(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】回転角度検出装置用検出ギヤ、及び回転角度検出装置、並びに回転角度検出装置用検出ギヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20230131BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
G01D5/245 110L
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2019045908
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】外山 祐一
(72)【発明者】
【氏名】岡 伸政
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132776(WO,A1)
【文献】実開平07-034319(JP,U)
【文献】特開2014-091220(JP,A)
【文献】特開2009-184317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/245
B29C 45/14
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置に用いる検出ギヤであって、
前記回転角度検出装置は、
前記検出対象に連動して回転するメインギヤと、
前記メインギヤに噛合する検出ギヤと、
を備え、
前記検出ギヤは、
磁気センサにより前記検出ギヤの回転角度を検出するためのマグネットと、
前記マグネットと一体となって回転する樹脂製ギヤ本体と、
からなり、
前記マグネットの形状は円柱状であり、
前記ギヤ本体は、
前記メインギヤに噛合するギヤを備えた基体部と、
前記マグネットを保持するマグネット保持部と、
からなり、
前記基体部は、
その軸方向端面の、前記検出ギヤの回転中心軸の周囲に、前記マグネットに向かって縮径する円錐台状の肉盗み部を有し、
前記マグネット保持部は、
前記マグネットの外周面に臨む、周方向3箇所以上の切欠き部を有することを特徴とする、
回転角度検出装置用検出ギヤ。
【請求項2】
円柱状の前記マグネットは、その2つの軸方向端面のうち、前記ギヤ本体の基体部側の軸方向端面に回り止め凸部を備えたものであり、
前記ギヤ本体のマグネット保持部は、前記マグネットの前記回り止め凸部がない軸方向端面の外周縁を被うカバー部を備えたものである、
請求項1に記載の回転角度検出装置用検出ギヤ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転角度検出装置用検出ギヤを備えた回転角度検出装置。
【請求項4】
検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置に用いる検出ギヤの製造方法であって、
前記回転角度検出装置は、
前記検出対象に連動して回転するメインギヤと、
前記メインギヤに噛合する検出ギヤと、
を備え、
前記検出ギヤは、
磁気センサにより前記検出ギヤの回転角度を検出するためのマグネットと、
前記マグネットと一体となって回転する樹脂製ギヤ本体と、
からなり、
前記マグネットの形状は円柱状であり、
前記ギヤ本体は、
前記メインギヤに噛合するギヤを備えた基体部と、
前記マグネットを保持するマグネット保持部と
からなり、
前記基体部は、
その軸方向端面の、前記検出ギヤの回転中心軸の周囲に、前記マグネットに向かって縮径する円錐台状の肉盗み部を有し、
前記マグネット保持部は、
前記マグネットの外周面に臨む、周方向3箇所以上の切欠き部を有するものであり、
前記ギヤ本体を成形する成形型を開き、前記マグネットの外周面が、前記切欠き部を形成する前記成形型の位置決め部の内周面に当接するように、前記マグネットを前記成形型内に配置する工程と、
前記成形型を閉じ、前記成形型の
、前記肉盗み部の中心に設けた1点ピンゲートから前記成形型のキャビティ内に、溶融した前記ギヤ本体の成形樹脂材料を注入して、前記ギヤ本体を射出成形する工程と、
前記成形型を開き、インサート成形品である、前記マグネット及び前記ギヤ本体を一体化した前記検出ギヤを取り出す工程と、
を含む、
回転角度検出装置用検出ギヤの製造方法。
【請求項5】
