(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】抗皮膚老化剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230131BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230131BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230131BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20230131BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/6851 Z
(21)【出願番号】P 2018246555
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】原田 靖子
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】横田 絢
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-038619(JP,A)
【文献】特開2013-018715(JP,A)
【文献】特開2017-112918(JP,A)
【文献】特開2017-218429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスメタロプロテアーゼの発現の減少及び/又は発現の増大抑制を指標とする、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法
であり、
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrixmetalloproteinase-3、MMP3)、及び/又は、マトリクッスメタロプロテアーゼ-9(Matrixmetalloproteinase-9、MMP9)であり、
前記抗皮膚老化剤は、皮膚支帯(Retinacula cutis)が細くなることを抑制する作用を有するものである、抗皮膚老化剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記抗皮膚老化剤が、光老化に基づく肌状態の改善作用を有するものであることを特徴とする、請求項
1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記肌状態が、シワの増加、肌のタルミ、ハリの低下、肌の弾力性の低下からなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする、請求項
2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
細胞に物質を適用する適用工程と、
適用工程後に前記細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ発現量を測定する測定工程と、
を有することを特徴とする、請求項1~
3の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
2種以上の物質を、2以上の細胞群に対し各々適用する適用工程と、
適用工程後に各々の前記細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ発現量を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づき、マトリックスメタロプロテアーゼの発現の減少及び/又は発現の増大抑制を計測する計測工程と、
を有することを特徴とする、請求項1~
4の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記細胞が、線維芽細胞及び/又は腱細胞であることを特徴とする、請求項
4又は
5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記細胞は、皮膚支帯(Retinacula cutis)に存在する細胞であることを特徴とする、請求項
4~6の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
皮膚老化は、その要因に基づき、加齢老化、光老化などに分類されている(特許文献1)。ここで、光老化は紫外線照射を原因とする老化現象であり、一般に黄みの増加、角層水分量の減少、しわなどの表現形質を特徴とする(特許文献1 参照)。
【0002】
マトリックスメタロプロテアーゼの発現の低減によって、皮膚の光老化を軽減させる技術が知られている(特許文献2)。そして、UVBへの皮膚の長期間曝露によって、真皮におけるMMP-2、MMP-3、MMP-7およびMMP-9の発現が増加することも、知られている(特許文献2)。
【0003】
また、特許文献1にあるように、更年期障害や加齢によって皮膚細胞内のマトリックスメタロプロテアーゼ-12遺伝子の発現が亢進することも知られている。
【0004】
ところで、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)は皮膚支帯(Retinacula cutis)の構成成分であることが知られている。
【0005】
また、皮膚支帯(Retinacula cutis)と呼ばれる網目状の線維構造の疎密が顔のタルミとの関連性を有することが知られている(非特許文献1)。また、額及び目尻において、深いシワ部位直下の皮下組織では皮膚支帯密度が減少していることが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-053789号公報
【文献】特表2008-540643号公報
【文献】特開2017-218429号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sakata A., et al. :”Breakthrough in improving the skin sagging with focusing on the subcutaneous tissue structure, retinacula cutis”, 23rd IFSCC, Zurich (2015)
【文献】Tsukahara K. et al., Arch Dermatol. (2012), 148, 39-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の先行技術のあるところ、本発明は、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、
マトリックスメタロプロテアーゼの発現の減少及び/又は発現の増大抑制を指標とする、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法である。
【0010】
本発明の好ましい形態では、
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrixmetalloproteinase-3、MMP3)、及び/又は、マトリクッスメタロプロテアーゼ-9(Matrixmetalloproteinase-9、MMP9)であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の好ましい形態では、
前記抗皮膚老化剤は、皮膚支帯(Retinacula cutis)が細くなることを抑制する作用を有するものであることを特徴とする。
