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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20230131BHJP
【FI】
B60N2/58
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018043791
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2019156085
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-07-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 浩男
【合議体】
【審判長】一ノ瀬 覚
【審判官】出口 昌哉
【審判官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-88365(JP,A)
【文献】特開2016-106710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
B60N 2/90
B68G 7/05 - 7/054
A47C 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートクッションと前記シートバックとの少なくとも何れかは、搭乗者が着座する
着座部と前記着座部の両側に設けられた土手部とを備え、
前記着座部は、ウレタンパッドと前記ウレタンパッドの表面を覆う表皮部を有し、
前記土手部は、前記着座部の両側をサポートするウレタンパッドと該ウレタンパッドの表面を覆う表皮部を有し、
前記着座部の前記表皮部は前記着座部を横切る方向に複数の表皮部材が縫合されて形成
され、前記複数の表皮部材が前記縫合された部分のうち第1の表皮部材と第2の表皮部材とが縫合された部分は前記着座部の前記ウレタンパッドに該ウレタンパッドを横切る方向に形成された溝部に埋め込まれており、
前記着座部の前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材とが前記縫合された部分における前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材との前記土手部側の端部から離れた部分には、前記着座部の前記ウレタンパッドに形成された前記溝部に固定部材を用いて固定するための芯材を取り付けた吊り部材が接続されており、
前記着座部の前記縫合された前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材とは前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材との前記土手部側の前記端部と前記吊り部材が接続された部分との間の部分を含めて前記縫合された部分を折り返した状態で前記折り返した部分を含めて前記土手部の前記ウレタンパッドの表面を覆う前記表皮部の表皮部材と縫合されて前記着座部の前記第1の表皮部材及び前記第2の表皮部材と前記土手部の前記表皮部材とが縫合された部分は前記着座部の前記ウレタンパッドと前記土手部の前記ウレタンパッドとの間に形成された溝部に埋め込まれており、
前記着座部の前記第1の表皮部材及び前記第2の表皮部材と前記土手部の前記表皮部材
とが前記縫合された部分における前記着座部の前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材
とが縫合された部分の両側には、前記着座部の前記ウレタンパッドを横切る方向に形成された前記溝部と前記着座部の前記ウレタンパッドと前記土手部の前記ウレタンパッドとの間に形成された前記溝部とが交わる交差部分を覆った状態で前記着座部の前記第1の表皮部材を補強する部材と前記第2の表皮部材を補強する部材とが縫いこまれている
ことを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1記載の車両用シートであって、前記着座部の前記第1の表皮部材と前記第2の
表皮部材を補強する部材は、前記着座部の前記第1の表皮部材の一部と前記第2の表皮部
材の一部を折り返すことにより形成された部材であることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートクッションと前記シートバックとの少なくとも何れかは、ウレタンパッドの
表面が表皮部で覆われて搭乗者が着座する着座部と、前記着座部の両側に設けられたウレタンパッドの表面を表皮部で覆った土手部とを備え、
前記着座部の前記表皮部は第1の表皮部材と第2の表皮部材とを有して前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材とは縫合されており、前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材とが前記縫合された部分は前記着座部のウレタンパッドに前記着座部を横切る方向に形成された第1の溝部に埋め込まれており、
