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特許7218985バチルス属(Bacillus)におけるタンパク質産生の増加のための改変5’-非翻訳領域(UTR)配列
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  • 特許-バチルス属(Bacillus)におけるタンパク質産生の増加のための改変5’-非翻訳領域(UTR)配列 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】バチルス属(Bacillus)におけるタンパク質産生の増加のための改変5’-非翻訳領域(UTR)配列
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230131BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/61 20060101ALI20230131BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12N15/52 Z
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/55
C12N15/56
C12N15/57
C12N15/61
C12P21/02 C
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2020515233
(86)(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 US2018049470
(87)【国際公開番号】W WO2019055261
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】62/558,304
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509240479
【氏名又は名称】ダニスコ・ユーエス・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】デ ランジェ、デニス
(72)【発明者】
【氏名】フリッシュ、ライアン エル
(72)【発明者】
【氏名】マッソン、ヘレン オリヴィア
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/134213(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/152169(WO,A1)
【文献】特表2012-507984(JP,A)
【文献】Abolbaghaei A. et al.,How Changes in Anti-SD Sequences Would Affect SD Sequences in Escherichia coli and Bacillus subtilis,G3(Bethesda),2017年05月05日,Vol. 7(5),pp. 1607-1615
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(WT-5’-UTR)核酸配列配列番号1に由来する改変バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、前記mod-5’-UTRが配列番号2を含む、単離ポリヌクレオチド
【請求項2】
前記mod-5’-UTRがさらに、前記mod-5’-UTRに対して5’且つ作動可能に連結された上流(5’)プロモーター領域核酸配列を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記mod-5’-UTRがさらに、目的のタンパク質をコードする下流(3’)オープンリーディングフレーム(ORF)核酸配列を含み、前記ORF配列が、前記mod-5’-UTRに対して3’にあり且つ作動可能に連結されている、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
5’から3’方向において式(I):
(I):[Pro][mod-5’-UTR][ORF]
を含み;
式中、[Pro]が、バチルス属(Bacillus sp.)細胞において作動可能なプロモーター領域核酸配列であり、[mod-5’-UTR]が、改変B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列であり、且つ[ORF]が、目的のタンパク質(POI)をコードするオープンリーディングフレーム核酸配列であり、前記[Pro]、[mod-5’-UTR]及び[ORF]核酸配列が、作動可能に連結されている、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むDNA発現コンストラクト。
【請求項7】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むバチルス属(Bacillus sp.)細胞。
【請求項8】
前記細胞が、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である、請求項に記載のバチルス属(Bacillus sp.)細胞。
【請求項9】
野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR(WT-5’-UTR)配列に由来する改変バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、単離された改変ポリヌクレオチドが、5’から3’方向において作動可能な組合せにおける式(II):
(II):[TIS][mod-5’UTR][tssコドン]
の前記核酸配列を含み、
式中、[TIS]が、転写開始部位(TIS)であり、[mod-5’-UTR]が、改変B.サブチリス(B.subtilis)5’-UTR核酸配列を含み、且つ[tssコドン]が、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、
前記[mod-5’-UTR]配列が配列番号2を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項10】
(a)前記[TIS]に対して上流(5’)にあり且つ作動可能に連結された核酸プロモーター配列であって、そのプロモーター配列がバチルス属(Bacillus sp.)細胞において作動可能である核酸プロモーター配列及び
(b)前記tssコドンに対して下流(3’)にあり且つ作動可能に連結されたORF核酸配列であって、前記ORF配列がPOIをコードするORF核酸配列をさらに含む、請求項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項12】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含むDNA発現コンストラクト。
【請求項13】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含むバチルス属(Bacillus sp.)細胞。
【請求項14】
前記細胞が、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である、請求項1に記載のバチルス属(Bacillus sp.)細胞。
【請求項15】
5’から3’方向及び作動可能な組合せにおける式(III)
(III):[5’-HR][TIS][mod-5’-UTR][tssコドン][3’-HR]
の核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、
式中、[TIS]が、転写開始部位(TIS)であり、[mod-5’-UTR]が、改変B.サブチリス(B.subtilis)5’-UTR核酸配列を含み、[tssコドン]が、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、[5’-HR]が、5’-核酸配列相同領域であり、且つ[3’-HR]が、3’-核酸配列相同領域であり、前記5’-HR及び3’-HRが、それぞれ前記[TIS]配列のすぐ上流(5’)及び前記[tssコドン]配列のすぐ下流(3’)のゲノム(染色体)領域(遺伝子座)に対して十分な相同性を含み、相同組換えにより導入されるポリヌクレオチドコンストラクトの改変バチルス属(Bacillus)細胞のゲノムへの組込みをもたらし、
前記[mod-5’-UTR]配列が配列番号2を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項17】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むDNA発現コンストラクト。
【請求項18】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むバチルス属(Bacillus sp.)細胞。
【請求項19】
前記細胞が、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である、請求項1に記載のバチルス属(Bacillus sp.)細胞。
【請求項20】
前記ORF配列が、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択されるPOIをコードする、請求項3または4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
前記ORF配列が、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択されるPOIをコードする、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項22】
野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR(WT-5’-UTR)配列に由来する改変5’-UTR(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、前記単離ポリヌクレオチドが、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおける式(IV):
(IV):[TIS][5’-UTRΔxN][tssコドン]
の前記核酸配列を含み、
式中、[TIS]が、転写開始部位(TIS)であり、[tssコドン]が、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、且つ[5’-UTRΔxN]が、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列に由来する改変バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列であり、前記mod-5’-UTR核酸配列[5’-UTRΔxN]が、前記WT-5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で「x」ヌクレオチド(「N」)の欠失(Δ)を含み、
前記mod-5’-UTRが配列番号2を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項23】
野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR(WT-5’-UTR)配列に由来する改変5’-UTR(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、前記単離ポリヌクレオチドが、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおける式(V):
(V):[TIS][5’-UTRΔxN][tssコドン]
の前記核酸配列を含み、
式中、[TIS]が、転写開始部位であり、[tssコドン]が、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、且つ[5’-UTRΔxN]が、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列に由来する改変バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列であり、前記mod-5’-UTR核酸配列[5’-UTRΔxN]が、前記野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で「x」ヌクレオチド(「N」)の付加(Δ)を含み、
前記mod-5’-UTRが配列番号2を含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項24】
請求項2又は2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項25】
請求項2又は2に記載のポリヌクレオチドを含むDNA発現コンストラクト。
【請求項26】
請求項2又は2に記載のポリヌクレオチドを含むバチルス属(Bacillus sp.)細胞。
【請求項27】
前記細胞が、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である、請求項2に記載のバチルス属(Bacillus sp.)細胞。
【請求項28】
異種の目的のタンパク質(POI)の産生に好適な培地中で培養されるときに増加した量の異種のPOIを産生する改変バチルス属(Bacillus sp.)(娘)細胞であって、前記改変バチルス属(Bacillus)細胞が、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおいて式(I)
(I):[Pro][mod-5’-UTR][ORF]
の核酸配列を含む導入発現コンストラクトを含み;
式中、[Pro]が、バチルス属(Bacillus sp.)細胞において作動可能なプロモーター領域核酸配列であり、[mod-5’-UTR]が、改変B.サブチリス(B.subtilis)の非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列であり、且つ[ORF]が、目的のタンパク質(POI)をコードするオープンリーディングフレーム核酸配列であり、前記[Pro]、[mod-5’-UTR]及び[ORF]核酸配列が、作動可能に連結されており、前記改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞が、同様の条件下で培養されるとき、同じPOIを産生する非改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(親)細胞と比較して増加した量の前記異種POIを産生し、
前記mod-5’-UTRが配列番号2を含む、改変バチルス属(Bacillus sp.)(娘)細胞。
【請求項29】
前記細胞が、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である、請求項28に記載のバチルス属(Bacillus)細胞。
【請求項30】
前記ORF配列が、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択されるPOIをコードする、請求項28に記載のバチルス属(Bacillus)細胞。
【請求項31】
改変バチルス属(Bacillus)細胞中で増加した量の異種の目的のタンパク質(POI)を産生するための方法であって:
(a)5’から3’の方向及び作動可能な組合せにおいて[Pro]が、バチルス属(Bacillus sp.)細胞中で作動可能なプロモーター領域核酸配列であり、[mod-5’-UTR]が、配列番号2のmod-5’-UTR核酸配列であり、且つ[ORF]が、目的のタンパク質(POI)をコードするオープンリーディングフレーム核酸配列である核酸配列[Pro][mod-5’-UTR][ORF]を含む発現コンストラクトを親バチルス属(Bacillus sp.)細胞に導入する工程、及び
(b)異種POIの産生に好適な培地中で工程(a)の前記改変バチルス属(Bacillus)細胞を培養する工程を含み、
前記改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞が、工程(b)の同じ培地中において培養されたバチルス属(Bacillus)対照細胞と比較して増加した量のPOIを産生し、前記バチルス属(Bacillus)対照細胞が、5’から3’の方向及び作動可能な組合せにおいて[Pro]及び[ORF]核酸配列が、工程(a)における前記[Pro]及び[ORF]配列と同一であり、且つ[WT-5’-UTR]が、配列番号1を含む核酸配列[Pro][WT-5’-UTR][ORF]を含む導入発現コンストラクトを含む、方法。
【請求項32】
前記細胞が、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である、請求項3に記載のバチルス属(Bacillus)細胞。
【請求項33】
前記ORF配列が、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択されるPOIをコードする、請求項3に記載のバチルス属(Bacillus)細胞。
【請求項34】
改変バチルス属(Bacillus)細胞中で増加した量の内在性の目的のタンパク質(POI)を産生するための方法であって:
(a)内在性POIを産生する親バチルス属(Bacillus)細胞を入手する工程、
(b)工程(a)の前記細胞中に、5’から3’の方向及び作動可能な組合せにおいて式(VI)
(VI):[5’-HR][mod-5’-UTR][3’-HR]
の核酸配列を含むポリヌクレオチドコンストラクトを導入する工程であって、
[mod-5’-UTR]が、配列番号2を含み、[5’-HR]が、前記内在性POIをコードする内在性GOIの内在性野生型5’-UTR(WT-5’-UTR)配列のすぐ上流(5’)のゲノム遺伝子座に対する相同性を含む5’-核酸配列相同領域であり、且つ[3’-HR]が、前記内在性POIをコードする内在性GOIの内在性WT-5’-UTR配列のすぐ下流(3’)のゲノム遺伝子座に対する相同性を含む3’-核酸配列相同領域であり、前記5’-HR及び3’-HRが、前記ゲノム遺伝子座に対して十分な相同性を含み、相同組換えにより導入されるmod-5’-UTRポリヌクレオチドコンストラクトの前記改変バチルス属(Bacillus)細胞のゲノムへの組込みをもたらすことにより、内在性WT-5’-UTRを配列番号2の前記mod-5’-UTRで置き換える工程、及び
(c)前記内在性POIの産生に好適な培地中で工程(b)の前記改変バチルス属(Bacillus sp.)細胞を培養する工程を含み、
工程(c)の改変細胞が、同様の条件下で培養されるとき、工程(a)の親細胞と比較して増加した量の前記内在性POIを産生する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に全体として組み込まれる、2017年9月13日に出願された米国仮特許出願第62/558304号の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、一般に、細菌学、微生物学、遺伝学、分子生物学、酵素学、工業用タンパク質産生などの分野に関する。より詳細には、本開示の特定の実施形態は、増加した量の工業に関連した目的のタンパク質を産生できる改変バチルス属(Bacillus)株及びその宿主細胞に関する。本開示の他の実施形態は、改変バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチド、そのベクター、そのDNA(発現)コンストラクト、その改変バチルス(Bacillus)(娘)細胞、及びそれを作製及び使用する方法に関する。
