(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化物、プリフォームならびに繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 59/18 20060101AFI20230131BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C08G59/18
C08J5/24 CFC
(21)【出願番号】P 2019557515
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040855
(87)【国際公開番号】W WO2020100513
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018212178
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平野 公則
(72)【発明者】
【氏名】富岡 伸之
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-204262(JP,A)
【文献】国際公開第2006/008984(WO,A1)
【文献】特開2006-052385(JP,A)
【文献】特開平09-137043(JP,A)
【文献】特表2018-502195(JP,A)
【文献】特開2016-084451(JP,A)
【文献】特開2005-298713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/18
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分[A]および成分[B]を含み、エポキシ樹脂組成物100質量%中に成分[B]を
20質量%以上、結晶性成分を
80質量%以上含み、かつ成分[A]と成分[B]の融点の差が0~
50℃である繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
成分[A]:結晶性エポキシ樹脂
成分[B]:結晶性アミン硬化剤
【請求項2】
成分[A]が2官能結晶性エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
成分[B]が2官能結晶性アミン硬化剤を含む、請求項1または2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
成分[A]がビフェニル型エポキシ樹脂およびビスフェノール型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上の結晶性エポキシ樹脂を含む、請求項2または3に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
成分[B]に含まれる活性水素のモル数が、エポキシ樹脂組成物全体に含まれるエポキシ基のモル数の1.05~1.70倍である、請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
さらに成分[C]:結晶性硬化促進剤を含む、請求項1~5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物であって、ガラス転移温度X(℃)とゴム状態弾性率Y(MPa)が下記式(1)を満たす、エポキシ樹脂硬化物。
0.25X-37≦Y≦0.25X-19 ・・・(1)
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物とドライ強化繊維基材とを有する、プリフォーム。
【請求項9】
請求項8に記載のプリフォームを含浸および硬化させてなる、繊維強化複合材料。
【請求項10】
請求項9に記載の繊維強化複合材料に含まれるエポキシ樹脂硬化物の、ガラス転移温度X(℃)とゴム状態弾性率Y(MPa)が下記式(1)を満たす、繊維強化複合材料。
0.25X-37≦Y≦0.25X-19 ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料に用いられる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いてなるエポキシ樹脂硬化物、プリフォームならびに繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化複合材料をはじめとした繊維強化複合材料は、近年、特に航空機用途および自動車用途向けに需要が拡大している。繊維強化複合材料を航空機等の構造部材に適用するには、優れた特性が必須であり、特に高耐熱性と高靭性の両立が求められる。
【0003】
通常、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる。中でも、多官能型エポキシ樹脂は、架橋密度の高い硬化物が得られるため、高弾性率かつ耐熱性の高い樹脂設計が可能となることから好適に用いられる。しかし、多官能型エポキシ樹脂は、変形能力が小さく靭性の低い樹脂硬化物となる傾向があった。
【0004】
また、従来の繊維強化複合材料に使用しているマトリックス樹脂は、強化繊維基材への含浸性を十分とするため、常温において液状や半固形状の樹脂を使用している。
【0005】
常温で固体の樹脂を使用する例として、例えば、特許文献1には、結晶性エポキシ樹脂と結晶性アミン硬化剤に溶剤を加えてワニスとし、繊維基材に含浸させ、樹脂を半硬化させて得られるプリプレグが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、結晶性エポキシ樹脂と結晶性フェノール硬化剤に一部結晶性アミン硬化剤を含むエポキシ樹脂粉体組成物を溶融して繊維質基材に含侵させたエポキシ樹脂組成物含浸シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2008/018364号
【文献】特開平8-325395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、特に航空機用途や自動車用途において、より汎用的に繊維強化複合材料を適用するために、低コスト、低環境負荷である材料が求められている。しかしながら、発明者らの検討によれば、従来の繊維強化複合材料に用いられる常温で液状や半固形状の樹脂は、樹脂調合設備や樹脂注入設備内に樹脂が残存する等ロスが多く発生するため、取扱い難い形態である。また、例えばプリプレグ法を適用する場合、まずマトリックス樹脂のフィルムを作製し、続いて作製したフィルムを強化繊維に含浸させる工程となるが、樹脂フィルム作製時には離型性のあるフィルム等の副資材が必要となることが多く、コストが嵩みやすい。さらに、常温で液状や半固形状の樹脂組成物とするため、常温で固形状の成分を多量に配合することが難しかった。
