(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】脱臭方法及び脱臭装置
(51)【国際特許分類】
A61L 9/015 20060101AFI20230131BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20230131BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20230131BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20230131BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20230131BHJP
B01D 53/90 20060101ALI20230131BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20230131BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230131BHJP
B60H 3/00 20060101ALI20230131BHJP
C01B 13/11 20060101ALI20230131BHJP
F24F 3/16 20210101ALI20230131BHJP
C01B 13/10 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
A61L9/015
A61L9/00 C
A61L9/01 B
A61L9/14
B01D53/86 110
B01D53/90
B01J23/30 M
B01J35/02 J
B60H3/00 F
C01B13/11 Z
F24F3/16
C01B13/10 D
(21)【出願番号】P 2016252392
(22)【出願日】2016-12-27
【審査請求日】2019-12-23
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】595001044
【氏名又は名称】オーニット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 優
(72)【発明者】
【氏名】堀 貴晃
(72)【発明者】
【氏名】平垣 圭介
(72)【発明者】
【氏名】仁戸田 昌典
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】後藤 政博
【審判官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-104461(JP,A)
【文献】特開2005-329101(JP,A)
【文献】特開平11-267670(JP,A)
【文献】登録実用新案第3091342(JP,U)
【文献】特開2004-188412(JP,A)
【文献】特開2004-188412(JP,A)
【文献】特開2012-91172(JP,A)
【文献】特表2015-513306(JP,A)
【文献】特開平2-261515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00 - 12/14
B01D 53/34 - 53/96
C01B 13/00 - 13/36
B60H 1/00 - 3/06
F24F 3/00 - 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間又は対象物に対して、オゾンを含む気体と、酸化タングステンを含む光触媒粒子の分散液の霧とを供給することにより、前記対象空間又は対象物の脱臭を行う脱臭方法であり、
対象空間内において臭気物質が付着しやすい箇所に対しては、作業者が対象空間に入って前記
箇所に
前記光触媒粒子の分散液の霧を供給し、その後、前記オゾンを含む気体を対象空間に供給
し、
前記対象空間又は対象物における臭気物質は、芳香族化合物を含有し、当該芳香族化合物を分解することにより前記対象空間又は対象物の脱臭を行う脱臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象空間又は対象物の脱臭を行うための脱臭方法及び脱臭装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家屋内や自動車内等の空間や、これらの空間内に設けられた物の脱臭を行う方法として、オゾンを利用する方法が知られている。この方法は、香料等で臭いをごまかすものとは異なり、オゾンの酸化力によって臭いの原因である臭気物質自体を分解することができるという点で優れている。
