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特許7218687層状岩塩構造を示し、リチウム、ニッケル、タングステン及び酸素を含有する正極活物質の製造方法
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  • 特許-層状岩塩構造を示し、リチウム、ニッケル、タングステン及び酸素を含有する正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】層状岩塩構造を示し、リチウム、ニッケル、タングステン及び酸素を含有する正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230131BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230131BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230131BHJP
   C01B 25/455 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
C01G53/00 A
C01B25/455
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019133534
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2020149963
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019043453
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 剛志
(72)【発明者】
【氏名】齊田 潤
(72)【発明者】
【氏名】曽根 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】松代 大
(72)【発明者】
【氏名】岡山 泰彰
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亘久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康弘
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-115658(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0047053(KR,A)
【文献】特開2016-119190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/1391
C01G 53/00
C01B 25/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)層状岩塩構造を示すリチウムニッケルタングステン含有酸化物を準備する工程、
b)水及び水溶性有機溶媒を含有する洗浄溶剤を準備する工程、
c)前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物及び前記洗浄溶剤を混合して、前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物を洗浄する工程、
d)前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物を乾燥する工程、を有し、
下記(II)、(IV)、(V)、(VII)、(IX)からなる群より1つ以上選択される構成要件(但し(V)及び(VII)は同時に選択されない)を有することを特徴とする正極活物質の製造方法。
(II):b)工程の前記洗浄溶剤が、pH1.5~5.5又はpH8.5~11の範囲内の緩衝液及び水溶性有機溶媒を混合した洗浄溶剤である、
(IV):c)工程において、前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物及び前記洗浄溶剤を混合した混合物全体に対する前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物の割合が60質量%以下である、
(V):a)工程で準備したリチウムニッケルタングステン含有酸化物が、以下の1)~3)の工程で製造されたものである。
1)ニッケルタングステン含有遷移金属水酸化物を準備する工程
2)前記遷移金属水酸化物を加熱して、付着水を除去する又は遷移金属酸化物とする工程
3)付着水が除去された前記遷移金属水酸化物又は前記遷移金属酸化物とリチウム塩を混合し、焼成する工程、
(VII):a)工程で準備したリチウムニッケルタングステン含有酸化物が、以下の工程で製造されたものである、
1)ニッケルタングステン含有遷移金属水酸化物を準備する工程
2)前記遷移金属水酸化物を加熱して、付着水を除去する又は遷移金属酸化物とし、次いで、付着水が除去された前記遷移金属水酸化物又は前記遷移金属酸化物を金属化合物でコートして、コート体とする工程、
3)前記コート体とリチウム塩を混合し、焼成する工程、
(IX):a)工程における前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物、又は、前記正極活物質が下記一般式(1)で表される、
一般式(1) Li Ni
一般式(1)において、a、b、c、d、e、f、gは、0.5≦a≦2、0.8≦b<1、0<c<0.2、0≦d<0.2、0≦e<0.2、b+c+d+e=1、1.8≦f≦2.2、0≦g≦0.2を満足する。
Mは、Co、Mn、Al、Mo、Zrから選択される金属である。
DはLi、Ni、W、M、O、F以外の元素である。
【請求項2】
前記(VII)の構成要件を有さず、
d)工程において、乾燥時の温度を150~500℃の範囲内とするか、又は、乾燥後に、前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物を150~500℃の温度で加熱する、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記(VII)の構成要件を有し、
前記コート体とする工程での前記金属化合物が、ZrO、CaVO、MnO、LaCuO、LaNiO、SnO、TlMn、EuO、Fe、CaMnO、SrMnO、(Sr,La)TiO、LaTiO、SrFeO、BaMoO、CaMoO、LnOs(LnはY及び希土類元素から選択される元素である。)、TlIr、CdRe、LuIr、BiRh、BiIr、Ti、WO、VO、V、LaMnO、CaCrO、LaCoO、(ZnO)、SrCrO、In0.970.03、ZnAlO(x+y=1)、LiV、Na1-xCoO(0<x<1)、LiTi、SrMoO、BaPbO、TlOs、PbOs、PbIr、LuRu、BiRu、SrRuO、CaRuO、CrO、MoO、ReO、TiO、LaO、SmO、LaNiO、SrVO、ReO、IrO、RuO、RhO、OsO、NdO、NbO、La、NiO、LaSrCo(x+y=1)、NaCoO、NaNiO、LiCoO、LiNiOから選択される金属酸化物又はこれらの前駆体の金属水酸化物である請求項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄溶剤における水の質量(Ww)と水溶性有機溶媒の質量(Wo)の関係がWo/(Ww+Wo)<0.6を満足する、又は、前記洗浄溶剤における緩衝液の質量(Wb)と水溶性有機溶媒の質量(Wo)の関係がWo/(Wb+Wo)<0.6を満足する、請求項1~3のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法で正極活物質を製造する工程、
前記正極活物質を用いて正極を製造する工程、を有する、正極の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の製造方法で、正極を製造する工程、
前記正極を用いてリチウムイオン二次電池を製造する工程、を有する、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状岩塩構造を示し、リチウム、ニッケル、タングステン及び酸素を含有する正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極活物質には種々の材料が用いられることが知られている。そのうち、LiNiOで表されるリチウムニッケル酸化物は、特許文献1に記載されているとおり、リチウムイオン二次電池の開発当初、正極活物質として汎用されていた。
【0003】
また、LiNiOのニッケルの一部を他の金属で置換したリチウムニッケル金属酸化物が開発され、当該リチウムニッケル金属酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池についての研究が精力的に為されてきた。特に近年、LiNiOのニッケルの一部をコバルト及びアルミニウムで置換した層状岩塩構造のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物を、正極活物質として採用したリチウムイオン二次電池が、多数報告されている。
【0004】
特許文献2には、正極活物質としてLiNi0.81Co0.15Al0.04を採用したリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【0005】
特許文献3には、正極活物質としてLiNi0.8Co0.16Al0.04やLiNi0.8Co0.15Al0.041.90.1を採用したリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【0006】
