(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】3相モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/493 20070101AFI20230130BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20230130BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 E
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2022021672
(22)【出願日】2022-02-15
(62)【分割の表示】P 2020525258の分割
【原出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/023139
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018218128
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392029742
【氏名又は名称】田中 正一
(72)【発明者】
【氏名】田中 正一
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/098585(WO,A1)
【文献】特開2007-028866(JP,A)
【文献】特開2016-039679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/493
H02M 7/48
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相モータの3つの独立相コイルに別々に接続される3つのHブリッジからなるデュアルインバータを制御するコントローラを備える3相モータ駆動装置において、
前記Hブリッジはそれぞれ、前記独立相コイルへ電源電流を供給するための電流供給期間をもち、
前記各Hブリッジの前記電流供給期間は、互いにできるだけオーバーラップしないように配置されることを特徴とする3相モータ駆動装置。
【請求項2】
複数の前記Hブリッジの前記電流供給期間は、互いにオーバーラップされる遷移期間をもつ請求項1記載の3相モータ駆動装置。
【請求項3】
先行する前記電流供給期間は、後続する前記電流供給期間よりも長い請求項1記載の3相モータ駆動装置。
【請求項4】
最長の前記電流供給期間は、残りの2つの前記電流供給期間により挟まれる請求項1記載の3相モータ駆動装置。
【請求項5】
3つのHブリッジの電流供給期間のうち相対的に短い2つの前記電流供給期間は、優先的に互いにオーバーラップされる請求項1記載の3相モータ駆動装置。
【請求項6】
3相モータの3つの独立相コイルに別々に接続される3つのHブリッジからなるデュアルインバータを制御するコントローラを備える3相モータ駆動装置において、
前記3つのHブリッジの1つは、所定期間毎に順番に休止され、
他の2つの前記Hブリッジは、前記3相モータ内に回転磁界を形成する請求項1記載の3相モータ駆動装置。
【請求項7】
前記3つのHブリッジの1つは、前記3相モータの電気角60度毎に順番に休止される請求項6記載の3相モータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相モータ駆動装置に関し、特に電力損失を低減可能な3相モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用トラクションモータを駆動する3相インバータは、液体冷却装置により冷却される。しかし、この液体冷却装置は、車両重量を増加し、バッテリエネルギーを消費する。この車両重量の増加はバッテリエネルギーの消費を加速する。このため、電気自動車技術において、インバータ損失の低減が要求されている。インバータのパワートランジスタは高いサージ電圧を発生する。このため、パワートランジスタは、所定長さの遷移期間を必要とする。しかし、パワートランジスタのスイッチング損失は、この遷移期間の長さにほぼ比例する。
【0003】
特許文献1は、相補的にPWM駆動される2つの3相インバータからなるデュアルインバータを記載する。このデュアルインバータはダブルPWMモード及びPULSEモードをもつ。2つの3相インバータは、ダブルPWMモードにおいて互いに反対波形の3相正弦波電圧を出力する。2つの3相インバータは、PULSEモードにおいて互いに反対波形の矩形波電圧を出力する。このデュアルインバータは、U相Hブリッジ、V相Hブリッジ、及びW相Hブリッジからなる。各Hブリッジの2つのレグはそれぞれ、PWMモードにおいてそれぞれPWMレグとなり、PULSEモードにおいてそれぞれ固定電位レグとなる。PWMレグはPWM制御されるレグを意味する。けれども、このデュアルインバータは、従来の3相インバータと比べて2倍のパワー半導体素子数を必要とする。このため、従来の3相モータは3相インバータで駆動されるのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、電力損失を低減可能な3相モータ駆動装置を提供することである。
