。
【0072】
本明細書において用いられた用語は、特定の具体例を説明するための目的のみで意図されたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。名詞の前に個数が省略された用語は、数量を制限するものではなく、言及された名詞の物品が、一つ以上存在することを示すものである。用語「含む」、「有する」、及び「含有する」とは、包括的意味と解釈される(即ち、「含まれるが、これに限定されない」という意味)。
【0073】
数値の範囲を言及するのは、単にその範囲内に属するそれぞれの別個の数値を、個別的に言及することに代わる容易な方法であるためであり、それではないと明示されていない限り、各数値は、個別的に明細書に言及されているように本明細書に適用される。全ての範囲の限界値は、その範囲内に含まれ、独立して組み合わせ可能である。
【0074】
本明細書に述べられる全ての方法は、特に明示されているか、文脈により明白に矛盾しない限り、適切な順序で行われ得る。いずれか一つの実施例及び全ての実施例又は例示的言語(例えば、「~のような」)を使用するのは、特許請求の範囲に含まれていない限り、単に本発明の一態様の記載を容易にするためのものであり、本発明の一態様の範囲を制限するものではない。本明細書のいかなる言語も、請求されていない構成要素を、本発明の一態様による実施に必須的なものであると解釈してはいけない。特に定めのない限り、本明細書に用いられる技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者により通常理解されるような意味を有する。
【0075】
本発明の一態様による好適な具体例は、本発明を実行するために、発明者に知られた最適のモードを含む。好適な具体例の変形は、先行する記載に触れれば、当業者に明白になるであろう。本発明者らは、当業者がそのような変形を適切に利用することを期待し、発明者らは、本明細書の記載とは異なる方式で、本発明が実施されることを期待する。従って、本発明は、一態様において、特許法により許容されているように、添付の特許請求の範囲に述べられた発明の要旨の均等物及び全ての変形を含む。さらに、全ての可能な変形内で、前述の構成要素のいかなる組み合わせも、ここで異なって明示するか、文脈上、明白に矛盾しない限り、本発明に含まれる。本発明は、一態様において、例示的な具体例を参照して、具体的に開示し、記述されたが、当業者は、添付の特許請求の範囲により定められる発明の思想及び範囲を逸脱することなく、形態及びディテールにおいて多様な変化が可能であることがよく分かる。
【0076】
以下、実施例及び実験例をもって、本発明の一態様による構成及び効果をより詳細に説明する。しかし、以下の実施例及び実験例は、本発明の一態様による理解を助けるために例示の目的にのみ提供されたものに過ぎず、本発明の範疇及び範囲を限定するものではない。
【実施例
【0077】
実施例1:ペプチドの合成
配列番号1のペプチド(以下、「PEP1」という)を、従来知られている固相ペプチド合成法(solid phase peptide synthesis, SPPS)に従って製造した。具体的に、ペプチドは、ASP48S(Peptron, Inc., 大韓民国・大田)を用いて、Fmoc固相合成法でC-末端からアミノ酸を一つずつカップリングすることにより合成した。次のように、ペプチドのC-末端の一番目のアミノ酸が、レジンに付着されたものを用いた。例えば、以下の通りである。
【0078】
NH-Lys(Boc)-2-クロロ-トリチルレジン
NH-Ala-2-クロロ-トリチルレジン
NH-Arg(Pbf)-2-クロロ-トリチルレジン
ペプチドの合成に用いた全てのアミノ酸原料は、N-末端がFmocで保護(protection)され、残基は全て酸で除去される、Trt、Boc、t-Bu(t-ブチルエステル)、Pbf(2、2、4、6、7-ペンタメチルジヒドロ-ベンゾフラン-5-スルフォニル)などで保護されたものを用いた。例えば、次の通りである。
【0079】
Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Arg(Pbf)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Met-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ahx-OH、Trt-メルカプト酢酸。
【0080】
カップリング試薬(Coupling reagent)としては、HBTU[2-(1H-ベンゾトリアゾル-1-イル)-1、1、3、3-テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート]/HOBt[N-ヒドロキシベンゾトリアゾル]/NMM[4-メチルモルホリン]を用いた。Fmocの除去は、20%のDMF中のピペリジン(piperidine in DMF)を用いた。合成されたペプチドを、レジンから分離及び残基の保護基の除去には、切断カクテル(Cleavage Cocktail)[TFA (トリフルオロ酢酸)/TIS(トリイソプロピルシラン)/EDT(エタンジチオール)/HO=92.5/2.5/2.5/2.5]を用いた。
【0081】
アミノ酸の保護基が結合された出発アミノ酸が、固相支持体に結合されている状態を利用して、ここに当該アミノ酸を各々反応させ、溶媒で洗浄した後、脱保護の過程を繰り返すことにより、各ペプチドを合成した。合成されたペプチドを、レジンから切り取った後、HPLCで精製し、MSで合成の可否を確認した後、凍結乾燥した。
【0082】
本実施例に用いられたペプチドへの高速液体クロマトグラフィーの結果、全てのペプチドの純度は、95%以上であった。
【0083】
ペプチドPEP1の製造についての具体的な過程は、以下の通りである。
【0084】
1)カップリング
NH-Lys(Boc)-2-クロロ-トリチルレジンに、保護されたアミノ酸(8当量)と、カップリング試薬HBTU(8当量)/HOBt(8当量)/NMM(16当量)とをDMFに溶解して加えた後、常温で2時間反応させ、DMF、MeOH 、DMFの順に洗浄した。
【0085】
2)Fmoc脱保護
20%のDMF中のピペリジン(piperidine in DMF)を加えて、常温で5分間2回反応させ、DMF、MeOH 、DMFの順に洗浄した。
【0086】
3)前記1)と2)の反応を繰り返して行い、ペプチドの基本骨格NH-E(OtBu)-A-R(Pbf)-P-A-L-L-T(tBu)-S(tBu)-R(Pbf)L-R(Pbf)-F-I-P-K(Boc)-2-クロロ-トリチルレジンを作製した。
【0087】
4)切断(Cleavage):合成が完了されたペプチドレジンに、切断カクテル(Cleavage Cocktail)を加えて、レジンからペプチドを分離した。
【0088】
5)得られた混合物に、冷却ジエチルエーテルを加えた後、遠心分離して得られたペプチドを沈殿した。
【0089】
6)Prep-HPLCで精製した後、LC/MSで分子量を確認し、凍結してパウダーとして製造した。
【0090】
実施例2:HCVに対するPEP1の効能の確認
細胞株の培養
本発明の一態様による、PEP1のHCV抗ウイルス効能の実施例において用いられた細胞株であるHuh7.5(human hepatocellular carcinoma)は、ATCC(American Type Culture Collection, Manassas, VA, USA)から購入し、JFH‐1細胞株は、Dr. Wakita(Tokyo Metropolitan Institute for Neuroscience, Tokyo, Japan)から提供されたHCV2a JFH‐1クローンで、Huh7.5細胞株から構築した。全ての細胞株は、10%FBS、1%抗生剤が含まれたDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)培地で培養した。
【0091】
試薬及び抗体
本発明の一態様による実施例において用いられた試薬は、NAC(N-acetylcysteine)、PDTC(pyrolidine dithiocarbamate)、ビタミンE、過酸化水素(H)、MbCD(methyl-β-cyclodextrin)、KNK-437(KNKとして、HSP70の抑制剤)、17AAG(17-N-Allylamino-17-demethoxy geldanamycin, HSP90の抑制剤)であり、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)、及びカルバイオケム(Calbiochem, Temecula, CA, USA)から購買して用いた。
【0092】
本発明の一態様による、実施例において用いられた抗体は、HSP70、HSP90、アイソタイプコントロール(isotype control)であり、サンタクルーズバイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA)から購買して用いた。抗LRP1抗体は、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific, Fremont, CA, USA)から購買して用いた。
【0093】
細胞内の活性酸素(ROS, Reactive Oxygen Species)の測定
JFH‐1細胞株を、24ウェルのプレートで5x10(cells/well)個の細胞を注入した後、翌日様々な実験物質に応じて、細胞内の活性酸素の生成を測定した。細胞内活性の測定は、DCF-DA(dichlorodihydrofluoresein diacetate, Invitrogen)を用い、染色後の蛍光測定は、Infinte M2000 Tecan(Tecan Trading AG, Switzerland)を用いて、485nm(emission)/535nm(excitation)で活性酸素の生成の可否を測定した。全ての蛍光単位は、任意の単位(arbitrary units)で表し、陽性対照群として過酸化水素(H、2mM)を用いた。Huh7.5細胞に対するROSの測定も、同様な過程を通じて行った。
【0094】
免疫ブロット分析
細胞は、プロテアーゼインヒビターカクテル(protease inhibitors cocktail, Roche, Basel, Switzerland)と、ポスファたーゼ抑制剤(phosphatase inhibitor, Roche)とが含まれた細胞溶解液(lysis solution, Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA)を用いて、タンパク質を獲得した。細胞溶解の後、溶解されない残骸を除去するために、4℃で10分間遠心分離した。50μgのタンパク質を、12%SDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)で電気永動の後、PVDF(polyvinylidene difluoride membrane, Millipore, Bedford, MA, USA)に転移した。移動されたメンブレンは、HSP90、p38、p-p38(Thr180/Tyr182)、JNK、p-JNK(Thr183/Tyr185)、ERK、p-ERK(Thr202/Tyr204)、SOD(superoxide dismutase oxidase)として、亜鉛‐銅含有酵素SOD(CuZn-SOD)、マンガン化‐SOD(Mn-SOD)、GAPDH(いずれもCell Signaling Technology及びSanta Cruz Biotechnologyから購入)に対する抗体を付けた後、SuperSignal West Pico Chemiluminescence Substrate(Pierce, Rockford, USA)を用いて蛍光発色し、ImageQuantTM LAS 4000 Mini Biomolecular Imager(GE Healthcare Bio-Sciences AB, Sweden)で現像した。Multi Gauge V 3.0(Fuji Film, Japan)を用いて、 β‐アクチン(β-actin)を補正値 (normalization)として使用し、濃度計(densitometry)で定量的分析を実施した。
