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特許7218858画像解析装置、画像解析装置の作動方法、及び眼科装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】画像解析装置、画像解析装置の作動方法、及び眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/103 20060101AFI20230131BHJP
   A61B 3/107 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
A61B3/103
A61B3/107
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018221345
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2020081450
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】三橋 俊文
(72)【発明者】
【氏名】多々良 陽子
(72)【発明者】
【氏名】森嶋 俊一
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-204784(JP,A)
【文献】特開2007-215956(JP,A)
【文献】特表2016-502425(JP,A)
【文献】特開2010-082252(JP,A)
【文献】特開2017-136216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に投影された測定用パターンの反射光の撮像画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部により取得された前記撮像画像内から前記反射光に基づくリング像を検出するリング像検出部と、
前記リング像検出部により検出された前記リング像に基づき、前記リング像の歪みを発生させる前記被検眼の特定の高次収差を検出する高次収差検出部と、
前記高次収差検出部の検出結果に基づき、前記被検眼の状態を判定する状態判定部と、
を備え
前記画像取得部が、前記撮像画像として、前記被検眼の眼底に投影された眼屈折力の測定用パターンの眼底反射光の第1撮像画像と、前記被検眼の角膜に投影された角膜形状の測定用パターンの角膜反射光の第2撮像画像とを取得し、
前記リング像検出部が、前記撮像画像の種類ごとに前記リング像を検出し、
前記高次収差検出部が、前記撮像画像の種類ごとに前記被検眼の特定の高次収差を検出し、
前記状態判定部が、前記撮像画像の種類ごとに前記被検眼の状態を判定する画像解析装置。
【請求項2】
被検眼に投影された測定用パターンの反射光の撮像画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部により取得された前記撮像画像内から前記反射光に基づくリング像を検出するリング像検出部と、
前記リング像検出部により検出された前記リング像に基づき、前記リング像の歪みを発生させる前記被検眼の特定の高次収差を検出する高次収差検出部と、
前記高次収差検出部の検出結果に基づき、前記被検眼の状態を判定する状態判定部と、
を備え、
前記画像取得部が、前記撮像画像として、前記被検眼の眼底に投影された眼屈折力の測定用パターンの眼底反射光の第1撮像画像と、前記被検眼の角膜に投影された角膜形状の測定用パターンの角膜反射光の第2撮像画像とを取得し、
前記リング像検出部が、前記撮像画像の種類ごとに前記リング像を検出し、
前記高次収差検出部が、前記撮像画像の種類ごとに前記被検眼の特定の高次収差を検出し、
前記状態判定部が、前記撮像画像の種類ごとの前記高次収差検出部の検出結果に基づき、前記被検眼の状態を判定する画像解析装置。
【請求項3】
前記高次収差検出部が、
前記リング像検出部により検出された前記リング像に対して楕円をフィッティングする楕円近似部と、
前記楕円近似部によりフィッティングされた前記楕円と、前記リング像検出部により検出された前記リング像と、の残差を演算する残差演算部と、
前記残差演算部が演算した前記残差に基づき、前記被検眼の特定の高次収差を演算する収差解析部と、
を備える請求項1又は2に記載の画像解析装置。
【請求項4】
前記収差解析部が、前記残差をゼルニケ多項式の微分にフィットさせることにより、前記被検眼の特定の高次収差の演算結果として前記ゼルニケ多項式のゼルニケ係数を演算する請求項に記載の画像解析装置。
【請求項5】
被検眼に測定用パターンを投影する投影光学系と、
前記被検眼に投影された前記測定用パターンの反射光に基づくリング像を出力する測定光学系と、
請求項1からのいずれか1項に記載の画像解析装置と、
を備える眼科装置。
【請求項6】
被検眼に投影された測定用パターンの反射光の撮像画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部が取得した前記撮像画像を解析する解析部と、を備える画像解析装置の作動方法において、
前記画像取得部が、前記撮像画像を取得する画像取得工程と、
前記解析部が、前記画像取得工程で取得された前記撮像画像内から前記反射光に基づくリング像を検出するリング像検出工程と、
前記解析部が、前記リング像検出工程で検出た前記リング像に基づき、前記リング像の歪みを発生させる前記被検眼の特定の高次収差を検出する高次収差検出工程と、
前記解析部が、前記高次収差検出工程の検出結果に基づき、前記被検眼の状態を判定する状態判定工程と、
を実行し、
前記画像取得部が、前記画像取得工程では、前記撮像画像として、前記被検眼の眼底に投影された眼屈折力の測定用パターンの眼底反射光の第1撮像画像と、前記被検眼の角膜に投影された角膜形状の測定用パターンの角膜反射光の第2撮像画像とを取得し、
前記解析部が、前記リング像検出工程では、前記撮像画像の種類ごとに前記リング像を検出し、
