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特許7218768末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法
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  • 特許-末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/06 20060101AFI20230131BHJP
   C09D 123/10 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C08F10/06
C09D123/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021015555
(22)【出願日】2021-02-03
(62)【分割の表示】P 2017098299の分割
【原出願日】2017-05-17
(65)【公開番号】P2021073356
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正顕
(72)【発明者】
【氏名】細井 淳
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳佳
(72)【発明者】
【氏名】中野 正人
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-299046(JP,A)
【文献】特開2010-202628(JP,A)
【文献】特開2007-145914(JP,A)
【文献】特開2004-018785(JP,A)
【文献】特開2013-249459(JP,A)
【文献】特開2011-016957(JP,A)
【文献】特開2007-270122(JP,A)
【文献】特開2021-073355(JP,A)
【文献】特開2017-179344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/06
C09D 123/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPCで測定する数平均分子量が0.5万以上3万以下、末端ビニル率が0.7以上、嵩密度が0.30g/ml以上0.40g/ml未満、振動篩粒径測定器を使用して測定される全サンプル質量に対する目開き2000μm以上の篩上に残ったポリマー質量の割合である粗粉量が1質量%以下である、末端ビニル基含有プロピレン系重合体のポリマー粒子
【請求項2】
融点(Tm)が153℃未満である、請求項1に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のポリマー粒子
【請求項3】
マクロマー、塗料、プライマー、表面改質剤又はコーティング材の原料である、請求項1又は2に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のポリマー粒子
【請求項4】
請求項1又は2に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のポリマー粒子を含むマクロマー。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のポリマー粒子を含む塗料。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のポリマー粒子を含むプライマー。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のポリマー粒子を含む表面改質剤。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の末端ビニル基含有プロピレン系重合体のポリマー粒子を含むコーティング材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法に関し、詳しくは分子量が低く、立体規則性が高く、粒子性状が良好な末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは化学的安定性が高く、力学物性に優れ、安価なことから生活部材、工業部材などとして幅広く用いられている。さらに、不飽和結合を有するポリプロピレンは、不飽和結合に起因する反応性を利用して、高機能化の試みが検討されている。末端ビニル基含有プロピレン系重合体(末端ビニル基含有ポリプロピレン系重合体)は、マクロマーとして、また官能化の原料としての利用が期待されている。
末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、プロピレンの重合反応において、ポリマー成長停止反応が、通常のβ水素脱離ではなくβメチル脱離を起こすことにより生じると考えられている(非特許文献1参照)。しかし、非特許文献1に開示されたβメチル脱離を起こすような重合条件(触媒成分等)では、立体規則性がないアタクチックなプロピレン系重合体しか得ることができず、ポリプロピレン本来の力学物性が犠牲になっていた。
立体規則性を有する末端ビニル基含有プロピレン系重合体を得る方法として、ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリドに代表されるキラルの立体剛性遷移金属化合物を用いる方法(特許文献1の請求項10、非特許文献2参照)、rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-フェニル-インデニル}]ハフニウムに代表されるインデン環の2位に5員環を構成する複素環を有する架橋インデン環をもち、4位にアリール基をもつメタロセン化合物を用いる方法(特許文献2の請求項1参照)が提案されている。
【0003】
ところで、末端ビニル基含有プロピレン系重合体を官能化させた化合物は、塗料、プライマー等の用途に適合すると考えられる。かかる用途においては、末端ビニル基含有プロピレン系重合体及び末端ビニル基含有プロピレン系重合体を官能化させた化合物は、溶媒に可溶であること、及び、他基材との親和性が高いことが好まれる。溶媒への可溶性、及び、他基材との親和性を良好にするためには、末端ビニル基含有プロピレン系重合体及び末端ビニル基含有プロピレン系重合体を官能化させた化合物は分子量が低いことが望ましい。
特許文献1の方法では、数平均分子量(Mn)が2,000ダルトン乃至50,000ダルトンであり、さらに、1,000炭素原子当りのビニル基の総数が7000÷Mn以上である、立体規則性を有する末端ビニル基含有プロピレン系重合体が得られるとしている。しかしながら、この方法は、高選択的に末端ビニル構造を得るために比較的高温かつ低圧でスラリー重合することを必要とするものである。こういった重合条件では、生成するプロピレン系重合体は立体規則性が十分高いものにはならない。
特許文献2の方法では、立体規則性が高い末端ビニル基含有プロピレン系重合体が得られる。しかしながら特許文献2の方法では例えばすべての実施例の数平均分子量が50,000を超えていることから分かるとおり、特許文献2には、分子量が低い末端ビニル基含有プロピレン系重合体を効率よく製造する方法が記載されているとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2001-525461号公報
【文献】特開2009-299046号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Am. Chem. Soc. 114,1992, 1025-1032 Resconi
【文献】Macromol. Rapid Commun. 2000, 21, 1103-1107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが、特許文献2による末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法を検討したところ、特許文献2の方法で、分子量が低く、立体規則性が高い末端ビニル基含有プロピレン系重合体を製造するためには、解決すべき問題があることが判明した。
例えば、バルク重合では、高温で重合して相対的に連鎖移動反応を増やさねばならず、ポリマー粒子の形状や性状が悪化してしまうという問題がある。
また、スラリー重合では、プロピレンを低圧にして重合して相対的に生長反応を抑制しなければならず、重合活性が半減してしまうという問題がある。
そこで本発明は、分子量が低く、末端ビニル率が高く、粒子性状が良好な末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合、又は、プロピレンとエチレンおよびα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーとを共重合することにより、下記の特性(I)、(II)を有するプロピレン系重合体を製造することを特徴とする。
特性(I)GPCで測定する数平均分子量が5万より小さい
特性(II)末端ビニル率が0.7以上
成分(A):下記の一般式(1)で表されるメタロセン化合物
【0008】
【化1】
【0009】
[R11及びR12は、独立して、ヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基を置換基として少なくとも一つ有する5員環を構成する複素環基(但し、5員環を構成する複素環基のヘテロ原子は直接アルカジエニル基と結合しない)を表す。
13及びR14は、独立して、4位にのみ置換基を有するアリール基であって、当該置換基が、ヘテロ原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3~6の炭化水素基である。
11及びY11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1~20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、又は、炭素数1~20の窒素含有炭化水素基を表す。
11は、炭素数1~20の二価の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、又は、炭素数1~20の炭化水素基を有していてもよいゲルミレン基を表す。
ただし、5員環を構成する複素環基の置換基と、アリール基の置換基とは同一ではなく、当該複素環基の置換基のうち、炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基の当該合計数が、当該アリール基の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも大きい。]
成分(B):成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C):有機アルミニウム化合物
【0010】
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、前記一般式(1)で表されるメタロセン化合物において、R11及びR12は、独立して、下記の一般式(2-1)、(2-2)又は(2-3)のいずれかで表されることが好ましい。
【0011】
【化2】
【0012】