【0006】
好適には、2つの3相インバータからなるデュアルインバータは3つのHブリッジを形成する。各Hブリッジはそれぞれ、PWMレグ及び固定電位レグからなる。PWMレグは、パルス幅変調(PWM)制御される。固定電位レグは3相交流電圧の所定位相期間において直流出力電圧を維持する。このデュアルインバータのPWM制御はシングルPWMと呼ばれる。これにより、デュアルインバータのいわゆるスイッチング損失及びリカバリ損失は、従来の3相インバータとそれと比べて約半分となる。
【0007】
好適には、コントローラは、PWMレグ及び固定電位レグを3相交流電圧の半周期毎に交代させる。これにより、デュアルインバータの6つのレグの間の温度差を低減することができる。
【0008】
好適には、固定電位レグの上アームスイッチは常にオンされる。直流電源からデュアルインバータに供給される電源電流は、Hブリッジの下アームスイッチによりPWM制御される。この方式は、上アーム導通式シングルPWMと呼ばれる。これにより、直流電源とデュアルインバータとを接続する電源線が発生するリンギングサージ電圧は低減される。結局、トランジスタの耐圧を増加無しにその遷移期間を短縮することができる。その結果、インバータ損失の主要成分であるスイッチング損失は低減される。
【0009】
好適には、Hブリッジの2つの上アームスイッチは、+バスバーを挟む。この+バスバーは、+電源線を通じて直流電源の正極に接続される。+バスバーのラインインダクタンスは、Hブリッジの2つの上アームスイッチの間を流れるフリーホィーリング電流が遮断される時、リンギングサージ電圧を発生する。2つの上アームスイッチ間の距離短縮により、このリンギングサージ電圧は低減される。その結果、デュアルインバータのスイッチング遷移期間を短縮することができ、スイッチング損失が低減される。
【0010】
好適には、PWMレグと固定電位レグの切り替えのために実行されるHブリッジの上アームスイッチのオフ動作は、PWMサイクル期間内のフリーホィーリング期間において実行される。このフリーホィーリング期間において、直流電源とデュアルインバータとを接続する電源線はリンギングサージ電圧を発生しない。しかし、Hブリッジの2つのレグを接続する+バスバーを流れるフリーホィーリング電流は、+バスバー上にリンギングサージ電圧を発生する。しかし、電源線と比べて非常に短い+バスバーはリンギングサージ電圧を低減する。
【0011】
好適には、3つのHブリッジは空間ベクトル変調パルス幅変調(SVPWM)により制御される。本発明の1つの重要な様相において、各Hブリッジの電流供給期間は互いにできるだけ重ならないように配置される。これにより、直流電源の抵抗損失は低減される。
【0012】
好適には、3つのHブリッジの各電流供給期間のうち、相対的に短い2つの電流供給期間は優先的にオーバーラップされる。電流供給期間の長さは電流振幅にほぼ比例する。したがって、電流供給期間のオーバーラップによる直流電源の抵抗損失増加を抑制することができる。
【0013】
好適には、複数のHブリッジの電流供給期間は連続して配置され、互いに隣接する2つの電流供給期間は互いに重なる遷移期間をもつ。好適には、最長の電流供給期間は、残りの2つの電流供給期間により挟まれる。好適には、相対的に短い電流供給期間は、相対的に長い電流供給期間の直後に配置される。これにより、リンギングサージ電圧、電磁波ノイズ、及び直流電源の高周波損失を低減することができる。
【0014】
本発明のもう1つの重要な様相において、デュアルインバータは1つのHブリッジが休止されるダブルHブリッジモードを実行する。他の2つのHブリッジはPWM制御される。休止されるHブリッジは電気角60度毎に変更される。部分負荷運転条件において実行されるダブルHブリッジモードは、インバータ損失を低減する。この様相は、他のデュアルインバータにより採用されることができる。
【0015】
好適には、デュアルインバータは、複数のケーブルにより直流電源に接続される。複数のケーブルの合計電流は本質的にゼロである。各ケーブルは複数の非磁性導体管により別々に覆われる。各非磁性導体管の一端部は直接又はキャパシタを通じて短絡される。各非磁性導体管の他端部は直接又はキャパシタを通じて短絡される。これにより、二次短絡回路をもつコアレストランスが形成される。この二次短絡回路は、電源電流が急変する時、電源線のラインインダクタンスに蓄積された磁気エネルギーを吸収する。その結果、インバータは、リンギングサージ電圧や電磁波ノイズを増加することなく短い遷移期間をもつことができる。結局、3相インバータのスイッチング損失は低減される。
