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特許7219092X線検出器における検出量子効率を改善する方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】X線検出器における検出量子効率を改善する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20230131BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20230131BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20230131BHJP
   H04N 5/32 20230101ALI20230131BHJP
   H04N 25/60 20230101ALI20230131BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20230131BHJP
   G01T 1/161 20060101ALN20230131BHJP
   A61B 6/00 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
G01T1/17 G
G01T1/20 E
G01T1/20 F
G01T1/20 G
G01T1/24
H04N5/32
H04N5/357
G01T7/00 A
G01T1/161 C
A61B6/00 300S
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018562393
(86)(22)【出願日】2017-02-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-09
(86)【国際出願番号】 CA2017050200
(87)【国際公開番号】W WO2017139890
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2020-02-05
(31)【優先権主張番号】62/297,336
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/298,076
(32)【優先日】2016-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518296964
【氏名又は名称】カリム、カリム エス.
(73)【特許権者】
【識別番号】518296975
【氏名又は名称】カニンガム、イアン エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】カリム、カリム エス.
(72)【発明者】
【氏名】カニンガム、イアン エー.
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-287330(JP,A)
【文献】特開2006-346460(JP,A)
【文献】特開2009-018154(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0011960(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0215230(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0116700(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0063545(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0146853(US,A1)
【文献】Elina Ismailova et al.,,Apodized-aperture pixel design to increase high -frequency DQE and reduce noise aliasing in x-ray detectors,Proceedings of SPIE,米国,The international Society for Optical Engineering,2015年03月18日,Vol. 9412,pp. 94120D-1 - 94120D-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
G01T 1/20
G01T 1/24
H04N 5/32
H04N 5/357
G01T 7/00
G01T 1/161
A61B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線検出器における変調伝達関数(MTF)および検出量子効率(DQE)を改善する方法であって、
マイクロ要素の組によって受信されたX線エネルギーを検出するステップと、
検出されたX線エネルギーに基づいて、マイクロ要素出力の組を生成するステップと、
所望のプレサンプリングMTFを生成するために、所望のカーネルに従って前記マイクロ要素出力の組を組み合わせるステップと、
サイズがpの画像ピクセルを含む最終X線画像出力を生成するステップと、を備え、
前記マイクロ要素出力の組は、所定のサイズ(ε)のマイクロ要素で得られるX線エネルギーの表現を含み、
ε<pであり、
前記所望のカーネルは、所望のプレサンプリングMTFを与えるために、最適なDQEを維持する間に相互作用的変調されることを特徴とする方法。
【請求項2】
ピクセル出力の組を生成するステップは、
マイクロ要素出力の組を読み出すステップと、
重み係数が掛けられたマイクロ要素出力の組を生成するために、読み出したマイクロ要素出力の各々に重み係数を適用するステップと、
前記重み係数が掛けられたマイクロ要素出力の組の総和を計算するステップと、を備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記重み係数は、sinc関数、周波数応答性を改善するための重み係数、他の空間周波数を拡大または抑制するための重み係数、出力画像の信号対雑音比を改善するための重み係数、または画像品質を改善するための重み係数のうちの少なくとも1つを備える請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ピクセル出力の組を伝達するステップを更に備える請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記マイクロ要素出力を生成するステップは、
前記マイクロ要素によって検出されたエネルギーのレベルを決定するステップと、