【0009】
また、特許文献1に記載の材料は、溶剤を含ませた樹脂組成物を繊維基材に含浸させるため樹脂組成物の取り扱いに劣るとともに、溶剤を揮発させて作製するため繊維強化複合材料とした時の外観および力学特性に劣るものであった。
【0010】
特許文献2に記載の材料は、硬化剤の主成分がフェノール硬化剤であり、耐熱性に劣る材料であった。
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を改良し、常温での取り扱い性に優れ、高耐熱性と高靭性を両立し、強化繊維複合材料とした時の樹脂含侵性に優れる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、およびそれを用いてなるエポキシ樹脂硬化物、プリフォームならびに繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は以下の構成からなる。
【0013】
(1)成分[A]および成分[B]を含み、エポキシ樹脂組成物100質量%中に成分[B]を10質量%以上、結晶性成分を70質量%以上含み、かつ成分[A]と成分[B]の融点の差が0~60℃である繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【0014】
成分[A]:結晶性エポキシ樹脂
成分[B]:結晶性アミン硬化剤。
【0015】
(2)前記(1)に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物であって、ガラス転移温度X(℃)とゴム状態弾性率Y(MPa)が下記式(1)を満たす、エポキシ樹脂硬化物。
【0016】
0.25X-37≦Y≦0.25X-19 ・・・(1)。
【0017】
(3)前記(1)に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物とドライ強化繊維基材とを有する、プリフォーム。
【0018】
(4)前記(3)に記載のプリフォームを含浸および硬化させてなる、繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、常温での取り扱い性に優れ、高耐熱性と高靭性を両立し、繊維強化複合材料とした時の樹脂含侵性に優れる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、および、それを用いてなるプリフォーム、繊維強化複合材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について説明する。
【0021】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、成分[A]および成分[B]を含み、エポキシ樹脂組成物100質量%中に成分[B]を10質量%以上、結晶性成分を70質量%以上含み、かつ成分[A]と成分[B]の融点の差が0~60℃である。
【0022】
成分[A]:結晶性エポキシ樹脂
成分[B]:結晶性アミン硬化剤。
【0023】
なお、本発明において、「繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物」を単に「エポキシ樹脂組成物」という場合がある。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる成分[A]:結晶性エポキシ樹脂は、一分子内に1個以上のエポキシ基を有し、かつ結晶性を有する化合物である。結晶性エポキシ樹脂は一分子内に1個以上のエポキシ基を有し、かつ結晶性を有する化合物1種類のみからなるものでも良く、複数種の混合物であっても良い。
【0025】
ここで結晶性を有するとは、常温以上の温度に融点を有し、常温で固体の成分のことである。融点は、JIS K 7121:2012に従って、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる。結晶性成分を窒素雰囲気下において昇温測定を行い、得られたDSC曲線における吸熱ピークの頂点温度を融点として得ることができる。なお、常温とは25℃を指す。
【0026】
成分[A]:結晶性エポキシ樹脂を含むことにより、常温での取り扱い性が良く、結晶性エポキシ樹脂の剛直な骨格により耐熱性を維持することができる。
【0027】
本発明に好適に用いられる結晶性エポキシ樹脂の例として、水酸基を複数有するフェノール化合物から得られる芳香族グリシジルエーテル、水酸基を複数有するアルコール化合物から得られる脂肪族グリシジルエーテル、アミン化合物から得られるグリシジルアミン、カルボキシル基を複数有するカルボン酸化合物から得られるグリシジルエステルなどのうち、結晶性を有する種々のエポキシ樹脂が挙げられる。具体的には、特に限定されるものではないが、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、フェニレンエーテル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テレフタル酸型エポキシ樹脂、イソシアヌル酸型エポキシ樹脂、フタルイミド型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂などである。
【0028】
結晶性エポキシ樹脂の中でも、硬化物とした時の架橋密度が高くなりにくく塑性変形能力を維持しながら、優れた耐熱性も得られやすいことから、成分[A]が2官能結晶性エポキシ樹脂を含むことが好ましい。2官能結晶性エポキシ樹脂とは、一分子内に2個のエポキシ基を有し、かつ結晶性を有する化合物である。成分[A]100質量%中の2官能結晶性エポキシ樹脂の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、100質量%である。本発明のエポキシ樹脂組成物において、成分[A]が2官能結晶性エポキシ樹脂であることが特に好ましい。
【0029】
2官能結晶性エポキシ樹脂の中でも特に、耐熱性や取り扱い性の観点から、成分[A]がビフェニル型エポキシ樹脂およびビスフェノール型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種以上の結晶性エポキシ樹脂を含むことが好ましい。成分[A]100質量%中のビフェニル型エポキシ樹脂およびビスフェノール型エポキシ樹脂の合計含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、100質量%である。本発明のエポキシ樹脂組成物において、成分[A]がビフェニル型エポキシ樹脂またはビスフェノール型エポキシ樹脂2官能結晶性エポキシ樹脂であることが特に好ましい。
【0030】