円柱状の前記マグネットは、その2つの軸方向端面のうち、前記ギヤ本体の基体部側の軸方向端面に回り止め凸部を備えたものであり、
前記ギヤ本体のマグネット保持部は、前記マグネットの前記回り止め凸部がない軸方向端面の外周縁を被うカバー部を備えたものである、
請求項4に記載の回転角度検出装置用検出ギヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールの操舵角度等の回転角度を検出する回転角度検出装置に用いる検出ギヤに関する。
【背景技術】
【0002】
検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置の一例として、自動車等の車両におけるステアリングホイールの回転角度(操舵角度)を検出するものがある(例えば、特許文献1ないし3、及び非特許文献1参照)。
【0003】
このような回転角度検出装置は、検出対象であるステアリングホイールに連動して回転するメインギヤ(例えば、特許文献1の回転歯車10、特許文献2の回転入力ギア11、特許文献3の第1ギヤ26b、非特許文献1のメインギヤ)と、前記メインギヤに噛合する検出ギヤ(例えば、特許文献1の検出歯車12,13、特許文献2の回転検出ギア12,13、特許文献3の第2ギヤ28b、非特許文献1の検出ギヤ)とを備える。
【0004】
前記検出ギヤは、マグネット(特許文献1の磁石5A,6A、特許文献2のマグネット16,17、特許文献3の磁石30b、非特許文献1のマグネット)と、前記マグネットと一体となって回転する、例えば合成樹脂製であるギヤ本体とからなる。
【0005】
合成樹脂製のギヤ本体に対してマグネットを固定する方法として、
(a)先に成形したマグネットをインサート品としてギヤ本体を射出成形する方法(例えば、特許文献1の[0024]参照)、
(b)ギヤ本体を射出成形により成形(例えば、特許文献2の[0022]参照)した後に、成形したマグネットをギヤ本体に接着剤等で固定する方法、
がある。
【0006】
ギヤ本体に固定するマグネットの形状は、角柱状のもの(例えば、特許文献1の磁石5A,6A、特許文献2のマグネット16,17)と、円柱状のもの(例えば、特許文献3の磁石30b)とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-021890号公報
【文献】特開2014-085174号公報
【文献】特開2018-197672号公報
【文献】特開昭60-230812号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】村越豊,中村匡秀,「EPS一体型舵角センサの開発」,JTEKT ENGINEERING JOURNAL No.1009 自動車関連技術特集号,2011年12月,p.72-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記回転角度検出装置は、検出ギヤのギヤ本体に固定したマグネットの磁気変化を磁気センサで検出するので、ギヤ本体に対してマグネットを精度よく固定することが非常に重要である。
本発明は、ギヤ本体に対してマグネットを固定する精度の出しやすさ、及び生産性を考慮して、合成樹脂製のギヤ本体に対してマグネットを固定する方法として、前記(a)の方法を採用する。
【0010】
また、本発明におけるマグネットの形状は、円柱状とする。
その理由は、
(a)円柱状であれば、マグネットを成形型にセットする際に回転方向を決める必要がないので自動化しやすいこと、
(b)マグネットをインサート品として、円形状のギヤ本体の軸方向に突出する円形状のボス部(マグネット保持部)にマグネットを固定するので、マグネットを円柱状にした方がギヤ本体を射出成形する際に成形性が良いこと、
等のためである。
【0011】
成形型に対する円柱状のインサート品の位置決めは、前記インサート品の中央に位置決め用の凹部又は貫通孔を設けるのが一般的である(例えば、特許文献4の第1図の第2インサート物5に設けた貫通孔参照)。そして、前記インサート品に設けた凹部又は貫通孔を、成形型に対する径方向の位置決めに使用する。
円柱状のインサート品がマグネットである場合、その中央に凹部又は貫通孔を設けると、マグネットの体積が減少するため磁力が低下する。