前記着座部の前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材とが前記縫合された部分における前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材との前記土手部側の端部から離れた部分には、前記着座部の側の前記ウレタンパッドに形成された前記第1の溝部に固定部材を用いて固定するための芯材を取り付けた吊り部材が接続されており、
前記着座部の前記縫合された前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材は前記土手部のウレタンパッドを覆う前記表皮部の表皮部材と縫合されて前記着座部の前記第1の表皮部材及び前記第2の表皮部材と前記土手部の前記表皮部材との縫合された部分は前記着座部の側の前記ウレタンパッドと前記土手部の側の前記ウレタンパッドとの間に形成された第2の溝部に埋め込まれており、
前記着座部の前記縫合された前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材とで前記第1の
溝部と前記第2の溝部とが交わる箇所を覆う部分において、前記着座部の前記第1の表皮部材の側には前記第1の表皮部材を補強する部材が前記第2の表皮部材の側には前記第2の表皮部材を補強する部材がそれぞれ縫い込まれている
ことを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
請求項記載の車両用シートであって、前記着座部の前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材とを補強する部材は、前記表皮部材とは別体に形成された部材であることを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
請求項記載の車両用シートであって、前記着座部の前記第1の表皮部材と前記第2の表皮部材を補強する前記第1の表皮部材及び前記第2の表皮部材とは別体に形成された部材は、前記第1の表皮部材と共に前記土手部の側の前記ウレタンパッドを覆う表皮部材と縫合された第1の部材と、前記第2の表皮部材と共に前記土手部の側の前記ウレタンパッドを覆う表皮部材と縫合された第2の部材とで構成されていることを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに係り、特に、ウレタンパッドの表面を表皮部材であるトリムカバーで覆った構成を有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートには、金属製のフレームの上にクッション用のウレタンパッドを装着し、表面を表皮材であるトリムカバーで覆った構造を有しているものがある。
【0003】
このような構成において、ウレタンパッドの表面を覆う表皮材は、複数の部材に分けて裁断し、それらを縫合して形成され、この縫合した部分をウレタンパッドに形成された溝部に埋め込み、溝部の底部に埋設したインサートワイヤにホッグリングで結着してウレタンパッドに装着している。
【0004】
特許文献1には、このようにして形成するシートバックについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平5-31981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シートバックの場合についてみると、着座者の上半身側部を支持するシートバックの土手部に相当するウレタンパッドの部分と、着座者の上半身を支持するシートバックに相当するウレタンパッドの部分の接続部には、表皮材の縫合部分を埋め込んで固定するための溝部が形成されている。また、シートバックには、表皮がずれるのを防止するために、横方向に溝部が形成されており、この溝部に表皮材の縫合部分が埋め込まれて固定されている。
【0007】
この土手部との間に形成された溝部とシートバックの側に形成された溝部とが交わる部分において、ウレタンパッドで表皮材をサポートする部分が大きく欠けてしまう。その結果、このウレタンパッドのサポートが欠けた部分を覆う表皮材にしわが発生して、シートバックの外観を損ねてしまう場合がある。
【0008】
これに対して、特許文献1では、ウレタンパッドの溝の端部口縁に溝の幅方向に突出する膨出部を設けて隙間の発生を防止する構成が開示されている。
【0009】
しかし、ウレタンパッドの溝の端部口縁に膨出部を設けても、土手部との間に形成された溝部とシートバックの側に形成された溝部とが交わる部分においては、この膨出部で覆うことができず、ウレタンパッドで表皮材をサポートする部分が大きく欠けてしまう。
【0010】
その結果、ウレタンパッドで表皮材をサポートする部分が大きく欠けている部分において発生する表皮部材のしわを防ぐことが難しく、シートバックの外観の品質を落としてしまう可能性があった。
【0011】
また、シートクッションについても同様な問題が発生する可能性があった。
