(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】細胞外液量標準化装置、これを備える細胞外液量評価装置及び細胞外液量を標準化するためのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/14 20060101AFI20230131BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
A61M1/14
A61B5/00 N
(21)【出願番号】P 2019077331
(22)【出願日】2019-04-15
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新里 徹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真幹
(72)【発明者】
【氏名】水野 亘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正富
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-014899(JP,A)
【文献】特表2013-524901(JP,A)
【文献】特開昭57-183855(JP,A)
【文献】特表2009-511131(JP,A)
【文献】特表2019-501692(JP,A)
【文献】国際公開第2003/011367(WO,A1)
【文献】Lawrence E Armstrong,Assessing hydration status: the elusive gold standard,J Am Coll Nutr,米国,2007年,Vol. 26, No. 5,pp. 575S-584S
【文献】木村 玄次郎, 外7名,血液濾過施行時の細胞膜を介する物質動態,人工透析研究会会誌,日本,1980年,Vol. 13, No. 3,pp. 531-538
【文献】山海 嘉之, 外3名,透析時の血液量に関する状態推定法,人工臓器,日本,1986年,Vol. 15, No. 3,pp. 1181-1184
【文献】三宮HDクリニック,第1回勉強会 「体液量」と「血圧」の関係について,[on line],日本,三宮HDクリニック,2018年,[令和4年12月19日検索], インターネット<https://web.archive.org/web/20180827130140/https://www.sannomiyahd.com/study.html>(URLは、インターネットアーカイブのウェイバックマシンに蓄積されたウェブページを示しています。)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M1/00-1/38
A61B 5/00
A61B 5/05
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる細胞外液量標準化装置であって、
前記透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、
前記透析患者の身長を取得する身長取得部と、
前記透析患者の透析後の体重を取得する体重取得部と、
前記透析患者の細胞内液量を取得する細胞内液量取得部と、
身長と、透析後の体重と、細胞内液量を変数として標準血液量を規定する関数を記憶する関数記憶部と、
前記取得された身長と、前記取得された透析後の体重と、前記取得された細胞内液量を前記関数に代入することで、前記透析患者の標準血液量を算出する標準血液量算出部と、
前記標準血液量算出部で算出した前記標準血液量に基づいて、前記細胞外液量取得部で取得した前記細胞外液量を標準化する標準化部と、を備えている、細胞外液量標準化装置。
【請求項2】
前記関数は、前記標準血液量をBVとし、前記細胞内液量をICVとし、前記身長及び前記透析後の体重から算出すされるボディマス指数をBMIとし、a及びbを定数としたときに、以下の条件式、
【数1】
で規定される、請求項1に記載の細胞外液量標準化装置。
【請求項3】
前記透析患者の透析前後の血漿尿酸濃度を取得する尿酸濃度取得部をさらに備えており、
前記細胞外液量取得部は、尿酸の透析前後の収支に基づいて透析後の前記細胞外液量を算出する、請求項1又は2に記載の細胞外液量標準化装置。
【請求項4】
前記細胞外液量は、前記透析患者のインピーダンスに基づいて算出される、請求項1又は2に記載の細胞外液量標準化装置。
【請求項5】
透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価する細胞外液量評価装置であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞外液量標準化装置と、
前記細胞外液量標準化装置で標準化された細胞外液量に基づいて、前記透析患者の身体内に含まれる水分量の状態を判定する判定部と、を備えている、細胞外液量評価装置。
【請求項6】
透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる細胞外液量を標準化するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
前記透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、
前記透析患者の身長を取得する身長取得部と、
前記透析患者の透析後の体重を取得する体重取得部と、
前記透析患者の細胞内液量を取得する細胞内液量取得部と、
身長と、透析後の体重と、細胞内液量を変数として標準血液量を規定する関数を記憶する関数記憶部と、
前記取得された身長と、前記取得された透析後の体重と、前記取得された細胞内液量を前記関数に代入することで、前記透析患者の標準血液量を算出する標準血液量算出部と、
前記標準血液量算出部で算出した前記標準血液量に基づいて、前記細胞外液量取得部で取得した前記細胞外液量を標準化する演算部として機能させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態(すなわち、溢水状態か正常状態か脱水状態か)を評価するために用いられる細胞外液量を標準化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
透析患者では、腎機能が廃絶しているため、摂取した水はすべて体内の細胞外区画に蓄積する。体内の細胞外区画に蓄積した水は透析療法によって除去するが、その際、除水は、理論的には細胞外区画の水の量(以下、細胞外液量ともいう)が、腎機能が正常な人の細胞外液量と等しくなるまで行う。このため、透析後の細胞外液量を取得することによって、透析後に細胞外区画に残された水分量が適正か否かが評価される。例えば、特許文献1に細胞外液量の算出方法の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、透析後の細胞外液量を取得することによって、透析後に体内の細胞外区画に残された水分量を評価できる。しかしながら、取得される透析後の細胞外液量は、全身の細胞における細胞外液量の総量である。透析後における細胞外液量の総量の適正量は、透析患者の身体の大きさによって異なる。体格が大きい透析患者では、体格の小さい透析患者より透析後における細胞外液量の総量の適正量は多くなる。すなわち、透析後における細胞外液量の総量の適正量は透析患者毎に異なる。実質的に同一の数値ですべての透析患者の透析後における細胞外液量の適正量を規定するためには、何らかの体の大きさの指標で細胞外液量を標準化する必要があった。
【0005】
従来の方法を用いて取得される透析後の細胞外液量は、体内のすべての組織における細胞外液量の総量である。しかし、体内の組織のうち、脂肪組織とそれ以外の組織とでは、組織重量に対する細胞外液量の比率が異なる(Chamney PW, et al.: A whole-body model to distinguish excess fluid from the hydration of major body tissues. Am J Clin Nutr. 2007; 85: 80-89.)。すなわち、たとえ体重が等しくても痩せている透析患者と肥満の透析患者とでは体内の総細胞外液量は異なる。したがって、現在、細胞外液量の補正に使用されている透析後体重、理想体重、体表面積あるいは非脂肪体重などの、脂肪組織の重量と非脂肪組織の重量を区別せずに、体内のすべての組織の総重量のみを反映するところの体の大きさの指標で細胞外液量を補正すると、透析患者の透析後における細胞外液量が適正か否かを正しく評価することが難しかった。
