(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】水分散型ポリイソシアネート
(51)【国際特許分類】
C08G 18/79 20060101AFI20230131BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20230131BHJP
C08G 18/09 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C08G18/79 040
C08G18/48 033
C08G18/09 020
(21)【出願番号】P 2018119010
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛史
(72)【発明者】
【氏名】福田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 辰也
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008266(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154963(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物と、ポリオキシエチレン化合物との反応生成物であり、遊離のイソシアネート基を有する反応生成物を含む水分散型ポリイソシアネートであって、
前記水分散型ポリイソシアネートにおけるエチレンオキシド基の含有量が、17質量%以上35質量%以下であることを特徴とする、水分散型ポリイソシアネート。
【請求項2】
前記キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体は、アルコール類(但し、ポリエーテルポリオールを除く。)で変性されたキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体であ
り、
前記アルコール類は、炭素数1以上20以下の直鎖状のアルカンモノオール、炭素数3以上20以下の分岐状のアルカンモノオール、および/または、炭素数2以上20以下のアルカンジオールであることを特徴とする、請求項1に記載の水分散型ポリイソシアネート。
【請求項3】
前記イソシアヌレート組成物における前記アルコール類の変性率は、0.2質量%を超過し8.3質量%未満であることを特徴とする、請求項2に記載の水分散型ポリイソシアネート。
【請求項4】
前記アルコール類は、
炭素数2以上20以下のアルカンジオールを含むことを特徴とする、請求項2または3に記載の水分散型ポリイソシアネート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型ポリイソシアネートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン塗料は、通常、ポリオール成分(主剤)とポリイソシアネート成分(硬化剤)とを反応させることにより得られ、各種産業分野において広範に使用される。そのようなポリイソシアネート成分において、耐久性の観点から、キシリレンジイソシアネートを用いることが知られている。
【0003】
また、環境負荷低減および作業環境改善の観点から、有機溶剤の使用を低減するために、有機溶剤に溶解して使用する有機溶剤系ポリイソシアネートに代替して、水に分散して使用する水分散型ポリイソシアネートが望まれている。
【0004】
そこで、キシリレンジイソシアネートを用いた水分散型ポリイソシアネートが種々検討されている。
【0005】
例えば、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体とメトキシポリエチレングリコールとの反応生成物であり、エチレンオキシド基含有量が20%である親水性基含有ポリイソシアネートが、ブロック剤によりブロックされたブロックイソシアネートが提案されている(例えば、特許文献1(合成例13および実施例16)参照。)。
【0006】
そのようなブロックイソシアネートは、優れた水分散性を有しており、水分散型ポリイソシアネートとして利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、キシリレンジイソシアネートを用いた水分散型ポリイソシアネートにおいて、ブロック剤を使用することなく、水分散性を確保したいという要望がある。
【0009】
そこで、特許文献1に記載の親水性基含有ポリイソシアネートを、ブロック剤によってブロックすることなく、水分散させることが望まれるが、そのような親水性基含有ポリイソシアネートにおいて水分散性を確保することは困難である。
【0010】
そこで、親水性基含有ポリイソシアネートにおけるエチレンオキシド基含有量を増加させて、親水性基含有ポリイソシアネートの水分散性の向上を図ることが検討されるが、エチレンオキシド基含有量を増加させると、親水性基含有ポリイソシアネートを用いて調製される塗膜の耐久性が低下してしまうという不具合がある。
【0011】
本発明は、優れた水分散性を確保できながら、塗膜に優れた耐久性を付与することができる水分散型ポリイソシアネートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明[1]は、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物と、ポリオキシエチレンポリオールとの反応生成物であり、遊離のイソシアネート基を有する反応生成物を含む水分散型ポリイソシアネートであって、前記水分散型ポリイソシアネートにおけるエチレンオキシド基の含有量が、17質量%以上35質量%以下である、水分散型ポリイソシアネートを含む。
【0013】
本発明[2]は、前記キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体は、アルコール類により変性されている、上記[1]に記載の水分散型ポリイソシアネートを含む。
【0014】
本発明[3]は、前記イソシアヌレート組成物における前記アルコール類の変性率は、0.2質量%を超過し8.3質量%未満である、上記[2]に記載の水分散型ポリイソシアネートを含む。
【0015】
本発明[4]は、前記アルコール類は、2価の脂肪族アルコールを含む、上記[2]または[3]に記載の水分散型ポリイソシアネートを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水分散型ポリイソシアネートでは、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体と、ポリオキシエチレンポリオールとの反応生成物を含み、水分散型ポリイソシアネートにおけるエチレンオキシド基の含有量が上記範囲内であるので、優れた水分散性を確保できながら、塗膜に優れた耐久性、とりわけ密着性および耐溶剤性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水分散型ポリイソシアネートは、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物と、ポリオキシエチレン化合物との反応生成物であり、遊離のイソシアネート基を有する反応生成物を含む。
【0018】
(1)キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体
キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体は、主として、キシリレンジイソシアネートの三量体(トリマー)を含む。
【0019】
キシリレンジイソシアネートは、構造異性体として、1,2-キシリレンジイソシアネート(o-XDI)、1,3-キシリレンジイソシアネート(m-XDI)、1,4-キシリレンジイソシアネート(p-XDI)を含んでいる。キシリレンジイソシアネートの構造異性体は、単独使用または2種類以上併用されてもよい。
【0020】
キシリレンジイソシアネートとして、好ましくは、1,3-キシリレンジイソシアネートが挙げられる。つまり、キシリレンジイソシアネートは、好ましくは、1,3-キシリレンジイソシアネートを含み、さらに好ましくは、1,3-キシリレンジイソシアネートからなる。
【0021】
次に、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物の調製方法、具体的には、アルコール類(後述)により変性されていないキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物の調製方法について説明する。
【0022】
キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物を調製するには、キシリレンジイソシアネートを、イソシアヌレート化触媒の存在下において、イソシアヌレート化反応させる。
【0023】