特許文献4には、正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Al0.05を採用したリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【0007】
特許文献5には、正極活物質としてLi1.013Ni0.831Co0.119Al0.050、Li1.013Ni0.858Co0.123Al0.020又はLi1.013Ni0.867Co0.098Al0.035を採用したリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【0008】
ニッケルを含有する層状岩塩構造のリチウムニッケル金属酸化物の製造方法としては、ニッケル含有水酸化物又はニッケル含有酸化物とリチウム塩とを混合した混合物を、酸素雰囲気下で焼成して合成するのが一般的である。
ここで、焼成後のリチウムニッケル金属酸化物の表面を、水で洗浄して、焼成後のリチウムニッケル金属酸化物の表面に付着し得る水溶性不純物を除去する技術も知られている。
【0009】
例えば、特許文献6には、900℃で焼成して合成したリチウムニッケル金属酸化物を、水で洗浄した後に、700℃で熱処理して、Li1.0Ni0.89Co0.05Mn0.02Mg0.02Ba0.01Al0.01で表されるリチウムニッケル金属酸化物を製造したことが具体的に記載されている(実施例1を参照。)。
【0010】
特許文献7には、ニッケル含有酸化物と水酸化リチウムを混合及び焼成して合成したLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.03で表されるリチウムニッケル金属酸化物の粉末1.5gに対して、1mLの水を加えて撹拌するとの水洗処理を行った後に、脱水及び乾燥して正極活物質としたことが具体的に記載されている(実施例1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭63-121260号公報
【文献】特開2006-128119号公報
【文献】特開2006-278341号公報
【文献】特開2014-139926号公報
【文献】特開2017-195020号公報
【文献】国際公開第2014/103755号
【文献】特開2019-12654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
リチウムイオン二次電池の正極活物質に対する要求は増加しており、優れた正極活物質の新たな製造方法が熱望されている。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、層状岩塩構造を示す正極活物質の新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者が鋭意検討した結果、LiNiOのニッケルの一部をタングステンで置換した層状岩塩構造を示すリチウムニッケルタングステン含有酸化物を合成し、評価したところ、正極活物質として好適に機能することを知見した。ここで、合成後のリチウムニッケルタングステン含有酸化物の表面を水で洗浄したところ、未洗浄のリチウムニッケルタングステン含有酸化物と比較して、正極活物質としての機能が向上することを知見した。さらに、本発明者は、焼成後のリチウムニッケルタングステン含有酸化物の洗浄方法について鋭意検討した結果、単に水を用いる洗浄方法よりも、優れた洗浄方法を見出した。
本発明はかかる知見に基づき完成されたものである。
【0015】
本発明の正極活物質の製造方法は、
a)層状岩塩構造を示すリチウムニッケルタングステン含有酸化物を準備する工程、
b)水及び水溶性有機溶媒を含有する洗浄溶剤を準備する工程、
c)前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物及び前記洗浄溶剤を混合して、前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物を洗浄する工程、
d)前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物を乾燥する工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の正極活物質の製造方法は、層状岩塩構造を示すリチウムニッケルタングステン含有酸化物を含有する正極活物質の新たな製造方法であり、本発明により、好適な正極活物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】評価例4の結果を示すグラフである。
図2】評価例5の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0019】
本発明の正極活物質の製造方法は、
a)層状岩塩構造を示すリチウムニッケルタングステン含有酸化物を準備する工程、
b)水及び水溶性有機溶媒を含有する洗浄溶剤を準備する工程、
c)前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物及び前記洗浄溶剤を混合して、前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物を洗浄する工程、
d)前記リチウムニッケルタングステン含有酸化物を乾燥する工程、を有することを特徴とする。
以下、本発明の正極活物質の製造方法で製造される正極活物質を、本発明の正極活物質ということがある。
【0020】
層状岩塩構造を示すリチウムニッケルタングステン含有酸化物(以下、LNW酸化物ということがある。)としては、容量に優れている点から、ニッケル比率の高い下記一般式(1)で表されるものを例示できる。
一般式(1) LiNi
一般式(1)において、a、b、c、d、e、f、gは、0.5≦a≦2、0.8≦b<1、0<c<0.2、0≦d<0.2、0≦e<0.2、b+c+d+e=1、1.8≦f≦2.2、0≦g≦0.2を満足する。
Mは、Co、Mn、Al、Mo、Zrから選択される金属である。
DはLi、Ni、W、M、O、F以外の元素である。
【0021】
ここで、層状岩塩構造を示すリチウムニッケルタングステン含有酸化物が正極活物質として好適な理由を説明する。
【0022】
リチウムの価数は+1であり、酸素の価数は-2であることから、従来のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物においては、金属と酸素の電気的中性を担保するために、リチウムを除いたニッケルコバルトアルミニウム全体の価数は+3となる。ここで、コバルト及びアルミニウムは価数が+3で安定であるため、ニッケルの価数も+3となると考えられる。そして、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物において、充電時の酸化反応に優先的に寄与する元素はニッケルである。
そうすると、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物における充電時の酸化反応としては、Ni3+→Ni4++eとの一電子酸化が生じることになる。
【0023】
LNW酸化物には、タングステンが存在する。タングステンは価数が+6で安定である。高い酸化数のタングステンが存在するため、LNW酸化物は、価数が+3のニッケルに加えて、価数が+2のニッケルの存在を許容するといえる。そうすると、充電時の酸化反応は、Ni2+→Ni4++2eとの二電子酸化も生じることになる。よって、LNW酸化物は、充放電容量が大きいといえる。
【0024】
LNW酸化物において、充放電時の酸化還元反応に優先的に寄与する元素はニッケルであると考えられるため、一般式(1)におけるbの値は、LNW酸化物の容量に大きく影響する値である。
bは、0.85≦b≦0.99を満足するのが好ましく、0.9≦b≦0.98を満足するのがより好ましく、0.93≦b≦0.97を満足するのがさらに好ましい。
【0025】
一般式(1)において、cは、0.001≦c≦0.15を満足するのが好ましく、0.002≦c≦0.1を満足するのがより好ましく、0.003≦c≦0.05を満足するのがさらに好ましく、0.004≦c≦0.03を満足するのがさらにより好ましく、0.005≦c≦0.01を満足するのが特に好ましい。
【0026】
Co、Mn、Al、Mo、Zrから選択される金属Mは、充放電の際に層状岩塩構造を維持する柱の役割を果たすと考えられる。金属Mとしては、1種類でもよいが、複数種類を併用してもよい。
一般式(1)において、dは、0<d≦0.15を満足するのが好ましく、0.005≦d≦0.1を満足するのがより好ましく、0.01≦d≦0.08を満足するのがさらに好ましく、0.02≦d≦0.06を満足するのがさらにより好ましく、0.03≦d≦0.05を満足するのが特に好ましい。
【0027】
a、e、f、gについては一般式(1)で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a≦1.5、0≦e≦0.1、1.8≦f≦2.1、0<g≦0.15、より好ましくは0.8≦a≦1.3、0<e≦0.01、1.9≦f≦2.1、0<g≦0.1を例示することができる。
【0028】
一般式(1)におけるDはドープ元素であり、LNW酸化物の特性を向上可能な元素である。一般式(1)におけるFも、LNW酸化物の特性を向上可能な元素である。
【0029】
Dとしては、Na、Ca、V、Cu、Sn、Tl、Fe、Sr、Ti、Ba、Y、希土類元素、Os、Ir、Cd、Re、Bi、Rh、Cr、Zn、In、Pb、Ru、Nb、P、Sを例示できる。
【0030】
a)工程で規定するLNW酸化物を準備するには、以下の製造方法でLNW酸化物を合成すればよい。なお、特段の言及がない限り、本明細書で規定するpHは25℃で測定した場合の値をいう。
【0031】
1)ニッケルタングステン含有遷移金属水酸化物を準備する工程
2)前記遷移金属水酸化物を加熱して、付着水を除去する又は遷移金属酸化物とする工程
