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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】樹脂成形体及び樹脂製品
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/20 20060101AFI20230131BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20230131BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20230131BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20230131BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
A01M1/20 C
A01N25/18 102Z
A01N53/06 110
A01P7/04
A01N25/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018245394
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105110
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】水谷 理人
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/065150(WO,A1)
【文献】特開平05-068459(JP,A)
【文献】特開平04-120002(JP,A)
【文献】後藤宏明, 外1名,「汚染防止性を付与した機能性フィルム」,塗料の研究,日本,1998年10月,131号,p.51-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体と、前記樹脂成形体から揮散した前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を通過させつつ前記樹脂成形体を収納する収納容器とを備えた樹脂製品であって、
前記樹脂成形体は、ポリオレフィン系樹脂及びオレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体を含み、前記ポリオレフィン系樹脂と前記共重合体との重量比が1:0.5~8であり、
前記樹脂成形体は、水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°である、樹脂製品。
【請求項2】
前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、トランスフルトリン又はメトフルトリンである、請求項1に記載の樹脂製品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体及び該樹脂成形体と該樹脂成形体を収納する収納容器とを備えた樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体が知られている。このような樹脂成形体によれば、樹脂成形体の表面にブリードしたピレスロイド系防虫成分が周囲に揮散されるため、害虫を忌避し又はノックダウンすることができる。
【0003】
特許文献1及び2に記載されているように、この種の樹脂成形体は、ピレスロイド系防虫成分が通過可能な開口が形成された収納容器に収納されて、樹脂製品として提供されている。該収納容器は、通常、吊り下げ用のフック部を備えており、例えば、ドアノブ、カーテンレール、物干し竿等に吊り下げられて使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-132216号公報
【文献】特開2016-54653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、前記樹脂成形体は、使用時において、前記収納容器の開口を通して周囲の環境に曝された状態となるため、表面に埃や汚れが付着することがあり、これによって、防虫成分の揮散が減少してしまい、防虫効果が低下するという問題点を有している。特に、樹脂成形体が屋外で使用される場合、雨や埃などによって表面が汚れ易くなるため、防虫成分の揮散がさらに減少するおそれがある。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂成形体及び樹脂製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、樹脂成形体の接触角が防虫成分の揮散に影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る樹脂成形体は、
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体であって、
水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°である。
【0009】
斯かる構成によれば、水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°であることによって、ピレスロイド系防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る。
【0010】
また、本発明に係る樹脂成形体は、
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、トランスフルトリン又はメトフルトリンであってもよい。
【0011】
斯かる構成によれば、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が、トランスフルトリン又はメトフルトリンであることによって、より優れた防虫効果を発揮し得る。
【0012】
本発明の樹脂製品は、
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する樹脂成形体と、前記樹脂成形体から揮散した前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を通過させつつ前記樹脂成形体を収納する収納容器とを備えた樹脂製品であって、