成分[A]:結晶性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物100質量%中に30質量%以上含まれることが好ましく、50質量%以上含まれることがより好ましい。エポキシ樹脂組成物100質量%中に30質量%以上含むことにより、常温での樹脂組成物の取り扱い性および、硬化物とした時の耐熱性に優れやすくなる。上限については、特に限定されないが、90質量%であり、80質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、成分[A]:結晶性エポキシ樹脂と併用して他のエポキシ樹脂を含んでもよい。他のエポキシ樹脂は、一分子内に1個以上のエポキシ基を有する化合物であり、常温で液状、半固形、ガラス状固形のいずれの形態であってもよい。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる成分[B]:結晶性アミン硬化剤は、一分子内に1個以上のアミノ基を有し、かつ結晶性を有する化合物である。結晶性アミン硬化剤は一分子内に1個以上のアミノ基を有し、かつ結晶性を有する化合物1種類のみからなるものでも良く、複数種の混合物であっても良い。なお、結晶性を有する、とは上記のとおり、常温以上の温度に融点を有し、常温で固体の成分のことである。
【0033】
ここでアミノ基は、活性水素を有さない3級アミン、活性水素を1つ有する2級アミン、活性水素を2つ含む1級アミンのいずれであってもよいが、硬化物とした時の耐熱性の観点から、活性水素を2つ含む1級アミンであることが好ましい。
【0034】
成分[B]:結晶性アミン硬化剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の硬化剤であり、エポキシ基とアミンが反応することで樹脂の硬化物が得られる。結晶性アミン硬化剤を含むことにより、常温での取り扱い性が良く、硬化物とした時の架橋密度が高くなりにくく塑性変形能力を維持できる。
【0035】
本発明に好適に用いられる結晶性アミン硬化剤としては、脂肪族アミン、芳香族アミンのいずれも用いることができるが、硬化物の耐熱性の観点で芳香族ポリアミンを用いることが好ましい。
【0036】
また、結晶性アミン硬化剤の中でも、硬化物とした時の架橋密度が高くなりにくく塑性変形能力を維持しながら、優れた耐熱性も得られやすいことから、成分[B]が2官能結晶性アミン硬化剤を含むことが好ましい。2官能結晶性アミン硬化剤とは、一分子内に2個のアミノ基を有し、かつ結晶性を有する化合物である。成分[B]100質量%中の2官能結晶性アミン硬化剤の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、100質量%である。本発明のエポキシ樹脂組成物において、成分[B]が2官能結晶性アミン硬化剤であることが特に好ましい。
【0037】
2官能結晶性アミン硬化剤のうちの芳香族ポリアミンとして、特に限定されるものではないが、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル、ビスアニリンM、ビスアニリンP、ビスアミノフェノキシベンゼン、ビスアミノフェノキシフェニルプロパン、ビスアミノフェノキシフェニルスルホン、ビスアミノフェニルフルオレンおよびこれらの誘導体、またはこれらの各種異性体を好適に用いることができる。
【0038】
特に、耐熱性や取り扱い性の観点で、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ビスアミノフェニルフルオレンおよびこれらの誘導体、またはこれらの各種異性体を用いることがより好ましい。
【0039】
成分[B]:結晶性アミン硬化剤は、エポキシ樹脂組成物100質量%中に10質量%以上含まれ、15質量%以上含まれることが好ましく、20質量%以上含まれることがより好ましい。常温での樹脂組成物の取り扱い性および、硬化物とした時の耐熱性に優れやすくなる。エポキシ樹脂組成物100質量%中に10質量%未満しか含まれない場合、常温での樹脂組成物の取り扱いが悪く、硬化物とした時の耐熱性が不足する。上限については、特に限定されないが、通常、60質量%程度であり、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。
【0040】
成分[B]:結晶性アミン硬化剤に含まれる活性水素のモル数が、エポキシ樹脂組成物全体に含まれるエポキシ基のモル数の1.05~1.70倍であることが好ましく、1.20~1.70倍であることがより好ましい。結晶性アミン硬化剤に含まれる活性水素のモル数がエポキシ樹脂組成物全体に含まれるエポキシ基のモル数が1.05~1.70倍であることにより、硬化物の十分な耐熱性を維持しながら、靭性をさらに向上できる場合がある。
【0041】
かかるエポキシ樹脂組成物には、成分[B]:結晶性アミン硬化剤と併用して、他の硬化剤を含んでもよい。他の硬化剤は、一分子内に1個以上のエポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物であればよく、常温で液状、半固形、ガラス状固形のいずれの形態であってもよい。
【0042】
本発明に用いることのできる他の硬化剤の例としては、アミン系、フェノール系、酸無水物系、メルカプタン系の硬化剤などが挙げられる。アミン系の他の硬化剤として、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミン、脂肪族アミン、アミノ安息香酸エステル類、チオ尿素付加アミン、ヒドラジドなどのうち、結晶性アミン硬化剤でないものを例示できる。フェノール系の他の硬化剤として、ビスフェノール、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物などを例示できる。酸無水物系の他の硬化剤として、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、カルボン酸無水物などを例示できる。メルカプタン系の他の硬化剤として、ポリメルカプタン、ポリスルフィド樹脂などを例示できる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに成分[C]:結晶性硬化促進剤を含むことが好ましい。結晶性硬化促進剤は、エポキシ樹脂と硬化剤の結合形成による硬化反応を速やかに円滑にする成分であり、かつ結晶性を有する化合物である。結晶性硬化促進剤を含むことにより、硬化時間が短縮され、生産性を向上できる場合がある。なお、結晶性を有する、とは上記のとおり、常温以上の温度に融点を有し、常温で固体の成分のことである。
【0044】
成分[C]:結晶性硬化促進剤の例としては、イミダゾール類、3級アミン、有機リン化合物、ウレア化合物、フェノール化合物、アンモニウム塩、スルホニウム塩などが挙げられる。
【0045】
特に、硬化性と安定性の観点から、有機リン化合物、ウレア化合物、フェノール化合物が好ましい。