[R21及びR22は、独立して、水素原子、又は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基であり、R21及びR22の少なくとも一方はヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基を表す。但し炭化水素基のヘテロ原子は直接5員環を構成する複素環基と結合しない。また、R21とR22とは結合して環を形成しない。]
【0013】
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、前記一般式(1)で表されるメタロセン化合物において、R11及びR12は、独立して、5位にのみ置換基を有する5員環を構成する複素環基であって、当該置換基が、ヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基である(但し、5員環を構成する複素環基のヘテロ原子は直接アルカジエニル基と結合しない)ことが好ましい。
【0014】
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、前記一般式(1)で表されるメタロセン化合物において、R11及びR12で表される前記複素環基が置換基として3級炭化水素基を有し、R13及びR14で表される前記アリール基が置換基として2級炭化水素基を有することが好ましい。
【0015】
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、前記プロピレン系重合体が、さらに下記の特性(III)を有することが好ましい。
特性(III)粗粉量が1質量%以下
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、前記プロピレン系重合体が、さらに下記の特性(IV)を有することが好ましい。
特性(IV)融点(Tm)が153℃未満
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、重合時に使用する水素の量が、プロピレンのフィード質量比として、0を超え2.0×10-4以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、分子量が低く、末端ビニル率が高く、粒子性状が良好な末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】GPCにおけるクロマトグラムのベースラインと区間を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体の製造方法は、下記の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合、又は、プロピレンとエチレンおよびα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーとを共重合することにより、下記の特性(I)、(II)を有するプロピレン系重合体を製造することを特徴とする。
特性(I)GPCで測定する数平均分子量が5万より小さい
特性(II)末端ビニル率が0.7以上
成分(A):下記の一般式(1)で表されるメタロセン化合物
【0019】
【化3】
【0020】
[R11及びR12は、独立して、ヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基を置換基として少なくとも一つ有する5員環を構成する複素環基(但し、5員環を構成する複素環基のヘテロ原子は直接アルカジエニル基と結合しない)を表す。
13及びR14は、独立して、4位にのみ置換基を有するアリール基であって、当該置換基が、ヘテロ原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3~6の炭化水素基である。
11及びY11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1~20の酸素含有炭化水素基、アミノ基、又は、炭素数1~20の窒素含有炭化水素基を表す。
11は、炭素数1~20の二価の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基、又は、炭素数1~20の炭化水素基を有していてもよいゲルミレン基を表す。
ただし、5員環を構成する複素環基の置換基と、アリール基の置換基とは同一ではなく、当該複素環基の置換基のうち、炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基の当該合計数が、当該アリール基の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも大きい。]
成分(B):成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C):有機アルミニウム化合物
【0021】
本発明を以下に詳しく説明する。
1.オレフィン重合用触媒
(1)成分(A)
成分(A)は、上記一般式(1)で表されるメタロセン化合物である。
一般式(1)においてR11およびR12は、独立して、ヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基を置換基として有する5員環を構成する複素環基である。但し、5員環を構成する複素環基のヘテロ原子は、直接アルカジエニル基と結合しない。
11およびR12は、複素環基上に適当な大きさの置換基を導入することにより、挿入されるプロピレンの向きが規則的に制御される。更に、この置換基により成長ポリマー鎖のβ位のメチル基が遷移金属上の空配位場へ向きやすくなるため、βメチル脱離反応が進行しやすくなり、末端ビニル基を高選択的に導入したポリプロピレンを得ることができる。
【0022】
11およびR12は、互いに同一であることが好ましい。
また、R11およびR12は、5員環を構成する複素環基のヘテロ原子の隣の炭素が、一般式(1)中のアルカジエニル基と結合することが好ましい。
炭化水素基の炭素数は3以上であればよく、7以下であることが好ましく、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下、特に好ましくは4である。
また、ヘテロ原子としては、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リンなどが挙げられ、これらは炭素鎖内に存在して炭素-炭素結合の間に介在していてもよい。
また、R11及びR12は、独立して、5位にのみ置換基を有する5員環を構成する複素環基であって、当該置換基が、ヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基である(但し、5員環を構成する複素環基のヘテロ原子は直接アルカジエニル基と結合しない)ことが好ましい。
複素環基の置換基としての炭素数3以上の炭化水素基は、アルキル、シクロアルキル、芳香族炭化水素基のいずれであってもよいが、3級炭化水素基であることが好ましい。
【0023】
11およびR12の好ましい構造として、下記の一般式(2-1)、(2-2)又は(2-3)のいずれかで表される複素5員環の構造が挙げられる。
【0024】
【化4】
【0025】
[R21およびR22は、独立して、水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基であり、R21およびR22の少なくとも一方はヘテロ原子を有してもよい炭素数3以上の炭化水素基を表す。但し炭化水素基のヘテロ原子は直接5員環を構成する複素環基と結合しない。また、R21とR22とは結合して環を形成しない。]
【0026】
21とR22の好ましい例としては、R21がi-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル基、フリル基であり、特に好ましくはt-ブチルであり、R22が水素原子であることが好ましい。
【0027】
一般式(1)においてR13及びR14は、独立して、4位にのみ置換基を有するアリール基であって、当該置換基が、ヘテロ原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3~6の炭化水素基である。
13およびR14は、互いに同一であることが好ましい。
アリール基としては、フェニル基であることが好ましい。
ヘテロ原子としては、ケイ素、酸素、硫黄、窒素、ホウ素、リンなどが挙げられる。
また、炭化水素基がヘテロ原子を含有する場合、当該ヘテロ原子は炭素鎖内に存在して炭素-炭素結合の間に介在していてもよい。
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子のいずれであってもよい。
炭化水素基の炭素数は3以上6以下であればよく、5以下であることが好ましく、より好ましくは4以下、更に好ましくは3である。
アリール基の置換基としての炭素数3~6の炭化水素基は、アルキル、シクロアルキル、芳香族炭化水素基のいずれであってもよいが、2級炭化水素基であることが好ましい。
【0028】
13およびR14の好ましい構造として、下記一般式(3)で表されるフェニル基上の4位に置換基を有する構造が挙げられる。
4-R31-Ph- ・・・一般式(3)
[R31は、ヘテロ原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含有してもよい炭素数3~6の炭化水素基である。ただし、R31は、R21、R22とは異なる。]
31の好ましい例としては、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、トリメチルシリル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル基、フリル基であり、特に好ましくはi-プロピルである。
【0029】
本発明においては、5員環を構成する複素環基の置換基と、アリール基の置換基とは同一ではなく、当該複素環基の置換基のうち、炭素原子とヘテロ原子との合計数が最も大きい置換基の当該合計数が、当該アリール基の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも大きい。
すなわち、複素環基(R11およびR12)上に同一でない複数の置換基が存在する場合(例えば、複素環基上の4位及び5位に互いに構造の異なる置換基を有する場合)、各置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数が最大の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数と、アリール基上の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数とを比較したときに、複素環基上の炭素原子とヘテロ原子との合計数が最大の置換基が有する当該合計数の方が、アリール基上の置換基が有する炭素原子とヘテロ原子との合計数よりも大きい。
なお、複素環基上に置換基が1つのみ存在する場合は、当該置換基が、上記合計数が最大の置換基である。また、複素環基の置換基及びアリール基の置換基がヘテロ原子を有しない場合があってもよく、ヘテロ原子を有しない場合は、当該ヘテロ原子数は0個とする。さらに、アリール基の置換基が炭素原子を有しない場合があってもよく、炭素原子を有しない場合は、当該炭素原子数は0個とする。