【0016】
好適には、ゲートドライバは、遷移速度遅延回路を通じてデュアルインバータのトランジスタにゲート電圧を印加する。この遷移速度遅延回路は、ゲート電圧の立ち上がり速度をゲート電圧の立ち下がり速度よりも増加する。これにより、デュアルインバータのスイッチング損失を低減することができる。
【0017】
好適には、3相インバータに接続される複数のケーブルは、既述された二次短絡回路をもつコアレストランスに電気的に接続される。これにより、3相インバータのスイッチング損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例のデュアルインバータを示す模式配線図でてある。
【
図2】
図2は、1つのHブリッジの出力電圧波形及び出力電流波形を示すタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、正半波期間のPWMサイクル期間における1つのHブリッジの状態を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、負半波期間のPWMサイクル期間における1つのHブリッジの状態を示すタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、第1位相期間の電流供給期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図6】
図6は、第1位相期間のフリーホィーリング期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図7】
図7は、第2位相期間の電流供給期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図8】
図8は、第2位相期間のフリーホィーリング期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図9】
図9は、第3位相期間の電流供給期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図10】
図10は、第3位相期間のフリーホィーリング期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図11】
図11は、第4位相期間の電流供給期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図12】
図12は、第4位相期間のフリーホィーリング期間における1つのHブリッジの状態を示す模式配線図である。
【
図13】
図13は、デュアルインバータのトリプルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。
【
図14】
図14は、電気角360度における1つのHブリッジ出力電圧の基本波成分を示す波形図である。
【
図15】
図15は、デュアルインバータの合成電圧ベクトルの回転範囲を示すベクトル図である。
【
図16】
図16は、デュアルインバータのダブルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。
【
図17】
図17は、デュアルインバータの電流分散方式を説明するためのタイミングチャートである。
【
図18】
図18は、電流分散方式を採用するモータ装置を示す模式配線図である。
【
図19】
図19は、電流分散方式の一例を示すタイミングチャートである。
【
図20】
図20は、電流分散方式のもう1つの例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、電気自動車の3相トラクションモータを駆動するデュアルインバータを示す配線図である。このデュアルインバータは、それぞれ2レベル電圧型3相インバータからなるインバータ1及びインバータ2からなる。インバータ1及び2は、コントローラ10により制御される。このモータのステータコイルは、それぞれ独立相コイルであるU相コイル3U、V相コイル3V、及びW相コイル3Wからなるダブルエンデッド3相コイル3からなる。
【0020】
インバータ1は、U相レグ1U、V相レグ1V、およびW相レグ1Wからなる。レグ1Uは、直列接続された上アームスイッチ11及び下アームスイッチ12からなる。レグ1Vは、直列接続された上アームスイッチ13及び下アームスイッチ14からなる。レグ1Wは、直列接続された上アームスイッチ15及び下アームスイッチ16からなる。
【0021】
インバータ2は、U相レグ2U、V相レグ2V、およびW相レグ2Wからなる。レグ2Uは、直列接続された上アームスイッチ21及び下アームスイッチ22からなる。レグ2Vは、直列接続された上アームスイッチ23及び下アームスイッチ24からなる。レグ2Wは、直列接続された上アームスイッチ25及び下アームスイッチ26からなる。