【0006】
本明細書は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態を評価するために用いられる細胞外液量を標準化する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示する細胞外液量標準化装置は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる。細胞外液量標準化装置は、透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、透析患者の身長を取得する身長取得部と、透析患者の透析後の体重を取得する体重取得部と、透析患者の細胞内液量を取得する細胞内液量取得部と、身長と透析後の体重と細胞内液量を変数として標準血液量を規定する関数を記憶する関数記憶部と、取得された身長と取得された透析後の体重と取得された細胞内液量を関数に代入することで、透析患者の標準血液量を算出する標準血液量算出部と、標準血液量算出部で算出した標準血液量に基づいて、細胞外液量取得部で取得した細胞外液量を標準化する標準化部と、を備えている。
【0008】
本発明者らが鋭意研究したところ、体脂肪量及び細胞内液量を用いて算出した標準血液量に基づいて細胞外液量を標準化することで、身体の水分量の状態を適切に評価できることが判明した。上記の細胞外液量標準化装置では、取得した細胞外液量を取得した標準血液量に基づいて標準化するため、細胞外液量が標準血液量あたりの標準化された細胞外液量に補正される。細胞外液量は体内の細胞外液量の総量であるため、透析患者毎に適正量が異なるが、細胞外液量を標準化することによって、透析患者の肥満度及び体格に影響されずに、透析患者の水分量の状態(溢水状態、正常状態、脱水状態)を評価することができる。また、標準血液量は脂肪量及び筋肉量と相関がある。体脂肪量、すなわち肥満度は身長と体重から推定でき、例えば、通常はBMIを用いて表示する。具体的に、BMIが22未満は痩せであり、BMIがこの値より低ければ、低いほど痩せていると判断する。一方、BMIが22よりも高ければ肥満であり、BMIがこの値より高ければ高いほど太っていると判断する。ところで、筋肉量は細胞内液量と相関する。したがって、標準血液量は、BMI及び細胞内液量と相関があると言える。このため、標準血液量を、透析後BMIと透析後の細胞内液量によって規定される関数を用いて算出することによって、透析患者の肥満度と体格に合わせて適切な標準血液量を算出することができる。
【0009】
また、本明細書に開示する細胞外液量評価装置は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価する。細胞外液量評価装置は、上記の細胞外液量標準化装置と、細胞外液量標準化装置で標準化された細胞外液量に基づいて、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態を判定する判定部と、を備えている。
【0010】
上記の細胞外液量評価装置では、上記の細胞外液量標準化装置で標準化された細胞外液量に基づいて、透析患者の身体内の水分の状態を判定する。このため、上記の細胞外液量標準化装置と同様の作用効果を奏することができる。
【0011】
また、本明細書は、透析患者の身体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる細胞外液量を標準化するためのコンピュータプログラムと開示する。コンピュータプログラムは、コンピュータを、透析患者の身体内の細胞外液量を取得する細胞外液量取得部と、透析患者の身長を取得する身長取得部と、透析患者の透析後の体重を取得する体重取得部と、透析患者の細胞内液量を取得する細胞内液量取得部と、身長と透析後の体重(例えば、身長と透析後の体重から算出されるBMI)と細胞内液量を変数として標準血液量を規定する関数を記憶する関数記憶部と、取得された身長と取得された透析後の体重(例えば、取得された身長と取得された透析後の体重から算出されるBMI)と取得された細胞内液量を関数に代入することで、透析患者の標準血液量を算出する標準血液量算出部と、標準血液量算出部で算出した標準血液量に基づいて、細胞外液量取得部で取得した細胞外液量を標準化する演算部として機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例に係る細胞外液量算出装置のシステム構成を示す図。
【
図2】演算装置が透析患者の体内に含まれる水分量の状態を判定する処理の一例を示すフローチャート。
【
図3】細胞内区画と細胞外区画に分布する物質を示す模式図。
【
図4】ダイアライザの膜面積と尿酸の総括物質移動-面積係数の関係を示す図。
【
図5】演算装置が細胞外液量を算出する処理の一例を示すフローチャート。
【
図6】溢水群と正常群と脱水群について、比較例の方法で標準化した細胞外液量を示す図。
【
図7】溢水群と正常群と脱水群について、実施例の方法で標準化した細胞外液量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0014】
(特徴1)本明細書が開示する細胞外液量標準化装置では、関数は、標準血液量をBVとし、細胞内液量をICVとし、身長及び透析後の体重から算出される体脂肪量を反映する指数(ボディマス指数)をBMIとし、a及びbを定数としたときに、後述の数36で表す式で規定されてもよい。このような構成によると、標準血液量を精度よく算出することができる。
【0015】
(特徴2)本明細書が開示する細胞外液量標準化装置は、透析患者の透析前後の血漿尿酸濃度を取得する尿酸濃度取得部をさらに備えていてもよい。細胞外液量取得部は、尿酸の透析前後の収支に基づいて透析後の細胞外液量を算出してもよい。このような構成によると、透析後の細胞外液量を精度よく算出することができる。
【0016】
(特徴3)本明細書が開示する細胞外液量標準化装置では、細胞外液量は、透析患者のインピーダンスに基づいて算出されてもよい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例に係る細胞外液量評価装置10について説明する。細胞外液量評価装置10は、透析患者の体内に含まれる水分量の状態が溢水状態か正常状態か脱水状態かを評価するために用いられる。透析患者の体内水分量が過剰になっても(すなわち、患者が溢水状態になっても)、また体内の水分量が不足しても(すなわち、患者が脱水状態に陥っても)、細胞内区画40の水の量はほとんど変化せず、細胞外区画50の水の量だけが増加しあるいは減少することが知られている。したがって、透析による除水で調整する必要があるのは、透析後の細胞外液量である。このため、透析後の透析患者の細胞外液量を求めることによって、透析後に透析患者の細胞外液量が適正量になっているか否かを評価することができる。一方、例えば、インピーダンス法等の方法を用いて算出される透析後の透析患者の細胞外液量は、透析患者の体内の細胞外液量の総量である。このため、透析患者の体格が大きい場合には、透析後の細胞外液量の適正な総量は多くなり、透析患者の体格が小さい場合には、透析後の細胞外液量の適正な総量は少なくなる。すなわち、透析患者毎に透析後の細胞外液量の総量の適正値は異なる。このため、算出された細胞外液量の総量では、透析患者の透析後の体内の水分量(細胞外液量)を正確に評価できない。そこで、透析後の透析患者の細胞外液量が適正量となっているか否かを評価するため、透析後の細胞外液量を標準化する。以下では、透析患者の体内の細胞外液量の総量を単に「細胞外液量」と称し、細胞外液量評価装置10で算出された標準化された細胞外液量を「標準細胞外液量」と称することがある。
【0018】
図1に示すように、細胞外液量評価装置10は、演算装置12と、インターフェース装置30によって構成されている。演算装置12は、例えば、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータによって構成することができる。コンピュータがプログラムを実行することで、演算装置12は、
図1に示す細胞外液量算出部20、標準血液量算出部22、細胞外液量標準化部24、判定部26等として機能する。細胞外液量算出部20、標準血液量算出部22、細胞外液量標準化部24及び判定部26の処理については、後で詳述する。
