(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】点眼剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/785 20060101AFI20230131BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230131BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230131BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230131BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230131BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
A61K31/785
A61K9/08
A61K47/32
A61K47/10
A61P27/02
A61P31/00
(21)【出願番号】P 2019136224
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】笹木 友美子
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/140242(WO,A1)
【文献】特開2015-147760(JP,A)
【文献】特開2012-088524(JP,A)
【文献】特開2016-074629(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110874(WO,A1)
【文献】特開平10-324634(JP,A)
【文献】特開2011-075943(JP,A)
【文献】特表2010-507721(JP,A)
【文献】医療薬学,2018年,Vol.44, No.10,pp.481-490
【文献】Japanese Journal of Ophthalmology,Vol.55,pp.541-546
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 27/00
A61P 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1a)~式(1c)で表される構成単位を有し、各構成単位のモル比率n
a:n
b:n
cが100:10~400:2~50であり、重量平均分子量が5,000~2,000,000である共重合体(P)を0.001~1.0w/v%と、式(1d)~式(1e)で表される構成単位を有し、各構成単位のモル比率n
d:n
eが10~90:10~90であり、重量平均分子量が10,000~5,000,000である共重合体(Q)を0.01~5.0w/v%と、0.000001~0.001w/v%のポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩を含む点眼剤。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
5、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基を示す。R
6は炭素数12~24の一価の炭化水素基を示す。R
9は炭素数4~18のアルキル基を示す。)
【請求項2】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを0.001~5.0w/v%含む請求項1記載の点眼剤。
【請求項3】
ソフトコンタクトレンズ装用者用である請求項1または請求項2記載の点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する共重合体、およびポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩を含有する点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル機器の普及や高齢者、コンタクトレンズ装用者数の増加に伴いドライアイ患者が増加してきており、国内の潜在的なドライアイ患者数は800万人とも言われる。こうしたドライアイ発症の一因に、涙液の蒸発亢進に伴う潤いの不足と、それに起因する眼表面と上瞼間の摩擦がある。一般的にドライアイの治療は点眼によって行われるため、ドライアイ治療を志向した点眼剤には、上述した潤いの不足を防止する保湿性と、眼瞼結膜縁と眼表面間での摩擦を緩和させる潤滑性が求められている。
【0003】
他方、点眼剤は臨床に供されるまでは無菌であるが、1回使いきりのものを除いた一般的な点眼剤では、容器が開封された時点から微生物汚染の危険に晒されることになる。また、点眼剤を睫毛や瞼に接触させて点眼するといった点眼剤の誤用によって、点眼剤自体が汚染される可能性も考えられる。こうした点眼剤の細菌汚染は重篤な眼障害に繋がり得るため、点眼剤使用中の微生物汚染を防止するという安全性の観点から、ほとんどの点眼剤には防腐剤が添加されており、一定以上の保存効力が必要となる。
【0004】
点眼剤メーカーでは、通常、防腐剤をはじめとする各種成分の一定条件における安定性を確認し、その効果が保障される範囲で使用期限を定めている。しかし、上述の通り、点眼剤はドライアイをはじめとする多くの眼疾患治療に適応されることが多く、さらに薬局等でも比較的容易に入手できるため、誤用や点眼コンプライアンスが遵守されない場合も散見される。例えば使用期限切れの点眼剤の使用や、メーカー側が想定していない条件下での長期保管後の使用などである。こうした場合、点眼剤中の防腐剤濃度が規格値を下回り、点眼剤の保存効力も十分ではない可能性が考えられ、安全性の面から好ましくない。このようなケースを想定すると、防腐剤濃度がある程度小さい場合でも、十分な保存効力を有する点眼剤が必要となる。
【0005】
上記をまとめると、ドライアイ治療を志向した点眼剤は、保湿性と潤滑性を併せ持ちながら、可能な限り少ない防腐剤によって十分な保存効力を有する必要がある。
これまでにも、ドライアイの治療やコンタクトレンズの装用感の向上を志向して、角膜表面あるいはコンタクトレンズ表面の潤滑性を向上させる眼科用組成物が各種検討されている(特許文献1~3)。
特許文献1は、ソフトコンタクトレンズの濡れ性を高め、装用感を改善するソフトコンタクトレンズ用点眼剤に関するものであるが、特許文献1の方法での潤滑性の向上効果は不十分であった。
