(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】無線経路制御方法、無線通信システム、無線ノード、及び、無線経路制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 40/12 20090101AFI20230131BHJP
H04W 84/22 20090101ALI20230131BHJP
H04W 76/10 20180101ALI20230131BHJP
H04W 40/32 20090101ALI20230131BHJP
【FI】
H04W40/12
H04W84/22
H04W76/10 110
H04W40/32
(21)【出願番号】P 2018088632
(22)【出願日】2018-05-02
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509266251
【氏名又は名称】PicoCELA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 浩
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-273140(JP,A)
【文献】特開2007-151148(JP,A)
【文献】特開2005-143046(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061314(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00-99/00
H04B 7/24-7/26
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックホールネットワークを構成する複数の無線ノードの間においてメッシュ状にリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに伝搬させる制御信号を、前記複数の無線ノードのうちの第1無線ノードから送信し、
前記複数の無線ノードのうち、前記第1無線ノードとは異なる第2無線ノードのそれぞれは、
異なる経路から受信された複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードのそれぞれにおいてメッシュ状にリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向に位置する親ノードに対応する無線リンクの1つを、データ信号の伝送経路に選択し、
前記第2無線ノードのそれぞれが前記データ信号の伝送経路に選択した無線リンクは、ツリー構造のネットワークを形成する、無線経路制御方法。
【請求項2】
前記第1無線ノードは、前記制御信号を複数回にわたって送信し、
前記第2無線ノードのそれぞれは、前記複数回にわたって送信された制御信号の受信毎に計算した前記指標の変化に応じて、前記データ信号の伝送経路に選択する無線リンクを更新する、
請求項1に記載の無線経路制御方法。
【請求項3】
前記第2無線ノードのそれぞれは、
前記第2無線ノードのそれぞれにおいてリンクアップした1つ以上の無線リンクによって受信した前記制御信号を用いて、当該無線リンクの前記指標を計算し、
計算した前記指標を前記制御信号に含めて前記第2無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクのそれぞれへ送信する、
請求項1又は2に記載の無線経路制御方法。
【請求項4】
前記制御信号が伝搬した1つ以上の無線リンクの前記指標を計算することには、受信した前記制御信号に含まれる前記指標と、当該制御信号を用いて計算した前記指標と、の累積値を計算することが含まれる、
請求項3に記載の無線経路制御方法。
【請求項5】
前記第1無線ノードは、
周波数リユース間隔に応じた周期を用いて前記データ信号を間欠的に送信し、
前記第2無線ノードのそれぞれは、
選択した前記無線リンクから受信した前記データ信号を、次の第2無線ノードが選択した前記無線リンクへ中継する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の無線経路制御方法。
【請求項6】
前記複数のノードの間におけるメッシュ状にリンクアップした前記複数の無線リンクは、前記複数の無線ノードのそれぞれが、アドホックモードを用いてビーコン信号を他の無線ノードと送受信することによってリンクアップする、
請求項1から5のいずれか1項に記載の無線経路制御方法。
【請求項7】
バックホールネットワークを構成する複数の無線ノードの間においてメッシュ状にリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに伝搬させる制御信号を送信する、前記複数の無線ノードの1つである第1無線ノードと、
前記複数の無線ノードのうち、前記第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードの1つであって、異なる経路から受信された複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてメッシュ状にリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向に位置する親ノードに対応する無線リンクの1つを、データ信号の伝送経路に選択する第2無線ノードと、
備え、
前記第2無線ノードのそれぞれが前記データ信号の伝送経路に選択した無線リンクは、ツリー構造のネットワークを形成する、
無線通信システム。
【請求項8】
複数の無線ノードのうちの1つである第1無線ノードであって、
バックホールネットワークを構成する前記複数の無線ノードの間においてメッシュ状にリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに伝搬させる制御信号を生成する生成部と、
前記制御信号を前記第1無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクへ送信する送信部と、を備え、
前記制御信号は、
前記複数の無線ノードのうちの前記第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードのそれぞれが、異なる経路から受信した複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてメッシュ状にリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向に位置する親ノードに対応する無線リンクの1つを、データ信号の伝送経路に選択するために用いられ、
前記第2無線ノードのそれぞれが前記データ信号の伝送経路に選択した無線リンクは、ツリー構造のネットワークを形成する、
無線ノード。
【請求項9】
複数の無線ノードのうちの、第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードの1つであって、
バックホールネットワークを構成する前記複数の無線ノードの間においてメッシュ状にリンクアップした複数の無線リンクのうち、前記第2無線ノードにおいてメッシュ状にリンクアップした1つ以上の無線リンクを通じて、前記第1無線ノードが前記複数の無線リンクに伝搬させるために送信した制御信号を受信する受信部と、
異なる経路から受信された複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてメッシュ状にリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向に位置する親ノードに対応する無線リンクの1つを、データ信号の伝送経路に選択する選択部と、
を備え、
前記第2無線ノードのそれぞれが前記データ信号の伝送経路に選択した無線リンクは、ツリー構造のネットワークを形成する、
無線ノード。
【請求項10】
複数の無線ノードの1つである第1無線ノードが備えるプロセッサに、
バックホールネットワークを構成する前記複数の無線ノードの間にメッシュ状にリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに伝搬させる制御信号を生成し、
前記制御信号を前記第1無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクへ送信する、
処理を実行させ、
前記制御信号は、
前記複数の無線ノードのうちの前記第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードのそれぞれが、異なる経路から受信した複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてメッシュ状にリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向に位置する親ノードに対応する無線リンクの1つを、データ信号の伝送経路に選択するために用いられ、
前記第2無線ノードのそれぞれが前記データ信号の伝送経路に選択した無線リンクは、ツリー構造のネットワークを形成する、
無線経路制御プログラム。
【請求項11】
複数の無線ノードのうちの第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードの1つが備えるプロセッサに、
バックホールネットワークを構成する前記複数の無線ノードの間においてメッシュ状にリンクアップした複数の無線リンクのうち、前記第2無線ノードにおいてリンクアップした1つ以上の無線リンクを通じて、前記第1無線ノードが前記複数の無線リンクに伝搬させるために送信した制御信号を受信し、
異なる経路から受信された複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてメッシュ状にリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向に位置する親ノードに対応する無線リンクの1つを、データ信号の伝送経路に選択する、
処理を実行させ、
前記第2無線ノードのそれぞれが前記データ信号の伝送経路に選択した無線リンクは、ツリー構造のネットワークを形成する、
無線経路制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線経路制御方法、無線通信システム、無線ノード、及び、無線経路制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
既存のセルラー通信システムでは、ユーザ装置向けの無線アクセス回線を提供する基地局と、バックボーンネットワーク(コアネットワークと称されることもある)と、を有線のバックホール(BH)ネットワークによって接続する形態が多い。
【0003】
一方で、新世代のモバイル通信を実現する1つの形態として、半径が数十メートルの無線通信エリアを提供する複数の無線ノード(例えば、基地局又はアクセスポイント)の間を、無線マルチホップによって接続するシステム又はネットワークが検討されている。
【0004】
例えば、モバイル通信のインフラストラクチャの1つであるBHネットワークを無線マルチホップによって無線化することで、有線ケーブルの敷設を不要にでき、モバイル通信システムの導入に要する敷設コストを削減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-143046号公報
【文献】国際公開第2011/105371号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無線マルチホップ接続の形態として、例えば、無線ノード間をメッシュ状に接続したメッシュネットワークと、複数の無線ノードのうちの特定の無線ノードを頂点に有するツリー構造のネットワークと、が検討される。
【0007】