【0095】
免疫沈降法(immunoprecipitation)のために、400μgの細胞溶解液(cell lysate)は、プロテインA/Gプラス‐アガローズビーズ免疫沈降剤(Santa Cruz Biotechnology)で2時間 、予め洗浄処理し、遠心分離の後、ビーズを除去した。この上清は、4μgの関連の抗体及び20μlのビーズと、細胞溶解緩衝液と、4℃で一晩培養した。免疫沈降は、抗‐HSP90(Cell Signaling Technology)抗体及びFKBP8(Thermo Fisher Scientific)の免疫ブロット分析のために用意した。
【0096】
LRP1/CD91siRNAを用いた一時のノックダウン(transient knockdown)
低密度脂質タンパク質受容体関連のタンパク質1(LRP1)/CD91(即ち、LRP1)は、表皮及び皮膚細胞の移動を促進するタンパク質であって、HSPに対する細胞受容体中の一つとして確認された。LRP1は、gp96、HSP90、HSP70、及び カルレクチクリンの受容体として、 HSPsによりシャペロンされるペプチドは、受容体に結合して、HSPsと共に抗原提示細胞に入り込む。eHSP90と結合して、LRP1複合体は、細胞内への入り込み及びシグナリング受容体としての役割を果たしていると提示される。これは、LRP1が、病理的又はストレス環境の下で、eHSPの役割に影響を及ぼすことを提示する。本発明の一態様によるペプチドPEP1の細胞内への進入が、eHSPに依存し、eHSPがその受容体LRP1により受容されることが知られた。本発明者らは、本発明によるペプチドPEP1の酸化的ストレス環境における抗酸化活性において、LRP1が重要であることを提示した。本発明の発明者らは、LRP1が、本発明のペプチドの細胞内に進入、及びJFH‐1細胞におけるROS生成の抑制に重要であることを示した。これを確認するために、抗体とLRP1に対するsiRNA(small interfering RNA)を用いて、LRP1の活性を抑制した。
【0097】
siRNA標的LRP1と、対照用(scrambled)siRNAは、バイオニア(Daejeon, Republic of Korea)から購入した。全てのsiRNAは、JFH‐1又はHuh7.5細胞株に、様々な濃度に応じて、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて注入した。18時間後、細胞からRNAを獲得した後、qRT‐PCR(quantitative reverse-transcription-polymerase chain reaction)を行い、RNAノックダウンを確認した。
【0098】
HCV RNAの定量的測定
HCV RNAレベルは、NS2遺伝子に対するプライマーを用いて、定量的PCRを行って測定した。細胞培養液の上清からHCV RNAの量を測定するために、RNAは、QIAamp Viral RNA Mini Kit(Qiagen)を用いて、細胞培養液100μlから抽出した。抽出したRNAは、cDNAの合成に用いられ、Transcript First Strand cDNA合成キット(Roche Applied Science)を用いた。PCRには、1x SYBR Green Mix(Qiagen)を用いた。リアルタイムPCRは、NS2順方向プライマー、5’‐CGACCAGTACCACCATCCTT‐3’(配列番号3)、及び逆方向プライマー, 5’‐AGCACCTTACCCAGGCCTAT‐3’(配列番号4)を、Bioneer Co.から購入して用いた。定量PCRには、7900HT Fast real-time PCR system(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いた。
【0099】
フローサイトメトリー(Flow cytometric)分析
FITC(fluorescein isothiocyanate)‐コンジュゲートしたPEP1の細胞内への浸透を確認するために、様々な物質を、細胞株に処理したものに、FITC‐コンジュゲートしたPEP1を、2時間さらに処理した後、FACS分析を行った。LRP1のノックダウンのために、siRNAを細胞に注入し、18時間後、PBSで洗浄し、FITC‐コンジュゲートしたPEP1を、2時間処理した後、細胞に付いているペプチドは、Trypsin/EDTA(Invitrogen)で処理して完璧に除去し、FACS緩衝液(PBS, 0.5%BSA)で洗い出した後、BD FACSFortessa(BD Biosciences, San Diego, CA, USA)で分析した。データ分析には、FlowJo software(version 9.7.7, TreeStar, Ashland, OR, USA)を用いた。
【0100】
ELISAを用いたHSP90の測定
Huh7.5と、JFH‐1細胞株とに、酸化誘導剤である過酸化水素(H, 2mM)と、抗酸化剤であるPDTC(100μM)とを、2時間処理した。培養の上清のHSP90(extra cellular HSP90, eHSP90)は、ELISA(R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)を使用し、製造社の指示書に記載の過程に従って行った。
【0101】
肝組織及びJFH‐1細胞の免疫蛍光染色及び測定
ヒトの肝の生検組織は、慢性HCV又はHBVを保有した患者及び対照群として、自己免疫性肝炎患者(AIH)から採取し、Soon Chun Hyang University Bucheon Hospital(2014-12-034)のIRB(institutional review board)、及びSeoul National University Hospital(1410-136-621)の監督の下で行われた。肝細胞及びJFH‐1細胞でHSP90の発現を測定するために、肝組織又はJFH‐1細胞は、抗‐HSP90抗体(Cell Signaling Technology)で染色した。視覚化のために、Alexa Fluor 594‐コンジュゲートした抗ラビットIgG(Invitrogen)を用いた。細胞核に対するカウンター染色のために、4‘、6‐ジアミジノ‐2‐フェニルインドル(DAPI, Sigma-Aldrich)を用いた。共焦点顕微鏡システムA1(Nikon, Minatoku, Tokyo, Japan)及びNIS‐Elements 4.20 Viewer(Nikon)を用いて、イメージの獲得及び処理を行った。
【0102】
統計分析
全てのデータは、平均±平均の標準エラー(SEM)で表し、統計的比較は、 GraphPad Prism, version 5.01(GraphPad, La Jolla, CA, USA)、両側スチューデントt検定(Student’s t-test)で行い、P値が0.05以下の場合、統計的で有意であると判定した。
【0103】
実験結果の分析
1)PEP1 HCV RNA複製の抑制効果
適切なROSのレベルが、HCV、HBV、及びHIVの複製を調節することは広く知られている。したがって、本発明者らは、PEP1のROSを抑制する効果を示すのが、ウイルスの複製を抑制するにあたって、効果を発揮できるという仮定を立て、JFH‐1細胞において、PEP1が、HCV RNAの複製抑制の効果を奏するかどうかを調べるための実験を行った。
【0104】
前記実験と分析方法に述べられた方法に従い、PEP1が、HCV RNAのうちの一つであるNS2の複製を抑制するかどうかを調べるために、NS2の転写量を測定した。JFH‐1細胞において、対照群(vehicle)、PEP1投与群、既存の抗酸化剤(NAC、PDTC、ビタミンE)投与群において、NS2の転写量を測定した結果、対照群に比べて、PEP1は、濃度依存的に10μMまで、NS2の転写を抑制すると示された。対照的に、既存の抗酸化剤NAC、PDTC、ビタミンEは、NS2の転写を全く抑制しないと示された(図16)。
【0105】
PEP1が、HSP90に依存的にROS活性の減少効果を示したことに基づいて、HCV RNA複製の抑制効果も、HSP90と関連があるかどうかを調べるための実験を行った。JFH‐1細胞において、アイソタイプ(isotype)、抗HSP70処理群、抗HSP90処理群に分けて、対照群(PBS)との比較時、PEP1のNS2転写量の抑制程度を測定した。PEP1によるHCV RNA増殖は、抗HSP90抗体の処理の際、増殖が抑制されなかった。しかしながら、抗HSP70抗体及びアイソタイプの場合、抗体と関係なく、PEP1によりHCV RNA増殖が抑制された(図17)。追加に、HSP90の受容体であるLRP1の抑制の有無によるPEP1のNS2転写量の抑制程度を測定した。LRP1 siRNAを処理して、LRP1の発現がノックダウンされると、JFH‐1細胞でHCV RNAの複製が、PEP1により減少されなかった(図18)。
【0106】
HSP90は、HCV RNA複製のために、NS5A及びFKBP8の結合体の形成に関与すると知られている。これにより、PEP1によるHCV RNA複製の抑制が、複製複合体の形成を妨げた結果であるか否かを調べた。PEP1をJFH‐1細胞に処理して、HSP90とFKBP8の結合を観察した。具体的に、JFH‐1細胞を、PEP1(10μM)で48時間培養した。その後、タンパク質を、抗FKBP8抗体又は抗HSP90抗体で免疫沈降(immunoprecipitation)法を実施した。HSP90及びFKBP8の内在的(endogenous)発現を、処理していないJFH‐1細胞で測定した。
【0107】
その結果、対照群に比べて、PEP1を処理したとき、FKBP8によるHSP90の共沈殿を減少させた(図19)。JFH‐1細胞において、細胞溶解物、対照群(PBS)、PEP1処理群に分けて、それぞれ抗HSP90及び抗FKBP8免疫沈降反応の後、抗HSP90及び抗FKBP8抗体で免疫ブロットを実施した結果、抗HSP90免疫沈降反応では、PEP1処理群においてFKBP8の発現が減少し、抗FKBP8免疫沈降反応では、PEP1処理群においてHSP90の発現が減少したことを、各々の抗体による免疫ブロットで検出した(図19)。このような結果は、PEP1が、HCV RCV複製の複合体の形成を直接に抑制し、PEP1がFKBP8との相互作用に作用するHSP90の主要部位に結合して作用することを提示する。
【0108】
前記実験の結果から、PEP1は、HSP90と結合する特性を有すので、HSP90のFKBP8に対する活性を減少させるメカニズムを通じて、HCV RNAの複製を抑制する効果を奏することが分かる。これは、PEP1が、HCVの複製を抑制し、抗ウイルス効能を示すことも言える。
【0109】
2)PEP1のROS生成の抑制
PEP1のウイルス感染細胞内で、ROSの生成を抑制する効能を調べるために、HCV感染細胞株であるJFH‐1細胞に、PEP1を投与したとき、ROSの生成が抑制されるかどうかについて、比較実験を行った。JFH‐1細胞株は、Huh7.5細胞を、HCV2a JFH‐1クローンで感染させて生成したものである。HCVビリオンの合成により、JFH‐1細胞株では、細胞内の活性酸素量が、Huh7.5細胞株(JFH‐1の母細胞株)でより高く調節されている。本発明者らは、PEP1が、JFH‐1細胞でROSの生成は、10μMまで投与量依存的な方式で相当阻害することを確認した。1及び10μMで、PEP1の抗酸化活性の効果は、NAC、PDTC 、及びビタミンEに匹敵した(図1)。