【0012】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとする課題は、回転角度検出装置に用いる検出ギヤにおいて、ギヤ本体に対して円柱状のマグネットを精度よく固定でき、位置決め用の凹部又は貫通孔を設けることによる磁力低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置に用いる検出ギヤであって、
前記回転角度検出装置は、
前記検出対象に連動して回転するメインギヤと、
前記メインギヤに噛合する検出ギヤと、
を備え、
前記検出ギヤは、
磁気センサにより前記検出ギヤの回転角度を検出するためのマグネットと、
前記マグネットと一体となって回転する樹脂製ギヤ本体と、
からなり、
前記マグネットの形状は円柱状であり、
前記ギヤ本体は、
前記メインギヤに噛合するギヤを備えた基体部と、
前記マグネットを保持するマグネット保持部と、
からなり、
前記基体部は、
その軸方向端面の、前記検出ギヤの回転中心軸の周囲に、前記マグネットに向かって縮径する円錐台状の肉盗み部を有し、
前記マグネット保持部は、
前記マグネットの外周面に臨む、周方向3箇所以上の切欠き部を有することを特徴とする、
回転角度検出装置用検出ギヤ。
【0014】
〔2〕円柱状の前記マグネットは、その2つの軸方向端面のうち、前記ギヤ本体の基体部側の軸方向端面に回り止め凸部を備えたものであり、
前記ギヤ本体のマグネット保持部は、前記マグネットの前記回り止め凸部がない軸方向端面の外周縁を被うカバー部を備えたものである、
前記〔1〕に記載の回転角度検出装置用検出ギヤ。
【0015】
〔3〕前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の回転角度検出装置用検出ギヤを備えた回転角度検出装置。
【0016】
〔4〕検出対象の回転角度を検出する回転角度検出装置に用いる検出ギヤの製造方法であって、
前記回転角度検出装置は、
前記検出対象に連動して回転するメインギヤと、
前記メインギヤに噛合する検出ギヤと、
を備え、
前記検出ギヤは、
磁気センサにより前記検出ギヤの回転角度を検出するためのマグネットと、
前記マグネットと一体となって回転する樹脂製ギヤ本体と、
からなり、
前記マグネットの形状は円柱状であり、
前記ギヤ本体は、
前記メインギヤに噛合するギヤを備えた基体部と、
前記マグネットを保持するマグネット保持部と
からなり、
前記基体部は、
その軸方向端面の、前記検出ギヤの回転中心軸の周囲に、前記マグネットに向かって縮径する円錐台状の肉盗み部を有し、
前記マグネット保持部は、
前記マグネットの外周面に臨む、周方向3箇所以上の切欠き部を有するものであり、
前記ギヤ本体を成形する成形型を開き、前記マグネットの外周面が、前記切欠き部を形成する前記成形型の位置決め部の内周面に当接するように、前記マグネットを前記成形型内に配置する工程と、
前記成形型を閉じ、前記成形型の、前記肉盗み部の中心に設けた1点ピンゲートから前記成形型のキャビティ内に、溶融した前記ギヤ本体の成形樹脂材料を注入して、前記ギヤ本体を射出成形する工程と、
前記成形型を開き、インサート成形品である、前記マグネット及び前記ギヤ本体を一体化した前記検出ギヤを取り出す工程と、
を含む、
回転角度検出装置用検出ギヤの製造方法。
【0017】
〔5〕円柱状の前記マグネットは、その2つの軸方向端面のうち、前記ギヤ本体の基体部側の軸方向端面に回り止め凸部を備えたものであり、
前記ギヤ本体のマグネット保持部は、前記マグネットの前記回り止め凸部がない軸方向端面の外周縁を被うカバー部を備えたものである、
前記〔4〕に記載の回転角度検出装置用検出ギヤの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
以上のような本発明に係る回転角度検出装置用検出ギヤ、及び回転角度検出装置、並びに回転角度検出装置用検出ギヤの製造方法によれば、主に以下のような作用効果を奏する。
(1)円柱状のマグネットの外周面を金型で位置決めし、前記マグネットをインサート品として樹脂製ギヤ本体を射出成形して検出ギヤを製造する。製造された検出ギヤのマグネット保持部には、円柱状のマグネットの外周面に臨む、周方向3箇所以上の切欠き部が形成される。それにより、検出ギヤは、円柱状のマグネットがギヤ本体に対して精度よく固定されたものとなる。
