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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】ダイオキシン類の分画方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20230131BHJP
   G01N 30/46 20060101ALI20230131BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20230131BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20230131BHJP
   B01J 20/284 20060101ALI20230131BHJP
   B01J 20/282 20060101ALI20230131BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20230131BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20230131BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20230131BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20230131BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230131BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
G01N30/88 X
G01N30/46 A
G01N30/26 A
B01J20/283
B01J20/284
B01J20/282 J
B01J20/282 Z
B01J20/10 A
B01J20/08 A
B01J20/20 D
B01J20/10 D
B01J20/34 G
B01J20/30
B01D15/00 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019006673
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020115111
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】菅 晃一
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190962(JP,A)
【文献】特開2003-225507(JP,A)
【文献】特開2006-313125(JP,A)
【文献】特表2004-508539(JP,A)
【文献】ROSZKO Marek et al.,Separation of polychlorinated dibenzo-p-dioxins/furans, non-ortho/mono/di/tri/tetra-ortho-polychlori,Analytica Chimica Acta,2013年10月17日,Vol.799,pp.88-98
【文献】植田忠彦,キャピラリーGC/MS-Selected Ion Monitoring法による魚介類中のNon-ortho-Chlorine Substituted PCBの定量,環境と測定技術,1992年10月20日,Vol.19, No.10,pp.14-20
【文献】LIU Hanxia et al.,Separation of polybrominated diphenyl ethers, polychlorinated biphenyls, polychlorinated dibenzo-p-d,Analytica Chimica Acta,2006年01月31日,Vol.557,pp.314-320
【文献】小泉 敏章、吉村 広三,鉱油及び廃油中のポリ塩化ビフェニル分析の前処理法,分析化学,Vol.34, No.11,日本,1985年11月05日,T143-T147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/26,30/46,30/88,
B01D 15/00,
B01J 20/08-20/34,
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層にダイオキシン類の脂肪族炭化水素溶媒溶液を通過させる工程を含み
前記吸着剤が前記活性ケイ酸マグネシウムと混合されたグラファイトをさらに含む、
ダイオキシン類の分画方法。
【請求項2】
前記吸着剤における前記グラファイトの含有量が25重量%以下である、請求項1に記載のダイオキシン類の分画方法。
【請求項3】
前記活性ケイ酸マグネシウムはケイ酸マグネシウムとグラファイトとの混合物を650℃以下に加熱処理することで調製したものである、請求項1または2に記載のダイオキシン類の分画方法。
【請求項4】
前記処理層を通過した前記脂肪族炭化水素溶媒溶液をアルミナ層にさらに通過させる、請求項1から3のいずれかに記載のダイオキシン類の分画方法。
【請求項5】
前記脂肪族炭化水素溶媒溶液が通過した前記処理層に対してダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給し、前記処理層を通過した当該溶媒を確保する工程、および、
前記脂肪族炭化水素溶媒溶液が通過した前記アルミナ層に対してダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給し、前記アルミナ層を通過した当該溶媒を確保する工程、
をさらに含む請求項4に記載のダイオキシン類の分画方法。
【請求項6】
ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類を分画するための器具であって、
両端が開放された管体と、
前記管体内に充填された、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層と、
を備え、
前記吸着剤が前記活性ケイ酸マグネシウムと混合されたグラファイトをさらに含む、
ダイオキシン類の分画器具。
【請求項7】
前記吸着剤における前記グラファイトの含有量が25重量%以下である、請求項6に記載のダイオキシン類の分画器具。
【請求項8】
前記管体内に充填されたアルミナ層をさらに含む、請求項6または7に記載のダイオキシン類の分画器具。
【請求項9】
ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類を分析するための試料の調製方法であって、
硝酸銀シリカゲル層と硫酸シリカゲル層とを含む精製層に前記ダイオキシン類溶液を添加する工程と、
前記ダイオキシン類溶液が添加された前記精製層に対し、脂肪族炭化水素溶媒を供給する工程と、
前記精製層を通過した前記脂肪族炭化水素溶媒を、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層に通過させる工程と、
前記処理層を通過した前記脂肪族炭化水素溶媒をアルミナ層に通過させる工程と、
前記脂肪族炭化水素溶媒が通過した前記アルミナ層に対してダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給し、前記アルミナ層を通過した当該溶媒を第1の分析用試料として確保する工程と、
前記脂肪族炭化水素溶媒が通過した前記処理層に対してダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給し、前記処理層を通過した当該溶媒を第2の分析用試料として確保する工程と、
を含み、
前記吸着剤が前記活性ケイ酸マグネシウムと混合されたグラファイトをさらに含む、
ダイオキシン類の分析用試料の調製方法。
【請求項10】
ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類の分析方法であって、
ガスクロマトグラフィー法またはバイオアッセイ法により、請求項9に記載のダイオキシン類の分析用試料の調製方法により調製された第1の分析用試料と第2の分析用試料とを個別に分析する工程を含む、
ダイオキシン類の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類の分画方法、特に、ダイオキシン類の脂肪族炭化水素溶媒溶液に含まれるダイオキシン類を分画するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毒性の強い物質であるダイオキシン類による環境汚染の懸念から、各国において、廃棄物焼却施設からの排気ガス、大気、工場排水や河川水などの水、廃棄物焼却施設において発生する飛灰(フライアッシュ)および土壌などのダイオキシン類による汚染状況の分析および評価が求められている。また、食品についても、同様の分析および評価を求められることが多い。
【0003】
ダイオキシン類は、一般に、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)およびダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL-PCBs)を総称する用語である。DL-PCBsは、209種類のポリ塩化ビフェニル類(PCBs)のうち、PCDDsおよびPCDFsと同様の毒性を示すPCBsであり、ノンオルソPCBsおよびモノオルソPCBsを含む。
【0004】
大気や土壌等の環境試料や食品試料等の試料についてダイオキシン類による汚染を評価する際には、先ず、試料からダイオキシン類を抽出し、分析用試料を確保する必要がある。試料が土壌や固形食品等の固形物の場合、例えば、ソックスレー抽出法により固形物からダイオキシン類を抽出する。また、試料が大気や飲料等の流体の場合、例えば、フイルタ等の採取器を用いて流体中のダイオキシン類を捕捉して採取した後、採取器を洗浄したり、採取器に対してソックスレー抽出法を適用したりすることで、採取器に採取されたダイオキシン類を抽出する。そして、このようにして得られたダイオキシン類の抽出液は、分析用試料として、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)等の分析装置を用いて定量分析される。
【0005】
ダイオキシン類の抽出液は、分析結果に影響する可能性のある様々な夾雑成分、例えば、ダイオキシン類と化学構造や化学挙動が類似する、ポリ塩素化ジフェニルエーテル(PCDE)やDL-PCBs以外のPCBs(以下、非DL-PCBsと称することがある。)等のポリ塩化多環芳香族炭化水素類を含むため、通常、精製処理された後に適宜濃縮され、分析装置へ適用されている。抽出液の精製処理方法として、特許文献1には、精製剤としての硫酸シリカゲルおよび硝酸銀シリカゲルを充填した前段カラムと、吸着剤としての活性炭含有シリカゲルやグラファイトカーボンを充填した後段カラムとを備えたクロマトグラフカラムを用いる方法が記載されている。この方法において、後段カラムの吸着剤としては、活性炭シリカゲルまたはグラファイトカーボンを選択的に用いることができ、また、両者を併用する場合においては、各充填剤を積層した状態または混合した状態で用いることができる。