【0110】
前記実験と分析方法に記載の方法に従い、JFH‐1細胞及びHuh7.5細胞でROSを測定した。PEP1を様々な濃度で2時間処理した後、DCF‐DAで30分間染色後、蛍光を測定した。対照群として、ヒト肝細胞癌細胞株 Huh7.5と、JFH‐1細胞株に代表的な抗酸化剤と知られたNAC(2mM)、PDTC(100μM)、ビタミンE(10μM)を処理して比較した。PEP1を投与していない場合、JFH‐1細胞株において、細胞内の活性酸素量が、Huh7.5細胞株より約2倍以上増加した(図1)。したがって、PEP1を処理したとき、濃度依存的に活性酸素量が減少する。JFH‐1細胞において、PEP1を、濃度別(0.001、0.01、0.1、1、10μM)に投与した実験群、及び既存の抗酸化剤(NAC、PDTC、ビタミンE)を投与した実験群と、 対照群(vehicleを投与)とを比較した結果、PEP1は、濃度依存的にROSの生成を減少させ、既存の抗酸化剤も、ROSの生成の減少を示した(図1)。
【0111】
ROSは、MAPKシグナリング経路の活性を誘導できると知られているため、PEP1が、MAPKシグナリング経路に関連した因子(p38、JNK、ERK)を減少するか否かを調べる実験を行った(図2)。前記実験と分析方法に記載の方法に従い、JFH‐1細胞及びHuh7.5細胞において、免疫ブロットを実施した。p38及びJNKのリン酸化は、PEP1処理の後、JFH‐1細胞で減少し、これは、抗酸化剤であるNAC、PDTC、及びビタミンEを処理した結果と類似である。反面、ERKの活性は、PEP1及びビタミンE処理の両方により増加した(図2)。
【0112】
これと共に、JFH‐1細胞及びHuh7.5細胞において、各対照群及び実験群の両方が、HSP90の発現を測定した結果、全て強く発現すると示された(図2)。
【0113】
前記実験の結果により、PEP1を投与することで、細胞内ROSの生成の減少効果を見ることができ、これは、JFH‐1細胞内で特異的シグナリング、即ち、減少したMAPKシグナリングを通じて引き起こされることが分かる。
【0114】
図1図9は、PEP1が、JFH‐1細胞における活性酸素種(ROS)の生成を、 HSP90により抑制することを示す。
【0115】
3)PEP1の抗酸化効果におけるeHSP90の役割
本発明者らは、HSP90が、PEP1の抗酸化効果の媒介であると仮定した。本発明では、PEP1の抗酸化効果が、HSP90によることであるか否かを調べるために、HSP90の活性の有無によるPEP1のROSの生成程度を測定する実験をした。本発明者らは、HSP90との相互作用を、二つの方法で抑制した:HSP70に対する抗体、及びHSP90に対する抗体を使用又は触媒位置(HSP90のN‐末端中のATP‐結合のポケット)を占める抑制剤を用いた。前記実験と分析方法に記載の方法に従い、JFH‐1細胞において、PEP1投与群、抗酸化剤PDTC投与群と、対照群(PBS)とのROSの生成を測定して比較した。
【0116】
その結果、本発明では、PEP1が、抗HSP70抗体の存在の下では、JFH‐1細胞中でROSのレベルを抑制するが、抗HSP90抗体の存在の下では、抑制効果が観察されないことを示した(図3)。アイソタイプ(isotype)では、PEP1による抑制が観察された(図3)。また、HSP90の抑制剤である17AAGは、JFH‐1細胞に処理したとき、活性酸素の抑制効果を示したが、HSP70抑制剤であるKNKによる活性酸素の変化は、観察されなかった(図5)。対照薬物PDTCは、HSP70及びHSP90を、特定の抗体でブロックすることと関係なく、ROSの生成を抑制して、全ての処理条件でROSの生成を抑制した(図4)。また、PDTCは、KNK及び17AAGの存在の下で、全てROSの生成を抑制した(図6)。これは、PEP1が、相異なメカニズムを通じて、ROSの生成を阻害することを提示する。このようなデータは、eHSP90が、PEP1の抗酸化活性で重要な媒介体であり、PEP1が、HSP90でROSの誘導に必須的な触媒位置に作用することを示す。
【0117】
17AAGを処理したとき、PEP1の抗酸化活性の効果が低下するという結果から、本発明者らは、PEP1が、細胞内の活性酸素の濃度が非常に低いか、活性酸素が定常範囲にあるときには、活性酸素を抑制しない可能性について調べた。これは、抗酸化物質が、既に存在する状況では、PEP1が、JFH‐1細胞の中でもROSの生成を抑制できない可能性を提示する。本発明者らは、このような仮説を調べるために、抗酸化剤であるPDTCの濃度を増加させながら、細胞を処理した。その結果、PEP1の抗酸化活性が、漸進的に減少することを確認した(図7)。これは、JFH‐1細胞でPDTC処理によりROSのレベルが下がったためであり、減少するか、定常レベルのROSを有する細胞と比較して、酸化的ストレス環境の下にある細胞では、PEP1が、抗酸化剤として選択的に作用することを提示する。このようなPEP1の特性は、酸化的レベルに合わせた治療薬物の開発に寄与する。
【0118】
さらに、本発明では、活性酸素によるストレス状態で、PEP1の特異的抗酸化機能を確認するための実験を行った。具体的に、既存の抗酸化剤の投与が、HSP90の発現を減少し、これにより、PEP1が、既存の抗酸化剤と共に投与されるとき、抗酸化効能が、減少するか否かの可否を確認するための実験を行った。PEP1の抗酸化活性は、eHSP90に依存的であるので、本発明の実施例では、細胞からeHSPの分泌を測定した。Huh7.5細胞で、H2O2による刺激は、対照群よりかなり高いレベルで、eHSP90の分泌を増やした(図8)。反面、抗酸化物質であるPDTCを、JFH‐1細胞に処理したときには、対照群より低いレベルのeHSP90を生成した(図9)。このような結果は、酸化的ストレスが、HSP90の分泌を引き起こすことを提示する。また、PEP1が、酸化的ストレス状態にある細胞において、ROSの生成を選択的に抑制することを提示する。
【0119】
図1図9は、PEP1が、JFH‐1細胞における活性酸素種(ROS)の生成を、HSP90を通じて抑制することを示す。
【0120】
図10図15は、細胞外HSP90及びLRP1が、PEP1によるROSの生成に必須的であることを示す。
【0121】
4)PEP1による抗酸化効果におけるLRP1の役割
PEP1が、eHSP90に結合して細胞内に流れ込まれることが知られており、eHSP90が、細胞受容体であるLRP1に受容されることが知られている。LRP1は、gp96、HSP90、HSP70及びカルレクチクリンの共通的な受容体であり、HSPによりシャペロンされるペプチドは、これらの受容体と結合して、HSPと共に、抗原提示細胞に入り込む。LRP1複合体は、eHSPとカップリングして,内包及びシクリング受容体として作用し、LRP1が、病理的又はストレス状態で、eHSP90の作用に影響を与えることを提示する。これと共に、HSP90は、FK506‐結合タンパク質ファミリーのうちの一つであるFKBP8と、C型肝炎の非構造タンパク質(non-structural protein)5A(NS5A)と共に、HCV RNAの複製コンプレクスを形成する。このような事実は、 HSP90が、その発現又は活性を通じて、HCV RNAの複製を調節できることを提示する。HSP90は、NOX活性を調節して、スーパーオキシドの形成を誘導する。本発明者らは、PEP1が、HSP90の主要位置に結合して、HSP90の活性を抑制する方式を通じて,選択的な抗酸化作用を達成し、酸化的ストレス状態にある細胞で,様々な生物学的影響を及ぼすことを明らかにした。
【0122】
本発明者らは、酸化的ストレス状態で、LRP1が、PEP1の抗酸化効果に重要な役割を果たすと仮定した。本発明者らは、LRP1の不在の時には、PEP1が、細胞内に流れ込まれず、JFH‐1細胞でROSの生成を抑制できないと仮定した。
【0123】
このような仮定を確認するために、前記実験と分析方法に記載の方法に従い、PEP1が、HSP90の細胞受容体であるLRP1の有無に応じて、細胞内に流れ込まれる程度を確認した。具体的に、LRP1に対する抗体と、siRNAを用いてLRP1活性を抑制し、FITC‐コンジュゲートしたPEP1を用いて、フローサイトメトリーを実施した。
【0124】
図10図15は、細胞外HSP90及びLRP1が、PEP1によるROSの生成に必須的であることを示す。
【0125】
まず、クラトリン‐カベオリン‐、そしてクラトリン/カベオリン独立的な内包( endocyto)経路を抑制するリピドラフト(lipid raft)形成の抑制剤であるMbCDで事前処理したとき、PEP1がJFH‐1細胞に入り込めないことを確認した。以前に報告されたように、MbCDは、JFH‐1細胞の中にFITC‐PEP1が入り込むことを抑制し、これは、PBS対照群と比較して減少された蛍光強度で立証される。FITC‐PEP1の細胞内への流れ込みは、対照群と比較して、抗‐LRP1抗体のみならず、LRP1に対するsiRNA(即ち、LRP siRNA)によっとも抑制された(図11及び図12)。これは、LRP1が、PEP1のeHSP90依存的伝達において重要な受容体であることを提示する。
【0126】
また、酸化的ストレスが、PEP1の浸透能に影響を及ぼすか否かを確認するために、JFH‐1細胞にPDTCを添加し、Huh7.5細胞にH2O2を添加して、様々な酸化的レベルを生成した。これらの処理条件は、ROSレベルに応じて、eHSP分泌に相異な影響を与える(図8及び図9)。本発明者らが、仮定したのと一致するようにPDTCの存在の下で、JFH‐1細胞中へのPEP1の浸透は減少し、H2O2の存在の下で、Huh7.5細胞でPEP1の浸透は増加した(図13図14)。これは、PEP1の細胞内への流れ込みと、生物学的活性とが、細胞内のROSのレベルに依存し、これに応じて、eHSPのレベルに依存することを示す。
【0127】
次に、JFH‐1細胞でLRP1をノックダウンさせ、ROSのレベルを測定して、前記仮説を追加に確認した。JFH‐1細胞中のPEP1の抗酸化活性は、LRP1 siRNAの存在の下で観察されなかった(図15)。
【0128】
前記実験の結果により、PEP1の抗酸化メカニズムは、PDTCと相異し、PEP1は、HSP90の受容体であるLRP1の発現の有無に応じて、細胞内への流れ込みの程度が異なり、LRP1の発現が、減少又は抑制される場合、細胞内への流れ込みが、減少することが分かり、これは、PEP1が、HSP90に依存的に細胞内へ流れ込まれることを確認してくれると言える。
【0129】
5)HCVで感染された肝組織におけるHSP90の発現
細胞でない臓器又は組織にHCVが感染された場合、HBV又はAIH(autoimmune hepatitis, 自己免疫性肝炎)で感染された場合と異なって、HSP90の発現が増加することを確認するための組織解剖学的実験を行った。
【0130】
前記実験及び分析方法に記載の方法に従い、HCV、HBV、及びAIHで感染された肝組織において、HSP90の発現程度を比較した。その結果、HBV及びAIHの場合と比較して、HCVで感染された場合に、HSP90の発現が増加した(灰色部分、図20)。興味深く、PEP1は、JFH‐1細胞中で、細胞内のHSP90を減少させ、これは、恐らく減少されたROSのレベルによる付随的な結果であると思われる(図9)。また、HCVで感染された肝組織において、対照群(PBS)と、PEP1処理群とを比較したとき、HSP90が、PEP1処理の時、対照群に比べて低く発現されることが示された(灰色部分、図21)。
【0131】
図20及び図21は、HCVで感染された肝細胞で、HSP90が多量存在することを示す。
【0132】
前記実験の結果は、HCV感染により、細胞内部で定常細胞より高いレベルの活性酸素が誘導され、蓄積された活性酸素によりストレスを受けた細胞で、相対的にHSP90が過発現されるので、PEP1が、酸化的ストレス状態にあるHCV感染された細胞の治療剤として役割を果たすことを提示する。