イソシアヌレート化触媒は、イソシアヌレート化を活性化する触媒であれば、特に限定されない。イソシアヌレート化触媒として、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、2級アミン共重合体(例えば、ジアルキルアミンなどの2級アミン、および、2級アミンと共重合可能な単量体(例えば、フェノール、ホルムアルデヒドなど)の重縮合物)などの3級アミン、例えば、2-ジメチルアミノメチルフェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどのマンニッヒ塩基、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドやその有機弱酸塩、例えば、トリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム(別名:N-(2-ヒドロキシプロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウム)、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、トリエチルヒドロキシプロピルアンモニウム、トリエチルヒドロキシエチルアンモニウムなどのトリアルキルヒドロキシアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドやその有機弱酸塩、例えば、酢酸、カプロン酸、オクチル酸、ミリスチン酸、ナフテン酸などのアルキルカルボン酸の金属塩(例えば、アルカリ金属塩、マグネシウム塩、スズ塩、亜鉛塩、鉛塩など)、例えば、アルミニウムアセチルアセトン、リチウムアセチルアセトンなどのようなβ-ジケトンの金属キレート化合物、例えば、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素などのフリーデル・クラフツ触媒、例えば、チタンテトラブチレート、トリブチルアンチモン酸化物などの種々の有機金属化合物、例えば、ヘキサメチルシラザンなどのアミノシリル基含有化合物、二フッ化水素テトラブチルホスホニウムなどのハロゲン置換有機リン化合物などが挙げられる。イソシアヌレート化触媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0024】
このようなイソシアヌレート化触媒のなかでは、好ましくは、テトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイド、トリアルキルヒドロキシアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドが挙げられ、さらに好ましくは、テトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドが挙げられ、とりわけ好ましくは、テトラブチルアンモニウムのハイドロオキサイドが挙げられる。
【0025】
イソシアヌレート化触媒(有効成分100質量%換算)の配合割合は、キシリレンジイソシアネート100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上、好ましくは、0.008質量部以上、さらに好ましくは、0.015質量部以上、例えば、0.1質量部以下、好ましくは、0.026質量部以下、さらに好ましくは、0.022質量部以下である。
【0026】
なお、イソシアヌレート化触媒は、イソシアヌレート化反応の仕込み段階(初期)で全量を配合してもよく、イソシアヌレート化反応中に複数回に分けて追加してもよい。上記した配合割合は、イソシアヌレート化反応開始前(初期)に配合するイソシアヌレート化触媒の配合割合(仕込割合)とイソシアヌレート化反応中に追加するイソシアヌレート化触媒の配合割合(追加割合)との合計の配合割合である。
【0027】
このようなイソシアヌレート化反応は、例えば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)雰囲気において実施される。
【0028】
また、イソシアヌレート化反応の反応温度は、例えば、20℃以上、好ましくは、40℃以上、さらに好ましくは、60℃以上、例えば、90℃以下、好ましくは、80℃以下であり、反応圧力は、例えば、大気圧である。反応時間は、例えば、0.5時間以上、好ましくは、1時間以上、さらに好ましくは、2時間以上、例えば、12時間以下、好ましくは、10時間以下、さらに好ましくは、8時間以下である。
【0029】
このようなイソシアヌレート化反応では、助触媒および安定剤を添加することができる。
【0030】
助触媒として、例えば、有機亜リン酸エステルが挙げられ、より具体的には、脂肪族有機亜リン酸エステル、芳香族有機亜リン酸エステルなどが挙げられる。助触媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0031】
脂肪族有機亜リン酸エステルとして、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイトなどのアルキルモノホスファイト、例えば、ジステアリル・ペンタエリスリチル・ジホスファイト、ジ・ドデシル・ペンタエリスリトール・ジホスファイト、ジ・トリデシル・ペンタエリスリトール・ジホスファイト、トリペンタエリスリトール・トリホスファイトなどの脂肪族多価アルコールから誘導されたジ、トリあるいはテトラホスファイト、さらに、水添ビスフェノールAホスファイトポリマー(分子量2400~3000)などの脂環族ポリホスファイト、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスファイトなどが挙げられる。脂肪族有機亜リン酸エステルは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0032】
脂肪族有機亜リン酸エステルのなかでは、好ましくは、アルキルモノホスファイトが挙げられ、さらに好ましくは、トリデシルホスファイトが挙げられる。
【0033】
芳香族有機亜リン酸エステルとして、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、ジフェニル(トリデシル)ホスファイトなどのアリールモノホスファイト、例えば、ジノニルフェニル・ペンタエリスリトール・ジホスファイト、テトラフェニル・テトラ・トリデシル・ペンタエリスリチル・テトラホスファイト、テトラフェニル・ジプロピレングリコール・ジホスファイトなどの芳香族多価アルコールから誘導されたジ、トリあるいはテトラホスファイト、さらに、例えば、炭素数が1~20のジ・アルキル・ビスフェノールA・ジホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ・トリデシル)ホスファイトなどのビスフェノール系化合物から誘導されたジホスファイトなどが挙げられる。芳香族有機亜リン酸エステルは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0034】
芳香族有機亜リン酸エステルのなかでは、好ましくは、芳香族多価アルコールから誘導されるジ、トリあるいはテトラホスファイトが挙げられ、さらに好ましくは、テトラフェニル・ジプロピレングリコール・ジホスファイトが挙げられる。
【0035】
有機亜リン酸エステルの配合割合は、キシリレンジイソシアネート100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.03質量部以上、例えば、0.1質量部以下、好ましくは、0.07質量部以下である。
【0036】
安定剤として、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、より具体的には、2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノール(別名:ジブチルヒドロキシトルエン、以下、BHTと略する場合がある。)、イルガノックス1010、イルガノックス1076、イルガノックス1135、イルガノックス245(以上、チバ・ジャパン社製、商品名)などが挙げられる。安定剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0037】
安定剤の配合割合は、キシリレンジイソシアネート100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.02質量部以上、例えば、0.05質量部以下、好ましくは、0.03質量部以下である。
【0038】
さらに、イソシアヌレート化反応では、必要に応じて、公知の添加剤を適宜の割合かつ任意のタイミングで添加してもよい。
【0039】
公知の添加剤として、例えば、有機溶媒(後述)、触媒失活剤(例えば、リン酸、モノクロロ酢酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゾイルクロリドなど)などが挙げられる。
【0040】
これによって、キシリレンジイソシアネートがイソシアヌレート化反応して、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を生成する。
【0041】
このようなイソシアヌレート化反応におけるイソシアネート基の転化率(イソシアヌレート転化率)は、例えば、10質量%以上、好ましくは、15質量%以上、さらに好ましくは、25質量%以上、例えば、40質量%以下、好ましくは、33質量%以下である。なお、イソシアネート基の転化率は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる(以下同様)。
【0042】
以上によって、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を含む反応液(反応混合物)が調製される。
【0043】
このようなイソシアヌレート化反応の反応液における遊離のイソシアネート基の濃度(イソシアネート基濃度)は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、25質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。なお、イソシアネート基濃度は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる(以下同様)。
【0044】
反応液は、未反応のキシリレンジイソシアネートと、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体とを含み、さらに、上記した公知の添加剤などを含む場合がある。
【0045】
そのため、イソシアヌレート化反応の反応液は、好ましくは、公知の精製方法により精製される。精製方法として、例えば、薄膜蒸留(スミス蒸留)、抽出などが挙げられ、好ましくは、薄膜蒸留が挙げられる。
【0046】
