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  • 特許-電子レンジ加熱用容器及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】電子レンジ加熱用容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/28 20060101AFI20230131BHJP
   B65D 81/34 20060101ALI20230131BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20230131BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230131BHJP
   B26F 1/44 20060101ALI20230131BHJP
   B26D 7/10 20060101ALI20230131BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20230131BHJP
   B32B 1/02 20060101ALI20230131BHJP
   B32B 27/06 20060101ALI20230131BHJP
   B32B 1/04 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
B65D1/28
B65D81/34 U
B65D1/00 120
B65D65/40 D
B26F1/44 J
B26D7/10
B29C51/14
B32B1/02
B32B27/06
B32B1/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018074892
(22)【出願日】2018-04-09
(65)【公開番号】P2019182478
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 史絵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕介
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-180952(JP,A)
【文献】特開2014-101132(JP,A)
【文献】特開2005-306426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/34
B65D 1/00-1/28
B65D 65/40
B26F 1/44
B26D 7/10
B29C 51/14
B32B 1/02-1/04
B32B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内外層及び中間層を有する電子レンジ加熱用容器において、
前記内外層は、ポリプロピレンから成り、前記中間層は、吸湿性樹脂から成り、該中間層の少なくとも一方の界面が隣接する内層又は外層と非接着状態にあり、該非接着状態にある中間層と隣接する内層及び/又は外層の間に空間が形成されていることを特徴とする電子レンジ加熱用容器。
【請求項2】
前記吸湿性樹脂が、バリア性を有する吸湿性樹脂である請求項1記載の電子レンジ加熱用容器。
【請求項3】
前記バリア性を有する吸湿性樹脂が、エチレン-ビニルアルコール共重合体又はポリアミド樹脂である請求項2記載の電子レンジ加熱用容器。
【請求項4】
前記容器端部において内外層が溶着し、前記中間層の端縁が内外層で被覆されている請求項1~3の何れかに記載の電子レンジ加熱用容器。
【請求項5】
前記容器がフランジ付容器であり、フランジ部の外周端部において中間層が露出していない請求項1~4の何れかに記載の電子レンジ加熱用容器。
【請求項6】
前記中間層の外層側の界面が隣接する層と非接着状態である請求項1~5の何れかに記載の電子レンジ加熱用容器。
【請求項7】
少なくとも内外層及び吸湿性樹脂から成る中間層を有する積層シートを熱成形して成る請求項1~6の何れかに記載の電子レンジ加熱用容器の成形方法であって、前記積層シートが、中間層の少なくとも一方の界面が隣接する層と非接着状態であり且つ積層シートの少なくとも端縁において中間層が存在せず内外層が接着状態にあることを特徴とする電子レンジ加熱用容器の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子レンジ加熱用容器及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、吸湿性を有し内容物の保存性に優れていると共に、加熱による容器の穴開き等の損傷が有効に防止された電子レンジ加熱用容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器は、金属容器やガラス容器に比して器壁の酸素透過が無視できないものであることから、従来より内容品の保存性を向上させるために、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のガスバリア性樹脂を中間層とする多層プラスチック容器とすることが広く行われている。