しかし、いずれの形態のネットワークにおいても、例えば、いずれかの無線ノード間の電波伝搬品質の変動によって経路の変更(更新あるいは再構築)が必要になった場合、経路探索、及び/又は、リンク確立のやり直し等によって、通信断が生じる。別言すると、いずれの形態のネットワークにおいても、経路変更に対する追従性能に関して改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的の1つは、バックホールネットワークを構成する無線ノードの間の電波伝搬品質の変動に応じた経路変更に対する追従性能を高めて、経路変更に伴う通信断の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様に係る無線経路制御方法は、バックホールネットワークを構成する複数の無線ノードの間においてリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに伝搬させる制御信号を、前記複数の無線ノードのうちの第1無線ノードから送信し、前記複数の無線ノードのうち、前記第1無線ノードとは異なる第2無線ノードのそれぞれは、異なる経路から受信された複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードのそれぞれにおいてリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向の異なる経路の1つに対応する無線リンクを、データ信号の伝送経路に選択する。
【0010】
また、一態様に係る無線通信システムは、バックホールネットワークを構成する複数の無線ノードの間にリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに伝搬させる制御信号を送信する、前記複数の無線ノードの1つである第1無線ノードと、前記複数の無線ノードのうち、前記第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードの1つであって、異なる経路から受信された複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向の異なる経路の1つに対応する無線リンクを、データ信号の伝送経路に選択する第2無線ノードと、備える。
【0011】
また、一態様に係る無線ノードは、複数の無線ノードのうちの1つである第1無線ノードであって、バックホールネットワークを構成する前記複数の無線ノードの間にリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに伝搬させる制御信号を生成する生成部と、前記制御信号を前記第1無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクへ送信する送信部と、を備え、前記制御信号は、前記複数の無線ノードのうちの前記第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードのそれぞれが、異なる経路から受信した複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向の異なる経路の1つに対応する無線リンクを、データ信号の伝送経路に選択するために用いられる。
【0012】
また、一態様に係る無線ノードは、複数の無線ノードのうちの、第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードの1つであって、バックホールネットワークを構成する前記複数の無線ノードの間にリンクアップした複数の無線リンクのうち、前記第2無線ノードにおいてリンクアップした1つ以上の無線リンクを通じて、前記第1無線ノードが前記複数の無線リンクに伝搬させるために送信した制御信号を受信する受信部と、異なる経路から受信された複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向の異なる経路の1つに対応する無線リンクを、データ信号の伝送経路に選択する選択部と、を備える。
【0013】
また、一態様に係る無線経路制御プログラムは、複数の無線ノードの1つである第1無線ノードが備えるプロセッサに、バックホールネットワークを構成する前記複数の無線ノードの間にリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに伝搬させる制御信号を生成し、前記制御信号を前記第1無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクへ送信する、処理を実行させ、前記制御信号は、前記複数の無線ノードのうちの前記第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードのそれぞれが、異なる経路から受信した複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向の異なる経路の1つに対応する無線リンクを、データ信号の伝送経路に選択するために用いられる。
【0014】
また、一態様に係る無線経路制御プログラムは、複数の無線ノードのうちの第1無線ノードとは異なる複数の第2無線ノードの1つが備えるプロセッサに、バックホールネットワークを構成する前記複数の無線ノードの間にリンクアップした複数の無線リンクのうち、前記第2無線ノードにおいてリンクアップした1つ以上の無線リンクを通じて、前記第1無線ノードが前記複数の無線リンクに伝搬させるために送信した制御信号を受信し、異なる経路から受信された複数の前記制御信号のそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの電波伝搬品質を示す指標に基づいて、前記第2無線ノードにおいてリンクアップした無線リンクのうち、前記第1無線ノードへ向かう上流方向の異なる経路の1つに対応する無線リンクを、データ信号の伝送経路に選択する、処理を実行させる。
【0015】
また、一態様に係る無線経路制御方法は、複数の無線ノードの間にリンクアップした複数の無線リンクの少なくとも一部を、特定の無線ノードを頂点に有するツリー構造の経路を成す無線リンクセットの要素に選択する。
【発明の効果】
【0016】
バックホールネットワークを構成する複数の無線ノードの間の電波伝搬品質の変動に応じた経路変更に対する追従性能を高めることができ、経路変更に伴う通信断の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係るノード間の接続形態の一例を、個々のノードのプロトコル・スタックと併せて示す図である。
【
図3】一実施形態に係るノードのハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態に係るノードの機能的な構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図4に例示した制御部の機能的な構成例を示すブロック図である。
【
図6】一実施形態に係るノード間のリンクセットアップ手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図6に例示したリンクセットアップ手順によってノード間にメッシュ状の無線リンクがリンクアップする例を示す図である。
【
図8】
図7に例示したノードのそれぞれにおいて管理される周辺ノード情報の一例を示す図である。
【
図9】一実施形態に係るメッシュリンク上のツリー経路制御の一例を示す図である。
【
図10】
図9の(A)に例示したツリー経路に対応して、ノードのそれぞれにおけるリンク情報の選択例を示す図である。
【
図11】
図9の(B)に例示したツリー経路に対応して、ノードのそれぞれにおけるリンク情報の選択例を示す図である。
【
図12】一実施形態に係るメッシュリンク上のツリー経路制御を含むコアノード(CN)の動作例を示すフローチャートである。
【
図13】一実施形態に係るメッシュリンク上のツリー経路制御を含むスレーブノード(SN)の動作例を示すフローチャートである。
【
図14】
図9に例示したツリー経路制御によって構築されたツリー経路において、データパケットを送信する場合の、CNの動作例について説明するフローチャートである。
【
図15】
図9に例示したツリー経路制御によって構築されたツリー経路において、データパケットを送信する場合の、SNの動作例について説明するフローチャートである。
【
図16】一実施形態の変形例に係る、AP(Access Point)モードとSTA(Station)モードとの組み合わせを用いた、ノード間のメッシュリンクのセットアップ手順の一例を説明する図である。
【
図17】
図16に例示したメッシュリンクのセットアップ手順をノードそれぞれのプロトコル・スタックと併せて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を適宜参照して、実施の形態について説明する。本明細書の全体を通じて同一要素には、特に断らない限り、同一符号を付す。添付の図面と共に以下に記載される事項は、例示的な実施の形態を説明するためのものであり、唯一の実施の形態を示すためのものではない。例えば、実施の形態において動作の順序が示された場合、動作の順序は、全体的な動作として矛盾が生じない範囲で、適宜に変更されてもよい。
【0019】
複数の実施形態及び/又は変形例を例示した場合、或る実施形態及び/又は変形例における一部の構成、機能及び/又は動作は、矛盾の生じない範囲で、他の実施形態及び/又は変形例に含まれてもよいし、他の実施形態及び/又は変形例の対応する構成、機能及び/又は動作に置き換えられてもよい。
【0020】
また、実施の形態において、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、説明が不必要に冗長になること、及び/又は、技術的な事項又は概念が曖昧になることを回避して当業者の理解を容易にするために、公知又は周知の技術的な事項の詳細説明を省略する場合がある。また、実質的に同一の構成、機能及び/又は動作についての重複説明を省略する場合がある。
【0021】
添付図面および以下の説明は、実施の形態の理解を助けるために提供されるものであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。また、以下の説明で使われる用語は、当業者の理解を助けるために他の用語に適宜に読み替えられてもよい。
【0022】
<システム構成例>
図1は、一実施形態に係る無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
図1に示す無線通信システム1は、例示的に、複数のノード3を備える。
図1には、非限定的な一例として、ノード番号#0~#14を付して示す15台のノード3が例示されている。ノード3の数は、2以上かつ14未満でもよいし16以上でもよい。
【0023】
個々のノード3は、無線通信が可能な無線機器の一例である。そのため、ノード3のそれぞれは、「無線ノード3」と称されてもよい。無線通信には、IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad/ayといった無線LAN(Local Area Network)関連規格に準拠した(あるいは、ベースとした)通信プロトコルが適用されてよい。
【0024】
個々のノード3は、無線通信が可能なエリアを形成する。「無線通信が可能なエリア」は、「無線通信エリア」、「無線エリア」、「通信エリア」、「サービスエリア」、「カバレッジエリア」、又は、「カバーエリア」等と称されてもよい。無線LAN関連規格に準拠した、あるいはベースとしたノード3が形成する無線通信エリアは、セルラー通信での呼称である「セル」に対応すると捉えてもよい。例えば、個々のノード3が形成する無線通信エリアは、「スモールセル」に分類される「フェムトセル」に相当すると捉えてもよい。
【0025】
ノード3のそれぞれは、他のノード3のサービスエリアに位置する場合に、当該他のノード3と無線通信することが可能である。複数のノード3は、例えば、バックボーンネットワーク5と端末装置7との間の通信を無線によって中継する無線バックホール(BH)ネットワーク9を形成する。「無線BHネットワーク」は、「無線」を省略して「BHネットワーク」と称されてもよい。
【0026】
「BHネットワーク」は、「中継ネットワーク」と称されてもよい。BHネットワーク9のエンティティである個々のノード3は、「中継ノード」と称されてもよい。
【0027】
バックボーンネットワーク5は、例示的に、インターネット等の大規模な通信ネットワークである。「バックボーンネットワーク」は、「コアネットワーク」、又は、「グローバルネットワーク」等と称されてもよい。
【0028】