【0133】
実施例3:HIVに対するPEP1の効能の確認
ウイルス感染の際、旺盛なウイルスタンパク質の生成はまた、HSP機能を必要とすることを確認し、HSP90阻害剤により抑制されるウイルスリストが、続けて増えることを確認した。ヒト免疫不全ウイルス‐1(human immunodeficiency virus-1, HIV‐1)感染もまた、単核球細胞で増加したHSP90の発現を示すことを見出した。HSP90は、ウイルスのライフサイクルの多くの段階で作用して、HIVの複製において重要な役割を果たしていると示され、急性で感染された細胞で、HIVウイルスの転写及び複製において、HSP90の役割は、HSP90阻害剤により抑制されると示された。これと共に、HSP90は、NF-κBシグナリングを調節することにより、潜伏性状態でHIV再活性を調節することを確認した。
【0134】
細胞株の培養
本発明のPEP1のHIV抗ウイルス効能の実施例で用いられた細胞株は、ヒトT細胞白血病細胞株MT‐4、HIV‐1で潜伏感染されたACH‐2細胞株、Jurkatから由来し、安定的に挿入されたHIV‐LTR-ルシフェラーゼ(luciferase)構造体を含む1G5細胞株であり、これらの細胞株を、NIH/AIDSリサーチ及びレファランス試薬プログラム(NIH, Bethesda, MD)から得た。293FT細胞は、ライフテクノロジー(Carlsbad, CA)から購入した。MT‐4及び1G5細胞株は、グルタミン(2mM)、10%牛胎児血清(FBS)及びペニシリン‐ストレプトマイシンが補充されたRPMI1640中で保持した。ACH‐2細胞は、2mMグルタミン、10%FBS、ペニシリン‐ストレプトマイシン及び5mM HEPESが補充されたRPMI1640中で培養した。293FT細胞株は、10%FBS、ペニシリン‐ストレプトマイシン、6mM L‐グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、及び0.1mM非必須アミノ酸を含有するダルベッコイーグル培地(DMEM)中で培養した。
【0135】
試薬及び抗体
抗レトロウイルス薬物として、T‐20、ラルテグラビル(Raltegravir)、フラボピリドル(Flavopiridol)、及びリトナビル(Ritonavir)を、アメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health;NIH, Bethesda, MD, USA)、AIDS部署、NIH/AIDSリサーチ及びレファランス試薬プログラム(NIH, Bethesda, MD, USA)から得て、指示の通り、D‐PBS、DMSO又は蒸留水に溶解した。アジドチミジン(3-アジド‐3‐ジオキシチミジン、AZT)は、シグマアルドリッチ(St.Louis, MO)から購入した。HSP90(#4877S)、ホスホ(Phospho)‐NF-κB(p65、#3033S)、IκB(#4814S)、及びホスホ‐IκB(#2859S)を、セルシグナリング(Cell Singaling, Danvers, MA)から得て、抗p24抗体(ab9071)を、アブカム(Abcam, Cambridge, MA)から購入した。HSP70に対する抗体(sc32239)、GFPに対する抗体(sc81045)、GAPDHに対する抗体(sc25778)、及びNF‐κBに対する抗体(p65、sc372)を、サンタクルーズバイオテクノロジー(Santa Cruz, Dallas, Texas)から購入した。
【0136】
プラスミド及びウイルス
単一のバイシストロニックRNA(Cat No. 11371, Dr. Daniel Sauter及びDr. Frank Kirchhoffより提供される)からNefと向上した緑色の蛍光タンパク質(eGFP)とを共に発現するpBR43IeG‐rcmGB1nefプロウイルスHIV‐1プラスミド、及びTatタンパク質(残基1~72)を産生するpSV2Tat72プラスミド(Cat. No. 294, Dr. Alan Frankeiより提供される)を、アメリカ国立衛生研究所、AIDS部署、NIH/AIDSリサーチ及びレファレンス試薬プログラム(NIH, Bethesda, MD)から得た。HIV‐1を産生するために、リポフェクタミン2000試薬(Life Technologies)を、製造者の指示に従って用い、293FT細胞を、pBR_HIV‐1_M_NL4-3_IRES_eGFPベクターでトランスフェクションを行った。トランスフェクションの48時間後、ウイルスを含有する培地を収集し、短く遠心分離及びフィルタリング(0.45μM)をした。ウイルスの力価を、p24ELISA(ABL, city, MD)を用いて測定した。感染性HIV‐1の増殖のために、MT‐4細胞を、生成されたHIV‐1(MOI=0.5)を用いて48時間感染させた。短く遠心分離(1,300rpm、3 min)した後、上清をフィルタリング(0.22μM)し、p24ELISAを用いて力価測定を行った。
【0137】
抗‐ウイルス効果アッセイ
PEP1の抗HIV‐1効果を測定するために、MT‐4細胞を用いて細胞基盤の抗‐ウイルス効果アッセイを行った。MT‐4細胞(4x10細胞)を、HIV‐1(4x10CCID50;50% cell culture infective dose)で1時間感染させた。D‐PBSで2回洗浄した後、感染された細胞にPEP1又は抗HIV‐1薬物を接種処理した。2日間培養した後、細胞を収集する前に、蛍光顕微鏡を用いて、eGFPを発現するMT‐4細胞のイメージを得た。収集した上清から残りの細胞残余物を除去するために、13,000rpmで3分間遠心分離し、細胞外ウイルス量を測定するにあたって、逆転写定量的ポリメラーぜ連鎖反応(RT‐qPCR)のために、p24ELISA又はRNA抽出を行った。一方、細胞ペレットを、D‐PBSで2回洗浄し、細胞生存性(cell viability)アッセイに用いた。PEP1の抗ウイルス作用におけるHSP90の役割を調べるために、MT‐4細胞を、HIVで1時間感染させ、抗HSP70(10ng)、抗HSP90(10ng)(Cell Signaling, Danvers, MA)又は17‐AAG(1μM)(Calbiochem, Darmstadt, Germany)で処理した。p24ELISAを用いて、HIV‐1複製を分析し、蛍光顕微鏡を用いてeGFPをモニターリングした。また、細胞溶解液を、抗‐GFP抗体を用いて免疫ブロットして、HIV‐LTR‐依存的eGFPの合成を確認した。
【0138】
細胞毒性アッセイ
MT‐4、1G5又はACH‐2細胞を、96ウェルのマイクロプレートで1x10の密度で接種し、PEP1の濃度を増加させて処理して、5日間培養した。細胞生存性をCellTiter96(登録商標)Aqueous One Solutionアッセイキット(Promega, WI)を用いて、製造社の指示の通り、色測定法で測定した。HIV‐1誘導の細胞死滅からPEP1が細胞保護能力を付与することを測定するために、MT‐4細胞(1x10)を、HIV‐1ウイルス(4x10CCID50)で5日間PEP1と共に、又はPEP1なしで感染させ、細胞生存性を測定した。
【0139】
HIV‐1ウイルス生成の測定
HIV‐1ウイルス力価を測定するために、HIV‐1p24抗原キャプチャELISA(p24ELISA、ABL)及びRT‐qPCTアッセイを行った。ELISAを、製造者の指示に従って行った。細胞培養の上清及びペレットから、QIAampウルトラセンス(Ultrasens)ウイルスキット(Quiagen, Hilden, Germany)を用いて、製造者の指示に従って、HIV‐1RNAゲノムを精製した。HIV‐1RNAのレベルを、HIV‐1gagに特異的なプライマーペアを用いて、RT‐qPCTにより定量化した。グリセルアルデヒドホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)を、標準化のための対照遺伝子として用いた。下記のプライマーペアをqPCRに用いた:Gag、5’-TGCTATGTCAGTTCCCCTTGGTTCTCT‐3’(sense, 配列番号5)及び5’-AGTTGGAGGACATCAAGCAGCCATGCAAAT‐3’(antisense, 配列番号6);及びGAPDH、5’-AATCCCATCACCATCTTCCA‐3’(sense, 配列番号7)及び5’-TGGACTCCACGACGTACTCA‐3’(antisense, 配列番号8)。HIV1型ゲネシグスタンダード(Genesig Standard)キット(Primer design, Southampton, UK)を用いて、ウイルス力価を測定した。ストックウイルスの濃度は、2x10copy/μlであった。
【0140】
実験結果の分析
1)PEP1によるHIV‐1複製の抑制
本発明の発明者らは、HSP90が、HIV‐1ライフサイクルにおいて重要な役割を果たし、PEP1が、HSP90と相互作用をすることから、PEP1が、HIV‐1に対して、抗ウイルス活性を抑制できるという仮設を立て、この仮説を検証した。PEP1の役割を調べる前に、まず、PEP1の非特異的な細胞毒性が、HIV‐1の複製に影響を及ぼす可能性を排除するために、PEP1の細胞毒性を分析した。
【0141】
図22図27は、PEP1によるHIV‐1複製の抑制を示すデータである。PEP1は、MT‐4、1G5及びACH‐2細胞に対して、25μMまでは、有意な細胞毒性を示さなかった(図22)。まず、PEP1の抗HIV‐1活性を、MT‐4細胞におけるHIV‐1の複製への影響を分析して測定した。MT‐4細胞を、pBR_HIV‐1‐M‐NL4‐3_IRES_eGFPから生成したHIV‐1で感染させ、様々な濃度のPEP1で処理した。p24ELISAで測定したように、MT‐4細胞中のウイルス粒子の生成は、投与量に依存的な方式でPEP1により相当阻害され、平均50%の阻害濃度(IC50)値は、約0.85μM(図23)であった。追加に、HIV‐1の活性化に依存するeGFPの生成ももた、PEP1で処理することにより減少した。このような結果は、PEP1の抗HIV‐1効果を追加的に支持する(図24)。PEP1によるウイルス粒子の生成の抑制は、生成されたウイルス粒子のHIV‐1ゲノムRNAのレベルを測定することにより、追加的に確認した。PEP1は、投与量依存的な抑制効果を示し、5μMのPEP1は、ウイルスRNAのレベルを、約100倍程度減少する(図25)。
【0142】
HIVで感染された細胞は、細胞内の細胞死滅メカニズムにより、アポトシス(apoptosis)が起こると知られている。PEP1が、HIV複製の抑制効果と共に、HIVが感染された細胞が自らアポトシスへ至る作用を抑制する効果があるか否かを調べるために、抗細胞変性効果(anti-cytopathic effect)アッセイを実施した。PEP1によるHIV‐1複製の抑制と一致して、PEP1は、HIV‐1感染されたMT‐4細胞において細胞の保護効果を示す。AZT及びPEP1は、投与量依存的な方式で相当の細胞保護効果を示した(図26及び図27)。AZTと類似に、5μMのPEP1は、HIV‐1媒介の細胞死滅からほとんど100%細胞保護作用を示す。このような細胞保護効果は、上清p24レベルが減少することと反比例するが、これは、PEP1が、ウイルスの複製を抑制することにより、細胞を保護できることを提示する。
【0143】
2) PEP1によるHIV‐1転写抑制