【0019】
また、
図1に示すように、演算装置12は、患者情報記憶部14と透析情報記憶部16と算出方法記憶部18を備えている。患者情報記憶部14は、透析患者に関する各種情報を記憶する。患者情報記憶部14は、インターフェース装置30を介して入力される透析患者の情報や、細胞外液量算出部20、標準血液量算出部22及び細胞外液量標準化部24で算出される透析患者に関する情報を記憶する。インターフェース装置30を介して入力される透析患者の情報は、例えば、透析患者の透析前後の血漿尿酸濃度、ヘマトクリット値、透析前後の血漿尿素濃度、身長、透析後の体重等である。細胞外液量算出部20で算出される透析患者に関する情報は、インターフェース装置30を介して入力された情報に基づいて算出される透析患者の細胞外液量(すなわち、透析患者の体内の細胞外液量の総量)である。標準血液量算出部22で算出される透析患者に関する情報は、インターフェース装置30を介して入力された情報に基づいて算出される透析患者の透析後の細胞内液量及び標準血液量である。細胞外液量標準化部24で算出される透析患者に関する情報は、インターフェース装置30を介して入力された情報と細胞外液量算出部20で算出される透析患者の細胞外液量と標準血液量算出部22で算出される透析患者の標準血液量に基づいて算出される透析患者の標準細胞外液量である。
【0020】
透析情報記憶部16は、透析に関する各種情報を記憶する。透析情報記憶部16は、インターフェース装置30を介して入力される透析に関する情報や、細胞外液量算出部20で算出される透析に関する情報を記憶する。インターフェース装置30を介して入力される透析に関する情報は、例えば、透析による除水量、透析時間、透析中にダイアライザを通過する血液流通速度及び透析液流通速度、透析に用いたダイアライザの膜面積、透析に用いたダイアライザの尿素に関する総括物質移動-面積係数等である。細胞外液量算出部20で算出される透析に関する情報は、例えば、インターフェース装置30を介して入力された情報に基づいて算出される、透析に用いたダイアライザの尿酸に関する総括物質移動-面積係数、尿酸クリアランス、尿酸除去量等である。
【0021】
算出方法記憶部18は、透析後の細胞外液量、標準血液量及び標準細胞外液量を算出するために用いる各種の数式を記憶している。例えば、算出方法記憶部18は、以下で詳細に説明する、数3、6~9、13、15、23、26、32及び35等で表す式を記憶する。細胞外液量算出部20、標準血液量算出部22及び細胞外液量標準化部24は、算出方法記憶部18に記憶される数式に、患者情報記憶部14及び透析情報記憶部16に記憶される各種の数値を代入することによって、透析後の細胞外液量を算出するために用いる各種の数値を算出する。
【0022】
インターフェース装置30は、作業者に細胞外液量評価装置10で算出される各種の情報を提供(出力)する表示装置であると共に、作業者からの指示や情報を受け付ける入力装置である。例えば、インターフェース装置30は、算出した透析後の細胞外液量、標準細胞外液量及び透析患者の体内に含まれる水分量の状態等を、作業者に対して表示することができる。また、インターフェース装置30は、透析患者に関する各種情報(透析患者の透析前後の血漿尿酸濃度、ヘマトクリット値、透析前後の血漿尿素濃度、身長、透析後の体重等)、透析に関する各種情報(除水量、透析時間、ダイアライザを通過する血液流通速度、ダイアライザを通過する透析液流通速度、透析に用いたダイアライザの膜面積、透析に用いたダイアライザの尿素に関する総括物質移動-面積係数等)等の入力を受け付けることができる。
【0023】
次に、細胞外液量評価装置10を用いて、透析患者の体内に含まれる水分量の状態を判定する処理について説明する。本実施例の細胞外液量評価装置10は、透析患者の細胞外液量(すなわち、透析患者の体内の細胞外液量の総量)を、その透析患者の標準血液量を用いて標準化し、標準化した細胞外液量(標準細胞外液量)によって透析患者の体内に含まれる水分量の状態を評価する。
【0024】
図2に示すように、まず、演算装置12は、透析患者の透析後の細胞外液量を取得する(S12)。演算装置12は、インターフェース装置30から入力された各種情報を用いて透析患者の透析後の細胞外液量を算出してもよいし、例えば、従来公知のインピーダンス法等を用いて外部装置(図示省略)等で算出された透析患者の透析後の細胞外液量を、インターフェース装置30を介して取得してもよい。以下に、透析患者の透析後の細胞外液量を取得する方法の一例として、演算装置12によって透析患者の透析後の細胞外液量を算出する処理について説明する。
【0025】
本実施例では、細胞外区画50における透析前後の尿酸の収支に着目して、透析後の細胞外液量を算出する。
図3に示すように、体内の水分区画は、細胞内区画40と細胞外区画50に分けられ、細胞外区画50は、更に間質区画52と血管区画54に分けられる。尿酸は、細胞内区画40と細胞外区画50の両方に分布するが、透析時間である4時間程度では、細胞膜42を通過しない。一方、尿酸は毛細血管膜56を通過する。したがって、細胞外区画50における透析前と透析後の尿酸の収支に着目することによって透析後の細胞外液量を算出できる。
【0026】
細胞外区画50における透析前後の尿酸の収支に基づいて透析後の細胞外液量を算出する方法について、更に詳細に説明する。透析によって細胞外区画50から除去された尿酸量(以下、「尿酸除去量」ともいう)は、透析前に細胞外区画50に分布する尿酸量と、透析後に細胞外区画50に分布する尿酸量の差と一致する。ところで、細胞外区画50に分布する尿酸量は、細胞外液量と細胞外区画50における尿酸濃度との積として算出できる。したがって、以下の数1で表す式が成立する。なお、acidEは尿酸除去量を示し、ecfVsは透析前の細胞外液量を示し、ecfVeは透析後の細胞外液量を示し、acidCsは細胞外区画50における透析前の尿酸濃度を示し、acidCeは細胞外区画50における透析後の尿酸濃度を示す。なお、尿酸は毛細血管膜56を通過するので、血管区画54における尿酸濃度は間質区画52における尿酸濃度に等しい。また、細胞外区画50は、血管区画54と間質区画52を合わせた区画であるので、細胞外区画50における尿酸濃度は血管区画54における尿酸濃度でもある。したがって、細胞外区画50における尿酸濃度は血漿尿酸濃度でもある。
【0027】
【0028】
次に、細胞外区画50における透析中の水の収支について説明する。透析前の細胞外液量と透析後の細胞外液量の差は、透析によって体外に除去された水の量(以下、単に「除水量」ともいう)と一致する。したがって、以下の数2で表す式が成立する。なお、dialEWは除水量を示す。
【0029】
【0030】
上記の数1、2で表す式からは、以下の数3で表す式が得られる。
【0031】
【0032】
上述したように、細胞外区画50における透析前の尿酸濃度acidCsは、透析前の血漿尿酸濃度と等しく、細胞外区画50における透析後の尿酸濃度acidCeは、透析後の血漿尿酸濃度に等しい。そして、透析前の血漿尿酸濃度acidCsと透析後の血漿尿酸濃度acidCeは、実測値として取得可能である。また、除水量dialEWも、実測値として取得可能である。したがって、尿酸除去量acidEを取得又は算出できれば、上記の数3で表す式を用いて透析後の細胞外液量ecfVeを算出できる。以下に、尿酸除去量acidEの算出方法について説明する。
【0033】
本実施例では、尿酸除去量acidEの算出にはダイアライザの尿酸クリアランスが必要であり、ダイアライザの尿酸クリアランスの算出にはダイアライザの尿酸の総括物質移動-面積係数が必要である。本実施例では、透析に用いたダイアライザの尿酸の総括物質移動-面積係数をダイアライザの膜面積に基づいて算出する。詳細には、透析に用いたダイアライザの膜面積に基づいてダイアライザの尿酸に関する総括物質移動-面積係数を算出し、算出した尿酸に関する総括物質移動-面積係数とダイアライザを通過する血液流通速度とダイアライザを通過する透析液流通速度とからダイアライザの尿酸クリアランスを算出し、算出した尿酸クリアランスを用いて尿酸除去量acidEを算出する。
【0034】
次に、ダイアライザの尿酸クリアランスの算出方法を詳細に説明する。透析中において、血漿尿酸濃度は指数関数的に低下することが知られている。このため、以下の数4で表す式が成立する。なお、acidC(t)は透析中の時間tにおける血漿尿酸濃度を示す。また、acidAは係数とし、Tdを透析時間とすると、以下の数5で表される。