薄膜蒸留により反応液を精製する場合、蒸留収率は、例えば、30質量%以上、好ましくは、40質量%以上、さらに好ましくは、50質量%以上、例えば、80質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。なお、蒸留収率は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる。
【0047】
以上によって、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物が調製される。
【0048】
キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体は、アルコール類(後述)に変性されていないキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体である。以下において、アルコール類により変性されていないキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体を、アルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体とし、アルコール類により変性されているキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体(後述)を、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体として区別する。
【0049】
アルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体には、主にイソシアヌレート一核体が含まれ、さらにイソシアヌレート多核体が含まれていてもよい。
【0050】
イソシアヌレート一核体は、3分子のキシリレンジイソシアネートが1つのイソシアヌレート環を形成し、そのイソシアヌレート環が他のイソシアヌレート環と結合していない化合物であり、イソシアヌレート環を介するキシリレンジイソシアネートの3分子体である。
【0051】
イソシアヌレート多核体は、イソシアヌレート一核体が他のイソシアヌレート一核体と結合している化合物である。イソシアヌレート多核体は、結合するイソシアヌレート一核体の個数に基づいて区別され、例えば、2つのイソシアヌレート一核体が結合するイソシアヌレート二核体、nつのイソシアヌレート一核体が結合するイソシアヌレートn核体などが挙げられる。
【0052】
このようなイソシアヌレート組成物をゲルパーミエーションクロマトグラフ測定したときのクロマトグラムにおいて、ポリスチレン換算分子量400~1000、好ましくは、600~900の間をピークトップとするピークの面積の、全ピークの面積に対する面積率(以下、3分子体面積率とする。)が、イソシアヌレート組成物の総量に対する、イソシアヌレート一核体の含有率に相当する。
【0053】
イソシアヌレート組成物における3分子体面積率は、例えば、30%以上、好ましくは、35%以上、例えば、70%以下、好ましくは、60%以下である。
【0054】
なお、3分子体面積率は、後述する実施例に準拠して、イソシアヌレート組成物の分子量分布を、示差屈折率検出器(RID)を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によって測定し、得られたクロマトグラム(チャート)におけるピーク面積比率として、算出することができる(以下同様)。
【0055】
また、イソシアヌレート組成物は、対称三量体であるイソシアヌレート誘導体に加えて、非対称三量体であるイミノオキサジアジンジオン誘導体を含む場合があるが、イミノオキサジアジンジオン誘導体の含有割合は、イソシアヌレート組成物の総量に対して、例えば、6質量%以下、好ましくは、2質量%以下、さら好ましくは、1質量%以下、とりわけ好ましくは、0.5質量%以下である。
【0056】
さらに、イソシアヌレート組成物は、未反応のキシリレンジイソシアネートを含む場合があるが、未反応のキシリレンジイソシアネートの含有割合は、イソシアヌレート組成物の総量に対して、例えば、2質量%以下、好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.5質量%以下である。
【0057】
このようなイソシアヌレート組成物におけるイソシアネート基の平均官能基数は、例えば、2以上、好ましくは、2.2以上、例えば、4.0以下、好ましくは、3.5以下である。
【0058】
また、イソシアヌレート組成物における遊離のイソシアネート基の濃度(イソシアネート基濃度)は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、さらに好ましくは、15質量%以上、例えば、40質量%以下、好ましくは、35質量%以下である。
【0059】
(2)アルコール変性キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体(アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体)
上記したキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体は、好ましくは、アルコール類により変性される。
【0060】
イソシアヌレート誘導体がアルコール類により変性されれば、水分散型ポリイソシアネートの水分散性の向上を図ることができながら、塗膜の耐折曲性の向上を図ることができる。
【0061】
アルコール類として、好ましくは、脂肪族アルコールが挙げられる。
【0062】
脂肪族アルコールとして、例えば、1価の脂肪族アルコール、2価の脂肪族アルコール、3価の脂肪族アルコール、4価以上の脂肪族アルコールなどが挙げられる。脂肪族アルコールは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0063】
1価の脂肪族アルコールとして、例えば、直鎖状の1価脂肪族アルコール、分岐状の1価脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0064】
直鎖状の1価脂肪族アルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール(ラウリルアルコール)、n-トリデカノール、n-テトラデカノール、n-ペンタデカノール、n-ヘキサデカノール、n-ヘプタデカノール、n-オクタデカノール(ステアリルアルコール)、n-ノナデカノール、エイコサノールなどが挙げられる。
【0065】
分岐状の1価脂肪族アルコールとして、例えば、イソプロパノール(別名:イソプロピルアルコール、IPA)、イソブタノール(別名:イソブチルアルコール、IBA)、sec-ブタノール、tert-ブタノール、イソペンタノール、イソヘキサノール、イソヘプタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール(別名:2-エチルヘキシルアルコール、2-EHA)、イソノナノール、イソデカノール、5-エチル-2-ノナノール、トリメチルノニルアルコール、2-ヘキシルデカノール、3,9-ジエチル-6-トリデカノール、2-イソヘプチルイソウンデカノール、2-オクチルドデカノール、その他の分岐状アルカノール(C(炭素数、以下同様)5~20)などが挙げられる。
【0066】
2価の脂肪族アルコールとして、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール(1,3-PG)、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、その他の直鎖状のアルカン(C7~20)ジオールなどの直鎖状の2価脂肪族アルコール、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール(別名:1,3-ブタンジオール、1,3-BG)、1,2-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(MPD)、2,2,4-トリメチルー1,3-ペンタンジオール(TMPD)、3,3-ジメチロールヘプタン、2,6-ジメチル-1-オクテン-3,8-ジオール、その他の分岐状のアルカン(C7~20)ジオールなどの分岐状の2価脂肪族アルコール、例えば、1,3-または1,4-シクロヘキサンジメタノールおよびそれらの混合物、1,3-または1,4-シクロヘキサンジオールおよびそれらの混合物、水素化ビスフェノールAなどの脂環式の2価脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0067】
3価の脂肪族アルコールとして、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
4価以上の脂肪族アルコールとして、例えば、テトラメチロールメタン、D-ソルビトール、キシリトール、D-マンニトールなどが挙げられる。
【0068】
このような脂肪族アルコールは、分子中に1つ以上のヒドロキシ基を有していれば、それ以外の分子構造は、本発明の優れた効果を阻害しない限り、分子中に芳香環を含有しないこと以外は特に制限されず、例えば、分子中に、エステル基、エーテル基、シクロヘキサン環などを有することもできる。
【0069】
そのため、脂肪族アルコールは、例えば、上記1価の脂肪族アルコールとアルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなど)との付加重合物(2種類以上のアルキレンオキサイドのランダムおよび/またはブロック重合物)であるエーテル基含有1価脂肪族アルコール、上記1価の脂肪族アルコールとラクトン(例えば、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトンなど)との付加重合物であるエステル基含有1価脂肪族アルコールなどを含む。
【0070】
このような脂肪族アルコールのなかでは、好ましくは、1価の脂肪族アルコールおよび2価の脂肪族アルコールが挙げられ、さらに好ましくは、分岐状の1価脂肪族アルコールおよび分岐状の2価脂肪族アルコールが挙げられ、とりわけ好ましくは、イソブタノールおよび1,3-ブチレングリコールが挙げられる。