【0003】
また、オゾンと光触媒とを併用して脱臭を行う方法も提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、空気中の有機物を分解するための装置であって、その装置内に、オゾン発生部と、光触媒を担持させた担体とを備えた装置が記載されている。特許文献1におけるオゾン発生部は、同文献の
図1におけるランプ50であり、担体は、同図における光触媒フィルター40である。特許文献2におけるオゾン発生部は、同文献の
図1におけるオゾン発生装置1であり、担体は、同図における触媒担持体9である。また、特許文献3には、小型のオゾン発生装置を用いて室内にオゾンを供給するとともに、該室内に光触媒である酸化チタンの粉体の懸濁液を噴霧する脱臭方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-070416号公報
【文献】特開2006-026194号公報
【文献】特開2005-329101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のオゾンを単独で用いる方法では、広範な臭気物質の分解を行うことができないことがある。この問題を解決する手段としては、オゾンを非常に高濃度かつ長時間供給することが考えられる。しかし、人体に悪影響を及ぼす虞や、室内の備品が錆びやすくなる等の可能性がある。
【0006】
また、特許文献1や特許文献2に記載の脱臭装置を用いた場合には、被処理気体が光触媒の担体を通過する際にしか光触媒による効果を得ることができないため、オゾンと担体に担持させた光触媒とを併用する方法を採用したとしても、必ずしも広範な臭気物質を効率的に分解できるとは限らない。一方、特許文献3に記載の方法を用いた場合には、室内に酸化チタンの粉体が噴霧されるため、室内のいたるところにおいて光触媒の効果を得ることができると思われる。しかし、本発明の発明者らが検討したところによると、特許文献3に記載された、オゾンと酸化チタンとを用いる方法では、難分解性の臭気物質までは分解することができなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、広範な臭気物質を効率よく分解することができる脱臭方法を提供するものである。また、このような脱臭方法を実現することができる脱臭装置を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、対象空間又は対象物に対して、オゾンを含む気体と、酸化タングステンを含む光触媒粒子の分散液の霧とを供給することにより、前記対象空間又は対象物の脱臭を行う脱臭方法によって解決する。
【0009】
これにより、広範な臭気物質を効率よく分解することができる。すなわち、詳しくは後述するが、オゾンと、酸化タングステンを含む光触媒粒子とを共存させることにより、オゾン単独又は光触媒粒子単独では分解できないか低効率でしか分解できないような臭気物質を、効率的に分解することができるようになる。
【0010】
上述した脱臭方法においては、前記オゾンを含む気体と、前記光触媒粒子の分散液の霧とを別々に供給するようにしてもよいが、前記オゾンを含む気体と、前記光触媒粒子の分散液の霧とを、混合した状態で供給することもできる。これにより、オゾンと光触媒粒子とを、混ざり合った状態で対象空間又は対象物に供給することができるため、上述したオゾンと光触媒粒子との相乗効果を得やすくなり、むらなく脱臭を行うことができる。
【0011】
一方、上述した脱臭方法において、前記オゾンを含む気体と、前記光触媒粒子の分散液の霧とを別々に供給する場合には、前記オゾンを含む気体を供給するよりも前に、前記光触媒粒子の分散液の霧を供給するようにすると好ましい。これにより、作業者の安全を確保しながら、効率よく脱臭を行うことができる。例えば、部屋の室内のカーテンや自動車のシート等、臭気物質が付着しやすい箇所に対しては、作業者が室内や車内に入って重点的に光触媒粒子の分散液の霧を供給するようにすると、より効果的に脱臭を行うことができる。しかし、オゾンは人体に有害であるため、オゾンを含む気体を供給した後で光触媒粒子を供給するようにすると、作業者が光触媒粒子の供給を安全に行うことができないことがある。
