(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】芯折れ防止機構付き筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 21/00 20060101AFI20230131BHJP
B43K 21/16 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
B43K21/00 H
B43K21/16 W
(21)【出願番号】P 2019041214
(22)【出願日】2019-03-07
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019001238
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392005126
【氏名又は名称】ミクロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100081547
【氏名又は名称】亀川 義示
(72)【発明者】
【氏名】金成 裕之
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109352(JP,A)
【文献】特許第5827675(JP,B2)
【文献】特許第3885315(JP,B2)
【文献】実開昭56-005679(JP,U)
【文献】特開2000-318371(JP,A)
【文献】特開2017-013286(JP,A)
【文献】特開2017-013289(JP,A)
【文献】実開昭61-053188(JP,U)
【文献】実開平06-021983(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 21/00-21/26
B43K 24/00-24/18
B43K 27/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体の先端に設けたテーパーと、該テーパーに前後動可能に挿入されたスライダーを具備し、本体内に設けた芯繰出し機構により芯を送り出してスライダーで保護する形式の筆記具において、本体の外周に先端が軸径方向及び軸長方向に移動可能に設けられ本体の後方に後退バネで付勢されたグリップ部と、グリップ部の先端に当接し該グリップ部により前方に移動可能な先端当接具と、該先端当接具が前進するとき前方に移動して上記後退バネを圧縮する押し具を有し、上記スライダーは上記後退バネで後方に付勢されるよう該後退バネの付勢力が作用するバネ受け部を有し、該後退バネが押し具で圧縮されたとき後退バネとバネ受け部間に移動空間が形成され、上記スライダーが該移動空間に沿って前進可能となることを特徴とする芯折れ防止機構付き筆記具。
【請求項2】
上記移動空間が生じたとき、上記スライダーは、前進バネで前進することを特徴とする請求項1に記載の芯折れ防止機構付き筆記具。
【請求項3】
上記本体は、本体上と本体下で構成され、スライダーの後部と本体下の先部間に前進バネが設けられている請求項2に記載の芯折れ防止機構付き筆記具。
【請求項4】
上記移動空間が生じたとき、上記スライダーは、スライダーの自重で前進することを特徴とする請求項1に記載の芯折れ防止機構付き筆記具。
【請求項5】
上記スライダーは、軸長方向に延びる小径部を有し、該小径部の後部に上記バネ受け部が形成され、後退バネと押し具間には受けリングが設けられ、該受けリングには上記小径部に突出し上記バネ受け部に係合可能な係止爪が設けられ、受けリングが押し具で前進したとき該係止爪とバネ受け部間に上記移動空間が形成されることを特徴とする請求項1に記載の芯折れ防止機構付き筆記具。
【請求項6】
上記受けリングは後部に内方に突出する内方フランジを有し、該内方フランジとスライダーの後部間に、スライダーを前方に付勢する前進バネが設けられている請求項5に記載の芯折れ防止機構付き筆記具。
【請求項7】
