(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】ペンテノマイシン誘導体の製造法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/65 20060101AFI20230131BHJP
C07C 49/707 20060101ALI20230131BHJP
C07C 67/297 20060101ALI20230131BHJP
C07C 69/78 20060101ALI20230131BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20230131BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230131BHJP
C07F 7/18 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
C07C45/65
C07C49/707
C07C67/297
C07C69/78
C07C69/76 Z
C07B61/00 300
C07F7/18 A
(21)【出願番号】P 2019011749
(22)【出願日】2019-01-26
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】598014814
【氏名又は名称】株式会社コンポン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】特許業務法人謝国際特許商標事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】特許業務法人謝国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100153394
【氏名又は名称】謝 卓峰
(74)【代理人】
【識別番号】100116311
【氏名又は名称】元山 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100145056
【氏名又は名称】當別當 健司
(72)【発明者】
【氏名】神島 尭明
(72)【発明者】
【氏名】笠井 均
(72)【発明者】
【氏名】小関 良卓
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1,1984年,Vol.9,pp.2089-2096
【文献】Tetrahedron Letters,1983年,Vol.24, No.9,pp.965-968
【文献】Journal of Organic Chemistry,1982年,Vol.47, No.10,pp.1855-1869
【文献】Journal of the American Chemical Society,1978年,Vol.100, No.24,pp.7767-7768
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/65
C07C 49/707
C07C 67/297
C07C 69/78
C07C 69/76
C07F 7/18
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
(式中、R
a及びR
bは、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよいアシルを示す。)で表される化合物を製造する方法であって、
第1工程
式(i)
(式中、R
1は、式(a)
(式中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいアリールアルキル基である。)で表されるシリル基、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基または水酸基の酸素原子と共にアセタール結合を形成する基であり、R
2は、水素原子またはアシル基である。)
で表される化合物を酸化する工程、及び
第2工程
第1工程で得た式(ii)
(式中、R
1は、前記で定義したとおりである。)で表される化合物、を式(I)で表される化合物へ変換する工程を含むことを特徴とする、式(I)で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
R
1が、式(a)で表されるシリル基(ここで、R
3、R
4及びR
5は請求項1で定義したとおりである。)、またはアリールアルキル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記R
3、R
4及びR
5が、それぞれ置換基を有していてもよいC
1~C
6アルキル基、置換基を有していてもよいC
6~C
10アリール基または置換基を有していてもよいC
7~C
14アリールアルキル基である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記R
3、R
4及びR
5が、それぞれ置換基を有していてもよいC
1~C
6アルキル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第1工程の酸化工程を、触媒の存在下、少なくとも1種の酸化剤を用いて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化剤が、4-N-メチルモルホリン-N-オキシド、ピリジン-N-オキシド、トリアルキルアミン-N-オキシド、フェリシアン化カリウム、過酸化水素、クロライト、過酸化アルキル、過酸化アシル、及び置換または未置換の過安息香酸からなる群より選択される一つまたは複数である、請求
項5に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒が、オスミウム化合物、過マンガン酸塩、鉄酸塩、ルテニウム酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、硝酸塩、四酸化ルテニウム、二酸化鉛、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求
項5に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒が、オスミウム化合物である、請求
項5に記載の方法。
【請求項9】
オスミウム化合物が、OsO
4、K
2Os
2(OH)
4、Na
2Os
2(OH)
4、Os
3(CO)
12、OsCl
3、H
2OsCl
6、〔CF
3SO
3Os(NH
3)
5〕(O
3SCF
3)
2、ビニルピリジン担体上のOsO
4、ポリスチレンにマイクロカプセル化したOsO
4(オスミウムカプセル)、またはBu
tNOsO
3である、請求
項8に記載の方法。
【請求項10】
オスミウム化合物が、式(i)で表されるオレフィンを基準として0.00001~0.2モ
ルの使用量で用いられることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
第1工程の酸化工程を0℃から100℃で行う、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
第1工程の酸化工程において、アミド類、アルキル尿素類、エーテル類、ケトン類、カルボン酸エステル類、ニトリル類、アルコール類、水ならびにそれらの混合物が溶媒として用いられることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペンテノマイシン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、ペンテノマイシンI及びIIをStreptomyces eurythermus MCRL 0738の培養濾液から分離し、ペンテノマイシンIのアシル及びアルキリデン誘導体を調製し、これらの物理的特性及び抗菌活性に関する検討の結果が開示されている。
【0003】
非特許文献2には、キラルなポリヒドロキシル化シクロペンテン(化合物10)を介し、(+)及び(-) ペンテノマイシンI(化合物18及び化合物4)の全合成の方法が開示されている。
【0004】
非特許文献3には、位置/立体制御下でビニルスルホキシドを多様なアルキンジコバルト錯体と反応させて得られた5-スルフィニル-2-シクロペンテノンを中間体とする、(-)ペンテノマイシンI抗生物質のエナンチオ選択的な合成法が開示されている。
【0005】
非特許文献4には、官能基を持たせたシクロペンテンから、中間体ポリヒドロキシシクロペンテンを経て、5工程で(-)ペンテノマイシンを合成する方法が開示されている。
【0006】
非特許文献5には、市販のD-マンノース及びD-リボースを原料とする、還元的ヨード脱離及び閉環メタセシス反応(RCM)の重要工程を含む、エナンチオピュア(-)及び(+)ペンテノマイシンの立体選択的合成法が開示されている。
【0007】
非特許文献6には、ラクトンのTebbeオレフィン化反応及びMe
2AlCl誘導の環化反応を用いて、D-マンノース及びD-リボースから(+)及び(-)ペンテノマイシンを合成する方法が開示されている。
