(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】バッテリ用交流電流供給回路
(51)【国際特許分類】
H01M 10/637 20140101AFI20230130BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20230130BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20230130BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20230130BHJP
H01M 10/657 20140101ALI20230130BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20230130BHJP
【FI】
H01M10/637
H01M10/42 P
H01M10/44 P
H01M10/615
H01M10/657
G01R31/389
(21)【出願番号】P 2022129351
(22)【出願日】2022-08-15
【審査請求日】2022-08-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392029742
【氏名又は名称】田中 正一
(72)【発明者】
【氏名】田中 正一
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-037859(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0299551(US,A1)
【文献】特開2020-022312(JP,A)
【文献】特開2007-242332(JP,A)
【文献】特開2011-254673(JP,A)
【文献】特開2000-228231(JP,A)
【文献】特開2006-266814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/637
H01M 10/615
H01M 10/657
H01M 10/42-10/48
G01R 31/389
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリとともに閉じたAC電流循環回路を形成する蓄電デバイスと、
前記循環回路を通じて交流電流を循環させる二次コイルを有する降圧トランスと、
前記降圧トランスの一次コイルに交流電圧を印加する発振駆動回路と、
前記発振駆動回路の制御により前記バッテリの放電動作と充電動作とを交互に繰り返す制御回路と、
を備
え、
前記蓄電デバイスは、3相インバータの一対の直流電源端子と並列接続された平滑キャパシタからなる
ことを特徴とするバッテリ用交流電流供給回路。
【請求項2】
バッテリとともに閉じたAC電流循環回路を形成する蓄電デバイスと、
前記循環回路を通じて交流電流を循環させる二次コイルを有する降圧トランスと、
前記降圧トランスの一次コイルに交流電圧を印加する発振駆動回路と、
前記発振駆動回路の制御により前記バッテリの放電動作と充電動作とを交互に繰り返す制御回路と、
を備え、
前記蓄電デバイスは、昇圧チョッパの入力端子に接続された平滑キャパシタからなる
ことを特徴とするバッテリ用交流電流供給回路。
【請求項3】
バッテリとともに閉じたAC電流循環回路を形成する蓄電デバイスと、
前記循環回路を通じて交流電流を循環させる二次コイルを有する降圧トランスと、
前記降圧トランスの一次コイルに交流電圧を印加する発振駆動回路と、
前記発振駆動回路の制御により前記バッテリの放電動作と充電動作とを交互に繰り返す制御回路と、
を備え、
前記バッテリは、並列接続された2つのバッテリグループからなり、
前記2つのバッテリグループの中間電位点は前記二次コイルを通じて接続される
ことを特徴とするバッテリ用交流電流供給回路。
【請求項4】
バッテリとともに閉じたAC電流循環回路を形成する蓄電デバイスと、
前記循環回路を通じて交流電流を循環させる二次コイルを有する降圧トランスと、
前記降圧トランスの一次コイルに交流電圧を印加する発振駆動回路と、
前記発振駆動回路の制御により前記バッテリの放電動作と充電動作とを交互に繰り返す制御回路と、
を備え、
前記蓄電デバイスとしての平滑キャパシタ及び前記バッテリはそれぞれ、中間電位点をもち、
前記2つの中間電位点は前記二次コイルを通じて接続される
ことを特徴とするバッテリ用交流電流供給回路。
【請求項5】
前記発振駆動回路は、前記放電動作を高電流レートで相対的に短時間実施し、前記充電動作を低電流レートで相対的に長時間実施する請求項1乃至4のいずれかに記載のバッテリ用交流電流供給回路。
