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特許7219005Fc領域含有ポリペプチドの精製を効率化するための方法
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  • 特許-Fc領域含有ポリペプチドの精製を効率化するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】Fc領域含有ポリペプチドの精製を効率化するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20230131BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230131BHJP
   C07K 17/02 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K16/00 ZNA
C07K17/02
C12N15/85 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017559189
(86)(22)【出願日】2016-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2016088820
(87)【国際公開番号】W WO2017115773
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-09-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2015255726
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】田中 信幸
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 瑠美子
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】福井 悟
【審判官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-510764(JP,A)
【文献】特表2012-531439(JP,A)
【文献】国際公開第2011/078332(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/063339(WO,A1)
【文献】JSR TECHNICAL REVIEW,2012年,NO.119,p.1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K16/00-16/46
C07K1/22
C12N15/00-15/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域を含有する第一及び第二のポリペプチドのヘテロ体の、プロテインAレジンに対する動的結合容量を増加させる方法であって、
第一のポリペプチド及び第二のポリペプチドを用意する工程であって、
前記Fc領域はIgGタイプのFc領域であり、
前記第一のポリペプチドのFc領域はEUナンバリング435番目のアミノ酸Hisであり、第二のポリペプチドのFc領域はEUナンバリング435番目アミノ酸がArgであり、
前記第一のポリペプチド及び前記第二のポリペプチドの前記プロテインAレジンへの結合力が互いに異なるものである前記工程、及び、
前記第一のポリペプチド及び前記第二のポリペプチドからなるヘテロ体の前記プロテインAレジンに対する動的結合容量を、前記第一のポリペプチドのホモ体の前記プロテインAレジンに対する動的結合容量、前記第二のポリペプチドのホモ体の前記プロテインAレジンに対する動的結合容量と比較する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記Fc領域を含有する第一のポリペプチドはIgG1、IgG2又はIgG4のCH3を含み、前記Fc領域を含有する第二のポリペプチドはIgG3のCH3を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
負荷溶液のpH6.5-8.0、5%BT、接触時間3.4分の条件下において、前記結合容量の増加が5 g/Lレジン以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
負荷溶液のpH6.5-8.0、5%BT、接触時間3.4分の条件下において、前記増加後の動的結合容量が45 g/Lレジン以上である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量を増加させる方法及びその方法を用いた精製方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬品の製造において、プロテインAカラム、イオン交換カラムなどを用いた精製工程は、抗体の製造効率(収率)を大きく左右することから、その効率化が望まれている。効率化を図るための手段として、(1)樹脂単位体積当たりの結合容量を上げる、(2)高流速処理により、精製に要する時間を短縮する、の2通りの方法がある。
【0003】
近年、プロテインAレジンの改良が進み、プロテインAレジンにはより多くの抗体が結合できるようになり、それに伴い抗体精製の効率化が図られてきた。例えば、代表的な第一世代プロテインAレジンであるGEヘルスケア社製rProtein A sepharose Fast Flowでは、通常抗体の結合容量は15-20 g/L resinであるのに対し、同社製第二世代プロテインAレジンであり、現在世界的にもっとも使用されているMab Select SuReでは、一般的に約30 g/L resinの結合容量が認められている。加えて、前者に対して後者は1.5-2倍程度高い線流速に対応可能であり、より効率的な抗体分子のプロテインA精製が可能となっている。
【0004】
二重特異性抗体は異なる二種類の抗原を認識する性質上、二種類のH鎖を有している。そのため、二重特異性抗体を含む培養上清には、二種類のH鎖を含む二重特異性抗体のみならず、一種類のH鎖のみを有する抗体も含まれている。これらと二重特異性抗体を分離するべく、プロテインAレジンへの結合力を変化させたFc領域変異体が用いられている(特許文献1、特許文献2)。このような分子改変の影響により、二重特異性抗体のプロテインA精製が非効率になることが懸念された。