【0006】
このクロマトグラフカラムを用いた精製処理方法では、先ず、ダイオキシン類の抽出液を前段カラムに注入し、続いて前段カラムに対して炭化水素溶媒を供給する。この炭化水素溶媒は、注入された抽出液中のダイオキシン類を溶解して前段カラムおよび後段カラムを通過する。このとき、炭化水素溶媒に溶解したダイオキシン類は、前段カラムの精製剤を通過し、後段カラムの吸着剤に吸着される。一方、抽出液に含まれる夾雑成分は、ダイオキシン類とともに炭化水素溶媒に溶解し、前段カラムの精製剤を通過するときに一部が分解され、また、一部が吸着される。そして、夾雑成分またはその分解生成物のうち、精製剤において吸着されないものは、炭化水素溶媒に溶解した状態で後段カラムの吸着剤を通過し、カラムから排出される。
【0007】
次に、前段カラムと後段カラムとを分離し、後段カラムに対してダイオキシン類を溶解可能なアルキルベンゼンを供給する。そして、後段カラムを通過するアルキルベンゼンを確保すると、夾雑成分が除去された、ダイオキシン類のアルキルベンゼン溶液が得られる。このアルキルベンゼン溶液は、ダイオキシン類の分析用試料として用いることができ、適宜濃縮した後、GC/MS等の分析装置により分析される。
【0008】
このような精製処理方法では、抽出液に含まれる全種類のダイオキシン類を後段カラムの吸着剤で捕捉し、そのダイオキシン類をアルキルベンゼンで抽出することになる。したがって、分析装置においては、アルキルベンゼン溶液に含まれる全種類のダイオキシン類を同時に分析することになる。
【0009】
ところが、全種類のダイオキシン類を同時に含むアルキルベンゼン溶液を分析したとき、その結果は信頼性を欠く可能性がある。例えば、高分解能GC/MSによりアルキルベンゼン溶液を分析する場合、モノオルソPCBsがPCDDsおよびPCDFsの定量分析結果に影響し、逆に、PCDDsおよびPCDFsがモノオルソPCBsの定量分析結果に影響することが知られている。
【0010】
そこで、ダイオキシン類の分析において、ダイオキシン類を数種類に分画して分析用試料を調製することが試みられている。例えば、特許文献2には、グラファイト状炭素またはグラファイト状炭素とシリカゲル、活性炭含有シリカゲル、活性炭、アルミナ若しくはゼオライトなどの他の材料との混合物をダイオキシン類の吸着剤として用いる方法が記載されている。
【0011】
この方法では、吸着剤を充填したカラムに対して精製したダイオキシン類溶液を供給し、吸着剤にダイオキシン類を吸着させる。そして、カラムに対して数種類の溶媒を順次供給し、数種類のダイオキシン類溶液を調製する。特許文献2は、このような方法により、例えば、DL-PCBs以外のPCBsを含む溶液、モノオルソPCBsを含む溶液並びにノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含む溶液の3種類のダイオキシン類溶液を調製できるとしている。
【0012】
しかし、この方法は、特許文献1に記載の方法と同じく吸着剤に対して全種類のダイオキシン類を吸着させることになるため、ダイオキシン類の精密な分画が困難である。例えば、モノオルソPCBsを含む溶液にはPCDDsやPCDFsの一部が混入する可能性があり、また、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含む溶液にはモノオルソPCBsの一部が混入する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2002-40007号公報
【文献】特開2006-297368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ダイオキシン類をノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとに高精度に分画しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ダイオキシン類の分画方法に関するものであり、この分画方法は、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層にダイオキシン類の脂肪族炭化水素溶媒溶液を通過させる工程を含む。
【0016】
この分画方法において、ダイオキシン類の脂肪族炭化水素溶媒溶液は、処理層を通過するとき、ダイオキシン類のうちのノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群が活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤に吸着される。一方、ダイオキシン類のうちのモノオルソPCBsは、脂肪族炭化水素溶媒溶液中に残留し、処理層を通過する。結果的に、脂肪族炭化水素溶媒溶液中のダイオキシン類は、処理層に捕捉されたノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群と、脂肪族炭化水素溶媒溶液中に残留するモノオルソPCBsとに分画される。
【0017】
この分画方法において用いられる吸着剤の一形態は、活性ケイ酸マグネシウムと混合されたグラファイトをさらに含む。この形態の吸着剤におけるグラファイトの含有量は、25重量%以下が好ましい。また、この形態の吸着剤における活性ケイ酸マグネシウムは、例えば、ケイ酸マグネシウムとグラファイトとの混合物を650℃以下に加熱することで調製したものである。
【0018】
本発明の分画方法の一形態では、処理層を通過した脂肪族炭化水素溶媒溶液をさらにアルミナ層に通過させる。
【0019】
この形態の分画方法において、処理層を通過した脂肪族炭化水素溶媒溶液は、アルミナ層を通過するとき、残留するモノオルソPCBsがアルミナ層に吸着される。結果的に、脂肪族炭化水素溶媒溶液中のダイオキシン類は、処理層において選択的に捕捉されたノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群と、アルミナ層において選択的に捕捉されたモノオルソPCBsとに分画される。
【0020】
この形態の分画方法は、脂肪族炭化水素溶媒溶液が通過した処理層に対してダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給し、処理層を通過した当該溶媒を確保する工程、および、脂肪族炭化水素溶媒溶液が通過したアルミナ層に対してダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給し、アルミナ層を通過した当該溶媒を確保する工程をさらに含んでいてもよい。
【0021】
この形態の分画方法がこれらの工程をさらに含む場合、処理層において捕捉されたノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群並びにアルミナ層において捕捉されたモノオルソPCBsは、各層に対してそれぞれ供給されたダイオキシン類を溶解可能な溶媒に溶解することで各層からそれぞれ抽出され、別々の抽出液として得られる。
【0022】
他の観点に係る本発明は、ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類を分画するための器具に関するものである。この分画器具は、両端が開放された管体と、当該管体内に充填された、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層とを備えている。
【0023】
この分画器具を用いてダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類を分画するときは、管体の処理層へダイオキシン類溶液を添加する。そして、ダイオキシン類溶液を添加した処理層に対してダイオキシン類を溶解可能な脂肪族炭化水素溶媒を供給すると、この脂肪族炭化水素溶媒はダイオキシン類を溶解してダイオキシン類の脂肪族炭化水素溶媒溶液となり、処理層を通過する。この際、ダイオキシン類は、処理層において展開し、そのうちのノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群が吸着剤に吸着され、また、モノオルソPCBsが脂肪族炭化水素溶媒に溶解した状態で処理層を通過する。結果的に、ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類は、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとに分画される。
【0024】
この分画器具の一形態において、吸着剤は活性ケイ酸マグネシウムと混合されたグラファイトをさらに含む。この場合、吸着剤におけるグラファイトの含有量は25重量%以下が好ましい。
【0025】
本発明の分画器具の一形態では、管体内に充填されたアルミナ層をさらに含む。この形態の分画器具における管体の一例は、処理層とアルミナ層との間に開口を有する。
【0026】
この形態の分画器具において、処理層を通過した脂肪族炭化水素溶媒に含まれるモノオルソPCBsは、アルミナ層に吸着され、脂肪族炭化水素溶媒から分離される。結果的に、ダイオキシン類溶液中のダイオキシン類は、処理層において選択的に捕捉されたノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群と、アルミナ層において選択的に捕捉されたモノオルソPCBsとに分画される。
【0027】
他の観点に係る本発明は、ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類を分析するための試料の調製方法に関するものであり、この調製方法は、硝酸銀シリカゲル層と硫酸シリカゲル層とを含む精製層にダイオキシン類溶液を添加する工程と、ダイオキシン類溶液が添加された精製層に対し、脂肪族炭化水素溶媒を供給する工程と、精製層を通過した脂肪族炭化水素溶媒を、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層に通過させる工程と、処理層を通過した脂肪族炭化水素溶媒をアルミナ層に通過させる工程と、脂肪族炭化水素溶媒が通過したアルミナ層に対してダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給し、アルミナ層を通過した当該溶媒を第1の分析用試料として確保する工程と、脂肪族炭化水素溶媒が通過した処理層に対してダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給し、処理層を通過した当該溶媒を第2の分析用試料として確保する工程とを含む。
【0028】
この調製方法において、ダイオキシン類溶液を添加した精製層に対して脂肪族炭化水素溶媒を供給すると、この脂肪族炭化水素溶媒は精製層を通過する。この際、ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類および夾雑成分は脂肪族炭化水素溶媒に溶解する。そして、夾雑成分の一部は、精製層の硝酸銀シリカゲル層または硫酸シリカゲル層と反応して分解する。また、夾雑成分の一部および分解生成物は、硝酸銀シリカゲル層または硫酸シリカゲル層に吸着する。一方、ダイオキシン類は、脂肪族炭化水素溶媒に溶解した状態で精製層を通過する。この結果、ダイオキシン類は、夾雑成分の一部から分離される。