【0071】
また、1価の脂肪族アルコールと2価の脂肪族アルコールとを比較すると、より好ましくは、2価の脂肪族アルコールが挙げられる。つまり、アルコール類は、好ましくは、2価の脂肪族アルコール(分岐状の2価脂肪族アルコール、1,3-ブチレングリコール)を含み、さらに好ましくは、2価の脂肪族アルコール(分岐状の2価脂肪族アルコール、1,3-ブチレングリコール)からなる。
【0072】
イソシアヌレート誘導体を変性するアルコール類が、2価の脂肪族アルコールを含むと、塗膜の耐溶剤性の向上を確実に図ることができる。
【0073】
次に、アルコール類により変性されるキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体(アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体)を含むイソシアヌレート組成物の調製方法について説明する。
【0074】
アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物を調製する方法として、例えば、キシリレンジイソシアネートとアルコール類とをウレタン化反応させた後、その反応生成物をイソシアヌレート化反応させる方法や、上記のように、まず、アルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物を調製し、そのイソシアヌレート組成物とアルコール類とをウレタン化反応させる方法などが挙げられる。
【0075】
このような方法のなかでは、好ましくは、キシリレンジイソシアネートとアルコール類とをウレタン化反応させた後、その反応生成物をイソシアヌレート化反応させる方法が挙げられる。
【0076】
具体的には、まず、キシリレンジイソシアネートとアルコール類とを配合し、キシリレンジイソシアネートとアルコール類とを、遊離のイソシアネート基が残存する割合でウレタン化反応させる。
【0077】
アルコール類の水酸基に対する、キシリレンジイソシアネートのイソシアネート基の当量比(NCO/OH)は、例えば、3以上、好ましくは、5以上、さらに好ましくは、15以上、例えば、600以下、好ましくは、500以下、さらに好ましくは、200以下、とりわけ好ましくは、100以下である。
【0078】
アルコール類の配合割合は、キシリレンジイソシアネート100質量部に対して、例えば、0.05質量部以上、好ましくは、0.10質量部以上、さらに好ましくは、0.50質量部以上、例えば、10質量部以下、好ましくは、8質量部以下、さらに好ましくは、3質量部以下である。
【0079】
また、ウレタン化反応は、例えば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)雰囲気において実施される。
【0080】
反応温度は、例えば、室温(25℃)以上、好ましくは、40℃以上、例えば、100℃以下、好ましくは、90℃以下であり、反応圧力は、例えば、大気圧である。反応時間は、例えば、0.05時間以上、好ましくは、0.2時間以上、例えば、10時間以下、好ましくは、6時間以下、さらに好ましくは、2時間以下である。
【0081】
このようなウレタン化反応では、上記した助触媒および上記した安定剤を上記した配合割合で添加することができ、必要に応じて、公知のウレタン化触媒を適宜の割合で添加してもよい。
【0082】
さらに、ウレタン化反応では、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、必要に応じて、上記したアルコール類と、活性水素基含有化合物(例えば、チオール類、オキシム類、ラクタム類、フェノール類、βジケトン類など)とを併用することができる。
【0083】
これによって、キシリレンジイソシアネートとアルコール類とがウレタン化反応して、キシリレンジイソシアネートとアルコール類との反応生成物(アルコール変性キシリレンジイソシアネート)を生成する。
【0084】
このようなウレタン化反応におけるイソシアネート基の転化率(ウレタン転化率)は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.3質量%以上、さらに好ましくは、0.5質量%以上、例えば、25質量%以下、好ましくは、20質量%以下、さらに好ましくは、10質量%以下である。
【0085】
以上によって、アルコール変性キシリレンジイソシアネートを含む反応液(反応混合物)が調製される。
【0086】
このようなウレタン化反応の反応液における遊離のイソシアネート基の濃度(イソシアネート基濃度)は、例えば、20質量%以上、好ましくは、30質量%以上、さらに好ましくは、40質量%以上、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
【0087】
このようなウレタン化反応の反応液は、未反応のキシリレンジイソシアネート(アルコール未変性キシリレンジイソシアネート)と、アルコール変性キシリレンジイソシアネートとを含む。
【0088】
次いで、ウレタン化反応の反応液に、上記したイソシアヌレート化触媒を上記の配合割合で配合する。そして、キシリレンジイソシアネートおよびアルコール変性キシリレンジイソシアネートを、上記した反応条件において、イソシアヌレート化反応させる。
【0089】
これによって、アルコール未変性キシリレンジイソシアネートがイソシアヌレート化反応して、アルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体を生成するとともに、アルコール変性キシリレンジイソシアネートがイソシアヌレート化反応して、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を生成する。なお、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体については、詳しくは後述する。
【0090】
このようなイソシアヌレート化反応におけるイソシアヌレート転化率の範囲は、上記したイソシアヌレート転化率の範囲と同じである。
【0091】
また、ウレタン転化率およびイソシアヌレート転化率の総和(イソシアネート基の転化率(反応率))は、例えば、15質量%以上、好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、30質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。
【0092】
以上によって、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含む反応液(反応混合物)が調製される。
【0093】
このようなイソシアヌレート化反応の反応液における遊離のイソシアネート基の濃度(イソシアネート基濃度)は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、25質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。
【0094】
イソシアヌレート化反応の反応液は、アルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体と、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体とを含み、さらに、キシリレンジイソシアネート、アルコール変性キシリレンジイソシアネート、上記した公知の添加剤などを含む場合がある。
【0095】
そのため、イソシアヌレート化反応の反応液は、好ましくは、上記した精製方法により精製される。その蒸留収率の範囲は、上記した蒸留収率の範囲と同じである。
【0096】
以上によって、アルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体(イソシアヌレート一核体およびイソシアヌレート多核体)と、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体とを含むイソシアヌレート組成物が調製される。
【0097】
アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体は、上記したアルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体とアルコール類との反応生成物である。アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体には、例えば、アルコール変性イソシアヌレート一核体、アルコール変性イソシアヌレート多核体などが含まれる。なお、以下において、アルコール類に変性されていないイソシアヌレート一核体およびイソシアヌレート多核体を、アルコール無変性イソシアヌレート一核体およびアルコール無変性イソシアヌレート多核体とする。
【0098】
アルコール変性イソシアヌレート一核体は、少なくとも1つのアルコール類が結合するイソシアヌレート環を1つ有する。アルコール変性イソシアヌレート一核体は、例えば、アルコール変性キシリレンジイソシアネート(3-n)分子と、キシリレンジイソシアネートn分子とがイソシアヌレート環を形成する化合物であり、イソシアヌレート環を介するキシリレンジイソシアネートの3分子体である。なお、nは、0~2の整数である。
【0099】
アルコール変性イソシアヌレート多核体は、イソシアヌレート環を2つ以上有し、それらイソシアヌレート環に少なくとも1つのアルコール類が結合する化合物である。アルコール変性イソシアヌレート多核体は、例えば、アルコール変性イソシアヌレート一核体と、少なくとも1つのアルコール変性イソシアヌレート一核体またはアルコール無変性イソシアヌレート一核体とが結合する化合物である。
【0100】
より具体的には、アルコール類が1価の脂肪族アルコールである場合、アルコール変性イソシアヌレート多核体として、例えば、直接結合型アルコール変性イソシアヌレート多核体などが挙げられる。
【0101】
