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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】記録媒体
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/48 20060101AFI20230131BHJP
   D21H 13/38 20060101ALI20230131BHJP
   D21H 15/10 20060101ALI20230131BHJP
   B42D 25/30 20140101ALI20230131BHJP
【FI】
D21H13/48
D21H13/38
D21H15/10
B42D25/30
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2017516953
(86)(22)【出願日】2016-04-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 IL2016050403
(87)【国際公開番号】W WO2016170527
(87)【国際公開日】2016-10-27
【審査請求日】2019-04-08
(31)【優先権主張番号】62/149,845
(32)【優先日】2015-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517103315
【氏名又は名称】タギト-イーエーエス リミティッド
(73)【特許権者】
【識別番号】518415244
【氏名又は名称】コレイト カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】マノヴ、ヴラディミル
(72)【発明者】
【氏名】布施 真理雄
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-020579(JP,A)
【文献】特開2007-177332(JP,A)
【文献】特開2013-119674(JP,A)
【文献】特開2012-229507(JP,A)
【文献】特開2007-177361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D15/02
25/00-25/485
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体であって、当該記録媒体は;
パルプ繊維により形成されたパルプ構造体を有し、前記パルプ構造体は、所定の材料組成の金属コアと、前記金属コア上の絶縁層コーティングとを持つマイクロワイヤを担持し;
前記パルプ構造体の少なくとも片面に少なくとも一つのコーティング層を有し;
前記の所定の材料組成の前記金属コアは、15μm以下の断面寸法を持ち、前記マイクロワイヤは、10mm以下の長さを持ち、かつ、前記パルプ繊維および前記マイクロワイヤを有する前記パルプ構造体は、単層の構造体であり、前記マイクロワイヤが、前記の単層の構造体の外面から突き出ることなく、前記の単層の構造体内に埋め込まれるようになっており、
前記マイクロワイヤは、実質的に均一に分配された状態で、かつ、前記マイクロワイヤの縦軸と当該記録媒体の縦軸との間の角度のばらつきが45度-90度であるようにランダムに配向された状態で、前記の単層の構造体に配置され、そのことによって、1平方センチメートルあたりのマイクロワイヤの数が1.0より高い前記マイクロワイヤの望ましく高い密度および前記マイクロワイヤの検知の無方向性を提供、当該記録媒体の前記マイクロワイヤが問い合わせゾーン内のいかなる領域にあるときでも振動磁界に応答して前記マイクロワイヤのいっそう高い検知性を得ることを可能にする、
前記記録媒体。
【請求項2】
前記絶縁層が、ガラスコーティングである、請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記金属コアの前記断面が、15μmを超えないその直径であり、かつ、前記ガラスコーティングの厚さが、3μmを超えない、請求項2に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記ガラスコーティングの前記厚さが、0.5-1.5μmの範囲内にある、請求項3に記載の記録媒体。
【請求項5】
前記金属コアの前記材料組成が、大バルクハウゼン効果および20A/mより小さい磁気保磁力を有する軟質磁性アモルファス金属合金である、請求項2-4のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項6】
前記金属コアの前記材料組成が、2-10A/mの範囲内にある前記磁気保磁力を持つ、請求項5に記載の記録媒体。
【請求項7】
前記金属コアの前記材料組成が、ゼロであるかまたは負である磁気歪を持つ、請求項5または6に記載の記録媒体。
【請求項8】
前記金属コアの前記材料組成が、Co-Fe-Si-B-Cr合金である、請求項2-7のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項9】
前記Co-Fe-Si-B-Cr合金が、原子百分率でCoを67.7%、Feを4.3%、Siを11%、Bを14%およびCrを3%含む、請求項8に記載の記録媒体。
【請求項10】
前記の単層のパルプ構造体内に埋め込まれた前記マイクロワイヤが、1平方センチメートルあたりのマイクロワイヤの数が2.0より高い前記マイクロワイヤの前記の望ましく高い密度で配置される、請求項1-9のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項11】
前記の単層のパルプ構造体内に埋め込まれた前記マイクロワイヤが、1平方センチメートルあたりのマイクロワイヤの数が3.0より高い前記マイクロワイヤの前記の望ましく高い密度で配置される、請求項1-9のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項12】
前記の角度のばらつき55度-75度である、請求項1-11のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項13】
紙であって、その上にデータを印刷するように構成された前記紙である、請求項1-12のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項14】
紙であってその上にデータを印刷するように構成された前記紙として構成された記録媒体であって、当該記録媒体は:
パルプ繊維により形成されたパルプ構造体を有し、前記パルプ構造体は、所定の材料組成の金属コアと、前記金属コア上の絶縁層コーティングとを持つマイクロワイヤを担持し;
前記パルプ構造体の少なくとも片面に少なくとも一つのコーティング層を有し;
