(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】内燃機関構造
(51)【国際特許分類】
F02F 1/00 20060101AFI20230131BHJP
【FI】
F02F1/00 J
(21)【出願番号】P 2019130079
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅規
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-090763(JP,A)
【文献】特開2018-059440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00 -1/42
F02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの上端面とシリンダヘッドの下端面の間にガスケットが挟み込まれ、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドが、複数のボルトを用いて所定トルクにて前記ガスケットを押しつぶすように固定され、単数のシリンダまたは複数のシリンダを有する、内燃機関構造において、
複数の前記ボルトは、
吸気ポート側から排気ポート側へ向かう方向に見てシリンダと重ならない位置にあるとともにシリンダの中心軸線に対して吸気側に取り付けられた複数の吸気側ボルトと、
吸気ポート側から排気ポート側へ向かう方向に見てシリンダと重ならない位置にあるとともにシリンダの中心軸線に対して排気側に取り付けられた複数の排気側ボルトと、に分けられており、
単数のシリンダまたは複数のそれぞれのシリンダにおいて、該シリンダの中心軸線から最も近い前記排気側ボルトまでの距離である排気側締結距離が、
該シリンダの中心軸線から最も近い前記吸気側ボルトまでの距離である吸気側締結距離よりも長く設定されている、
内燃機関構造。
【請求項2】
シリンダブロックの上端面とシリンダヘッドの下端面の間にガスケットが挟み込まれ、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドが、複数のボルトを用いて所定トルクにて前記ガスケットを押しつぶすように固定
され、単数のシリンダを有する、内燃機関構造において、
複数の前記ボルトは、
吸気ポート側から排気ポート側へ向かう方向に見てシリンダと重ならない位置にあるとともにシリンダの中心軸線に対して吸気側に取り付けられた複数の吸気側ボルトと、
吸気ポート側から排気ポート側へ向かう方向に見てシリンダと重ならない位置にあるとともにシリンダの中心軸線に対して排気側に取り付けられた複数の排気側ボルトと、に分けられており、
隣り合う2個の前記排気側ボルトの間の距離である排気側ボルト間距離が、隣り合う2個の前記吸気側ボルトの間の距離である吸気側ボルト間距離よりも長く設定されている、
内燃機関構造。
【請求項3】
シリンダブロックの上端面とシリンダヘッドの下端面の間にガスケットが挟み込まれ、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドが、複数のボルトを用いて所定トルクにて前記ガスケットを押しつぶすように固定され、複数のシリンダを有する、内燃機関構造において、
複数の前記ボルトは、
吸気ポート側から排気ポート側へ向かう方向に見てシリンダと重ならない位置にあるとともにシリンダの中心軸線に対して吸気側に取り付けられた複数の吸気側ボルトと、吸気ポート側から排気ポート側へ向かう方向に見てシリンダと重ならない位置にあるとともにシリンダの中心軸線に対して排気側に取り付けられた複数の排気側ボルトと、に分けられており、
直列に配置された複数のシリンダにおける一方端の側の前記シリンダの近傍で隣り合う2個の前記排気側ボルトの間の距離と、
直列に配置された複数のシリンダにおける他方端の側の前記シリンダの近傍で隣り合う2個の前記排気側ボルトの間の距離と、
のそれぞれの距離であるそれぞれの排気側ボルト間距離が、
直列に配置された複数のシリンダにおける一方端の側の前記シリンダの近傍で隣り合う2個の前記吸気側ボルトの間の距離と、
直列に配置された複数のシリンダにおける他方端の側の前記シリンダの近傍で隣り合う2個の前記吸気側ボルトの間の距離と、
のそれぞれの距離であるそれぞれの吸気側ボルト間距離よりも長く設定されている、