【請求項6】
前記制御回路は、前記発振駆動回路から前記一次コイルへ交流電力を供給することにより、前記バッテリを温める請求項1乃至4のいずれかに記載のバッテリ用交流電流供給回路。
【請求項7】
前記制御回路は、前記発振駆動回路から前記一次コイルに交流電力を供給することにより、前記バッテリに電気化学的影響を与える請求項1乃至4のずれかに記載のバッテリ用交流電流供給回路。
【請求項8】
前記制御回路は、前記降圧トランスの前記一次コイルを通じて検出した前記バッテリのインピーダンスに基づいて前記バッテリの内部状態を決定する
請求項1乃至4のいずれかに記載のバッテリ用交流電流供給回路。
【請求項9】
前記制御回路は、前記降圧トランスを通じて前記バッテリに交流電流を供給することにより、前記バッテリの電極状態をリフレッシュする
請求項1乃至4のいずれかに記載のバッテリ用交流電流供給回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に交流電流を供給するバッテリ用交流電流供給回路に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のような二次電池は、低温条件下においてバッテリの性能が低下するという難しい問題をもつ。たとえば、LFP電池を氷点下で充電することは深刻な問題を引き起す。このため、低温バッテリに交流電流を供給してバッテリを直接に加熱する交流加熱法が提案されている。バッテリの内部抵抗損失を利用するこの交流加熱法はバッテリを急速加熱することができる。
【0003】
本出願人により出願された特許文献1は、新規な回路素子を追加すること無しに3相インバータから3相モータへ単相低周波電流を供給する単相交流加熱法を提案している。しかし、バッテリの低い内部抵抗値故に、インバータ損失及びモータ損失の和がバッテリ損失を超える可能性がある。さらに、単相交流加熱法の実施により、正常なモータ運転が制限されてしまう。
【0004】
交流加熱法を実施するために、LC共振回路のような発振回路をバッテリと並列接続することも可能である。しかし、EV用バッテリのようなに大型バッテリに発振回路を並列接続する時、難しい問題が生じることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】U.S.Application No. 16/973,478(WO2019/244680)
【発明の概要】
【0006】
EV用の高電圧バッテリに並列接続されたLC共振回路からバッテリへ交流電流を供給する場合に生じる第1の問題は、LC共振回路が大型となることである。バッテリの内部抵抗値が非常に低いことは、バッテリに大電流を流す必要があることを意味する。その結果、LC共振回路は大型のインダクタを必要とする。さらに、高電圧バッテリに接続されるLC共振回路は高耐圧のキャパシタを必要とする。高耐圧のキャパシタは非常に大型となる。さらに、LC共振回路は、バッテリから放電された電力エネルギーを蓄積する必要がある。この電力エネルギーはバッテリ電圧とバッテリ電流との積に比例するため、LC共振回路はさらに大型となる。
【0007】
第2の問題は、バッテリに接続される3相インバータのようなパワースイッチング回路はスイッチングノイズを低減するための平滑キャパシタをもっていることである。この平滑キャパシタはバッテリ及びLC共振回路と並列接続される。このため、LC共振回路から出力される高周波電流の多くは平滑キャパシタに流れてしまう。その結果、バッテリの内部抵抗損失が減少してしまい、平滑キャパシタが加熱されてしまう。
【0008】
本発明の一つの目的は、バッテリへ交流電流を供給することによりバッテリの熱的性能及び/又は電気化学的性能を改善することである。本発明のもう一つの目的は、バッテリへの交流電流の供給を簡素で安価な回路構造により実現することである。本発明のもう一つの目的は、バッテリのインピーダンスを検出可能な簡素で安価な回路構造により実現することである。
【0009】
本発明の一つの様相によれば、バッテリと蓄電デバイスとを並列接続することにより交流電流循環用の閉回路(電流ループ)が形成される。この閉回路は降圧トランスの二次コイルを含む。発振駆動回路は降圧トランスの一次コイルに交流電流を供給する。蓄電デバイスはバッテリ電圧に等しい蓄電電圧をもつ。
【0010】