BHネットワーク9において無線信号が伝送される経路又は区間は、「無線BH通信路」、「無線BH伝送路」、「無線BH回線」、「無線BH接続」、又は、「無線BHチャネル」と相互に読み替えられてもよい。これらの用語において、「無線」は省略されてもよく、また、「BH」は「中継(Relay)」に読み替えられてもよい。
【0029】
これに対し、例えば、端末装置7とBHネットワーク9との間において無線信号が伝送される区間は、「無線アクセス回線」、又は、「無線アクセスチャネル」と称されてよい。これらの用語において、「無線」は省略されてもよい。
【0030】
なお、以下の説明において、「信号」という用語は、「フレーム」又は「パケット」といった、信号が時間的に区切られた単位の用語に読み替えられてもよい。
【0031】
無線BH回線及び無線アクセス回線には、互いに異なる周波数(チャネル)が割り当てられてよい。非限定的な一例として、BH回線には、5GHz帯(例えば、5.15~5.85GHz)の周波数(チャネル)が割り当てられてよい。
【0032】
アクセス回線には、2.4GHz帯(例えば、2.412~2.472GHz)の周波数(チャネル)が割り当てられてよい。BH回線に割り当てられる周波数とは異なる周波数であれば、アクセス回線に5GHz帯の周波数が割り当てられてもよい。
【0033】
5GHz帯には、例えば、5.2GHz帯(W52:5150~5250MHz)、5.3GHz帯(W53:5250~5350MHz)、及び、5.6GHz帯(W56:5470~5725MHz)のうちの少なくとも1つが含まれてよい。
【0034】
W52において利用可能なチャネル数は、36ch、40ch、44ch及び48chの4チャネルである。W53において利用可能なチャネル数は、52ch、56ch、60ch及び64chの4チャネルである。W56において利用可能なチャネル数は、100ch、104ch、108ch、112ch、116ch、120ch、124ch、128ch、132ch、136ch及び140chの11チャネルである。
【0035】
したがって、例えば、アクセス回線に、W52、W53及びW56のうちの1つ又は2つの周波数帯を割り当てる場合、BH回線には、W52、W53及びW56のうち、アクセス回線に割り当てられない残りの1つ又は2つの周波数帯が割り当てられてよい。
【0036】
複数のノード3のうちの一部のノード3は、バックボーンネットワーク5に有線接続されてよい。
図1には、2つのノード#0及びノード#8が、バックボーンネットワーク5に有線接続された態様が例示されている。有線接続には、例えば、LANケーブル、又は光ファイバケーブルが適用されてよい。
【0037】
バックボーンネットワーク5に有線接続されたノード#0及びノード#8は、「コアノード(CN)」と称されてよい。BHネットワーク9を形成する複数のノード3のうち、CN#0及び#8を除いた個々のノード3は、「スレーブノード(SN)」と称されてよい。例えば
図1において、ノード#1~#7及び#9~#14は、いずれもSNである。CN3は、「第1無線ノード」の一例であり、SN3のそれぞれは、「第2無線ノード」の一例である。
【0038】
なお、
図1において、個々のノード3に付した#0~#14は、個々のノード3の識別に用いられる情報(以下「ノード識別情報」と略称することがある)の一例である。ノード識別情報は、同じBHネットワーク9において個々のノード3を一意に識別可能な情報であればよく、例えば、ノード番号、機器の識別子、又は、アドレス情報等であってよい。アドレス情報の非限定的な一例は、MAC(Media Access Control)アドレスである。
【0039】
BHネットワーク9は、1つのCN3(#0又は#8)をルート(根)ノードとした1つ以上のツリー構造(「ツリートポロジ」と称されてもよい)を有してよい。例えば
図1に示すように、BHネットワーク9において、CN#0をルートノードとした第1のツリートポロジと、CN#8をルートノードとした第2のツリートポロジと、が構築されてよい。
【0040】
別言すると、BHネットワーク9において、CN3毎に「ツリートポロジ」が構築されてよい。BHネットワーク9において構築される1つ以上の「ツリートポロジ」は、「ツリークラスタ」又は「ツリーサブクラスタ」等と称されてもよい。なお、BHネットワーク9において、CN3の数は、2つに限られず、1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0041】
ツリートポロジにおいて、子ノードを有さないSN3は「葉(リーフ)ノード」と称されてよく、子ノードを有するSN3は「内部ノード」と称されてよい。例えば
図1において、SN#2、#3、#6、#7、#10、#11、#13、及び、#14は、いずれも「リーフノード」に相当する。また、SN#1、#4、#5、#9、及び、#12は、いずれも「内部ノード」に相当する。
【0042】
無線BH回線には、コアノード3からリーフノード3へ向かう方向の「下り回線」と、リーフノード3からコアノード3へ向かう方向の「上り回線」と、が含まれてよい。「下り回線」及び「上り回線」は、それぞれ、セルラー通信における呼称に倣って「ダウンリンク(DL)」及び「アップリンク(UL)」と称されてもよい。
【0043】
「下り回線」における信号(下り信号)の流れは、「ダウンストリーム」と称されてよく、「上り回線」における信号(上り信号)の流れは、「アップストリーム」と称されてよい。「下り信号」及び「上り信号」のそれぞれには、制御信号及びデータ信号が含まれてよい。「制御信号」には、「データ信号」には該当しない信号が含まれてよい。
【0044】
なお、「子ノード」は、「下り回線」に着目した場合の、或るノードの下流に無線リンクによって接続されたノード(下流ノード)に相当すると捉えてもよい。下り回線に着目した場合の、或るノードの上流に無線リンクによって接続されたノードは、「親ノード」又は「上流ノード」と称されてもよい。「上り回線」に着目した場合、「子ノード」(下流ノード)と「親ノード」(上流ノード)との関係は、逆転する。
【0045】
また、「下り回線」に着目した場合、「コアノード」は、「始点ノード」又は「起点ノード」と称されてもよく、「リーフノード」は、「終点ノード」あるいは「エッジノード」と称されてもよい。「内部ノード」は、「中間ノード」又は「中継ノード」と称されてもよい。
【0046】
BHネットワーク9におけるツリー構造の経路(ツリートポロジ)は、例えば、CN3から特定のSN3に至る経路のメトリック(以下「経路メトリック」と略称することがある)に基づいて構築されてよい。経路メトリックには、CN3から特定のSN3に至る無線区間の電波伝搬の品質又は性能を示す指標(以下「伝搬品質指標」と称する)が用いられてよい。
【0047】
伝搬品質指標の非限定的な一例としては、無線信号の受信電力又は受信強度(例えば、RSSI;Received Signal Strength Indicator)、電波伝搬損失、及び、伝搬遅延等が挙げられる。「電波伝搬損失」は、「パスロス」に読み替えられてもよい。
【0048】
伝搬品質指標には、以上の指標候補の中から選択された1つ又は2つ以上の組み合わせが用いられてよい。なお、本実施形態において、伝搬品質指標には、ホップ数といった経路の距離に関する指標は用いられなくてよい。
【0049】
例えば、CN3を起点に信号(例えば、制御信号)を送信することで、制御信号の送信ノード3と受信ノード3との間の無線区間毎に、当該無線区間の電波伝搬損失を受信ノード3において求めることができる。
【0050】
そして、受信ノード3のそれぞれが、求めた電波伝搬損失の情報を、制御信号に含めて送信することで、制御信号が伝搬した無線区間の累積的な電波伝搬損失の情報(別言すると、累積値)を、ノード3間で伝達できる。
【0051】
個々のノード3は、例えば、制御信号の送信元である上流ノード候補毎に、累積的な電波伝搬損失に基づいて経路メトリックを計算し、上流ノード候補の中から、経路メトリックが例えば最小を示すノード3を1つ選ぶ。これにより、電波伝搬損失が最小となるツリー構造の経路が構築される。
【0052】
ツリー構造の経路(以下「ツリー経路」と称することがある)は、CN3を起点に制御信号を定期又は不定期に送信することで、ダイナミックに、あるいは、アダプティブに更新することができる。
【0053】
以下、このようなツリー経路の構築及び更新に関わる処理又は制御を、便宜的に、「ツリー経路制御」、あるいは「ダイナミックツリー経路制御」又は「アダプティブツリー経路制御」と称することがある。
【0054】
また、本実施形態の無線BH回線において、下り信号(例えば、データ信号)は、CN3からツリー経路の下流へ向けて周期的間欠的に(別言すると、意図的な送信待機時間を待って)送信されてよい。このような周期的間欠的な送信を「IPT」(Interminent Periodic Transmittion)と称することがある。
【0055】
IPTでは、前掲の特許文献1に記載されるように、CN3が下流へ向けて送信する下り信号の送信周期(別言すると、送信間隔又は送信頻度)を周波数リユース間隔に応じて変化させる。周波数リユース間隔とは、同じ経路においてノード間干渉の発生が抑制されて同じ周波数を繰り返し再利用できる区間の長さ(距離)を表す。
【0056】
周波数リユース間隔に応じた送信周期をCN3に設定することで、例えば、複雑な輻輳制御を必要とせずに、無線BH回線におけるスループットの向上、別言すると、中継伝送効率の向上を図ることが可能となる。また、BHネットワーク9における周波数リソースの利用効率を向上できる。
【0057】
例えば、ノード間干渉の発生が抑制される周波数リユース間隔をCN3に設定することにより、ツリートポロジにおいて単一の周波数を用いても、リーフノードにおいて観測されるスループットを、ホップ数に依存せずに、或る一定値以上に保つことができる。
【0058】
上り回線については、例えば、SN3が、下り回線の周波数リユース間隔に応じた送信周期に連動した送信周期に従って上流へ向けて上り信号を送信することで、CN3において観測されるスループットの向上を図ることができる。
【0059】
したがって、例えば、無線BH回線の下り回線と上り回線とに、同じ周波数(チャネル)を割り当ててTDMA又はTDDを実現することも容易である。なお、「TDMA」は、時分割多元アクセス(Time Division Multiple Access)の略称であり、「TDD」は、時分割複信(Time Division Duplex)の略称である。
【0060】
そのため、無線BH回線の下り回線と上り回線とに、異なる周波数の無線IFを個別的に用いる必要がなく、共通の無線IFを用いることが許容される。共通の無線IFを用いることで、ノード3のコンパクト化及び/又は低コスト化を図ることができる。
【0061】
ただし、無線BH回線の下り回線と上り回線とには、異なる周波数が割り当てられてもよい。無線BH回線の下り回線と上り回線とに異なる周波数を割り当てることで、例えばTDMA又はTDDを実現するIPT制御の簡易化を図ることができる。下り回線と上り回線とに異なる周波数を割り当てる場合であっても、BHネットワーク9における周波数リソースの消費は、下り回線と上り回線との2チャネル分で足りる。
【0062】
なお、BH回線の下り回線及び/又は上り回線の一部には、有線回線が含まれてもよい。BH回線の下り回線及び/又は上り回線の一部に有線回線が含まれる場合、有線区間の経路メトリックは、無線区間の伝搬損失よりも小さい所定値(例えば、最小値)によって計算されてよい。
【0063】
端末装置7は、いずれかのSN3のサービスエリアに位置する場合に、BHネットワーク9を形成する複数のSN3のいずれかに無線アクセス回線によって接続することで、BH回線経由でバックボーンネットワーク5と通信する。なお、端末装置7は、SN3の何れか(
図1では、一例として、SN#14)に、有線回線(有線IF)によって接続されてもよい。非限定的な一例として、端末装置7は、携帯電話やスマートフォン、タブレット端末等の移動可能な端末であってよい。
【0064】