【0012】
本発明は上記した従来技術の課題を解決して、車両用シートのシートバック又はシートクッションにおいて、ウレタンパッドの溝部が交わる部分の表面を覆う表皮材にしわが発生するのを防止できるような車両用シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートクッションとシートバックとの少なくとも何れかは、搭乗者が着座する着座部とこの着座部の両側に設けられた土手部とを備え、着座部は、ウレタンパッドとウレタンパッドの表面を覆う表皮部を有し、土手部は、着座部の両側をサポートするウレタンパッドとこのウレタンパッドの表面を覆う表皮部を有し、着座部の表皮部は着座部を横切る方向に複数の表皮部材が縫合されて形成され、複数の表皮部材が縫合された部分のうち第1の表皮部材と第2の表皮部材とが縫合された部分は着座部のウレタンパッドにこのウレタンパッドを横切る方向に形成された溝部に埋め込まれており、着座部の第1の表皮部材と第2の表皮部材とが縫合された部分における第1の表皮部材の端部から離れた部分には、着座部のウレタンパッドに形成された溝部に固定部材を用いて固定するための芯材を取り付けた吊り部材が接続されており、着座部の縫合された第1の表皮部材と第2の表皮部材とは第1の表皮部材と第2の表皮部材との土手部側の端部と吊り部材が接続された部分との間の部分を含めて縫合された部分を折り返した状態でこの折り返した部分を含めて土手部のウレタンパッドの表面を覆う表皮部の表皮部材と縫合されて着座部の第1の表皮部材及び第2の表皮部材と土手部の表皮部材とが縫合された部分は着座部のウレタンパッドと土手部のウレタンパッドとの間に形成された溝部に埋め込まれており、着座部の第1の表皮部材及び第2の表皮部材と土手部の表皮部材とが縫合された部分における着座部の第1の表皮部材と第2の表皮部材とが縫合された部分の両側には、着座部のウレタンパッドを横切る方向に形成された溝部と着座部のウレタンパッドと土手部のウレタンパッドとの間に形成された溝部とが交わる交差部分を覆った状態で着座部の第1の表皮部材と第2の表皮部材とを補強する部材が縫いこまれている構成とした。
【0014】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートクッションとシートバックとの少なくとも何れかは、ウレタンパッドの表面が表皮部で覆われて搭乗者が着座する着座部と、この着座部の両側に設けられたウレタンパッドの表面を表皮部で覆った土手部とを備え、着座部の表皮部は第1の表皮部材と第2の表皮部材とを有して第1の表皮部材と第2の表皮部材とは縫合されており、第1の表皮部材と第2の表皮部材とが縫合された部分は着座部のウレタンパッドに着座部を横切る方向に形成された第1の溝部に埋め込まれており、着座部の第1の表皮部材と第2の表皮部材とが縫合された部分における第1の表皮部材と第2の表皮部材との土手部側の端部から離れた部分には、着座部の側のウレタンパッドに形成された第1の溝部に固定部材を用いて固定するための芯材を取り付けた吊り部材が接続されており、着座部の縫合された第1の表皮部材と第2の表皮部材は土手部のウレタンパッドを覆う表皮部の表皮部材と縫合されて着座部の第1の表皮部材及び第2の表皮部材と土手部の表皮部材との縫合された部分は着座部の側のウレタンパッドと土手部の側のウレタンパッドとの間に形成された第2の溝部に埋め込まれており、着座部の縫合された第1の表皮部材と第2の表皮部材とで第1の溝部と第2の溝部とが交わる箇所を覆う部分において、着座部の第1の表皮部材の側には第1の表皮部材を補強する部材が第2の表皮部材の側には第2の表皮部材を補強する部材がそれぞれ縫い込まれている構成とした。

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両用シートのシートバック又はシートクッションにおいて、ウレタンパッドに形成した複数の溝部が交わる部分の表面を覆う表皮材にしわが発生するのを防ぐことができ、車両用シート外観品質を安定して維持することを可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
図2図1の丸で囲んだA部を、表面を覆う表皮を取り去った状態のウレタンパッドを示す斜視図である。
図3A】本発明の実施例1に係る車両用シートのウレタンパッド121の表面を覆う表皮部材1211の縫合前の状態を示す平面図である。
図3B】本発明の実施例1に係る車両用シートのウレタンパッド122の表面を覆う表皮部材1221の縫合前の状態を示す平面図である。
図3C】本発明の実施例1に係る車両用シートのウレタンパッド123の表面を覆う表皮部材1231の縫合前の状態を示す平面図である。
図4】本発明の実施例1に係る車両用シートのウレタンパッド121の表面を覆う表皮部材1211とウレタンパッド122の表面を覆う表皮部材1221とを重ね合わせた状態で点線128に沿って縫合した後に、表皮部材1211と表皮部材1221とを開いた状態を示す表皮部材1211と表皮部材1221との斜視図である。