HIV‐1ゲノムからeGFPの生成が、Nefと同様の調節下にあることを考慮するとき、HIV‐1感染の細胞で、PEP1によるeGFP発現の減少は、PEP1によるHIV‐1転写の抑制を示す(図30)。PEP1によるHIV‐1の抑制メカニズムをより調べるために、PEP1と共に、複製の遮断段階が知られた既存の抗‐HIV薬物を用いて、追加時間(TOA)アッセイを実施した。対照群抗HIV薬物は、その特性がよく知られており、各薬物のHIV増殖段階における抑制は、次のように起こる:AZTは、逆転写活性を抑制し、3~4時間の間に、HIV増殖を抑制する;ラルテグラビル(raltegravir)は、HIV DNAが宿主DNAゲノムに挿入されるようにするインテグラーゼ(integrase)活性を抑制し、6~8時間の間に、HIVの増殖を抑制する;リトナビル(ritonavir)は、プロテアーゼの活性を阻害して、gal‐polポリペプチドの前躯体をプロセッシングできないようにして、非感染性未成熟のHIV粒子が生成されるようにし、15時間までHIV増殖を抑制する;T‐20は、ウイルスと、細胞膜との融合を阻害し、HIVウイルスが、細胞内に入り込むことを干渉し、さらに24時間の培養を処理して、治療剤でない対照薬物のDMSOより1/3少ない量のHIV増殖が起こる。
図28図30は、PEP1によるHIV‐1複製の抑制を、転写レベル (transcriptional level)で観察した写真である。TOAアッセイで、各薬物の結果は、HIV複製の抑制が、各薬物によりターゲットされた複製段階に相応する時間帯でよく示され、PEP1によるHIV抑制は、HIV感染のMT‐4細胞を、PEP1で処理した後、11~13時間の間に起こることを示す(図28)。eGFP発現の分析は、PEP1の阻害活性が、感染後12時間処理したとき、弱化されることを確認した(図29)。TOA典型的な結果によれば、挿入されたHIVゲノムからHIVウイルスの転写は、感染後11~13時間の間に起こる。このような結果は、HIVで感染されたMT‐4細胞で、PEP1の作用方式は、予測したように、転写活性を抑制して、HIV増殖を抑制する方式であることを提示する。本発明者らの仮説は、ウイルスmRNAレベルの分析を通じて、追加的に支持された。感染後、細胞をPEP1で9時間処理したとき、PEP1は、HIV‐1ウイルスmRNAの生成を効果的に抑制したが、感染後13時間後に処理したときには、ウイルスmRNAを減少する能力を喪失した(図30)。同時に、ハウスキーピングホストGAPDH mRNAの合成において有意の変化はなく、これは、PEP1が、HIV‐1ウイルス転写を選択的に調節することを提示する。
【0144】
前記実験の結果及び知られたHIVの時間帯別の増殖段階を通じて、PEP1が増殖の抑制を示す時間帯である11~13時間帯は、HIVが、細胞株の核内にDNAを注入した後(integration)、細胞内転写因子を用いて、増殖を始める段階として、後期相(late phase)の初期段階に該当することが分かった。これは、PEP1が、HIVの増殖に必要な多くの段階のライフサイクルの中で、細胞内の核に転写する時期にウイルスを抑制することを示し、PEP1が抗HIV抑制剤として優秀な効果を奏することがわかる。
【0145】
3)PEP1によるTat依存的HIV‐1転写の抑制
HIV‐1転移活性化(transactivation)タンパク質(Tat)は、Tat‐転移活性反応性領域(TAR)との相互作用を通じて、HIV‐1転写を劇的に向上する調節タンパク質である。PEP1が、HIV‐1転写を選択的に調節することを考慮して、本発明の発明者らは、PEP1がHIV‐1Tat転移活性に影響を及ぼすかを試した。本発明では、Jurkat派生の細胞株で、安定的に挿入されたHIV‐LTR‐ルシフェラーゼ構造体を含有している1G5を用いた。1G5を、HIV‐1で感染させるか、又はAZT又はPEP1の存在の下で、Tat‐レトロウイルスベクター(pSV2Tat72)で形質転換した後に、ルシフェラーゼ活性を分析した。
【0146】
HIV‐LTR‐ルシフェラーゼ構造(construct)が注入されている1G5細胞にHIV‐1で感染させた後、DMSO、AZT又はPEP1で後処理した。感染させた後、4日後、細胞溶解液(lysate)HIV‐LTRの転移活性(transactivation)を分析するためのルシフェラーゼアッセイを実施した。HIV‐1で感染させた1G5細胞は、ルシフェラーゼ活性において急激な増加を示した(図31)。AZT又はPEP1の処理は、HIV‐LTR‐ルシフェラーゼ活性に対するHIV‐1感染の効果を5倍ほど減少させた(図31)。
【0147】
1G5細胞を、Tatプラスミドで感染させた。感染させた後、12時間後、細胞は、前述のようにビヒクル(DMSO)、AZT又はPEP1で処理した。感染させた後、4日後にHIV‐LTRの転写活性は、ルシフェラーゼアッセイにより分析した。データは、平均(means)±SD(標準偏差)と代表表記した。***は、p<0.001であることを示す(図32)。図31の結果と一貫して、Tatの異所性(ectopic)発現により誘導されるHIV‐LTRルシフェラーゼ活性の活性化をPEP1が抑制した(図32)。しかしながら、AZTは、このような実験のセッティングにおいて、HIV‐LTRルシフェラーゼ活性を抑制しなかった。このような結果は、PEP1が、HIV‐1感染中、Tatの転移活性化機能を調節し、これにより、HIV‐1の複製を抑制することを示す。
【0148】
4) PEP1による潜伏期におけるHIV‐1の再活性化の抑制
HIV複製は、高活性の抗レトロウイルス治療法(HAART, highly active antiretroviral therapy)により探知可能なレベル以下で成功的に抑制できるが、HIVは、休止状態メモリ(resting memory)CD4+T‐細胞と共に、潜伏期の感染細胞内に留まることができる。
【0149】
Tatは、多くの種類の関連したタンパク質との相互作用を通じて、再活性化を調節するようにする分子スイッチとして作動する。
【0150】
PEP1が、Tat依存的転写活性を調節することから、HIV‐1の再活性化におけるPEP1の役割を調べた。HIV‐1DNAの単一コピーを有しているヒトT細胞株であるACH‐2細胞を、ビヒクル、AZT又はPEP1と共に、PMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)で処理した。即ち、ACH‐2細胞、即ち、HIV‐1の潜伏性状態(latently)で感染された細胞を、PMA(50nM)で刺激してHIV‐1の再活性化を1時間誘導した。次に、細胞は、DMSO、AZT、又はPEP1で24時間処理した。上清からウイルス性粒子の生成レベルを、p24ELISAで測定した。その結果、PMA処理は、上清p24レベルを相当増加させ、PEP1は、このような効果を殆ど消滅した(図33、データは平均 (means)±SD(標準偏差)と代表表記した。***は、DMSO対比 p<0.001であることを表す)。
【0151】
ACH‐2細胞は、PMAで処理した後、図33のように、濃度を段階別に増加したAZT又はPEP1で処理した。生成されるウイルス性粒子は、ウイルス性遺伝RNAの量を、RT‐qPCRを用いて測定した。その結果、AZTは、PMAの効果を変化しなかった。このような結果は、PEP1がPMA‐誘導されたHIV‐1の再活性化を抑制し、ウイルス粒子の生成を抑制することを提示する。類似に、HIV‐1ウイルスRNAゲノムレベルもまた、PMA‐処理した細胞由来の上清中でPEP1を処理した際、投与量依存的な方式で相当減少した(図34、データは平均(means)±SD(標準偏差)と代表表記した。***は、DMSO対比p<0.001であることを表す)。
【0152】
5)PEP1のHSP90依存的抗HIV‐1の活性
PEP1は、HSP90及びHSP70との相互作用をすると提示された。PEP1とHSPsとの相互作用は、HIF‐1α-VEGFシグナリング軸の阻害を招き、これは、PEP1がHSPsとの相互作用を通じて、細胞内のシグナリング経路が調節できることを示す。本発明の発明者らは、PEP1が、HSPsとの相互作用を通じて、HIV‐1の複製が調節できるかを調べた。驚くほど、MT‐4細胞中のPEP1媒介のHIV‐1生成の抑制は、抗HSP90の中性化抗体を処理したとき、完全に復旧された。
【0153】
反面、AZT媒介の抑制は、全く影響を受けなかった(図35)。即ち、MT‐4細胞は、HIV‐1で1時間感染処理の後、抗GAPDH、抗HSP70、抗HSP90抗体、又は17AAGで1時間処理し、後続にDMSO、AZT又はPEP1で処理した。感染の数時間後、HIV‐1粒子の生成は、p24ELISAで測定した。その結果、抗HSP70‐中性化抗体処理は、部分的復旧を招き、抗GAPDH抗体のアイソタイプ(isotype)の調節は、有意の効果がなかった。これは、PEP1の抗HIVの役割が、主にHSP90との相互作用により起こることを提示する(図35)。
【0154】
また、HSP抑制剤である17‐AAGもまた、PEP1の効果を完全に消滅させ、これは、PEP1の抗HIV活性が、HSP90を通じて起こることを確認した(図35)。また、PEP1によるHIV‐1の転写活性に依存するeGFP発現の抑制は、抗HSP90抗体により戻った。
【0155】
MT‐4細胞は、HIVで感染され、抗GAPDH、抗HSP90抗体で処理した。 細胞は、DMSO、AZT又はPEP1で24時間、先に述べられたように、処理した。eGFPの発現をテストするために、細胞を破裂して、免疫ブロットを通じて分析した。その結果、AZTの影響は受けなかった(図36及び図37)。このような結果は、PEP1が、HSP90との相互作用を通じて、HIV‐1の転写活性が調節できることを示す。
【0156】
6)PEP1の基底NF‐κB転写活性の抑制
NF‐κBは、HIV‐LTR内にあるNF‐κB結合位置と相互作用して、HIVの転写を触発し、Tat‐媒介されたLTRの転位活性化を増加させる。さらに、Tatは、NF‐κBを直接活性化できる。最近、細胞のHSP90が、NF‐κBを含めて、多数の細胞内のシグナリング経路を調節できることを示す研究が行われた。PEP1の抗HIV効果が、抗HSP90‐遮断抗体により消滅することは、PEP1の抗HIV機能で、細胞外HSP90の関与の可能性を提示するため、本発明の発明者らは、PEP1が、HSP90関連の方式で、NF‐κBの活性を調節して、HIV‐1の転写活性を調節するかを調べた。PEP1で処理すると、MT‐4細胞におけるHIV‐1感染の可否と関係なく、基底NF‐κBの活性を劇的に減少した(図38)。反面、AZTは、MT‐4細胞の中でNF‐κB活性に有意の影響を及ぼさなかった。AZTは、HIV‐1で感染されたMT‐4細胞の中で中間程度の抑制効果を示したが、これは、おそらく低いHIV複製レベルのためであろう(図38)。PEP1の基底NF‐κB活性に対する抑制効果は、EMSAで追加的に確認した(図39)。PEP1処理の細胞は、p65NF‐κB活性化の明白な減少を示した(図39)。これは、核内でNF‐κBのDNA結合の基底レベルを抑制することを示す。また、PEP1処理は、NF‐κB(p65)リン酸化の減少を招き、これは、PEP1が、NF‐κB細胞質の活性化と、以降の核内転移を抑制することを示す(図40)。HIV‐1で潜伏感染されたACH‐2細胞からも類似のことを得た(図40)。仮定した通りに、PEP1による処理は、DMSO処理の対照細胞と比較して、PMA処理のACH‐2細胞からNF‐κB(p65)の核内への移動を減少させた(図41)。本発明で、PEP1の抗HIV効果が、HSP90に依存することを示したため、本発明者らは、NF‐κB抑制効果が、HSP90に依存的であるかを試した。抗HIV活性のデータと一貫して、PEP1のNF‐κB抑制効果は、HSP90遮断抗体又はHSP抑制剤を処理したとき、完全に消滅された。反面、抗GAPDH抗体で処理したときには、有意の効果はなかった(図42)。
【0157】