3)付着水が除去された遷移金属水酸化物又は前記遷移金属酸化物とリチウム塩を混合し、焼成する工程
【0032】
1)工程のニッケルタングステン含有遷移金属水酸化物は、ニッケル及びタングステン並びに必要に応じてM及び/又はDで規定される元素を含む水溶液と塩基性水溶液を混合して、遷移金属水酸化物を析出させることで、製造できる。かかる遷移金属水酸化物の製造工程について詳細に説明する。
【0033】
遷移金属水酸化物の製造工程は、
ニッケル塩及びタングステン化合物並びに必要に応じてM及び/又はDで規定される元素を含む化合物を水に溶解し、ニッケル及びタングステン並びに必要に応じてM及び/又はDを所定の比で含む遷移金属含有水溶液を調製する工程、
塩基性水溶液を調製する工程、
前記塩基性水溶液と前記遷移金属含有水溶液を混合し、ニッケル及びタングステン並びに必要に応じてM及び/又はDを遷移金属水酸化物として析出させる遷移金属水酸化物析出工程、を含む。
【0034】
ニッケル塩としては、例えば、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化ニッケルを挙げることができる。タングステン化合物としては、例えば、LiWO、NaWO、KWO、(NHWOなどのタングステン酸塩を挙げることができる。
【0035】
遷移金属含有水溶液におけるニッケル塩及びタングステン化合物並びに必要に応じてM及び/又はDで規定される元素を含む化合物の配合比は、これらの配合比が、所望のLNW酸化物の金属組成比となるように調製すればよい。
【0036】
遷移金属含有水溶液を調製する工程は、撹拌装置を備えた反応槽で行われるのが好ましく、さらに窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入できる装置を備えた反応槽で行われるのが好ましい。また、恒温条件となる装置を備えた反応槽がより好ましい。
【0037】
遷移金属含有水溶液は、好ましくは40~90℃、より好ましくは40~80℃の範囲内に加温しておくのがよい。また、後述するコート工程で説明するキレート化合物を遷移金属含有水溶液に添加してもよい。
【0038】
塩基性水溶液のpHは9~14の範囲が好ましく、10~13の範囲がより好ましく、10.5~12の範囲がさらに好ましい。使用し得る塩基性化合物としては水に溶解して塩基性を示すものであれば良く、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどのアルカリ金属炭酸塩、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三リチウムなどのアルカリ金属リン酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウムなどのアルカリ金属酢酸塩を挙げることができる。塩基性化合物は単独で用いても良いし、複数を併用しても良い。遷移金属水酸化物析出工程において、水溶液のpHは、それぞれ好適な範囲に保たれることが好ましいため、塩基性水溶液には、少なくとも緩衝能を有する塩基性化合物が含まれるのが好ましい。緩衝能を有する塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属酢酸塩を挙げることができる。
【0039】
塩基性水溶液を調製する工程は、撹拌装置を備えた反応槽で行われるのが好ましく、さらに窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入できる装置を備えた反応槽で行われるのが好ましい。また、恒温条件となる装置を備えた反応槽がより好ましい。
【0040】
塩基性水溶液は、好ましくは40~90℃、より好ましくは40~80℃の範囲内に加温しておくのがよい。
【0041】
遷移金属水酸化物析出工程においては、前記塩基性水溶液と前記遷移金属含有水溶液を混合することにより、金属イオンと水酸化物イオンが反応して、水に対して溶解度の低いニッケル及びタングステンを含む遷移金属水酸化物が生成し、これが析出する。なお、タングステン酸塩を使用した場合には、タングステンはタングステン酸であるOW(OH)又はその塩として、水酸化ニッケルと共に析出すると考えられる。本明細書では、かかる析出物を総称して、遷移金属水酸化物という。析出した遷移金属水酸化物の粒子がLNW酸化物の一次粒子の基礎となる。そのため、遷移金属水酸化物析出工程を遷移金属水酸化物の析出速度が著しく速い条件下、すなわち遷移金属水酸化物の核がいたるところで発生する条件下とすると、無秩序な遷移金属水酸化物の粒子が形成されることになり、その結果、LNW酸化物の一次粒子の好ましくない晶癖を生じるおそれがある。従って、遷移金属水酸化物析出工程においては、できるだけ緩和な条件下で、遷移金属水酸化物の粒子を析出させることが好ましい。
【0042】
遷移金属水酸化物析出工程においては、反応溶液を一定のpHに保つことが好ましい。なお、ここでのpH値は、反応溶液をpHメーターで測定した数値そのものを意味する。当該pHとしては、9~14の範囲が好ましく、10~12の範囲がより好ましく、10.5~11の範囲が特に好ましい。
【0043】
遷移金属水酸化物析出工程は、撹拌装置を備えた反応槽で行われるのが好ましく、さらに窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入できる装置を備えた反応槽で行われるのが好ましい。また、恒温条件となる装置を備えた反応槽がより好ましい。
【0044】
遷移金属水酸化物析出工程においては、反応系内に存在する溶存酸素の量が少ない方が好ましい。反応系内に存在する溶存酸素の量が多いと、不都合な酸化反応が生じるおそれや、遷移金属水酸化物の析出に伴う遷移金属水酸化物の好適な結晶化が阻害されるおそれがある。
【0045】
反応系内に存在する溶存酸素の量を低下させるために、遷移金属水酸化物析出工程を、加温下で行うこと、不活性ガスを反応系内に導入しながら行うこと、脱酸素剤、還元剤、酸化防止剤などの存在下で行うことが好ましい。
【0046】
加温下としては、40~90℃、60~80℃の範囲を例示できる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムを例示できる。
脱酸素剤、還元剤、酸化防止剤としては、アスコルビン酸及びその塩、グリオキシル酸及びその塩、ヒドラジン、ジメチルヒドラジン、ヒドロキノン、ジメチルアミンボラン、NaBH、NaBHCN、KBH、亜硫酸及びその塩、チオ硫酸及びその塩、ピロ亜硫酸及びその塩、亜リン酸及びその塩、次亜リン酸及びその塩を例示できる。
【0047】
遷移金属水酸化物析出工程後に、遷移金属水酸化物を濾過などで分離する。以上の方法で、遷移金属水酸化物を得ることができる。
【0048】
次に、2)工程について説明する。2)工程は、遷移金属水酸化物を加熱して、付着水を除去する又は遷移金属酸化物とする工程である。
加熱温度としては、100~800℃の範囲内が好ましく、200~700℃の範囲内がより好ましく、300~600℃の範囲内が特に好ましい。2)工程は常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。
【0049】
2)工程に続いて、3)工程の焼成が実施されることで、LNW酸化物が合成される。
3)工程は、付着水が除去された遷移金属水酸化物又は前記遷移金属酸化物とリチウム塩を混合し、焼成する工程である。
【0050】
リチウム塩としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、ハロゲン化リチウムを例示することができる。リチウム塩の配合量は、所望のリチウム組成のLNW酸化物となるように適宜決定すればよい。
【0051】
混合装置としては、乳鉢及び乳棒、撹拌混合機、V型混合機、W型混合機、リボン型混合機、ドラムミキサー、ボールミルを例示できる。
【0052】
3)工程においては、一般式(1)におけるドープ元素Dを含有する化合物が混合されてもよい。特に、Na化合物、F化合物及びP化合物から選択される化合物が混合されるのが好ましい。
【0053】
Na化合物としては、NaF、NaCl、NaBr、NaI、NaPO、NaHPO、NaHPO、NaSO、NaHSO、NaNO、CHCONaなどのナトリウム塩を例示できる。
F化合物としては、LiF、NaF、KF、MgF、CaF、BaF、AlFなどの金属フッ化物を例示できる。
P化合物としては、HPO、LiHPO、LiHPO、LiPO、NaHPO、NaHPO、NaPO、KHPO、KHPO、KPOなどのリン酸及びリン酸塩を例示できる。
【0054】
焼成は、大気雰囲気下や酸素ガス雰囲気下で行ってもよいし、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス存在下で行ってもよい。焼成工程の加熱温度は400~1100℃、500~1000℃、600~800℃の範囲を例示できる。焼成工程の加熱時間は1~50時間を例示できる。
【0055】
3)工程における焼成は、単一の温度条件で実施してもよいし、温度条件が異なる複数の焼成工程を組み合わせて実施してもよく、また、特定の昇温プログラムを設定して実施してもよい。
【0056】
温度条件が異なる複数の焼成工程を組み合わせる方法としては、400~800℃で加熱して第1焼成体とする第1焼成工程、及び、前記第1焼成体を550~1000℃で加熱する第2焼成工程を挙げることができる。複数の焼成工程を組み合わせることで、層状岩塩構造を示す好適なLNW酸化物を製造することができる。
【0057】
第1焼成工程の温度としては、400~800℃、650~750℃の範囲を例示できる。第1焼成工程の加熱時間としては、3~30時間、5~20時間、5~15時間の範囲を例示できる。
【0058】
第2焼成工程は、前記第1焼成体を550~1000℃で加熱する工程である。