【0012】
上述した脱臭方法において、脱臭のターゲットとなる臭気物質は特に限定されない。しかし、前記対象空間又は対象物における臭気物質が、芳香族化合物を含有する場合において、当該芳香族化合物を分解することにより前記対象空間又は対象物の脱臭を行うようにすると好ましい。各種の臭気物質の中でも、芳香族化合物は、数多くの悪臭の原因となっているにも関わらず、難分解性であることが多い。本発明の脱臭方法を用いることによって、後述するように、芳香族化合物をも分解することができる。
【0013】
本発明の脱臭方法は、例えば、酸素分子からオゾンを生成することでオゾンを含む気体を供給するオゾン発生部と、光触媒粒子の分散液を超音波によって霧化することで光触媒粒子の分散液の霧を供給する霧化部とを備え、オゾンを含む気体と、光触媒粒子の分散液の霧とを混合して供給することができるようにした脱臭装置によって実現することができる。これにより、より効率的に室内等の脱臭を行うことができる。というのも、当該脱臭装置を用いることによって、オゾンと光触媒粒子とが混ざり合った状態で対象空間又は対象物に供給することができるため、広範な臭気物質をむらなく分解することができるからである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によって、広範な臭気物質を効率よく分解することができる脱臭方法を提供することが可能になる。また、このような脱臭方法を実現することができる脱臭装置を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の脱臭方法を実現可能な脱臭装置の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の脱臭方法は、対象空間又は対象物に対して、オゾンを含む気体と、酸化タングステンを含む光触媒粒子の分散液の霧とを供給することにより、前記対象空間又は対象物の脱臭を行うものである。
【0017】
これにより、広範な臭気物質を効率よく分解することができる。すなわち、オゾン単独又は光触媒粒子単独では分解できないか低効率でしか分解できないような臭気物質を、効率的に分解することができる。例えば、オゾン単独で脱臭処理を行うと、臭気物質のうちアルデヒド類やたばこのタールに含まれる物質等が酸化されてカルボン酸を生じるが、このカルボン酸はオゾンによる酸化分解を受けにくいものとなっているため、かえって酸性臭を生じさせてしまう。また、臭気物質の中でも芳香族化合物は、難分解性のものが多い。この点、本発明の脱臭方法は、オゾンと、酸化タングステンを含む光触媒粒子との相互作用により、カルボン酸や芳香族化合物を含む広範な臭気物質を分解可能なものとなっている。
【0018】
上記の脱臭方法における対象空間は、壁等で区切られた一定の体積を持つ空間のことをいう。このような空間としては、例えば、家屋や乗物の室内等が挙げられる。上記の脱臭方法は、特に、ホテルの部屋内や自動車の室内等の脱臭を行うために好適に用いることができる。また、上記の脱臭方法における対象物は、対象空間内にある物品のことをいう。これらの物品としては、例えば、壁紙や車のシート等の内装品や、家具や寝具等の可動物等が例示される。対象物の素材は特に限定されないが、繊維等の臭気物質が付着しやすい素材で形成された対象物の脱臭を行う際に、上記の脱臭方法を好適に用いることができる。このような対象物としては、カーテンやカーペット等が例示される。なお、上記の脱臭方法を用いて脱臭処理を行う場合には、例えば、蛍光灯や、LEDランプや、白熱灯等の光源を用いて対象空間内を照らすか、窓等から自然光を対象空間内に入射させる等して、対象空間や対象物に光が当たる状態とすると、光触媒による効果を促進することができるため好ましい。
【0019】
上記の脱臭方法において、オゾンを含む気体は、気体状態のオゾン分子を含む気体であれば、その具体的な組成については特に限定されない。オゾンを含む気体は、ほぼオゾンのみで構成される気体であってもよいが、通常、オゾンを含む空気とされる。
【0020】
