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特許7218903竹材の防虫防カビ処理方法及び当該処理をした竹材製品並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】竹材の防虫防カビ処理方法及び当該処理をした竹材製品並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 9/00 20060101AFI20230131BHJP
   B27N 3/06 20060101ALI20230131BHJP
   B27N 3/02 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
B27K9/00 K
B27N3/06 A
B27N3/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019006097
(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公開番号】P2020114638
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】304049075
【氏名又は名称】株式会社タケックス・ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】清岡 ▲高▼敏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 久幸
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-79246(JP,A)
【文献】特開2018-119292(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103034(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N 1/00 - 9/00
B27J 1/00 - 1/02
B27K 1/00 - 9/00
B27L 1/00 - 3/00
B27L 7/00 - 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹材を発酵菌叢により好気発酵させpHを8.0以上のアルカリ性とする竹材の防虫防カビ処理方法。
【請求項2】
竹由来の酵母と芽胞菌と放線菌と腸内細菌とを少なくとも含む前記発酵菌叢により堆積状態の前記竹材を好気発酵させることを特徴とする請求項1に記載の竹材の防虫防カビ処理方法。
【請求項3】
伐採された竹を破砕機に供給し30mm~50mm角のスクリーンを通過可能な平均長10~30mmの破砕片とし、同破砕片を粉砕機に供して直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とが混在した混合粉砕物とすると共に、この混合粉砕物を前記竹材として請求項1又は請求項2に記載の防虫防カビ処理方法に供し、その後乾燥させて微巻縮を備えたパーティクルボード用竹チップとすることを特徴とするパーティクルボード用竹チップの製造方法。
【請求項4】
含水率45%換算における糖度が6%以下であり、pHが8.5以上のアルカリ性であって、柔細胞の加熱乾燥変性により生じた微巻縮を備えることを特徴とするパーティクルボード用竹チップ。
【請求項5】
請求項4に記載のパーティクルボード用竹チップと樹脂バインターとの混合原料の加熱加圧成形物よりなるパーティクルボード。
【請求項6】
10重量部の前記パーティクルボード用竹チップのうち少なくとも9重量部が直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と、直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とよりなり、前記針状粗繊維体と前記微粉細片との重量割合が9:1~6:4であって、前記針状粗繊維体で形成された中間層と、同中間層の表裏両側に前記微粉片で形成された化粧層とを備える多層構造としたことを特徴とする請求項5に記載のパーティクルボード。
【請求項7】
前記中間層及び/または化粧層には、杉チップが含まれていることを特徴とする請求項6に記載のパーティクルボード。
【請求項8】
竹材を発酵菌叢により好気発酵させpHを8.0以上のアルカリ性とし、かかる処理をした竹材により製造した竹かごや竹工芸品や運動器具などの竹材を原料とした竹製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹材の防虫防カビ処理方法及び当該処理をした竹材製品並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般のパーティクルボードは、木材その他の植物繊維質の小片(パーティクル)を接着用樹脂成分と共に成形し、一定の面積と厚さに加熱プレス(熱圧成形)してできた板状製品であり、日本のみならず、韓国や台湾をはじめとするアジア諸国で、建材として床や壁などの下地材等に広く使用されている。
【0003】
特に、木質系パーティクルボードは、廃棄される木材片や木質繊維を有効利用できる技術であり、異方性が少なくて加工性に優れる等利点を有する。しかしながら、木質系パーティクルボードは、一般的には挽き板に比べて強度が充分でなく、吸水時あるいは吸湿・乾燥時の寸法変化が大きい。特に、MDFなどの木質繊維を使用したパーティクルボードでは、十分な強度が得られにくく、さらには寸法安定性が不十分であり、使用環境によっては反りを生じるなどの問題があった。
【0004】
かかる木質系のパーティクルボードの問題点を可及的に解消するために竹材の使用することが考えられる。
【0005】
特に、近年の放置竹林の増加に伴い、竹を資源として有効に利用する方法が求められており、竹をパーティクルボードの原材料として使用する種々の提案がなされている。
【0006】
例えば特許文献1には、竹材を高温高圧水蒸気の存在下で蒸煮する乾留を行った後に、蒸煮された竹材を、常圧下で常温を越える温度下で解繊することで製造される竹繊維がパーティクルボード等の繊維板に適していることが開示されている。
【0007】
また特許文献2には、竹チップに対してホルムアルデヒド系接着剤、シランカップリング材及び水を加えて攪拌混合して得られる混合物を熱間プレス機で一定の温度に加熱しつつ圧縮成形する竹製パーティクルボードの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-193405号公報