【0003】
配列表の参照
「20180823_NB41250WOPCT_SequenceListing_ST25.txt」との名称が付けられた配列表のテキストファイルの電子的提出の内容は、2018年8月23日に作成され、サイズは38KBであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)などのグラム陽性菌は、それらの優れた発酵特性と高い収率(例えば、培養物1リットル当たり最大25グラム;Van Dijl and Hecker,2013)から、工業用関連タンパク質を産生するための微生物工場として頻繁に使用されている。例えば、B.サブチリス(B.subtilis)は、食品、繊維、洗濯、医療機器の洗浄、薬品工業などのために必要なα-アミラーゼ(Jensen et al.,2000;Raul et al.,2014)及びプロテアーゼ(Brode et al.,1996)の産生のためによく知られている(Westers et al.,2004)。これらの非病原性グラム陽性菌は、有害な副生成物(例えば、リポ多糖類;内毒素としても知られるLPS)を全く含まないタンパク質を産生するので、欧州食品安全機関(European Food Safety Authority)の「安全性適格推定(Qualified Presumption of Safety)」(QPS)の評価を得ており、それらの生成物の多くは、アメリカ食品医薬品局(US Food and Drug Administration)から「安全食品認定(Generally Recognized As Safe)」(GRAS)の評価を獲得した(Olempska-Beer et al.,2006;Earl et al.,2008;Caspers et al.,2010)。
【0005】
したがって、微生物宿主細胞内でのタンパク質(例えば、酵素、抗体、受容体など)の産生は、バイオテクノロジー分野において特に関心が高い。同様に、1種以上の目的のタンパク質を産生及び分泌させるためのバチルス属(Bacillus)宿主細胞の最適化は、特に工業バイオテクノロジーの状況においては非常に重要であり、タンパク質が工業的に大量生産される場合は、タンパク質収量の小さな改善が極めて重要な意味を有する。より詳細には、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)は、工業的重要性の高いバチルス属(Bacillus)種の宿主細胞であるので、したがって、強化/増加したタンパク質発現/産生のためにB.リケニフォルミス(B.licheniformis)宿主細胞を遺伝的に改変及び操作できることは、新規且つ改善されたB.リケニフォルミス(B.licheniformis)産生株の構築のために非常に望ましい。
【0006】
したがって、本明細書に記載される開示は、増加したタンパク質産生能力を有するバチルス属(Bacillus)宿主細胞(例えば、タンパク質産生宿主細胞、細胞工場)を入手し且つ構築するためなどの非常に望ましい、未だ対処されていない要求に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は一般に、増加した量の工業に関連した目的のタンパク質を産生できる改変バチルス属(Bacillus)株及びその宿主細胞に関する。より詳細には、本開示の特定の実施形態は、野生型バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(WT-5’-UTR)核酸配列配列番号1に由来する改変バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドを対象とする。特定の実施形態では、mod-5’-UTRは、配列番号2を含む。他の実施形態では、mod-5’-UTRはさらに、mod-5’-UTRに対して5’且つ作動可能に連結された上流(5’)プロモーター領域核酸配列を含む。
【0008】
別の実施形態では、mod-5’-UTRはさらに、目的のタンパク質をコードする下流(3’)オープンリーディングフレーム(ORF)核酸配列を含み、ORF配列は、mod-5’-UTRに対して3’にあり且つ作動可能に連結されている。特定の他の実施形態では、単離ポリヌクレオチドは、5’から3’方向の式(I):
(I):[Pro][mod-5’-UTR][ORF]
を含み;
式中、[Pro]は、バチルス属(Bacillus sp.)細胞において作動可能なプロモーター領域核酸配列であり、[mod-5’-UTR]は、改変B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列であり、且つ[ORF]は、目的のタンパク質(POI)をコードするオープンリーディングフレーム核酸配列であり、[Pro]、[mod-5’-UTR]及び[ORF]核酸配列は、作動可能に連結されている。他の実施形態では、ベクター又はDNA発現コンストラクトは、本開示の単離ポリヌクレオチドを含む。さらに他の実施形態では、組換え体バチルス属(Bacillus sp.)細胞は、本開示の単離ポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、バチルス属(Bacillus sp.)は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である。
【0009】
別の実施形態では、本開示は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR(WT-5’-UTR)配列に由来する改変バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関し、単離された改変ポリヌクレオチドは、5’から3’方向において作動可能な組合せにおける式(II):
(II):[TIS][mod-5’UTR][tssコドン]
の核酸配列を含み、
式中、[TIS]は、転写開始部位(TIS)であり、[mod-5’-UTR]は、改変B.サブチリス(B.subtilis)5’-UTR核酸配列を含み、且つ[tssコドン]は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンである。特定の実施形態では、[mod-5’-UTR]配列は、配列番号2を含む。別の実施形態では、ポリヌクレオチドはさらに、(a)[TIS]に対して上流(5’)にあり且つ作動可能に連結された核酸プロモーター配列であって、そのプロモーター配列がバチルス属(Bacillus sp.)細胞において作動可能である核酸プロモーター配列及び(b)tssコドンに対して下流(3’)にあり且つ作動可能に連結されたORF核酸配列であって、ORF配列がPOIをコードするORF核酸配列を含む。他の実施形態では、ベクター又はDNA発現コンストラクトは、本開示の単離ポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、組換え体バチルス属(Bacillus sp.)細胞は、式(II)のポリヌクレオチドを含む。特定の他の実施形態では、バチルス属(Bacillus sp.)細胞は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である。
【0010】
別の実施形態では、本開示は、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおける式(III)
(III):[5’-HR][TIS][mod-5’-UTR][tssコドン][3’-HR]
の核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドを対象とし、
式中、[TIS]は、転写開始部位(TIS)であり、[mod-5’-UTR]は、改変B.サブチリス(B.subtilis)5’-UTR核酸配列を含み、[tssコドン]は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、[5’-HR]は、5’-核酸配列相同領域であり、且つ[3’-HR]は、3’-核酸配列相同領域であり、5’-HR及び3’-HRは、それぞれ[TIS]配列のすぐ上流(5’)及び[tssコドン]配列のすぐ下流(3’)のゲノム(染色体)領域(遺伝子座)に対して十分な相同性を含み、相同組換えにより導入されるポリヌクレオチドコンストラクトの改変バチルス属(Bacillus)細胞のゲノムへの組込みをもたらす。特定の実施形態では、ベクター又はDNA発現コンストラクトは、式(III)のポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、バチルス属(Bacillus sp.)細胞は、ポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、バチルス属(Bacillus sp.)細胞は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である。
【0011】
さらに他の実施形態では、本開示のオープンリーディングフレーム(ORF)核酸配列は、目的のタンパク質(POI)をコードし、POIは、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0012】
さらに他の実施形態では、本開示は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR(WT-5’-UTR)配列に由来する改変5’-UTR(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおける式(IV):
(IV):[TIS][5’-UTR-ΔxN][tssコドン]
の核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関し、
式中、[TIS]は、転写開始部位(TIS)であり、[tssコドン]は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、且つ[5’-UTR-ΔxN]は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列に由来する改変バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列であり、mod-5’-UTR核酸配列[5’-UTR-ΔxN]は、WT-5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で「x」ヌクレオチド(「N」)の欠失(-Δ)を含む。
【0013】
別の実施形態では、本開示は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR(WT-5’-UTR)配列に由来する改変5’-UTR(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおける式(V):
(V):[TIS][5’-UTR+ΔxN][tssコドン]
の核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関し、
式中、[TIS]は、転写開始部位であり、[tssコドン]は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、且つ[5’-UTR+ΔxN]は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列に由来する改変バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列であり、mod-5’-UTR核酸配列[5’-UTR+ΔxN]は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で「x」ヌクレオチド(「N」)の付加(+Δ)を含む。
【0014】
他の実施形態では、本開示は、異種POIの産生に好適な培地中で培養されるときに増加した量の異種の目的のタンパク質(POI)を産生する改変バチルス属(Bacillus sp.)(娘)細胞であって、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおいて式(I)
(I):[Pro][mod-5’-UTR][ORF]
の核酸配列を含む導入発現コンストラクトを含む改変バチルス属(Bacillus)細胞を対象とし;
式中、[Pro]は、バチルス属(Bacillus sp.)細胞において作動可能なプロモーター領域核酸配列であり、[mod-5’-UTR]は、改変B.サブチリス(B.subtilis)の非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列であり、且つ[ORF]は、目的のタンパク質(POI)をコードするオープンリーディングフレーム核酸配列であり、[Pro]、[mod-5’-UTR]及び[ORF]核酸配列は、作動可能に連結されており、改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞は、同様の条件下で培養されるとき、同じPOIを産生する非改変バチルス属(Bacillus)(親)細胞と比較して増加した量の異種POIを産生する。特定の実施形態では、mod-5’-UTRは、配列番号2を含む。他の実施形態では、細胞は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である。他の実施形態では、ORF配列は、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択されるPOIをコードする。
【0015】
特定の他の実施形態では、本開示は、改変バチルス属(Bacillus)細胞中で増加した量の異種の目的のタンパク質(POI)を産生するための方法であって:(a)5’から3’の方向及び作動可能な組合せにおいて[Pro]が、バチルス属(Bacillus sp.)細胞中で作動可能なプロモーター領域核酸配列であり、[mod-5’-UTR]が、配列番号2のmod-5’-UTR核酸配列であり、且つ[ORF]が、目的のタンパク質(POI)をコードするオープンリーディングフレーム核酸配列である核酸配列[Pro][mod-5’-UTR][ORF]を含む発現コンストラクトを親バチルス属(Bacillus sp.)細胞に導入する工程、及び(b)異種POIの産生に好適な培地中で工程(a)の改変バチルス属(Bacillus sp.)細胞を培養する工程を含み、改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞が、工程(b)の同じ培地中において培養されたバチルス属(Bacillus)対照細胞と比較して増加した量のPOIを産生し、バチルス属(Bacillus)対照細胞が、5’から3’の方向及び作動可能な組合せにおいて[Pro]及び[ORF]核酸配列が、工程(a)における[Pro]及び[ORF]配列と同一であり、且つ[WT-5’-UTR]が、配列番号1を含む核酸配列[Pro][WT-5’-UTR][ORF]を含む導入発現コンストラクトを含む方法に関する。特定の実施形態では、バチルス属(Bacillus)細胞は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞である。別の実施形態では、ORF配列は、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択されるPOIをコードする。
【0016】
さらに他の実施形態では、本開示は、改変バチルス属(Bacillus)細胞中で増加した量の内在性の目的のタンパク質(POI)を産生するための方法であって:(a)内在性POIを産生する親バチルス属(Bacillus)細胞を入手する工程、(b)工程(a)の細胞中に、5’から3’の方向及び作動可能な組合せにおいて式(VI)
(VI):[5’-HR][mod-5’-UTR][3’-HR]
の核酸配列を含むポリヌクレオチドコンストラクトを導入する工程であって、
[mod-5’-UTR]が、配列番号2を含み、[5’-HR]が、内在性POIをコードする内在性GOIの内在性野生型5’-UTR(WT-5’-UTR)配列のすぐ上流(5’)のゲノム遺伝子座に対する相同性を含む5’-核酸配列相同領域であり、且つ[3’-HR]が、内在性POIをコードする内在性GOIの内在性WT-5’-UTR配列のすぐ下流(3’)のゲノム遺伝子座に対する相同性を含む3’-核酸配列相同領域であり、5’-HR及び3’-HRが、前記ゲノム遺伝子座に対して十分な相同性を含み、相同組換えにより導入されるmod-5’-UTRポリヌクレオチドコンストラクトの改変バチルス属(Bacillus)細胞のゲノムへの組込みをもたらすことにより、内在性WT-5’-UTRを配列番号2のmod-5’-UTRで置き換える工程、及び(c)内在性POIの産生に好適な培地中で工程(b)の改変バチルス属(Bacillus sp.)細胞を培養する工程を含み、工程(c)の改変細胞が、同様の条件下で培養されるとき、工程(a)の親細胞と比較して増加した量の内在性POIを産生する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】プロモーター-WT 5’UTR-開始コドン核酸配列(上段の配列、「1」と標識される)とプロモーター-mod 5’-開始コドン核酸配列(下段の配列、「2」と標識される)の核酸配列比較を示す。両方の配列に関して、-35領域に下線が引かれ、-10領域は囲まれ、転写開始部位は「+1」で標識され、5’UTR配列は太字であり、リボソーム結合部位(RBS)は太字のイタリック体である。垂直の線は、2つの配列の間で同一であることを示す。配列「1」は、B.サブチリス(B.subtilis)のaprE遺伝子のWT-5’UTRを含有する元の配列である。配列「2」は、RBSと開始コドン(ATG)の間の間隔を変えている-1A(Δアデニン)を伴う改変aprE 5’UTR(mod-5’UTR)を含有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
生物学的配列の簡単な説明
配列番号1は、野生型B.サブチリス(B.subtilis)aprE 5’UTRの核酸配列(以下、「WT-5’-UTR」)である。
【0019】
配列番号2は、改変B.サブチリス(B.subtilis)aprE 5’UTRの核酸配列(以下、「mod-5’-UTR」)である。
【0020】
配列番号3は、配列番号21のアミノ酸配列を含むcomK転写因子タンパク質をコードする人工核酸配列である。
【0021】
配列番号4は、「WT-5’-UTR」発現コンストラクトを含む人工核酸配列である。
【0022】
配列番号5は、「mod-5’-UTR」発現コンストラクトを含む人工核酸配列である。
【0023】
配列番号6は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞の5’catH遺伝子配列に対して配列相同性を含む人工5’相同アーム(すなわち、5’-HR)核酸配列である。
【0024】
配列番号7は、catH遺伝子を含む人工核酸配列である。
【0025】
配列番号8は、spoVGrrnIpハイブリッドプロモーターを含む人工核酸配列である。
【0026】
配列番号9は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)のα-アミラーゼタンパク質シグナル配列をコードする核酸配列である。
【0027】
配列番号10は、G.ステアロサーモフィルス(G.stearothermophilus)変異体の配列番号13のα-アミラーゼタンパク質をコードする人工核酸配列である。
【0028】
配列番号11は、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)のα-アミラーゼ終結配列を含む核酸配列である。
【0029】
