(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】回転電機、インシュレータ、およびそのアセンブリ方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/46 20060101AFI20230131BHJP
H02K 15/10 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
H02K3/46 B
H02K15/10
(21)【出願番号】P 2018153379
(22)【出願日】2018-08-17
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505336622
【氏名又は名称】株式会社TOP
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】上野 清香
(72)【発明者】
【氏名】三好 広之
(72)【発明者】
【氏名】滝本 亨
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-093081(JP,A)
【文献】特開2015-122896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/46
H02K 1/18
H02K 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸まわりに回転する回転子と、
前記回転子に向かって突出するティースを有する固定子と、
前記ティースに取り付けられるインシュレータと、
前記インシュレータに巻回されるコイルと、
を具備し、
前記インシュレータは、前記ティースに装着されるとともに、前記ティースに対して前記第1の軸方向に関してねじれの向きに付勢力を発生させる一対の側面部を有する
回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ティース部は、前記固定子の外周面を構成する周壁部と、前記周壁部から前記回転子に向かって突出する突出部とを有し、
前記インシュレータは、前記突出部を収容する開口部分を有し、
前記一対の側面部は、前記開口部分を挟んで前記第1の軸と直交する第2の軸方向に相互に対向して配置される
回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機であって、
前記一対の側面部は、前記突出部に対して、前記第1の軸まわりに前記付勢力を発生させる
回転電機。
【請求項4】
請求項2に記載の回転電機であって、
前記一対の側面部は、前記突出部に対して、前記第1の軸および前記第2の軸に直交する第3の軸まわりに前記付勢力を発生させる
回転電機。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1つに記載の回転電機であって、
前記インシュレータは、前記周壁部に係合し前記一対の側面部を支持するカバー部をさらに有し、
前記一対の側面部は、前記カバー部に対して弾性変形可能に構成される
回転電機。
【請求項6】
請求項2に記載の回転電機であって、
前記インシュレータの一対の側面部と接触する前記ティースの平行な二側面間の距離に相当する前記ティースの幅をティース幅wとし、
前記ティースへの組み付け前の前記開口部分の前記第1の軸方向における両端部側の幅をA,Bとし、
前記ティースへの組み付け前の前記開口部分の前記第1の軸および前記第2の軸に直交する第3の軸方向における両端部側の幅をC,Dとし、
前記インシュレータを前記ティースに挿入するように対向させた状態で、前記ティースの平行な二側面間の中心面を、前記開口部分に投影させてA,B,C,Dを二分割したものをそれぞれ、A1,A2,B1,B2,C1,C2,D1,D2とすると、
A2<ティース幅w/2<A1、
B1<ティース幅w/2<B2、
C2<ティース幅w/2<C1、および、
D1<ティース幅w/2<D2、
の少なくとも一方の関係を満たすように、前記一対の側面部が形成されている
回転電機。
【請求項7】
一軸まわりに回転する回転子を備えた電動機固定子鉄心のティースに挿入されるインシュレータであって、
前記ティースに対して前記一軸方向に関してねじれの向きに付勢力を発生させる一対の側面部
を具備するインシュレータ。
【請求項8】
一軸まわりに回転する回転子を備えた電動機固定子鉄心のティースに対するインシュレータのアセンブリ方法であって、
前記ティースに対して前記一軸方向に関してねじれの向きに付勢力を発生させる一対の側面部を有するインシュレータを準備し、