前記樹脂成形体が、上記構成のいずれかの樹脂成形体である。
【0013】
斯かる構成によれば、防虫成分の揮散の減少が抑えられ、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂製品が提供され得る。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、防虫成分の揮散の減少が少なく、優れた防虫効果を発揮し得る樹脂成形体及び樹脂製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂成形体について説明する。
【0016】
本実施形態に係る樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と常温揮散性ピレスロイド系防虫成分とを含有しており、水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°である。水の接触角は、84~92°であることがより好ましく、84~90°であることがより一層好ましい。また、流動パラフィンの接触角は、20~25°であることがより好ましい。
【0017】
接触角は、接触角計(協和界面科学株式会社製、型番:自動接触角計DM-501、解析ソフトウェア:FAMAS(Interface Measurement and Analysis System))を用いて測定され、接線法により算出される。
接触角を測定するための検体は、樹脂成形体を、混練機(例えば、LABO PLASTOMILL 4C150-01、株式会社東洋精機製作所製)を使用して160℃で5分間溶融混練後、アルミ板でサンドイッチ状に挟み、プレス機(例えば、型番:AYSR-5、株式会社神藤金属工業所製)を使用して160℃にて、50kg/cmの圧力で180秒、続いて100kg/cmの圧力で180秒プレスして15cm×15cmのシート状(厚み0.5mm)に成形し、5×7cmの大きさに切り出したものとする。
測定に使用する水は、イオン交換水(25℃における比抵抗が15MΩ・cm)とする。また、測定に使用する流動パラフィンは、37.8℃における動粘度が72.28~78.75mm/sのものとする。このような流動パラフィンとしては、流動パラフィンNo.350-S(三光化学工業株式会社製)が挙げられる。
接触角測定時、イオン交換水及び流動パラフィンの滴下量は、いずれの場合も2μLとする。接触角は、蒸留水の場合には滴下後3秒(3000ミリ秒)の時点、流動パラフィンの場合には滴下後31秒(31000ミリ秒)の時点に測定されて算出された値とする。測定回数は、検体ごとに滴下ポイントを変えた3回とし、3回の測定値の相加平均値を樹脂成形体の接触角とする。測定環境は、温度20±3℃及び湿度55±5%に調整された環境とする。
【0018】
熱可塑性樹脂は、従来公知のものが使用され得る。熱可塑性樹脂は、接触角が上記値に設定され得るという観点から、ポリオレフィン系樹脂、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体、ナイロン、又はこれらの混合物が好ましく、ポリオレフィン系樹脂、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体、又はこれらの混合物がより好ましい。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン単量体を主なモノマー成分とする樹脂である。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂(PE)、及びポリプロピレン系樹脂(PP)が挙げられる。
【0020】
オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の場合は、ポリオレフィン単量体を主なモノマー成分とし、カルボン酸エステル単量体をモノマー単位として含有する重合体である。
カルボン酸エステル単量体の含有量は、好ましくは、共重合体の全重量に対して1~25重量%である。カルボン酸エステル単量体の含有量が小さいほど、共重合体の親水性が低下(親油性が向上)するため、樹脂成形体の水の接触角が大きくなり、流動パラフィンの接触角が小さくなり得る。また、カルボン酸エステル単量体の含有量が大きいほど、共重合体の親水性が向上(親油性が低下)するため、樹脂成形体の水の接触角が小さくなり、流動パラフィンの接触角が大きくなり得る。
【0021】
カルボン酸エステル単量体としては、カルボン酸ビニルエステル及び不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。
カルボン酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル等の低級脂肪酸のビニルエステルが挙げられる。また、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸の低級アルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸の低級アルキルエステルが挙げられる。
【0022】
カルボン酸ビニルエステル単量体をモノマー単位として含有するポリエチレン系共重合体としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)が挙げられる。また、不飽和カルボン酸エステル単量体をモノマー単位として含有するポリエチレン系共重合体としては、例えば、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、及びエチレン-メタクリル酸エチル共重合体が挙げられる。
【0023】