【0005】
以上のような状況下、プロテインAレジンカラムを用いた二重特異性抗体精製をより効率的に行うための新たな方策が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US20100331527
【文献】US20130018174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、Fc領域含有ポリペプチド、特に二重特異性抗体をプロテインAレジンカラムを用いてより効率的に精製するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、本発明者らは、Fc領域を、該Fc領域の第一のポリペプチド鎖と該Fc領域の第二のポリペプチド鎖のプロテインAレジンへの結合力が互いに異なる、Fc領域とすることで、抗体の動的結合容量が高まり、抗体の精製効率が増加することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
〔1〕プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量を増加させる方法。
〔2〕前記Fc領域の第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチドとして前記レジンへの結合力が互いに異なる第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖を用意する工程を含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記Fc領域の第一のポリペプチド鎖として前記レジンに結合する第一のポリペプチド鎖を用意し、前記Fc領域の第二のポリペプチド鎖として前記レジンに結合しないか若しくは(前記第一のポリペプチド鎖に比べ前記レジンへの)結合が弱い第二のポリペプチド鎖を用意する工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記Fc領域含有ポリペプチドのFc領域を、該Fc領域の第一のポリペプチド鎖は前記レジンに結合するが、該Fc領域の第二のポリペプチド鎖は前記レジンに結合しないか若しくは(前記第一のポリペプチド鎖に比べ前記レジンへの)結合が弱い、Fc領域となるよう改変する工程を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕前記Fc領域の第一のポリペプチド鎖はIgG1、IgG2又はIgG4のCH3を含み、前記Fc領域の第二のポリペプチド鎖はIgG3のCH3を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕前記Fc領域の第一のポリペプチド鎖のEUナンバリング435番目のアミノ酸はHisであり、第二のポリペプチド鎖のEUナンバリング435番目アミノ酸はArgである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕前記結合容量の増加が5 g/Lレジン以上である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕前記増加後の動的結合容量が45 g/Lレジン以上である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕前記Fc領域含有ポリペプチドが抗体である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕前記抗体が二重特異性抗体である、〔9〕に記載の方法。
〔11〕〔1〕~〔10〕に記載の方法を用いたFc領域含有ポリペプチドの精製方法。
〔12〕〔11〕に記載の方法で精製されたFc領域含有ポリペプチド。
〔13〕プロテインAカラムクロマトグラフィーにおけるFc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量が45 g/Lレジン以上である、Fc領域含有ポリペプチドが結合したプロテインAレジン。
〔14〕プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、プロテインAレジンに対する動的結合容量が増加したFc領域含有ポリペプチド。
〔15〕以下の工程を含む、プロテインAレジンを用いてFc領域含有ポリペプチドを製造する方法:
(a)該レジンへの結合力が互いに異なるFc領域の第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖とを用意する工程、
(b)プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、工程(a)の該Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量を、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、該レジンへの結合力が実質的に同じである2本のポリペプチド鎖を含む Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量と比較する工程、
(c)Fc領域の第一のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドおよびFc領域の第二のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドを含む試料を該レジンに接触させる工程;ならびに
(d)該レジンに結合した、Fc領域の第一のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドおよびFc領域の第二のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドのヘテロ体を含有するFc領域含有ポリペプチドを回収する工程。
〔16〕前記工程(a)が、前記Fc領域の第一のポリペプチド鎖として前記レジンに結合する第一のポリペプチド鎖を用意し、前記Fc領域の第二のポリペプチド鎖として前記レジンに結合しないか若しくは(前記第一のポリペプチド鎖に比べ前記レジンへの)結合が弱い第二のポリペプチド鎖を用意する工程である、〔15〕に記載の方法
〔17〕前記工程(a)が、精製対象である前記Fc領域含有ポリペプチドのFc領域を、該Fc領域の第一のポリペプチド鎖は前記レジンに結合するが、該Fc領域の第二のポリペプチド鎖は前記レジンに結合しないか若しくは(前記第一のポリペプチド鎖に比べ前記レジンへの)結合が弱い、Fc領域となるよう改変する工程である、〔15〕または〔16〕に記載の方法。