以上をまとめると、本発明者らは、PEP1がNF‐κB活性の基底レベルを抑制して、HIV‐LTR転移活性を抑制することを示した。結果は、HSP90が、このような活性に関与することを提示する。以前の研究で、細胞内のHSP90が、NF‐κBを直接調節して、HIVの再活性化において重要な役割を果たすことを示した。本発明で示された抗HSP90抗体によるPEP1効果の無効化は、PEP1の抗ウイルス効果が、HSP90による、NF‐κBシグナリングと、HIV‐LTRの活性化とを通じて行われることを提示する。
【0158】
高活性の抗レトロウイルス治療法(HAART)により、HIV複製が成功的に抑制できるが、現在の治療法は、潜伏期感染のHIV‐1を根絶できていない。ウイルスの再活性化は、治療法が失敗する主要原因である。PEP1は、多数の臨床実験を通じて、その安定性が既に立証されている。したがって、PEP1の抗HIV効果は、HIV再活性の抑制のための効果的な治療法を提供することができる。
【0159】
実施例4:HBVに対するPEP1の効能の確認
肝癌の標的治療剤の開発のために、EGFRチロシンキナーゼ、c‐METキナーゼのみならず、IL‐6/JAK/STAT、Ras/ERK、Wntなどの様々なシグナリング経路を、標的候補群として研究した。この中で、IL‐6/JAK/STATシグナリング経路の場合、多様な研究の結果により、炎症と、癌化過程とを共に制御でき、HBV由来の疾患及びHCCの治療に効率的な標的となり得ることを確認した。72.4%の肝細胞癌の組織で、STAT3の非定常的活性化が観察され、STAT3の阻害が、肝癌細胞株の成長及び動物モデルにおける成長の抑制を誘導することを確認した。STATシグナリング阻害の目的で、現在、臨床実験に進入しているか、使用中の薬物は、殆どキナーゼ阻害剤であり、STAT3を直接阻害する薬物は、その一部が全臨床段階に進入したが、標的自体の薬物性(druggability)及び化合物の標的への選択性が不足して、これについて追加的な研究を実施した。特に、JAK2を阻害して、STAT3シグナル伝達を遮断することと関連して、肝細胞癌を対象にして臨床実験が進行中であるJAK阻害化合物は全無である。また、このような単一の段階を抑制する化合物の場合、耐性発生の確率が非常に高い。したがって、本発明者らは、JAK2/STAT3シグナリング経路の多くの段階において阻害活性を示し、シグナリング経路の全般を阻害できる新規化合物の開発のために研究した。
【0160】
細胞株の培養
ヒト由来の肝細胞癌Huh7細胞株(human hepatocellular carcinoma)(ATCC (American Type Culture Collection), Manassas, VA, USA)、Huh7.5細胞株、そしてHepG2細胞株(human hepatocellular carcinoma)(ATCC, Manassas, VA, USA)は、RPMI1640培地に10%牛胎児血清(Invitrogen, USA)と、2mmol/mlのL‐グルタミン、100μg/mlのペニシリンと、100units/mlのストレプトマイシンとを添加して、37℃、5%CO培養器で培養した。
【0161】
W4Pを含んだ全体HBVのビリオン形成抑制能
本発明者らは、肝癌において、性別の差による発生頻度の差が現れることに注目して、関連の研究を行い、男性で特異的に見付けられ、肝硬化及び肝癌の発生と関連した突然変異(W4P)を世界最初に明らかにした。W4Pは、新規のPre‐S1置換のW4P突然変異であって、抗原タンパク質の4番( Pre‐S1から4番目)アミノ酸をコードする遺伝子コードが、野生型TGGから突然変異CCG(下線は、突然変異された部分を示す)に変異された結果から生じた翻訳産物で、4番目のアミノ酸が、トリプトファン(W)からプロルリン(P)に置換されたタンパク質を言う。このような突然変異は、男性でIL‐6を通じて、JAK2‐STAT3シグナル伝達体系を調節することにより、肝癌の発生と進行を促進するという事実を明らかにし、臨床サンプルでも高いレベルのIL‐6が現れることを確認した。
【0162】
PEP1によるW4Pを含んだ全体HBVのビリオン形成能を観察するために、100mmディシーにhuh7細胞2x10個を注入して、定常の全体HBVと、W4Pを含んだ全体HBVを、トランスフェクション(transfection)の効率を補正するために、β‐ガラクトシダーゼ(galactosidase)を含むpCMV‐β‐galベクターをコ‐トランジエント(co-transient)トランスフェクションした後、三日間培養しながら、24時間毎に培地を交替して、sup(上清)を集めた。これを分析するために、HBsAg(Hepatitis B surface antigen)と、HBeAg(Hepatitis B envelop Antigen)とを検出できる一般化されたBioelisa HBsAgカラーELISAキット(BIOKIT S.A., Spain)と、 HBeAgELISAキット(BIOKIT S.A., Spain)とを用いて、提供された実験方法に従ってELISAを行った。集めたsupから100μlをウェルに入れた後、1時間37℃で反応させた。洗浄溶液を300μlずつ入れて3回洗浄した。コンジュゲート希釈溶液に300μlずつ入れて、3回洗浄した。基質(substrate)溶液にTMBを20μl/ml入れた後、96ウェルに100μlずつ入れて、30分間室温で光を遮断して反応させた。ストップ(Stop)溶液100μlを入れて反応を終結した。ELISAリーダー(Beckman, USA)で450nmで吸光度を読み取った。補正に用いられるβ‐ガラクトシダ‐ゼは、リポーター溶解緩衝液キットと、β‐ガラクトシダ‐ゼ酵素分析システム(Promega, USA)より提供した方法に従って実験を進み、ELISAの結果を補正した。
【0163】
W4Pを含んだ全体HBVのビリオンの外皮抗原発現抑制能
PEP1による、W4Pを含んだ全体HBVの外皮抗原発現能を確認するために、100mmディシーにhuh7細胞2x10個を注入して、定常の全体HBVとW4Pを含んだ全体HBVを、トランジエントトランスフェクションした後、三日間培地を交替しながら培養した後、細胞ペレットを集め、タンパク質を抽出してIPを行った。タンパク質にプロテインA/Gプラス‐アガローズ免疫沈降剤(Santa Cruz Biotechnology, USA)を20μl加えて、4℃で2時間pre-clearingする。pre-clearingした溶解液400μgのタンパク質に、プロテインA/Gプラス‐アガローズ免疫沈降剤(Santa Cruz Biotechnology, USA)」を20μl入れて、4μgの1次抗体を添加し、4℃で24時間反応させた。翌日、2,000rpmで遠心分離し、洗浄した後、再びタンパク質溶解液50μlで解した。1次抗体preS1と、HBs抗体とを用いてウェスタンブロットを行った。
【0164】
W4Pを含んだ全体HBVのビリオンの増殖の抑制能
W4Pを含んだ全体HBVのビリオンの増殖能を観察するために、先の方法で24時間毎に培地を交替しながら、交替したsupの全体を集めて、ビリオンDNAを抽出し、Quantitech SYBR Green Master-Mixキット(Qiagen)でリアルタイム定量PCRを行った。全体supは、SW28スウィングローターにより20,000rpmで2時間超遠心分離機でウイルスを沈殿した後、沈殿したウイルスペレットを、滅菌のDW200μlで解した。ビリオンDNAを抽出するために、100μg/mlのRNAse Aを処理し、溶解緩衝液(0.25%SDS、0.25M Tris、0.25M EDTA)100μlを加えた後、プロテイナーゼKを500μg/ml入れて、37℃で2時間反応させた。その後、フェノール:クロロフォルム抽出方法で抽出した。ウイルス増殖能を調べるために、HBVの小さい表面積部分を標的とするリアルタイムPCRプライマーを、SF‐Real(5’-TTG ACA AGA ATC CTC ACA ATA CC‐3’、配列番号9)と、 SR‐Real(5’-GGA GGT TGG GGA CTG CGA AT‐3’、配列番号10)とを作製する。96ウェルプレートに12.5μlのIQ SYBRグリーンスパーメックス(Biorad, California, USA)、1.25μlのSF‐Realプライマー、1.25μlのSR‐Realプライマー、9μlの滅菌蒸留水、1μlのcDNAを入れた。ExicyclerTM96リアルタイム定量逆ブロックシステム(Bioneer Co., Korea)を用いて、95℃で5分、94℃で15秒、60℃で15秒で40サイクルとし、 融解曲線(melting curve)分析のために、95℃で0秒、53℃で30秒、及び秒当りの0.1℃ずつ調節して、53℃から90℃まで温度を上昇させた。
【0165】
形質転換マウス
HBV形質転換マウスは、全てのORF(open reading frame)を含むHBV塩基配列の1.1倍をマウスの受精卵に微細注入法で注入した。研究に用いられるHBV塩基配列は、pHY92‐W4Pプラスミドを用いて得た。pHY92‐W4Pプラスミドは、マウスの受精卵に注入する前に、EcoRIにより切断して最終的に3.9kb長さの塩基配列を微細注入法に用いた。生成された個体は、HBsAg特定の配列を用いたPCRにより選別した。PCR‐陽性個体は、血清のHBsAgと、HBeAgとの濃度に応じて選別して、最終的にPCR‐陽性、HBsAg‐陽性、HBeAg‐陽性のマウスを研究に用いた。このマウスは、C57BL/6マウスと逆交配して、異型のHBV形質転換マウスを産生する。子孫のうち高いHBsAg‐、HBeAg‐陽性数値を表すマウスに対して、サザン(southern)、ノーザン(northern)の混成化を実施して、肝細胞のHBV複製の中間体と転写を確認した。このうち高い肝細胞のHBV複製の中間体と転写を示すHBV形質転換マウスを、PEP1による抗ウイルスの研究に使用した。
【0166】
流体力学(Hydrodynamic)注入法を用いた動物実験
C57BL/6マウスに全体HBV W4P遺伝体DNA(1.8ml solution injected wittin 5s into 20g mice)を注入した後、翌日からPEP1(50 μg/kg)を、1週間に2回皮下注射して処理した。血液サンプルは、1、3、7、10、そして14日、2週間獲得し、14日目に麻酔した後、全血を獲得して犠牲した。血液を採取して、血清を分離し、肝は迅速に切開して均質化(homogenize)した。
【0167】
HBsAg測定、HBV力価の定量及びウェスタンブロット
HBV-形質転換マウスのHBsAg数値は、HBsAgELISAキット(BIOKIT, Germany)を用いて測定した。HBV力価を定量するために、全てのDNAを抽出して、リアルタイムPCRにより確認した。ウェスタンブロットのために、8M尿素と同じ量のタンパク質溶解液を用いて細胞を溶解し、電気永動を用いて分離し、抗体と結合させ、化学発光探知ECLキット(Perkin Elmer, USA)を用いて確認した。
【0168】
RNA抽出及びノーザンブロット
REzol(Protech Technologies, Taiwan)を用いた細胞溶解を通じて抽出された細胞RNAを、イソプロパノール沈殿を用いて分離した。得られたRNAは、RNAse-free DNAse I(Roche, Germany)を37℃、30分間処理して、残余DNAプラスミドを除去した。その後、フェノール/クロロフォルムを用いて抽出し、エタノール沈殿と再懸濁とを用いて、RNAを精製した。ノーザンブロットのために、同じ量のRNAを、2%フォルムアルデヒドゲルによる電気永動により分離し、メンブレン(membrane)に移動して、HBVの全塩基に相応するP32‐標識されたHBV全長プローブに染色を行った。ローディングコントロールとして、同一のメンブレンでP32‐標識されたGAPDHプローブの混成化を使用した。
【0169】
HBVコア結合のDNAの分離及びサザンブロット