【文献】特許第2502903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように竹材を利用することにより豊富な竹原料を安価に入手でき、加工も木材片に比し比較的簡単であり、竹材の普及は木材にとって変わる材料として注目されて久しい。
【0010】
しかし、竹材は、水分をはじめ糖類やでんぷんなどの多糖類(以下、総称して糖質ともいう。)を比較的多く含む草本性の植物であり、伐採後、板材の如き建築材料の状態に加工した場合、カビたり、シロアリによる食害の対象となりやすいという木材に比し決定的な欠陥問題があった。
【0011】
それゆえ、上記従来の竹製パーティクルボードも、使用環境によってはカビやシロアリが発生してしまい実用的に普及しがたく特に長期的に耐久性を望むことができないという問題を有していた。
【0012】
また、竹は維管束が密に集合した極めて高い強度を有する素材であるものの、竹のパーティクル(以下、竹チップという。)と樹脂バインダーとを混合して竹製パーティクルボードの混合原料を調製した際に、竹チップへの樹脂バインダーの含浸性が低く、個々の竹チップ自体を複合材として機能させるのが困難という問題があった。
【0013】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、竹材そのものの原料の食害防止を可能とし、特にカビの発生やシロアリによる食害の対象となりにくい処理をし、かかる竹材処理を施して製造した竹材加工製品、例えば竹製パーティクルボードなどの竹製品とした場合に食害により耐久性を損なうなく長期間の保存ができ将来の木材に代わる原料として竹材を全世界に普及させる契機となり竹材の技術改良を世界標準技術となるような竹材の防虫防カビ処理方法を提供するものである。
【0014】
また本発明では、このような竹材のカビ、シロアリ食害防止処理を行うことによりかかる竹材を用いた各種製品、例えば、竹チップや当該竹チップを用いた竹製パーティクルボード等の製品及びこれらの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る竹材の防虫防カビ処理方法では、(1)竹材を発酵菌叢により好気発酵させpHを8.0以上のアルカリ性とすることとした。
【0016】
また、本発明に係る竹材の防虫防カビ処理方法では、(2)竹由来の酵母と芽胞菌と放線菌と腸内細菌とを少なくとも含む前記発酵菌叢により堆積状態の前記竹材を好気発酵させることにも特徴を有する。
【0017】
また、本発明に係るパーティクルボード用竹チップの製造方法では、(3)伐採された竹を破砕機に供給し30mm~50mm角のスクリーンを通過可能な平均長10~30mmの破砕片とし、同破砕片を粉砕機に供して直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とが混在した混合粉砕物とすると共に、この混合粉砕物を前記竹材として前述の(1)又は(2)に記載の防虫防カビ処理方法に供し、その後乾燥させて微巻縮を備えたパーティクルボード用竹チップとすることとした。
【0018】
また、本発明に係るパーティクルボード用竹チップでは、(4)含水率45%換算における糖度が6%以下であり、pHが8.5以上のアルカリ性であって、柔細胞の加熱乾燥変性により生じた微巻縮を備えることとした。
【0019】
また、本発明に係るパーティクルボードでは、(5)上述した(4)に記載のパーティクルボード用竹チップと樹脂バインターとの混合原料の加熱加圧成形物よりなることとした。
【0020】
また、本発明に係るパーティクルボードでは、以下の点にも特徴を有する。
(6)10重量部の前記パーティクルボード用竹チップのうち少なくとも9重量部が直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と、直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とよりなり、前記針状粗繊維体と前記微粉細片との重量割合が9:1~6:4であって、前記針状粗繊維体で形成された中間層と、同中間層の表裏両側に前記微粉片で形成された化粧層とを備える多層構造としたこと。
(7)前記中間層及び/または化粧層には、杉チップが含まれていること。
【0021】
また、本発明に係る竹製品では、(8)竹材を発酵菌叢により好気発酵させpHを8.0以上のアルカリ性とし、かかる処理をした竹材により製造した竹かごや竹工芸品や運動器具などの竹材を原料とした。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る竹材の防虫防カビ処理方法によれば、竹材を発酵菌叢により好気発酵させpHを8.0以上のアルカリ性とすることとしたため、カビの発生やシロアリによる食害の対象となりにくく、従来に比して高強度の竹製パーティクルボード等を製造することができ、更にはこれらパーティクルボード等の食害腐食を防止可能な竹材の防虫防カビ処理方法を提供することができる。
【0023】
特に、このメカニズムについてアルカリ発酵による竹材の低糖化とアルカリ化の観点から考察すると、まずシロアリ等の如き昆虫に対しては、アルカリ発酵に伴う竹材の低糖化により、シロアリの栄養源として適切でなくなり、食害の対象外となるためであると思われる。すなわち、糖類を豊富に含んだ竹材はシロアリの食害対象となり得るが、糖類を殆ど含まない低糖化された竹材はシロアリにとって栄養源としての利用価値が低く、食害の対象外になると思われる。またその結果、増殖の連鎖が絶たれシロアリ個体群(コロニー)の縮小化に寄与するものと考えられる。
【0024】
また、竹材のアルカリ化の影響については、詳細は不明であるが、おそらく嗜好に関与しているためであると考えられる。
【0025】
一方、カビに対しては、アルカリ発酵に伴う竹材の低糖化により、資化できる糖類が少なくなるため生育が鈍り、カビの繁殖が抑制されるものと考えられる。また、カビは弱酸性が至適pHであり、アルカリ側での生育は元来不得手であるため、竹材のアルカリ化によっても繁殖が抑制されるものと思われる。
【0026】
また、竹由来の酵母と芽胞菌と放線菌と腸内細菌とを少なくとも含む前記発酵菌叢により堆積状態の前記竹材を好気発酵させることとすれば、竹材中の糖やデンプンの含量を低減させる資化糖質低減処理や、竹材のpHを8.5以上のアルカリ性に変化させるpH変化処理をより堅実に行わせることができ竹材に対し更に効果的な防虫防カビ作用を付与することができる。