上記の脱臭方法において、酸化タングステンを含む光触媒粒子(以下、単に「光触媒粒子」と表現することがある。)の分散液の霧は、その供給方法については特に限定されない。光触媒粒子の分散液の霧は、例えば、超音波を用いて光触媒粒子の分散液を霧化することで供給することもできる。この場合には、光触媒粒子の分散液の霧を対象空間に対してまんべんなく供給することができるため、効率的かつむらのない脱臭を行うことができる。また、光触媒粒子の分散液の霧は、手動式又は電動式のスプレー装置を用いて光触媒粒子の分散液を噴霧することで供給することもできる。この場合には、光触媒粒子の分散液の霧を局所的に噴霧することができるため、対象空間や対象物における特に臭いの気になる部分を集中的に脱臭することができる。
【0021】
光触媒粒子の分散液は、光触媒粒子を液相の分散媒に分散させることによって調整される。分散媒は、その組成については特に限定されないが、主に水、アルコール又はこれらの混合物から成る溶液とすると好ましい。分散媒には、分散剤や防腐剤などの添加剤を加えてもよい。分散剤としては、各種の界面活性剤、塩、溶剤、高分子化合物等が例示される。
【0022】
光触媒粒子の分散液に含まれる光触媒粒子の量は、特に限定されない。しかし、光触媒粒子の量が少なすぎると、脱臭効果が小さくなる傾向がある。このため、分散液に含まれる光触媒粒子の量は、0.001%(質量体積パーセント。以下、「w/v」と表記する。)以上とすると好ましく、0.01%(w/v)以上とするとより好ましく、0.05%(w/v)以上とするとさらに好ましい。一方、分散液に含まれる光触媒粒子の量が多すぎると、光触媒粒子が分散液中で沈殿しやすくなることがある。このため、分散液に含まれる光触媒粒子の量は、20%(w/v)以下とすると好ましく、10%(w/v)以下とするとより好ましく、5%(w/v)以下とするとさらに好ましい。
【0023】
酸化タングステンを含む光触媒粒子は、酸化タングステン粒子を含む粒子群であれば、その具体的な組成については特に限定されない。酸化タングステン粒子を形成する酸化タングステンは、タングステンと酸素とを構成元素とする化合物であれば、その酸化数や組成については特に限定されないが、通常、二酸化タングステン(WO2)又は三酸化タングステン(WO3)とされる。酸化タングステン粒子は、酸化数や組成の異なる二種類以上の酸化タングステン粒子の混合物としてもよい。酸化タングステンの結晶構造についても、特に限定されない。
【0024】
酸化タングステンを含む光触媒粒子は、酸化タングステン粒子に加えて、他の光触媒粒子を含むものとしてもよい。他の光触媒粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛又は硫化カドミウム等の粒子が例示される。酸化チタン粒子を用いる場合には、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型のいずれを使用してもよいが、アナターゼ型のものを用いると、より高い光触媒活性を得られるため好ましい。酸化タングステン粒子や他の光触媒粒子には、金属化合物を担持させてもよい。このような金属化合物としては、チタン、白金、鉄、銀、銅、鉛、ニッケル、ロジウム、ルテニウム、パラジウムから成る群より選ばれる一種以上の金属化合物等が例示される。
【0025】
光触媒粒子の分散液に含まれる酸化タングステン粒子や他の光触媒粒子の粒子径は、特に限定されないが、小さい方が好ましい。というのも、光触媒粒子の粒子径を小さくすると、対象空間に対して光触媒粒子の分散液の霧を供給した際に、光触媒粒子の滞空時間を長くすることができるため、より効果的に対象空間の脱臭を行うことができるからである。加えて、光触媒粒子の比表面積を大きくすることもできるため、その点でも効果的に対象空間や対象物の脱臭を行うことができる。
【0026】
このため、光触媒粒子の粒子径は、50nm以下とすると好ましく、30nm以下とするとより好ましく、10nm以下とするとさらに好ましい。光触媒粒子の粒子径は、その下限値については特に限定されないが、通常、1nm程度とされる。光触媒粒子の粒子径は、3nm以上とするとより好ましく、5nm以上とするとさらに好ましい。後述する実施例においては、粒子径が7nm程度の光触媒粒子を用いている。
【0027】
上記の脱臭方法においては、対象空間又は対象物に対して、オゾンを含む気体と、光触媒粒子の分散液の霧とを混合した状態で供給することもできる。このような方法としては、後述する脱臭装置を用いる方法等が挙げられる。