ここで、LNW酸化物の結晶生成の点から言及すると、なるべく低温で加熱した方が、均一な組成であって均一な形状の結晶が生成しやすい。そのため、第2焼成工程の温度としては、550~950℃、550~900℃、550~850℃、550~800℃の範囲を例示できる。
【0059】
第2焼成工程の加熱時間としては、3~30時間、5~20時間、5~15時間の範囲を例示できる。
【0060】
また、2)工程と3)工程の間に、2)工程で製造された、付着水が除去された遷移金属水酸化物又は遷移金属酸化物を、金属化合物でコートして、コート体とする工程(本明細書にて、コート工程ということがある。)を採用してもよい。
コート工程の存在に因り、本発明の正極活物質の寿命が改善される場合がある。また、3)工程の焼成において、コートした金属化合物が障壁となり、ニッケルが層状岩塩構造のリチウムサイトに移動することを抑制する場合があると考えられる。
【0061】
以下、「遷移金属酸化物」を金属化合物でコートする場合について説明を行う。「付着水が除去された遷移金属水酸化物」を金属化合物でコートする場合については、以下の説明において、「遷移金属酸化物」を「付着水が除去された遷移金属水酸化物」に、適宜適切に、読み替えればよい。
【0062】
金属化合物の具体例としては、例えば、ZrO、CaVO、MnO、LaCuO、LaNiO、SnO、TlMn、EuO、Fe、CaMnO、SrMnO、(Sr,La)TiO、LaTiO、SrFeO、BaMoO、CaMoO、LnOs(LnはY及び希土類元素から選択される元素である。)、TlIr、CdRe、LuIr、BiRh、BiIr、Ti、WO、VO、V、LaMnO、CaCrO、LaCoO、(ZnO)、SrCrO、In0.970.03、ZnAlO(x+y=1)、LiV、Na1-xCoO(0<x<1)、LiTi、SrMoO、BaPbO、TlOs、PbOs、PbIr、LuRu、BiRu、SrRuO、CaRuO、CrO、MoO、ReO、TiO、LaO、SmO、LaNiO、SrVO、ReO、IrO、RuO、RhO、OsO、NdO、NbO、La、NiO、LaSrCo(x+y=1)、NaCoO、NaNiO、LiCoO、LiNiOから選択される金属酸化物又はこれらの前駆体の金属水酸化物を例示できる。
金属化合物のうち、金属酸化物は、ペロブスカイト型などの結晶構造を示すものが好ましい。
【0063】
遷移金属酸化物を金属化合物でコートするには、各金属化合物の前駆体や各金属が溶解した水溶液を遷移金属酸化物に対して噴霧し、次いで/又は同時に、乾燥する方法を採用すればよい。また、各金属化合物の前駆体や各金属が溶解した水溶液に、遷移金属酸化物を浸漬させて、遷移金属酸化物の表面に各金属化合物の前駆体や各金属の水酸化物などを付着させた上で、加熱乾燥する方法を採用してもよい。特に、遷移金属酸化物の分散液と、各金属化合物の前駆体や各金属が溶解した水溶液を混合して、遷移金属酸化物の表面に各金属の水酸化物を析出させた上で、乾燥する方法(以下、析出法ということがある。)を採用するのが好ましい。
【0064】
以下、ジルコニウム化合物でコートする場合の好適な析出法について、詳細に説明する。当該析出法は、以下のcoat-1)工程、coat-2)工程及びcoat-3)工程を有する。金属化合物がジルコニウム化合物以外の場合には、coat-1)工程、coat-2)工程及びcoat-3)工程におけるジルコニウムを当該金属に読み替えればよい。また、金属化合物が複数の場合には、coat-2)工程にて複数の金属を含有する水溶液を用いてもよいし、金属水溶液の金属種を変更しつつ、coat-1)工程、coat-2)工程及びcoat-3)工程を繰り返して実施してもよい。
【0065】
coat-1)遷移金属酸化物を水に分散させる分散液調製工程、
coat-2)キレート化合物を含有するジルコニウム水溶液と、前記分散液を混合し、遷移金属酸化物の表面に水酸化ジルコニウムを析出させるジルコニウム析出工程、
coat-3)表面に水酸化ジルコニウムを析出させた遷移金属酸化物を乾燥してコート体とする工程
【0066】
coat-1)工程の前に、遷移金属酸化物を粉砕しておくのが好ましい。また、分散液のpHが9~12程度の範囲内となるようにpH調整を行うことが好ましい。
【0067】
次に、coat-2)工程について説明する。
キレート化合物を含有するジルコニウム水溶液は、ジルコニウム化合物とキレート化合物を水に溶解して製造される。キレート化合物を含有するジルコニウム水溶液は、通常、酸性の溶液である。ジルコニウム水溶液におけるジルコニウムに対するキレート化合物のモル比としては、1以上が好ましく、1~10の範囲内が好ましく、1.5~8の範囲内がより好ましく、2~6の範囲内がさらに好ましい。
【0068】
ジルコニウム化合物としては、例えば、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、ハロゲン化ジルコニウムを挙げることができる。
【0069】
キレート化合物とは、金属イオンに配位可能なアミノ基、アミド基、イミド基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、カルボニル基、リン酸基、リン酸エステル基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン酸基、ホスフィン酸エステル基、ホスフェン酸基、ホスフェン酸エステル基、亜ホスフェン酸基、亜ホスフェン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、スルフィニル基、スルホニル基、スルホン酸基、チオカルボキシル基、チオエステル基若しくはチオカルボニル基を複数有し、かつ、複数の当該基で金属イオンに配位可能な構造の化合物である。
【0070】
キレート化合物の具体例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのポリアミン化合物、グリシン、アラニン、システイン、グルタミン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、エチレンジアミン四酢酸などのアミノ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、フタル酸などのジカルボン酸、及び、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。
【0071】
キレート化合物としては、ヒドロキシカルボン酸が特に好ましい。分子内に水酸基とカルボン酸基を有するヒドロキシカルボン酸としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。
【0072】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、キナ酸、シキミ酸を例示できる。
【0073】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、サリチル酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸などのo-ヒドロキシ安息香酸誘導体、マンデル酸、ベンジル酸、2-ヒドロキシ-2-フェニルプロピオン酸を例示できる。
【0074】
上記具体的なヒドロキシカルボン酸は、いずれも、同一のジルコニウムイオンにOH基とCOH基が配位可能なコンホメーションを形成できる。
【0075】
coat-2)工程においては、効率的にジルコニウムを析出させるために、coat-2)工程の混合液のpHをコントロールするのが好ましい。ここでは、混合液のpHをアルカリ側にすることで、溶解度の低い水酸化ジルコニウムが、遷移金属酸化物の表面に析出することを想定している。例えば、coat-2)工程の溶液のpHが9~13、11~13、12~13の範囲内となるように、塩基性水溶液を添加するのが好ましい。塩基性水溶液としては、1)工程で説明したものを採用すればよい。
【0076】
coat-2)工程を経た遷移金属酸化物は、濾過などの方法で分離されて、coat-3)工程に供される。
【0077】
coat-3)工程での乾燥は、加熱下及び/又は減圧下で行われるのが好ましい。加熱温度としては、100~500℃、200~400℃の範囲内を例示できる。
coat-3)工程での乾燥は、表面に水酸化ジルコニウムを析出させた遷移金属酸化物に付着した水分を除去することが主な目的である。ただし、加熱温度を高くすることで、遷移金属酸化物の表面に存在する水酸化ジルコニウムを脱水させて、酸化ジルコニウムに変化させてもよい。すなわち、コート体は、水酸化ジルコニウムでコートされた遷移金属酸化物でもよいし、酸化ジルコニウムでコートされた遷移金属酸化物でもよい。
【0078】
コート工程を経た場合は、3)工程は、コート体とリチウム塩を混合し、焼成する工程となる。
【0079】
3)工程で得られたLNW酸化物は、粉砕工程、分級工程を経て、一定の粒度分布のものとするのが好ましい。粒度分布の範囲としては、一般的なレーザー散乱回折式粒度分布計での測定において、平均粒子径(D50)は50μm以下が好ましく、1μm以上30μm以下がより好ましく、1μm以上20μm以下がさらに好ましく、2μm以上10μm以下が特に好ましい。
【0080】
次に、b)工程について説明する。b)工程は、水及び水溶性有機溶媒を含有する洗浄溶剤を準備する工程である。b)工程で準備した洗浄溶剤を用いて、c)工程でLNW酸化物が洗浄される。洗浄溶剤に水溶性有機溶媒を配合しているのは、水に因る洗浄作用を適切に制御することが目的である。
単に水のみを洗浄溶剤として用いた場合には、その洗浄能力が高いために、LNW酸化物の表面の不純物だけではなく、リチウムなどのLNW酸化物の構成金属を溶解して除去する場合があると考えられるし、また、LNW酸化物の表面の結晶状態を著しく乱す場合があると考えられる。
【0081】