前記解析部が、前記高次収差検出工程では、前記撮像画像の種類ごとに前記被検眼の特定の高次収差を検出し、
前記解析部が、前記状態判定工程では、前記撮像画像の種類ごとに前記被検眼の状態を判定する画像解析装置の作動方法
【請求項7】
被検眼に投影された測定用パターンの反射光の撮像画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部が取得した前記撮像画像を解析する解析部と、を備える画像解析装置の作動方法において、
前記画像取得部が、前記撮像画像を取得する画像取得工程と、
前記解析部が、前記画像取得工程で取得された前記撮像画像内から前記反射光に基づくリング像を検出するリング像検出工程と、
前記解析部が、前記リング像検出工程で検出した前記リング像に基づき、前記リング像の歪みを発生させる前記被検眼の特定の高次収差を検出する高次収差検出工程と、
前記解析部が、前記高次収差検出工程の検出結果に基づき、前記被検眼の状態を判定する状態判定工程と、
を実行し、
前記画像取得部が、前記画像取得工程では、前記撮像画像として、前記被検眼の眼底に投影された眼屈折力の測定用パターンの眼底反射光の第1撮像画像と、前記被検眼の角膜に投影された角膜形状の測定用パターンの角膜反射光の第2撮像画像とを取得し、
前記解析部が、前記リング像検出工程では、前記撮像画像の種類ごとに前記リング像を検出し、
前記解析部が、前記高次収差検出工程では、前記撮像画像の種類ごとに前記被検眼の特定の高次収差を検出し、
前記解析部が、前記状態判定工程では、前記撮像画像の種類ごとの前記高次収差検出工程の検出結果に基づき、前記被検眼の状態を判定する画像解析装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の眼底に投影された測定用パターンの反射光の撮像画像を解析する画像解析装置及び画像解析方法と、この画像解析装置を備える眼科装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科では、複数種類の眼科装置を用いて、被検眼の眼特性(例えば眼屈折力及び角膜形状等)の測定を行ったり、或いは被検眼の疾患[例えば白内障及び円錐角膜(不正乱視)等]の検査を行ったりする。例えば、被検眼の眼屈折力及び角膜形状の測定には、オートレフケラトメータ(レフラクトメータ及びケラトメータ)が用いられる(特許文献1参照)。
【0003】
また、被検眼の白内障の検査には、例えば、被検眼の網膜のかなり小さい領域(ほぼ点光源とみなせる)にて反射された反射光の波面収差及び散乱を測定する特殊な眼科装置等が用いられる(特許文献2参照)。さらに、被検眼の円錐角膜の検査には、例えば円錐角膜の形状を定量的に評価可能な特殊なケラトメータが用いられる(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-63979号公報
【文献】特開2006-280476号公報
【文献】特開2007-215956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、眼科において、被検眼の各種疾患(白内障及び円錐角膜等)の検査を行う場合には、特許文献2及び3に記載されているような特殊な眼科装置を用いる必要がある。このため、眼科装置の導入費用が掛かると共に眼科装置の設置スペースの確保という問題が生じる。従って、特許文献1に記載のオートレフケラトメータのように、被検眼に測定用パターンを投影すると共にこの測定用パターンの反射光の撮像画像を取得して被検眼の眼特性を測定する既存の眼科装置、例えば眼鏡及びコンタクトレンズ等の処方で広く使われている既存の眼科装置を利用した被検眼の疾患の検査の実現が強く要望されている。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、既存の眼科装置を利用した被検眼の疾患の検査を可能とする画像解析装置及び画像解析方法と、この画像解析装置を備える眼科装置と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するための画像解析装置は、被検眼に投影された測定用パターンの反射光の撮像画像を取得する画像取得部と、画像取得部により取得された撮像画像内から反射光に基づくリング像を検出するリング像検出部と、リング像検出部により検出されたリング像に基づき、リング像の歪みを発生させる被検眼の特定の高次収差を検出する高次収差検出部と、を備える。
【0008】
この画像解析装置によれば、リング像の歪みを発生させる被検眼の特定の高次収差を検出することで、被検眼の疾患の有無及び疾患の種類を判定(推定)することができる。
【0009】
本発明の他の態様に係る画像解析装置において、高次収差検出部が、リング像検出部により検出されたリング像に対して楕円をフィッティングする楕円近似部と、楕円近似部によりフィッティングされた楕円と、リング像検出部により検出されたリング像と、の残差を演算する残差演算部と、残差演算部が演算した残差に基づき、被検眼の特定の高次収差を演算する収差解析部と、を備える。これにより、被検眼の特定の高次収差を検出することができる。
【0010】
本発明の他の態様に係る画像解析装置において、収差解析部が、残差をゼルニケ多項式の微分にフィットさせることにより、被検眼の特定の高次収差の演算結果としてゼルニケ多項式のゼルニケ係数を演算する。これにより、被検眼の特定の高次収差を検出することができる。また、リングが一本であることから、リング上の角度をパラメータとした、楕円フィットからの残差を単にフーリエ変換し、3次及び4次の係数の評価をしても良い。
【0011】
本発明の他の態様に係る画像解析装置において、高次収差検出部の検出結果に基づき、被検眼の状態を判定する状態判定部を備える。これにより、被検眼の疾患の有無及び疾患の種類を判定することができる。
【0012】
