(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20230131BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20230131BHJP
B29C 69/02 20060101ALI20230131BHJP
B29C 43/02 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C70/06
B29C69/02
B29C43/02
(21)【出願番号】P 2018209034
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 令佳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋尚
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/096605(WO,A1)
【文献】特開2005-330605(JP,A)
【文献】特開2018-001475(JP,A)
【文献】特開2015-098669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を開放系のプレス機で熱プレスした後、さらに、閉鎖系の金型を用いて成形することを含み、
前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、カバリング糸である、繊維強化樹脂成形品の製造方法
であって、
前記閉鎖系の金型を用いた成形が、熱可塑性樹脂を含む組成物とのハイブリッド成形であり、
前記ハイブリッド成形が、熱プレスした後の織物を閉鎖系の金型に配置した後、熱可塑性樹脂を含む組成物を射出して成形することを含む、繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂を含む組成物に含まれる熱可塑性樹脂が、前記熱可塑性樹脂繊維に含まれる熱可塑性樹脂と同系統の熱可塑性樹脂である、請求項
1に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物が1プライである、請求項1
または2に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を2プライ以上積層することを含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、芯糸が強化繊維を含むカバリング糸である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、芯糸が強化繊維であり、鞘糸が熱可塑性樹脂繊維であるカバリング糸である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、強化繊維の長手方向に対し、熱可塑性樹脂繊維をらせん状に巻きつけた糸である、請求項
6に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
前記強化繊維が炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂繊維が、ポリアミド樹脂を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂繊維が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記熱プレスした後の織物の表面の強化繊維の配向の維持率が95%未満である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法;ここで配向の維持率とは、プレス成形品から経糸と緯糸に直交するように10mmx10mmの領域を5個所選択し、それぞれの領域から経糸の強化繊維を1本選択し、その強化繊維がプレス成形品の直線距離10mmを通過するのに要した長さを計測し、次式から求める維持率の平均値である;
維持率=[10mm/(強化繊維が直線距離10mmを通過するのに要した長さ(mm)]x100(単位%)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。具体的には、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を用いた繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種材料として、樹脂が、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維で強化された繊維強化樹脂材料が注目されている。このような繊維強化樹脂材料の1つとして、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を用いることが検討されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-056478号公報
【文献】特開2015-098669号公報
【文献】特開2005-330605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を熱プレスしようとすると、織物中の強化繊維の配向が乱れてしまうことが分かった。強化繊維の配向が乱れると機械的強度が劣ってしまう。特に、織物を構成する糸がカバリング糸である場合、強化繊維の配向が乱れやすいことが分かった。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、織物を熱プレスした成形品であって、織物を熱プレスすることに由来する強化繊維の配向の乱れが少なく、機械的強度が高い繊維強化樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行ったところ、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物であって、織物を構成する糸がカバリング糸を含む場合、該織物を複数プライ(ply)、つまり、複数枚重ねた時、熱プレス機のプレス面に近い領域、例えば、上記織物の内、表層に近い2プライ程度において、強化繊維の配向の乱れが生じることが分かった。本発明は、織物を開放系のプレス機で熱プレスした後、閉鎖系の金型を用いて成形することにより、強化繊維の配向の乱れを抑制することに成功した。
具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<14>により、上記課題は解決された。
<1>強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を開放系のプレス機で熱プレスした後、さらに、閉鎖系の金型を用いて成形することを含み、前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、カバリング糸である、繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<2>前記閉鎖系の金型を用いた成形が、熱可塑性樹脂を含む組成物とのハイブリッド成形である、<1>に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<3>前記ハイブリッド成形が、熱プレスした後の織物を閉鎖系の金型に配置した後、熱可塑性樹脂を含む組成物を射出して成形することを含む、<2>に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<4>前記熱可塑性樹脂を含む組成物に含まれる熱可塑性樹脂が、前記熱可塑性樹脂繊維に含まれる熱可塑性樹脂と同系統の熱可塑性樹脂である、<2>または<3>に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<5>強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物が1プライである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<6>強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を2プライ以上積層することを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<7>前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