好ましい具体例としては、複素環基であるR11およびR12上の置換基がt-ブチル基(炭素原子4個とヘテロ原子0個で合計数が4)であり、アリール基であるR13およびR14上の4-位の置換基がi-プロピル基(炭素原子3個とヘテロ原子0個で合計数が3)である。
【0030】
本発明は、分子量が低く、末端ビニル率が高く、粒子性状が良好な末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高活性に製造する方法を提供する。
高活性が得られる理由は必ずしも明確ではないが、アリール基であるR13およびR14上に、炭素数3以上の置換基を導入することにより、遷移金属の電子密度が変化することで、プロピレンへの挿入反応速度が大きくなり、成長速度が増大すると考えられる。
また、活性増大の他の作用として、アリール基上の置換基は、その嵩高さにより成長ポリマー鎖を、一般式(1)中の遷移金属上の1つのインデン環配位子の6員環部分を避けるようにし向ける。その結果、次に挿入されるプロピレンの向きは、この6員環部分を避けるように向いた成長ポリマー鎖と、更に複素環基であるR11およびR12の両方で制御され、位置および立体規則的にプロピレン挿入が行われる。
この時、複素環基であるR11およびR12は、同時に成長ポリマー鎖のβ位のメチル基の向きを制御する効果によりβ位のメチル基脱離反応が増大することで末端ビニル基を効率的に生成させ、アリール基であるR13およびR14上の置換基と、複素環基であるR11およびR12上の置換基との組み合わせによる立体及び位置規則性の制御の両方を行っている。
最終的には、各々の置換基の組み合わせ効果により、成長反応速度とβメチル脱離反応速度の両方が制御されることで、特定の長さのポリマー鎖、すなわち特定の分子量の重合体がつくられる。
したがって本発明では、複素環基であるR11およびR12上の置換基と、アリール基であるR13およびR14上の置換基を、特定の置換基の組み合わせとすることで、成長反応とβメチル脱離による停止反応のバランスをとることにより、特定の分子量(数平均分子量で5万未満)の末端ビニル基含有プロピレン系重合体を高規則性かつ高活性で得ることができる。
【0031】
上記X11およびY11は、それぞれ独立して、Hfとσ結合を形成する配位子であり、成分(B)および成分(C)とともにオレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させる。
したがって、この目的が達成される限りX11及びY11は、配位子の種類が制限されるものではない。
11及びY11は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のケイ素含有炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン化炭化水素基、炭素数1~20の酸素含有炭化水素基、アミノ基または炭素数1~20の窒素含有炭化水素基を挙げることができ、メタロセン化合物の安定性の点から、ハロゲン原子、炭素数1~20の炭化水素基が好ましく、塩素、臭素、メチル基、エチル基、イソプロピル基、フェニル基が特に好ましい。
【0032】
上記Q11は、二つの五員環を結合する、2価のハロゲンを含有していてもよい炭素数1~20の二価の炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基を有していてもよいシリレン基またはゲルミレン基を表す。
上述のシリレン基、またはゲルミレン基上に2個の炭化水素基が存在する場合は、それらが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
上記Q11の具体例としては、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、1,2-エチレン等のアルキレン基;
ジフェニルメチレン等のアリールアルキレン基;
シリレン基;
メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジ(n-プロピル)シリレン、ジ(i-プロピル)シリレン、ジ(シクロヘキシル)シリレン等のアルキルシリレン基;
メチル(フェニル)シリレン等の(アルキル)(アリール)シリレン基;
ジフェニルシリレン等のアリールシリレン基;
テトラメチルジシリレン等のアルキルオリゴシリレン基;
ゲルミレン基;
上記の2価の炭素数1~20の炭化水素基を有するシリレン基のケイ素をゲルマニウムに置換したアルキルゲルミレン基;
(アルキル)(アリール)ゲルミレン基;
アリールゲルミレン基などを挙げることができる。
これらの中では、炭素数1~20の炭化水素基を有するシリレン基、または、炭素数1~20の炭化水素基を有するゲルミレン基が好ましく、アルキルシリレン基、アルキルゲルミレン基が特に好ましい。
【0033】
上記一般式(1)で表される化合物のうち好ましいものとしては、以下の化合物を例示できる。
(1)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピル-フェニル)-インデニル}]ハフニウム
(2)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-フェニル-2-フリル)-4-(4-イソプロピル-フェニル)-インデニル}]ハフニウム
(3)ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-4-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピル-フェニル)-インデニル}]ハフニウム
【0034】
(2)成分(B)
成分(B)は、成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩である。
成分(B)は単独でもよいし、二種以上を用いてもよい。好ましくイオン交換性層状珪酸塩である。
【0035】
(2-1)成分(A)とイオン対を形成する化合物
成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物としては、アルミニウムオキシ化合物、ホウ素化合物などを挙げることができ、アルミニウムオキシ化合物としては、具体的には次の一般式(I)~(III)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化5】
【0037】
上記の一般式(I)、(II)において、Rは、水素原子又は炭化水素基、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、特に好ましくは炭素数1~6の炭化水素基を示す。また、複数のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、pは0~40、好ましくは2~30の整数を示す。
一般式(I)、(II)で表される化合物は、アルミノキサンとも称される化合物であって、これらの中では、メチルアルミノキサン又はメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。上記のアルミノキサンは、各群内及び各群間で複数種併用することも可能である。そして、上記のアルミノキサンは、公知の様々な条件下に調製することができる。
一般式(III)中、Rは、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の炭化水素基を示す。一般式(III)で表される化合物は、一種類のトリアルキルアルミニウム又は二種類以上のトリアルキルアルミニウムと、一般式RB(OH)で表されるアルキルボロン酸との10:1~1:1(モル比)の反応により得ることができる。
ホウ素化合物としては、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などの有機ホウ素化合物との錯化物、又は種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などを挙げることができる。
【0038】
(2-2)イオン交換性層状珪酸塩
イオン交換性層状珪酸塩(以下、単に珪酸塩と略記することもある)とは、イオン結合などによって構成される層が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、層間に層間イオンを有し、且つ、含有される層間イオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。
大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出される。水中に分散/膨潤させ、沈降速度等の違いにより精製することが一般的であるが、夾雑物が完全に除去されていることは要せず、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英、クリストバライト等)を含んでもよい。それら夾雑物の種類、量、粒子径、結晶性、分散状態によっては純粋な珪酸塩以上に好ましいことがあり、そのような複合体も、成分(B)のイオン交換性層状珪酸塩に含まれる。
また、本発明で使用する珪酸塩は、天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0039】
イオン交換性層状珪酸塩の具体例としては、例えば、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1988年)等に記載される1:1型構造や2:1型構造をもつ層状珪酸塩が挙げられる。
1:1型構造とは、前記「粘土鉱物学」等に記載されているような1層の四面体シートと1層の八面体シートが組み合わさった積み重なりを基本とする構造を示す。
2:1型構造とは、2層の四面体シートが1層の八面体シートを挟み込んだ積み重なりを基本とする構造を示す。
1:1型構造を持つイオン交換性層状珪酸塩の具体例としては、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族珪酸塩、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族珪酸塩等が挙げられる。
2:1型構造を持つイオン交換性層状珪酸塩の具体例としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族珪酸塩、バーミキュライト等のバーミキュライト族珪酸塩、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族珪酸塩、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
これらの中では、主成分が2:1型構造を持つイオン交換性層状珪酸塩であるものが好ましい。より好ましくは、主成分がスメクタイト族珪酸塩であり、さらに好ましくは、主成分がモンモリロナイトである。
層間カチオン(イオン交換性層状珪酸塩の層間に含有される陽イオン)の種類としては、特に限定されないが、主成分として、リチウム、ナトリウム等の周期表第1族のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等の周期表第2族のアルカリ土類金属、あるいは鉄、コバルト、銅、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金等の遷移金属などが、比較的容易に入手可能である点で好ましい。