前記インシュレータを、前記ねじれの向きに沿って前記ティースに挿入する
インシュレータのアセンブリ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機、インシュレータ、およびそのアセンブリ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の固定子鉄心である円環状に配置された各ティースと、巻回されるコイルとの間を絶縁するために、インシュレータが各ティースに挿入される。
【0003】
この種のインシュレータの、コイル巻回前の各ティースからの脱落を防止するための構造が開示されている。
例えば、特許文献1においては、インシュレータの挿入始端の開口幅をティースの受入幅より狭くする構造が開示されている。特許文献2においては、インシュレータの内面に突起を設け、ティースと嵌合させる構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許3629193号公報
【文献】特開2014-138429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような脱落防止構造では、インシュレータがティースに挿入しにくい、あるいは、インシュレータ及びティースの構造が複雑になり製造コストが上がってしまう。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ティースに対するインシュレータの組み付け性を確保しつつ、より簡素な構成でインシュレータの脱落防止機能を得ることができる電子機器、インシュレータおよびそのアセンブリ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る回転電機は、回転子と、固定子と、インシュレータと、コイルとを具備する。
前記回転子は、第1の軸まわりに回転する。
前記固定子は、前記回転子に向かって突出するティースを有する。
前記インシュレータは、前記ティースに取り付けられる。
前記コイルは、前記インシュレータに巻回される。
前記インシュレータは、前記ティースに装着されるとともに、前記ティースに対して前記第1の軸方向に関してねじれの向きに付勢力を発生させる一対の側面部を有する。
【0008】
上記回転電機において、各インシュレータは、ティースに対して第1の軸方向に関してねじれの向きに付勢力を発生させる一対の側面部を有するため、ティースへの組み付け性を確保しつつ、より簡素な構成で脱落防止機能を得ることができる。
【0009】
前記ティース部は、前記固定子の外周面を構成する周壁部と、前記周壁部から前記回転子に向かって突出する突出部とを有してもよい。前記インシュレータは、前記突出部を収容する開口部分を有し、前記一対の側面部は、前記開口部分を挟んで前記第1の軸と直交する第2の軸方向に相互に対向して配置される。
【0010】
前記一対の側面部は、前記突出部に対して、前記第1の軸まわりに前記付勢力を発生させるように構成されてもよい。
【0011】
前記一対の側面部は、前記突出部に対して、前記第1の軸および前記第2の軸に直交する第3の軸まわりに前記付勢力を発生させるように構成されてもよい。
【0012】
前記インシュレータは、前記周壁部に係合し前記一対の側面部を支持するカバー部をさらに有してもよい。前記一対の側面部は、前記カバー部に対して弾性変形可能に構成される。
【0013】
前記インシュレータの一対の側面部と接触する前記ティースの平行な二側面間の距離に相当する前記ティースの幅をティース幅wとし、
前記ティースへの組み付け前の前記開口部分の前記第1の軸方向における両端部側の幅をA,Bとし、
前記ティースへの組み付け前の前記開口部分の前記第1の軸および前記第2の軸に直交する第3の軸方向における両端部側の幅をC,Dとし、
前記インシュレータを前記ティースに挿入するように対向させた状態で、前記ティースの平行な二側面間の中心面を、前記開口部分に投影させてA,B,C,Dを二分割したものをそれぞれ、A1,A2,B1,B2,C1,C2,D1,D2とすると、
A2<ティース幅w/2<A1、
B1<ティース幅w/2<B2、
C2<ティース幅w/2<C1、および、
D1<ティース幅w/2<D2、の少なくとも一方の関係を満たすように、前記一対の側面部が形成されてもよい。
【0014】
本発明の一形態に係るインシュレータは、一軸まわりに回転する回転子を備えた電動機固定子鉄心の各ティースに挿入されるインシュレータであって、
前記ティースに対して前記一軸方向に関してねじれの向きに付勢力を発生させる一対の側面部を具備する。