(2)円柱状のマグネットの外周面を金型で位置決めするので、円柱状のマグネットに位置決め用の凹部又は貫通孔を設ける必要がない。それにより、凹部又は貫通孔を設けたマグネットのような体積減少による磁力の低下を防止できる。
(3)円柱状のマグネットの磁気センサに対向しない軸方向端面に回り止め凸部を設けることにより、磁気センサの磁力検出に悪影響を及ぼすことなく、円柱状のマグネットとギヤ本体との周方向の位置ずれを防止できる。
(4)ギヤ本体のマグネット保持部に、円柱状のマグネットの磁気センサに対向する軸方向端面の外周縁を被うカバー部を設けることにより、ギヤ本体からのマグネットの脱落を防止できる。
(5)インサート品であるマグネットが円柱状であることから、マグネットを成形型にセットする際に回転方向を決める必要がないので自動化しやすい。
(6)マグネットが円柱状であることから、成形型のキャビティ内に成形樹脂材料を注入してギヤ本体を成形する際に、ギヤ本体の成形性が良い。
(7)本体の基体部には、その軸方向端面の、検出ギヤの回転中心軸の周囲に、マグネットに向かって縮径する円錐台状の肉盗み部がある。それにより、射出成形したギヤ本体におけるギヤの反り変形を極力抑えることができる。
(8)ギヤ本体を射出成形する金型のゲートを、前記肉盗み部の中心に設けた1点ピンゲートとしているので、ゲートカット後に成形品に形成されるゲート痕が、前記基体部の軸方向端面である裏面から突出しない。それにより、ギヤ本体のゲート痕が回転速度検出装置のケースに接触することがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る検出ギヤの斜視図である。
【
図4】射出成形後の反り変形解析における実施例の解析モデルを示す要部拡大斜視図である。
【
図5】射出成形後の反り変形解析における比較例の解析モデルを示す要部拡大斜視図である。
【
図6A】射出成形後の反り変形解析における評価項目であるギヤの反り量について、実施例の解析モデルの説明図である。
【
図6B】射出成形後の反り変形解析における評価項目であるギヤの反り量について、比較例の解析モデルの説明図である。
【
図7A】
図3Aの断面に相当するマグネットを成形型にセットした状態を示す縦断面概略図である。
【
図7B】
図3Bの断面に相当するマグネットを成形型にセットした状態を示す縦断面概略図である。
【
図8】
図7Aの要部を拡大して示す縦断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
本明細書において、検出ギヤの回転軸の方向を「軸方向」という。
【0021】
<回転角度検出装置>
本発明の検出ギヤを用いる回転角度検出装置は、例えばステアリングホイールである検出対象の回転角度を検出するものである。
前記回転角度検出装置は、検出対象に連動して回転するメインギヤ、及び前記メインギヤに噛合する検出ギヤ、並びに前記検出ギヤのマグネットに対して軸方向から対向する磁気センサ、及び磁気センサの出力信号から検出対象の回転角度を演算する演算装置等を備える。
【0022】
<検出ギヤ>
図1の斜視図、及び
図2の平面図、並びに
図3Aの
図2における矢視A-A断面図、及び
図3Bの
図2における矢視B-B断面図に示すように、本発明の実施の形態に係る検出ギヤ1は、前記磁気センサにより回転角度を検出するためのマグネット2と、マグネット2と一体となって回転する樹脂製ギヤ本体3とからなる。
マグネット2として、要求仕様に応じて、例えばフェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジウム磁石等を用いる。
【0023】
マグネット2の形状は、いわゆる「丸型」であり、円柱状である。円柱状のマグネット2は、2つの軸方向端面2A,2Bを有する。軸方向端面2Aに対向するように前記回転角度検出装置の磁気センサが配置され、軸方向端面2Bの中央には、後述する回り止め凸部6を有する。
【0024】
ギヤ本体3は、検出対象に連動して回転するメインギヤに噛合するギヤ4Aを備えた基体部4と、ボス部である、マグネット2を保持するマグネット保持部5とからなる。
ボス部であるので外周面5Cを有するマグネット保持部5は、図示しない支持部品に差し込まれ、マグネット保持部5の外周面5Cは前記支持部品の円筒状内面を摺動する。それにより、検出ギヤ1は、回転中心軸Cまわりに回転可能に支持される。
【0025】