【0040】
(2-3)イオン交換性層状珪酸塩の処理
前記イオン交換性層状珪酸塩は、乾燥状態で用いてもよく、液体にスラリー化した状態で用いてもよい。
また、イオン交換性層状珪酸塩の形状については、特に制限はなく、天然に産出する形状、人工的に合成した時点の形状でもよいし、また、粉砕、造粒、分級などの操作によって形状を加工したイオン交換性層状珪酸塩を用いてもよい。
このうち造粒されたイオン交換性層状珪酸塩を用いると、該イオン交換性層状珪酸塩を触媒成分として用いた場合に、良好なポリマー粒子性状を与えるため特に好ましい。
イオン交換性層状珪酸塩の処理方法は、特開2009-299046の段落0042~0071の記載を参照することができる。
【0041】
本発明に好ましく用いられる成分(B)は、化学処理されたイオン交換性層状珪酸塩であり、Al/Siの原子比として、0.01~0.25、好ましくは0.03~0.24のもの、さらには0.05~0.23の範囲のものがよい。Al/Si原子比は、粘土部分の酸処理強度の指標となるものとみられる。
イオン交換性層状珪酸塩中のアルミニウム及びケイ素は、JIS法による化学分析による方法で検量線を作成し、蛍光X線で定量するという方法で測定される。
【0042】
(3)成分(C)
本発明に用いられる成分(C)は、有機アルミニウム化合物であり、好ましくは、下記一般式(4)で表される有機アルミニウム化合物が使用される。
(AlR3-n ・・・一般式(4)
[上記一般式(4)中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン、水素、アルコキシ基又はアミノ基を表し、nは1~3の、mは1~2の整数を各々表す。]
有機アルミニウム化合物は、単独であるいは複数種を組み合わせて使用することができる。
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルプロピルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウム、トリノルマルデシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムジメチルアミド、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、m=1、n=3のトリアルキルアルミニウム及びアルキルアルミニウムヒドリドである。さらに好ましくは、Rが炭素数1~8であるトリアルキルアルミニウムである。
【0043】
(4)触媒の調製
本発明に好ましく用いられるオレフィン重合用触媒は、上記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含む。これらは、重合槽内または重合槽外で接触させて得ることができる。オレフィン重合用触媒はオレフィンの存在下で予備重合を行ってもよい。
成分(A)、成分(B)及び成分(C)の使用量は任意である。
例えば、成分(B)に対する成分(A)の使用量は、成分(B)1gに対し、好ましくは0.1μmol~1000μmol、より好ましくは0.5μmol~500μmolの範囲である。
また、成分(A)に対する成分(C)の使用量は、成分(A)の遷移金属に対する成分(C)のアルミニウムのモル比で、好ましくは0.01~5×10、より好ましくは0.1~1×10の範囲である。
前記成分(A)、成分(B)及び成分(C)を接触させる順番は、任意であり、これらのうち2つの成分を接触させた後に残りの1成分を接触させてもよいし、3つの成分を同時に接触させてもよい。これらの接触において、接触を充分に行うため、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、脂肪族飽和炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素やこれらのハロゲン化物、また予備重合モノマーなどが例示される。脂肪族飽和炭化水素、芳香族炭化水素の例として、具体的にはヘキサン、ヘプタン、トルエン等が挙げられる。また、予備重合モノマーとしては、プロピレンを溶媒として用いることができる。
【0044】
(5)予備重合
オレフィン重合用触媒は、オレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合に付されることが好ましい。予備重合により触媒活性を向上させることができ、製造コストを抑えることができる。
使用するオレフィンは、特に限定はないが、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等を例示することができ、好ましくはプロピレンである。
オレフィンのフィード方法は、オレフィンを予備重合槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持するフィード方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせる等、任意の方法が可能である。
予備重合温度、予備重合時間は、特に限定されないが、各々-20℃~100℃、5分~24時間の範囲であることが好ましい。
また、予備重合量は、成分(B)に対する予備重合ポリマーの質量比が好ましくは0.01~100、さらに好ましくは0.1~50である。
また、予備重合時に成分(C)を追加することもできる。
上記各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、チタニア等の無機酸化物の固体を共存させる等の方法も可能である。
予備重合後に触媒を乾燥してもよい。乾燥方法には、特に制限は無いが、減圧乾燥や加熱乾燥、乾燥ガスを流通させることによる乾燥などが例示され、これらの方法を単独で用いても良いし、2つ以上の方法を組み合わせて用いてもよい。乾燥工程において触媒を攪拌、振動、流動させてもよいし静置させてもよい。
【0045】
2.モノマー
使用するモノマーは、プロピレン単独、又は、プロピレンとエチレンおよびα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーとの組み合わせである。
α-オレフィンとしては、例えば、炭素数4以上10以下のα-オレフィンを用いることができる。より具体的には、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、ビニルシクロヘキサン、スチレン等を例示することができる。プロピレンと共重合するエチレンおよび/またはα-オレフィンは、一種類でも二種類以上の組み合わせでもよい。好ましくはエチレン、1-ブテンから選ばれる一種又は二種である。
プロピレンと、エチレンおよびα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーの共重合割合は特に制約されないが、通常0.1~7mol%である。
【0046】
3.重合方法
本発明においては、前記オレフィン重合用触媒と前記モノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式を採用しうる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーをガス状に保つ気相重合法などが採用できる。
また、重合方式は、連続重合、回分式重合、又は予備重合を行う方法も適用される。
また、重合段数は、1段でもよく、バルク重合2段、バルク重合後気相重合、気相重合2段といった様式も可能であり、さらにはそれ以上の重合段数で製造することが可能である。
中でも、プロピレンを溶媒として用いる1段のバルク重合を行うことが好ましい。
【0047】
重合温度は、好ましくは0~90℃であり、より好ましくは60~85℃であり、さらに好ましくは70~80℃である。
重合圧力は、好ましくは0~5MPaG、より好ましくは0~4MPaGである。
【0048】
前述の特許文献2(特開2009-299046)で開示される製造方法の場合、より高温でバルク重合を行うことによりβメチル脱離反応速度を相対的に増大させることにより、分子量の低い末端ビニル基含有ポリプロピレンが得られるが、その反面、局所的な発熱を除熱できなくなり、成長粒子が崩壊して微粉が発生する。また、成長粒子同士が融着して凝集物や塊を生成してしまい、溶媒であるプロピレンの臨界温度を超えてしまう。その結果、ポリマー粒子の形状や性状が悪化してしまうという問題があった。
このような問題に対し、本発明は、ビスインデニルハフニウム錯体の構造を有し、配位子であるインデン環の2位に特定の置換基を有する5員複素環、および、同インデン環の4位に特定の置換基を有するアリール基が置換したメタロセン化合物を含む触媒系を用いて、バルク重合に適した温度範囲で重合することにより、特定の分子量以下でポリマーの形状や性状が良好な末端ビニル基含有ポリプロピレンを得ることができる。
さらに、活性を向上させるために、重合工程中に補助的に水素を用いることができる。
活性が向上する理由としては、休眠状態となった活性点、例えば副反応としてπアリル-遷移金属錯体や、プロピレンが2,1挿入した直後のものが考えられているが、これらが水素により再活性化されると考えられる。
多くの遷移金属錯体触媒では、水素への連鎖移動速度は速く効果的な連鎖移動剤として機能して飽和末端を生成するため、末端ビニル構造を生じにくくする。
しかしながら、本発明の製造方法では、驚くべきことに水素を加えても、連鎖移動剤としての作用は乏しく再活性化の作用により、依然ビニル末端割合が高いまま保たれる。
従って本発明の製造方法では、重合工程中に補助的に水素を用いることにより、活性が向上し、且つ、ビニル末端割合が高いまま保たれる。
【0049】
重合に使用する水素の量としては、水素をプロピレンのフィード質量比として、0~2.0×10-4、好ましくは0を超え2.0×10-4以下、より好ましくは2.0×10-5~1.5×10-4、さらに好ましくは3.0×10-5~1.0×10-4の範囲である。
バルク重合を行う場合には、気相部の濃度が平均的に0~10000ppm、好ましくは100~8000ppm、より好ましくは200~1000ppmの範囲で行うことにより、活性を向上させつつ目的の重合体を得ることができる。
【0050】
4.末端ビニル基含有プロピレン系重合体
本発明により製造される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体またはプロピレンと、エチレンおよびα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーとの共重合体である。
本発明によれば、上述したプロピレン重合用触媒を使用し、分子量が小さい末端ビニル基含有プロピレン系重合体を製造することにより、末端ビニル率が高く、さらにポリマーの形状および性状も良好な末端ビニル基含有プロピレン系重合体を、高活性に製造することができる。
以下、本発明により製造される末端ビニル基含有プロピレン系重合体について説明する。
【0051】
(1)数平均分子量
本発明により製造される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、下記特性(I)を有している。
特性(I):GPCで測定する数平均分子量が5万より小さい