前記の所定の材料組成の前記金属コアは、15μm以下の断面寸法を持ち、前記マイクロワイヤは、10mm以下の長さを持ち、かつ、前記パルプ繊維および前記マイクロワイヤを有する前記パルプ構造体は、単層の構造体であり、前記マイクロワイヤが、前記の単層の構造体の外面から突き出ることなく、前記の単層の構造体内に埋め込まれるようになっており、
前記マイクロワイヤは、前記の単層の構造体内で実質的に均一に分配されており、かつ、前記マイクロワイヤの縦軸当該記録媒体の縦軸との間の角度のばらつきが45度-90度であるようにランダムに配向された状態で配置され、そのことによって、1平方センチメートルあたりのマイクロワイヤの数が1.0より高い前記マイクロワイヤの望ましく高い密度および前記マイクロワイヤの検知の無方向性を提供、前記マイクロワイヤの前記配置がそのことによって、当該記録媒体の前記マイクロワイヤが問い合わせゾーン内のいかなる領域にあるときでも振動磁界に応答して前記マイクロワイヤのいっそう高い検知性を得ることを可能にする、
前記記録媒体。
【請求項15】
請求項1に記載の記録媒体における使用のための軟質磁性マイクロワイヤであって、当該マイクロワイヤは、所定の材料組成の金属コアと、前記金属コア上の絶縁コーティングとを持ち、前記金属コアは、60A/mより小さい磁気保磁力と、大バルクハウゼンジャンプと、ゼロであるかまたは負である磁気歪とを持つCo-Fe-Si-B-Cr合金であり、かつ、前記金属コアは、5-15μmの範囲内にある断面寸法を持ち、かつ、前記絶縁コーティングは、3μmをえない厚さを持っている、
前記マイクロワイヤ。
【請求項16】
前記マイクロワイヤが、10mmを超えない長さを持つ、請求項15に記載のマイクロワイヤ。
【請求項17】
前記Co-Fe-Si-B-Cr合金が、原子百分率でCoを67.7%、Feを4.3%、Siを11%、Bを14%およびCrを3%含む、請求項15または16に記載のマイクロワイヤ。
【請求項18】
請求項14に記載の記録媒体の製造方法であって、当該方法は:
複数のマイクロワイヤを試験することを有し、該複数のマイクロワイヤは、所定の材料組成の金属コアと、前記金属コア上のガラスコーティングとを持つ前記マイクロワイヤを有し、前記金属コアの直径は、15μmを超えず、かつ、前記ガラスコーティングの厚さは、3μmを超えず、かつ、前記金属コアの前記材料組成は、大バルクハウゼン効果と、20A/mより小さい磁気保磁力と、ゼロであるかまたは負である磁気歪とを有する軟質磁性アモルファス金属合金であり;
繊維メッシュの上面に紙のウェブを用意し、かつ、該紙のウェブ内に前記マイクロワイヤを分配することを有し;
前記紙のウェブに減水処理を適用し、前記紙のウェブを通り前記紙のウェブから出る水流を引き起こし、それにより前記マイクロワイヤを分散し、かつ、単層のパルプ構造体を形成することを有し、該単層のパルプ構造体は、前記の単層のパルプ構造体の外面から突き出ることなく、その中に埋め込まれた前記マイクロワイヤを有し、該マイクロワイヤは、実質的に均一な分布で、かつ、前記マイクロワイヤの縦軸と前記記録媒体の縦軸との間の角度のばらつきが45度-90度であるようなランダムな配向で、かつ、1平方センチメートルあたりのマイクロワイヤの数が1.0より高い前記マイクロワイヤの望ましく高い密度で前記の単層のパルプ構造体内に配置され、そのことによって、前記記録媒体の前記マイクロワイヤが問い合わせゾーン内のいかなる領域にあるときでも振動磁界に応答して前記マイクロワイヤのいっそう高い検知性を得ることを可能にする、
前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体において用いるための軟質磁性(soft-magnetic;軟磁性)マイクロワイヤに関し、これは、記録媒体の存在がEAS(Electronic Article Surveillance;電子商品監視)システムにおいて検知されることを可能にする。
【背景技術】
【0002】
背景
従来、偽造防止、高度な秘密情報のセキュリティおよび他の目的のために、軟質磁性マイクロワイヤ(タグ)を含む種々の紙が研究されてきた。
【0003】
言及された紙についての関連技術が概観される。US 7,301,324は、所定の特定領域内に交番磁界を生成する磁界生成ユニットと、磁束の変化を検知するために特定領域の側に提供された検知ユニットと、特定領域内に配置された時に検知ユニットにより検知可能な記録媒体とを含む記録媒体検知システムを説明する。記録媒体は、磁性ワイヤを中に含む二層または三層の構造体であってもよい。二層の構造体では、磁性ワイヤは、基板の片面の上に配置され、該基板は、予め用意されかつその上に別の基板を積層する。三層の構造体では、分散したワイヤを中に含む単層の基板(または湿紙)が、ワイヤを中に含まない二つの基板(または湿紙)の間に挟まれている。この技術によれば、複数(18)の長さ25mmの磁性ワイヤが、一枚の湿紙全体にわたって均一に分散する。ワイヤは、30μmの直径および70A/mより小さい保磁力を持つ。
【0004】
さらに、WO14185686とKR101341164とは、セキュリティ用の記録媒体を説明し、該記録媒体は、検知用材料を含みかつ検知用材料と一体になった印刷可能なベースを持つ検知ベース層と;検知用材料を遮蔽するために検知ベース層の両面に形成された遮蔽層とを含む。ここで、検知用材料は、周波数が10kHzである時、0.1T以上の残留磁束密度、1-50A/mの保磁力および500-100,000H/mの透磁力を持つ軟質磁性材料であり得る。
【発明の概要】
【0005】
概要
本技術分野において、EASシステムにおいて用いるための軟質磁性マイクロワイヤを利用する新規な記録媒体の必要性がある。本明細書において用いられる用語「記録媒体」は、構造体/基板を意味し、該構造体/基板は、インクジェット印刷、デジタル印刷などのあらゆる適切な印刷工程によりその上に印刷がなされるもの(例えば、一枚の紙)である。
【0006】
磁性ワイヤを担持する物体のEAS検知にとって、磁性ワイヤの数および分布は、十分に強力な検知信号を提供するために重要な要因である。記録媒体を保護するための磁性ワイヤの使用を考慮すると、記録媒体へのより良い印刷を可能にするために、マイクロワイヤの数および分布が、記録媒体の平面(該平面の上に印刷がなされる)を提供するために重要な要因である。さらに、マイクロワイヤの数および分布は、媒体(紙)の製造工程と密接な関係がある。
【0007】
本発明は、市販のEM(Electromagnetic;電磁)ゲートシステムにより好結果の検知を可能にするセキュリティ記録媒体を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、セキュリティペーパー(記録媒体を例証する)を提供することを目的とし、したがって、この特定の適用に関して以下に説明される。
【0008】