、芯糸が強化繊維を含むカバリング糸である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<8>前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、芯糸が強化繊維であり、鞘糸が熱可塑性樹脂繊維であるカバリング糸である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<9>前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、強化繊維の長手方向に対し、熱可塑性樹脂繊維をらせん状に巻きつけた糸である、<8>に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<10>前記強化繊維が炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<11>前記熱可塑性樹脂繊維が、ポリアミド樹脂を含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<12>前記熱可塑性樹脂繊維が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂を含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
<13>前記熱プレスした後の織物の表面の強化繊維の配向の維持率が95%未満である、<1>~<12>のいずれか1つに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法;ここで配向の維持率とは、プレス成形品から経糸と緯糸に直交するように10mmx10mmの領域を5個所選択し、それぞれの領域から経糸の強化繊維を1本選択し、その強化繊維がプレス成形品の直線距離10mmを通過するのに要した長さを計測し、次式から求める維持率の平均値である;
維持率=[10mm/(強化繊維が直線距離10mmを通過するのに要した長さ(mm))]x100(単位%)。
<14>強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を開放系のプレス機で熱プレスしてなる繊維強化樹脂材料であって、前記熱プレスした後の織物の表面の強化繊維の配向の維持率が95%未満である繊維強化樹脂材料;ここで配向の維持率とは、プレス成形品から経糸と緯糸に直交するように10mmx10mmの領域を5個所選択し、それぞれの領域から経糸の強化繊維を1本選択し、その強化繊維がプレス成形品の直線距離10mmを通過するのに要した長さを計測し、次式から求める維持率の平均値である;
維持率=[10mm/(強化繊維が直線距離10mmを通過するのに要した長さ(mm))]x100(単位%)。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、織物を熱プレスすることに由来する強化繊維の配向の乱れが少なく、機械的強度が高い繊維強化樹脂成形品を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】強化繊維の配向の乱れを示す概略図である。
図1において、1は織物を、2は強化繊維を示す。
【
図2】強化繊維の配向の乱れを示すX線顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法(以下、単に、「本発明の製造方法」ということがある)は、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物を開放系のプレス機で熱プレスした後、さらに、閉鎖系の金型を用いて成形することを含み、前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、カバリング糸であることを特徴とする。このような構成とすることにより、熱プレスして、織物中の強化繊維の配向が乱れても、閉鎖系の金型を用いて成形した後の成形品の配向の乱れを抑制することができる。そして、得られる繊維強化樹脂成形品の機械的強度を高くすることが可能になる。本明細書では、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物であって、該織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方は、カバリング糸である織物を、「カバリング糸から形成された織物」ということがある。
具体的には、カバリング糸から形成された織物を熱プレス機で熱プレスすると、
図1に示すように強化繊維の配向の乱れが生じる。また、
図2は実際に、強化繊維の配向の乱れが生じた状態を示すX線顕微鏡写真である。これは、熱プレス機のプレス面に近い、織物の表面領域で起こることが多い。これは、織物の表層領域では、樹脂流れが多く、強化繊維の配向が乱れてしまうことに基づくと推定された。本発明では、カバリング糸から形成された織物を開放系のプレス機で熱プレスした後、閉鎖系の金型で成形することにより、このような繊維強化樹脂材料でも強度に優れた成形品が得られることを見出した。この理由は推測であるが、プレス機での熱プレスの際に強化繊維にテンションがかかるが、かかるテンションが残留応力となり、再度、閉鎖系の金型で成形することにより、強化繊維の配向が適切なものとなると考えられる。繊維強化樹脂製品の製造においては、一度熱プレスしたものを、目的の形に再度成形することも多いので、かかる観点からも本発明の製造方法は有益である。本発明の製造方法は、特に、凹凸が多い金型などの場合に有益である。凹凸が多い金型の一実施形態としては、金型のうち、基準面(金型内の同じ高さの面のうち、最も合計面積が大きい高さの面)に対し、凹部または凸部となっている部位の合計が少なくとも2つ以上ある形態であり、好ましくは、前記凹部または凸部となっている部位の合計が5つ以上である形態であり、より好ましくは、5~7である。凹凸が多い金型の他の実施形態としては、金型のうち、基準面以外の高さの領域が、金型の基準面の面積の50%以上である形態であり、好ましくは、前記基準面以外の高さの領域が、金型の基準面の面積の66%以上であり、より好ましくは66~78%である。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法は、カバリング糸から形成された織物を開放系のプレス機で熱プレスする工程を含む。開放系のプレス機とは、成形品の形状に対し、大気に開放されている部分が少なくとも一か所ある状態で熱プレスする装置をいう。このような開放系のプレス機は、プレス成形時に開放部から熱可塑性樹脂が漏れてしまい、熱可塑性樹脂の漏れによって強化繊維の配向が乱れてしまう。本発明では、このように強化繊維の配向が乱れてしまった繊維強化樹脂材料を閉鎖系の金型を用いて成形することにより、強化繊維の配向の乱れを抑制している。本発明の製造方法では、カバリング糸から形成された織物は、プレス機の熱プレスする面と、少なくとも一方の面において接していることが好ましい。本発明では、プレス機の熱プレスする面の両面が、それぞれ、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成された織物と接していることが好ましい。また、本発明で用いるカバリング糸から形成された織物の経糸と横糸の一方のみがカバリング糸である場合、カバリング糸である方が、プレス機の搬送方向に垂直な方向となるように配置することが好ましい。すなわち、本発明では、プレス機の搬送方向に垂直な方向が、少なくとも、カバリング糸から形成された糸となるように、織物を配置することが好ましい。
本発明で用いるプレス機としては、特に定めるものではないが、例えば、汎用のプレス機、ロールプレス機、ベルトプレス機、特に、ダブルベルトプレス機を用いることができる。ダブルベルトプレス機は、例えば、特開2017-066255号公報の段落0012および
図1の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0011】