この交流電流供給回路は、バッテリの放電時にバッテリから放電された電力エネルギーを蓄積する必要がない。これは、蓄電デバイスがこの電力エネルギーを貯蔵するためである。さらに、交流電流供給回路はバッテリの高電圧に耐える必要がない。なぜなら、バッテリの高電圧は蓄電デバイスに印加されるからである。したがって、二次コイルは、主としてバッテリの内部抵抗の消費電力だけを供給すればよい。発振駆動回路はコンパクトとなり、その損失は低減される。なぜなら、ハイレートの二次電流をバッテリへ供給するために発振駆動回路の電流が増加される必要が無いからである。
【0011】
さらに、バッテリがEV用3相インバータのようなパワースイッチング回路に接続される時、平滑キャパシタが一般にバッテリと並列に接続される。しかし、降圧トランスの二次コイルは交流電流をバッテリに供給するが、この平滑キャパシタには供給しない。その結果、発振駆動回路及び降圧トランスはコンパクトとなる。
【0012】
結局、本発明の交流電流供給回路は非常なコンパクトで高効率となり、製造コストの低減も実現する。この交流電流供給回路は、バッテリが負荷に直流電力を供給する期間、及び、この供給が停止された期間のどちらでもバッテリに交流電力を供給することができる。このことは、バッテリへの交流電力供給に起因するバッテリの熱的性能改善又は電気化学的性能改善を必要に応じて実現できることを意味する。たとえば、バッテリの急速加熱は熱的性能改善の一例である。デンドライト低減や電極表面の再フ゜レーティンク゛は電気化学的性能改善の一例である。
【0013】
一つの好適な態様において、高レートで短時間の放電動作及び低レートで長時間の充電動作が交互に繰り返される。これにより、デンドライトの抑制とバッテリの急速加熱との両方を実現することができる。充電電流積分値及び放電電流積分値は等しいと仮定される。短時間の高レート放電は、長時間の低レート放電と比べてバッテリの抵抗損失を増加させる。たとえば、低レート放電が高レート放電の3倍の通電期間をもち、高レート放電が低レート放電の3倍の電流値をもつことが仮定される。これにより、高レート放電は低レート放電と比べてバッテリ内に3倍の電力消費を発生する。さらに、この放電期間の短縮は充電期間の延長を実現する。充電期間の延長は充電電流値を低減する。これにより、デンドライト析出問題が改善される。
【0014】
もう一つの好適な態様において、蓄電デバイスとして、3相インバータや昇圧チョッパのようなパワースイッチング回路に装備される平滑キャパシタが採用される。これにより、回路を簡素化することができる。もう一つの好適な態様において、バッテリ及び蓄電デバイスは並列接続された2つのバッテリグループからなる。2つのバッテリグループの各中間電位点は、二次コイルを通じて接続される。これにより、バッテリ充放電回路を簡素化することができる。好適な態様において、バッテリは中間電位点をもち、蓄電デバイスとしての平滑キャパシタも中間電位点をもつ。2つの中間電位点は二次コイルを通じて接続される。これにより、バッテリ充放電回路を簡素化することができる。
【0015】
もう一つの好適な態様において、バッテリに交流電流を供給する交流電流供給回路は、バッテリのインピーダンス検出に使用される。また、電極の表面状態を改善するために使用される。バッテリに供給される二次電流の周波数、振幅、及び波形は、使用目的に応じて変更されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第1実施例のバッテリ用交流電流供給回路を示す配線図である。降圧トランスがバッテリと電荷蓄積デバイスとしての平滑キャパシタとの間に接続されている。平滑キャパシタは3相インバータのスイッチングノイズ電圧を吸収する。
【
図2】
図2は、降圧トランスに接続された発振駆動回路を示す配線図である。Hブリッジからなる発振駆動回路は降圧トランスを含む共振回路に接続されている。
【
図3】
図3は、第2実施例のバッテリ用交流電流供給回路を示す配線図である。平滑キャパシタは昇圧チョッパのスイッチングノイズ電圧を吸収する。
【
図4】
図4は、降圧トランスに接続された発振駆動回路を示す配線図である。Hブリッジからなる発振駆動回路は降圧トランスに接続されている。
【
図5】
図5は、第3実施例の高周波電流の波形図である。充電電流と放電電流とは互いに異なる波形をもつ。
【
図6】
図6は、リチウム電池の負極近傍を示す模式図である。充電動作において、デンドライト周辺にリチウムイオンが集まっている。
【
図7】
図7は、第4実施例のバッテリ用交流電流供給回路を示す配線図である。キャパシタからなる電荷蓄積デバイス、発振駆動回路、及び降圧トランスからなる電子装置が、バッテリに接続されている。
【
図8】
図8は、第5実施例のバッテリ用交流電流供給回路を示す配線図である。降圧トランスの二次コイルは2つのバッテリグループの中間電位点を接続している。
【
図9】