本発明の他の態様に係る画像解析装置において、画像取得部が、撮像画像として、被検眼の眼底に投影された眼屈折力の測定用パターンの眼底反射光の第1撮像画像と、被検眼の角膜に投影された角膜形状の測定用パターンの角膜反射光の第2撮像画像とを取得し、リング像検出部が、撮像画像の種類ごとにリング像を検出し、高次収差検出部が、撮像画像の種類ごとに被検眼の特定の高次収差を検出し、状態判定部が、撮像画像の種類ごとに被検眼の状態を判定する。これにより、被検眼の疾患の有無及び疾患の種類を判定することができる。
【0013】
本発明の他の態様に係る画像解析装置において、画像取得部が、撮像画像として、被検眼の眼底に投影された眼屈折力の測定用パターンの眼底反射光の第1撮像画像と、被検眼の角膜に投影された角膜形状の測定用パターンの角膜反射光の第2撮像画像とを取得し、リング像検出部が、撮像画像の種類ごとにリング像を検出し、高次収差検出部が、撮像画像の種類ごとに被検眼の特定の高次収差を検出し、状態判定部が、撮像画像の種類ごとの高次収差検出部の検出結果に基づき、被検眼の状態を判定する。これにより、被検眼の疾患の有無及び疾患の種類を判定することができる。
【0014】
本発明の目的を達成するための眼科装置は、被検眼に測定用パターンを投影する投影光学系と、被検眼に投影された測定用パターンの反射光に基づくリング像を出力する測定光学系と、上述の画像解析装置と、を備える。
【0015】
本発明の目的を達成するための画像解析方法は、被検眼に投影された測定用パターンの反射光の撮像画像を取得する画像取得ステップと、画像取得ステップで取得された撮像画像内から反射光に基づくリング像を検出するリング像検出ステップと、リング像検出ステップで検出されたリング像に基づき、リング像の歪みを発生させる被検眼の特定の高次収差を検出する高次収差検出ステップと、を有する画像解析方法。
【0016】
本発明の他の態様に係る画像解析方法において、高次収差検出ステップの検出結果に基づき、被検眼の状態を判定する状態判定ステップを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、既存の眼科装置を利用した被検眼の疾患の検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】眼科装置の概略図である。
図2】光学系及び制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】画像解析回路の機能ブロック図である。
図4】被検眼の収差とレフリング像の形状との関係を説明するための説明図である。
図5】被検眼に高次収差がある場合のリング像の形状をゼルニケ多項式で表した図である。
図6】楕円近似部による楕円近似を説明するための説明図である。
図7】残差演算部による残差演算を説明するための説明図である。
図8】残差について説明するための説明図である。
図9】判定用テーブルの一例を説明するための説明図である。
図10】眼科装置による被検眼の状態の評価処理の流れを示すフローチャートである。
図11】測定用パターン投影光学系及び測定光学系の変形例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[眼科装置]
図1は、本発明の眼科装置10の概略図である。図1に示すように、眼科装置10は、被検眼Eの眼特性として眼屈折力及び角膜形状を測定するオートレフケラトメータである。この眼科装置10は、被検眼Eの眼屈折力及び角膜形状の他に、被検眼Eの状態を判定(推定)、具体的には被検眼Eの白内障及び円錐角膜等の疾患を検査する機能を有する。眼科装置10は、ベース12と、顔受け部13と、架台14と、測定ヘッド15と、を備える。
【0020】
なお、図中のX軸方向は被検者を基準とした左右方向(被検眼Eの眼幅方向)であり、Y軸方向は上下方向であり、Z軸方向は被検者(被検眼E)に近づく前方向と被検者から遠ざかる後方向とに平行な前後方向(作動距離方向ともいう)である。
【0021】
顔受け部13は、測定ヘッド15のZ軸方向の前方向側の位置において、ベース12と一体に設けられている。この顔受け部13は、Y軸方向に位置調整可能な顎受け13a及び額当て13bを有しており、眼科装置10による測定時(検査時)に被検者の顔を支持する。
【0022】
架台14は、ベース12上に設けられており、ベース12に対してXZ軸の各方向(前後左右方向)に移動可能である。この架台14上には、測定ヘッド15及び操作レバー16が設けられている。
【0023】
操作レバー16は、架台14上で且つ測定ヘッド15のZ軸方向の後方向側(オペレータ側)の位置に設けられており、測定ヘッド15をXYZ軸の各方向に移動させる際に操作される操作部材である。例えば、操作レバー16がZ軸方向(前後方向)又はX軸方向(左右方向)に傾倒操作されると、不図示の電動駆動機構により測定ヘッド15がZ軸方向又はX軸方向に移動される。また、操作レバー16がその長手軸周りに回転操作されると、その回転操作方向に応じて不図示の昇降機構により測定ヘッド15がY軸方向(上下方向)に移動される。なお、操作レバー16の頂部には、眼科装置10による被検眼Eの測定を開始させるための測定ボタンが設けられている。
【0024】
測定ヘッド15は、被検眼Eの眼屈折力及び角膜形状の測定機能を有している。この眼屈折力及び角膜形状の測定機能は、詳しくは後述するが被検眼Eの白内障及び円錐角膜等の検査にも利用される。測定ヘッド15のZ軸方向後方側の面にはモニタ17が設けられている。また、測定ヘッド15内には、眼屈折力及び角膜形状の測定に対応した光学系18(撮像素子、各種光源、及び各種駆動部を含む)と、制御装置20と、が設けられている。
【0025】
モニタ17は、例えばタッチパネル式の液晶表示装置である。このモニタ17は、例えば、測定ヘッド15のアライメント等に利用される被検眼Eの前眼部の観察像と、測定ヘッド15により得られた被検眼Eの眼屈折力及び角膜形状の測定結果と、後述の被検眼Eの状態の判定結果(疾患の有無等)と、測定に係る操作(設定)を行うための入力画面と、を表示する。