配列番号12は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞の3’catH遺伝子配列に対して配列相同性を含む人工3’相同アーム(すなわち、3’-HR)核酸配列である。
【0030】
配列番号13は、変異体G.ステアロサーモフィルス(G.stearothermophilus)のα-アミラーゼタンパク質のアミノ酸配列である。
【0031】
配列番号14は、人工核酸配列--コロニーPCR「WT-5’UTR」コンストラクトである。
【0032】
配列番号15は、人工核酸配列--コロニーPCR(-1A 5’UTR)「mod-5’UTR」コンストラクトである。
【0033】
配列番号16は、人工プライマー核酸配列である。
【0034】
配列番号17は、人工プライマー核酸配列である。
【0035】
配列番号18は、人工プライマー核酸配列である。
【0036】
配列番号19は、人工プライマー核酸配列である。
【0037】
配列番号20は、人工プライマー核酸配列である。
【0038】
配列番号21は、配列番号3によりコードされるcomKタンパク質のアミノ酸配列である。
【0039】
本開示は一般に、増加したタンパク質産生能力などを有するバチルス属(Bacillus)(宿主)細胞(例えば、タンパク質産生宿主細胞、細胞工場)を作製し且つ構築するための組成物及び方法に関する。本開示の特定の実施形態は、改変バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチド、そのベクター、そのDNA(発現)コンストラクト、その改変バチルス(Bacillus)(娘)細胞、及びそれを作製及び使用する方法に関する。他の実施形態では、本開示は、改変B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関する。特定の実施形態では、本開示の改変5’-UTRはさらに、改変5’-UTRに対して5’にあり且つ作動可能に連結された上流(5’)プロモーター領域核酸配列及び/又は改変5’-UTRに対して3’にあり且つ作動可能に連結された下流(3’)オープンリーディングフレーム(ORF)核酸配列(目的のタンパク質をコードする)を含む。
【0040】
別の実施形態では、本開示は、5’から3’方向における式(I):
(I):[Pro][mod-5’-UTR][ORF]
を含む単離ポリヌクレオチドを対象とし、
式中、[Pro]は、バチルス属(Bacillus sp.)細胞において作動可能なプロモーター領域核酸配列であり、[mod-5’-UTR]は、改変5’-UTR核酸配列であり、且つ[ORF]は、目的のタンパク質(POI)をコードするオープンリーディングフレーム核酸配列であり、[Pro]、[5’-UTR]及び[ORF]核酸配列は、作動可能に連結されている。他の実施形態では、本開示は、本開示の単離ポリヌクレオチドを含むベクター及びDNAコンストラクトに関する。
【0041】
他の実施形態では、本開示のORF配列は、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択されるPOIをコードする。
【0042】
他の実施形態では、本開示は、異種POIの産生に好適な培地中で培養されるときに増加した量の異種の目的のタンパク質(POI)を産生する改変バチルス属(Bacillus sp.)(娘)細胞であって、式(I)の核酸配列を含む導入発現コンストラクトを含む改変バチルス属(Bacillus)細胞に関し、改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞は、同様の条件下で培養されるとき、同じPOIを産生する非改変バチルス属(Bacillus)(親)細胞と比較して増加した量の異種POIを産生する。
【0043】
I.定義
本明細書に記載されるとおりの(親)バチルス属(Bacillus)細胞、改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞、その組成物及びそれを作製及び使用する方法を含むがこれらに限定されない本開示のバチルス属(Bacillus)株及び宿主細胞の観点から、以下の用語及び語句が定義される。
【0044】
本明細書において別段の指示がない限り、本明細書に記載される1種以上のバチルス属(Bacillus)株(すなわち、宿主細胞)は、分子生物学、微生物学、タンパク質精製、タンパク質及びDNA配列決定並びに種々の組換えDNA法/技術において一般に使用される従来の技術により作製及び使用され得る。
【0045】
本明細書において別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0046】
本明細書で提供されるいかなる定義も、全体として本明細書の文脈で解釈されるべきである。本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明確に単数形ではないことを示さない限り、複数形を含む。別段の指示がない限り、核酸配列は5’から3’の方向に左から右へと記載され;アミノ酸配列はアミノからカルボキシの方向に左から右へと記載される。本明細書で使用される数値範囲は全て、それより狭い数値範囲が全て本明細書に明示されているかのように、そのようなより広い数値範囲に入る全てのより狭い数値範囲を含む。
【0047】
数値と結び付けて本明細書で用いられるところでは、用語「約」は、その用語が文脈において特に具体的に定義されていない限り、数値の±0.5の範囲を指す。例えば、語句「約6のpH値」は、pH値が特に具体的に定義されていない限り、5.5~6.5のpH値を指す。
【0048】
本組成物及び本方法を実施又は試験する際、本明細書に記載のものに類似した、又は同等の方法及び材料もまた使用することができるが、ここで、説明に役立つ代表的な方法及び材料を記載する。本明細書で引用した全ての刊行物及び特許は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0049】
特許請求の範囲が、任意選択的な要素を排除するように記載され得ることにもさらに留意されたい。したがって、この記述は、特許請求項の構成要素の列挙に関連して「唯一(solely)」、「ただ~のみ(only)」、「~を除いて(excluding)」、「~を含まない(not including)」などの排他的な用語の使用、又はその「否定的な」限定若しくは条件の使用のための先行文として機能することを意図している。
【0050】
本開示を読めば当業者には明らかなように、本明細書に記載及び例示する個々の実施形態のそれぞれは、本明細書に記載する本組成物及び方法の範囲又は精神から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離又は組み合わせることができる別個の構成要素及び特徴を有する。記載した方法はいずれも、記載した事象の順序で、又は論理的に可能な他の任意の順序で実施することができる。
【0051】
本明細書で使用する場合、「バチルス(Bacillus)属」には、当業者に知られる「バチルス(Bacillus)」属内の全ての種が含まれ、例えば、B.サブチリス(B.subtilis)、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)、B.レンツス(B.lentus)、B.ブレビス(B.brevis)、B.ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)、B.アルカロフィルス(B.alkalophilus)、B.アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)、B.クラウシイ(B.clausii)、B.ハロデュランス(B.halodurans)、B.メガテリウム(B.megaterium)、B.コアグランス(B.coagulans)、B.サークランス(B.circulans)、B.ギブソニイ(B.gibsonii)及びB.チューリンギエンシス(B.thuringiensis)が挙げられるが、これらに限定されない。バチルス(Bacillus)属が分類学的再編成を受け続けていることは認識されている。したがって、この属には、現在は「ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)」と称されるB.ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)又は現在はパエニバチルス・ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)であるB.ポリミキサ(B.polymyxa)などの生物を含むがこれらに限定されない、再分類されている種が含まれるものとする。ストレスの多い環境条件下での耐性内生胞子の産生はバチルス(Bacillus)属を定義する特徴と考えられるが、この特徴は最近名付けられたアリサイクロバチルス属(Alicyclobacillus)、アムピバチルス属(Amphibacillus)、アネウリニバチルス属(Aneurinibacillus)、アノキシバチルス属(Anoxybacillus)、ブレビバチルス属(Brevibacillus)、フィロバチルス属(Filobacillus)、グラシリバチルス属(Gracilibacillus)、ハロバチルス属(Halobacillus)、パエニバチルス属(Paenibacillus)、サリバチルス属(Salibacillus)、サーモバチルス属(Thermobacillus)、ウレイバチルス属(Ureibacillus)、及びバルジバチルス属(Virgibacillus)にも適用される。
【0052】
本明細書で使用する場合、語句「非翻訳領域」は、「UTR」と略記される場合がある。
【0053】
本明細書で使用する場合、「5プライム非翻訳領域」又は「5’非翻訳領域」は、「5’-UTR」又は「5’UTR」と略記される場合があり、語句「3プライム非翻訳領域」又は「3’非翻訳領域」は、「3’-UTR」又は「3’UTR」と略記される場合がある。
【0054】
本明細書で使用する場合、「野生型」B.サブチリス(B.subtilis)「aprE 5’UTR」は、本明細書で「WT-5’UTR」配列と称される配列番号1のヌクレオチド配列を含む。
【0055】
本明細書で使用する場合、「改変」B.サブチリス(B.subtilis)「aprE 5’UTR」又は「改変aprE 5’UTR」は互換的に使用され、本明細書で「mod-5’UTR」と略記される。
【0056】
本明細書で使用する場合、本開示の「mod-5’-UTR」は、「WT-5’-UTR」(すなわち、配列番号1を含むWT-5’-UTR)とは、mod-5’-UTRが、(i)配列番号1の少なくとも最も3’のアデニン(A)ヌクレオチドの欠失又は(ii)配列番号1の3’アデニン(A)ヌクレオチドに続く少なくとも1つのヌクレオチドの付加を含むという点で異なる。
【0057】
例えば、最も3’のアデニンヌクレオチド位置(例えば、配列番号1を参照のこと)の欠失を含むmod-5’-UTRは、一般的に、以下の命名法「1:mod-5’-UTR」を用いて表される場合があり、最も3’の2つのヌクレオチド(例えば、配列番号1におけるアデニン及びグアニン)の欠失を含むmod-5’-UTRは、一般的に、以下の命名法「2:mod-5’-UTR」などを用いて表される場合がある。
【0058】
同様に、最も3’のヌクレオチド位置でのヌクレオチドの付加(例えば、配列番号1におけるアデニン(A)に対してヌクレオチドが付加された3’)を含むmod-5’-UTRは、一般的に、以下の命名法「1:mod-5’-UTR」を用いて表される場合があり、最も3’のヌクレオチド位置に対する2つのヌクレオチドの付加(例えば、配列番号1におけるアデニン(A)に対して2つのヌクレオチドが付加された3’)を含むmod-5’-UTRは、一般的に、以下の命名法「2:mod-5’-UTR」などを用いて表される場合がある。
【0059】
したがって、本明細書で使用される場合の「1A:mod-5’-UTR」は、配列番号2の核酸配列を含む。WT-5’UTR核酸配列(配列番号1)と1A:mod-5’-UTR核酸配列(配列番号2)の比較(例えば、図1を参照のこと)は、WT-5’UTR配列と比較して1A:mod-5’-UTR配列が、最後の(3’)ヌクレオチド(すなわち、アデニン(A))の欠失を含むことを示す。
【0060】
本明細書で使用する場合、本明細書で「TIS」と略記される「転写開始部位」は一般に、転写が始まる塩基対(すなわち、開始部位)を指す。慣習により、転写単位のDNA配列における転写開始部位(TIS)は通常、「+1」と番号付けされる。転写の方向において伸長する塩基対(すなわち、3’;下流)は、正「(+)」の番号に割り当てられ、反対方向において伸長するもの(すなわち、5’;上流)は、負「(-)」の番号に割り当てられる。
【0061】
本明細書で使用する場合、語句「翻訳開始部位」及び「翻訳開始部位コドン」は、互換的に使用されてもよく、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンを指す。例えば、原核生物の「tssコドン」としては、「AUG」、「GUG」、「UGG」などが挙げられるが、これらに限定されない。タンパク質コード遺伝子を検索するとき、代替の(低い頻度で使用される)開始コドンを同定するためにバイオインフォマティクスプログラム/ツールを容易に利用できる。
【0062】
本明細書で使用する場合、「遺伝子改変細胞」、「改変細胞」、「改変バチルス属(Bacillus)細胞」、「改変細胞」などは、互換的に使用され、改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞が由来する非改変バチルス属(Bacillus)(親)細胞において存在しない少なくとも1つの遺伝子改変を含む組換えバチルス属(Bacillus)細胞を指す。
【0063】
本明細書で使用する場合、用語「改変」、「遺伝子改変」、「遺伝子変異」、「遺伝子操作」などは、互換的に使用され、(a)遺伝子(又はそのオープンリーディングフレーム(ORF))における1つ以上のヌクレオチドの導入、置換、若しくは除去、又は遺伝子(又はそのORF)の転写若しくは翻訳に必要な調節エレメントにおける1つ以上のヌクレオチドの導入、置換、若しくは除去、(b)遺伝子破壊、(c)遺伝子変換、(d)遺伝子欠失、(e)遺伝子の下方制御、(f)遺伝子の上方制御、(g)特異的変異誘発及び/又は(h)本明細書で開示される任意の1つ以上の核酸配列若しくは遺伝子のランダム変異誘発を含むが、これらに限定されない。
【0064】
本明細書で使用する「遺伝子の破壊」、「遺伝子破壊」、「遺伝子の不活性化」及び「遺伝子不活性化」は、互換的に使用され、宿主細胞が機能的遺伝子産物(例えば、タンパク質)を産生することを実質的に妨げる任意の遺伝子改変を広く指す。例示的な遺伝子破壊方法としては、ポリペプチドコード配列(例えば、ORF)、プロモーター配列、エンハンサー配列、又は別の調節エレメント配列を含む遺伝子の任意の部分の完全若しくは部分的な欠失、又はその変異誘発が挙げられるが、ここで変異誘発は、標的遺伝子を破壊/不活性化し、機能的遺伝子産物(すなわち、タンパク質)の産生を実質的に減少させるか若しくは妨げる、置換、挿入、欠失、逆位並びにそれらの任意の組合せ及び変形形態を包含する。
【0065】
本明細書で使用する場合、用語、遺伝子発現の「下方制御」及び遺伝子発現の「上方制御」は、所与の遺伝子のより低い(下方制御された)又はより高い(上方制御された)発現をもたらす任意の方法を含む。例えば、遺伝子の下方制御は、RNA誘導遺伝子サイレンシング、制御エレメント(例えば、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)/シャイン・ダルガーノ配列、非翻訳領域(UTR)など)の遺伝子改変、コドン変更などによって達成され得る。
【0066】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」は、新たに導入されるDNA配列(例えば、ベクター/DNAコンストラクトなど)のための宿主又は発現媒体として機能する能力を有する細胞を指す。特定の実施形態では、本開示の宿主細胞は、バチルス(Bacillus)属のメンバーである。
【0067】
本明細書で定義する場合、「増加した発現」、「強化された発現」、「目的のタンパク質(POI)の増加した発現」、「増加した産生」、「POIの増加した産生」などの用語は、非改変バチルス属(Bacillus)(親)細胞に由来する「改変」バチルス属(Bacillus)(娘)細胞を指し、ここで、「増加する」は、同様の条件下で培養(増殖、発酵)されるとき、同じPOIを発現/産生する「非改変」バチルス属(Bacillus)(親)細胞に対して相対的(相対して)なものである。
【0068】
本明細書で使用する場合、用語「発現」は、本開示の核酸分子に由来するセンス(メッセンジャーRNA、mRNA)又はアンチセンスRNAの転写及び安定した蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指す場合がある。したがって、用語「発現」には、例えば、転写、転写後改変、翻訳、翻訳後改変、分泌などを含むがそれらに限定されないポリペプチドの産生に関与する任意の工程が含まれる。
【0069】
本明細書で定義する場合、例えば、語句「改変細胞が(非改変)親細胞と比較して増加した量の目的のタンパク質を発現/産生する」において使用される複合された用語「発現/産生する」、用語(「発現/産生する」)は、本開示のバチルス属(Bacillus)(宿主)細胞内の目的のタンパク質の発現及び産生に関与する任意の工程を含むものとする。
【0070】
本明細書で使用する場合、タンパク質産生を「増加させる」又は「増加した」タンパク質産生は、産生されたタンパク質(例えば、目的のタンパク質)の増加した量を意味する。タンパク質は、細胞の内部で産生されても、培養培地中に分泌(又は、輸送)されてもよい。特定の実施形態では、目的のタンパク質は、培養培地中に産生(分泌)される。タンパク質産生の増加は、例えば、非改変(親)細胞と比較して、より高い最大レベルのタンパク質若しくは酵素活性(例えば、プロテアーゼ活性、アミラーゼ活性、セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性など)、又は産生される総細胞外タンパク質として検出され得る。
【0071】
本明細書で使用する場合、「核酸」は、ヌクレオチド又はポリヌクレオチド配列、及びそれらの断片又は部分、並びにセンス鎖又はアンチセンス鎖のいずれを表していても、二本鎖であっても一本鎖であってもよい、ゲノム又は合成起源のDNA、cDNA及びRNAを指す。遺伝暗号の縮重の結果として、多数のヌクレオチド配列が所与のタンパク質をコードし得ることが理解される。本明細書に記載されるポリヌクレオチド(又は核酸分子)としては、「遺伝子」、「オープンリーディングフレーム」(ORF)、「ベクター」及び「プラスミド」が挙げられることが理解される。
【0072】
したがって、用語「遺伝子」は、あるタンパク質のコード配列の全て又は一部を含む、ある特定のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを指し、例えば、遺伝子が発現される条件を決定する、プロモーター配列などの調節(非転写)DNA配列を含み得る。遺伝子の転写領域は、イントロン、5’-非翻訳領域(5’-UTR)、及び3’-非翻訳領域(3’-UTR)、並びにタンパク質コード配列を含む非翻訳領域(UTR)を含み得る。
【0073】
本明細書で使用する場合、用語「コード配列」は、その(コードされた)タンパク質産物のアミノ酸配列を直接的に指定するヌクレオチド配列を指す。コード配列の境界は、一般に、通常「ATG」開始コドンで始まるオープンリーディングフレームによって決定される。コード配列は通常、DNA、cDNA、及び組換えヌクレオチド配列を含む。