内燃機関構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)は、一般にシリンダヘッドがヘッドボルトによりシリンダブロックに対して固定されて、燃焼室内の気密性を確保するために、シリンダヘッドの下端面とシリンダブロックの上端面の間にヘッドガスケットが挟まれている。
【0003】
この内燃機関では、燃焼室内で発生する熱によるシリンダヘッド、シリンダブロック、ヘッドガスケット、ヘッドボルト等の燃焼室周辺の部品の熱膨張と、燃焼による燃焼室内の圧力上昇により、燃焼室周辺の部品において大きな応力が発生する。
【0004】
また、内燃機関の排気ポート側の温度は、吸気ポート側の温度よりも非常に高くなり、シリンダヘッドとシリンダブロックにおける温度も排気ポート側が吸気ポート側と比べて高くなる。これにより、シリンダヘッドとシリンダブロックにおいて吸気ポート側より排気ポート側の燃焼室周辺の部品の熱膨張量が大きくなり、吸気ポート側の燃焼室周辺の部品の応力よりも排気ポート側の燃焼室周辺の部品の応力が大きくなる。この吸気ポート側と排気ポート側の間の応力の差により、燃焼室周辺の部品(例えば、ヘッドガスケット)に変形や偏摩耗が生じる場合がある。このような燃焼室周辺の部品の変形や偏摩耗を回避するため、種々の方法が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、シリンダの上方の円周状の縁部に、剛性を備えた補強リングを設けているエンジンが記載されている。この補強リングにより、シリンダの上方の円周状の縁部が、熱による膨張・燃焼による圧力に対して不均一に変形することを抑制し、燃焼室周辺の部品の変形や偏摩耗を回避している。
【0006】
また特許文献2には、ヘッドボルトの冷間締め付け時(内燃機関が常温時)における吸気ポート側のヘッドボルトのシリンダブロックへの締付軸力(締め付けトルク)を、排気ポート側の締付軸力よりも大きく設定しているシリンダヘッド締結構造(内燃機関構造に相当)が記載されている。このシリンダヘッド締結構造では、冷間締め付け時の吸気ポート側の締付軸力を排気ポート側の締付軸力よりも大きく設定することで、内燃機関運転時における吸気ポート側と排気ポート側の締付軸力をほぼ同一にし、シリンダヘッドとシリンダブロックとの合わせ面における面圧(圧力)を均一にし、燃焼室周辺の部品の変形や偏摩耗を回避している。
【0007】
また特許文献3には、排気ポート側のヘッドボルトの線膨張係数を吸気ポート側のヘッドボルトの線膨張係数よりも大きく設定しているシリンダヘッド固定構造(内燃機関構造に相当)が記載されている。このシリンダヘッド固定構造では、排気ポート側と吸気ポート側との間の温度差による排気ポート側のヘッドボルトと吸気ポート側のヘッドボルトの変位量の差を吸収し、燃焼室周辺の部品の変形や偏摩耗を回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-193907号公報
【文献】特開昭62-101871号公報
【文献】実開平3-127061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載のエンジンでは、シリンダの上方に補強リングを取り付ける必要があり構造が複雑になる。
【0010】
また、特許文献2に記載のシリンダヘッド締結構造では、排気ポート側と吸気ポート側において同一の形状のヘッドボルトが図に記載されている。このため作業者が、吸気ポート側のヘッドボルトに対して排気ポート側用の締付軸力を用いて締め付け、又は、排気ポート側用のヘッドボルトに対して吸気ポート側用の締付軸力を用いて締め付ける、誤組み付けの可能性がある。
【0011】
また、特許文献3に記載のシリンダヘッド固定構造では、排気ポート側と吸気ポート側において同一の形状のヘッドボルトが図に記載されている。このため作業者が、排気ポート側用のヘッドボルトを取り違えて吸気ポート側のシリンダブロックに固定し、又は、吸気ポート側用のヘッドボルトを取り違えて排気ポート側のシリンダブロックに固定する、誤組み付けの可能性がある。