ガスバリア性樹脂から成る中間層を備えた多層プラスチック容器において、電子レンジによる加熱が可能な電子レンジ加熱用容器も知られており、熱可塑性樹脂から成る内外層の間にサンドイッチされたガスバリア性樹脂中間層とを備えた多層容器が種々提案されている(特許文献1~3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-69380号公報
【文献】特開2001-55216号公報
【文献】特開2006-96367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電子レンジ加熱用容器の中間層としてエチレン-ビニルアルコール共重合体等のような吸湿性を有する吸湿性樹脂を使用した場合に、電子レンジの出力や加熱時間、或いは内容品の種類等によっては、容器に穴が開く等の損傷を生じることがある。
本発明者等はかかる電子レンジ加熱用容器の損傷について鋭意研究した結果、以下の理由により容器に穴が開いてしまうことを突き止めた。すなわち、中間層を構成するエチレン-ビニルアルコール共重合体等のバリア性樹脂は吸湿性が高いため、容器内に充填された内容品からの水分や、或いはレトルト殺菌やボイル殺菌等に賦されることにより吸湿し、吸湿した状態でマイクロ波加熱されることにより水分が水蒸気となって体積膨張し、中間層から外に出ようとするために穴が開く等の損傷が生じることが分かった。
【0005】
従って本発明の目的は、中間層に吸湿性樹脂を使用しても、穴あき等の損傷が有効に防止された電子レンジ加熱用容器を提供することである。
本発明の他の目的は、中間層の少なくとも一方の界面が隣接する層と非接着状態にある多層容器を効率よく製造するための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、少なくとも内外層及び中間層を有する電子レンジ加熱用容器において、前記内外層は、ポリプロピレンから成り、前記中間層は、吸湿性樹脂から成り、該中間層の少なくとも一方の界面が隣接する内層又は外層と非接着状態にあり、該非接着状態にある中間層と隣接する内層及び/又は外層の間に空間が形成されていることを特徴とする電子レンジ加熱用容器が提供される。
本発明の電子レンジ加熱用容器においては、
1.前記吸湿性樹脂が、バリア性を有する吸湿性樹脂であること、
2.前記バリア性を有する吸湿性樹脂が、エチレン-ビニルアルコール共重合体又はポリアミド樹脂であること、
3.前記容器端部において内外層が溶着し、前記中間層の端縁が内外層で被覆されていること、
4.前記容器がフランジ付容器であり、フランジ部の外周端部において中間層が露出していないこと、
5.前記中間層の外層側の界面が隣接する層と非接着状態であること、
が好適である。
【0007】
本発明によればまた、少なくとも内外層及び吸湿性樹脂から成る中間層を有する積層シートを熱成形して成る上記電子レンジ加熱用容器の成形方法であって、前記積層シートが、中間層の少なくとも一方の界面が隣接する層と非接着状態であり且つ積層シートの少なくとも端縁において中間層が存在せず内外層が接着状態にあることを特徴とする電子レンジ加熱用容器の成形方法が提供される。
前記積層シートの熱成形において、容器のトリミングが加熱された状態で行われることにより、容器端部における内外層を溶着させ、中間層の端縁を内外層で被覆することが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子レンジ加熱用容器においては、吸湿性樹脂から成る中間層が、その少なくとも一方の界面において、内外層等の隣接する層と非接着の状態にあることから、前述したように、吸湿性樹脂が、内容品からの水分や、レトルト殺菌やボイル殺菌等による水分を吸湿した状態でマイクロ波加熱されることにより水分が水蒸気となって体積膨張し、中間層から外に出ようとした場合でも、非接着状態にある中間層とその隣接する層の間に形成される空間に留まることができるため、容器に発泡が発生したり、この発泡がはじけて穴が開く等の損傷を有効に防止することができる。また中間層がエチレン-ビニルアルコール共重合体等のバリア性を有する吸湿性樹脂である場合は、容器にガスバリア性を付与することができると共に、上述の容器に発生する発泡や発泡に伴う穴あき等の損傷を防止することができる。また本発明の電子レンジ加熱用容器が落下衝撃を受けクラックが発生した場合でも、中間層とその隣接する層が非接着であることからクッションの役割を果たし、層間剥離やクラックの伝播を防ぎ、容器の密封性を保持することも可能である。