【0035】
【0036】
【0037】
上記の数4、5で表す式から、以下の数6で表す式が得られる。
【0038】
【0039】
また、透析中の時間tにおける尿酸除去速度は、時間tにおけるダイアライザの尿酸クリアランスと、時間tにおける血漿尿酸濃度acidC(t)との積により算出できる。したがって、以下の数7で表す式が成立する。なお、acidF(t)は透析中の時間tにおける尿酸除去速度を示し、acidK(t)は透析中の時間tにおける尿酸クリアランスを示す。
【0040】
【0041】
なお、ダイアライザの尿酸クリアランスacidK(t)は時間tに依存する変数となる。尿酸は血漿中及び血球内のいずれにも分布するが(Nagendra S, et al: A comparative study of plasma uric acid, erythrocyte uric acid and urine uric acid levels in type 2 diabetic subjects. Merit Research Journal 3: 571-574, 2015)、細胞膜である赤血球膜を透過しない。このため、尿酸は、透析中、ダイアライザを通過していく血液の中の血漿区画のみから除去される(Eric Descombes, et al: Diffusion kinetics of urea, creatinine and uric acid in blood during hemodialysis. Clinical implications. Clinical Nephrology 40: 286-295, 1993)。したがって、ダイアライザの尿酸クリアランスacidK(t)を算出する際には、ダイアライザを通過する血液流通速度ではなく、ダイアライザを通過する血漿流通速度を用いる。ところで、透析中の除水によって血液が濃縮されることに伴い、透析中においてヘマトクリット値が経時的に上昇する。したがって、血漿流通速度は透析中において一定にはならない。このため、ダイアライザを通過する血漿流通速度を用いて算出されるダイアライザの尿酸クリアランスacidK(t)も、ダイアライザを通過する血漿流通速度の経時的な変化に伴い変化する。すなわち、ダイアライザの尿酸クリアランスacidK(t)は、時間tに依存した変数となる。したがって、尿酸除去量acidEを算出する際には、数7で表す式を用いて算出された時間tにおける尿酸除去速度をt=0からt=Tdまで一定間隔(例えば、0.1分間隔)で積算する。すなわち、以下の数8で表す式を用いて、尿酸除去量acidEを算出する。
【0042】
【0043】
時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)は、ダイアライザの溶質のクリアランスを算出する既知の公式を用いて算出することができる。すなわち、時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)は、以下の数9で表す式を用いて算出できる。なお、acidKоAはダイアライザの尿酸に関する総括物質移動-面積係数を示し、QPtは透析中の時間tにおけるダイアライザを通過する血漿流通速度を示し、QDはダイアライザを通過する透析液流通速度を示す。
【0044】
【0045】
ダイアライザを通過する透析液流通速度QDは、実測値として取得可能である。したがって、ダイアライザの尿酸に関する総括物質移動-面積係数acidKоAと、時間tにおけるダイアライザを通過する血漿流通速度QPtを取得又は算出できれば、時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)を算出できる。
【0046】
ダイアライザの尿酸に関する総括物質移動-面積係数acidKоAの算出方法について説明する。本発明者らが鋭意検討したところ、中空糸型のダイアライザを用いた場合、ダイアライザの尿酸に関する総括移動物質-面積係数acidKоAとダイアライザの膜面積との間には相関があることが判明した。以下、ダイアライザの尿酸に関する総括移動物質-面積係数acidKоAとダイアライザの膜面積との間の関係について説明する。
【0047】
膜面積が異なるダイアライザについて、ex vivoにおける牛血を用いた実験に基づき、尿酸に関する総括物質移動-面積係数をそれぞれ算出した例について説明する。ダイアライザとしては、同一シリーズに属する中空糸型(PES-SEαeоシリーズ、ニプロ株式会社製)の膜面積が1.1m2、1.5m2、2.1m2、2.5m2の4種類のものを用いた。各ダイアライザに、ヘマトクリット値が32%の牛血を200mL/分で流すと共に、対向流で透析液を500mL/分で流した。各ダイアライザに牛血(以下、単に「血液」ともいう)を流し始めてから1分後に、各ダイアライザの血液入口と血液出口において血液を採取し、直ちに遠心分離し、血漿の尿酸濃度を測定した。これらの測定値に基づいて、各ダイアライザのex vivoにおける尿酸クリアランスを、数10で表す式を用いて算出した。なお、Kはダイアライザの尿酸クリアランスを示し、Cinはダイアライザの血液入口の血漿尿酸濃度を示し、Cоutはダイアライザの血液出口の血漿尿酸濃度を示し、QPはダイアライザを通過する血漿流通速度を示す。
【0048】
【0049】
血漿とは、血液から血球成分を除いた区画の名称である。したがって、数10で表す式におけるダイアライザを通過する血漿流通速度QPは、以下の数11で表す式により算出される。なお、Htはヘマトクリット値を示し、QBはダイアライザを通過する血液流通速度を示す。
【0050】
【0051】
上述したように、上記のex vivoの実験に用いた牛血のヘマトクリット値は32%であり、各ダイアライザを通過した血液流通速度QBは200mL/分であった。したがって、これらの値を数11に代入すると、本実験で用いる各ダイアライザを通過する血漿流通速度QPは、136mL/分となる。
【0052】
次に、数9で表す式を変形することにより導いた以下の数12に表す式を用いて、各ダイアライザの尿酸に関する総括移動物質-面積係数を算出した。なお、KoAは各ダイアライザの尿酸に関する総括移動物質-面積係数を示し、QDは、上記のex vivoの実験において各ダイアライザを通過した透析液流通速度を示し、Kは上記のex vivoの実験において測定した各ダイアライザの尿酸クリアランスを示す。なお、上述したように、上記のex vivoの実験において、各ダイアライザを通過した透析液流通速度QDは500mL/分であり、各ダイアライザを通過した血漿流通速度QPは136mL/分である。
【0053】
【0054】
上記のようにして各ダイアライザの尿酸に関する総括移動物質-面積係数を算出したところ、以下の結果が得られた。
【0055】
【0056】
図4は、上記の表1に示す結果について、ダイアライザの膜面積と尿酸の総括移動物質-面積係数との間の関係を示したグラフである。
図4に示すように、ダイアライザの膜面積と尿酸の総括移動物質-面積係数との間には、以下の数13で表す式で示される相関関係が認められた。
【0057】
【0058】
以上から、上記の数13で表す式に透析に用いたダイアライザの膜面積を入力することによって、尿酸の総括移動物質-面積係数acidKоAを算出することができる。
【0059】
次に、透析中の時間tにおいて、ダイアライザを通過する血漿流通速度QPtを算出する方法について説明する。患者の血液中の血漿区画の量は、以下の数14で表す式により示される。なお、PVは血漿量、BVは血液量、Htはヘマトクリット値を示す。
【0060】
【0061】
数14で表す式を、透析中の時間tにおいてダイアライザを通過する血液流通速度と血漿流通速度との関係に書き換えると、数15で表す式が得られる。なお、Ht(t)は透析中の時間tにおけるヘマトクリット値(%)を示し、QBは透析中の時間tにおいてダイアライザを通過する血液流通速度を示し、QPtは透析中の時間tにおいてダイアライザを通過する血漿流通速度を示す。ダイアライザを通過する血液流通速度QBは、透析中、一定である。
【0062】
【0063】
ここで、ダイアライザを通過する血液流通速度QBは経時的に変化せず、かつ実測値として取得可能である。したがって、時間tにおけるヘマトクリット値Ht(t)を算出できれば、ダイアライザを通過する血漿流通速度QPtを算出できる。そこで、時間tにおけるヘマトクリット値Ht(t)の算出方法について説明する。
【0064】