【0012】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、シリンダブロックとシリンダヘッドに挟まれたガスケットにおける、吸気ポート側の応力分布(圧力分布)と排気ポート側の応力分布(圧力分布)との差をより低減するとともに、シンプルな構造で、かつ、誤組み付けを防止できる、内燃機関構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、第1の発明は、シリンダブロックの上端面とシリンダヘッドの下端面の間にガスケットが挟み込まれ、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドが、複数のボルトを用いて所定トルクにて前記ガスケットを押しつぶすように固定され、単数のシリンダまたは複数のシリンダを有する、内燃機関構造において、複数の前記ボルトは、吸気側に取り付けられた複数の吸気側ボルトと、排気側に取り付けられた複数の排気側ボルトと、に分けられており、単数のシリンダまたは複数のそれぞれのシリンダにおいて、該シリンダの中心軸線から最も近い前記排気側ボルトまでの距離である排気側締結距離が、該シリンダの中心軸線から最も近い前記吸気側ボルトまでの距離である吸気側締結距離よりも長く設定されている、内燃機関構造である。
【0014】
次に、第2の発明は、シリンダブロックの上端面とシリンダヘッドの下端面の間にガスケットが挟み込まれ、前記シリンダブロックと前記シリンダヘッドが、複数のボルトを用いて所定トルクにて前記ガスケットを押しつぶすように固定されている、内燃機関構造において、複数の前記ボルトは、吸気側に取り付けられた複数の吸気側ボルトと、排気側に取り付けられた複数の排気側ボルトと、に分けられており、隣り合う2個の前記排気側ボルトの間の距離である排気側ボルト間距離が、隣り合う2個の前記吸気側ボルトの間の距離である吸気側ボルト間距離よりも長く設定されている、内燃機関構造である。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、複数の排気側ボルトと複数の吸気側ボルトのそれぞれの締め付けトルクを同一にした場合、内燃機関停止時(常温時)での排気側ボルトにおけるガスケットへの圧力(応力)を吸気側ボルトにおけるガスケットへの圧力(応力)よりも小さくすることができる。これにより、単数のシリンダまたは複数のそれぞれのシリンダにおいて、内燃機関運転時(高温時)での排気側ボルトにおけるガスケットへの圧力(応力)と吸気側ボルトにおけるガスケットへの圧力(応力)との差をより低減することができる。従って、燃焼室周辺の部品(例えば、ヘッドガスケット)の変形や偏摩耗を回避することができる。また、排気側ボルトの配置を変更するだけで別途機構等を設ける必要がないため、シンプルな構造で、燃焼室周辺の部品の変形や偏摩耗を回避し、かつ、誤組み付けを防止できる。
【0016】
第2の発明によれば、複数の排気側ボルトと複数の吸気側ボルトのそれぞれの締め付けトルクを同一にした場合、内燃機関停止時(常温時)での排気側ボルトにおけるガスケットの圧力(応力)を吸気側ボルトにおけるガスケットの圧力(応力)よりも小さくすることができる。これにより、内燃機関運転時(高温時)での排気側ボルトにおけるガスケットの圧力(応力)と吸気側ボルトにおけるガスケットの圧力(応力)との差をより低減することができる。従って、燃焼室周辺の部品(例えば、ヘッドガスケット)の変形や偏摩耗を回避することができる。また、排気側ボルトの配置を変更するだけで別途機構等を設ける必要がないため、シンプルな構造で、燃焼室周辺の部品の変形や偏摩耗を回避し、かつ、誤組み付けを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】
図1のIIで示された領域におけるガスケットの詳細を説明する斜視図である。
【
図3】シリンダヘッドとシリンダブロックの間のガスケットにかかる圧力(応力)の状態を説明する断面の概略図である。
【
図4】エンジン動作時(高温時)とエンジン停止時(常温時)におけるボアビード部における線圧(圧力)の分布を説明する図である
【
図5】ガスケットにおける排気側締結距離と吸気側締結距離との関係を説明する図である。
【
図6】第1の実施形態のガスケットのボアビード部における線圧(圧力)の分布を説明する図である。
【
図7】ガスケットにおける排気側ボルト間距離と吸気側ボルト間距離との関係を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を適用した実施形態の内燃機関(エンジン)1について、図面を用いて説明する。なお、図中にX軸、Y軸、Z軸が記載されている場合、各軸は互いに直交しており、X軸方向は複数である4個の気筒(シリンダ)が直列に配置されている方向を示し、Y軸方向は排気ポート側から吸気ポート側へ向かう方向を示し、Z軸方向は鉛直上方に向かう方向を示している。
【0019】