図5】本発明の実施例1に係る車両用シートのウレタンパッド121の表面を覆う表皮部材1211とウレタンパッド122の表面を覆う表皮部材1221とを縫合して開いた後に、突起部分1212と1222とを開いてそれぞれ表皮部材1211と表皮部材1221とに重ね合わせた状態を示す表皮部材1211と表皮部材1221との斜視図である。
図6】本発明の実施例1に係る車両用シートのウレタンパッド121の表面を覆う表皮部材1211とウレタンパッド122の表面を覆う表皮部材1221とを縫合して開き、更に突起部分1212と1222とを開いた状態で、ウレタンパッド123の表面を覆う表皮部材1231と重ねて点線129に沿って縫合した状態を示す、表皮部材1211と表皮部材1221、表皮部材1231との斜視図である。
図7】本発明の実施例1に係る車両用シートの表皮部材1231を、縫合した点線129に沿って表皮部材1211と表皮部材1221とから開いた状態を示す、表皮部材1211と表皮部材1221、表皮部材1231との斜視図である。
図8】本発明の実施例1に係る車両用シートの互いに縫合して組立てた表皮部材1211と表皮部材1221と表皮部材1231とで、ウレタンパッド121,122,123を覆った状態を示す、図1の丸で囲んだA部の平面図である。
図9A】本発明の実施例2に係る車両用シートのウレタンパッド121の表面を覆う表皮部材2211の縫合前の状態を示す平面図である。
図9B】本発明の実施例2に係る車両用シートのウレタンパッド122の表面を覆う表皮部材2221の縫合前の状態を示す平面図である。
図10】本発明の実施例2に係る車両用シートのウレタンパッド121の表面を覆う表皮部材2211とウレタンパッド122の表面を覆う表皮部材2221とを重ね合わせた状態で点線228に沿って縫合した後に、表皮部材2211と表皮部材2221とを開いた状態を示す表皮部材2211と表皮部材2221との斜視図である。
図11】本発明の実施例2に係る車両用シートのウレタンパッド121の表面を覆う表皮部材2211とウレタンパッド122の表面を覆う表皮部材2221とを点線228に沿って縫合した後に開き、ウレタンパッド123の表面を覆う表皮部材1231と重ね、当て布2212と2222とを当てて点線129に沿って縫合した状態を示す、表皮部材1211と表皮部材1221、表皮部材1231との斜視図である。
図12】本発明の実施例2に係る車両用シートの表皮部材1231を、縫合した点線229に沿って表皮部材2211と表皮部材2221とから開いた状態を示す、表皮部材2211と表皮部材2221、表皮部材1231との斜視図である。
図13】本発明の実施例2に係る車両用シートの互いに縫合して組立てた表皮部材2211と表皮部材2221と表皮部材1231とで、ウレタンパッド121,122,123を覆った状態を示す、図1の丸で囲んだA部に対応する部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、車両用シートのシートバック又はシートクッションにおいて、ウレタンパッドの溝部が交わる部分において、その表面を覆う表皮材にしわを発生させないような対策を講じた車両用シートに関するものである。
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0019】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0020】
本発明の第1の実施例を、図1乃至8を用いて説明する。
【0021】
図1は、本実施例に係る車両用シート100の外観を示す図である。
110はシートバックであり、111はシートバック側の着座部、112はシートバック側の着座部111の両側に設けられたシートバック側の土手部である。130はシートクッションであり、131はシートクッション側の着座部、132はシートクッション側の着座部131の両側に設けられたシートクッション側の土手部である。
【0022】
シートバック110の側には、シートバック側の着座部111の表面を覆う表皮部材の横方向(着座部111を横切る方向)に延びている縫合部113と縦方向(着座部111の上下方向)に延びる縫合部114が形成されている。同様に、シートクッション130の側には、シートクッション側の着座部131の表面を覆う表皮部材の横方向の縫合部133と縦方向の縫合部134が形成されている。なお、ここで言う表皮部材とは、車両用シートで一般的に用いられている、ウレタンパッドの表面を覆う部材であって、例えば、表皮材と中間のクッション材及び裏生地の3層で構成されている。クッション材は、ポリウレタンなどを用いて、表皮材や裏生地よりも厚く形成されている。
【0023】
以下に、本発明をシートバック110に適用した場合の実施例について説明する。
図2は、図1で丸で囲んだA部について、表面を覆う表皮部材をはがしてその下のウレタンパッドを露出させた状態を示す。
【0024】
シートバック側の着座部111のウレタンパッド121および122には、表皮部材の横方向の縫合部113を内部に挿入するための溝部124が形成されている。溝部124の下部には表皮部材の横方向の縫合部113を図示していないホックリングなどの留め具で固定するためのワイヤ127が埋め込まれている。