【0015】
本発明の一形態に係るインシュレータのアセンブリ方法は、一軸まわりに回転する回転子を備えた電動機固定子鉄心の各ティースに対するインシュレータのアセンブリ方法であって、
前記ティースに対して前記一軸方向に関してねじれの向きに付勢力を発生させる一対の側面部を有するインシュレータを準備し、
前記インシュレータを、前記ねじれの向きに沿って前記ティースに挿入する。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明のインシュレータによれば、より簡素な構造で簡単にティースに挿入できる、脱落防止インシュレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電子機器としての回転電機の構成例を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るインシュレータ単体を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示すインシュレータをX軸まわりに反転させたときの斜視図である。
【
図5】
図3においてX軸方向から見たインシュレータの正面図である。
【
図6】
図4においてZ軸方向から見たインシュレータの平面図である。
【
図7】(a)は、
図3のX軸正方向から見たインシュレータの斜視図であり、(b)は、ティースへの挿入後のインシュレータの弾性変形した開口部分を示した斜視図である。
【
図8】インシュレータの一対の側面部の一形状を表した斜視図である。
【
図9】インシュレータの一対の側面部の一形状を表した斜視図である。
【
図10】インシュレータの一対の側面部の一形状を表した斜視図である。
【
図11】インシュレータの一対の側面部の一形状を表した斜視図である。
【
図12】インシュレータの一対の側面部の一形状を表した斜視図である。
【
図13】インシュレータ対がティースに取り付けられる前の状態を表した斜視図である。
【
図14】インシュレータ対が一片のティースに挿入される前の状態を表した斜視図である。
【
図15】
図14の状態の後に、コイルが巻回された状態を表した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
<電子機器の構成>
図1は本発明の一実施形態に係る電子機器としての回転電機100の構成例を示す分解斜視図であり、
図2は回転電機100の要部の断面斜視図である。
【0020】
回転電機100は、ケーシング10と、部品実装体20と、モータ30と、バスバーユニット40と、保持部材50とを有する。
【0021】
[ケーシング]
ケーシング10は、開口部11と、開口部11に対向する底部12とを有する概略円筒形状に形成される。ケーシング10はアルミニウム等の金属材料から構成され、
図2に示すように、モータ30やバスバーユニット40等を収容する。
【0022】
[部品実装体]
部品実装体20は、
図2に示すように、モータ30、バスバーユニット40及び保持部材50よりも上方においてケーシング10の上端部に保持される。部品実装体20は、部品実装基板21と、コネクタ部品22と、ヒートシンク23とを有する。
【0023】
部品実装基板21は、
図2に示すように、第1の面21aと、第1の面21aとは反対側の第2の面21bとを有する。本実施形態の部品実装基板21は、電動パワーステアリング装置(EPS:Electronic Power Steering)のECU(Electronic Control Unit)を構成する各種電子機器(図示略)を含む回路基板である。当該電子機器としては、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を含む。部品実装基板21は、複数のネジ部(図示せず)を介してヒートシンク(蓋部)23に固定される。
【0024】
ヒートシンク23は、部品実装基板21の第2の面21bと対向し、シールリングを介してケーシング10の開口部11に組み付けられることで、ケーシング10の内部を密閉する蓋部を構成する。ヒートシンク23の周縁部には、
図1に示すように、ネジ挿通孔を有する複数のブラケット23bが設けられており、これらのブラケット23bを介してケーシング10の開口部11の周縁部に設けられた複数の固定ブラケット14にネジ固定される。
【0025】
ヒートシンク23には、ケーシング10の内部と外気とを連通させることが可能な呼吸孔が設けられてもよい。ヒートシンク23は、
図2に示すように、外部電源(図示略)と電気的に接続される外部接続端子23aが設けられる外面23dと、バスバーユニット40に電気的に接続される部品実装基板21の第2の面21bと対向する内面23cを有する。