【0026】
図2は、光学系18及び制御装置20の概略構成を示すブロック図である。図2に示すように、光学系18は、固視標投影光学系22と、ケラト系23と、観察光学系24と、アライメント光学系26と、測定用パターン投影光学系28と、測定光学系30と、を備える。なお、オートレフケラトメータの各光学系の詳細構成については公知技術(上記特許文献1参照)であるので、ここでは具体的な説明を省略する。
【0027】
固視標投影光学系22は、被検眼Eを固視又は雲霧させるために、被検眼Eの眼底に固視標の視標光を投影する。
【0028】
ケラト系23は、本発明の投影光学系に相当するものであり、被検眼Eの角膜に対してその角膜形状の測定用パターンを投影する。この角膜形状の測定用パターンとしては、例えば、1重又は多重のリング状光束が用いられるが、本実施形態では説明の煩雑化を防止するために1重のリング状光束を用いるものとする。ケラト系23から被検眼Eの角膜に対して角膜形状の測定用パターンが投影されると、この測定用パターンの角膜反射光(戻り光ともいう)が、前眼部の観察像(前眼部像)と共に観察光学系24で受光される。
【0029】
観察光学系24は、被検眼Eの前眼部の観察するためのものであり、前眼部を撮像素子等で撮影して得られた観察像の画像データを制御装置20に出力する。これにより、制御装置20によってモニタ17に前眼部の観察像が表示される。
【0030】
また、観察光学系24は、被検眼Eの角膜形状の測定時には、被検眼Eの角膜にて反射された角膜形状の測定用パターンの角膜反射光を撮像素子で撮像(受光)して、この角膜反射光の撮像画像32B(本発明の第2撮像画像に相当)の画像データを得る。この撮像画像32Bには、角膜反射光に基づくリング像であるケラトリング像34Bが含まれている。撮像画像32Bの画像データは、観察光学系24から制御装置20へ出力される。
【0031】
測定用パターン投影光学系28は、本発明の投影光学系に相当するものであり、被検眼Eの眼底に対して被検眼Eの眼屈折力の測定用のパターンを投影する。この眼屈折力の測定用のパターンとしては、リング状の光束が用いられる。なお、リング状の光束の代わりに、点状の光束を用いてもよく、眼屈折力の測定用のパターンの形状は特に限定されない。測定用パターン投影光学系28から被検眼Eの眼底に対して測定用パターンが投影されると、この測定用パターンの眼底反射光(戻り光ともいう)が、測定光学系30で受光される。眼底反射光は、被検眼Eの眼屈折力によりその形状が歪められる。被検眼Eが白内障眼である場合にはその程度に応じて、測定用パターンの投影時、及び眼底反射光の検出時に、水晶体での散乱の影響を受けた像が観察される。
【0032】
測定光学系30は、被検眼Eの眼屈折力の測定時には、被検眼Eの眼底にて反射された眼屈折力の測定用パターンの眼底反射光を撮像素子で撮像(受光)して、この眼底反射光の撮像画像32A(本発明の第1撮像画像に相当)の画像データを得る。この撮像画像32Aには、眼底反射光に基づくリング像であるレフリング像34Aが含まれている。撮像画像32Aの画像データは、測定光学系30から制御装置20へ出力される。
【0033】
なお、測定光学系30による撮像画像32Aの撮像と観察光学系24による撮像画像32Bの撮像とは、双方の光学系で途中から光路を共用することで、同じ撮像素子にて行うことも可能である。その場合は、レフリング像34Aとケラトリング像34Bとは別光路で同時に取得することが可能だったものに対し、光路の切替等により連続的に取得が可能である。
【0034】
制御装置20は、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路である。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processing unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、制御装置20の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0035】
制御装置20には、操作レバー16と、モニタ17と、既述の光学系18の各部と、記憶部40と、が接続されている。この制御装置20は、上述の演算回路によって実現、或いは演算回路がソフトウェア等を実行することにより実現される統括制御回路36と画像解析回路38とを含む。
【0036】
記憶部40には、制御装置20の動作用のプログラム42と、被検眼Eの眼屈折力及び角膜形状の測定データと、被検眼Eの状態(疾患の有無)の判定結果と、を含む各種情報が記憶される。また、記憶部40には、後述の状態判定部52(図3参照)による判定に用いられる判定用テーブル43が設けられている。なお、記憶部40は、眼科装置10の外部(例えばインターネット上のサーバ)に設けられていてもよい。
【0037】
統括制御回路36は、記憶部40に予め記憶されたプログラム42を実行することにより、光学系18を含む眼科装置10の各部の動作(例えば、前眼部の観察像の取得と表示、自動アライメント、及び撮像画像32A,32Bの取得等)を統括制御する。
【0038】
画像解析回路38は、本発明の画像解析装置に相当するものである。画像解析回路38は、記憶部40内のプログラム42を実行することにより、撮像画像32A(レフリング像34A)を解析して被検眼Eの眼屈折力を演算すると共に、撮像画像32B(ケラトリング像34B)を解析して被検眼Eの角膜形状を演算する。
【0039】
また、画像解析回路38は、撮像画像32A,32B(レフリング像34A及びケラトリング像34B)を解析して、被検眼Eの波面収差のうちでレフリング像34A及びケラトリング像34Bの歪みを発生させる特定の高次収差を検出する。そして、画像解析回路38は、特定の高次収差の検出結果に基づき、被検眼Eの疾患の有無及びその種類(白内障及び円錐角膜等)などを含む被検眼Eの状態を判定(推定)する。
【0040】