除水速度が一定であれば、透析中の体内の血液量は略直線的に低下する。これは、本発明者らがBV計(ブラッドボリューム計)の測定結果を観察することによって確認している。したがって、透析中の時間tにおける血液量をBV(t)とし、t=0のときの血液量をBVsと定義すると、透析中の時間tにおける血液量BV(t)は、以下の数16で表す式で示される。ただし、通常、αは負の値をとる。
【0065】
【0066】
透析終了時の血液量をBVeと定義し、数16で表す式にt=Tdを代入することによってα値を算出できる。
【0067】
【0068】
上記の数17で表す式を書き換えると、以下の数18で表す式が得られる。
【0069】
【0070】
上記の数16で表す式に数18で表す式で算出したαを代入すると、以下の数19で表す式が得られる。
【0071】
【0072】
一方、体内の赤血球の総数は一定であって経時的に変化しない。これは、赤血球容積の総和も一定であって経時的に変化しないことを意味する。ところで、体内の赤血球容積の総和は、体内の血液量とヘマトクリット値の1/100との積として求められる。したがって、以下の数20~数22で表す式が得られる。なお、TEは体内の赤血球容積の総和を示す。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
上記の数19で表す式と数20~数22で表す式から、以下の数23で表す式が得られる。
【0077】
【0078】
透析前のヘマトクリット値Htsと、透析後のヘマトクリット値Hteは、実測値として取得可能である。また、上述したように、透析時間Tdは、実測値として取得可能である。このため、上記の数23で表す式に、透析前のヘマトクリット値Htsと、透析後のヘマトクリット値Hteと、透析時間Tdを代入することによって、透析中の時間tにおけるヘマトクリット値Ht(t)を算出できる。そして、数15で表す式に、数23で表す式を用いて算出した時間tにおけるヘマトクリット値Ht(t)と、取得したダイアライザを通過する血液流通速度QBを代入することによって、時間tにおいてダイアライザを通過する血漿流通速度QPtを算出できる。すなわち、透析前のヘマトクリット値Htsと、透析後のヘマトクリット値Hteと、透析時間Tdと、血液流通速度QBから、時間tにおいてダイアライザを通過する血漿流通速度QPtを算出できる。
【0079】
数9で表す式に、数13で表す式を用いて算出した尿酸に関するダイアライザの総括物質移動-面積係数acidKоAと、数15で表す式を用いて算出した時間tにおいてダイアライザを通過する血漿流通速度QPtと透析の全経過を通して一定である透析液流通速度QDとを代入することによって、ダイアライザの時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)を算出できる。すなわち、透析に用いたダイアライザの膜面積と、透析前のヘマトクリット値Htsと、透析後のヘマトクリット値Hteと、透析時間Tdと、血液流通速度QBと、透析の全経過を通して一定である透析液流通速度QDとから、透析に用いたダイアライザの時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)を算出できる。
【0080】
また、数8で表す式に、数9で表す式を用いて算出した時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)と、数6で表す式を用いて算出した時間tにおける血漿尿酸濃度acidC(t)を代入することによって、尿酸除去量acidEを算出できる。すなわち、透析に用いたダイアライザの膜面積と、透析前の血漿尿酸濃度acidCsと、透析後の血漿尿酸濃度acidCeと、透析前のヘマトクリット値Htsと、透析後のヘマトクリット値Hteと、透析時間Tdと、ダイアライザを通過する血液流通速度QBと、ダイアライザを通過する透析液流通速度QDから、尿酸除去量acidEを算出できる。
【0081】
更に、数3で表す式に、数8で表す式を用いて算出した尿酸除去量acidEと、取得した透析前の血漿尿酸濃度acidCs、透析後の血漿尿酸濃度acidCe及び除水量dialEWを代入することによって、透析後の細胞外液量ecfVeを算出できる。
【0082】
以上から、本実施例において透析後の細胞外液量ecfVeは、透析前の血漿尿酸濃度acidCsと、透析後の血漿尿酸濃度acidCeと、透析前のヘマトクリット値Htsと、透析後のヘマトクリット値Hteと、除水量dialEWと、透析時間Tdと、ダイアライザを通過する血液流通速度QBと、ダイアライザを通過する透析液流通速度QDと、透析に用いたダイアライザの膜面積から算出することができる。
【0083】
次に、演算装置12が透析後の細胞外液量
ecfVeを算出する処理について説明する。
図5に示すように、まず、演算装置12は、透析患者に関する各種情報を取得する(S22)。透析患者に関する各種情報は、例えば、透析前後の血漿尿酸濃度
acidCs、
acidCeと、透析前後のヘマトクリット値Hts、Hte等である。透析患者に関する各種情報は、例えば、以下の手順で取得する。透析前後の血漿尿酸濃度
acidCs、
acidCeの取得方法を例に説明する。まず、透析前と透析後に透析患者の血液をそれぞれ採取する。そして、採取した透析前の血液を血球と血漿に遠心分離し、分離された血漿中の尿酸濃度
acidCsを測定し、更に、採取した透析後の血液を血球と血漿に遠心分離し、分離された血漿中の尿酸濃度
acidCeを測定する。血漿中の尿酸濃度の測定方法は特に限定しない。作業者は、測定した透析前後の血漿尿酸濃度
acidCs、
acidCeをインターフェース装置30に入力する。入力された透析前後の血漿尿酸濃度
acidCs、
acidCeは、インターフェース装置30から演算装置12に出力され、患者情報記憶部14に記憶される。更に、透析前後のヘマトクリット値Hts、Hteが、透析患者から採取された透析前後の血液からそれぞれ測定される。これらの測定値は、インターフェース装置30を介して患者情報記憶部14に記憶される。
【0084】
次に、細胞外液量算出部20は、透析に関する各種情報を取得する(S24)。透析に関する各種情報は、例えば、除水量dialEW、透析時間Td、ダイアライザを通過する血液流通速度QB、ダイアライザを通過する透析液流通速度QD、ダイアライザの膜面積等である。除水量dialEW、透析時間Td、ダイアライザを通過する血液流通速度QB、ダイアライザを通過する透析液流通速度QD、ダイアライザの膜面積は、作業者によってインターフェース装置30に入力される。そして、除水量dialEW、透析時間Td、ダイアライザを通過する血液流通速度QB、ダイアライザを通過する透析液流通速度QD、ダイアライザの膜面積は、インターフェース装置30から演算装置12に出力され、透析情報記憶部16に記憶される。
【0085】
なお、本実施例では、ステップS22、ステップS24の順に実施されているが、このような構成に限定されない。例えば、ステップS24を先に実施し、その後ステップS22を実施してもよい。また、ステップS22で取得する複数の情報と、ステップS24で取得する複数の情報の取得順序についても、特に限定されない。ステップS22及びステップS24の全ての項目を取得できればよく、例えば、ステップS22で取得する複数の情報を全て取得する前に、ステップS24で取得する情報を取得してもよい。
【0086】
次に、細胞外液量算出部20は、ステップS24で取得した透析に関する情報のうち、透析に用いたダイアライザの膜面積の値を用いて、尿酸の総括移動物質-面積係数acidKоAを算出する(S26)。尿酸の総括移動物質-面積係数acidKоAは、算出方法記憶部18に記憶される上記の数13で表す式を用いて算出される。具体的には、細胞外液量算出部20は、数13で表す式に、透析情報記憶部16に記憶されるダイアライザの膜面積の値を代入して、ダイアライザの尿酸に関する総括移動物質-面積係数acidKоAを算出する。算出されたダイアライザの尿酸に関する総括移動物質-面積係数acidKоAは、透析情報記憶部16に記憶される。
【0087】
次に、細胞外液量算出部20は、ステップS22で取得した透析患者に関する情報と、ステップS24で取得した透析に関する情報と、ステップS26で算出されたダイアライザの尿酸に関する総括移動物質-面積係数acidKоAを用いて、透析に用いたダイアライザの時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)を算出する(S28)。透析に用いたダイアライザの尿酸クリアランスは、算出方法記憶部18に記憶される上記の数9、数15及び数23で表す式を用いて算出される。