本発明における熱プレスの温度は特に定めるものではないが、熱可塑性樹脂繊維が溶融する温度以上であることが必要である。例えば、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgを基準とした場合、Tg+50~300℃であることが好ましく、Tg+70~250℃であることがより好ましく、Tg+100~200℃であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂である場合、熱プレス温度は、前記結晶性熱可塑性樹脂の融点Tmを基準として、Tm+5~100℃であることが好ましく、Tm+10~90℃であることがより好ましく、Tm+20~80℃であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂繊維が2種以上の熱可塑性樹脂を含む場合、含有量が最も多い成分のTgまたはTmを熱可塑性樹脂のTgまたはTmとする。熱可塑性樹脂繊維が2種以上の樹脂を等量含む場合、最も高いTgまたはTmを有する樹脂のTgまたはTmとする。
【0012】
本発明における熱プレスの圧力は特に定めるものではないが、1MPa以上であることが好ましく、1~6MPaがより好ましく、2~5MPaがさらに好ましく、3~5MPaが一層好ましい。このような範囲とすることにより、熱可塑性樹脂の強化繊維への含浸が促進され、得られる繊維強化樹脂材料中のボイドをより減少させることが可能となる。熱プレスの時間は、10秒~3分間が好ましく、30秒~2分30秒間がより好ましい。このような範囲とすることにより、得られる繊維強化樹脂材料の変色(例えば、黄色化)を抑えつつ、熱可塑性樹脂を適切に含浸させることができる。
【0013】
熱プレスする織物は、カバリング糸から形成された織物が1プライであってもよいし、2プライ以上を積層してもよい。本発明の製造方法では、熱プレスされる材料が前記織物1プライのみであっても、後述する開放系の金型を用いる成形と組み合わせることにより、優れた成形品を得ることができる。これは、織物内部まで即時に加熱され、溶融樹脂の滞留が抑えられるためである。
また、本発明の製造方法では、カバリング糸から形成された織物を2プライ以上積層するものであってもよい。2プライ以上を積層することにより、目的の機械物性や寸法の成形品を少ない工程数で得ることが可能になる。本発明では織物を3プライ以上積層することがより好ましく、5プライ以上積層することがさらに好ましく、7プライ以上積層することが一層好ましい。また、積層数の上限は、50プライ以下が好ましく、40プライ以下がより好ましく、15プライ以下がさらに好ましい。織物を2プライ以上積層する場合、これらは、それぞれ、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
さらに、本発明では、カバリング糸から形成された織物以外の材料も同時に熱プレスしてもよい。例えば、樹脂フィルムや強化繊維シート、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を含む織物以外の材料(例えば、不織布)なども前記織物と共に熱プレスする形態が例示される。
本発明では、熱プレス前の、プレスされる材料を重ねた厚さが1~50mmであることが好ましく、5~40mmであることがより好ましい。また、前記熱プレスした後の材料の厚さが0.1~5mmであることが好ましく、0.5~4mmであることがより好ましい。
【0014】
本発明では、熱プレスした後(かつ、閉鎖系の金型を用いた成形前)の織物の表面の強化繊維の配向の維持率が95%未満であることが好ましく、92%未満であることがより好ましく、90%未満であってもよい。下限値については、特に定めるものではないが、通常は、80%以上である。
ここで配向の維持率とは、プレス成形品から経糸と緯糸に直交するように10mmx10mmの領域を5個所選択し、それぞれの領域から経糸の強化繊維を1本選択し、その強化繊維がプレス成形品の直線距離10mmを通過するのに要した長さ(単位:mm)を計測し、次式から求める維持率の平均値である。
維持率=[10mm/(強化繊維が直線距離10mmを通過するのに要した長さ(mm))]x100(単位%)
具体的には、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0015】
次に、本発明で用いる織物について説明する。
本発明で用いる織物は、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を含み、前記織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方(好ましくは、少なくとも緯糸)は、カバリング糸である。カバリング糸を用いた場合、強化繊維の配向の乱れが特に生じやすかったが、本発明の方法を採用することにより、強化繊維の配向の乱れを効果的に抑制できる。
本発明における織物は、強化繊維が規則的に配列している。本発明では、強化繊維が一方向、すなわち、経糸方向または緯糸方向にのみ規則的に配列していてもよいし、二方向、すなわち、経糸方向および緯糸方向の両方向に規則的に配列していてもよい。本発明における織物は、強化繊維が織物の経糸および/または緯糸として、直線状に並列していることが好ましい。しかしながら、詳細を後述するとおり、強化繊維がカバリング糸の鞘糸を構成する場合なども、本発明における規則的な配列に含まれることは言うまでもない。
本発明で用いる織物は、織物を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方が、カバリング糸である。経糸および緯糸の他方は、強化繊維を糸として用いてもよいし、熱可塑性樹脂繊維を糸として用いてもよいし、カバリング糸であってもよいし、カバリング糸以外の強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸であってもよい。本発明では、織物を構成する経糸および緯糸の両方がカバリング糸であることが好ましい。
【0016】
カバリング糸とは、1本または複数本の芯糸に、1本または複数本の鞘糸を巻きつけたものをいう。芯糸が複数本の糸で構成される場合、これらの糸は引き揃えられていても、撚り合わされていてもよい。鞘糸が複数本の糸で構成される場合、これらの糸は互いに独立していても、引き揃えられていても、撚り合わされていてもよい。本発明では、カバリング糸製造の効率性の観点から、芯糸は1本であることが好ましく、鞘糸は、1~5本であることが好ましい。本発明において、2~5本の鞘糸が用いられる場合、毛羽発生を抑制できることから、これらの糸は撚り合わされていることが好ましい。通常は、芯糸に、鞘糸がらせん状に巻きつけられる。また、鞘糸は一方向に巻きつけられていてもよいし、二方向以上(特に、二方向)に巻きつけられていてもよい。本発明では、一方向に巻きつけられていることが好ましい。カバリング糸を構成する強化繊維および熱可塑性樹脂繊維は、通常、それぞれ、連続強化繊維および連続熱可塑性樹脂繊維である。ただし、本発明では短繊維の強化繊維や短繊維の熱可塑性樹脂繊維をよりあわせる等の手段によって、糸状にして用いることを排除するものではない。
【0017】
本発明におけるカバリング糸の第一の実施形態は、芯糸が強化繊維を含む形態である。カバリング糸であって、芯糸が強化繊維を含む場合に、特に、強化繊維の配向が乱れやすい。そのため、本発明の方法を適用する効果が顕著に発揮される。
カバリング糸の第一の実施形態においては、芯糸が強化繊維であり、鞘糸が熱可塑性樹脂繊維であるカバリング糸であることが好ましい。より具体的には、強化繊維の長手方向に対し、熱可塑性樹脂繊維をらせん状に巻きつけた糸である。
また、カバリング糸の第一の実施形態においては、芯糸がカバリング糸以外の強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸であり、鞘糸が強化繊維および/または熱可塑性樹脂繊維から構成される糸であることも好ましい。より好ましくは、芯糸がカバリング糸以外の強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸であり、鞘糸が熱可塑性樹脂繊維から構成される糸である。
【0018】
本発明におけるカバリング糸の第二の実施形態は、芯糸が熱可塑性樹脂繊維であり、鞘糸が強化繊維を含む糸である形態である。
【0019】
カバリング糸以外の強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸としては、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維から構成される糸であることが好ましい。また、本発明では短繊維の強化繊維や短繊維の熱可塑性樹脂繊維をよりあわせる等の手段によって、糸状にして用いてもよい。