上記押し具の先端には、上記後退バネの後端に当接する押圧片が形成され、上記スライダーの外周には、上記押圧片が摺動可能に嵌合する摺動溝が形成され、該摺動溝の開口端の周囲が上記バネ受け部となり、上記押し具が後退しているとき後退バネの後端は押圧片の先端とバネ受け部に当接し、押し具が前進したとき後退バネとバネ受け部間に上記移動空間が形成されることを特徴とする請求項1に記載の芯折れ防止機構付き筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆圧が過度にかかった場合に、芯折れを防止するようにした芯折れ防止機構付き筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シャープペンシル等の筆記具において、過剰な筆圧が作用した際、芯が折れないように軸筒の先端から突出している芯ホルダーを前進させて芯を保護する芯折れ防止機構付き筆記具が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の筆記具は、大きな筆圧で軸筒が傾斜したときに軸筒の軸径方向に加わる力により芯ホルダーを前方に押し出し、芯の外周に芯ホルダーの先端を前進させて芯を覆うようにした構成である。この際、芯ホルダーの先端には、過剰な筆圧に起因する大きな加圧力が直接的に作用し、先端部を紙面に強く押し付けることになるから、筆記している紙に傷をつけたり、紙を破ってしまうおそれがある。
【0003】
上記特許文献1の構成では、筆記芯を繰出す芯繰出し機構を軸筒内で傾斜させなければならないので、筆記芯に損傷を与えるおそれもある。軸筒内の芯繰出し機構を傾けずに、過剰な筆圧が作用したとき、グリップや軸筒の前軸を軸径方向に傾けることにより芯を保護しようとする機構も提案されている(例えば特許文献2、3参照)。しかし、特許文献2に記載のシャープペンシルは、過大な筆圧が作用したとき、グリップを傾けて、芯繰出ユニットを軸方向後方に移動させる構成であるから、このようなシャープペンシルでは、筆記中に芯繰出ユニットが突然後退して芯が没入することになり、筆記作業が中断され、使用しずらい。
【0004】
また、特許文献3に記載のシャープペンシルでは、前軸が後軸に対して傾いたとき芯繰出しユニットが前進するよう構成されているが、上記特許文献1と同じように、過剰な筆圧に対応した大きな加圧力で芯繰出しユニットを直接前進させて口金を紙面に押し付けることになるから、紙面を損傷等するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5827675号公報(特許請求の範囲、段落0009~0011、
図1、
図4)
【文献】特開2017-13286号公報(特許請求の範囲、段落0023、
図3、
図4)
【文献】特開2017-13289号公報(特許請求の範囲、段落0039、
図2、
図4~
図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、軸筒本体の先端に設けたテーパー(口金)に、芯を保護するスライダーを前後動可能に設けた筆記具において、過度の筆圧が作用した際、軸筒本体の軸径方向若しくは軸長方向に加わる力により上記スライダーが前進可能となり、紙面を損傷することなく、芯を保護できるようにした芯折れ防止機構付き筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本体の先端に設けたテーパーと、該テーパーに前後動可能に挿入されたスライダーを具備し、本体内に設けた芯繰出し機構により芯を送り出してスライダーで保護する形式の筆記具において、本体の外周に先端が軸径方向及び軸長方向に移動可能に設けられ本体の後方に後退バネで付勢されたグリップ部と、グリップ部の先端に当接し該グリップ部により前方に移動可能な先端当接具と、該先端当接具が前進するとき前方に移動して上記後退バネを圧縮する押し具を有し、上記スライダーは上記後退バネで後方に付勢されるよう該後退バネの付勢力が作用するバネ受け部を有し、該後退バネが押し具で圧縮されたとき後退バネとバネ受け部間に移動空間が形成され、上記スライダーが該移動空間に沿って前進可能となることを特徴とする芯折れ防止機構付き筆記具が提供され、好ましくは、上記移動空間が生じたとき、上記スライダーは、前進バネ若しくはスライダーの自重で前進することを特徴とする上記芯折れ防止機構付き筆記具が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記スライダーは軸長方向に延びる小径部を有し、該小径部の後部に上記バネ受け部が形成され、後退バネと押し具間には受けリングが設けられ、該受けリングには上記小径部に突出し上記バネ受け部に係合可能な係止爪が設けられ、受けリングが押し具で前進したとき該係止爪とバネ受け部間に上記移動空間が形成されることを特徴とする上記芯折