【0008】
非特許文献7には、α-スルフィニルカルバニオンの分子内アシル化反応を用いた(-)ペンテノマイシンIの合成法が開示されている。
【0009】
非特許文献8には、D-(-)キナ酸を原料として、(-)ペンテノマイシンIを合成する方法及び3-ヒドロキシメチル-2-メチルフランを原料として、(±) ペンテノマイシンIの合成法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Chem. Pharm. Bull. 22(9)2113-2117(1974)
【文献】Carbohydrate Research 416(2015) 24-31
【文献】J. AM. CHEM. SOC. 2003, 125, 14992-14993
【文献】Tetrahedron Letters 41 (2000) 4291-4293
【文献】Tetrahedron Letters 44 (2003) 5103-5105
【文献】Tetrahedron Letters 54 (2013) 2845-2848
【文献】Tetrahedron 64 (2008) 6315-6323
【文献】Tetrahedron Letters, Vol.24, No.9, pp.965-968, 1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の従来の方法では、工程数が多く、異性体の分離が困難であり、反応の効率が悪いという問題点がある。このために光学活性なペンテノマイシンI及びその誘導体の効率の良い合成方法の開発が待望されている。
【0012】
本発明の目的は、上記した従来技術における欠点または問題を解決することであり、光学活性なペンテノマイシンI、その誘導体及びそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような状況に鑑み、本発明者らは、ペンテノマイシン誘導体及びその製造方法について鋭意研究した。その結果、本発明者らは、単糖からの水熱反応により簡便に4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテノン(式(I)で表される化合物)を製造することに成功した。本発明者らは、この4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテノンを出発原料とし、位置選択的に1級アルコールのみ保護を行った後、この保護した化合物(2)に対し、加水分解酵素の存在下、不飽和アルコールのカルボン酸エステルと反応させることにより、一挙に光学活性体(i)及び(ia)を製造でき、光学活性体(i)を用いて容易に光学活性ペンテノマイシン及びその誘導体を製造することができることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記〔1〕から〔20〕項に記載の発明を提供することにより上記課題を解決したものである。
【0015】
〔1〕
式(I):
(式中、R
a及びR
bは、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよいアシルを示す。)で表される化合物を製造する方法であって、
第1工程
式(i)
(式中、R
1は、式(a)
(式中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいアリールアルキル基である。)で表されるシリル基、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基または水酸基の酸素原子と共にアセタール結合を形成する基であり、R
2は、水素原子またはアシル基である。)
で表される化合物を酸化する工程、及び
第2工程
第1工程で得た式(ii)
(式中、R
1は、前記で定義したとおりである。)で表される化合物、を式(I)で表される化合物へ変換する工程を含むことを特徴とする、式(I)で表される化合物の製造方法。
〔2〕
R
1が、式(a)で表されるシリル基(ここで、R
3、R
4及びR
5は〔1〕で定義したとおりである。)、またはアリールアルキル基である、〔1〕に記載の方法。
〔3〕
前記R
3、R
4及びR
5が、それぞれ置換基を有していてもよいC
1~C
6アルキル基、置換基を有していてもよいC
6~C
10アリール基または置換基を有していてもよいC
7~C
14アリールアルキル基である、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕
前記R
3、R
4及びR
5が、それぞれ置換基を有していてもよいC
1~C
6アルキル基である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕
第1工程の酸化工程を、触媒の存在下、少なくとも1種の酸化剤を用いて行う、〔1〕に記載の方法。
〔6〕
前記酸化剤が、4-N-メチルモルホリン-N-オキシド、ピリジン-N-オキシド、トリアルキルアミン-N-オキシド、フェリシアン化カリウム、過酸化水素、クロライト、過酸化アルキル、過酸化アシル、及び置換または未置換の過安息香酸からなる群より選択される一つまたは複数である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕
前記触媒が、オスミウム化合物、過マンガン酸塩、鉄酸塩、ルテニウム酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、硝酸塩、四酸化ルテニウム、二酸化鉛、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕
前記触媒が、オスミウム化合物である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の方法。
〔9〕
オスミウム化合物OsO
4、K
2Os
2(OH)
4、Na
2Os
2(OH)
4、Os
3(CO)
12、OsCl
3、H
2OsCl
6、〔CF
3SO
3Os(NH
3)
5〕(O
3SCF
3)
2、ビニルピリジン担体上のOsO
4、ポリスチレンにマイクロカプセル化したOsO
4(オスミウムカプセル)、Bu
tNOsO
3が触媒及び/または触媒前駆体として用いられることを特徴とする、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の方法。
〔10〕
オスミウム化合物が、式(i)で表されるオレフィンを基準として0.00001~0.2モル、好ましくは0.0001~0.1モル、そして特に好ましくは0.0005~0.08モルの使用量で用いられることを特徴とする、〔7〕~〔9〕のいずれか1項に記載の方法。
〔11〕
第1工程の酸化工程を0℃から100℃で行う、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の方法。
〔12〕
第1工程の酸化工程において、アミド類、アルキル尿素類、エーテル類、ケトン類、カルボン酸エステル類、ニトリル類、アルコール類、水ならびにそれらの混合物が溶媒として用いられることを特徴とする、〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕
式(2)の化合物と、不飽和アルコールのカルボン酸エステルとを、加水分解酵素の存在下に反応させ、式(i)で表される化合物(ここで、R
1は〔1〕で定義したとおりであり、R
2はアシル基である。)を製造する工程を含む、〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の方法。
〔14〕
不飽和アルコールのカルボン酸エステルが、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルバレレート、イソプロペニルアセテート、イソプロペニルプロピオネート、またはイソプロペニルバレレートであり、加水分解酵素が、リパーゼである、〔13〕に記載の方法。
〔15〕
不飽和アルコールのカルボン酸エステルが、ビニルアセテートであり、加水分解酵素が、リパーゼPS(アマノ社製)またはリパーゼAK(アマノ社製)である、〔14〕に記載の方法。
〔16〕
式(1)の化合物を塩基の存在下、シリルハライドまたはアリールアルキルハライドと反応させることを特徴とする、式(2)(式中、R
1は〔1〕で定義したとおりである。)で表される化合物を製造する工程を含む、〔1〕~〔15〕のいずれか1項に記載の方法。
〔17〕
式(ii)
(式中、R
1は、式(a)
(式中、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいアリールアルキル基である。)で表されるシリル基、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基または水酸基の酸素原子と共にアセタール結合を形成する基である。)で表される化合物。
〔18〕
R
1が、式(a)で表されるシリル基(ここで、R
3、R
4及びR
5は〔17〕