したがって、本発明の一態様によれば、それは記録媒体を提供し、該記録媒体は:パルプ繊維により形成されたパルプ構造体を有し、前記パルプ構造体は、ガラスコート(ガラスで被覆された)マイクロワイヤを担持し;前記パルプ構造体の少なくとも片面の上に少なくとも一つのコーティング層を有し;ここで、前記パルプ構造体は、単層の構造体であり、前記単層内に完全に埋め込まれた前記ガラスコートマイクロワイヤを有し、該マイクロワイヤは、パルプ繊維の断面寸法にほぼ等しい断面寸法を持つ。
【0009】
マイクロワイヤは、所定の材料組成の金属コアと、前記金属コア上の絶縁(例えば、ガラス)コーティング(被覆部)とを持つ軟質磁性要素として構成される。磁性マイクロワイヤは、60A/m以下(さらに好ましくは20A/mより小さく、または15A/mよりさらに小さい)の磁気保磁力を持ち、かつ、大バルクハウゼンジャンプ(不連続)を持つ。金属コアの材料組成は、ほぼゼロであるかまたは負である磁気歪を持つ。
【0010】
好ましくは、金属コアの材料組成は、Co-Fe-Si-B-Cr合金である。好ましくは、Co-Fe-Si-B-Cr合金は、原子百分率でCoを67.7%、Feを4.3%、Siを11%、Bを14%およびCrを3%含む。
【0011】
好ましくは、マイクロワイヤの長さは、10mmを超えず、またはさらに好ましくはそれより短く、好ましくは4-7.5mmである。金属コアの直径は、好ましくは5-15μmの範囲内である。絶縁コーティングの厚さは、好ましくは3μmを超えず、およびさらに好ましくはそれより小さく、好ましくは1-1.5μmの範囲内である。
【0012】
上記の寸法を有するマイクロワイヤは、パルプ層全体(記録媒体全体)にわたって適切に分配され得、すなわち、パルプ層により定められた平面内にその中に完全に埋め込まれた状態で(すなわち、パルプ層の外面から突き出たり、またはそれに露出することなく)均一に分配され得る。また、上記のマイクロワイヤは、その適切な配向、すなわち記録媒体の縦軸に対して準ランダムな(quazi-random)配向、を提供する。特定の寸法のマイクロワイヤのそのような分布および配向は、パルプ層内のマイクロワイヤの密度を増大させることを可能にする。これらの特徴は、マイクロワイヤの検知性を改善することを提供する。
【0013】
例えば、単層のパルプ構造体内に完全に埋め込まれたマイクロワイヤは、1平方センチメートルあたり1.0より高い、または1平方センチメートルあたり2.0より高い、または1平方センチメートルあたり3.0よりさらに高いマイクロワイヤの密度で配置される。
【0014】
上記の通り、前記単層のパルプ構造体内に完全に埋め込まれたマイクロワイヤは、準ランダムな配向で配置される。好ましくは、それらは、マイクロワイヤ(それらの縦軸)の配向の角度の約10度の変動で配置される。
【0015】
記録媒体は、紙であって、その上にデータを印刷するように構成された前記紙であってもよい。
【0016】
本発明の別の広い態様によれば、それは、所定の材料組成の金属コアと前記金属コア上の絶縁コーティングとを持つ軟質磁性マイクロワイヤを提供し、ここで、金属コアは、60A/m以下の磁気保磁力と、大バルクハウゼンジャンプと、ほぼゼロであるかまたは負である磁気歪とを持つCo-Fe-Si-B-Cr合金である。
【0017】
好ましくは、マイクロワイヤの長さは、10mmを超えず、またはさらに好ましくはそれより短く、好ましくは4-7.5mmである。金属コアの直径は、好ましくは5-15μmの範囲内である。絶縁コーティングの厚さは、好ましくは3μmを超えず、およびさらに好ましくはそれより小さく、好ましくは1-1.5μmの範囲内である。
【0018】
本発明のさらに別の態様によれば、それは、記録媒体として役立つ上述の紙の製造方法を提供し、該方法は:
複数のマイクロワイヤを試験することを有し、各マイクロワイヤは、所定の材料組成の金属コアと、前記金属コア上のガラスコーティングとを持ち、ここで、金属コアの直径は、実質的に15μmを超えず、かつ、ガラスコーティングの厚さは、実質的に3μmを超えず、かつ、金属コアの材料組成は、大バルクハウゼン効果と、20A/mより小さい磁気保磁力と、ほぼゼロであるかまたは負である磁気歪とを有する軟質磁性アモルファス金属合金であり;
繊維メッシュの上面に紙のウェブを用意し、かつ、該紙のウェブ内にマイクロワイヤを分配することを有し;
前記紙のウェブに減水(water reduction)処理を適用し、該紙のウェブを通り該紙のウェブから出る水流を引き起こし、それにより前記マイクロワイヤを分散させ、かつ単層のパルプ構造体を形成することを有し、該単層のパルプ構造体はその中に完全に埋め込まれた前記マイクロワイヤを有し、該マイクロワイヤは、パルプ層内に実質的に均一な分布にて、かつ、マイクロワイヤの配向の角度の約10度の変動を有する準ランダムな配向にて、配置されるようになっている。
【0019】
図面の簡単な説明
本明細書に開示される主題をよりよく理解し、かつそれが実際にどのように実行されてもよいのかを例証するために、非限定的でしかない実施例を介して、添付の図面を参照して、実施態様がここで説明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の原理により構成された記録媒体の断面図を概略的に説明する図である。
図2図2Aおよび2Bは、二層のパルプ構造体が用いられるセキュリティ用の磁性ワイヤを利用する記録媒体の公知の構造体の二つの実施例を概略的に説明する図である。
図3図3は、本発明のセキュリティペーパーの製造における主要なステップを概略的に説明する図である。
図4図4Aおよび4Bは、先行技術により生産されたA4サイズの紙の平面図と断面図とをそれぞれ概略的に示す図である。
図5図5および6は、公知の記録媒体(図5)と本発明の記録媒体(図6)において用いられるマイクロワイヤのマイクロワイヤ分布を説明する図である。
図6図5および6は、公知の記録媒体(図5)と本発明の記録媒体(図6)において用いられるマイクロワイヤのマイクロワイヤ分布を説明する図である。
図7図7は、本発明の技術による、パルプ層内に埋め込まれたマイクロワイヤを有する紙の表面の一部のマイクロ写真である。
図8図8-12は、本発明の記録媒体におけるマイクロワイヤの検知を例証し、ここで、図8は、送信コイル(振動磁界)における電流波形に関連する受信信号波形を示す。
図9図8-12は、本発明の記録媒体におけるマイクロワイヤの検知を例証し、ここで、図9は、1_1から3_3まで9つのセルのマトリックスに分割された、仕切られたゲート空間を示す。
図10図8-12は、本発明の記録媒体におけるマイクロワイヤの検知を例証し、ここで、図10は、ゲートを通過する紙の配向の分類を示す。
図11図8-12は、本発明の記録媒体におけるマイクロワイヤの検知を例証し、ここで、図11は、最も頻繁に用いられる位置である実用的な位置を示す。
図12図8-12は、本発明の記録媒体におけるマイクロワイヤの検知を例証し、ここで、図12は、これらの実用的な位置についての検知試験の結果を示す。
図13図13は、6種の試験紙についての検知能力の比較を示す。