【0088】
具体的には、細胞外液量算出部20は、まず、数23で表す式に、患者情報記憶部14に記憶される透析前のヘマトクリット値Hts及び透析後のヘマトクリット値Hteと、透析情報記憶部16に記憶される透析時間Tdを代入して、透析中の時間tにおけるヘマトクリット値Ht(t)を算出する。次いで、細胞外液量算出部20は、数15で表す式に、数23で表す式を用いて算出した時間tにおけるヘマトクリット値Ht(t)と、透析情報記憶部16に記憶されるダイアライザを通過する血液流通速度QBを代入して、時間tにおいてダイアライザを通過する血漿流通速度QPtを算出する。そして、細胞外液量算出部20は、数9で表す式に、ステップS26で算出された尿酸の総括移動物質-面積係数acidKоAと、数15で表す式を用いて算出した時間tにおいてダイアライザを通過する血漿流通速度QPtと、ダイアライザを通過する透析液流通速度QDを代入して、透析に用いたダイアライザの時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)を算出する。算出された時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)は、透析情報記憶部16に記憶される。
【0089】
次に、細胞外液量算出部20は、ステップS22で取得した透析患者に関する情報と、ステップS24で取得した透析に関する情報と、ステップS28で算出された時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)を用いて、尿酸除去量acidEを算出する(S30)。尿酸除去量acidEは、算出方法記憶部18に記憶される上記の数6及び数8で表す式を用いて算出される。具体的には、細胞外液量算出部20は、まず、数6で表す式に、患者情報記憶部14に記憶される透析前の血漿尿酸濃度acidCs及び透析後の血漿尿酸濃度acidCeと、透析情報記憶部16に記憶される透析時間Tdを代入して、透析中の時間tにおける血漿尿酸濃度acidC(t)を算出する。そして、細胞外液量算出部20は、数8で表す式に、ステップS28で算出された時間tにおける尿酸クリアランスacidK(t)と、数6で表す式を用いて算出された透析中の時間tにおける血漿尿酸濃度acidC(t)を代入して、尿酸除去量acidEを算出する。算出された尿酸除去量acidEは、透析情報記憶部16に記憶される。
【0090】
最後に、細胞外液量算出部20は、ステップS22で取得した透析患者に関する情報と、ステップS24で取得した透析に関する情報と、ステップS30で算出された尿酸除去量acidEを用いて、透析後の細胞外液量ecfVeを算出する(S32)。透析後の細胞外液量ecfVeは、算出方法記憶部18に記憶される数3で表す式を用いて算出される。
【0091】
具体的には、細胞外液量算出部20は、数3で表す式に、透析前の尿酸濃度acidCs及び透析後の尿酸濃度acidCeと、透析情報記憶部16に記憶される除水量dialEWと、ステップS30で算出された尿酸除去量acidEを代入して、透析後の細胞外液量ecfVeを算出する。算出された透析後の細胞外液量ecfVeは、患者情報記憶部14に記憶される。
【0092】
なお、本実施例では、ダイアライザの尿酸クリアランスを用いて尿酸除去量acidEを算出したが、このような構成に限定されない。例えば、透析液に除去された尿酸量を測定することによって取得してもよい。詳細には、透析後の透析液排液の尿酸濃度を測定し、測定した尿酸濃度と透析液排液量との積によって尿酸除去量を算出してもよい。
【0093】
図2に戻り、細胞外液量評価装置10を用いて、透析患者の体内に含まれる水分量の状態を判定する処理の続きを説明する。ステップS12の処理の後、すなわち、患者情報記憶部14に透析後の細胞外液量が記憶されると、演算装置12は、透析患者に関する各種情報を取得する(S14)。透析患者に関する各種情報は、例えば、透析患者の身長、透析後の体重、透析後の細胞内液量等である。透析後の細胞内液量については、演算装置12は、インターフェース装置30から入力された各種情報を用いて算出してもよいし、例えば、インピーダンス法等を用いて外部装置(図示省略)等で算出された透析患者の透析後の細胞内液量を、インターフェース装置30を介して取得してもよい。以下に、透析患者の透析後の細胞内液量を取得する方法の一例として、演算装置12によって透析患者の透析後の細胞内液量を算出する処理について説明する。
【0094】
透析後の細胞内液量は、透析後の総体液量から透析後の細胞外液量ecfVeを除くことによって算出できる。したがって、以下の数24で表す式が成立する。なお、wbVeは透析後の総体液量を示し、icfVeは透析後の細胞内液量を示す。
【0095】
【0096】
上述したように、透析後の細胞外液量ecfVeは、細胞外液量算出部20で算出され、患者情報記憶部14に記憶されている。したがって、透析後の総体液量wbVeを算出できれば、上記の数24で表す式を用いて透析後の細胞内液量icfVeを算出できる。
【0097】
次に、透析後の総体液量
wbVeの算出方法について説明する。尿素は細胞膜42を通過するため(
図3参照)、体内の水分区画全域に分布する。このため、尿素の分布に着目して、透析後の総体液量
wbVeを算出する。
【0098】
透析によって除去される尿素量(以下、「尿素除去量」ともいう)は、透析前に水分区画全域に分布する尿素量と、透析後に水分区画全域に分布する尿素量の差と一致する。また、透析前の総体液量は、透析後の総体液量wbVeと除水量dialEWの和と一致する。したがって、以下の数25で表す式が成立する。なお、ureaEは尿素除去量を示し、ureaCsは水分区画全域における透析前の尿素濃度を示し、ureaCeは水分区画全域における透析後の尿素濃度を示す。
【0099】
【0100】
上記の数25で表す式を書き換えると、以下の数26で表す式が得られる。
【0101】
【0102】
水分区画全域における透析前の尿素濃度ureaCsは、透析前の血漿尿素濃度と一致し、水分区画全域における透析後の尿素濃度ureaCeは、透析後の血漿尿素濃度と一致する。このため、水分区画全域における透析前の尿素濃度ureaCsと水分区画全域における透析後の尿素濃度ureaCeは、実測値として取得可能である。また、上述したように、除水量dialEWは実測値として取得可能である。したがって、尿素除去量ureaEを取得又は算出できれば、透析後の総体液量wbVeを算出できる。
【0103】
尿素除去量ureaEは、例えば、透析液に除去された尿素量を測定することによって取得してもよいし、透析に用いたダイアライザの尿素クリアランスに基づいて算出してもよい。以下に、ダイアライザの尿素クリアランスから尿素除去量ureaEを算出する方法について説明する。
【0104】
透析中において、血漿尿素濃度は指数関数的に低下することが知られている。このため、以下の数27で表す式が成立する。なお、ureaC(t)は透析中の時間tにおける血漿尿素濃度を示す。また、ureaAは係数とし、以下の数28で表す式を用いて算出する。Tdは透析時間を示す。
【0105】
【0106】
【0107】
上記の数27、28で表す式から、以下の数29で表す式が得られる。
【0108】
【0109】
また、透析中の時間tにおける尿素除去速度は、ダイアライザの尿素クリアランスと、時間tにおける血漿尿素濃度
ureaC(t)との積として算出できる。したがって、以下の数30で表す式が成立する。なお、
ureaF(t)は透析中の時間tにおける尿素除去速度を示し、
ureaKはダイアライザの尿素クリアランスを示す。
【数30】
【0110】
ダイアライザの尿素のクリアランスは、ダイアライザに添付のカタログに記載されている当該ダイアライザの尿素に関する総括物質移動-面積係数(以下、「ダイアライザの尿素に関する総括物質移動-面積係数のカタログ値」ともいう)と、透析中にダイアライザを通過する血液流通速度と、透析中にダイアライザを通過する透析液流通速度から、既知の公式を用いて算出できることが知られている。尿素は血漿及び血球内のいずれの分画にも分布する。すなわち、尿素は血液中の全区画に分布する。このため、ダイアライザの尿素クリアランスを算出する際にはダイアライザを通過する血液流通速度を用いる。ダイアライザを通過する血液流通速度は透析中において略一定となるため、ダイアライザの尿素クリアランスureaKは時間tに依存しない定数となる。このため、上記の数30で表す式をt=0からt=Tdまで積分すると、尿素除去量ureaEを算出できる。したがって、以下の数31で表す式を用いて、尿素除去量ureaEが算出される。