無線アクセス回線には、例示的に、CDMA(Code Division Multiple Access)、FDMA(Frequency Division Multiple Access)、TDMA(Time Division Multiple Access)、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)、及び、SC-FDMA(Single Carrier Frequency Division Multiple Access)等のうちのいずれかが適用されてもよい。OFDMAは、例えば、IEEE802.11、IEEE802.16、LTE(Long Term Evolution)、LTE-Advanced等の無線技術によって具現されてよい。
【0065】
無線BH回線及び/又は無線アクセス回線における下り回線及び/又は上り回線の全部又は一部には、複数のアンテナ素子を有するアンテナアレイによるMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術が適用されてもよい。
【0066】
例えば、CN3-SN3間、SN3-SN3間、及び、SN3-端末装置7間のいずれか1つ以上の区間の下り回線及び/又は上り回線において、アンテナアレイを用いたビームフォーミングが行われてもよい。
【0067】
なお、以下において、信号の「伝送」という用語は、信号の「中継」、「転送」、「伝搬」、「伝達」、「ルーティング」、又は、「フォワーディング」といった他の用語に相互に読み替えられてもよい。信号の「中継」は、信号の「ブリッジ」に読み替えられてもよい。
【0068】
また、信号の「送信」という用語には、信号の「フラッディング」、「ブロードキャスト」、「マルチキャスト」、又は、「ユニキャスト」等の意味が含まれてよい。回線の「接続」という用語は、有線及び/又は無線の通信リンクが「確立」又は「リンクアップ」した状態を意味する、と捉えてもよい。
【0069】
「装置」という用語は、「回路」、「デバイス」、「ユニット」、又は、「モジュール」といった用語に相互に読み替えられてもよい。「インタフェース(IF)」という用語は、「アダプタ」、「ボード」、「カード」、又は、「モジュール」、「チップ」といった用語に相互に読み替えられてもよい。
【0070】
「端末装置」という用語は、移動局、移動端末、加入者局、モバイルユニット、加入者ユニット、ワイヤレスユニット、リモートユニット、モバイルデバイス、ワイヤレスデバイス、ワイヤレス通信デバイス、リモートデバイス、モバイル加入者局、アクセス端末、モバイル端末、ワイヤレス端末、リモート端末、ハンドセット、ユーザエージェント、モバイルクライアント、又は、クライアントといった用語に相互に読み替えられてもよい。
【0071】
ノード3及び/又は端末装置7は、IoT(Internet of Things)機器であってもよい。IoTによって、様々な「物」に無線通信機能が搭載され得る。無線通信機能を搭載した様々な「物」は、無線アクセス回線及び/又は無線BH回線を介してバックボーンネットワーク5に接続して通信を行なうことができる。
【0072】
例えば、IoT機器には、無線通信機能を具備したセンサデバイスやメータ(測定器)等が含まれてよい。センサデバイス及び/又はメータを搭載した監視カメラ及び/又は火災報知器のような、センシング機能及び/又はモニタ機能を有する機器がノード3及び/又は端末装置7に該当してもよい。したがって、BHネットワーク9は、例えば、センサネットワーク及び/又は監視ネットワークに該当してもよい。なお、IoT機器による無線通信は、MTC(Machine Type Communications)と称されることがある。そのため、IoT機器は、「MTCデバイス」と称されることがある。
【0073】
<ノード3のプロトコル・スタックの一例>
図2に、ノード3間の接続形態の一例を、個々のノード3のプロトコル・スタックと併せて示す。
図2には、バックボーンネットワーク5に有線回線によって接続されたCN3と、CN3に対して、無線BH回線によってマルチホップ接続された2つのSN3と、が示されている。
【0074】
なお、
図2のCN3は、例えば
図1のCN#0に対応し、
図2の2つのSN3は、それぞれ、
図1のSN#1及びSN#5に対応すると捉えてよい。また、SN#5には、無線アクセス回線によって端末装置7が接続され得る。
【0075】
図2に示すように、ノード3のそれぞれは、例えば、物理(PHY)レイヤ(レイヤ1:L1)、MACレイヤ(レイヤ2:L2)、中継レイヤ、及び、レイヤ3(L3)以上の上位レイヤから構成されたプロトコル・スタックを有する。上位レイヤには、例えば、TCP/IPレイヤ、及び/又は、アプリケーションレイヤが含まれてよい。「TCP/IP」は、「Transmission Control Protocol/Internet Protocol」の略記である。
【0076】
「中継レイヤ」は、プロトコル・スタックにおいて、レイヤ2とレイヤ3との中間レイヤに位置するため、便宜的に「レイヤ2.5(L2.5)」と表記されてもよい。中継レイヤの処理に、既述の「アダプティブツリー経路制御」に関する処理、及び/又は、「IPT」に関する処理(又は制御)が含まれてよい。
【0077】
「中継レイヤ」をレイヤ2とレイヤ3との中間レイヤに位置付けることで、既存のMACレイヤの処理を改変しなくてもよいため、「中継レイヤ」処理の実装が容易である。中継レイヤ処理は、ソフトウェア、ミドルウェア、ファームウェア、及び、ハードウェアの中から選択された1つ以上によって具現されてもよい。
【0078】
ノード3の物理レイヤは、例えば、1つの有線接続(有線ポート)と、2つの無線接続(無線ポート)と、を提供し、
図2には、便宜的に、これら3つのポートが3つの「PHY」ポートとして表されている。2つの無線ポートのうちの一方はBH回線用であり、2つの無線ポートのうちの他方はアクセス回線用である。「ポート」は、「インタフェース(IF)」に読み替えられてもよい。
【0079】
なお、
図2においては、物理レイヤの3つのPHYポートとの対応関係が視覚的に理解し易いように、便宜的に、MACレイヤを3つに分割して示している。ただし、MACレイヤの処理は、各PHYポートに共通でよい。
【0080】
図2において、下り信号の流れに着目した場合、バックボーンネットワーク5からCN#0において受信された下り信号は、CN#0の有線ポート(L1)、MACレイヤ(L2)、及び、中継レイヤ(L2.5)を経由して、BH回線用の無線ポートから下流のBH回線へ送信される。
【0081】
CN#0がBH回線へ送信した下り信号は、次ホップであるSN#1におけるBH回線用の無線ポートにて受信され、SN#1のMACレイヤ及び中継レイヤを経由して、BH回線用の無線ポートから下流のBH回線へ送信される。
【0082】
SN#1が下流のBH回線へ送信した下り信号は、次ホップであるSN#5におけるBH回線用の無線ポートにて受信され、SN#5のMACレイヤを経由して、アクセス回線用の無線ポートから端末装置7へ送信される。BH回線からアクセス回線へ送信される下り信号は、中継レイヤを経由しなくてもよい。
【0083】
上り信号については、上述した下り信号の経路とは逆の経路を辿って、端末装置7からSN#5、SN#1、及び、CN#0を経由してバックボーンネットワーク5へ送信される。
【0084】
<ノード3の構成例>
(ノード3のハードウェア構成例)
次に、
図3を参照して、ノード3のハードウェア構成例について説明する。なお、
図3に例示した構成例は、CN3及びSN3に共通でよい。
図3に示すように、ノード3は、例えば、プロセッサ31、メモリ32、ストレージ33、入出力(I/O)装置34、無線IF35及び36、有線IF37、有線IF39、並びに、バス38を備えてよい。
【0085】
なお、
図3に例示したハードウェア構成例において、ハードウェアの増減が適宜に行なわれてもよい。例えば、任意のハードウェアブロックの追加や削除、分割、任意の組み合わせでの統合、バス38の追加又は削除等が、適宜に行なわれてよい。
【0086】
無線IF35、無線IF36、及び、有線IF37(又は、有線IF39)は、それぞれ、
図2のプロトコル・スタックにおいて例示した2つの無線ポート(PHYポート)、及び、1つの有線ポートに対応すると捉えてよい。
【0087】
プロセッサ31、メモリ32、ストレージ33、入出力装置34、無線IF35及び36、並びに、有線IF37及び39は、例えば、バス38に接続されて相互に通信することが可能である。バス38の数は、1つでもよいし複数でもよい。
【0088】
プロセッサ31は、ノード3に複数備えられてもよい。また、ノード3における処理は、1つのプロセッサ31によって実行されてもよいし、複数のプロセッサ31によって実行されてもよい。1つ又は複数のプロセッサ31において、複数の処理が、同時に、並列に、又は、逐次に実行されてもよいし、その他の手法によって実行されてもよい。なお、プロセッサ31は、シングルコアプロセッサでもよいし、マルチコアプロセッサでもよい。プロセッサ31は、1つ以上のチップを用いて実装されてよい。
【0089】
ノード3が有する1つ又は複数の機能は、例示的に、プロセッサ31及びメモリ32等のハードウェアに、所定のソフトウェアを読み込ませることで実現される。なお、「ソフトウェア」は、「プログラム」、「アプリケーション」、「エンジン」、又は「ソフトウェアモジュール」といった他の用語に相互に読み替えられてもよい。
【0090】
例えば、プロセッサ31は、メモリ32及びストレージ33の一方又は双方に記憶されたデータの読み出し及び書き込みの一方又は双方を制御することで、プログラムを読み込んで実行する。なお、プログラムは、例えば、無線IF35、無線IF36、及び、有線IF37の少なくとも1つによる電気通信回線を介した通信によって、ノード3に提供されてもよい。
【0091】
プログラムは、ノード3における処理の全部又は一部をコンピュータに実行させるプログラムであってよい。プログラムに含まれるプログラムコードの実行に応じて、ノード3の1つ以上の機能が実現される。プログラムコードの全部又は一部は、メモリ32又はストレージ33に記憶されてもよいし、オペレーティングシステム(OS)の一部として記述されてもよい。
【0092】
例えば、プログラムは、
図4及び
図5により後述する機能ブロックを具現するプログラムコードを含んでよく、また、
図6及び
図12~
図15により後述するフローチャートのいずれか1つ以上を実行するプログラムコードを含んでもよい。そのようなプログラムコードを含むプログラムは、便宜的に、「無線経路制御プログラム」と称されてよい。
【0093】
プロセッサ31は、処理部の一例であり、例えば、OSを動作させてコンピュータ全体を制御する。プロセッサ31は、周辺装置とのインタフェース、制御装置、演算装置、レジスタなどを含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)を用いて構成されてもよい。
【0094】
また、プロセッサ31は、例えば、プログラム及びデータの一方又は双方を、ストレージ33からメモリ32に読み出して各種の処理を実行する。
【0095】
メモリ32は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の一例であり、例えば、ROM、EPROM、EEPROM、RAM、SSDなどの少なくとも1つを用いて構成されてよい。なお、「ROM」は、「Read Only Memory」の略称であり、「EPROM」は、「Erasable Programmable ROM」の略称である。「EEPROM」は、「Electrically Erasable Programmable ROM」の略称であり、「RAM」は、「Random Access Memory」の略称であり、「SSD」は、「Solid State Drive」の略称である。
【0096】
メモリ32は、レジスタ、キャッシュ、メインメモリ、ワークメモリ、又は、主記憶装置と呼ばれてもよい。
【0097】
ストレージ33は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の一例であり、CD-ROM(Compact Disc ROM)などの光ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)、フレキシブルディスク、光磁気ディスク(例えば、コンパクトディスク、デジタル多用途ディスク、Blu-ray(登録商標)ディスク)、スマートカード、フラッシュメモリ(例えば、カード、スティック、キードライブ)、フレキシブルディスク、磁気ストリップ等の少なくとも1つを用いて構成されてもよい。ストレージ33は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。上述の記録媒体は、例えば、メモリ32及びストレージ33の一方又は双方を含むデータベース、サーバその他の適切な媒体であってもよい。