【0029】
精製層を通過した、ダイオキシン類の溶解した脂肪族炭化水素溶媒は、処理層を通過するときにダイオキシン類のうちのノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群が吸着剤に対して選択的に吸着し、アルミナ層を通過するときにダイオキシン類のうちのモノオルソPCBsが当該アルミナ層に対して選択的に吸着する。このため、第1の分析用試料はモノオルソPCBsの分析用試料となり、第2の分析用試料はノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群の分析用試料となる。つまり、この調製方法によれば、モノオルソPCBsの分析用試料と、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群の分析用試料とを別々に調製することができる。
【0030】
さらに他の観点に係る本発明は、ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類の分析方法に関するものであり、この分析方法は、ガスクロマトグラフィー法またはバイオアッセイ法により、本発明に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法により調製された第1の分析用試料と第2の分析用試料とを個別に分析する工程を含む。
【0031】
この分析方法は、第1の分析用試料の分析によってモノオルソPCBsを分析することができ、また、第2の分析用試料の分析によってノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを分析することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るダイオキシン類の分画方法は、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層を用いることから、ダイオキシン類をノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとに分画することができ、また、その分画精度を高めることができる。
【0033】
本発明に係るダイオキシン類の分画器具は、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層を備えていることから、ダイオキシン類をノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとに分画することができ、また、その分画精度を高めることができる。
【0034】
本発明に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法は、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層を用いることから、ダイオキシン類溶液からモノオルソPCBsの分析用試料と、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群の分析用試料とを別々に調製することができる。
【0035】
本発明に係るダイオキシン類の分析方法は、本発明に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法により調製された第1の分析用試料と第2の分析用試料とを個別に分析する工程を含むことから、第1の分析用試料の分析によってモノオルソPCBsを分析することができ、また、第2の分析用試料の分析によってノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る分析用試料の調製方法を実施するための装置の第1例の概要の部分断面図。
図2図1に示す装置の変更例の概要の部分断面図。
図3】本発明に係る分析用試料の調製方法を実施するための装置の第2例の概要の部分断面図。
図4】本発明に係る分析用試料の調製方法を実施するための分画器具の一例の概要を示す断面図。
図5図4に示す分画器具の変形例の一部の概要を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図を参照して、本発明に係る分析用試料の調製方法の実施の形態を以下に説明する。各図は、本発明の調製方法を実施するために用いられる装置または分画器具の例の概要を示したものであり、各部の構造、形状および大きさ等を正確に反映したものではない。
【0038】
第1の形態
図1を参照して、本発明に係る分析用試料の調製方法を実施可能な装置の第1例を説明する。図1において、調製装置100は、ダイオキシン類溶液からダイオキシン類の分析用試料を調製するためのものであり、ダイオキシン類の分画器具200、加熱装置300、溶媒供給装置400、溶媒流出経路500、第1抽出経路600および第2抽出経路700を主に備えている。
【0039】
分画器具200は、管体210を備えている。管体210は、少なくとも耐溶媒性、耐薬品性および耐熱性を有する材料、例えば、これらの特性を備えたガラス、樹脂または金属等からなり、一端に開口211を有し、他端に開口212を有する、両端が開放した一連の円筒状に形成されている。また、管体210は、開口211側に形成された、径が相対的に大きく設定された大径部213と、開口212側に形成された、径が相対的に小さく設定された小径部214とを有している。小径部214は、開口としての2本の分岐路、すなわち、間隔をおいて設けられた第1分岐路215と第2分岐路216とを有している。
【0040】
管体210は、起立状態で保持されており、内部に精製層220と分画層230とが充填されている。
【0041】
精製層220は、大径部213内に充填されており、開口211側から順に硝酸銀シリカゲル層221、第1活性シリカゲル層223、硫酸シリカゲル層222および第2活性シリカゲル層224を配置した多層シリカゲル層である。
【0042】
硝酸銀シリカゲル層221は、硝酸銀シリカゲルからなるものであり、ダイオキシン類溶液に混入している夾雑成分の一部を分解または吸着するためのものである。ここで用いられる硝酸銀シリカゲルは、粒径が40~210μm程度の粒状のシリカゲル(通常は加熱により活性度を高めた活性シリカゲル)の表面に硝酸銀の水溶液を均一に添加した後、減圧加熱により水分を除去することで調製されたものである。シリカゲルに対する硝酸銀水溶液の添加量は、通常、シリカゲルの重量の5~20%に設定するのが好ましい。
【0043】
硝酸銀シリカゲル層221における硝酸銀シリカゲルの充填密度は、特に限定されるものではないが、通常、0.3~0.8g/cmに設定するのが好ましく、0.4~0.7g/cmに設定するのがより好ましい。
【0044】
硫酸シリカゲル層222は、硫酸シリカゲルからなるものであり、ダイオキシン類溶液に混入しているダイオキシン類以外の夾雑成分の一部を分解または吸着するためのものである。ここで用いられる硫酸シリカゲルは、粒径が40~210μm程度の粒状のシリカゲル(通常は加熱により活性度を高めた活性シリカゲル)の表面に濃硫酸を均一に添加することで調製されたものである。シリカゲルに対する濃硫酸の添加量は、通常、シリカゲルの重量の10~130%に設定するのが好ましい。
【0045】
硫酸シリカゲル層222における硫酸シリカゲルの充填密度は、特に限定されるものではないが、通常、0.3~1.1g/cmに設定するのが好ましく、0.5~1.0g/cmに設定するのがより好ましい。
【0046】
第1活性シリカゲル層223は、硝酸銀シリカゲル層221と硫酸シリカゲル層222とが直接的に接触することで相互に化学反応するのを避けるために配置されており、粒径が40~210μm程度の粒状のシリカゲルからなるものである。ここで用いられるシリカゲルは、加熱することで活性度を適宜に高めたものであってもよい。
【0047】
第2活性シリカゲル層224は、第1活性シリカゲル層223と同様のシリカゲルからなるものであり、硫酸シリカゲル層222と反応して分解された夾雑成分の一部、分解生成物および硫酸シリカゲル層222から溶出する硫酸を吸着し、これらが分画層230へ移動するのを防止するためのものである。
【0048】
精製層220において、硝酸銀シリカゲル層221と硫酸シリカゲル層222との比率は、硝酸銀シリカゲル層221に対する硫酸シリカゲル層222の重量比を1.0~50倍に設定するのが好ましく、3.0~30倍に設定するのがより好ましい。硫酸シリカゲル層222の重量比が50倍を超えるときは、硝酸銀シリカゲル層221の割合が相対的に小さくなるため、精製層220において、ダイオキシン類溶液に含まれる夾雑成分の吸着能が不十分になる可能性がある。逆に、硫酸シリカゲル層222の重量比が1.0倍未満のときは、精製層220において、ダイオキシン類溶液に含まれる夾雑成分の分解能が不十分になる可能性がある。
【0049】
分画層230は、ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類を分画するためのものであり、活性ケイ酸マグネシウムを含む吸着剤を用いた処理層240と、アルミナ層250とを備えている。処理層240とアルミナ層250とは、間隔を設けて小径部214内に充填されている。より具体的には、処理層240は、第1分岐路215と第2分岐路216との間において小径部214内に充填されており、アルミナ層250は、第2分岐路216と開口212との間において小径部214内に充填されている。
【0050】
処理層240において用いられる吸着剤に含まれる活性ケイ酸マグネシウムは、ケイ酸マグネシウムを加熱処理することで水分を除去し、それによって吸着能を高めたものである。ここで、ケイ酸マグネシウムは、ケイ素原子を中心とし、これを取り囲むように酸素とマグネシウムとを含む電気陰性な原子団が配位したケイ酸塩であり、一般にはxMgO・ySiOの化学式で表される。ケイ酸マグネシウムは、xとyとの組み合わせが異なる様々な組成のものが存在し、水和物(この場合、xMgO・ySiO・nHOの化学式で表される。)であってもよい。ケイ酸ナトリウムにおけるxとyとの組み合わせ(x:y)の代表例として、2:5、2:3および3:4などのものが知られている。このうち、x:yが2:3のものを用いるのが好ましい。
【0051】
活性ケイ酸マグネシウムとしては、処理層240において通液性を確保可能であって多孔質な粒状または粉末状のケイ酸マグネシウム、例えば、粒径が38~250μm(60~390メッシュ)のケイ酸マグネシウム、特に、75~150μm(100~200メッシュ)のケイ酸マグネシウムを加熱処理して活性化したものが好ましい。粒状または粉末状のケイ酸マグネシウムは、例えば「フロリジル(Florisil)」の商品名で複数社より市販されており、これらの市販物を用いることができる。
【0052】
ケイ酸マグネシウムを活性化するための加熱処理は、例えば管状炉を用い、窒素等の不活性ガスの気流下において650℃以下で実行するのが好ましく、500℃以下で実行するのが特に好ましい。この際、不活性ガスの流速は0.5~1.0L/分に設定するのが好ましい。また、加熱時間は0.5~3時間に設定するのが好ましく、1~2時間に設定するのが特に好ましい。650℃を超える温度条件で加熱処理したケイ酸マグネシウムは、水分除去による活性化の域を越えて変質してしまい、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとの分画が困難になる。