ここで被検眼Eの波面収差(低次収差及び高次収差)とは、一般に実際の波面の任意の位置における、その対応する参照波面からの任意のずれである。また、参照波面とは、収差の無い像を形成する実際の波面に最も近い球面状の波面をいう。これらの収差の古典的な表現としては、焦点ボケ、乱視、コマ、及び球面収差がある。また、こうした波面収差を数学的な記述子で表わすこともできる。こうした記述子の例としては、テイラー展開多項式、ゼルニケ(Zernike)多項式、及び球面調和関数の一部を利用等が挙げられる。また、スプライン関数等の局所的な近似関数も利用可能である。なお、本実施形態ではゼルニケ多項式を用いる。また、実際の例ではフーリエ変換も用いられる。そして、高次収差とは、3次以上の収差である。高次収差には、例えば、コマ収差、球面収差、及びトレフォイル(trefoil)、テトラフォイル(tetrafoil)等がある。
【0041】
[画像解析回路の構成]
図3は、画像解析回路38の機能ブロック図である。図3に示すように、画像解析回路38は、既述のプログラム42を実行することにより、画像取得部46、リング像検出部48、高次収差検出部50、状態判定部52、及び眼特性演算部54として機能する。なお、本実施形態において「~部」として説明するものは「~回路」、「~装置」、又は「~機器」であってもよい。すなわち、「~部」として説明するものは、ファームウェア、ソフトウェア、及びハードウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで構成されていてもよい。
【0042】
画像取得部46は、測定光学系30に有線接続又は無線接続された画像入力インターフェースである。この画像取得部46は、測定光学系30から撮像画像32Aの画像データを取得し且つ観察光学系24から撮像画像32Bの画像データを取得し、これら画像データをリング像検出部48へ出力する。
【0043】
リング像検出部48は、撮像画像32A,32Bの画像データを解析して、撮像画像32Aからレフリング像34Aを検出すると共に、撮像画像32Bからケラトリング像34Bを検出する。なお、レフリング像34A及びケラトリング像34Bの検出には、例えば公知のエッジ検出処理が用いられるが、その方法は特に限定はされない。
【0044】
高次収差検出部50は、レフリング像34A及びケラトリング像34Bをそれぞれ解析して、被検眼Eの特定の高次収差により発生するレフリング像34A及びケラトリング像34Bの歪みに基づき、この歪みを発生させる被検眼Eの特定の高次収差を検出する。以下、レフリング像34Aを例に挙げて、被検眼Eの疾患と、被検眼Eの高次収差に伴うレフリング像34Aの歪みとの関係について説明を行う。
【0045】
図4は、被検眼Eの収差(低次収差及び高次収差)とレフリング像34Aの形状との関係を説明するための説明図である。図4において、符号「Ea」は被検眼Eの瞳孔であり、符号「Ef」は被検眼Eの眼底(網膜)であり、矢印「L」は眼底反射光の光束を示し、符号「OP」は測定ヘッド15の対物レンズ(不図示)の光軸であり、符号「f」は被検眼Eの瞳孔から眼底までの長さである。
【0046】
図4に示すように、仮に被検眼Eが無収差であると仮定した場合、被検眼Eの瞳孔に対してある角度で入射した眼底反射光(レフリング像34A)は、その角度を維持した状態で被検眼Eの眼底に入射して眼底上にレフリング像34Aを形成する。この場合、瞳孔上のレフリング像34Aは以下の[数1]式で表され、眼底上のレフリング像34Aは以下の[数2]式で表される。
【0047】
なお、[数1]式において、「(X,Y)」は瞳孔上のレフリング像34Aの任意の点であり、「R」は瞳孔上のレフリング像34Aの半径であり、「θ」は瞳孔上のレフリング像34Aの任意の基準軸(X軸又はY軸)と任意の線分[点(X,Y)と原点を結ぶ線分]とがなす角度である。また、[数2]式において、「(x,y)」は眼底上のレフリング像34Aの任意の点であり、「r」は眼底上のレフリング像34Aの半径であり、「θ」は眼底上のレフリング像34Aの任意の基準軸と任意の線分[点(x,y)と原点を結ぶ線分]とがなす角度である。
【0048】
【数1】
【0049】
【数2】
【0050】
ここで、被検眼Eには収差があるため、眼底上のレフリング像34A上の各点の位置は、これら各点にそれぞれ対応する瞳孔上の各点の収差の影響を受ける。このため、眼底上のレフリング像34A上の各点の位置は、被検眼Eが無収差であると仮定した場合の各点の位置からずれる。この場合の眼底上のレフリング像34A上の各点の位置ずれ(Δx、Δy)は、被検眼Eの波面収差をW(X,Y)とした場合に、下記の[数3]式で表される。従って、被検眼Eの収差を考慮した場合の眼底上のレフリング像34Aは、その各点の位置を[x(θ)、y(θ)]とした場合に、下記の[数4]式で表される。
【0051】
【数3】
【0052】
【数4】
【0053】
このように眼底上のレフリング像34A(撮像画像32Aから検出されたレフリング像34A)には、被検眼Eの収差の種類に応じた歪みが発生する。
【0054】
図5は、被検眼Eに高次収差がある場合のリング像(レフリング像34A)の形状(歪み)をゼルニケ多項式で表した図である。図中のZ(n,m)[n:次数、m:回転方向の波の数]は、公知のゼルニケモードの種類を示す。図5の符号5Aは水平トレフォイル収差[Z(3,3)]がある場合の図であり、図5の符号5Bは鉛直トレフォイル収差[Z(3,-3)]がある場合の図であり、図5の符号5Cは鉛直/水平テトラフォイル収差[Z(4,4)]がある場合の図である。
【0055】
図5に示すように、被検眼Eに次数が大きい収差、すなわち高次収差がある場合のリング像には歪みが発生して完全な楕円形状にはならない。そして、本発明者らは、例えば被検眼Eが円錐角膜である場合には水平トレフォイル収差[Z(3,3)]の影響によるリング像の歪みが大きくなり、被検眼Eが白内障である場合には鉛直/水平テトラフォイル収差[Z(4,4)]の影響によるリング像の歪みが大きくなるなど、リング像の歪み形状(被検眼Eの高次収差の種類)と被検眼Eの疾患との間に相関があることを見出した。