で定義したとおりである。)、またはアリールアルキル基である、〔17〕に記載の化合物。
〔19〕
前記R
3、R
4及びR
5が、それぞれ置換基を有していてもよいC
1~C
6アルキル基、置換基を有していてもよいC
6~C
10アリール基または置換基を有していてもよいC
7~C
14アリールアルキル基である、〔17〕または〔18〕に記載の化合物。
〔20〕
前記R
3、R
4及びR
5が、それぞれ置換基を有していてもよいC
1~C
6アルキル基である、〔17〕~〔19〕のいずれか1項に記載の化合物。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法により、式(I)で表される化合物及びその新規な工業的製造方法が提供される。
【0017】
本発明の方法によれば、4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテノンの二つの水酸基の中、一つの水酸基のみを選択的に保護することができ、目的物とする化合物(2)を容易に得ることに成功した。
【0018】
また、本発明の方法では、化合物(2)を用いて、加水分解酵素の存在下に不飽和アルコールのカルボン酸エステルと反応させることにより、目的物とする光学活性体化合物(i)を容易に得ることに成功した。
【0019】
なお、本発明の方法では、化合物(i)を用いて、一挙に目的物とする化合物(ii)の光学活性体を容易に得ることに成功した。
【0020】
さらに本発明の方法では、化合物(ii)を用いて、目的とする光学活性ペンテノマイシン及びその誘導体(I)を高収率かつ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において用いられる用語について以下に説明する。
特に言及しない限り、本明細書及び特許請求の範囲で用いた用語は以下に述べる意味を有する。
【0022】
「アルキル基」とは、特に限定しない限り、飽和脂肪族炭化水素基、例えば、炭素数が1~20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基をいう。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のC1~C6アルキル基、ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、1,1,3-トリメチルブチル基、1,2,2-トリメチルブチル基、1,3,3-トリメチルブチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、2,3,3-トリメチルブチル基、1-プロピルブチル基、1,1,2,2-テトラメチルプロピル基、オクチル基、1-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1-エチル-1-メチルペンチル基、ノニル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、7-メチルオクチル基、1-エチルヘプチル基、1,1-ジメチルヘプチル基、6,6-ジメチルヘプチル基、デシル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、6-メチルノニル基、1-エチルオクチル基、1-プロピルヘプチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の基を挙げることができるが、C1~C6アルキル基が好ましい。C1~C6アルキル基の好ましい例は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基またはヘキシル基である。
【0023】
「アリール基」とは、単環式または二環式芳香族性炭化水素基をいい、好ましくはフェニル基、ナフチル基等のC6~C10アリール基であり、より好ましくはフェニル基である。
【0024】
「アリールアルキル基」とは、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、アセナフチレニル基等、アリールで置換されたアルキル基をいう。例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、2-フェニルプロピル基、1-フェニルプロピル基、α-ナフチルメチル基、α-ナフチルエチル基、β-ナフチルメチル基、β-ナフチルエチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基等が挙げられる。好ましくはトリフェニルメチル基である。
【0025】
「アシル」としては、カルボン酸由来のアシル、スルフィン酸由来のアシル、スルホン酸由来のアシル及びホスホン酸由来のアシル等が挙げられる。
【0026】
該「カルボン酸由来のアシル」としては、水素原子または上記した「N-モノ置換カルバモイル」が窒素原子上に1個有する置換基とカルボニル(-C(O)-)とが結合したもの、例えば、ホルミル;アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、シクロブタンカルボニル、シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル、クロトニル、トリフルオロアセチル等のハロゲン化されていてもよい鎖状もしくは環状のC2~C8アルカノイル;ベンゾイル、ニコチノイル、イソニコチノイル等が挙げられ、中でも、アセチル、プロプオニル、n-ブチリル、iso-ブチリル、n-バレリル、カプロイル、ベンゾイル等が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0027】
該「スルフィン酸由来のアシル」としては、上記した「N-モノ置換カルバモイル」が窒素原子上に1個有する置換基とスルフィニル(-S(O)-)とが結合したもの、例えば、メタンスルフィニル、エタンスルフィニル、プロパンスルフィニル、シクロプロパンスルフィニル、シクロペンタンスルフィニル、シクロヘキサンスルフィニル等のハロゲン化されていてもよい鎖状もしくは環状のC1~C6アルキルスルフィニル、ベンゼンスルフィニル、トルエンスルフィニル等が挙げられる。
【0028】
該「スルホン酸由来のアシル」としては、上記した「N-モノ置換カルバモイル」が窒素原子上に1個有する置換基とスルホニル(-S(O)2-)とが結合したもの、例えば、メタンスルホニル、エタンスルホニル、プロパンスルホニル、シクロプロパンスルホニル、シクロペンタンスルホニル、シクロヘキサンスルホニル等のハロゲン化されていてもよい鎖状もしくは環状のC1~C6アルキルスルホニル、ベンゼンスルホニル、トルエンスルホニル等が挙げられる。
該「ホスホン酸由来のアシル」としては、例えば、ジメチルホスホノ、ジエチルホスホノ、ジイソプロピルホスホノ、ジブチルホスホノ、2-オキシド-1,3,2-ジオキサホスフィナン-2-イル等の環を形成していてもよい(モノ-もしくはジ-C1~C4アルキル)ホスホノ等が挙げられる。
【0029】
「置換基を有していてもよい」とは、置換基を有していても、または無置換であってもよいことを意味する。置換基を有している場合、置換基は前記の置換可能な位置に、1~5個、好ましくは1~3個を有していてもよく、置換基数が2個以上の場合は、各置換基はそれぞれ同一または異なっていてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が挙げられるが、好ましい置換基の例は、C1~C6アルキル基、C1~C6アルコキシ基またはハロゲン原子である。
【0030】
C1~C6アルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基またはヘキシル基等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0031】
C1~C6アルコキシ基の例は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0032】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等をいい、好ましくはフッ素原子及び塩素原子である。
【0033】
式(i)で表されるシリル基のR3、R4及びR5の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基またはこれらの組み合わせ等が挙げられ、tert-ブチルジメチルシリル、tert-ブチルジフェニルシリル、メチルジフェニルシリルが挙げられる。tert-ブチルジメチルシリルは好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0034】
水酸基の酸素原子と共にアセタール結合を形成する基としては、例えば、メトキシメチル基、1エトキシエチル基、(2-メトキシエトキシ)メチル基、テトラヒドロピラニル基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