カバリング糸以外の強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸は、具体的には、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される混繊糸、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される組み紐、編み紐が挙げられる。
本発明で用いるカバリング糸以外の強化繊維と樹脂繊維から構成される糸としては、上記の他、WO2014/136662号公報に記載の混繊糸、WO2016/039242号公報に記載の混繊糸、WO2017/033746号公報に記載の材料、WO2016/159340号公報に記載の複合材料、特開2016-210027号公報に記載の材料、特開2017-110322号公報の段落0010~0033に記載の複合糸が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
カバリング糸およびカバリング糸以外の強化繊維と樹脂繊維から構成される糸は、それぞれ、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維で全体の80質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0020】
本発明における織物は、特に制限はなく、平織、八枚朱子織、四枚朱子織、綾織等のいずれでもよい。また、いわゆるバイアス織、ジャガード織でもよい。さらに、特開昭55-30974号公報に記載されているように実質的に屈曲を有しないいわゆるノンクリンプ織物であってもよい。
【0021】
本発明における織物は、強化繊維の割合が20~80体積%であることが好ましく、30~70体積%であることがより好ましく、35~65体積%であることが一層好ましい。また、強化繊維の割合が15~85質量%であることが好ましく、25~75質量%であることがより好ましく、30~60質量%であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、機械物性と成形加工性により優れる傾向にある。
また、樹脂繊維の割合が15~85質量%であることが好ましく、25~75質量%であることがより好ましく、40~70質量%であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、ドレープ性能に優れ、成形加工しやすい傾向にある。
さらに、本発明における織物は、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維以外の成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本発明における織物は、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維の合計が80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることが一層好ましい。また、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維の合計が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される。
本発明における織物の目付は、50~10000g/m2であることが好ましく、75~9000g/m2であることがより好ましく、100~8000g/m2であることがさらに好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0022】
本発明における織物は、織物の少なくとも一方向の端部が、中心部よりも強化繊維の割合が多い構成であってもよい。このような構成とすることにより、内部から流れ出た樹脂を端部の強化繊維がトラップすることができる。ここで、織物の少なくとも一方向とは、織物の経糸方向および緯糸方向の内の一方向をいう。端部とは、経糸方向の織物の長さまたは緯糸方向の織物の幅のうち、織物の端から10%以内の領域をいい、5%以内の領域であってもよい。また、織物の端部とは、具体的には、織物の端1~20cmの領域をいう。本発明の製造方法において、連続的に繊維強化樹脂材料を製造する場合、緯糸方向の端部が中心部よりも強化繊維の割合が多いことが好ましい。
本発明では、織物の中心部(織物の端から10%以内の領域以外の領域)に含まれる織物の単位面積当たりの強化繊維の体積を100としたとき、織物の端部(織物の端から10%以内の領域)に含まれる織物の単位面積当たりの強化繊維の体積が110~200であることが好ましく、150~200であることがより好ましい。
【0023】
本発明における織物の他の実施形態として、経糸方向および緯糸方向によって構成される織物面に対し垂直な方向に、第三の繊維が織り込まれている態様である。第三の繊維を織り込むことにより、強化繊維が固定され、強化繊維の配向をより乱れにくくすることができる。
第三の繊維は、熱プレス時に溶融してもよいし、溶融しなくてもよいが、溶融しないことが好ましい。第三の繊維は、強化繊維であってもよいし、樹脂繊維(熱可塑性樹脂繊維、熱硬化性樹脂繊維)であってもよいし、それ以外の繊維であってもよいが、樹脂繊維が好ましく、熱可塑性樹脂繊維がより好ましい。
第三の繊維として、熱可塑性樹脂繊維を用いる場合、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgを基準とした場合、Tg+10~300℃であることが好ましく、Tg+30~280℃であることがより好ましく、Tg+50~260℃であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂である場合、前記結晶性熱可塑性樹脂の融点Tmを基準として、Tm+10~200℃であることが好ましく、Tm+20~190℃であることがより好ましく、Tm+30~180℃であることがさらに好ましい。
第三の繊維は、1プライの織物に織り込まれていてもよいし、2プライ以上の織物を重ねた状態で織り込まれていてもよい。2プライ以上の織物を重ねた状態で織り込むことにより、織物間の剥離による成形品の強度の低下を効果的に抑制できる。
第三の繊維は、上記織物面に対し、クリンプの角度が10~80度であることが好ましく、20~70度であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、得られる成形品の機械的強度を効果的に向上させ、かつ、強化繊維の配向をより効果的に抑制できる。
【0024】
次に、本発明で用いる強化繊維について説明する。本発明で用いる強化繊維は織物を構成する。本発明で用いる強化繊維は、短繊維であっても、長繊維(連続強化繊維)であってもよいが、連続強化繊維が好ましい。連続強化繊維とは、30mm以上の数平均繊維長を有する強化繊維をいい、50cm以上の数平均繊維長を有する連続強化繊維であることが好ましい。本発明で使用する連続強化繊維の数平均繊維長は特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1~20,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100~10,000m、さらに好ましくは1,000~7,000mである。
【0025】
本発明で用いる強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維(スチール繊維等)等の無機繊維、および、植物繊維(ケナフ(Kenaf)、竹繊維等を含む)、アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維などが挙げられる。なかでも、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維の少なくとも1種であることが好ましく、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも1種であることがより好ましく、ガラス繊維の少なくとも1種であることが特に好ましい。また、強化繊維の配向の回復効果の観点からは、炭素繊維の少なくとも一種であることが好ましい。
【0026】
本発明で用いる強化繊維は、処理剤で処理されたものを用いることが好ましい。このような処理剤としては、集束剤や表面処理剤が例示され、特許第4894982号公報の段落番号0093および0094に記載のものが好ましく採用され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