ここで、『皮膚支帯(Retinacula cutis)が細くなること』は、皮膚支帯(Retinacula cutis)線維を束ねるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)が減少することにより、皮膚支帯(Retinacula cutis)がほぐれて細くなる現象を指す。
【0012】
また、本発明の好ましい形態では、
前記抗皮膚老化剤が、光老化に基づく肌状態の改善作用を有するものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の好ましい形態では、
前記肌状態が、シワの増加、肌のタルミ、ハリの低下、肌の弾力性の低下からなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の好ましい形態では、
前記細胞が、線維芽細胞及び/又は腱細胞であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の好ましい形態では、
細胞に物質を適用する適用工程と、
適用工程後に前記細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ発現量を測定する測定工程と、
を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の好ましい形態では、
2種以上の物質を、2以上の細胞群に対し各々適用する適用工程と、
適用工程後に各々の前記細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ発現量を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づき、マトリックスメタロプロテアーゼの発現の減少及び/又は発現の増大抑制を計測する計測工程と、
を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の好ましい形態では、
前記細胞が、線維芽細胞及び/又は腱細胞であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の好ましい形態では、
前記細胞は、皮膚支帯(Retinacula cutis)に存在する細胞であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とする、光老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法でもある。
【0020】
また、本発明は、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量が少ないほど、皮膚支帯(Retinacula cutis)が細いと判定することを特徴とする、皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さの推定方法でもある。
【0021】
また、本発明は、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を指標とする、皮膚における太陽光暴露量の推定方法でもある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】非露光部と露光部における皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さの違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0025】
<1>ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法
【0026】
本発明のミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法は、マトリックスメタロプロテアーゼの発現の減少及び/又は発現の増大抑制を指標とする。
【0027】
ここで、指標とするマトリックスメタロプロテアーゼとしては、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrixmetalloproteinase-3、MMP3)、及び/又は、マトリクッスメタロプロテアーゼ-9(Matrixmetalloproteinase-9、MMP9)を好ましく挙げることができる。
【0028】
本発明のスクリーニング方法は、細胞の培養系に被験物質を添加し、細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼの発現量を測定することを含むことが好ましい。
【0029】
具体的には、被験物質を添加して培養した細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼの発現量が、被験物質を添加しないで培養した細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼの発現量と比較して統計的に有意に小さい場合に、前記被験物質はミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤の候補として判定する形態であることが好ましい。
【0030】
また、被験物質を添加して培養した細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼの発現量が、被験物質を添加しないで培養した細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼの発現量の1倍より小さい場合に、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤の候補として選択する形態であってもよい。
【0031】
ここで、マトリックスメタロプロテアーゼの発現量は、mRNA測定、免疫組織学化学的解析等の常法により測定することができる。
例えば、前記マトリックスメタロプロテアーゼをコードする遺伝子の発現量は、当該遺伝子の配列に特異的に結合する配列を有するDNA断片をプライマーとして用いてPCRを行い、定量的な検出を行う。なお、前記マトリックスメタロプロテアーゼをコードする遺伝子配列は、公開されているので、当業者は適宜プライマーを設計することが可能である。
【0032】
また、前記各マトリックスメタロプロテアーゼの抗体についても市販品が存在するので、これを用いて、細胞における発現量を測定することができる。
【0033】
さらに具体的には、本発明は、
細胞に物質の投与を適用する適用工程と、
適用工程後に前記細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ発現量を測定する測定工程と、
を有する実施の形態とすることが好ましい。
【0034】
また、本発明は、
2種以上の物質を、2以上の細胞群に対し各々適用する適用工程と、
適用工程後に各々の前記細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ発現量を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づき、マトリックスメタロプロテアーゼの発現の減少及び/又は発現の増大抑制を計測する計測工程と、
を有する実施の形態とすることが好ましい。
【0035】