【0025】
一方、シートバック側の着座部111のウレタンパッド121及び122と土手部112のウレタンパッド123の間には、表皮部材の縦方向の縫合部114を内部に挿入するための溝部125が形成されている。
【0026】
これらシートバック側の着座部111のウレタンパッド121及び122に形成された溝部124と、シートバック側の着座部111のウレタンパッド121及び122と土手部112のウレタンパッド123の間に形成された溝部125とが交わる交差部分126においては、比較的大きな空間が形成されている。
【0027】
図3Aは、シートバック側の着座部111のウレタンパッド121の表面を覆う表皮部材1211を裏側から見た図である。表皮部材1211には、ウレタンパッドの溝部124に埋設されたワイヤ127に図示していないホックリングなどの固定金具を用いて固定するための芯材1215を取り付けた吊り部材1214が、点線1216に沿って縫合されている。表皮部材1211の上側の端部には、突起部1212が形成されている。
【0028】
図3Bには、シートバック側の着座部111のウレタンパッド122の表面を覆う表皮部材1221を裏側から見た図である。表皮部材1221の上側の端部には、表皮部材1211の側の突起部1212に対応する突起部1222が形成されている。
【0029】
図3Cには、シートバック側の土手部112の表面を覆う表皮部材1231を示す。
【0030】
これらの表皮部材1211,1221,1231を縫合し一体化して、ウレタンパッド121,122,123の表面を覆う表皮部材を形成する手順を、図4乃至8を用いて説明する。
【0031】
図4には、図3Aに示した表皮部材1211と、図3Bに示した表皮部材1221とを、ウレタンパッド121と122とを覆ったときに表側となる面(図3A及び図3Bでは裏面)同士を向き合わせて、端部付近(以下、端部と記す)1213および1223を点線128に沿って縫合した後に、表皮部材1211と表皮部材1221とを、縫合した部分(点線128)に対して左右に開いた状態を示す。表皮部材1211と表皮部材1221とを縫合した部分(点線128)により、縫合部113が形成される。
【0032】
このようにして縫合した表皮部材1211と表皮部材1221とについて、突起部1212と突起部1222とを開くと、図5に示したような状態になる。図5は、突起部1212と突起部1222とを、それぞれ表皮部材1211と表皮部材1221とに重なる位置まで開いた状態を示している。
【0033】
このように突起部1212と突起部1222とを開いた状態で、シートバック側の土手部112の表面を覆う表皮部材1231を、土手部112のウレタンパッド123を覆ったときに表側となる面が、表皮部材1211と表皮部材1221との表側となる面と向かい合うようにして重ね合わせる。このように重ね合わせた状態で、表皮部材1211の端部付近(以下、端部と記す)1217と表皮部材1231の端部付近1232、及び表皮部材1221の端部付近1224と表皮部材1231の端部付近1232とを点線129に沿って縫合する。
【0034】
図6に、このようにして縫合した状態を示す。表皮部材1211と表皮部材1221とに重なる位置まで開いた突起部1212と突起部1222とは、それぞれ表皮部材1211と表皮部材1221とに、更に表皮部材1231に点線129に沿って縫合されている。
【0035】
次に、図6に示したように表皮部材1211と表皮部材1221とを表皮部材1231と縫合した状態で、表皮部材1231を縫合した点線129を中心に開いた状態を図7に示す。点線129に示した部分で縫合された表皮部材1211の端部1217と表皮部材1221の端部付近1224及び表皮部材1231の端部付近1232は、それぞれ表皮部材1211、表皮部材1221及び表皮部材1231に対して立ち上がった状態になっている。点線129に示した表皮部材1211と表皮部材1231とが縫合された部分及び表皮部材1221と表皮部材1231とが縫合された部分により縫合部114が形成される。
【0036】
この状態で、突起部1212と突起部1222との端部12121,12221は、それぞれ表皮部材1211又は表皮部材1221に、更に表皮部材1231に点線129に沿って縫合されている。その結果、突起部1212と突起部1222とは、点線129に沿って縫合しなかった場合と比べて、比較的高い剛性を持つことになる。
【0037】
このようにして縫合した表皮部材1211、表皮部材1221及び表皮部材1231を、図2に示したようなウレタンパッド121,122,123の表面を覆うように装着した状態を、図8に示す。
【0038】