●[本実施形態における内燃機関(エンジン)1(
図1)]
図1は、内燃機関(エンジン)1の分解斜視図である。
図1で示すように、内燃機関1は、シリンダヘッド30が吸気側ボルト42と排気側ボルト44(ヘッドボルト)によりシリンダブロック10に対して固定されて、シリンダブロック30の上端面とシリンダヘッド30の下端面の間にガスケット20(20A、20Z)(ヘッドガスケット)が挟まれている。内燃機関1は、例えば複数である4気筒(4個のシリンダC1~C4(C))を有する内燃機関である。
【0020】
シリンダブロック10には、ヘッドボルトを締結する締結孔として、Y軸方向の両側の縁部において、吸気ポート側の縁部においてボルト締結孔12A~12E(12)のそれぞれが、排気ポート側の縁部においてボルト締結孔14A~14E(14)のそれぞれが、X軸方向に沿って設けられている。また、ガスケット20(20A、20Z)には、ヘッドボルトが挿通されるボルト孔として、Y軸方向の両側の縁部において、吸気ポート側にはボルト孔22A~22E(22)のそれぞれが、排気ポート側にはボルト孔24A~24E(24)のそれぞれが、X軸方向に沿って設けられている。
【0021】
ガスケット20は、吸気側ボルト42のそれぞれがボルト締結孔12のそれぞれに対し所定トルクで締め付け固定され、排気側ボルト44のそれぞれがボルト締結孔14のそれぞれに対して所定トルクで締め付け固定されることで、押しつぶされるようにシリンダブロック10とシリンダヘッド30との間に挟み込まれている。なお、所定トルクは、吸気ガス、排気ガスがシリンダの内部から外部へ漏れ出ることがなく気密性を確保できる程度にガスケット20を押しつぶすことができる締め付け力を発生させる締め付けトルク値である。
【0022】
●[ガスケット20Z(20)の詳細(
図2)]
図2は、
図1のIIで示された領域のガスケット20Z(20)の詳細を説明する斜視図である。なお、ガスケット20Zにおけるボルト孔22、ボルト孔24の位置は、従来のガスケットのボルト孔の位置を示している。なお、対称軸線JK1は、シリンダ孔CHのシリンダの中心軸線CPを通り、XY平面に沿う直線である。
【0023】
ガスケット20Z(20)には、シリンダC2、C3(
図1参照)の上方側の開口のそれぞれに連通するシリンダ孔CH2、CH3がそれぞれ設けられている。シリンダ孔CH2、CH3(CH)のそれぞれの円周状の縁部において、径方向の断面形状として上方の側に突出するボアビード部26が周方向に沿って設けられている。
【0024】
ボルト孔22Cとボルト孔24Cのそれぞれは、対称軸線JK1に対して、吸気ポート側と排気ポート側のそれぞれにおいて対称となる位置に設けられている。ボルト孔22Dとボルト孔24Dのそれぞれは、ボルト孔22Cとボルト孔24Cのそれぞれと同様に設けられている。
【0025】
●[ガスケット20Z(20)にかかる圧力(線圧)(
図3、
図4)]
図3と
図4を用いて、ガスケット20Z(20)にかかる圧力の状態を説明する。
図3は、シリンダブロック10とシリンダヘッド30の間に挟まれたガスケット20Z(20)にかかる圧力の状態を説明する断面の概略図である。なお、断面は、燃焼室15、吸気側ボルト42と排気側ボルト44を含む断面である。
【0026】
図3において、エンジン停止時(常温時)において、シリンダブロック10に所定トルクで固定されたボルトに生じる力は、吸気側ボルト42と排気側ボルト44のそれぞれにおいて同一の力である力FTのみとなる。この力FTそれぞれに応じた圧力が、吸気側ボルト42と排気側ボルト44のそれぞれの側のボアビード部26に加えられる。
【0027】
エンジン動作時(高温時)では、吸気ポート側よりも排気ポート側の温度が非常に高くなり、シリンダブロック10とシリンダヘッド30の熱による膨張量も吸気ポート側よりも排気ポート側が大きくなる。これにより、排気ポート側において熱膨張により生じる力である力FHex(圧力)は、吸気ポート側において熱膨張により生じる力である力FHin(圧力)よりも大きくなる(FHex>FHin)。従って、所定トルクにより生じる力と温度により生じる排気ポート側での力の合計である力Fex(=力FT+力FHex)は、吸気ポート側での力の合計である力Fin(=力FT+力FHin)よりも大きくなる(Fex>Fin)。また力Finにより生じる吸気ポート側のボアビード部26へ加えられる圧力を圧力Pinとし、排気ポート側のボアビード部26へ加えられる圧力は圧力Pexとすると、圧力Pexは、ボルト(42、44)からシリンダの中心軸線CPまでの距離が同じであるため、圧力Pinよりも大きくなる(Pex>Pin)。