図9は、第5実施例のバッテリ用交流電流供給回路の二次電圧だけを示す模式等価回路図である。
【
図10】
図10は、第6実施例のバッテリ用交流電流供給回路を示す配線図である。二次コイルはバッテリの中間電位点と平滑キャパシタの中間電位点とを接続している。
【
図11】
図11は、第7実施例のバッテリ用交流電流供給回路を示す配線図である。降圧トランスの一次コイルの電圧及び電流に基づいてバッテリのコイルピーダンスが検出される。
【
図12】
図12は、制御回路の回路構造を示すブロック回路図である。コイルインピーダンスは、種々のバッテリ内部状態を算出するために使用される。
【
図13】
図13は、第8実施例のバッテリ用交流電流供給回路を示す配線図である。バッテリは並列接続された4つのバッテリグループからなる。各バッテリグループはそれぞれ異なる二次コイルに接続されている。各二次コイルは共通の一次コイルと磁気的に接続されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1実施例
第1実施例のバッテリ用交流電流供給回路が
図1を参照して説明される。このバッテリ用交流電流供給回路はバッテリ充放電回路と呼ばれることができる。内部抵抗
60をもつバッテリ6はたとえばLFPバッテリのようなリチウムイオンバッテリからなる。バッテリ6は、高電位の電源線61及び低電位の電源線62を通じて3相インバータ2及び平滑キャパシタ3にバッテリ電圧を印加している。3相インバータ2は、図略の3相モータに3相交流電圧を印加する。
【0018】
このバッテリ充放電回路は、LC共振回路と、LC共振回路に発振電力を供給する発振駆動回路8とからなる。LC共振回路は降圧トランス5及び共振キャパシタ9からなる。所定周波数で発振している発振駆動回路8は、降圧トランス5の一次コイル52に発振電圧を印加する。共振キャパシタ9が一次コイル52と並列に接続されている。降圧トランス5の二次コイル51は、電源線61を通じてバッテリ6の正極に接続され、高電位の電源線63を通じて3相インバータ2及び平滑キャパシタ3に接続されている。電源線63は発振駆動回路8に発振動作に必要な直流電力を供給している。降圧トランス5の一次コイル52及び二次コイル51は、図略の軟磁性コアに巻かれている。一次コイル52の巻数値は、二次コイル51の巻数値の25倍である。制御回路7は、3相インバータ2及び発振駆動回路8の動作を制御する。
【0019】
降圧トランス5及び共振キャパシタ9はLC共振回路を形成し、発振駆動回路8はLC共振回路の共振周波数値に等しい発振周波数をもつ高周波電圧を一次コイル52に印加している。この共振周波数値はたとえば100kHzである。共振周波数が高いほど降圧トランス5及び共振キャパシタ9を小型化することができる。しかし、降圧トランス5の鉄損は共振周波数が高いほど増加する。
【0020】
バッテリ充放電回路の基本動作が説明される。バッテリ加熱動作が指令された時、制御回路7は発振駆動回路8の発振動作を指令し、発振駆動回路8はLC共振回路に発振電圧を印加する。これにより、二次電圧が降圧トランス5の二次コイル51に誘導される。
【0021】
発振駆動回路8の一例が
図2を参照して説明される。Hブリッジからなる発振駆動回路8は、それぞれパワーMOSFETからなるスイッチ81-84をもつ。このHブリッジの第1レグは直列接続されたスイッチ81、82からなる。Hブリッジの第2レグは直列接続されたスイッチ83、84からなる。並列接続された降圧トランス5の一次コイル52及び共振キャパシタ9は、2つのレグの交流端子を接続している。
【0022】
制御回路7は、バッテリ6の温度が所定値未満であると判定した時、発振駆動回路8を駆動することによりバッテリ急速加熱動作を実施する。発振駆動回路8の動作が説明される。一次コイル52及び共振キャパシタ9からなるLC共振回路を流れる共振電流の正半波期間において、スイッチ81及び84が所定期間だけオンされる。同様に、この共振電流の負半波期間において、スイッチ82及び83が所定期間だけオンされる。これにより、発振駆動回路8は、このLC共振回路の共振動作をアシストする。これらの所定期間は、たとえば共振電流がゼロとなる正半波期間及び負半波期間の初期時点から開始される。これにより、二次共振電圧が降圧トランス5の二次コイル51の両端に誘導され、二次コイル51はバッテリ6及び平滑キャパシタ3を巡る電流ループにハイレートの二次交流電流を循環させる。平滑キャパシタ3の内部抵抗は比較的小さいため、二次共振電圧は主としてバッテリ6の内部抵抗60に印加される。
【0023】