【0056】
また、本発明者らは、ケラトリング像34Bについても同様に、その歪み形状(被検眼Eの高次収差の種類)との間に相関があることを見出した。
【0057】
そこで本実施形態では、高次収差検出部50によって、レフリング像34A及びケラトリング像34Bを解析して、レフリング像34A及びケラトリング像34Bの歪みからこの歪みを発生させる被検眼Eの特定の高次収差を検出する。
【0058】
図3に戻って、高次収差検出部50は、楕円近似部50aと残差演算部50bと収差解析部50cとして機能する。
【0059】
図6は、楕円近似部50aによる楕円近似を説明するための説明図である。なお、図6中のレフリング像34A、ケラトリング像34B、及び楕円60A,60B(近似楕円ともいう)はそれぞれイメージ図であり、実際の像とは異なる場合がある(後述の図7も同様)。
【0060】
図6に示すように、楕円近似部50aは、リング像検出部48が撮像画像32Aからレフリング像34Aを検出した場合、このレフリング像34Aに対して楕円60Aを近似する。また、楕円近似部50aは、リング像検出部48が撮像画像32Bからケラトリング像34Bを検出した場合、このケラトリング像34Bに対して楕円60Bを近似する。なお、レフリング像34A及びケラトリング像34Bのようなリング像に対する楕円60A,60Bのフィッティング方法については公知技術であるので、ここでは具体的な説明は省略する。
【0061】
図7は、残差演算部50bによる残差演算を説明するための説明図である。図7に示すように、残差演算部50bは、楕円近似部50aがレフリング像34Aに対して楕円60Aを設定した場合、この楕円60Aとレフリング像34Aとの残差62Aを演算する。また、残差演算部50bは、楕円近似部50aがケラトリング像34Bに対して楕円60Bを設定した場合、この楕円60Bとケラトリング像34Bとの残差62Bを演算する。
【0062】
図8は、残差62A,62Bについて説明するための説明図である。図8に示すように、被検眼Eの収差(高次収差)の中で3次及び4次(n=3,4)の収差を例に挙げると、レフリング像34Aに対する残差62Aを演算することにより、被検眼Eの収差から楕円に相当するZ(4,-2)及びZ(4,2)[すなわちZ(n,2)]の収差成分が除去される。また、Z(3,-1)、Z(3,1)、及びZ(4,0)については、レフリング像34Aの位置に影響する収差成分であり、レフリング像34Aの形状(歪み)には現れない。このため、残差62Aは、レフリング像34Aの歪みを発生させる特定の高次収差を含むものである。なお、特定の高次収差には、既述のZ(3,3)及びZ(4,4)のような被検眼Eの疾患により大きくなる高次収差が含まれている。
【0063】
また、同様の理由により、ケラトリング像34Bに対する残差62Bについても、ケラトリング像34Bの歪みを発生させる特定の高次収差を含む。
【0064】
図3に戻って、収差解析部50cは、残差演算部50bによる残差62A,62Bの演算結果に基づき、残差62A,62Bの各ゼルニケモード[Z(n,m)]のゼルニケ係数を判別(演算)する方法を用いて、被検眼Eの特定の高次収差を演算する。
【0065】
具体的に収差解析部50cは、上記[数3]式を用いて残差62A,62Bをゼルニケ多項式の微分にフィットすることで、ゼルニケ多項式のゼルニケ係数を演算する。ここで、上記[数3]式において、「Δx」は残差62A,62Bのx成分であり、「Δy」は残差62A,62Bのy成分であり、「f」は製品上既知である。その結果、波面収差Wの微分を解くことできるので、波面収差Wを以下の[数5]式で示すようにゼルニケ多項式として表記することができる。なお、下記[数5]式においてC1、C2、C3、…はゼルニケ係数である。
【0066】
【数5】
【0067】
上記[数5]式に示すように、波面収差Wの微分を解くことにより、ゼルニケ多項式の各項のゼルニケ係数が求められる。これにより、ゼルニケ多項式の各項のゼルニケ係数の大きさを判定することができるので、各項中でどのゼルニケ係数が大きいのかを判定することができる。その結果、残差62A,62Bのゼルニケモードの中でどのゼルニケモードのゼルニケ係数が大きくなるのかを判定することができる。すなわち、例えばZ(3,3)及びZ(4,4)等の被検眼Eの疾患に対応する特徴的なゼルニケモードのゼルニケ係数が大きくなるか否かを判定することができる。
【0068】
高次収差検出部50は、被検眼Eの特定の高次収差の検出結果として、既述の収差解析部50cによる演算結果、すなわち残差62A,62Bの各ゼルニケモードのゼルニケ係数の演算結果を状態判定部52へ出力する。また、高次収差検出部50は、既述の残差演算部50bによる残差62A,62Bの演算結果を状態判定部52へ出力する。
【0069】
状態判定部52は、高次収差検出部50の検出結果に基づき、被検眼Eの状態、例えば疾患の有無及び疾患の種類を判定(推定)する。なお、本実施形態の状態判定部52は、記憶部40内の判定用テーブル43(図2参照)を用いて被検眼Eの状態を判定する。
【0070】
図9は、判定用テーブル43の一例を説明するための説明図である。図9に示すように、判定用テーブル43は、個別判定用テーブル43Aと総合判定用テーブル43Bとを含む。
【0071】
個別判定用テーブル43Aは、状態判定部52がレフリング像34A及びケラトリング像34Bのリング像の種類ごと(撮像画像32A,32Bの種類ごと)、すなわち残差62A,62Bの種類ごとに被検眼Eの状態を個別に判定するための情報である。この個別判定用テーブル43Aには、Z(3,3)及びZ(4,4)等の被検眼Eの疾患に対応する特徴的なゼルニケモードのゼルニケ係数の大きさと、被検眼Eの疾患の種類とが関連付けられている。
【0072】
