(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材及び酸化物半導体
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20230130BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230130BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/08
H01L29/78 618B
(21)【出願番号】P 2022532705
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028640
(87)【国際公開番号】W WO2022030455
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2020133080
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺村 享祐
(72)【発明者】
【氏名】白仁田 亮
(72)【発明者】
【氏名】徳地 成紀
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-151469(JP,A)
【文献】特開2013-095656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 29/786
C04B 35/00-35/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)を含む酸化物から構成され、
添加元素(X)はタンタル(Ta)、ストロンチウム(Sr)及びニオブ(Nb)から選ばれる少なくとも1つの元素からなり、
各元素の原子比が式(1)ないし(3)を満たし(式中のXは、前記添加元素の含有比の総和とする。)、
0.4≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.8 (1)
0.2≦Zn/(In+Zn+X)≦0.6 (2)
0.001≦X/(In+Zn+X)≦0.015 (3)
相対密度が95%以上であ
り、
In
2
O
3
相及びZn
3
In
2
O
6
相を含む、スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
添加元素(X)がタンタル(Ta)である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項3】
抗折強度が100MPa以上である、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項4】
バルク抵抗率が25℃において100mΩ・cm以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項5】
In
2O
3相及びZn
3In
2O
6相の双方に添加元素(X)が含まれる、請求項
1ないし4に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項6】
In
2O
3相の結晶粒のサイズが0.1μm以上3.0μm以下であり、
Zn
3In
2O
6相の結晶粒のサイズが0.1μm以上3.9μm以下である、請求項1ないし
5に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項7】
式(4)を更に満たす、請求項1ないし
6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材。
0.970≦In/(In+X)≦0.999 (4)
【請求項8】
JIS-R-1610:2003に準拠して測定されたビッカース硬度の標準偏差が50以下である、請求項1ないし
7のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項9】
請求項1ないし
8のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材を用いて形成された酸化物半導体であって、
インジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)を含む酸化物から構成され、
添加元素(X)はタンタル(Ta)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)の中から選ばれる少なくとも1つの元素からなり、
各元素の原子比が式(1)ないし(3)を満たす(式中のXは、前記添加元素の含有比の総和とする。)、
0.4≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.8 (1)
0.2≦Zn/(In+Zn+X)≦0.6 (2)
0.001≦X/(In+Zn+X)≦0.015 (3)
酸化物半導体。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット材をスパッタリングする、酸化物半導体の製造方法。
【請求項11】
前記酸化物半導体がインジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)を含む酸化物から構成され、
添加元素(X)はタンタル(Ta)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)の中から選ばれる少なくとも1つの元素からなり、
各元素の原子比が式(1)ないし(3)を満たす(式中のXは、前記添加元素の含有比の総和とする。)、請求項10に記載の製造方法。
0.4≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.8 (1)
0.2≦Zn/(In+Zn+X)≦0.6 (2)
0.001≦X/(In+Zn+X)≦0.015 (3)
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法によって製造された酸化物半導体を有する薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記酸化半導体がアモルファス構造である
、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記薄膜トランジスタの電界効果移動度が45m
2
/Vs以上である請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記薄膜トランジスタの電界効果移動度が70m
2/Vs以上である
、請求項12ないし14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記薄膜トランジスタのしきい電圧が-2V以上3V以下である
、請求項12ないし15のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリングターゲット材に関する。また本発明は、該スパッタリングターゲット材を用いて形成された酸化物半導体に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(以下「FPD」ともいう。)に使用される薄膜トランジスタ(以下「TFT」ともいう。)の技術分野においては、FPDの高機能化に伴い、従来のアモルファスシリコンに代わってIn-Ga-Zn複合酸化物(以下「IGZO」ともいう。)に代表される酸化物半導体が注目されており、実用化が進んでいる。IGZOは、高い電界効果移動度と低いリーク電流を示すという利点を有する。近年ではFPDの更なる高機能化が進むに従い、IGZOが示す電界効果移動度よりも更に高い電界効果移動度を示す材料が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1及び2には、インジウム(In)元素及び亜鉛(Zn)元素と任意の元素XからなるIn-Zn-X複合酸化物によるTFT用の酸化物半導体が提案されている。同文献によればこの酸化物半導体は、In-Zn-X複合酸化物からなるターゲット材を用いたスパッタリングによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】US2013/270109A1
