(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】ゴム状重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 6/22 20060101AFI20230131BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C08F6/22
C08F220/10
(21)【出願番号】P 2018222547
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】福西 智史
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-363372(JP,A)
【文献】特開昭60-124627(JP,A)
【文献】特開2006-104320(JP,A)
【文献】特開平08-073520(JP,A)
【文献】特表2013-543048(JP,A)
【文献】特開平06-025321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6-246
C08C1,3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸イソデシルとエチレングリコールジメタクリレートとの共重合体であるゴム状重合体を含有するラテックスに、
無機金属塩を含む水溶液を添加し、
スラリー状を維持しつつ前記ゴム状重合体を凝集させる第一凝集工程と、
sp値が11~15である有機溶媒を添加し、
スラリー状を維持しつつ前記ゴム状重合体を凝集させる第二凝集工程と
を有する、ゴム状重合体の製造方法。
【請求項2】
前記ゴム状重合体が、乳化重合により合成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載のゴム状重合体の製造方法。
【請求項3】
前記無機金属塩が3価の無機金属イオンを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のゴム状重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム状重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム状重合体を合成して得られたラテックスから、ゴム状重合体を回収するために凝集させることがある。その凝集方法としては、特許文献1の段落0048に記載のように、無機金属塩や、貧溶媒などの凝集剤を添加する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、ゴム状重合体の粒子径が小さい場合、無機金属塩の添加では凝集が不十分な場合がある。
【0004】
また、工業的にゴム状重合体を製造する場合、一般的には、重合反応を行った後、凝集槽において凝集を行い、凝集槽の下部に設けられた排出口から凝集した重合体の回収を行う。
【0005】
しかしながら、貧溶媒を添加する方法では、ゴム状重合体が塊状に凝固して流動性を失い、凝集槽の排出口から排出できないという問題が生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、工業的に製造する際の作業性に優れたゴム状重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴム状重合体の製造方法は、メタクリル酸イソデシルとエチレングリコールジメタクリレートとの共重合体であるゴム状重合体を含有するラテックスに、無機金属塩を含む水溶液を添加し、スラリー状を維持しつつ上記ゴム状重合体を凝集させる第一凝集工程と、sp値が11~15である有機溶媒を添加し、スラリー状を維持しつつ上記ゴム状重合体を凝集させる第二凝集工程とを有するものとする。
【0009】
上記ゴム状重合体は、乳化重合により合成されたものとすることができる。
【0010】
上記無機金属塩は3価の無機金属イオンを有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム状重合体の製造方法によれば、工業的に製造する際の作業性が大きく向上する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係るゴム状重合体の製造方法は、ゴム状重合体を含有するラテックスに、無機金属塩を含む水溶液を添加し、ゴム状重合体を凝集させる第一凝集工程と、sp値が11~15である有機溶媒を添加し、ゴム状重合体を凝集させる第二凝集工程とを有するものとする。
【0014】
無機金属塩としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、硫酸アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの金属塩が挙げられ、これらを2種以上併用するものであってもよい。これらの無機金属塩の中でも3価の無機金属イオンを有する無機金属塩であることが好ましい。
【0015】
無機金属塩を含む水溶液の濃度は、特に限定されないが、0.1~30質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0016】