図14図14は、異なる寸法(金属コアの直径およびマイクロワイヤの長さ)かつ異なるマイクロワイヤの密度のマイクロワイヤを有する45の紙のサンプルについて検知性を比較する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施態様の詳細な説明
上述の通り、本発明は、磁性マイクロワイヤの配置構成(タグ)により保護された記録媒体(紙)の新規な構成、およびマイクロワイヤ構造体、ならびにそのような記録媒体の大量生産方法を提供する。
【0022】
図1を参照すると、本発明の原理により構成された記録媒体10の断面図が概略的に説明される。該記録媒体は、単一のパルプ層(活性(active)層または固定(securing)層を構成する)12を含み、該単一のパルプ層は、該層12内に埋め込まれたマイクロワイヤ14の配置構成を担持し、かつ、少なくとも一つの保護層16を含み、該保護層は、活性層12の少なくともその片面を被覆(コーティング)する。図1の特定の非限定的な実施例に示されるように、コーティング16は、パルプ層12の両面に提供される。マイクロワイヤ14は、活性層12全体の範囲内に(記録媒体10全体にわたって)成功裡に分配される。図面にも示されるように、マイクロワイヤ14は、パルプ層12内に配置され、かつ、重複していても、すなわち一方が他方の上に複数の列で配置されていてもよい。
【0023】
記録媒体10は、電子写真印刷(electro-photographic printing)用に用いられてもよい。電子写真印刷は、ゴムロールにより記録媒体の表面15上にトナー画像を溶着することにより完成する。したがって、記録媒体の印刷表面15は、好ましくは、十分に平坦であるべきであり;そうでなければ、すなわち、もしマイクロワイヤが印刷表面から突き出ていれば、このことは溶着ロール(fuser roll)の表面を傷つけるであろう。したがって、マイクロワイヤ14は、好ましくは、パルプ層12内に完全に埋め込まれるべきである。
【0024】
図1にさらに示されるように、マイクロワイヤ14は、直径約5-15μm(概して、断面寸法)であり、かつ、記録媒体10全体(単層の活性構造体12および両面コーティング16)の厚さは、約80-120μmである。マイクロワイヤは、好ましくは、ガラスコート軟質磁性マイクロワイヤである。本発明のマイクロワイヤ14の構成およびその製造は、さらに以下でより詳細に説明されるであろう。
【0025】
図2Aおよび2Bを参照すると、指定された種類の記録媒体(すなわち、セキュリティ用の磁性ワイヤを担持する)の公知の構造体の二つの実施例が、比較のために示される。理解を容易にするために、同様の参照数字が、本発明の記録10ならびに図2Aおよび2Bの公知の構造体において機能的に共通する部品を示すために用いられる。
【0026】
図2Aの構造体において、記録媒体の「活性」部分(すなわち、その中にマイクロワイヤを保持する)は、二つのパルプ層12Aおよび12Bにより形成される。このことが、記録媒体の活性部分(パルプ構造体)を事実上相対的に厚く(100μm-120μm)して、マイクロワイヤが露出することを防止する。
【0027】
そのようなより厚みのある媒体は、パルプ層が大部分は熱質量(heat mass)に貢献するので、熱質量の増大によりデフュージング(defusing)を不可避的に引き起こす。さらに、マイクロワイヤが露出する区域/領域では、溶融したトナーがパルプ繊維の間で拡散することができないので、トナーがほとんど溶着されない。また、図2Aの構造体では、マイクロワイヤはガラスコートワイヤである、すなわち、磁性コア14Aとガラスコーティング14Bとからなる。二層のパルプ構造体により担持されるそのような厚みのあるガラスコートマイクロワイヤのこの技術を用いると、マイクロワイヤのうちのいくつかが部分的にのみ埋め込まれており、したがってパルプ構造体から部分的に突き出ている、すなわち、露出したマイクロワイヤであることがしばしばである。
【0028】
図2Aの構造体と類似する図2Bの構成では、マイクロワイヤを保持する記録媒体の「活性」部分は、二つの積み重ねられた層12Aおよび12Bと、これらの層の重複部分に配置されたマイクロワイヤとにより形成される。ワイヤのうちのいくつか(「上側」ワイヤ)14は、パルプ層12A-12B内に埋め込まれるが、ワイヤのうちの他のいくつか(「下側」ワイヤ)14’は、部分的にのみ埋め込まれており、したがって媒体の表面に露出する。
【0029】
上述の通り、記録媒体内へのマイクロワイヤの部分的な埋め込みは、記録媒体の表面上に高品質の印刷を獲得することを阻害しかつ事実上不可能にする。
【0030】
図面にも示されるように、本発明の記録媒体10(図1)は、より小さい直径を有するマイクロワイヤ14を用い、このことは、パルプ層内へのマイクロワイヤの完全な埋め込み(バーリング(burring))を容易にし、かつ記録媒体の厚さが十分に薄くなることを可能にする。
【0031】
一般に、記録媒体(紙)の構造がより簡素になればなるほど、製紙がより簡素かつ安価になることは、理解されるべきである。
【0032】
上述の種類の記録媒体の活性部分の二層の構造体を作るためには、下側パルプ層(12B)がまず用意され、その後、マイクロワイヤがその上に分散され、かつ上側パルプ層(12A)により覆われる。そのような工程は、例えばJP4529420において説明される。
【0033】
さらに、上述の公知の記録媒体は、より大きい直径(本発明の媒体においては5-15μmであるのに対して、約40μm)を有するマイクロワイヤを利用する。それぞれのそのようなより大きい直径のマイクロワイヤの部品は、相対的に重く、したがって、分散の進行が困難である。そのような相対的に重いマイクロワイヤのほとんどは、ワイヤ分散タンクの底に沈む。媒体内のマイクロワイヤ混在物の収量は、非常に低い。さらに、より長いマイクロワイヤがワイヤ分散タンク内でもつれ、このことは分散を困難にする。相対的に大きいマイクロワイヤの質量により、ワイヤは、下側のパルプ層の下部に埋設される。時々、マイクロワイヤのうちのいくつかが、サイズプレス後に媒体の表面に露出する。
【0034】
図1に示される上述の本発明の記録媒体10は、より短くかつより細いマイクロワイヤ14を利用し、このことは、均一的な分散と、一つのパルプ層12内へのその完全な埋め込みと、保護層16による完全な被覆とを可能にする。このことは、本発明の記録媒体10が、電子写真印刷および偽造の防止、高度な秘密情報のセキュリティについてのより高度な保護について、より信頼できるものであることを可能にする。
【0035】
セキュリティの改善は、マイクロワイヤを見ることがより困難であること、すなわち、マイクロワイヤが事実上看者に全く露出しないことにある。このことは、人々が媒体からマイクロワイヤを抜き出すことがほとんどないことを意味する。
【0036】