特許文献2は、保湿力に優れ、さらに潤滑性を大幅に向上させる組成物が提示されているが、これはコンタクトレンズケア製剤およびコンタクトレンズパッキング液に関するものであり、点眼剤についての言及はない。
特許文献3は、角膜表面やソフトコンタクトレンズ表面に対して十分な潤滑性を与える点眼剤に関するものであるが、特許文献3に記載の点眼剤の保存効力に関する記述はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-136923号公報
【文献】特開2012-88524号公報
【文献】WO2016/140242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
他方、ドライアイ症状の治療・緩和のためには、上述した保湿性や潤滑性が、眼表面あるいはコンタクトレンズ表面で素早く発揮されることが望ましい。したがって、点眼後、点眼剤が眼やコンタクトレンズ表面に迅速に伸展する必要がある。
上記のようなドライアイ治療に有効な点眼剤を調製する過程で、眼刺激性の少ない防腐剤であるポリヘキサメチレンビグアニドを一般的な点眼剤よりも少なく配合し、さらに機能性を付与するために、保湿性・潤滑性の大幅な向上に寄与する特定の三元共重合体の両方を含有する点眼剤を調製すると、満足な保存効力が確認できなかった。すなわち、十分な保存効力と機能性とを両立する点眼剤は、未だ満足のいくものが得られていない状態である。
そこで、本発明の課題は、角膜表面やソフトコンタクトレンズに対して潤滑性および保湿性を付与しながら、十分な保存効力を有し、眼あるいはコンタクトレンズ表面に素早く伸展することで保湿・潤滑効果を発揮する点眼剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、3種の相異なる構成単位を特定割合で有する特定の構造を持つ共重合体と、2種の特定の構造単位を特定割合で有する特定の構造を持つ共重合体と、特定の防腐剤を特定の割合で含有した点眼剤であれば、潤滑性に優れつつ、十分な保存効力を発現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。加えて、本発明の点眼剤であれば、眼やソフトコンタクトレンズ表面に素早く伸展し、保湿性・潤滑性といった効果を迅速に眼やコンタクトレンズ表面で発現できる。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[3]の通りである。
[1]式(1a)~式(1c)で表される構成単位を有し、各構成単位のモル比率n
a:n
b:n
cが100:10~400:2~50であり、重量平均分子量が5,000~2,000,000である共重合体(P)を0.001~1.0w/v%と、式(1d)~式(1e)で表される構成単位を有し、各構成単位のモル比率n
d:n
eが10~90:10~90であり、重量平均分子量が10,000~5,000,000である共重合体(Q)を0.01~5.0w/v%と、0.000001~0.001w/v%のポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩を含む点眼剤。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
5、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基を示す。R
6は炭素数12~24の一価の炭化水素基を示す。R
9は炭素数4~18のアルキル基を示す。)
[2]ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを0.001~5.0w/v%含む上記[1]記載の点眼剤。
[3]ソフトコンタクトレンズ装用者用である上記[1]または[2]記載の点眼剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の点眼剤は、角膜表面及びソフトコンタクトレンズ表面に対して十分な潤滑性を付与することができる上、十分な保存効力を有する。さらに、点眼後、眼やソフトコンタクトレンズ表面に素早く伸展し、潤滑性や保湿性等の効果を迅速に眼表面で発現できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の点眼剤に用いる共重合体(P)は、下記式(1a)~式(1c)の3つの構成単位を有し、各構成単位のモル比率n
a:n
b:n
cが100:10~400:2~50であり、本発明の点眼剤に用いる共重合体(Q)は、下記式(1d)~式(1e)で表される構成単位を有し、各構成単位のモル比率n
d:n
eが10~90:10~90であり、重量平均分子量が10,000~5,000,000である。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0012】
<共重合体P>
本発明の点眼剤に用いる共重合体(P)は、下記の(1)~(3)の3つの構成単位を有し、各構成単位のモル比率na:nb:ncは100:10~400:2~50である。点眼剤が共重合体(P)を含むことにより、潤滑性、伸展性が向上する。
【0013】
<(1)PC構成単位>
本発明の点眼剤に用いる共重合体(P)は、下記式(1a)で表される構成単位(以下「PC構成単位」と略記)を有する。該PC構成単位は、後述する式(2)で表されるPC単量体に由来する構成単位である。共重合体(P)がPC単量体に由来する構成単位を含むことにより、眼表面に優れた保水性を付与できる。
【化11】
【0014】
上記式(1a)において、R1は水素原子またはメチル基を指す。naは、共重合体(P)中の上記式(1a)で示される構成単位の数を表す。
共重合体(P)中のPC構成単位は、共重合体(P)へ親水性および含水ゲル形成能を付与し潤滑性を高めるために導入される。
共重合体(P)中のPC構成単位は、共重合体(P)の重合時に使用される下記式(2)で表されるホスホリルコリン類似基含有単量体(以下、PC単量体と略記)から得られる。
【0015】
【化12】
式(2)中、Xは不飽和結合を有する重合性官能基を有する1価の有機基を示す。中でもXは、(メタ)アクリロイルオキシ基であることが好ましい。