【0111】
【0112】
上記の数29、31で表す式から、以下の数32で表す式が得られる。
【0113】
【0114】
透析時間Tdは、実測値として取得可能である。また、上述したように、透析前の血漿尿素濃度ureaCsと透析後の血漿尿素濃度ureaCeは、実測値として取得可能である。
【0115】
以上から、上記の数32で表す式に、ダイアライザの尿素に関する総括物質移動-面積係数のカタログ値と、透析中にダイアライザを通過する血液流通速度と、透析中にダイアライザを通過する透析液流通速度とから算出したダイアライザの尿素クリアランスureaKと共に、取得した透析時間Td、透析前の血漿尿素濃度ureaCs及び透析後の血漿尿素濃度ureaCeを代入することによって、尿素除去量ureaEを算出できる。そして、上記の数26で表す式に、算出した尿素除去量ureaEと、取得した透析前の血漿尿素濃度ureaCs、透析後の血漿尿素濃度ureaCe及び除水量dialEWを代入することによって、透析後の総体液量wbVeを算出できる。すなわち、透析前の血漿尿素濃度ureaCsと、透析後の血漿尿素濃度ureaCeと、除水量dialEWと、透析時間Tdと、尿素クリアランスureaKとから、透析後の総体液量wbVeを算出できる。
【0116】
なお、本実施例では、ダイアライザの尿素クリアランスureaKは、ダイアライザの尿素に関する総括物質移動-面積係数のカタログ値を用いて算出しているが、このような構成に限定されない。例えば、ダイアライザに添付のカタログには、当該ダイアライザの尿素に関する総括物質移動-面積係数に代わり、所定の血液流通速度と所定の透析液流通速度における尿素クリアランスが記載されている場合がある。このような場合には、カタログに記載の血液流通速度、透析液流通速度及び尿素クリアランスから尿素に関する総括物質移動-面積係数を算出し、算出した尿素に関する総括物質移動-面積係数と、透析中にダイアライザを通過する血液流通速度と、透析中にダイアライザを通過する透析液流通速度から、ダイアライザの尿素のクリアランスを算出してもよい。
【0117】
透析後の総体液量wbVeは、算出方法記憶部18に記憶される上記の数26及び数32で表す式を用いて算出される。具体的には、標準血液量算出部22は、まず、数32で表す式に、患者情報記憶部14に記憶される透析前後の血漿尿素濃度ureaCs、ureaCeと、透析情報記憶部16に記憶される透析時間Tdと、ダイアライザの尿素に関する総括物質移動-面積係数ureaKоAのカタログ値を代入して、尿素除去量ureaEを算出する。次いで、標準血液量算出部22は、数26で表す式に、数32で表す式を用いて算出した尿素除去量ureaEと、患者情報記憶部14に記憶される透析前後の血漿尿素濃度ureaCs、ureaCeと、透析情報記憶部16に記憶される除水量dialEWを代入して、透析後の総体液量wbVeを算出する。
【0118】
そして、標準血液量算出部22は、上記の数24で表す式に、算出した透析後の総体液量wbVeと、ステップS12で算出した透析後の細胞外液量ecfVeを代入して、透析後の細胞内液量icfVeを算出する。算出された透析後の総体液量wbVeは、患者情報記憶部14に記憶される。
【0119】
次に、標準血液量算出部22は、透析患者の標準血液量を算出する(S16)。上述したように、透析患者毎に透析後の細胞外液量の総量の適正値は異なる。これは、身長及び体重の影響だけでなく、体内の脂肪量及び筋肉量が影響するためである。これらの影響を考慮して透析後の細胞外液量を標準化するために、標準血液量を用いる。
【0120】
ここで、標準血液量の算出方法について説明する。標準血液量を算出する方法としては、身長と体重に基づいて算出する方法が報告されている。例えば、肥満の程度(すなわち、体内の脂肪量)を考慮した標準血液量の算出方法として、以下の数33で表すLemmensの式が知られている。なお、BVは、標準血液量を示し、BMIは、体重/(身長)2で算出されるボディマス指数(以下、BMIという)を示す。
【0121】
【0122】
上記の数33で表す式における「22」は、平均的な脂肪量を有する男性のBMIである。したがって、BMI/22は肥満の程度を表す。すなわち、上記の数33で表す式では、脂肪量が考慮されている。
【0123】
上記の数33で表す式における「70」は、平均的な筋肉量を有する男性の体重1kgあたりの血液量とされている。すなわち、上記の数33で表す式では、筋肉量は考慮されていない。しかしながら、透析患者毎に筋肉量は異なるため、標準血液量を算出する際には、脂肪量の個人差だけでなく、筋肉量の個人差も考慮する必要がある。
【0124】
また、体重1kgあたりの血液量の目安として、以下の表2に示すGilcher’s rule of fiveが知られている。
【0125】
【0126】
体内の筋肉量が多いと、血液量が多くなり、体内の筋肉量が少ないと、血液量も少なくなる。上記の表2に示すGilcher’s rule of fiveでは、「痩せている」患者において、体重1kgあたりの血液量を体格が「標準」である患者より少ない量で定義しており、「筋肉隆々」である患者において、体重1kgあたりの血液量を体格が「標準」である患者より多い量で定義している。上記の表2に示すGilcher’s rule of fiveを用いると、上記の数33で表す式における「70」を、透析患者の性別及び体格に応じて補正することが可能となる。しかしながら、各透析患者が上記の表2に示すGilcher’s rule of fiveにおける「痩せている」、「標準」及び「筋肉隆々」のいずれに該当するのかは、その透析患者の外見から判断する必要があり、検査者の主観に委ねられる。したがって、上記の数33で表す式に上記の表2に示すGilcher’s rule of fiveを適用するだけでは、標準血液量を精度よく算出できるとは言えない。
【0127】
そこで、本発明者らが鋭意検討し、細胞内液量を用いて筋肉量の個人差を考慮することを見出した。筋肉量は、個々の筋肉細胞の肥大あるいは萎縮によって変化する。そして、筋肉細胞が肥大すると、必然的に、筋肉細胞の肥大分だけ細胞内液量が増加する。一方、筋肉細胞が萎縮すると、必然的に、筋肉細胞の萎縮分だけ細胞内液量が減少する。このように、筋肉量と細胞内液量との間に相関があることに着目し、細胞内液量を用いて筋肉量の個人差を考慮した標準血液量を算出する。
【0128】
ここで、細胞内液量に基づいて体重1kgあたりの血液量を算出する方法の一例を説明する。39名の透析患者の中から、視覚的に痩せていることが明確な男性患者3名を筋肉量の少ない透析患者として選出し、3名の透析後の細胞内液量を算出した。透析後の細胞内液量は、上述の方法を用いて算出された。この3名の筋肉量の少ない透析患者の透析後の細胞内液量の平均値は、208mL/kgと算出された。また、39名の透析患者の中から、視覚的に筋肉隆々であることが明確な男性患者3名を筋肉量の多い透析患者として選出した。この3名の筋肉量の多い透析患者についても同様に、透析後の細胞内液量を算出したところ、平均値は、510mL/kgと算出された。ここで、細胞内液量と血液量は比例すると仮定できるため、上記6名の透析患者の細胞内液量に基づき、体重1kgあたりの血液量は以下の数34で表す式で示すことができる。なお、BVxは、体重1kgあたりの血液量を示す。また、下記の数34で表す式は、男性の透析患者の細胞内液量に基づいて導かれたが、本発明者らにより女性の透析患者においても以下の数34で表す式を適用可能であることが確認されている。
【0129】
【0130】
上記の数34で表す式を、上記の数33で表す式における「70」と置き換えることによって、以下の数35で表す式が得られる。
【0131】
【0132】
なお、上記の数35で表す式は、定数a及びbを用いて、以下の数36で表す式に書き換えることができる。
【0133】
【0134】
上記の数34で表す式では、筋肉量の個人差を考慮して体重1kgあたりの血液量が算出される。このため、上記の数34で表す式を、上記の数33で表す式において平均的な筋肉量を有する男性の体重1kgあたりの血液量を示す「70」と置き換えた上記の数35で表す式を用いることによって、脂肪量の個人差だけでなく、筋肉量の個人差も考慮した標準血液量を算出することができる。
【0135】