〔18〕前記工程(c)に記載の試料が、前記Fc領域の第一のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドおよび前記Fc領域の第二のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドの両方に結合能を与え得る共通のL鎖ポリペプチドを含む、〔15〕~〔17〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕前記Fc領域含有ポリペプチドが抗体である、〔11〕に記載の精製方法。
〔20〕前記抗体が二重特異性抗体である、〔19〕に記載の精製方法。
〔21〕〔19〕に記載の方法で精製された抗体。
〔22〕〔20〕に記載の方法で精製された二重特異性抗体。
〔23〕〔13〕に記載のレジンを含むカラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、Fc領域含有ポリペプチド、特に二重特異性抗体をプロテインAレジンを用いてより効率的に精製するための方法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】BiAb溶液をプロテインAレジンカラムに継続負荷した際にカラムから漏出したタンパク質を検出したブレークスルーカーブクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用されるFc領域含有ポリペプチドは抗体のFc領域を含んでいればよく、Fc領域と他のポリペプチドが融合したポリペプチド、例えば抗体などが含まれる。
【0013】
本発明におけるポリペプチドとは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。
【0014】
「Fc領域」は、通常、抗体分子中の、ヒンジ部若しくはその一部、CH2ドメイン、CH3ドメインからなるポリペプチド鎖を二本含む領域のことをいうが、特にこれに限定されず、ヒンジ部若しくはその一部が含まれない場合もある。ヒトIgGクラスのFc領域は、KabatのEU ナンバリングで、例えば226番目のシステインからC末端、あるいは230番目のプロリンからC末端までを意味するが、これに限定されない。またヒトCH2ドメインはKabatのEU ナンバリングで231番目から340番目を意味し、ヒトCH3ドメインはKabatのEU ナンバリングで341番目から447番目を意味するが、これに限定されない。
Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、Fc領域含有モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、プロテインAレジンに吸着された画分を再溶出することによって好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にFabやF(ab')2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやパパイン等が例示できる。
Fc領域としてはヒトIgGタイプのFcを挙げることができ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4のアイソタイプのいずれであってもよい。
本発明のFc領域は、第一の前記ポリペプチド鎖及び第二の前記ポリペプチド鎖を含む。
【0015】
本発明の一つの実施形態は、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量を増加させる方法である。Fc領域に含まれる第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖はプロテインAレジンへの結合力が互いに異なっていることが好ましく、例えば、第一のポリペプチド鎖としてプロテインAレジンに結合するポリペプチド鎖を用いる場合、第二のポリペプチド鎖としては第一のポリペプチド鎖に比べ、プロテインAレジンに弱く結合するか、若しくは結合しないポリペプチド鎖を用いることが出来る。そのような第一のポリペプチド鎖としてはIgG1、IgG2又はIgG4のCH3を含むポリペプチド鎖を用いることができ、第二のポリペプチド鎖としてはIgG3のCH3を含むポリペプチド鎖を用いることができる。この際、IgG1、IG2、IgG3及びIgG4は天然型でもよく、本発明の目的を達成できる範囲で変異を含んでいてもよい。また、そのような第一のポリペプチド鎖としてはEUナンバリング435位がHis(H)であるポリペプチド鎖を用いることができ、第二のポリペプチド鎖としてはEUナンバリング435位がArg(R)であるポリペプチド鎖を用いることができる。また、そのような第一のポリペプチド鎖としてはEUナンバリング435位がHis(H)、436位がTyr(Y)であるポリペプチド鎖を用いることができ、第二のポリペプチド鎖としてはEUナンバリング435位がArg(R)、436位がPhe(F)であるポリペプチド鎖を用いることができる。尚、EUナンバリング435位又は436位以外のポジションは天然型IgGと同じであってもよく、また天然型IgGとは異なっていてもよい。
本実施形態において、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドの前記レジンに対する動的結合容量の増加は、前記レジンに結合するFc領域含有ポリペプチドのFc領域を、該Fc領域の第一のポリペプチド鎖と該Fc領域の第二のポリペプチド鎖の前記レジンへの結合力が互いに異なる、Fc領域となるように改変することによっても達成することができる。
本発明の別の実施形態において、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドの前記レジンに対する動的結合容量の増加は、前記レジンに結合するFc領域含有ポリペプチドのFc領域を、該Fc領域の第一のポリペプチド鎖は前記レジンに結合するが、該Fc領域の第二のポリペプチド鎖は前記レジンに結合しないか若しくは前記第一のポリペプチド鎖に比べ結合が弱い、Fc領域となるように改変することによっても達成することができる。
当該改変としては、Fc領域の第一および第二のポリペプチド鎖が上に例示したようなCH3領域を含むように、例えば上に例示したような特定の位置における特定のアミノ酸残基を含むようにする改変が挙げられるが、それらに限定されない。