図8に示した状態において、表皮部材1211はウレタンパッド121の表面を覆い、表皮部材1221はウレタンパッド122の表面を覆い、表皮部材1231はウレタンパッド123の表面を覆っている。ウレタンパッド121と122との間の溝部124の上部には、表皮部材1211と表皮部材1221とが縫合された縫合部113が位置している。また、ウレタンパッド121と123との間及びウレタンパッド122と123との間の溝部125の上部には、表皮部材1231に表皮部材1211と表皮部材1221とがそれぞれ縫合されて形成された縫合部114が位置している。
【0039】
また、表皮部材1211と表皮部材1221との縫合された端部1213及び1223と、端部1213に縫合された吊り部材1214に取り付けられた芯材1215は、ウレタンパッド121と122との間の溝部124の内部に収納されている。この状態で、芯材1215は、ウレタンパッドの溝部124に埋設されたワイヤ127に図示していないホックリングなどの固定金具を用いて固定されている。
【0040】
この、図8に示した状態で、表皮部材1211に対して折り返されてその一部が表皮部材1231に縫合されて比較的高い剛性を備えた突起部1212と、表皮部材1221に対して折り返されてその一部が表皮部材1231に縫合されて比較的高い剛性を備えた突起部1222とは、ウレタンパッドの溝部124と溝部125とが交わる交差部分126の上部を覆っている。
【0041】
このように、比較的高い剛性を備えた突起部1212と突起部1222とでウレタンパッドの溝部124と溝部125とが交わる交差部分126の上部を覆う構成としたことにより、ウレタンパッドによる支持を受けられない交差部分126の上部でも、表皮部材1211,1221にしわが発生しにくくなる。
【0042】
なお、本実施例では、シートバック110の例について説明したが、シートクッション130の側の着座部131の表面を覆う表皮部材の横方向の縫合部133と縦方向の縫合部134とについても、同様に適用することができる。
更に、表皮部材1211と表皮部材1221との縫合された端部1213及び1223と、端部1213に縫合された吊り部材1214に取り付けられた芯材1215を、ウレタンパッドの溝部124に埋設されたワイヤ127にホックリングなどの固定金具を用いて固定する代わりに、芯材1215をウレタンパッドの溝部124に、接着剤で固定するようにしても良い。
【0043】
以上説明したように、本実施例によれば、ウレタンパッドの溝部が交わる部分において、その表面を覆う表皮材にしわを発生させないような車両用シートのシートバック又はシートクッションを提供することができる。
【実施例2】
【0044】
本発明の第2の実施例として、実施例1で説明した表皮部材1211の突起部1212及び表皮部材1221の突起部1222に替えて当て布を用いた場合について、図9A乃至図13を用いて説明する。
【0045】
本実施例におけるウレタンパッドの形状は、実施例1において図2を用いて説明したウレタンパッド121,122、及び123の形状と同じであるので、説明を省略する。
【0046】
本実施例では、実施例1で説明した表皮部材1211に替えて、図9Aに示した表皮部材2211を用いる。この表皮部材2211の端部にウレタンパッドの溝部124に埋設されたワイヤ127に図示していないホックリングなどの固定金具を用いて固定するための芯材1215を取り付けた吊り部材1214が、点線1216に沿って縫合されている点は、実施例1で説明したものと同じである。
【0047】
また、本実施例では、実施例1で説明した表皮部材1221に替えて、図9Bに示した表皮部材2221を用いる。
【0048】
図10には、図9Aに示した表皮部材2211と、図9Bに示した表皮部材2221とを、ウレタンパッド121と122とを覆ったときに表側となる面(図9A及び図9Bでは裏面)同士を向き合わせて、端部付近(以下、端部と記す)2213および2223を点線228に沿って縫合した後に、表皮部材2211と表皮部材2221とを、縫合した部分(点線228)に対して左右に開いた状態を示す。表皮部材2211と表皮部材2221とを縫合した部分(点線228)により、縫合部213(実施例1における縫合部113に相当)が形成される。
【0049】
このようにして縫合して開いた表皮部材2211と表皮部材21221とに、シートバック側の土手部112の表面を覆う表皮部材1231を、土手部112のウレタンパッド123を覆ったときに表側となる面が、表皮部材1211と表皮部材1221との表側となる面と向かい合うようにして重ね合わせる。さらに、表皮部材2211と表皮部材21221との縫合した点線228から開いた部分において、表皮部材2211と表皮部材2221との端面にその端面を合せて当て布2212と2222とを重ねあわせる。
【0050】
このように重ね合わせた状態で、表皮部材2211の端部付近2217と表皮部材1231の端部付近1232、及び表皮部材2221の端部付近2224と表皮部材1231の端部付近1232とを点線229に沿って縫合する。
【0051】
図11に、このようにして縫合した状態を示す。表皮部材2211に重ねた当て布2212と表皮部材2221に重ねた当て布2222とは、それぞれ表皮部材2211と表皮部材2221とに、更に表皮部材1231に点線229に沿って縫合されている。
【0052】