【0028】
[ガスケット20Z(20)にかかる線圧(応力)の分布(
図4)]
図4は、エンジン動作時(高温時)とエンジン停止時(常温時)における、ボアビード部26(
図3参照)における線圧(N/mm)(応力)の分布を実験等により求めた結果の例を説明する図である。また、線圧(応力)の分布とガスケットにおけるボルト孔の位置との相対的な関係を明確にするため、例としてシリンダC4に対するボルト孔(22E、22D、24E、24D)の位置を
図4に重ねて示した。
図4は、ボアビード部26(
図5参照)における線圧(N/mm)の分布を示すレーダーチャートであり、ボアビード部26(
図5参照)の周方向に沿った線圧(N/mm)の分布を示している。円の中心(チャート中心)は線圧0を示し、それぞれの円は線圧の大きさ(線圧Pr1~Pr4)を示し、中心側(チャート中心)から外側へ向かうに従って大きくなる(線圧0<線圧Pr1<線圧Pr2<線圧Pr3<線圧Pr4)。
【0029】
点線で示された線圧分布RTZはエンジン停止時(常温時)における線圧分布であり、実線で示された線圧分布HTZはエンジン動作時(高温時)における線圧分布である。なお、線圧分布(N/mm)は、ボアビード部26に加えられる圧力によりボアビード部26内に生じる応力の単位長さ当たりの大きさを示している。
【0030】
図4に示すように、線圧分布RTZにおいて、ボアビード部26内の線圧(応力)は、所定トルクにより生じる力による圧力によりボルト孔22E、22D、24E、24Dが設けられている近傍のボアビード部26内が他の場所よりも大きくなる分布を示している。線圧分布RTZにおいて、エンジン停止時(常温時)では熱膨張により生じる力がないため、ボアビード部26内の線圧(応力)の分布は、排気ポート側と吸気ポート側との間に大きな差を生じていない。一方、線圧分布HTZにおいて、エンジン動作時(高温時)では熱膨張により生じる力があるため、ボアビード部26内の線圧(応力)の分布は、排気ポート側が吸気ポート側よりも大きくなる。
【0031】
●[第1の実施形態のガスケット20A(20)の排気側締結距離と吸気側締結距離(
図5、
図6)]
図5は、ガスケット20A(20)における排気側締結距離d21、d23、d21A、d23Aと吸気側締結距離d11、d13との関係を説明する図である。
【0032】
ガスケット20A(20)は、シリンダC1~C4(C)のシリンダ孔であるシリンダ孔CH1~CH4と、Y軸方向の両側の縁部において、吸気ポート側にはボルト孔22A~22E(22)が、排気ポート側にはボルト孔24AA~24EA(24)が、X軸方向に沿ってそれぞれ設けられている。
【0033】
ボルト孔中心P11、P13のそれぞれはボルト孔22A、22Cのそれぞれのボルト孔の中心位置を示し、ボルト孔中心P21A、P23Aのそれぞれはボルト孔24AA、24CAのそれぞれのボルト孔の中心位置を示している。
【0034】
図5で示すシリンダの中心軸線CP1~CP4のそれぞれを通るY軸方向に沿った直線でガスケット20A(20)を5個の領域に区切り、その区切られた領域を用いて詳細に説明する。内側領域MA1~MA3は、ガスケット20A(20)の端部側を含まない領域であり、隣接する2個のシリンダにかかる領域である。端部側領域TA1、TA2は、ガスケット20A(20)の端部側を含む領域であり、1個のシリンダにのみかかる領域である。
【0035】
内側領域MA1~MA3は、シリンダ孔に対するボルト孔の配置がそれぞれ同一であるため、内側領域MA2を用いて詳細に説明する。内側領域MA2は、シリンダC2、C3のシリンダ孔CH2、CH3のそれぞれのシリンダの中心軸線CP2、CP3と、ボルト孔22C、24CAを含んでいる。なお、シリンダの中心軸線CP3については、内側領域MA2がボルト孔22C、24CAの中心を通る直線に対して対称であるため、説明を省略する。
【0036】
ボルト孔24Cは、従来のガスケットにおける排気ポート側のボルト孔を表し、対称軸線JK1に対して、吸気ポート側のボルト孔22Cと対称となる位置に設けられている。ボルト孔24CAは、第1の実施形態のガスケット20Aにおける排気ポート側のボルト孔を表し、ボルト孔24Cの位置からY軸方向と反対方向に沿って所定の距離移動させた位置に設けられている。なお、所定の距離は、移動させたボルト孔により生じる圧力が気密性を確保できる程度に近傍のボアビード部を変形させることができる範囲内である。