【0074】
本明細書で使用する場合、用語「オープンリーディングフレーム」(以下「ORF」)は、(i)開始コドン、(ii)アミノ酸を示す一連の2つ以上のコドン、及び(iii)終止コドンからなる中断されていないリーディングフレームを含む核酸又は核酸配列(天然に存在するか、天然に存在しないか、又は合成であるかにかかわらず)を意味し、ORFは、5’から3’の方向に読まれる(又は、翻訳される)。
【0075】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」は、コード配列又は機能的RNAの発現を制御できる核酸配列を指す。一般に、コード配列は、プロモーター配列の3’(下流)に位置する。プロモーターは、それらの全体が天然の遺伝子に由来してもよいし、天然に見出される異なるプロモーターに由来する異なるエレメントから構成されてもよいし、合成核酸区間を含んでもよい。種々のプロモーターが、種々の細胞型で、種々の発生段階で、又は種々の環境若しくは生理的条件に応答して、遺伝子の発現を指示し得ることが当業者には理解される。大多数の場合にほとんどの細胞型で遺伝子の発現をもたらすプロモーターは一般に、「構成的プロモーター」と呼ばれる。ほとんどの場合、調節配列の正確な境界は、完全には明らかになっていないため、種々の長さのDNA断片が同一プロモーター活性を有し得ることがさらに認識されている。特定の実施形態では、本開示のプロモーター核酸配列は、バチルス属(Bacillus)細胞において機能するプロモーター配列を含み、そのプロモーター配列としては、低い、中程度又は高い活性の構成的プロモーター、誘導性プロモーター、タンデムプロモーター、合成プロモーター、タンデム合成プロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本明細書で使用する場合、用語「作動可能に連結された」は、一方の機能が他方の機能によって影響されるように、単一の核酸断片上での核酸配列の連関を指す。例えば、プロモーターは、それがそのコード配列の発現に影響を及ぼすことができる(すなわち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある)場合、コード配列(例えば、ORF)に作動可能に連結されている。コード配列は、センス又はアンチセンスの配向で調節配列に作動可能に連結され得る。
【0077】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれた場合、「作動可能に連結」されている。例えば、分泌リーダー(すなわち、シグナルペプチド、シグナル配列)をコードするDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現する場合、ポリペプチドのためのDNAに作動可能に連結されるか;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されるか;又はリボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に作動可能に連結される。一般に、「作動可能に連結された」は、連結されているDNA配列が連続していること、及び分泌リーダーの場合は、連続し、且つリーディング期にあることを意味する。しかし、エンハンサーは、連続している必要はない。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションによってなされる。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが使用される。
【0078】
例えば、特定の実施形態では、本開示の単離ポリヌクレオチドは、野生型B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’-UTR核酸配列(すなわち、WT-5’-UTR;配列番号1)に由来する改変aprE 5’-UTR(mod-5’-UTR)核酸配列を含む(例えば、図1を参照のこと)。
【0079】
本明細書で使用する場合、目的のタンパク質のコード配列の遺伝子に連結した目的の遺伝子(又はそのORF)の発現を制御する「機能的プロモーター配列」は、バチルス属(Bacillus)細胞におけるコード配列の転写及び翻訳を制御するプロモーター配列を指す。特定の実施形態では、使用される機能的プロモーター配列は、天然において単離されたものと同じくらい野生型(天然の)遺伝子と関連した天然のプロモーター核酸配列である。他の実施形態では、使用される機能的プロモーター配列は、天然において単離された野生型(天然の)遺伝子と関連していない異種プロモーター核酸配列であり、異種プロモーターは、事実確認的プロモーター又は誘導性プロモーターである。
【0080】
本明細書で定義する場合、「好適な調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、配列内、又はその下流(3’非コード配列)に位置し、関連コード配列の転写、RNAプロセシング若しくは安定性、又は翻訳に影響を与えるヌクレオチド配列を指す。調節配列は、プロモーター、翻訳リーダー配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位及びステムループ構造を含み得る。
【0081】
本明細書で定義する場合、少なくとも1つのポリヌクレオチドオープンリーディングフレーム(ORF)、又はその遺伝子、又はそのベクター/DNAコンストラクトを「細菌細胞内に導入すること」又は「バチルス属(Bacillus)細胞内に導入すること」などの語句に使用される用語「導入すること」は、プロトプラスト融合法、天然又は人工形質転換(例えば、塩化カルシウム、エレクトロポレーション)、形質導入、トランスフェクション、接合などを含むがそれらに限定されない、ポリヌクレオチドを細胞内に導入するための当該技術分野で知られる方法を含む(例えば、Ferrari et al.,1989を参照されたい)。
【0082】
本明細書で使用する場合、「形質転換された」は、細胞が組換えDNA技術の使用によって形質転換されたことを意味する。形質転換は通常、1つ以上のヌクレオチド配列(例えば、ポリヌクレオチド、ORF又は遺伝子)の細胞内への挿入によって発生する。挿入されたヌクレオチド配列は、異種ヌクレオチド配列(すなわち、形質転換されることになる細胞中において天然に存在しない配列)であってもよい。例えば、特定の実施形態では、親バチルス属(Bacillus)細胞は、親細胞に1つ以上の本開示のDNAコンストラクトを導入することによって改変される(例えば、形質転換される)。
【0083】
本明細書で使用する場合、「形質転換」は、DNAが、染色体組込み体又は自己複製染色体外ベクターとして維持されるように、外来DNAを宿主細胞内に導入することを指す。
【0084】
本明細書で使用する場合、「形質転換DNA」、「形質転換配列」、及び「DNAコンストラクト」は、配列を宿主細胞内又は生物内に導入するために使用されるDNAを指す。形質転換DNAは、配列を宿主細胞又は生物内に導入するために使用されるDNAである。このDNAは、インビトロでPCR又は任意の他の好適な技術によって生成され得る。一部の実施形態では、形質転換DNAは、入来配列を含むが、他の好ましい実施形態では、それはさらに、相同領域(HR)に隣接した入来配列を含む。さらに別の実施形態では、形質転換DNAは、末端に付加された、他の非相同配列(すなわち、スタッファー配列又はフランキング配列)を含む。末端は、例えば、ベクター内への挿入など、形質転換DNAが閉環を形成するように閉じられる場合がある。
【0085】
本明細書で使用する場合、本明細書で開示される「5’-HR」又は「3’-HR」などの「相同領域」(「HR」と略記される)は、バチルス属(Bacillus)染色体における配列に相同である核酸配列を指す。より具体的には、相同領域(HR)は、本開示に従って、欠失され、破壊され、不活性化され、下方制御されるなどの遺伝子又は遺伝子の一部のすぐ隣のコード領域との約80~100%の配列同一性、約90~100%の配列同一性、又は約95~100%の配列同一性を有する上流又は下流領域である。これらのHR配列は、バチルス属(Bacillus)染色体内にDNAコンストラクトが組み込まれる場所を指令し、バチルス属(Bacillus)染色体のどの部分が入来配列により置換されるのかを指令する。したがって、特定の実施形態では、入来配列は両側で相同領域に隣接される。他の実施形態では、入来配列及びHRは、両側でスタッファー配列により隣接される単位を含む。一部の実施形態では、相同領域(HR配列)は、一方の側(3’又は5’)にのみ存在するが、他の実施形態では、隣接している配列の両側に存在する。したがって、各相同領域の配列は、バチルス属(Bacillus)染色体内の配列と相同である。
【0086】
本明細書で使用する場合、用語「スタッファー配列」は、5’-HR及び/又は3’-HR相同領域(例えば、ベクター配列)に隣接する任意の追加のDNAを指す。
【0087】
したがって、本開示を限定するものではないが、相同領域(HR)は、約1塩基対(bp)~200キロ塩基対(kb)を含み得る。好ましくは、相同領域(HR)は、約1bp~10.0kb;1bp~5.0kb;1bp~2.5kb;1bp~1.0kb、及び0.25kb~2.5kbを含む。相同領域はまた、約10.0kb、5.0kb、2.5kb、2.0kb、1.5kb、1.0kb、0.5kb、0.25kb、及び0.1kbを含み得る。例えば、一部の実施形態では、選択マーカー(例えば、lysA遺伝子、serA遺伝子、pyrF遺伝子など)の5’及び3’末端は、相同領域(5’-HR/3’-HR)によって隣接されるが、ここで、相同領域は、遺伝子のコード領域のすぐ隣の核酸配列を含む。
【0088】
本明細書で使用する場合、用語「選択可能マーカー」及び「選択マーカー」は、選択可能マーカーベクター/DNAコンストラクトを含有するそれらの宿主細胞の選択を容易にすることが可能な、宿主細胞内で発現することができる核酸(例えば、遺伝子又はORF)を指す。したがって、用語「選択可能マーカー」は、宿主細胞が目的の入来DNAコンストラクトを取り込んだことを示す遺伝子(又はORF)を指す。
【0089】
本明細書で定義する場合、宿主細胞「ゲノム」、細菌(宿主)細胞「ゲノム」、又はバチルス属(Bacillus)(宿主)細胞「ゲノム」は、染色体遺伝子及び染色体外遺伝子を含む。
【0090】
本明細書で使用する場合、用語「プラスミド」、「ベクター」及び「カセット」は、多くは、細胞の中心的な代謝には通常関与しない遺伝子を持ち、通常、環状の二本鎖DNA分子の形態の染色体外エレメントを指す。このようなエレメントは、任意の供給源に由来する、線状又は環状の一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAからなる自己複製配列、ゲノム組込み配列、ファージ又はヌクレオチド配列であり得、ここで、いくつかのヌクレオチド配列が、選択された遺伝子産物のためのプロモーター断片及びDNA配列を適切な3’非翻訳配列とともに細胞に導入することができる固有の構成に結合又は組み換えられている。
【0091】
本明細書で使用する場合、用語「ベクター」は、細胞内で複製(増殖)することができ、且つ新たな遺伝子(又はORF若しくはDNAセグメント)を細胞中に運ぶことができる任意の核酸を指す。したがって、この用語は、様々な宿主細胞間で移動するために設計された核酸コンストラクトを指す。ベクターとしては、「エピソーム」(すなわち、自律的に複製するか、又は宿主生物の染色体に組み込むことができる)である、ウイルス、バクテリオファージ、プロウイルス、プラスミド、ファージミド、トランスポゾン、並びにYAC(酵母人工染色体)、BAC(細菌人工染色体)、PLAC(植物人工染色体)などの人工染色体が挙げられる。
【0092】
本明細書で使用する場合、用語「発現カセット」、「DNA発現カセット」及び「発現ベクター」は、標的細胞中の特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントを用いて、組換えにより又は合成的に生成される核酸(DNA)コンストラクト(すなわち、これらは、上述したベクター又はベクターエレメントである)を指す。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス、又は核酸断片内に組み込むことができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分には、他の配列の中でも、転写されることになる核酸配列及びプロモーターが含まれる。一部の実施形態では、DNAコンストラクトには、標的細胞内の特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントもまた含まれる。
【0093】
本明細書で使用する場合、「ターゲティングベクター」は、ターゲティングベクターが形質転換される宿主細胞の染色体の領域に相同なポリヌクレオチド配列を含み、その領域で相同組換えを促進できるベクターである。例えば、ターゲティングベクターは、相同組換えを介して宿主細胞の染色体に変異を導入するか又は除去するのに有用である。特定の実施形態では、このようなターゲティングベクターは通常、(親)バチルス属(Bacillus)細胞における1つ以上の遺伝子をその改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞に対して不活性化する際に使用される。例えば、特定の実施形態では、ターゲティングベクターは、バチルス属(Bacillus)遺伝子、バチルス属(Bacillus)プロモーター配列、バチルス属(Bacillus)5’-UTR配列、バチルス属(Bacillus)3’-UTR配列など、及びその組合せを不活性化するために使用される。一部の実施形態では、ターゲティングベクターは、例えば末端に付加される他の非相同配列(すなわち、スタッファー配列又はフランキング配列)を含む。末端は、例えば、ベクター内への挿入など、ターゲティングベクターが閉環を形成するように閉じられる場合がある。適切なベクターの選択及び/又は構成は、十分に当業者の知識の範囲内である。
【0094】
本明細書で使用する場合、用語「プラスミド」は、クローニングベクターとして使用され、且つ多くの細菌及び一部の真核生物において染色体外の自己複製遺伝要素を形成する、環状の二本鎖(ds)DNAコンストラクトを指す。一部の実施形態では、プラスミドは、宿主細胞のゲノム内に組み込まれる。
【0095】
本明細書で使用する場合、用語「目的のタンパク質」又は「POI」は、バチルス属(Bacillus)細胞、特に、改変バチルス属(Bacillus)細胞中で発現されることが望ましい目的のポリペプチドを指し、POIは、増加したレベル(すなわち、「非改変」バチルス属(Bacillus)(親)細胞に比較して)で発現されることが好ましい。したがって、本明細書で使用するPOIは、酵素、基質結合タンパク質、界面活性タンパク質、構造タンパク質、受容体タンパク質などであってよい。特定の実施形態では、本開示の改変細胞は、非改変バチルス属(Bacillus)(親)細胞と比較して増加した量の異種の目的のタンパク質又は内在性の目的のタンパク質を産生する。特定の実施形態では、本開示の改変細胞によって産生された目的のタンパク質の増加した量は、親細胞と比較して、少なくとも0.5%の増加、少なくとも1.0%の増加、少なくとも5.0%の増加、又は5.0%超の増加である。特定の実施形態では、増加した量は、コードされたPOIの酵素活性、mRNAの変化、光学密度測定、タンパク質結合アッセイによって決定される。
【0096】
本明細書で定義する場合、「目的の遺伝子」又は「GOI」は、POIをコードする核酸配列(例えば、ポリヌクレオチド、遺伝子又はORF)を指す。「目的のタンパク質」をコードする「目的の遺伝子」は、天然に存在する遺伝子、変異遺伝子又は合成遺伝子であってもよい。
【0097】
本明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、互換的に使用され、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基を含む任意の長さのポリマーを指す。本明細書では、アミノ酸残基に対し、従来の1文字又は3文字コードを使用する。ポリペプチドは、直鎖状又は分岐鎖状であってもよいし、改変アミノ酸を含んでもよいし、非アミノ酸によって分断されてもよい。ポリポチペプチドという用語はまた、自然に、又は介入;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、若しくは標識化成分との結合などの任意の他の操作若しくは改変によって改変されているアミノ酸ポリマーを包含する。また、この定義の範囲内には、例えば、アミノ酸(例えば、非天然アミノ酸などを含む)の1つ以上のアナログを含有するポリペプチド、及び当該技術分野において知られる他の改変も含まれる。
【0098】
特定の実施形態では、本開示の遺伝子は、酵素(例えば、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、DNA分解酵素、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せ)などの、商業的に関連する工業用の目的のタンパク質をコードする。
【0099】
本明細書で使用する場合、「変異」ポリペプチドは、典型的には組換えDNA技術による1個以上のアミノ酸の置換、付加又は欠失による親(又は参照)ポリペプチドに由来するポリペプチドを指す。変異ポリペプチドは、少数のアミノ酸残基によって親ポリペプチドと異なる可能性があり、親(参照)ポリペプチドとの一次アミノ酸配列の相同性/同一性のレベルによって定義され得る。
【0100】
好ましくは、変異ポリペプチドは、親(参照)ポリペプチド配列との少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する。本明細書で使用する場合、「変異」ポリヌクレオチドは、変異ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指し、ここで「変異ポリヌクレオチド」は、親ポリヌクレオチドと規定の程度の配列相同性/同一性を有するか、又はストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で親ポリヌクレオチド(又はその相補体)とハイブリダイズする。好ましくは、変異ポリヌクレオチドは、親(参照)ポリヌクレオチド配列との少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%のヌクレオチド配列同一性を有する。
【0101】
本明細書で使用する場合、「変異」は、核酸配列内の任意の変化又は変更を指す。点変異、欠失変異、サイレント変異、フレームシフト変異、スプライシング変異などを含む数種類の変異が存在する。変異は、特異的に(例えば、部位特異的変異誘発によって)、又はランダムに(例えば、化学薬品、修復マイナス細菌株による継代を介して)行われ得る。
【0102】
本明細書で使用する場合、ポリペプチド又はその配列に関連して、用語「置換」は、1つのアミノ酸と別のアミノ酸との置き換え(すなわち、置換)を意味する。
【0103】
本明細書で定義する場合、「内在性遺伝子」は、生物のゲノム中の天然の位置に存在する遺伝子を指す。
【0104】
本明細書で定義する場合、「異種」遺伝子、「非内在性」遺伝子、又は「外来」遺伝子は、通常は宿主生物に見出されないが、遺伝子導入によって宿主生物に導入される遺伝子(又はORF)を指す。
【0105】
本明細書で定義する場合、「異種核酸コンストラクト」又は「異種核酸配列」は、それが発現される細胞から生じたものではない配列の部分を有する。
【0106】