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、数平均分子量(Mn)が、5万未満であり、好ましくは4万以下であり、より好ましくは3万以下である。上記範囲であると、重合活性を高くすることができる。また得られるプロピレン系重合体は単位質量あたりの末端ビニル基の量が増えるために、変性によって十分な量の官能基を導入できるといった副次的な効果もある。
一方、数平均分子量(Mn)は、好ましくは0.5万以上であり、より好ましくは1万以上であり、さらに好ましくは1.5万以上である。上記範囲であると、粒子性状が良好である。
本発明では、重合用触媒成分として、ビスインデニルハフニウム錯体の構造を有し、配位子であるインデン環の2位に特定の置換基を有する5員複素環、および、同インデン環の4位に特定の置換基を有するアリール基が置換したメタロセン化合物を用いるが、この特定構造のメタロセン化合物は停止反応であるβメチル脱離反応速度が速いため、比較的低温で、分子量の低い末端ビニル基含有プロピレン系重合体を得やすくすることができる。また、この脱離反応速度は重合温度や、プロピレンの濃度、圧力を変えることによっても制御することができる。例えば、実施例に示す錯体では、重合温度が高くなる程、数平均分子量(Mn)を小さくすることができる。
【0052】
ここで、数平均分子量(Mn)の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られるものであり、その測定法、測定機器の詳細は、以下の通りである。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC、150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN、1A、IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o-ジクロロベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1.0mL/分
注入量:0.2mL
【0053】
試料の調製は、試料と、ODCB(0.5mg/mLのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して、溶解させて行う。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、図1のように行う。
また、GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー社製の以下の銘柄である。
銘柄:F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるように、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して、較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算に使用する粘度式:[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10-4、α=0.7
PP:K=1.03×10-4、α=0.78
【0054】
(2)末端ビニル率
本発明により製造される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、下記特性(II)を有している。
特性(II)末端ビニル率が0.7以上である
本発明において末端ビニル率とは、末端ビニル基含有プロピレン系重合体の全ポリマー鎖のうち末端にビニル基を持つ鎖の割合を意味し、下式により計算される。
(末端ビニル率)={[Vi]/((総末端数)-LCB数)}×2
(ただし、[Vi]は、H-NMRにより算出される1000モノマーユニット当りの末端ビニル基の数である。総末端数は、13C-NMRにより算出される1000モノマーユニット当りの末端の総数である。LCB数は、13C-NMRにより算出される1000モノマーユニット当りの炭素数7以上の分岐鎖の根元のメチン炭素の数である。)
本発明の末端ビニル基含有ポリプロピレンは、末端ビニル率が0.7以上であり、好ましくは0.75以上である。さらに好ましくは0.8以上であり、理想的には1.0(すべてのポリマー鎖が末端にビニル基を有する)である。末端ビニル率を高め、且つ、上記範囲にすることにより、同時に立体規則性についても高めることができる。
【0055】
(2-1)反応機構と末端構造との関係
本発明において、末端ビニル率が0.7以上のプロピレン系重合体を得るに際し、反応機構と得られる末端構造との関係は以下の通りである。
プロピレンの重合においては、一般的にβ水素脱離が起こり、下記構造式(1-b)に示すビニリデン構造(プロピル-ビニリデン構造)の末端が生成する。
また、水素を用いた場合には、通常、水素へ連鎖移動が優先的に起こり下記構造式(1-c)に示すi-ブチル構造の末端が生成する。
しかしながら、特殊な構造の錯体を重合触媒に用いた場合には、βメチル脱離と一般に呼ばれる特殊な連鎖移動反応が起こり、下記構造式(1-a)に示すビニル構造(1-プロペニル構造)の末端が生成する(参照文献:Macromol.Rapid Commun.2000,21,1103-1107)。
また、プロピレンの重合においては、反応機構上、次のような末端構造が生成する。プロピレン挿入し、β水素脱離を起した後に、さらにγ位から水素を引き抜くことでできるπアリル中間体を経て、下記構造式(1-d)に示すi-ブテニル構造の末端が生成する。
また、プロピレンは不規則な2,1挿入を起こすことがあるが、このような不規則結合を起こした後に、水素へ連鎖移動したり、β水素脱離を起こしたり、πアリル中間体を経て水素脱離したりすると、下記構造式(1-e)に示すn-ブチル構造、下記構造式(1-f)に示す1-ブテニル構造、下記構造式(1-g)に示す末端ビニレン構造(2-ブテニル構造)の末端が生成する。ここで、1-ブテニル構造(構造式(1-f))は、本発明の末端ビニル基に含めるものとする。
さらに、本発明においてコモノマーとして、エチレン、1-ブテンを使用した場合、機構上、次のような末端が生成する。
エチレン挿入後、水素へ連鎖移動すると、下記構造式(1-h)に示すn-プロピル構造の末端が生成する。
エチレン挿入後、β水素脱離が起こると、下記構造式(1-a)に示す1-プロペニル構造の末端が生成する。
1-ブテン挿入後、水素へ連鎖移動すると下記構造式(1-i)に示すi-ペンチル構造の末端が生成する。
1-ブテン挿入後、β水素脱離が起こると、下記構造式(1-j)に示すブチル-ビニリデン構造の末端が生成する。
【0056】
開始末端は、必ず飽和炭化水素末端であり、両末端に不飽和結合が現れることはない。このことは、本発明の末端ビニル基含有ポリプロピレンの変性を行う場合には、片側の末端のみが変性されることを意味する。これに対して、例えば、ポリプロピレンを熱分解して得られる末端不飽和結合を有する重合体は、両末端がビニリデン(Vd)基となる可能性があり、これから不飽和結合を変性した場合には両末端が変性される可能性があり、本発明の末端ビニル基含有ポリプロピレンとは形態が異なってしまう。
【0057】
したがって、末端ビニル率を高めるためには、構造式(1-b)~(1-e)、(1-g)~(1-j)を生じる反応を抑制し、構造式(1-a)、(1-f)を生じる反応を促進させるような、重合条件が好ましい。
重合条件のうち、触媒に関しては、上記した通り、ビスインデニルハフニウム錯体の構造を有し、配位子であるインデン環の2位に特定の置換基を有する5員複素環、および、同インデン環の4位に特定の置換基を有するアリール基が置換したメタロセン化合物を含むオレフィン重合用触媒を用いることにより、構造式(1-a)を生じる連鎖移動反応を促進させることができる。
また、このようなメタロセン化合物を含むオレフィン重合用触媒を用いた場合には、水素を用いた場合にも、驚くべきことに、活性は増大するものの優先的にβメチル脱離反応が起こり、ビニル構造(1-プロペニル構造):構造式(1-a)が主に生成する。また、この選択率は、重合温度を変えることによっても制御することができる。例えば、実施例に示すメタロセン化合物を含むオレフィン重合用触媒では、重合温度が高くなる程、末端ビニル率を高くすることができる。
【0058】
【化6】
【0059】
(2-2)末端ビニル率を特定する方法
以下に説明する方法で、H-NMRおよび13C-NMRを実施し、末端ビニル率を特定することができる。
[試料調製と測定条件]
試料200mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=4/1(体積比)2.4mlおよび化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れ、150℃のブロックヒーターで均一に溶解した。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン(株)のAV400型NMR装置を用いて行った。
不飽和末端の定量には、H-NMRを用いた。H-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角4.5°、パルス間隔2秒、積算回数512回として測定をした。化学シフトはヘキサメチルジシロキサンのプロトンシグナルを0.09ppmに設定し、他のプロトンによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。
飽和末端の定量には、13C-NMRを用いた。13C-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角を90°、パルス間隔を15秒、積算回数を1024回、ブロードバンドデカップリング法で測定を実施した。化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。
【0060】
[不飽和末端の数の算出方法]
H-NMRでは、構造式(1-a)1-プロペニルと、構造式(1-f)1-ブテニルの不飽和結合のプロトンシグナルは、H-NMRスペクトルの5.08~4.85ppmと5.86~5.69ppmのシグナルに重なって検出される。そこで、末端ビニル基の数[Vi]は、1-プロペニルと1-ブテニルを合わせた数として、トータル1000モノマーあたりの不飽和結合量として、H-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、以下の式から求める。
また、H-NMRでは構造式(1-b)プロピル-ビニリデンと構造式(1-j)ブチル-ビニリデンの不飽和結合のプロトンシグナルは、H-NMRスペクトルの4.79~4.65ppmのシグナルに重なって検出される。そこで、末端ビニリデン基の数[Vd]は、プロピル-ビニリデンとブチル-ビニリデンを合わせた数として、トータル1000モノマーあたりの不飽和結合量として、H-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、以下の式から求める。
構造式(1-a)+構造式(1-f): [Vi]=Ivi×1000/Itotal
構造式(1-b)+構造式(1-j): [Vd]=Ivd×1000/Itotal
同様にして、i-ブテニル基の数[i-ブテニル]、ビニレン末端の数[末端ビニレン]、内部ビニリデンの数[内部ビニリデン]は以下の式から求められる。