マイクロ要素出力を生成するために、前記検出されたエネルギーのレベルをデジタル化するステップと、を備える請求項1に記載の方法。
【請求項6】
マイクロ要素のサイズは所望の画像ピクセルサイズより小さいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
X線検出器における変調伝達関数(MTF)および検出量子効率(DQE)を改善するために使われる検出器であって、
X線エネルギーを受信し二次量子を遊離するために使われる変換層と、
二次量子に基づいてマイクロ要素出力を生成するために、前記二次量子を検出するためのマイクロ要素の組を含むセンサ層と、
所望のプレサンプリングMTFを生成するために、所望のカーネルに従って前記マイクロ要素出力の組を組み合わせる機能と、
サイズがpの画像ピクセルを含む最終X線画像出力を生成する機能と、を備え、
前記マイクロ要素出力の組は、所定のサイズ(ε)のマイクロ要素で得られるX線エネルギーの表現を含み、
ε<pであり、
前記所望のカーネルは、所望のプレサンプリングMTFを与えるために、最適なDQEを維持する間に相互作用的に変調されることを特徴とする検出器。
【請求項8】
前記マイクロ要素の組によって検出されたエネルギーをマイクロ要素出力にデジタル化するためのアナログデジタル変換器(A/D)を少なくとも1つ備える請求項7に記載の検出器。
【請求項9】
ピクセル出力の組を生成するための中央演算処理装置をさらに備える請求項8に記載の検出器。
【請求項10】
前記マイクロ要素の各々は、検出器要素であり、表示される画像のピクセルより小さいことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロ要素の各々は、検出器要素であり、表示される画像のピクセルより小さいことを特徴とする請求項7に記載の検出器。
【請求項12】
ピクセル出力の組を生成するステップの前に、所望の応答を与えるために実行される応用に基づいて、マイクロ要素出力の各々に重み係数を掛けるステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
重み係数が掛けられたマイクロ要素出力は、実行される応用に基づくことを特徴とする請求項7に記載の検出器。
【請求項14】
前記マイクロ要素は、X線検出器の単層内にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロ要素の組の各々は、単一のセンサ層内にあることを特徴とする請求項7に記載の検出器。
【請求項16】
前記表現は、前記最終X線画像出力に変えられ、
前記カーネルは、特定の測定器の条件の下で、最適なDQEを維持するように設計されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記特定の測定器の条件は、リードアウトノイズのレベル、プレサンプリングMTFの形状またはウィーナーノイズパワースペクトルの形状を含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記マイクロ要素出力の組を組み合わせるステップは、
前記所望のカーネルへの畳み込みを実行するステップ、または、前記マイクロ要素出力のフーリエ変換を実行するステップと、
所望のフィルタ伝達関数に掛け合わせるステップと、
逆フーリエ変換を決定するステップと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記表現は、前記最終X線画像出力に変えられ、
前記カーネルは、特定の測定器の条件の下で、最適なDQEを維持するように設計されることを特徴とする請求項7に記載の検出器。
【請求項20】
前記特定の測定器の条件は、リードアウトノイズのレベル、プレサンプリングMTFの形状またはウィーナーノイズパワースペクトルの形状を含むことを特徴とする請求項19に記載の検出器。
【請求項21】
前記マイクロ要素出力の組を組み合わせる機能は、
前記所望のカーネルへの畳み込みを実行する機能、または、前記マイクロ要素出力のフーリエ変換を実行する機能と、
所望のフィルタ伝達関数に掛け合わせる機能と、
逆フーリエ変換を決定する機能と、
を備えることを特徴とする請求項7に記載の検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、出願日2016年2月19日の米国仮出願62/297、336および出願日2016年2月22日の米国仮出願62/298、076に基づく優先権を主張する。これらの出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般にX線検出器に関し、より具体的にはX線検出器における変調伝達関数および検出量子効率を改善する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
放射線露光に関する既知のリスクは、患者への露光をより低くしたまま、より良好な画像を生成することのできる新たなX線検出器技術を開発するための鍵となる動機となる。一般に診断X線撮影では、患者への露光が低いほど、検出器内で相互作用するX線量子が減少し、画像の信号対雑音比(SNR)が低下する。空間周波数依存性を持つ量子雑音等価数(NEQ)で表される画像SNRは、雑音の制限された画像の中に何が見え、何が見えないかを定める。例えば、最近肺癌スクリーニングプログラムにおいて行われた、コンピューテッドラジオグラフィ(CR)とフラットパネルデジタルラジオグラフィ(DR)との診断精度の比較によれば、CRよりDRの方が癌発見率の高いことが分かった。これは、システム変調伝達関数(MTF)および画像SNRの違いによる。当初は等価量子効率とも呼ばれた検出量子効率(DQE)は、検出器に入射する所定のX線量子の数に関するNEQを表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
理想的な検出器のDQEは、重要なすべての空間周波数に関する量子効率(検出器内で相互作用するX線量子の割合)と等価である。しかしながら実際には、周波数が増加するとともに、DQEは常に減少する。これは、MTFで表される解像度の低下、二次量子の散乱(蛍光体内の光学散乱や光導電体内の電荷移動)、光電相互作用やコンプトン散乱からの特性放出の再吸収または漏洩、およびノイズエイリアシングなどを含む多数の要因が原因となる。マンモグラフィックエネルギーの二次電子検出器周波数のDQE低下や、微小病変および高精画像詳細を可視化するときのSNR低下の主要な原因はノイズエイリアシングである。
【0005】