一例において、バッテリ6の内部抵抗60は寒冷気候下において0.1オームの抵抗値をもち、二次コイル51は実効電圧値が5Vである二次電圧を発生することが仮定される。その結果、実効値が50Aである高周波電流が電流ループに流れ、内部抵抗60は250Wの電力損失を発生し、バッテリ6は急速に加熱される。
【0024】
この急速加熱法の利点が説明される。第1の利点は、バッテリ充放電回路のサイズ及び製造コストが低減されることである。
【0025】
第2の利点は、高周波電流が平滑キャパシタ3を通じて流れることを防止できることである。
【0026】
第3の利点は、バッテリ6の放電時にバッテリ6から放出される電気エネルギーは平滑キャパシタ3に貯蔵されるため、LC共振回路及び発振駆動回路8がコンパクトとなることである。
【0027】
共振キャパシタ9を省略することもできる。その結果、発振駆動回路8は降圧トランス5の一次コイル52を通じて二次コイル51に高周波電圧を誘導する。これにより、バッテリ6の内部抵抗60は高周波抵抗損失を発生する。
【0028】
第2実施例
第2実施例のバッテリ充放電回路が
図3及び
図4を参照して説明される。この実施例によれば、バッテリ6は、昇圧チョッパ10をもつ3相インバータ2に接続されている。言い換えれば、この実施例のパワースイッチング回路は、第1実施例のパワースイッチング回路に昇圧チョッパ10を追加した点が異なっている。さらに、この実施例のバッテリ充放電回路によれば、
図1に示される共振キャパシタ9が省略されている。
【0029】
平滑キャパシタ3と3相インバータ2との間に配置された昇圧チョッパ10は、リアクトル11、下アームスイッチ12、上アームスイッチ13、及び平滑キャパシタ14からなる。下アームスイッチ12がオンされる時、リアクトル11は磁気エネルギーを蓄積する。下アームスイッチ12がオフされる時、リアクトル11は上アームスイッチ13を通じて平滑キャパシタ14を充電する。このため、平滑キャパシタ14の電圧は、バッテリ6の電圧とリアクトル11の電圧の和となる。
【0030】
図4に示されるように、発振駆動回路8はスイッチ81-84からなるHブリッジを採用している。この発振駆動回路8は
図2に示される第1実施例の発振駆動回路8と同じ回路構造をもつ。Hブリッジは一次コイル52に高周波電圧を印加する。これにより、高周波二次電圧が二次コイル51に誘導される。このバッテリ充放電回路の動作は本質的に第1実施例と同じである。発振駆動回路8の発振電圧波形は正弦波に限定されずたとえば矩形波でもよい。
【0031】
第3実施例
第3実施例のバッテリ充放電回路の動作が
図5を参照して説明される。
図5は、二次コイル51に誘導される二次電圧により、バッテリ6、二次コイル51、平滑キャパシタ3からなる電流ループ(閉回路)を通じて循環する高周波電流の波形を示す。
【0032】
この高周波電流の1周期は、放電期間Tdと充電期間Tcとからなる。充電期間Tcは放電期間Tdより長い。たとえば、
図5において、充電期間Tcは放電期間Tdの3倍とされている。放電期間Tdに流れるバッテリ6の放電電流Idは、充電期間Tcに流れるバッテリ6の充電電流Icより高い振幅値をもつ。たとえば、
図5において、放電電流Idは充電電流Icの約3倍の振幅値をもつ。
図5において、放電電流Id及び充電電流Icはそれぞれ、正弦波形の半波成分にほぼ等しい波形をもつ。しかし、放電電流Id及び充電電流Icの波形は、
図5のそれらに限定されず、自由である。放電電流Idによりバッテリ6が放出する電荷量は、充電電流Icによりバッテリ6に戻る電荷量にほぼ等しい。
【0033】
この実施例によれば、バッテリ充放電回路は、高レートで短期間の放電電流と、低レートで長時間の充電電流とを繰り返す。これにより、バッテリ6の負極に析出したデンドライトを低減することができる。また、内部抵抗60の電力損失も増加する。
【0034】
低温状態における充電動作により、デンドライトが負極上に析出する。充電電流の電流レートはデンドライト析出現象に深い相関をもつ。デンドライト析出は、低レートで長時間の充電よりも高レートで短時間の充電において増加する。逆に、放電動作により、負極上のデンドライトが電解液に溶出する。放電電流の電流レートはデンドライト溶出現象に深い相関をもつ。デンドライト溶出は、低レートで長時間の放電よりも高レートで短時間の放電において増加する。したがって、短時間の高レート放電と長時間の低レート充電とを繰り返すこの実施例のバッテリ充放電動作によれば、バッテリの負極上のデンドライトを低減できる。
【0035】