水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,4-ジオキサン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、及び、ピリジンを例示できる。
【0082】
水及び水溶性有機溶媒を含有する洗浄溶剤における水の質量(Ww)と水溶性有機溶媒の質量(Wo)の関係は、Wo/(Ww+Wo)<0.6を満足するのが好ましく、0.2≦Wo/(Ww+Wo)≦0.59を満足するのがより好ましく、0.4≦Wo/(Ww+Wo)≦0.57を満足するのがさらに好ましく、0.5≦Wo/(Ww+Wo)≦0.55を満足するのが特に好ましい。
水溶性有機溶媒の割合が過小であれば、水が多く含まれる洗浄溶剤の洗浄作用が強すぎる場合がある。水溶性有機溶媒の割合が過大の場合には、洗浄溶剤の可燃性が高まるため、好ましいとはいえない。
【0083】
また、洗浄溶剤としては、pH1.5~5.5又はpH8.5~11の範囲内の緩衝液及び水溶性有機溶媒を混合した洗浄溶剤を採用するのが好ましい。pH1.5~5.5の範囲内の緩衝液又はpH8.5~11の範囲内の緩衝液を使用することで、本発明の正極活物質の性能が向上する場合がある。
LNW酸化物を水に分散させた場合には、LNW酸化物からリチウムが溶出するため、塩基性を示す。pH8.5~11の範囲内の塩基性の緩衝液を使用することで、LNW酸化物における層状岩塩構造からのリチウムの溶出を抑制できると考えられる。また、タングステン化合物はアルカリ性の水溶液に溶解しやすいことが知られているため、pH1.5~5.5の範囲内の緩衝液を使用することで、LNW酸化物における層状岩塩構造からのタングステンの溶出を抑制できると考えられる。
【0084】
緩衝液としては、酢酸系緩衝液、リン酸系緩衝液、クエン酸系緩衝液、クエン酸リン酸系緩衝液、ホウ酸系緩衝液、酒石酸系緩衝液、リン酸系緩衝液、炭酸系緩衝液、フタル酸系緩衝液、シュウ酸系緩衝液などの公知の水性緩衝液のうち、適切なpHのものを選択して採用すればよい。
好適な酸性のpHの範囲として、2~5、3~5、3.5~5、3.7~4.5を例示できる。好適な塩基性のpHの範囲として、8.7~10.5、9~10を例示できる。
【0085】
緩衝液及び水溶性有機溶媒を含有する洗浄溶剤における緩衝液の質量(Wb)と水溶性有機溶媒の質量(Wo)の関係は、Wo/(Wb+Wo)<0.6を満足するのが好ましく、0.2≦Wo/(Wb+Wo)≦0.59を満足するのがより好ましく、0.4≦Wo/(Wb+Wo)≦0.57を満足するのがさらに好ましく、0.5≦Wo/(Wb+Wo)≦0.55を満足するのが特に好ましい。
【0086】
次に、c)工程について説明する。c)工程は、リチウムニッケルタングステン含有酸化物及び洗浄溶剤を混合して、リチウムニッケルタングステン含有酸化物を洗浄する工程である。c)工程にて、LNW酸化物の表面に存在する不純物が、洗浄溶剤に溶解されることで、除去される。ここでの不純物としては、原料の残渣や、原料に由来する塩が想定される。例えば、不純物として、炭酸塩、硫酸塩、タングステン酸塩、酸化タングステンを例示できる。
【0087】
c)工程における洗浄は、撹拌条件下で実施されるのが好ましい。
【0088】
作業性の点から、洗浄溶剤及びLNW酸化物を混合した混合物全体に対するLNW酸化物の割合としては、60質量%以下が好ましく、20~60質量%がより好ましく、30~55質量%がさらに好ましく、40~53質量%がさらにより好ましく、45~52質量%が特に好ましい。
【0089】
洗浄時間としては、1~100分、3~80分、5~60分、7~30分、10~20分を例示できる。洗浄時間が長いほど、LNW酸化物の表面に存在する不純物の除去は十分に実施できるものの、LNW酸化物における層状岩塩構造から金属が過剰に溶出する場合や、LNW酸化物の表面の結晶状態が乱される場合がある。ただし、コート工程を経て製造されたLNW酸化物は、洗浄時間が長い場合でも、洗浄溶剤に対する耐性に優れる。また、コート工程を経ていないLNW酸化物は、後述するd)工程にて、150~500℃の温度で処理することで、正極活物質としての性能が向上する場合がある。
【0090】
d)工程について説明する。d)工程は、リチウムニッケルタングステン含有酸化物を乾燥する工程である。まず、洗浄後のLNW酸化物は、濾過などの方法で洗浄溶剤が留去される。そして、乾燥されることで、本発明の正極活物質となる。乾燥は、常圧下で実施されてもよく、減圧下で実施されてもよいし、通風下で実施されてもよい。
【0091】
乾燥温度としては、70~150℃、80~140℃、90~130℃、100~120℃を例示できる。
また、乾燥温度を150~500℃の範囲内としてもよいし、又は、乾燥後のLNW酸化物を150~500℃の温度で加熱してもよい。150~500℃との比較的高い温度でLNW酸化物を処理することで、c)工程で乱れた表面の結晶構造が整えられると推定される。150~500℃の範囲内の温度としては、200~400℃の範囲内が好ましく、300~400℃の範囲内がより好ましく、330~370℃の範囲内が特に好ましい。
【0092】
本発明の正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用し得る。本発明の正極活物質を備えるリチウムイオン二次電池(以下、本発明のリチウムイオン二次電池ということがある。)について、以下、説明する。具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の正極活物質を具備する正極、負極、固体電解質又は電解液及びセパレータを具備する。
【0093】
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。
【0094】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0095】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm~100μmの範囲内であることが好ましい。
【0096】
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0097】
正極活物質としては、本発明の正極活物質のみを採用してもよいし、本発明の正極活物質と公知の正極活物質を併用してもよい。
【0098】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0099】
活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005~1:0.5であるのが好ましく、1:0.01~1:0.2であるのがより好ましく、1:0.03~1:0.1であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0100】
結着剤は、活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースを例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
【0101】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.001~1:0.3であるのが好ましく、1:0.005~1:0.2であるのがより好ましく、1:0.01~1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0102】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0103】
負極活物質としては、公知のものを採用すればよく、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物を例示することができる。
【0104】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適切な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0105】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
【0106】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB、SiB、MgSi、MgSn、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSiOあるいはLiSnOを例示でき、特に、SiO(0.3≦x≦1.6、又は0.5≦x≦1.5)が好ましい。
【0107】
中でも、負極活物質は、Siを有するSi系材料を含むものがよい。Si系材料は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な珪素又は/及び珪素化合物からなるとよく、例えば、SiO(0.5≦x≦1.5)がよい。珪素は理論充放電容量が大きいものの、珪素は充放電時の体積変化が大きい。そこで、負極活物質を珪素を含むSiOとすることで珪素の体積変化を緩和することができる。
【0108】
負極活物質として、CaSiを塩酸やフッ化水素酸などの酸で処理して得られる層状ポリシランを、300~1000℃で加熱して得られるSi材料を採用しても良い。さらに、上記Si材料を炭素源とともに加熱して、カーボンコートしたものを負極活物質として採用してもよい。
【0109】
負極活物質としては、以上のものの一種以上を使用することができる。
【0110】
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
【0111】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を混合し、スラリーを調製する。上記溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0112】