れ防止機構付き筆記具が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記押し具の先端には、上記後退バネの後端に当接する押圧片が形成され、上記スライダーの外周には、上記押圧片が摺動可能に嵌合する摺動溝が形成され、該摺動溝の開口端の周囲が上記バネ受け部となり、上記押し具が後退しているとき後退バネの後端は押圧片の先端とバネ受け部に当接し、押し具が前進したとき後退バネとバネ受け部間に上記移動空間が形成されることを特徴とする上記芯折れ防止機構付き筆記具が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の筆記具は、上記のように、本体の先端に設けたテーパーと、該テーパーに前後動可能に挿入されたスライダーを具備し、本体内に設けた芯繰出し機構により芯を送り出して外周をスライダーで保護するよう構成されている。上記本体の外周には、先端が軸径方向及び軸長方向に移動可能に設けられ本体の後方に後退バネで付勢されたグリップ部と、グリップ部の先端に当接し該グリップ部により前方に移動可能な先端当接具が設けられている。本体内には、上記先端当接具が前進するとき前方に移動して上記後退バネを圧縮するよう押し具を設けてある。上記スライダーには、上記後退バネで後方に付勢されるよう該後退バネの付勢力が作用するバネ受け部を設けてある。そして、上記グリップ部の先端が、過剰筆圧で軸長方向若しくは軸径方向に移動したとき前方に移動する先端当接具及び押し具を介して後退バネが圧縮され、後退バネと上記バネ受け部間に移動空間が形成されるようにしたから、上記スライダーは該移動空間に沿って前進可能となり、芯の外周を十分に覆う位置まで前進して、芯折れを防止することができる。この際、上記移動空間が生じたとき、上記スライダーが自重で移動するようにすると、構成が簡単になり、また前進バネでスライダーを押圧するようにすると確実にスライダーが前進して芯折れを防止することができる。
【0011】
また、上記スライダーに、軸長方向に延びる小径部を設け、該小径部の後部に上記バネ受け部を形成し、後退バネと押し具間に受けリングを設け、該受けリングに上記小径部に突出し上記バネ受け部に係合可能な係止爪を設けると、受けリングが押し具で前進したとき該係止爪とバネ受け部間に上記移動空間が形成され、この移動空間内で上記係止爪に当たるまでスライダーが前進可能となり、スライダーを前進位置に移動させることができる。さらに、上記押し具の先端に、上記後退バネの後端に当接する押圧片を形成し、上記スライダーの外周に、上記押圧片が摺動可能に嵌合する摺動溝を形成し、該摺動溝の開口端の周囲を上記バネ受け部に構成すると、上記押し具が後退しているとき後退バネの後端は押圧片の先端とバネ受け部に当接し、押し具が前進したとき後退バネとバネ受け部間に上記移動空間が形成されるから、上述のようにスライダーが前進して芯の周囲を確実に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1の筆記具の芯繰出し機構を省略した端面図を示し、(A)はA―A線端面図、(B)はB―B線端面図、(C)はC―C線端面図、(D)はD―D線端面図。
【
図3】本体下を示し、(A)は側面図、(B)は半断面図、(C)は底面図。
【
図4】先端当接具を示し、(A)は平面図、(B)は半断面図、(C)は左側面図、(D)は右側面図。
【
図5】押し具を示し、(A)は平面図、(B)は半断面図、(C)は左側面図。
【
図6】受けリングを示し、(A)は半断面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図。
【
図11】芯の先端がスライダーで保護された状態を示す説明図。
【
図13】グリップ部のさらに他の実施例を示す断面図。
【
図14】前進バネを使用しない実施例を示す一部の断面図。
【
図16】
図15に示す実施例のスライダーを示し、(A)は左側面図、(B)は正面図、(C)は平面図、(D)は底面図。
【
図17】
図15に示す実施例のスライダーと押し具の関係を示し、(A)は通常の筆記時の説明図、(B)は過剰筆圧時の説明図、(C)はスライダーが移動した状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、各種の筆記具や棒状の化粧用具の繰出具等に適用することができるが、図に示す実施例では筆記具としてシャープペンシルに適用した実施例につき説明する。なお、本明細書において、「前」、「先」とは芯が繰り出される方向をいい、「後」とは芯が没入される方向をいう。また、軸径方向とは、軸筒本体の軸心に直交する方向を意味し、軸長方向とは軸心に沿った方向を意味する。