【0027】
すなわち、まず第1のステップとして竹材に対し酵母やカビ等の真菌類や芽胞菌が糖類を分解し、第2のステップとして腸内細菌群により発酵が促進されると共に糖が消費され、第3のステップとして発酵の結果生じたアミノ酸が発酵に伴って利用され、第4のステップとして窒素を含むアミノ酸が分解されることでpHをアルカリ性に変化させ、堅実な資化糖質低減処理がpH変化処理が成されることとなる。
【0028】
また、本発明に係るパーティクルボード用竹チップの製造方法によれば、伐採された竹を破砕機に供給し30mm~50mm角のスクリーンを通過可能な平均長10~30mmの破砕片とし、同破砕片を粉砕機に供して直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とが混在した混合粉砕物とすると共に、この混合粉砕物を前記竹材として前述の防虫防カビ処理方法に供し、その後乾燥させて微巻縮を備えたパーティクルボード用竹チップとすることしたため、パーティクルボードの製造に適した大きさで、従来に比して高強度の竹チップ含有パーティクルボードを製造可能であり、しかも防虫防カビ処理が施された竹チップを得ることができる。
【0029】
特に、微巻縮が形成された混合粉砕物は、針状粗繊維体と微粉細片とが相互に微巻縮を介して絡み合い、パーティクルボードの成型時に使用する樹脂と相俟って微巻縮がフィラーの如く振る舞うため、パーティクルボードの強度を向上させることが可能となる。
【0030】
また、本発明に係るパーティクルボード用竹チップによれば、含水率45%換算における糖度が6%以下であり、pHが8.5以上のアルカリ性であって、柔細胞の加熱乾燥変性により生じた微巻縮を備えることとしたため、カビの発生やシロアリによる食害の対象となりにくく、従来に比して高強度のパーティクルボード用竹チップを提供することができる。また、柔細胞の加熱乾燥変性により生じた微巻縮を備えることとすれば、この微巻縮によって竹チップ同士の相互の絡み合いが促進され、強固な結合に由来するパーティクルボードの高強度化を図ることができる。
【0031】
特に、微巻縮はアルカリ化による解れが促進されており、前述の如く、相互に柔軟に絡み合った微巻縮は、パーティクルボードの成型時に使用する樹脂と相俟ってフィラーの如く振る舞うため、パーティクルボードの強度を向上させることが可能となる。
【0032】
また、本発明に係るパーティクルボードによれば、上述のパーティクルボード用竹チップと樹脂バインターとの混合原料の加熱加圧成形物よりなることとしたため、カビの発生やシロアリによる食害の対象となりにくく、従来に比して高強度の竹チップ含有パーティクルボードとすることができる。
【0033】
また、10重量部の前記パーティクルボード用竹チップのうち少なくとも9重量部が直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と、直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とよりなり、前記針状粗繊維体と前記微粉細片との重量割合が9:1~6:4であって、前記針状粗繊維体で形成された中間層と、同中間層の表裏両側に前記微粉片で形成された化粧層とを備える多層構造とすれば、見栄えが良く、強度の高いパーティクルボードを提供することができる。
【0034】
また、前記中間層及び/または化粧層には、杉チップが含まれていることとすれば、杉チップに含まれる香気成分によりカビの忌避効果を発揮させることができ、パーティクルボードの生物耐性をさらに高めることができる。
【0035】
また、本発明に係る竹製品では、竹材を発酵菌叢により好気発酵させpHを8.0以上のアルカリ性とし、かかる処理をした竹材により製造した竹かごや竹工芸品や運動器具などの竹材を原料とした製品を得ることとしたので、カビの発生やシロアリによる食害の対象となりにくく、耐久性に優れた竹製品とすることができる。
【0036】
また例えば、樹脂を使用して竹材を圧縮成形することにより製品を得た場合には、アルカリ化により柔軟性が付与された竹材の微巻縮同士が絡み合い、樹脂と一体的に強固な結合構造を形成するため、強度に優れた竹製品とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】竹チップのアルカリ発酵における温度及び含水率の変化を示したグラフである。
図2】竹チップのアルカリ発酵における糖度、でんぷん含量及びpHの変化を示したグラフである。
図3】竹チップのアルカリ発酵における各菌の優劣を示した説明図である。
図4】アルカリ発酵ボード及びアルカリ剤ボードの防カビ試験結果を示す表である。
図5】アルカリ発酵ボード及びアルカリ剤ボードのシロアリ食害評価試験結果を示す表である。
図6】アルカリ発酵ボード及びアルカリ剤ボードの耐腐朽評価試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、カビの発生やシロアリによる食害の対象となりにくく、従来に比して高強度の竹製品、例えば竹製パーティクルボード等を製造可能な竹材の防虫防カビ処理方法を提供するものである。
【0039】
特に、本実施形態に係る竹材の防虫防カビ処理方法の特徴的な構成としては、竹材のpHを8.5以上のアルカリ性とする点が挙げられる。
【0040】
pHを8.5以上のアルカリ性とする手法は特に限定されるものではないが、例えば、竹材と混合することでアルカリ性を呈する薬剤を添加する方法(以下、アルカリ剤添加法ともいう。)や、竹材を発酵によりアルカリ性とする方法(以下、アルカリ発酵法ともいう。)が挙げられ、それぞれに長所がある。
【0041】
例えばアルカリ剤添加法によれば、アルカリ発酵法に比して短時間で防虫防カビ処理を行うことが可能である。
【0042】
また、アルカリ発酵法は、アルカリ発酵に伴って竹材をアルカリ性にできるのは勿論のこと、この発酵と同時に竹材に含まれている糖質が消費されることとなるため、虫による食害やカビの生育のための栄養源となる糖質を低減させることができる。
【0043】
付言すると、本発明者らの鋭意研究によれば、竹材に防虫防カビ処理を施すにあたり、竹材のpHをアルカリ性とすること(アルカリ変化処理)と共に、竹材中に含まれる糖質を低減すること(資化糖質低減処理)も防虫防カビに寄与することを見出しており、アルカリ発酵法によれば、竹材をアルカリ発酵に供することで、アルカリ変化処理と資化糖質低減処理とを同時に行うことができ、作業を簡潔なものとすることができる。なお、先述のアルカリ剤添加法の場合には、必要に応じて別途資化糖質低減処理を施す。