直接結合型アルコール変性イソシアヌレート多核体は、アルコール変性イソシアヌレート一核体のイソシアネート基が、他のアルコール変性イソシアヌレート一核体またはアルコール無変性イソシアヌレート一核体を兼ねる化合物である。つまり、直接結合型アルコール変性イソシアヌレート多核体は、アルコール変性イソシアヌレート一核体のイソシアヌレート環と、アルコール変性イソシアヌレート一核体またはアルコール無変性イソシアヌレート一核体のイソシアヌレート環とが、1つのキシリレンジイソシアネート骨格を介して結合している。
【0102】
また、アルコール類が2価の脂肪族アルコールである場合、アルコール変性イソシアヌレート多核体として、例えば、上記と同様の直接結合型アルコール変性イソシアヌレート多核体、架橋型アルコール変性イソシアヌレート二核体などが挙げられる。
【0103】
架橋型アルコール変性イソシアヌレート二核体は、アルコール変性イソシアヌレート一核体のイソシアネート基と、アルコール変性イソシアヌレート一核体またはアルコール無変性イソシアヌレート一核体のイソシアネート基とが、2価の脂肪族アルコールの水酸基のそれぞれと反応して結合する化合物である。つまり、架橋型アルコール変性イソシアヌレート二核体は、アルコール変性イソシアヌレート一核体と、アルコール変性イソシアヌレート一核体またはアルコール無変性イソシアヌレート一核体とが、2価の脂肪族アルコールを介して結合している。
【0104】
また、上記したウレタン化反応および/またはイソシアヌレート化反応では、アルコール変性キシリレンジイソシアネートおよび/またはアルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体と、キシリレンジイソシアネートおよび/またはアルコール変性キシリレンジイソシアネートとが反応して、アロファネート誘導体を生成する場合がある。この場合、イソシアヌレート組成物には、アロファネート誘導体が含まれる。
【0105】
アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物の3分子体面積率は、イソシアヌレート組成物の総量に対する、アルコール無変性イソシアヌレート一核体の含有率と、アルコール変性イソシアヌレート一核体の含有率と、上記した3分子からなるアロファネート誘導体の含有率との総量に相当する。
【0106】
アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物における3分子体面積率は、例えば、30%以上、好ましくは、35%以上、例えば、60%以下、好ましくは、55%以下、さらに好ましくは、52%以下である。
【0107】
また、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物におけるイソシアネート基の平均官能基数は、例えば、2以上、好ましくは、2.2以上、例えば、4.0以下、好ましくは、3.5以下である。
【0108】
また、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物における遊離のイソシアネート基の濃度(イソシアネート基濃度)は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、さらに好ましくは、15質量%以上、例えば、40質量%以下、好ましくは、35質量%以下、さらに好ましくは、25質量%以下である。
【0109】
また、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物におけるアルコール類の変性率は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.2質量%以上、さらに好ましくは、0.2質量%を超過し、とりわけ好ましくは、0.7質量%以上、例えば、10質量%以下、好ましくは、8.3質量%以下、さらに好ましくは、8.3質量%未満、とりわけ好ましくは、6.0質量%以下である。なお、アルコール類の変性率は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる。さらに、アルコール類の変性率は、例えば、特許6161788号公報の[0086]段落に記載されるように、1H-NMR測定により算出することもできる。
【0110】
アルコール類の変性率が上記下限以上であると、水分散型ポリイソシアネートの水分散性の向上を確実に図ることができながら、塗膜(後述)の耐折曲性の向上を確実に図ることができる。アルコール類の変性率が上記上限以下であると、塗膜(後述)の耐溶剤性の向上を確実に図ることができる。
【0111】
なお、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含むイソシアヌレート組成物においても、上記したように、イミノオキサジアジンジオン誘導体および未反応のキシリレンジイソシアネートを含む場合があるが、それらの含有割合は、上記上限以下である。
【0112】
また、イソシアヌレート組成物には、必要に応じて、スルホンアミド基を含有する化合物を、適宜の割合で含有することができる。
【0113】
スルホンアミド基を含有する化合物として、例えば、芳香族スルホンアミド類、脂肪族スルホンアミド類などが挙げられる。スルホンアミド基を含有する化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0114】
芳香族スルホンアミド類として、例えば、ベンゼンスルホンアミド、ジメチルベンゼンスルホンアミド、スルファニルアミド、o-およびp-トルエンスルホンアミド、ヒドロキシナフタレンスルホンアミド、ナフタレン-1-スルホンアミド、ナフタレン-2-スルホンアミド、m-ニトロベンゼンスルホンアミド、p-クロロベンゼンスルホンアミドなどが挙げられる。
【0115】
脂肪族スルホンアミド類として、例えば、メタンスルホンアミド、N,N-ジメチルメタンスルホンアミド、N,N-ジメチルエタンスルホンアミド、N,N-ジエチルメタンスルホンアミド、N-メトキシメタンスルホンアミド、N-ドデシルメタンスルホンアミド、N-シクロヘキシル-1-ブタンスルホンアミド、2-アミノエタンスルホンアミドなどが挙げられる。
【0116】
また、イソシアヌレート組成物は、必要により、有機溶媒で希釈することにより、イソシアヌレート組成物の希釈液として調製することができる。
【0117】
有機溶媒として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、例えば、アセトニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのアルキルエステル類、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネートなどのグリコールエーテルエステル類、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、臭化メチル、ヨウ化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミドなどの極性非プロトン類などが挙げられる。
(2)ポリオキシエチレン化合物
ポリオキシエチレン化合物は、少なくとも3つ連続したエチレンオキシド基と、イソシアネート基と反応可能な活性水素基(例えば、水酸基、アミノ基など)とを有する。
【0118】
ポリオキシエチレン化合物として、例えば、ポリオキシエチレン基含有ポリオール、ポリオキシエチレン基含有ポリアミン、片末端封鎖ポリオキシエチレングリコール、片末端封鎖ポリオキシエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0119】
ポリオキシエチレン基含有ポリオールとして、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレントリオール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダムおよび/またはブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンコポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックポリマージオールあるいはトリオール、ポリプロピレングリコールの末端にエチレンオキサイドを付加重合させたプルロニックタイプのポリプロピレングリコールあるいはトリオールなど)などが挙げられる。
【0120】
ポリオキシエチレン基含有ポリアミンとして、例えば、ポリオキシエチレンエーテルジアミンなどのポリオキシアルキレンエーテルジアミンなどが挙げられる。
【0121】
片末端封鎖ポリオキシエチレングリコールとして、例えば、炭素数1~20のアルキル基で片末端封止したアルコキシポリエチレングリコール(ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル)などが挙げられ、具体的には、メトキシポリエチレングリコール(ポリ(オキシエチレン)メチルエーテル)、エトキシポリエチレングリコール(ポリ(オキシエチレン)エチルエーテル)などが挙げられる。
【0122】
片末端封鎖ポリオキシエチレンジアミンとして、例えば、炭素数1~20のアルコキシ基で片末端封止したポリオキシエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0123】
このようなポリオキシエチレン化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0124】
ポリオキシエチレン化合物として、好ましくは、ポリオキシエチレン基含有ポリオール、および、片末端封鎖ポリオキシエチレングリコールが挙げられ、さらに好ましくは、片末端封鎖ポリオキシエチレングリコールが挙げられ、とりわけ好ましくは、アルコキシポリエチレングリコール(ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル)が挙げられ、特に好ましくは、メトキシポリエチレングリコールが挙げられる。