アシル基の具体例としては、アセチル基、プロプオニル基、n-ブチリル基、iso-ブチリル基、n-バレリル基、カプロイル基、ベンゾイル基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
不飽和アルコールのカルボン酸エステルの具体例としては、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルバレレート、イソプロペニルアセテート、イソプロペニルプロピオネート、イソプロペニルバレレート等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
加水分解酵素の具体例としては、市販されている加水分解酵素リパーゼAK(アマノ社製)、リパーゼPS(アマノ社製)、リパーゼPSアマノSD(アマノ社製)、リパーゼAYS(アマノ社製)、リパーゼG アマノ 50(アマノ社製)、リパーゼ PSIM(アマノ社製)、リパーゼ F-AP15(アマノ社製)、CHIRAZYME L-6 (ロシュ社製)、リパーゼ-OML(名糖産業社製)、リパーゼTL(名糖産業社製)、リパーゼ-MY-30(名糖産業社製)、リパーゼ-SL(名糖産業社製)、リリパーゼA-10D(ナガセケムテックス社製)、KM-109(ナガセケムテックス社製)、Immobilized lipase (東洋紡社製)が使用でき、好ましくはリパーゼAK(アマノ社製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本明細書に記載の化合物は不斉中心を含んでいてもよく、したがって鏡像異性体として存在してもよい。本明細書に記載の化合物が2つ以上の不斉中心を有する場合、それらはさらにジアステレオマーとして存在してもよい。鏡像異性体及びジアステレオマーはより広いクラスの立体異性体に入る。実質的に純粋な分割された鏡像異性体、そのラセミ混合物、ならびにジアステレオマーの混合物等の、全ての可能な立体異性体は、含まれることが意図される。本明細書において開示する化合物の全ての立体異性体は、含まれることが意図される。特に記載がない限り、1つの異性体への言及は任意の可能な異性体に適用される。異性体組成が明記されていない場合はいつも、全ての可能な異性体が含まれる。
【0039】
化合物(i)の製造
化合物(i)は、化合物(1)の水酸基を保護して得られた化合物(2)のアシル化反応により、製造することができる。
【0040】
(a)化合物(1)の水酸基の保護(化合物(2)の製造)
化合物(1)の水酸基のシリル化反応及びアルキル化反応について説明する。化合物(1)の水酸基のシリル化反応は、塩基の存在下に、シリルハライドを作用させて行うことができる。例えば、以下に示す方法またはこれに準じた方法等(例えば、Corey, E. J. et al., J. Am. Chem. Soc., 94, 6190, 1970; Morita, T. et al., Tetrahedron Lett., 21, 835, 1980; Y. Kita, et al., Tetrahedron Lett., 4311, 1979に記載されたシリルエーテル化等。総説として、Lalondw, M., Chan, T. H., Synthesis, 817-845, 1985等も参照のこと)によって化合物(i)をシリルハライド化合物と反応させて行うことができる。化合物(1)の水酸基のアルキル化反応は、塩基の存在下に、アルキルハライドを作用させて行うことができる。例えば、以下に示す方法またはこれに準じた方法等(例えば、S. K. Chaudhary et al., Tetrahderon let., 20, 95, 1979; S. Schiltz et al., J. Organomet. Chem., 691, 5438, 2006に記載されたシリルエーテル化等)によって化合物(i)をアルキルハライド化合物と反応させて行うことができる。
【0041】
(シリルハライド)
シリルハライド化合物の種類は特に限定されず、当業界で用いられるものはいずれも本発明の方法に使用できる。例えば、トリアルキルシリルハライド化合物、モノアルキルジアリールシリルハライド化合物、トリアリールシリルハライド化合物等を用いることができる。シリルハライド化合物がアルキル基を有する場合には、アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、またはtert-ブチル基等を用いることができる。これらのうち、メチル基またはエチル基が好ましい。シリルハライド化合物がアリール基を有する場合にはフェニル基等を用いることができる。シリルハライド化合物を構成するハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子等を用いることができ、塩素原子を用いることが好ましい。シリルハライド化合物として、より具体的には、トリメチルシリルクロライド(トリメチルクロロシランと呼ばれる場合もある。以下の化合物についても同様である。)、トリエチルシリルクロライド、tert-ブチルジメチルシリルクロライド、tert-ブチルジフェニルシリルクロライド、トリフェニルシリルクロライド等を挙げることができる。
【0042】
(アリールアルキルハライド)
アリールアルキルハライドとしては、例えば、ベンジルクロリド、2-フェニルエチルクロリド、3-フェニルプロピルクロリド、2-フェニルプロピルクロリド、1-フェニルプロピルクロリド、α-ナフチルメチルクロリド、α-ナフチルエチルクロリド、β-ナフチルメチルクロリド、β-ナフチルエチルクロリド、ジフェニルメチルクロリド、トリフェニルメチルクロリド、
ベンジルブロミド、2-フェニルエチルブロミド、3-フェニルプロピルブロミド、2-フェニルプロピルブロミド、1-フェニルプロピルブロミド、α-ナフチルメチルブロミド、α-ナフチルエチルブロミド、β-ナフチルメチルブロミド、β-ナフチルエチルブロミド、ジフェニルメチルブロミド、トリフェニルメチルブロミド、ベンジルヨージド、2-フェニルエチルヨージド、3-フェニルプロピルヨージド、2-フェニルプロピルヨージド、1-フェニルプロピルヨージド、α-ナフチルメチルヨージド、α-ナフチルエチルヨージド、β-ナフチルメチルヨージド、β-ナフチルエチルヨージド、ジフェニルメチルヨージド、トリフェニルメチルヨージド等が挙げられる。
【0043】
(塩基)
使用塩基としては、有機塩基及び無機塩基が挙げられる。有機塩基としては、これらに限られないが、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、イミダゾール、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、n-ブチルリチウム、カリウムtert-ブトキシドが挙げられ、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンが好ましい。無機塩基としては、これらに限られないが、水素化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムまたは炭酸セシウムが挙げられる。塩基の使用量としては、原料化合物のモル以上が好ましい。さらには、原料化合物1モルに対して通常1.0~10.0モルの範囲を例示できるが、好ましくは2.0~6.0モルの範囲が良く、より好ましくは2.0~4.0モルの範囲であることが良い。
【0044】
(溶媒)
反応の円滑な進行等の観点から、本発明の反応は溶媒の存在下で実施することが好ましい。本発明の反応における溶媒は、反応が進行する限りは、いずれの溶媒でもよい。
【0045】
本発明の反応における溶媒としては、例えば、用いる溶媒系の具体的な好ましい例としては、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、メチル-tert-ブチルエーテル、好ましくはテトラヒドロフラン(THF))、アミド類(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)等、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチルピロリドン(NMP)、より好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF))、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)等)が含まれるが、これらに限定されるものではない。溶媒の使用量は、反応が進行する限りは、いずれの量でもよい。本発明の反応における溶媒の使用量は当業者により適切に調整されることができる。
【0046】
(反応温度)
本発明の反応温度は、特に制限されない。一つの態様においては、収率の向上、副生成物の抑制及び経済効率等の観点から、-20℃~50℃(すなわち、マイナス20℃~プラス50℃)、好ましくは-10℃~30℃(すなわち、マイナス10℃~プラス30℃)、より好ましくは0℃~25℃の範囲を例示できる。
【0047】
(反応時間)