【0016】
一方、本発明で使用されるFc領域含有ポリペプチドにおけるFc領域以外の領域は、ホモ体であってもよいし、ヘテロ体であってもよい。
ホモ体としては、一又は二以上の単一又は同じ抗原結合活性を有するホモ体である(すなわち、当該Fc領域含有ポリペプチドが抗原結合分子である場合、一又は二以上の単一又は同じ抗原結合活性を有する抗原結合分子、例えば同一の二つの抗原結合部位を有するIgG型抗体である)。
ヘテロ体としては、好ましくは、異なる抗原結合活性を有するヘテロ体である(すなわち、当該Fc領域含有ポリペプチドが二重特異性抗原結合分子、例えば二重特異性抗体である)。本発明で使用されるFc領域含有ポリペプチドが二重特異性抗体である場合、H鎖はヘテロ体であるがL鎖は共通であってもよく、当該共通L鎖は好ましくは両H鎖に結合能を与え得る共通L鎖である。尚、二重特異性抗体はIgG型の場合、ヘテロなH鎖二本と同一の共通L鎖二本から構成される。
【0017】
結合容量には、静的結合容量(Static Binding Capacity、SBC)と動的結合容量(Dynamic Binding Capacity、DBC)がある。静的結合容量は、レジンがポリペプチドを吸着できる上限の量を表し、動的結合容量は、カラムにポリペプチドを含む溶液を流している状態で、ポリペプチドを回収できる程度を表す。動的結合容量が大きいレジンでは、高線流速においてもポリペプチドを効率よく吸着でき、短時間でポリペプチドを精製することができる。
【0018】
動的結合容量(DBC)は、例えば以下の方法で決定することができる。まずレジンを充填したカラムをクロマト装置に装填して、カラムにポリペプチドを含むサンプル溶液を所定の線流速で通液する。その後、溶出液の吸光度を測定し、添加したサンプル溶液の吸光度の所定の割合(例えば5%)のブレークスルー(BT)が測定された時点の添加ポリペプチドの質量を特定することで、DBCを決定することができる。
【0019】
DBCの計算には、例えば以下の装置等を用いることができる。
・LC装置;GEヘルスケア社製AKTA AVANT25
・ソフトウェア;GEヘルスケア社製Unicorn version6.1
・Protein A樹脂;GEヘルスケア社製Mab Select SuRe (Cat No.17-5438-05
)またはHitrap Mab Select SuRe (Cat No. 11-0034-93)
・使用緩衝液;
平衡化/前洗浄...20 mmol/L Na-phosphate, pH 7.5
溶出...50 mmol/L Acetic acid
再生...0.1 mol/L NaOH
【0020】
DBCの計算方法は以下の通りに行うことができる。
上記使用機器、ソフトウェア、及び樹脂を用いて、以下の手順でクロマトグラフィー操作によりDBCを算出する。以下に5%BTを指標とする場合の計算方法を示す。
(1) 負荷画分(IgG濃度P g/Lとする)をいったんカラムを通さずにLC装置に流し、100%漏出(=100%BT)時のOD280 nmの値を確認した。この値をaとする。
(2) aに0.05を掛けた値を、5%BT時のOD280 nm定義する。この値をb5%とする。
(3) 負荷画分を平衡化された一定量の樹脂(r Lとする)に流し続け、OD280 nmの値がb5%となった時の負荷画分の容量をクロマトグラムから読み取る。この値をc5% Lとする。
(4) 計算式(P x c5%)/rで得られる値を、5%BT時の動的結合容量、DBC5%として算出する。
DBC5% = (P x c5%)/r (単位;g/L resin)
DBC10%を求める際は、同じ要領でc10%を求め、算出することができる。
【0021】
本発明の一つの実施形態において、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量の増加分は、5%BTを基準に見ると、少なくとも5 g/Lレジンであり、好ましくは10 g/Lレジン以上、15 g/Lレジン以上、20 g/Lレジン以上、25 g/Lレジン以上である。
本発明の特定の実施形態において、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量の増加分は、5%BTを基準にみると接触時間3.4分において、少なくとも5 g/Lレジンであり、好ましくは10 g/Lレジン以上、15 g/Lレジン以上、20 g/Lレジン以上、25 g/Lレジン以上である。
【0022】
本発明の一つの実施形態において、本発明の方法によれば、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量は少なくとも、5%BTを基準に見ると、45 g/Lレジン以上であり、好ましくは50 g/Lレジン以上、55 g/Lレジン以上、60 g/Lレジン以上である。
本発明の特定の実施形態において、本発明の方法によれば、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量は少なくとも、5%BTを基準に見ると、接触時間3.4分において、50 g/Lレジン以上であり、好ましくは51 g/Lレジン以上、52 g/Lレジン以上、53 g/Lレジン以上、54 g/Lレジン以上、55 g/Lレジン以上である。
【0023】
本発明の一つの実施形態において、Fc領域含有ポリペプチドは、Fc領域と、他のタンパク質、生理活性ペプチドなどとが結合したものであってよい。他のタンパク質、生理活性ペプチドとしては、例えば受容体、接着分子、リガンド(サイトカイン、ケモカインなど)、酵素が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、血液凝固因子であってもよく、例えばFIX、FIXa、FXなどが挙げられる。
本発明の一つの実施形態において、Fc領域含有ポリペプチドはイムノアドヘシンであってもよい。
【0024】
本発明の別の一つの実施形態において、Fc領域含有ポリペプチドは、抗体であってもよい。本発明における抗体は、所望の抗原と結合する限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよく、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。