【0037】
ボルト孔24Cは、従来のガスケットにおける排気ポート側のボルト孔であり、対称軸線JK1に対して、吸気ポート側のボルト孔22Cと対称となる位置に設けられている。ボルト孔24CAは、第1の実施形態のガスケット20Aにおける排気ポート側のボルト孔であり、対称軸線JK1に対して、ボルト孔24Cの位置からY軸方向と反対方向に沿って所定の距離移動させた位置に設けられている。
【0038】
吸気側締結距離d13は、シリンダの中心軸線CP2から最も近いボルト孔22Cまでの距離である。具体的には、シリンダの中心軸線CP2からボルト孔22Cの中心であるボルト孔中心P13までの距離である。なお、吸気側ボルト42(
図1参照)がボルト孔22Cに挿通されるため、吸気側締結距離d13は、シリンダC2における、シリンダC2のシリンダの中心軸線CP2から最も近い吸気側ボルトまでの距離に相当する。
【0039】
排気側締結距離d23は、シリンダの中心軸線CP2から最も近いボルト孔24Cまでの距離であり、吸気側締結距離d13と同じである。具体的には、シリンダの中心軸線CP2からボルト孔24Cの中心であるボルト孔中心P23までの距離である。なお、排気側ボルト44(
図1参照)がボルト孔24CAに挿通されるため、排気側締結距離d23は、シリンダC2おける、シリンダC2のシリンダの中心軸線CP2から最も近い排気側ボルトまでの距離に相当する。
【0040】
排気側締結距離d23Aは、シリンダの中心軸線CP2から最も近いボルト孔24CAまでの距離である。具体的には、シリンダの中心軸線CP2からボルト孔24CAの中心であるボルト孔中心P23Aまでの距離である。なお、排気側ボルト44(
図1参照)がボルト孔24CAに挿通されるため、排気側締結距離d23Aは、シリンダC2おける、シリンダC2のシリンダの中心軸線CP2から最も近い排気側ボルトまでの距離に相当する。ボルト孔22Cとボルト孔24Cが対称軸線JK1に対して、対称の位置に設けられているため、排気側締結距離d23Aと吸気側締結距離d13は同じである。
【0041】
排気側締結距離d23Aは、シリンダの中心軸線CP2から離れる方向であるY軸方向と反対方向に沿って所定の距離移動した位置に設けられ、排気側締結距離d23よりも長くなるため、吸気側締結距離d13よりも長く設定される。つまり、排気ポート側のボルト孔24CAとボアビード部26の間の距離は、吸気ポート側のボルト孔22Cとボアビード部26の間の距離よりも長くなるように設定される。
【0042】
端部側領域TA1、TA2は、シリンダ孔に対するボルト孔の配置がそれぞれ同一であるため、端部側領域TA1を用いて詳細に説明する。端部側領域TA1は、シリンダ孔CH1のシリンダの中心軸線CP1と、ボルト孔22A、24AAを含んでいる。
【0043】
ボルト孔24Aは、従来のガスケットにおける排気ポート側のボルト孔を表し、対称軸線JK1に対して、吸気ポート側のボルト孔22Aと対称となる位置に設けられている。ボルト孔24AAは、第1の実施形態のガスケット20Aにおける排気ポート側のボルト孔を表し、ボルト孔24Aの位置からシリンダの中心軸線CP1(シリンダ孔CH1の中心)から径方向外側へ向かって所定の距離移動させた位置に設けられている。なお、所定の距離は、移動させたボルト孔により生じる圧力が気密性を確保できる程度に近傍のボアビード部を変形させることができる範囲内である。
【0044】
吸気側締結距離d11は、シリンダの中心軸線CP1から最も近いボルト孔22Aまでの距離である。具体的には、リンダの中心軸線CP1からボルト孔22Aの中心であるボルト孔中心P11までの距離である。なお、吸気側ボルト42(
図1参照)がボルト孔22Aに挿通されるため、吸気側締結距離d11は、シリンダC1における、シリンダC1のシリンダの中心軸線CP1から最も近い吸気側ボルトまでの距離に相当する。
【0045】
排気側締結距離d21は、シリンダの中心軸線CP1から最も近いボルト孔24Aまでの距離である。具体的には、リンダの中心軸線CP1からボルト孔24Aの中心であるボルト孔中心P21までの距離である。なお、排気側ボルト44(
図1参照)がボルト孔24Aに挿通されるため、排気側締結距離d21は、シリンダC1おける、シリンダC1のシリンダの中心軸線CP1から最も近い排気側ボルトまでの距離に相当する。
【0046】