本発明の反応時間は、特に制限されない。一つの態様においては、収率の向上、副生成物の抑制及び経済効率等の観点から、0.5時間~120時間、好ましくは1時間~72時間、より好ましくは1時間~48時間、さらに好ましくは1時間~24時間の範囲を例示できる。しかしながら、本発明の反応時間は当業者により適切に調整されることができる。
【0048】
本反応の後処理としては、反応液から生成物を取得するための一般的な処理を行えば良い。例えば、反応終了後の反応液に水、塩酸等を添加して中和し、一般的な抽出溶媒、例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、トルエン、ヘキサン等を用いて抽出操作を行う。得られた抽出液から反応溶媒及び抽出溶媒を減圧留去すると、目的物が得られる。このようにして得られる目的物は、必要であれば、シリカゲルクロマトグラフィーや蒸留、再結晶等の一般的精製を行い、さらに純度を高めても良い。
【0049】
(b)化合物(2)のアシル化反応(化合物(i)の製造)
化合物(2)のアシル化反応について説明する。化合物(2)のアシル化反応は、加水分解酵素の存在下に、化合物(2)と不飽和アルコールのカルボン酸エステルを作用させて行うことができる。
【0050】
(加水分解酵素)
使用する加水分解酵素としては、例えば、市販されている加水分解酵素リパーゼAK(アマノ社製)、リパーゼPS(アマノ社製)、リパーゼ PSアマノSD(アマノ社製)、リパーゼAYS(アマノ社製)、リパーゼG アマノ 50(アマノ社製)、リパーゼ PSIM(アマノ社製)、リパーゼ F-AP15(アマノ社製)、CHIRAZYME L-6(ロシュ社製)、リパーゼ-OML(名糖産業社製)、リパーゼTL(名糖産業社製)、リパーゼ-MY-30(名糖産業社製)、リパーゼ-SL(名糖産業社製)、リリパーゼA-10D(ナガセケムテックス社製)、KM-109(ナガセケムテックス社製)、Immobilized lipase (東洋紡社製)が使用でき、好ましくは、リパーゼAK(アマノ社製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
加水分解酵素の形態としては、精製酵素、ケイソウ土等に吸着させたもの、ビーズガラス等に固定化したもの等、種々のものを使用することができる。酵素の量は、化合物(2)に対し、通常0.01~1重量倍、好ましくは0.03~0.5重量倍、さらに好ましくは0.05~0.2重量倍である。
【0052】
(不飽和アルコールのカルボン酸エステル)
使用する不飽和アルコールのカルボン酸エステルとしては、例えばビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルバレレート、イソプロペニルアセテート、イソプロペニルプロピオネート、イソプロペニルバレレート等を挙げることができ、その使用量は化合物(2)に対し、通常0.5モル倍以上、好ましくは2モル倍以上である。また、不飽和アルコールのカルボン酸エステルを溶媒として用いることもできる。
【0053】
(溶媒)
該反応においては溶媒を使用することもでき、その溶媒としては前記した不飽和アルコールのカルボン酸エステルの他、例えばヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、ジクロルメタン、クロロホルム、ジブチルエーテル等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル類等の単独または混合物を挙げることができる。その使用量は化合物(2)に対し、通常0.5~10重量倍である。
【0054】
(反応温度と反応時間)
反応温度は通常10~50℃であり、反応時間は、通常0.5~50時間で充分である。反応の推移は、例えば光学活性化合物用の充填剤を備えた液体クロマトグラフィー等を用いて化合物(i)または化合物(ia)の光学純度を測定することにより追跡することができ、またこれにより反応終点を決めることもできる。また、通常の(特に光学活性化合物用でなくともよい)液体クロマトグラフィー等により、アルコール類(化合物(2)及び/または光学活性シクロペンテノン誘導体(化合物(ia))とエステル類(光学活性シクロペンテノンエステル類(化合物(i))との割合を測定し、その比がほぼ1:1となるときを反応終点とすることもできる。反応終了後、必要により、反応マスにヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、ジクロルメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロルエタン、酢酸エチル、エチルエーテル等の脂肪族もしくは芳香族炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、ハロゲン化炭化水素等の溶媒を加え、例えば酵素を濾別した後、濾液を濃縮することにより、光学活性シクロペンテノン誘導体(化合物(ia))及び光学活性シクロペンテノンエステル類(化合物(i))の混合物を得ることができる。また、さらに例えば通常のクロマトグラフィー処理を付すことにより、光学活性シクロペンテノン誘導体(化合物(ia))と、光学活性シクロペンテノンエステル類(化合物(i))とに分離することもできる。
【0055】
化合物(i)の酸化工程(第1工程)
化合物(i)を触媒の存在下、酸化剤を用いて、化合物(ii)を一工程で製造することができる。
【0056】
【0057】
(酸化剤)
本発明で使用される酸化剤は、反応が進行する限りは、いずれの酸化剤でもよい。対応する原料化合物(i)を目的化合物(ii)に酸化できる酸化剤を用いることができる。本発明で使用される酸化剤の例は、4-N-メチルモルホリン-N-オキシド、ピリジン-N-オキシド、トリアルキルアミン-N-オキシド、フェリシアン化カリウム、過酸化水素、クロライト、過酸化アルキル、過酸化アシル、及び置換または未置換の過安息香酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。安全性、反応性、選択性及び経済効率等の観点から、好ましい酸化剤は4-N-メチルモルホリン-N-オキシドである。酸化剤は、単独でまたは任意の割合の2種以上の組み合わせで使用してもよい。また、酸化剤の形態は、反応が進行する限りは、いずれの形態でもよく、当業者により適切に選択されることができる。
【0058】
収率の向上及び経済効率等の観点から、本発明における酸化剤の下限としては、一般式(i)で表されるオレフィン(原料化合物)1モルに対して、0.9モル以上、好ましくは1.0モル以上を例示することができる。
また、安全性、副生成物の抑制及び経済効率等の観点から、本発明における酸化剤の上限としては、一般式(i)で表されるオレフィン(原料化合物)1モルに対して、4.0モル以下、好ましくは3.0モル以下、より好ましくは2.5モル以下を例示することができる。
【0059】
さらに、本発明における酸化剤の使用量としては、上記の下限と上限の適宜な且つ任意の組み合わせを例示することができる。したがって、安全性、収率の向上、副生成物の抑制及び経済効率等の観点から、本発明における酸化剤の使用量としては、一般式(i)で表されるオレフィン(原料化合物)1モルに対して、0.9~4.0モル、好ましくは1.0~3.0モル、より好ましくは1.0~2.5モルを例示することができる。しかしながら、本発明における酸化剤の使用量は、目的と状況に応じて、当業者により適宜調整されることができる。
【0060】
(触媒)
酸化工程に用いられる触媒としては、オスミウム化合物、過マンガン酸塩、鉄酸塩、ルテニウム酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、硝酸塩、四酸化ルテニウム、二酸化鉛等及びそれらの組み合わせが挙げられ、好ましくは、オスミウム化合物であるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
用いられるオスミウム触媒は一般に酸化状態+8及び+6のオスミウム化合物である。しかしながら、低い酸化状態のオスミウム触媒前駆体を用いることも可能である。これらは反応条件下触媒活性のあるOs(VIII)及びOs(VI)種に転換される。オスミウム触媒または触媒前駆体としては、例えば、OsO4、K2Os2(OH)4、Na2Os2(OH)4、Os3(CO)12、OsCl3、H2OsCl6、〔CF3SO3Os(NH3)5〕(O3SCF3)2、ビニルピリジン担体上のOsO4、ButNOsO3を用いることが可能である。
【0062】
本発明の方法においては、オスミウム触媒はオレフィンに対し触媒量で用いられる。一般に、使用量はオレフィンを基準として0.00001~0.2モル、好ましくは0.0001~0.1モル、そして特に好ましくは0.0005~0.08モルである。
【0063】
(反応に使用される溶媒および使用量)