マウスの肝組織からHBV DNAを抽出するために、既存の過程に従い、次のような方法を用いる。細胞を溶解するために、10cmディシー当り1.2mLのNET緩衝液(50mM Tris‐HCl、pH8.0、1mM EDTA、pH8.0、100mM NaCl、0.5%NP‐40)を添加して、37℃で1時間、攪拌培養を実施し、遠心分離(13k rpm、10分、4℃)を実施して核を除去した。上清は、6mMのCaClにより調節して、Micrococcal Nuclease(Amersham Pharmacia Biotech AB, Sweden)を、37℃で30分間培養し、細胞質内のRNA又は残余のDNAプラスミドを分解した。その後、EDTA20mM を用いて、65℃で15分間、酵素を不活性化した。プロテイナーゼK(Sigma)200μg/mlと、SDS0.5%と、50℃で一晩反応させ、上清のタンパク質を分解し、HBVコア結合のDNAを抽出した。HBV DNAは、フェノール/クロロフォルムを用いて抽出し、エタノール沈殿とTE緩衝液の再懸濁(resuspension)により精製した。サザンブロットのために、精製したHBV DNA量の1/5を、1.5%電気永動により分離し、メンブレンに移動して、P32‐標識されたHBV全長プローブを用いた。
【0170】
IL6、TNFαサイトカインの分析
PEP1処理をした形質転換マウスと、流体力学注入モデルから獲得したマウスとの血清において、IL6と、TNFαとのレベルを比較するために、R&D ELISAキットを用い、提供された方式に従って行った。ELISAリーダー(Beckman, USA)で450nm級光度として読み取った。
【0171】
RNA発現の分析
マウスの肝組織から獲得したRNAを用いて、炎症関連のサイトカインIL6、IL1β、TNFαのRNAレベルで比較観察し、肝繊維化のマーカーであるTGFβ、コラーゲナーゼI及びIVの発現を比較し、免疫細胞マーカー4/80、CD68と、ケモカイン誘引剤(chemokine attractant)タンパク質と、その受容体のRNAの発現程度を、リアルタイムPCRにより確認した。対照群RNAは、18Sの発現と比較した。
【0172】
自然型及び全体HBV W4P遺伝体注入マウスの脾臓内免疫細胞の分析
形質転換マウスの脾臓を分離した後、脾臓内免疫細胞を収穫し、フローサイトメーターを用いて、B細胞、T細胞(CD8+、CD4+CXCR5+TFH細胞)、NKT細胞などの分布を分析した。脾臓細胞を、精製された自然型及び変異株の外皮抗原と共に培養し、T細胞の増殖をチミジン吸収(thymidine uptake)技法を通じて測定した。同時に、PHA、抗CD3抗体などを処理し、T細胞の増殖を同一の方法で測定して、マイトジェン(mitogen)処理後のT細胞の増殖能を研究した。
【0173】
自然型及び全体HBV W4P遺伝体注入マウスの肝内免疫細胞の分析
肝文脈を通じて、コラーゲナーゼを含んだ消化(digestion)溶液を用いて、肝のかん流(perfusion)後、肝を均質化し、消化溶液から細胞を得た後、低い遠心分離(30 RCF/3分)を通じて、肝細胞を除去し、勾配(gradient)遠心分離により肝内免疫細胞を収穫した。Fc‐ブロック後、抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗NK1.1、抗CD19、 抗CD11b、抗CD11cなどの抗体を用いて、フローサイトメトリーを行い、肝内免疫細胞の分布を分析した。
【0174】
T‐細胞活性の分析
外皮抗原を発現するP815細胞株を製造して、脾臓及び肝から得た免疫細胞を5日間活性化した後、外皮抗原を発現するP815細胞を、ターゲット細胞として使用し、分離されたT細胞の細胞毒性(cytotoxicity)を分析し、細胞質T細胞の活性化程度を測定した。また、脾臓と肝から得た免疫細胞からT細胞を、T‐細胞濃縮カラム(R&D)を用いて分離した後、外皮抗原発現P815細胞株と共に、16時間培養した後、2型インターフェロン(Interferon-γ)ELISPOTキットを用いて、特異的にγ‐インターフェロンを産生するT細胞を測定した。
【0175】
統計処理
SPSS12.0Kプログラムを用いて、各範疇間の差を比較する際には、フィッシャーの正確確率検定(Fisher's exact test)やカイ二乗検定(Chi-square test)を用いる。連続変数には、値が正規分布を従う場合、スチューデントのt検定(Student's t-test)を用い、そうでない場合には、マン‐ホイットニーのU検定(Mann-Whitney U-test)を用いて分析した。P値が0.05以下である場合、統計的に有意であると判定した。
【0176】
実験結果の分析
1)全体HBV W4P遺伝体を注入したHuh7、Huh7.5、HepG2細胞株におけるPEP1ペプチドによるHBsAg合成抑制能の確認
HBV HBsAgと、ビリオン分泌を誘導する本研究室で確立した全体HBV W4P遺伝体を用い、様々なヒト肝細胞癌の細胞株を用いて、PEP1のHBsAg分泌に及ぼす影響を観察した。Huh7、Huh7.5、そしてHepG2細胞株に、全体HBV W4P遺伝体をトランジエントトランスフェクション(transient transfection)した後、PEP1 10μMと、代表的な抗ウイルス剤のラミブジン(ramivudine、以下3TC)10μMとを処理した後、48時間後に、ペレット(pellet)と、sup(上清, supernatant)とを回収し、ELISAを行った。その結果、HBsAgのレベルにつき、 HepG2細胞株においては、細胞内外で全てPEP1 により抑制効果を示し、Huh7細胞株においては、細胞内では抑制したが、細胞外では差がなかった。一方、Huh7.5細胞株においては、細胞内外で全て効果がなかった。HBVポリメラーゼ阻害剤(polymerase inhibitor)である3TCもまた、対照群に比べて、抑制効果を示してはいたが、PEP1処理群と比較しては、大きな差を示さなかった(図43)。このような結果から、代表的な抗ウイルス剤の3TCと同様に、HBVのHBsAg合成におけるPEP1ペプチドによる抑制効果があることが立証された(データのSEMは、duplicateで3回実験した値である。*P<0.05、**P<0.01)。
【0177】
2)全体HBV W4P遺伝体を注入したHuh7、Huh7.5、HepG2細胞株におけるPEP1ペプチドによるビリオン(Virion)形成抑制能の確認
HBsAg分泌能が、PEP1ペプチドにより抑制されたことを観察した後、supでビリオン形成能も観察するために、先の方法で得たsupからPEG6000を用いてビリオンを集めた後、ウイルスDNA prep kit(Intron, Korea)を用いて、HBV DNAを取得し、リアルタイムPCRで定量化した。その結果、supに形成されたビリオンのレベルが、HepG2とHuh7細胞株では、3TCと同様に、全てPEP1により抑制効果を示したが、Huh7.5細胞株では、ビリオン分泌に影響を及ぼさなかった。HBVポリメラーゼ阻害剤(polymerase inhibitor)である3TCもまた、対照群に比べて、抑制効果を示してはいたが、HBsAg合成能と同様に、PEP1処理群と比較しては大きな差を示していなかった(図44a、図44b、及び図44c)。このような結果から、 代表的な抗ウイルス剤の3TCと同様に、HBVのビリオン形成におけるPEP1ペプチドによる抑制効果があることが立証された(データのSEMは、duplicateで3回実験した値である。*P <0.05、***P<0.01、***P<0.001)。
【0178】
3)全体HBV W4P遺伝体を注入したHepG2細胞株におけるPEP1ペプチドの濃度によるHBsAg合成抑制能の確認
Huh7、Huh7.5、HepG2細胞株において、PEP1ペプチドによるHBsAg合成の抑制効果を観察した結果、最も効果的なHepG2細胞株を用いて、PEP1の濃度による効果を観察するために、HepG2細胞株に全体HBV W4P遺伝体を注入した後、PEP1ペプチドを、0.01、0.1、1、10、100μM濃度に応じて処理し、48時間後、ペレットとsupとを集めて、ELISAを行った。対照群として、抗ウイルス剤3TCも同様な方法で処理した。その結果、PEP1ペプチドは、ペレットで、0.01μMから抑制効果を示すが、濃度によって多少差があり、supでは、10μM濃度まで抑制効果を示したが、100μMでは、全く効果がないと観察された。反面、3TCは、ペレットとsupの両方において、濃度による抑制効果が観察できた。このような結果から、PEP1ペプチドは、ペレットにおいて、HBsAg合成能に濃度依存的な効果を示すことを確認した(図45、データのSEMは、duplicateで3回実験した値である。*P<0.05、**P<0.01、***P <0.001)。
【0179】
4)全体HBV W4P遺伝体を注入したHepG2細胞株におけるPEP1ペプチドの濃度によるビリオン形成抑制能
前記実験の細胞supにおいて、ペプチドの濃度によるビリオン形成能を観察するために、supからビリオンを取得して、リアルタイムPCRを行った。その結果、PEP1ペプチドは、ペレットにおいて、0.01μMの低濃度では効果がなく、その反面、10μMの濃度で約48%の減少効果を示したが、100μMの高濃度では、返って全く効果を示さなかった。一方、3TCは、ビリオン合成においても、濃度による抑制効果が観察できた。このような結果から、PEP1ペプチドは、ビリオン形成において、10μM濃度まで濃度依存的な効果を示すことを確認した(図46、データのSEMは、duplicateで3回実験した値である。*P<0.05、**P<0.01、***P <0.001)。
【0180】
5)PEP1ペプチドによるHNF4αの発現に及ぼす影響
肝細胞核因子(Hepatocyte nuclear factor)4αは、HBVインヘンサー(enhancer)Iに結合することにより、HBVの合成に重要な役割をすると知られている。したがって、HepG2細胞株に、全体HBV W4P遺伝体を注入した後、PEP1 10μMを処理し、48時間後、ペレットからタンパク質を抽出して、ウェスタンブロットを行った。対照群として、mock vectorを注入して比較した。
【0181】
その結果、HBV増殖を誘導する全体HBV W4P遺伝体を注入したとき、増加したHNF4αの発現が観察されたが、HNF4αの発現は、PEP1ペプチドにより、3TCより最も効果的に減少することがを確認した。これにより、PEP1ペプチドのHBVの抗ウイルス効果は、転写因子(transcription factor)であるHNF4αの発現調節によりウイルス増殖を抑制することを立証した(図47)。
【0182】
6)PEP1ペプチドによる炎症関連のサイトカインに及ぼす影響
HBVのpreS1W4P変異株は、炎症調節サイトカインIL-6の形成にも密接な関連があると報告されている。したがって、IL-6 が誘導された細胞株において、PEP1による抗炎症効果を観察するために、HepG2とHuh7細胞株に全体HBV W4P遺伝体を注入した後、PEP1 10μMと、3TC 10μMとを それぞれ処理し、48時間後、培養supからIL-6のレベルを、ELISAにより観察した。その結果、IL-6増殖を誘導する全体HBV W4P遺伝体を注入したとき、HepG2細胞株では、IL-6レベルが全く検出されない程度に低いレベルで存在し、Huh7細胞株でも、PEP1により、IL-6の抑制効果は観察されなかった。3TC処理群も同様に、全くIL-6サイトカインの形成には影響を及ぼさないことを観察した(図48)。
【0183】
7)全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおけるPEP1のHBsAg合成能と、ビリオンとへの影響