【0098】
入出力(I/O)装置34は、ノード3の外部から信号の入力を受け付ける入力デバイス、及び、ノード3から外部へ信号を出力する出力デバイスの一例である。入力デバイスには、例示的に、キーボード、マウス、マイクロフォン、スイッチ、ボタン、及び、センサの1つ以上が含まれてよい。出力デバイスには、例示的に、ディスプレイ、スピーカ、及び、LED(Light Emitting Diode)のような発光デバイスの1つ以上が含まれてよい。
【0099】
ボタンには、例えば、電源ボタン及び/又はリセットボタンが含まれてよい。電源ボタンは、例えば、ノード3の起動及びシャットダウンのために操作される。リセット(又はリルート)ボタンは、例えば、ツリー経路の意図的なリセット、及び/又は、再構築(又は、リルート)を指示するために操作される。
【0100】
なお、入出力装置34は、入力と出力とで個別の構成でもよい。また、入出力装置34は、例えば、タッチパネル式のディスプレイのように、入力と出力とが一体の構成であってもよい。
【0101】
無線IF35は、例示的に、端末装置7との間のアクセス回線における無線信号の送受信を行う。無線IF35には、例えば、1つ以上のアンテナ350、図示を省略した、ベースバンド(BB)信号処理回路、MAC処理回路、アップコンバータ、ダウンコンバータ、及び、増幅器が含まれてよい。
【0102】
無線IF35のBB信号処理回路には、例示的に、送信信号を符号化及び変調するための符号化回路及び変調回路、並びに、受信信号を復調及び復号するための復調回路及び復号回路が含まれてよい。
【0103】
無線IF36は、例示的に、他のSN3との間のBH回線における無線信号の送受信を行う。無線IF36には、無線IF35と同様に、1つ以上のアンテナ360、図示を省略した、BB信号処理回路、MAC処理回路、アップコンバータ、ダウンコンバータ、及び、増幅器が含まれてよい。
【0104】
無線IF36のBB信号処理回路には、例示的に、送信信号を符号化及び変調するための符号化回路及び変調回路、並びに、受信信号を復調及び復号するための復調回路及び復号回路が含まれてよい。
【0105】
なお、無線IF35のアンテナ350及び無線IF36のアンテナ360を、それぞれ、「アクセス回線アンテナ350」及び「BH回線アンテナ360」と称することがある。アクセス回線アンテナ350及びBH回線アンテナ360の一方又は双方は、無指向性のオムニアンテナであってもよいし、指向性を制御可能なアンテナアレイであってもよい。複数の指向性アンテナを有するアンテナアレイによって、ビームフォーミングが実施されてもよい。
【0106】
複数の指向性アンテナは、例えば、それぞれ異なる方向に向けて配置されていてもよい。例えば、6本の指向性アンテナが、60度ずつずらして配置されてもよい。BHネットワーク9において後述のメッシュリンクを形成する際に、ノード3において、通信相手の他のノード3と通信が可能なアンテナが複数存在した場合、通信品質(一例として、利得又は電力)が最良を示すアンテナによって他のノード3とリンクアップし、リンクアップ後のツリー経路の通信においても、当該アンテナの使用を継続することとしてもよい。ただし、リンクアップに使用するアンテナと、リンクアップ後のツリー経路の通信に使用するアンテナと、は、異なってもよい。
【0107】
有線IF37は、例示的に、バックボーンネットワーク5、及び/又は、上流ノード3との間で有線による信号の送受信を行う。また、有線IF39は、例示的に、端末装置7、及び/又は、下流ノード3との間で有線による信号の送受信を行う。有線IF37及び39には、例えば、イーサネット(登録商標)規格に準拠したネットワークインタフェースが用いられてよい。なお、有線IF37及び39は、少なくともCN3に備えられていればよく、SN3には備えられなくてもよい(別言すると、SN3にとってはオプションであってもよい)。ただし、BH回線の一部が有線接続される場合、有線IF37及び39が当該有線接続に用いられてよい。
【0108】
ノード3は、マイクロプロセッサ、DSP、ASIC、PLD、FPGAなどのハードウェアを含んで構成されてもよい。例えば、プロセッサ31は、これらのハードウェアの少なくとも1つを含んで実装されてよい。当該ハードウェアにより、
図4及び
図5にて後述する各機能ブロックの一部又は全てが実現されてよい。
【0109】
なお、「DSP」は、「Digital Signal Processor」の略称であり、「ASIC」は、「Application Specific Integrated Circuit」の略称である。「PLD」は、「Programmable Logic Device」の略称であり、「FPGA」は、「Field Programmable Gate Array」の略称である。
【0110】
(ノード3の機能構成例)
次に、
図4及び
図5を参照して、ノード3の機能的な構成例について説明する。
図4は、一実施形態に係るノード3の機能的な構成例を示すブロック図であり、
図5は、
図4に例示した制御部の機能的な構成例を示すブロック図である。
【0111】
図4に示すように、ノード3は、機能的な構成に着目した場合、無線アクセス回線用の無線通信部301、無線BH回線用の無線通信部302、有線通信部303、制御部304、及び、記憶部305を備えてよい。
【0112】
無線アクセス回線用の無線通信部301は、
図3に例示した無線IF35及びアクセス回線アンテナ350を含む機能ブロックである。無線BH回線用の無線通信部302は、
図3に例示した無線IF36及びBH回線アンテナ360を含む機能ブロックである。
【0113】
有線通信部303は、
図3に例示した有線IF37及び39を含む機能ブロックである。また、記憶部305は、
図3に例示した、メモリ32及びストレージ33の一方又は双方を含む機能ブロックである。
【0114】
無線通信部301は、例えば、端末装置7宛の制御信号及び/又はデータ信号を送信する送信部と、端末装置7が送信した制御信号及び/又はデータ信号を受信する受信部と、を備えてよい。
【0115】
無線通信部302は、例えば、他のノード3との間においてリンクアップしたBH回線へ制御信号及び/又はデータ信号を送信する送信部と、リンクアップした無線リンクから制御信号及び/又はデータ信号を受信する受信部と、を備えてよい。
【0116】
有線通信部303は、例えば、バックボーンネットワーク5へ制御信号及び/又はデータ信号を送信する送信部と、バックボーンネットワーク5から制御信号及び/又はデータ信号を受信する受信部と、を備えてよい。
【0117】
制御部304は、ノード3の動作を統括的に制御する。例えば、制御部304は、無線通信部301、無線通信部302、及び、有線通信部303のいずれか1つ以上に制御信号を与えることによって、無線アクセス回線、無線BH回線、及び、有線回線のいずれか1つ以上を介した通信を制御する。
【0118】
制御部304は、例えば
図3に示したプロセッサ31が記憶部305に記憶されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムを実行することによって具現される。
【0119】
記憶部305は、例えば、上述したノード識別情報、及び、後述の経路メトリックを記憶する。後述のように、経路構築パケットに送信元ノード3の送信電力値が含められない場合には、送信元ノード3の送信電力値が記憶部305に記憶されてよい。
【0120】
(制御部304の構成例)
図5に示すように、制御部304は、例示的に、スキャン処理部341と、ノード管理部342と、ツリー経路制御部343と、IPT制御部344と、を備えてよい。
【0121】
スキャン処理部341は、例えば、ノード3の起動に応じて当該ノード3の周辺(近傍)に位置する他のノード3の存在をスキャンして発見する。スキャンは、パッシブスキャンでもよいしアクティブスキャンでもよい。パッシブスキャンを例にすると、スキャン処理部341において、ビーコン信号が生成され、無線通信部302を通じて周辺エリアに送信される。
【0122】
なお、ビーコン信号を受信可能な位置に存在するノード3を、「周辺ノード3」又は「近傍(neighboring)ノード3」と称する。
【0123】
ビーコン信号には、例示的に、SSID(Service Set Identifier)又はBSSID(Basic SSID)、ビーコン信号の送信周期、及び、使用可能なチャネル(周波数)をそれぞれ明示的又は暗示的に示す情報が含まれてよい。これらの情報は、便宜的に、「BSS(Basic Service Set)関連情報と称されてよい。
【0124】
なお、アクティブスキャンの場合には、プローブリクエスト信号が、スキャン処理部341において生成されて、無線通信部302を通じて周辺エリアに送信されてよい。プローブリクエスト信号は、例えば、周辺ノード3にビーコン信号の送信を促すために用いられる。パッシブスキャンにおいてビーコン信号が一定時間内に受信されない場合に、アクティブスキャンが実行されてもよい。
【0125】
ノード管理部342は、例えば、スキャン処理部341によるスキャンによって発見された周辺ノード3の情報(例えば、ノード識別情報及びBSS関連情報)を記憶部305に記憶する。個々のノード3において、周辺ノード3の情報(以下「周辺ノード情報」と略称することがある)が記憶部305に記憶されることによって、後述するように、BHネットワーク9においてノード3間を複数の無線リンクによってメッシュ状にリンクするメッシュリンクが構築される。
【0126】
「メッシュリンクが構築」されることは、相互に無線通信が可能なエリア内に位置するノード3間に利用可能な複数の無線リンクが確立する、又はリンクアップする、ことを意味すると捉えてもよい。そのため、周辺ノード情報は、ノード3間において利用可能な無線リンクの情報を示すと捉えてもよい。「無線リンクの情報」は、便宜的に、「リンク情報」と略称されてもよい。
【0127】
ツリー経路制御部343は、メッシュリンクにおいて経路制御パケットを伝送することによって、メッシュリンク上でのツリー経路の構築及び更新を制御する。ツリー経路の構築及び更新は、例えば後述するように、メッシュリンクを成す複数の無線リンクのうち、ツリー経路に登録する(又はツリー経路から除外する)無線リンクの情報を選択する(又は当該選択を解除する)ことによって行われてよい。
【0128】
ツリー経路に無線リンクを「登録」することは、ツリー経路に登録するリンク情報を「選択」、「有効化」、「アクティベイト」、又は、「イネーブル」すること、と捉えてもよい。登録された無線リンクをツリー経路から除外することは、ツリー経路に登録されたリンク情報を「選択解除」、「無効化」、「ディアクティベイト」、又は、「ディゼーブル」すること、と捉えてもよい。
【0129】
IPT制御部344は、例えば、周波数リユース間隔に応じた送信周期に従ってBH回線用の無線通信部302によるパケット送信タイミングを制御する。
【0130】
(ツリー経路制御部343の構成例)
図5に例示したように、ツリー経路制御部343には、例えば、経路制御パケット生成部3431、経路メトリック計算部3432、及び、ツリー経路更新部3433が備えられてよい。
【0131】
経路制御パケット生成部3431は、経路制御パケットを生成する。経路制御パケットは、BHネットワーク9において、CN3において生成されてCN3を起点に各ノード3に伝搬させる制御信号の一例である。
【0132】
例えば、CN3は、当該CN3においてリンクアップしている無線リンクのそれぞれへ制御信号をフラッディングする。SN3は、当該SN3においてリンクアップしている無線リンクの何れかから制御信号を受信した場合、当該制御信号を当該SN3においてリンクアップしている無線リンクのそれぞれへフラッディングする。このように、CN3から送信された制御信号は、メッシュリンクを、順次、あるいは連鎖的に、伝搬又は伝達する。
【0133】
なお、CN3は、制御信号の送信のトリガとなるイベントが発生するまで無線リンクのリンクアップ状態を維持したまま当該イベントを待ち受ける。イベントについては