従って、X線検出器における変調伝達関数および検出量子効率を改善する新規な方法および装置を与えることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、ラジオグラフィ、マンモグラフィ、コンピューテッドトモグラフィおよび核医学画像に使われるX線検出器における変調伝達関数(MTF)および検出量子効率(DQE)を改善する新たな方法および装置を与える。ある実施形態では、本開示は、MTFを改善し、ノイズエイリアシングを除去または低減する(あるいはその両方)ことにより、より平坦なDQE応答を実現する方法および装置を与える。
【0007】
本開示の装置は、所望の画像ピクセルサイズより小さい物理的なセンサ要素を備えるセンサのアレイを含む。測定されたセンサアレイデータから画像ピクセル値が合成される一方、アンチエイリアシングフィルタが動作する。これによりアポダイズされたアパーチャピクセル(AAP)構造が生成される。ある実施形態では、これは、セレン、ヨウ化セシウムまたはガドリニウムオキシ硫化物などの(しかし、これらに限定されない)高解像度変換層と結びついたCMOSセンサのアレイその他の技術を用いて実現されてよい。多数の小センサ要素から画像ピクセルを合成するプロセスは、直接センサアレイ上で実行することができる。これにより、後処理のために多数のセンサアレイのデータを転送するためのリードアウト帯域幅を非常に大きくする必要性を低減または排除することができる。
【0008】
ある実施形態では、本開示は、決定論的重みを用いた、制御されたセンサ要素間の信号共有を導入する。すなわち、画像ピクセル値を生成するために使われる検出器値を合成するために、各マイクロセンサ要素からの信号が、所定の重み係数を用いて、他のマイクロセンサ要素からの信号と結合される。このようにして、いくつかのマイクロセンサ要素から測定された信号を、所定の重み係数を用いて結合することにより、各検出器の出力要素値が生成される。
【0009】
本開示のある態様では、X線検出器における変調伝達関数(MTF)および検出量子効率(DQE)を改善する方法が与えられる。この方法は、マイクロ要素の組によって受信されたX線エネルギーを検出するステップと、検出されたX線エネルギーに基づいて、マイクロ要素の組の各々に関するマイクロ要素出力を生成するステップと、重み係数が掛けられた少なくとも2つのマイクロ要素出力に基づいて、所望の画像ピクセルサイズに関するピクセル出力の組を生成するステップと、を含む。
【0010】
別の態様では、ピクセル出力の組を生成するステップは、マイクロ要素出力の組を読み出すステップと、重み係数が掛けられたマイクロ要素出力の組を生成するために、読み出したマイクロ要素出力の各々に重み係数を適用するステップと、重み係数が掛けられたマイクロ要素出力の組の総和を計算するステップと、を含む。さらに別の態様では、重み係数は、sinc関数、周波数応答性を改善するための重み係数、他の空間周波数を拡大または抑制するための重み係数、出力画像の信号対雑音比を改善するための重み係数、または画像品質を改善するための重み係数のうちの少なくとも1つを含む。
【0011】
別の態様では、本方法は、ピクセル出力の組を伝達するステップを更に含む。さらに別の態様では、マイクロ要素出力を生成するステップは、マイクロ要素によって検出されたエネルギーのレベルを決定するステップと、マイクロ要素出力を生成するために、検出されたエネルギーのレベルをデジタル化するステップと、を含む。別の態様では、マイクロ要素のサイズは所望の画像ピクセルサイズより小さい。
【0012】
別の態様では、X線検出器における変調伝達関数(MTF)および検出量子効率(DQE)を改善するために使われる検出器が与えられる。この検出器は、X線エネルギーを受信し二次量子を遊離するために使われる変換層と、所望の画像ピクセルサイズに基づいてピクセル出力の組を計算するためのマイクロ要素出力を生成するために、二次量子を検出するためのマイクロ要素の組を含むセンサ層と、を含み、マイクロ要素の組の各々のサイズは、所望の画像ピクセルサイズより小さいことを特徴とする。
【0013】
さらなる別の態様では、本検出器は、マイクロ要素の組によって検出されたエネルギーをマイクロ要素出力にデジタル化するためのアナログデジタル変換器(A/D)を少なくとも1つ含む。さらなる態様では、本検出器は、ピクセル出力の組を生成するための中央演算処理装置をさらに含む。別の実態様では、ピクセル出力の組は、重み係数が掛けられたマイクロ要素出力を少なくとも2つ足し合わせることにより生成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
以下、添付の図面を参照しながら例示のみを用いて本開示の実施形態を説明する。
図1】従来のX線検出器の模式図である。
図2a】本開示に係るX線検出器の第1の実施形態の模式図である。
図2b】本開示に係るX線検出器の第2の実施形態の模式図である。
図3】X線検出器における検出量子効率を改善する方法を概説するフロー図である。
図4】変換層内でX線フォトンが相互作用しエネルギーを蓄積する、従来の検出器の模式図である。
図5】本開示に係るX線検出器の別の実施形態の模式図である。
図6】従来の検出器およびAAP検出器の性能を示す図である。AAP検出器では、信号および雑音が、空間領域および空間周波数領域内の単純な物理プロセスのカスケードを通過する。
図7】AAP検出器と従来の検出器との間の、理論的MTF、規格化されたNPSおよびDQEを示すグラフの組である(リードアウトノイズは無視できるとし、理想的な変換層を仮定する)。
図8】本開示の検出器のビジュアルインパクトを示す、シミュレートされた画像の組である。
図9】ヨウ化セシウムベースのAAP検出器による実験データ画像を示すグラフである。
図10】セレンベースのAAP検出器による実験データ画像を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、X線検出器の変調伝達関数(MTF)および検出量子効率(DQE)を改善する方法および装置に関する。典型的にMTFおよびDQEは、空間周波数の関数の曲線として、あるいは特定の空間周波数の特定の値として表される。ある実施形態では本開示は、X線検出器内の小ピクセルまたはマイクロ要素を用いて、MTF曲線およびDQE値を改善または最適化することに関する。
【0016】
明確化のために、以下「信号」という用語は、X線エネルギーの吸収により直接的または間接的に遊離され、マイクロ要素内で収集された電荷を指す。直接型センサは、X線の吸収によって直接的に遊離された電荷を検出する。一方間接型センサは、X線の吸収の結果生成された光学量子の吸収によって遊離された電荷を検出する。「数値信号」という用語は、アナログ-変換(ADC)回路を用いて数値に変換された信号を指す。
【0017】
図1は、従来のX線検出器の模式図である。検出器10は、変換層12と、センサ層14と、を含む。センサ層14は、入射X線18を検出するための物理的センサ要素16の組を含む。従来の検出器では、物理的センサ要素は、典型的には所望の画像ピクセルサイズ「p」に等しい「サイズ」を有すると理解されてよい。