前記処理剤の量は、強化繊維の0.001~1.5質量%であることが好ましく、0.1~1.2質量%であることがより好ましく、0.5~1.1質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明で用いる強化繊維は、モノフィラメントであってもよいが、マルチフィラメントであることが好ましい。
【0028】
次に、本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維について説明する。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、短繊維であってもよいし、長繊維(連続繊維)であってもよく、連続繊維が好ましい。連続繊維とは、30mm以上の数平均繊維長を有する繊維をいい、50cm以上の数平均繊維長を有する繊維であることが好ましい。本発明で使用する連続繊維の数平均繊維長は特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1~20,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100~10,000m、さらに好ましくは1,000~7,000mである。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、モノフィラメントであってもよいが、マルチフィラメントであることが好ましい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂繊維形成用組成物からなる。熱可塑性樹脂繊維形成用組成物は、熱可塑性樹脂を主成分(通常は、組成物の90質量%以上が、好ましくは95質量%以上が熱可塑性樹脂)とするものであり、他に、必要に応じ、公知の添加剤等を適宜配合したものである。本発明の実施形態の一例として、熱可塑性樹脂繊維形成用組成物に含まれる樹脂は、特定の1種の樹脂が全体の80質量%以上を占める態様が挙げられ、さらには、熱可塑性樹脂繊維形成用組成物に含まれる樹脂は、特定の1種の樹脂が全体の90質量%以上を占める態様も挙げられる。また、熱可塑性樹脂繊維形成用組成物に含まれる樹脂は、2種以上のブレンドであってもよい。
熱可塑性樹脂としては、繊維強化樹脂材料に用いる熱可塑性樹脂を広く使用することができ、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができ、ポリアミド樹脂およびポリアセタール樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂がさらに好ましい。
本発明における熱可塑性樹脂繊維がポリアミド樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂中のポリアミド樹脂の割合が、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましい。
【0029】
本発明では、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の、温度が融点+20℃、剪断速度1216sec-1、保持時間6分における溶融粘度が10Pa・sec以上であることが好ましく、25Pa・sec以上であることがより好ましく、100Pa・sec以上、150Pa・sec以上であってもよい。前記溶融粘度の上限値は、1000Pa・sec以下であることが好ましく、750Pa・sec以下であることがより好ましく、500Pa・sec以下であることがさらに好ましく、400Pa・sec以下であることが一層好ましく、300Pa・sec以下であることがより一層好ましい。このような溶融粘度とすることにより、含浸速度が上がり、生産性により優れた繊維強化材料が得られる。
【0030】
ポリアミド樹脂としては、公知のポリアミド樹脂が用いられる。
例えば、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド樹脂、および、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリアミド9T、詳細を後述するXD系ポリアミド樹脂等の半芳香族ポリアミド樹脂が挙げられる。半芳香族ポリアミド樹脂とは、ポリアミド樹脂の全構成単位のうち、40~60モル%が芳香環を含む構成単位であることをいう。
【0031】
また、ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂(以下、「XD系ポリアミド樹脂」ということがある)がより好ましい。
XD系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の、50モル%以上が、好ましくは70モル%以上が、さらに好ましくは90モル%以上が、一層好ましくは95モル%以上が、より一層好ましくは99モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミン)に由来する。また、XD系ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位の、50モル%以上が、好ましくは70モル%以上が、さらに好ましくは90モル%以上が、一層好ましくは95モル%以上が、より一層好ましくは99モル%以上が炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
【0032】
XD系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン構成単位の50モル%以下であり、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1~25モル%、特に好ましくは5~20モル%の割合で用いる。
【0033】
ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸が好ましい。
【0034】
上記炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸異性体を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0035】
ジカルボン酸成分として、炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性、バリア性の点から、テレフタル酸、イソフタル酸を用いることが好ましい。テレフタル酸、イソフタル酸を配合する場合、配合割合は、好ましくはジカルボン酸構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1~30モル%、特に好ましくは5~20モル%の範囲である。
【0036】
さらに、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、ポリアミド樹脂を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲でε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。
【0037】
本発明では、XD系ポリアミド樹脂を構成する全構成単位の好ましくは90モル%以上が、より好ましくは95モル%以上が、さらに好ましくは99モル%以上が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成される。
【0038】
本発明で用いることができるXD系ポリアミド樹脂として、ポリメタキシリレンアジパミド樹脂、ポリメタキシリレンセバカミド樹脂、ポリパラキシリレンセバカミド樹脂、および、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合キシリレンジアミンをアジピン酸と重縮合してなるポリメタキシリレン/パラキシリレン混合アジパミド樹脂が好ましく、より好ましいものは、ポリメタキシリレンセバカミド樹脂、ポリパラキシリレンセバカミド樹脂、および、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合キシリレンジアミンをセバシン酸と重縮合してなるポリメタキシリレン/パラキシリレン混合セバカミド樹脂である。これらのポリアミド樹脂は成形加工性が特に良好となる傾向にある。
【0039】