【0046】
成分[C]:結晶性硬化促進剤は、エポキシ樹脂組成物100質量%中に0.1~10質量%含まれることが好ましく、0.5~5質量%含まれることがより好ましい。エポキシ樹脂組成物100質量%中に0.1~10質量%含まれることにより、常温でのエポキシ樹脂組成物の安定性を確保しながら、硬化時間を短縮することができる場合がある。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物100質量%中に、結晶性成分を70質量%以上含む。結晶性成分の含有量は、エポキシ樹脂組成物100質量%中に、70質量%以上100質量%以下であり、80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。ここで、結晶性成分の含有量とは、複数の異なる結晶性成分を含む場合(具体的には、成分[A]、成分[B]、および含まれる場合には成分[C]、ならびに、その他常温以上の温度に融点を有し、常温で固体の成分を含む場合)には、それらの合計の含有量を意味する。結晶性成分の含有量が70質量%以上となることで、エポキシ樹脂組成物の常温での取り扱い性に優れるとともに、加熱溶融した際のドライ強化繊維への含浸性に優れる。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、成分[A]と成分[B]の融点の差が0~60℃であり、0~50℃であることが好ましく、0~40℃であることがより好ましい。成分[A]と成分[B]の融点の差が60℃よりも大きくなると、該当組成物を加熱した際に、成分の融解しやすさが異なるため、得られる硬化物が不均一となる。なお、成分[A]または成分[B]が複数の融点を有する場合、最も融点の差が大きくなる組み合わせでの融点の差を指す。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、25℃における複素粘度η*が1×107Pa・s以上であることが好ましく、3×107Pa・s以上であることがより好ましい。25℃における複素粘度η*が1×107Pa・s以上であることにより、常温では当該組成物が容易には流動せず、取り扱い性が良くなりやすい。なお、エポキシ樹脂組成物の複素粘度η*は、樹脂サンプルをパラレルプレートにセットし動的粘弾性測定装置を用いて測定できる。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物を調製する方法は、特に限定されるものではないが、例えば構成する成分を一旦加熱相溶した後、冷却して再結晶化することでエポキシ樹脂組成物としてもよいし、構成する成分を粉体状として粉体を圧着することでエポキシ樹脂組成物としてもよい。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物であって、ガラス転移温度X(℃)とゴム状態弾性率Y(MPa)が下記式(1)を満たす。
【0052】
0.25X-37<Y≦0.25X-19 ・・・(1)。
【0053】
ゴム状態弾性率Yが上記式(1)を満たすことにより、エポキシ樹脂硬化物が塑性変形能力を有し、十分な樹脂靭性を発現しやすい。上記式(1)を満たすための手段としては、例えば、エポキシ樹脂組成物が成分[A]結晶性エポキシ樹脂および成分[B]結晶性アミン硬化剤を含むことで、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性、すなわちXの値を上がりやすくすることにより上記式(1)を満たしやすくすることができる。また、例えば、成分[A]、成分[B]として2官能の成分を用いることで硬化物の架橋が少なくなり、ゴム状態弾性率Yの値が低下することによって、上記式(1)をさらに満たしやすくすることができる。
【0054】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ドライ強化繊維基材と組み合わせたプリフォームとして用いることが好ましい。また、本発明のプリフォームは、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物とドライ強化繊維基材とを有する。すなわち、本発明のプリフォームは、エポキシ樹脂組成物がドライ強化繊維基材の表面に、直接もしくは間接的に接触した形態である。例えば、ドライ強化繊維基材の上にエポキシ樹脂組成物が存在する形態であってもよいし、エポキシ樹脂組成物の上にドライ強化繊維基材が存在する形態であってもよいし、それを積層した形態であってもよい。また、エポキシ樹脂組成物とドライ強化繊維基材が、フィルムや不織布などを介して間接的に接触した形態であっても良い。
【0055】
本発明において、ドライ強化繊維基材には、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維およびボロン繊維等、種々の有機および無機繊維が用いられる。中でも、軽量でありながら、強度や、弾性率等の力学物性が優れる繊維強化複合材料が得られるという理由から、炭素繊維が好適に用いられる。
【0056】
なお、本発明において、ドライ強化繊維基材とは、強化繊維基材にマトリックス樹脂が含浸していない状態の強化繊維基材を指す。したがって、本発明のプリフォームは、マトリックス樹脂が強化繊維に含浸されたプリプレグとは異なるものである。ただし、本発明におけるドライ強化繊維基材には、少量のバインダーが含浸していてもかまわない。なお、バインダーとは、積層したドライ強化繊維基材の層間をバインドする成分であり、硬化剤や触媒を含まない熱可塑性樹脂からなる成分が好ましい。また、後述する本発明の繊維強化複合材料は、エポキシ樹脂組成物が含浸され、それが硬化されている状態であるから、ドライ強化繊維とは言わない。
【0057】
本発明におけるドライ強化繊維は、短繊維および連続繊維のいずれであってもよく、両者を併用することもできる。高い繊維体積含有率(高Vf)の繊維強化複合材料を得るためには、連続繊維が好ましく用いられる。
【0058】
本発明におけるドライ強化繊維はストランドの形態で用いられることもあるが、ドライ強化繊維をマット、織物、ニット、ブレイド、および一方向シート等の形態に加工したドライ強化繊維基材が好適に用いられる。中でも、高Vfの繊維強化複合材料が得やすく、かつ取扱い性に優れた織物が好適に用いられる。
【0059】
本発明のプリフォームを繊維強化複合材料とした時に、繊維強化複合材料が高い比強度、あるいは比弾性率をもちやすくするためには、強化繊維の繊維体積含有率Vfが、好ましくは30~85%であり、より好ましくは35~70%の範囲内である。ここで言う、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vfとは、ASTM D3171(1999)に準拠して、下記により定義され、測定される値である。つまり、ドライ強化繊維基材にエポキシ樹脂組成物を含浸させ、当該組成物を硬化した後の状態で測定される値をいう。よって、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vfの測定は、繊維強化複合材料の厚みhから、下記式(2)を用いて表すことができる。