カルボン酸エステル単量体をモノマー単位として含有するポリプロピレン系共重合体としては、例えば、プロピレン-アクリル酸メチル共重合体、プロピレン-アクリル酸エチル共重合体、プロピレン-アクリル酸ブチル共重合体、プロピレン-メタクリル酸メチル共重合体、及びプロピレン-メタクリル酸エチル共重合体が挙げられる。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂と、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体との混合物(ポリマーブレンド)としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンド、エチレン-アクリル酸メチル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンド、エチレン-アクリル酸エチル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンド、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンド、及びエチレン-メタクリル酸エチル共重合体とポリエチレンとのポリマーブレンドが挙げられる。
この場合、ポリオレフィン系樹脂と、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体との混合重量比は、1:0.5~8が好ましく、1:0.9~8がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂に対して、オレフィンとカルボン酸エステルとの共重合体の比率が大きいほど、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が大きくなり得る。
【0025】
ナイロンは、ポリアミド樹脂の総称として定義され、より具体的には、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン、7-ナイロン、9-ナイロン、11-ナイロン等が挙げられ、6-ナイロン又は6,6-ナイロンが好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂は、塩化ビニル系樹脂であってもよい。塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単量体を主なモノマー成分とする樹脂である。塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独の重合体であってもよく、塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体であってもよく、又はこれらの混合物であってもよい。
【0027】
塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な単量体との共重合体としては、例えば、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル-スチレン-酢酸ビニル三元共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体への塩化ビニルグラフト共重合体が挙げられる。
【0028】
熱可塑性樹脂は、上記樹脂の他、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリアミド(6-ナイロン、6,6-ナイロン等のナイロン)等を含有していてもよい。
【0029】
熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂成形体の全重量に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは75重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。
【0030】
本実施形態の樹脂成形体は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有している。常温揮散性とは、Donovan法による25℃における蒸気圧が1.33×10-4Pa(1×10-6mmHg)以上であること意味する。常温揮散性ピレスロイド系防虫成分は、揮散性能の観点から、25℃における蒸気圧が0.1Pa以下であるものが好ましい。具体的には、トランスフルトリン(蒸気圧(25℃)3.5×10-3Pa)、メトフルトリン(蒸気圧(25℃)1.8×10-3Pa)、エンペントリン(蒸気圧(25℃)0.02Pa)、プロフルトリン(蒸気圧(25℃)0.01Pa)等が挙げられる。
尚、Donovan法とは、New method for estimating vapor pressure by the use of gas chromatography : Journal of Chromatography A. 749 (1996) 123-129 にてStephen F. Donovan 氏によって報告された方法である。本明細書において、特に断らない限り、蒸気圧の値はDonovan法による25℃における値である。
【0031】
尚、ピレスロイド系化合物には光学異性体又は幾何異性体等の異性体が存在するが、いずれの異性体も使用され得る。また、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分は、複数の種類の成分が含有されてもよい。
【0032】
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有量は、樹脂成形体の全重量に対して、通常0.1~20重量%、好ましくは0.1~15重量%、より好ましくは4~15重量%である。
【0033】
本実施形態の樹脂成形体は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の他に、共力剤、忌避剤、抗菌剤、防黴剤、芳香剤・消臭剤、香料等の成分を含んでいてもよい。
【0034】
本実施形態では、接触角が上記値に設定され得るという観点から、無機充填剤が含有されてもよい。無機充填剤としては、シリカ又は炭酸カルシウムが好ましい。シリカは、疎水性シリカであってもよく、親水性シリカであってもよい。疎水性シリカとしては、例えば、AEROSIL(登録商標)90G(日本エアロジル株式会社製)が挙げられる。また、親水性シリカとしては、例えば、カープレックス(登録商標)#80シリカ(EVONIK社製)が挙げられる。シリカが疎水性シリカであることによって、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が大きくなり得る。また、シリカが親水性シリカであることによって、樹脂成形体の水及び流動パラフィンの接触角が小さくなり得る。炭酸カルシウムとしては、例えば、NN#200(日東粉化工業株式会社製)及びNN#500(日東粉化工業株式会社製)が挙げられる。通常、炭酸カルシウムは親水性であるため、樹脂成形体に含有されることによって、樹脂成形体の水の接触角が小さくなり得る。