本発明のスクリーニング方法において、スクリーニングの対象となる抗皮膚老化剤は特に限定されず、たとえば、市販の化合物(ペプチドを含む)、公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術によって得られた化合物群、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物などの物質を挙げることができる。
【0036】
動植物由来の抽出物は、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。
また、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販されている抽出物等を挙げることができる。
【0037】
スクリーニングの対象となる抗皮膚老化剤は、皮膚支帯(Retinacula cutis)が細くなることを抑制する作用を有するものであることが好ましい。
ここで、『皮膚支帯(Retinacula cutis)が細くなること』は、皮膚支帯(Retinacula cutis)線維を束ねるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)が減少することにより、皮膚支帯(Retinacula cutis)がほぐれて細くなる現象を指す。
【0038】
また、スクリーニングの対象となる抗皮膚老化剤は、光老化に基づく肌状態の改善作用を有するものであることが好ましい。
光老化に基づく肌状態としては、シワの増加、肌のタルミ、ハリの低下、肌の弾力性の低下を好ましく挙げることができる。ここで、肌のタルミとは、皮膚および皮下組織の弾力性の低下によって生ずる肌の変形をさす。
【0039】
ここで、本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼの発現の減少及び/又は発現の増大抑制を指標とする、光老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法とすることもできる。
【0040】
また、本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼの発現の減少及び/又は発現の増大抑制を指標とする、肌状態の推定方法とすることもできる。
【0041】
<2>光老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法
【0042】
本発明の光老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法は、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を指標とする。
【0043】
本発明のスクリーニング方法は、細胞の培養系に被験物質を添加し、細胞におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を測定することを含むことが好ましい。
【0044】
具体的には、被験物質を添加して培養した細胞におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量が、被験物質を添加しないで培養した細胞におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量と比較して統計的に有意に大きい場合に、前記被験物質は光老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤の候補として判定する形態であることが好ましい。
【0045】
また、前記ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の抗体についても市販品が存在するので、これを用いて、細胞における発現量を測定することができる。
【0046】
さらに具体的には、本発明は、
細胞に物質を適用する適用工程と、
適用工程後に前記細胞のミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)発現量を測定する測定工程と、
前記測定工程の結果に基づき、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を計測する計測工程と、
を有する実施の形態とすることが好ましい。
【0047】
また、本発明は、2種以上の物質を、2以上の細胞群に対し各々適用する適用工程と、
適用工程後に各々の前記細胞のミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)発現量を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づき、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現の増大及び/又は発現の減少抑制を計測する計測工程と、
を有する実施の形態とすることが好ましい。
【0048】
ここで、光老化に基づく肌状態は、皮膚支帯(Retinacula cutis)が細くなることに基づくものであることが望ましい。具体的には、シワの増加、肌のタルミ、ハリの低下、肌の弾力性の低下を好ましく挙げることができる。
【0049】
ここで、スクリーニングの対象となる抗皮膚老化剤の種類については、<1>に記載の技術的事項を援用することができる。
また、<1>に記載の技術的事項のうち、<2>光老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤のスクリーニング方法に妥当する技術的事項については、前述した説明を準用することができる。
【0050】
<3>皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さの推定方法
【0051】
本発明は、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量が少ないほど、皮膚支帯(Retinacula cutis)が細いと判定することを特徴とする、皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さの推定方法にも関する。
【0052】
本発明の皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さの推定方法は、細胞におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を指標とする。
【0053】
ここで、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量が少ないほど、皮膚支帯(Retinacula cutis)が細いと判定するための方法は特に限定されない。
【0054】
たとえば、統計学的に有意な人数に対して、従来の手法によるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量の測定と、皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さについての試験を行うことで、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量と皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さの相関についてのデータベースを予め作成しておき、被験者の皮膚におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を当該データベースと照合することにより被験者の皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さを推定する実施の形態を好ましく挙げることができる。