本発明で使用されるモノクローナル抗体としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、サル等の動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体(再構成(reshaped)ヒト抗体ともいう)、二重特異性抗体(bispecific抗体)など人為的に改変した遺伝子組み換え型抗体も含まれる。さらに、血中滞留性や体内動態の改善を目的とした抗体分子の物性の改変(具体的には、等電点(pI)改変、Fc受容体の親和性改変等)を行うために抗体の定常領域等を人為的に改変した遺伝子組み換え型抗体も含まれる。
【0025】
また、本発明で使用される抗体の免疫グロブリンクラスは特に限定されるものではなく、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのIgG、IgA、IgD、IgE、IgMなどいずれのクラスでもよいが、IgGが好ましい。
【0026】
さらに本発明で使用される抗体には、wholeの抗体だけでなく、Fv、Fab、F(ab)2などの抗体断片や、抗体の可変領域をペプチドリンカー等のリンカーで結合させた1価または2価以上の一本鎖Fv(scFv、sc(Fv)2やscFvダイマーなどのDiabody等)などの低分子化抗体なども含まれる
【0027】
上述した本発明で使用される抗体は、当業者に周知の方法により作製することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。
アミノ酸残基の改変は、後述のようにポリペプチドをコードするDNAにおいて1又は複数の塩基を改変し、当該DNAを宿主細胞で発現させることによって行うことが出来る。当業者であれば、改変後のアミノ酸残基の種類に応じて、改変すべき塩基の数や位置、種類を容易に決定することが出来る。
本発明において改変とは、置換、欠損、付加、挿入のいずれか、又はそれらの組み合わせを意味する。
【0028】
また本発明で使用される抗体は、上述のアミノ酸配列の改変に加え、更に付加的な改変を含むことができる。付加的な改変は、たとえば、アミノ酸の置換、欠損、及び修飾のいずれか、あるいはそれらの組み合わせから選択することができる。具体的には、そのアミノ酸配列に次のような改変を含むポリペプチドは、いずれも本発明に含まれる。
・二重特異性抗体の2種類のH鎖のヘテロ会合率を高めるためのアミノ酸の改変
・第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチド間のジスルフィド結合を安定化させるためのアミノ酸改変
・抗体の血漿中滞留性を改善するためのアミノ酸改変
・酸性条件下における安定性向上のための改変
・ヘテロジェニティー低減のための改変
・脱アミド化反応抑制のための改変
・2種類のポリペプチド間に等電点の差異を導入するための改変
・Fcγレセプターへの結合性を変化させるための改変
【0029】
ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することにより、ヒト抗体を取得することができる。本発明で使用される抗体には、このようなヒト抗体も含まれる。
抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができ、動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO, COS,ミエローマ、BHK (baby hamster kidney),HeLa,Veroなどを用いることができる。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
【0030】
本発明で使用される抗体の抗原としては特に限定されず、どのような抗原でもよい。抗原の例としては、例えば、リガンド(サイトカイン、ケモカインなど)、受容体、癌抗原、MHC抗原、分化抗原、免疫グロブリンおよび免疫グロブリンを一部に含む免疫複合体が好適に挙げられる。例えば、血液凝固因子であってもよく、例えばFIX、FIXa、FXなどが挙げられる。
【0031】
発現産物の回収は、ポリペプチドが培地に分泌される場合は、培地を回収する。ポリペプチドが細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する。
組換え細胞培養物からポリペプチドを回収し精製するには、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。本発明においてはプロテインAアフィニティクロマトグラフィーが好ましい。尚、本明細書において、カラムを用いた精製方法、カラムを用いた分離方法及びクロマトグラフィーは同義に用いられる場合がある。
プロテインAレジンを用いたカラムとしては、POROS A(Applied Biosystems製), rProtein A Sepharose F. F. (GE製)、ProSep vA(Millipore製)等が挙げられるがこれらに限定されない。また、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーには、インタクトなプロテイン Aからアミノ酸配列等を改変したリガンドを結合させたレジン(樹脂)を用いることもできる。このような改変プロテイン A樹脂を用いた場合も、本発明のアミノ酸改変により、その結合力に差が生じ、目的のポリペプチド多量体を分離・精製することが可能である。改変プロテイン Aを結合させたレジンとしては、例えば、mabSelect SuRE(GE Healthcare製) Hitrap MabSelect Sure(GE Healthcare製)が挙げられるがこれに限定されない。尚、本明細書において、プロテインAレジンが充填されたカラム、プロテインAレジンを用いたカラム、プロテインAレジンカラム及びプロテインAカラムは同義である。また、プロテインAレジンを用いた精製方法、プロテインAカラムを用いた精製方法も同義に用いられる場合がある。
【0032】
本発明における一つの実施形態は、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量を増加させる方法を用いたFc領域含有ポリペプチドの精製方法である。より具体的には一つの実施形態は抗体の精製方法であり、また別の一つの実施形態は二重特異性抗体の精製方法である。
【0033】
本発明における別の一つの実施形態は、前記精製方法で精製されたFc領域含有ポリペプチドである。より具体的には一つの実施形態は前記精製方法で精製された抗体であり、また別の一つの実施形態は前記精製方法で精製された二重特異性抗体である。