【0009】
また中間層及び隣接層との間の非接着状態は、少なくとも一方の界面に形成されていれば、水蒸気となった水分を非接着部分の空間に放出することが可能であるが、容器の内側に上述した発泡や発泡に伴う穴あき等の損傷がより発生しやすいため、特に中間層の外層側の界面が非接着であることが好ましい。これにより、上述したように落下衝撃を受け、外層にクラックが生じた場合でも、クラックを中間層及び内層まで伝播させることがない。
更に、フランジ部先端のような容器端部において、バリア性樹脂から成る中間層が露出しないように形成することによって、端部からの吸湿を防止することもでき、より優れたバリア性を維持できる。
【0010】
本発明の電子レンジ加熱用容器を圧空成形や真空成形等の熱成形で成形する場合においては、吸湿性樹脂から成る中間層を備えた積層シートとして、端部において中間層が形成されておらず内外層が接着状態にある積層シートを用いて熱成形することにより、成形時に中間層とその隣接する層の少なくとも一方の界面が非接着状態にある積層シートを用いた場合でも、積層シートの各層がずれてしまうこと等がなく、生産性よく成形することができる。
またトリミングの際に積層シートを加熱した状態でトリミングすることにより、切断端縁の内外層を溶融接着することが可能になり、容器端縁において中間層を外部に露出させないことが可能になり、容器全体において中間層が内外層に内包された容器を容易に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の電子レンジ加熱用容器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(電子レンジ用加熱容器)
本発明の電子レンジ用加熱容器は、少なくとも内外層、及び吸湿性樹脂から成る中間層を有する層構成を有しており、中間層の少なくとも一方の界面が隣接する層と非接着状態にあることが重要な特徴である。
非接着状態は、中間層の両方の界面が隣接する層と非接着であってもよいが、外層側の一方の界面が非接着状態であることが、前述したとおり、容器の内側により発生しやすい発泡や発泡に伴う穴あき等による損傷の防止に有効である。また、外層側の界面が非接着である場合は、落下衝撃に対するクラックの伝播を防止できるという観点から望ましい。尚、内層側の界面が非接着である場合は、水蒸気等による発泡を容器外側に発現させず、外観特性を向上できるという利点がある。
本発明に中間層として用いる吸湿性樹脂と、内外層を構成する熱可塑性樹脂は、接着性に乏しいことから、一般的にはこれらの層の間に接着層が介在している。従って中間層及び隣接する層の間に接着層を形成することなくこれを積層することにより、これらの界面を非接着状態に形成することが可能になる。
尚、本発明の多層容器は、落下衝撃を受けたり、或いは電子レンジ加熱を行わない限り、非接着状態にある界面においても隣接する層は密着した状態にあり、層間剥離を生じることはない。
【0013】
また非接着状態は、容器の底部、胴部及びフランジ部の外縁までの容器全体に亘って形成されていてもよいが、レトルト殺菌やボイル殺菌等に賦される用途に使用される場合や高いバリア性が要求される場合、中間層に金属が含まれている場合には、容器の端縁においても中間層が露出することなく、内外層同士が接着し、中間層を内包した状態であることが望ましい。
具体的には、後述するカップ型容器の場合には、フランジ部を除いた容器全体(底部と、胴部上端とフランジ部内縁の境界である角部までの胴部)や、底部と胴部下端からスタック部となる段差部までの胴部、が非接着状態であることが望ましい。また非接着状態は必ずしも連続していなくてもよく、例えば接着層を部分的にパターン化して形成してもよい。
また後述するように、非接着状態を端縁まで連続して形成することにより、電子レンジ加熱して内容物を飲食した後にこれらを剥離することもでき、樹脂種類に応じた分別廃棄等に対応することもできる。
【0014】
図1は本発明の電子レンジ用加熱容器の一例を示す図であり、図1(A)に示すカップ型容器1は、底部2、胴部3及びフランジ部4から成り、胴部3の上方に容器を積み重ねるため段差であるスタック部5が形成されている。
図1(B)は、図1(A)におけるX部分(胴部)の断面構造を示す図であり、内層10、中間層11及び外層12の他、外層12及び中間層11の間にのみ接着層13が形成され、中間層11と内層10の界面は非接着状態に形成されている。
また図1(C)は、図1(A)におけるY部分(フランジ部端部)の断面構造を示す図であり、この具体例においては、中間層11及び接着層13は、フランジ部4の外周端部6の内側の部分まで形成されており、フランジ部4の外周端部6には中間層11及び接着層13が形成されておらず、内層10及び外層12が溶着した状態になっている。