【0022】
このデュアルインバータは、+バスバー810及び-バスバー820を通じて図略の直流電源に接続されている。6個の上アームスイッチは、相コイル3U、3V、及び3Wの各一端を+バスバー810に接続する。6個の下アームスイッチは、相コイル3U、3V、及び3Wの各他端を-バスバー820に接続する。各アームスイッチは、逆並列ダイオード及びトランジスタからなる。
【0023】
レグ1UはU相電圧VU1を相コイル3Uに印加し、レグ2UはU相電圧VU2を相コイル3Uに印加する。U相電圧VU(=VU1-VU2)が相コイル3Uに印加される。レグ1VはV相電圧VV1を相コイル3Vに印加し、レグ2VはU相電圧VV2を相コイル3Vに印加する。V相電圧VV(=VV1-VV2)が相コイル3Vに印加される。レグ1WはW相電圧VW1を相コイル3Wに印加し、レグ2WはW相電圧VW2を相コイル3Wに印加する。W相電圧VW(=VW1-VW2)が相コイル3Wに印加される。3つの相電圧(VU、VV、及びVW)の間の位相差は電気角120度である。
【0024】
レグ1U及び2Uは、U相電圧VUを相コイル3Uに印加するU相のHブリッジを形成する。レグ1V及び2Vは、V相電圧VVを相コイル3Vに印加するV相のHブリッジを形成する。レグ1W及び2Wは、W相電圧VWを相コイル3Wに印加するW相のHブリッジを形成する。互いに電気角120度の位相差をもつ3つのHブリッジの制御動作をは本質的に同じである。このため、U相Hブリッジの制御動作が以下に説明される。この制御動作は、上アーム導通式シングルPWMと呼ばれる。
【0025】
図2は、U相電圧VU及びU相電流IUの各基本波成分を示す波形図である。U相電流IUはU相電圧VUよりも所定の位相角だけ遅れる。相電圧VUの1周期(=電気角360度)は正半波期間PAと負半波期間PBとに分割される。期間PAは位相期間P1及びP2に分割される。期間PBは位相期間P3及びP4に分割される。位相期間P1及びP3は相コイル3Uから直流電源へ負の電源電流IPとしての回生電流IRを戻す期間である。位相期間P2及びP4は直流電源から相コイル3Uへ正の電源電流IPを供給する期間である。
【0026】
デュアルインバータは、上アーム導通式シングルPWMにより制御される。この上アーム導通式片側PWMにおいて、レグ1U及び2Uは交互にパルス幅変調(PWM)される。各Hブリッジはそれぞれ、固定電位レグ及びPWMレグからなる。固定電位レグの上アームスイッチは定常的にオンされる。期間PAにおいて、レグ1Uは固定電位レグとなり、レグ2UはPWMレグとなる。期間PBにおいて、レグ1UはPWMレグとなり、レグ2Uは固定電位レグとなる。固定電位レグ及びPWMレグは電気角180度毎に交代される。PWMサイクル期間TC内に電流供給期間を自由に配置可能な空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM)法がPWMレグの制御に好適である。
【0027】
このSVPWMにおいて、コントローラ10は、各PWMサイクル期間TC毎に電流供給期間TXを形成する。PWMデユーティ比は比率(TX/TC)に等しい。電流供給期間TXを除く他のPWMサイクル期間TCはフリーホィーリング期間TFとなる。直流電源は、電流供給期間TXにおいて3相コイル3へ電源電流IPを供給する。フリーホィーリング電流は、フリーホィーリング期間TFにおいてインバータ1及び2と3相コイル3との間を循環する。
【0028】
図3は、期間PAにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。固定電位レグであるレグ1Uはハイレベル(1)を出力する。PWMレグであるレグ2Uは電流供給期間TXにおいてローレベル(0)を出力し、フリーホィーリング期間TFにおいてハイレベル(1)を出力する。
【0029】
図4は、期間PBにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。固定電位レグであるレグ2Uはハイレベル(1)を出力する。PWMレグであるレグ1Uは電流供給期間TXにおいてローレベル(0)を出力し、フリーホィーリング期間TFにおいてハイレベル(1)を出力する。
【0030】
図5-
図12は位相期間P1-P4におけるレグ1U及び2Uの状態を示す。相コイル3Uは逆起電力Vaをもつ。
図5は位相期間P1の電流供給期間TXを示す。負の電源電流である回生電流IRが直流電源4へ戻る。
図6は位相期間P1のフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifは磁気エネルギーを相コイル3Uに蓄積する。
図7は位相期間P2の電流供給期間TXを示す。電源電流IPが相コイル3Uに供給される。