【0125】
このようなポリオキシエチレン化合物の数平均分子量は、例えば、200以上、好ましくは、300以上、例えば、1000以下、好ましくは、500以下である。なお、ポリオキシエチレン化合物の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定できる。
【0126】
また、ポリオキシエチレン化合物のエチレンオキシド基の含有量は、例えば、10質量%以上、好ましくは、15質量%以上、例えば、30質量%以下、好ましくは、25質量%以下である。
【0127】
(3)水分散型ポリイソシアネートの調製
次に、水分散型ポリイソシアネートの調製について説明する。
【0128】
水分散型ポリイソシアネートは、上記したイソシアヌレート組成物と、上記したポリオキシエチレン化合物との反応生成物であり、遊離のイソシアネート基を有する反応生成物を含む。
【0129】
このような水分散型ポリイソシアネートを調製するには、上記したイソシアヌレート組成物と、上記したポリオキシエチレン化合物とを、遊離のイソシアネート基が残存する割合で反応させる。
【0130】
イソシアヌレート組成物の遊離のイソシアネート基に対する、ポリオキシエチレン化合物の活性水素基の当量比(活性水素基/NCO)は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.10以上、例えば、0.30以下、好ましくは、0.20以下である。
【0131】
ポリオキシエチレン化合物の配合割合は、イソシアヌレート組成物100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、さらに好ましくは、25質量部以上、例えば、70質量部以下、好ましくは、60質量部以下、さらに好ましくは、55質量部以下である。
【0132】
また、イソシアヌレート組成物とポリオキシエチレン化合物との反応は、例えば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)雰囲気において、例えば、上記した有機溶媒の存在下において実施される。
【0133】
このような有機溶媒のなかでは、好ましくは、グリコールエーテルエステル類が挙げられ、さらに好ましくは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0134】
有機溶媒の添加割合は、イソシアヌレート組成物100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、10質量部以上、例えば、100質量部以下、好ましくは、50質量部以下、さらに好ましくは、30質量部以下である。
【0135】
反応温度は、例えば、50℃以上、好ましくは、70℃以上、例えば、150℃以下、好ましくは、110℃以下であり、反応圧力は、例えば、大気圧である。反応時間は、例えば、0.5時間以上、好ましくは、1時間以上、例えば、120時間以下、好ましくは、72時間以下である。
【0136】
反応の終了は、例えば、滴定法により測定されるイソシアネート量が変化しなくなることによって、判断できる。
【0137】
なお、無溶媒下において、イソシアヌレート組成物とポリオキシエチレン化合物とを反応させることもできる。
【0138】
これによって、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体(アルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体またはアルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体)のイソシアネート基と、ポリオキシエチレン化合物の活性水素基とが反応して、2つ以上の遊離のイソシアネート基が残存する反応生成物(以下、親水性イソシアヌレート誘導体とする。)が生成する。
【0139】
以上によって、親水性イソシアヌレート誘導体を含む水分散型ポリイソシアネートが調製される。なお、水分散型ポリイソシアネートは、水分散可能なポリイソシアネートであり、水や有機溶媒を含まない。
【0140】
親水性イソシアヌレート誘導体は、イソシアヌレート組成物がアルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体を含み、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含まない場合、アルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体とポリオキシエチレン化合物との反応生成物(アルコール無変性親水性イソシアヌレート誘導体)を含み、アルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体とポリオキシエチレン化合物との反応生成物(アルコール変性親水性イソシアヌレート誘導体)とを含まない。
【0141】
この場合、水分散型ポリイソシアネートは、少なくともアルコール無変性親水性イソシアヌレート誘導体を含み、例えば、未反応のアルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体をさらに含む組成物である。
【0142】
また、親水性イソシアヌレート誘導体は、イソシアヌレート組成物がアルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体およびアルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体を含む場合、アルコール無変性親水性イソシアヌレート誘導体と、アルコール変性親水性イソシアヌレート誘導体とを含む。
【0143】
この場合、水分散型ポリイソシアネートは、少なくともアルコール無変性親水性イソシアヌレート誘導体およびアルコール変性親水性イソシアヌレート誘導体を含み、例えば、未反応のアルコール無変性XDIイソシアヌレート誘導体および/または未反応のアルコール変性XDIイソシアヌレート誘導体をさらに含む組成物である。
【0144】
水分散型ポリイソシアネートにおける親水性イソシアヌレート誘導体の含有割合(固形分換算)は、例えば、20質量%以上、好ましくは、30質量%以上、例えば、95質量%以下、好ましくは、90質量%以下である。
【0145】
水分散型ポリイソシアネートにおける遊離のイソシアネート基の平均官能基数は、例えば、2以上、好ましくは、2.2以上、例えば、4.0以下、好ましくは、3.5以下である。
【0146】
水分散型ポリイソシアネートにおけるイソシアネート基濃度(固形分換算)は、例えば、5質量%以上、好ましくは、7質量%以上、例えば、30質量%以下、好ましくは、25質量%以下、さらに好ましくは、20質量%以下である。
【0147】
水分散型ポリイソシアネートにおけるエチレンオキシド基の含有量(固形分換算)は、17質量%以上、好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、22質量%以上、とりわけ好ましくは、25質量%以上、35質量%以下、好ましくは、34質量%以下である。なお、親水性イソシアヌレート誘導体におけるエチレンオキシド基の含有量は、後述する実施例に記載の方法に準拠して算出できる。
【0148】
水分散型ポリイソシアネートにおけるエチレンオキシド基の含有量が上記範囲内であれば、優れた水分散性を確保できながら、塗膜に優れた耐久性を付与することができる。
【0149】
また、水分散型ポリイソシアネートにおけるアルコール類の変性率は、例えば、0.10質量%以上、好ましくは、0.17質量%以上、例えば、6.0質量%以下、好ましくは、5.4質量%以下である。
【0150】
<ポリウレタン塗料>
このような水分散型ポリイソシアネートは、例えば、ポリウレタン樹脂原料などの公知の樹脂原料として用いることができ、好ましくは、ポリウレタン塗料原料、より具体的には、二液型ポリウレタン塗料原料として好適に用いられる。
【0151】
二液型ポリウレタン塗料原料は、上記した水分散型ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート成分としてのA剤と、ポリオール成分としてのB剤とを備える。そして、二液型ポリウレタン塗料原料は、別々に調製されるA剤(硬化剤)およびB剤(主剤)を使用直前に配合するものである。
【0152】
ポリイソシアネート成分では、上記した水分散型ポリイソシアネートが水に分散されて調製される。イソシアネート成分における水分散型ポリイソシアネートの含有割合は、適宜変更されるが、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、例えば、30質量%以下、好ましくは、20質量%以下である。
【0153】
なお、ポリオール成分において、マクロポリオール(後述)が水に分散されている場合、ポリイソシアネート成分において、水分散型ポリイソシアネートは水に分散されなくてもよい。
【0154】
ポリオール成分は、例えば、マクロポリオールを含み、好ましくは、マクロポリオールが水に分散されて調製される。
【0155】
マクロポリオールは、数平均分子量が250以上、好ましくは、400以上、例えば、10000以下の高分子量ポリオールである。
【0156】
マクロポリオールとして、例えば、ポリエステルポリオール、植物油系ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ウレタン変性ポリオールなどが挙げられる。マクロポリオールは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0157】
ポリエステルポリオールとして、例えば、多塩基酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸など)と低分子量ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなど)とのエステル化反応物などが挙げられる。