【0044】
本実施形態に係る竹材の防虫防カビ処理方法にて処理された竹材は、アルカリ剤添加法とアルカリ発酵法とのいずれの処理が行われたかに拘わらず、防虫防カビ作用が要求される様々な用途において使用可能であり、特に竹製のパーティクルボード等の製造において好適に使用することができる。
【0045】
竹製のパーティクルボードは、例えば、伐採竹を破砕・粉砕等に供して得たパーティクルボード用竹チップと樹脂バインターとの混合原料の加熱加圧成形物よりなるパーティクルボードが挙げられる。
【0046】
アルカリ発酵法を採用したパーティクルボード用竹チップやその製造方法の具体的な一例としては、伐採された竹を破砕機に供給し30mm~50mm角のスクリーンを通過可能な平均長10~30mmの破砕片とし(破砕工程)、同破砕片を粉砕機に供して直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とが混在した混合粉砕物とする(粉砕工程)と共に、この混合粉砕物を前記竹材として本実施形態に係る防虫防カビ処理方法、特にアルカリ発酵法に供し混合粉砕物中の糖やデンプンの含量を低減させる資化糖質低減処理を施す工程と、混合粉砕物のpHを8.5以上のアルカリ性に変化させるpH変化処理を行う工程とを並行して行い、前記資化糖質低減工程と前記pH変化工程とを経た混合粉砕物を乾燥させて微巻縮を備えたパーティクルボード用竹チップとすることにより実現可能である。
【0047】
破砕工程は伐採後の竹を粗砕するための工程であり、竹を破砕機に供して概ね10~30mm程度の破砕片の生成を行う。この破砕工程は、次に述べる粉砕工程に竹を供給するための前処理工程であり、粉砕工程にて使用する粉砕機に伐採後の竹を直接供給可能であれば省略することも可能である。
【0048】
粉砕工程は、竹の破砕片(破砕工程が省略された場合は伐採後の竹)を粉砕機に供して竹の粉砕物を得るための工程である。この竹の粉砕物の大きさは特に限定されるものではないが、本実施形態に係るパーティクルボード用竹チップの製造方法では、針状粗繊維体と微粉細片との混合粉砕物として得ることとしており、それぞれの大きさは針状粗繊維体が直径3mm~10mmで長さ10mm~30mm程度、より好ましくは長さが15mm~25mm程度、微粉細片が直径1mm~5mmで長さ1mm~7mm程度を目安としている。
【0049】
また本実施形態に係るパーティクルボード用竹チップの製造方法では、得られた混合粉砕物を竹材として本実施形態に係る防虫防カビ処理方法に供する。この本実施形態に係る防虫防カビ処理方法ではアルカリ発酵が行われることにより、混合粉砕物中の糖やデンプンの含量を低減させる資化糖質低減処理と、混合粉砕物のpHを8.5以上のアルカリ性に変化させるpH変化処理とが並行して行われる。
【0050】
資化糖質低減処理は、前述の如く混合粉砕物中の糖やデンプンの含量を低減させる処理を行う工程である。なお、アルカリ剤添加法による場合は、このような処理を行うための具体的な手段については特に限定されるものではないが、一例としては、水または湯による洗浄を挙げることができる。
【0051】
pH変化処理は、混合粉砕物のpHを8.5以上のアルカリ性に変化させる工程である。アルカリ発酵法による場合はアルカリ発酵に伴いpHの変化が惹起され、アルカリ剤添加法による場合は、アルカリ剤の添加によりpHの変化が惹起されることとなる。なお、本明細書において混合粉砕物のpHとは、1重量部の竹チップに対し9~10重量部の水を加えて十分に(例えば約2分ほど)攪拌し、得られた水溶液が示すpHである。
【0052】
資化糖質低減処理工程やpH変化処理工程を終えた粉砕物は、乾燥させることで微巻縮を備えたパーティクルボード用竹チップとすることができる(竹チップ生成工程)。なお、この時点で、水分が蒸発して適度な乾燥が行われ、粉砕物に柔細胞の変性による微巻縮が形成されることとなる。
【0053】
このように、本実施形態に係るパーティクルボード用竹チップの製造方法では、本実施形態に係る竹材の防虫防カビ処理方法を採用することで、資化糖質低減処理とpH変化処理とを、前記混合粉砕物を微生物により発酵させる発酵処理により並行して行うこととしている。
【0054】
すなわち、竹チップを発酵させることで、竹チップ中に含まれる糖やでんぷんなどの糖質を資化させて低減しつつ、発酵代謝産物によって竹チップのpHを変化させることとしている。
【0055】
発酵処理は、床面に通風設備が敷設された発酵ヤードに混合粉砕物を堆積させ、必要に応じて通気及び切り返しを行いつつ1~14日(例えば気温との兼ね合いで発酵に適した状態である場合には1~2日、冬季などでは7~14日)に亘り竹由来の酵母と芽胞菌と放線菌と腸内細菌とを少なくとも含む発酵菌叢により好気発酵させ、pHを8.5以上のアルカリ性とすることもできる。
【0056】
すなわち、得られた粉砕物を酵母と芽胞菌と放線菌と腸内細菌とを少なくとも含む発酵菌叢により発酵させ、粉砕物中に発酵菌叢の代謝産物を含有させるための工程として発酵工程を行うこともできる。この場合、使用する発酵菌叢は少なくとも酵母と芽胞菌と放線菌と腸内細菌を含む菌叢、好ましくは原料竹由来の菌叢であれば良い。
【0057】
これら発酵菌叢によれば、竹チップ中に含まれる糖質を消費して糖質含量を低下させることができるとともに、芽胞菌、特にBacillus属に属する好アルカリ性細菌の繁殖によって粉砕物のpHをアルカリ側に上昇させることができる。
【0058】
また、これらの発酵菌叢は、別途培養を行って得た培養液を粉砕物に対してスタータとして添加するようにしても良いが、簡便には、元来竹に付着している常在菌を利用することもできる。すなわち、粉砕物を堆積させて自然に発酵させることとしても良い。原料竹に常在する酵母や芽胞菌、放線菌、腸内細菌は、同じく竹に発生するカビに対抗する手段を獲得している場合が多く、より効率的な防カビ効果を期待することができる。なお、この場合粉砕物の水分含量は30~50重量%とすることができる。
【0059】
発酵時間は、例えば屋外であれば四季を通じて5~14日の間で調整することができる。具体的には、発酵工程に供した約10gの粉砕物を100mlの水に分散させ、上清のpHを測定した際の値が8.5以上となれば良い。
【0060】
また、発酵中は、適宜通気や切り返しを行うのが好ましい。特に、アルカリ性発酵を行う場合には、好気発酵状態を可及的に保つことが重要であり、粉砕物を堆積する場所を通風設備が敷設された発酵ヤードとすれば、通気や切り返しを容易に行うことができる。