下記は、本発明の軟質磁性マイクロワイヤ14の考え得る構成の説明である。記録媒体において用いられる本発明の例示的な実施態様の軟質磁性マイクロワイヤ14は、磁化反転により引き起こされる大バルクハウゼン信号を発することが可能であり、EAS検知器(典型的には、ゲートアセンブリ内に組み込まれている)を用いて検知可能である。マイクロワイヤ構造体は、ガラスのような絶縁材料でコーティングされた軟質磁性金属コアを含む。
【0037】
アモルファス金属コアを有するガラスコートマイクロワイヤが開発されてきており、かつUS 6,441,737(参照により、本明細書に組み込まれる)を用いて説明される。本発明の発明者は、US 6,441,737における共同発明者である。金属コアの材料は、コバルト系(cobalt-base)合金である。例えば、Co-Fe-Si-B合金(例えば、原子百分率でCoを77.5%、Feを4.5%、Siを12%、およびBを6%含む)、Co-Fe-Si-B-Cr合金(原子百分率でCoを68.7%、Feを3.8%、Siを12.3%、Bを11.4%およびCrを3.8%含む)、またはCo-Fe-Si-B-Cr-Mo合金(原子百分率でCoを68.6%、Feを4.2%、Siを12.6%、Bを11%、Crを3.52%およびMoを0.08%含む)が用いられてもよい。
【0038】
下記で説明されるように、軟質磁性金属コアは、ほぼゼロであるかまたは負である磁気歪を持つことが望ましい。本発明の発明者らは、紙状記録媒体の生産のために、もし軟質磁性マイクロワイヤ内の金属コアが正の磁気歪を持てば、製紙工程により誘導される機械的なストレスにより大バルクハウゼン信号が低減しまたは最悪の場合には消滅するであろうことを見出した。ストレスは、典型的には製紙後に加えられる。例えば、パルプ繊維は、湿気により伸長し、かつ乾燥により縮む。マイクロワイヤは、パルプ層内でそのようなストレス下にある。他方、軟質磁性金属コアがほぼゼロであるかまたは負である磁気歪を持つ時、大バルクハウゼン信号は、マイクロワイヤ上に加えられるストレス下でより安定的であるであろう。
【0039】
合金成分を制御することにより、ほぼゼロであるかまたは負である磁気歪が達成され得る。例えば、原子百分率でCoを67%、Feを5%、Siを11%、Bを14%およびCrを3%含むCo-Fe-Si-B-Cr合金は正の磁気歪を示す一方、原子百分率でCoを67.7%、Feを4.3%、Siを11%、Bを14%およびCrを3%含むCo-Fe-Si-B-Cr合金はほぼゼロであるかまたは負である磁気歪を示す。
【0040】
セキュリティペーパー用に特に有用である本発明のマイクロワイヤにおける金属コアの直径は、5-15μmの範囲内であり得る。絶縁材料(例えば、ガラス)の厚さは、実質的に2μmを超えず、かつ好ましくはそれより小さく、好ましくは約1.5μmである。これは、より厚みのある(3μmより厚い)ガラスコーティングは、製紙中ならびに電子写真印刷機のような印刷および/またはコピー機における用紙処理においても加えられる機械的なストレスに対して事実上もろいからである。製紙機械および/または印刷機械内でガラスが割れる時、ガラス粒子は機械の部品の内部に悪影響を与え、このことは、短縮された清掃周期により機械維持費用を増大させるかも知れない。本発明は、マイクロワイヤをより柔軟にするより薄いガラスコーティングの使用、およびこれに従うガラス割れ効果の防止を提供する。
【0041】
ガラスコートマイクロワイヤは、US 8,978,415に開示される連続テイラー-ウリトフスキー法を用いて製造され、その後、約10mm以下、好ましくは4mm-7.5mmの長さで細かく切断されてもよい。
【0042】
下記は、本発明の記録媒体を製造するための製造工程の実施例の説明である。
【0043】
製造工程は、今日、グラフィック紙(すなわち、オフィスおよび印刷に適した紙)製作用の製紙について用いられる公知の製紙技術を利用する。そのような工程の主な段階は、自体公知であり、本発明の一部を構成せず、したがって、詳細に説明される必要がない。図3は、下記の通り、セキュリティペーパーの製造工程における主なステップ/段階のフローチャート100を説明する:
【0044】
所望の寸法(金属コアの直径および長さ)のマイクロワイヤは、上記のテイラー-ウリトフスキー連続法を用い、かつ細かく切断して用意される(ステップ102)。紙のウェブは、公知技術を用いて別途用意される(ステップ104)。手短に言えば、パルプ用材は、非常に厚みのあるシートの形態で製紙工場に到着し、かつ、古紙は、通常大きな圧縮された梱の形態で到着する。これらの材料の両方は、それらが含有する個々の繊維が互いに完全に分離されるように破壊されなければならない。この工程は、「パルパー」として知られる大きな容器内で実行され、ここでは、原材料が水で希釈され、その後、鋼製ロータブレードを用いて激しい機械的作用にさらされる。結果として得られた製紙原料は、その後、貯蔵タンクへと渡される。この予備的段階の間、補助的な化学品および添加物が加えられてもよい。補助的な化学品は、通常、繊維原料と組み合わされ、インクと水の透過を低減し、かつ消泡剤を処理するのり剤となり得る。原料は、その後、種々の機械的な清掃装置を通って製紙機械にポンプで送り込まれる。製紙機械上では、繊維懸濁液を生成するためにさらなる水が追加され、結果として得られる混合物は、ヘッドボックス内に渡され、該ヘッドボックスは、移動する無端のワイヤメッシュの上に機械全体の幅にわたって細い水平なスリットを通してそれを噴き出させる。
【0045】
その後、減水処理が適用され(シート形成工程)、その間、マイクロワイヤはパルプ層内に分散する(ステップ106)。水分除去の間、繊維は広がりかつ薄いマットへと固まり始め、ワイヤメッシュの上面に紙の層を形成する。この湿紙のウェブは、その後、ワイヤメッシュから持ち上げられ、かつ一連のプレス機の間で圧搾され、ここでその含水量は約50%まで下がる。その後、それは100℃を超える温度まで熱せられた一連の鋳鉄のシリンダーに回送され、ここで乾燥が起きる。ここで、その含水量は、その最終レベルまで(5%と8%の間まで)下がる。ワイヤメッシュから乾燥作業までの通路を通してずっと、紙のウェブは、同じ速度で移動する種々の織物ベルトにより支持される。乾燥後、いくつかの紙は、表面処理、例えば、サイジングおよびカレンダリング-艶のあるまたは光沢のある外観を生成するために一連の回転する研磨された金属ローラーの間を通すことにより紙の表面を滑らかにすること、を経験してもよい。紙は、その後、リールに巻かれてもよい。
【0046】
本発明によれば、上記の減水処理中、マイクロワイヤ(上述のように構成された)は、紙のウェブ内に適切な配向および密度で均一に分配される(ステップ108)。このことは、さらに以下でより詳細に説明されるであろう。紙のウェブは、その滑らかかつ柔らかい表面上にマイクロワイヤを固定するベースを提供する。それがサイズプレスされる時、マイクロワイヤは、パルプ繊維内に埋設される(完全に埋め込まれる)。
【0047】