【0026】
[バスバーユニット]
バスバーユニット40は、導電材からなる複数のバスバー41と、これらバスバー41を内包する電気絶縁性のバスバーホルダ42とを有する(
図2参照)。バスバーホルダ42は、円環状の成形体で構成される。複数のバスバー41は、バスバーホルダ42の外周面から径外方へ突出する複数の接続端子41aと、バスバーホルダ42の天面から一軸方向に延び、U相、V相及びW相のそれぞれに対応した複数の電源端子41bとを有する(
図1参照)。
【0027】
バスバーユニット40は、ケーシング10の内部に配置され、駆動軸321と同心的な円環形状を有し、後述するステータコイル312に接続される。複数の接続端子41aは、U相、V相及びW相のステータコイル312の一端にそれぞれ電気的に接続され、複数の電源端子41bは、ヒートシンク23に固定された部品実装基板21上のコネクタ部品22と電気的に接続される。
【0028】
[保持部材]
保持部材50は、ベアリングB2をケーシング10内に位置決め保持するためのものであり、金属板のプレス成形体で構成される。本実施形態において保持部材50は、金属板を立体形状に深絞り加工及び折り曲げ加工したものが用いられる。
【0029】
[モータ]
モータ30は、
図2に示すようにケーシング10内に収容され、ステータ(固定子)31と、ロータ(回転子)32とを有する。ステータ31は、ケーシング10の内側に円環状に配置された複数の(例えば12片の)ティース(ステータコア)311と、複数のティース311にそれぞれ挿入され取り付けられた複数のインシュレータ対312,312とを含む(
図13参照)。インシュレータ312に関しては後で詳述する。ここで、複数のティース311およびインシュレータ対312,312は、単一のもの(1つのティース311およびインシュレータ312)を考慮してもよい。
【0030】
ステータ31はさらに、複数のインシュレータ対312,312にそれぞれ巻回されたコイル(ステータコイル)313を含む。ティース311は、磁性材からなり、例えば複数の磁性鋼板の積層体で構成される。
【0031】
ティース311は、ケーシング10の内周に嵌合されることによりケーシング10に固定される。コイル313は、U相、V相及びW相の三相電磁コイルを形成するように、それらの両端部313E(
図15参照)がバスバーユニット40に電気的に接続される。
【0032】
ティース311は、これに限定されないが、T型の柱状のものであり(
図13参照)、ステータコア31の外周面を構成する周壁部311Aと、ステータコア31の内周面を構成する突出部311Bとを有する。突出部311Bは、周壁部311Aからステータコア31の径方向(X軸方向)に突出し、その先端部には幅寸法が拡張された拡幅部311Btが設けられている。ティース311は、T型の上面311T、T型の下面311Bおよび複数の側面を有する。ティース311は側面として特に、突出部311Bの幅方向の両端に位置する平行な二側面311S,311Sを有する。
【0033】
ロータ32は、一軸方向(Z軸)に平行な駆動軸321と、駆動軸321に取り付けられるロータコア322とを有する。駆動軸321は、ケーシング10の軸心に沿って配置され、ロータコア322の中央に形成された貫通孔に圧入される。駆動軸321は、ケーシング10の底部12に配置されたベアリングB1(第1のベアリング)及び保持部材50に保持されたベアリングB2(第2のベアリング)を介してケーシング10に回転自在に支持される。ロータコア322は、周方向に配列された複数の磁極を有する。ロータ32は、ステータ31の内側に配置され、ステータ31との電磁作用により駆動軸321をその軸まわりに回転させる。
【0034】
駆動軸321の一端(
図1及び
図2において下端)は、ケーシング10の底部12を貫通し、その先端部にギヤ部323を有する。ギヤ部323は、ステアリングシャフトに連絡する相手側ギヤ(図示略)に噛み合い、駆動軸321の回転を上記ステアリングシャフトに伝達する。ケーシング10の底部12には、相手側機器に接続されるフランジ部13を有し、複数のボルトを介して当該機器に接続される。
【0035】
[インシュレータ]
インシュレータ対312,312は、それぞれ同一またはほぼ同一の構成を有し、Z軸方向に相互に対向するようにティース311に装着される(
図13参照)。
図3は、ティース311の上面311T側に装着される一方のインシュレータ312を内径側から見た斜視図である。
図4は、
図3に示すインシュレータ312をX軸まわりに反転させたときの斜視図である。