【0034】
さらに、本発明における別の一つの実施形態は、5%BTを基準に見ると、45g/Lレジン以上である、Fc領域含有ポリペプチドが結合したプロテインAレジン及び当該レジンを含むカラムである。Fc領域含有ポリペプチドの当該レジンおよびそれを含むカラムに対する動的結合容量は、5%BTを基準に見ると、好ましくは、50 g/L以上、55 g/L以上、60 g/L以上、65 g/L以上である。
また、本発明の特定の実施形態は、5%BTを基準に見ると接触時間3.4分において、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおけるFc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量が50 g/Lレジン以上である、Fc領域含有ポリペプチドが結合したプロテインAレジン及び当該レジンを含むカラムである。Fc領域含有ポリペプチドの当該レジンおよびそれを含むカラムに対する動的結合容量は5%BTを基準に見ると、接触時間3.4分において、好ましくは51 g/Lレジン以上、52 g/Lレジン以上、53 g/Lレジン以上、54 g/Lレジン以上、55 g/Lレジン以上である。
【0035】
本発明における一つの実施形態は、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、プロテインAレジンに対する動的結合容量が増加したFc領域含有ポリペプチドである。
より具体的には一つの実施形態においてFc領域含有ポリペプチドは抗体であり、また別の一つの実施形態においてFc領域含有ポリペプチドは二重特異性抗体である。
本発明における一つの実施形態において、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量の増加分は、5%BTを基準に見ると、少なくとも5 g/Lレジンであり、好ましくは10 g/Lレジン以上、15 g/Lレジン以上、20 g/Lレジン以上、25 g/Lレジン以上である。
本発明の特定の実施形態において、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量の増加分は、5%BTを基準にみると接触時間3.4分において、少なくとも5 g/Lレジンであり、好ましくは10 g/Lレジン以上、15 g/Lレジン以上、20 g/Lレジン以上、25 g/Lレジン以上である。
プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、プロテインAレジンに対する動的結合容量が増加したFc領域含有ポリペプチドは、当該Fc領域に含まれる第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖はプロテインAレジンへの結合力が異なっていることが好ましく、例えば、第一のポリペプチド鎖としてプロテインAレジンに結合するポリペプチド鎖を用いる場合、第二のポリペプチド鎖としては第一のポリペプチド鎖に比べ、プロテインAレジンに弱く結合するか、若しくは結合しないポリペプチド鎖を用いることが出来る。そのような第一のポリペプチド鎖としてはIgG1、IgG2又はIgG4のCH3を含むポリペプチド鎖を用いることができ、第二のポリペプチド鎖としてはIgG3のCH3を含むポリペプチド鎖を用いることができる。この際、IgG1、IG2、IgG3及びIgG4は天然型でもよく、本発明の目的を達成できる範囲で変異を含んでいてもよい。また、そのような第一のポリペプチド鎖としてはEUナンバリング435位がHis(H)であるポリペプチド鎖を用いることができ、第二のポリペプチド鎖としてはEUナンバリング435位がArg(R)であるポリペプチド鎖を用いることができる。また、そのような第一のポリペプチド鎖としてはEUナンバリング435位がHis(H)、436位がTyr(Y)であるポリペプチド鎖を用いることができ、第二のポリペプチド鎖としてはEUナンバリング435位がArg(R)、436位がPhe(F)であるポリペプチド鎖を用いることができる。尚、EUナンバリング435位又は436位以外のポジションは天然型IgGと同じであってもよく、また天然型IgGとは異なっていてもよい。
【0036】
本発明における一つの実施形態は、以下の工程を含む、プロテインAレジンを用いてFc領域含有ポリペプチドを製造する方法である:
(a)該レジンへの結合力が互いに異なるFc領域の第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖とを用意する工程;
(b)プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、工程(a)のFc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量を、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、該レジンへの結合力が実質的に同じである2本のポリペプチド鎖を含む Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量と比較する工程、
(c)Fc領域の第一のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドおよびFc領域の第二のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドを含む試料を該レジンに接触させる工程;ならびに
(d)該レジンに結合した、Fc領域の第一のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドおよびFc領域の第二のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドのヘテロ体を含有するFc領域含有ポリペプチドを回収する工程。