【0035】
無機充填剤の含有量は、樹脂成形体の全重量に対して、通常0.5~10重量%、好ましくは1~5重量%である。
【0036】
本実施形態では、樹脂成形体に種々の性能を付与するための成分として、酸化防止剤や紫外線吸収阻害剤等の安定剤、可塑剤、軟化剤、粘度調節剤、防汚剤、顔料、染料、脱臭剤、芳香剤、香料、展着剤、防錆剤、滑剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、帯電防止剤、加硫剤、加硫促進剤、架橋剤、発泡剤、有機充填剤等が含有されていてもよい。
【0037】
次に、本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法について説明する。
【0038】
本実施形態の樹脂成形体は、例えば、熱可塑性樹脂に常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を練り込んで成形することによって、又は、熱可塑性樹脂を所定の形状に成形した後に常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を塗布したり含浸させたりすることによって製造することができる。
【0039】
例えば、熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤等の他の成分を、通常60~220℃の温度に調整した単軸押出機又は二軸押出機等の押出機により溶融・混練することによって樹脂組成物を調製し、該樹脂組成物を通常60~220℃の温度で射出成形等により所定の形状に成形することによって製造することができる。
成形方法としては、射出成形の他、押出成形、プレス成形、真空成形等を用いることもできる。
【0040】
接触角の調整方法としては、まず、熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤等の他の成分をある割合で混錬し、基準としての樹脂成形体を作製する。次に、基準としての樹脂成形体の接触角を算出し、水又は流動パラフィンに対する接触角が上記範囲から外れている場合は、上記した熱可塑性樹脂、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及び無機充填剤それぞれの接触角に及ぼし得る性質を考慮して、それらの割合又は種類を適宜変更し、接触角を調節すればよい。
【0041】
次に、本発明の一実施形態に係る樹脂製品について説明する。
【0042】
本実施形態に係る樹脂製品は、上記樹脂成形体と、該樹脂成形体から揮散した常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を通過させつつ該樹脂成形体を収納する収納容器とを備えている。
【0043】
収納容器は、樹脂成形体から揮散した常温揮散性ピレスロイド系防虫成分が通過可能な開口を有している。また、収納容器は、害虫を忌避等させたい場所に設置するためのフック部や面ファスナー等を備えている。このような収納容器としては、従来公知のものが使用され得る。
【0044】
次に、本実施形態に係る樹脂製品の使用方法について説明する。
【0045】
本実施形態の樹脂製品を設置する方法としては、床に置いたり、天井から吊り下げたり、網戸に貼り付けたりする方法が挙げられる。
本実施形態の樹脂製品が使用される場所としては、例えば、玄関の外側等の家屋の外部;寝室、居間、台所等の家屋内部;犬小屋、ウサギ小屋等のペット小屋;ベランダ、浄化槽内部;マンホールの蓋の下;キャンプ場や公園におけるテントの出入口、テント周辺、テント内部;バーベキュー、釣り、ハイキング、ガーデニング等の野外活動場所とその周辺部;工場や作業場における出入口、排気口、電灯等の周辺;厩、牛舎、鶏舎、豚舎等の畜舎、などが挙げられる。
【0046】
本実施形態の樹脂製品は、例えば、以下に示される害虫の忌避又はノックダウンに用いることができる。
半翅目害虫:ヒメトビウンカ(Laodelphax striatellus)、トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)、セジロウンカ(Sogatella furcifera)等のウンカ類、ツマグロヨコバイ(Nephotettix cincticeps)、タイワンツマグロヨコバイ(Nephotettix virescens)等のヨコバイ類、アブラムシ類、カメムシ類、コナジラミ類、カイガラムシ類、グンバイムシ類、キジラミ類等;
鱗翅目害虫:ニカメイガ(Chilo suppressalis)、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)、ノシメマダラメイガ(Plodia interpunctella)等のメイガ類、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、アワヨトウ(Pseudaletia separata)、ヨトウガ(agrotis segetum)等のヨトウ類、モンシロチョウ(Pieris rapae)等のシロチョウ類、チャノコカクモンハマキ(Adoxophyes honmai)、リンゴコカクモンハマキ(Adoxophyes orana)等のハマキガ類、シンクイガ類(Carposinidae)、ハモグリガ類(Lyonetiidae)、ドクガ類(Lymantriidae)、ウワバ類(Autographa)、カブラヤガ(Agrotis segetum)及びタマナヤガ(Agrotis ipsolon)等のアグロティス属(Agrotis spp.)、ヘリコベルパ属(Helicoverpa spp.)、へリオティス属(Heliothis spp.)、コナガ(Plutella xylosttella)、イチモンジセセリ(Parnara guttata)、イガ(Tinea translucens)、コイガ(Tineola bisselliella)等;
【0047】