排気側締結距離d21Aは、シリンダの中心軸線CP1から最も近いボルト孔24AAまでの距離である。具体的には、シリンダの中心軸線CP1からボルト孔24AAの中心であるボルト孔中心P21Aまでの距離である。なお、排気側ボルト44(
図1参照)がボルト孔24AAに挿通されるため、排気側締結距離d21Aは、シリンダC1おける、シリンダC1のシリンダの中心軸線CP1から最も近い排気側ボルトまでの距離に相当する。ボルト孔22Aとボルト孔24Aが対称軸線JK1に対して、対称の位置に設けられているため、排気側締結距離d21Aと吸気側締結距離d11は同じである。
【0047】
排気側締結距離d21Aは、シリンダの中心軸線CP1(シリンダ孔CH1の中心)から径方向外側へ向かって所定の距離移動した位置に設けられ、排気側締結距離d21よりも長く設けることで、吸気側締結距離d11よりも長く設定される。つまり、排気ポート側のボルト孔24AAとボアビード部26の間の距離は、吸気ポート側のボルト孔22Aとボアビード部26の間の距離よりも長くなるように設定される。
【0048】
[ガスケット20A(20)にかかる線圧(応力)の分布(
図6)]
図6は、エンジン停止時(常温時)におけるガスケット20A(20)のボアビード部26における線圧の分布を説明する図である。なお、ボルト孔24EA、24DAのそれぞれの位置が追加で重ねられている点を除き
図4と同じであるため、詳細な図の軸等の説明については省略する。
【0049】
点線で示された線圧分布RTZは従来のガスケット20Zにおけるボアビード部26(
図2参照)の線圧分布であり、実線で示された線圧分布RTAは第1の実施形態のガスケット20Aにおけるボアビード部26(
図5参照)の線圧分布である。
【0050】
図6に示す線圧分布RTZは、
図4で示した線圧分布RTZと同じである。線圧分布RTAは、エンジン停止時(常温時)のボアビード部26(
図5参照)内の線圧(応力)の分布であり、排気側締結距離を吸気側締結距離よりも長く設定することで、排気ポート側のボアビード部の線圧(応力)が吸気ポート側のボアビード部の線圧(応力)より小さい分布を示している。このように、エンジン停止時(常温時)における排気ポート側のボアビード部26の線圧(応力)を小さくすることで、エンジン動作時(高温時)の吸気ポート側の応力分布と排気ポート側の線圧分布(応力分布)との差をより低減することができる。
【0051】
●[第2の実施形態のガスケット20Bの排気側ボルト間距離と吸気側ボルト間距離(
図7)]
図7は、第2の実施形態のガスケット20Bにおける排気側ボルト間距離と吸気側ボルト間距離との関係を説明する斜視図である。第2の実施形態のガスケット20Bは、第1の実施形態のガスケット20A(20)が4気筒の内燃機関のガスケットであるのに対して1気筒(単数のシリンダ)の内燃機関のガスケットである点で相違する。なお、対称軸線JK2は、シリンダ孔CH5のシリンダの中心軸線CP5を通り、XY平面に沿う直線である。
【0052】
ボルト孔22Fとボルト孔24Fのそれぞれは、従来のガスケットにおけるボルト孔を表している。ボルト孔22Fとボルト孔24Fのそれぞれは、対称軸線JK2に対して、吸気ポート側と排気ポート側のそれぞれにおいて対称となる位置に設けられている。ボルト孔22Gとボルト孔24Gのそれぞれは、ボルト孔22Fとボルト孔24Fのそれぞれと同様に設けられている。
【0053】
ボルト孔24FAは、第2の実施形態のガスケット20Bにおける排気ポート側のボルト孔を表し、ボルト孔24Fの位置からX軸方向と反対方向に沿って所定の距離移動させた位置に設けられている。ボルト孔24GAは、第2の実施形態のガスケット20Bにおける排気ポート側のボルト孔を表し、ボルト孔24Gの位置からX軸方向に沿って所定の距離移動させた位置に設けられている。
【0054】
吸気側ボルト間距離w1は、隣り合う2個のボルト孔22F、22Gの間の距離である。具体的には、ボルト孔22F、22Gのそれぞれの中心であるボルト孔中心PB11とボルト孔中心PB12との間の距離である。なお、吸気側ボルトがボルト孔22F、22Gに挿通されるため、吸気側ボルト間距離w1は、隣り合う2個の吸気側ボルトの間の距離に相当する。
【0055】
排気側ボルト間距離w2は、隣り合う2個のボルト孔24FA、24GAの間の距離である。具体的には、ボルト孔24FA、24GAのそれぞれの中心であるボルト孔中心PB21Aとボルト孔中心PB22Aとの間の距離である。なお、排気側ボルトがボルト孔24FA、24GAに挿通されるため、排気側ボルト間距離w2は、隣り合う2個の吸気側ボルトの間の距離に相当する。