【0060】
・繊維体積含有率Vf(%)=(Af×N)/(ρf×h×10) ・・・(2)
・Af:ドライ強化繊維基材1枚・1m2当たりの質量(g/m2)
・N:ドライ強化繊維基材の積層枚数(枚)
・ρf:ドライ強化繊維基材の密度(g/cm3)
・h:繊維強化複合材料(試験片)の厚み(mm)。
【0061】
ドライ強化繊維基材1枚・1m2当たりの質量Afや、ドライ強化繊維基材の積層枚数Nおよびドライ強化繊維基材の密度ρfが明らかでない場合は、JIS K 7075(1991)に基づく燃焼法、硝酸分解法および硫酸分解法のいずれかにより、繊維強化複合材料の繊維体積含有率を測定する。この場合に用いられる強化繊維の密度は、JIS R 7603(1999)に基づき測定した値を用いる。
【0062】
具体的な繊維強化複合材料の厚みhの測定方法としては、JIS K 7072(1991)に記載されているように、JIS B 7502(1994)に規定のマイクロメーターまたはこれと同等以上の精度をもつもので測定することが好ましい。繊維強化複合材料が複雑な形状をしていて、厚みの測定ができない場合には、繊維強化複合材料からサンプル(測定用としてのある程度の形と大きさを有しているサンプル)を切り出して、測定するのが望ましい。
【0063】
本発明の繊維強化複合材料は、本発明のプリフォームを含浸および硬化させてなる。すなわち、本発明の繊維強化複合材料は、本発明のエポキシ樹脂組成物がドライ強化繊維基材に含浸され、それが硬化されてなるものである。
【0064】
本発明の繊維強化複合材料を製造する方法としては、例えば、エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させながら成形する成形工程、および、硬化させて繊維強化複合材料とする硬化工程を有する方法が挙げられる。
【0065】
本発明の繊維強化複合材料を製造する方法における成形工程には、プレス成形法やフィルムバッグ成形法、オートクレーブ成形法など種々の方法を用いることができる。これらのうち、生産性や成形体の形状自由度という観点から、特にプレス成形法およびフィルムバッグ成形法が好適に用いられる。
【0066】
フィルムバッグ成形法としては、剛体オープンモールドと可撓性のフィルムの間にエポキシ樹脂組成物とドライ強化繊維基材から構成されるプリフォームを配置し、内部を真空吸引して、大気圧を付与しつつ加熱成形する方法、あるいは、気体や液体により加圧しつつ加熱成形する方法が好ましく例示される。
【0067】
プレス成形法を用いて、本発明の繊維強化複合材料を製造する方法の一例について説明する。本発明の繊維強化複合材料は、例えば、特定温度に加熱した成形型内に、エポキシ樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなる繊維強化複合材料用プリフォームを配置した後、プレスで加圧・加熱することにより、樹脂組成物が溶融し、強化繊維基材に含浸した後、そのまま硬化することにより製造することができる。
【0068】
本発明の繊維強化複合材料に含まれるエポキシ樹脂硬化物の、ガラス転移温度X(℃)とゴム状態弾性率Y(MPa)が上記式(1)を満たすことが好ましい。上記式(1)を満たすことにより、繊維強化複合材料としての耐熱性と耐衝撃特性に優れるものが得られやすくなる。
【0069】
成形型の温度は、ドライ強化繊維基材への含浸性の点から、使用する樹脂組成物の複素粘度η*が1×101Pa・sまで低下する温度以上の温度とすることが好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例5、9、および17は、それぞれ参考例5、9、および17とする。
【0071】
<樹脂原料>
各実施例のエポキシ樹脂組成物を得るために、次の樹脂原料を用いた。表1-1、表1-2中のエポキシ樹脂組成物の含有割合の単位は、特に断らない限り「質量部」を意味する。
【0072】
1.成分[A]:結晶性エポキシ樹脂
・“jER(登録商標)”YX4000(三菱化学(株)製):ビフェニル型エポキシ樹脂、融点=105℃
・“jER(登録商標)”YL6121H(三菱化学(株)製):ビフェニル型エポキシ樹脂、融点=120℃
・YSLV‐80DE(新日鉄住金化学(株)製):フェニレンエーテル型エポキシ樹脂、融点=82℃
・YSLV‐80XY(新日鉄住金化学(株)製):ビスフェノールF型エポキシ樹脂、融点=81℃
・YDC‐1312(新日鉄住金化学(株)製):ハイドロキノン型エポキシ樹脂、融点=142℃
・“デナコール(登録商標)”EX-711(ナガセケムテックス(株)製):テレフタル酸型エポキシ樹脂、融点=106℃。
【0073】
・TEPIC‐S(日産化学(株)製):イソシアヌル酸型エポキシ樹脂、融点=110℃。
【0074】
2.その他のエポキシ樹脂
・YD-128(新日鉄住金化学(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状
・“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ガラス状固形。
【0075】
3.成分[B]:結晶性アミン硬化剤
・“Lonzacure(登録商標)”M-DEA(Lonza(株)製):4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン、融点=89℃
・3,3’-DAS(小西化学工業(株)製):3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、融点=170℃
・ビスアニリンM(三井化学ファイン(株)製):1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、融点=114℃
・“Lonzacure(登録商標)”CAF(Lonza(株)製):9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、融点=201℃。
【0076】
4.その他の硬化剤
・ビスフェノールA(関東化学(株)製):4,4’-イソプロピリデンジフェノール、融点=158℃。
【0077】
5.成分[C]: 結晶性硬化促進剤
・DIC-TBC(DIC(株)製):4-tert-ブチルカテコール、融点=53℃。
【0078】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