用語「由来する」は、用語「~に起源を持つ」、「~から得た」、「入手可能な」及び「作製された」を包含し、一般に、1つの特定の材料若しくは組成物が別の特定の材料若しくは組成物にその起源を見出すか、又は別の特定の材料若しくは組成物を参照して記載できる特徴を有することを示す。
【0107】
本明細書で使用する場合、用語「相同性」は、相同ポリヌクレオチド又は相同ポリペプチドに関する。2つ以上のポリヌクレオチド又は2つ以上のポリペプチドが相同である場合、これは、相同のポリヌクレオチド又はポリペプチドが、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より一層好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、及び最も好ましくは少なくとも98%の「同一性度」を有することを意味する。2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が本明細書で定義されるとおり相同である十分に高い同一性度を有するかどうかは、当該技術分野で知られるコンピュータープログラム及び技術を用いて2つの配列を整列させることによって適切に調査され得る(例えば、Smith and Waterman,1981;Needleman and Wunsch,1970;Pearson and Lipman,1988;Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group,Madison,WI)のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTAなどのプログラム並びにDevereux et al.,1984を参照されたい)。
【0108】
本明細書で使用する場合、用語「パーセント(%)同一性」は、配列アライメントプログラムを使用して整列させたときの、ポリペプチドをコードする核酸配列間又はポリペプチドのアミノ酸配列間の核酸又はアミノ酸配列の同一性のレベルを指す。
【0109】
本明細書で使用する場合、「比生産性」は、所定の期間にわたって、細胞1個当たり、単位時間当たりに産生されるタンパク質の総量である。
【0110】
本明細書で定義する場合、用語「精製された」、「単離された」又は「濃縮された」は、生体分子(例えば、ポリペプチド又はポリヌクレオチド)が、それが本来結合している、天然に存在する構成要素の一部又は全てから分離することによって、その天然状態から改変されることを意味する。そのような単離又は精製は、最終組成物中において望ましくない全細胞、細胞片、不純物、外来タンパク質又は酵素を除くための、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性分離、透析、プロテアーゼ処理、硫酸アンモニウム沈澱又は他のタンパク質塩析、遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、濾過、精密濾過、ゲル電気泳動若しくは勾配による分離などの当該技術分野で認められる分離技術によって実施され得る。精製又は単離した生体分子組成物には、その後さらに、追加の便益を付与する構成要素、例えば、活性化剤、抗阻害剤、望ましいイオン、pHを制御する化合物又は他の酵素若しくは化学物質を添加することができる。
【0111】
本明細書で使用する場合、用語「ComKポリペプチド」は、comK遺伝子の産物;コンピテンスの発達の前の最終自己調節制御スイッチとして作用する転写因子として定義され;DNA結合及び取込み並びに組換えに関与する後期コンピテンス遺伝子の発現の活性化に関与する(Liu and Zuber,1998,Hamoen et al.,1998)。本開示の特定の実施形態では、バチルス属(Bacillus)細胞は、comK転写因子をコードする導入プラスミドを含む。例示的なcomK核酸及びポリペプチド配列は、それぞれ配列番号3及び配列番号21において記載される。
【0112】
本明細書で使用する場合、「相同遺伝子」は、種が異なるが通常は関連する種に由来する、相互に対応し、且つ相互に同一又は極めて類似する1対の遺伝子を指す。この用語は、種分化(すなわち、新規な種の発生)によって分離された遺伝子(例えば、オルソロガス遺伝子)、及び遺伝子重複によって分離されてきた遺伝子(例えば、パラロガス遺伝子)を包含する。
【0113】
本明細書で使用する場合、「オルソログ」及び「オルソロガス遺伝子」は、種分化によって共通の先祖遺伝子(すなわち、相同遺伝子)から生じた異なる種の遺伝子を指す。典型的には、オルソログは、進化の過程中に同一機能を保持している。オルソログの同定は、新しく配列が決定されたゲノムにおける遺伝子機能の信頼性の高い予測に使用される。
【0114】
本明細書で使用する場合、「パラログ」及び「パラロガス遺伝子」は、ゲノム内での重複に関係する遺伝子を指す。オルソログは進化の過程を通して同じ機能を保持し、一方、パラログはいくつかの機能は多くは元の機能に関連するものの新しい機能を生じる。パラログ遺伝子の例としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ及びトロンビン(これらはいずれも、セリンプロテイナーゼであり、同じ種において同時に発生する)をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
本明細書で使用する場合、「アナログ配列」は、遺伝子の機能が、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞に由来する遺伝子と実質的に同一であるものである。さらに、アナログ遺伝子は、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞の配列と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を含む。アナログ配列は、既知の配列アラインメント法によって決定される。一般に使用されるアラインメント法はBLASTであるが、配列を整列させる際には他の方法もまた使用される。
【0116】
本明細書で使用する場合、用語「ハイブリダイゼーション」は、当該技術分野で知られるとおり、核酸鎖がその相補鎖と塩基対を形成することによって結合するプロセスを指す。核酸配列は、2つの配列が中程度から高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件及び洗浄条件下で互いに特異的にハイブリダイズする場合、参照核酸配列に「選択的にハイブリダイズ可能」であると考えられる。ハイブリダイゼーション条件は核酸結合複合体又はプローブの融解温度(T)に基づく。例えば、「最大ストリンジェンシー」は、通常、およそT 5℃(プローブのTを5°下回る)で;「高ストリンジェンシー」はTを約5~10℃下回り;「中程度ストリンジェンシー」はプローブのTを約10~20℃下回り;且つ「低ストリンジェンシー」はTを約20~25℃下回って生じる。機能上、最大ストリンジェンシー条件はハイブリダイゼーションプローブと厳密な同一性、又はほぼ厳密な同一性を有する配列を同定するために用いることができ;一方で、中程度又は低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションはポリヌクレオチド配列ホモログを同定又は検出するために用いることができる。中程度~高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は当該技術分野でよく知られている。高ストリンジェンシー条件の例としては、50%ホルムアミド、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS及び100pg/mLの変性キャリアDNA中における約42℃でのハイブリダイゼーション、その後の2×SSC及び0.5%SDS中における室温(RT)での2回の洗浄並びに0.1×SSC及び0.5%SDS中における42℃でのさらなる2回の洗浄が挙げられる。中程度のストリンジェント条件の例としては、20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン及び20mg/ml変性断片処理済みサケ精子DNAを含む溶液中、37℃で終夜インキュベートし、続いて1×SSC中、約37~50℃でフィルターを洗浄することが挙げられる。当業者は、プローブ長などの因子を適合させるために必要な温度、イオン強度などを調整する方法を知っている。
【0117】
本明細書で使用する場合、「組換え」は、異種核酸配列の導入によって改変されているか、又は細胞がそのように改変された細胞に由来する細胞又はベクターへの言及を含む。したがって、例えば、組換え細胞は、細胞の天然(非組換え)形態内の同一形態においては見出されない遺伝子を発現するか、又はヒトが意図的に介入した結果として、さもなければ異常に発現する、過少発現する、若しくは全く発現しない天然遺伝子を発現する。「組換え」、「組み換える」又は「組換え」核酸を生成することは、一般に、2つ以上の核酸断片の集合体であるが、ここで、その集合体は、キメラ遺伝子を発生させる。
【0118】
II.バチルス属(Bacillus)宿主細胞における増加したタンパク質産生のための改変5’-UTR配列
本開示は一般に、増加したタンパク質産生能力などを有するバチルス属(Bacillus)(宿主)細胞(例えば、タンパク質産生宿主細胞、細胞工場)を作製し且つ構築するための組成物及び方法に関する。したがって、本開示の特定の実施形態は、改変B・サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチド、そのベクター、そのDNA(発現)コンストラクト、その改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞、及びそれを作製及び使用する方法に関する。
【0119】
例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳「開始」は、全ての生物のゲノムにおける全てのタンパク質コード遺伝子にとって本質的に重要であることが当該技術分野において一般に理解されている。より具体的には、「伸長」ではなく「開始」が通常、翻訳における律速段階であり、mRNAの5’UTRにおける配列に依存して非常に異なる効率で進行する(Jacques & Dreyfus,1990)。例えば、原核生物(すなわち、真正細菌及び古細菌の両方)において、mRNA中のシャイン・ダルガーノ(SD)配列は、翻訳の開始配列としてよく知られている(Shine and Dalgarno,1974;Shine and Dalgarno,1975)。典型的には「GGAGG」であるSD配列は、開始コドンのおよそ10ヌクレオチド上流(5’)に位置する。SD配列は、相補的配列である16S rRNAの3’末端の「CCUCC」と対形成する。16S rRNAにおいて、相補的配列(CCUCC)は、領域が一本鎖である3’テイルにおいて反SD配列と呼ばれる。SDと反SD配列の間の相互作用(SD相互作用)は、開始コドンの近傍でリボソーム小(30S)サブユニットを繋留することによって開始を増強して、「前開始複合体」を形成し(Dontsova et al.,1991)、翻訳の効率的な開始のためのSD相互作用の重要性は、真正細菌(例えば、バチルス属(Bacillus sp.))及び古細菌の両方に関して実験的に検証されてきた(Jacob et al.,1987)。
【0120】
したがって、上で簡潔に述べられたとおり、本開示の本出願人らは、SD配列(すなわち、RBS)と翻訳開始部位[tss]コドン(ATG/AUG)位置の間のmRNAヌクレオチド間隔に関連する驚くべき且つ予想外の結果を同定した。いずれかの特定の理論、作用機序又は作用様式に縛られることを望まないが、本出願人は、開始コドン(ATG/AUG)に関するSD配列(RBS)の位置を変えることが、そのような配列がバチルス属(Bacillus)細胞において導入され、且つ発現される場合に目的のタンパク質の産生を実質的に増加させるという本明細書における結果を検討し且つ提示する。
【0121】
より具体的には、本開示の実施例1は、改変5’-非翻訳領域(5’-UTR)核酸配列の設計/構築に関する。例えば、野生型B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’UTR配列(WT-5’-UTR;配列番号1)又は改変5’-UTR配列(1A:mod-5’-UTR;配列番号2、図1を参照のこと)のいずれかを含む発現カセットが構築され、且つ親バチルス属(Bacillus)細胞に導入されたが、ここで、WT-5’-UTR及び1A:mod-5’-UTRは、プロモーターの上流(5’)及び目的のタンパク質(すなわち、α-アミラーゼ)をコードするオープンリーディングフレームの下流(3’)に作動可能に連結された。
【0122】
実施例2において提示されるとおり、WT-5’-UTRを含むバチルス属(Bacillus)(娘)細胞及び1A:mod-5’-UTRを含むバチルス属(Bacillus)(娘)細胞からの相対的なα-アミラーゼ産生が標準的な方法を用いて測定され、1A:mod-5’-UTR発現コンストラクトを含む娘細胞は、WT-5’-UTR発現コンストラクトを含む娘細胞より20%多くα-アミラーゼを産生した。より具体的には、OD550単位に基づいて、1A:mod-5’-UTRコンストラクトを含む娘細胞は、WT-5’UTR発現コンストラクトを含む娘細胞より40%多くα-アミラーゼを産生した(例えば、表1を参照のこと)。
【0123】
したがって、特定の実施形態では、本開示は、改変B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’-非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関する。特定の他の実施形態では、本開示の改変5’-UTR(mod-5’-UTR)はさらに、改変5’-UTRに対して5’にあり且つ作動可能に連結された上流(5’)プロモーター領域核酸配列及び/又は改変5’-UTRに対して3’にあり且つ作動可能に連結された下流(3’)オープンリーディングフレーム(ORF)核酸配列(目的のタンパク質をコードする)を含む。
【0124】
他の実施形態では、本開示は、5’から3’方向における式(I):
(I):[Pro][mod-5’-UTR][ORF]
を含む単離ポリヌクレオチドを対象とする。
【0125】
式(I)中、[Pro]は、バチルス属(Bacillus sp.)細胞において作動可能なプロモーター領域核酸配列であり、[mod-5’-UTR]は、改変B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’非翻訳領域(mod-5’-UTR)核酸配列であり、且つ[ORF]は、目的のタンパク質(POI)をコードするオープンリーディングフレーム核酸配列であり、[Pro]、[mod-5’-UTR]及び[ORF]核酸配列は、作動可能に連結されている。他の実施形態では、本開示は、本開示の単離ポリヌクレオチドを含むベクター及びDNAコンストラクトに関する。
【0126】
他の実施形態では、本開示は、異種の目的のタンパク質(POI)の産生に好適な培地中で培養されるときに増加した量の異種のPOIを産生する改変バチルス属(Bacillus sp.)(娘)細胞であって、式(I)の核酸配列を含む導入発現コンストラクトを含む改変バチルス属(Bacillus)細胞に関し、改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞は、同様の条件下で培養されるとき、同じPOIを産生する非改変バチルス属(Bacillus)(親)細胞と比較して増加した量の異種POIを産生する。
【0127】
他の実施形態では、本開示は、このようなmod-5’-UTR核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関し、ポリヌクレオチドは、5’から3’の方向及び作動可能な組合せにおける式(II):
(II):[TIS][mod-5’UTR][tssコドン]
において提示される核酸配列を含むmod-5’-UTR核酸配列を含み、
式中、[TIS]は、転写開始部位(TIS)であり、[mod-5’-UTR]は、改変B.サブチリス(B.subtilis)のapr5’-UTR核酸配列を含み、且つ[tssコドン]は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンである。
【0128】
特定の他の実施形態では、本明細書で開示されるこのような「改変」aprE 5’-UTR(mod-5’-UTR)核酸配列は、5’から3’の方向及び作動可能な組合せにおける式(III)、
(III):[5’-HR][TIS][mod-5’-UTR][tssコドン][3’-HR]
の核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関し、
式中、[TIS]は、転写開始部位(TIS)であり、[mod-5’-UTR]は、改変B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’-UTR核酸配列を含み、[tssコドン]は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、[5’-HR]は、5’-核酸配列相同領域であり、且つ[3’-HR]は、3’-核酸配列相同領域であり、5’-HR及び3’-HRは、それぞれ[TIS]配列のすぐ上流(5’)及び[tssコドン]配列のすぐ下流(3’)のゲノム(染色体)領域(遺伝子座)に対して十分な相同性を含み、相同組換えにより導入されるポリヌクレオチドコンストラクトの改変バチルス属(Bacillus)細胞のゲノムへの組込みをもたらす。
【0129】
例えば、特定の実施形態では、本開示は、同様の条件下で培養されるとき、同じPOIを産生する非改変バチルス属(Bacillus)(親)細胞と比較して増加した量の内在性POIを産生する改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞に関する。したがって、特定の実施形態では、親バチルス属(Bacillus sp.)は、式(III)又はそのようなポリヌクレオチドコンストラクトを親バチルス属(Bacillus)細胞に導入(例えば、形質転換)することによって改変され、それに由来する改変(娘)バチルス属(Bacillus)細胞は、5’-HR及び3’-HRによって提供されるとおりの標的(染色体)ゲノム遺伝子座に組み込まれる改変5’UTR(例えば、mod-5’UTR;配列番号2)を含む。
【0130】
本開示の別の実施形態は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR配列に由来するmod-5’-UTR核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおける式(IV):
(IV):[TIS][5’-UTRΔxN][tssコドン]
の核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関し、
式中、[TIS]は、転写開始部位(TIS)であり、[tssコドン]は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、且つ[5’-UTRΔxN]は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列に由来する改変バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列であり、mod-5’-UTR核酸配列[5’-UTRΔxN]は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で「x」ヌクレオチド(「N」)の欠失(Δ)を含む。例えば、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で1個のヌクレオチド欠失を含むmod-5’-UTR核酸配列は、「[5’-UTRΔ1N]」として表すことができ、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で2個のヌクレオチド欠失を含むmod-5’-UTR核酸配列は、「[5’-UTRΔ2N]」などとして表すことができる。