PEP1ペプチドによる抗ウイルス効果を観察するために、全体HBV W4P遺伝体を注入してなった形質転換マウスを用いて、HBsAg合成能を観察した。PEP1ペプチドを、50μg/kg濃度で1週間に2回ずつ、マウスの尾静脈に注入した。対照群として、3TC500μg/kgを、PEP1ペプチドと同様に注入して、4週、8週後、マウスの全血を採血して、血清からHBsAgレベルを観察するために、HBs ELISAを行った。また、マウスの血清からHBVビリオンDNAを取得し、リアルタイムPCRを行った。
【0184】
その結果、血清内のHBsAgのレベルは、4週まで処理したとき、PEP1ペプチドと3TCの両方とも減少効果を示さなかったが、8週目には、PEP1ペプチドにより約10%ほど減少効果を示し、その反面、3TCは、効果がなかった。また、ビリオンレベルを観察するために、マウスの血清からビリオンDNAを獲得して、リアルタイムPCRを行った結果、4週目には、HBsAgと同様に、両方ともビリオンの抑制効果は、観察されなかったが、8週目には、PEP1ペプチドが約50%、3TCは約52%の抑制効果を示した。これにより、PEP1が、全体HBV W4P変異株の遺伝体が含まれた形質転換マウスで形成されるビリオンの形成及び分泌を抑制することを確認した(図49)。
【0185】
8)全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおけるPEP1ペプチドによるタンパク質発現への影響
PEP1ペプチドによる抗ウイルス効果に及ぼすタンパク質発現の変化を観察するために、全体HBV W4P変異株の遺伝体を注入してなった形質転換マウスを用いて観察した。PEP1ペプチドを、50μg/kgの濃度で1週間に2回ずつマウスの尾静脈に注入した。対照群として、3TC500μg/kgを、PEP1ペプチドと同様に注入した。8週目に、マウスから全血を採血し、マウスの肝からタンパク質を抽出した後、ウェスタンブロットを行い、タンパク質の発現を観察した。
【0186】
その結果、HBVの増殖に作用するにあたって重要なHBVの逆転写酵素の活性と密接な関連のあるHeat Shock Protein 90(HSP 90)と、HBVにより慢性的に感染されている患者において活性が増加しているスーパーオキシドディスムターゼ(superoxide dismutase、SOD)の発現において、PEP1ペプチドによる影響は観察されなかったが、様々なシグナル経路で、転写活性化剤(transcriptional activator)として作用するHBxによる肝細胞癌の進行過程に密接な関連のあるras/raf‐分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(mitogen activated protein kinase、MAPK)のうち、特に細胞外シグナル調節タンパク質キナーゼ(extracellular signal - regulated protein kinase、ERK)タンパク質のリン酸化は、PEP1ペプチドにより発現が抑制され、JAK/STAT(Jenus kinase/signal and transducer and activator transcription factor)のシグナルのうち、JAK2のリン酸化もまた、PEP1ペプチドにより調節されることを確認した。対照群である3TCもまた、ERKとJAK2シグナルのリン酸化を抑制することが確認できた。これにより、PEP1ペプチドは、HBVの増殖を調節して、肝細胞癌の進行過程において重要な役割を果たすMAPKと、JAK/STATとのシグナルを調節することにより、HBVによる肝細胞癌の進行を抑制できる重要な役割を果たすと思料される(図50)。
【0187】
9)全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおけるPEP1ペプチドによる免疫細胞分布への影響
PEP1は、テロメラーゼに由来のHLA Class II結合ペプチドで、T‐細胞と、補助T-細胞との免疫反応を誘発する16個のアミノ酸ペプチドである。したがって、PEP1ペプチドによる腎臓の免疫細胞分布の変化を観察するために、全体HBV W4P変異株の遺伝体を注入してなった形質転換マウスを用いて、4週目にマウスから全血を採血し、マウスの腎臓を獲得して免疫細胞を分離した後、リンパー球マーカー(lymphocyte marker(B細胞(CD19B)、CD4、CD8、NK1.1細胞))と、骨髄細胞マーカー(DC(CD11c)、大食細胞(マクロファージ(F4/80))、好中球(neutrophil)(Ly‐6G)、単核球(monocyte)(Gr1))を用いて細胞外細胞表面(extracellular cell surface)染色方法で染色した後、FACS分析を行った。
【0188】
その結果、PEP1ペプチドにより、リンパー球(lymphocyte)であるB細胞、CD4、CD8、NK1.1細胞のいずれも有意的な差を示さなく、骨髄系の細胞であるDC、マクロファージ、好中球、単核球もまた、細胞分布に影響を及ぼさないと確認した。3TCもまた、PEP1と同様に、全体HBV W4P形質転換マウスの免疫細胞の分布に影響を及ぼさないと確認した(図51a ~図51h )。
【0189】
10)全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおけるPEP1ペプチドによるインターフェロンγ(INFγ)活性への影響
ウイルスに対抗して、免疫細胞からホルモン様のサイトカインであるINFを分泌する。このようなINFでは、α、β、γが存在し、このうちINFγが、人体内でB型肝炎ウイルスの抑制に重要であることが知られている。したがって、PEP1ペプチドによる免疫反応でINFγの活性に及ぼす影響を観察するために、全体HBV W4P変異株の遺伝体を注入してなった形質転換マウスを用いて、PEP1ペプチド50μg/kgと、3TC500μg/kgとの濃度で1週間に2回ずつ尾静脈に注入してから8週目に、マウスから全血を採血し、マウスの腎臓を獲得して免疫細胞を分離した後、HBsAgを処理して刺激した。72時間の刺激後、ブレフェルジン(Brefeldin)Aで細胞内にINFγサイトカインを置いた後、細胞内染色方法で染色した後、FACS分析を行った。
【0190】
その結果、PEP1ペプチドによっては、CD4、CD8、そしてNK1.1細胞のいずれもINFγの活性が現れず、3TCもまた、若干の増加は示したが、有意的な差を示してはいない(図52a~図52g)。
【0191】
11)全体HBV W4P遺伝体の形質転換マウスにおけるPEP1ペプチドによる大食細胞(マクロファージ)の分化への影響
マクロファージのM1への分化は、感染された細胞を、細胞死滅に誘導して抗ウイルス効果を示すと知られている。したがって、PEP1ペプチドが、マクロファージをM1へ分化できる能力があるか否かを観察するために、全体HBV W4P変異株の遺伝体を注入してなった形質転換マウスを用いて、PBS、PEP1ペプチド50μg/kg、及び3TC500μg/kgをそれぞれ、1週間に2回ずつ尾静脈に注入してから8週目に、マウスから全血を採血した後、マウスの腎臓を獲得して、免疫細胞を分離後、マクロファージ(F4/80)と、M1マーカーであるMHCIIとを用いて、細胞外細胞表面(extracellular cell surface)染色方法で染色した。この後、FACS分析を行った。
【0192】
その結果、PEP1ペプチドにおける骨髄系の細胞のうちマクロファージの分布は、有意的に増えたが、これらの細胞が、M1への分化においては、PBS群に比べて増加してはいるが、有意的ではなかった。HBVポリメラーゼ阻害剤(polymerase inhibitor)である3TCは、細胞分布及び分化の両方とも差を示さなかった(図53)。
【0193】
12)全体HBV野生株遺伝体の形質注入細胞におけるHSP90の遮断によるPEP1ペプチドの抗ウイルス効果
PEP1は、HSP90を媒介にして、シャトル(shuttle)式で細胞の外部から内部へ、細胞膜を通過すると知られている。このようなメカニズムに基づいて、HSP90の活性を遮断するようになると、細胞内で抗ウイルス効果が減少するかを確認するために、本研究では、HepG2細胞株に全体HBV野生株の遺伝体を一時的に形質注入した後、抗‐GAPDH、抗‐HSP(1μg/ml、HSP90の活性を遮断)と、17‐AAG(1 μM)とを1時間処理し、再びPBS(0.5%)、エンテカルビ(Entecavir、ETV、30nM)、PEP1(5μM)を、24時間処理した後、上清を集めてPEG6000でウイルスを沈殿し、ウイルス性DNAを抽出して、リアルタイム定量PCR(real-time quantitative PCR)を行い、抗ウイルス効果を観察した。全ての実験は、3回にかけて独立的に進行され、統計学的な有意性検定は、一元配置分散分析(one way ANOVA)を用いて、テューキーの多重比較法(Tukey’s Multiple Comparison Test)により実施した。**p<0.05は、PBSに基づいて比較し、##p <0.05は、Noneに基づいて比較した。
【0194】
その結果、なんの処理もしていない細胞にPEP1を処理した群では、PEP1による抗ウイルス効果が、ETVより統計的に有意であり、GAPDHを遮断した群でも同様な結果を示し、HSP90とHSP90の抑制剤と知られた17‐AAGとを処理した群では、PEP1による抗ウイルス効果が、統計的に有意でなくなったことを確認した(図54)。反面、ETVの抗ウイルス効果は、何の処理もしていない細胞やGAPDH、HSP90又は17‐AAGを処理した細胞において、いずれも差がないことを確認した。
【0195】
上記のように、PEP1ペプチドにより、HBVの転写過程で、HBVインヘンサーに結合してインヘンサーの活性を増加するにあたって重要な転写因子(transcription factor)であるHNF4αの発現を抑制して、HBVのHBsAgとビリオンの形成を減少させることを確認した。
【0196】
また、PEP1は、肝細胞癌の進行過程で重要なERKとJAK/STATシグナル経路を抑制して、HBVの増殖を抑制することにより、HBVで感染された細胞の肝細胞癌への進行を防ぐにあたって重要な役割を担当している。
【0197】
ウイルスが人体に感染されると、このようなウイルスに対抗して、免疫細胞ではインターフェロン(INF)を分泌するが、特にINFγは、人体内でB型肝炎ウイルスを抑制するにあたって重要なものとして知られており、HBVで感染されたときの免疫細胞の分布と、INFγ分泌活性を示す免疫細胞の比率が重要である。本発明のPEP1により、全体HBV W4P変異株の遺伝体が含まれた形質転換マウスの免疫細胞比率と、INFγサイトカインの活性が増加された免疫細胞とを比較したとき、対照群であるPBS処理群と差がないと確認された。これにより、HBVで感染された人体では、PEP1ペプチドが、人体内の免疫システムを調節することによりERKやJAK/STATシグナル経路を抑制するか、HBVインヘンサー(enhancer)に作用する転写因子(transcription factor)であるHNFαの発現を減少することにより、HBV mRNAの合成を抑制して、HBVの増殖を抑制するのに重要な役割を担うと考えられる。
【0198】
このように、PEP1は、HBVに対する抗ウイルス効果があることが分かっており、PEP1は、多数の臨床実験により、その安定性が既に立証されている。したがって、PEP1の抗HBV効果は、肝毒性及び腎毒性のなく、安全であり、HBV感染疾病の治療用組成物及び治療方法が提供できる。
【0199】
前記実施例から、本発明によるペプチドであるPEP1、及びPEP1を含む組成物は、ウイルスの複製の抑制効果及び抗ウイルス効果があることが分かった。これを利用して、ウイルス抑制剤及び抗ウイルス治療剤の開発、又はウイルス関連疾病の予防及び治療の方法を提供する。
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