表1-1、表1-2に記載した原料と配合比でエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を硬化反応が実質的に進まない温度/時間条件にて加熱攪拌により均一に溶融混合し、注型した後、急冷することでエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0079】
<結晶性成分の融点測定>
使用した各樹脂原料の融点は、JIS K 7121:2012に従って、示差走査熱量測定(DSC)により測定した。測定装置としてはPyris1 DSC(Perkin Elmer製)を使用した。結晶性成分をアルミサンプルパンに約10mg採取し、窒素雰囲気下において、10℃/minの昇温速度で測定を行った。得られたDSC曲線において、成分の融解による吸熱ピークの頂点の温度を融点として測定した。
【0080】
<エポキシ樹脂組成物の複素粘度η*測定>
前記のように調製したエポキシ樹脂組成物を試料として、動的粘弾性測定により測定した。測定装置にはARES-G2(TA Instruments社製)を使用した。試料を8mmのパラレルプレートに厚み1mmとなるようにセットし、0.5Hzの牽引周期を加え、25℃で測定し、複素粘度η*を測定した。
【0081】
<エポキシ樹脂組成物の硬化時間の測定>
前記のように調製したエポキシ樹脂組成物を試料として、熱硬化測定装置ATD-1000(Alpha Technologies(株)製)を用いて180℃に加熱したステージに試料を約5g投入し、周波数1.0Hz、歪み1.0%で動的粘弾性測定を行った。このとき、複素粘度η*が1.0×107Pa・sに達するまでの時間を硬化時間とした。複素粘度η*が1.0×107Pa・sまで到達しない場合は、複素粘度η*の上昇が飽和した時間を硬化時間とした。
【0082】
<エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度Xとゴム状態弾性率Yの測定>
前記のとおり調製したエポキシ樹脂組成物を加熱融解し、厚み2mmになるように設定したモールド中に注入した。180℃の温度で4時間硬化させ、厚さ2mmの樹脂硬化物を得た。次に、得られた樹脂硬化物の板から、幅10mm、長さ40mmの試験片を切り出し、動的粘弾性測定装置(ARES:TAインスツルメント社製)を用い、固体ねじり治具に試験片をセットし、昇温速度5℃/分、周波数1Hz、歪み量0.1%にて30~300℃の温度範囲について測定を行った。この時、ガラス転移温度は、得られた貯蔵弾性率と温度のグラフにおいて、ガラス領域に引いた接線と、ガラス転移領域に引いた接線との交点における温度である。ゴム状態弾性率は、得られた貯蔵弾性率と温度のグラフにおいて、ガラス転移温度を50℃上回る温度における貯蔵弾性率である。
【0083】
<エポキシ樹脂硬化物の樹脂靭性測定>
前記のとおり調製したエポキシ樹脂組成物を加熱融解し、厚み6mmになるように設定したモールド中に注入した。180℃の温度で4時間硬化させ、厚さ6mmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物を12.7×150mmのサイズにカットし、試験片を得た。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、ASTM D5045(1999)に従って試験片の加工および実験をおこなった。試験片への初期の予亀裂の導入は、液体窒素温度まで冷やした剃刀の刃を試験片にあてハンマーで剃刀に衝撃を加えることで行った。ここでいう、樹脂硬化物の靱性とは、変形モードI(開口型)の臨界応力拡大係数のことを指している。
【0084】
<繊維強化複合材料の作製>
下記のプレス成形法によって繊維強化複合材料を製造した。350mm×700mm×2mmの板状キャビティーを有し、所定の温度(成形温度)に保持した金型内にて、ドライ強化繊維基材として炭素繊維織物CO6343(炭素繊維:T300-3K、組織:平織、目付:198g/m2、東レ(株)製)を9枚積層した基材の上に、前記のように調製したエポキシ樹脂組成物を290g配置したプリフォームをセットした。その後、プレス装置で型締めを行った。この時、金型内を真空ポンプにより大気圧-0.1MPaに減圧した後、最大4MPaの圧力でプレスした。金型温度は、使用する熱硬化性樹脂組成物中に含まれる結晶性成分が有する内で最も高い融点の温度よりも10℃高い温度に設定した。ただし、その温度が180℃以下となる場合は180℃に設定した。プレス開始後4時間で金型を開き、脱型して、繊維強化複合材料を得た。
【0085】
<ドライ強化繊維基材への樹脂含浸性>
前記の繊維強化複合材料を作製する際の樹脂のドライ強化繊維基材への含浸性について、繊維強化複合材料中のボイド量を基準に次の3段階で比較評価した。
【0086】
繊維強化複合材料中のボイド量が1%未満と、ボイドが実質的に存在しないものを「A」、繊維強化複合材料の外観に樹脂未含浸部分は認められないが、繊維強化複合材料中のボイド量が1%以上であるが維強化複合材料の外観に樹脂未含浸部分が認められないものを「B」、繊維強化複合材料の外観に樹脂未含浸部分が認められるものを「C」とした。
【0087】
繊維強化複合材料中のボイド量は、平滑に研磨した繊維強化複合材料にて任意に選定した断面を、平滑に研磨した面を落斜型光学顕微鏡で観察し、繊維強化複合材料中のボイドの面積率から算出した。
【0088】
(実施例1)
表1-1に示したように、ビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YX4000」100質量部、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」42質量部を溶融混合した後、常温まで急冷し、結晶化させてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、手で持ち上げた際にも変形することなく、常温での取り扱い性に優れるものであった。また、この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は187℃であり、優れた耐熱性を有した。硬化物の樹脂靭性は0.8MPa・m1/2であり、十分な樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は、表面に未含浸部は無く、内部のボイドもほぼなく、含浸性に優れるものであった。
【0089】
(実施例2)
表1-1に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YL6121H」100質量部とし、使用する成分[B]を3,3’-ジアミノジフェニルスルホン「3,3’-DAS」35質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は181℃であり、樹脂靭性は1.1MPa・m1/2であり優れた耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0090】