一つの態様では、本発明の反応は、溶媒の存在下で行われる。収率、反応性、原料類の溶解性及び経済効率等の観点から、本発明の反応に使用される溶媒の好ましい例は、反応が進行する限りはいずれの溶媒であってもよく、アミド類(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)等)、アルキル尿素類(例えば、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、テトラメチル尿素等)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、メチル-tert-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、ジグリム(diglyme)、トリグリム(triglyme)等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルシクロペンチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル(すなわち、酢酸n-ブチル)、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル等)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)、水及び任意の割合のそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の反応に使用される溶媒の使用量は、反応が進行する限りはいずれの量でもよい。収率及び経済効率等の観点から、一般式(i)の化合物1モルに対して、0.1~10L(リットル)、好ましくは0.1~5L、より好ましくは0.5~5L、さらに好ましくは1~4Lの範囲を例示することができるが、溶媒の使用量は当業者により適切に調整されることができる。溶媒の組み合わせを使用するときは、上記に例示された溶媒の使用量は、反応で使用される全ての溶媒の合計量を意味する。2種以上の溶媒の組み合わせを用いるときは、2種以上の溶媒の割合は、反応が進行する限りは、いずれの割合でもよい。
【0064】
(反応温度および反応時間)
反応が進行する限りは、本発明の反応温度は特に制限されない。収率、副生成物抑制及び経済効率等の観点から、0℃~100℃、好ましくは20~50℃の範囲を例示することができる。しかしながら、本発明の反応温度は当業者により適切に調整されることができる。
また、本発明の反応時間は、特に制限されない。収率、副生成物抑制及び経済効率等の観点から、0.5時間~48時間、好ましくは1時間~24時間、さらに好ましくは1時間~12時間の範囲を例示できる。しかしながら、本発明の反応時間は当業者により適切に調整されることができる。
【0065】
化合物(ii)から化合物(I)への変換工程(第2工程)
化合物(ii)から公知の方法により化合物(I)を容易に製造することができる。例えば、化合物(ii)(R1は、シリル基である場合)のシリル基を脱シリル化することにより、ペンテノマイシンIを製造することができる。
【0066】
シリル基の切断剤としては、好ましくはピリジニウムトルエンスルホン酸、トルエンスルホン酸等のアリールスルホン酸、メタンスルホン酸等のアルカンスルホン酸、希塩酸、希硫酸のような希鉱酸、またはテトラブチルアンモニウムフルオライドのようなアンモニウムフルオライドであり、より好ましくはパラピリジニウムトルエンスルホン酸である。使用される不活性溶媒は、例えば、水、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトンまたはメチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エ-テル、ジメトキシエタンのようなエーテル類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類及び任意の割合のそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されるものではない。好ましくはアセトンと水の混合溶媒である。反応温度は、通常0℃~80℃(好ましくは10℃~40℃)である。反応時間は、通常10分間~24時間(好ましくは30分間~8時間)である。
【0067】
また、化合物(ii)の2級水酸基を公知の方法にしたがってアシル化することにより、化合物(iii)に変換した後、脱シリル化することにより、ペンテノマイシンI誘導体を製造することができる。
【0068】
本明細書中の各反応において、反応生成物は通常の精製手段、例えば、常圧下または減圧下における蒸留、シリカゲルまたはケイ酸マグネシウムを用いた高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、あるいはカラムクロマトグラフィーまたは洗浄、再結晶等の方法により精製することができる。精製は、各反応ごとに行なってもよく、いくつかの反応が終了した後に行なってもよい。
【0069】
本発明の方法を用いて、例えば、4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル-2-シクロペンテノンを出発原料として、僅か5工程でペンテノマイシン誘導体を製造することができる。
【0070】
実施例
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
本明細書中、室温は10℃から35℃を示す。なお、実施例における各物性の測定には次の機器を用いた。
1H核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR):AVANCE-400(Burker社製)、内部基準物質:テトラメチルシラン
質量分析:MircOTOF-Q II-S1(Burker社製)
【実施例1】
【0071】
4-ヒドロキシ-2-(tert-ブチルジメチルシリル)オキシメチル)シクロペンタ-2-エン-1-オンの製造
tert-ブチルジメチルシリルクロリド(3.29 g, 21.8 mmol)とトリエチルアミン (3.8 mL, 27.3 mmol)を4-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチル)シクロペンタ-2-エン-1-オン(1.4 g, 10.9 mmol)のTHF溶液(20 mL)に室温で加えた。反応溶液を同温度で24時間攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、反応を停止した。酢酸エチル(2 × 30 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 2:1 → 1:1)で精製し、4-ヒドロキシ-2-(tert-ブチルジメチルシリル)オキシメチル)シクロペンタ-2-エン-1-オン(2.17 g, 82%)を無色~淡黄色の油状物質として得た。
1H NMR (400 Mz, CDCl
3): δ 0.080 (s, 3H), 0.085 (s, 3H), 0.92 (s, 3H), 1.91 (d, J = 5.2 Hz), 2.37 (dd, J = 2.0, 18.8 Hz, 1H), 2.86 (dd, J = 6.0, 18.8 Hz, 1H),4.37-4.38 (m, 2H),4.99 (brs, 1H),7.37-7.38 (m, 1H) ppm;
13C NMR (100 Mz, CDCl
3) δ 5.35, 5.32, 18.4, 26.0 (3C), 45.8, 58.0, 68.9, 148.4, 155.9, 204.8 ppm.
【実施例2】
【0072】
光学活性シクロペンテノンの製造
リパーゼAK(アマノ社製)(1.1 g) を4-ヒドロキシ-2-(tert-ブチルジメチルシリル)オキシメチル)シクロペンタ-2-エン-1-オン(2.2 g, 9.04 mmol)のアセトン-酢酸ビニル溶液(26 mL, 1:1)に室温で加え、同温度で一晩攪拌した。酵素を濾過で除去した後、濾液を減圧留去した。得られた残渣を得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 3:1 → 1:1)で精製し、4R-アセトキシ-2-(tert-ブチルジメチルシリル)オキシメチル)シクロペンタ-2-エン-1-オン((R)-Ac体)(1.25 g, 48%)及び4S-ヒドロキシ-2-(tert-ブチルジメチルシリル)オキシシチル)シクロペンタ-2-エン-1-オン((S)-モノTBS体)(1.1 g, 50%) をそれぞれ得た。
(R)-Ac体:
[α]
D
25 = +31.2 (c = 1.0 in CHCl
3 中),
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ0.084 (s, 3H), 0.086 (s, 3H), 0.92 (s, 9H), 2.10 (s, 3H), 2.41 (dd, J = 2.0, 18.8 Hz, 1H), 2.91 (dd, J = 6.0, 18.2 Hz, 1H), 4.40 (t, J = 2.0Hz, 2H),5.78-5.82 (m, 2H), 7.36 (q, J = 2.4,1H) ppm;
13C NMR (100 Mz, CDCl
3) δ 5.36, 18.4, 21.1, 26.0 (3C), 42.6, 58.1, 70.5, 150.0, 152.1, 170.7, 203.6 ppm.