【0014】
図1、
図2を参照し、軸筒本体1は、本体上2と、該本体上2に連結される本体下3で構成され、本体下の外周にはグリップ部4が設けられ、前部にはテーパー(口金)5と、該テーパーから前後動可能に突出するスライダー6が設けられている。
図1、
図2に示すように、本体上2にはクリップ7が一体的に形成され、前部にはねじ部8を介して小径の内筒部9が形成されている。本体下3は、
図3に示すように、後部に内面にねじ部10を有する連結筒11が有り、該連結筒11を本体上2のねじ部8にねじ着して本体上2に連結固定される。連結筒11の前部には、段部12を介して、本体上2の上記内筒部9が挿入される内径を有する前筒部13が形成されている。該前筒部13の先端近くには、弧状の挿通孔14と、芯繰出し機構15の先部が挿通する中心孔16を形成した壁部17が設けられている。前筒部13の外周には、軸長方向に延びる長溝18が有り、該長溝18の後部には前筒部13内に開口する長孔19が設けられ、かつ上記テーパー5をねじ着するためのねじ部20が形成され、後方には連結筒11の段部12から少し離れた位置に係止突起21が設けられている。
【0015】
上記前筒部13には、先端当接具22が軸長方向に移動可能に嵌合している。該先端当接具22は、
図4に示すように、上記テーパー5の後端外周が入り込む内径の空間部を形成した頭部23を有し、該頭部23の後面にはグリップ部4の先端が当接する当接面24が形成され、頭部の後方には上記長溝18に摺動可能に嵌合する摺動片25が延びており、その後端には、上記本体下3の前筒部13に設けた長孔19を通して前筒部内に突出する連結突起26が設けられている。上記当接面24は、グリップ部4が軸径方向若しくは軸長方向に移動したとき、上記先端当接具22を軸長方向に移動するようなカム面となっている。
図4に示す実施例では、当接面24は、前方に広がるような傾斜面に形成され、この傾斜面に接するグリップ部4の先端を角部に形成してあるが、当接面を角部に形成し、グリップ部の先端に傾斜面を設けたり、当接面及びグリップ部の先端を傾斜面に形成してもよい(図示略)。
【0016】
また、前筒部13の係止突起21と連結筒11の段部12の間には、リング状の後端当接具27が嵌着されており、この後端当接具27の当接面28はグリップ部4を前方に案内するような傾斜面に形成されている。上記グリップ部4は、上記先端当接具22と後端当接具27により挟み込まれており、後退バネ29の荷重により通常は本体下3の前筒部13の外周面との間に空間が存する中空状態に保持されている。
【0017】
上記本体下3の前筒部13の内方には、押し具30が軸長方向に移動可能に収納されている。該押し具30は、
図5に示すように、筒状に形成され、前部には、上記壁部14に形成した挿通孔14に挿通する押圧片31を対向状態に設けてある。そして、この押圧片31の先端は、受けリング32に当接しており、該受けリングの外方段部(
図6参照)34と上記テーパー5の内面段部33と間に上記後退バネ29が設けられ、この後退バネ29で上記押し具30、先端当接具22及びグリップ部4を、後方に付勢している。押し具30は、上記長孔19から突出する上記連結突起26に後端が係合することにより後退動が阻止されているが、先端当接具22が前進するとき、押し具30は連結突起26を介して前進し、後退バネ29を圧縮することができる。上記受けリング32の前方内面には、後退バネ29の後方に向かう付勢力(荷重)を上記スライダー6に伝達するため内方に突出する係止爪35が設けられている。
【0018】
上記スライダー6は、
図7に示すように、筒状に形成され、先部に芯挿通孔36を有し、外周にはテーパー5の先端面に当接するフランジ37があり、外周には軸長方向に延びる小径部38が形成され、該小径部38の後端に、上記受けリング32の係止爪35が当接して後退バネ29の付勢力が作用するようバネ受け部39が形成されている。また、
図9に示すように、該スライダー6の後端と、本体下3の先部、実施例においては、壁部17の間には、上記後退バネ29より弱いバネ圧の前進バネ40が設けられている。この前進バネ40によりバネ受け部39が上記受けリング32の係止爪35に係合する方向に、即ち前方にスライダー6は付勢されるが、受けリング32が後退バネ29で後方に付勢されているから、結果として、通常の筆記状態では、係止爪35がバネ受け部39に当接してスライダー6は、後方に付勢され、フランジ37がテーパー5の先端面に当接する位置で停止している。