【0053】
処理層240において用いられる吸着剤は、活性ケイ酸マグネシウムと混合されたグラファイトをさらに含むものであってもよい。このような吸着剤を用いた場合、ダイオキシン類溶液から、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群のための分析用試料と、モノオルソPCBsのための分析用試料とによりより高精度に分画されたダイオキシン類の分析用試料を調製することができる。
【0054】
グラファイトは、市販の各種のものを用いることができるが、通常、粒径が40~200μm程度の粒状または粉末状であって、BET法により測定した比表面積が10~500m/g、特に50~200m/gのものが好ましい。また、グラファイトは、不純成分として残留している有機化合物を除去するために加熱処理されたもの、若しくは、有機溶媒で洗浄されたものが好ましい。
【0055】
吸着剤におけるグラファイトの割合は、25重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、15重量%以下がさらに好ましく、12.5重量%以下が特に好ましい。グラファイトの割合が25重量%を超える場合、処理層240においてモノオルソPCBsの吸着能が高まり、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとの分画能が低下する可能性がある。
【0056】
吸着剤において用いられる活性ケイ酸マグネシウムとグラファイトとの混合物は、ケイ酸マグネシウムとグラファイトとの混合物を加熱処理し、当該混合物中のケイ酸マグネシウムを活性化したものであってもよい。ダイオキシン類溶液が環境成分由来の夾雑成分を含む場合、特に、環境成分に由来の芳香族炭化水素化合物を夾雑成分として含むような場合、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとの分画能が夾雑成分の影響により低下する傾向にあるが、吸着剤においてこのような混合物を用いることでその分画能を高めることができる。
【0057】
ケイ酸マグネシウムとグラファイトとの混合物の加熱処理は、例えば管状炉を用い、窒素等の不活性ガスの気流下において650℃以下で実行するのが好ましく、500℃以下で実行するのが特に好ましい。この際、不活性ガスの流速は0.5~1.0L/分に設定するのが好ましい。また、加熱時間は0.5~3時間に設定するのが好ましく、1~2時間に設定するのが特に好ましい。加熱処理の温度条件が650℃を超える場合、ケイ酸マグネシウムが水分除去による活性化の域を越えて変質してしまい、加熱処理後の混合物はノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとの分画が困難になる。
【0058】
処理層240における吸着剤の充填密度は、特に限定されるものではないが、通常、0.2~0.6g/cmに設定するのが好ましく、0.3~0.5g/cmに設定するのがより好ましい。
【0059】
アルミナ層250は、粒状のアルミナを充填したものである。ここで用いられるアルミナは、塩基性アルミナ、中性アルミナおよび酸性アルミナのいずれのものであってもよい。また、アルミナの活性度は、特に限定されるものではない。アルミナの好ましい粒径は、通常、40~300μmである。
【0060】
アルミナ層250におけるアルミナの充填密度は、特に限定されるものではないが、通常、0.5~1.2g/cmに設定するのが好ましく、0.8~1.1g/cmに設定するのがより好ましい。
【0061】
処理層240(A)とアルミナ層250(B)との量比(A:B)は、分画精度を高めるとともにダイオキシン類の一部が分画層230において捕捉されずに漏出してしまうのを抑える観点から、通常、体積比で1:0.5~1:3に設定するのが好ましく、1:1~1:2に設定するのがより好ましい。
【0062】
分画器具200の大きさは、調製装置100により処理するダイオキシン類溶液の量に応じて適宜設定することができるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、ダイオキシン類溶液量が1~20mL程度の場合、大径部213は、精製層220を充填可能な部分の大きさが内径10~20mmで長さが100~300mm程度に設定されているのが好ましく、また、小径部214は、内径3~10mmで、処理層240を充填可能な部分の長さが20~80mm程度に、また、アルミナ層250を充填可能な部分の長さが20~80mm程度に設定されているのが好ましい。
【0063】
加熱装置300は、大径部213の外周を囲むように配置されており、精製層220の硝酸銀シリカゲル層221および第1活性シリカゲル層223と、硫酸シリカゲル層222の一部、すなわち、硝酸銀シリカゲル層221近傍部分とを加熱するためのものである。
【0064】
溶媒供給装置400は、第1溶媒容器410から管体210へ延びる第1溶媒供給路420を有している。第1溶媒供給路420は、管体210の開口211に対して着脱可能であり、開口211へ装着されたときに開口211を気密に閉鎖可能である。また、第1溶媒供給路420は、第1溶媒容器410側から順に、空気導入弁423、第1溶媒容器410に貯留された溶媒を管体210へ供給するための第1ポンプ421および第1弁422を有している。空気導入弁423は、一端が開放した空気導入路424を有する三方弁であり、流路を空気導入路424側または第1溶媒容器410側のいずれかに切換えるためのものである。第1弁422は、二方弁であり、第1溶媒供給路420の解放と閉鎖とを切換えるためのものである。
【0065】
第1溶媒容器410に貯留される溶媒は、ダイオキシン類を溶解可能な脂肪族炭化水素溶媒、好ましくは炭素数が5~8個の脂肪族飽和炭化水素溶媒である。例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどである。これらの溶媒は、適宜混合して用いられてもよい。
【0066】
溶媒流出経路500は、管体210の開口212に対して気密に接続された流路510を有している。流路510は、第2弁520を有している。第2弁520は三方弁であり、管体210からの溶媒を廃棄するための廃棄経路531と、管体210に対して溶媒を供給するための第2溶媒供給路541とが連絡しており、流路510が廃棄経路531または第2溶媒供給路541のいずれか一方に連絡するよう切換えるためのものである。
【0067】
第2溶媒供給路541は、第2ポンプ542を有しており、分画器具200で捕捉されたダイオキシン類を抽出するための溶媒を貯留する第2溶媒容器543に連絡している。第2溶媒容器543に貯留する抽出溶媒は、後述するダイオキシン類の分析方法に応じて選択することができる。分析方法としてガスクロマトグラフィー法を採用する場合は、それに適した溶媒、例えば、トルエンまたはベンゼンを用いることができる。また、トルエンまたはベンゼンに対して脂肪族炭化水素溶媒または有機塩素系溶媒を添加した混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒を用いる場合、トルエンまたはベンゼンの割合は50重量%以上に設定する。混合溶媒において用いられる脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどが挙げられる。また、有機塩素系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタンまたはテトラクロロメタンなどが挙げられる。これらの抽出溶媒のうち、少量の使用で分画器具200からダイオキシン類を抽出できることから、トルエンが特に好ましい。
【0068】
分析方法としてバイオアッセイ法を採用する場合は、それに適した溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)やメタノール等の親水性溶媒が用いられる。
【0069】
第1抽出経路600は、第1分岐路215から延びる第1回収経路610を有している。第1回収経路610は、一端が第1分岐路215に気密に連絡しており、他端が溶媒を回収するための第1回収容器620内に気密に挿入されている。第1回収容器620には、第1回収経路610とは別に第1通気経路630の一端が気密に挿入されている。第1通気経路630は、他端に第3弁631を備えている。第3弁631は三方弁であり、一端が開放した開放路632と、第1通気経路630へ圧縮空気を送るためのコンプレッサー633を備えた空気供給経路634とが連絡しており、第1通気経路630が開放路632または空気供給経路634のいずれか一方に連絡するよう切換えるためのものである。
【0070】
第2抽出経路700は、第2分岐路216から延びる第2回収経路710を有している。第2回収経路710は、一端が第2分岐路216に気密に連絡しており、他端が溶媒を回収するための第2回収容器720内に気密に挿入されている。第2回収容器720には、第2回収経路710とは別に第2通気経路730の一端が気密に挿入されている。第2通気経路730は、第4弁731を備えている。第4弁731は二方弁であり、第2通気経路730の開放と閉鎖とを切換えるためのものである。
【0071】
次に、上述の調製装置100を用いてダイオキシン類溶液からダイオキシン類の分析用試料を調製するための方法を説明する。先ず、調製装置100において、第1弁422、空気導入弁423、第2弁520、第3弁631および第4弁731を所定の初期状態に設定する。すなわち、第1弁422は開放状態に設定し、空気導入弁423は第1溶媒容器410側に連絡するよう設定する。また、第2弁520は流路510が廃棄経路531と連絡するよう設定する。さらに、第3弁631は第1通気経路630と空気供給経路634とが連絡するよう設定し、第4弁731は閉鎖状態に設定する。
【0072】
分析用試料の調製方法は、主に、ダイオキシン類の分画工程と抽出工程とを含む。
【0073】
<ダイオキシン類の分画工程>
初期状態への設定後、分画器具200に対してダイオキシン類溶液を注入する。ここでは、管体210から第1溶媒供給路420を取り外し、開口211から精製層220に対してダイオキシン類溶液を注入する。そして、管体210に第1溶媒供給路420を装着した後、加熱装置300を作動させ、精製層220の一部、すなわち、硝酸銀シリカゲル層221および第1活性シリカゲル層223の全体並びに硫酸シリカゲル層222の一部を加熱する。
【0074】
ここで注入するダイオキシン類溶液は、例えば、大気や土壌等の環境試料や食品試料等のダイオキシン類を含む可能性のある試料から溶媒を用いてダイオキシン類を抽出した抽出液であるが、ダイオキシン類を含む可能性のある魚油(フィッシュオイル)等の油状の食品そのものでもよい。
【0075】