鏡像異性体過剰率:92%ee(Chiral ART(YMC), Cellulose-SC, 250×4.6mmI.D., ヘキサン/i-プロパノール=90/10)
(S)-モノTBS体:
[α]
D
19 = -11.6 (c = 1.0, CHCl
3中)
【実施例3】
【0073】
4S-ヒドロキシ-2-(tert-ブチルジメチルシリルオキシメチル)シクロペンタ-2-エン-1-オンの製造
tert-ブチルジメチルシリルクロリド(405 mg, 2.69 mmol)とトリエチルアミン(0.5 mL, 3.58 mmol)を4S-ヒドロキシ-2-ヒドロキシメチルシクロペンタ-2-エン-1-オン(230 mg, 1.79 mmol)のTHF溶液(6 mL)に室温で加えた。反応溶液を同温度で24時間攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、反応を停止した。酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 2:1 → 1:1)で精製し、4S-ヒドロキシ-2-(tert-ブチルジメチルシリルオキシメチル)シクロペンタ-2-エン-1-オン(306 mg, 70%)を無色~淡黄色の油状物質として得た。
各種スペクトルデータは実施例1のデータと同じである。また、旋光度は実施例2と良い一致を示した。[α]
D
19 = -11.8 (c = 1.0, CHCl
3中)
【実施例4】
【0074】
(R)-Ac-TBSと(S)-モノ-TBSの製造
リパーゼAK(アマノ社製)(1.1 g, 50w/w%)をモノ-TBS(2.2 g, 9.04 mmol) のアセトン-酢酸ビニル溶液 (26 mL, 1:1) に室温で加え、一晩攪拌した。セライト濾過でリパーゼを除き、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 3:1 → 1:1)で精製し、(R)-Ac-TBS(1.25 g, 48%)及び(S)-モノ-TBS(1.1 g, 50%)をそれぞれ得た。
[α]
D
25 = +31.2 (c = 1.0, CHCl
3中);
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ 0.084 (s, 3H), 0.086 (s, 3H), 0.92 (s, 9H), 2.10 (s, 3H), 2.41 (dd, J = 2.0, 18.8 Hz, 1H), 2.91 (dd, J = 6.0, 18.2 Hz, 1H), 4.40 (t, J = 2.0 Hz, 2H), 5.78-5.82 (m, 2H), 7.36 (d, J = 2.4, 1H) ppm;
13C NMR (100 Mz, CDCl
3) δ -5.35, -5.32, 18.4, 26.0 (3C), 45.8, 58.0, 68.9, 148.4, 155.9, 204.8 ppm; IR(neat): 1234, 1371, 1716, 1744 cm
-1; (S)-モノ-TBS [α]
D = -11.6 (c = 1.0, CHCl
3中)
【実施例5】
【0075】
TBS-ペンテノマイシンの製造
オスミウム(VI)酸カリウム二水和物(91 mg, 0.246 mmol)と4-N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMO)(864 mg, 7.38 mmol)をAc-TBS(1.4 g, 4.92 mmol)のアセトン-水混液(12 mL, 2:1)に室温で加えた。同温度で2時間攪拌した後、10%飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 2:1)で精製し、TBS-ペンテノマイシン(780 mg, 61%) を白色粉体として得た。
[α]
D
26 = -18.1 (c = 1.06, CHCl
3中);
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ 0.03 (s, 3H), 0.05 (s, 3H), 0.84 (s, 9H), 2.74 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 3.10 (s, 1H), 3.73 (q, J = 9.6 Hz, 2H), 4.75-4.77 (m, 1H), 6.31 (dd, J = 1.2, 6.0 Hz, 1H), 7.64 (dd, J = 2.4, 6.0 Hz, 1H) ppm;
13C NMR (100 Mz, CDCl
3) δ -5.5, -5.4, 18.3, 25.8 (3C), 64.8, 72.6, 74.9, 133.9, 162.8, 206.3; IR(neat): 1249, 1689, 3278, 3343 cm
-1.
【実施例6】
【0076】
ペンテノマイシンの製造
3M塩酸(1 mL)をTBS-ペンテノマイシン(100 mg, 0.397 mmol)のTHF溶液(1 mL)に室温で加えた。同温度で0.5時間攪拌後、減圧蒸留で溶媒を除去した。残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール 8:1)で精製し、ペンテノマイシン(25 mg, 45%)を油状物質として得た。
天然型(-)ペンテノマイシン:[α]
D
23 = -19.6 (c = 0.35, エタノール中);
1H NMR (400 Mz, D
2O) δ 3.65 (dd, J = 11.6, 25 Hz, 2H), 4.75 (s, 1H), 6.73 (d, J = 6.0 Hz, 1H), 7.78 (dd, J = 2.4, 6.2 Hz, 1H) ppm.
13C NMR (100 Mz, D
2O) δ 63.1, 71.5, 76.2, 133.3, 164.4, 209.7 ppm
非天然型(+)ペンテノマイシン:[α]
D
23 = + 13.2 (c = 0.36, エタノール中)
【実施例7】
【0077】
TBS-ペンテノマイシンベンゾネイトの製造
無水安息香酸(262 mg, 3.10 mmol)とDMAP(9.5 mg, 0.078 mmol)をTBS-ペンテノマイシン(200 mg, 0.775 mmol)とピリジン(0.25 mL, 1.16 mmol)のTHF溶液(2.5 mL)に室温で加えた。反応溶液を同温度で1時間攪拌後、1N塩酸を加え、反応を停止した。酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 6:1 → 4:1)で精製し、TBS-ペンテノマイシンベンゾネイト(267 mg, 95%)を白色固体として得た。
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ 0.029 (s, 3H), 0.076 (s, 3H), 0.84 (s, 9H), 2.53 (s, 1H), 3.87 (q, J = 9.2 Hz, 1H), 6.05 (dd, J = 1.6, 2.6 Hz 1H), 6.51 (dd, J = 1.2, 6.2 Hz 1H), 7.437.57 (m, 2H), 7.57-7.61 (m, 1H), 7.70 (dd, J = 2.4, 6.2 Hz, 1H), 8.04-8.07 (m, 1H) ppm;
13C NMR (100 Mz, CDCl
3) δ -5.6, -5.5, 18.2, 25.8 (3C), 65.9, 74.8, 75.5, 128.7, 129.3, 130.0, 133.7, 136.3, 158.3, 166.1, 206.3; IR(neat): 1267, 1418, 1717, 3368 cm
-1.
【実施例8】
【0078】
ペンテノマイシンベンゾネイトの製造
6N HCl(3.4 mL)をTBS-ペンテノマイシンベンゾネイト(180 mg, 0.497 mmol)のTHF溶液(1.6 mL)に室温で加えた。同温度で1時間攪拌した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 1:1)で精製し、ペンテノマイシンベンゾネイト(123 mg, 100%)を白色固体として得た。
[α]
D
24 = +55.2 (c = 0.30, CHCl
3中);
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ 2.61 (t, J = 6.4 Hz, 1H), 2.98 (s, 1H), 3.83 (dd, J = 1.2, 6.4 Hz, 2H), 5.90 (dd, J = 1.6, 2.6 Hz 1H), 6.53 (dd, J = 1.2, 6.2 Hz 1H), 7.45-7.48 (m, 2H), 7.59-7.61 (m, 1H), 7.73 (dd, J = 2.8, 6.2 Hz, 1H), 8.05-8.06 (m, 1H) ppm;
13C NMR (100 Mz, CDCl
3) δ 65.5, 74.5, 128.7 (2C), 129.0, 130.1 (2C), 133.9, 135.8, 158.1, 166.5, 205.7 ppm.