【0018】
動作中にX線18は、信号を直接的または間接的に、物理的センサ要素16上に堆積する。X線18が変換層12と相互作用し、二次量子を変換層12内で遊離した後、遊離された二次量子19はセンサ要素16によって検出または捕獲される。センサ要素16は出力20を生成する。出力20は、電荷や電圧のようなアナログ信号であってよい。一般に出力20は、物理的センサ要素16の各々で測定される信号に比例する。従来の検出器では通常これらの値は、センサゲインの差異を補正され、各センサ要素で測定された信号に比例するようにオフセットされる。
【0019】
各要素16から得られる信号20は、各要素16上に堆積したX線エネルギーに比例する数値を生成する。その後検出器10は、間隔「a」の検出器で測定された信号に相当する数値のアレイを含む出力20を生成する。ここで、アレイ内の数値の数は、物理的センサ要素16の数に等しい。従って通常各数値は、1つのセンサ要素16からのデジタル化された信号によって与えられる。いくつかの検出器では、信号20は足し合わされて、オーバーラップのないグループ(典型的には、1グループごとに2×2、3×3または4×4の要素)になってもよい。この足し合わせは通常、信号20をアナログ形式で結合することによって実行される。これは、出力20の数を減らすことにより、所望の画像ピクセルサイズ「p」を大きくできるという効果を有する。
【0020】
相互作用するX線フォトンの任意の1つから得られる信号は主に、単一の画像ピクセルに相当する単一の物理的センサ要素16で測定される。しかしながら、要素間で光や電荷を共有することにより、複数の画像ピクセル間で(すなわち複数のセンサ要素間で)共有される信号があってもよい。解像度を向上させる目的で、従来の検出器はこの要素間の信号共有が最小となるように設計されている。
【0021】
図2aは、本開示に係るアポダイズされたアパーチャピクセル(AAP)検出器の模式図である。AAP検出器30は、X線36を受信するためのAAPセンサ層34の頂部に位置するAAP変換層32を含む。AAPセンサ層34は、マイクロセンサ要素またはマイクロ要素38を含む。マイクロ要素のサイズは「e」であり、これは所望の画像ピクセルサイズ「p」より小さい。いくつかの応用では「p」は、ラジオグラフィまたはマンモグラフィでは0.05mmから0.2mmであってよく、コンピューテッドラジオグラフィでは0.25mmから2.5mmであってよく、核医学画像では1mmから5mmであってよい。従来の検出器と異なり、本開示の検出器の複数のマイクロ要素38は、個々のピクセルに相当するピクセル信号のサイズを常にpより小さくしたままで、このピクセル信号を出力することに寄与する。
【0022】
動作中に、X線36は、信号をマイクロ要素38上に堆積する。その後各マイクロ要素38からの信号は、各マイクロ要素38によって堆積され検出されるX線エネルギーに比例する数値信号または信号値(またはマイクロ要素出力)42を生成するためのADC44などを用いてデジタル化される。その後各マイクロ要素38から得られた数値42は、AAP検出器30の間隔「p」に相当する数値を生成するために、プロセッサや中央演算処理装置(CPU)により、重み係数50に結び付けられる。間隔「p」でピクセル出力48を生成するために、サイズ「e」のマイクロ要素38を重み係数を用いて結合することにより、本開示の方法が可能となる。ただし「e」は「p」より小さい。「p」と「e」との比は、好ましくは、2:1、3:1、4:1または8:1である。しかしながら、応用や利用規格においては、この比は任意であってよい。一般に「p」と「e」の比が大きくなるほど、処理時間が長くなる。
【0023】
(システムのデザインに基づいて)値「e」が任意に選択できる一方、ピクセル出力48を生成するために、重み係数を用いて複数のマイクロ要素出力42を結合できることの利点は本開示の長所である。
【0024】
図2aのシステムで、マイクロ要素38からの読み出し値をデジタル化することにより、マイクロ要素出力42の分離が可能となる。前述のように、これにより、これらのマイクロ要素出力は複数のピクセル出力48に寄与することができる。図2aに示されるように出力42は、任意の数のピクセル出力48に寄与してよく、検出器のデザインや設定とは独立である。これらの出力42は、重み係数50を用いて処理されるよう方向付けられるため、むしろ互いにオーバーラップしてよい。ある実施形態では、マイクロ要素出力42のオーバーラップは、MTFおよびDQEを改善するためのローパスフィルタとしての効果を有する。マイクロ要素出力42がピクセル出力に対して持つ効果は、重み係数によって制御される。すなわち、ピクセル出力48から物理的に遠くに位置するマイクロ要素出力42は、ピクセル出力48の物理的に近くに位置するマイクロ要素出力42より小さな効果を持つように制御される。ここで重み係数の値は、正であっても負であってもよい。
【0025】
重み係数については、これらの係数は好ましくは、所望の特性応答性を与えるように選択または選出される。例えば重み係数はsinc関数から取られてもよいし、出力信号内で0.5/aのサンプリングカットオフ周波数より高い空間周波数を抑制する一方、このカットオフ周波数より低い周波数を通過させるように選択されてもよい(長方形パスバンド)。代替的に重み係数は、ギブスリンギングを低減し応答ロールオフを滑らかにするように周波数応答性を改善するように選択されてもよい。別の実施形態では重み係数は、例えばエッジの改善といって画像の外観の改良のために、他の空間周波数を改善または抑圧するように選択されてもよい。さらにこれらは、出力画像の信号対雑音比を改善するために、特定の検出器の信号および雑音の周波数応答特性に基づいて選択されてもよい。また重み係数は、画像品質を改善するためX線露光の関数であってもよく、画像品質を改善または最適化する目的で特定の検出器の性能特性(空間解像度や検出器の電気的雑音を含むが、これらに限定されない)を考慮してもよい。重み係数はまた、特定の周波数を抑制または拡大するために、コンピューテッドラジオグラフィに使われる再構成アルゴリズム考慮して選択されてもよい。
【0026】
本システムではマイクロ要素を使うことにより、制御されたセンサ要素間の信号共有が可能である。換言すれば、各マイクロ要素から得られた信号は、画像ピクセル値を生成するために使われる検出器値(または数値)を合成するために、所定の重み係数を用いて、他のマイクロ要素から得られた信号に結合される。このようにして各ピクセル出力48は、複数のマイクロ要素で測定された信号を、所定の重み係数を用いて結合することにより、生成される。好ましい実施形態では、ピクセル出力とマイクロ要素出力との関係は、既知または所定のものである。
【0027】