上記工程(a)は、前記Fc領域の第一のポリペプチド鎖として前記レジンに結合する第一のポリペプチド鎖を用意し、前記Fc領域の第二のポリペプチド鎖として前記レジンに結合しないか若しくは(前記第一のポリペプチド鎖に比べ前記レジンへの)結合が弱い第二のポリペプチド鎖を用意する工程であってよい。また上記工程(a)は精製対象である前記Fc領域含有ポリペプチドのFc領域を、該Fc領域の第一のポリペプチド鎖は前記レジンに結合するが、該Fc領域の第二のポリペプチド鎖は前記レジンに結合しないか若しくは(前記第一のポリペプチド鎖に比べ前記レジンへの)結合が弱い、Fc領域となるよう改変する工程であってもよい。当該改変は、上記のような特徴を有するFc領域を得るための改変であれば特に限定されないが、例えば、第一のポリペプチド鎖がIgG1、IgG2又はIgG4のCH3を含むポリペプチド鎖になるようにする改変、および、第二のポリペプチド鎖がIgG3のCH3を含むポリペプチド鎖になるようにする改変が挙げられる。そのような改変としては、例えば、第一のポリペプチド鎖のEUナンバリング435位がHis(H)であり、かつ第二のポリペプチド鎖のEUナンバリング435位がArg(R)であるようにする改変が挙げられる。また、別の改変として、第一のポリペプチド鎖のEUナンバリング435位がHis(H)、436位がTyr(Y)であり、かつ第二のポリペプチド鎖のEUナンバリング435位がArg(R)、436位がPhe(F)であるようにする改変が挙げられる。尚、EUナンバリング435位又は436位以外のポジションは天然型IgGと同じであってもよく、また天然型IgGとは異なっていてもよい。
前記工程(b)において、2本のポリペプチド鎖は該レジンへの結合力が実質的に同じであればいかなるポリペプチド鎖でもよく、2本のポリペプチド鎖同士の相同性の程度は高くても低くてもよい。例えば「該レジンへの結合力が実質的に同じである2本のポリペプチド鎖を含むFc領域含有ポリペプチド」は2本の前記第一のポリペプチド鎖を含む Fc領域含有ポリペプチド、又は二本の前記第二のポリペプチド鎖を含む Fc領域含有ポリペプチドである。また、プロテインAレジンへの結合力が互いに実質的に同じである2本のポリペプチド鎖とは、例えば、2本のポリペプチド鎖がいずれもIgG1、IgG2又はIgG4のCH3のいずれかを含むポリペプチド鎖、2本のポリペプチド鎖がいずれもIgG3のCH3を含むポリペプチド鎖、2本のポリペプチド鎖のEUナンバリング435位がいずれもHis(H)である、またはいずれもArg(R)であるポリペプチド鎖、2本のポリペプチド鎖のいずれもEUナンバリング435位がHis(H)、436位がTyr(Y)であるポリペプチド鎖、2本のポリペプチド鎖のいずれもEUナンバリング435位がArg(R)、436位がPhe(F)であるポリペプチド鎖を挙げることができる。
「実質的に同じ」とは、本発明の目的を達成する範囲内であれば、必ずしも全く同一である必要はなく、また「同じ」場合を含む意である。
本発明の一つの実施形態において、前記工程(b)において「比較する」とは、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、工程(a)のFc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量が、プロテインAカラムクロマトグラフィーにおける、該レジンへの結合力が実質的に同じである二本のポリペプチド鎖を含む Fc領域含有ポリペプチドのプロテインAレジンに対する動的結合容量よりも「高いことを確認する」工程であってもよい。
尚、動的結合容量を比較又は確認することで、抗体製造時にプロテインAレジンカラムに添加することができる最大抗体量を知ることができ、効率的な抗体製造が可能となる。
前記工程(c)に記載の試料は、前記Fc領域の第一のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドのH鎖および前記Fc領域の第二のポリペプチド鎖を含有するポリペプチドのH鎖の両方に結合能を与え得る共通のL鎖ポリペプチドを含んでもよいし、二つの異なるL鎖ポリペプチドを含んでもよい。
本発明の一つの実施形態において、前記Fc領域含有ポリペプチドを精製する方法において、Fc領域含有ポリペプチドは抗体であり、また別の一つの実施形態においてFc領域含有ポリペプチドは二重特異性抗体である。
尚、前記工程(a)~(d)は必ずしもこの順番である必要はなく、また各工程が複数回含まれていてもよい。
本発明の一つの実施形態は、前記(a)~(d)の工程を含む、プロテインAレジンを用いてFc領域含有ポリペプチドを精製する方法である。
【0037】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書に参照として取り込まれる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0038】
実施例1 抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
本実施例では、WO2012/067176に記載されたFVIII機能代替活性を有する抗FIXa/FX二重特異性抗体(H1鎖/H2鎖/L鎖:配列番号1/2/3)を用いた(以下、「BiAb」といい、いわゆるヘテロ体である)。なお、当該BiAbは3種類の4本の鎖からなり、二種類のH1鎖及びH2鎖をそれぞれ一本、一種類の共通L鎖二本からなる。当該抗体はWO2012/067176に記載された方法で取得した。抗体遺伝子を、動物細胞発現ベクターに組み込み、それをCHO細胞へトランスフェクションすることで、二重特異性抗体を発現させた。また、前記L鎖二本とH1鎖二本からなるQ homo、前記L鎖二本とH2鎖二本からなるJ homoを上記の方法で取得した。
本抗体はIgG4型であり、H1鎖のFc領域におけるEUナンバリング435番目のHisはArgに置換されている。尚、この置換はFc領域のプロテインAレジンへの結合力を減弱若しくは失わせる。
【0039】
実施例2 動的結合容量(DBC)の評価方法
一般にDBCの検証には、UV検出器を連結した精製装置を用いたUVモニタリングにより、継続負荷されたタンパク質がカラムから漏出する様子をブレークスルーカーブ(以下BTC)としてクロマトグラムに描くことにより行われる。一例として図1にBiAbを用いたときのBTCクロマトグラムを示した。
今回は、それぞれの抗体分子及びその混合液に対して、5%ブレークスルーポイント(BT point)の負荷量を比較することでDBCを評価した。

DBCの計算には以下の装置等を用いた。
・LC装置;GEヘルスケア社製AKTA AVANT25
・ソフトウェア;GEヘルスケア社製Unicorn version6.1
・Protein A樹脂;GEヘルスケア社製Mab Select SuRe (Cat No.17-5438-05
)またはHitrap Mab Select SuRe (Cat No.11-0034-93)
・使用緩衝液;
平衡化/前洗浄...20 mmol/L Na-phosphate, pH 7.5