構造式(1-d): [i-ブテニル]=Iibu×1000/Itotal
構造式(1-g): [末端ビニレン]=Ivnl×1000/Itotal
構造式(1-m): [内部ビニリデン]=Iivd×1000/Itotal
ここで、Ivi、Ivd、Iibu、Ivnl、Iivdは、それぞれ、構造式(1-a)+構造式(1-f)、構造式(1-b)+構造式(1-j)、構造式(1-d)、構造式(1-g)、構造式(1-m)に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
Ivi=(I5.08~4.85+I5.86~5.69)/3、
Ivd=(I4.79~4.65)/2、
Iibu=I5.30~5.08
Ivnl =(I5.58~5.30)/2、
Iivd=(I4.85~4.79)/2
Iは積分強度を、Iの下つき添字の数値は化学シフトの範囲を示す。例えばI5.08~4.85は5.08ppmと4.85ppmの間に検出したシグナルの積分強度を示す。
また、Itotalは、以下の式で示される量である。
Itotal=IC2+IC3+IC4+Ivi+Ivd+Iibu+Ivnl+Iivd
IC2はエチレンに基づくシグナルの特性値、IC3はプロピレンに基づくシグナルの特性値、IC4は1-ブテンに基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
IC2 =1/4×{(Imain×[C2]×2)/([C2]×2+[C3]×3+[C4]×4)}
IC3 =1/6×{(Imain×[C3]×3)/([C2]×2+[C3]×3+[C4]×4)}
IC4 =1/8×{(Imain×[C4]×4)/([C2]×2+[C3]×3+[C4]×4)}
[C2]は、後述の13C-NMRで算出したエチレン含量(mol%)、[C3]は、後述の13C-NMRで算出したプロピレン含量(mol%)、[C4]は後述の13C-NMRで算出した1-ブテン含量(mol%)を示す。
ImainとはH-NMRスペクトルの4.00~0.00pmに検出されるポリマー主鎖と飽和末端のプロトンシグナルの総和である。
【0061】
[飽和末端の数の算出方法]
下記の飽和末端の数は、1000モノマーあたりの数として、13C-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、以下の式から求める。
構造式(1-c): [i-ブチル]=Ii-butyl×1000/Itotal-C
構造式(1-e): [n-ブチル]=Inbu×1000/Itotal-C
構造式(1-h): [n-プロピル]=Inpr×1000/Itotal-C
構造式(1-i): [i-ペンチル]=Ii-pen×1000/Itotal-C
構造式(1-k): [2,3-ジメチルブチル]=I2,3-dime×1000/Itotal-C
構造式(1-l): [3,4-ジメチルペンチル]=I3,4-dime×1000/Itotal-C
【0062】
更に、本発明の末端ビニル基含有ポリプロピレンには、重合体内部にプロピレンの規則的な1,2挿入に基づく構造の他に、プロピレンの不規則な挿入に基づく下記の2,1結合、1,3結合をもちうる。またコモノマーとして1-ブテンを用いた場合には、規則的な1,2挿入に基づく構造の他に不規則な挿入に基づく下記の1,4結合構造をもちうる。
【0063】
【化7】
【0064】
ここで、Ii-butyl、Inbu、Inpr、Ii-pen、I2,3-dime、I3,4-dimeはそれぞれ、構造式(1-c)、構造式(1-e)、構造式(1-h)、構造式(1-i)、構造式(1-k)、構造式(1-l)に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
Ii-butyl =(I23.80~23.70+I25.80~25.70)/2
Inbu =I14.06~14.02
Inpr =(I14.44~14.42+I30.46~30.45)/2
Ii-pen =(I30.70~30.50+I42.00~41.80)/2
I2,3-dime =(I16.21~16.17+I31.86~31.81)/2
I3,4-dime =I12.0~11.60
また、Itotal-Cは、以下の式で示される量である。
Itotal-C=Ii-butyl+Inbu+Inpr+Ii-pen+I2,3-dime+I3,4-dime+IE+I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P+I1,2-B+I1,4-B
IEはエチレンの結合に基づくシグナルの特性値、I1,2-Pは、1,2挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値、I2,1-Pは、2,1挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値、I1,3-Pは、1,3挿入したプロピレンの結合に基づくシグナルの特性値、I1,2-Bは、1,2挿入した1-ブテンの結合に基づくシグナルの特性値、I1,4-Bは、1,4挿入した1-ブテンの結合に基づくシグナルの特性値を表し、以下の式で示される量である。
IE=I30.20-29.80/2+I30.40-30.20/4-I25.20-23.80+I38.20-37.30 +I34.15-33.80
I1,2-P =I48.80~44.50+I43.90~42.80/2
I2,1-P =(I35.72~35.63+I35.83~35.77)/2
I1,3-P =I30.82~30.74/2
I1,2-B =I41.00~39.00+I43.90~42.80/2
I1,4-B =I34.45~34.15/2
【0065】
[総末端数の算出方法]
総末端数は、13C-NMRおよびH-NMRそれぞれで算出される1000モノマーユニット当りの末端の総数であり、具体的には、1000モノマーユニット当りの構造式(1-a)~構造式(1-l)までの末端の個数の総和である。
【0066】
[LCB数の算出方法]
本発明のプロピレン系重合体には、下記の構造式(A)で示される長鎖分岐(LCB)構造部分を持ち得る。
【0067】
【化8】
【0068】
[但し、構造式(A)中、P、P、Pはプロピレン系重合体残基であり、それぞれ1つ以上のプロピレンユニットを有し、Cbrは、炭素数7以上の分岐鎖の根元のメチン炭素を示し、C、C、Cは、該メチン炭素(Cbr)に隣接するメチレン炭素を示す。]
構造式(A)において、プロピレン系重合体の主鎖は、P-Cbr-Pのライン、P-Cbr-Pのライン又はP-Cbr-Pのラインの3通りが存在する。したがって、それぞれに対応して、Cbr-Pのライン、Cbr-Pのライン又はCbr-Pのラインが上記分岐鎖になり得る。P、P、Pは、それ自体の中に、構造式(A)に記載されたCbrとは、別の分岐炭素(Cbr)を含有することもあり得る。
ここでLCB構造の帰属は、プロピレン系重合体の13C-NMRにより、44.1~43.9ppm、44.7~44.5ppm及び44.9~44.7ppmに3つのメチレン炭素(C、C、C)が観測され、31.7~31.5ppmにメチン炭素(Cbr)として観測されるものである。Cbrに近接する3つのメチレン炭素が、ジアステレオトピックに非等価に3本に分かれて観測されることが特徴である。
また、LCB数とは、13C-NMRにより算出される1000モノマーユニット当たりの炭素数7以上の分岐鎖の根元のメチン炭素(Cbr)の数である。
炭素数が6より多い分岐鎖と炭素数が6以下の分岐鎖とは、分岐の根本のメチン炭素のピーク位置が異なることにより区別できる(Macromol.chem.phys.2003年、Vol.204、1738頁参照。)。
本発明において、LCB数は、特に限定されないが、通常0.5以下であることが好ましい。
【0069】
(3)ポリマーの形状および性状(粗粉量、嵩密度)
本発明により製造される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、さらに下記特性(III)を有することが好ましい。
特性(III):粗粉量が1質量%以下
【0070】
(3-1)粗粉量
プロピレン系重合体の粗粉量については、通常、粗粉量が1質量%を超えると、バルク重合においては、重合槽の汚染やファウリングが起こるという問題が発生する。
この問題に対し、本発明は、プロピレン系重合体の粗粉量を1%以下とすることができ、好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下とすることができる。
粗粉量の測定は、振動篩粒径測定器を使用して実施し、全サンプル質量に対する目開き2000μm以上の篩上に残ったポリマー質量の割合(質量%)を、粗粉量として特定する。
【0071】
(3-2)嵩密度
また、プロピレン系重合体のポリマー粒子の性状は、嵩密度により評価できる。
嵩密度は、その重合体の平均粒径、凝集等による粗粉量と相関する指標であり、嵩密度が高いほどこれらのポリマー粒子の形状が良いことを意味する。
本発明は、プロピレン系重合体の嵩密度を、0.30g/ml以上とすることができ、好ましくは0.40g/ml以上、さらに好ましくは0.42g/ml以上、特に好ましくは0.43g/ml以上とすることができる。
嵩密度の測定は、ASTM・D1895-69に準拠して行う。
【0072】
(4)融点Tm(℃)
本発明により製造される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、さらに下記特性(IV)を有することが好ましい。
特性(IV):融点(Tm)が153℃未満
プロピレン系重合体の融点は153℃未満であればよく、下限値は特に限定されないが、100℃以上であることが好ましい。
融点が上記範囲内であることにより、溶媒への可溶性、及び、他基材との親和性を良好にすることができる。
融点は、セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を使用し、シート状にしたサンプル片を5mgアルミパンに詰め、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で20℃まで降温して、結晶化させた時の結晶最大ピーク温度(℃)として、結晶化温度(Tc)を求め、その後、10℃/分で200℃まで昇温させた時の融解最大ピーク温度(℃)として求めることができる。
【0073】
(5)プロピレン単位3連鎖のmm分率
本発明の製造方法で得られる末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、立体規則性が高い。
本発明においてプロピレン系重合体の立体規則性に制限はないが、13C-NMRにより算出されるプロピレン単位3連鎖のmm分率(アイソタクチックトライアッド分率)は、95%以上に達し、好ましくは96%以上であり、より好ましくは97%以上である。
成分(A)のmm分率が高いほど、高度に制御されていることを意味する。この値より小さいと、製品の弾性率が低下するなど機械的物性が低下してしまう。
【0074】
プロピレン単位3連鎖のmm分率は、13C-NMR測定により測定された13Cシグナルの積分強度を、次式に代入することにより求められる。
mm(%)=Imm×100/(Imm+3×Imrrm)
ここで、Imm=I23.6~21.1、Imrrm=I19.8~19.7で示される量である。