【0061】
また、発酵中は、堆積させた粉砕物の内部の温度が20~45℃で推移する状態を保持するのが望ましい。このような状態を保持することにより、比較的速やかに安定した発酵を行うと共に、竹の柔細胞を変性させて微巻縮の形成を促すことができる。温度が45℃を超えた場合には、通気や切り返しを行うことで温度低下を促すようにしても良い。
【0062】
発酵終了の目安は、発酵物のpHが上述の8.0~8.5、水分含量が20~30重量%で糸状菌の繁殖を示す菌糸が消失した状態とすることができる。なお、発酵工程は、粉砕工程の後に行っても、破砕工程の後に行ってその後粉砕工程に供するようにしても良い。
【0063】
このように、アルカリ性発酵により得られたパーティクルボード用竹チップ、一例としては上述の方法に沿って調製したパーティクルボード用竹チップは、酵母や芽胞菌、放線菌、腸内細菌等の発酵に伴って産生されたアルカリ性を呈する物質や、各菌が発酵菌叢中で優位に生育すべく他の微生物を排除するために分泌する忌避成分、また、複合的な菌叢の生育により比較的単純な炭素源の多くが資化されて微生物栄養的にプアな状態となっているなど、発酵に伴う様々な効果が複合的に作用して、パーティクルボード用竹チップ上でのカビの発生やシロアリによる食害の対象となることを効果的に抑制することができる。
【0064】
また、このアルカリ発酵によって得られた竹チップを使用して形成した本実施形態に係るパーティクルボードにおいても同様に、酵母や芽胞菌、放線菌、腸内細菌等の発酵代謝産物が含まれているため、カビの発生を効果的に抑制することができる。特に、この防カビ効果は、パーティクルボードの形成後、例えば実際に建材として使用されている間にも持続的に発揮されるため、四季を通じて比較的湿潤な本邦の気候に極めて適合していると言える。
【0065】
なお、上述したパーティクルボード用竹チップの製造方法はアルカリ発酵法を利用したものであったが、アルカリ剤添加法を利用するもの、すなわち、資化糖質低減処理は前記混合粉砕物の洗浄により行い、前記pH変化処理はアルカリ剤の添加により行うようにしてもよい。
【0066】
混合粉砕物の洗浄は、混合粉砕物中から糖やでんぷんを流出させることが可能であればその方法は特に限定されるものではなく、例えば大量の水や湯で混合粉砕物を洗い流したり、水や湯中に混合粉砕物を浸漬する方法を挙げることができる。
【0067】
また、pH変化処理に使用するアルカリ剤などのpH変化剤は、パーティクルボードを建材として使用した際に、その目的を阻害するおそれのない成分であれば特に限定されない。
【0068】
例えば、アルカリ剤としては、消石灰や重曹のほか、これらの水溶液などを使用することができる。
【0069】
また、本実施形態に係るパーティクルボードの製造方法では、これら本実施形態に係るパーティクルボード用竹チップの製造方法により得たパーティクルボード用竹チップを分級して針状粗繊維体と微粉細片とに分離する分離工程と、針状粗繊維体に樹脂バインターを添加して混合し針状粗繊維体の混合原料を調製する針状粗繊維体混合原料調製工程と、微粉細片に樹脂バインダーを添加して混合し微粉細片の混合原料を調製する微粉細片混合原料調製工程と、所定形状の型枠内に微粉細片混合原料、針状粗繊維体混合原料、微粉細片混合原料の順で積層し、積層方向に加圧しつつ加温して三層構造のパーティクルボードを形成するパーティクルボード形成工程と、を有する。
【0070】
本明細書において「パーティクルボード」は、JIS A5908の規定に準じ、木片等の植物質からなるパーティクル(チップ等)を主原料として、接着剤をもって成形熱圧したものをいう。また、パーティクルボードは、単相や二層のほか、三層、多層のものが含まれる。
【0071】
パーティクルボードの成形に使用される接着剤、すなわち樹脂バインダーは、竹チップやその他原料として使用される別素材のチップ、また、パーティクルボードに機能性を付与するために添加される成分等を結合・保持することが可能なものであれば特に限定されず、従来公知の接着剤に使用される樹脂成分をパーティクルボードの使用目的に応じて適宜選択することが可能である。例えば、標準規格(JIS A5908)で規定するフェノール樹脂系(Pタイプ)、ユリア-メラミン共縮合樹脂系(Mタイプ)、ユリア樹脂系(Uタイプ)や、メラミン樹脂、イソシアネート系樹脂、アクリル系エマルジョン接着剤、SBR系エマルジョン接着剤、酢酸ビニル系エマルジョン接着剤、水性ビニルウレタン接着剤等が挙げられる。中でも、アルカリ性の樹脂バインダーを採用すれば、シロアリ等による食害を効果的に防止できるのは勿論のこと、アルカリ性である竹チップとの中和による樹脂バインダーの硬化強度の低下を防止することができ、強度に優れたパーティクルボードを形成することができる。
【0072】
樹脂バインダーの割合は、竹チップやその他必要に応じて添加される原料等がパーティクルボードとして使用可能な接着強度を有する割合であれば良く、竹チップ等の合計重量に対して、通常5~20重量%とすることができる。
【0073】
また、パーティクルボードに別途新たな機能性を付与するために、竹チップ以外の機能性成分を添加することも可能である。このような機能性成分としては、例えば難燃剤、防腐剤、防カビ剤などを例示することができる。
【0074】
また、微粉細片混合原料及び/または針状粗繊維体混合原料は、竹チップの一部を杉チップに置換しても良い。このような構成とすれば、杉チップに含まれる香気成分によりカビの忌避効果を発揮させることができ、パーティクルボードの生物耐性をさらに高めることができる。
【0075】
また、成形するパーティクルボードの形状や寸法は、例えば標準規格(JIS A5908)等に準じ、厚みが9mm~20mm、幅が900mm~1210mm、長さが1820mm~2730mmの範囲内の大きさとしても良いが、特に限定されるものではない。
【0076】
また、パーティクルボードを複数層、例えば化粧層-中間層-化粧層の三層で形成する場合、各層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば化粧層は1mm~5mm、中間層は8mm~19mmとすることができる。
【0077】
また、パーティクルボードを複数層で形成する場合、各層の間に更なる別の機能層を形成しても良い。このような機能層としては、例えば接着層や断熱層、防音層などが挙げられる。
【0078】