【文献】US2014/102892A1
【発明の概要】
【0005】
特許文献1及び2に記載の技術においては、ターゲット材を粉末焼結法によって製造している。しかし粉末焼結法によって製造されるターゲット材は一般に相対密度が低く、そのことに起因してパーティクルが発生しやすく、また異常放電時にターゲット材に亀裂が生じやすい。その結果、高性能のTFTを製造することに支障を来す場合がある。
また、TFTの技術分野においては、IGZOが示す電界効果移動度よりも更に高い電界効果移動度を示す酸化物半導体が望まれている。
更に、TFTの技術分野においては、しきい電圧が0Vに近い値を示す酸化物半導体が望まれている。
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るスパッタリングターゲット材及び酸化物半導体を提供することにある。
【0006】
本発明は、インジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)を含む酸化物から構成され、
添加元素(X)はタンタル(Ta)、ストロンチウム(Sr)及びニオブ(Nb)から選ばれる少なくとも1つの元素からなり、
各元素の原子比が式(1)ないし(3)を満たし(式中のXは、前記添加元素の含有比の総和とする。)、
0.4≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.8 (1)
0.2≦Zn/(In+Zn+X)≦0.6 (2)
0.001≦X/(In+Zn+X)≦0.015 (3)
相対密度が95%以上である、スパッタリングターゲット材を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、前記のスパッタリングターゲット材を用いて形成された酸化物半導体であって、
インジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)を含む酸化物から構成され、
添加元素(X)はタンタル(Ta)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)の中から選ばれる少なくとも1つの元素からなり、
各元素の原子比が式(1)ないし(3)を満たす(式中のXは、前記添加元素の含有比の総和とする。)、
0.4≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.8 (1)
0.2≦Zn/(In+Zn+X)≦0.6 (2)
0.001≦X/(In+Zn+X)≦0.015 (3)
酸化物半導体を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、インジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)を含む酸化物から構成され、
添加元素(X)はタンタル(Ta)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)の中から選ばれる少なくとも1つの元素からなり、
各元素の原子比が式(1)ないし(3)を満たす(式中のXは、前記添加元素の含有比の総和とする。)、
0.4≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.8 (1)
0.2≦Zn/(In+Zn+X)≦0.6 (2)
0.001≦X/(In+Zn+X)≦0.015 (3)
酸化物半導体を有し、
電解効果移動度が45cm2・Vs以上である、薄膜トランジスタを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明のスパッタリングターゲット材を用いて製造された薄膜トランジスタの構造を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1で得られたスパッタリングターゲット材のX線回折測定の結果を示すチャートである。
【
図3】
図3は、実施例1で得られたスパッタリングターゲット材の走査型電子顕微鏡像である。
【
図4】
図4は、実施例1で得られたスパッタリングターゲット材の走査型電子顕微鏡像である。
【
図5】
図5は、実施例1で得られたスパッタリングターゲット材のIn
2O
3相のEDX分析における定性分析チャートと定量分析結果である。
【
図6】
図6は、実施例1で得られたスパッタリングターゲット材の走査型電子顕微鏡像である。
【
図7】
図7は、実施例1で得られたスパッタリングターゲット材のZn
3In
2O
6相のEDX分析における定性分析チャートと定量分析結果である。
【
図8】
図8(a)は、実施例1で得られたスパッタリングターゲット材のEDX分析結果を示す像であり、
図8(b)は、比較例1で得られたスパッタリングターゲット材のEDX分析結果を示す像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明はスパッタリングターゲット材(以下「ターゲット材」ともいう。)に関するものである。本発明のターゲット材は、インジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)を含む酸化物から構成されるものである。添加元素(X)はタンタル(Ta)、ストロンチウム(Sr)及びニオブ(Nb)から選ばれる少なくとも1つの元素からなる。本発明のターゲット材は、これを構成する金属元素としてIn、Zn及び添加元素(X)を含むものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、これらの元素の他に、意図的に又は不可避的に、微量元素を含んでいてもよい。微量元素としては、例えば後述する有機添加物に含まれる元素やターゲット材製造時に混入するボールミル等のメディア原料が挙げられる。本発明のターゲット材における微量元素としては、例えばFe、Cr、Ni、Al、Si、W、Zr、Na、Mg、K、Ca、Ti、Y、Ga、Sn、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びPb等が挙げられる。それらの含有量は本発明のターゲット材が含むIn、Zn及びXを含む酸化物の合計質量に対して、各々通常100質量ppm(以下「ppm」ともいう。)以下であることが好ましく、より好ましくは80ppm以下、更に好ましくは50ppm以下である。これらの微量元素の合計量は500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは300ppm以下、更に好ましくは100ppm以下である。本発明のターゲット材に微量元素が含まれる場合は、前記合計質量には微量元素の質量も含まれる。
【0011】
本発明のターゲット材は好適には、上述した酸化物を含む焼結体から構成されている。かかる焼結体及びスパッタリングターゲット材の形状に特に制限はなく、従来公知の形状、例えば平板型及び円筒形などを採用することができる。
【0012】
本発明のターゲット材は、これを構成する金属元素、すなわちIn、Zn及びXの原子比が特定の範囲であることが、該ターゲット材から形成される酸化物半導体素子の性能が向上する点から好ましい。
具体的には、In及びXに関しては以下の式(1)で表される原子比を満たすことが好ましい(式中のXは、前記添加元素の含有比の総和とする。以下、式(2)及び(3)についても同じである。)。
0.4≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.8 (1)
Znに関しては以下の式(2)で表される原子比を満たすことが好ましい。
0.2≦Zn/(In+Zn+X)≦0.6 (2)