図2bは、本開示の別の実施形態を示す。図2bの実施形態のシステムは、ADCおよびCPUが取り除かれた図2aの実施形態と異なる。この実施形態ではマイクロ要素出力42はアナログ領域にあるが、これらはハードウェア回路を介して複数のピクセル出力48に接続されてよい。図2bに係るシステムのデザインは好ましくは、マイクロ要素出力とピクセル出力との間のハードウェア回路とともに機能する重み係数を考慮することが望ましい。
【0028】
図3は、X線検出器におけるMTFおよびDQEを改善する方法を示す。最初に、検出器の個々のマイクロ要素のサイズが定められてよい(100)。理解されるように、典型的にはマイクロ要素は、検出器のセンサ層全体を通じて同じサイズである。説明のため、マイクロ要素は「e」のサイズまたは間隔を持つと理解されてよい。要素のサイズを定めた後、所望の画像ピクセルサイズ「p」が定められる。MTFおよびDQEを改善するためには、「e」は「p」より小さくなければならない。例えばeは、p/2、p/3またはp/4であってよいが、これらに限定されない。「e」の値はp/2.7やp/10.6であってもよく、従って「e」は「p」の整数分の1でなくてもよい。
【0029】
X線源が初期化され、検出器に向けてX線が供給された後、マイクロ要素は、各表面に堆積されたX線エネルギー(または遊離された二次量子)を検出する(104)。好ましくは、その後エネルギーは、各表面による読み出し値に基づく信号を形成するためにデジタル化される(106)。デジタル化は、アナログデジタル変換器(A/D)によって実行されてよい。代替的に、システムがハードウェア回路を用いてアナログで動作するときは、デジタル化が実行されなくてもよい。
【0030】
マイクロ要素から得られた信号はその後、検出器の間隔「p」に相当する数値(またはピクセル出力)を生成するために、重み係数を用いて結合される(108)。このようにして、マイクロ要素出力に基づくピクセル出力は、従来のシステムより高精度の読み出し値を与える。従来のシステムは、読み出し値を生成するために、マイクロ要素による複数の重み係数付きの読み出しを行うのではなく、単一の物理的要素を用いて単一の読み出しのみを行う。重み係数を用いたこれらの信号の処理は、従来得られなかった利点を与える。
【0031】
ある実施形態では、マイクロ要素出力がデジタル化された後、重み係数が掛けられたマイクロ要素出力の所定の組を足し合わせることにより、ピクセル出力が計算されてよい。換言すれば、検出器のデザインに基づいて、各ピクセル出力は、所定のマイクロ要素出力42を読み出し、次に読み出した所定のマイクロ要素出力42の各々に重み係数を適用し、最後にこれらの値を互いに足し合わせることにより計算される。
【0032】
より具体的には、重み係数を用いて数値を生成するステップは、マイクロ要素から得られた信号の重み係数を含むカーネルへの離散的畳み込みと、それに続くリサンプリングであってよい。代替的に、重み係数自身が被測定信号その他の量の関数である場合は、数値(108)を生成するステップは非線形畳み込みとして実行されてよい。別の実施形態では数値を生成するステップは、デジタル化されたマイクロ要素からの信号のフーリエ変換と、それに続くフーリエ変換と重み係数(AAPフィルタの所望のパスバンドを表す関数)との乗算、さらにそれに続く、数値アレイ出力を生成するための逆フーリエ変換によって実行されてよい。その後これらのピクセル出力は、例えばアレイの形でプロセッサに送信され、さらに処理されてよい(110)。
【0033】
本開示の利点を、サンプルの計算とともに以下に示す。
【0034】
通常DQEデジタル検出器は、サンプリングカットオフ周波数uまでは、空間周波数の関数として表される。ここでu=0.5/a[サイクル/mm]であり、a[mm]は1つの画像ピクセルの幅である。DQEの標準的表現は以下で与えられる。
【数1】
ここで検出器のリードアウトノイズは無視できるものとする。T(u)はシステムの変調伝達関数(MTF)であり、Xは検出器上のX線露光入射であり、Qは単位領域あたりおよびX線スペクトル内の単位露光あたりのX線量子の数であり、W(u)は均一露光Xおよび平均画像ピクセル値dに相当するウィーナー画像雑音パワースペクトル(NPS)である。
【0035】
二次散乱の空間的広がりが無視でき、変調伝達関数(MTF)が主にピクセルのアパーチャサイズ(例えばセレンベースの検出器のような)で決まる場合、|T(u)|=|sinc(au)|およびDQEは、DQE(u)=DQE(0)sinc(au)などのカスケードシステムを用いて記述される。この例ではDQE値は、エイリアシングに起因して、ゼロ周波数に対するサンプリングカットオフ周波数のsinc(au)=sinc(0.5)=4Π~0.41の部分となる。これにより、追加的な高周波数雑音(これは、セレンベースの検出器から得られた画像に、特有の高周波雑音構造を与える)が発生する。
【0036】
図4は、X線フォトンが相互作用し、エネルギーが変換層(典型的にはセレン(Se)、ヨウ化セシウム(CsI)、ガドリニウムオキシ硫化物(GdS)などをベースとする材料から生成される)に堆積する従来の検出器を示す。本例ではセンサ要素のサイズは、画像のピクセルサイズに直接対応する。
【0037】
図5は、本開示に係るAAP検出器を示す。この検出器は同様の変換層を有するが、センサ要素のサイズeは所望の画像ピクセルより小さい。
【0038】
従来の検出器およびAAP検出器の性能はともに、カスケードシステム分析(CSA)モデルを用いて記述することができる。この場合図6に示されるように、簡単な物理的過程のカスケードを通じた信号と雑音の伝播は、空間領域および空間周波数領域で記述される。各モデルへの入力は、X線量子の空間的分布q~(x)である。ここで各X線フォトンはディラックのδ関数で表される。本明細書では上付添字~は、ランダム変数または関数を示すために使われる。簡単のため1次元(x)表現が使われるが、すべての結果は2次元(x、y)にも当てはまる。モデルからの結果はd~(x)である。このd~(x)は、均等に配置された画像ピクセルデータを表す数値に関連してスケールされるδ関数のシーケンスである。上付添字†は、離散的なセンサまたはピクセル値を示す、スケールされたδ関数のみを含む関数を示すために使われる。
【0039】
各モデルに関し、3つの列がそれぞれ、i)空間領域における画像信号、ii)空間周波数領域における画像信号(強度のみ)、およびiii)ウィーナー雑音パワースペクトルを表す。
【0040】
各モデルへの入力はq~(x)である。これは、X線量子の検出器への入射のポワソンランダム分布を表すポイントプロセスである。
【数2】