パーティクルボードを製造するにあたり、竹チップは、伐採した竹を破砕機に供したり、更に粉砕機に供してより細かくしたものを使用することができる。この竹チップの大きさは特に限定されるものではないが、例えば直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体としたものや、直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片としたもの、更にはこれら針状粗繊維体と微粉細片とが混合状態にあるものを好適に使用することができる。
【0079】
針状粗繊維体混合原料調製工程や微粉細片混合原料調製工程における各竹チップと樹脂バインダーとの混合は、竹チップを公知の混合機に投入し、所定量の樹脂バインダーと共に均一となるまで混合することで行う。
【0080】
また、パーティクルボード形成工程では、まずそれぞれ別個に得られた針状粗繊維体混合原料と微粉細片混合原料とを、型枠に微粉細片混合原料、針状粗繊維体混合原料、微粉細片混合原料の順で積層しつつ収容して所定の大きさの板状体に仮成形する。
【0081】
次いで、この仮成形した板状体を公知の加熱プレス機に入れ、積層方向(板状体の表裏面方向)から加熱しながらプレス(熱圧成形)することにより、三層構造のパーティクルボードが製造される。
【0082】
なお、加熱プレスの方法は任意であり、必要に応じて連続プレスや多段プレスとすることができる。また、加熱プレスの条件は、使用される構成成分の種類や混合割合、目的とするパーティクルボードの強度、重量等を考慮して適宜決定される。例えば、加熱温度は150~250℃程度、プレス圧は1~15N/mm2程度、プレス時間は目的とするパーティクルボードの厚さ1mmあたり20~40秒程度を目安とすることができる。
【0083】
また、得られたパーティクルボードは、所定の規格のサイズに切断された後に養生し、サンダー研磨を行って表面を平滑化しても良い。
【0084】
また本明細書では、パーティクルボード用竹チップや、同竹チップと樹脂バインダーとの混合原料を加熱加圧成形してなるパーティクルボードについても提供する。
【0085】
本実施形態に係るパーティクルボード用竹チップは、含水率45%換算における糖度が6%以下であり、pHが8.5以上のアルカリ性であって、柔細胞の加熱乾燥変性により生じた微巻縮を備えることを特徴とする。
【0086】
このような構成とすることにより、カビの発生やシロアリによる食害の対象となりにくく、従来に比して高強度の竹チップ含有パーティクルボードを製造可能なパーティクルボード用竹チップとすることができる。
【0087】
また、本実施形態に係るパーティクルボード用竹チップでは、pHが8.5以上のアルカリ性であって、竹由来の酵母や芽胞菌、放線菌、腸内細菌等の発酵代謝産物を含有していてもよい。これらの発酵代謝産物を竹チップ中に含有させることで、代謝産物中に含まれるアルカリ性を呈する物質により竹チップ自体をアルカリ性としたり、また、同じく発酵代謝産物中に含まれる防カビ成分により竹チップにカビが発生することを効果的に抑制することができる。
【0088】
また、竹チップ自体をアルカリ性とすることで、同じくアルカリ性の樹脂バインダーの硬化速度を向上し、竹チップと樹脂バインダーとを混合して竹製パーティクルボードの混合原料(以下、単に混合原料ともいう。)を板状に固化させる際の時間短縮を図ることが可能となる。また、竹チップがアルカリ性となることで、竹チップを構成する一部の組織が軟化され、樹脂バインダーの滲入が容易となって竹チップ自体が樹脂バインダーとの複合体として機能し、パーティクルボードの強度をより向上させることができる。
【0089】
付言すると、発酵代謝産物の存在や微生物による炭素源の資化に伴い、パーティクルボード用竹チップの組織の状態が処理前に比して樹脂バインダーが内部まで浸透しやすい状態となっており、パーティクルボード用竹チップを樹脂バインダーと混合して混合原料を調製すると竹チップに樹脂バインダーが効率良く浸透し、竹チップ自体が樹脂との複合材料となるため、パーティクルボードの強度をより向上させることができる。
【0090】
また、竹チップには、同竹チップを構成する柔細胞の加熱乾燥変性によって生じた微巻縮を備えるようにしても良い。微巻縮は柔細胞の一部がカールした多毛状の構造であり、竹チップがこの微巻縮を備えることで相互の絡み合いが促進され、竹チップ同士の強固な結合に由来するパーティクルボードの高強度化を図ることができる。
【0091】
更には、微巻縮を備えた竹チップとすれば、竹チップ相互の絡み合いが促進され、竹チップ同士の強固な結合に由来するパーティクルボードの高強度化を図ることが可能となる。
【0092】
以下、本実施形態に係る竹材の防虫防カビ処理方法、パーティクルボード用竹チップの製造方法、パーティクルボード用竹チップ、及び当該竹チップを用いたパーティクルボードについて、製造手順を追いながら更に説明する。
【0093】
〔1.破砕片の生成〕
30mm~50mm角のスクリーンを装着した破砕機(山東錦坤机械制造有限公司製 ドラム式チッパー JK216型)に伐採した孟宗竹を供することで破砕工程を行い、縦10mm~100mm、横10mm~50mm、厚み3mm~10mm程度の破砕片(約500kg)を得た。
【0094】
〔2.混合粉砕物の生成〕
破砕工程にて得られた破砕片を粉砕機に供することで粉砕工程を行い、直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とが混在してなる混合粉砕物(約500kg)を得た。
【0095】
〔3.資化糖質低減処理、pH変化処理、及び竹チップの生成〕
(3-1.発酵処理による方法)
床面に通風設備が敷設された発酵ヤードに、粉砕工程にて得られた約500kgの混合粉砕物を高さ1m程度に堆積し、原料竹に常在する酵母と芽胞菌と放線菌と腸内細菌とを少なくとも含む付着発酵菌叢により好気発酵条件下にて発酵工程を行った。
【0096】
具体的には、堆積させた混合粉砕物に水を添加して水分含量を大凡40~50重量%程度に調整したものと、水分含量を調整しないもの(大凡30重量%)を調製し、13~18℃程度の気温下で14日間に亘り発酵処理を行うことで、資化糖質低減処理とpH変化処理とを並行して実施した。
【0097】
堆積させた混合粉砕物の温度は、図1(a)に示すように、水分調整の有無に拘わらず、初日は環境温度とあまり差がない13~15℃程度であったが、2日目から温度が20~30℃程度まで上昇し、3日目には45℃にまで達した。
【0098】