Xに関しては以下の式(3)で表される原子比を満たすことが好ましい。
0.001≦X/(In+Zn+X)≦0.015 (3)
【0013】
In、Zn及びXの原子比が前記の式(1)ないし(3)を満たすことで、本発明のターゲット材を用いスパッタリングによって形成された酸化物薄膜を有する半導体素子は、高い電界効果移動度、低いリーク電流及び0Vに近いしきい電圧を示すものとなる。これらの利点を一層顕著なものとする観点から、In及びXに関しては下記の式(1-2)ないし(1-5)を満たすことが更に好ましい。
0.43≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.79 (1-2)
0.48≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.78 (1-3)
0.53≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.75 (1-4)
0.58≦(In+X)/(In+Zn+X)≦0.70 (1-5)
【0014】
前記と同様の観点から、Znに関しては下記の式(2-2)ないし(2-5)を満たすことが更に好ましく、Xに関しては下記の式(3-2)ないし(3-5)を満たすことが更に好ましい。
【0015】
0.21≦Zn/(In+Zn+X)≦0.57 (2-2)
0.22≦Zn/(In+Zn+X)≦0.52 (2-3)
0.25≦Zn/(In+Zn+X)≦0.47 (2-4)
0.30≦Zn/(In+Zn+X)≦0.42 (2-5)
0.0015≦X/(In+Zn+X)≦0.013 (3-2)
0.002<X/(In+Zn+X)≦0.012 (3-3)
0.0025≦X/(In+Zn+X)≦0.010 (3-4)
0.003≦X/(In+Zn+X)≦0.009 (3-5)
【0016】
添加元素(X)は、上述のとおりTa、Sr及びNbから選択される1種以上が用いられる。これらの元素は、それぞれ単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。特に添加元素(X)としてTaを用いることが、本発明のターゲット材から製造される酸化物半導体素子の総合的な性能の観点、及びターゲット材を製造する上での経済性の点から好ましい。
【0017】
本発明のターゲット材は、上述の(1)ないし(3)の関係に加えて、InとXとの原子比に関して以下の式(4)を満たすことが、本発明のターゲット材から形成される酸化物半導体素子の電界効果移動度を一層高める点、及び0Vに近いしきい電圧を示す点から好ましい。
0.970≦In/(In+X)≦0.999 (4)
【0018】
式(4)から明らかなとおり、本発明のターゲット材においては、Inの量に対して極めて少量のXを用いることで、ターゲット材から形成される酸化物半導体素子の電界効果移動度が高くなる。このことは本発明者が初めて見いだしたものである。これまで知られている従来技術(例えば特許文献1及び2に記載の従来技術)では、Inの量に対するXの使用量は本発明よりも多い。
【0019】
ターゲット材から形成される酸化物半導体の電界効果移動度が一層高くなる観点、及び0Vに近いしきい電圧を示す観点から、InとXとの原子比は以下の式(4-2)ないし(4-4)を満たすことが更に好ましい。
0.980≦In/(In+X)≦0.997 (4-2)
0.990≦In/(In+X)≦0.995 (4-3)
0.990<In/(In+X)≦0.993 (4-4)
【0020】
ターゲット材から形成される酸化物半導体素子の電界効果移動度の値が大きいことは、酸化物半導体素子であるTFT素子の伝達特性が良好となることに起因するFPDの高機能化の点から好ましい。詳細にはターゲット材から形成される酸化物半導体素子を備えたTFTは、その電界効果移動度(cm2/Vs)が、45cm2/Vs以上であることが好ましく、50cm2/Vs以上であることが更に好ましく、60cm2/Vs以上であることがより好ましく、70cm2/Vs以上であることが一層好ましく、80cm2/Vs以上であることが更に一層好ましく、90cm2/Vs以上であることがより一層好ましく、100cm2/Vs以上であることが特に好ましい。電界効果移動度の値は大きければ大きいほど、FPDの高機能化の点から好ましいが、電界効果移動度が200cm2/Vs程度に高ければ、十分に満足すべき程度の性能が得られる。
【0021】
本発明のターゲット材に含まれる各金属の割合は、例えばICP発光分光測定によって測定される。
【0022】
本発明のターゲット材は、In、Zn及びXの原子比に加えて、相対密度が高いことによっても特徴付けられる。詳細には、本発明のターゲット材はその相対密度が好ましくは95%以上という高い値を示すものである。このような高い相対密度を示すことで、本発明のターゲット材を用いてスパッタリングを行う場合、パーティクルの発生を抑制することが可能となるので好ましい。この観点から、本発明のターゲット材はその相対密度が97%以上であることが更に好ましく、98%以上であることが一層好ましく、99%以上であることが更に一層好ましく、100%以上であることが特に好ましく、100%超であることがとりわけ好ましい。このような相対密度を有する本発明のターゲット材は、後述する方法によって好適に製造される。相対密度は、アルキメデス法に従い測定される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0023】
本発明のターゲット材は、ターゲット材内部の空孔のサイズが小さいことと、空孔の数が少ないことによっても特徴付けられる。詳細には、本発明のターゲット材は面積円相当径が0.5μm以上20μm以下である空孔が5個/1000μm2以下である。このような空孔が少ないターゲット材を用いてスパッタリングを行う場合、パーティクルの発生を抑制することが可能となるので好ましい。この観点から、本発明のターゲット材は面積円相当径が0.5μm以上20μm以下である空孔が3個/1000μm2以下であることが更に好ましく、2個/1000μm2以下であることが一層好ましく、1個/1000μm2以下であることが更に一層好ましく、0.5個/1000μm2以下であることが特に好ましく、0.1個/1000μm2以下であることがとりわけ好ましい。このような空孔の数が少ない本発明のターゲット材は、後述する方法によって好適に製造される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0024】
本発明のターゲット材は強度が高いことによっても特徴付けられる。詳細には、本発明のターゲット材はその抗折強度が好ましくは100MPa以上という高い値を示すものである。このような高い抗折強度を示すことで、本発明のターゲット材を用いてスパッタリングを行う場合、スパッタリング中に意図せず異常放電が起こっても、ターゲット材に亀裂が生じにくくなるので好ましい。この観点から本発明のターゲット材は、その抗折強度が120MPa以上であることが更に好ましく、150MPa以上であることが一層好ましい。このような抗折強度を有する本発明のターゲット材は、後述する方法によって好適に製造される。抗折強度は、JIS R1601に準拠して測定される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0025】
本発明のターゲット材はバルク抵抗率が低いことによっても特徴付けられる。バルク抵抗率が低いことは、該ターゲット材を用いてDCスパッタリングが可能となる点から有利である。この観点から、本発明のターゲット材はそのバルク抵抗率が25℃において100mΩ・cm以下であることが好ましく、50mΩ・cm以下であることがより好ましく、10mΩ・cm以下であることが更に好ましく、5mΩ・cm以下であることが一層好ましく、4mΩ・cm以下であることが更に一層好ましく、3mΩ・cm以下であることが特に好ましく、2mΩ・cm以下であることがとりわけ好ましく、1.5mΩ・cm以下であることが殊更好ましい。このようなバルク抵抗率を有する本発明のターゲット材は、後述する方法によって好適に製造される。バルク抵抗率は、直流四探針法によって測定される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0026】
本発明のターゲット材は、ターゲット材の同一面内において、空孔の数のバラつき及びバルク抵抗率のバラつきが小さいことによっても特徴付けられる。詳細には、本発明のターゲット材は、同一面における任意の5点において測定される、空孔の数、バルク抵抗率のそれぞれの値と5点の算術平均値との差を、5点の算術平均値で除して100を乗じた値の絶対値が20%以下である。このような同一面内のバラつきが小さいターゲット材を用いてスパッタリングを行う場合、スパッタリングの際に、対向するガラス基板の位置によって膜特性が変化することがないため好ましい。この観点から、本発明のターゲット材は、前記絶対値が、それぞれ15%以下であることが更に好ましく、10%以下であることが一層好ましく、5%以下であることが更に一層好ましく、3%以下であることが特に好ましく、1%以下であることがとりわけ好ましい。このような、空孔の数のバラつき及びバルク抵抗率のバラつきが小さい本発明のターゲット材は、後述する方法によって好適に製造される。
【0027】
更に、本発明のターゲット材は、ターゲット材の深さ方向において、空孔の数のバラつき及びバルク抵抗率のバラつきが小さいことによっても特徴付けられる。詳細には、本発明のターゲット材は、表面から深さ方向に1mmごとに研削した面における、空孔の数、バルク抵抗率のそれぞれの値と5点の算術平均値との差を、5点の算術平均値で除して100を乗じた値の絶対値が20%以下である。上記と同様の観点から、本発明のターゲット材は、前記絶対値が、それぞれ15%以下であることが更に好ましく、10%以下であることが一層好ましく、5%以下であることが更に一層好ましく、3%以下であることが特に好ましく、1%以下であることがとりわけ好ましい。このような、空孔の数のバラつき及びバルク抵抗率のバラつきが小さい本発明のターゲット材は、後述する方法によって好適に製造される。
【0028】
本発明のターゲット材は、ターゲット材の同一面内におけるビッカース硬度の標準偏差が50以下であることが好ましい。この数値が上記条件を満たす場合、密度、結晶粒径や組成に偏りがないためターゲット材として好ましい。同一面内におけるビッカース硬度の標準偏差が40以下であることが好ましく、30以下であることが更に好ましく、20以下であることが一層好ましく、10以下であることが更に一層好ましい。このようなビッカース硬度を有する本発明のターゲット材は、後述する方法によって好適に製造される。ビッカース硬度は、JIS-R-1610:2003に準拠して測定される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0029】
本発明のターゲット材表面の算術平均粗さRa(JIS-B-0601:2013)は研削加工時の砥石の番手などによって適宜調整することができる。算術平均粗さRaが小さいターゲット材を用いてスパッタリングを行う場合、スパッタリングの際に、異常放電を抑制することが可能となり好ましい。この観点から、本発明のターゲット材は、算術平均粗さRaが3.2μm以下であることが好ましく、1.6μm以下であることが更に好ましく、1.2μm以下であることが一層好ましく、0.8μm以下であることが更に一層好ましく、0.5μm以下であることが特に好ましく、0.1μm以下であることがとりわけ好ましい。算術平均粗さRaは、表面粗さ測定器によって測定される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0030】
本発明のターゲット材は、表面の最大色差ΔE*が5以下であることが好ましい。また、ターゲット材の深さ方向の最大色差もΔE*が5以下であることが好ましい。「色差ΔE*」とは、2つの色の違いを数値化した指標である。この数値が上記条件を満たす場合、密度、結晶粒径や組成に偏りがないためターゲット材として好ましい。表面全体と深さ方向の最大色差ΔE*は4以下であることが好ましく、3以下であることが更に好ましく、2以下であることが一層好ましく、1以下であることが更に一層好ましい。このような最大色差ΔE*を有する本発明のターゲット材は、後述する方法によって好適に製造される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0031】
本発明のターゲット材は、上述したとおりIn、Zn及びXを含む酸化物から構成されている。この酸化物は、Inの酸化物、Znの酸化物又はXの酸化物であり得る。あるいはこの酸化物は、In、Zn及びXからなる群から選択される任意の2種以上の元素の複合酸化物であり得る。複合酸化物の具体的な例としては、In-Zn複合酸化物、Zn-Ta複合酸化物、In-Ta複合酸化物、In-Nb複合酸化物、Zn-Nb複合酸化物、In-Nb複合酸化物、In-Sr複合酸化物、Zn-Sr複合酸化物、In-Sr複合酸化物、In-Zn-Ta複合酸化物、In-Zn-Nb複合酸化物、In-Zn-Sr複合酸化物等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0032】
本発明のターゲット材は、特にInの酸化物であるIn2O3相及びInとZnとの複合酸化物であるZn3In2O6相を含むことが、該ターゲット材の密度及び強度を高め且つ抵抗を低減させる観点から好ましい。本発明のターゲット材がIn2O3相及びZn3In2O6相を含むことは、本発明のターゲット材を対象としたX線回折(以下「XRD」ともいう。)測定によってIn2O3相及びZn3In2O6相が観察されるか否かによって判断できる。なお、本発明におけるIn2O3相は微量にZn元素を含み得る。
【0033】
詳細には、X線源としてCuKα線を用いたXRD測定においてIn2O3相は2θ=30.38°以上30.78°以下の範囲にメインピークが観察される。Zn3In2O6相は2θ=34.00°以上34.40°以下の範囲にメインピークが観察される。
【0034】
更に本発明のターゲット材においては、In2O3相及びZn3In2O6相の双方にXが含まれることが好ましい。とりわけ、ターゲット材全体に均質にXが分散して含まれると、本発明のターゲット材から形成される酸化物半導体に一様にXが含まれることになり、均質な酸化物半導体膜を得ることができる。In2O3相及びZn3In2O6相の双方にXが含まれることは、例えばエネルギー分散型X線分光法(以下「EDX」ともいう。)などにより測定することができる。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0035】
XRD測定によって本発明のターゲット材にIn2O3相が観察される場合、In2O3相はその結晶粒のサイズが特定の範囲を満たすことが、本発明のターゲット材の密度及び強度を高め且つ抵抗を低減させる点から好ましい。詳細には、In2O3相の結晶粒のサイズは、3.0μm以下であることが好ましく、2.7μm以下であることが更に好ましく、2.5μm以下であることが一層好ましい。結晶粒のサイズは小さいほど好ましく下限値は特に定めるものではないが、通常0.1μm以上である。
【0036】
XRD測定によって本発明のターゲット材にZn3In2O6相が観察される場合、Zn3In2O6相に関しても、その結晶粒のサイズが特定の範囲を満たすことが、本発明のターゲット材の密度及び強度を高め且つ抵抗を低減させる点から好ましい。詳細には、Zn3In2O6相の結晶粒のサイズは、3.9μm以下であることが好ましく、3.5μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることが更に好ましく、2.5μm以下であることが一層好ましく、2.3μm以下であることが更に一層好ましく、2.0μm以下であることが特に好ましく、1.9μm以下であることがとりわけ好ましい。結晶粒のサイズは小さいほど好ましく下限値は特に定めるものではないが、通常0.1μm以上である。