【0131】
同様に、特定の他の実施形態では、本開示は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR配列に由来するmod-5’-UTR核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、5’から3’方向及び作動可能な組合せにおける式(V):
(V):[TIS][5’-UTRΔxN][tssコドン]
の核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに関し、
式中、[TIS]は、転写開始部位であり、[tssコドン]は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンであり、且つ[5’-UTRΔxN]は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列に由来する改変バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列であり、mod-5’-UTR核酸配列[5’-UTRΔxN]は、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で「x」ヌクレオチド(「N」)の付加(Δ)を含む。例えば、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTRの遠位(3’)末端で1個のヌクレオチド付加を含むmod-5’-UTR核酸配列は、「[5’-UTRΔ1N]」として表すことができ、野生型バチルス属(Bacillus sp.)5’-UTR核酸配列の遠位(3’)末端で2個のヌクレオチド付加を含むmod-5’-UTR核酸配列は、「[5’-UTRΔ2N]」などとして表すことができる。
【0132】
したがって、特定の実施形態では、本開示の1つ以上の単離ポリヌクレオチドは、式(IV)又は(V)に記載されるとおりに構築され、mod-5’-UTRは、次第に(3’)末端が短くなるように(すなわち、「ΔxN」が増加するように)又は次第に(3’)末端が長くなるように(「ΔxN」が増加するように)設計/構築される。例えば、-1ヌクレオチド位置の欠失は、リボソーム結合部位(RBS)(5’-UTR配列内に位置する)と翻訳開始部位コドン(tssコドン)の間の間隔における1bpの減少をもたらす(例えば、図1を参照のこと)。
【0133】
したがって、上記のとおり、本開示の特定の実施形態は、同様の条件下で培養されるとき、同じPOIを産生する非改変バチルス属(Bacillus)(親)細胞と比較して増加した量の内在性又は異種POIを産生するそのような改変バチルス属(Bacillus)(娘)細胞に関する。したがって、本開示の特定の他の実施形態は、野生型(天然)核酸配列、変異体核酸配列、改変核酸配列、そのような核酸配列の分析及びそれらの中の転写開始部位(TIS)配列、翻訳開始部位(tss)コドン、オープンリーディングフレーム(ORF)、5’-UTR、3’-UTR、プロモーター、プロモーター領域などを含むがこれらに限定されない特定の核酸配列特性の同定に関する。
【0134】
例えば、上の定義の節において述べられるとおり、転写開始部位(TIS)は、転写が始まる塩基対(すなわち、開始部位)を指す。当業者は、DNA配列の目視での分析、及びより具体的には、TIS配列、プロモーター領域、UTRなどの様々な遺伝子調節エレメントに関する入力配列を分析するバイオインフォマティクスプログラム及びツールの使用により特定の遺伝子(ORF)配列と関連するそのようなTIS配列を容易に同定することができる。先に上で定義されるとおり、翻訳開始部位(tss)は、3ヌクレオチドの翻訳開始部位(tss)コドンを指す。例示的な原核生物のtssコドンとしては(出現頻度の高いものから低いものへの順に)、「AUG」、「GUG」及び「UGG」が挙げられる。例えば、当業者は、目的の生物における既知のシグマ因子結合部位と同一であるか、又はほぼ同一であることに関する通常の発現探索を用いてプロモーターを同定することができる(例えば、Haldenwang et al.,1995からのデータを用いる)。推定上のプロモーターが同定されると、推定上のTIS配列を割り当てることができる。
【0135】
プロモーターなどの核酸配列特性を同定するための追加のバイオインフォマティクスツールとしては、PromoterHunter(Klucar et al.,2010)、PromPredict(Bansal,2009)、BacPP(de Avila et al.,2011)、BPROM(Salamov,2011)及びDNA配列に対するいくつかのタンパク質の結合を予測でき、且つ予測されるそれぞれのプロモーターに対して重み付けされた確率スコアを割り当てることができるPRODORICツール(Munch et al.,2003)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、ディープラーニングニューラルネットワークは、所与の生物からの既知のプロモーターで訓練することによって効率的にプロモーター配列を予測するように訓練され得る(Kh et al.,PLOSone,Feb 3,2017)。TISが同定されると、5’UTRが、それまでTISの配列3’及びTISを含む配列として及びTSSの最初のヌクレオチドを除くと推測され得る。推定上の5’UTRが同定されると、5’UTRのさらなる改変を本明細書に記載されるとおりに行うことができる。
【0136】
III.分子生物学
上記のとおり、本開示の特定の実施形態は、親バチルス属(Bacillus)細胞に由来する(組換え)遺伝子改変バチルス属(Bacillus)細胞に関する。特定の実施形態では、本開示のバチルス属(Bacillus)細胞は、1つ以上の目的のタンパク質の増加した発現/産生のために遺伝子改変される。特定の実施形態では、本開示のバチルス属(Bacillus)細胞は、本開示のmod-5’-UTRを含むDNAコンストラクトから目的のタンパク質をコードする目的の遺伝子を発現するために遺伝子改変される。さらに他の実施形態では、親バチルス属(Bacillus)細胞は、1つ以上の(内在性)染色体遺伝子を不活性化するために遺伝子改変され、且つ/又は不活性な1つ以上の(内在性)染色体遺伝子を回復させるために改変される。
【0137】
したがって、本開示の実施形態は一般に、増加したタンパク質産生能力を有するバチルス属(Bacillus)宿主細胞(例えば、タンパク質産生宿主細胞、細胞工場)を作製し且つ構築するための組成物及び方法に関する。したがって、本開示の特定の実施形態は、本開示の細胞を遺伝子改変する方法に関し、その改変は、(a)遺伝子(又はそのORF)における1つ以上のヌクレオチドの導入、置換、若しくは除去、又は遺伝子若しくはそのORFの転写若しくは翻訳に必要な調節エレメントにおける1つ以上のヌクレオチドの導入、置換、若しくは除去、(b)遺伝子破壊、(c)遺伝子変換、(d)遺伝子欠失、(e)遺伝子の下方制御、(f)部位特異的変異誘発及び/又は(g)ランダム変異誘発を含む。
【0138】
例えば、特定の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、当該技術分野においてよく知られる方法、例えば、挿入、破壊、置換、又は欠失を使用して、遺伝子の発現を減少させるか、又は消失させることによって構築される。改変又は不活性化されることになる遺伝子の部分は、例えば、コード領域又はコード領域の発現に必要な調節エレメントであり得る。そのような調節配列又は制御配列の例は、プロモーター配列又はその機能的部分(すなわち、核酸配列の発現に影響を及ぼすために十分である部分)であり得る。改変のための他の制御配列としては、リーダー配列、プロペプチド配列、シグナル配列、転写ターミネーター、転写活性化因子などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0139】
特定の他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、少なくとも1つの遺伝子の発現を消失又は減少させる遺伝子欠失によって構築される。遺伝子欠失技術は遺伝子の部分的又は完全な除去を可能にすることによって、それらの発現を消失させるか、又は非機能性(又は、活性が低下した)タンパク質産物を発現させる。そのような方法では、遺伝子の欠失は、例えば、遺伝子に隣接する5’及び3’領域(すなわち、5’-HR及び3’-HR)を隣接して含有するために構築されているプラスミド/ベクターを使用する相同組換えによって達成され得る。隣接する5’及び3’領域は、例えば、pE194などの温度感受性プラスミド上で、このプラスミドが細胞内で定着できる許容温度で第2の選択可能マーカーと会合して、バチルス属(Bacillus)細胞に導入され得る。続いて、細胞を非許容温度にシフトさせて、相同フランキング領域の1つで染色体に組み込まれたプラスミドを有する細胞を選択する。プラスミドを組み込むための選択は、第2の選択可能マーカーによる選択によって達成される。組込み後、第2の相同フランキング領域での組換え事象を、細胞を選択せずに数世代にわたって許容温度にシフトさせることによって刺激する。細胞は、単一コロニーを得るためにプレーティングされ、コロニーは両方の選択可能マーカーの消失について試験される(例えば、Perego,1993を参照されたい)。したがって、当業者は、完全又は部分的欠失に好適な遺伝子のコード配列及び/又は遺伝子の非コード配列中のヌクレオチド領域を容易に同定し得る。
【0140】
他の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、それらの転写又は翻訳のために必要とされる遺伝子又は調節エレメント内の1つ以上のヌクレオチドを導入するか、置換するか、又は除去することによって構築される。例えば、ヌクレオチドは、停止コドンの導入、開始コドンの除去又はオープンリーディングフレームのフレームシフトを生じさせるように挿入又は除去され得る。そのような改変は、当該技術分野において知られる方法に従って、部位特異的変異誘発又はPCR生成変異誘発によって達成され得る(例えば、Botstein and Shortle,1985;Lo et al.,1985;Higuchi et al.,1988;Shimada,1996;Ho et al.,1989;Horton et al.,1989及びSarkar and Sommer,1990を参照されたい)。したがって、特定の実施形態では、本開示の遺伝子は、完全又は部分的欠失によって不活性化される。
【0141】
別の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、遺伝子変換のプロセスによって構築される(例えば、Iglesias and Trautner,1983を参照されたい)。例えば、遺伝子変換法では、遺伝子に対応する核酸配列は、インビトロで変異させられて欠陥のある核酸配列を生成し、これは、その後親バチルス属(Bacillus)細胞に形質転換されて欠陥のある遺伝子を生成する。相同組換えによって、欠陥のある核酸配列は、内在性遺伝子に取って代わる。欠陥のある遺伝子又は遺伝子断片はまた、欠陥のある遺伝子を含む形質転換体の選択に使用することができるマーカーをコードすることが望ましい場合がある。例えば、欠陥のある遺伝子は、選択可能マーカーと会合して、非複製又は温度感受性プラスミドに導入され得る。プラスミドを組み込むための選択は、プラスミドを複製させない条件下でのマーカー選択によって達成される。遺伝子置換をもたらす第2の組換え事象の選択は、選択可能マーカーの欠損及び変異遺伝子の獲得についてコロニーを調べることによって達成される(Perego,1993)。或いは、欠陥のある核酸配列は、以下に記載されるとおり、遺伝子の1つ以上のヌクレオチドの挿入、置換、又は欠失を含有し得る。
【0142】
他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、遺伝子の核酸配列と相補的であるヌクレオチド配列を使用する確立されたアンチセンス技術によって構築される(Parish and Stoker,1997)。より具体的には、バチルス属(Bacillus)細胞による遺伝子の発現は、この遺伝子の核酸配列と相補的なヌクレオチド配列を導入することにより減少させるか(下方制御する)又は消失させることができ、これは細胞内で転写されることがあり、この細胞内で産生されるmRNAにハイブリダイズすることができる。そのため、相補的アンチセンスヌクレオチド配列をmRNAにハイブリダイズさせることを可能にする条件下では、翻訳されるタンパク質の量は減少されるか又は消失する。そのようなアンチセンス法には、限定されないが、RNA干渉(RNAi)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、Cas9媒介性遺伝子サイレンシングなどが挙げられ、これらの全てが当業者によく知られている。
【0143】
他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、CRISPR-Cas9編集によって作製/構築される。例えば、目的のタンパク質をコードする遺伝子は、DNA上の標的配列にエンドヌクレアーゼを動員するガイドRNA(例えば、Cas9)及びCpf1又はガイドDNA(例えば、NgAgo)に結合することによってそれらの標的DNAを見出す核酸誘導型エンドヌクレアーゼによって破壊(又は欠失又は下方制御)されてもよく、ここで、エンドヌクレアーゼは、DNAにおいて一本鎖又は二本鎖切断を生成することができる。この標的化DNA切断は、DNA修復のための基質となり、遺伝子を破壊又は欠失させるための提供された編集鋳型と再結合し得る。例えば、核酸誘導エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子(このためにはS.ピオゲネス(S.pyogenes)由来のCas9)又はCas9ヌクレアーゼをコードするコドン最適化遺伝子は、バチルス属(Bacillus)細胞内で活性なプロモーター及びバチルス属(Bacillus)細胞内で活性なターミネーターと作動可能に連結されており、これによりバチルス属(Bacillus)Cas9発現カセットを生成する。同様に、目的の遺伝子に固有の1つ以上の標的部位は、当業者により容易に同定される。例えば、目的の遺伝子内の標的部位に向けられたgRNAをコードするDNAコンストラクトを構築するために、可変ターゲティングドメイン(VT)は、そのヌクレオチドが、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9(CER)に対するCas9エンドヌクレアーゼ認識ドメインをコードするDNAに融合している(PAM)プロトスペーサー隣接モチーフ、例えば、S.ピオゲネス(S.pyogenes)のためのNGGの5’である標的部位のヌクレオチドを含むことになる。VTドメインをコードするDNAとCERドメインをコードするDNAとの組合せによって、gRNAをコードするDNAを生成する。したがって、gRNAのためのバチルス属(Bacillus)発現カセットは、バチルス属(Bacillus)細胞内で活性なプロモーター及びバチルス属(Bacillus)細胞内で活性なターミネーターにgRNAをコードするDNAを作動可能に連結させることによって作製される。
【0144】
特定の実施形態では、エンドヌクレアーゼによって誘導されたDNA切断は、入来配列を用いて修復/置換される。例えば、上述したCas9発現カセット及びgRNA発現カセットによって生成されたDNA切断を精密に修復するためには、細胞のDNA修復機構が編集鋳型を利用できるように、ヌクレオチド編集鋳型が提供される。例えば、標的化遺伝子の約500bpの5’側は、編集鋳型を生成するために標的化遺伝子の約500bpの3’側に融合させることができ、その鋳型は、RGENによって生成されたDNA切断を修復するためにバチルス属(Bacillus)宿主の機構によって使用される。
【0145】
Cas9発現カセット、gRNA発現カセット及び編集鋳型は、多数の様々な方法(例えば、プロトプラスト融合法、エレクトロポレーション法、生来のコンピテンス又は誘導されたコンピテンス)を使用して細胞に同時に送達され得る。形質転換細胞は、遺伝子座をフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いて増幅させることにより、標的遺伝子座をPCR増幅させることによってスクリーニングされる。これらのプライマーは、野生型遺伝子座又はRGENによって編集されている改変遺伝子座を増幅させることができる。次に、これらの断片は、編集されたコロニーを同定するために、シークエンシングプライマーを使用して配列決定される。
【0146】
さらに他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、化学的変異誘発(例えば、Hopwood,1970を参照されたい)及び転座(例えば、Youngman et al.,1983を参照されたい)を含むがそれらに限定されない当該技術分野においてよく知られる方法を使用して、ランダム変異誘発又は特異的変異誘発によって構築される。遺伝子の改変は、親細胞に変異誘発を受けさせること、及びその中で遺伝子の発現が減少又は消失される変異細胞についてスクリーニングすることによって実施され得る。特異的であってもランダムであってもよい変異誘発は、例えば、好適な物理的若しくは化学的変異誘発剤の使用によって、好適なオリゴヌクレオチドの使用によって、又はDNA配列をPCR生成変異誘発にかけることによって実施され得る。さらに、変異誘発は、これらの変異誘発法の任意の組合せの使用により実施され得る。
【0147】
本発明のために好適な物理的又は化学的変異誘発剤の例としては、紫外線(UV)照射、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、N-メチル-N’-ニトロソグアニジン(NTG)、O-メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、メタンスルホン酸エチル(EMS)、亜硫酸水素ナトリウム、蟻酸及びヌクレオチドアナログが挙げられる。そのような薬剤を使用する場合、変異誘発は通常、好適な条件下で最適な変異誘発剤の存在下で変異誘発されることになる親細胞をインキュベートする工程、及び遺伝子の減少した発現を示すか、又は発現を示さない変異体細胞を選択する工程によって実施される。
【0148】
特定の他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、内在性(染色体)遺伝子の欠失を含む。特定の他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、内在性(染色体)遺伝子の破壊を含む。他の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、下方制御された内在性(染色体)遺伝子を含む。
【0149】
国際公開第2003/083125号パンフレットは、バチルス属(Bacillus)細胞を改変するための方法、例えば、E.コリ(E.coli)をバイパスするためにPCR融合を使用するバチルス属(Bacillus)欠失株及びDNAコンストラクトの作製を開示する。
【0150】