【0055】
複数の被験者の皮膚におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量に基づき、被験者間での皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さの優劣を推定する実施の形態としてもよい。
【0056】
また、同一被験者から取得した複数のミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量に基づき、相対的に皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さを推定する実施の形態としてもよい。
【0057】
また、被験者から取得したミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量に関する情報を、既に用意された指標と照らし合わせることにより、皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さを推定する実施の形態としてもよい。
【0058】
ここで、<1>に記載の技術的事項のうち、<3>皮膚支帯(Retinacula cutis)の太さの推定方法に妥当する技術的事項については、前述した説明を準用することができる。
【0059】
<4>皮膚における太陽光暴露量の推定方法
【0060】
本発明は、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を指標とする、皮膚における太陽光暴露量の推定方法にも関する。
【0061】
本発明の皮膚における太陽光暴露量の推定方法は、細胞におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を指標とする。
【0062】
ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量が少ないほど、皮膚における太陽光暴露量が多いと判定する形態であることが好ましい。
ここで、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量が少ないほど、皮膚における太陽光暴露量が多いと判定するための方法は特に限定されない。
【0063】
たとえば、統計学的に有意な人数に対して、従来の手法によるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量の測定と、皮膚における太陽光暴露量についての試験を行うことで、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量と皮膚における太陽光暴露量の相関についてのデータベースを予め作成しておき、被験者の皮膚におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を当該データベースと照合することにより被験者の皮膚における太陽光暴露量を推定する実施の形態が好ましく挙げられる。
【0064】
複数の被験者の皮膚におけるミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量に基づき、皮膚における太陽光暴露量の多寡を推定する実施の形態としてもよい。
【0065】
また、同一被験者から取得した複数のミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量に基づき、相対的に、皮膚における太陽光暴露量の多寡を推定する実施の形態としてもよい。
【0066】
また、被験者から取得したミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現量を、既に用意された指標と照らし合わせることにより、皮膚における太陽光暴露量を推定する実施の形態としてもよい。
【0067】
ここで、<1>及び<3>に記載の技術的事項のうち、<4>皮膚における太陽光暴露量の推定方法に妥当する技術的事項については、前述した説明を準用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の基礎となる知見を裏付ける各種試験結果を示す。
【0069】
<試験1>光老化と、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)との関連
試験1では、光老化と、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)との関連を調べた。
【0070】
(1)実験操作
まず、若齢者(20-30代)及び老齢者(60-90代)のヒト正常皮下組織(非露光部)・皮下組織(露光部)を、凍結組織包理剤(OCTコンパウンド)で凍結処理し、組織切片を用意した。
【0071】
用意した組織切片を10%中性緩衝ホルマリンにて固定し、その後PBSで洗浄し、Block Aceを用い、ブロッキング処理した。
【0072】
ブロッキング処理した組織切片に一次抗体を添加し、4℃条件下で一晩静置した。
静置後PBSで洗浄し、VECTASTAIN Universal ABC-AP Kit (VECTOR Laboratories 社製)及び、Alkaline Phosphatase Substrate KitI <VECTOR Red> (VECTOR Laboratories 社製)を用い、処理した。
【0073】
上記の増感剤による処理後、PBSで洗浄しマイヤーヘマトキシリン染色溶液で核を染色した。染色後に流水洗水し、100%エタノールで脱水処理をした。
脱水処理後、キシレンを用い透徹処理をし、非水溶性封入剤を用い封入した。以上の工程により調製した組織切片について、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)の染色度合いの観察を行った。
【0074】
(2)結果及び考察
観察の結果、光の影響が蓄積している老齢者において露光部皮下組織の方が、非露光部皮下組織に比して、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)の量が少ないことがわかった(
図1 参照)。
【0075】
以上より、光の照射による影響(光老化)によって、ミメカン(Mimecan)及び、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)の発現量が減少することがわかった。
【0076】
また、
図2に示すように、光の影響が蓄積している老齢者では、露光部皮下組織の方が、非露光部皮下組織に比して、皮膚支帯(Retinacula cutis)が細くなっていることがわかった。
【0077】
すなわち、
図1、
図2及び観察の結果、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)の減少によって、皮膚支帯(Retinacula cuti)が細くなることがわかった。
【0078】
<試験2>マトリックスメタロプロテアーゼと、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)との関連
【0079】
試験2では、マトリックスメタロプロテアーゼと、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)の関連を調べた。
【0080】
(1)実験操作