【0019】
上記芯繰出し機構15は、種々に構成することができる。
図1に示す実施例では、
図8に示すように、チャックジョイント41の後部に芯タンク42を接続し、前部にチャック43を接続し、チャック43を締着するクラッチ44の後端をコネクター45に当接し、該コネクター45と芯タンク42間にチャックスプリング46を設けてチャック43等を後方に付勢してある。上記コネクター45に設けたフランジ47の前部には、
ブレーカー48と、上記クラッチ44が前進した際当接する内段部49を形成したシャープメカテーパー50を接続してある。上記コネクター45の後部には、
図1に示すように、メカ押さえパイプ51が挿入され、該メカ押さえパイプ51を、上記本体上2の内筒部9の前端に固定することにより、芯繰出し機構15が本体上2内に装着され、筆記時の筆圧を本体上2で支持するように構成している。なお、芯タンク42の後部には、消しゴムホルダー52が嵌着され、消しゴム53、消しゴムキャップ54が取り付けられている。
【0020】
上記の構成により、
図9に示すように、起立状態で筆記しているときは、グリップ部4は、先端が先端当接具22の当接面24に均等にあたり、該先端当接具は強く押圧されておらず前進していないから、押し具30は後退バネ29により後退した状態にある。そして、スライダー6も後退バネの作用で後退している。芯56を繰出して軸筒を傾斜した状態で把持しているとき、
図1矢印55方向に筆記に伴う過剰な筆圧が芯に作用すると、この過剰筆圧による荷重は、グリップ部に対して軸径方向に作用し、グリップ部4は、
図10に示すように、軸径方向に移動する。その結果、先端当接具22は押されて前進し、押し具30及び受けリング32を前進させるので、該受けリング32を介して後退バネ29は圧縮される。これにより、スライダー6を後方に付勢している付勢力は消失するが、受けリング32が前進するので、バネ受け部39と受けリング32の係止爪35の間にはスライダー6が前進可能な移動空間Sが形成される。そして、
図11に示すように、スライダーは、この移動空間を閉じる分、前進バネ40の作用で前進し、芯56の先端を覆うから、芯折れを防止することができる。
【0021】
グリップ部4を起立させた状態で使用しているとき、過剰な筆圧が
図1矢印57方向に作用したときには、先端当接具22はグリップ部4に押されて軸長方向に移動するから、上記
図10、
図11と同様に押し具30及び受けリング32が前進し、後退バネ29が圧縮されてスライダー6が前進可能となり、前進バネ40の作用でスライダー6を前進させて芯56の先端を保護することができる。
【0022】
上記実施例では、グリップ部4として軸筒1の本体下3の外周に筒状のグリップ部4を嵌着したが、軸筒本体をグリップ部とすることもできる。
図12はそのような実施例を示し、円筒状の本体58の周囲を本体カバー59でカバーして軸筒本体を構成し、本体カバー59の先端を先端当接具22に当接してある。上記実施例とほぼ同様に、後退バネ29の作用で該本体カバー59及び先端当接具22等を後方に付勢し、本体カバー59に設けた係止突起60を、本体58のフランジ61の下面に係合させることにより、通常のように筆記ができるようにしてある。先端当接具22、押し具30、スライダー6等の他の構成は上記実施例とほぼ同様に構成してある。この構成により、過剰筆圧が作用すると、軸径方向若しくは軸長方向に本体カバー59が移動するから、上記実施例と同様に先端当接具22、押し具30を介して後退バネ29が圧縮され、移動空間が形成されてスライダー6が前進可能となり、前進バネ40の作用で前進して芯56を保護することができる。
【0023】
また、上記実施例では、グリップ部4の後部に後端当接具27を設けてグリップ部4の上下端を保持しているが、後端当接具27を省略することもできる。この場合には、
図13に示すように、グリップ部4の後端にストッパー62を設け、このストッパー62が本体下3の連結筒11の段部12に当たってグリップ部4の先端が軸径方向及び軸長方向に移動できるようにすればよい。
【0024】