その後、マイクロワイヤを含む紙層(パルプ層)の両面にコーティングが適用される(ステップ110)。パルプ層は、その中に埋め込まれたマイクロワイヤを含む時、磁気読み取り装置/検知器(ゲート)により検知可能な活性固定層を提供する。
【0048】
コーティングは、下記のようにいくつかの機能を持つ。それは、マイクロワイヤが表面に露出すること、パルプ層を出ること(そこから脱出すること)、容易に見つけられることを防止する。また、コーティングは、トナーまたはインクが溶融または乾燥中に内部に容易に拡散することを可能にし、かつコピー機および印刷機における用紙処理のための摩擦力を提供することを可能にする。
【0049】
したがって、コーティング材料は、上記の機能を提供するために適切に選択される。下記は、コーティング材料組成の候補の実施例の説明である。
【0050】
コーティングは、紙のウェブが作成されかつ部分的に乾燥された後、サイズプレスの際になされる。コーティング浴槽は、天然バインダー(でんぷん、PVOH、カルボキシメチルセルロース)と合成ラテックス(スチレンブタジエン、スチレンアクリル、酢酸ビニル)との混合物を含む。これら二つの化合物の割合は、約(ほぼ)10-80部の天然バインダー(用いられるバインダーによる)およびほぼ40-70部の合成ラテックス(乾燥重量として表される)である。コーティング浴槽は、また、鉱物充填剤、帯電防止剤、白色剤、染料および紙の表面処理に通常用いられる他の機能性化学品のような他の材料を含んでいてもよい。コーティング浴槽の総固体含有量は、約4-20%の範囲内にある。サイズプレスの際の固体の付着量は、紙の片面につき約1.5-4gsmである。
【0051】
最終形態は、分散したマイクロワイヤ14を有する一つのパルプ層(図1における12)とコーティング層16とからなる紙シートを巻きつけた巻紙である。巻紙は、その後、ブレードにより記録媒体の各シートに切断されてもよい(ステップ112)。紙シート内のマイクロワイヤの密度が検証されてもよく(ステップ114);かつ、紙シートは適切にパッケージ化されてもよい(ステップ116)。
【0052】
比較のために、指定された種類の先行技術について考えてみよう。先行技術においては、ブレードは、ワイヤの厚みのある金属コアおよび厚みのあるガラスコーティングのためにすぐ劣化する。結果として生じるブレードの短命は、製紙工程をより費用のかかるものとし、かつ、マイクロワイヤが切断断面の表面から出たままになる切断不良を引き起こす。このことは、先行技術により生産されたA4サイズの紙の平面図と断面図とをそれぞれ示す図4Aおよび4Bにおいて概略的に説明される。示されるように、いくつかのマイクロワイヤが、切断不良に起因するエッジ面(点線の円により印がつけられる)に露出する。ある場合には、それらのうちのいくつかが、エッジから突き出る。切断不良は、図4Bに示されるように、マイクロワイヤが紙シートのエッジで用紙処理の際に顧客の指を刺すことを引き起こした。
【0053】
図1に戻ると、本発明のマイクロワイヤは、本発明のマイクロワイヤに用いられるより細い金属コアおよびより薄いガラスコーティングに起因してより細いので、本発明の記録媒体においては、上記問題がすべて解決されていることが明確に示されている。
【0054】
上記の通り、記録媒体内に埋め込まれたマイクロワイヤの適切な検知のためには、マイクロワイヤの数およびそれらの記録媒体内における分布のような要因。マイクロワイヤの数に関して、それらは公知のものより細いので、本発明は、特定の紙のサイズについて、より多くのマイクロワイヤの埋め込みを提供し、したがって、記録媒体の特定の厚さについて、より強力な検知信号を提供することは明らかである。本発明の技術は、また、セキュリティ性能を改善するマイクロワイヤの分布を提供する。
【0055】
これに関連して、公知技術において用いられるマイクロワイヤの分布(図5)と本発明のそれ(図6)を比較する図5および6を参照する。示されるように、A4サイズの紙は、本発明の場合(図6)、先行技術(図5)のそれと比較して、より均一なマイクロワイヤの分布かつX軸(A4シートの長辺に沿う)に対する傾斜角(シータ)により定められるよりランダムな配向で、はるかに多い数のマイクロワイヤを含む。
【0056】
これに関連して、下記が注目されるべきである。マイクロワイヤは、実際、水流により分散する。従来技術では、相対的に大きくかつ重いマイクロワイヤのほとんどは、ほぼすべて同じように配向される。ある場合には、それらは、ほぼX軸(水流の方向のそれである)に沿って、または水流の軸に対して傾斜した軸に沿うが中心値がちょうどシフトされかつ傾斜角の変動がほとんど同じである(すなわち、マイクロワイヤがほとんど等しく傾き、結果として実質的にすべて同じ配向になる)ように、配向される。
【0057】
本発明者らは、セキュリティの観点から、マイクロワイヤの存在を検知することの方向性は低減されるべきであることを見出した。これは、有効磁界がワイヤの方向と一致する時、大バルクハウゼンジャンプが起きるからである。したがって、もし方向性が高ければ(マイクロワイヤのすべて同じ配向)、EASゲートのいくつかのゾーンについて検知がほとんどされない;そして、もしワイヤの配向におけるランダム性(すなわち、無方向性)が高ければ、EASゲートのあらゆるゾーンについて大バルクハウゼンジャンプが起きる。
【0058】
したがって、本発明の上述のより軽い質量のマイクロワイヤの使用は、マイクロワイヤの配向(すなわち、それらの長軸の配向)におけるランダム性の増大を提供する。このことは、そのようなマイクロワイヤを担持する記録媒体のより高いセキュリティ性能をもたらす。さらに、マイクロワイヤの配向におけるランダム性は、また、紙の中に埋め込まれ得るマイクロワイヤの数の増大を提供する。
【0059】
したがって、本発明は、より軽い質量(より小さいコアの直径およびより短い長さに起因した)のマイクロワイヤを提供し、これは、水中へのマイクロワイヤのよりよい分散を提供し、これは、(より狭い傾斜角の分布を有する一方で)マイクロワイヤの均一な分布とそれらの配向のランダム性(または準ランダム性)との両方をもたらす。直径が約5-10μmでありかつ長さが約10mmである本発明のマイクロワイヤは、(直径が約30μmでありかつ長さが約25mmである先行技術のものと比較すると)先行技術のそれより1オーダー小さい大きさの質量を持つ。
【0060】
本発明は、したがって、有利に、改善されたマイクロワイヤの分散を提供し、これは、記録媒体内の均一に分配されかつランダムに配向されたマイクロワイヤの数の増大につながり、これは、大バルクハウゼン信号がより高くなることを引き起こす。A4シートの場合、1000ピース(1平方センチメートルあたり1.6より高い密度に等しい)より多い磁性ワイヤが、商業用のEAS電磁ゲートにおいて十分な検知を提供する。本発明者らは、もしマイクロワイヤの数が700(1平方センチメートルあたり1.1より低い密度に等しい)より少なければ、いくつかの検知試験においてゲートのいくつかのゾーンで検知が失敗したことを見出した。A4サイズより大きい紙シートについては、商業用のEAS電磁ゲートにおける十分な検知を提供するために、1平方センチメートルあたり1.6より高い密度が好ましくは維持されるべきである。