【0015】
[中間層]
本発明において中間層を構成する吸湿性樹脂としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド樹脂、バリア性ポリエステル樹脂、ゼオライト、メタクリル樹脂、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂等を例示することができるが、好適には、従来包装材料に使用されていたガスバリア性を有する熱可塑性樹脂である、エチレン-ビニルアルコール共重合体又はポリアミド樹脂である。
エチレン-ビニルアルコール共重合体は、それ自体公知であり、包装材料の分野でガスバリア性樹脂として使用されているグレードのものが使用される。
具体的には、エチレン含有量が20乃至60モル%、特に25乃至50モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96モル%以上、特に99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が好適に使用される。このエチレン-ビニルアルコール共重合体(ほぼ100%に近いケン化度であるエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物)は、フィルムを形成し得るに足る分子量を有するべきであり、一般に、フェノール/水の重量比が85/15の混合溶媒中、30℃で測定して0.01dl/g以上、特に0.05dl/g以上の固有粘度を有することが望ましい。
【0016】
ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6/6・6共重合体、ナイロン6・10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン13等の他、m-キシリレンジアミン及び/又はp-キシリレンジアミンを主成分とするジアミン成分と、脂肪族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸とから得られるキシレン基含有ポリアミドを例示することができる。
【0017】
[内外層]
本発明において内外層を構成する熱可塑性樹脂としては、従来より圧空成形、真空成形等の熱成形、或いはダイレクトブロー成形等の溶融成形に用いられていた熱可塑性樹脂をすべて制限なく用いることができる。
このような熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂や、ポリオレフィン系樹脂を使用することができるが、特にポリオレフィン系樹脂を用いることが好適である。
中間層を構成する吸湿性樹脂は接着性が劣ることから、一般的には接着層を介して積層するが、本発明においては、接着層を設けないことによって、吸湿性樹脂層と内外層の界面を非接着状態に形成することが可能になる。
【0018】
このようなポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)等のポリエチレンや、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)等を挙げることができる。
【0019】
また、上記のような各種の内外層形成用樹脂は、従来から包装材料の分野で使用されている押出グレード或いは射出グレードのものであってよい。
尚、内層と外層とが同種の樹脂で形成されている必要は必ずしもなく、例えば外層を前述したポリエステル樹脂で形成し、内層をポリオレフィン系樹脂で形成することも勿論可能であるが、容器の端縁、例えばフランジ部の外縁(外周端部)において、中間層が存在せず、内外層が溶着しているような場合には、内外層が同種の樹脂で形成されていることにより、容易に接着することができるので好ましい。更に内外層中には、必要により、滑剤、改質剤、顔料、紫外線吸収剤等が配合されていてよい。
【0020】
[その他の層]
本発明の電子レンジ加熱用容器においては、吸湿性を有する中間層の少なくとも一方の界面が隣接する層と非接着状態にあるという条件を満足する限り、吸湿性を有する中間層と内外層の他に、例えば酸素吸収性層、リグラインド樹脂層など、従来公知の多層容器に用いられていた層を形成することもできる。
【0021】
酸素吸収性層としては、少なくとも酸化性有機成分及び遷移金属触媒(酸化触媒)から成る樹脂組成物から成る層であり、酸化性有機成分及び遷移金属触媒を有する樹脂組成物は、酸化性有機成分及び遷移金属触媒のみから成るものであってもよいが、これら以外の樹脂を含むものであっても勿論よい。尚、本発明においては、中間層を構成する、エチレン-ビニルアルコール共重合体やポリアミド樹脂に上記酸化性有機成分及び遷移金属触媒を含有させ、中間層を酸素吸収性バリア層とすることもできる。