さらに、上記実施例では、スライダー6を前進バネ40で付勢し、移動空間が生じたときスライダー6を前進バネ40で押圧して前進させているが、筆記具は起立状態で使用されることが多いので、スライダー6には前進方向に自重が作用する。したがって、スライダー6の自重が十分あれば、
図14に示すように、前進バネを省略してもよい。
【0025】
上記実施例では、後退バネ29に当接する受けリング32を設けてスライダーのバネ受け部39に後退バネ29の付勢力が間接的に作用するようにしているが、受けリング32を省略して後退バネの付勢力を直接的にバネ受け部に作用させてスライダーを後方に付勢することもできる。
【0026】
図15~
図17を参照し、基本的には上記
図1に示す実施例とほぼ同様の構成であるが、受けリングを使用しないので、押し具30の先端に形成した押圧片31は、スライダー6を囲んで前方に延びており、上記後退バネ29の後端に当接している。スライダー6の後部の外周には、フランジ63が形成され、該フランジ63には、上記押圧片31が摺動可能に嵌合する摺動溝64が形成されおり、該摺動溝64の開口端の周囲のフランジ63の前端面がバネ受け部65となっている。
【0027】
上記構成により、通常の筆記状態において、後退バネ29の後端は、押圧片31の先端に接して押し具30を後退させ、押圧片31の先端とバネ受け部65はほぼ同一平面となる位置になり、後退バネの後端はフランジ63の前端面に接している。それにより上記バネ受け部65を介して後退バネ29の後端が直接スライダー6に当接することになり、スライダー6は後退バネ29に直接押されて、
図17(A)に示すように、後退している。そして、押し具30が過剰筆圧により上述のように前進したとき、後退バネ29は圧縮され、その後端とバネ受け部65間には、
図17(B)に示すように、移動空間Sが形成されるから、上述の実施例
と同じように前進バネ40若しくはスライダーの自重によりこの移動空間Sに沿ってスライダー6は、
図17(C)に示すように、前進し、芯の先端を十分に保護し、芯折れを防止することができる。過剰な筆圧が除去されると、後退バネ29の作用で押し具30及びスライダー6は後退し、上記
図17(A)の状態に戻り、筆記を続けることができる。
【0028】
上記実施例において、前進バネ40は、前端をスライダー6の後部に当接し、後端を本体下3の壁部17に当接してスライダー6を前進方向に付勢している。そのため、過剰筆圧時に押し具30により受けリング32が前進すると、前進バネ40が延び、荷重が弱くなる傾向になるおそれがある。そのようなおそれがあるときには、前進バネの荷重が常時定量となるように構成すればよい。
【0029】
図18は、そのような実施例を示し、受けリング32の後端に、内方に突出する内方フランジ70を設け、該内方フランジ70とスライダー6の後部間に、前進バネ40を設けてある。このようにすれば、前進バネ40の荷重は、常時定量に保持されるので、受けリング32が前進したとき、前進バネ40で確実にスライダー6を前進させることができる。
【0030】
図18に示す実施例では、受けリング32を1つの部材で構成してあるが、受けリング32を2つの部材で構成してもよい。
図19は、そのような実施例を示し、受けリング32を、係止爪35を有する筒状の前方受けリング片71と、内方フランジ70を有する筒状の後方受けリング片72で形成してある。そして、前方受けリング片71をスライダー6の外周に組み込んだ後、後方受けリング片72の内方に前進バネ40を挿入し、該後方受けリング片72の先部を前方受けリング片71の内方に嵌装し、ねじ着、かみ合わせ等の固着手段により固定してある。このようにすれば、製作、組立が容易である。
【0031】
上記の構成により、本発明の筆記具は、軸筒を把持する態様が、
図20の実線及び鎖線で示すように、ほぼ垂直状態や傾斜状態等のどのような角度であっても、過剰筆圧が作用したとき、過剰筆圧の加圧力によらずに、1つの仕組みで、スライダーを前進バネ若しくはスライダーの自重で前進させて、芯の先端を十分に覆って、芯折れを防止することができ、紙面に損傷を与えることがなく、筆記感を損なうおそれもない。
【符号の説明】
【0032】
1 軸筒本体
2 本体上
3 本体下
4 グリップ部
5 テーパー
6 スライダー
15 芯繰出し機構
22 先端当接部
26 連結突起
27 後端当接部
29 後退バネ
30 押し具
31 押圧片
32 受けリング
35 係止爪
39、65 バネ受け部
40 前進バネ
51 メカ押えパイプ
59 本体カバー
S 移動空間