PC単量体としては、入手性の観点から例えば、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル-2’-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートが好ましく、さらに下記式(3)で表される2-(メタクリロイルオキシ)エチル-2’-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(以下、MPCとする)が好ましい。
【0016】
【0017】
<(2)アミド構成単位>
本発明の点眼剤に用いる共重合体(P)は、下記式(1b)で表される構成単位(以下、「アミド構成単位」と略記)を有する。
【0018】
【0019】
上記式(1b)において、R2は水素原子またはメチル基を示し、R3およびR4はそれぞれ独立にメチル基およびエチル基を示す。nbは、共重合体(P)中の上記式(1b)で示される構成単位の数を表す。
共重合体(P)中のアミド構成単位は、共重合体(P)を高分子量化し、ソフトコンタクトレンズへの密着性を高めるために導入される。
共重合体(P)中のアミド構成単位の割合については、PC構成単位のモル数naを100としたときのモル数nbについて、nb/na=10~400/100であり、好ましくは30~250/100である。nbが大きすぎる場合には点眼剤を製造する際に必要となる無菌濾過が困難となるおそれがあり、nbが小さすぎる場合には潤滑性向上効果が見込めない。
【0020】
共重合体(P)中のアミド構成単位は、共重合体(P)の重合時に使用される下記式(1b’)で表される単量体、すなわち(メタ)アクリルアミドまたは(メタ)アクリルアミド誘導体から得られる。言い換えれば、アミド構成単位は、式(1b’)で表される単量体に由来する構成単位である。
【0021】
【0022】
式(1b’)におけるR2、R3、R4はそれぞれ、式(1b)におけるR2、R3、R4と同じである。
上記式(1b’)で表される(メタ)アクリルアミドまたは(メタ)アクリルアミド誘導体として例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドまたはN,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0023】
<(3)疎水性構成単位>
本発明の点眼剤に用いる共重合体(P)は、下記式(1c)で表される構成単位(以下、「疎水性構成単位」と略記)を有する。
【化16】
【0024】
上記式(1c)において、R5は水素原子またはメチル基を示し、R6は炭素数12~24の一価の炭化水素基、例えば、ラウリル基、ステアリル基、ベヘニル基を示す。R6は好ましくは炭素数12~20、より好ましくは炭素数14~20、さらに好ましくは炭素数17~19の一価の炭化水素基である。ncは、共重合体(P)中の上記式(1c)で示される構成単位の数を表す。
共重合体(P)中の疎水性構成単位は、ソフトコンタクトレンズへの吸着性を高め、疎水性相互作用による物理架橋ゲル形成能を高め潤滑性を向上させるために導入される。
【0025】
共重合体(P)中の疎水性構成単位の割合については、PC構成単位のモル数naを100としたときのモル数ncについて、nc/na=2~50/100であり、好ましくは5~25/100である。ncが小さすぎる場合には潤滑性効果の持続が十分でなく、大きすぎる場合には共重合体(P)の親水性が低下することで水溶性への溶解度が低下し、点眼剤の製造が難しくなる。
【0026】
共重合体(P)中の疎水性構成単位は、共重合体(P)の重合時に使用される下記式(1c’)で表される疎水性単量体から得られる。言い換えれば、疎水性構成単位は、式(1c’)で表される単量体に由来する構成単位である。
【0027】
【0028】
式(1c’)におけるR5およびR6はそれぞれ、式(1c)におけるR5およびR6と同じである。
式(1c’)で表される疎水性単量体として例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0029】
<その他の構成単位>
共重合体(P)は、本発明の効果を損なわない範囲において、式(1a)~式(1c)で表される構成単位以外のその他の構成単位を導入することもできる。共重合体(P)を構成する上記式(1a)で示すnaを100とした場合、その他の構成単位はモル比で50以下が好ましく、10以下がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0030】
その他の構成単位は、例えば、以下に示すその他の単量体に由来する構成単位である。
その他の単量体としては、例えば、直鎖または分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレート、環状(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート、スチレン系単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、親水性の水酸基含有(メタ)アクリレート、酸基含有単量体、アミノ基含有単量体、カチオン性基含有単量体などを挙げることができる。
直鎖または分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
環状アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。
ビニルエーテル単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等が挙げられる。
ビニルエステル単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0031】
親水性の水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
酸基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸等が挙げられる。
アミノ基含有単量体としては、例えば、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
カチオン性基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0032】
<共重合体(P)の分子量>