図5は、
図3においてX軸方向から見たインシュレータ312の正面図である。
図6は、
図4においてZ軸方向から見たインシュレータ312の平面図である。
各図において、X軸はステータコア31の径方向、Y軸はインシュレータ312の幅方向、Z軸はインシュレータ312の高さ方向(駆動軸321の軸方向)にそれぞれ相当する。
【0036】
インシュレータ312は、T型柱状のティース311に挿入(あるいは外挿)可能なように形成されている。インシュレータ312は、電気絶縁性の合成樹脂材料の射出成形体で構成され、
図3~6に示されているように、カバー部312Cと、フランジ部312Fと、ベース部312Bと、一対の側面部312S,312Sとを有する。
【0037】
カバー部312Cおよびフランジ部312Fは、ステータコア31の径方向(図中X軸方向)に相互に対向するように形成される。カバー部312Cは、ティース311の周壁部311Aに係合可能な形状を有する。
ベース部312Bは、カバー部312Cとフランジ部312Fとの間に設けられ、ティース311の突出部311Bの上面(あるいは下面)を被覆する。
一対の側面部312S,312Sは、ベース部312Bの幅方向(Y軸方向)の両端からZ軸方向に垂下する板状部であり(
図3参照)、ティース311(突出部311B)の二側面311S,311Sをそれぞれ被覆する。一対の側面部312S,312Sの外径側縁部は、カバー部312Cに支持される。一対の側面部312S,312Sの内径側縁部には、ティース311の突出部311Bにおける拡幅部311Btに係合可能に拡幅されたテーパ部312Stがそれぞれ設けられる。
【0038】
以下、各部の詳細について説明する。
【0039】
カバー部312Cは、円環状に配置されるティース311の周壁部311Aをその内周面側から覆うものである(
図13,14参照)。カバー部312Cは、コイル313の両端部313E、313E(
図15参照)を受け入れるための、溝部312G1およびガイド部312G2を有する。
【0040】
溝部312G1は、
図3に示すように、カバー部312Cの高さ方向(Z軸方向)の一端部における幅方向(Y軸方向)の一端側に設けられ、Z軸方向に沿って、ベース部312Bに近接する位置までの深さで形成される。溝部312G1は、X軸方向に、コイル313の外径(あるいは線径)程度の幅でカバー部312Cを貫通するように形成されている。溝部312G1は、コイル313の一端部313Eを受け入れてコイル一端部が向く方向をX軸に沿うようにガイドするためのものである。
【0041】
ガイド部312G2は、
図3及び
図4に示すように、カバー部312Cの高さ方向の一端部における幅方向の他端側から、Z軸方向に沿って、カバー部312Cの高さ方向の他端部にわたって設けられる。ガイド部312G2は、カバー部312Cの内周面側に設けられ、コイル313の外径程度の幅および深さの直線的な溝として形成されている。ガイド部312G2は、コイル313の一端部313Eを受け入れてコイル一端部が向く方向をZ軸に沿うようにガイドするためのものである。
【0042】
さらにカバー部312Cの高さ方向の一端部には、バスバーユニット40またはケーシング10とアセンブリするための雌爪部312Pが、溝部312G1とガイド部312G2との間に形成されている。
なお、
図13~15に示されているZ軸方向下側の片側のインシュレータ312には、溝部312G1およびガイド部312G2がなくてもよい。
【0043】
カバー部312Cの外周面の高さ方向の一端部には、ティース311への装着時に、その周壁部311Aの端部に当接可能なストッパ部312Rが設けられている。ストッパ部312Rは、ティース311に対するインシュレータ312のZ軸方向に関する装着位置(インシュレータ312に対する突出部311Bの挿入深さ)を規定するためのものである(
図14参照)。ストッパ部312Rは、カバー部312Cを部分的に厚化させる厚肉部の端部に位置し、ティース部311への取り付け時においてベース部312Bよりも先にティース部311に当接する。
【0044】
フランジ部312Fは、ベース部312Bの内径側端部に立ち上がり形成される。フランジ部312Fは、コイル313の内周側への巻ずれを防止するためのものである(
図15参照)。
【0045】
ベース部312Bおよび一対の側面部312S、312Sの外表面には、一連のコイル313の積層巻回が径方向(X軸方向)に整列されるための、らせん状あるいは多列の巻回受入凹部が形成されている。
カバー部312Cは、ベース部312Bおよび一対の側面部312S、312Sにより区画される空間部を径方向に露出させる切欠き部312C1(