例えば、個別判定用テーブル43Aには、ゼルニケモード[Z(3,3)]のゼルニケ係数が予め定めた閾値よりも大きくなる場合には被検眼Eの疾患が円錐角膜であり、ゼルニケモード[Z(4,4)]のゼルニケ係数が予め定めた閾値よりも大きくなる場合には被検眼Eの疾患が白内障である旨の情報が登録されている。これにより、状態判定部52は、残差62A,62Bの少なくともいずれか一方に対応するゼルニケモード[Z(3,3)]のゼルニケ係数が閾値よりも大きくなる場合には被検眼Eが円錐角膜であると判定する。また、状態判定部52は、残差62A,62Bの少なくともいずれか一方に対応するゼルニケモード[Z(4,4)]のゼルニケ係数が閾値よりも大きくなる場合には被検眼Eが円錐角膜であると判定する。
【0073】
総合判定用テーブル43Bは、状態判定部52がリング像の種類ごと(撮像画像32A,32Bの種類ごと)の高次収差検出部50の各種検出結果に基づき、被検眼Eの状態を総合的に判定するための情報である。この総合判定用テーブル43Bは、概略判定情報43B1と症状判定情報43B2とを含む。
【0074】
概略判定情報43B1には、残差演算部50bにより演算された残差62A,62Bが予め定めた閾値より大きくなる場合には被検眼Eに何らかの異常(疾患)が生じている旨の情報が登録されている。これにより、状態判定部52は、残差62A,62Bの演算結果に基づき、被検眼Eの異常の有無を判定(推定)することができる。
【0075】
症状判定情報43B2には、リング像の種類ごと(残差62A,62Bの種類ごと)の各ゼルニケモードのゼルニケ係数と、被検眼Eの疾患の種類とが関連付けられている。
【0076】
例えば、症状判定情報43B2には、残差62A,62B(レフリング像34A及びケラトリング像34B)の双方における各ゼルニケモードのゼルニケ係数(特に奇数次)が予め定めた閾値よりも大きくなる場合には、被検眼Eが円錐角膜である旨の情報が登録されている。また、症状判定情報43B2には、残差62A(レフリング像34A)の各ゼルニケモードのゼルニケ係数が閾値以下となり、且つ残差62B(ケラトリング像34B)の各ゼルニケモードのゼルニケ係数が閾値よりも大きくなる場合には、被検眼Eの内部収差が大きいので被検眼Eが白内障である旨の情報が登録されている。これにより、状態判定部52は、残差62A,62Bの双方の各ゼルニケモードのゼルニケ係数に基づき、被検眼Eの疾患(円錐角膜及び白内障等)を総合的に判定することができる。
【0077】
状態判定部52は、個別判定用テーブル43Aを用いた被検眼Eの状態の個別判定の結果と、総合判定用テーブル43Bを用いた被検眼Eの状態の総合判定の結果と、をそれぞれモニタ17及び記憶部40等に出力する。これにより、状態判定部52による被検眼Eの状態の各種判定結果がモニタ17に表示されると共に記憶部40に記憶される。なお、状態判定部52による被検眼Eの状態の各種判定結果は、被検眼Eの2次検診にも用いられる。
【0078】
眼特性演算部54は、被検眼Eの眼屈折力の測定時において、リング像検出部48が撮像画像32Aから検出したレフリング像34Aに基づき、公知の手法で被検眼Eの眼屈折力を演算する。また、眼特性演算部54は、被検眼Eの角膜形状の測定時において、リング像検出部48が撮像画像32Bから検出したケラトリング像34Bに基づき、公知の手法で被検眼Eの角膜形状を演算する。これら被検眼Eの眼屈折力及び角膜形状等の眼特性の測定結果についても、眼特性演算部54からモニタ17及び記憶部40等に出力される。
【0079】
[眼科装置の作用]
図10は、上記構成の眼科装置10による本発明の画像解析方法を用いた被検眼Eの状態の評価処理の流れを示すフローチャートである。なお、被検眼Eに対する測定ヘッド15のアライメント、被検眼Eの固視又は雲霧、及び被検眼Eの眼特性の測定については公知技術であるため、ここでは説明を省略する。
【0080】
図10に示すように、測定用パターン投影光学系28による被検眼Eの眼底に対する眼屈折力の測定用パターンの投影と、測定光学系30による測定用パターンの眼底反射光の撮像とが実行されると、測定光学系30から画像解析回路38の画像取得部46に対して撮像画像32Aの画像データが出力される(ステップS1)。これにより、画像取得部46が撮像画像32Aの画像データを取得して、この画像データをリング像検出部48へ出力する(ステップS2、本発明の画像取得ステップに相当)。
【0081】
また、ケラト系23による被検眼Eの角膜に対する角膜形状の測定用パターンの投影と、観察光学系24による測定用パターンの角膜反射光の撮像とが実行されると、観察光学系24から画像取得部46に対して撮像画像32Bの画像データが出力される(ステップS3)。これにより、画像取得部46が撮像画像32Bの画像データを取得して、この画像データをリング像検出部48へ出力する(ステップS4、本発明の画像取得ステップに相当)。なお、撮像画像32Aの取得及び撮像画像32Bの取得はどちらを先に実行してもよい。
【0082】
リング像検出部48は、撮像画像32A,32Bをそれぞれ取得すると、撮像画像32Aからレフリング像34Aを検出すると共に、撮像画像32Bからケラトリング像34Bを検出する(ステップS5、本発明のリング像検出ステップに相当)。
【0083】
リング像検出部48によるレフリング像34A及びケラトリング像34Bの検出が完了すると、高次収差検出部50による被検眼Eの特定の高次収差の検出が開始される。これにより、既述の図6及び図7に示したように、楕円近似部50aによるレフリング像34Aに対する楕円60Aの近似及びケラトリング像34Bに対する楕円60Bの近似が実行された後(ステップS6)、残差演算部50bによる残差62A,62Bの演算が実行される(ステップS7)。
【0084】
次いで、収差解析部50cが、上記[数3]式を用いて残差62A,62Bをゼルニケ多項式の微分にフィットしてゼルニケ多項式のゼルニケ係数を演算することにより、残差62A,62Bの各ゼルニケモードのゼルニケ係数を演算する(ステップS8)。これにより、被検眼Eの特定の高次収差が検出される。従って、ステップS6からステップS8までが本発明の高次収差検出ステップに相当する。そして、高次収差検出部50は、残差62A,62Bごとの各ゼルニケモードのゼルニケ係数の判定結果と、残差62A,62Bの演算結果と、をそれぞれ状態判定部52へ出力する。