(実施例3)
表1-1に示したように、使用する成分[A]をフェニレンエーテル型エポキシ樹脂「YSLV‐80DE」100質量部とし、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」45質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は140℃であり、樹脂靭性は0.6MPa・m1/2であり十分な耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0091】
(実施例4)
表1-1に示したように、使用する成分[A]をビスフェノールF型エポキシ樹脂「YSLV‐80XY」100質量部とし、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」40質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は176℃であり、樹脂靭性は0.7MPa・m1/2であり十分な耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0092】
(実施例5)
表1-1に示したように、使用する成分[A]をハイドロキノン型エポキシ樹脂「YDC‐1312」100質量部とし、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」44質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は180℃であり、樹脂靭性は0.7MPa・m1/2であり十分な耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は、成分[A]と成分[B]の融点差がやや大きいため、含浸時に成分の融解しやすさが異なったが十分な含侵性であった。
【0093】
(実施例6)
表1-1に示したように、使用する成分[A]をテレフタル酸型エポキシ樹脂「EX-711」100質量部とし、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」53質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は179℃であり、樹脂靭性は0.8MPa・m1/2であり十分な耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0094】
(実施例7)
表1-1に示したように、使用する成分[A]をイソシアヌル酸型エポキシ樹脂「TEPIC-S」100質量部とし、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」79質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は263℃であり、樹脂靭性は0.6MPa・m1/2であり優れた耐熱性と十分な樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0095】
(実施例8)
表1-1に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YL6121H」100質量部とし、使用する成分[B]を1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン「ビスアニリンM」49質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は181℃であり、樹脂靭性は1.2MPa・m1/2であり優れた耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0096】
(実施例9)
表1-1に示したように、使用する成分[A]をハイドロキノン型エポキシ樹脂「YDC‐1312」100質量部とし、使用する成分[B]を9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン「“Lonzacure(登録商標)”CAF」59質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は200℃であり、樹脂靭性は0.9MPa・m1/2であり優れた耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は、成分[A]と成分[B]の融点差がやや大きいため、含浸時に成分の融解しやすさが異なったが十分な含侵性であった。
【0097】
(実施例10~13)
表1-2に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YL6121H」100質量部とし、使用する成分[B]を3,3’-ジアミノジフェニルスルホン「3,3’-DAS」として、成分[B]に含まれる活性水素のモル数がエポキシ樹脂組成物全体に含まれるエポキシ基のモル数のそれぞれ1.1倍(実施例9)、1.25倍(実施例10)、1.5倍(実施例11)、1.75倍(実施例12)となるように、成分[B]の配合量を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。これらの樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度はそれぞれ、179℃、169℃、155℃、135℃であった。樹脂靭性はそれぞれ、1.2MPa・m1/2、1.5MPa・m1/2、1.3MPa・m1/2、1.0MPa・m1/2であり、十分以上の耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0098】
(実施例14、15)
表1-2に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YX4000」100質量部とし、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」42質量部とし、さらに成分[C]を4-tert-ブチルカテコール「DIC-TBC」3質量部(実施例13)、または5質量部(実施例14)添加したこと以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。これらの樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度はそれぞれ、180℃、170℃であった。樹脂靭性はいずれも0.7MPa・m1/2であり、十分な耐熱性と樹脂靭性を有した。成分[C]を添加したことにより、樹脂組成物の硬化時間はそれぞれ、184分、178分となり、成分[C]を添加しない場合の226分と比較して大幅に硬化時間が短縮された。この樹脂組成物を用いてドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0099】