本発明に用いる共重合体(P)は、重量平均分子量5,000~2,000,000であり、好ましくは100,000~1,500,000、より好ましくは500,000~1,500,000の重合体である。重量平均分子量が5,000未満の場合は、重合体のコンタクトレンズ表面への吸着力が十分でないため、潤滑性向上が見込めないおそれがあり、2,000,000を超える場合は、点眼剤を製造する際に必要となる無菌濾過が困難となるおそれがある。
【0033】
<共重合体(P)の製造方法>
共重合体(P)は、上記した式(2)で表される単量体、式(1b’)で表される単量体、及び式(1c’)で表される単量体を含む単量体組成物をラジカル重合することによって得ることが出来る。なお、該単量体組成物は、本発明の効果を害しない範囲で、上記したその他の単量体を含有してもよい。
共重合体(P)の製造は、例えば、上記単量体組成物を、ラジカル重合の開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス置換または雰囲気下においてラジカル重合により行うことができる。重合方法は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法により行うことができる。共重合体(P)の精製は、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の公知の方法により行うことができる。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤、有機化酸化物、過硫酸化物等を挙げることができる。
【0034】
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-アゾビス(2-ジアミノプロピル)二塩酸塩、2,2-アゾビス(2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二塩酸塩、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビスイソブチルアミド二水和物、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。
有機化酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、過酸化ラウロイル、t-ブチルペルオキシネオデカネート、コハク酸ペルオキシド等が挙げられる。
過酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いることができ、また、2種以上を混合して用いることもできる。重合開始剤の使用量は、単量体組成物100質量部に対して通常0.001~10質量部、好ましくは0.01~5.0質量部である。
【0035】
共重合体(P)の製造は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒としては、単量体組成物を溶解し、反応しないものであればいずれでものよく、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、直鎖または環状のエーテル系溶媒、含窒素系溶媒を挙げることができる。
アルコール系溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチルなどが上げられる。
直鎖または環状のエーテル系溶媒としては、例えば、エチルセルソルブ、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
含窒素系溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン等が挙げられる。好ましくは水またはアルコールまたはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0036】
<共重合体Q>
本発明の点眼剤に用いる共重合体(Q)は、下記の(1)~(2)の2つの構成単位を有し、各構成単位のモル比率nd:neが10~90:10~90であり、重量平均分子量が10,000~5,000,000である。
【0037】
<(1)PC構成単位>
本発明で用いられる共重合体(Q)は下記式(1d)で表されるPC構成単位、すなわち、前記PC単量体に由来する構成単位を含む。共重合体(Q)がPC単量体に由来する構成単位を含むことにより、眼表面に優れた保水性を付与でき、涙液層及び涙液油層の安定化効果を発現することができる。
【0038】
【化18】
上記(1d)においてR
7は、水素原子又はメチル基を指す。n
dは、共重合体(Q)中の上記式(1d)で示される構成単位の数を表す。
共重合体(Q)中のPC構成単位は、前記PC単量体から得られる。PC単量体は、前記の通り公知の方法で製造できる。
【0039】
共重合体(Q)中の構成単位(1d)の含有量は10~90mol%であり、好ましくは20~90mol%であり、より好ましくは30~90mol%である。含有量が10mol%未満であると眼表面への保湿性の付与が十分でないおそれがある。また、含有量が90mol%より多いと、顕著な潤滑性向上効果が見込めないおそれがある。
【0040】
<(2)アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位>
本発明で用いられる共重合体(Q)は下記式(1e)で表される構成単位を含有する。該構成単位は、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位である。
【0041】
【化19】
共重合体(Q)中のアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位は、下記式(1e’)で表されるアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体の重合によって得られる。
式(1e)において、R
8は水素原子又はメチル基のいずれでもよいが、好ましくはメチル基である。R
9は炭素数4~18の直鎖状または分岐状のアルキル基である。n
eは、共重合体(Q)中の上記式(1e)で示される構成単位の数を表す。
【0042】
【化20】
式(1e’)において、R
8及びR
9は式(1e)と同様である。
【0043】
上記R9の炭素数4~18の直鎖状のアルキル基としては、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基が挙げられる。
炭素数4~18の分岐状のアルキル基としては、t-ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基が挙げられる。