【0028】
また、上記の脱臭方法においては、対象空間又は対象物に対して、オゾンを含む気体と、光触媒粒子の分散液の霧とを別々に供給することもできる。この場合に、オゾンを含む気体と、光触媒粒子の分散液の霧のどちらを先に供給するかは特に限定されず、同時に供給するようにしてもよいが、上述したように、オゾンを含む気体を供給するよりも前に光触媒粒子の分散液の霧を供給するようにすると、作業者の安全の面から好ましい。
【0029】
上記の脱臭方法は、臭いの原因となる各種の臭気物質を分解できるものとなっている。このような臭気物質としては、各種の芳香族化合物、カルボン酸、アルデヒド、アルコール、エステル、エーテル、ケトン、ラクトン、窒素化合物、硫黄化合物、塩素化合物、臭素化合物から成る群より選ばれる一種以上の有機化合物等が例示される。上記の脱臭方法は、特に、芳香族化合物の分解を効果的に行うことができるものとなっている。このような芳香族化合物としては、ベンゼン、スチレン、トルエン、キシレン、フェノール、クレゾール、ナフタレン、インドール、スカトール、ピリジン及びこれらの誘導体から成る群より選ばれる一種以上の化合物等が例示される。
【0030】
上記の脱臭方法は、例えば、
図1に示す脱臭装置10を用いて実現することができる。この脱臭装置10は、酸素分子からオゾンを生成することでオゾンを含む気体を供給するオゾン発生部20と、光触媒粒子の分散液Dを超音波によって霧化することで光触媒粒子の分散液の霧を供給する霧化部30とを備えたものとなっている。この脱臭装置10を用いることにより、対象空間内にオゾン及び光触媒粒子をまんべんなく供給することができ、効率的かつむらのない脱臭を行うことができる。また、例えば、無人状態で脱臭処理を行うことができるため、手間を省くことができるとともに、作業者が有害なオゾンにさらされることを防ぐことができる。
【0031】
脱臭装置10は、オゾン発生部20と霧化部30とを備えたものとなっていれば、これらをどのように組み合わせるかについては特に限定されない。例えば、オゾン発生部20と霧化部30とを別流路内に配し、それぞれの流路に装置外につながる放出口を設けて、オゾンを含む気体と光触媒粒子の分散液の霧とを別々に供給するようにしてもよい。しかし、
図1に示す脱臭装置10においては、オゾン発生部20と霧化部30とを1つの流路内に配しており、オゾンを含む気体と光触媒粒子の分散液の霧とを混合した状態で供給するようにしている。すなわち、ブロアファン40によって吸気口50から吸入された空気が、オゾン発生部20と霧化部30との両方を通過し、オゾンと光触媒粒子の分散液の霧とを共に含んだ状態で、放出口60から放出されるようになっている。これにより、オゾンと光触媒粒子とを予め混ざり合った状態で供給することができるため、オゾンと光触媒粒子との相互作用がより起こりやすいようにして、広範な臭気物質をむらなく分解することができる。
【0032】
オゾン発生部20と霧化部30とを1つの流路内に配する場合において、オゾン発生部20と霧化部30のどちらを上流側に配するかは限定されないが、
図1に示すように、オゾン発生部20を霧化部30に対して上流側に配するようにすると好ましい。というのも、霧化部30の下流側を流れる気体は、光触媒粒子の分散液Dが霧化されて発生した水蒸気を豊富に含む場合があるところ、水蒸気を多く含む気体内でオゾンを発生させようとすると、オゾンだけでなく水分子由来のOHラジカルも生成してしまい、オゾンの生成効率が低下してしまうからである。
【0033】
オゾン発生部20は、酸素分子からオゾンを生成することができるものであれば、その具体的な構成については特に限定されず、紫外線ランプ等を用いたものや、沿面放電式や、コロナ放電式や、プラズマ式であってもよいが、
図1に示す脱臭装置10におけるオゾン発生部20は、無声放電によりオゾンを発生させるものとなっている。また、オゾンの原料となる酸素分子は、その供給方法については特に限定されず、ボンベ等から供給される濃縮酸素を用いてもよい。この場合には、オゾンを高濃度で発生させることができるため、より高い脱臭効果を得ることができる。
図1に示す脱臭装置10におけるオゾン発生部20は、吸気口50から吸入された空気中に含まれる酸素分子を原料としてオゾンを発生させるものとなっている。この場合には、装置を簡素なものとするとともに、コストを低く抑えることができる。