図4参照)を有する。上記空間部および切欠き部312C1は、Z軸方向に挿通されるティース311の突出部311Bを収容する(受け入れる)開口部分312Vを構成する。
【0046】
[インシュレータの一対の側面部]
インシュレータ312の一対の側面部312S,312Sは、ティース311への挿入時に突出部311Bの二側面311S,311S(Z軸方向)にそれぞれ接触する。本実施形態において、インシュレータ312の一対の側面部312S,312Sは、ティース311への挿入前の状態において、
図5に示すようにZ軸方向に関して同一方向に所定の角度θ
1で傾斜している。この場合、カバー部312Cにおける側面部312Sの支持領域のY軸方向の両端部もZ軸方向に傾斜角θ
1で傾斜している。
【0047】
さらに摺動のしやすさを考慮して、一対の側面部312S,312Sの開口端部の内面間距離であるインシュレータ幅312Wは、挿入時に接触するティース311の二側面311S,311S間の距離であるティース幅311W(
図13参照)より若干大きくなるように形成されている。
【0048】
傾斜角θ1は、インシュレータ312がティース311に挿入されたときにZ軸方向に平行となるように弾性変形する一対の側面部312S,312Sに、変形前の姿勢(以下、初期姿勢ともいう)に戻ろうとする弾性復帰力を発生させる。この弾性復帰力は、ティース311(突出部311B)の二側面311S,311Sに対してZ軸方向に関してねじれの向き(本例ではX軸まわりの向き)に付勢力として作用する。これにより、ティース311への組み付け後においてインシュレータ312がティース311から脱落するのを防止することができる。
【0049】
本実施形態ではさらに、インシュレータ312の一対の側面部312S、312Sは、ティース311への挿入前の状態において、
図6に示すようにX軸方向に関して同一方向に所定の角度θ
2で傾斜している。この場合、ベース部312BのY軸方向の両端部もX軸方向に傾斜角θ
2で傾斜している。
【0050】
傾斜角θ2は、インシュレータ312がティース311に挿入されたときにX軸方向に平行となるように弾性変形する一対の側面部312S,312Sに、初期姿勢に戻ろうとする弾性復帰力を発生させる。この弾性復帰力は、ティース311(突出部311B)の二側面311S,311Sに対してZ軸方向に関してねじれの向き(本例ではZ軸まわりの向き)に付勢力として作用する。これにより、ティース311への組み付け後においてインシュレータ312がティース311から脱落するのを防止することができる。
【0051】
傾斜角θ1およびθ2は、それぞれ単独で設定されることが可能だが、より確実にインシュレータ312の脱落防止を図るためには、双方を組み合わせて設定されるのが望ましい。以下、傾斜角θ1および/またはθ2で傾斜する一対の側面部312S,312Sを、インシュレータ312のねじれ部分ともいう。
【0052】
所定の傾斜角θ1およびθ2の大きさは特に限定されず、例えば、±1.0~10°に設定される。これにより、ティース311に対するインシュレータ312の組立作業性を確保しつつ、所望とするインシュレータ312の脱落防止効果を確保することができる。一対の側面部312S、312Sは互いに概ね平行であり、製造誤差を考慮すると±1.0~10°程度異なる角度で設定されてよい。
【0053】
次に、上述したインシュレータ312のねじれ部分を寸法で説明する。
図7(a)は、
図3に示したインシュレータ312の外径側から見た斜視図である。
図7(b)は、ティース311への挿入後におけるインシュレータ312の弾性変形した開口部分312V(
図3参照)の外形を模式的に示した斜視図である。ここで、開口部分312Vは、接触(対応)するティース311(突出部311B)の平行な二側面311S,311S、上面311Tおよび下面311Bが形成する直方体状と同様に表される。
【0054】
そして
図7(b)に示すように、開口部分312VのZ軸方向における両端部側の幅をそれぞれA(=A1+A2),B(=B1+B2)とする。そして、開口部分312VのX軸方向における両端部側の幅をそれぞれC(=C1+C2),D(=D1+D2)とする。
ここでいう開口部分312VのZ軸方向における両端部側の幅とは、開口部分312VをZ軸方向に2等分する中心線Lzに関して対称な2つの位置各々のY軸方向に沿った幅寸法を意味する。典型的には、開口部分312VのZ軸方向の両端部の幅とは、開口部分312VのZ軸方向の両端近傍の幅をいう。