双翅目害虫:アカイエカ(Culex pipiens pallens)、コガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)、ネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)、チカイエカ(Culex pipiens molestus)等のイエカ類、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)等のエーデス属、オオクロヤブカ(Armigeres subalbatus)等のアルミゲレス属、シナハマダラカ(Anopheles sinensis)、コガタハマダラカ(Anopheres minimus)、ガンビアハマダラカ(Anopheles gambiae)等のハマダラカ類、サシバエ類、ヌカカ類、ユスリカ類、イエバエ(Musca domestica)、オオイエバエ(Muscina stabulans)等のイエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、タネバエ(Delia platura)、ヒメイエバエ(Fannia canicularis)、タマネギバエ(Delia antiqua)等のハナバエ類、ミバエ類、ショウジョウバエ類、オオチョウバエ(Clogmia albipunctata)チョウバエ類、ブユ類、アブ類等;
膜翅目害虫:アリ類、スズメバチ類、アリガタバチ類、カブラハバチ(Athalia rosae)等のハバチ類等。
【0048】
尚、本発明に係る樹脂成形体及び樹脂製品は、上記の通りであるが、本発明の樹脂成形体及び樹脂製品は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【0050】
(製造例)
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、共重合体の全重量に対する酢酸ビニルの割合:20%、商品名:エバテートH4011、住友化学株式会社製)75重量部とポリエチレン(PE、スミカセンFV405、住友化学株式会社製)13重量部とを混練機(LABO PLASTOMILL 4C150-01、株式会社東洋精機製作所製)を使用して、160℃、50rpmで1分間混練し、続いて、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分としてトランスフルトリン(商品名:バイオスリン、住友化学株式会社製)10重量部と無機充填剤としてシリカ(商品名:カープレックス#80、EVONIK社製)2重量部とを投入し、160℃、60rpmで5分間混練した。混練終了後、混錬物を取り出し、アルミ板でサンドイッチ状に挟み、プレス機(型番:AYSR-5、株式会社神藤金属工業所製)で160℃にて、50kg/cmの圧力で180秒、続いて100kg/cmの圧力で180秒プレスしてシート状に成形し(厚み0.5mm)、5×7cmの大きさに切り出し、実施例1の検体とした。
また、表1に示す配合割合とした以外は実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1~4の検体を作成した。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示す各検体の接触角を上記した方法により測定した。結果を表2に示す。
【0053】
(評価方法)
下記埃の付着方法により埃を付着させて調製した埃有りの検体、及び、埃無しの検体(製造例で得られた検体そのもの)について、下記方法により防虫効果を観察した。
[埃を付着させる方法]
埃としてのタルクを各検体に付着させることによって、埃有りの検体を調製した。具体的には、検体をトレイに入れ、茶こしを使用して埃としてのタルク約500mgを表面に均一に振りかけた後、ピンセットで検体を持ち上げ、検体の角でトレイを軽く3回叩いて余分なタルクを落とし、埃有りの検体を調製した。
[防虫効果の観察]
直径10cm、高さ1.6cmのアルミ皿内に検体を設置した。次に、直径10cm、高さ4.4cmのポリカップ内にアカイエカ10匹を放ち16メッシュの網で蓋をし、アルミ皿の上に被せて試験開始とした。アカイエカを観察し、下記式1)により算出される15分経過後ノックダウン(KD)率、及びKT50値(供試したアカイエカのうち半数がノックダウンするまでにかかる時間)を求めた。
また、試験開始15分の時点で、網で蓋をしたポリカップを回収し、5%砂糖水を含ませた綿をアカイエカの餌としてポリカップ内に入れ、25℃環境下に3日間静置した後、下記式2)により算出される3日後苦死虫率(3日後に苦死したアカイエカの割合)を求めた。
式1) 15分経過後KD率(%)=[15分後にノックダウンしたアカイエカの数]/[供試したアカイエカの数]×100
式2) 3日後苦死虫率(%)=[3日後に苦死したアカイエカの数]/[供試したアカイエカの数]×100
[評価基準1]
[埃有りの検体のKT50値]/[埃無しの検体のKT50値]×100により算出される値が、70より大きい場合、防虫効果が維持されていると評価し(○)、70以下の場合、防虫効果が維持されていないと評価した(×)。
[評価基準2]
[埃有りの検体の3日後苦死虫率]/[埃無しの検体の3日後苦死虫率]×100により算出される値が、100より大きい場合、防虫効果が維持されていると評価し(○)、100以下の場合、防虫効果が維持されていないと評価した(×)。
結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示すように、実施例の検体は、水の接触角が84~95°であり、且つ、流動パラフィンの接触角が20~30°であることによって、埃(タルク)が付着して表面が汚れた状態であっても、防虫成分の揮散の減少が抑えられており、優れた防虫効果を発揮することが示された。一方、比較例の検体は、水又は流動パラフィンの接触角の少なくともいずれか一方が上記範囲から外れており、実施例の検体よりも防虫効果が劣ることが示された。
接触角が防虫成分の効力に影響する要因としては、接触角が上記範囲であることによって、樹脂成形体の表面にブリードした防虫成分が、該表面上において揮散し易い状態を保つことができるためであると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、害虫が侵入し得る場所に設置され、害虫が付着し得る箇所に装着されること等によって、それらの場所等において害虫を忌避又はノックダウンするために利用することができる。