【0158】
植物油系ポリエステルポリオールとして、例えば、上記した低分子量ポリオールを開始剤とする、ヒドロキシル基含有植物油脂肪酸(例えば、リシノレイン酸を含有するひまし油脂肪酸、12-ヒドロキシステアリン酸を含有する水添ひまし油脂肪酸など)などのヒドロキシカルボン酸の縮合反応物などが挙げられる。
【0159】
ポリカプロラクトンポリオールとして、例えば、上記した低分子量ポリオールを開始剤とするラクトン類(例えば、ε-カプロラクトン、γ-バレロラクトンなど)の開環重合物などが挙げられる。
【0160】
ポリエーテルポリオールとして、例えば、上記した低分子量ポリオールを開始剤とするアルキレンオキシドの開環重合物などが挙げられる。
【0161】
ポリカーボネートポリオールとして、例えば、上記した低分子量ポリオールを開始剤とするエチレンカーボネートの開環重合物などが挙げられる。
【0162】
アクリルポリオールとして、例えば、ヒドロキシル基含有アクリレートと、そのヒドロキシル基含有アクリレートと共重合可能な共重合性ビニルモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0163】
ウレタン変性ポリオールは、例えば、上記したマクロポリロールと公知のポリイソシアネートとの反応生成物であって、例えば、ポリエステルタイプのポリウレタンポリオール、ポリエーテルタイプのポリウレタンポリオール、ポリカーボネートタイプのポリウレタンポリオール、ポリアクリルタイプのポリウレタンポリオール、ポリエステルポリエーテルタイプのポリウレタンポリオールなどが挙げられる。
【0164】
このようなマクロポリオールのなかでは、好ましくは、アクリルポリオールが挙げられる。
【0165】
また、必要に応じて、イソシアネート成分(硬化剤)およびポリオール化合物(主剤)のいずれか一方またはその両方に、例えば、反応溶媒、触媒、エポキシ樹脂、塗工性改良剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの安定剤、増粘剤、沈降防止剤、可塑剤、界面活性剤、顔料、充填剤、有機または無機微粒子、防黴剤などの添加剤を適宜配合することができる。添加剤の配合量は、その目的および用途により適宜決定される。
【0166】
このような二液型ポリウレタン塗料原料では、その使用時において、イソシアネート成分(硬化剤)とポリオール成分(主剤)とを配合する。
【0167】
イソシアネート成分(硬化剤)とポリオール成分(主剤)との配合割合は、例えば、マクロポリオールの水酸基に対する、水分散型ポリイソシアネートの遊離のイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/水酸基)が、例えば、0.1以上、好ましくは、0.5以上、例えば、5以下、好ましくは、3以下となる割合である。
【0168】
そして、イソシアネート成分とポリオール成分との混合物は、公知の塗装方法(例えば、スプレー塗装、ディップコート、スピンコート、回転霧化塗装、カーテンコート塗装など)により、被塗物に塗装され、乾燥されることにより塗膜を形成する。その後、塗膜は、加熱により硬化され、必要に応じて熟成される。
【0169】
加熱温度は、例えば、60℃以上、好ましくは、80℃以上、例えば、150℃以下、好ましくは、130℃以下である。
【0170】
以上によって、水分散型ポリイソシアネートを含む二液型ポリウレタン塗料原料から、塗膜(硬化塗膜)が形成される。このような塗膜(硬化塗膜)は、耐久性に優れている。
【0171】
<作用効果>
上記した水分散型ポリイソシアネートでは、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体と、ポリオキシエチレンポリオールとの反応生成物である親水性イソシアヌレート誘導体を含み、親水性イソシアヌレート誘導体におけるエチレンオキシド基の含有量が上記範囲である。そのため、優れた水分散性を確保できながら、塗膜に優れた耐久性を付与することができる。
【0172】
また、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体は、好ましくは、アルコール類により変性されている。
【0173】
そのため、水分散型ポリイソシアネートの水分散性の向上を図ることができながら、塗膜の耐折曲性の向上を図ることができる。
【0174】
また、イソシアヌレート組成物におけるアルコール類の変性率は、好ましくは、上記下限以上である。そのため、水分散型ポリイソシアネートの水分散性の向上を確実に図ることができながら、塗膜の耐折曲性の向上を確実に図ることができる。
【0175】
また、イソシアヌレート組成物におけるアルコール類の変性率は、好ましくは、上記上限以下である。そのため、塗膜の耐溶剤性の向上を確実に図ることができる。
【0176】
また、イソシアヌレート誘導体を変性するアルコール類は、好ましくは、2価の脂肪族アルコールを含む。そのため、塗膜の耐溶剤性の向上をより一層確実に図ることができる。
【実施例】
【0177】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
【0178】
また、各実施例および各比較例において採用される測定方法および算出方法を下記する。
【0179】
<蒸留収率>
イソシアヌレート組成物の蒸留収率は、反応液(蒸留前液)およびイソシアヌレート組成物(蒸留後液)の質量をそれぞれ測定し、下記式により反応液の質量に対するイソシアヌレート組成物の質量の割合を算出することにより求めた。
イソシアヌレート組成物の蒸留収率(質量%)=(イソシアヌレート組成物の質量(g)/反応液の質量(g))×100
<アルコール類の変性率(アルコール変性率)>
反応液におけるアルコール変性率は、キシリレンジイソシアネートの仕込み質量に対するアルコール類の仕込み質量として算出した。また、イソシアヌレート組成物におけるアルコール変性率(イソシアヌレート組成物のアルコール変性率)は、下記式により算出した。
イソシアヌレート組成物のアルコール変性率(質量%)=(反応液におけるアルコール変性率(質量%)/蒸留収率(質量%))×100
<イソシアネート基濃度、および、イソシアネート基の転化率(反応率)>
仕込液、反応液およびイソシアヌレート組成物のイソシアネート基濃度を、JIS K-1556(2006年)のn-ジブチルアミン法に準拠してそれぞれ測定した。また、仕込液のイソシアネート基濃度に対する、反応液またはイソシアヌレート組成物のイソシアネート基濃度の減少率を算出することにより、イソシアネート基の転化率(反応率)を求めた。
【0180】
なお、アルコール類の配合後かつイソシアヌレート化触媒の配合前におけるイソシアネート基の転化率がウレタン転化率であり、イソシアヌレート化触媒の配合後におけるイソシアネート基の転化率が、イソシアヌレート転化率である。
【0181】
<3分子体面積率>
イソシアヌレート組成物のサンプルをゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定し、得られたクロマトグラム(チャート)において、ポリスチレン換算分子量400~1000の間をピークトップとするピークの面積の、全ピークの面積に対する面積率から、3分子体面積率を求めた。
【0182】
なお、3分子体面積率は、下記装置において得られたクロマトグラム(チャート)において、保持時間26.8分から27.1分の間をピークトップとするピークの面積の、全ピークの面積に対する面積率でもある。
【0183】
GPC測定においては、サンプル約0.04g採取し、メタノールでメチルウレタン化させた後、過剰のメタノールを除去し、テトラヒドロフラン10mLを添加して溶解させた。そして、得られた溶液を、以下の条件でGPC測定した。
(1)分析装置 : Alliance(Waters社製)
(2)ポンプ : Alliance 2695(Waters社製)
(3)検出器 : 2414型示差屈折検出器(Waters社製)
(4)溶離液 : Tetrahydrofuran
(5)分離カラム :Plgel GUARD + Plgel 5μmMixed-C×3本(50×7.5mm,300×7.5mm)メーカー;Polymer Laboratories社製、品番;PL1110-6500
(6)測定温度:40℃
(7)流速:1mL/min
(8)サンプル注入量、注入濃度 : 100μL、1mg/mL
(9)解析装置 : EMPOWERデータ処理装置(Waters社製)
・システム補正
(1)標準物質名 : Polystyrene
(2)検量線作成方法 : 分子量の異なるTOSOH社製 TSKstandard Polystyreneを用い、リテンションタイム(保持時間)と分子量とのグラフを作成。
【0184】
<親水性基含有ポリイソシアネートにおけるエチレンオキシド基含有率>
親水性基含有ポリイソシアネート(水分散型ポリイソシアネート)におけるエチレンオキシド基含有率は、下記式により算出した。
エチレンオキシド基含有率(質量%)=ポリオキシエチレン化合物の仕込量(質量部)/[ポリイソシアネート組成物の仕込量(質量部)+ポリオキシエチレン化合物の仕込量(質量部)]×100
<イソシアヌレート組成物の調製>
調製例1
温度計、攪拌装置、窒素導入管および冷却管が装着された反応器に、窒素雰囲気下において、表1に示す処方となるように、1,3-キシリレンジイソシアネート(m-XDI、三井化学社製)と、酸化防止剤(2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノール、BHT、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)と、助触媒(テトラフェニル・ジプロピレングリコール・ジホスファイト、有機亜リン酸エステル、商品名:JPP-100、城北化学工業社製)とを仕込んだ。なお、この仕込液におけるイソシアネート基濃度は、44.7質量%であった。
【0185】