酸化性有機成分及び遷移金属触媒と組み合わせで使用し得る樹脂としては、従来酸素吸収性層に用いられていた樹脂を使用できるが、中間層と隣接し、その界面を非接着状態とする場合には、前述したオレフィン系樹脂や熱可塑性ポリエステル樹脂とすることが好適である。
【0022】
(i)酸化性有機成分
酸化性有機成分としては、エチレン系不飽和基含有重合体を挙げることができる。この重合体は、炭素-炭素二重結合を有しており、この二重結合部分や特に二重結合部に隣接したαメチレンが酸素により容易に酸化され、これにより酸素の捕捉が行われる。
このようなエチレン系不飽和基含有重合体は、例えば、ポリエンを単量体として誘導され、ポリエンの単独重合体、或いは上記ポリエンを2種以上組み合わせ若しくは他の単量体と組み合わせてのランダム共重合体、ブロック共重合体等を酸化性重合体として用いることができる。
ポリエンから誘導される重合体の中でも、ポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IR)、天然ゴム、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等が好適であるが、勿論、これらに限定されない。
これらのポリエン系重合体は、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、水酸基が導入された酸変性ポリエン重合体であることが好ましい。
【0023】
また、上述したエチレン系不飽和基含有重合体以外にも、それ自体酸化されやすい重合体、例えばポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、或いは末端アミノ基濃度が40eq/10g未満のポリメタキシリレンジアジパミド等も酸化性有機成分として使用することができる。
これらの酸化性重合体、或いはその共重合体からなる酸化性有機成分は、酸素吸収性樹脂組成物中に0.01~10重量%の割合で含有されることが好ましい。
【0024】
(ii)遷移金属系触媒
遷移金属系触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の周期律表第VIII族金属が好適であるが、他に銅、銀等の第I族金属、錫、チタン、ジルコニウム等の第IV族金属、バナジウム等の第V族金属、クロム等の第VI族金属、マンガン等の第VII族金属等であってもよい。
遷移金属触媒は、一般に、上記遷移金属の低価数の無機塩、有機塩或いは錯塩の形で使用される。無機塩としては、塩化物等のハライド、硫酸塩等のイオウのオキシ塩、硝酸塩等の窒素のオキシ酸塩、リン酸塩等のリンオキシ塩、ケイ酸塩等を挙げることができる。有機塩としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩等を挙げることができる。また、遷移金属の錯体としては、β-ジケトンまたはβ-ケト酸エステルとの錯体が挙げられる。
遷移金属系触媒は酸素吸収性樹脂組成物中に、遷移金属原子の濃度(重量濃度基準)として100~3000ppmの範囲であることが好ましい。
【0025】
また非接着状態とする層間以外においては、接着層を形成することもでき、例えば酸変性ポリプロピレン、酸変性高密度ポリエチレン、酸変性低密度ポリエチレン、或いは酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体等の酸変性ポリオレフィンを接着剤として例示できるが、勿論これに限定されない。
更に、脱酸素剤をオレフィン系樹脂等の上述した熱可塑性樹脂中に配合して成る酸素吸収層、前記酸素吸収性層における酸素吸収反応に起因する臭気を取り除くために、ゼオライト等の吸着剤をオレフィン系樹脂等の上述した熱可塑性樹脂中に含有する層、容器成形の際に生じるリグラインド樹脂から成る層、外層表面に光沢層や、内層表面に保護層等、従来多層容器に形成されていた公知の層を形成することができる。
【0026】
[層構成]
本発明の電子レンジ用加熱容器においては、これに限定されないが、以下の層構成を例示できる(尚、「//」が非接着状態にある層間を示す)。
内層//吸湿性中間層//外層、内層//吸湿性中間層/接着層/外層、内層/接着層/吸湿性中間層//外層、内層/酸素吸収性層//吸湿性中間層//外層、内層/酸素吸収性層//吸湿性中間層/接着層/外層、内層/酸素吸収性層/接着層/吸湿性中間層//外層、内層/接着層/吸湿性中間層//リグラインド樹脂層/外層、内層//酸素吸収性の吸湿性中間層//リグラインド樹脂層/外層。