【0061】
下記は、マイクロワイヤを有する紙の製造およびマイクロワイヤの検知についてのいくつかの実用的な実施例である。
【0062】
マイクロワイヤを有する紙の製造
本発明者らは、上述のマイクロワイヤ(上述の方法により予め用意された)を有するA4サイズ(210mm×297mm)の試験紙のサンプルを製造した。サンプルは、図1に示される紙と同じ構造を持つ、すなわち、一つのパルプ層(図1における12)を含み、該パルプ層は、パルプ層内に埋め込まれたガラスコートマイクロワイヤを有し、かつパルプ層12の両面でコーティング層16でコーティングされる。サンプルは、700、850、1100、1300および2000マイクロワイヤといった異なる数のマイクロワイヤを含む。1平方センチメートルあたりの単位におけるマイクロワイヤの密度は、1.1から3.2まで異なる。マイクロワイヤのコアの直径は、7.5μm、10μmおよび15μmから選択され、マイクロワイヤの長さは、5、7.5および10mmから選択される。ガラスコーティングの厚さは、0.5μm-2μmである。保磁力は、5-15A/mで異なる。直径が20μmより小さいマイクロワイヤを用いるすべての実施例において、マイクロワイヤは、実質的にパルプ層の繊維の寸法である(類似点がある)。
【0063】
45種の試験紙の特性が、下記の表1に要約される:
【0064】
【表1】
【0065】
図7は、パルプ層内に埋め込まれたマイクロワイヤを有する紙の表面の一部のマイクロ写真を示す。パルプ層は、互いにもつれたパルプ繊維からなる。図面に示されるように、パルプ層12内に埋め込まれたマイクロワイヤ14は、パルプ繊維PFとほぼ同じ寸法を持つ。マイクロワイヤ14の直径は、20μmより小さい。パルプ繊維の幅は、典型的には約20μm以下である。この構成は、マイクロワイヤを単一パルプ層に容易に埋め込ませるかも知れない。図7では見えないが、マイクロワイヤ14の分布は、A4サイズの紙の全域において全体的に均一であり、かつ、マイクロワイヤの配向は、図6において概略的に説明されたものと同様にランダムまたは準ランダムであった、すなわち、配向の角度(シータ)は、平均して45度から90度まで変化した。45-65m/分の製紙機械速度の下では、配向の角度は主に55度から75度まで異なった。また、コーティングガラスは、製紙工程後に割れず、このことは、より薄いガラスコーティングが、割れたガラス粉末に起因する悪影響を防止するのに効果的であることを示す。
【0066】
検知試験
本発明者らは、二種の商業用のEAS電磁ゲートを用いて、検知試験を実施した。一つは、Tagit EM(電磁)システムであり、その検知機構は、本願の譲受人に譲渡されかつ参照により本明細書に組み込まれるUS 6,836,216に開示される。(あらゆる他の適切な検知システムと同様に)ゲートシステムの構成および作動は、本発明の一部を構成せず、したがって、詳細に説明される必要がない。手短に言えば、Tagit EMシステムは、問い合わせゾーンにおいて、直交、平面および正面方向のような直交方向に振動磁界が生成されるように作動する。軟質磁性材料(本発明において用いられる)が問い合わせゾーンを通過する時、それは検知システムの振動磁界と相互作用し、かつ、検知システムの受信コイルに大バルクハウゼン信号を送信する。
【0067】
図8は、送信コイル(振動磁界)における電流波形に関連する受信信号波形を示す。図中、上のグラフGは、振動磁界(あらゆる従来の波形であってもよいが、簡潔さのため正弦波として示される)に対応し、かつ、下のグラフGは、マイクロワイヤの応答信号に対応する。軟質磁性材料(マイクロワイヤ)に適用される(ゲートシステムの)振動磁界は、閾値を超え、かつ、軟質磁性材料は、磁化反転の結果としてパルス信号PSを送信する。
【0068】
検知試験に用いられたもう一つのゲートシステムは、Meto EMシステムであり、その検知機構は、US 5,414,410に開示される。概して、そのようなゲートシステムでは、送信アンテナは、二つまたは三つの異なった周波数の磁界を生成し、かつ、軟質磁性マーカーの非線形応答は、信号処理ユニットにより検知されるこれらの周波数の相互変調積(intermodulation products)をもたらす。磁性マーカーは、相対的に小さいマーカー(幅0.7mmおよび典型的な長さ35mm)である。Koreitの試験紙は、この種のマーカーを持ち、したがって、それはMetoシステムにより容易に検知される。
【0069】
検知試験では、75cmという同じゲートパネル間の距離(Tagit EMシステムにおいて用いられるような)が、両方の検知システムについて用いられた。
【0070】
試験で用いられた紙のサンプルは、上記に列記された45種の紙である(表1)。これらの紙のサンプルは、パルプ層内に埋め込まれたマイクロワイヤの平均数を変更することにより製造される。選ばれる数は、2000、1300、1100、850および700である。対応するマイクロワイヤの密度は、1平方センチメートルあたりの単位で、それぞれ3.2、2.1、1.8、1.4、1.1である。軟質磁性コアの直径は、7.5μmから15μmまでで異なり、かつ、マイクロワイヤの長さは、5mmから10mmまでで異なった。ガラス被覆の厚さは、0.5μmから2μmまでであった。磁気保磁力は、5から15A/mまでであった。
【0071】
参考のために、試験には市販のKoreit紙が用いられた。Koreit紙は、層の間に配置されたアモルファス軟質磁性金属の2または3のアモルファス軟質磁性片を有する二層の構造を持ち、Meto EMシステムにより容易に検知され得る。スリップの幅は0.7mmであり、長さは35mmであり、かつ、磁気保磁力は、5から30A/mまでである。
【0072】
試験は、ゲート内で特定のセルを通って特定の配向で移動する紙について、Tagit 2-アンテナEMシステムおよびMeto 2-アンテナEMシステムにおけるゲートの検知能力を確認することを目的とする。実用的な使用を考慮すると、移動速度は、およそ個人の歩行速度である。
【0073】
図9は、(ゲートパネルGPおよびGPの間のゲート内の空間が、1_1から3_3まで9つのセルのマトリックスに分割されていることを示す。通路の幅は、75cmである。図10は、ゲートを通過する紙の配向の分類を示す。直交座標系が導入される。A4サイズの紙について、6種の配向が定められる。他の2種の配向は、1/8に折り畳まれた紙について定められる。ORT(直交)、FRONT(正面)、FLAT(平面)の軸が定められる。紙の配向は、紙の長辺SがORTに平行であり、かつ、短辺SがFLATに平行である時、ORT-FLATとして示される。したがって、ORT-FLAT、FLAT-ORT、ORT-FRONT、FRONT-ORT、FLAT-FRONTおよびFRONT-FLATのように六つの配向がある。