【0044】
共重合体の親水性と親油性のバランスの観点から、R9は、直鎖状のアルキル基が好ましく、n-ブチル基、n-ドデシル基、n-オクタデシル基がより好ましく、n-ブチル基が最も好ましい。
【0045】
構成単位(1e)を満たす構造を有していれば共重合体(Q)の親水性と親油性のバランスを損なうことがないため、いずれでも用いることができるが、共重合体(Q)の涙液油層安定化効果をより高める観点から、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体の好適な例として、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられ、さらにブチル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
【0046】
本発明に用いる共重合体(Q)は、分子鎖中に構成単位(1e)を有することによって、共重合体の親油性を高め、親水性と親油性バランスを損なうことがなく、涙液油層を涙液水層上へ伸展させることができるため、涙液油層安定化効果が高まる。さらに、本発明に用いる共重合体(Q)は、構成単位(1d)と構成単位(1e)を同一高分子鎖中に有することによって涙液油層安定化剤となる。
【0047】
本発明に用いる共重合体(Q)中の構成単位(1e)の含有量は10~90mol%であり、好ましくは10~80mol%であり、より好ましくは10~70mol%である。含有量が10mol%未満であると共重合体(Q)の親油性が乏しくなり、親水性と親油性バランスが損なわれ、涙液油層の涙液水層上への伸展作用が弱まり、涙液油層安定化効果が望めなくなるおそれがある。また、含有量が90mol%より多いと、水への溶解性が低下し点眼剤を調製することが困難となるおそれがある。
【0048】
共重合体(Q)中の構成単位(1d)と構成単位(1e)とのモル比率nd:neは、10~90:10~90であり、より好ましくは20~90:10~80であり、さらに好ましくは30~90:10~70である。
【0049】
本発明に用いる共重合体(Q)の分子鎖中に含まれる、構成単位(1d)と構成単位(1e)の組み合わせの好適な例は、涙液油層安定化効果の観点から、以下の組み合わせが挙げられる。
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(1d)およびブチル(メタ)アクリレート(1e)。
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(1d)およびステアリル(メタ)アクリレート(1e)。
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(1d)およびラウリル(メタ)アクリレート(1e)。
本発明に用いる共重合体(Q)は、構成単位(1d)および構成単位(1e)以外の構成単位を含んでいても良いが、構成単位(1d)および構成単位(1e)のみからなるものが好ましい。
【0050】
<共重合体(Q)の製造方法>
本発明に用いる共重合体(Q)は、特開平11-035605の方法に従って重合を行い得たMPCポリマーおよび特開2004-196868の方法に従って重合を行い得たMPCポリマーを用いることができる。
本発明に用いる共重合体(Q)の重量平均分子量は10,000~5,000,000であり、好ましくは20,000~1,000,000、より好ましくは50,000~1,000,000であり、さらに好ましくは200,000~1,000,000である。重量平均分子量が10,000未満であると親油性が低下し、涙液油層安定化効果が望めなくなり、重量平均分子量が50,000より大きいと粘度が急激に上昇し、点眼剤を調製することが困難となるおそれがある。
【0051】
<ポリへキサメチレンビグアニド>
本発明の点眼剤は、防腐剤として0.000001~0.001w/v%のポリヘキサメチレンビグアニドまたはその塩を含む。ポリヘキサメチレンビグアニドは下記式(4)に示される化合物である。
【0052】
【化21】
上記式(4)中のkは繰り返し単位を表す数字で、3~40の整数である。kの値が3未満もしくは40より大きいと、点眼剤としての保存効力が十分に発揮できなくなるおそれがある。より十分な保存効力を発揮する点において、kの値は10以上であることが好ましく、また、18以下であることが好ましい。
【0053】
ポリへキサメチレンビグアニドの塩とは、例えば、塩酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、スルホン酸塩、酒石酸塩またはクエン酸塩が上げられる。その具体例としては、例えば、Arch UK Biocides社製のCosmocil CQや(登録商標)、あるいはVantcil IB(登録商標)や、三洋化成工業(株)製のBG-1等の市販品が挙げられる。これらは、1種類を選択して単独で使用してもよく、2種類以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0054】
ポリへキサメチレンビグアニドまたはその塩の配合量は、0.000001~0.001w/v%である。これが0.000001w/v%未満であると、点眼剤としても保存効力が十分に発揮できないおそれがあり、0.001w/v%より大きくても、配合量に見合った保存効力の向上を期待できない。配合量に見合った保存効力の向上という観点からは、ポリへキサメチレンビグアニドまたはその塩の配合量を0.00007w/v%以上とすることが好ましく、また、0.00009w/v%以下とすることが更に好ましい。
【0055】
本発明の点眼剤は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを含むことが好ましい。
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールは、通常の医薬品に使用されるものであればよく、例えば日本薬局方収載品を使用することができる。その具体例としては、例えば、日油(株)製のユニルーブ70DP-950Bや、日油(株)製の薬添規プロノン188P、あるいは三洋化成工業(株)製のニューポールPE-68等の市販品が挙げられる。
【0056】