本発明で用いるXD系ポリアミド樹脂は、温度が融点+20℃、剪断速度1216sec-1、保持時間6分における溶融粘度が10Pa・sec以上であることが好ましく、25Pa・sec以上であることがより好ましく、100Pa・sec以上、150Pa・sec以上であってもよい。前記溶融粘度の上限値は、1000Pa・sec以下であることが好ましく、750Pa・sec以下であることがより好ましく、500Pa・sec以下であることがさらに好ましく、400Pa・sec以下であることが一層好ましく、300Pa・sec以下であることがより一層好ましい。このような溶融粘度とすることにより、含浸性をより向上でき、さらに、変色(例えば、黄色化)のさらなる低減をはかることができる。
XD系ポリアミド樹脂の溶融粘度は、例えば、原料ジカルボン酸成分およびジアミン成分の仕込み比、重合触媒、分子量調節剤、重合温度、重合時間を適宜選択することにより調整できる。
【0040】
本発明においては、ポリアミド樹脂の融点は、150~310℃であることが好ましく、180~300℃であることがより好ましい。
また、ポリアミド樹脂のガラス転移点は、50~110℃が好ましく、55~100℃がより好ましく、特に好ましくは60~100℃である。この範囲であると、耐熱性が良好となる傾向にある。
【0041】
なお、融点とは、DSC(示差走査熱量測定)法により観測される昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度である。また、ガラス転移点とは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定されるガラス転移点をいう。測定には、例えば、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC-60」を用い、試料量は約5mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温(25℃)から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めることができる。次いで、溶融したポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移点を求めることができる。
【0042】
上述のとおり、熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂繊維形成用組成物からなることがより好ましい。熱可塑性樹脂繊維形成用組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とするものであり、添加剤等が含まれていてもよい。
【0043】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維形成用組成物はエラストマー成分を含んでいてもよい。
エラストマー成分としては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコン系エラストマー等公知のエラストマーが使用でき、好ましくはポリオレフィン系エラストマーおよびポリスチレン系エラストマーである。これらのエラストマーとしては、ポリアミド樹脂に対する相溶性を付与するため、ラジカル開始剤の存在下または非存在下で、α,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物、アクリルアミド並びにそれらの誘導体等で変性した変性エラストマーも好ましい。
【0044】
エラストマー成分の含有量は、熱可塑性樹脂繊維形成用組成物中の通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、特には10質量%以下である。
【0045】
さらに、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維形成用組成物には、酸化防止剤、熱安定剤等の安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、滑剤等の添加剤等を加えることができる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0046】
本発明では、熱プレス機で熱プレスした織物(繊維強化樹脂材料)を、さらに、閉鎖系の金型を用いて成形する。前記閉鎖系の金型を用いた成形は、熱プレスの直後に行ってもよいし、時間をおいて行ってもよい。
本発明では、熱プレスの後、連続的に閉鎖系の金型を用いて成形することが好ましい。連続的にとは、例えば、熱プレスによって可塑化した織物中の熱可塑性樹脂繊維が完全に硬化する前に閉鎖系金型を用いて成形することをいう。同一工場内で、熱プレスと閉鎖系金型を用いた成形を逐次的に行っている態様なども、連続的に成形することに該当する。
また、時間をおいて行う場合、繊維強化樹脂材料は、一旦ロールに巻き取ってもよい。
閉鎖系の金型とは、加圧時に溶融樹脂が型外に流出しない程度に、全方向が密閉されている金型を意味する。閉鎖系の金型は、凹凸を有する金型であることが好ましく、上述した凹凸が多い金型であることがより好ましい。このような凹凸を有する金型を用いることで、強化繊維が閉鎖系の金型内でストレッチされ、より効果的に強化繊維の配向を適切なものとすることができる。
【0047】
前記閉鎖系の金型を用いた成形としては、熱プレスした織物を閉鎖系の金型に配置する限り、特に定めるものではない。
本発明では、熱プレスした織物のみを閉鎖系の金型に配置して成形してもよいが、好ましくは、IRヒーター等で加熱した後に絞りプレス成形を閉鎖系の金型で実施することが好ましく、熱プレスした織物と他の材料を金型に配置してハイブリッド成形することが特に好ましい。プレス金型としては、高速で温度調整可能な電磁誘導加熱システムや、Thermo Assisted Moldingシステムを導入した金型が好ましい。また量産に適する、単発型・トランスファー型・順送などの金型が好ましい。また、複雑形状を成形可能な3分割、4分割あるいはそれ以上に分割される金型が挙げられる。他の材料としては、特に定めるものではないが、熱可塑性樹脂を含む組成物が例示される。本発明では、熱プレスした後の織物を閉鎖系の金型に配置した後、熱可塑性樹脂を含む組成物を射出して成形する方法が好ましい。
【0048】
前記熱可塑性樹脂を含む組成物を射出する時の金型温度は、織物を構成する熱可塑性樹脂繊維の融点以上またはガラス転移温度以上であることが好ましい。より好ましくは、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点+10℃以上またはガラス転移温度+10℃以上であり、さらに好ましくは、融点+20℃以上またはガラス転移温度+20℃以上、一層好ましくは融点+30℃以上またはガラス転移温度+30℃以上である。上限値は特に定めるものではないが、例えば、融点+70℃以下またはガラス転移温度+70℃以下とすることができる。熱可塑性樹脂が融点とガラス転移温度の両方を有する場合は、高い方の温度が上記範囲を満たすことが好ましい。
また、前記熱可塑性樹脂を含む組成物を射出して金型に充填するタイミングは、熱プレスした織物を金型内にセットして金型を閉じた後に金型温度が熱可塑性樹脂の融点、ガラス転移点以上に昇温してから、30秒以内が好ましい。
前記ハイブリッド成形によって得られる繊維強化樹脂成形品は、織物と、射出成形により形成された熱可塑性樹脂を含む組成物の接合部分は、互いに混じり合った凹凸構造となっていることが好ましい。
前記金型温度を射出する熱可塑性樹脂を含む組成物の融点以上とし、射出成形時の樹脂の保圧を高く、例えば、1MPa以上とすることは界面強度を高める上で有効である。界面強度を高めるためには、保圧を5MPa以上とすることが好ましく、10MPa以上とすることがより好ましい。上限値については、特に定めるものではないが、例えば、20MPa以下とすることができる。
また、保圧時間は、例えば5秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは金型温度が熱可塑性樹脂を含む組成物の融点以下になるまでの間の時間保持することは、界面強度を高める観点から好ましい。保圧時間の上限は、特に定めるものではないが、例えば、5分以下とすることができる。
【0049】
前記熱可塑性樹脂を含む組成物は、1種または2種以上の熱可塑性樹脂のみからなっていてもよいし、熱可塑性樹脂以外の成分を含んでいてもよい。