【実施例9】
【0079】
ヨウドペンテノマイシンベンゾネイトの製造
ヨウ素(92.4 mg, 0.366 mmol)ペンテノマイシンベンゾネイト(70 mg, 0.282 mmol)をジクロロメタン-ピリジン溶液(2:1, 2.8 mL)に室温で加えた。同温度で1時間攪拌した後、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。クロロホルム(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 2:1)で精製し、ヨウドペンテノマイシンベンゾネイト(50.1 mg, 50%)を淡黄色粉末として得た。
[α]
D
27= +6.4 (c = 0.27, CHCl
3中);
1H NMR (400 Mz, CDCl3) δ 2.52 (brs, 1H), 3.08 (brs, 1H), 3.86 (s, 2H), 5.87 (d, J = 3.2 Hz 1H), 7.45-7.49 (m, 2H), 7.60-7.64 (m, 1H), 8.04-8.07 (m, 2H), 8.10 (d, J = 2.8 Hz 1H) ppm; IR(neat): 1262, 1725, 3242, 3413 cm
-1.
【実施例10】
【0080】
ジヒドロペンテノマイシンベンゾネイトの製造
水素雰囲気下、10%パラジウム炭素(5 mg)をペンテノマイシンベンゾネイト(26.3 mg, 0.106 mmol)のメタノール溶液に室温で加えた。同温度で1時間攪拌した後、セライト濾過でパラジウム炭素を除き、溶媒を減圧留去し、ジヒドロペンテノマイシンベンゾネイト(29.6 mg, 100%)を無色油状物質として得た。
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ 2.29-2.66 (m, 5H), 2.94 (brs, 1H), 3.71 (d, J = 11.6 Hz 1H), 3.79 (d, J = 11.6 Hz 1H), 5.61 (d, J = 2.8 Hz 1H), 7.45 (t, J = 7.6 Hz 2H), 7.58 (t, J = 7.6 Hz 1H), 7.99 (d, J = 5.6 Hz 1H) ppm;
13C NMR (100 Mz, CDCl
3) δ 24.3, 32.3, 63.9, 74.2, 81.6, 128.6, 129.6, 129.9, 133.5, 166.1, 215.0 ppm.
【実施例11】
【0081】
ペンテノマイシン-3フッ化ベンゾネイトの製造
3-フッ化安息香酸クロリド(76 μL, 0.620 mmol)をTBS-ペンテノマイシンベンゾネイト(80 mg, 0.310 mmol) とピリジン(75 μL, 0.930 mmol)のTHF溶液 (1.6 mL)に室温で加えた。同温度で一晩攪拌した後、1N塩酸を加え、反応を停止した。酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製し、得られた粗生成物(105 mg, 89%)にTHF(0.6 mL)及び6N塩酸(1.2 mL)を加え、室温で1時間攪拌した。飽和水酸化ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した後、酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧留去後に残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 1:1)で精製し、ペンテノマイシン-3フッ化ベンゾネイト(25.7 mg, 35%)を白色粉末として得た。
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ 2.55 (t, J = 6.4 Hz, 1H), 2.98 (s, 1H), 3.83 (d, J = 6.4 Hz, 2H), 5.89 (dd, J = 1.6, 2.8 Hz 1H), 6.54 (dd, J = 1.2, 6.2 Hz 1H), 7.30-7.31 (m, 1H), 7.42-7.46 (m, 1H), 7.71-7.75 (m, 2H), 7.84-7.75 (m, 1H) ppm; IR(neat): 1271, 1711, 1724. 3252, 3372 cm
-1.
【実施例12】
【0082】
ペンテノマイシン-4フッ化ベンゾネイトの製造
4-フッ化安息香酸クロリド(140 μL, 1.16 mmol)をTBS-ペンテノマイシンベンゾネイト(150 mg, 0.581 mmol)とピリジン(140 μL, 1.74 mmol)のTHF溶液(3.9 mL)に室温で加えた。同温度で一晩攪拌した後、1N塩酸を加え、反応を停止した。酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和水酸化ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製し、得られた粗生成物(200 mg, 89%)にTHF(1.2 mL)及び6N塩酸(2.4 mL)を加え、室温で1.5時間攪拌した。飽和水酸化ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した後、酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧留去後に残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 1:1)で精製し、ペンテノマイシン-4フッ化ベンゾネイト(127 mg, 90%)を白色粉末として得た。
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ 2.61 (t, J = 6.4 Hz, 1H), 3.00 (s, 1H), 3.83 (d, J = 6.0 Hz, 2H), 5.87 (dd, J = 1.6, 2.8 Hz 1H), 6.53 (dd, J = 1.2, 6.0 Hz 1H), 7.11-7.16 (m, 2H), 7.72 (dd, J = 2.8, 6.2 Hz, 1H), 8.07-8.10 (m, 2H) ppm; IR(neat): 1711, 1724, 3240, 3398 cm
-1.
【実施例13】
【0083】
フェニルペンテノマイシンの製造
ヨウ素(153 mg, 0.607 mmol)及びTBS-ペンテノマイシンベンゾネイト(200 mg, 0.552 mmol)をジクロロメタン-ピリジン溶液(2:1, 1.8 mL)に室温で加えた。同温度で1時間攪拌した後、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。クロロホルム(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 2:1)で精製し、ヨウドTBSペンテノマイシンベンゾネイト(278 mg, 99%)を褐色油状物質として得た。
炭酸カリウム(309 mg, 2.24mmol)、フェニルボロン酸(58.5 mg, 0.48 mmol)及びビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(35 mg, 0.016 mmol)をヨウドTBSペンテノマイシンベンゾネイト(156 mg, 0.32 mmol) のTHF(3.2 mL)と水(1.5 mL)の混合溶液に室温で加え、60℃で一晩攪拌した。1N塩酸を加え、反応を停止させた後、酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 4:1)で精製し、TBSフェニルペンテノマイシン(80 mg, 75%)を褐色油状物質として得た。
3M塩酸(2.4 mL)をTBSフェニルペンテノマイシン(80 mg, 0.239 mmol)に室温で加えた。同温度で1時間攪拌した後、飽和水酸化ナトリウム水溶液で反応を停止させた。酢酸エチル(2 × 10 mL)で分液操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧留去後に残った残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製し、フェニルペンテノマイシン(33.8 mg, 64%)を白色粉末として得た。
1H NMR (400 Mz, CDCl
3) δ 2.36 (q, J = 4.0 Hz, 1H), 2.94 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 3.60 (s, 1H), 3.74 (dd, J = 8.8, 11.6 Hz, 1H), 3.89 (dd, J = 4.0, 11.6 Hz, 1H), 4.76 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 7.40-7.44 (m, 2H), 7.73-7.75 (m, 3H) ppm.