まず、キモトリプシンを用い活性化させたマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP3またはMMP9)と、ミメカン(Mimecan)またはミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)を混合し、各酵素・基質反応溶液(
図3 参照)を調製した。
【0081】
ここで、酵素活性阻害による基質分解の状態変化の確認のため、MMP阻害剤(80mM NNGH(N-Hydroxy-2-[[(4-methoxyphenyl)sulfonyl](2-methylpropyl)amino]acetamide)(溶媒:DMSO))を添加した系を用意した。なお、MMP阻害剤を含むサンプルは、上記の酵素・基質反応溶液に対し、NNGHを添加することにより、調製した。
【0082】
調製した酵素・基質反応溶液を、37℃の条件で、24時間、振とう混和(インキュベート)した。
【0083】
Lane Marker Sample Buffer SDS(Thermo Fisher Scientific 社製)をマーカーとし、
図3に示す各系のサンプルをSDS-polyacrylamide gelに充填(アプライ)し、電気泳動を行った。
【0084】
電気泳動の後、2D-Silver Stain Reagent II(Cosmo Bio 社製)を用い銀染色をし、タンパクバンドの定量を行った。結果を
図3に示す。
【0085】
(2)結果及び考察
図3に示した通り、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrixmetalloproteinase-3、MMP3)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(Matrixmetalloproteinase-9、MMP9)の存在によって、ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)が分解されることがわかった。
【0086】
<試験3>光老化と、マトリックスメタロプロテアーゼとの関連
試験3では、光老化と、マトリックスメタロプロテアーゼとの関連を調べた。
【0087】
(1)実験操作
まず、ヒト正常組織(非露光部)(表皮、真皮、皮下組織)を一晩ex vivo培養し、UVA、UVB、可視光、IRを
図4に示す条件で照射した。
【0088】
次に、光線照射後のヒト正常組織に対し、RNAlater(QIAGEN 社製)で処理することにより、固定した。固定した組織から皮膚支帯(Retinacula cutis)のみを単離した。
【0089】
単離した皮膚支帯(Retinacula cutis)を破砕し、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(QIAGEN 社製)を用いてRNAを回収した。回収したRNAについて、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Invitrogen 社製)を用い、cDNAを合成した。
【0090】
QuantiTect Primer Assay (QIAGEN 社製)を用いて定量的RT-PCRを行い、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(MATRIXMETALLOPROTEINASE-3、MMP3)、マトリクッスメタロプロテアーゼ-9(MATRIXMETALLOPROTEINASE-9、MMP9)の遺伝子発現量を測定した。
ここで、遺伝子発現量は、内在性コントロールをβ-actinとし、比較CT法を用いて算出した。
【0091】
(2)結果及び考察
図4に示した通り、光の照射によって、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(MATRIXMETALLOPROTEINASE-3、MMP3)、マトリクッスメタロプロテアーゼ-9(MATRIXMETALLOPROTEINASE-9、MMP9)の遺伝子発現量が増大することがわかった。
【0092】
<試験4> スクリーニング手法の検討
試験4では、上記知見を基にした、スクリーニング手法の検討を行った。
【0093】
(1)操作
(1-1)準備工程
ヒト正常皮下組織から取得した細胞をOG(アウトグロース)法により培養した。培養した細胞から、皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞のみをCell Sorter SH800(SONY 社製)を用い、単離した。
【0094】
単離した皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を24穴プレートに1.7×104cells/wellとなるように播種し、37℃、5%CO2環境下で24時間培養した。
【0095】
(1-2)適用工程
別途、ヒト正常皮膚の皮下組織を除去した。処理した皮膚に15mm径の穴あけを行い、ポピドンヨード(povidone iodine)で洗浄後、PBSで洗浄した。
【0096】
洗浄後のヒト正常皮膚をセルカルチャーインサート(スタンディングタイプ: サーモフィッシャーサイエンティフィック 社製)に載せた。そして、10mm径にカットした濾紙にスクリーニング対象となる物質を染み込ませ、ヒト正常皮膚中心部に配置した。
ヒト正常皮膚中心部に配置したセルカルチャーインサート(スタンディングタイプ: サーモフィッシャーサイエンティフィック 社製)を、(1-1)で用意した皮膚支帯(Retinacula cutis)細胞を播種した24穴プレートに設置し、24時間培養した。
【0097】
(1-3)測定工程
24時間培養後、培地を除いた後、PBSで洗浄した。その後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN 社製)を用いてRNAを回収し、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Invitrogen 社製)を用いてcDNAを合成した。
【0098】
QuantiTect Primer Assay(QIAGEN 社製)を用いて定量的RT-PCRを行い、皮膚支帯(Retinacula cutis)における、以下の(i)、(ii)の遺伝子発現量を測定した。ここで、遺伝子発現量は、内在性コントロールをβ-actinとし、比較CT法を用い、算出した。
【0099】
(i)マトリックスメタロプロテアーゼ-3(MATRIXMETALLOPROTEINASE-3、MMP3)、マトリクッスメタロプロテアーゼ-9(MATRIXMETALLOPROTEINASE-9、MMP9)
(ii)ミメカン(Mimecan)、ミクロフィブリル結合タンパク質4(MICROFIBRILLAR-ASSOCIATED PROTEIN 4、MFAP4)
【0100】
(i)の測定値を基に、スクリーニング対象となる物質についての、ミメカン(Mimecan)若しくはミクロフィブリル結合タンパク質4(Microfibrillar-associated protein 4、MFAP4)の発現増大及び/又は発現減少抑制作用を有する抗皮膚老化剤としての有用性についての評価をすることができる。
【0101】
また、(ii)の測定値を基に、スクリーニング対象となる物質についての、光老化に基づく肌状態の改善作用を有する抗皮膚老化剤としての有用性についての評価をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、抗皮膚老化剤のスクリーニング方法に応用することができる。