【0085】
状態判定部52は、高次収差検出部50による残差62A,62Bの種類ごとの検出結果に基づき、既述の図9に示した個別判定用テーブル43Aを参照して残差62A,62Bの種類ごとに被検眼Eの状態を個別に判定する(ステップS9)。また、状態判定部52は、高次収差検出部50による残差62A,62Bの種類ごとの検出結果に基づき、既述の図9に示した総合判定用テーブル43Bを参照して、被検眼Eの状態の総合的な判定(概略判定及び症状判定)を行う(ステップS10)。なお、ステップS9及びステップS10は本発明の状態判定ステップに相当する。
【0086】
そして、状態判定部52は、被検眼Eの状態の各種判定結果をそれぞれモニタ17及び記憶部40等に出力する。これにより、被検眼Eの状態の判定結果がモニタ17に表示されると共に記憶部40に記憶される。なお、被検眼Eに疾患が生じていると判定された場合には、他の検査装置等を用いた被検眼Eの2次検診が実行される。
【0087】
[本実施形態の効果]
以上のように本実施形態の眼科装置10は、レフリング像34A及びケラトリング像34Bを解析して被検眼Eの特定の高次収差を検出することで、被検眼Eの状態(疾患の有無及び種類)を判定することができる。これにより、オートレフケラトメータ等のような既存の眼科装置10を利用して被検眼Eの疾患を検査することができる。
【0088】
[その他]
上記実施形態では、レフリング像34A及びケラトリング像34Bの双方をそれぞれ解析した結果に基づき、被検眼Eの状態の個別判定及び総合判定の双方を実行しているが、レフリング像34A及びケラトリング像34Bのいずれか一方のみを解析して被検眼Eの状態の個別判定のみを実行してもよい。この場合、眼科装置10として公知のレフラクトメータ又はケラトメータ等を用いることができる。
【0089】
上記実施形態では、測定用パターン投影光学系28から被検眼Eの眼底に対してリング状の測定パターンを投影し、測定光学系30にて測定パターンの眼底反射光を撮像しているが、測定用パターン投影光学系28及び測定光学系30の構成については特に限定はされない。
【0090】
図11は、測定用パターン投影光学系28及び測定光学系30の変形例を示した概略図である。なお、図11では、測定用パターン投影光学系28及び測定光学系30の要部のみを示している。図11に示すように、測定用パターン投影光学系28は、不図示の照明光源から出射されたリング状の測定用パターンPの光束を、ハーフミラー100を通して被検眼Eの眼底に投影する。測定光学系30は、ハーフミラー100を介して測定用パターン投影光学系28(観察光学系24)から分岐した光路を形成している。この測定光学系30は、被検眼Eの眼底に投影された測定用パターンPの眼底反射光を撮像素子102により撮像してレフリング像34Aを含む撮像画像32Aを出力する。
【0091】
この際に、被検眼Eの眼底に血管が存在していると、その部位は眼底反射光の反射率が低くなる傾向がある。このため、ノイズ除去を目的として、測定用パターン投影光学系28に公知のロータリプリズム104(特開平10-014876号公報参照)を配置すると共に、このロータリプリズム104を回転させることにより、眼底反射光を均一化させてもよい。
【0092】
上記実施形態では、残差62A,62Bをゼルニケ多項式の微分にフィットしてゼルニケ多項式のゼルニケ係数を演算することにより被検眼Eの特定の高次収差を演算しているが、ゼルニケ多項式以外の公知の多項式又は関数を用いて、残差62A,62Bから被検眼Eの特定の高次収差を演算してもよい。また、レフリング像34A及びケラトリング像34Bを解析して被検眼Eの特定の高次収差を演算する方法は上記実施形態で説明した方法に限定されるものでなく、任意の解析方法を用いてもよい。
【0093】
上記実施形態では、状態判定部52が判定用テーブル43を参照して被検眼Eの状態の個別判定及び総合判定を行っているが、例えば判定用テーブル43を参照する代わりに、任意の演算式を用いたり、或いはディープラーニング法等を用いたりすることによって、被検眼Eの状態の各種判定を行ってもよい。
【0094】
上記実施形態では、レフリング像34A及びケラトリング像34Bの歪みを発生させる被検眼Eの特定の高次収差として、トレフォイル[Z(3,3)等]、テトラフォイル[Z(4,4)等]の収差を例に挙げて説明したが、本発明の特定の高次収差の種類はこれらに限定されるものではない。
【0095】
上記実施形態では、画像解析回路38に状態判定部52を設けているが、状態判定部52については別の装置に設けられていてもよい。すなわち、被検眼Eの特定の高次収差の検出までを画像解析回路38で行ってもよい。
【0096】
上記実施形態では、本発明の画像解析装置に相当する画像解析回路38が眼科装置10内に組み込まれているが、画像解析回路38が眼科装置10とは別体の演算装置(パーソナルコンピュータ及び携帯端末等)に組み込まれていてもよい。すなわち、演算装置のプロセッサ等を本発明の画像解析回路38として機能させてもよい。
【符号の説明】
【0097】
10…眼科装置,
18…光学系,
20…制御装置,
23…ケラト系,
28…測定用パターン投影光学系,
30…測定光学系,
32A,32B…撮像画像,
34A…レフリング像,
34B…ケラトリング像,
38…画像解析回路,
43…判定用テーブル,
46…画像取得部,
48…リング像検出部,
50…高次収差検出部,
50a…楕円近似部,
50b…残差演算部,
50c…収差解析部,
52…状態判定部,
54…眼特性演算部,
60A,60B…楕円,
62A,62B…残差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11