図6は、バッテリの負極近傍におけるリチウムイオンの分布を示す模式断面図である。電解液103に面する負極100の表面104上に、析出リチウム101が存在している。析出リチウム101の成長は、局所的に集中しており、デンドライト102となっている。電解液103中のリチウムイオンは、充電動作において負極100の方向へ移動し、放電動作において負極100の方向から離れる向きに移動する。デンドライト102の突出により、電解液103の電気抵抗は、デンドライト102の近傍において低下する。その結果、リチウムイオンはデンドライト102の近傍に相対的に集中する。充電動作におけるデンドライト102の成長は、充電電流のレート増加により促進される。逆に、放電動作におけるデンドライト102の溶出は、放電電流のレート増加により促進される。
【0036】
第4実施例
第4実施例のバッテリ充放電回路が
図7を参照して説明される。充放電回路200はバッテリ6に接続されている。充放電回路200は、
図3に示されたバッテリ充放電回路にキャパシタ30を追加した回路構成をもつ。充放電回路200の一対の端子201、202がバッテリ6と並列に接続されている。
【0037】
充放電回路200の充放電動作は本質的に他の実施例と同じである。充放電回路200は内部抵抗60を加熱する。さらに、バッテリ6の電極は、頻繁な充放電により熱的又は電気化学的にリフレッシュされる。この電気化学的リフレッシュ動作についてさらに説明する。たとえば鉛電池の電極には酸化物層のような不活性層が形成される。この不活性層は、発振駆動回路8の電圧増加により破壊される。これにより、電極はリフレッシュされる。
【0038】
さらに、一次コイル52を流れる一次電流、及び、一次コイル52に印加される一次電圧に基づいて、バッテリ6のインピーダンス値を計測することができる。さらに、このインピーダンス値に基づいて、バッテリ6の内部状態を算出することができる。言い換えれば、充放電回路200は、バッテリ6のセンサ又はバッテリ再生装置として使用することができる。発振駆動回路8の発振周波数は用途に応じて変更されることができる。発振駆動回路8の出力電圧もたとえばHブリッジのPWMテ゛ューティ制御により変更されることができる。
【0039】
第5実施例
第5実施例のバッテリ充放電回路が
図8を参照して説明される。他の実施例の充放電回路と本質的に同じであるこの実施例の充放電回路は発振駆動回路8により駆動される降圧トランス5をもつ。降圧トランス5の二次コイル51の接続位置がこの実施例の特徴をなす。
【0040】
バッテリ6は4つのバッテリブロック64-67からなる。バッテリブロック64-67はそれぞれ内部抵抗60をもつ。直列接続されたバッテリブロック64及び65は第1のバッテリグループを形成し、直列接続されたバッテリブロック66及び67は第2のバッテリグループを形成している。2つのバッテリグループは並列接続されている。たとえば、バッテリブロック64-67はそれぞれ、直列接続された32個のセルからなる。バッテリブロック65のプラス端子及びバッテリブロック64のマイナス端子は中間電位点68に接続されている。バッテリブロック66のマイナス端子及びバッテリブロック67のプラス端子は中間電位点69に接続されている。
【0041】
2つの中間電位点68及び69は、降圧トランス5の二次コイル51を通じて接続されている。発振駆動回路8は、降圧トランス5の一次コイル52に交流電力を供給している。二次コイル51に誘起された二次電圧は、バッテリ64及び66からなる電流ループ(閉回路)に第1の交流電流を循環させ、バッテリ65及び67からなる電流ループ(閉回路)に第2の交流電流を循環させる。
【0042】
まず、二次電圧の正半波期間が説明される。この正半波期間において、中間電位点68が中間電位点69よりも高電位となる。第1の交流電流は、バッテリブロック64、バッテリブロック66、及び二次コイル51からなる第1の閉回路を順番に流れる。これにより、バッテリブロック64は放電され、バッテリブロック66は充電される。バッテリブロック64及び66の内部抵抗60はそれぞれ抵抗損失を発生する。第2の交流電流I2は、バッテリブロック65、バッテリブロック67、及び二次コイル51からなる第2の閉回路を順番に流れる。これにより、バッテリブロック65は充電され、バッテリブロック67は放電される。バッテリブロック65及び67の内部抵抗60は抵抗損失を発生する。
【0043】
次に、二次電圧の負半波期間が説明される。この負半波期間において、中間電位点69は中間電位点69よりも高電位となる。第1の交流電流は第1の閉回路を流れる。これにより、バッテリブロック66は放電され、バッテリブロック64は充電される。バッテリブロック64及び66の各内部抵抗60は抵抗損失を発生する。第2の交流電流は第2の閉回路を流れる。これにより、バッテリブロック67は充電され、バッテリブロック65は放電される。バッテリブロック65及び67の各内部抵抗60は抵抗損失を発生する。たとえば各内部抵抗60が0.1オームであり、第1の交流電流及び第2の交流電流がそれぞれ30Aである時、バッテリ6は360Wの抵抗損失を発生する。