図12等で後述する。そして、イベントが発生すると、CN3は、リンクアップ状態が維持された無線リンクを用いて制御信号を送信する。
【0134】
同様に、SN3は、CN3又は他のSN3との無線リンクのリンクアップ状態を維持したまま制御信号の到来(受信)を待ち受ける。そして、リンクアップ状態の無線リンクから制御信号を受信すると、リンクアップ状態が維持された他の無線リンクに制御信号を送信する。
【0135】
なお、CN3及びSN3は、ツリー経路の構築後においても、メッシュリンクを成す無線リンクのリンクアップ状態を維持した状態で、イベントの発生及び/又は制御信号(例えば、経路構築パケット)の受信を待ち受けてよい。
【0136】
SN3は、リンクアップ状態が維持された他の無線リンクへ送信する制御信号に、他のSN3に伝達する情報を付加してよい。制御信号に付加される情報の非限定的な一例は、経路メトリック計算部3432によって計算された経路メトリックである。また、SN3は、当該SN3においてリンクアップしている無線リンクのうち、制御信号を受信した無線リンクについては制御信号の送信先候補から除外してもよい。これにより、制御信号が、不必要に、あるいは冗長に、メッシュリンクを伝達されることを抑制できる。
【0137】
経路制御パケットには、例示的に、経路構築パケットと、リセットパケットと、が含まれてよい。これらのパケットの種別は、例えば、パケットヘッダのタイプ値によって識別されてよい。
【0138】
経路構築パケットは、例えば、ツリー経路を構築又は更新する際に送信されるパケットである。経路構築パケットには、当該経路構築パケットが伝搬したノード3のそれぞれにおいて計算された経路メトリックが累積的に含められてよい。例えば、ノード3は、コアノードから自ノードの直前のノードまでの経路メトリックを経路構築パケットに含めて送信してもよい。
【0139】
経路構築パケットを受信したSN3は、累積的な経路メトリックを基に、メッシュリンクを成す、周辺ノード3との間で利用可能な無線リンクのうち、ツリー経路に登録する無線リンクの情報を選択する。
【0140】
リセットパケットは、例えば、CN3がSN3に対して、メッシュリンクにおいて構築されたツリー経路のクリアを要求する際に送信されるパケットである。リセットパケットを受信したSN3は、ツリー経路に選択している無線リンクの情報の選択を解除する。
【0141】
経路メトリック計算部3432は、例えば、受信した経路構築パケットの送信元である周辺ノード3との間の無線リンクの伝搬品質指標を計算し、受信した経路構築パケットに含められている経路メトリックに、計算結果を加えることで新経路メトリックを求める。
【0142】
ノード3間の無線リンクの伝搬品質指標には、例示的に、RSSI(Received Signal Strength Indicator)が用いられてよい。例えば、ノード3間のRSSIを一定時間間隔で均一サンプリングした値の系列をRn(nは1以上の整数)と表し、下記の式(1)によって、RSSIの逐次平均(系列)An[dB]を求める。なお、式(1)は、あくまでも例示であって、他の数式を用いてRSSIの逐次平均が求められてもよい。
【0143】
【0144】
式(1)によって表される逐次平均Anは、「n」の値が大きくなるにつれて当該確率過程の平均値に収束する。「n」が、例えば、リセットパケットの送信(又は受信)後の経路構築パケットの送信回数(又は受信回数)を表すと捉えれば、回数nの増加に応じて、ノード3間のRSSIの逐次平均Anは一定値に収束する。したがって、経路構築パケットの送信によって構築されるツリー経路は、漸近的に安定した経路に収束する。
【0145】
また、経路メトリック計算部3432は、式(1)によって計算したRSSIの逐次平均Anを用いて、例えば、経路構築パケットの送信元ノード3との間の無線リンクの電波伝搬損失(「パスロス」と称されてもよい)[dB]を下記の式(2)によって計算してよい。
【0146】
【0147】
なお、式(2)において、「TXPower」は、経路構築パケットの送信元ノード3の送信電力を表す。送信元ノード3の送信電力値は、個々のノード3において既知の値として例えば記憶部305に予め記憶されていてもよいし、送信元ノード3において経路構築パケットに含められてもよい。
【0148】
そして、経路メトリック計算部3432は、式(2)によって計算したパスロスを、受信した経路構築パケットに含まれる累積的な経路メトリックに加算することで、新たな経路メトリックを求める。
【0149】
したがって、経路メトリックは、CN3と1つ以上のSN3との間の無線リンクのパスロスの和を表す。経路構築パケットの受信毎に計算された経路メトリックは、例えば、記憶部305に記憶される。記憶部305に記憶された経路メトリックは、リセットパケットの受信によって例えば最大値に初期化されてよい。
【0150】
ツリー経路更新部3433は、例えば、経路メトリック計算部3432によって計算された新経路メトリックが旧経路メトリックよりも小さい場合に、周辺ノード情報において新経路メトリックに対応する上流の無線リンクを有効なツリー経路に選択する。
【0151】
例えば、SN3において、異なる経路のそれぞれから経路構築パケットが受信された場合、経路構築パケットのそれぞれが伝搬した1つ以上の無線リンクの経路メトリックが、異なる経路の別に、経路メトリック計算部3432において計算される。
【0152】
ツリー経路更新部3433は、異なる経路の別に計算された経路メトリックに基づいて、当該SNにおいてリンクアップした無線リンクのうち、経路構築パケットを受信した異なる経路の1つに対応する無線リンクをデータ信号の伝送に用いる経路に選択する。
【0153】
メッシュリンクにおいて構築されるツリー経路は、ツリー構造であるため、個々のSN3に対する上流ノード3は必ず1つである。したがって、ツリー経路更新部3433は、例えば、メッシュリンクにおいて上流ノード3との間の無線リンク(リンク情報)を、ツリー経路に登録する無線リンクに選択するか、あるいは選択を解除するかによって、ツリー経路を構築又は更新できる。
【0154】
そのため、ツリー経路更新部3433は、SN3においてリンクアップした無線リンクの1つをツリー経路に選択する選択部の一例であり、また、当該選択を解除する解除部の一例でもある。
【0155】
上述のように、SN3のそれぞれが、上流ノード3との間の無線リンクを選択することは、当該SN3においてリンクアップしている(メッシュリンクを成す)無線リンクのうちの1つをデータ信号の伝送経路に選択することに相当する、と捉えてもよい。
【0156】
あるいは、SN3のそれぞれが、上流ノード3との間の無線リンクを選択することは、複数のノード3の間にリンクアップした複数の無線リンクの少なくとも一部を、特定のノード(例えば、CN3)を頂点に有するツリー経路を成す無線リンクセットの要素(エレメント又はコンポーネント)に選択することに相当する、と捉えてもよい。
【0157】
また、SN3のそれぞれにおいて、無線リンクの選択及び解除(別言すると、ツリー経路に選択する無線リンクの更新)は、経路構築パケットの受信毎に計算された経路メトリックの変化に応じて行われる。そのため、CN3による経路構築パケットの単位時間あたりの送信回数を変化させることで、ツリー経路の更新頻度を変更できる。
【0158】
例えば、BHネットワーク9の電波伝搬環境が変化し易い環境であるほど、CN3による経路構築パケットの単位時間あたりの送信回数を増やすことで、BHネットワーク9の電波伝搬環境変化に対する追従性能を高めることができる。
【0159】
なお、下流ノード3との間の無線リンクについては、例えば、下り経路が構築された後に、下流ノード3から受信される肯定応答(ACK)信号によって把握することができる。例えば、下流ノード3は、経路構築パケットを受信することによって経路メトリックを更新した場合、ACK信号を経路構築パケットの送信元である親ノード3へ送信(ユニキャスト)する。ユニキャストするACK信号には、例えば、当該ACK信号の送信元である下流ノード3において記憶、管理されている、リンクアップ状態の無線リンクの情報が含められてよい。親ノード3は、下流ノード3からACK信号を受信することによって、ツリー経路に選択及び登録する下り無線リンクを決定できる。
【0160】
<動作例>
以下、上述した無線通信システム1の動作例について説明する。
【0161】
(リンクセットアップ手順)
図6は、一実施形態に係るノード3間(別言すると、BHネットワーク9における無線BH回線)のリンクセットアップ手順の一例を示すフローチャートである。
【0162】
図6に例示するように、BHネットワーク9において、CN及びSNを含むノード3のそれぞれは、起動に応じて例えばIBSSモードによって周辺に存在するノード(以下「周辺ノード」と称することがある)3をスキャンする(S11)。
【0163】
「IBSS」は、「Independent Basic Service Set」の略称である。IBSSモードは、アドホックモードと称されることもある。ノード3の「起動」には、ノード3の電源ON、及び、ノード3のリセットによる再起動が含まれてよい。
【0164】
例えば、スキャン処理S11において、ノード3のそれぞれは、起動に応じてビーコン信号の周辺エリアへの送信を開始する。ビーコン信号は、例えば、制御部304のスキャン処理部341において生成されて、BH回線アンテナ360(無線通信部302)から送信される。
【0165】
IBSSモードでのスキャン処理S11では、ビーコン信号どうしの衝突を回避するために、起動したノード3のそれぞれが、交替で(例えば、ノード3において擬似乱数的に管理されるタイミングで)ビーコン信号を送信してよい。
【0166】
他のノード3が送信したビーコン信号を受信したノード3は、受信したビーコン信号に含まれる情報を例えば記憶部305に記憶する(S12)。ビーコン信号の送受信は、ノード3が動作するチャネル(別言すると、利用可能なチャネル)毎に行われてよい。
【0167】
したがって、スキャン処理(S11)は、「チャネルスキャン」と称されてもよい。なお、ビーコン信号を受信したノード3は、ビーコン信号を受信したチャネルについてのビーコン信号の送信を停止してよい。
【0168】
ノード3のそれぞれが、他のノード3から受信できたビーコン信号に含まれるBSS関連情報を記憶することによって、無線リンクによって通信が可能な周辺ノード3の情報(以下「周辺ノード情報」と称することがある)を管理できる。
【0169】
個々のノード3が、周辺ノード情報を記憶及び管理することによって、例えば
図7に示すように、利用可能な無線リンク(「チャネル」と読み替えてもよい)が個々のノード3において管理される。これにより、無線BH回線のリンクセットアップが完了し、BHネットワーク9においてメッシュリンクがリンクアップする。
【0170】
図8に、
図7に例示したノード#0~#7のそれぞれにおいて管理される周辺ノード情報の一例を示す。
【0171】
図8の(A)は、ノード(CN)#0において、ノードID#1~#3が記憶及び管理され、CN#0が、SN#1~#3それぞれとの間の無線リンクを利用できる状態にあることを示す。
【0172】
図8の(B)は、SN#1において、ノードID#0、#2、#4及び#5が記憶及び管理され、SN#1が、ノード#0、#2、#4及び#5それぞれとの間の無線リンクを利用できる状態にあることを示す。
【0173】
図8の(C)は、SN#2において、ノードID#0、#1、#3、#5及び#7が記憶及び管理され、SN#2が、ノード#0、#1、#3、#5及び#7それぞれとの間の無線リンクを利用できる状態にあることを示す。
【0174】
図8の(D)は、SN#3において、ノードID#0及び#2が記憶及び管理され、SN#3が、ノード#0及び#2それぞれとの間の無線リンクを利用できる状態にあることを示す。
【0175】
図8の(E)は、SN#4において、ノードID#1、#5、及び#6が記憶及び管理され、SN#4が、ノード#1、#5及び#6それぞれとの間の無線リンクを利用できる状態にあることを示す。
【0176】
図8の(F)は、SN#5において、ノードID#1、#2、#4、#6及び#7が記憶及び管理され、SN#5が、ノード#1、#2、#4、#6及び#7それぞれとの間の無線リンクを利用できる状態にあることを示す。
【0177】