マグネット保持部5は、円柱状のマグネット2の外周面2Cに臨む、周方向4箇所の切欠き部5A,5A,…を有する。切欠き部5Aは、周方向3箇所であってもよく、周方向5箇所以上であってもよい。すなわち、切欠き部5Aは、周方向3箇所以上であればよい。
【0026】
円柱状のマグネット2は、ギヤ本体3の基体部4側の軸方向端面2Bに回り止め凸部6を備える。回り止め凸部6は、例えば四角柱状である。円柱状のマグネット2の磁気センサに対向しない軸方向端面2Bに設けた回り止め凸部6により、磁気センサの磁力検出に悪影響を及ぼすことなく、マグネット2とギヤ本体3との周方向の位置ずれを防止できる。
回り止め凸部6は、四角柱状以外の多角柱状であってもよく、マグネット2とギヤ本体3との周方向の位置ずれを防止できる形状であればよい。
【0027】
ギヤ本体3のマグネット保持部5は、マグネット2の回り止め凸部6がない、フラットな軸方向端面2Aの外周縁2Dを被うカバー部5Bを備える。カバー部5Bにより、ギヤ本体3からのマグネット2の脱落を防止できる。
【0028】
図3Bに示すカバー部5Bのオーバーラップ量Dは、マグネット2の半径Rの10%以上(D≧0.1R)とする。D≧0.1Rとするのは、マグネット2の脱落を確実に防止するためである。
図3Bに示すカバー部Bの厚みEは、0.1mm≦E≦1.5mmとする。E≧0.1mmとするのは、溶融樹脂材料の充填不足及び機械的強度の低下を防止するためである。E≦1.5mmとするのは、マグネット2に対して軸方向から対向する磁気センサとマグネット2との距離が大きくなり過ぎると検出精度に影響することから、検出精度に影響が出ないようにするためである。
【0029】
回転角度検出装置用検出ギヤ1には、高精度が求められる。そのため、
図3A及び
図3Bに示すように、ギヤ本体3の基体部4の裏面4Bに、回転中心軸Cの周囲に円錐台状の肉盗み部Fを設けている。肉盗み部Fを設けるのは、射出成形したギヤ本体3におけるギヤ4Aの反り変形を極力抑えるためである。
肉盗み部Fの最大径Hをマグネット保持部5の外径よりも小さくし、各部位の肉厚の変化が少なくなるようにしている。それにより、射出成形したギヤ本体3におけるギヤ4Aの反り変形がより小さくなる。
また、ギヤ本体3を射出成形する金型のゲートを、肉盗み部Fの中心Gに設けた1点ピンゲートとすることにより、ゲートカット後に成形品に形成されるゲート痕が、ギヤ本体3の基体部4の裏面4Bから突出しない。それにより、ギヤ本体3のゲート痕が回転速度検出装置のケースに接触することがない。
【0030】
<射出成形後の反り変形解析>
検出ギヤ1におけるギヤ本体3の基体部4に肉盗み部Fを設けた実施例と、肉盗み部Fを設けない比較例とを比較する射出成形後の反り変形解析を、プラスチック射出成形用シミュレーションツールであるSimulation Moldflowを使用して行う。
【0031】
(解析条件及び評価項目)
肉盗み部Fを設けた実施例の解析モデルの要部拡大斜視図を
図4に、肉盗みFを設けない比較例の解析モデルの要部拡大斜視図を
図5に示す。ゲートは基体部4の裏面4Bの中心に設けた1点ピンゲートG1,G2とする。
図4に示す実施例の解析モデルにおいて、円錐台状の肉盗み部Fは、各部位の肉厚を1mmに近づける形状とする。
【0032】
ギヤ本体3を成形する繊維強化合成樹脂の材料データを、PBTにガラス繊維を30重量%添加したものとし、マグネット2は剛体とする。
成形条件を、樹脂温度を260℃、金型温度を60℃、保圧を100MPaとし、ギヤ4Aの反り量を評価項目とする。
【0033】
ギヤ4Aの反り量は、
図6A及び
図6Bの解析モデルの説明図に示す、基準点Iからギヤ4Aの最大外径部までの変形量である軸方向変位量Jとする。
図6Aの実施例の解析モデルの基準点Iは、変形後のギヤ本体3の基体部4の裏面4Bと回転中心軸Cとの仮想交点である。
図6Bの比較例の解析モデルの基準点Iは、変形後のギヤ本体3の基体部4の裏面4Bと回転中心軸Cとの交点である。
【0034】
(解析結果及び考察)
図6Aの実施例(肉盗み部Fあり)と
図6Bの比較例(肉盗み部Fなし)とは、射出成形後の反り変形を拡大して示す二点鎖線のとおり、ギヤ4Aが反る方向が異なる。
ギヤ4Aの反り量(軸方向変位量J)は、比較例に対して実施例の方が大幅に小さく、比較例を1としたとき、実施例は0.017であった。すなわち、実施例(肉盗み部Fあり)におけるギヤ4Aの反り量は、比較例(肉盗み部Fなし)のギヤ4Aの反り量の約59分の1であった。