また3日目には、酸素供給と温度低下を促すために発酵ヤードの通風設備を使用して、堆積させた混合粉砕物のエアレーションを行った。また、5,6日目には、満遍なく発酵させるために、重機を用いて堆積させた混合粉砕物の切り返しを行った。図1(a)の網掛けは、好気条件を維持すべくエアレーション及び切り返しを行ったタイミングを示している。
【0099】
また、図1(b)に含水率の変化を示す。図1(b)から分かるように、水分調整を行った混合粉砕物(以下、調整粉砕物ともいう。)は水分含量が50重量%から40重量%にかけて概ね右肩下がりの傾向を示したが、水分無調整の混合粉砕物(以下、無調整粉砕物ともいう。)は概ね30重量%台ではあるものの、気象条件等に由来して比較的大きな変動が見られた。
【0100】
また、図2に糖度、でんぷん含量、pHの変化を示す。図2(a)からも分かるように、糖度は初日の時点において無調整粉砕物で約15%、調整粉砕物で約8%であり、6日目くらいまでいずれも比較的大きな傾きで低下傾向を示した。その後7日目の時点でやや糖度の上昇が見られたものの、17日目までは概ね安定した糖度を示した。
【0101】
また図2(b)に示すように、でんぷん含量は初日の時点において無調整粉砕物で約21%、調整粉砕物で約14%であり、7日目くらいまでいずれも比較的大きな傾きで低下傾向を示し、その後17日目まで概ね安定したでんぷん含量を示した。
【0102】
また、図2(c)に示すように、pHは初日の時点において水分の調整の有無に拘わらず約7程度であり、4日目くらいまでいずれも比較的大きな傾きでpH8.5付近まで上昇傾向を示し、その後6日目くらいまでは一旦横ばいの傾向が見られたものの、再び8日目~9日目にかけてpH9付近まで上昇傾向が見られ、その後緩やかに低下しつつpH8.5以上の値を維持した。併せて、図3にpH及び温度の変化と、各時点における菌勢の優劣を示す。
【0103】
発酵は、堆積させた混合粉砕物の表面から放線菌の菌糸が消失したことを目安に終了とした。
【0104】
堆積させた混合粉砕物を切り崩し、大気と十分に接触させることで降温及び乾燥を行ってパーティクルボード用竹チップを得た(竹チップ生成工程)。なお、このようにして得たパーティクルボード用竹チップを、アルカリ発酵竹チップと称する。
【0105】
得られたアルカリ発酵竹チップを顕微鏡にて観察したところ、サンプルとして採取した竹チップのいずれにも柔細胞の変性により生じた微巻縮が確認された。
【0106】
(3-2.洗浄及びpH変化剤による方法)
粉砕工程にて得られた約500kgの混合粉砕物を約20~40℃の湯水に12~24時間浸漬することで洗浄を行い、混合粉砕物中に含まれる糖質を溶出させることで資化糖質低減処理を行った。資化糖質低減処理後の混合粉砕物中の糖質含量は、含水率45%換算における糖度が5.3%、同じく含水率45%換算におけるでんぷん含量が6.3%であった。
【0107】
次いで、資化糖質低減処理を終えた混合粉砕物に対し5~20w/w%の消石灰懸濁液を噴霧しつつ切り返しを行った(pH変化処理)。pH変化処理後の混合粉砕物のpH、すなわち、9重量部の水に対して混合粉砕物1重量部を添加し、約2分間攪拌した後の溶液のpHは8.7であった。
【0108】
次いで、pH変化処理を終えた混合粉砕物を乾燥機に供し、乾燥を行ってパーティクルボード用竹チップを得た(竹チップ生成工程)。なお、このようにして得たパーティクルボード用竹チップを、アルカリ剤竹チップと称する。得られたアルカリ剤竹チップを顕微鏡にて観察したところ、サンプルとして採取した竹チップのいずれにも柔細胞の変性により生じた微巻縮が確認された。
【0109】
〔4.分級処理〕
次に、アルカリ発酵竹チップや、アルカリ剤竹チップについて、分級処理を施した。
【0110】
具体的には、300kgのアルカリ発酵竹チップ又はアルカリ剤竹チップを篩に供し、直径3mm~10mmで長さ10mm~30mmの針状粗繊維体と、直径1mm~5mmで長さ1mm~7mmの微粉細片とに分離させた(分離工程)。分離の結果、アルカリ発酵竹チップとアルカリ剤竹チップのいずれにおいても、針状粗繊維体は約70重量%(約210kg)、微粉細片は約30重量%(約90kg)であった。
【0111】
〔5.混合原料の調製〕
アルカリ発酵竹チップ又はアルカリ剤竹チップ由来の針状粗繊維体を混合機(グルーブレンダー)に投入し、投入した針状粗繊維体の20~25重量%に相当するユリア・メラミン樹脂系接着剤であるDIC株式会社製PB-100を樹脂バインダーとして添加し十分に混合させて針状粗繊維体混合原料を調製した(針状粗繊維体混合原料調製工程)。
【0112】
また、これと並行して、アルカリ発酵竹チップ又はアルカリ剤竹チップ由来の微粉細片をグルーブレンダーに投入し、投入した針状粗繊維体の20~25重量%に相当するPB-100を樹脂バインダーとして添加し十分に混合させて微粉細片混合原料を調製した(微粉細片混合原料調製工程)。
【0113】
〔6.形成工程〕
次に、プレス後の設定厚みを12mmとして、所謂3×8(サンパチ)サイズ(910×2430mm)の規格品をアルカリ発酵竹チップ由来のものとアルカリ剤竹チップ由来のものとについて製造すべく、針状粗繊維体混合原料と微粉細片混合原料とを準備した。
【0114】
3×8サイズの型枠に、まず微粉細片混合原料を均一に広げて配置して一面側の仮化粧層を形成し、次いで針状粗繊維体混合原料を一面側の仮化粧層に重ねて均一に広げることで仮中間層を形成し、更に微粉細片混合原料を中間層に重ねて均一に広げることで他面側の仮化粧層を形成することで、パーティクルボードの仮成形(仮成形ボードの形成)を行った。
【0115】
次に、形成された12枚の仮成形ボードを、加熱多段プレス機に挿入し、150~170℃にて7~9分間、1200tの加重で加圧加熱成形し、加熱多段プレス機から取り出して三層構造を有するアルカリ発酵竹チップ由来又はアルカリ剤竹チップ由来のパーティクルボードを得た(パーティクルボード形成工程)。
【0116】
〔7.防カビ試験〕
次に、上述の過程で得られた本実施形態に係るパーティクルボード、すなわち、アルカリ発酵竹チップ由来のパーティクルボード(以下、アルカリ発酵ボードともいう。)と、アルカリ剤竹チップ由来のパーティクルボード(以下、アルカリ材剤ボードともいう。)とをサンプルとして、防カビ性試験を行った。
【0117】