本発明の点眼剤に用いるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの配合量は、0.001~5.0w/v%であることが好ましい。これが0.001w/v%以上であると、保存力が向上し、5.0w/v%以下であると、粘稠化が抑制され本発明の点眼剤の伸展性が良好になる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの配合量は0.01w/v%~1.0w/v%とすることがより好ましく、0.1w/v%~0.5w/v%とすることがさらに好ましい。
【0057】
本発明の点眼剤は、共重合体(P)を水に、0.001~1.0w/vとなるように溶解し、かつ共重合体(Q)を水に、0.01~5.0w/v%となるように溶解させることにより得ることができる。共重合体(P)の濃度が0.001w/v%未満では潤滑性向上効果が十分ではなく、1.0w/v%を超えると点眼剤を製造する際に行う無菌濾過が困難となり、さらに保存効力が低下するおそれがある。共重合体(Q)の濃度が0.01w/v%未満では、涙液油層安定化効果が十分ではなく、5.0w/v%を超えると点眼剤を製造する際に行う無菌濾過が困難となるおそれがある。共重合体(P)と共重合体(Q)の配合割合としては、好ましくはポリマー純分比で共重合体(P):共重合体(Q)=1:5~25であり、より好ましくは共重合体(P):共重合体(Q)=1:15~20である。
【0058】
本発明の点眼剤の成分としては、共重合体(P)および共重合体(Q)の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、また、他の効果を期待して、その他の成分や、通常、点眼剤に使用される成分を、その目的等に応じて適宜、適量配合することができる。
その他の成分としては、例えば、充血除去成分、消炎・収斂成分、ビタミン類、アミノ酸類、サルファ剤、糖類、粘稠化剤、清涼化剤、無機塩、有機酸の塩、酸、塩基、酸化防止剤、安定化剤、防腐剤、ムコ多糖、ムチン分泌促進剤を挙げることができる。
【0059】
充血除去成分としては、例えば、エピネフリンまたはその塩、塩酸エフェドリン、塩酸テトラヒドロゾリン、ナファゾリンまたはその塩、フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリンが挙げられる。
消炎・収斂成分としては、例えば、イプシロン-アミノカプロン酸、アラントイン、ベルベリンまたはその塩、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸またはその塩、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化リゾチームが挙げられる。
【0060】
ビタミン類としては、例えば、フラビンアデニンヌクレオシドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸ナトリウム、パントテン酸カルシウムが挙げられる。
アミノ酸類としては、例えば、アスパラギン酸またはその塩、スルフイソキサゾール、スルフイソミジンナトリウムが挙げられる。
糖類としては、例えば、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース等が挙げられる。
粘稠化剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。
【0061】
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフルが挙げられる。
無機塩としては、例えば、塩化カリウム、ホウ砂、炭酸水素カリウム、リン酸水素カリウム、無水リン酸二水素カリウム等が挙げられる。
有機酸の塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
酸としては、例えば、ホウ酸、リン酸、クエン酸、硫酸、酢酸、塩酸が挙げられる。
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、モノエタノールアミンが挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、酢酸トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエンが挙げられる。
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、グリシンが挙げられる。
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩、ソルビン酸カリウム、塩酸ポリヘキサニドが挙げられる。
ムコ多糖としては、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムが挙げられる。
ムチン分泌促進剤としては、例えば、ジクアホソルナトリウム、レバミピドが挙げられる。
【0062】
本発明の点眼剤は、共重合体(P)、共重合体(Q)、ポリヘキサメチレンビグアニドおよび所望により上記その他の成分を水に溶解させた水溶液形態のものである。水としては、安全性の点から、純水、イオン交換水等が好ましい。
本発明の点眼剤の具体的な製品形態としては、一般点眼薬、抗菌性点眼薬、洗眼薬、コンタクトレンズ装着液、人工涙液等を例示することができる。中でも、コンタクトレンズ装着液として使用することが好ましく、ソフトコンタクトレンズ装用者用として使用することがより好ましい。
【0063】
本発明の点眼剤を点眼するソフトコンタクトレンズは、FDA(Food and Drug Administration)により、グループI(含水率が50%未満で非イオン性であるソフトコンタクトレンズ)、グループII(含水率が50%以上で非イオン性であるソフトコンタクトレンズ)、グループIII(含水率が50%未満でイオン性であるソフトコンタクトレンズ)、グループIV(含水率が50%以上でイオン性であるソフトコンタクトレンズ)、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの5つに分類される。
【0064】
本発明の点眼剤は、これらのあらゆるソフトコンタクトレンズへ使用することができるが、ソフトコンタクトレンズ表面への潤滑性向上効果の観点から、グループIVのソフトコンタクトレンズへの使用が好ましい。
【0065】
本発明の点眼剤の製造方法について説明する。