同様に、開口部分312VのX軸方向における両端部側の幅とは、開口部分312VをX軸方向に2等分する中心線Lxに関して対称な2つの位置各々のY軸方向に沿った幅寸法を意味する。典型的には、開口部分312VのX軸方向の両端部の幅とは、開口部分312VのX軸方向の両端近傍の幅をいう。
【0055】
インシュレータ312のねじれ部分の基本形状として、以下の不等式が成り立つように一対の側面部312S、312Sを形成することができる。ティース幅311W(
図13参照)を「ティース幅w」とすると、
ティース幅w<A<B(開口部分312VのZ軸方向の先端がより広いテーパ状)、
あるいは
ティース幅w<B<A(開口部分312VのZ軸方向の奥がより広いテーパ状)
【0056】
つまり、ティース幅w<A≠Bとなるように、このねじれ部分を形成することができる。ここでB>Aとした場合、成形金型からの離型性が向上する。
【0057】
図13のようにインシュレータ312をティース311に挿入するように対向させた状態で、ティース311の平行な二側面311S,311S間の中心を通るXZ平面に平行な中心面311Cを、インシュレータ312(開口部分312V)に投影させて、開口部分312Vの各部の幅に相当する長さA,B,C,DをY軸方向に二分割する。
図7(b)に示されているように、それらをA1,A2,B1,B2,C1,C2,D1,D2とする。つまり、A=A1+A2,B=B1+B2,C=C1+C2,D=D1+D2となる。
【0058】
図8~12は、ティース311に装着される前の自然状態におけるインシュレータ312の一対の側面部312S、312S(開口部分312V)の一形状を表した斜視図である。
【0059】
上述したインシュレータ312のねじれ部分の基本形状の不等式を踏まえて、
図8に示されているような以下の各不等式(1)が成り立つように一対の側面部312S、312Sの寸法が決定される(つまり形成される)。
A1<ティース幅w/2<A2、
B1<ティース幅w/2<B2、
ティース幅w/2≦C1=C2、および、
ティース幅w/2≦D1=D2 ・・・(1)
この場合、ねじれの向きTDは、X軸まわりとなる。
【0060】
あるいは
図8と同様に、
図9に示されているような以下の各不等式(2)が成り立つように一対の側面部312S、312Sの寸法が決定されてもよい(形成されてもよい)。
A2<ティース幅w/2<A1、
B1<ティース幅w/2<B2、
C2<ティース幅w/2<C1、および、
D2<ティース幅w/2<D1 ・・・(2)
この場合も、ねじれの向きTDは、X軸まわりとなる。
【0061】
あるいは
図10に示されているような以下の各不等式(3)が成り立つように一対の側面部312S、312Sの寸法が決定されてもよい(形成されてもよい)。
ティース幅w/2≦A1=A2、
ティース幅w/2≦B1=B2
C1<ティース幅w/2<C2、および、
D1<ティース幅w/2<D2 ・・・(3)
この場合、ねじれの向きTDは、Z軸まわりとなる。
【0062】
あるいは
図11に示されているような以下の各不等式(4)が成り立つように一対の側面部312S、312Sの寸法が決定されてもよい(形成されてもよい)。
A2<ティース幅w/2<A1、
B2<ティース幅w/2<B1、
C2<ティース幅w/2<C1、および、
D1<ティース幅w/2<D2 ・・・(4)
この場合も、ねじれの向きTDは、Z軸まわりとなる。
【0063】
あるいは
図12に示されているような以下の各不等式(5)が成り立つように一対の側面部312S、312Sの寸法が決定されてもよい(形成されてもよい)。
A2<ティース幅w/2<A1、
B1<ティース幅w/2<B2、
C2<ティース幅w/2<C1、
D1<ティース幅w/2<D2 ・・・(5)
この場合、ねじれの向きTDは、X軸まわりとZ軸まわりの混合方向となる。
【0064】
上述したようにインシュレータ312の一対の側面部312S、312Sを寸法的に形成すると、上記傾斜角(θ)として形成したものと同様に、インシュレータ312は、一対の側面部312S、312Sのティース311へのねじれ付勢が生じる。換言すると、中心面311Cに対して、ねじれを持って片側に偏った寸法にすることで、ティース311に対して元に戻ろうとする逆向きの力を、一対の側面部312S、312Sから発生させる。これにより、より簡素な構造でティース311からのインシュレータ312の脱落を防止することができる。
【0065】
この脱落防止を行うための最低限の寸法条件は、例えば、
A2<ティース幅w/2<A1、
B1<ティース幅w/2<B2、
C2<ティース幅w/2<C1、および、
D1<ティース幅w/2<D2、の少なくとも一方の関係を満たすように、もしくは、上記の2つ以上の任意の組み合わせとなるように、一対の側面部312S、312Sが形成されればよい。