図8は位相期間P2のフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifが相コイル3Uの磁気エネルギーを消費する。
【0031】
図9は位相期間P3の電流供給期間TXを示す。回生電流IRが直流電源4へ流れる。
図10は位相期間P3のフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifが相コイル3Uを流れる。
図11は位相期間P4の電流供給期間TXを示す。電源電流IPが相コイル3Uへ流れる。
図12は位相期間P4のフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifが相コイル3Uを流れる。
【0032】
図13は、3つのHブリッジがそれぞれPWM制御される基本的なトリプルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。
図14は出力電圧VU1及びVU2の各基本波成分を示す波形図である。このトリプルHブリッジモードにおいて、ロータ磁界と同期する合成回転電圧ベクトルが、3相コイル3に印加される3つの相電圧ベクトルにより形成される。
【0033】
図15は、ダブルHブリッジモードを説明するためのベクトル図である。このダブルHブリッジモードにおいて、3つのHブリッジの1つは、電気角60度毎に順番に休止され、残りの2つのHブリッジがPWM制御される。
図15において、電気角0度は合成回転電圧ベクトルの方向がU相電圧VUの方向に一致する位相角度を示し、電気角60度は合成回転電圧ベクトルの方向が-W相電圧-VWの方向に一致する位相角度を示す。電気角120度は合成電圧ベクトルの方向がV相電圧VVの方向に一致する位相角度を示し、電気角180度は合成回転電圧ベクトルの方向が-U相電圧-VUの方向に一致する位相角度を示す。電気角240度は合成回転電圧ベクトルの方向がW相電圧VWの方向に一致する位相角度を示し、電気角300度は合成回転電圧ベクトルの方向が-V相電圧-VVの方向に一致する位相角度を示す。
【0034】
レグ1U及び2UからなるU相HブリッジはU相電圧VU及び-VUを交互に出力する。レグ1V及び2VからなるV相HブリッジはV相電圧VV及び-VVを交互に出力する。レグ1W及び2WからなるW相HブリッジはW相電圧VW及び-VWを交互に出力する。
図15において、6つの相電圧ベクトル(VU、-VW、VV、-VU、VW、-VV)は最大振幅値をもつ。
【0035】
図15において、合成回転電圧ベクトルが回転可能な領域は12個の位相領域(Z1-Z12)に分割される。6つの位相領域(Z1-Z6)において、合成回転電圧ベクトルは互いに隣接する2つの相電圧ベクトルのベクトル和により形成される。この隣接する2つの相電圧ベクトルの各振幅値はそれぞれPWM法により調節される。
【0036】
たとえば、位相領域Z1内の合成回転電圧ベクトルは、それぞれPWM制御される相電圧ベクトルVU及び-VWのベクトル和により形成される。相電圧ベクトルVUはU相Hブリッジの電流供給期間TXに相当する。相電圧ベクトルーVWはW相Hブリッジの電流供給期間TXに相当する。同様に、位相領域(Z2-Z6)の合成回転電圧ベクトルは2つのHブリッジの電流供給期間TXにより形成されることができる。結局、ダブルHブリッジモードにおいて、合成回転電圧ベクトルが位相領域(Z1-Z6)内に形成される時、1つのHブリッジが休止され。その結果、デュアルインバータの電力損失が低減される。他方、合成回転電圧ベクトルが位相領域(Z7-Z12)内に達する時、トリプルHブリッジモードが実行される。
【0037】
図16は、このダブルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。U相レグ1U及び2Uは、電気角60度-120度及び電気角240度-300度の期間において休止される。V相レグ1V及び2Vは、電気角0度-60度及び電気角180度-240度の期間において休止される。W相レグ1W及び2Wは、電気角120度-180度及び電気角300度-0度の期間において休止される。これにより、デュアルインバータの電力は低減される。各レグの休止のための上アームスイッチのオフは、フリーホィーリング電流が流れるフリーホィーリング期間に実施されることが好適である。これにより、リンギングサージ電圧が低減される。
【0038】
図15に示される破線円は、合成回転電圧ベクトルの振幅が1つの相電圧ベクトルの最大振幅値に等しい状態を示す。ダブルHブリッジモードは、この破線円の内側にて実行される。トリプルHブリッジモードはこの破線円の外側にてが実行される。
【0039】
次に、電流分散方式が
図17を参照して説明される。