溶出...50 mmol/L Acetic acid
再生...0.1 mol/L NaOH

DBCの計算方法は以下の通りに行った。
上記使用機器、ソフトウェア、及び樹脂を用いて、以下の手順でクロマトグラフィー操作によりDBCを算出した。
(1) 負荷画分(IgG濃度P g/Lとする)をいったんカラムを通さずにLC装置に流し、100%漏出(=100%BT)時のOD280 nmの値を確認した。この値をaとした。
(2) aに0.05を掛けた値を、5%BT時のOD280 nm定義した。この値をb5%とした。
(3) 負荷画分を平衡化された一定量の樹脂(r Lとする)に流し続け、OD280 nmの値がb5%となった時の負荷画分の容量をクロマトグラムから読み取った。この値をc5% Lとした。
(4) 計算式(P x c5%)/rで得られる値を、5%BT時の動的結合容量、DBC5%として算出した。
DBC5% = (P x c5%)/r (単位;g/L resin)
DBC10%を求める際は、同じ要領でc10%を求め、算出した。
【0040】
実施例3 各抗体分子単独のDBC
Q homo, J homo及びBiAbそれぞれ単独のDBCを以下の条件で検証した。
・Column:Hitrap MabSelect Sure(以下、MSSという)(GEヘルスケア)、
0.7 x 2.5 cm
・Load material:各抗体精製標準品を用いて、実際の負荷CMのIgG濃度、
pH、導電率を模したもの。
IgG濃度約2 g/L、pH7.5、Conductivity 1.2 S/m
J homo 約80%、Q homo約85%、BiAb約95%純度のもの
を使用
・Contact time:3.4min(43.75 cm/h)

その結果を表1に示した。
【0041】
【表1】
この結果は、BiAbのDBCが、両homoに対して有意に高いことを示すものであった。
【0042】
実施例4(BiAbのDBCに対するpH、接触時間の検証)
次に、BiAb単独で、負荷溶液のpH、及び樹脂に対する接触時間を変化させた時のDBCを確認し、両者のパラメータの影響を検証した。
条件を以下に示した。
・Column:MabSelect Sure(GEヘルスケア)、1.0 x 20 cm
・Load material:BiAb精製標品を希釈調製しCMを模したもの(BiAb 95%)
2g/L、pH6.5-8.0(検証)、Conductivity 1.2 S/m
・Contact time:3-8 min(検証)

その結果を表2に示した。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例5(BiAbとHomo混合液におけるDBC)
実際のプロテインA樹脂に負荷する培養上清(以下HCCF)は、BiAbと両homoが混在している。即ち、目的物質であるBiAbを回収するという視点では、両homoはBiAbの競合物質と捉えられる。したがって、実製造を見据えた場合、両homoがHCCF中にある程度存在する状況でのBiAbのDBCを検証することは有意義である。このことを検証するため、以下の条件で試験を行った。
・Column:Hitrap MabSelect Sure(MSS)(GEヘルスケア)、0.7 x 2.5cm
・Load Material:BiAb/Homo精製標品を混合し、CMを模したもの
2 g/L、pH 7.5、Cond 1.2 S/m
Control BiAb(95%) J homo:BiAb:Q homo= 5:95:0
Mimic A J homo:BiAb:Q homo= 10:83:7
Mimic B J homo:BiAb:Q homo= 10:68:22
・Contact time:3.4 min(43.75 cm/h)
・BTCのLoadを分画し、Analytical CIECで各BT PointsのBiAb/Homo比を確認

Analytical CIECの条件は以下の通りに行った。
・HPLC装置;Waters社製Alliance 2695/2487
・ソフトウェア;Waters社製Empower3
・CIECカラム;Thermo scientific社製ProPac WCX-10、Product No.054993
・カラム温度;30 degC
・注入量;30 μg/shot
・使用緩衝液;
移動相A...9.6 mmol/L Tris, 6.0 mmol/L piperazine, 11.0 mmol/L
imidazole, pH 6.0
移動相B...9.6 mmol/L Tris, 6.0 mmol/L piperazine, 11.0 mmol/L
imidazole, 150 mmol/L NaCl, pH 10.1

・グラジエント条件;
時間(min) 流速(mL/min) %A %B
0.0 1.0 100 0
1.0 1.0 100 0
20.0 1.0 0 100
35.0 1.0 0 100

その結果を表3に示した。
【0045】
【表3】
【0046】
以上の結果から、以下のことが分かった。
・DBC;J homo ≒ Q homo < BiAb
・MSSへの親和力;Q homo < BiAb < J homo
・BiAb DBCにおけるパラメータの影響;
pH...6.5-8.0の範囲において、低いほどDBCは高い傾向があるものの、インパクトは小さい。
接触時間...3-8分の範囲において、長いほどDBCは高くなる傾向があるものの、3分ですらQ homo及びJ homoのDBCを下回ることはない。
MSSへの親和力に関しては、本発明の構成を反映した結果であり、そのことは実施例5におけるリークの順序にも表れている。
一方、DBCについては、MSS樹脂への親和力の違いとリガンドの有効利用性が働いて、このような結果になったと推察している。即ち、J homoはMSSリガンドに強く結合する配列を2か所持っているため、2か所でMSS樹脂に結合している。つまり、J homoが空間的に占める範囲内に存在するMSSリガンドは、利用できなくなる。一方、BiAbはMSSに強く結合する配列を一か所しか持たないため、空間的な自由度がJ homoより高く、より多くのMSSリガンドを有効活用して、高いDBCを実現できたと考えられる。Q homoのDBCが低いのは、単に分子全体としての結合力が低いためと考えられる。また、Q homo及びJ homoはBiAbのMSSへの結合を競合阻害していると考えられる。
図1
【配列表】
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