ここで、各入射フォトンはディラックのδ関数で表され、x~はn番目のフォトンN~の座標を表すランダム変数(RV)である。上付添字(~)はRVを示すために使われ、上付添字( ̄)は期待値を示すために使われる。患者を通過するX線放射が非均一であることを反映して、実際にはx~は均一に分布しない。しかしながら、信号および雑音のフーリエメトリクスに関しては、シフト不変性と広義の安定雑音プロセスとが仮定される。これはx~が、無限検出器(極限L→∞に取った幅Lを持つものとして表される)上で均一な確率で分布することを要求する。従ってN ̄=q ̄Lである。
【0041】
q~(x)のフーリエ変換はでQ~(u)ある。これは、多数のシフトされたδ関数のフーリエ変換(FT)の重ね合わせである。フーリエシフト理論を応用することにより、各デルタ関数のFTは、単一の強度および位相exp(-i2Πx~u)を有することが示される。これにより以下の式、および|Q~(u)|=N~が与えられる。
【数3】
|Q~(u)|=N~は周波数に依存しない。q~(x)のウィーナーNPSは、Wqo(u)=q ̄である。各々に関し、すべての入射X線量子は、理想的な変換層(すなわち各センサ要素が理想的なフォトンカウンタとなっている)内で相互作用すると仮定する(単一量子効率)。この仮定は本開示の検出器を説明するのに好都合ではあるが、実用上必須ではない。理想的な変換層によって得られるだろう従来の検出器のDQEは、以下のDQE(u)で与えられる。
【数4】
【0042】
本開示の検出器に関して、AAP検出器はフォトン計数センサ要素のアレイとしても表されるが、この場合要素のサイズeはe<Aである。センサデータから得られる画像ピクセル値の評価は、離散的畳み込み操作によって決定される。この離散的畳み込み積分は、畳み込み積分(図6の2.1で表される)と、単一の間隔での畳み込み積分評価(図6の2.2で表される)との組み合わせで表される。d~ε(x)と同様に、中間プレサンプリングの結果d~(x)は、物理的にアクセスできない。従ってAAP検出器からの出力は以下で与えられる。
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
ここで、F(0)はF(u)のゼロ周波数値であり、変数εは「e」を示すために使われる。フィルタF(u)を使うことと、aおよびεの間隔におけるサンプリングからのエイリアシングの複合的な効果とに起因して、AAP検出器に関しては、DQEはややより複雑なものとなる。しかしながら、式(20)を精査し、E(u)を良好に選択することにより、uより低い周波数にシフトする間隔aでのリサンプリングからのローパスエイリアシングを防ぐために、サンプリングカットオフ周波数u=0.5/aより高いすべての周波数をブロックするローパスフィルタを得ることができる。このときDQEは以下で与えられる。
【数10】
【0043】
この結果は、フィルタの周波数応答性がカットオフ周波数u=0.5/aのローパスフィルタとしての特性を示している限り、この応答性はDQEに影響を与えないことを示す。またε<aであることから、AAP検出器は、従来の検出器よりリードアウトノイズに対する耐性が低いことが分かる。
【0044】
図7に、従来の検出器(ビニングされた)およびAAP検出器(ε=50μm、a=200μmの長方形ローパスフィルタ)に関し、プレサンプリングMTF、規格化されたNPSおよび、CSAモデルによって予測されるDQE曲線が示される。従来のMTFは、式(15)で与えられるsinc(au)形状に従う。一方AAP MTFは、カットオフ周波数u=0.5/aまでは、式(21)で与えられるsinc(εu)に従う。従ってAAP法によれば、MTFは、sinc(εu)/sinc(au)の倍率で増加する(これはカットオフ周波数での53%増加に等しい)一方、画像(もし存在すれば)からは信号エイリアシングが除去される結果となる。
【0045】
説明のため、NPSは、リードアウトノイズを無視できると仮定して評価された。従来の検出器でもAAP検出器でも、図7の規格化されたNPSは周波数に依存しない。リードアウトノイズの付加的な効果から、これはAAP検出器のユニティより少し大きいだろう。重要なことには、リードアウトノイズを除けば、いずれの検出器でも、規格化されたNPSは等しいという点に注意すべきである。これは、表示コントラスト設定が同じであれば、従来の画像もAAPの画像も、同じ量子雑音を伴って現れることを意味する。DQE曲線は、AAP検出器の周波数が予測通り改善されていることを示す。リードアウトノイズが無視できれば、DQEはsinc(εu)/sinc(au)の倍率で増加する(これはカットオフ周波数での画像サンプリングにおける、2.5倍の増加に等しい)。
【0046】
AAP検出器では、変換層がMTFおよびDQEに影響してもよい。ここで示される結果は、極めて解像度の高い変換層に相当する。変換層が二次画像量子の横方向散乱を引き起こすと(例えば蛍光内フォトンや光導電体内の電荷の移動など)、結果はいくらか異なるかもしれない。しかしいずれの場合でも、AAPのデザインにより、MTFおよびDQEは改善される。
【0047】
本開示の従来の検出器に対する利点の1つは、ビジュアルインパクトにある。図8に、予測されるDQEの改善によるビジュアルインパクトが、簡単なシミュレーションを用いて示される。これは、リードアウトノイズのないe=50μm、p=200μmのピクセルに相当する。各画像は、強度の異なる3つの行および空間周波数の異なる5つ列における合計15個の2次元正弦型テストパターンを有した。周波数は1.0サイクル/mm、1.5サイクル/mm、2.0サイクル/mm、2.4サイクル/mmおよび3.0サイクル/mmが選ばれた。これらは、サンプリングカットオフ周波数2.5サイクル/mmに比べて、低い、わずかに低い、および高いものである。各行のパターンは、上から順に、60ピクセル値、100ピクセル値および140ピクセル値の強度を有した。一方、各周波数での雑音限界画像をシミュレートするために、50μmの生のセンサ信号において、標準偏差100のホワイトガウスノイズが加えられた。単位高さおよびサンプリングカットオフ周波数u=0.5/aまで平坦な周波数応答性を有する長方形のローパスフィルタとして、AAPフィルタが選ばれた。
【0048】