図17は、トリプルHブリッジモードにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。この電流分散方式は、モータの部分負荷条件において空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM)法により実行される。3つのHブリッジの電流供給期間TXは共通のPWMサイクル期間TC内に配置される。3つの電流供給期間TXの重なりはできるだけ回避される。同様に、ダブルHブリッジモードの2つのHブリッジの電流供給期間TXもできるだけ互いに重ならないようにPWMサイクル期間TC内に配置される。
【0040】
この電流分散方式の効果が
図18を参照して説明される。
図18は、PWM制御されるデュアルインバータ5を用いるEVトラクションモータ装置を示すブロック図である。電源抵抗値(r)をもつ直流電源4は+電源線81及び-電源線82を通じてデュアルインバータ5にパルス形状の電源電流IPを供給する。デュアルインバータ5は、相コイル3UにU相電源電流IUPを供給し、相コイル3VにV相電源電流IVPを供給し、相コイル3WにW相電源電流IWPを供給する。したがって、電源電流IPは3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)の和に等しい。
図18は、3相コイル3及びデュアルインバータ5を循環するフリーホィーリング電流を図示しない。
【0041】
3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)が互いに重なる時、直流電源4の抵抗損失は、値(r)(IUP+IVP+IWP)(IUP+IVP+IWP)となる。3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)が互いに重ならない時、直流電源4の抵抗損失は、値(r)((IUP)(IUP)+(IVP)(IVP)+(IWP)(IWP)となる。
【0042】
たとえば、V相電源電流IVP及びW相電源電流IWPはそれぞれ相対振幅値(1)をもち、U相電源電流IUPが相対振幅値(2)をもつことが仮定される。相電源電流IUP、IVP、及びIWPが互いに重なる時、直流電源4の抵抗損失は値(16r)となる。相電源電流UP、IVP、及びIWPが互いに重ならない時、直流電源4の抵抗損失は値(6r)となる。したがって、電流分散方式は、部分負荷条件において直流電源4の抵抗損失を大幅に低減する。
【0043】
たとえば、U相電源電流IUPの相対振幅値がゼロである時、V相電源電流IVP及びW相電源電流IWPはそれぞれ相対振幅値(1)をもつ。電源電流IUP、IVP、及びIWPが互いに重なる時、直流電源4の抵抗損失は値(4r)となる。電源電流UP、IVP、及びIWPが互いに重ならない時、直流電源4の抵抗損失は値(2r)となる。
【0044】
しかし、モータ電流が増加する時、複数相の電流供給期間TXは互いに重なる。トリプルHブリッジモードによれば、相対的に短い2つの電流供給期間TXが優先的にオーバーラップされる。これは、相対的に長い電流供給期間TXは、相電流の振幅が高いことを意味するからである。これにより、直流電源の抵抗損失を低減することができる。
【0045】
好適には、一相の相電流が減少する立ち下がり過渡期間は、もう1つの相電流が増加する立ち上がり過渡期間と重なる。これにより、電源電流のリップルを低減することができる。その結果、直流電源4の平滑キャパシタの損失が低減される。さらに、+電源線81のリンギングサージ電圧が低減される。
【0046】
さらに、2つ乃至3つの相の電流供給期間は、連続的に配置される。これにより、電源電流IPの高周波電流リップル及び平滑キャパシタの損失が低減される。さらに、1つの相の最も長い電流供給期間TXは、他の2つの相の電流供給期間TXに挟まれる。これにより、+電源線81に生じるリンギングサージ電圧が低減される。たとえば、トリプルHブリッジモードを示す
図19において、最長のW相の電流供給期間TXWは、V相の電流供給期間TXVの終了時点から開始される。同様に、U相の電流供給期間TXUはW相電流供給期間TXWの終了時点から開始される。たとえば、ダブルHブリッジモードを示す
図20において、より短いU相の電流供給期間TXUはW相電流供給期間TXWの終了時点から開始される。
図19及び
図20は相電源電流IUP、IVP、及びIWPを示す。
図19及び
図20によれば、隣接する2つの相電源電流は過渡期間Ttにおいて重なる。これにより、+電源線81を流れる電源電流の変化が抑制され、リンギングサージ電圧が抑制される。
【0047】
SVPWM法で駆動されるデュアルインバータの3つのHブリッジは、できるだけ重ならない電流供給期間をもつ。これにより、直流電源の抵抗損失を大幅に低減することができる。
【0048】
ダブルHブリッジモードを採用するデュアルインバータは、1つのHブリッジのPWMスイッチングを常に休止する。これにより、インバータ損失はさらに低減される。