固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の固体電解質として使用可能なものを適宜採用すればよい。
【0113】
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
【0114】
非水溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル類等が使用できる。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートを例示でき、環状エステルとしては、ガンマブチロラクトン、2-メチル-ガンマブチロラクトン、アセチル-ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネートを例示でき、鎖状エステルとしては、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
【0115】
電解質としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を例示できる。
【0116】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒にリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0117】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0118】
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法の一例について説明する。
【0119】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から、外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0120】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0121】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0122】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例
【0123】
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0124】
(実施例1)
a)工程:1)工程
硫酸ニッケル6水和物、硫酸コバルト7水和物、及び、タングステン酸ナトリウム2水和物を、ニッケル、コバルト、タングステンのモル比が95:4:1となる量で、純水に溶解させて、400mLの遷移金属含有水溶液を調製した。
【0125】
30gの25%アンモニア水を純水と混合して、400mLの第1塩基性水溶液を調製した。
【0126】
水酸化ナトリウム、アンモニア水及び純水を混合して、pH10.75の第2塩基性水溶液を調製した。
【0127】
80℃に維持した恒温槽中で、窒素ガス導入及び撹拌条件下の第2塩基性水溶液に対して、遷移金属含有水溶液を供給し、ニッケル、コバルト及びタングステンを遷移金属水酸化物として析出させた。この際に、反応溶液のpHを10.75~10.80の範囲内に維持させるために、第1塩基性水溶液と48wt%水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下した。なお、ここでのpH値は、反応溶液をpHメーターで測定した数値そのものを意味する。
【0128】
遷移金属水酸化物を濾過により分離した。超音波洗浄機を用いて、遷移金属水酸化物を純水で洗浄し、その後、濾過により遷移金属水酸化物を単離した。
【0129】
2)工程
大気下、遷移金属水酸化物を300℃で5時間加熱して、遷移金属酸化物とした。
【0130】
3)工程
10gの遷移金属酸化物、2.12gの水酸化リチウム無水物、0.13gのNaPO、0.023gのLiFを乳鉢で混合し、混合物とした。そして、前記混合物を、大気雰囲気下、550℃で15時間加熱し、第1焼成体とした。
【0131】
第1焼成体を乳鉢で解砕し、粉末状とした。粉末状の第1焼成体を、酸素ガス雰囲気下、725℃で15時間加熱し、LNW酸化物を得た。該LNW酸化物を乳鉢で解砕し、実施例1のLNW酸化物とした。実施例1のLNW酸化物が層状岩塩構造を示すことは、粉末X線回折測定にて確認した。
実施例1のLNW酸化物の理論上の組成は、LiNi0.95Co0.040.01Na0.010.010.01である。
【0132】
b)工程
蒸留水0.5mL(0.5g)とエタノール1mL(0.789g)を混合して、実施例1の洗浄溶剤とした。実施例1の洗浄溶剤におけるエタノールの割合は、0.789g/(0.5g+0.789g)=0.61であった。
【0133】
c)工程
実施例1の洗浄溶剤の全量と1gの実施例1のLNW酸化物を混合し、1分間撹拌することで、実施例1のLNW酸化物を洗浄した。混合物におけるLNW酸化物の質量%は、100×1g/(1g+0.5g+0.789g)=43.7であった。
【0134】
d)工程
洗浄後の実施例1のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥することで、実施例1の正極活物質を製造した。
【0135】
以下のとおり、実施例1の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0136】
正極用集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。正極活物質として実施例1の正極活物質を94質量部、導電助剤として3質量部のアセチレンブラック、および結着剤として3質量部のポリフッ化ビニリデンを混合した。この混合物を適量のN-メチル-2-ピロリドンに分散させて、スラリーを製造した。上記アルミニウム箔の表面に上記スラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように塗布した。スラリーを塗布したアルミニウム箔を乾燥することで、N-メチル-2-ピロリドンを揮発により除去し、アルミニウム箔表面に正極活物質層を形成させた。表面に正極活物質層を形成させたアルミニウム箔を、ロ-ルプレス機を用いて圧縮し、アルミニウム箔と正極活物質層とを強固に密着接合させて接合物とした。真空乾燥機を用いて、接合物を加熱し、所定の形状に切り取り、実施例1の正極とした。
【0137】
電解液として、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比3:3:4で混合した溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるよう溶解した溶液を準備した。
セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)を準備した。
また、厚さ500μmの金属リチウム箔を準備した。
【0138】
実施例1の正極を評価極とし、金属リチウム箔を対極とした。
セパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例1のリチウムイオン二次電池とした。
【0139】
(実施例2)
a)工程
実施例1のLNW酸化物を準備した。
b)工程
蒸留水0.5mL(0.5g)とエタノール1.5mL(1.1835g)を混合して、実施例2の洗浄溶剤とした。実施例2の洗浄溶剤におけるエタノールの割合は、1.1835g/(0.5g+1.1835g)=0.703であった。
c)工程
実施例2の洗浄溶剤の全量と1gの実施例1のLNW酸化物を混合し、1分間撹拌することで、LNW酸化物を洗浄した。混合物におけるLNW酸化物の質量%は、100×1g/(1g+0.5g+1.1835g)=37.3であった。
d)工程
洗浄後のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥することで、実施例2の正極活物質を製造した。
【0140】
実施例2の正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0141】
(比較例1)
未洗浄の実施例1のLNW酸化物を正極活物質として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0142】
(比較例2)
c)工程において、実施例1の洗浄溶剤に代えて5gの水を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
c)工程の混合物におけるLNW酸化物の質量%は、100×1g/(1g+5g)=16.7であった。
【0143】
(比較例3)
c)工程において、実施例1の洗浄溶剤に代えて0.5gの水を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
c)工程の混合物におけるLNW酸化物の質量%は、100×1g/(1g+0.5g)=66.7%であった。混合物における固形分の濃度が高かったため、作業が困難であった。実験室内では作業が可能であったものの、工業化する際には、混合物における固形分の濃度を低下する必要があるといえる。
【0144】
(評価例1)
実施例1、実施例2、比較例1~比較例3のリチウムイオン二次電池に対して、0.1mA/gの電流で4.4Vまで充電し、次いで、2.5Vまで放電した。ここで、初期効率を以下の式で算出した。これらの結果を表1に示す。
初期効率(%)=100×(放電容量)/(充電容量)
【0145】
【表1】
【0146】
比較例1においては、放電容量及び初期効率が低いことがわかる。比較例1と比較すると、LNW酸化物を洗浄した実施例1、実施例2、比較例2、比較例3においては、放電容量及び初期効率が向上したといえる。