次いで、この仕込液に、固形分換算が表1に示す処方となるように、イソシアヌレート化触媒として、テトラブチルアンモニウムのハイドロオキサイド(TBAOH)の37質量%溶液を配合した後、表1に示す反応条件(反応開始温度、到達最高温度および反応時間)にて、イソシアヌレート化反応させた。
【0186】
次いで、得られた反応液を、薄膜蒸留装置(温度150℃、真空度50Pa)に通液して、未反応のキシリレンジイソシアネートなどを除去し、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体(XDIヌレート)を含有するイソシアヌレート組成物を調製した。なお、蒸留収率を表1に示す。
【0187】
また、この反応におけるイソシアネート基の転化率(すなわちイソシアヌレート転化率)、イソシアヌレート組成物におけるアルコール変性率、イソシアネート基濃度および3分子体面積率を表1に示す。
【0188】
調製例2~7
温度計、攪拌装置、窒素導入管および冷却管が装着された反応器に、窒素雰囲気下において、表1に示す処方となるように、1,3-キシリレンジイソシアネート(m-XDI、三井化学社製)と、表1に示す酸化防止と、表1に示す助触媒とを仕込んだ。なお、仕込液におけるイソシアネート基濃度を表1に示す。
【0189】
次いで、この仕込液に、表1に示す処方となるように、アルコール類を加えて、表1に示す反応条件(反応温度および反応時間)にて、ウレタン化反応させた。なお、1,3-ブタンジオールの水酸基に対する、1,3-キシリレンジイソシアネートのイソシアネート基の当量比(NCO/OH)を表1に示す。
【0190】
次いで、反応液を60℃に降温した。このときのウレタン化反応後の反応液のイソシアネート基濃度を表1に示す。
【0191】
次いで、この反応液に、固形分換算が表1に示す一次添加量となるように、イソシアヌレート化触媒として、テトラブチルアンモニウムのハイドロオキサイド(TBAOH)の37質量%溶液を反応液に配合し、イソシアヌレート化反応させた。その後、反応液に、固形分換算が表1に示す二次添加量となるように、上記のTBAOHのメタノール溶液を追加し、反応開始から表1に示す反応時間の経過後、イソシアヌレート化反応を終了させた。なお、イソシアヌレート化反応の到達最高温度、および、イソシアヌレート化反応後の反応液のイソシアネート基濃度を表1に示す。
【0192】
次いで、得られた反応液を、薄膜蒸留装置(温度150℃、真空度50Pa)に通液して、未反応のキシリレンジイソシアネートなどを除去し、アルコール類により変性されたキシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート誘導体(XDIヌレート)を含有するイソシアヌレート組成物を調製した。なお、蒸留収率を表1に示す。
【0193】
この反応におけるイソシアネート基の転化率(ウレタン転化率およびイソシアヌレート転化率)、イソシアヌレート組成物におけるアルコール変性率、イソシアネート基濃度および3分子体面積率を表1に示す。
【0194】
【0195】
<その他のイソシアネート組成物の準備>
調製例8
タケネートD-110N(キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン(TMP)アダクト体、イソシアネート基含有量11.5質量%、固形分75質量%、溶媒:酢酸エチル、三井化学社製)から、温度50℃、真空度50Paの条件下にて、酢酸エチルを除去した。
【0196】
その後、残存したキシリレンジイソシアネートのTMPアダクト体をPMAにより希釈して、固形分濃度85質量%のキシリレンジイソシアネートのTMPアダクト体のPMA溶液を調製した。キシリレンジイソシアネートのTMPアダクト体のPMA溶液におけるイソシアネート基含有量は、11.4質量%であった。
【0197】
調製例9
タケネートD-170N(ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の3量体組成物、イソシアネート基含有量20.7%、三井化学社製)を準備した。
【0198】
<親水性基含有ポリイソシアネートの調製>
実施例1~11および比較例1~5
攪拌機、温度計、冷却器および窒素ガス導入管を備えた容量2Lの反応器に、室温(25℃)において、表2に示す処方となるように、表2に示す各調製例のイソシアネート組成物(イソシアヌレート組成物またはその他のイソシアネート組成物)と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶媒、PMA)と、数平均分子量400のポリ(オキシエチレン)メチルエーテル(メトキシポリエチレングリコール、MePEG400、ポリオキシエチレン化合物)とを仕込んだ。
【0199】
次いで、この仕込液を90℃に加熱して、イソシアネート組成物とポリ(オキシエチレン)メチルエーテルとを、残存イソシアネート量に変化が無くなるまでウレタン化反応させた。
【0200】
以上によって、親水性基含有ポリイソシアネートのPMA溶液を調製した。なお、実施例1~11における親水性基含有ポリイソシアネートは、水分散型ポリイソシアネートである。
【0201】
親水性基含有ポリイソシアネートにおけるエチレンオキシド基含有率、親水性基含有ポリイソシアネートのPMA溶液の固形分濃度、および、親水性基含有ポリイソシアネートのPMA溶液のイソシアネート基濃度を表2に示す。
【0202】
<ポリウレタン塗料組成物の調製>
アクリルポリオール(商品名:RE4788、三井化学社製)を水に分散した分散液(ポリオール成分)を準備した。分散液は、最終的な水系ポリウレタン塗料組成物の固形分濃度が30質量%となるように濃度調整した。
【0203】
次いで、アクリルポリオールの水酸基と親水性基含有ポリイソシアネートのイソシアネート基とが当量となるように、分散液(ポリオール成分)に各実施例および各比較例の親水性基含有ポリイソシアネートのPMA溶液(ポリイソシアネート成分)を加えて、30分間攪拌することによって、ポリウレタン塗料組成物を調製した。
【0204】
<評価>
1.水分散性
各実施例および各比較例の親水性基含有ポリイソシアネートのPMA溶液10質量部と、水90質量部とを混合し、30分間攪拌して、親水性基含有ポリイソシアネートの水分散液を調製した。そして、親水性基含有ポリイソシアネートの水分散性を、下記の基準により目視にて評価した。
【0205】
固形分の分離や析出が起きていない均一な状態のものを○、分離物が微量観察される状態のものを△、固形分がほとんど分離・沈降してしまった状態のものを×とした。その結果を表2に示す。
【0206】
2.碁盤目試験
上記のように調製したポリウレタン塗料組成物を、100μmのアプリケーターにより、ブリキ板および亜鉛めっき鋼板のそれぞれの上に塗布して、23℃で3時間乾燥した後、120℃で30分硬化させた。その後、硬化させた塗膜を、23℃、相対湿度55%で7日間熟成した。
【0207】
次いで、各塗膜が形成されたブリキ板および亜鉛めっき鋼板を用いて、JIS K5600-5-6に基づいて、各塗膜の密着性を、テープ剥離後の密着部位の個数により下記の基準で評価した。
【0208】
密着した個数が25の場合は○、10より多く25未満の場合は△、10以下の場合は×とした。その結果を表2に示す。表2では、25マス中に剥離せずに密着した個数を読み取り、「密着した個数/25」として記載した。
【0209】
3.MEKラビング試験
碁盤目試験と同様にして、ブリキ板上に塗膜を形成した。そして、硬化させた各塗膜をメチルエチルケトン(MEK)に浸したガーゼによりラビングして、目視により塗膜表面に剥がれや削れが生じるまでのラビング回数を測定し、下記の基準で評価した。
【0210】
ラビング回数が400回以上のものを◎、ラビング回数が200回以上400回未満のものを○、ラビング回数が100回以上200回未満のものを△、ラビング回数が100回未満のものを×とした。その結果を表2に示す。
【0211】
4.エリクセン試験
碁盤目試験と同様にして、亜鉛めっき鋼板上に塗膜を形成した。そして、JIS K 5600-5-2(1999年)に準拠して、鋼板上の塗膜表面と反対側から、塗膜が形成された鋼板に20mm径の押し込み器をあて、鋼板をしっかり固定しておき、所定の速度で押し込み器を押し出して塗膜表面に割れ、剥がれを生じた時の押し出し長さ(mm)を、下記の基準で評価した。
【0212】
押し出し長さが8.0cm以上のものを◎、押し出し長さが7.0cm以上7.9cm以下のものを○、押し出し長さが6.9cm以下のものを△とした。その結果を表2に示す。
【0213】
5.鉛筆硬度試験
碁盤目試験と同様にして、亜鉛めっき鋼板上に塗膜を形成した。そして、塗膜の鉛筆硬度をJIS K5600-5-4に基づいて測定した。その結果を表2に示す。
【0214】
【0215】
なお、各表中の略号の詳細を下記する。
【0216】
m-XDI:1,3-キシリレンジイソシアネート(三井化学社製)、
1,3-BG:1、3-ブタンジオール、東京化成工業社製、
IBA:イソブチルアルコール、東京化成工業社製、
BHT:2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノール(別名:ジブチルヒドロキシトルエン、BHT、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)ヒンダードフェノール系酸化防止剤)、
Irg1076:イルガノックス1076(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チバ・ジャパン社製、商品名)、
JPP-100:テトラフェニル・ジプロピレングリコール・ジホスファイト(芳香族有機亜リン酸エステル、城北化学工業社製、商品名)、
JP-310:トリデシルホスファイト(脂肪族有機亜リン酸エステル、城北化学工業社製、商品名)、
TBAOH:テトラブチルアンモニウムのハイドロオキサイド、
MePEG400:ポリ(オキシエチレン)メチルエーテル、数平均分子量400、東邦化学工業社製、
PMA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、東京化成工業社製。