次に、図11に示したように表皮部材2211と表皮部材2221とを表皮部材1231と縫合した状態で、表皮部材1231を縫合した点線229を中心に開いた状態を図12に示す。点線229に示した部分で縫合された表皮部材2211の端部付近2214と表皮部材2221の端部付近2224及び表皮部材1231の端部付近1232は、それぞれ表皮部材2211、表皮部材2221及び表皮部材1231に対して立ち上がった状態になっている。点線229に示した表皮部材2211と表皮部材1231とが縫合された部分及び表皮部材2221と表皮部材1231とが縫合された部分により縫合部214(実施例1における縫合部114に相当)が形成される。
【0053】
この状態で、当て布2212と当て布2222との端部22121,22221は、それぞれ表皮部材2211又は表皮部材2221に、更に表皮部材1231に点線229に沿って縫合されている。その結果、当て布2212と当て布2222とを用いなかった場合と比べて、比較的高い剛性を持つことになる。
【0054】
このようにして縫合した表皮部材2211、表皮部材2221及び表皮部材1231を、図2に示したようなウレタンパッド121,122,123の表面を覆うように装着した状態を、図13に示す。
【0055】
図13に示した状態において、表皮部材2211はウレタンパッド121の表面を覆い、表皮部材2221はウレタンパッド122の表面を覆い、表皮部材1231はウレタンパッド123の表面を覆っている。ウレタンパッド121と122との間の溝部124の上部には、表皮部材2211と表皮部材2221とが縫合された縫合部213が位置している。また、ウレタンパッド121と123との間及びウレタンパッド122と123との間の溝部125の上部には、表皮部材1231に表皮部材2211と表皮部材2221とがそれぞれ縫合されて形成された縫合部214が位置している。
【0056】
また、表皮部材2211と表皮部材2221との縫合された端部2213及び2223と、端部2213に縫合された吊り部材1214に取り付けられた芯材1215は、ウレタンパッド121と122との間の溝部124の内部に収納されている。この状態で、芯材1215は、ウレタンパッドの溝部124に埋設されたワイヤ127に図示していないホックリングなどの固定金具を用いて固定されている。
【0057】
この、図13に示した状態で、表皮部材2211に当て布2212が縫合されて比較的高い剛性を備えた部分と、表皮部材2221に当て布2222が縫合されて比較的高い剛性を備えた部分とは、ウレタンパッドの溝部124と溝部125とが交わる交差部分126の上部を覆っている。
【0058】
このように、比較的高い剛性を備えた当て布2212と当て布2222とが縫合された部分でウレタンパッドの溝部124と溝部125とが交わる交差部分126の上部を覆う構成としたことにより、ウレタンパッドによる支持を受けられない交差部分126の上部でも、表皮部材2211,2221にしわが発生しにくくなる。
【0059】
なお、本実施例では、シートバック110の例について説明したが、シートクッション130の側の着座部131の表面を覆う表皮部材の横方向の縫合部133と縦方向の縫合部134とについても、同様に適用することができる。
【0060】
また、本実施例では、当て布2212を表皮部材2211と表皮部材1231に縫いこみ、当て布2222を表皮部材2221と表皮部材1231に縫いこむ構成について説明したが、接着剤を用いて当て布2212を表皮部材2211に接着し、当て布2212を表皮部材2211に接着するようにしても良い。また、当て布2212及び2222は、表皮部材2211及び2221と同じ材質の材料または異なる材質の材料の何れで形成しても良い。
また、実施例1の場合と同様に、表皮部材1211と表皮部材1221との縫合された端部1213及び1223と、端部1213に縫合された吊り部材1214に取り付けられた芯材1215を、ウレタンパッドの溝部124に埋設されたワイヤ127にホックリングなどの固定金具を用いて固定する代わりに、芯材1215をウレタンパッドの溝部124に、接着剤で固定するようにしても良い。
【0061】
以上説明したように、本実施例によれば、ウレタンパッドの溝部が交わる部分において、その表面を覆う表皮材にしわを発生させないような車両用シートのシートバック又はシートクッションを提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
100・・・車両用シート 110・・・シートバック 111・・・着座部 112・・・土手部 113,114・・・縫合部 121,122,123・・・ウレタンパッド 124,125・・・溝部 130・・・シートクッション 131・・・着座部 132・・・土手部 133,134・・・縫合部 1211,1221,1231・・・表皮部材 1212,1222・・・突起部 2211,2221・・・表皮部材 2212,2222・・・当て布。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13