国際公開第2002/14490号パンフレットは、(1)組込みプラスミド(pComK)の構築及び形質転換、(2)コード配列、シグナル配列及びプロペプチド配列のランダム変異誘発、(3)相同組換え、(4)形質転換DNAに非相同フランクを付加することにより形質転換効率を増大させること、(5)二重交差組込みを最適化すること、(6)部位特異的変異誘発、及び(7)マーカーレス欠失を含むバチルス属(Bacillus)細胞を改変するための方法を開示する。
【0151】
当業者は、細菌細胞(例えば、E.コリ(E.coli)及びバチルス属(Bacillus spp.))中にポリヌクレオチド配列を導入するために好適な方法を十分に承知している(例えば、Ferrari et al.,1989;Saunders et al.,1984;Hoch et al.,1967;Mann et al.,1986;Holubova,1985;Chang et al.,1979;Vorobjeva et al.,1980;Smith et al.,1986;Fisher et.al.,1981及びMcDonald,1984を参照されたい)。実際に、プロトプラスト形質転換及び会合、形質導入、並びにプロトプラスト融合を含む形質転換などの方法が知られており、本開示での使用に適している。形質転換法は、特に、本開示のDNAコンストラクトを宿主細胞内に導入するために好ましい。
【0152】
一般に使用される方法に加えて、一部の実施形態では、バチルス属(Bacillus)宿主細胞は、直接的に形質転換される(すなわち、宿主細胞内に導入する前にDNAコンストラクトを増幅させるために、又はさもなければプロセシングするために中間細胞が使用されない)。DNAコンストラクトの宿主細胞内への導入には、プラスミド又はベクター内へ挿入することなくDNAを宿主細胞内に導入するために当該技術分野において知られている物理的及び化学的方法が含まれる。このような方法としては、塩化カルシウム沈澱、エレクトロポレーション、裸DNA、リポソームなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる実施形態では、DNAコンストラクトは、プラスミドに挿入されずに、プラスミドとともに同時形質転換される。さらなる実施形態では、選択マーカーは、当該技術分野において知られる方法によって改変バチルス属(Bacillus)株から欠失されるか、又は実質的に切除される(例えば、Stahl et al.,1984及びPalmeros et al.,2000を参照されたい)。一部の実施形態では、宿主染色体由来のベクターの分解は、染色体内のフランキング領域を残すが、他方では固有の染色体領域を除去する。
【0153】
バチルス属(Bacillus)細胞内での遺伝子の発現において使用するためのプロモーター及びプロモーター配列、それらのオープンリーディングフレーム(ORF)及び/又はそれらの変異配列は、一般に当業者に知られている。本開示の本開示のプロモーター配列は、一般に、それらがバチルス属(Bacillus)細胞(例えば、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞)内で機能的であるように選択される。バチルス属(Bacillus)細胞内での遺伝子発現を促進するために有用なプロモーターとしては、B.サブチリス(B.subtilis)のアルカリプロテアーゼ(aprE)プロモーター(Stahl et al.,1984)、B.サブチリス(B.subtilis)のα-アミラーゼプロモーター(Yang et al.,1983)、B.アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)のα-アミラーゼプロモーター(Tarkinen et al.,1983)、B.サブチリス(B.subtilis)由来の天然プロテアーゼ(nprE)プロモーター(Yang et al.,1984)、変異体aprEプロモーター(国際公開第2001/51643号パンフレット)又はB.サブチリス(B.subtilis)、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)若しくは他の関連バチルス属(Bacilli)由来の任意の他のプロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。バチルス属(Bacillus)細胞内で広範囲の活性(プロモーター強度)を備えるプロモーターライブラリーをスクリーニング及び作製するための方法は、国際公開第2003/089604号パンフレットに記載されている。
【0154】
IV.目的のタンパク質の産生ためのバチルス属(Bacillus)細胞の培養
特定の実施形態では、本開示は、非改変(親)細胞と比較して(すなわち、相対的、相対して)改変バチルス属(Bacillus)細胞のタンパク質生産性を増加させるための方法及び組成物を提供する。したがって、特定の実施形態では、本開示は、改変バチルス属(Bacillus)細胞を発酵させる/培養する工程を含む目的のタンパク質(POI)を産生する方法を提供し、ここで改変細胞は、POIを培養培地中に分泌するか又はPOIを細胞内に保持する。本開示の改変及び非改変バチルス属(Bacillus)細胞を発酵させるために、当該技術分野でよく知られる発酵方法が適用され得る。
【0155】
例えば、一部の実施形態では、細胞は、バッチ又は連続発酵条件下で培養される。古典的なバッチ発酵は、培地の組成が発酵の開始時に設定され、発酵中には変更されない閉鎖系である。発酵の開始時に、培地に所望の生物を接種する。この方法では、系にいかなる成分も添加することなく醗酵を行うことができる。一般に、バッチ発酵は、炭素源の添加に関して「バッチ」であると見なされ、pH及び酸素濃度などの因子を制御することが頻繁に行われる。バッチ系の代謝物及びバイオマス組成物は、発酵が停止される時点まで絶えず変化する。典型的なバッチ培養では、細胞は静的誘導期を経由して高増殖対数期へ進行し、最終的には増殖率が減少又は停止する静止期に進む。処理しない場合、静止期にある細胞は最終的には死滅する。一般に、対数期の細胞は、生成物の大部分の産生を担っている。
【0156】
標準バッチ系に関する好適な変形形態は、「フェドバッチ発酵」系である。典型的なバッチ系のこの変形形態では、発酵が進行するにつれて基質が徐々に加えられる。フェドバッチ系は、異化代謝産物抑制が細胞の代謝を抑制する可能性が高い場合、及び培地中で限定量の基質を有することが所望である場合に有用である。フェドバッチ系内での実際の基質濃度の測定は困難であり、このため例えばpH、溶存酸素及びCOなどの排気ガスの分圧などの測定可能な因子の変化に基づいて推定される。バッチ及びフェドバッチ発酵は、当該技術分野において一般的であり、知られている。
【0157】
連続発酵は、定義された発酵培地がバイオリアクターに連続的に加えられ、処理のために等量の馴化培地が同時に除去される開放系である。連続発酵は、一般に、培養物を一定の高密度に維持し、細胞は主として対数増殖期にある。連続発酵は、細胞の増殖及び/又は産生物の濃度に影響する1つ以上の因子の調節を可能にする。例えば、一実施形態では、炭素源又は窒素源などの制限栄養素は一定比率で維持され、他の全てのパラメータは調節することができる。他の系では、培地の濁度によって測定される細胞濃度を一定に保ちながら、増殖に影響を及ぼす多数の因子は連続的に変化させられ得る。連続系は、定常状態の増殖条件を維持しようとする。したがって、培地を取り出すことによる細胞損失は、発酵中の細胞増殖速度に対して平衡が保たれなければならない。連続発酵プロセスで栄養素及び増殖因子を調節する方法、並びに産生物形成速度を最大化するための手法は、工業微生物学の分野においてはよく知られている。
【0158】
したがって、特定の実施形態では、形質転換(改変)宿主細胞によって産生されたPOIは、従来の手順、例えば、宿主細胞を培地から遠心分離若しくは濾過によって分離する、又は必要であれば、細胞を破壊し、上清を細胞破砕物及び細胞片から取り除くことによって、培養培地から回収することができる。典型的には、清浄化後、上清又は濾液のタンパク質成分を、塩、例えば、硫酸アンモニウムによって沈澱させる。次に、沈澱したタンパク質を可溶化させ、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過などの様々なクロマトグラフィー法により精製してもよい。
【0159】
VI.改変(宿主)細胞により産生される目的のタンパク質
本開示の目的のタンパク質(POI)は、任意の内在性又は異種タンパク質であってもよく、そのようなPOIの変異体であってもよい。タンパク質は、1つ以上のジスルフィド架橋を含有し得るか、又はその機能的形態が単量体又は多量体であるタンパク質であり、すなわち、タンパク質は、四次構造を有し、複数の同一(相同)又は同一でない(異種)サブユニットから構成され、ここで、POI又はその変異体POIは、好ましくは目的の特性を有するものである。
【0160】
したがって、特定の実施形態では、本開示の改変細胞は、内在性POI、異種POI又はそれらの1つ以上の組合せを発現する。
【0161】
特定の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、(非改変)親バチルス属(Bacillus)細胞と比較して、POIの増加した比生産性(Qp)を示す。例えば、比生産性(Qp)の検出は、タンパク質産生を評価するための好適な方法である。比生産性(Qp)は、下記の方程式によって決定できる:
「Qp=gP/gDCW・hr」
(式中、「gP」は、タンク中において産生されるタンパク質のグラムであり;「gDCW」は、タンク中の乾燥細胞重量(DCW)のグラムであり、「hr」は、接種時点からの発酵時間であり、これは、産生時間、並びに増殖時間を含む)。
【0162】
したがって、特定の他の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、非改変(親)細胞と比較して、少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、又は少なくとも約10%以上の比生産性(Qp)の増加を含む。
【0163】
特定の実施形態では、POI又はその変異体POIは、アセチルエステラーゼ、アリールエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、アラビナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、炭酸脱水酵素、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キモシン、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンリアーゼ(glucan lysase)、エンド-β-グルカナーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルクロニダーゼ、グリコシルヒドロラーゼ、ヘミセルラーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ヒドロラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、ラッカーゼ、リガーゼ、リパーゼ、リアーゼ、マンノシダーゼ、オキシダーゼ、酸化還元酵素、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ、ペクチンデポリメラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチン分解酵素、ペルヒドロラーゼ、ポリオールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、フィターゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、ラムノ-ガラクツロナーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスフェラーゼ、輸送タンパク質、トランスグルタミナーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0164】
したがって、特定の実施形態では、POI又はその変異体POIは、酵素番号(EC)のEC1、EC2、EC3、EC4、EC5又はEC6から選択される酵素である。
【0165】
例えば、特定の実施形態では、POIは、EC1.10.3.2(例えば、ラッカーゼ)、EC1.10.3.3(例えば、L-アスコルビン酸オキシダーゼ)、EC1.1.1.1(例えば、アルコール脱水素酵素)、EC1.11.1.10(例えば、塩化物ペルオキシダーゼ)、EC1.11.1.17(例えば、ペルオキシダーゼ)、EC1.1.1.27(例えば、L-乳酸脱水素酵素)、EC1.1.1.47(例えば、グルコース1-脱水素酵素)、EC1.1.3.X(例えば、グルコースオキシダーゼ)、EC1.1.3.10(例えば、ピラノースオキシダーゼ)、EC1.13.11.X(例えば、ジオキシゲナーゼ)、EC1.13.11.12(例えば、リノール酸13S-リポキシゲナーゼ)、EC1.1.3.13(例えば、アルコールオキシダーゼ)、EC1.14.14.1(例えば、モノオキシゲナーゼ)、EC1.14.18.1(例えば、モノフェノールモノオキシゲナーゼ)、EC1.15.1.1(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ)、EC1.1.5.9(以前のEC1.1.99.10、例えば、グルコース脱水素酵素)、EC1.1.99.18(例えば、セロビオース脱水素酵素)、EC1.1.99.29(例えば、ピラノース脱水素酵素)、EC1.2.1.X(例えば、脂肪酸還元酵素)、EC1.2.1.10(例えば、アセトアルデヒド脱水素酵素)、EC1.5.3.X(例えば、フルクトシルアミン還元酵素)、EC1.8.1.X(例えば、ジスルフィド還元酵素)及びEC1.8.3.2(例えば、チオールオキシダーゼ)から選択されるEC1酵素(酸化還元酵素)を含むがそれらに限定されない酸化還元酵素である。
【0166】
特定の実施形態では、POIは、EC2.3.2.13(例えば、トランスグルタミナーゼ)、EC2.4.1.X(例えば、ヘキソシルトランスフェラーゼ)、EC2.4.1.40(例えば、アルテルナスクラーゼ(alternasucrase)、EC2.4.1.18(例えば、1,4α-グルカン分枝酵素)、EC2.4.1.19(例えば、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ)、EC2.4.1.2(例えば、デキストリンデキストラナーゼ)、EC2.4.1.20(例えば、セロビオースホスホリラーゼ)、EC2.4.1.25(例えば、4-α-グルカノトランスフェラーゼ)、EC2.4.1.333(例えば、1,2-β-オリゴグルカンリントランスフェラーゼ)、EC2.4.1.4(例えば、アミロスクラーゼ)、EC2.4.1.5(例えば、デキストランスクラーゼ)、EC2.4.1.69(例えば、ガラクトシド2-α-L-フコシルトランスフェラーゼ)、EC2.4.1.9(例えば、イヌロスクラーゼ)、EC2.7.1.17(例えば、キシルロキナーゼ)、EC2.7.7.89(以前のEC3.1.4.15、例えば、[グルタミンシンテターゼ]-アデニリル-L-チロシンホスホリラーゼ)、EC2.7.9.4(例えば、αグルカンキナーゼ)及びEC2.7.9.5(例えば、ホスホグルカンキナーゼ)から選択されるEC2(トランスフェラーゼ)酵素を含むがそれらに限定されないトランスフェラーゼ酵素である。
【0167】
他の実施形態では、POIは、EC3.1.X.X(例えば、エステラーゼ)、EC3.1.1.1(例えば、ペクチナーゼ)、EC3.1.1.14(例えば、クロロフィラーゼ)、EC3.1.1.20(例えば、タンナーゼ)、EC3.1.1.23(例えば、グリセロール-エステルアシルヒドロラーゼ)、EC3.1.1.26(例えば、ガラクトリパーゼ)、EC3.1.1.32(例えば、ホスホリパーゼA1)、EC3.1.1.4(例えば、ホスホリパーゼA2)、EC3.1.1.6(例えば、アセチルエステラーゼ)、EC3.1.1.72(例えば、アセチルキシランエステラーゼ)、EC3.1.1.73(例えば、フェルロイルエステラーゼ)、EC3.1.1.74(例えば、クチナーゼ)、EC3.1.1.86(例えば、ラムノガラクツロナンアセチルエステラーゼ)、EC3.1.1.87(例えば、フモシンB1エステラーゼ)、EC3.1.26.5(例えば、リボヌクレアーゼP)、EC3.1.3.X(例えば、リン酸加水分解酵素)、EC3.1.30.1(例えば、アスペルギルス(Aspergillus)ヌクレアーゼS1)、EC3.1.30.2(例えば、セルチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)ヌクレアーゼ)、EC3.1.3.1(例えば、アルカリホスファターゼ)、EC3.1.3.2(例えば、酸性ホスファターゼ)、EC3.1.3.8(例えば、3-フィターゼ)、EC3.1.4.1(例えば、ホスホジエステラーゼI)、EC3.1.4.11(例えば、ホスホイノシチドホスホリパーゼC)、EC3.1.4.3(例えば、ホスホリパーゼC)、EC3.1.4.4(例えば、ホスホリパーゼD)、EC3.1.6.1(例えば、アリールスルファターゼ)、EC3.1.8.2(例えば、ジイソプロピル-フルオロホスファターゼ)、EC3.2.1.10(例えば、オリゴ-1,6-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.101(例えば、マンナンエンド-1,6-α-マンノシダーゼ)、EC3.2.1.11(例えば、α-1,6-グルカン-6-グルカノヒドロラーゼ)、EC3.2.1.131(例えば、キシランα-1,2-グルクロノシダーゼ)、EC3.2.1.132(例えば、キトサンN-アセチルグルコサミノヒドロラーゼ)、EC3.2.1.139(例えば、α-グルクロニダーゼ)、EC3.2.1.14(例えば、キチナーゼ)、EC3.2.1.151(例えば、キシログルカン特異的エンド-β-1,4-グルカナーゼ)、EC3.2.1.155(例えば、キシログルカン特異的エキソ-β-1,4-グルカナーゼ)、EC3.2.1.164(例えば、ガラクタンエンド-1,6-β-ガラクトシダーゼ)、EC3.2.1.17(例えば、リゾチーム)、EC3.2.1.171(例えば、ラムノガラクツロナンヒドロラーゼ)、EC3.2.1.174(例えば、ラムノガラクツロナンラムノヒドロラーゼ)、EC3.2.1.2(例えば、β-アミラーゼ)、EC3.2.1.20(例えば、α-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.22(例えば、α-ガラクトシダーゼ)、EC3.2.1.25(例えば、β-マンノシダーゼ)、EC3.2.1.26(例えば、β-フルクトフラノシダーゼ)、EC3.2.1.37(例えば、キシラン1,4-β-キシロシダーゼ)、EC3.2.1.39(例えば、グルカンエンド-1,3-β-D-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.40(例えば、α-L-ラムノシダーゼ)、EC3.2.1.51(例えば、α-L-フコシダーゼ)、EC3.2.1.52(例えば、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ)、EC3.2.1.55(例えば、α-N-アラビノフラノシダーゼ)、EC3.2.1.58(例えば、グルカン1,3-β-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.59(例えば、グルカンエンド-1,3-α-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.67(例えば、ガラクツラン1,4-α-ガクツロニダーゼ)、EC3.2.1.68(例えば、イソアミラーゼ)、EC3.2.1.7(例えば、1-β-D-フルクタンフルクタノヒドロラーゼ)、EC3.2.1.74(例えば、グルカン1,4-β-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.75(例えば、グルカンエンド-1,6-β-グルコシダーゼ)、EC3.2.1.77(例えば、マンナン1,2-(1,3)-α-マンノシダーゼ)、EC3.2.1.80(例えば、フルクタンβ-フルクトシダーゼ)、EC3.2.1.82(例えば、エキソ-ポリ-α-ガラクツロニシダーゼ)、EC3.2.1.83(例えば、κ-カラギナーゼ)、EC3.2.1.89(例えば、アラビノガラクタンエンド-1,4-β-ガラクトシダーゼ)、EC3.2.1.91(例えば、セルロース1,4-β-セロビオシダーゼ)、EC3.2.1.96(例えば、マンノシル-グリコプロテインエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ)、EC3.2.1.99(例えば、アラビナンエンド-1,5-α-L-アラビナナーゼ)、EC3.4.X.X(例えば、ペプチダーゼ)、EC3.4.11.X(例えば、アミノペプチダーゼ)、EC3.4.11.1(例えば、ロイシルアミノペプチダーゼ)、EC3.4.11.18(例えば、メチオニルアミノペプチダーゼ)、EC3.4.13.9(例えば、Xaa-Proジペプチダーゼ)、EC3.4.14.5(例えば、ジペプチジル-ペプチダーゼIV)、EC3.4.16.X(例えば、セリン型カルボキシペプチダーゼ)、EC3.4.16.5(例えば、カルボキシペプチダーゼC)、EC3.4.19.3(例えば、ピログルタミル-ペプチダーゼI)、EC3.4.21.X(例えば、セリンエンドペプチダーゼ)、EC3.4.21.1(例えば、キモトリプシン)、EC3.4.21.19(例えば、グルタミルエンドペプチダーゼ)、EC3.4.21.26(例えば、プロリルオリゴペプチダーゼ)、EC3.4.21.4(例えば、トリプシン)、EC3.4.21.5(例えば、トロンビン)、EC3.4.21.63(例えば、オリジン)、EC3.4.21.65(例えば、テルモミコリン)、EC3.4.21.80(例えば、ストレプトグリシンA)、EC3.4.22.X(例えば、システインエンドペプチダーゼ)、EC3.4.22.14(例えば、アクチニダイン)、EC3.4.22.2(例えば、パパイン)、EC3.4.22.3(例えば、フィカイン)、EC3.4.22.32(例えば、ステムブロメライン)、EC3.4.22.33(例えば、フルーツブロメライン)、EC3.4.22.6(例えば、キモパパイン)、EC3.4.23.1(例えば、ペプシンA)、EC3.4.23.2(例えば、ペプシンB)、EC3.4.23.22(例えば、エンドチアペプシン)、EC3.4.23.23(例えば、ムコールペプシン)、EC3.4.23.3(例えば、ガストリクシン)、EC3.4.24.X(例えば、メタロエンドペプチダーゼ)、EC3.4.24.39(例えば、ドイテロリシン)、EC3.4.24.40(例えば、セラリシン)、EC3.5.1.1(例えば、アスパラギナーゼ)、EC3.5.1.11(例えば、ペニシリンアミダーゼ)、EC3.5.1.14(例えば、N-アシル-脂肪族-L-アミノ酸アミドヒドロラーゼ)、EC3.5.1.2(例えば、L-グルタミンアミドヒドロラーゼ)、EC3.5.1.28(例えば、N-アセチルムラモイル-L-アラニンアミダーゼ)、EC3.5.1.4(例えば、アミダーゼ)、EC3.5.1.44(例えば、タンパク質-L-グルタミンアミドヒドロラーゼ)、EC3.5.1.5(例えば、ウレアーゼ)、EC3.5.1.52(例えば、ペプチド-N(4)-(N-アセチル-β-グルコサミニル)アスパラギンアミダーゼ)、EC3.5.1.81(例えば、N-アシル-D-アミノ酸デアシラーゼ)、EC3.5.4.6(例えば、AMPデアミナーゼ)及びEC3.5.5.1(例えば、ニトリラーゼ)から選択されるEC3(ヒドロラーゼ)酵素を含むがそれらに限定されないヒドロラーゼ酵素である。
【0168】
他の実施形態では、POIは、EC4.1.2.10(例えば、マンデロニトリルリアーゼ)、EC4.1.3.3(例えば、N-アセチルノイラミン酸リアーゼ)、EC4.2.1.1(例えば、炭酸脱水酵素)、EC4.2.2.-(例えば、ラムノガラクツロナンリアーゼ)、EC4.2.2.10(例えば、ペクチンリアーゼ)、EC4.2.2.22(例えば、ペクチン酸三糖リアーゼ)、EC4.2.2.23(例えば、ラムノガラクツロナンエンドリアーゼ)及びEC4.2.2.3(例えば、マンヌロン酸特異的アルギン酸リアーゼ)から選択されるEC4(リアーゼ)酵素を含むがそれらに限定されないリアーゼ酵素である。
【0169】
特定の他の実施形態では、POIは、EC5.1.3.3(例えば、アルドース1-エピメラーゼ)、EC5.1.3.30(例えば、D-プシコース3-エピメラーゼ)、EC5.4.99.11(例えば、イソマルツロースシンターゼ)及びEC5.4.99.15(例えば、(1→4)-α-D-グルカン1-α-D-グルコシルムターゼ)から選択されるEC5(イソメラーゼ)酵素を含むがそれらに限定されないイソメラーゼ酵素である。
【0170】
さらに他の実施形態では、POIは、EC6.2.1.12(例えば、4-クマリン酸塩:補酵素Aリガーゼ)及びEC6.3.2.28(例えば、L-アミノ酸α-リガーゼ)から選択されるEC6(リガーゼ)酵素を含むがそれらに限定されないリガーゼ酵素である。
【0171】
したがって、特定の実施形態では、工業用プロテアーゼを産生するバチルス属(Bacillus)宿主細胞は、特に好ましい発現宿主を提供する。同様に、特定の他の実施形態では、工業用アミラーゼを産生するバチルス属(Bacillus)宿主細胞は、特に好ましい発現宿主を提供する。
【0172】
例えば、典型的にはバチルス属(Bacillus spp.)によって分泌されるプロテアーゼには、2つの一般型、すなわち、中性(又は「金属プロテアーゼ」)及びアルカリ性(又は「セリン」)プロテアーゼがある。例えば、バチルス属(Bacillus)サブチリシンタンパク質(酵素)は、本開示において使用するための典型的なセリンプロテアーゼである。多種多様なバチルス属(Bacillus)サブチリシン、例えば、サブチリシン168、サブチリシンBPN’、サブチリシンカールスバーグ、サブチリシンDY、サブチリシン147及びサブチリシン309が同定及び配列決定されている(例えば、国際公開第1989/06279号パンフレット及びStahl et al.,1984)。本開示の一部の実施形態では、改変バチルス属(Bacillus)細胞は、突然変異(mutant)(すなわち、変異)プロテアーゼを産生する。数多くの参考文献、例えば国際公開第1999/20770号パンフレット;同第1999/20726号パンフレット;同第1999/20769号パンフレット;同第1989/06279号パンフレット;米国再発行特許第34,606号明細書;米国特許第4,914,031号明細書;同第4,980,288号明細書;同第5,208,158号明細書;同第5,310,675号明細書;同第5,336,611号明細書;同第5,399,283号明細書;同第5,441,882号明細書;同第5,482,849号明細書;同第5,631,217号明細書;同第5,665,587号明細書;同第5,700,676号明細書;同第5,741,694号明細書;同第5,858,757号明細書;同第5,880,080号明細書;同第6,197,567号明細書及び同第6,218,165号明細書は、変異体プロテアーゼの例を提供する。したがって、特定の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、プロテアーゼをコードする発現コンストラクトを含む。
【0173】
特定の他の実施形態では、本開示の改変バチルス属(Bacillus)細胞は、アミラーゼをコードする発現コンストラクトを含む。多種多様なアミラーゼ酵素及びそれらの変異体は、当業者に知られている。例えば、国際公開第2006/037484号パンフレット及び同第2006/037483号パンフレットは、改善された溶媒安定性を有する変異体α-アミラーゼを記載しており、国際公開第1994/18314号パンフレットは、酸化的に安定性であるα-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第1999/19467号パンフレット、同第2000/29560号パンフレット及び同第2000/60059号パンフレットは、Termamyl様α-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第2008/112459号パンフレットは、バチルス属(Bacillus sp.)707番に由来するα-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第1999/43794号パンフレットは、マルトジェニックα-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第1990/11352号パンフレットは、超耐熱性α-アミラーゼ変異体を開示しており、国際公開第2006/089107号パンフレットは、粒状デンプン加水分解活性を有するα-アミラーゼ変異体を開示している。
【0174】
他の実施形態では、本開示の改変細胞内で発現及び産生されるPOI又は変異体POIは、ペプチド、ペプチドホルモン、増殖因子、凝固因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、抗体、受容体、接着分子、微生物抗原(例えば、HBV表面抗原、HPV E7など)、及びそれらの変異体、それらの断片などである。他のタイプの目的のタンパク質(又はその変異体)は、食品又は作物に栄養価を提供することのできるタンパク質であり得る。非限定的な例としては、抗栄養因子の形成を阻害できる植物タンパク質及びより望ましいアミノ酸組成(例えば、非トランスジェニック植物より高いリジン含量)を有する植物タンパク質が挙げられる。
【0175】
細胞内及び細胞外で発現されたタンパク質の活性を検出及び測定するための当業者に知られる様々なアッセイがある。特に、プロテアーゼについては、280nmでの吸光度として測定される、又はフォリン法を使用して比色定量により測定されるカゼイン又はヘモグロビンからの酸可溶性ペプチドの放出に基づくアッセイがある(Bergmeyer et al.,1984)。他のアッセイには、発色性基質の可溶化が包含される(例えば、Ward,1983を参照されたい)。他の典型的なアッセイとしては、スクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-パラ-ニトロアニリドアッセイ(SAAPFpNA)及び2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩アッセイ(TNBSアッセイ)が挙げられる。当業者に知られる多数の追加の文献は、好適な方法を提供する(例えば、Wells et al.,1983;Christianson et al.,1994及びHsia et al.,1999を参照されたい)。
【0176】
国際公開第2014/164777号パンフレットは、本明細書に記載されるアミラーゼ活性のために有用なCeralpha α-アミラーゼ活性アッセイを開示している。
【0177】
宿主細胞中の目的のタンパク質の分泌レベルを決定し、発現されたタンパク質を検出するための手段には、タンパク質に特異的なポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体いずれかを用いるイムノアッセイの使用が挙げられる。その例としては、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)及び蛍光活性化セルソーティング(FACS)が挙げられる。
【実施例
【0178】
本発明の特定の態様は、以下の実施例に照らしてさらに理解することができるが、それらの実施例は限定するものと解釈すべきでない。材料及び方法の変更は、当業者には明白であろう。
【0179】
実施例1
-1A UTR発現コンストラクトの構築及びアミラーゼ産生の試験
バチルス属(Bacillus)細胞における目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現に対する改変5’非翻訳領域(5’-UTR)の効果は、野生型B.サブチリス(B.subtilis)のaprE5’UTR(配列番号1)又は改変5’UTR(配列番号2)のいずれかの発現カセットを作製することによって試験された(例えば、図1を参照のこと)。より具体的には、本実施例は、様々な(改変)5’UTRコンストラクトの評価のためのバチルス属(Bacillus)株/宿主細胞の作製、並びにそのような改変5’UTRコンストラクトが上流(5’)プロモーター及び目的のタンパク質をコードする下流(3’)オープンリーディングフレームに作動可能に連結されているときの目的のタンパク質の産生に対するそれらの影響/作用を記載する。
【0180】
本実施例において、キシロース誘導性comKコード配列(配列番号3)を運ぶプラスミドを含む親B.リケニフォルミス(B.licheniformis)細胞を、125mlのバッフルフラスコ中に100μg/mlのスペクチノマイシン二塩酸塩を含有する15mlのLブロス(1%(w/v)トリプトン、0.5%酵母抽出物(w/v)、1%NaCl(w/v))において37℃及び250RPMで一晩増殖させた。一晩培養物を、250mLのバッフルフラスコ中に100μg/mLのスペクチノマイシン二塩酸塩を含有する25mLの新鮮なLブロス中において0.7のOD600単位まで希釈した。細胞を、37℃(250RPM)で1時間増殖させた。D-キシロースを加えて、50%(w/v)のストックから0.1%(w/v)にした。細胞を37℃(250RPM)でさらに4時間増殖させ、7分間にわたり1700×gでペレット化した。
【0181】
細胞を、使用済み培地を使用して4分の1量の元の培養物中において再懸濁させた。100μlの濃縮細胞を、およそ1μgの野生型(WT)5’UTR発現コンストラクト(WT-5’UTR;配列番号4)又は改変5’UTR発現コンストラクト(mod-5’UTR;配列番号5)のいずれかと混合した。例えば、各発現カセットは、(5’から3’の方向において)野生型B.サブチリス(B.subtilis)のaprE 5’UTR(配列番号1)又は改変aprE 5’UTR(配列番号2)のいずれかに作動可能に連結された同じ5’catH相同アーム(配列番号6)、catH遺伝子(配列番号7)及びspoVGrrnIpハイブリッドプロモーター(配列番号8)を含んだ。加えて、5’UTRは、配列番号9のアミラーゼシグナル配列をコードするDNAに続く配列番号13の変異体G.ステアロサーモフィルス(G.stearothermophilus)α-アミラーゼをコードする配列番号10のDNA(ORF)に作動可能に連結された(例えば、全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009/134670号パンフレットを参照のこと)。変異体G.ステアロサーモフィルス(G.stearothermophilus)α-アミラーゼをコードするDNA(ORF)(配列番号10)の3’末端は、配列番号11のアミラーゼターミネーターに作動可能に連結され、これは、3’catH相同アーム(配列番号12)に作動可能に連結された。形質転換反応は、37℃、1000RPMでおよそ90分間インキュベートされた。
【0182】
形質転換混合物を、1.5%(w/v)寒天を用いて固化された10μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLブロスで充填されたペトリ皿上に蒔いた。プレートを、37℃で2日間インキュベートした。コロニーは、1.5%(w/v)寒天を用いて固化した1%(w/v)の不溶性コーンスターチを含有するLブロスで充填されたペトリ皿上でストリーク精製した。プレートを、コロニーが形成されるまで、37℃で24時間インキュベートした。デンプン加水分解は、ハローを形成しているコロニーを取り囲んでいる不溶性デンプンの除去によって示され、これを使用して変異体G.ステアロサーモフィルス(G.stearothermophilus)のα-アミラーゼタンパク質(配列番号13)を発現する形質転換体を選択した。コロニーPCRを使用して、標準的な技術、及びプライマー対:フォワードプライマー(TGTGTGACGGCTATCATGCC;配列番号16)/リバースプライマー(TTGAGAGCCGGCGTTCC;配列番号17)を使用してハローを生成しているコロニーからcatH遺伝子座(WTコンストラクト;配列番号14)(改変コンストラクト、配列番号15)を増幅した。PCR産物を、標準的な技術を用いて過剰なプライマー及びヌクレオチドから精製し、サンガー法及び以下のシークエンシングプライマーを用いて配列決定した:
AACGAGTTGGAACGGCTTGC;フォワード(配列番号18)、
GGCAACACCTACTCCAGCTT;フォワード(配列番号19)、
GATCACTCCGACATCATCGG;フォワード(配列番号20)。
【0183】
WT-5’UTR発現カセット(配列番号4)を含む配列が検証されたB.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞を、娘細胞BF134として保存し、改変5’-UTR(mod-5’-UTR)発現カセット(配列番号5)を含む配列が検証されたB.リケニフォルミス(B.licheniformis)(娘)細胞を、娘細胞BF117として保存した。
【0184】
実施例2
目的のタンパク質の産生に対する改変5’UTRの効果の評価
本実施例では、実施例1における上記の改変B.リケニフォルミス(B.licheniformis)娘細胞(すなわち、娘細胞BF134;配列番号4を含む、及び娘細胞BF117、配列番号5を含む)を、標準的な発酵条件下で84時間増殖させた。より具体的には、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)娘細胞であるBF134及びBF117の相対的なアミラーゼ産生を、標準的な方法を用いて測定したが、その結果が表1において下に記載される。
【0185】
表1において提示されるとおり、BF117細胞(mod-5’UTR発現コンストラクトを含む;配列番号5)は、BF134細胞(WT-5’UTR発現コンストラクトを含む;配列番号4)より20%多くアミラーゼを産生した。より具体的には、OD550単位に基づいて、BF117細胞は、BF134細胞より40%多くアミラーゼを産生した。
【表1】
【0186】
参照文献
国際公開第1989/06279号パンフレット
国際公開第1999/20726号パンフレット
国際公開第1999/20769号パンフレット
国際公開第1999/20770号パンフレット
国際公開第2002/14490号パンフレット
国際公開第2003/083125号パンフレット
国際公開第2003/089604号パンフレット
国際公開第2014/164777号パンフレット
米国特許第4,914,031号明細書
米国特許第4,980,288号明細書
米国特許第5,208,158号明細書
米国特許第5,310,675号明細書
米国特許第5,336,611号明細書
米国特許第5,399,283号明細書
米国特許第5,441,882号明細書
米国特許第5,482,849号明細書
米国特許第5,631,217号明細書
米国特許第5,665,587号明細書
米国特許第5,700,676号明細書
米国特許第5,741,694号明細書
米国特許第5,858,757号明細書
米国特許第5,880,080号明細書
米国特許第6,197,567号明細書
米国特許第6,218,165号明細書
米国特許出願公開第2014/0329309号明細書
米国再発行特許第34,606号明細書
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