このようなダイオキシン類溶液は、ダイオキシン類と化学構造や化学挙動が類似し、ダイオキシン類の分析結果に影響を与える可能性があるPCDEや非DL-PCBs等のポリ塩化多環芳香族炭化水素類やその他の芳香族炭化水素化合物などを夾雑成分として含むことが多い。特に、土壌、焼却炉等からの排ガス、底質またはスラッジ汚泥などの環境試料からのダイオキシン類の抽出液は、ダイオキシン類と分離しにくい種々の有機化合物、典型的には芳香族炭化水素化合物を夾雑成分として含むことが多く、この夾雑成分がダイオキシン類をノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとに分画する際の精度に影響する可能性が高い。また、土壌からのダイオキシン類の抽出液の場合、この抽出液は、土壌に多く含まれるパラフィン類(直鎖炭化水素化合物類)を夾雑成分として含むことが多い。パラフィン類は、PCDDs、PCDFsおよびノンオルソPCBsとともに炭素系の吸着剤に吸着されやすく、また、当該吸着剤からPCDDs、PCDFsおよびノンオルソPCBsとともに抽出されやすいため、ダイオキシン類をGC/MS法(特に、GC-HRMS法)により分析する場合において、分析精度に影響するロックマス変動の原因物質として知られている。
【0076】
ダイオキシン類の抽出液は、通常、脂肪族炭化水素溶媒を用いたものであれば、そのまま分画器具200へ注入することができる。また、抽出液が脂肪族炭化水素溶媒以外の有機溶媒、例えばトルエンなどの芳香族炭化水素溶媒を用いた抽出により得られたものの場合、当該抽出液は、抽出用に用いた芳香族炭化水素溶媒を脂肪族炭化水素溶媒に置換することで分画器具200へ注入することができる。抽出あるいは溶媒置換に用いられる脂肪族炭化水素溶媒は、通常、炭素数が5~10の脂肪族炭化水素溶媒が好ましく、例えば、n-ヘキサン、イソオクタン、ノナンおよびデカンなどを挙げることができる。特に、安価なn-ヘキサンが好ましい。
【0077】
分画器具200へのダイオキシン類溶液の注入量は、通常、1~10mL程度が好ましい。注入する溶液は、溶媒の一部を留去することで濃縮しておくこともできる。
【0078】
ダイオキシン類溶液が魚油等の油状のものの場合、このダイオキシン類溶液は、それを溶解可能な脂肪族炭化水素溶媒とともに、または、当該溶媒に予め溶解した溶液として分画器具200に注入することもできる。この場合、ダイオキシン類溶液と脂肪族炭化水素溶媒との合計量が上記注入量になるよう設定する。
【0079】
注入したダイオキシン類溶液は、硝酸銀シリカゲル層221の上部に浸透し、加熱装置300により精製層220の一部とともに加熱される。加熱装置300による加熱温度は、35℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上に設定する。この加熱により、溶液に含まれるダイオキシン類以外の夾雑成分の一部が精製層220と反応し、分解される。加熱温度が35℃未満の場合は、夾雑成分と精製層220との反応が進行しにくくなり、ダイオキシン類の分析用試料に夾雑成分の一部が残留しやすくなる可能性がある。加熱温度の上限は、特に限定されるものではないが、通常は安全性の観点から沸騰温度以下が好ましい。
【0080】
加熱時において、硝酸銀シリカゲル層221および硫酸シリカゲル層222は、第1活性シリカゲル層223を挟んで積層されているため、相互の反応が抑制される。
【0081】
次に、加熱開始から10~60分経過後に溶媒供給装置400から分画器具200に対して溶媒を供給する。この際、加熱装置300は、作動させたままでもよいし、停止してもよい。この工程では、第1弁422を開放状態に維持して第1ポンプ421を作動させ、第1溶媒容器410に貯留した適量の溶媒を第1溶媒供給路420を通じて開口211から管体210内へ供給する。この溶媒は、ダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類、夾雑成分の分解生成物および分解されずに残留している夾雑成分(この夾雑成分には、通常、非DL-PCBsが含まれる。)を溶解し、ダイオキシン類を含む脂肪族炭化水素溶媒溶液として精製層220を通過する。この際、分解生成物および夾雑成分の一部は、硝酸銀シリカゲル層221、第1活性シリカゲル層223、硫酸シリカゲル層222および第2活性シリカゲル層224に吸着する。また、精製層220を通過する溶媒は、加熱装置300での非加熱部分、すなわち、硫酸シリカゲル層222の下部および第2活性シリカゲル層224を通過するときに自然に冷却される。
【0082】
精製層220を通過した溶媒は、分画層230へ流れて処理層240とアルミナ層250とを通過し、開口212から流路510へ流れて廃棄経路531を通じて廃棄される。この際、精製層220からの溶媒に含まれるダイオキシン類は、分画層230に捕捉され、溶媒から分離される。より具体的には、分画層230において、ダイオキシン類のうちのノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsが処理層240に吸着され、また、モノオルソPCBsがアルミナ層250に吸着される。したがって、溶媒に含まれるダイオキシン類は、分画層230において、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群と、モノオルソPCBsとに分画される。
【0083】
精製層220を通過した溶媒に含まれる夾雑成分は、一部が溶媒とともに分画層230を通過して廃棄され、また、一部が分画層230に捕捉される。例えば、非DL-PCBsおよびPCDEは、モノオルソPCBsとともにアルミナ層250に吸着される。また、芳香族有機化合物やパラフィン類は、分画層230を通過し、廃棄経路531を通じて廃棄される。
【0084】
<ダイオキシン類の抽出工程>
次に、分画層230に吸着されたダイオキシン類を溶媒で抽出し、ダイオキシン類の分析用試料を調製する。この調製の前に、調製装置100では、精製層220および分画層230を乾燥処理する。ここでは、先ず、溶媒供給装置400の空気導入弁423を空気導入路424側に切換える。そして、第1ポンプ421を作動させ、空気導入路424から空気を吸引する。
【0085】
空気導入路424から吸引された空気は、第1溶媒供給路420を通じて開口211から管体210内へ供給され、精製層220および分画層230を通過して開口212から流路510へ流れて廃棄経路531を通じて排出される。この際、精製層220に残留する溶媒は、通過する空気により圧し出され、分画層230へ移動する。この結果、精製層220は乾燥処理される。
【0086】
次に、第1ポンプ421を停止するとともに第1弁422を閉鎖状態に切換え、第1抽出経路600においてコンプレッサー633を作動させる。
【0087】
コンプレッサー633の作動により、第1通気経路630、第1回収容器620および第1回収経路610を通じて空気供給経路634から第1分岐路215に圧縮空気が供給される。この圧縮空気は、分画層230を通過して開口212から流路510へ流れ、廃棄経路531を通じて排出される。この際、精製層220から分画層230へ移動した溶媒および分画層230の各層に残留する溶媒は、圧縮空気により圧し出され、圧縮空気とともに廃棄経路531から排出される。この結果、分画層230の各層は乾燥処理される。
【0088】
ダイオキシン類の分析用試料を調製するための最初の工程では、コンプレッサー633を停止するとともに、第2抽出経路700の第4弁731を開放状態に切換える。また、溶媒流出経路500において、流路510が第2溶媒供給路541と連絡するよう第2弁520を切換え、第2ポンプ542を作動する。これにより、第2溶媒供給路541および流路510を通じ、第2溶媒容器543に貯留された溶媒の適量を開口212から管体210内に供給する。
【0089】
流路510から管体210内に供給された溶媒は、アルミナ層250を通過して第2分岐路216へ流れ、第2抽出経路700の第2回収経路710を通じて第2回収容器720に回収される。この際、溶媒は、アルミナ層250に吸着したモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsを溶解し、これらのPCBsを抽出した溶液、すなわち、第1の分析用試料として第2回収容器720に回収される。
【0090】
この工程では、アルミナ層250を管体210の外部から加熱することもできる。アルミナ層250を加熱した場合、抽出用の溶媒の使用量を抑えて効率的にモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsをアルミナ層250から抽出することができる。アルミナ層250の加熱温度は、通常、50℃程度から抽出用の溶媒の沸点未満、特に、95℃以下に制御するのが好ましい。
【0091】
分析用試料を調製するための次の工程では、第2ポンプ542を一旦停止した後、第1抽出経路600において、第1通気経路630と開放路632とが連絡するよう第3弁631を切換え、第2抽出経路700の第4弁731を閉鎖状態に切換える。そして、溶媒流出経路500において、流路510が第2溶媒供給路541と連絡するよう第2弁520を維持した状態で第2ポンプ542を再度作動する。これにより、第2溶媒供給路541および流路510を通じ、第2溶媒容器543に貯留された溶媒の適量を開口212から管体210内に供給する。
【0092】
流路510から管体210内に供給された溶媒は、アルミナ層250および処理層240をこの順に通過して第1分岐路215へ流れ、第1抽出経路600の第1回収経路610を通じて第1回収容器620に回収される。この際、溶媒は、処理層240に吸着したノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を溶解し、これらのダイオキシン群を抽出した溶液、すなわち、第2の分析用試料として第1回収容器620に回収される。
【0093】
この工程では、処理層240を管体210の外部から加熱することもできる。処理層240を加熱した場合、抽出用の溶媒の使用量を抑えて効率的にノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を処理層240から抽出することができる。処理層240の加熱温度は、通常、50℃程度から抽出用の溶媒の沸点未満、特に、80℃以上95℃以下に制御するのが好ましい。
【0094】
以上の抽出工程により、モノオルソPCBsの分析用試料と、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsの分析用試料とが分別して得られる。
【0095】
このようにして調製された2種類の分析用試料は、それぞれ別々にダイオキシン類の分析に適用される。分析方法としては、分画層230からダイオキシン類を抽出するために用いた溶媒の種類に応じ、通常、GC-HRMS、GC-MSMS、GC-QMS若しくはイオントラップGC/MS等のGC/MS法またはGC/ECD法等のガスクロマトグラフィー法またはバイオアッセイ法を採用することができる。
【0096】
モノオルソPCBsの分析用試料(第1の分析用試料)の分析では、この分析用試料がノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を実質的に含まないことから、これらのダイオキシン群による影響を受けずにモノオルソPCBsを高精度に定量することができる。また、この分析用試料は、モノオルソPCBsとともに非DL-PCBsを含むため、ダイオキシン類溶液に含まれる非DL-PCBsを併せて高精度に定量することができる。例えば、欧州連合(EU)の食品規制基準(COMMISSION REGULATION (EU) No 1259/2011)では、牛肉や豚肉等の食肉並びに卵などの食品に含まれる有害物質の分析対象として、ダイオキシン類とともに所定の非DL-PCBs(IUPAC番号が#28、#52、#101、#138、#153および#180である、塩素数が3~7の6種類のPCBs)を定めているが、これらのPCBsは、この分析用試料の分析により定量することができる。