前記熱可塑性樹脂を含む組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、前記熱可塑性樹脂繊維に含まれる熱可塑性樹脂と同系統の熱可塑性樹脂であることが好ましい。同系統の熱可塑性樹脂とは、例えば、ポリアミド樹脂同士、ポリエステル樹脂同士、ポリオレフィン樹脂同士、ポリプロピレン樹脂同士、ポリエチレン樹脂同士、アクリル樹脂同士、ポリアセタール樹脂同士、ポリカーボネート樹脂同士、スチレン樹脂同士、ポリイミド樹脂同士、ポリアミドイミド樹脂同士、ポリアミド樹脂とポリアミドイミド樹脂の組み合わせ、ポリイミド樹脂とポリアミドイミド樹脂との組み合わせ、ポリエーテル樹脂同士、ポリエーテルケトン樹脂同士、ポリエーテルエーテルケトン樹脂同士、ポリエーテルケトンケトン樹脂同士、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とポリエーテルケトンケトン樹脂の組み合わせ、ポリフェニレンサルファイド樹脂同士、ポリエーテルスルフォンポリフェニレンサルファイド樹脂とポリエーテルスルフォン樹脂との組み合わせ、ポリエーテルイミド樹脂同士、ポリエーテルイミド樹脂とポリイミド樹脂との組み合わせ、ポリエーテルイミド樹脂とポリエーテルケトン樹脂との組み合わせ、ポリアミド樹脂とポリウレタン樹脂の組み合わせなどが例示される。このような同系統の樹脂を用いることにより、織物と接着性を向上させることができる。
本発明では、熱可塑性樹脂を含む組成物に含まれる熱可塑性樹脂の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上が、熱可塑性樹脂繊維に含まれる熱可塑性樹脂と同系統の樹脂であることが好ましい。
【0050】
熱可塑性樹脂を含む組成物は、その100質量%が熱可塑性樹脂であってもよいが、他の成分を含んでいてもよい。他の成分を含む場合、熱可塑性樹脂を含む組成物中における熱可塑性樹脂の配合量は、合計で30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、35~70質量%であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂を含む組成物における他の成分としては、上述した熱可塑性樹脂繊維形成用組成物に配合してもよい樹脂以外の成分から選択される1種または2種以上が例示される。また、熱可塑性樹脂を含む組成物には、充填材を含んでいてもよい。充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ウォラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノライト、ホウ酸アルミニウムウィスカー、ガラスビーズ、バルーン、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウムから選択される1種または2種以上が挙げられる。このような充填材は、熱可塑性樹脂を含む組成物中に含まれる場合、10~70質量%の割合で含まれることが好ましい。
【0051】
熱可塑性樹脂を含む組成物の形態は、特に定めるものではないが、射出成形の場合、ペレットの溶融物が一般的である。また、熱可塑性樹脂を含む組成物は、熱可塑性樹脂を含む組成物から成形された部品、熱可塑性樹脂を含む組成物から成形されたフィルム、熱可塑性樹脂を含む組成物の粉状物等であってもよいことは言うまでもない。
【0052】
このようにして得られる繊維強化樹脂成形品は、最終製品であってもよいし、部品であってもよい。本発明の繊維強化樹脂成形品の利用分野については特に定めるものではなく、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。その他、特開2017-110322号公報の段落0038に記載の用途にも用いることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0054】
1.原材料
<熱可塑性樹脂>
MXD6:メタキシリレンアジパミド樹脂(三菱ガス化学社製、グレードS6011、ペレット)、溶融粘度280Pa・sec、融点237℃、ガラス転移温度85℃
MP10:下記合成例で得られたメタパラキシリレンセバカミド樹脂、溶融粘度210Pa・sec、融点213℃、ガラス転移温度63℃
PA6:宇部興産社製、1024B、ペレット、溶融粘度310Pa・sec、融点224℃、ガラス転移温度50℃
PP:ポリプロピレン樹脂、三菱ケミカル社製、グレードFY6、ペレット、融点165℃、ガラス転移温度0℃
【0055】
<MP10の合成例>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油(株)製TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、更に少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)のモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol)を、溶融したセバシン酸に攪拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、更に内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂(MP10)を得た。
<強化繊維>
ガラス繊維(連続繊維):日東紡績社製、品番:ECDE150 1/0 1.0Z
ガラス短繊維:日東紡績社製、品番:CSG3PA810
炭素繊維(連続繊維):三菱ケミカル社製、TR-50S
【0056】
<MXD6とガラス繊維を含む樹脂ペレットの製造>
二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)の根本から原料樹脂を投入し、溶融した後、ガラス短繊維をサイドフィードしてガラス短繊維を含む樹脂ペレットを作製した。押出機の設定温度は、280℃にて実施した。ガラス繊維の含有率は30質量%であった。
【0057】
<MXD6フィルム>
真空乾燥機により乾燥したポリアミド樹脂(MXD6)を、直径30mmのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、500mm幅のTダイを介して押出成形し、表面に凹凸状シボを設けたステンレス製の対ロールにより、ロール温度70℃、ロール圧0.4MPaで加圧し、フィルム表面にシボを有するフィルムを成形した。得られたMXD6フィルムの平均厚さは50μmであった。
【0058】
<溶融粘度の測定方法>
溶融粘度は、キャピラリーレオメーターを用いて、温度は融点+20℃、剪断速度1216sec-1、保持時間6分で測定した。本実施例では、キャピラリーレオメーターは、株式会社東洋精機製作所製「キャピログラフ1D」を用いた。キャピラリー径は1.0mmのものを用いた。
【0059】
<融点およびガラス転移温度の測定方法>
示差走査熱量の測定はJIS K7121およびK7122に準じて行った。示差走査熱量計を用い、上記でペレット状の熱可塑性樹脂を砕いて示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、急冷する前処理を行った後に測定を行った。測定条件は、昇温速度10℃/分で、300℃で5分保持した後、降温速度-5℃/分で100℃まで測定を行い、ガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)を求めた。示差走査熱量計としては、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC-60」を用いた。
【0060】
2.織物の製造
<熱可塑性樹脂繊維の製造方法>
真空乾燥機を用いて150℃、7時間乾燥させた熱可塑性樹脂を(表1または表2のもの、MXD6、MP10、PA6、PP)を直径30mmφのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、60穴のダイからストランド状に押出した。押出した熱可塑性樹脂をエアブローで冷却して固化した。下部が処理剤に浸漬したロールを介して繊維に処理剤を塗布し、複数のガイドを通してロールにて巻き取りながら集束、延伸を施して熱可塑性樹脂繊維束を得た。
【0061】
<樹脂繊維とガラス繊維を含む糸1の製造方法>
ガラス繊維が60質量%(40体積%)、熱可塑性樹脂繊維が40質量%(60体積%)の割合になるように、強化繊維の長手方向に対し、熱可塑性樹脂繊維をらせん状に巻きつけて、ガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸(カバリング糸)を得た。ただし、ポリプロピレン樹脂を用いた糸は、ガラス繊維60質量%(35体積%)とポリプロピレン樹脂40質量%(65体積%)となるように調整した。