(実施例16)
表1-2に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YX4000」80質量部、その他のエポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”1001」20質量部、成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」37質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。これらの樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は180℃であり、樹脂靭性は0.8MPa・m1/2であり十分な耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物を用いてドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0100】
(実施例17)
表1-2に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YX4000」70質量部、その他のエポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”1001」30質量部、成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」34質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。これらの樹脂組成物は、25℃における複素粘度が2.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は169℃であり、樹脂靭性は0.8MPa・m1/2であり十分な耐熱性と樹脂靭性を有した。この樹脂組成物を用いてドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は十分な含浸性であった。
【0101】
(比較例1)
表1-2に示したように、使用する成分[A]をフェニレンエーテル型エポキシ樹脂「YSLV‐80DE」100質量部とし、使用する成分[B]を3,3’-ジアミノジフェニルスルホン「3,3’-DAS」35質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は148℃であり、樹脂靭性は0.6MPa・m1/2でありやや樹脂靭性が劣るものであった。この樹脂組成物とドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は、成分[A]と成分[B]の融点差が大きく、含浸時に成分の融解しやすさが異なったため均一に含浸せず、含浸性に劣るものであった。
【0102】
(比較例2)
表1-2に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YX4000」40質量部、その他のエポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂「YD-128」60質量部、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」42質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×105Pa・sであり、常温でベタつきがあり、形状が変形するため取り扱い性に劣るものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は160℃であり、樹脂靭性は0.6MPa・m1/2でありやや樹脂靭性が劣るものであった。この樹脂組成物を用いてドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は含浸性に優れるものであった。
【0103】
(比較例3)
表1-2に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YX4000」55質量部、その他のエポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”1001」45質量部、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」31質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が7.0×107Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は154℃であり、樹脂靭性は0.6MPa・m1/2でありやや樹脂靭性が劣るものであった。この樹脂組成物を用いてドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は、常温でガラス状固形のビスフェノールA型エポキシにより樹脂組成物の粘度が高くなり、含浸性に劣るものであった。
【0104】
(比較例4)
表1-2に示したように、使用する成分[A]をビフェニル型エポキシ樹脂「“jER(登録商標)”YX4000」100質量部、使用する成分[B]を4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン「“Lonzacure(登録商標)”M-DEA」8質量部、その他の硬化剤を「ビスフェノールA」49質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物は、25℃における複素粘度が3.0×108Pa・sであり、常温での取り扱い性に優れるものであった。この樹脂組成物を硬化させて得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は123℃であり、樹脂靭性は0.5MPa・m1/2で耐熱性、靭性に劣るものであった。この樹脂組成物を用いてドライ強化繊維基材からなるプリフォームを用いて作製した繊維強化複合材料は十分な含浸性を有した。
【0105】
【0106】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、常温での取り扱い性に優れ、樹脂調製時に副資材が不要であり、樹脂ロスが少なくなるとともに、強化繊維への含浸性に優れ、プレス成形法などによって、より簡便に高品位の繊維強化複合材料を高い生産性で提供可能となる。さらに、耐熱性と靭性の特性に優れるため、特に自動車や航空機用途への繊維強化複合材料の適用が進み、これらの更なる軽量化による燃費向上、地球温暖化ガス排出削減への貢献が期待できる。