【0097】
一方、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsの分析用試料(第2の分析用試料)の分析では、この分析用試料がモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsを実質的に含まないことから、これらのPCBsによる影響を受けずにノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを高精度に定量することができる。
【0098】
なお、GC/MS法としてGC-MSMSまたはGC-TOFMSを用いることもでき、この場合、2種類の分析用試料を混合することで同時に分析することができる。
【0099】
調製装置100において、第2抽出経路700は、図2に示すように変更することができる。変更された第2抽出経路700は、第2分岐路216から延びる溶媒経路740を有している。溶媒経路740は、一端が第2分岐路216に気密に連絡しており、他端に第4弁741を備えている。第4弁741は、三方弁であって溶媒回収経路742と第3溶媒供給路743とが連絡しており、溶媒経路740が溶媒回収経路742または第3溶媒供給路743のいずれか一方に連絡するよう切換えるためのものである。
【0100】
溶媒回収経路742は、溶媒を回収するための第2回収容器744に連絡している。第2回収容器744は、その内部と外部とを通じる通気管745を有している。第3溶媒供給路743は、第3溶媒容器746に連絡しており、第3溶媒容器746に貯留された溶媒を送り出すための第3ポンプ747を有している。
【0101】
この変形例において、第2溶媒容器543は、アルミナ層250に吸着したダイオキシン類(モノオルソPCBsおよび非DL-PCBs)を抽出可能な溶媒を貯留し、また、第3溶媒容器746は、処理層240に吸着したダイオキシン類(ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFs)を抽出可能な溶媒を貯留する。各容器543、746に貯留する溶媒は、ダイオキシン類の分析方法に応じて選択することができる。
【0102】
具体的には、分析方法としてガスクロマトグラフィー法を採用する場合、第3溶媒容器746に貯留する溶媒としては、例えば、トルエンまたはベンゼンを用いることができる。また、トルエンまたはベンゼンに対して脂肪族炭化水素溶媒または有機塩素系溶媒を添加した混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒を用いる場合、トルエンまたはベンゼンの割合は50重量%以上に設定する。混合溶媒において用いられる脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどが挙げられる。また、有機塩素系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタンまたはテトラクロロメタンなどが挙げられる。これらの抽出溶媒のうち、少量の使用でダイオキシン類、特に、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを抽出できることから、トルエンが特に好ましい。一方、第2溶媒容器543に貯留する溶媒としては、第3溶媒容器746に貯留するものと同様のものの他、有機塩素系溶媒、有機塩素系溶媒と脂肪族炭化水素溶媒との混合溶媒または脂肪族炭化水素溶媒に対して少量のトルエンを添加した混合溶媒を用いることができるが、やはり少量の使用でダイオキシン類およびPCBs、特に、モノオルソPCBsおよび非DL-PCBsを抽出できることから、トルエンが特に好ましい。
【0103】
また、分析方法としてバイオアッセイ法を採用する場合は、第2溶媒容器543および第3溶媒容器746に貯留する溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)やメタノール等の親水性溶媒を用いることができる。
【0104】
第2抽出経路700を変更した調製装置100を用いたダイオキシン類の分析用試料の調製方法では、初期状態において、溶媒経路740が第3溶媒供給路743と連絡するよう第4弁741を設定する。そして、既述のようにダイオキシン類の分画工程を実行した後、ダイオキシン類の抽出工程を実行する。
【0105】
ダイオキシン類の抽出工程では、既述のように精製層220および分画層230の各層を乾燥処理した後、コンプレッサー633を停止するとともに、第2抽出経路700において、溶媒経路740が溶媒回収経路742と連絡するよう第4弁741を切換える。また、溶媒流出経路500において、流路510が第2溶媒供給路541と連絡するよう第2弁520を切換え、第2ポンプ542を作動する。これにより、第2溶媒供給路541および流路510を通じ、第2溶媒容器543に貯留された溶媒の適量を開口212から管体210内に供給する。
【0106】
流路510から管体210内に供給された溶媒は、アルミナ層250を通過して第2分岐路216へ流れ、第2抽出経路700の溶媒経路740を通じて第2回収容器744に回収される。この際、溶媒は、アルミナ層250に吸着したモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsを溶解し、これらのPCBsの溶液、すなわち、第1の分析用試料として第2回収容器744に回収される。
【0107】
分析用試料を調製するための次の工程では、第2ポンプ542を停止した後、第1抽出経路600において、第1通気経路630と開放路632とが連絡するよう第3弁631を切換え、また、第2抽出経路700において、溶媒経路740が第3溶媒供給路743と連絡するよう第4弁741を切換える。そして、第3ポンプ747を作動し、第3溶媒供給路743および溶媒経路740を通じ、第3溶媒容器746に貯留された溶媒の適量を第2分岐路216から管体210内へ供給する。
【0108】
第2分岐路216を通じて管体210内へ供給された溶媒は、処理層240を通過して第1分岐路215へ流れ、第1抽出経路600の第1回収経路610を通じて第1回収容器620に回収される。この際、溶媒は、処理層240に吸着したノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を溶解し、これらのダイオキシン群の溶液、すなわち、第2の分析用試料として第1回収容器620に回収される。この第2の分析用試料は、溶媒がアルミナ層250を通過せずに調製されるものであるため、より高精度にモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsから分画されたものになる。
【0109】
得られた第1の分析用試料および第2の分析用試料は、既述のように、ダイオキシン類の分析に適用される。
【0110】
第2抽出経路700を図2のように変更した調製装置100では、ダイオキシン類の抽出工程において、処理層240からのノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群の抽出と、アルミナ層250からのモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsの抽出との順序を入れ替えることもできる。すなわち、処理層240からノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を最初に抽出した後、アルミナ層250からモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsを抽出することもできる。
【0111】
第2の形態
図3を参照して、本発明に係る分析用試料の調製方法を実施可能な装置の第2例を説明する。図3において、調製装置100は、ガスクロマトグラフィー法による分析に適した分析用試料を調製可能なものであり、分画器具200、加熱装置300、溶媒供給装置400、溶媒流出経路550および抽出経路650を主に備えている。
【0112】
分画器具200は、管体210の小径部214および分画層230の構造において、第1の形態で説明した分画器具200と相違する。具体的には、小径部214は、分岐路として第1分岐路215のみを有している。また、分画層230は、処理層240とアルミナ層250とが密接している。このため、小径部214は、第1の形態で説明した分画器具200のものに比べて長さが短縮されている。
【0113】
加熱装置300および溶媒供給装置400は、第1の形態で説明したとおりである。
【0114】
溶媒流出経路550は、管体210の開口212に対して気密に接続された流路551を有している。流路551は、第2弁552を有している。第2弁552は四方弁であり、管体210からの溶媒を廃棄するための廃棄経路553、管体210からの溶媒を回収するための回収経路554および管体210に対して溶媒を供給するための供給経路555が連絡しており、流路551が廃棄経路553、回収経路554および供給経路555のうちのいずれか一つに連絡するよう切換えるためのものである。
【0115】
回収経路554は、溶媒の回収容器556を有しており、この回収容器556は、その内部と外部とを通じる通気管557を有している。供給経路555は、第2ポンプ558を有しており、分画器具200で捕捉されたダイオキシン類の抽出溶媒を貯留するための第2溶媒容器559に連絡している。
【0116】
第2溶媒容器559に貯留される抽出溶媒は、ダイオキシン類を溶解可能なものであり、トルエンまたはベンゼンを用いることができる。また、トルエンまたはベンゼンに対して脂肪族炭化水素溶媒または有機塩素系溶媒を添加した混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒を用いる場合、トルエンまたはベンゼンの割合は50重量%以上に設定する。これらの混合溶媒において用いられる脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどが挙げられる。また、有機塩素系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタンまたはテトラクロロメタンなどが挙げられる。これらの抽出溶媒のうち、少量の使用で分画器具200からダイオキシン類を抽出できることから、トルエンが特に好ましい。
【0117】
抽出経路650は、第1分岐路215から延びる溶媒経路651を有している。溶媒経路651は、一端が第1分岐路215に気密に連絡しており、他端が第3弁652を備えている。第3弁652は四方弁であり、圧縮空気を送るためのコンプレッサー654を備えた空気供給経路653、第1分岐路215からの溶媒を回収するための回収経路655および管体210に対して溶媒を供給するための供給経路656が連絡しており、溶媒経路651が空気供給経路653、回収経路655および供給経路656のうちのいずれか一つに連絡するよう切換えるためのものである。