脂肪量の個人差と筋肉量の個人差の両方を考慮した標準血液量(以下、単に「標準血液量」ともいう)は、算出方法記憶部18に記憶される上記の数35で表す式を用いて算出される。具体的には、標準血液量算出部22は、まず、患者情報記憶部14に記憶される身長及び透析後の体重から、BMIを算出する。次いで、標準血液量算出部22は、数34で表す式に、患者情報記憶部14に記憶される細胞内液量と、算出されたBMIを代入して、標準血液量を算出する。算出された標準血液量は、患者情報記憶部14に記憶される。
【0136】
次に、細胞外液量標準化部24は、ステップS16で算出された標準血液量を用いて、ステップS12で取得した透析後の細胞外液量ecfVeを標準化する(S18)。すなわち、細胞外液量標準化部24は、標準細胞外液量を算出する。具体的には、細胞外液量標準化部24は、まず、患者情報記憶部14に記憶される体重と標準血液量を掛け合わせる。患者情報記憶部14に記憶される標準血液量は、体重1kgあたりの標準血液量であるため、透析患者の体重を掛け合わせることによって、透析患者の体内の血液量の総量を標準血液量で表すことができる。そして、細胞外液量標準化部24は、体重と標準血液量を掛け合わせたもので透析後の細胞外液量ecfVeを割る。これによって、透析後の細胞外液量ecfVe(すなわち、透析後の透析患者の体内の細胞外液量の総量)を標準血液量1リットルあたりの細胞外液量に標準化することができる。
【0137】
次に、判定部28は、ステップS18で標準化した細胞外液量(すなわち、標準細胞外液量)を用いて、透析患者の体内の水分量の状態を判定する(S20)。ステップS18で算出した標準細胞外液量は、その透析患者の脂肪量及び筋肉量を考慮して算出された、体重1kgあたりの細胞外液量である。このため、透析患者の体格に関わらず、所定の閾値を用いて透析患者の体内の水分量の状態を判定することができる。詳細には、標準細胞外液量が所定の範囲内である場合、判定部28は、透析患者が正常状態であると判定する。一方、標準細胞外液量が所定の範囲より多い場合、判定部28は、透析患者が溢水状態であると判定し、標準細胞外液量が所定の範囲より少ない場合、判定部28は、透析患者が脱水状態であると判定する。判定結果(すなわち、溢水状態、正常状態、脱水状態のいずれであるのか)は、インターフェース装置30に表示される。
【0138】
なお、判定部28は、標準細胞外液量が所定の範囲内であっても、所定の範囲内の上限付近である場合には、「溢水状態の可能性がある」と判定し、標準細胞外液量が所定の範囲内であっても、所定の範囲内の下限付近である場合には、「脱水状態の可能性がある」と判定してもよい。このように判定することによって、医師に対して透析患者の状態をより注意して確認するように報知することができる。
【0139】
なお、本発明者らが行った検証では、数35で表す式を用いて算出した標準血液量に基づいて、透析患者の体内の水分量の状態を判定できることが確認されている。検証では、38名の透析患者を、溢水群と、脱水群と、正常群に分類した。
【0140】
溢水群に分類された透析患者は9名であり、以下の手順で溢水群に分類した。まず、39名の透析患者のうち、最初の定期採血日において、血液透析終了後に下肢に浮腫が生じていた透析患者10名を一旦溢水群に分類した(以下、仮溢水群とする)。その後、仮溢水群に分類された10名の透析患者について、ドライウエイトを1~2週あたり0.2~0.5kgずつ下げて血液透析を行った。最初の定期採血日から3ヶ月後の定期採血日までの間に、透析中の血圧低下や透析後の倦怠感を生じることなく血液透析終了後に下肢に浮腫が生じなくなった9名について、最初の定期採血日に生じた浮腫を溢水によるものであると確定し、溢水群と分類した。なお、仮溢水群に分類された10名のうち1名については、ドライウエイトを下げて血液透析を行っている間に、血液透析終了後において下肢の浮腫が消失する前に、透析中に血圧が低下した。このため、この1名については、最初の定期採血日に生じた浮腫を溢水による浮腫であると確定することができず、溢水群から除外した。
【0141】
脱水群に分類された透析患者は5名であり、以下の手順で脱水群と分類した。まず、39名の透析患者のうち、最初の定期採血日において、血液透析中に除水速度を低下させたり、除水を停止したり、あるいは補液しなければならないほどに血圧が低下した場合、又は、血液透析後に食事を摂取するまでの間、強い倦怠感がある場合に該当する透析患者5名を、一旦脱水群に分類した(以下、仮脱水群とする)。その後、仮脱水群に分類された5名の透析患者について、ドライウエイトを1~2週あたり0.2~0.5kgずつ上げて血液透析を行った。最初の定期採血日から3ヶ月後の定期採血日までの間に、下肢に浮腫が生じることなく、透析中の血圧低下や透析後の倦怠感を生じなくなった5名について、最初の定期採血日に生じた透析中の血圧低下や透析後の倦怠感を脱水によるものであると確定し、脱水群と分類した。なお、仮脱水群に分類された5名全てが脱水群に分類された。
【0142】
正常群には、39名の透析患者のうち、最初の定期採血日において、仮溢水群にも仮脱水群にも分類されなかった、すなわち、無症状であった24名の透析患者が分類された。
【0143】
上記のように分類した各透析患者について、最初の定期採血日において取得した透析患者に関する各種情報及び透析に関する各種情報を用いて、透析後の細胞外液量を標準血液量で標準化した。具体的には、上述した方法を用いて、最初の定期採血日において取得した透析患者に関する各種情報及び透析に関する各種情報から、透析後の細胞外液量及び細胞内液量を算出した。そして、上記の数35で表す式を用いて、身長、透析後の体重及び算出した細胞内液量から標準血液量を算出した。その後、算出した標準血液量及び透析後の体重を用いて、算出した透析後の細胞外液量を標準化した。
【0144】
また、比較例として、同じ透析患者について、上記の数33で表す式(Lemmensの式)を用いて透析後の体重1kgあたりの標準血液量を算出し、この標準血液量と透析後の体重とを掛け合わせることによって、透析患者の身体全体あたりの標準血液量を求め、さらに、これを用いて透析後の細胞外液量を標準化した。以下、上記の数33で表す式を用いて算出した標準血液量を、本実施例の方法で算出した標準血液量と区別するために、「Lemmensの標準血液量」と称することがある。上述したように、Lemmensの標準血液量は、透析患者の肥満の程度(すなわち、体内の脂肪量)のみが考慮されており、透析患者の体内の筋肉量については考慮されていない。
【0145】
図6は、比較例のLemmensの標準血液量を用いて標準化した標準細胞外液量を示すグラフである。
図6に示すように、Lemmensの標準血液量を用いて透析後の細胞外液量を標準化すると、正常群と溢水群については区別できたが、正常群と脱水群については全く区別することができなかった。すなわち、透析患者の体内の筋肉量が考慮されていないLemmensの標準血液量を用いて透析後の細胞外液量を標準化しても、透析患者の透析後の体内の水分量の状態を判定できなかった。
【0146】
図7は、本実施例の標準血液量(すなわち、数35で表す式を用いて算出した標準血液量)を用いて標準化した標準細胞外液量を示すグラフである。
図7に示すように、本実施例の標準血液量を用いて透析後の細胞外液量を標準化すると、正常群と溢水群について区別できたと共に、正常群と脱水群についてもほぼ区別することができた。なお、正常群と脱水群を区別し難い部分がわずかに存在しているが、この部分については、「脱水状態の可能性がある」と判定することによって医師による正確な判断を促すことができる。しかしながら、このような部分はほんの一部であるため、正常群と脱水群についてもほぼ正確に区別できたと言える。このように、細胞内液量を用いて標準血液量を算出することによって、透析患者の体内の筋肉量を考慮した標準血液量を算出することができ、透析患者の体内の水分量が溢水状態と脱水状態と正常状態のいずれであるのかを正確に判定できることが確認できた。
【0147】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0148】
10:細胞外液量評価装置
12:演算装置
14:患者情報記憶部
16:透析情報記憶部
18:算出方法記憶部
20:細胞外液量算出部
22:標準血液量算出部
24:細胞外液量標準化部
26:判定部
30:インターフェース装置
40:細胞内区画
42:細胞膜
50:細胞外区画
52:間質区画
54:血管区画
56:毛細血管膜