AAP検出器のさらなる実施形態を以下に開示する。本開示の図5および図6に示されて表されるように、高周波数のMTF値およびDQE値を増加させることを目的とした、アポダイズされたアパーチャを作成する方法が開示される。この方法は、所望のピクセルサイズpより小さいサイズεを持つセンサ要素を有するセンサのアレイを使用する。これは例えば、10-25μmのサイズを持つCMOSセンサのアレイを使用することにより実現することができる。これは20-50サイクル/mmのサンプリングカットオフ周波数に相当する。しかし、このような高解像度が何らかの臨床的意義を持つとは思われない。またこのような画像で高SNRを実現するために要求される患者への露光は、大抵の応用では禁止されるレベルのものだろう。さらに放射線部門における作業量は、このような巨大かつ無益の禁止された画像をアーカイブし、伝達し、表示するために使われることになるだろう。本開示は、センサ要素データを、直接センサアレイ上で、または撮像システム内で後処理することにより、デジタル化および処理を実行する方法に関する。これは、MTFを増加し、ノイズエイリアシングを低減し、DQEを増加させるアルゴリズムを用いて、センサ要素より大きい画像ピクセルを合成することを目的とする。好ましい実施形態では、変換層は極めて高い空間的解像度(二次量子の空間的拡散、例えば蛍光内の光学的拡散や光導電体内の電荷の移動などのない)を有する。このとき、解像度はほぼ、要素のサイズ、すなわち小要素やマイクロ要素のサイズによって決定される。これによりセレンが、変換層のための好ましい材料となると考えられる。しかしながら、その他の材料を用いてもある程度の利点は達成されるだろう。マンモグラフィ撮像のように、変換層材料のk-エッジのエネルギーより低いX線エネルギーを利用する場合は、CsIその他の変換層を用いたアプローチから得られる利点もあるだろう。
【0049】
等しいピクセルサイズを持つ従来の検出器と比べた場合、本開示のカスケードモデルの実施形態では、小センサ要素を単純にビニングしただけでは、サンプリングカットオフ周波数におけるMTFやDQEは増加しない。ビニングされた要素の数または要素のサイズに関わらず、sincの形状に起因して、理想的な変換層のuにおけるDQEはゼロ周波数値の半分より小さいままである。MTFおよびDQEを改良するために、アポダイズされたアパーチャピクセル(AAP)デザインが使われる。ここでは、データはサイズεのセンサ要素内で得られた後、サイズρの画像ピクセルを合成するために処理される。高いDQE値、あるいはCMOSで実現される他の何かを保証するためには、センサは極端に低いリードアウトノイズを持つことが望ましい。図6に、空間領域および空間周波数領域における信号および雑音の特性が示される。
【0050】
本開示のある特定の実施形態では、マイクロ要素から得られる信号d~ ε(x)は、プレサンプリング関数d~(x)を生成するために、実質的にフィルタカーネルf(x)に畳み込まれる。これはその後、離散的な検出器出力値d~A,nでスケールされたディラックδ関数の間隔aの連続からなる出力信号d~ (x)を生成するために、間隔aで評価される。実際には離散値d~A,nは、離散ベクトルfを持つ各小要素から得られた離散値の複数の畳み込みを用いて合成される。
【0051】
AAPデザインの実験的検証が2つの検出器を用いて実行された。1つ目は、0.5mmのCsI変換層を備える50μmのセンサ要素を持つCMOSベースのパネルである。カットオフ周波数2.5サイクル/mmの長方形ローパスフィルタを用いて、200μmのピクセルを有する画像が合成された。RQA-5スペクトルを持つ4μGyの空気カーマの検出器露光に関するMTFおよびDQEが測定された(70kV、2mmAl付加、6.4mAs、7.1mmのAl HVL、150cmのソース-画像間距離)。比較のために、200μmの同一サイズのピクセルを有する従来の画像が、同じ生画像から得られたセンサデータの4×4ビニングを用いて生成された。すべての画像は、ゲインとオフセットが補正された。付加的なリードアウトノイズは、X線量子雑音に比べて無視できることが実証された。
【0052】
セレン変換層とアモルファスシリコンセンサアレイとを備える70μmのセンサ要素を有するセレンベースの医療用マンモグラフィ検出器を用いて、同じ比較がなされた。AAPおよび4×4ビニング法を用いて、280μmのピクセルを有する画像が合成された。DQEを計算するのに使われるマンモグラフィにおける既知の方法により、IEC W/Rhスペクトルを持つ90μGyの空気カーマを用いて、MTFおよびDQEが測定された(28kV、2mmAl付加、24mAs、0.75mmのAl HVL、65cmのソース-画像間距離、グリッドなし)。
【0053】
図6に示される各図の効用は、DQEを含む各方法で得られる信号および雑音の両方の周波数応答性が示されることにある。AAPアプローチの利点は、同じ空間的スケールおよび空間周波数スケールでプロットされたこれら2つの図を比較することにより決定することができる。各図の左列は、入射X線量子の同じランダム分布の伝播を示す。マイクロ要素の周波数応答性は、それより大きい要素の周波数応答性よりはるかに広い。これは図6において、AAP検出器のD~ε(u)(図6の2.1)と、従来の検出器のD~(u)(図6の2)とを比較することにより理解される。図示される通り、sinc形状のカーネルf(x)=sinc(x/a)を選択することにより、画像カットオフ周波数u=0.5/aより低い周波数を同じ重みで通過させ、それより高い周波数をすべて遮断するローパスフィルタを得る。これにより、小要素(アパーチャMTF)の優れた周波数応答性を維持し、ノイズエイリアシングを低減させたまま、DQEを増加することができる。
【0054】
出力画像信号および雑音は、一番下の行に示される。いずれの検出器デザインも、同じ間隔a、同じ数の画像ピクセルを有する。周波数応答性の違いおよび信号エイリアシングの減少に起因にして、AAP検出器d~ のピクセル値は、従来の検出器d~ のピクセル値と微妙に異なる。各々の周波数応答性は、中央列に見ることができる。D~ (u)は、従来の検出器に比べて、より均一な基本スペクトル成分を持つことが分かる。さらに、エイリアスの次数が高いほどのオーバーラップが少ない。これにより、信号エイリアシングが低減される。従来の検出器と同様に、ウィーナーNPSも周波数に依存しない。従って、(同じピクセルサイズの従来の検出器と比べて)ノイズエイリアシングは大幅に低減しているとしても、セレンベースのAAP画像における雑音の出現は変わらないだろう。むしろMTFが改善し、その結果DQEが改善する。
【0055】
図7は、理論的なDQEに関し、AAPアプローチ(ε=0.05mm、a=0.2mm)で得られるものと、従来の検出器(a=0.2mm)で得られるものとの比較を示す。ゼロ周波数におけるDQE値の間に違いはない。一方、高周波数のDQE値は、ほぼ2.5倍増加している。この結果は、単一量子効率の仮定の下で得られる。実際に実験で得られるDQEは、本図に示されるDQEの理論値を量子効率でスケールしたものになるだろう。
【0056】
前述のように、ビジュアルインパクトの改善は、本開示の方法または装置を用いたときに経験される。図8のシミュレーション画像により、従来(ビニングされたもの、上図)とAAP法(下図)との画像の見た目が比較される。一見しては、両画像の間で雑音の違いは区別できない。それぞれの画像が平坦なNPSを持ち、どちらも同じ表示ウィンドウに示されることから、これは想定内のものである。従来の画像では、予想されるように、最初の4列においては、周波数が高くなるほどコントラストが低下することが分かる。そして第5列においては、エイリアスされてより低周波数となるパターンが見られる。