【0118】
回収経路655は、溶媒を回収するための回収容器657を有しており、この回収容器657は、その内部と外部とを通じる通気管658を有している。供給経路656は、第3ポンプ659を有しており、分画器具200で捕捉されたダイオキシン類の抽出溶媒を貯留するための第3溶媒容器660に連絡している。
【0119】
第3溶媒容器660に貯留される抽出溶媒は、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を実質的に溶解せず、モノオルソPCBsおよび非DL-PCBsの溶解性に優れたものであり、例えば、有機塩素系溶媒、有機塩素系溶媒に対して脂肪族炭化水素溶媒を添加した混合溶媒または脂肪族炭化水素溶媒に対してトルエンを添加した混合溶媒(トルエンの含有割合は、通常、10~15重量%程度。)等である。ここで用いられる有機塩素系溶媒は、例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタンまたはテトラクロロメタンなどである。また、脂肪族炭化水素溶媒は、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどである。
【0120】
次に、上述の調製装置100を用いたダイオキシン類の分析用試料の調製方法を説明する。先ず、調製装置100において、第1弁422、空気導入弁423、第2弁552および第3弁652を所定の初期状態に設定する。すなわち、第1弁422は開放状態に設定し、空気導入弁423は第1溶媒容器410側に連絡するよう設定する。また、第2弁552は、流路551が廃棄経路553に連絡するよう設定する。さらに、第3弁652は、溶媒経路651が空気供給経路653と連絡するよう設定する。
【0121】
次に、第1の形態と同様にダイオキシン類の分画工程を実行した後に精製層220および分画層230の各層を乾燥処理し、ダイオキシン類の抽出工程を実行する。精製層220の乾燥処理は、第1の形態と同様に実行することができる。続く分画層230の乾燥処理では、溶媒供給装置400の第1弁422を閉鎖状態に切換える。そして、抽出経路650において、コンプレッサー654を作動させる。
【0122】
コンプレッサー654の作動により、空気供給経路653および溶媒経路651を通じて第1分岐路215に圧縮空気が供給される。この圧縮空気は、分画層230を通過して開口212から流路551へ流れ、廃棄経路553を通じて排出される。この際、分画層230の各層に残留する溶媒は圧縮空気により圧し出され、圧縮空気とともに廃棄経路553から排出される。この結果、分画層230の各層は乾燥処理される。
【0123】
ダイオキシン類の抽出工程では、先ず、溶媒流出経路550において、流路551が回収経路554と連絡するよう第2弁552を切換える。また、抽出経路650において、溶媒経路651が供給経路656と連絡するよう第3弁652を切換え、第3ポンプ659を作動する。これにより、供給経路656および溶媒経路651を通じ、第3溶媒容器660に貯留された溶媒の適量を第1分岐路215から管体210内に供給する。
【0124】
第1分岐路215を通じて管体210内に供給された溶媒は、分画層230を通過し、開口212から流路551および回収経路554を流れ、回収容器556に回収される。この際、溶媒は、アルミナ層250に吸着したモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsを溶解して抽出し、これらのPCBsの溶液、すなわち、第1の分析用試料として回収容器556に回収される。
【0125】
ダイオキシン類を抽出するための次の工程では、第3ポンプ659を停止し、抽出経路650において、溶媒経路651が回収経路655と連絡するよう第3弁652を切換える。そして、溶媒流出経路550において、流路551が供給経路555と連絡するよう第2弁552を切換え、第2ポンプ558を作動する。これにより、供給経路555および流路551を通じ、第2溶媒容器559に貯留された溶媒の適量を開口212から管体210内に供給する。
【0126】
流路551から管体210内に供給された溶媒は、アルミナ層250および処理層240をこの順に通過して第1分岐路215へ流れ、抽出経路650の溶媒経路651および回収経路655を通じて回収容器657に回収される。この際、溶媒は、処理層240に吸着したノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を溶解して抽出し、これらのダイオキシン群の溶液、すなわち、第2の分析用試料として回収容器657に回収される。
【0127】
以上の工程により、モノオルソPCBsの分析用試料と、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsの分析用試料とが分別して得られ、各分析用試料は、ガスクロマトグラフィー法での分析に適用される。
【0128】
第3の形態
図4を参照して、本発明に係る分析用試料の調製方法を実施可能な他の分画器具の例を説明する。図において、分画器具200は、第2例の調製装置100において用いられる分画器具200と同様に大径部213と小径部214とを有する管体210を備えているが、大径部213と小径部214とに分割されており、大径部213と小径部214とを連結具800により分離可能に結合することで一連の管体210を形成している。
【0129】
大径部213は、両端が開口した円筒状に形成されており、硫酸シリカゲル層222側の端部において、小径部214と外径および内径が同じに設定された頸部217を有している。小径部214は、両端が開口した円筒状に形成されており、分画層230において、処理層240とアルミナ層250とが密接している。連結具800は、例えば、各種の有機溶媒、特に炭化水素溶媒への耐性を有する樹脂材料やその他の材料を用いて形成された円筒状に形成されており、大径部213の頸部217と小径部214の処理層240側の端部とを挿入することで大径部213と小径部214とを液密に連結する。
【0130】
この例の調製装置100を用いてダイオキシン類の分析用試料を調製するときは、分画器具200において大径部213と小径部214とを連結した状態で第1の形態と同様にダイオキシン類の分画工程を実行する。この分画工程は、手作業により実行することもできる。そして、分画工程に続いて精製層220および分画層230を乾燥処理した後、連結具800から小径部214を分離する。
【0131】
分画層230からのダイオキシン類の抽出では、第2の形態の場合と同様に、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を実質的に溶解せず、モノオルソPCBsおよび非DL-PCBsの溶解性に優れた溶媒を小径部214の処理層240側の端部から供給することでアルミナ層250に吸着されたモノオルソPCBsおよび非DL-PCBsを抽出し、第1の分析用試料を得る。その後、小径部214のアルミナ層250側の端部(開口212)からダイオキシン類を溶解可能な溶媒を供給することで処理層240に吸着されたノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を抽出し、第2の分析用試料を得る。
【0132】
このような抽出操作は、手作業により実行することができるが、機械的に実行することもできる。
【0133】
この例の分画器具200の変形例の一部を図5に示す。この変形例に係る分画器具200の小径部214は、処理層240が充填された第1部位260とアルミナ層250が充填された第2部位270とに分割されており、第1部位260と第2部位270とは連結具810により分離可能に結合することで一体化されている。連結具810は、大径部213と小径部214とを連結する連結具800と同様のものである。
【0134】
この変形例の分画器具200は、小径部214を大径部213から分離するとともに、小径部214を第1部位260と第2部位270とにさらに分離することができる。このため、分画層230からダイオキシン類を抽出するときに、第1部位260の処理層240と第2部位270のアルミナ層250とに対してダイオキシン類等の抽出操作を個別に実行することができ、モノオルソPCBsおよび非DL-PCBsの分析用試料と、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群の分析用試料とをより高精度に分画することができる。
【0135】
他の形態例
(1)上述の各実施の形態において説明した分画器具200は、精製層220において、硝酸銀シリカゲル層221が開口211側に位置するよう配置されているが、硝酸銀シリカゲル層221と硫酸シリカゲル層222との順序は入れ替えることもできる。
【0136】
但し、硝酸銀シリカゲル層221と硫酸シリカゲル層222とを入れ替えた場合、塩素数の少ない非DL-PCBsが硫酸シリカゲル層222と反応し、分析用試料において塩素数の少ない非DL-PCBsの回収率が低下する可能性がある。このため、ダイオキシン類とともに非DL-PCBs、特に、塩素数の少ない非DL-PCBsを分析する必要がある場合(例えば、EUの食品規制基準により食品のダイオキシン類を分析する場合。)においては、精製層220において、硝酸銀シリカゲル層221が開口211側に位置するよう配置するのが好ましい。
【0137】
(2)上述の各実施の形態において説明した分画器具200は、精製層220において、第1活性シリカゲル層223および第2活性シリカゲル層224を省くことができる。
【0138】
(3)分画器具200の大径部213は、硝酸銀シリカゲル層221の充填部分と硫酸シリカゲル層222の充填部分とに分割しておき、使用時に両者を連結することもできる。このようにすることで、硝酸銀シリカゲル層221および硫酸シリカゲル層222がそれぞれ他方の影響により変性するのを抑えることができ、結果的に精製層220によるダイオキシン類溶液の精製力が損なわれにくくなることから、ダイオキシン類の回収率を高めることのできる可能性がある。
【0139】
(4)上述の各実施の形態に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法では、加熱装置300により精製層220を加熱しているが、精製層220を加熱しない場合であっても各実施の形態に係る調製方法を同様に実施することができる。
【0140】
(5)上述の各実施の形態に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法において、精製層220および分画層230の乾燥処理は、空気の吸引およびコンプレッサーによる圧縮空気の供給のいずれかの方法により任意に変更することができる。また、窒素ガスの供給により精製層220および分画層230を乾燥処理することもできる。さらに、精製層220および分画層230の乾燥処理は、省略することもできる。
【実施例
【0141】
以下に実施例等を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例等によって限定されるものではない。
【0142】
◎ダイオキシン類溶液
以下の実施例等において用いたダイオキシン類溶液は次のとおりである。
標準溶液:
n-ヘキサン100mLに対して濃度既知のダイオキシン類標準物質(Wellington Laboratories社の商品名「DF-LCS-A」)1mLおよび濃度既知のPCBs標準物質(Wellington Laboratories社の商品名「PCB-LCS-H」)1mLを添加して溶解したものをダイオキシン類の標準溶液とした。ダイオキシン類標準物質は、1312によりラベルされたPCDDs、PCDFsおよびDL-PCBsを含むものである。PCBs標準物質は、1312によりラベルされたIUPAC番号が#28、#52、#101、#138、#153、#170、#180の7種類の非DL-PCBsを含む。このうち、#28、#52、#101、#138、#153および#180の6種類のPCBs異性体(塩素数が3~7のPCBs異性体)は、EUの食品規制対象である。
【0143】
環境試料溶液A:
一般廃棄物焼却施設から採取した飛灰0.3gに対してトルエンを抽出溶媒とするソックスレー抽出法を適用し、トルエン抽出液を得た。このトルエン抽出液からトルエンを除去し、その残渣をn-ヘキサンに溶解することでヘキサン溶液2mLを調製した。このヘキサン溶液の全量に対して標準溶液0.02mLを添加し、環境試料溶液Aとした。
環境試料溶液B:
飛灰0.3gに替えて工場敷地から採取した土壌5gを用いた点を除いて環境試料溶液Aの調製と同様に操作し、得られた溶液を環境試料溶液Bとした。
環境試料溶液C:
飛灰0.3gに替えて河川から採取した底質5gを用いた点を除いて環境試料溶液Aの調製と同様に操作し、得られた溶液を環境試料溶液Cとした。
環境試料溶液D:
飛灰0.3gに替えて下水道処理施設から採取した汚泥5gを用いた点を除いて環境試料溶液Aの調製と同様に操作し、得られた溶液を環境試料溶液Dとした。
【0144】
模擬環境試料溶液:
標準溶液0.02mLに対してトルエン100μLを添加し、模擬環境試料溶液とした。
【0145】
食品試料溶液A:
ひまわり油(メルク社製の商品名「S5007」)3gに対して標準溶液0.02mLを添加し、食品試料溶液Aとした。
食品試料溶液B:
飛灰0.3gに替えて豚肉をフリーズドライで乾燥させたものから有機溶媒で抽出した油分3gを用いた点を除いて環境試料溶液Aの調製と同様に操作し、得られた溶液を食品試料溶液Bとした。
【0146】
◎充填剤
以下の実施例等の分画器具において用いた充填剤は次の通りである。
硝酸銀シリカゲル:
活性シリカゲル(関東化学株式会社製)100gに対し、30mLの蒸留水に硝酸銀(和光純薬工業株式会社製)11.2gを溶解した水溶液の全量を添加して均一に混合した後、この活性シリカゲルをロータリーエバポレーターを用いて減圧下で70℃に加熱して乾燥することで調製した硝酸銀シリカゲルを用いた。
【0147】
硫酸シリカゲル:
活性シリカゲル(関東化学株式会社製)100gに対して濃硫酸(和光純薬工業株式会社製)78.7gを均一に添加した後に乾燥することで調製された硫酸シリカゲルを用いた。
【0148】
活性炭含有シリカゲル:
活性シリカゲル(関東化学株式会社製)に対して活性炭(クラレケミカル株式会社の商品名「クラレコールPK-DN」)を添加して均一に混合することで得られた活性炭含有シリカゲルを用いた。活性炭の含有量は0.018重量%または3.0重量%に設定した。
【0149】
グラファイト含有シリカゲル:
活性シリカゲル(関東化学株式会社製)に対してグラファイト(シグマアルドリッチ社の商品名「ENVI-Carb」)を添加して均一に混合することで得られたグラファイト含有シリカゲルを用いた。グラファイトの含有量は12.5重量%に設定した。
【0150】
グラファイト:
シグマアルドリッチ社の商品名「ENVI-Carb」を用いた。
【0151】
ケイ酸マグネシウム:
富士フイルム和光純薬株式会社の商品名「Florisil,75~150μm」を用いた。
【0152】
活性ケイ酸マグネシウム:
管状炉中において0.5~1.0L/分の流速に設定された窒素気流下で2時間加熱処理することで活性化したケイ酸マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社の商品名「Florisil,75~150μm」)を用いた。加熱処理温度は後記の表1に記載のとおりである。
【0153】
グラファイト混合活性ケイ酸マグネシウムA:
ケイ酸マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社の商品名「Florisil,75~150μm」)に対してグラファイト(シグマアルドリッチ社の商品名「ENVI-Carb」)を添加して均一に混合することで混合物を調製し、この混合物を管状炉中において0.5~1.0L/分の流速に設定された窒素気流下で2時間加熱処理したものを用いた。混合物におけるグラファイトの含有割合および加熱処理温度は後記の表1に記載のとおりである。
【0154】
グラファイト混合活性ケイ酸マグネシウムB:
管状炉中において0.5~1.0L/分の流速に設定された窒素気流下で2時間加熱処理することで活性化したケイ酸マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社の商品名「Florisil,75~150μm」)に対し、450℃に設定した管状炉中において0.5~1.0L/分の流速に設定された窒素気流下で2時間、別途加熱処理したグラファイト(シグマアルドリッチ社の商品名「ENVI-Carb」)を添加して均一に混合することで得られた混合物を用いた。ケイ酸マグネシウムの加熱処理温度およびグラファイトの含有割合は後記の表1に記載のとおりである。
【0155】
アルミナ:
Merck社製の商品名「Aluminium Oxide 90 active basic - (activity stage I) for column chromatography」(粒径0.063~0.200mm)を用いた。
【0156】
実施例1~16、比較例1~6
図1に示すダイオキシン類の分析用試料の調製装置を用い、ダイオキシン類溶液から分析用試料を調製した。調製装置で用いた分画器具の仕様は次の通りである。なお、実施例1は参考例である。
【0157】
精製層:
外径18.5mm、内径12.5mm、長さ200mmに設定された、管体の大径部内において、図1に示すように、硫酸シリカゲル8.5g(充填高さ80mm)の上に硝酸銀シリカゲル4.4g(充填高さ60mm)を積層することで形成した(第1活性シリカゲル層および第2活性シリカゲル層の積層は省いた。)。
【0158】
分画層:
外径8mm、内径6mm、長さ100mmに設定された管体の小径部内において、図1に示すように、処理層およびアルミナ層を形成した。処理層およびアルミナ層は、それぞれ、表1に示す材料を充填することで形成した。表1では、実施例に対応する比較例を並べて表示している。
【0159】
【表1】
【0160】
ダイオキシン類の分析用試料の調製操作では、精製層の硝酸銀シリカゲル層へダイオキシン類溶液約4mLを添加し、精製層を60℃に加熱した。そして、精製層にn-ヘキサン90mLを徐々に供給し、このn-ヘキサンを精製層と分画層とに通過させた。n-ヘキサンが分画層を通過した後、圧縮空気を通過させることで分画層を乾燥処理した。そして、分画層においてアルミナ層を90℃に加熱し、管体の下端の開口側からアルミナ層へトルエン1.0mLを供給し、アルミナ層を通過したトルエンを第2分岐路を通じて回収することで第1の分析用試料を得た。次に、分画層において処理層を90℃に加熱し、管体の下端の開口側からアルミナ層を通じて処理層へトルエン1.5mLを供給し、処理層を通過したトルエンを第1分岐路を通じて回収することで第2の分析用試料を得た。ダイオキシン類溶液の添加から第2の分析用試料が得られるまでに要した時間は、いずれの実施例および比較例においても約2時間であった。
【0161】
第1の分析用試料および第2の分析用試料をそれぞれHRGC/HRMS法により個別に定量分析し、ダイオキシン類および非DL-PCBsの回収率を算出した。ダイオキシン類の回収率とは、精製層に対して添加したダイオキシン類溶液に含まれるダイオキシン類量に対する、分析用試料中に含まれるダイオキシン類量の割合(%)をいう。これは非DL-PCBsの回収率についても同様である。結果を表2~7に示す。表2~7において、「-」は回収率を算出していないことを示す。
【0162】
【表2】
【0163】
【表3】
【0164】
【表4】
【0165】
【表5】
【0166】
【表6】
【0167】
【表7】
【0168】
実施例1~15において用いたダイオキシン類溶液は、それに含まれる各ダイオキシン類が欧州連合(EU)の規制基準(COMMISSION REGULATION (EU) No 709/2014)である60~120%の範囲で回収されており、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとに高精度に分画されることがわかる。また、ダイオキシン類溶液が食品由来のもの(食品試料溶液A、B)である実施例13、14は、EUの食品規制対象となる非DL-PCBsの回収率も高い。
【0169】
実施例16は、第2の分析用試料におけるノンオルソPCBsの回収率に不具合があるが、これは、ダイオキシン類溶液が環境試料(飛灰)中の夾雑成分を含む溶液(環境試料溶液A)であり、その夾雑成分、特に、芳香族炭化水素化合物の影響を受けたことによるものと考えられる。これに対し、実施例8~12は、実施例16と同じく環境試料中の夾雑成分を含むダイオキシン類溶液(環境試料溶液A~Dおよび模擬環境試料溶液)から第1の分析用試料および第2の分析用試料を調製したものであるが、処理層において用いたグラファイト混合活性ケイ酸マグネシウムがケイ酸マグネシウムとグラファイトとを混合後に加熱処理したものであることから、第2の分析用試料におけるノンオルソPCBsの回収率が高く、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群とモノオルソPCBsとの分画精度が高い。
【0170】
比較例7~11
実施例1~16および比較例1~6において用いた図1に示すダイオキシン類の分析用試料の調製装置において、表8に示すように、分画層の処理層部分を上層と下層とからなる二層の積層体に変更した。また、比較例11については、アルミナ層を設けなかった。
【0171】
【表8】
【0172】
上述のように変更した調製装置を用い、実施例1~16および比較例1~6と同様にダイオキシン類の分析用試料の調製操作を実行した。そして、得られた第1の分析用試料および第2の分析用試料をそれぞれHRGC/HRMS法により個別に定量分析し、ダイオキシン類および非DL-PCBsの回収率を算出した。結果を表9に示す。表9において、「-」は回収率を算出していないことを示す。
【0173】
【表9】
【0174】
表9によると、処理層が同じである比較例7~10の分画器具は、ダイオキシン類溶液が食品試料溶液である場合においてダイオキシン類を高精度に分画できるのに対し、ダイオキシン類溶液が芳香族炭化水素化合物を夾雑成分として含む環境試料溶液の場合は処理層でのノンオルソPCBsの捕捉性が低下し、結果的にダイオキシン類の分画精度が低下するものであることがわかる。
【符号の説明】
【0175】
200 分画器具
210 管体
220 精製層
221 硝酸銀シリカゲル層
222 硫酸シリカゲル層
240 処理層
250 アルミナ層
図1
図2
図3
図4
図5