本発明の電子レンジ加熱用容器において、上記多層構成において、吸湿性中間層の膜厚は、5μm~200μm、特に5μm~150μmとすることが好ましい。吸湿性中間層の膜厚が、5μm未満の場合は中間層に求められるバリア性、保香性、強度向上、臭い成分の吸着性(内容物への転移防止)等の機能を発揮することができず、200μmを超える場合は成形性,経済性に劣るため、上述の範囲とすることが好ましい。
【0027】
[容器形状及び蓋形状]
本発明の電子レンジ加熱用容器は、前述した特徴を有する限り、カップ型容器(浅型,深型)、トレイ型容器、ボトル型容器、パウチ等の従来電子レンジ加熱用容器として使用されていた容器形状を採用でき、フランジ付の他、フランジがないものであってもよい。
また、本発明の電子レンジ加熱用容器の形状に併せて、蓋が必要な容器は、容器形状に合わせた公知の蓋を用いればよい。
【0028】
(容器の製造方法)
本発明の電子レンジ加熱用容器においては、前述した特徴を有する限り、従来公知の容器の成形方法により製造することができる。具体的には、真空成形、圧空成形或いはこれらのプラグアシスト成形等の熱成形や、或いはダイレクトブロー成形、射出成形、押出成形等の溶融成形を例示することができ、特に熱成形又はダイレクトブロー成形により製造することが好適である。
【0029】
[熱成形]
熱成形に際して、前述した多層構造を有する積層シートを製造するが、本願発明の多層構造においては、吸湿性中間層の一方の界面が隣接する他の層との間が非接着状態にあることから、積層シートの製造に際して、幅方向の両端部では中間層を存在させず内外層を直接接着させたり、或いは端部にのみ接着層を設ける等、積層シートが層間剥離しないように製造することが好ましい。
次いで、かかる積層シートを用いて従来公知の熱成形により容器を成形する。具体的には、加熱した積層シートを金型内にセットし、金型を閉じた後、上金型内を真空にし、下金型(プラグ)の上昇と同時に圧空エアを送り、賦形する。次いで金型内で冷却した後、トリミングを行うこと等により成形する。
この際、容器の端部、例えばフランジ部の端縁(=外周端部)において、吸湿性中間層を露出させる場合には上記のように冷却後トリミングを行えばよいが、バリア性中間層を内外層で内包する場合には、成形後冷却される前にトリミングを行うことにより軟化した内外層が互いに溶着するため、端部が内外層で被覆される。かかるトリミングの具体的な方法は、本出願人による特開2004-58181号公報等に記載されている。
尚、容器端部において中間層を被覆する方法は、熱成形による場合でも、上述した方法に限定されず、後述するダイレクトブロー成形により成形された容器について説明する被覆方法も採用することができる。
【0030】
[溶融成形]
本発明の電子レンジ加熱用容器をダイレクトブロー成形で成形するには、層の数に応じた数の押出機を用いて共押出することにより、パイプ状の多層パリソンを成形し、このパリソンの一部端部をピンチオフして、内部に圧縮エアなどのブロー流体を吹き込むことにより容器形状に成形する。
また射出成形や押出成形では、共射出成形又は共押出成形によって直接多層容器を成形できる。この際、容器端部において中間層を露出させない場合には、中間層を構成する吸湿性樹脂の射出或いは押出のタイミングをずらすことによって、中間層が内外層に内包されたパリソンを成形することができ、これにより中間層が露出しない容器を成形できる。
更に圧縮成形においては、多層ダイ内で合流させて、吸湿性樹脂を封入するように溶融樹脂を押出し、吸湿性樹脂が存在しない部分で切断して吸湿性樹脂が内外層を構成する樹脂で内封された溶融樹脂塊を圧縮成形することにより、中間層が露出しない容器を製造できる。
【0031】
また容器端部における中間層が露出部分を被覆する他の方法としては、容器端部を軟化点以上の温度に加熱した状態で押し潰して内外層を接着したり、或いは容器端部を別部材や接着性樹脂で被覆したり、或いはまた端部をカールさせて中間層が露出した部分を内側に入れる等、種々の方法により、中間層を外側に露出させないようにすることもできる。
更に、容器端部において吸湿性中間層を露出させる場合においては、容器端部の多層構造間においてのみ接着材で接着すれば、落下等による容器の層間剥離を防ぐことができる。
【実施例
【0032】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
1.容器損傷評価
後述する方法にて作製したカップ型容器に、後述するでん粉モデル液80gを充填し、蓋材をヒートシール密封し、シャワー式レトルト殺菌機で121℃-30分のレトルト殺菌をした後、温度23℃・湿度40%の環境下で7日間保存した。その後、シャープ社製電子レンジRE-S31Fで、600W1分間加熱を行い、カップ型容器に発泡又は発泡に起因する穴あき等の損傷の有無を目視で確認した。発泡等がなかったものを○、発泡等があったものを×として評価した。
<でん粉モデル液>
全重量を100%とした時の質量濃度(w/w)比率(%)として、