【0037】
In2O3相の結晶粒のサイズ及びZn3In2O6相の結晶粒のサイズを上述した範囲に設定するには、例えば後述する方法によってターゲット材を製造すればよい。
In2O3相の結晶粒のサイズ及びZn3In2O6相の結晶粒のサイズは、本発明のターゲット材を走査型電子顕微鏡(以下「SEM」ともいう。)によって観察することで測定される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0038】
上述した結晶粒のサイズとの関係で、本発明のターゲット材においては、単位面積に占めるIn2O3相の面積の割合(以下「In2O3相面積率」ともいう。)が特定の範囲であることも、該ターゲット材の抵抗を低める点から好ましい。詳細には、In2O3相面積率は10%以上70%以下であることが好ましく、20%以上70%以下であることが更に好ましく、30%以上70%以下であることが一層好ましく、35%以上70%以下であることがより一層好ましい。
【0039】
一方、単位面積に占めるZn3In2O6相の面積の割合(以下「Zn3In2O6相面積率」ともいう。)は30%以上90%以下であることが好ましく、30%以上80%以下であることが更に好ましく、30%以上70%以下であることが一層好ましく、30%以上65%以下であることがより一層好ましい。
【0040】
In2O3相面積率及びZn3In2O6相面積率を上述した範囲に設定するには、例えば後述する方法によってターゲット材を製造すればよい。In2O3相面積率及びZn3In2O6相面積率は、本発明のターゲット材をSEMによって観察することで測定される。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0041】
本発明のターゲット材においては、In2O3相及びZn3In2O6相が均質に分散していることが好ましい。これらが均質に分散しているとスパッタリングにより薄膜を形成した際、組成に偏りがなく、膜特性が変化することがないため好ましい。
結晶相の分散状態評価は、EDXによって行う。ターゲット材において無作為に選んだ倍率200倍、437.5μm×625μmの範囲から、EDXによって視野全体のIn/Zn原子比率を得る。続いて同視野を縦4×横4の均等に分割し、各分割視野でのIn/Zn原子比率を得る。各分割視野でのIn/Zn原子比率と視野全体のIn/Zn原子比率の差の絶対値を、視野全体のIn/Zn原子比率で除し、100を乗じた値を分散率(%)と定義し、分散率の大小に基づきIn2O3相及びZn3In2O6相の分散の均質の程度を評価する。分散率がゼロに近いほどIn2O3相及びZn3In2O6相が均質に分散していることを意味する。16箇所での分散率の最大値が10%以下であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましく、4%以下であることが一層好ましく、3%以下であることが更に一層好ましく、2%以下であることが特に好ましく、1%以下であることがとりわけ好ましい。
【0042】
次に、本発明のターゲット材の好適な製造方法について説明する。本製造方法においては、ターゲット材の原料となる酸化物粉を所定の形状に成形して成形体を得て、この成形体を焼成することで、焼結体からなるターゲット材を得る。成形体を得るには、当該技術分野においてこれまで知られている方法を採用することができる。特に鋳込み成形法又はCIP成形法を採用することが、緻密なターゲット材を製造し得る点から好ましい。
【0043】
鋳込み成形法はスリップキャスト法とも呼ばれる。鋳込み成形法を行うには先ず、原料粉末と有機添加物とを含有するスラリーを、分散媒を用いて調製する。
【0044】
前記の原料粉末としては酸化物粉末又は水酸化物粉末、炭酸塩粉末を用いることが好適である。酸化物粉末としては、In酸化物の粉末、Zn酸化物の粉末、及びX酸化物の粉末を用いる。In酸化物としては例えばIn2O3を用いることができる。Zn酸化物としては例えばZnOを用いることができる。X酸化物の粉末としては例えばTa2O5、SrO及びNb2O5を用いることができる。なお、SrOは空気中では二酸化炭素と化合してSrCO3の状態で存在することがあるが、焼成過程においてSrCO3から二酸化炭素が解離してSrOとなる。
本製造方法においては、これら原料粉末をすべて混合した後に焼成を行う。このこととは対照的に、従来技術、例えば特許文献2に記載の技術では、In2O3粉とTa2O5粉とを混合した後に焼成を行い、次いで得られた焼成粉とZnO粉とを混合して再び焼成を行っている。この方法では事前に焼成を実施することによって粉末を構成する粒子が粗粒となってしまい、相対密度の高いターゲット材を得ることが容易でない。これに対して本製造方法では、好ましくは、In酸化物の粉末、Zn酸化物の粉末及びX酸化物の粉末をすべて常温で混合、成形した後、焼成を行っているので、相対密度の高い緻密なターゲット材が容易に得られる。
【0045】
In酸化物の粉末、Zn酸化物の粉末及びX酸化物の粉末の使用量は、目的とするターゲット材におけるIn、Zn及びXの原子比が、上述した範囲を満たすように調整することが好ましい。
【0046】
原料粉末の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して、0.1μm以上1.5μm以下であることが好ましい。この範囲の粒径を有する原料粉末を用いることで、相対密度の高いターゲット材を容易に得ることができる。
【0047】
前記の有機添加物は、スラリーや成形体の性状を好適に調整するために用いられる物質である。有機添加物としては、例えばバインダ、分散剤及び可塑剤等を挙げることができる。バインダは、成形体の強度を高めるために添加される。バインダとしては、公知の粉末焼結法において成形体を得るときに通常使用されるバインダを使用することができる。バインダとしては、例えばポリビニルアルコールを挙げることができる。分散剤は、スラリー中の原料粉末の分散性を高めるために添加される。分散剤としては、例えばポリカルボン酸系分散剤、ポリアクリル酸系分散剤を挙げることができる。可塑剤は、成形体の可塑性を高めるために添加される。可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)及びエチレングリコール(EG)等を挙げることができる。
【0048】
原料粉末及び有機添加物を含有するスラリーを作製する際に使用する分散媒には特に制限はなく、目的に応じて、水、及びアルコール等の水溶性有機溶媒から適宜選択して使用することができる。原料粉末及び有機添加物を含有するスラリーを作製する方法には特に制限はなく、例えば、原料粉末、有機添加物、分散媒及びジルコニアボールをポットに入れ、ボールミル混合する方法が使用できる。
【0049】
このようにしてスラリーが得られたら、このスラリーを型に流し込み、次いで分散媒を除去して成形体を作製する。用いることができる型としては、例えば金属型や石膏型、加圧して分散媒除去を行う樹脂型などが挙げられる。
【0050】
一方、CIP成形法においては、鋳込み成形法において用いたスラリーと同様のスラリーを噴霧乾燥して乾燥粉末を得る。得られた乾燥粉末を型に充填してCIP成形を行う。
【0051】
このようにして成形体が得られたら、次にこれを焼成する。成形体の焼成は一般に酸素含有雰囲気中で行うことができる。特に大気雰囲気中で焼成することが簡便である。焼成温度は1200℃以上1600℃以下であることが好ましく、1300℃以上1500℃以下であることが更に好ましく、1350℃以上1450℃以下であることが一層好ましい。焼成時間は、1時間以上100時間以下であることが好ましく、2時間以上50時間以下であることが更に好ましく、3時間以上30時間以下であることが一層好ましい。昇温速度は5℃/時間以上500℃/時間以下であることが好ましく、10℃/時間以上200℃/時間以下であることが更に好ましく、20℃/時間以上100℃/時間以下であることが一層好ましい。
【0052】