【0062】
<熱可塑性樹脂繊維と炭素繊維を含む糸2の製造方法>
炭素繊維が60質量%、熱可塑性樹脂繊維が40質量%の割合になるように、強化繊維の長手方向に対し、熱可塑性樹脂繊維をらせん状に巻きつけて、ガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸(カバリング糸)を得た。
【0063】
<樹脂繊維とガラス繊維を含む糸3の製造方法>
ガラス繊維が40質量%、熱可塑性樹脂繊維が60質量%の割合になるように、強化繊維の長手方向に対し、熱可塑性樹脂繊維をらせん状に巻きつけて、ガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸(カバリング糸)を得た。
【0064】
<織物1の製造方法>
ガラス繊維を経糸とし、上記で得られたガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維から構成される糸3を緯糸として、レピア織機を用いて製織した。打ち込み本数は経糸44本/25mm、緯糸34本/25mmとした。得られた織物は、目付200g/m2、厚さ200μm、熱可塑性樹脂繊維の割合40質量%(体積60%)、強化繊維の割合60質量%(体積40%)であった。
【0065】
<織物2の製造方法>
上記で得られた糸2を、レピア織機を用いて製織した。打ち込み本数は経糸12.5本/25mm、緯糸12.5本/25mmとした。得られた織物は、目付200g/m2、厚さ300μm、熱可塑性樹脂繊維の割合60質量%、強化繊維の割合40質量%であった。
【0066】
<織物3の製造方法>
上記で得られた糸3を、レピア織機を用いて製織した。打ち込み本数は経糸30本/25mm、緯糸20本/25mmとした。得られた織物は、目付100g/m2、厚さ150μm、熱可塑性樹脂繊維の割合60質量%、強化繊維の割合40質量%であった。
【0067】
<織物4の製造方法>
ガラス繊維を束にしたものと熱可塑性樹脂繊維を束にしたもの用いてレピア織機を用いて製織した。打ち込み本数は経糸30本/25mmをガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維とを交互に配置し、緯糸も同様に20本/25mmをガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維とを交互に配置した。得られた織物は、目付100g/m2、厚さ150μm、熱可塑性樹脂繊維の割合60質量%、強化繊維の割合40質量%であった。
【0068】
実施例1
<熱プレスした織物の製造>
表1に示す織物(織物3)を表1に示す数(プライ)積層し、搬送速度1.0分/mでHELD社製のダブルベルトプレス機のスチールベルト間に投入し、融点+50℃、4MPaの圧力で2分間連続熱プレスし、連続して4MPaに加圧したまま融点-80℃で1分間冷却し、熱プレスした織物を得た。得られた熱プレスした織物の厚さは、130μmであった。なお、織物は、経糸がベルトプレスの搬送方向となるように、ベルトプレス機に配置した。
【0069】
<閉鎖系金型を用いた成形>
成形機は佐藤鉄工所製のハイブリッド成形機(VPM1013H)を使用した。金型は、
図3に示す形状のものを用いた。
図3において、3で示す溝が、樹脂組成物(織物と組み合わせる材料)が射出される部分である。
熱プレスした織物を赤外線ヒーターで加熱し、材料温度が熱可塑性樹脂の融点+70℃になった後に金型に配し、型締した後、金型の温度を、熱可塑性樹脂の融点-100℃の温度に保持した状態で、樹脂組成物(織物と組み合わせる材料)を、射出圧力50MPa、射出速度20mm/secで射出充填し、保持圧力60MPaをかけて冷却固化を行い、熱プレスした織物と樹脂組成物(織物と組み合わせる材料)との接合を行った。射出成形機のシリンダー設定温度は、熱可塑性樹脂の融点+50℃であった。
成形後、金型を開放し、繊維強化樹脂成形品を得た。
【0070】
<強化繊維の配向の維持率(熱プレス後)>
熱プレスした織物の表面の荒れを以下の基準で評価した。
維持率は、熱プレスした織物から経糸と緯糸に直交するように10mmx10mmの領域を5個所選択し、それぞれの領域から経糸の強化繊維を1本選択した。その強化繊維が熱プレスした織物の直線距離10mmを通過するのに要した長さを計測し、次式から維持率を求めた。
維持率=[10mm/(強化繊維が直線距離10mmを通過するのに要した長さ(mm))]x100(単位%)
【0071】
<強化繊維の配向乱れ(繊維強化樹脂成形品)>
繊維強化樹脂成形品の強化繊維の配向の乱れを測定した。
繊維強化樹脂成形品から経糸と緯糸に直交するように10mmx10mmの領域を5個所選択し、それぞれの領域から経糸の強化繊維を1本選択した。その強化繊維が繊維強化樹脂成形品の直線距離10mmを通過するのに要した長さを計測した。その長さを10mmで割った値を配向の乱れとして以下の段階で評価した。表層部のX線像を、CT-scan(ヤマト社製、TDM 1000H-II)を使用して、測定した。画像解析は、画像解析ソフトA像くん(旭化成エンジニアリング社製)を用いて任意の強化繊維を選択し、その長さを測定した。
A:1.04以下:乱れが小さいか乱れが無い
B:1.04を超え1.07以下:少々乱れている
C:1.07を超え1.10未満:やや乱れている
D:1.10以上:非常に乱れている
【0072】
<繊維強化樹脂成形品の機械的強度>
成形品の、射出成形した樹脂の影響を直接受けない、リブとは異なる領域から20×80(mm)の試験片を経糸と緯糸に直交するように切り出し、JIS K7171に準じて曲げ強度を求めた。なお、装置は東洋精機株式会社製ストログラフを使用し、測定温度を23℃、測定湿度を50%RH(相対湿度)として測定した。後述する実施例9等の射出成形を行っていない実施例・比較例については、任意の位置から同サイズを切り出し、同様に測定した。
【0073】
<実施例2~8>
実施例1において、表1または表2に記載のとおり、織物の種類、織物の積層数、織物と組み合わせる材料を変更し、他は同様に行った。但し、実施例4は、成形品厚みが実施例1の2倍の厚さの金型を用いた。また、実施例6は成形品厚みが実施例1の1/2倍の厚さの金型を用いた。また、実施例8は、成形品厚みが実施例1の1/5倍の厚さの金型を用いた。
【0074】
<実施例9>
実施例1において、閉鎖系金型を用いた成形の工程を以下の通り変更し、他は同様に行った。
金型に、樹脂フィルムを配し、速やかに加熱した繊維強化樹脂成形品を金型に配し、型締し、ハイブリッド成形機の射出成形ユニットを用いずに、5MPaで5分プレスした。
【0075】
<実施例10>
実施例1において、閉鎖系金型を用いた成形の工程を以下の通り変更し、他は同様に行った。
織物2の繊維強化樹脂成形品を加熱して金型に配し、型締し、ハイブリッド成形機の射出成形ユニットを用いずに、5MPaで5分プレスした。
【0076】
<比較例1>
実施例1において、閉鎖系金型を用いた成形の工程を行わず、他は同様に行った。
【0077】
<参考例1>
常温の金型に織物1を配し、型締めし、3MPaを加えながら260℃まで15分かけて昇温した。260℃で15分保持し、材料が含浸した後に、3MPaを加えながら30分かけて室温まで冷却した。
【0078】
<参考例2>
実施例1において、織物3を織物4に変更したほかは、同様に行った。
【0079】
【0080】
【0081】
上記結果から明らかなとおり、カバリング糸から形成された織物を開放系のプレス機で熱プレスした後、さらに、閉鎖系の金型を用いて成形した場合、熱プレス後の強化繊維の配向は乱れが認められたが、成形品の強化繊維の乱れは抑制されていた(実施例1~10)。さらに、機械的強度も優れる傾向にあった(実施例1~7、9、10)。実施例8については、厚さ薄く、曲がりやすく破断しなかった。
一方、開放系で熱プレスしただけの場合、成形品に乱れが生じていた(比較例1)。
また、実施例1では型締め後速やかに射出できることに対し、参考例1では型締め後に60秒含浸時間を要した後に射出でき、実施例1の方が生産性に優れることが分かった。参考例2では糸4がガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維が交互に配置されるため、加工操作時にガラス繊維が折れやすく、実施例1の方が実用性および作業環境性に優れることが分かった。
【符号の説明】
【0082】
1 織物
2 強化繊維
3 樹脂が射出される溝