加工でん粉(アセチル化アジピン酸架橋澱粉):塩(食塩):水=3:0.3:96.7に調整。
2.落下評価
後述する方法にて作製したカップ型容器に、水80gを充填し、蓋材をヒートシールして密封した後、121℃-30分のシャワー式レトルト殺菌を行った。その後(1日後)、容器の底を下にした、垂直方向へ80cm高さから1回落下させ、さらに容器の底を床の水平面に対して90°の方向にした、鉛直方向へ同じく80cmの高さから1回落下をし、カップ型容器の損傷状態を目視で確認した。容器の割れ,漏洩のなかったものを○、割れ,漏洩のあったものを×として評価した。
尚、本評価においては、容器そのものの破損(割れ)による内容品の漏洩のみを評価対象とした。このため、容器と蓋との密封性評価としての漏洩確認は落下評価から除外しているが、本実施例,比較例においては、全ての容器で密封性は確保されており、密封性不足等による漏洩はなかった。
これら容器損傷評価,落下評価の結果は、後述の表1に示す。
【0034】
<実施例1>
〔カップ型容器の作製方法〕
内層から順に、厚さ450μmのポリプロピレン樹脂層(PP)(内層)/厚さ10μmのポリプロピレン系接着剤層/厚さ80μmのエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層(EVOH)(吸湿性中間層)/厚さ450μmのポリプロピレン樹脂層(PP)(外層)からなる3種4層構成で、総厚さ990μmの多層シートを、共押出し成形により作製した。
この多層シートを使用し、真空・圧空成形機により、容器口外径84mm、高さ31mm(内容積約105ml)の、図1に示す形状を有するフランジ付丸形容器を作製した(フランジ幅5mm)。
尚、本容器は、特開2004-58181号に記載されているように、成形後冷却される前にトリミングを行うことで容器端部において内外層を溶着させ、中間層の端部を内外層で被覆した。
【0035】
上記容器に、でん粉モデル液,水の何れかを80g充填後、容器のフランジ部に、蓋材をヒートシールして密封し、評価用サンプルとして供した。
尚、蓋材は、外層から、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/厚さ3μmの接着剤層/厚さ15μmのナイロンフィルム/厚さ3μmの接着剤層/厚さ7μmのアルミ箔/厚さ3μmの接着剤層/厚50μmのシーラントフィルムで構成された多層フィルムを用いた。
【0036】
<実施例2>
上記実施例1のカップ型容器作製において、接着剤層を外層と中間層の間に配置し、中間層と内層の間には接着剤層を配置しなかった以外は同様にしてカップ型容器を作製し、同様の蓋材を用い、同様の手順でヒートシールして密封し、評価用サンプルとして供した。
【0037】
<実施例3>
上記実施例1のカップ型容器作製において、内層と中間層の間にも接着剤層を配置しなかった以外は同様にしてカップ型容器を作製し、同様の蓋材を用い、同様の手順でヒートシールして密封し、評価用サンプルとして供した。
【0038】
<実施例4>
上記実施例3のカップ型容器作製において、容器端部を被覆しなかった以外は同様にして真空・圧空成形機によりカップ型容器を作製し、グルーガンを用いてフランジ端部の層間にポリプロピレン系接着樹脂を流入して硬化させた以外は同様の蓋材を用い、同様の手順でヒートシールして密封し、評価用サンプルとして供した。
【0039】
<実施例5>
上記実施例3のカップ型容器作製において、中間層と内層の間に、還元性鉄粉を含有した酸素吸収性中間層を配置した以外は同様にしてカップ型容器を作製し、同様の蓋材を用い、同様の手順でヒートシールして密封し、評価用サンプルとして供した。
【0040】
<比較例1>
上記実施例1のカップ型容器作製において、中間層と外層の間にも接着剤層を配置した以外は同様にしてカップ型容器を作製し、同様の蓋材を用い、同様の手順でヒートシールして密封し、評価用サンプルとして供した。
【0041】
<比較例2>
上記比較例1のカップ型容器作製において、容器フランジ端部の被覆をなしとした以外は同様にしてカップ型容器を作製し、同様の蓋材を用い、同様の手順でヒートシールして密封し、評価用サンプルとして供した。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例、比較例の結果から、吸湿性中間層と隣接する層の間に隙間が形成された多層容器を電子レンジ加熱用容器として用いることにより、電子レンジ調理時の容器の損傷を抑制できることがわかった。また、容器性能としては、多層容器の層間に隙間が形成されていても(=接着剤なし)、通常の構成品(=接着剤あり,隙間なし)と同等の落下強度を有していることがわかった。
【符号の説明】
【0044】
1 カップ型容器、2 底部、3 胴部、4 フランジ部、5 スタック部、10 内層、11 中間層、12 外層、13 接着層。
図1