本発明の点眼剤は共重合体(P)および所望により上記その他の成分を、室温~50℃程度の水中に添加、攪拌して溶解させることにより製造することができる。また共重合体(P)と上記その他の成分の添加順序としては、どの成分から添加してもよい。
製造における加熱、冷却および攪拌は溶液全体を均一に加熱、冷却および攪拌することができればよく、いずれの公知の器具、装置を用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0067】
1.重合体の分子量測定
得られた各重合体(P)5mgをメタノール/クロロホルム混合溶液(80:20)に溶解し、試料溶液とした。分析条件は以下を用いた。
カラム:PLgel-mixed-C
標準物質:ポリエチレングリコール
検出器:示差屈折計RI-8020(東ソー(株)製)
重量平均分子量の算出法:分子量計算プログラム(SC-8020用GPCプログラム)
流量:1mL/min
注入量:100μL
カラムオーブン:40℃付近の一定温度
【0068】
重合体の重量平均分子量は、上記したように、ポリエチレングリコールを標準サンプルとしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定した重量平均分子量の値である。
得られた重合体溶液を重合体濃度が0.5質量%となるようにメタノール/クロロホルム混合溶液(80:20)で希釈し、この液を0.45μmメンブランフィルターで濾過し、測定した。
【0069】
2.点眼剤のpH
各実施例および比較例の点眼剤のpHは、「第17改正日本薬局方 一般試験法 2.54 pH測定法」に従い実施した。
【0070】
3.点眼剤の浸透圧
各実施例および比較例の点眼剤の浸透圧は、「第17改正日本薬局方 一般試験法 2.47 浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)」に従い行った。具体的には、氷点測定法によるオズモメーター(Fiske Model 210 マイクロサンプル・オズモメーター)を用いて測定した。
【0071】
[合成例1](共重合体(P)の合成)
MPC(日油(株)製)31.8g、ステアリルメタクリレート(SMA,日油(株)製)3.6gおよびN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA、興人フィルム&ケミカルズ(株)製)9.6gを4つ口フラスコへ入れ、エタノール55.0gで溶解させ、30分窒素ガスの吹き込みを行った。この後、重合開始剤(パーブチルND(PB-ND)、日油(株)製)0.10gを加えて8時間重合反応を行った。重合反応後、重合液を3リットルのジエチルエーテル中にかき混ぜながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行い、粉末を得た。収量は40.2gであった。GPCにより重合体の分子量測定を行い、その重量平均分子量は1,000,000であった。これを重合体1とした。IR、NMR、元素分析から求めた重合体1の化学構造を下記表1に示す。
【0072】
[合成例2](共重合体(P)の合成)
下記表1に示す種類および量の成分を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って重合体を製造した。その重量平均分子量は1,200,000、収量は42.4gであった。IR、NMR、元素分析から求めた重合体2の化学構造を下記表1に示す。
【0073】
[合成例3](共重合体(P)の合成)
下記表1に示す種類および量の成分を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って重合体を製造した。その重量平均分子量は700,000、収量は36.1gであった。IR、NMR、元素分析から求めた重合体3の化学構造を下記表1に示す。
【0074】
[合成例4](共重合体(P)の合成)
下記表1に示す種類および量の成分を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って重合体を製造した。その重量平均分子量は1,000,000、収量は39.9gであった。IR、NMR、元素分析から求めた重合体4の化学構造を下記表1に示す。
【0075】
【0076】
共重合体Qとして、MPCに由来する構成単位と、ブチルメタクリレートに由来する構成単位とからなる共重合体であって、モル比率nd:neが80:20であり、重量平均分子量が600,000の共重合体(重合体5)を用いた。
【0077】
実施例の調製手順を下記に示す。なお、実施例および比較例で成分・配合量ともに共通しているものを「共通成分」とし、表2に示す。
【表2】
【0078】
[実施例1]
精製水約50gを80℃に加温し、これにヒプロメロース 60SH-50 0.1gを加え、攪拌した。目視で均一分散を確認後、47.5℃まで冷却し、さらに攪拌した。47.5℃を維持したまま、ホウ酸0.4g、塩化カリウム0.1g、グリセリン1.05g、トロメタモール1.05g、Cosmocil CQ(登録商標)0.00008g(20%水溶液であるため、塩酸ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンピグアニドの塩酸塩)としては0.000016gを含む)および重合体1(0.005g)、重合体5(0.095g)、塩酸 0.48gを順次加え、攪拌した。その後、これに全量100mLとなるよう精製水を加えた。この後、ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。この点眼剤の浸透圧は296mOsm/kg、浸透圧比にして1.03であり、pHは7.46、外観は無色透明であった。その詳細を下記表3に示す。
【0079】
[実施例2~8]
表3に示す類および量の成分を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って製造し、無菌の点眼剤とした。各実施例の外観、pHおよび浸透圧比を下記表3に示す。
【0080】
【0081】
[比較例1~5]
下記表4に示す種類および量の成分を使用した以外は、実施例と同様の手順に従って製造し、無菌の点眼剤とした。各比較例の外観、pHおよび浸透圧比を下記表4に示す。
【0082】
【0083】
<潤滑性向上効果の確認>
各実施例、比較例で製造した点眼剤による潤滑性の向上効果は以下の手順で確認した。なお、試験ではソフトコンタクトレンズ(以下、SCLともいう)を想定し、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)-メタクリル酸(MAA)ゲル板を作製し使用した。