プロピレン単位3連鎖のmm分率を求めるための13C-NMR測定法は、上記測定と同じ方法で行うことができる。
スペクトルの帰属は、Polymer Jounral,16巻,717頁(1984),朝倉書店や、Macromolecules,8卷,687頁(1975年)や、Polymer,30巻 1350頁(1989年)を参考に行うことができる。
【0075】
(6)異種結合量(2,1結合および1,3結合、並びに1,4結合の量)
本発明の製造方法で得られる末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、異種結合の量が少ない、すなわち位置規則性が高い。
ポリプロピレンの位置規則性には制限はないが、13C-NMRにより算出される2,1結合が0.2mol%以下かつ1,3結合が0.2mol%以下となることが好ましい。
2,1結合が、より好ましくは0.15mol%以下、さらに好ましくは0.12mol%以下、特に好ましくは0.10mol%以下である。
1,3結合は、より好ましくは0.15mol%以下、さらに好ましくは0.12mol%以下、特に好ましくは0.10mol%以下である。
異種結合の量が少ないと、他のポリプロピレンや基材に混合または塗布した場合にその混合効率が上がったり、コーティングの効率が良くなったり、さらにコーティング剤として剥がれにくくなる等の特性が生じてくる。
また、プロピレンの規則性(立体/位置)が高くなりすぎないように制御することにより、溶媒への可溶性を高め、末端ビニルの反応性を高めることができる。
【0076】
異種結合量(モル濃度)は、13C-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、以下の式から求める。
プロピレン2,1結合(mol%)
=I2,1-P×100/(I1,2-P+I2,1-P +I1,3-P +I1,2-B+I1,4-B+IE)
プロピレン1,3結合(mol%)
=I1,3-P×100/(I1,2-P+I2,1-P +I1,3-P +I1,2-B+I1,4-B+IE)
ブテン1,4結合(mol%)
=I1,4-B×100/(I1,2-P+I2,1-P +I1,3-P +I1,2-B+I1,4-B+IE)
【0077】
(7)プロピレン以外のコモノマー単位の含有量
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、プロピレンと、エチレンおよびα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーとの共重合体である場合には、当該コモノマーに由来する構造単位の含有量が、1.5mol%以上であることが好ましい。
コモノマーは、規則的(立体/位置)に挿入したプロピレン連鎖の中に入って1次構造を変える。その1つの結果として、融点を下げるという効果を持つ。
したがって、コモノマー含量を増やすことにより、結晶性が高くなりすぎず、溶媒への可溶性を高め、末端ビニルの反応性を高めることができる。
一方、規則的(立体/位置)に挿入したプロピレン連鎖が短くなり過ぎず、他のポリプロピレンや基材に混合または塗布した場合にその混合効率を向上させ、コーティングの効率を向上させ、コーティング剤として剥がれ難くする観点から、本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、プロピレンと、エチレンおよびα-オレフィンよりなる群から選ばれるコモノマーとの共重合体である場合には、当該コモノマーに由来する構造単位の含有量が、50mol%以下であることが好ましい。
【0078】
コモノマーとして1-ブテンを用いた場合に、好ましいブテン含量は1.5mol%以上、より好ましくは1.8mol%以上であり、さらに好ましくは2.0mol%以上である。
また、アイソタクチック連鎖長と結晶性のバランスを良くする為には、好ましくは10mol%以下であり、より好ましくは7mol%以下であり、さらに好ましくは5mol%以下である。
【0079】
コモノマー単位の含量(モル濃度)は、13C-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、以下の式から求める。
エチレン含量[C2](mol%)
=IE×100/(I1,2-P+I2,1-P+I1,3-P+I1,2-B+I1,4-B+IE)
プロピレン含量[C3](mol%)
=(I1,2-P+I2,1-P +I1,3-P )×100/(I1,2-P+I2,1-P +I1,3-P +I1,2-B+I1,4-B+IE)
1-ブテン含量[C4](mol%)
=(I1,2-B+I1,4-B)×100/(I1,2-P+I2,1-P +I1,3-P +I1,2-B+I1,4-B+IE)
ここで、IE、I1,2-P、I2,1-P、I1,3-P、I1,2-B、I1,4-Bは、前記の通りである。
【0080】
(8)MFR
本発明により製造される末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、230℃、荷重2.16kgfで測定されるメルトフローレート(MFR)が470g/10分以上であることが好ましい。MFRの上限値は特に限定されないが、10000g/10分以下であることが好ましい。
MFRが上記範囲内であることにより、溶媒への可溶性、及び、他基材との親和性を良好にすることができる。
MFRは、JIS K6758のポリプロピレン試験方法のメルトフローレート(試験条件:230℃、荷重2.16kgf)に従って測定することができる。
【0081】
5.末端ビニル基含有プロピレン系重合体の用途
従来、分子量が小さいプロピレン系重合体を合成するために、高温、高圧の条件下で重合を行う場合には、優れた形状および性状をもつポリマー粒子を得ることが難しかった。
本発明は、前記一般式(1)で表される特定のメタロセン化合物を含む触媒を用いてプロピレンを単独重合または共重合することにより反応速度が大きくなると考えられ、分子量が小さいプロピレン系重合体を比較的低温、低圧の条件下で合成できる。
また、本発明は、分子量が小さく、且つ、そのポリマー粒子の形状及び性状にも優れたプロピレン系重合体を容易に製造することができ、特に、バルク重合により本発明を実施する場合には、ポリマー粒子の形状および性状を改善する効果が高い。
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、ビニル末端構造を高い割合で含有するように末端構造を高度に制御したプロピレン単独重合体又はプロピレン共重合体であるので、その特性により、マクロマー、塗料、プライマー、表面改質材、コーティング材の原料等、として用いることができる。
本発明の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、必要に応じて、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、造核剤、滑剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、着色剤、無機質または有機質の充填剤等の各種添加剤、さらには種々の合成樹脂を配合した後、溶融混練機を用いて加熱溶融混練後、さらに粒状に切断されたペレットとして利用できる。
【実施例
【0082】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例における物性測定、分析等は、下記の方法に従ったものである。
【0083】
(1)メルトフローレート(MFR):
JIS K6758のポリプロピレン試験方法のメルトフローレート(試験条件:230℃、荷重2.16kgf)に従って、測定した。単位はg/10分である。
(2)分子量及び分子量分布(Mw、Mn、Mw/Mn):
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、上記本明細書記載の方法で、測定した。
(3)融点(Tm):
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を使用し、シート状にしたサンプル片を5mgアルミパンに詰め、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で20℃まで降温して、結晶化させた時の結晶最大ピーク温度(℃)として、結晶化温度(Tc)を求め、その後、10℃/分で200℃まで昇温させた時の融解最大ピーク温度(℃)として融点(Tm)を求めた。
(4)プロピレン単位3連鎖のmm分率:
10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン(株)のAV400型NMR装置を用い、上記本明細書記載の方法で測定した。単位は%である。
(5)触媒活性(CE)(g/ghr)
触媒活性は、ポリマーの収量(g)を、導入した触媒量(g)(予備重合ポリマーを除いた値)で割った単位時間あたりの値である。
(6)組成分析:
イオン交換性層状珪酸塩の組成は、JIS法による化学分析により検量線を作成し、蛍光X線により測定した。
(7)嵩密度(BD)の測定方法
ASTM・D1895-69に準拠して、ポリマー粒子の嵩密度を測定した。
(8)粗粉量:
ポリマー粒子中の粗粉量の測定には、振動篩粒径測定器を用いた。目開き100μm、150μm,212μm、350μm、500μm、710μm、850μm、1,000μm、1,180μm、1,400μm、1,700μm、2,000μm、2,800μm、3,000μmの各篩を、振とう機で10分以上振動分級し、全サンプル質量に対する2000μm以上の篩上のポリマー質量の割合(質量%)を粗粉量として特定した。
【0084】
[実施例1]
(1)錯体の合成
(錯体1)rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピル-フェニル)-インデニル}]ハフニウムを、特開2009-299046の実施例13および特開2009-91512の実施例1の方法に準じて合成した。
【0085】
(2)触媒の調整
(2-a)イオン交換性層状珪酸塩の化学処理
撹拌翼と還流装置を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、蒸留水645.1gと98%硫酸82.6gを加え、95℃まで昇温した。
そこへ市販のモンモリロナイト(水澤化学工業社製ベンクレイKK、Al=9.78質量%、Si=31.79質量%、Mg=3.18質量%、Al/Si(モル比)=0.320、平均粒径14μm)100gを添加し、95℃で320分反応させた。320分後、蒸留水0.5Lを加えて反応を停止し、濾過することでケーキ状固体物255gを得た。
このケーキ1gには、0.31gの化学処理モンモリロナイト(中間物)が含まれていた。化学処理モンモリロナイト(中間物)の化学組成は、Al=7.68質量%、Si=36.05質量% Mg=2.13質量%、Al/Si(モル比)=0.222であった。
上記ケーキに蒸留水1545gを加えスラリー化し、40℃まで昇温した。水酸化リチウム・水和物5.734gを固体のまま加え、40℃で1時間反応させた。1時間後、反応スラリーを濾過し、1Lの蒸留水で3回洗浄し、再びケーキ状固体物を得た。
回収したケーキを乾燥したところ、化学処理モンモリロナイト80gを得た。この化学処理モンモリロナイトの化学組成は、Al=7.68質量%、Si=36.05質量%、Mg=2.13質量%、Al/Si(モル比)=0.222、Li=0.53質量%であった。