無機金属塩の配合量としては、特に限定されないが、ゴム状重合体100質量部に対して、3~10質量部であることが好ましく、3~7質量部であることがより好ましい。
【0017】
無機金属塩の添加速度は、特に限定されないが、ゴム状重合体100質量部に対して、0.1~100質量部/minであることが好ましく、1~50質量部/minであることがより好ましい。
【0018】
sp値が11~15である有機溶媒としては、例えば、メタノール(sp値:14.5)、イソプロピルアルコール(sp値:11.5)、アセトニトリル(sp値:11.9)、エタノール(sp値:12.7)、ジメチルホルムアミド(sp値:12.0)、ジメチルスルホキシド(sp値:12.0)、エチレングリコール(sp値:14.2)などが挙げられる。sp値が上記範囲内である場合、スラリー状のゴム状重合体が得られやすい。
【0019】
ここで本明細書において、sp値(溶解パラメータ)とは、例えば、向井淳二、金城徳幸著「技術者のための実学高分子」(講談社、1981年10月1日発行)の71~77頁に記載のFedorsの式により算出される25℃における値δ[(cal/cm3)1/2]であり、1(cal/cm3)1/2=2.05(MJ/m3)1/2であり、そのため、SP値が10(cal/cm3)1/2以下とは20.5(MJ/m3)1/2以下であることを意味する。
Fedorsの式:
SP値(δ)=(Ev/v)1/2=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
Ev:蒸発エネルギー
v:モル体積
Δei:各成分の原子又は原子団の蒸発エネルギー
Δvi:各原子又は原子団のモル体積
【0020】
上記の式の計算に使用する各原子又は原子団の蒸発エネルギー、モル体積は、F. Fedors, Polym. Eng. Sci., 14, 147 〈1974〉を参照することができる。
【0021】
上記有機溶媒の配合量としては、特に限定されないが、ラテックス、無機金属塩を含有する水溶液、及び有機溶媒の混合液の液体成分中、10~60質量%であることが好ましく、15~50質量%であることがより好ましい。10質量%以上である場合、ゴム状重合体の凝集が起こりやすく、60質量%以下である場合、スラリー状のゴム状重合体が得られやすい。
【0022】
上記有機溶媒の添加速度は、特に限定されないが、ラテックスと、無機金属塩を含有する水溶液との混合液の液体成分100質量部に対して、0.1~100質量部/minであることが好ましく、1~50質量部/minであることがより好ましい。
【0023】
本実施形態のように、ゴム状重合体を含有するラテックス中に、無機金属塩を含む水溶液を添加した場合、ゴム状重合体が凝集によって塊状とはならず、二次粒子や三次粒子のゴム状重合体が分散したスラリー状態を維持することができる。そのメカニズムは定かではないが、ゴム状重合体の表面の電荷が無機金属イオンによって相殺されることで、ゴム状重合体と有機溶媒との相溶性が高まり、ゴム状重合体が緩やかに凝集するためと考えられる。本実施形態の製造方法によれば、工業的に製造する際に得られるゴム状重合体クラムは流動性を有するため、凝集槽の排出口から容易にゴム状重合体を回収することができる。ここで、本明細書において「凝集」とは、コロイド粒子が集まってより大きな粒子になる現象をいう。
【0024】
ゴム状重合体の重合方法としては、特に限定されず、例えば、乳化重合法、溶液重合法懸濁重合法が挙げられ、この中でも乳化重合法であることが好ましい。
【0025】
本実施形態の凝集工程において使用する攪拌機は、特に限定されず、例えば、撹拌翼形状としては三方後退翼、パドル型、アンカー型、タービン翼、マックスブレンド翼などの一般的な撹拌翼の攪拌機を用いることができる。
【0026】
本実施形態の凝集工程における上記攪拌機の回転数は、特に限定されず、使用する攪拌機の撹拌翼形状によっても異なるが、例えば、三方後退翼を用いた場合、60~500rpmであってもよく、100~400rpmであってもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[合成例]
3000gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(メタクリル酸イソデシル)、78.8gのエチレングリコールジメタクリレート、382.2gのドデシル硫酸ナトリウム、6300gの水および700gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、35.8gの過硫酸カリウムを添加した後、撹拌しながら1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持することにより、ゴム状重合体の微粒子が分散したラテックスが得られた。
【0028】
得られたラテックスを撹拌させながら、凝集液を添加することにより凝集を実施した。
【0029】
撹拌は、凝集槽内での撹拌翼による機械撹拌方式で、撹拌翼形状としては三方後退翼にて実施した。
【0030】