【0044】
二次コイル51の二次電圧により、第1の電力エネルギーがバッテリブロック64及び66間を往復し、第2の電力エネルギーがバッテリブロック65及び67間を往復する。しかし、発振駆動回路8は、バッテリブロック64-67の抵抗損失電力だけを供給する。このため、降圧トランス5及び発振駆動回路8は小型となる。
【0045】
バッテリ6が平滑キャパシタに接続される時、二次コイル51に誘起される二次電圧はこの平滑キャパシタを本質的に流れない。その理由が
図9に示される模式等価回路を参照して説明される。
図9において、二次コイル
51に誘起される二次電圧V2は、4つのバッテリブロック64-67の各内部抵抗60を通じて平滑キャパシタ3に印加される。しかし、2つの中間電位点68及び69は互いに等しい中間電位(V2/2)をもつため、二次電流は平滑キャパシタ3に流れない。4つのバッテリブロック64-67の各内部抵抗60が互いに異なる抵抗値をもつ時、電位差が2つの中間電位点68及び69の間に発生する。しかし、この電位差は僅かであり、無視することができる。
【0046】
この実施例のバッテリ充放電回路のもう一つの特徴は、二次コイル51とバッテリ6に接続された負荷とが本質的に互いに電気的に独立していることである。
【0047】
第6実施例
第6実施例のバッテリ充放電回路が
図10を参照して説明される。この充放電回路は、
図8に示される第5実施例のバッテリ充放電回路において、バッテリブロック66、67の代わりに、平滑キャパシタ31、32を採用している。3相インバータ2と並列接続される平滑キャパシタ3は、直列接続された平滑キャパシタ31、32からなる。
図10のバッテリ充放電回路の動作は、本質的に
図8のバッテリ充放電回路と同じである。
図10に示されるバッテリ充放電回路は、
図8に示されるバッテリ充放電回路と比べて、バッテリ6が簡素な構造をもつ。しかし、平滑キャパシタ3は2つの平滑キャパシタ31及び32に分割される必要がある。
【0048】
第7実施例
第7実施例のバッテリ充放電回路が
図11を参照して説明される。この充放電回路は、
図8に示される第5実施例のバッテリ充放電回路と同じ回路構造をもつ。
図11において、電流検出用の低抵抗素子11は、降圧トランス5の一次コイル52を流れる一次電流を検出する。この一次電流及び、一次コイル52に印加される一次電圧が、制御回路7に送信される。
【0049】
バッテリ6のインピーダンスZを検出する動作が
図12を参照してさらに説明される。バッテリブロック64はインピーダンスr64をもち、バッテリブロック
66はインピーダンスr65をもつ。バッテリブロック
65はインピーダンスr66をもち、バッテリブロック67はインピーダンスr67をもつ。バッテリ6のインピーダンスZはインピーダンスr64-r67からなると見なされる。
【0050】
二次コイル51はバッテリ6のインピーダンスZに交流電圧V2を印加し、二次電流I2が二次コイル51を流れる。発振駆動回路8は、一次コイル52に交流電圧V1を印加し、一次電流I1が一次コイル52を流れる。オペアンプ70は低抵抗素子11の両端の電圧VSを増幅し、帯域フィルタ71は信号電圧VSからノイズを除去する。整流器72は信号電圧VSを整流し、A/Dコンバータ73は整流された信号電圧VSをデジタル電流信号に変換する。このデジタル電流信号はデジタル信号処理回路74により処理されて、バッテリ6のインピーダンスZが検出される。デジタル信号処理回路74はこのインピーダンス情報に基づいて、バッテリ6の状態を算出する。
【0051】
バッテリの内部抵抗60は、分極に関係するキャパシタに直列接続された直列抵抗成分と、このキャパシタと並列接続された並列抵抗成分とをもつ。主として電解液抵抗からなる直列抵抗成分は、低温状態にて増大し、高SOC状態においても増大する。並列抵抗成分は、バッテリの劣化により増大する。高周波帯域では、インピーダンス検出値に占める並列抵抗成分の影響が相対的に減少する。この実施例では、バッテリのインピーダンス値、特にその直列抵抗成分に基づいて、バッテリの充電電流値が制限される。この実施例によればさらに、この電池のインピーダンス値、特にその並列抵抗成分に基づいて、バッテリ6のリフレッシュ動作が実行される。このリフレッシュ動作は、電極表面の不活性層の破壊のような電極表面状態の変更を含む。発振駆動回路8の発振周波数及び発振電圧は、検出したバッテリ6のインピーダンスに基づいて変更されることができる。たとえば、不活性層の厚さが所定値を超えると判定される時、発振電圧が増加され、発振周波数は低下される。これにより不活性層の電気絶縁が破壊される。