【0074】
試験前、最も頻繁に用いられる位置である実用的な位置が、図11に示されるように定められる。図11では、左側(位置(A))は、後/前のベルトの位置に対応する。写真は、使用者が彼の胸の位置で紙を保持する状況を示す。関連するセルは、2_1、2_2および2_3である。関連する紙の配向は、ORT-FLATおよびFLAT-ORTである。中央部分(位置(B))は、バッグの位置に対応する。写真は、バッグに入れられた時の典型的な紙の配向の状況を示す。関連するセルは、1_1、2_1、3_3、1_3、2_3および3_3である。関連する配向は、FLAT-FRONTおよびFRONT-ORTである。右側(位置(C))は、ポケットの位置に対応する。上側のスケッチは、シャツのポケットに3回折り畳まれた紙を入れる状況を示す。下側のスケッチ(位置(D))は、パンツのポケットに3回折り畳まれた紙を入れる状況を示す。関連するセルは、1_1、1_2、1_3、2_1、2_2および2_3である。関連する配向は、1/8ORT-FLATおよび1/8FLAT-ORTである。
【0075】
図12は、上記の実用的な位置についての検知試験の結果を示す。試験された紙は、Tagit 2000、Tagit 1300、Tagit 1100、Tagit 850、Tagit 700およびKoreitである。用いられたゲートは、Tagit 2-アンテナEMシステムおよびMeto 2-アンテナEMシステムである。それぞれの実用的な位置について、10の試みが実行され、30の実用的な位置があり、したがって、計300の試みが各試験紙について実行された。各配向についての試みは、各セルにつき十回繰り返される。図中、試験されなかった非実用的な位置は、灰色により印がつけられている。
【0076】
図13は、6種の試験紙についての検知能力(検知性)の比較を示す。試験紙は、サンプル6-10およびKoreit紙である。マイクロワイヤ内の金属コアの直径は15μmであり、かつ、マイクロワイヤの長さは7.5mmである。二つのバーBおよびBがそれぞれの試験紙について示される。左側のバーBはMetoシステムについての結果を示し、かつ、右側のバーBはTagitシステムについての結果を示す。
【0077】
見られ得るように、上記のように構成された本発明のセキュリティペーパー(Tagit紙)の検知性は、マイクロワイヤの密度の増大とともに増大する。Tagit 1100(そのマイクロワイヤの密度が1平方センチメートルあたり約1.8である)は、先行技術(Koreit紙)より性能が良い。他方、Tagit 700およびTagit 850の紙のサンプルは、検知において劣る。類似の性質が、異なる金属コアの直径(10μm、5μm)および異なるマイクロワイヤの長さ(10mm、7.5mm)を有するマイクロワイヤのセットを含む他の紙のサンプルについて観察された。
【0078】
図14は、異なる金属コアの直径(D)(15μm、10μmおよび5μm)および異なるマイクロワイヤの長さ(L)(10mm、7.5mmおよび5mm)ならびに異なるマイクロワイヤの密度(3.2、2.1、1.8、1.4および1.1)を有する上記に列記された45の紙のサンプルについて検知性を比較する。横軸は、上記の表1におけるサンプル番号を示す。縦軸は、好結果の検知の総数を示し、これは、検知性に対応する(それと等しい)。正方形のプロットBはTagitシステムについての結果を示し、かつ、菱形のプロットBはMetoシステムについての結果を示す。9つのセットS-Sが示され、それぞれ5つのサンプルについて5つのプロットがあり、ここで、セットS-Sは、直径D=1515μmかつそれぞれ10mm、7.5mmおよび5mmの長さを持つマイクロワイヤに対応し;セットS-Sは、直径D=10μmかつそれぞれ10mm、7.5mmおよび5mmの長さを持つマイクロワイヤに対応し;かつ、セットS-Sは、直径D=7.5μmかつそれぞれ10mm、7.5mmおよび5mmの長さを持つマイクロワイヤに対応する。これらのグラフは、マイクロワイヤの寸法(D,L)=(15,10)、すなわちセットSについて、検知性がマイクロワイヤの密度の減少とともに減少することを示す。マイクロワイヤ(D,L)=(15,7.5)、すなわちセットSについて、類似の性質が観察された。このセットから、ワイヤの長さの減少とともに検知性が減少する。マイクロワイヤ(D,L)=(15,5.0)(そのプロットが第三の5つのプロットセットSで示される)について、類似の性質が観察された。5つのプロットの第四のセットSは、マイクロワイヤ(D,L)=(10,10)に対応し、これは、検知性がコア金属の直径の減少とともに減少することを示す。検知性における直径Dの減少の効果は、下向きの折れ線を平行移動させる。例えばL=15mmでは、直径Dが15μmから10μmまで減少する時、5つのプロットの第一のセットからの折れ線は、一定に維持されたスロープを有する5つのプロットの第四のセットからの折れ線に移動する。
【0079】
結果を要約すると、検知性は、マイクロワイヤの直径および長さD、Lならびにマイクロワイヤの密度の減少とともに減少する。例えば、図14に示されるように、200を超える検知性を達成するためには、直径D=15μmのマイクロワイヤの場合、マイクロワイヤの長さは5mmまで減少し得、このことは、より軽い質量(上述の通り)によりマイクロワイヤの分布をより均一にし;直径D=10μmのマイクロワイヤの場合、マイクロワイヤの長さは7.5mmまで減少し得;かつ、直径D=5μmのマイクロワイヤの場合、マイクロワイヤの長さは10mmまで減少し得る。したがって、同じ必要とされる検知性を獲得するために、本発明は、マイクロワイヤの直径、長さおよび密度における選択の自由、ならびに、分布における均一性および整列/配向における準ランダム性を提供する(より細くかつより軽いマイクロワイヤの結果として)。このことは、特定の寸法のマイクロワイヤの分布(より高い密度、よりよい均一性、準ランダムな配向)の最適化を提供し、それにより、より高いマイクロワイヤの検知性を獲得する。
【0080】
印刷試験
印刷試験は、表1に列記された試験紙のサンプルとKoreit紙について実施された。用いられた印刷機は、電子写真印刷機とインクジェット印刷機であった。印刷は、両面になされた。Tagit紙は、Koreit紙とほぼ同じ印刷品質を示した。コーティング層の設計の最適化後、湾曲は観察されなかった。
【0081】
上記の結果から、公知の技術と比較してより良い検知を達成するためには、マイクロワイヤの密度は、好ましくは1平方センチメートルあたり1.6より大きいべきであることが明らかである。さらに、本発明の技術は、先に説明された従来の製紙工程により製造され得る単層のパルプ構造を有する高品質の記録媒体を提供することが示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14