得られたゴム状重合体の凝集状態を目視にて確認した。凝集したゴム状重合体がスラリー状に分散しているものは工業的な製造において優れた作業性を有していると評価し、十分な凝集が得られないものや、ゴム状重合体が凝固して塊状になったものは工業的な製造に不適として評価した。
【0031】
[比較例1]
得られたエマルションを300rpmで攪拌させながら、メタノールを10500g添加することによりゴム状重合体Aを凝集させた。ゴム状重合体Aは、塊状の固体として凝固析出した。有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、60質量%であった。
【0032】
[実施例1]
比較例1で用いたメタノールの代わりに、3wt%の硫酸アルミニウム水溶液を5250g添加して重合体を緩凝集させた後、イソプロピルアルコール(IPA)を5250g添加した以外は比較例1と同様の手法によりゴム状重合体1を凝集させた。ゴム状重合体1は、溶液中に分散したスラリー状として析出した。無機金属塩の配合量は、ゴム状重合体100質量部に対して5質量部であり、有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、30質量%であった。
【0033】
[実施例2]
実施例1で用いたイソプロピルアルコールの代わりにアセトニトリルを5250g用いた以外は実施例1と同様の手法にてゴム状重合体2を凝集させた。ゴム状重合体2は、溶液中に分散したスラリー状として析出した。無機金属塩の配合量は、ゴム状重合体100質量部に対して5質量部であり、有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、30質量%であった。
【0034】
[実施例3]
実施例1で用いたイソプロピルアルコールの代わりにエタノールを5250g用いた以外は実施例1と同様の手法にてゴム状重合体3を凝集させた。ゴム状重合体3は、溶液中に分散したスラリー状として析出した。無機金属塩の配合量は、ゴム状重合体100質量部に対して5質量部であり、有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、30質量%であった。
【0035】
[実施例4]
実施例1で用いたイソプロピルアルコールの代わりにメタノールを5250g用いた以外は実施例1と同様の手法にてゴム状重合体4を凝集させた。ゴム状重合体4は、溶液中に分散したスラリー状として析出した。無機金属塩の配合量は、ゴム状重合体100質量部に対して5質量部であり、有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、30質量%であった。
【0036】
[比較例2]
実施例1で用いたイソプロピルアルコールの代わりにメチルエチルケトン(MEK)を5250g用いた以外は実施例1と同様の手法にてゴム状重合体5を凝集させた。ゴム状重合体5は、塊状の固体として凝固析出した。無機金属塩の配合量は、ゴム状重合体100質量部に対して5質量部であり、有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、30質量%であった。
【0037】
[比較例3]
実施例1で用いたイソプロピルアルコールの代わりにテトラヒドロフラン(THF)を5250g用いた以外は実施例1と同様の手法にてゴム状重合体6を凝集させた。ゴム状重合体6は、塊状の固体として凝固析出した。無機金属塩の配合量は、ゴム状重合体100質量部に対して5質量部であり、有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、30質量%であった。
【0038】
[実施例5]
実施例4で用いた硫酸アルミニウムの代わりに塩化ナトリウム水溶液を5250g用いた以外は実施例4と同様の手法にてゴム状重合体7を凝集させた。ゴム状重合体7は、溶液中に分散したスラリー状として析出した。無機金属塩の配合量は、ゴム状重合体100質量部に対して5質量部であり、有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、30質量%であった。
【0039】
[実施例6]
実施例4で用いた硫酸アルミニウムの代わりに塩化カルシウム水溶液を5250g用いた以外は実施例4と同様の手法にてゴム状重合体8を凝集させた。ゴム状重合体8は、溶液中に分散したスラリー状として析出された。無機金属塩の配合量は、ゴム状重合体100質量部に対して5質量部であり、有機溶媒の配合量は、ラテックスと凝集液との混合液の液体成分中、30質量%であった。
【0040】
【0041】
結果は、表1に示す通りであり、実施例1~6では、いずれも流動性を保ったスラリー状態のゴム状重合体が得られ、工業的な製造において優れた作業性が得られることがわかった。
【0042】
比較例1は凝集剤としてメタノールを単独で用いた例であり、ゴム状重合体が塊状になり、工業的な製造には不適であった。
【0043】
比較例2,3は凝集剤として使用した有機溶媒のsp値が所定範囲外である例であり、いずれもゴム状重合体が塊状になり、工業的な製造には不適であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のゴム状重合体の製造方法は、各種用途に用いられるゴム状重合体を工業的に製造する際に好適に用いることができる。