【0052】
交流電流をバッテリ6に供給することにより、電極表面の固相状態を変更するこのリフレッシュ動作の一例がさらに説明される。たとえば電極に含まれるシリコン粒子は交流電流による熱的又は電気化学的な影響を受ける。その結果、互いに隣接する複数のシリコン粒子はほぼ一つの粒子となる。結局、荒れたバッテリ6の表面は充放電サイクルの繰り返しにより再び新鮮な状態に回復される。
【0053】
この実施例の利点が説明される。二次コイル51はほぼバッテリ6の内部インピーダンスだけに二次電圧を印加し、バッテリ6に接続された平滑キャパシタ3や負荷2に二次電圧が印加されない。さらに、バッテリ6の直流電圧は2つの中間電位点間に接続された二次コイル51にほとんど印加されず、かつ、この直流電圧は原理的に一次コイル52に印加されない。
【0054】
この実施例によればさらに、バッテリ6に交流電流を供給するバッテリ充放電回路を利用してバッテリ6の交流インピーダンスを検出するため、簡素な検出回路構造を実現することができる。さらに、降圧トランス5は、信号電圧増幅機能をもち、さらに制御回路7をバッテリ6の直流電圧から絶縁分離するため、さらに簡素な回路構造を実現することができる。言い換えれば、バッテリ6のインピーダンスZが低くても降圧トランス5により検出が容易となる。発振駆動回路8の発振周波数を連続的に変更することも可能である。
【0055】
第8実施例
第8実施例のバッテリ充放電回路が
図13を参照して説明される。この充放電回路は、
図8に示される第5実施例のバッテリ充放電回路と本質的に同じ回路構造をもつ。しかし、この充放電回路の降圧トランス5は、共通の一次コイル52と磁気的に結合する4つの二次コイル511-514をもつ。
【0056】
図13に示されるバッテリ6は、互いに並列接続された4つのバッテリセット6A、6B、6C、及び6Dからなる。バッテリセット6A-6Dはそれぞれ、
図8に示されるバッテリ6と同じ構造をもつ。言い換えれば、4つのバッテリセット6A-6Dはそれぞれ、4つのバッテリブロック64-67からなる。バッテリセット6Aは二次コイル511が接続される2つの中間電位点68A及び69Aをもち、バッテリセット6Bは、二次コイル512が接続される2つの中間電位点68B及び69Bをもつ。バッテリセット6Cは二次コイル513が接続される2つの中間電位点68C及び69Cをもち、バッテリセット6Dは二次コイル514が接続される2つの中間電位点68D及び69Dをもつ。
【0057】
一次交流電流が一次コイル52に供給される時、4つの二次コイル511-514にそれぞれ、二次交流電圧が別々に誘導される。4つの二次交流電圧は、4つのバッテリセット6A-6Dに別々に印加される。この実施例の充放電回路は、
図8に示される第5実施例のバッテリ充放電回路と本質的に同じ充放電動作を実施する。
【0058】
この実施例の利点が説明される。まず、バッテリセット6A-6Dの内部抵抗は
図8に示されるバッテリ6よりも増加する。これは、バッテリセット6A-6Dの並列セル数が低減されるためである。その結果、各バッテリブロックの抵抗損失を増加することができる。次に、各バッテリセット6A-6Dの中間電位点は、互いに電気的に分離されている。このため、各バッテリセット6A-6Dの中間電位点は互いに異なる直流電位をもつことができる。一つの変形態様において、4つの二次コイル511-514はそれぞれ異なる降圧トランスに所属する。これにより、各バッテリセット6A-6Dに供給する交流電流を別々に制御することができる。
【0059】
本発明の交流電流供給回路を装備するバッテリは、地上用、海用、航空用の種々の乗り物の他、地上設備にも採用されることができる。
【要約】 (修正有)
【課題】デンドライト析出問題を改善する。
【解決手段】バッテリ用交流電流供給回路において、バッテリ6は、降圧トランス5の二次コイル51を通じて蓄電デバイス3と接続する。二次コイルに誘導された二次交流電圧は、バッテリと蓄電デバイス間に交流電力エネルギーを往復させる。バッテリの内部抵抗は、二次コイル、バッテリ及び蓄電デバイスからなる閉回路を循環する二次交流電流により抵抗損失を発生する。好適には、二次コイルは、並列接続しれた2つのバッテリグループの中間電位点を接続する。発振駆動回路は、高周波電圧を降圧トランスの一次コイルに印加する。二次コイルに誘起された二次交流電圧は、2つのバッテリグループの内部抵抗を加熱するために閉回路に交流電流を循環させる。この交流電流の循環により、2つのバッテリグループ間で電力エネルギーが往復する。
【選択図】
図1