【0066】
また、インシュレータ幅312Wは、Z軸方向のいずれの高さにおいても挿入時に接触するティース幅311W(
図13参照)より大きくなるように形成されている。したがって、アセンブリ性(摺動しやすさ)も向上されている。
【0067】
図13~15は本発明の一実施形態に係るインシュレータ対を示す斜視図である。
図13は、インシュレータ対312,312が一片のティース311に挿入される前の状態を示している。
図14は、インシュレータ対312,312が一片のティース311に挿入された状態を示している。
図15は
図14の状態の後に、コイル313が巻回された状態を示している。
【0068】
図13~15に示されているように、インシュレータ対312,312は、一片のティース311のZ軸方向の一端部および他端部から、Z軸方向に摺動してアセンブリされる(挿入される)。このとき、カバー部312Cおよび両側面部312Sのテーパ部312Stは、ティース311の周壁部311Aの内径側および突出部311B先端の拡幅部311Btの外径側にそれぞれ係合し、ティース311に対するインシュレータの組み付けをガイドする機能を果たす。
【0069】
インシュレータ312の一対の側面部312S、312Sは、ティース311の平行な二側面311S,311Sと平行になるように、ティース311の周壁部311Aに係合するカバー部312Cに対して弾性変形する。そして、これらの二側面311S,311Sに対して、一対の側面部312S、312Sから、前述したねじれの向きの付勢力が加わる。
【0070】
この付勢力により、コイル313の巻回時や、ステータ31のバスバーユニット40またはケーシング10への取付時などに、インシュレータ312がティース311から脱落または落下するのを防止することができる。アセンブリ後において、インシュレータ対312,312は、Z軸方向に相互に接触していてもよいし、所定の間隙を介して対向していてもよい。
【0071】
また、インシュレータ312は、それ自体のねじれの向きTDに沿って挿入される。この挿入方法により、インシュレータ312は、より簡単にティース311に挿入されることができる。さらに、Z軸方向のいずれの箇所においてもインシュレータ幅312Wはティース幅311Wより大きいので、インシュレータ312は、より簡単にティース311に摺動(アセンブリ)されることができる。
【0072】
コイル313の巻回が完了するまで、インシュレータ312がティース311から脱落しにくくなるので、コイル巻回の作業性も向上する。
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0073】
また以上の実施形態では、電子機器として、車両の電動パワーステアリング装置に用いられる回転電機100を例に挙げて説明したが、他の用途の回転電機(モータ)にも適用可能である。さらに、本発明に係る電子機器は、モータだけでなく、発電機等の他の回転電機にも適用可能であり、加えて、回転電機以外の他の電子機器にも適用可能である。
【0074】
さらに、開口部分312Vの幅A~Dとティース幅wとの関係を示した上記各不等式(1)~(5)における等号あるいは不等号の向きは、それぞれ逆向きになるようなねじれ関係であってもよい。また、実施形態のようにインシュレータの側面部とティースとの間は直線的なねじれに限られず、曲線的なねじれであってもよい。例えば、インシュレータの側面部は、上記ねじれの関係を満たすような円弧状に形成されてもよい。
【0075】
さらに、開口部分312Vの幅A~Dを開口部分312VのZ軸方向あるいはX軸方向の両端近傍の幅としたが、これに限られず、開口部分312VのZ軸方向あるいはX軸方向の両端部の幅(つまり、A=C)としてもよい。この場合、B1およびB2が開口部分312Vの開口端の幅に相当し、A1(=C1)およびA2(=C2)が上記開口端とは逆側のインシュレータ外径側の端部の幅に相当し、D1およびD2が上記開口端とは逆側のインシュレータ内径側の端部の幅に相当することになる(
図7(a),(b)参照)。
【符号の説明】
【0076】
10…ケーシング
11…開口部
20…部品実装体
21…部品実装基板
23…ヒートシンク(蓋部)
30…モータ
31…ステータ(固定子)
32…ロータ(回転子)
40…バスバーユニット
50…保持部材(対向部材)
100…回転電機(電子機器、電動機)
311…ティース
312…インシュレータ
312S…インシュレータの側面部
312B…インシュレータのベース部
312V…開口部分
313…コイル