成形体の焼成においては、焼成過程においてInとZnとの複合酸化物、例えばZn5In2O8の相が生成する温度を一定時間維持することが、焼結の促進及び緻密なターゲット材の生成の観点から好ましい。詳細には、原料粉末にIn2O3粉及びZnO粉が含まれている場合、昇温に従いこれらが反応してZn5In2O8の相が生成し、その後Zn4In2O7の相へ変化し、Zn3In2O6の相へと変化する。特にZn5In2O8の相が生成する際に体積拡散が進み緻密化が促進されることから、Zn5In2O8の相を確実に生成させることが好ましい。このような観点から、焼成の昇温過程において、温度を1000℃以上1250℃以下の範囲で一定時間維持することが好ましく、1050℃以上1200℃以下の範囲で一定時間維持することが更に好ましい。維持する温度は、必ずしもある特定の一点の温度に限られるものではなく、ある程度の幅を有する温度範囲であってもよい。具体的には、1000℃以上1250℃以下の範囲から選ばれるある特定の温度をT(℃)とするとき、1000℃以上1250℃以下の範囲に含まれる限り、例えばT±10℃であってもよく、好ましくはT±5℃であり、より好ましくはT±3℃であり、更に好ましくはT±1℃である。この温度範囲を維持する時間は、好ましくは1時間以上40時間以下であり、更に好ましくは2時間以上20時間以下である。
【0053】
このようにして得られたターゲット材は、研削加工などにより、所定の寸法に加工することができる。これを基材に接合することでスパッタリングターゲットが得られる。このようにして得られたスパッタリングターゲットは、酸化物半導体の製造に好適に用いられる。例えばTFTの製造に、本発明のターゲット材を用いることができる。
図1には、TFT素子1の一例が模式的に示されている。同図に示すTFT素子1は、ガラス基板10の一面に形成されている。ガラス基板10の一面にはゲート電極20が配置されており、これを覆うようにゲート絶縁膜30が形成されている。ゲート絶縁膜30上には、ソース電極60、ドレイン電極61及びチャネル層40が配置されている。チャネル層40上にはエッチングストッパー層50が配置されている。そして最も上部に保護層70が配置されている。この構造を有するTFT素子1において、例えばチャネル層40の形成を、本発明のターゲット材を用いて行うことができる。その場合、チャネル層40は、インジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)を含む酸化物から構成されたものとなり、インジウム(In)元素、亜鉛(Zn)元素及び添加元素(X)の原子比は、上述した式(1)を満たすものとなる。また、上述した式(2)及び(3)を満たすものとなる。
本発明のターゲット材から形成された酸化物半導体素子はアモルファス構造を有することが、該素子の性能向上の点から好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0055】
〔実施例1〕
平均粒径D50が0.6μmであるIn2O3粉末と、平均粒径D50が0.8μmであるZnO粉末と、平均粒径D50が0.6μmであるTa2O5粉末とを、ジルコニアボールによってボールミル乾式混合して、混合原料粉末を調製した。各粉末の平均粒径D50は、マイクロトラックベル株式会社製の粒度分布測定装置MT3300EXIIを用いて測定した。測定の際、溶媒には水を使用し、測定物質の屈折率2.20で測定した。各粉末の混合比率は、InとZnとTaとの原子比が、以下の表1に示す値となるようにした。
【0056】
混合原料粉末が調製されたポットに、混合原料粉末に対して0.2%のバインダと、混合原料粉末に対して0.6%の分散剤と、混合原料粉末に対して20%の水とを加え、ジルコニアボールによってボールミル混合してスラリーを調製した。
【0057】
調製されたスラリーを、フィルターを挟んだ金属製の型に流し込み、次いでスラリー中の水を排出して成形体を得た。この成形体を焼成して焼結体を作製した。焼成は酸素濃度が20体積%である雰囲気中、焼成温度1400℃、焼成時間8時間、昇温速度50℃/時間、降温速度50℃/時間で行った。焼成の途中、1100℃を6時間維持してZn5In2O8の生成を促進させた。
【0058】
このようにして得られた焼結体を切削加工し、幅210mm×長さ710mm×厚さ6mmの酸化物焼結体(ターゲット材)を得た。切削加工には#170の砥石を使用した。
【0059】
得られたターゲット材について、同一面内及び深さ方向における空孔の数及びバルク抵抗率のバラつきを上述した方法で算出した。
ターゲット材の任意の5点において算出した同一面内における空孔の数のバラつきは、それぞれ5.7%、0.4%、1.4%、6.8%、2.2%であった。同一面内におけるバルク抵抗率のバラつきは、それぞれ3.5%、5.3%、3.5%、5.3%、3.5%であった。
ターゲット材の任意の5点において算出した深さ方向における空孔の数のバラつきは、それぞれ4.6%、0.2%、1.6%、1.6%、1.6%であった。深さ方向におけるバルク抵抗率のバラつきは、それぞれ3.5%、3.5%、5.3%、5.3%、3.5%であった。
【0060】
得られたターゲット材について、1000μm2あたりの空孔の数、算術平均粗さRa、表面の最大色差ΔE*及び深さ方向の最大色差ΔE*を以下の方法で測定した。1000μm2あたりの空孔の数は、1.2個であった。算術平均粗さRaは、1.0μmであった。表面の最大色差ΔE*は1.1であり、深さ方向の最大色差ΔE*は1.0であった。
【0061】
〔実施例2ないし8〕
実施例1において、InとZnとTaとの原子比が、以下の表1に示す値となるように各原料粉末を混合した。これ以外は実施例1と同様にしてターゲット材を得た。
【0062】
〔比較例1〕
平均粒径D50が0.6μmであるIn2O3粉末と、平均粒径D50が0.6μmであるTa2O5粉末とを、In元素とTa元素の合計に対するIn元素の原子比〔In/(In+Ta)〕が0.993となるように混合した。混合物を湿式ボールミルに供給し、12時間混合粉砕した。
得られた混合スラリーを取り出し、濾過、乾燥した。この乾燥粉を焼成炉に装入し、大気雰囲気中、1000℃で5時間熱処理した。
以上により、In元素とTa元素を含有する混合粉を得た。
この混合粉に、平均粒径D50が0.8μmであるZnO粉末を、原子比〔In/(In+Zn)〕が0.698となるように混合した。混合粉を湿式ボールミルに供給し、24時間混合粉砕して、原料粉末のスラリーを得た。このスラリーを、濾過、乾燥及び造粒した。
得られた造粒物をプレス成形し、更に、2000kgf/cm2の圧力を加えて冷間静水圧プレスで成形した。
成形体を焼成炉に装入し、大気圧、酸素ガス流入条件で、1400℃、12時間の条件で焼成し焼結体を得た。室温から400℃までは昇温速度は0.5℃/分とし、400~1400℃までは1℃/分とした。降温速度は1℃/分とした。
これら以外は実施例1と同様にしてターゲット材を得た。
【0063】
〔比較例2〕
実施例1において、Ta2O5粉末を用いなかった。InとZnの原子比が、以下の表2に示す値となるように各原料粉末を混合した。これ以外は実施例1と同様にしてターゲット材を得た。
【0064】
〔実施例9ないし13〕
実施例1において、InとZnとTaとの原子比が、以下の表2に示す値となるように各原料粉末を混合した。これ以外は実施例1と同様にしてターゲット材を得た。
【0065】
〔実施例14〕
実施例1において、Ta2O5粉末に代えて、平均粒径D50が0.7μmであるNb2O5粉末を用いた。InとZnとNbとの原子比が、以下の表2に示す値となるように各原料粉末を混合した。これ以外は実施例1と同様にしてターゲット材を得た。
【0066】
〔実施例15〕
実施例1において、Ta2O5粉末に代えて、平均粒径D50が1.5μmであるSrCO3粉末を用いた。InとZnとSrとの原子比が、以下の表2に示す値となるように各原料粉末を混合した。これ以外は実施例1と同様にしてターゲット材を得た。
【0067】
〔実施例16〕