図8の(G)は、SN#6において、ノードID#4及び#5が記憶及び管理され、SN#6が、ノード#4及び#5それぞれとの間の無線リンクを利用できる状態にあることを示す。
【0178】
図8の(H)は、SN#7において、ノードID#2及び#5が記憶及び管理され、SN#7が、ノード#2及び#5それぞれとの間の無線リンクを利用できる状態にあることを示す。
【0179】
以上のようにして、ノード3間においてIBSSモードを利用したメッシュ状の無線リンクが形成(又は構築)される。上述のごとくIBSSモードを利用して構築されたメッシュ状の無線リンクは、IBSSメッシュリンクと称されてもよい。
【0180】
(ツリー経路制御 over IBSSメッシュリンク)
次に、IBSSメッシュリンク上のツリー経路制御について説明する。
図9は、一実施形態に係るIBSSメッシュリンク上のツリー経路制御の一例を示す図である。
【0181】
図9の(A)には、
図7に例示したIBSSメッシュリンクにおいて、CN#0、SN#1、SN#4、SN#5、及び、SN#6によって、太実線で示されるツリートポロジが、ツリー経路制御によって構築される例が示されている。
【0182】
図9の(B)には、
図7に例示したIBSSメッシュリンクにおいて、CN#0、SN#1、SN#5、及び、SN#6によって、太実線で示すツリートポロジが、ツリー経路制御によって構築される例が示されている。
【0183】
図9は、異なる時間において実施されたツリー経路制御によって、IBSSメッシュリンク上でツリートポロジが、(A)及び(B)の間で時間的に変化する様子を示している、と捉えてもよい。
【0184】
ここで、
図9に例示したようなツリー経路制御は、IBSSメッシュリンクが既にリンクアップしているため、例えば
図8に示した周辺ノード情報において、ツリー経路として有効化する無線リンクに対応するリンク情報を選択することで実現可能である。
【0185】
非限定的な一例として、
図10及び
図11に、
図9に例示したツリー経路のそれぞれに対応して、CN#0及びSN#1~#7のそれぞれにおけるリンク情報の選択例を示す。
図10及び
図11において、ハッチングを付して示す情報が、ツリー経路に選択されたリンク情報に対応する。なお、
図10及び
図11の(A)~(H)に示す情報は、それぞれ、
図8の(A)~(H)に例示した情報に対応する。
【0186】
例えば、
図9の(A)に示すツリー経路は、
図10の(A)、(B)、(E)及び(F)においてハッチングを付して示すリンク情報が、それぞれ、ノード#0、#1、#4、#5及び#6において選択されることで構築される。
【0187】
一方、
図9の(B)に示すツリー経路は、
図11の(A)、(B)及び(F)においてハッチングを付して示すリンク情報が、それぞれ、ノード#0、#1、#5及び#6において選択されることで構築される。
【0188】
なお、リンク情報の選択は、制御部304(例えば、ツリー経路制御部343のツリー経路更新部3433)によって行われる。
【0189】
このように、ノード3間において予めリンクアップしているメッシュリンクにおいて、個々のノード3が、経路メトリックに基づいて選択するリンク情報を変更する(又は、切り替える)ことによって、ツリー経路の構築及び更新を高速化できる。別言すると、経路メトリックの時間変化に応じたツリー経路の変化に対する追従性能を高めることができる。
【0190】
例えば、ツリー経路が変化する毎に、ノード3間において連携(association)及び/又は認証(authentication)に関わる処理(例えば、数秒を要する)を行わなくてよいので、ツリー経路の時間変化に対する追従性能を向上できる。
【0191】
ここで、「経路メトリックの時間変化」は、BHネットワーク9における「無線環境の時間変化」、別言すると、「BH回線品質の時間変化」に起因する。したがって、本実施形態の「アダプティブツリー経路制御」では、BH回線品質の時間変化に対する追従性能を高めることができる。よって、無線BH回線においてツリー経路の変更に伴う通信断の発生を抑制でき、無瞬断通信の実現が容易である。
【0192】
(CNの動作例)
図12は、一実施形態に係るIBSSメッシュリンク上のツリー経路制御を含むCN3の動作例を示すフローチャートである。
図12のフローチャートは、CN3の制御部304(例えば、ツリー経路制御部343)において実行されると捉えてよい。
【0193】
図12に示すように、CN3の制御部304は、例えば、特定のイベントが検出されたか否かを監視する(S31;NO)。「特定のイベント」には、例えば、CN3が起動されたこと、リセットボタンが操作されたこと、及び、特定のタイミングが到来したこと、が含まれてよい。「特定のタイミング」の一例は、例えば、経路制御パケットを定期又は不定期に送信するために設定された送信タイミングである。
【0194】
定期的に経路制御パケットを送信する場合の送信周期は一定でもよいし、本実施形態において構築されるツリー経路は、漸近的に安定することから、
図12のフローチャートが実行される回数に応じて変更されてもよい。また、例えば週末や、一日のうちの夜間と昼間などの時間帯に応じてツリー経路が更新されるように、所定の時刻が「特定のタイミング」に設定されてもよい。
【0195】
特定のイベントが検出された場合(S31;YES)、CN3の制御部304は、経路制御パケットを生成し、例えば無線通信部302を通じて、周辺ノード情報を基に識別される周辺SN3に経路制御パケットを送信(ブロードキャスト)する(S32)。
【0196】
例えば、CN3の起動が検出された場合、及び、経路構築パケットの送信タイミングが検出された場合には、経路構築パケットが周辺SN3に送信される。リセットボタンの操作が検出された場合、及び、リセットパケットの送信タイミングが検出された場合には、リセットパケットが周辺SN3に送信される。
【0197】
経路制御パケットの送信後、制御部304は、例えば、一定時間が経過(タイムアウト)したか否かを監視する(S33)。タイムアウトが検出されない場合(S33;NO)、制御部304は、処理をS31に移行してよい。
【0198】
一方、一定時間の経過が検出された場合(S33;YES)、制御部304は、データパケットの送信を開始してよい(S34)。データパケットの送信は、例えば
図14及び
図15にて後述するように、IPTに従って行われる。
【0199】
以上のように、CN3は、周辺ノード3との間においてリンクアップした複数の無線リンクのそれぞれに経路制御パケットを送信(ブロードキャスト)することで、BHネットワーク9を構成するSN3のそれぞれに経路制御パケットを伝搬させる。これにより、メッシュリンクがリンクアップしたBHネットワーク9において、経路メトリックに基づいたツリー経路の構築及び更新を高速化できる。したがって、経路メトリックの時間変化に応じたツリー経路の変化に対する追従性能を高めることができる。
【0200】
(SNの動作例)
次に、
図13を参照して、SN3の動作例について説明する。
図13は、一実施形態に係るIBSSメッシュリンク上のツリー経路制御を含むSN3の動作例を示すフローチャートである。
図13のフローチャートは、SN3の制御部304(例えば、ツリー経路制御部343)において実行されると捉えてよい。
【0201】
SN3は、例えば無線通信部302において経路制御パケットが受信されるか否かを監視する(S51;NO)。
【0202】
経路制御パケットの受信が検出された場合(S51;YES)、SN3の制御部304は、経路制御パケットの種別を確認する。例えば、制御部304は、受信した経路制御パケットが、リセットパケットであるか経路構築パケットであるかを確認する(S52及びS54)。
【0203】
受信した経路制御パケットが、リセットパケットの場合(S52;YES)、制御部304は、初期化処理を行う(S53)。初期化処理には、例えば、以下の処理が含まれてよい。
・周辺ノード情報において有効なツリー経路に選択しているリンクの選択解除
・記憶している経路メトリックの初期値(例えば、最大値)への初期化
【0204】
初期化処理の後、制御部304は、例えば、受信したリセットパケットを周辺SN3へ送信(フラッディング)する(S53a)。なお、リセットパケットには、識別子(ID)が含められてよい。ノード3のそれぞれは、受信したリセットパケットに含まれるIDを記憶しておいてよい。
【0205】
ノード3のそれぞれは、受信したリセットパケットのIDが、記憶したIDと一致する場合、別言すると、過去に送信(転送)したリセットパケットであることを示す場合、当該リセットパケットの更なる送信は行わない。これにより、リセットパケットがBHネットワーク9においてループすることを防止できる。
【0206】
一方、受信した経路制御パケットがリセットパケットでない場合(S52;NO)、制御部304は、当該経路制御パケットが経路構築パケットであるか否かを確認する(S54)。
【0207】
受信した経路制御パケットが経路構築パケットの場合(S54;YES)、制御部304は、周辺ノード情報を参照し(S55)、経路構築パケットを受信したリンクの伝搬品質指標(例えば、電波伝搬損失)を計算する(S56)。
【0208】
計算した電波伝搬損失を基に、制御部304は、経路メトリックを計算する(S57)。例えば、制御部304は、計算した電波伝搬損失と、受信した経路構築パケットに含められている伝搬品質指標と、を加算することによって、累積的な電波伝搬損失を新経路メトリックとして計算する。
【0209】
そして、制御部304は、新経路メトリックと、新経路メトリックが計算される前に記憶していた旧経路メトリックと、を比較して、経路メトリックの更新要否を判断する(S58)。
【0210】
例えば、制御部304は、旧経路メトリックよりも新経路メトリックの方が小さい場合に、旧経路メトリックを新経路メトリックに更新すると判断する(S58;YES)。当該判断に応じて、制御部304は、周辺ノード情報において新経路メトリックに対応する上流の無線リンクを有効なツリー経路に選択する(選択リンクの更新;S59)。
【0211】
選択リンクの更新に応じて、制御部304は、例えば、新経路メトリックを含む経路構築パケットを、周辺ノード情報において識別される周辺SN3へ送信(ブロードキャスト)する(S60)。
【0212】
その後、制御部304は、一定時間が経過(タイムアウト)したか否かを監視する(S61)。タイムアウトが検出されない場合(S61;NO)、制御部304は、処理を経路制御パケットの受信監視処理(S51)に移行してよい。タイムアウトが検出された場合(S61;YES)、制御部304は、例えばIPTに従ったデータパケットの送信処理を開始してよい(S62)。
【0213】
なお、受信した経路制御パケットがリセットパケット及び経路構築パケットのいずれでもない場合(S52及びS54;NO)、制御部304は、処理を経路制御パケットの受信監視処理(S51)に移行してよい。
【0214】
また、計算した新経路メトリックが旧経路メトリック以上であり、選択リンクの更新が不要と判断した場合(S58;NO)も、制御部304は、処理を経路制御パケットの受信監視処理(S51)に移行してよい。
【0215】
以上のように、SN3は、経路構築パケットの受信に応じて、周辺ノード3との間においてリンクアップした複数の無線リンクの1つを経路メトリックに基づいて選択する。これにより、メッシュリンクがリンクアップしたBHネットワーク9において、経路メトリックに基づいたツリー経路の構築及び更新を高速化できる。したがって、経路メトリックの時間変化に応じたツリー経路の変化に対する追従性能を高めることができる。
【0216】
(ツリー経路におけるIPT)
次に、
図14及び
図15を参照して、上述したツリー経路制御によって構築されたツリー経路において、データパケットをIPTによって送信する場合の、ノード3の動作例について説明する。
【0217】
図14に例示したフローチャートは、例えば、
図12に示した、CN3の処理S34において実行されると捉えてよい。一方、
図15に例示したフローチャートは、例えば、
図13に示した、SN3の処理S62において実行されると捉えてよい。また、
図14及び
図15のフローチャートは、それぞれ、CN3及びSN3の制御部304(例えば、IPT制御部344)において実行される。
【0218】
(CNの動作例)