【0034】
霧化部30は、超音波によって光触媒粒子の分散液Dを霧化することができるものであれば、その具体的な構成については特に限定されない。
図1に示す脱臭装置10では、霧化部30を、その底部に超音波振動子31を備えたものとしている。
【0035】
図1に示す脱臭装置10は、上記の構成に加えて、担体に光触媒を担持させて形成された光触媒フィルター70も備えたものとなっている。これにより、より効果的に脱臭処理を行うことができる。
図1に示す脱臭装置10においては、光触媒フィルター70を、ブロアファン40の上流側、すなわち吸気口50の直後に設置している。しかし、光触媒フィルター70を、脱臭装置10の流路におけるどの箇所に設置するかは特に限定されず、ブロアファン40とオゾン発生部20との間、オゾン発生部20と霧化部30との間、又は、霧化部30の下流側に設置してもよい。
【0036】
光触媒フィルター70の担体は、光触媒を担持させた状態で気体を通過させることができるものであれば、その構造については特に限定されないが、多孔性の構造とすると好ましい。このようなものとしては、例えば、ハニカム構造や、メッシュ構造や、スポンジ構造や、不織布様の構造等が挙げられる。光触媒フィルター70の担体の素材も特に限定されず、セラミックスや、金属や、樹脂や、ガラス繊維等とすることができる。光触媒フィルター70に担持させる光触媒は、その種類については特に限定されず、二酸化チタンや、三酸化タングステンや、二酸化タングステンや、酸化亜鉛や、硫化亜鉛や、硫化カドミウムや、これらの混合物とすることができる。
【0037】
脱臭装置10に光触媒フィルター70を備える場合には、少なくとも脱臭装置10の使用中には、光触媒フィルター70に光が当たるようにすると、光触媒の効果を促進することができるため好ましい。このため、脱臭装置10は、光触媒フィルター70を照らすための光源(図示省略)をさらに備えたものとすることもできる。光源としては、例えば、蛍光灯や、LEDランプや、白熱灯や、紫外線ランプ等を用いることができる。別の態様として、光触媒フィルター70を脱臭装置10の流路における上流端又は下流端に配する場合には、光触媒フィルター70を装置外部に露出した状態として、対象空間内の光が光触媒フィルター70に当たるようにすることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0039】
本実施例においては、処理対象の臭気物質(以下、「対象物質」と表現することがある。)を対象空間中に予め存在させておき、当該対象空間に対して後述する処理方法1~8のいずれかの脱臭処理を施すことで、対象空間の脱臭を行った。脱臭効果の評価は、対象物質の処理率を調べることで行った。
【0040】
[対象空間及び対象物質]
対象空間としては、45Lのデシケーター内部を使用した。対象物質としては、実施例1ではカルボン酸の一例として酢酸を、実施例2では芳香族化合物の一例としてベンゼンを、それぞれ使用した。これらの対象物質は、液体状態のものを別容器内で室温にて飽和状態まで揮発させておき、この別容器内の気体をシリンジで吸引してデシケーター内に注入することで、気体状態でデシケーター内に存在させるようにした。
【0041】
[脱臭処理]
脱臭処理は、以下の処理方法1~8のいずれかを、対象物質を存在させた対象空間に施すことで行った。処理時間は30分間とした。
(1)処理方法1
蒸留水0.36mlを、手動式スプレー装置を用いて対象空間内に噴霧した。
(2)処理方法2
対象空間内に予め設置しておいた無声放電式のオゾン発生装置を始動させて、対象空間内にオゾンを供給した。処理時間内に供給されたオゾンの総量は11.5mgであった(下記処理方法4,6,8についても同様)。
(3)処理方法3
1%(w/v)二酸化チタン粒子分散液0.36mlを、手動式スプレー装置を用いて対象空間内に噴霧した。
(4)処理方法4
対象空間内に予め設置しておいた無声放電式のオゾン発生装置を始動させると同時に、1%(w/v)二酸化チタン粒子分散液0.36mlを、手動式スプレー装置を用いて対象空間内に噴霧した。
(5)処理方法5
0.1%(w/v)三酸化タングステン粒子分散液0.45mlを、手動式スプレー装置を用いて対象空間内に噴霧した。
(6)処理方法6