【0086】
(2-b)予備重合
1Lの3つ口フラスコに、得られた化学処理モンモリロナイト20gを入れ、ヘプタン131mLを加えてスラリーとし、これにトリイソブチルアルミニウム50mmol(濃度143.4mg/mLのヘプタン溶液を69mL)を加えて1時間攪拌した。1時間後、ヘプタンで1/100まで洗浄し、全容量を100mLとした。
この化学処理モンモリロナイトが入ったスラリー溶液を50℃に保ち、そこへトリノルマルオクチルアルミニウム4.2mmol(濃度143.4mg/mLのヘプタン溶液を10.7mL)を加えて20分間撹拌した。
そこへ、rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-t-ブチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピル-フェニル)-インデニル}]ハフニウム0.3mmol(トルエン50mLでスラリーとしたもの)を加えて、50℃に保ちながら20分間撹拌した。
その後ヘプタン350mLを追加し、このスラリーを1Lオートクレーブに導入した。
オートクレーブの内部温度を40℃にしたのち、プロピレンを10g/時の速度でフィードし、4時間40℃を保ちつつ予備重合を行った。その後、プロピレンフィードを止めて、40℃のまま1時間残重合を行った。
得られた触媒スラリーの上澄みをデカンテーションで除去した後、再びヘプタンを加えてデカンテーションすることにより予備重合触媒の洗浄をおこなった。上記デカンテーションにより残った部分に、トリイソブチルアルミニウム12mmol(濃度143.4mg/mLのヘプタン溶液を16.6mL)を加えて10分間攪拌した。この固体を40℃で2時間減圧乾燥することにより、乾燥予備重合触媒49.8gを得た。予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は1.49であった。この予備重合触媒を触媒1とした。
【0087】
(3)重合
3Lオートクレーブを加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させた後、プロピレンで槽内を置換して室温まで冷却した。トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(140mg/mL)2.86mL、液体プロピレン750gを導入した後、75℃まで昇温した。その後、上記触媒1を、予備重合ポリマーを除いた質量で200mgを高圧アルゴンで重合槽に圧送し、重合を開始した。75℃で1時間保持した後、未反応のプロピレンをすばやくパージし重合を停止した。そうしたところ約217gのプロピレン単独重合体が得られた。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
実施例1において、槽内に、Hを160N(normal)ml導入した後に液体プロピレン750gを導入し、触媒1を予備重合ポリマーを除いた質量で80mg使用する以外は、同様の重合をおこなった。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0089】
[実施例3]
実施例1において、槽内に、Hを240Nml導入した後に液体プロピレン750gを導入し、触媒1を予備重合ポリマーを除いた質量で80mg使用する以外は、同様の重合をおこなった。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0090】
[実施例4]
実施例1において、槽内に、Hを480Nml導入した後に液体プロピレン750gを導入し、触媒1を予備重合ポリマーを除いた質量で50mg使用する以外は、同様の重合をおこなった。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0091】
[実施例5]
実施例1において、槽内に、Hを640Nml導入した後に液体プロピレン750gを導入し、触媒1を予備重合ポリマーを除いた質量で40mg使用する以外は、同様の重合をおこなった。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0092】
[実施例6]
実施例1において、槽内に、Hを960Nml導入した後に液体プロピレン750gを導入し、触媒1を予備重合ポリマーを除いた質量で40mg使用する以外は、同様の重合をおこなった。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0093】
[実施例7]
実施例1において、液体プロピレン750gを導入した後、70℃まで昇温し、70℃で重合する以外は同様の重合を行った。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0094】
[実施例8]
実施例1において、液体プロピレン750gを導入した後、80℃まで昇温し、80℃で重合する以外は同様の重合を行った。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例9]
実施例8において、槽内に、Hを160Nml導入した後に液体プロピレン750gを導入し、触媒1を予備重合ポリマーを除いた質量で80mg用いる以外は同様の重合を行った。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0096】
[実施例10]
実施例8において、槽内に、Hを240Nml導入した後に液体プロピレン750gを導入し、触媒1を予備重合ポリマーを除いた質量で80mg用いる以外は同様の重合を行った。
得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0097】
[比較例1]
(1)錯体の合成
(錯体2)rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピル-フェニル)-インデニル}]ハフニウムを、特開2009-299046の実施例13の(1)の方法に従って合成した。
【0098】
(2)触媒の調整
実施例1の(2-b)予備重合において、(錯体1)に替えて、rac-ジクロロ[1,1’-ジメチルシリレンビス{2-(5-メチル-2-フリル)-4-(4-イソプロピル-フェニル)-インデニル}]ハフニウム(0.3mmol)を使用する以外は同様の操作を行った。
その結果、乾燥予備重合触媒54.0gを得た。予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は1.70であった。この予備重合触媒を触媒2とした。
【0099】
(3)重合
3Lオートクレーブを加熱下、窒素を流通させることにより予めよく乾燥させた後、プロピレンで槽内を置換して室温まで冷却した。トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(140mg/mL)2.86mL、液体プロピレン750gを導入した後、75℃まで昇温した。その後、上記触媒2を、予備重合ポリマーを除いた質量で200mgを高圧アルゴンで重合槽に圧送し、重合を開始した。75℃で1時間保持した後、未反応のプロピレンをすばやくパージし重合を停止した。そうしたところ約350gのプロピレン単独重合体が得られた。
得られた共重合体の評価結果を表1に示す。
【0100】
[比較例2]
比較例1において、液体プロピレン750gを導入した後、80℃まで昇温し、80℃で重合する以外は同様の重合を行った。
得られた共重合体の評価結果を表1に示す。
【0101】
[比較例3]
比較例1において、液体プロピレン750gを導入した後、85℃まで昇温し、85℃で重合する以外は同様の重合を行った。
【0102】
【表1】
【0103】
[実施例の考察]
実施例1~実施例10は本発明の方法を用いることにより、本発明の課題を解決できることを示している。これらの実施例の末端ビニル基含有プロピレン系重合体は、数平均分子量(Mn)が33,200以下と十分に低く、末端ビニル率(Vi)が0.7以上と十分な量の末端ビニル基を有し、プロピレン単位3連鎖のmm分率が95%を超え立体規則性が高く、嵩密度が0.348g/mlを超え、また、粗粉量が0~0.2質量%程度と粒子性状が良好である。
【0104】
実施例1~実施例6から、水素の使用量を増やすことで、CE(触媒活性)が増大しており、活性を高めることができることが分かる。この際、得られる末端ビニル基含有プロピレン系重合体の分子量、プロピレン単位3連鎖のmm分率への影響は小さい。末端ビニル率は、水素の使用量を増やすことにより、やや低下傾向を示すが、依然として高い率を保持している。末端ビニル率は、水素の使用量が増えると、水素へ連鎖移動する割合が増すために減少傾向を示すと考えられるが、本発明では前記一般式(1)で表される特定のメタロセン化合物を含む触媒系を用いたことにより、末端ビニル率の減少傾向が抑制された。
実施例7から、実施例1に対して重合温度を低くすることで数平均分子量(Mn)が大きくなるが、重合温度を70℃にしても数平均分子量(Mn)は十分小さいことが分かる。この際、得られるプロピレン系重合体のプロピレン単位3連鎖のmm分率への影響は小さい。
実施例8から、実施例1に対して温度を高くすることで分子量を小さくすることができること、重合温度を80℃にしても粒子性状の著しい悪化はないことが分かる。この際、得られるプロピレン系重合体のプロピレン単位3連鎖のmm分率への影響は小さい。
実施例1、7、8は、重合温度をコントロールすることで、分子量を制御できることを示している。本発明は数平均分子量(Mn)が50,000より小さい末端ビニル基含有プロピレン系重合体を得ることを特徴とするものであるが、実施例1、7、8の重合温度と数平均分子量(Mn)との関係から、同一の重合系では重合温度をおよそ50℃以上とすることにより、分子量の規定を満たすことが可能であると考えられる。
実施例8~9からは、重合温度が高い条件でも、実施例1~実施例6と同様に、水素の使用量を増やすことで、活性を高めることができることが分かる。このことから実施例7のように、重合温度が低いために重合活性が低い重合系においても、水素の使用量を増やすことで重合活性を高められると考えられる。
【0105】
これら実施例に対して、比較例に示すように、特許文献1(特開2009-299046号)に記載されているような、本発明において一般式(1)で表されるメタロセン化合物以外のメタロセン化合物を含む触媒系を用いる従来の製造方法では、分子量が小さく、末端ビニル率が大きく、且つ、ポリマーの形状、性状が良好なプロピレン系重合体を得ることが難しい。
比較例1では、分子量が十分に下がらなかった。比較例2、3は、実施例1、7、8の知見に従って、比較例1に対して、分子量を小さくするために重合温度を上げていった例である。
比較例2は、重合温度を80℃とし、分子量を50,000より小さい42,000程度に制御した例であるが、粗粉量が2.7%に増大し、粒子性状の相当の悪化が認められた。
さらに、比較例3は、重合温度を85℃とし、分子量を実施例の値に相当するレベルまで小さくした例であるが、粗粉量が14.5%に増大し、粒子性状の顕著な悪化が認められた。なお、一般的な商業的規模の重合設備では、粗粉量が1%を超えると、重合槽の汚染やファウリングの問題が発生する恐れがある。
図1