実施例1において、Ta2O5粉末に代えて、Ta2O5粉末と、Nb2O5粉末と、SrCO3粉末とを、InとZnとTaとNbとSrとの原子比が、以下の表2に示す値となるように混合した。Ta、Nb及びSrのモル比は、Ta:Nb:Sr=3:1:1とした。これ以外は実施例1と同様にしてターゲット材を得た。
【0068】
実施例及び比較例で得られたターゲット材に含まれる各金属の割合を、ICP発光分光測定によって測定した。InとZnとTaとの原子比が、表1に示す原料比と同一であることを確認した。
【0069】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られたターゲット材について、相対密度、抗折強度、バルク抵抗率及びビッカース硬度を以下の方法で測定した。実施例及び比較例で得られたターゲット材について以下の条件でXRD測定を行い、In
2O
3相及びZn
3In
2O
6相の有無を確認した。また、実施例及び比較例で得られたターゲット材についてSEM観察を行い、In
2O
3相の結晶粒のサイズ、Zn
3In
2O
6相の結晶粒のサイズ、In
2O
3相面積率及びZn
3In
2O
6相面積率を以下の方法で測定した。更に、SEM観察にて確認されたIn
2O
3相及びZn
3In
2O
6相に添加元素(X)の含有の有無をEDXにて測定した。それらの結果を以下の表1及び2並びに
図2ないし7に示す。
【0070】
〔相対密度〕
ターゲット材の空中質量を体積(ターゲット材の水中質量/計測温度における水比重)で除し、下記式(i)に基づく理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。
ρ={Σ((Ci/100)/ρi)}
-1
・・・(i)
(式中Ciはターゲット材の構成物質の含有量(質量%)を示し、ρiはCiに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)
本発明の場合、ターゲット材の構成物質の含有量(質量%)は、In2O3、ZnO、Ta2O5、Nb2O5、SrOと考え、例えば
C1:ターゲット材のIn2O3の質量%
ρ1:In2O3の密度(7.18g/cm3)
C2:ターゲット材のZnOの質量%
ρ2:ZnOの密度(5.60g/cm3)
C3:ターゲット材のTa2O5の質量%
ρ3:Ta2O5の密度(8.73g/cm3)
C4:ターゲット材のNb2O5の質量%
ρ4:Nb2O5の密度(4.60g/cm3)
C5:ターゲット材のSrOの質量%
ρ5:SrOの密度(4.70g/cm3)
を式(i)に適用することで理論密度ρを算出できる。
In2O3の質量%、ZnOの質量%、Ta2O5の質量%、Nb2O5の質量%及びSrOの質量%は、ICP発光分光測定によるターゲット材の各元素の分析結果から求めることができる。
【0071】
〔1000μm2あたりの空孔の数〕
ターゲット材を切断して得られた切断面を、エメリー紙#180、#400、#800、#1000、#2000を用いて段階的に研磨し、最後にバフ研磨して鏡面に仕上げた。鏡面仕上げ面をSEM観察した。倍率400倍、218.7μm×312.5μmの範囲のSEM像を無作為に5視野撮影しSEM像を得た。
得られたSEM像を、画像処理ソフトウェア:ImageJ 1.51k(http://imageJ.nih.gov/ij/、提供元:アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health))によって解析した。具体的な手順は以下のとおりである。
得られた画像に対し、先ず空孔に沿って描画を行った。すべての描画が完了した後、粒子解析を実施(Analyze→Analyze Particles)して、空孔の数と、各空孔における面積を得た。その後、得られた各空孔における面積から、面積円相当径を算出した。5視野において確認された、面積円相当径が0.5μm~20μmの空孔の総和を5視野の総面積で除して得られた空孔の数を、1000μm2あたりに換算した。
【0072】
〔抗折強度〕
島津製作所製のオートグラフ(登録商標)AGS-500Bを用いて測定した。ターゲット材から切り出した試料片(全長36mm以上、幅4.0mm、厚さ3.0mm)を用い、JIS-R-1601(ファインセラミックスの曲げ強度試験方法)の3点曲げ強さの測定方法に従って測定した。
【0073】
〔バルク抵抗率〕
三菱ケミカル製のロレスタ(登録商標)HP MCP-T410を用いて、JIS規格の直流四探針法によって測定した。加工後のターゲット材の表面にプローブ(直列四探針プローブ TYPE ESP)を当接させ、AUTO RANGEモードで測定した。測定箇所はターゲット材の中央付近及び四隅の計5か所とし、各測定値の算術平均値をそのターゲット材のバルク抵抗率とした。
【0074】
〔算術平均粗さRa〕
表面粗さ測定器(SJ-210/株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。ターゲット材のスパッタリング面の5個所を測定して、その算術平均値をそのターゲット材の算術平均粗さRaとした。
【0075】
〔最大色差〕
面内の色差ΔE*は、切削加工したターゲット材の表面をx軸、y軸方向に50mm間隔で色差計(コニカミノルタ社製、色彩色差計CR-300)を用いて測定し、測定された各点のL*値、a*値及びb*値をCIE1976L*a*b*色空間で評価した。そして、測定された各点のうち2点のL*値、a*値及びb*値の差分ΔL*、Δa*、Δb*から、下記式(ii)より色差ΔE*をすべての2点の組み合わせで求め、求められた複数の色差ΔE*の最大値を表面内の最大色差ΔE*とした。
ΔE*=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)1/2・・(ii)
また、深さ方向の最大色差ΔE*は、切削加工したターゲット材の任意の箇所において、1mmずつ切削加工し、ターゲット材の中央部までの各深さで色差計を用いて測定し、測定された各点のL*値、a*値およびb*値をCIE1976L*a*b*色空間で評価した。そして、測定された各点のうち2点のL*値、a*値およびb*値の差分ΔL*、Δa*、Δb*から色差ΔE*をすべての2点の組み合わせで求め、求められた複数の色差ΔE*の最大値を深さ方向の最大色差ΔE*とした。
【0076】
〔ビッカース硬度〕
株式会社マツザワのビッカース硬度計MHT-1を用いて測定した。ターゲット材を切断して得られた切断面を、エメリー紙#180、#400、#800、#1000、#2000を用いて段階的に研磨し、最後にバフ研磨して鏡面に仕上げて測定面とした。また、測定面からみて反対の面は、測定面と平行になるように、上記エメリー紙#180を用いて研磨し、試験片を得た。上記試験片を用いJIS-R-1610:2003(ファインセラミックスの硬さ試験方法)の硬さ測定方法に従って荷重1kgfでのビッカース硬度の測定を行った。測定は、1つの試験片中の異なる10箇所の位置について行い、その算術平均値をそのターゲット材のビッカース硬度とした。また、得られた測定値からビッカース硬度の標準偏差を算出した。
【0077】
〔XRD測定条件〕
株式会社リガクのSmartLab(登録商標)を用いた。測定条件は以下のとおりである。実施例1で得られたターゲット材についてのXRD測定の結果を
図2に示す。
・線源:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:30mA
・スキャン速度:5deg/min
・ステップ:0.02deg
・スキャン範囲:2θ=5度~80度
【0078】
〔In
2O
3相の結晶粒のサイズ、Zn
3In
2O
6相の結晶粒のサイズ、In
2O
3相面積率及びZn
3In
2O
6相面積率〕
日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡SU3500を用いて、ターゲット材の表面をSEM観察するとともに、結晶の構成相や結晶形状の評価を行った。