したがって、検出ギヤ1のギヤ本体3の基体部4の裏面4Bに肉盗み部Fを設けることにより、射出成形したギヤ本体3におけるギヤ4Aの反り変形を抑える効果が顕著になることが分かる。
【0035】
図6Bの比較例(肉盗み部Fなし)のようにギヤ4Aの反り量が大きくなると、ギヤ4Aは回転中心軸Cに対して傾斜してしまうので、ギヤ4Aの精度が悪化する。
それに対して
図6Aの実施例(肉盗み部Fあり)では、ギヤ4Aの反り量が非常に小さくなり、ギヤ4Aが回転中心軸に対して傾斜しないので、ギヤ4Aの精度が悪化することがない。よって、肉盗み部Fを設けることにより、高精度が求められる回転角度検出装置用検出ギヤ1において、その要求仕様を満足しやすくなる。
【0036】
<検出ギヤの製造方法>
次に、
図7A及び
図7Bの縦断面概略図、並びに
図8の要部拡大縦断面概略図を参照して、マグネット2及びギヤ本体3からなる検出ギヤ1をインサート成形する製造方法について説明する。
図7A、
図7B、及び
図8に示す成形型7は、インサート品であるマグネット2をセットする一方の金型のみを示している。
【0037】
(インサート品配置工程)
先ず、
図7Aのように、ギヤ本体3を成形する成形型7を開き、成形型7の位置決め部8,8,…の内周面8A,8A,…(
図8)に、マグネット2の外周面2Cが当接するように、インサート品であるマグネット2を成形型7内に配置する工程を行う。
インサート品であるマグネット2が円柱状であることから、マグネット2を成形型7にセットする際に回転方向を決める必要がないので自動化しやすい。
【0038】
成形型7の位置決め部8,8,…は、周方向に4箇所あるので、位置決め部8,8,…により、マグネット2は、成形型7に対して精度良く位置決めされる。位置決め部8,8,…は、マグネット保持部5に前記切欠き部5A,5A,…を形成するものである。したがって、位置決め部8,8,…は、周方向に3箇所以上設ける。
【0039】
(射出成形工程)
次に、成形型7を閉じ、成形型7の図示しないゲートから成形型7のキャビティ9内に、溶融したギヤ本体3の成形樹脂材料を注入して、ギヤ本体3を射出成形する工程を行う。
【0040】
マグネット2が円柱状であることから、
図7A及び
図7Bのような成形型7を閉じて、成形型7のキャビティ9内に成形樹脂材料を注入してギヤ本体3を成形する際に、ギヤ本体3の成形性が良い。
【0041】
(成形品取出し工程)
次に、前記成形樹脂材料を冷却・固化させた後、成形型7を開き、図示しないエジェクタピンにより突き出すことにより、インサート成形品であるマグネット2及びギヤ本体3を一体化した検出ギヤ1を取り出す工程を行う。
【0042】
成形型7から取り出した
図1及び
図2に示す検出ギヤ1には、成形型7の位置決め部8,8,…の位置の周方向4箇所に切欠き部5A,5Aが形成されるとともに、成形型7の位置決め部8,8,…がない箇所にカバー部5B,5B,…が形成される。
【0043】
<作用効果>
(1)前記のとおり、成形型7の位置決め部8,8,…により、円柱状のマグネット2は、成形型7に対して精度良く位置決めされている。それにより、円柱状のマグネット2は、成形型7で成形された樹脂製ギヤ本体3に対しても、精度よく位置決めされた状態で固定されている。よって、検出ギヤ1は、円柱状のマグネット2がギヤ本体3に対して精度よく固定されたものとなる。
(2)円柱状のマグネット2の外周面2Cを成形型7の位置決め部8,8,…の内周面8A,8A,…で位置決めするので、円柱状のマグネット2に位置決め用の凹部又は貫通孔を設ける必要がない。それにより、凹部又は貫通孔を設けたマグネットのような体積減少による磁力の低下を防止できる。
【0044】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 検出ギヤ
2 マグネット
2A,2B 軸方向端面
2C 外周面
2D 外周縁
3 ギヤ本体
4 基体部
4A ギヤ
4B 裏面
5 マグネット保持部
5A 切欠き部
5B カバー部
5C 外周面
6 回り止め凸部
7 成形型
8 位置決め部
8A 内周面
9 キャビティ
C 回転中心軸
D カバー部のオーバーラップ量
E カバー部の厚み
F 肉盗み部
G 肉盗み部の中心
G1,G2 ゲート
H 肉盗み部の最大径
I 基準点
J 軸方向変位量
R マグネットの半径