比較例2においては、未洗浄の比較例1よりは放電容量が増加したものの、実施例1、実施例2、比較例3と比べると、放電容量が低い。比較例2においては、洗浄においてLNW酸化物に対する水の量が多かったため、LNW酸化物を構成する金属が過剰に溶出したか、LNW酸化物の表面の結晶状態が過剰に乱れたと推定される。
洗浄においてLNW酸化物に対する水の量が少ない実施例1、実施例2、比較例3においては、充電容量、放電容量、初期効率のいずれのパラメータも好適な値であった。ただし、既述したとおり、比較例3においては、c)工程での作業性に難があった。洗浄溶剤として水とエタノールを併用した実施例1及び実施例2においては、作業性も良好であり、洗浄の効果も適正であったといえる。
【0147】
(参考例1)
c)工程において、実施例1の洗浄溶剤に代えて5gの水を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、参考例1の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0148】
(参考例2)
c)工程において、洗浄溶剤として、5gの水に代えて0.5gのリン酸系緩衝液(pH6.86)を用いたこと以外は、参考例1と同様の方法で、参考例2の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0149】
(参考例3)
c)工程において、洗浄溶剤として、5gの水に代えて0.5gのホウ酸系緩衝液(pH9.18)を用いたこと以外は、参考例1と同様の方法で、参考例3の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0150】
(参考例4)
c)工程において、洗浄溶剤として、5gの水に代えて0.5gのフタル酸系緩衝液(pH4.01)を用いたこと以外は、参考例1と同様の方法で、参考例4の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0151】
(評価例2)
参考例1~参考例4のリチウムイオン二次電池に対して、評価例1と同様の試験を行い、評価した。結果を表2に示す。
【0152】
【表2】
【0153】
表2の結果から、洗浄溶剤として塩基性緩衝液又は酸性緩衝液を用いることで、充電容量、放電容量、初期効率のいずれのパラメータも好適な値となることがわかる。特に、洗浄溶剤として塩基性緩衝液を用いるのが好ましいといえる。
なお、参考例2~参考例4において、c)工程の混合物におけるLNW酸化物の質量%は、100×1g/(1g+0.5g)=66.7であり、混合物における固形分の濃度が高かったため、作業が困難であった。
【0154】
(実施例3)
a)工程
実施例1のLNW酸化物を準備した。
b)工程
2mL(2g)のホウ酸系緩衝液(pH9.18)とエタノール3mL(2.367g)を混合して、実施例3の洗浄溶剤とした。実施例3の洗浄溶剤におけるエタノールの割合は、2.367g/(2g+2.367g)=0.542であった。
c)工程
1mLの実施例3の洗浄溶剤と1gの実施例1のLNW酸化物を混合し、1分間撹拌することでLNW酸化物を洗浄した。混合物におけるLNW酸化物の割合は53質量%であった。
d)工程
洗浄後のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥することで、実施例3の正極活物質を製造した。
【0155】
実施例3の正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0156】
(実施例4)
c)工程の撹拌時間を5分間としたこと以外は、実施例3と同様の方法で、実施例4の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0157】
(実施例5)
c)工程の撹拌時間を30分間としたこと以外は、実施例3と同様の方法で、実施例5の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0158】
(実施例6)
c)工程の撹拌時間を60分間としたこと以外は、実施例3と同様の方法で、実施例6の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0159】
(比較例4)
未洗浄の実施例1のLNW酸化物を正極活物質として用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で、比較例4の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0160】
(評価例3)
実施例3~実施例6及び比較例4のリチウムイオン二次電池に対して、評価例1と同様の試験を行い、評価した。結果を表3に示す。
【0161】
【表3】
【0162】
表3の結果から、緩衝液とエタノールを混合した洗浄溶剤にて、好適にLNW酸化物を洗浄できることが裏付けられたといえる。
【0163】
(実施例7)
a)工程
実施例1のa)工程における2)工程の後に以下のコート工程を行い、次いで、以下の3)工程を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7のLNW酸化物を製造した。実施例7のLNW酸化物が層状岩塩構造を示すことは、粉末X線回折測定にて確認した。
【0164】
コート工程
純水に遷移金属酸化物を加えて、遷移金属酸化物の分散液を調製した。
0.3gの硫酸ジルコニウム、及び、キレート化合物としてのグリコール酸0.17gを水に溶解して、ヒドロキシカルボン酸含有ジルコニウム水溶液を調製した。なお、当該ヒドロキシカルボン酸含有ジルコニウム水溶液において、ジルコニウムとグリコール酸のモル比は1:2であった。
上記遷移金属酸化物の分散液と、上記ヒドロキシカルボン酸含有ジルコニウム水溶液を混合し混合液とした。次いで、該混合液のpHが12.5になるまで、水酸化ナトリウム水溶液を1時間かけて添加し、遷移金属酸化物の表面に水酸化ジルコニウムを析出させたコート体を得た。コート体を濾過で分離した後に、乾燥した。
乾燥後のコート体を、次段落の3)工程に供した。
【0165】
3)工程
10gのコート体、2.12gの水酸化リチウム無水物、0.13gのNaPO、0.023gのLiFを乳鉢で混合し、混合物とした。そして、前記混合物を、大気雰囲気下、650℃で5時間加熱し、第1焼成体とした。
第1焼成体を乳鉢で解砕し、粉末状とした。粉末状の第1焼成体を、酸素ガス雰囲気下、750℃で15時間加熱し、LNW酸化物を得た。該LNW酸化物を乳鉢で解砕し、実施例7のLNW酸化物とした。
実施例7のLNW酸化物の理論上の組成は、LiNi0.95Co0.040.01Zr0.0025Na0.010.010.01である。
【0166】
b)工程
実施例3の洗浄溶剤を準備した。
c)工程
1mLの実施例3の洗浄溶剤と1gの実施例7のLNW酸化物を混合し、60分間撹拌することで、実施例7のLNW酸化物を洗浄した。混合物におけるLNW酸化物の割合は53質量%であった。
d)工程
洗浄後の実施例7のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥することで、実施例7の正極活物質を製造した。
【0167】
実施例7の正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0168】
(評価例4)
実施例4、実施例6及び実施例7のリチウムイオン二次電池に対して、0.1mA/gの電流で4.4Vまで充電し、次いで、2.5Vまで放電するとの充放電サイクルを繰り返し実行した。充放電サイクル数と放電容量の関係をグラフにして図1に示す。
【0169】
図1の実施例4及び実施例6の結果から、洗浄時間が長期間となるに従い、放電容量自体が低下傾向にあるといえる。そして、充放電サイクルが進行するに従い、実施例4及び実施例6の正極活物質の放電容量は、同程度で減少していることがわかる。
他方、コート工程を経た実施例7の正極活物質は、洗浄時間が長期間であるものの、充放電サイクルが進行した際の放電容量の減少の程度が抑制されていることがわかる。すなわち、コート工程を経た実施例7の正極活物質は、好適に放電容量を維持できるといえる。その理由として、コート工程を経た実施例7の正極活物質は、層状岩塩構造の維持が好適に為されていると推定される。
【0170】
(実施例8)
d)工程を以下のとおりとしたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例8の正極活物質を製造した。実施例8の正極活物質を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例8の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0171】
d)工程
洗浄後のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥した。その後、大気下、LNW酸化物を150℃で5時間加熱することで、実施例8の正極活物質を製造した。
【0172】
(実施例9)
d)工程を以下のとおりとしたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例9の正極活物質を製造した。実施例9の正極活物質を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例9の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0173】
d)工程
洗浄後のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥した。その後、大気下、LNW酸化物を300℃で5時間加熱することで、実施例9の正極活物質を製造した。