具体的には、ターゲット材を切断して得られた切断面を、エメリー紙#180、#400、#800、#1000、#2000を用いて段階的に研磨し、最後にバフ研磨して鏡面に仕上げた。鏡面仕上げ面をSEM観察した。結晶形状の評価では、倍率1000倍、87.5μm×125μmの範囲のBSE-COMP像を無作為に10視野撮影しSEM像を得た。
得られたSEM像を、画像処理ソフトウェア:ImageJ 1.51k(http://imageJ.nih.gov/ij/、提供元:アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health))によって解析した。具体的な手順は以下のとおりである。
SEM像撮影時に用いたサンプルを、1100℃で1時間サーマルエッチングを施し、SEM観察を行うことで
図3に示す粒界が現れた画像を得た。得られた画像に対し、先ずIn
2O
3相(
図3中、白く見える領域A)の粒界に沿って描画を行った。すべての描画が完了した後、粒子解析を実施(Analyze→Analyze Particles)して、各粒子における面積を得た。その後、得られた各粒子における面積から、面積円相当径を算出した。10視野において算出された全粒子の面積円相当径の算術平均値を、In
2O
3相の結晶粒のサイズとした。続いてZn
3In
2O
6相(
図3中、黒く見える領域B)の粒界に沿って描画を行い、同様に解析を施すことによって得られた各粒子における面積から、面積円相当径を算出した。10視野において算出された全粒子の面積円相当径の算術平均値を、Zn
3In
2O
6相の結晶粒のサイズとした。
また、サーマルエッチング前の粒界のないBSE-COMP像について、粒子解析を行うことで総面積におけるIn
2O
3相の面積の比率を算出した。10視野において算出された全粒子のそれらの算術平均値を、In
2O
3相面積率とした。また100からIn
2O
3相面積率を差し引くことで、Zn
3In
2O
6相面積率を算出した。
なお
図4及び
図6は、
図3の拡大像である。
【0079】
〔添加元素(X)の有無及びその定量〕
エダックス製のエネルギー分散型X線分析装置Octane Elite Plusを用いて、前記SEM観察にて確認されたIn
2O
3相及びZn
3In
2O
6相における、各々任意の箇所での点分析によるスペクトル情報を得て、添加元素(X)含有の有無を確認した。結果を
図5及び
図7に示す。
【0080】
〔評価2〕
実施例及び比較例のターゲット材を用いて、
図1に示すTFT素子1をフォトリソグラフィー法により作製した。
TFT素子1の作製においては、最初に、ガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA-10)10上にゲート電極20としてMо薄膜を、DCスパッタリング装置を用いて成膜した。次に、ゲート絶縁膜30としてSiOx薄膜を下記の条件で成膜した。
成膜装置:プラズマCVD装置 サムコ株式会社製 PD-2202L
成膜ガス:SiH
4/N
2O/N
2混合ガス
成膜圧力:110Pa
基板温度:250~400℃
次に、チャネル層40を、実施例及び比較例で得られたターゲット材を用いて、下記の条件でスパッタリング成膜を行い、厚さ約10~50nmの薄膜を成膜した。
・成膜装置:DCスパッタリング装置 トッキ株式会社製 SML-464
・到達真空度:1×10
-4Pa未満
・スパッタガス:Ar/O
2混合ガス
・スパッタガス圧:0.4Pa
・O
2ガス分圧:50%
・基板温度:室温
・スパッタリング電力:3W/cm
2
更に、エッチングストッパー層50として、SiOx薄膜を、前記プラズマCVD装置を用いて成膜した。次に、ソース電極60及びドレイン電極61としてMo薄膜を、前記DCスパッタリング装置を用いて成膜した。保護層70として、SiOx薄膜を、前記プラズマCVD装置を用いて成膜した。最後に350℃で熱処理を実施した。
このようにして得られたTFT素子1について、ドレイン電圧Vd=5Vでの伝達特性の測定を行った。測定した伝達特性は、電界効果移動度μ(cm
2/Vs)、SS(Subthreshold Swing)値(V/dec)及びしきい電圧Vth(V)である。伝達特性は、Agilent Technologies株式会社製Semiconductor Device Analyzer B1500Aによって測定した。測定結果を表1及び表2に示す。なお表に示していないが、各実施例で得られたTFT素子1のチャネル層40がアモルファス構造であることをXRD測定によって本発明者は確認している。
電界効果移動度とは、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)動作の飽和領域において、ドレイン電圧を一定としたときのゲート電圧に対するドレイン電流の変化から求めたチャネル移動度のことであり、値が大きいほど伝達特性が良好である。
SS値とは、しきい電圧近傍でドレイン電流を1桁上昇させるのに必要なゲート電圧のことであり、値が小さいほど伝達特性が良好である。
しきい電圧とは、ドレイン電極に正電圧をかけ、ゲート電極に正負いずれかの電圧をかけたときにドレイン電流が流れ、1nAとなった場合の電圧であり、値が0Vに近いことが好ましい。詳細には、-2V以上であることが更に好ましく、-1V以上であることが一層好ましく、0V以上であることが更に一層好ましい。また、3V以下であることが更に好ましく、2V以下であることが一層好ましく、1V以下であることが更に一層好ましい。具体的には、-2V以上3V以下であることが更に好ましく、-1V以上2V以下であることが一層好ましく、0V以上1V以下であることが更に一層好ましい。
【0081】
【0082】
【0083】
表1及び表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られたターゲット材を用いて製造されたTFT素子は、伝達特性が優れていることが分かる。1000μm
2あたりの空孔の数、空孔の数及びバルク抵抗率のバラつき、算術平均粗さRa、最大色差及びIn/Zn原子比率については表1及び2に示していないが、実施例2ないし16で得られたターゲット材についても実施例1と同様の結果が得られた。
更に、
図2に示す結果から明らかなとおり、実施例1で得られたターゲット材は、In
2O
3相及びZn
3In
2O
6相を含むものであった。図示していないが、実施例2ないし16で得られたターゲット材についても同様の結果が得られた。
更に、
図5及び
図7に示す結果から明らかなとおり、実施例1で得られたターゲット材に含まれるIn
2O
3相及びZn
3In
2O
6相はいずれもTaを含有するものであった。図示していないが、実施例2ないし16で得られたターゲット材についても同様の結果が得られた。
【0084】
〔評価3〕
実施例1及び比較例1で得られたターゲット材について、上述した方法でIn
2O
3相及びZn
3In
2O
6相の分散率を測定した。その結果を以下の表3並びに
図8(a)及び
図8(b)に示す。
【0085】
【0086】
図8(a)に示す結果から明らかなとおり、実施例1で得られたターゲット材は、In
2O
3相及びZn
3In
2O
6相が均質に分散していることが分かる。表3に示すとおり、実施例1では16箇所の分散率が最大でも3.3%であり、In
2O
3相及びZn
3In
2O
6相が均質に分散していることが裏付けられた。
これに対して
図8(b)に示す結果から明らかなとおり、比較例1で得られたターゲット材は、In
2O
3相及びZn
3In
2O
6相が不均質に分散していることが分かる。
なお、表には示していないが実施例2ないし16で得られたターゲット材についても、16箇所の分散率が最大でも10%以下であったことを本発明者は確認している。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上、詳述したとおり、本発明のスパッタリングターゲット材を用いることで、パーティクルを抑制でき、異常放電による亀裂を抑制できる。その結果、高い電界効果移動度を有するTFTを容易に製造することができる。