対象空間内に予め設置しておいた無声放電式のオゾン発生装置を始動させると同時に、0.1%(w/v)三酸化タングステン粒子分散液0.45mlを、手動式スプレー装置を用いて対象空間内に噴霧した。
(7)処理方法7
0.1%(w/v)二酸化タングステン粒子分散液0.45mlを、手動式スプレー装置を用いて対象空間内に噴霧した。
(8)処理方法8
対象空間内に予め設置しておいた無声放電式のオゾン発生装置を始動させると同時に、0.1%(w/v)二酸化タングステン粒子分散液0.45mlを、手動式スプレー装置を用いて対象空間内に噴霧した。
【0042】
[評価方法]
脱臭効果の評価は、脱臭処理の前後におけるデシケーター内の対象物質の気中濃度をそれぞれ測定し、対象物質の処理率(%)を算出することによって行った。対象物質の気中濃度は、ガステック社製の気体採取器「MODEL801」に検知管を装着して測定した。酢酸の濃度測定には同社製の検知管「#81L」を、ベンゼンの濃度測定には同社製の検知管「#121L」を、それぞれ使用した。処理率が10%未満の場合は「×」、10%以上50%未満の場合は「△」、50%以上90%未満の場合は「○」、90%以上の場合は「◎」と判定した。
【0043】
[実施例1]
3.77~9.00ppm程度の酢酸を含むデシケーター内空間に対して、上記処理方法1~8のそれぞれを施し、脱臭効果の評価を行った。得られた結果を表1に示す。対象空間にオゾンを供給した場合(試験例2)には、酢酸が殆ど分解されなかったのに対し、対象空間に光触媒粒子の分散液の霧を供給した場合(試験例3,5,7)、及び、光触媒粒子の分散液の霧とオゾンとを供給した場合(試験例4,6,8)には、いずれも、酢酸がほぼ完全に分解された。なお、対象空間に蒸留水を供給した場合(試験例1)にも酢酸濃度の減少が見られたが、これは、気体状態で対象空間内に存在していた酢酸が、処理に使用した水に一部溶解したために酢酸の気中濃度が減少したからであると考えられる。
【0044】
このことから、[1]オゾン単独による処理ではカルボン酸の分解は難しいこと、[2]光触媒粒子による処理では、オゾンの有無によらずカルボン酸が効率よく分解できることが示された。
【0045】
【0046】
[実施例2]
2.50~3.67ppm程度のベンゼンを含むデシケーター内空間に対して、上記処理方法1~8のそれぞれを施し、脱臭効果の評価を行った。得られた結果を表2に示す。対象空間に蒸留水(試験例9)又はオゾン(試験例10)を供給した場合には、ベンゼンは殆ど分解されなかった。また、対象空間に二酸化チタン粒子分散液の霧を供給した場合(試験例11)や、二酸化チタン粒子分散液の霧とオゾンとを供給した場合(試験例12)にも、ベンゼンの分解は確認されなかった。一方、対象空間に三酸化タングステン粒子分散液の霧を供給した場合(試験例13)にはベンゼンは殆ど分解されなかったが、対象空間に三酸化タングステン粒子分散液の霧とオゾンとを供給した場合(試験例14)には、約57%のベンゼンが分解された。また、対象空間に二酸化タングステン粒子分散液の霧を供給した場合(試験例15)には、約28%のベンゼンが分解され、対象空間に二酸化タングステン粒子分散液の霧とオゾンとを供給した場合(試験例16)には、約67%のベンゼンが分解された。
【0047】
このことから、[1]オゾン単独による処理では芳香族化合物の分解は難しいこと、[2]二酸化チタン粒子による処理では、オゾンの有無によらず芳香族化合物の分解は難しいこと、[3]三酸化タングステン粒子は、単独では芳香族化合物を分解することは難しいが、オゾンと共存状態にすることによって芳香族化合物を分解することができること、[4]二酸化タングステン粒子は、単独でも芳香族化合物を分解することができるが、オゾンと共存状態にすることによって、より効率よく芳香族化合物を分解することができることが示された。
【0048】
【0049】
[実施例3]
対象空間を、家屋の室内(体積30m
3程度)とし、
図1に示す脱臭装置を用いて、上記の試験例6,8,14,16と同様の脱臭処理実験を行った。その結果、オゾンと光触媒粒子とが室内にまんべんなく供給され、カルボン酸及び芳香族化合物を含む臭気物質を分解することができた。
【符号の説明】
【0050】
10 脱臭装置
20 オゾン発生部
30 霧化部
31 超音波振動子
40 ブロアファン
50 吸気口
60 放出口
70 光触媒フィルター
D 光触媒粒子の分散液