【0174】
(実施例10)
d)工程を以下のとおりとしたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例10の正極活物質を製造した。実施例10の正極活物質を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例10の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0175】
d)工程
洗浄後のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥した。その後、大気下、LNW酸化物を350℃で5時間加熱することで、実施例10の正極活物質を製造した。
【0176】
(実施例11)
d)工程を以下のとおりとしたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例11の正極活物質を製造した。実施例11の正極活物質を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例11の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0177】
d)工程
洗浄後のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥した。その後、大気下、LNW酸化物を450℃で5時間加熱することで、実施例11の正極活物質を製造した。
【0178】
(実施例12)
d)工程を以下のとおりとしたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例12の正極活物質を製造した。実施例12の正極活物質を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例12の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0179】
d)工程
洗浄後のLNW酸化物を濾過し、減圧下、80℃で乾燥した。その後、大気下、LNW酸化物を550℃で5時間加熱することで、実施例12の正極活物質を製造した。
【0180】
(評価例5)
実施例4、実施例8~実施例12のリチウムイオン二次電池に対して、0.1mA/gの電流で4.4Vまで充電し、次いで、2.5Vまで放電するとの充放電サイクルを繰り返し実行した。充放電サイクル数と放電容量の関係をグラフにして図2に示す。
【0181】
図2のグラフから、d)工程での加熱温度が、正極活物質の特性に影響を与えることがわかる。そして、150~500℃の範囲内の加熱に因り、正極活物質の表面の結晶構造が好適に整えられると推定される。よって、加熱温度が150~500℃の範囲内であれば、洗浄時間が長期間となった場合であっても、好適に放電容量を維持可能な正極活物質を製造できると推定される。特に、d)工程での加熱温度が350℃付近であれば、初期の放電容量が比較的高く、かつ、容量維持率が非常に優れる正極活物質を製造できることがわかる。
【0182】
(実施例13)
a)工程:1)工程
94g(357.6mmol)の硫酸ニッケル6水和物、4.2g(14.94mmol)の硫酸コバルト7水和物、0.6g(1.82mmol)のタングステン酸ナトリウム2水和物、0.35g(0.93mmol)の硝酸アルミニウム9水和物、及び、キレート化合物として0.28g(3.68mmol)のグリコール酸を、400mLの純水に溶解させて、遷移金属含有水溶液を調製した。
遷移金属含有水溶液におけるニッケル、コバルト、タングステン、アルミニウムのモル比は、95.5:4:0.5:0.25である。
【0183】
水酸化ナトリウム、アンモニア水及び純水を混合して、塩基性水溶液を調製した。
【0184】
60℃に維持した恒温槽中で、窒素ガス導入及び撹拌条件下の遷移金属含有水溶液に対して、塩基性水溶液を供給して反応溶液とした。反応溶液のpHを10.8~10.85の範囲内に維持して、ニッケル、コバルト、タングステン及びアルミニウムを遷移金属水酸化物として析出させた。なお、ここでのpH値は、反応溶液をpHメーターで測定した数値そのものを意味する。
【0185】
遷移金属水酸化物を濾過により分離した。超音波洗浄機を用いて、遷移金属水酸化物を純水で洗浄し、その後、濾過により遷移金属水酸化物を単離した。
【0186】
2)工程
大気下、遷移金属水酸化物を300℃で5時間加熱して、前駆体である遷移金属酸化物とした。
【0187】
3)工程
10gの前駆体、3.0g(125mmol)の水酸化リチウム無水物、0.475g(1.25mmol)のNaPO12水和物、0.032g(1.25mmol)のLiFを乳鉢で混合し、混合物とした。そして、前記混合物を、大気雰囲気下、600℃で10時間加熱し、第1焼成体とした。
【0188】
第1焼成体を乳鉢で解砕し、粉末状とした。粉末状の第1焼成体を、酸素ガス雰囲気下、725℃で15時間加熱し、第2焼成体を得た。第2焼成体を乳鉢で解砕し、実施例13のLNW酸化物とした。実施例13のLNW酸化物が層状岩塩構造を示すことは、粉末X線回折測定にて確認した。
実施例13のLNW酸化物の理論上の組成は、LiNi0.955Co0.040.005Al0.0025Na0.030.010.01である。
【0189】
b)工程
0.02mol/Lのシュウ酸水溶液2質量部とエタノール2.4質量部を混合して、実施例13の洗浄溶剤とした。実施例13の洗浄溶剤におけるエタノールの割合は、2.4/(2+2.4)=0.55であった。0.02mol/Lのシュウ酸水溶液のpHは2であった。
【0190】
c)工程
50質量部の実施例13の洗浄溶剤と50質量部の実施例13のLNW酸化物を混合し、60分間撹拌することで、実施例13のLNW酸化物を洗浄した。混合物におけるLNW酸化物の割合は、50質量%であった。
【0191】
d)工程
洗浄後の実施例13のLNW酸化物を濾過し、減圧下、120℃で5時間乾燥することで、実施例13の正極活物質を製造した。
【0192】
以下のとおり、実施例13の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0193】
正極活物質として実施例13の正極活物質を60質量部、導電助剤として20質量部のアセチレンブラック、結着剤として20質量部のポリテトラフルオロエチレンを秤量して、メノウ乳鉢で混合し、粘土状に加工して正極合材を得た。集電体としてメッシュ状のニッケルを準備し、これに正極合材を圧着することで実施例13の正極とした。
【0194】
電解液として、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比3:3:4で混合した溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるよう溶解した溶液を準備した。
セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)を準備した。
また、厚さ500μmの金属リチウム箔を準備した。
【0195】
実施例13の正極を評価極とし、金属リチウム箔を対極とした。
セパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例13のリチウムイオン二次電池とした。
【0196】
(実施例14)
a)工程
実施例13のLNW酸化物を準備した。
b)工程
0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液2質量部とエタノール2.4質量部を混合して、実施例14の洗浄溶剤とした。実施例14の洗浄溶剤におけるエタノールの割合は、2.4/(2+2.4)=0.55であった。0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液のpHは7であった。
以下、実施例14の洗浄溶剤を用いたこと以外は、実施例13と同様の方法で、実施例14の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0197】
(比較例5)
洗浄溶剤として水を用いたこと以外は、実施例13と同様の方法で、比較例5の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0198】
(比較例6)
未洗浄の実施例13のLNW酸化物を正極活物質として用いたこと以外は、実施例13と同様の方法で、比較例6の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0199】
(比較例7)
洗浄溶剤として0.02mol/Lのシュウ酸水溶液を用いたこと以外は、実施例13と同様の方法で、比較例7の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0200】
(比較例8)
洗浄溶剤として0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を用いたこと以外は、実施例13と同様の方法で、比較例8の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0201】
(評価例6)
実施例13、実施例14、比較例5~比較例8のリチウムイオン二次電池を、0.1Cの電流で4.4Vまで充電し、次いで、2.5Vまで放電した。
表4に、充電容量、電圧2.5Vまでの放電容量、及び、電圧3.6Vまでの放電容量を示す。
【0202】
【表4】
【0203】
リチウムイオン二次電池の充電容量及び放電容量の値から、洗浄溶剤として緩衝液とエタノールを併用した実施例13及び実施例14においては、洗浄の効果が優れていることがわかる。特に、洗浄溶剤としてシュウ酸水溶液とエタノールを併用した実施例13においては、洗浄の効果が著しく優れているといえる。
図1
図2