【0056】
排気側ボルト間距離w2は、ボルト孔24FAがボルト孔24Fの位置からX軸方向と反対方向に沿って所定の距離移動した位置に設けられボルト孔24GAがボルト孔24Gの位置からX軸方向に沿って所定の距離移動した位置に設けられることで、吸気側ボルト間距離w1よりも長く設定される。
【0057】
ボルト孔24FAは、ボルト孔24Fの位置からX軸方向と反対方向に沿って所定の距離移動させるため、シリンダの中心軸線CP5(シリンダ孔CH5の中心)から離れる方向に移動させた位置に設けられている。同様にボルト孔24GAは、ボルト孔24Gの位置からX軸方向に沿って所定の距離移動させるため、シリンダの中心軸線CP5(シリンダ孔CH5の中心)から離れる方向に移動させた位置に設けられている。つまり、排気ポート側のボルト孔24FA、24GAとボアビード部26の間の距離は、吸気ポート側のボルト孔22F、22Gとボアビード部26の間の距離よりも長くなるように設定される。従って、第1の実施形態のガスケット20A(
図5参照)と同様の効果を得ることができる。
●[本願の効果]
【0058】
以上に説明したように、第1の実施形態では、複数の排気側ボルト44と複数の吸気側ボルト42のそれぞれの締め付けトルクを同一にした場合、内燃機関停止時(常温時)での排気側ボルト44におけるガスケットの圧力(応力)を吸気側ボルト42におけるガスケット20A(20)の圧力(応力)よりも小さくすることができる。これにより、内燃機関運転時(高温時)での排気側ボルト44におけるガスケット20Aの圧力(応力)と吸気側ボルト42におけるガスケット20Aの圧力(応力)との差をより低減することができる。従って、燃焼室周辺の部品(例えば、ガスケット20A(20))の変形や偏摩耗を回避することができる。また、排気側ボルトの配置を変更するだけで別途機構等を設ける必要がないため、シンプルな構造で、燃焼室周辺の部品の変形や偏摩耗を回避し、かつ、誤組み付けを防止できる。
【0059】
また、第2の実施形態では、複数の排気側ボルト44と複数の吸気側ボルト42のそれぞれの締め付けトルクを同一にした場合、内燃機関停止時(常温時)での排気側ボルト44におけるガスケット20B(20)への圧力(応力)を吸気側ボルト42におけるガスケット20Bへの圧力(応力)よりも小さくすることができる。これにより、内燃機関運転時(高温時)での排気側ボルト44におけるガスケット20Bへの圧力(応力)と吸気側ボルト42におけるガスケット20Bへの圧力(応力)との差をより低減することができる。これにより、燃焼室周辺の部品(例えば、ガスケット20B(20))の変形や偏摩耗を回避することができる。また、排気側ボルトの配置を変更するだけで別途機構等を設ける必要がないため、シンプルな構造で、燃焼室周辺の部品の変形や偏摩耗を回避し、かつ、誤組み付けを防止できる。
【0060】
本発明の内燃機関構造は、本実施の形態で説明した構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。特に、内燃機関の気筒数については本実施の形態で説明した1気筒(シリンダ)、4気筒(シリンダ)に限定されず、本発明の内燃機関構造は、単数のあるいは複数の気筒(シリンダ)を有する内燃機関に適用できる。
【0061】
図5において内側領域MA1~MA3のそれぞれと端部側領域TA1、TA2のそれぞれにおいて、シリンダ孔に対するボルト孔の配置がそれぞれ同一である例で説明したが、それぞれにおいてシリンダ孔に対するボルト孔の配置が異なるものでも良い。
【符号の説明】
【0062】
1 内燃機関
10 シリンダブロック
12、12A~12E ボルト締結孔
14、14A~14E ボルト締結孔
15 燃焼室
20、20A、20B、20Z ガスケット(ヘッドガスケット)
22、22A~22E ボルト孔
24、24A~24E ボルト孔
26 ボアビード部
30 シリンダヘッド
42 吸気側ボルト(ヘッドボルト)
44 排気側ボルト(ヘッドボルト)
C、C1~C4 シリンダ
CH、CH1~CH4 シリンダ孔
CP、CP1~CP4 シリンダの中心軸線
d11、d13 吸気側締結距離
d21、d23 排気側締結距離
d21A、d23A 排気側締結距離
JK1、JK2 対称軸線
w1 吸気側ボルト間距離
w2 排気側ボルト間距離
P11、P13 ボルト孔中心
P21、P23 ボルト孔中心
P21A、P23A ボルト孔中心
PB11、PB12 ボルト孔中心
MA1~MA3 内側領域
TA1、TA2 端部側領域