【0084】
(手順)
<ゲル板の作製>
1)褐色スクリュー管に2-HEMA(日油(株)製)99.0075g、MAA(東京化成(株)製)1.0075g、エチレングリコールジメタクリレート(東京化成(株)製)0.7224g、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(富士フィルム和光純薬(株))0.5017gを加え、ウェーブロータで15分間攪拌混合した。
2)フィルター濾過後、板材作製用セルへピペッターで分注した。
3)100℃、1時間の条件で硬化した。
4)硬化後のゲル板をISO18369-3:2017に基づいて調製したISO生理食塩水に一晩浸漬させ、HEMA-MAAゲル板を得た。
【0085】
<摩擦係数の測定>
1)作製したゲル板を2cm×10cmにカットした。
2)実施例1~実施例8および比較例1~比較例5で製造した点眼剤にゲル板を浸漬し、KES-SEフリクションテスター(カトーテック(株)製)にてゲル板とプローブ間の摩擦係数を測定した。
【0086】
得られた摩擦係数により、潤滑性の評価を以下の基準で行った。
◎・・摩擦係数が0以上0.20以下
〇・・摩擦係数が0.20超1.0以下
△・・摩擦係数が1.0超
【0087】
摩擦係数測定結果を下記表5に示す。
共重合体(P)を配合しない比較例1と比較して、共重合体(P)を配合した実施例1~8および比較例2~5でより小さくなった。以上より、本発明の点眼剤は、優れた潤滑性を示す。
【0088】
【0089】
<点眼剤の保存効力の確認>
各実施例、比較例で製造した点眼剤の保存効力を以下の手順で確認した。
点眼剤の保存効力は、「第17改正 日本薬局方 参考情報 保存効力試験法」の項に従い実施した。細菌として、Escherichia coli(大腸菌、以下E.c.と略記)(NBRC3972)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌、以下P.a.と略記)(NBRC13275)、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌、以下S.a.と略記)(NBRC13276)の3種を用い、真菌として、Candida albicans(カンジダ菌、以下C.a.と略記)(NBRC13276)、Aspergillus brasiliensis(クロコウジカビ、以下A.b.と略記)(NBRC9455)の2種を用いた。
上記、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ菌、クロコウジカビを1mLあたり108cfu(Colony Forming Unit、コロニーを形成する能力がある単位数)となるようにあらかじめ培養し、試験菌液とした。この試験菌液を、1%(v/v)となるように実施例1~8および比較例1~5で製造した点眼液に対して添加し、接種菌数が1mLあたり106cfuとなるように調整し、25℃で保管した。
接種から7日後、14日後、28日後にサンプリングを行い、培養して、生菌数を測定した。判定は「第17改正 日本薬局方 参考情報 保存効力試験法」記載の判定基準(製剤区分:カテゴリーIA)に従った。判定基準を下記表6に示す。
【0090】
【0091】
保存効力試験結果を下記表7に示す。評価基準は、以下のとおりとする。
14日経過後のサンプリングで上記判定基準に不適合であった場合は△を、上記判定基準に適合した場合は○を示す。
【0092】
また、保存効力の総合評価を以下の基準とした
〇・・すべての細菌、真菌に対して上記判定基準に適合する場合
△・・少なくとも一部の細菌、真菌に対して上記判定基準に適合しない場合
【0093】
結果、実施例1~実施例8ではいずれの細菌、真菌でも判定基準を満たした。また、比較例1も判定基準に適合した。一方で、比較例2~5では判定基準を満たさなかった。
上記より、本発明の点眼剤は十分な保存効力を有する。
【0094】
【0095】
<SCL上での伸展性向上効果の確認>
各実施例、比較例で製造した点眼剤について実使用を想定した、ソフトコンタクトレンズを用いた伸展性向上効果の確認を以下の手順で検討した。
なお、伸展性向上効果の検討には、試験用SCLとしてワンデーアキュビュー(登録商標)(ジョンソンエンドジョンソン(株)製、FDA分類:グループIV)を用いた。
【0096】
(手順)
1)試験用SCLをブリスターパックから1枚取り出し、試験台に載せた
2)試験用SCL表面に、シリンジを用いて実施例1の点眼剤1μLを滴下した。
3)滴下後、1.5秒から5.5秒までの接触角を、接触角計 Drop Master500(協和界面科学(株)製)で測定し、濡れ性と伸展性を確認した。
【0097】
実施例2~実施例8および比較例1~比較例5の点眼剤についても上記試験に従って評価を行った。
得られた接触角の値に基づいて、親水性・伸展性の評価を以下の基準により行った。
◎ 点眼剤滴下後1.5秒~5.5秒までの接触角がすべて2°以下
〇 点眼剤滴下後3.5秒~5.5秒までの接触角がすべて2°以下(ただし上記◎を除く)
△ 点眼剤滴下後1.5秒~5.5秒までの接触角がすべて2°超
【0098】
親水性・伸展性評価結果を下記表8に示す。
ワンデーアキュビュートゥルーアイについては、共重合体(P)を配合した実施例1~8および比較例1~5で、測定不能となるほど接触角が小さくなり、高い親水性を有した。また、実施例1~5および比較例2~5は、点眼後1.5秒の時点で接触角が測定不能であり、SCL表面に素早く伸展していた。
以上より、本発明の点眼剤は、優れた親水性・伸展性を示す。
【0099】
【0100】
<まとめ>
上記試験結果のまとめを下記表9に示す。
【0101】
【0102】
上記より、本発明の点眼剤は、優れた潤滑性と保存効力を両立し、さらに眼表面やコンタクトレンズ上に素早く伸展することで保湿性や潤滑性向上効果を発揮できる。
【0103】
次に、上記した実施例1~8に記載の点眼剤に代えて、表10に示す配合により実施例9~16の点眼剤を調製した。実施例9~16に示す処方でも、点眼剤を調製できることがわかった。
【0104】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、角膜表面及びソフトコンタクトレンズ表面に対して十分な潤滑性を付与し、さらに十分な保存効力を有する新規な点眼剤を提供することができる。