具体的には、ロットの異なる4つのアルカリ発酵ボードと、同じくロットの異なる4つのアルカリ材ボードと、比較対照として資化糖質低減処理やpH変化処理を施していない粉砕物にて形成したパーティクルボード(1つ)とに対し、試験カビをAspergillus niger NBRC105649、Penicillium pinophilum NBRC33285、Rhizopus oryzae NBRC31005、Cladosporium cladosporioides NBRC6348、Chaetomium globosum NBRC6347の5つの菌株として、JIS Z2911:2010に準じて試験を行った。また評価は目視にて行い、菌糸の発育が見られない場合を「0」、菌糸の発育面積が試験片の表面積の1/3未満の場合は「1」、1/3以上の場合は「2」とした。その結果を図4に示す。
【0118】
図4からも分かるように、アルカリ発酵ボードやアルカリ剤ボードは、ロットの違いに関わらず、試験開始後4週目に至るまで菌糸の発育は認められなかった。一方、比較対照とした資化糖質低減処理やpH変化処理を施していない粉砕物にて形成したパーティクルボードは、2週目においては菌糸は目視にて認められなかったものの、4週目には発生が認められた。
【0119】
これらのことから、アルカリ発酵ボードやアルカリ剤ボードは、カビの発生を効果的に抑制できることが示された。
【0120】
〔8.強度試験〕
次に、本実施形態に係るパーティクルボードであるアルカリ発酵ボード及びアルカリ剤ボードの強度試験を行った。厚さ12mmのパーティクルボードを長さ150mm、幅50mmの矩形状に切断してサンプル片とし、JIS規格に準じた方法により強度試験を行った。また比較対照として、資化糖質低減処理やpH変化処理を施していない粉砕物にて形成したパーティクルボードを用いて同様に比較対照サンプル片を調製し試験に供した。なお、資化糖質低減処理やpH変化処理を施していない粉砕物は、検鏡したところ、微巻縮は殆ど認められない。
【0121】
その結果、アルカリ発酵ボード及びアルカリ剤ボードの強度は、比較対照としたパーティクルボードの強度に比して高い値が得られた。
【0122】
これらの結果から、本実施形態に係るパーティクルボードであるアルカリ発酵ボード及びアルカリ剤ボードは、従来の竹チップを含むパーティクルボードに比して高い強度を有することが確認された。
【0123】
〔9.シロアリ食害評価試験〕
次に、アルカリ発酵ボード及びアルカリ剤ボードをサンプルとして、防カビ性試験を行った。
【0124】
具体的には、アルカリ発酵ボードと、アルカリ材ボードと、比較対照として資化糖質低減処理やpH変化処理を施していない粉砕物にて形成したパーティクルボードとに対し、JIS K-1517:2010「木材保存剤の性能基準及びその試験方法」-付属書A(規定)・限定用途のための防腐性能試験及び防蟻性能試験に準じて試験を行った。その結果を図5に示す。
【0125】
図5から分かるように、アルカリ発酵ボードについてシロアリの食害について評価した結果、質量の減少率は3.2%であり、シロアリなしの場合(コントロール)における質量減少率1.2%を差し引くと、食害による質量の減少は約2.1%であった。
【0126】
また、アルカリ剤ボードについても同様に、質量の減少率は2.9%、コントロールの質量減少率は1.3%であり、食害による質量の減少は約1.6%であった。
【0127】
また、アルカリ発酵ボードとアルカリ剤ボードのいずれにおいても、食害によるボード内への穿孔は見られなかった。
【0128】
一方、比較対照ボードについては、質量の減少率が7.0%、コントロールの質量減少率が4.6%であり、食害による質量の減少は、アルカリ発酵ボードやアルカリ剤ボードよりも多い約2.4%であった。
【0129】
これらのことから、本実施形態に係るパーティクルボードとしてのアルカリ発酵ボードやアルカリ剤ボードは、資化糖質低減処理やpH変化処理を施していない粉砕物にて形成したパーティクルボードに比して、シロアリによる食害の対象となりにくいことが示された。
【0130】
〔10.耐腐朽性能評価試験〕
次に、アルカリ発酵ボード及びアルカリ剤ボードをサンプルとして、耐腐朽性能評価試験を行った。
【0131】
具体的には、アルカリ発酵ボードと、アルカリ材ボードと、比較対照として資化糖質低減処理やpH変化処理を施していない粉砕物にて形成したパーティクルボードとに対し、JIS K-1517:2010「木材保存剤の性能基準及びその試験方法」-付属書A(規定)・限定用途のための防腐性能試験及び防蟻性能試験に準じて試験を行った。
【0132】
検体に接種する腐朽菌はオオウズラタケ及びカワラタケを用い、予め各菌を繁茂させた培養瓶に1瓶あたり3個の試験体を配置し、26±2℃の培養室で12週間腐朽操作を行った。各菌につき試験体は9個を用いた。腐朽操作後回収した試験体の質量減少率を測定し、耐腐朽性能を評価した。その結果を図6に示す。
【0133】
図6からも分かるように、アルカリ発酵ボードでは、質量減少率が1.8%や1.3%と両菌に対して高い耐腐朽性能を示した。また、アルカリ剤ボードについても同様に、それぞれ1.3%、1.7%であった。JISに定める性能基準は3%以下であるため、十分に性能基準を満たしているものと考えられた。
【0134】
その一方、比較対照ボードは、それぞれ8.3%、7.2%であり、十分な耐腐朽性能とは言い難い状況であった。これらのことから、アルカリ変化処理や資化糖質低減処理が施された竹材、すなわち、アルカリ発酵法やアルカリ剤添加法に供することで防虫防カビ処理された竹材を用いた本実施形態に係るパーティクルボードは、優れた耐腐朽性能を有することが示された。
【0135】
上述してきたように、本実施形態に係る竹材の防虫防カビ処理方法では、竹材を発酵菌叢により好気発酵させpHを8.5以上のアルカリ性とすることとしたため、カビの発生やシロアリによる食害の対象となりにくく、従来に比して高強度の竹製パーティクルボードを製造可能な竹材の防虫防カビ処理方法を提供することができる。
【0136】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0137】
すなわち、上記した実施例は竹材をアルカリ発酵処理をしてカビやシロアリ等の防虫防カビ効果を狙ったものであり、特に竹材チップを有効に利用した製品やその製造方法に関する技術を主体に説明したが、竹材のアルカリ発酵処理をしたものはこれらの実施例記載の竹材チップの製品に限らず一般の竹材利用の竹製品として竹材美術工芸品や竹材の実用品にも利用することができる。例えば、竹かごや竹材工芸品やスポーツ道具、器具等に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6