図14に例示するように、CN3は、例えば、送信バッファに下りパケットが存在するか否かを監視する(S81)。
【0219】
送信バッファに下りパケットが存在する場合(S81;YES)、CN3は、タイマTMを初期値(例えば、0)に設定し(S82)、タイマTMのカウント値が、送信周期Ps未満の間はパケット送信を待機する(S83;NO)。一方、送信バッファに下りパケットが存在しない場合(S81;NO)、CN3は、パケット送信に関わる処理を終了してよい。
【0220】
なお、タイマTMは、例えば、IPT制御部344に備えられていてよい。送信バッファは、無線BH回線へ送信するパケットを一時的に記憶するメモリの一例であり、無線BH回線用の無線通信部302に備えられていてもよいし、記憶部305において具現されてもよい。いずれにしても、送信バッファは、制御部304によるアクセスが可能であり、当該アクセスによってパケットの書き込み及び読み出しが可能であればよい。これらの事項は、SN3にも当てはまる。
【0221】
タイマTMのカウント値が送信周期Ps以上になれば(S83;YES)、送信バッファにおける下りパケットを無線通信部302から送信する(S84)。複数の下りパケットが存在する場合、CN3は、複数の下りパケットを連続して送信してもよい。
【0222】
下りパケットの送信後、CN3は、当該下りパケットの送信が成功したか否かを判断する(S85)。パケットの送信が成功したか否かは、当該パケットの受信相手から一定時間内に肯定応答(ACK)信号が受信されるか否かによって検出できる。CN3において、ACK信号の受信は、周波数リユース間隔が満たされていることを間接的(暗示的)に示すイベントと判断してよい。
【0223】
下りパケットに対するACK信号の受信が一定時間内に検出されない場合(S85;NO)、CN3は、送信周期Psが適切でない(例えば、短すぎる)と判断して、送信周期Psを例えばΔPupだけ増加する(S86)。なお、ACK信号の未受信検出には、否定応答(NACK)信号の受信検出が含まれてよい。
【0224】
その後、CN3は、パケット送信が許容される規定時間が経過したか否か(送信タイムアウトが検出されたか否か)を判断する(S87)。送信タイムアウトが検出されない場合(S87;NO)、CN3は、ACK信号を受信できなかった下りパケットの再送を、処理S84において行ってよい。
【0225】
一方、送信タイムアウトが検出された場合(S87;YES)、CN3は、ACK信号を受信できなかったパケットを廃棄して処理をS81に戻し、下りパケットの有無を監視する。
【0226】
下りパケットの送信に成功した場合(S85;YES)には、CN3は、送信周期Psを短くしてもよいと判断して、送信周期Psを例えばΔPdownだけ減少する(S88)。その後、CN3は、処理をS81に戻して、下りパケットの有無を監視する。
【0227】
このように、下りパケットの送信が成功したか否かに応じて送信周期Psが動的に調整されることで、適切な周波数リユース間隔に応じた送信周期Psが、CN3において設定される。
【0228】
なお、上述した例では、送信周期Psを可変としているが、送信周期Psは固定値でもよい。別言すると、送信周期Psが可変であることはオプションであってよい。例えば、
図14において、S86及びS88で示す処理は、省略されてよい。
【0229】
また、送信周期Psの値は、「0」に設定されてもよい。例えば、数ホップ程度の低ホップ数のネットワークでは、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)といったレイヤ2以下のパケット衝突回避機能によって、特別なパケット伝送制御を用いなくても、効率的なパケット伝送が可能である。そのため、例えば、各ノード3に、CSMA/CAといったレイヤ2以下のパケット衝突回避機能が備わっている場合、「Ps=0」に設定されてもよい。
【0230】
(SNの動作例)
図15に例示するように、SN3は、例えば、経路制御パケットが受信されるか否かを監視する(S90)。なお、
図15のフローチャートは、下り回線及び上り回線へのパケット送信処理に共通でよい。
【0231】
経路制御パケットが受信された場合(S90;YES)、SN3は、
図13の処理S52に処理を移行する。一方、経路制御パケットの受信が検出されない場合(S90;NO)、SN3は、下り回線及び/又は上り回線へ送信(中継)するデータパケットが受信されるか否かを監視する(S91)。
【0232】
データパケットが受信された場合(S91;YES)、SN3は、受信したデータパケットを無線通信部302から送信する(S92)。複数のデータパケットが受信された場合、SN3は、受信した複数のデータパケットを連続して送信してもよい。
【0233】
データパケットの送信後、SN3は、当該データパケットの送信が成功したか否かを判断する(S93)。データパケットに対するACK信号の受信が一定時間内に検出されない場合(S93;NO)、SN3は、例えば、データパケットの送信が許容される規定時間が経過したか否か(送信タイムアウトが検出されたか否か)を判断する(S94)。送信タイムアウトが検出されない場合(S94;NO)、SN3は、ACK信号を受信しなかったデータパケットの再送を、処理S92において行ってよい。
【0234】
一方、送信タイムアウトが検出された場合(S94;YES)、SN3は、ACK信号を受信しなかったデータパケットを廃棄して処理をS91に戻し、中継送信するデータパケットの受信を待機(監視)する。
【0235】
データパケットの送信に成功した場合(S93;YES)には、SN3は、処理をS91に戻し、中継送信するデータパケットの受信を待機(監視)する。
【0236】
なお、処理S91において、データパケットの受信が検出されない場合、SN3は、処理を終了してよい。あるいは、処理S91において、データパケットの受信が検出されない場合、SN3は、処理を処理S90に戻してもよい。
【0237】
上述した「アダプティブツリー経路制御」と「IPT制御」との組み合わせによって、無線環境の変化にアダプティブに追従して変化するツリー経路において、周波数リユース間隔に応じた周期で時分割にデータパケットが送受信される。
【0238】
したがって、無線BH回線の品質変化に対して追従性能の高いアダプティブな時分割多元アクセス(TDMA;Time Division Multiple Access)又は時分割複信(TDD;Time Division Duplex)を実現できる。
【0239】
(変形例)
上述した実施形態においては、
図7に例示したようなIBSSメッシュリンクが、ノード3のIBSSモードを利用して形成される例について説明した。しかし、ノード3がIBSSモードをサポートしていない場合もあり得る。
【0240】
ノード3がIBSSモードをサポートしていない場合、例えば、AP(Access Point)モードとSTA(Station)モードとの組み合わせによって、
図7に例示したようなIBSSメッシュリンクと同等のメッシュリンクを構築することが可能である。
【0241】
図16に、APモードとSTAモードとの組み合わせ(「ハイブリッド」と称してもよい)を用いて、ノード3間にメッシュリンクが構築される例を示す。なお、APモードとSTAモードとの組み合わせを、便宜的に、「擬似IBSSモード」と称する。
【0242】
図16の(A)~(C)には、例示的に、3つのノードA、B及びCが示されている。
図17には、ノードA-B間及びノードA-C間のそれぞれについて擬似IBSSモードを用いた無線リンクのセットアップ手順の一例が、ノードA~Cそれぞれのプロトコル・スタックと併せて示されている。
【0243】
例えば、
図16の(A)に示すように、ノードAは、起動に応じて、AP(モード)の動作に従って、ビーコン信号を周囲に送信する。当該ビーコン信号を受信した周辺ノードB及びCのそれぞれは、STA(モード)の動作に従って、アソシエーションリクエストをノードAへ送信する。
【0244】
ノードAは、周辺ノードB及びCから受信したアソシエーションリクエストをそれぞれ許可する場合、APの動作に従って、周辺ノードB及びC宛にアソシエーションレスポンスを送信する。これにより、ノードAを起点(AP)としたマルチポイント(ノードB及びC)の無線リンクがリンクアップする。
【0245】
同様に、例えば
図16の(B)に示すように、ノードBは、起動に応じて、AP(モード)の動作に従って、ビーコン信号を周囲に送信する。当該ビーコン信号を受信した周辺ノードA及びCのそれぞれは、STA(モード)の動作に従って、アソシエーションリクエストをノードBへ送信する。これにより、ノードBを起点(AP)としたマルチポイント(ノードA及びC)の無線リンクがリンクアップする。
【0246】
ノードCに着目すると、
図16の(C)に示すように、ノードCは、起動に応じて、AP(モード)の動作に従って、ビーコン信号を周囲に送信する。当該ビーコン信号を受信した周辺ノードA及びBのそれぞれは、STA(モード)の動作に従って、アソシエーションリクエストをノードCへ送信する。これにより、ノードCを起点(AP)としたマルチポイント(ノードA及びB)の無線リンクがリンクアップする。
【0247】
以上の動作例を要約すると、ノードA、B及びCのそれぞれは、ビーコン信号の送信元としてAPモードで動作する一方、他の周辺ノードを送信元とするビーコン信号を受信した場合には、当該周辺ノードとの関係においてSTAモードで動作する。
【0248】
図17に、以上の動作例を、ノードA、B及びCそれぞれのプロトコル・スタックと併せて模式的に示す。
図17では、説明の便宜のために、同一ノード3における物理レイヤ(L1)及びMACレイヤ(L2)のそれぞれを、APモードとSTAモードとの別に区分して視覚化している。
【0249】
ただし、L1及びL2は、APモードとSTAモードとに共通でよい。例えば、L1及びL2は、同一のハードウェアで実現されてもよく、時分割、SDM(Space Division Multiplexing)、あるいは符号分割等の多重化手法を用いて、同じチャネルに対し、APモードとSTAモードとに係る無線通信を多重化してもよい。APモードとSTAモードとのハイブリッドモード(擬似IBSSモード)による処理又は制御は、例えば、レイヤ2.5に含まれてよい。
【0250】
図17において、ノードAに着目すると、ノードA(APモード)と、ノードAを送信元とするビーコン信号を受信したノードB(STAモード)及びノードC(STAモード)と、の間において、
図16の(A)に例示したアソシエーション手順が実行される。
【0251】
また、ノードAは、ノードB(APモード)を送信元とするビーコン信号の受信によって、ノードBとの関係ではSTAモードで動作する。そのため、ノードA(STAモード)と、ノードB(APモード)と、の間において、
図16の(B)に例示したアソシエーション手順が実行される。
【0252】
同様に、ノードAは、ノードC(APモード)を送信元とするビーコン信号の受信によって、ノードCとの関係ではSTAモードで動作する。そのため、ノードA(STAモード)と、ノードC(APモード)と、の間において、
図16の(C)に例示したアソシエーション手順が実行される。
【0253】
なお、ノードB及びCについても、それぞれ、ノードAと同様に、APモードとSTAモードとに従って他の周辺ノードとの間において、
図16に例示したようなアソシエーション手順が実行される。
【0254】
以上のようにして、ノードA-B間、ノードB-C間、及び、ノードC-A間のそれぞれに無線リンクがリンクアップする。異なるチャネルの複数の無線リンクがリンクアップする場合、これら複数の無線リンクは、1つの無線帯域にアグリゲーション(又は、ボンディング)されてよい。
【符号の説明】
【0255】
1 無線通信システム
3 無線ノード
5 バックボーンネットワーク
7 端末装置
9 バックホール(BH)ネットワーク
31 プロセッサ
32 メモリ
33 ストレージ
34 入出力(I/O)装置
35,36 無線インタフェース(IF)
37,39 有線インタフェース(IF)
38 バス
301,302 無線通信部
303 有線通信部
304 制御部
305 記憶部
341 スキャン処理部
342 ノード管理部
343 ツリー経路制御部
344 IPT制御部
350,360 アンテナ
3431 経路制御パケット生成部
3432 経路メトリック計算部
3433 ツリー経路更新部