【0057】
これに対し、AAP画像は、予想されるより平坦なMTFに呼応して、最初の4列においては、周波数が変わってもコントラストの変化が非常に小さい様相を示す。しかしながら第5列においては、パターンは完全に除去されている。なぜなら、第5列にはサンプリングカットオフ周波数uより高い周波数が含まれ、これがAAPフィルタF(u)によって画像から除去されるからである。この観察により、信号と雑音の双方でuより高いすべての周波数を遮断するフィルタの能力が検証される。
【0058】
図9および図10に、特定の実験データが示される。図9では、CMOS/CSI検出器の実験的検証が、CMOS/CSI検出器で得られたプレサンプリングMTF、NPFおよびDQEの曲線に関して、従来の方法(ビニング)とAAP法とを比較したものに反映されている。CsI変換層における光学散乱により、空間的解像度が低下している。従って測定されたMTFは、変換層を含まない式(15)による理論モデルより高速に周波数とともに減少している。AAP MTFは、u=0.5/aより高い周波数を画像から除去するというAAP法のローパス特性を示している。しかしながら、AAP MTFは緩やかな改善のみを示す。APFが従来のMTFに対して緩やかな改善のみを示すのは、この検出器のMTFが、大部分、CsI変換層の光学的解像度特性で定められていることによる。結論として、ノイズエイリアシングは非常に小さいものとなる。一方DQEは、カットオフ周波数で0.2から0.4に、すなわち2倍改善してはいるものの、式(22)から予測されるものより小さい。
【0059】
図10には、セレン検出器を用いた検証実験で得られた結果が示される。セレン検出器から得られる結果は、より理論的予測に近いものとなる。セレン変換層は、結果的に空間的解像度の損失が非常に小さく、より理想的な変換層に近いからである。図10は、測定されたプレサンプリングMTF、NPSおよびDQEの曲線を示し、セレン検出器を用いて、従来の方法(ビニング)およびAAP法により測定された結果を比較する。従来のMTFは、式(15)の理論的曲線に類似している。一方AAP MTFは、u=0.5/a~1.8サイクル/mmのローパスカットオフ周波数を含む式(21)により近い。従来画像でもAAP画像でも、NPSは比較的平坦である。一方uにおけるDQEは、0.25から0.5へと、ほぼ2倍になっている。結果としてDQEは、ほとんど周波数に依存しない。
【0060】
前述の通り、本開示の方法および装置は、実質的に計算能力を持つ検出器にとって有利なものとなり得る。この場合、医療画像として現実的と思われるものより小さいセンサ要素を作成することができる。例えば、25μmのセンサ(20サイクル/mm)を有するフルサイズの検出器で得られる高周波数は、直接的な臨床値を持たないだろう。また結果として得られるファイルのサイズは、現時点における実用的な表示、伝送および蓄積のためには大きすぎるものだろう。本開示の方法は、画像ピクセルが物理的なセンサ要素から分離されたアーキテクチャのアプローチを与えてよい。極めて小さいセンサを備える、CMOSその他の新たな検出器デザインにおいて、本開示は、非常に重要な周波数におけるDQEを改善するために得られる情報を引き出すための方法となり得る。より大きなピクセル値の合成は、直接検出器上でリアルタイムに実行することができる。これにより、リードアウトシステムのデータ転送帯域幅を非常に大きくする必要性を低減または排除することができる。
【0061】
本開示の利点は、小センサ要素の優れた周波数応答によるプレサンプリングMTFの改善を含むが、これに限定されない。別の利点は、より大きな画像ピクセルを合成するときにsinc形状のカーネルを使うことにより、MTFの改善が維持され、ピクセルサイズaの画像に関するu=0.5/aの画像サンプリングカットオフ周波数より高い周波数が遮断される点にある。結果として、プレサンプリングMTFはこの周波数を超えて拡張することはない。これにより、画像におけるスペクトルエイリアシング雑音が低減される。ウィーナーNPSは全空間周波数領域にわたって平坦なままであるが、大部分のノイズエイリアシングも画像から除去される。別の利点は、低周波数でのDQE値はAAPアルゴリズムの影響を受けない一方、カットオフ周波数でのDQE値が最大2.5倍増加する点にある。実験データに基づけば、0.5mmの要素を備えるCMOS/CsIベースの検出器に関し、0.2mm検出器をシミュレートするための4×4ビニングと、同じピクセルサイズを持つ画像を合成するためのAAPアプローチとを比較した場合、高周波数でのDQEは0.2から0.4に増加した。やはり実験データに基づけば、0.07mmの要素を備えるセレンベースの検出器に関し、0.28mm検出器をシミュレートするための4×4ビニングと、同じピクセルサイズを持つ画像を合成するためのAAPアプローチとを比較した場合、高周波数でのMTFは0.5から0.8に増加し、高周波数でのDQEは0.22から0.52に増加した。
【0062】
好ましい実施形態では、本方法は直接センサアレイ上で実施または実行される。このためには、各物理的センサ要素で取得された信号をデジタル値に変換し、センサ要素より大きいサイズの画像ピクセルを合成するために、多数のセンサ要素からのデータを使う必要がある。この計算(または重み係数処理)は、物理センサデータをフーリエ変換し、その結果をフィルタ伝達関数に掛け合わせ、その結果を逆フーリエ変換することによる、フィルタカーネルへの畳み込みとして実行されてよい。フィルタカーネルの形状は、特定の検出器の条件、例えばリードアウトノイズのレベル、MTFの形状、ウィーナーノイズパワースペクトルの形状(特に、相関ノイズおよび非相関ノイズからの相対的寄与)などの条件の下で、DQEを最大化するように設計されてよい。好ましい実施形態では、フィルタは、本開示でMTFおよび/またはDQEを最大化するとして概説したものと似たカスケードモデルを用いて、あるいは他のモデル、例えば、DQEやDQE領域が増加するまたは最大化するまでフィルタカーネルを変化させる相互作用アプローチなどのモデルを用いて最適化されてよい。フィルタはまた、MTF、NPSおよびDQEを形作るために利用されてよい。例えば、サンプリングカットオフ周波数の近傍において、より滑らかにMTF、NPSおよびDQEをゼロまで低下されることが好ましいだろう。これにより、鋭いローパスフィルタ周波数応答性を有するアンチエイリアシングフィルタに起因する最小ギブスリンギングその他の雑音を低減することができる。
【0063】
前述では説明を目的として、実施形態の完全な理解のために多数の詳細が述べられた。しかしながら当業者は、これらの特定の詳細が必須ではないことを理解するだろう。理解をあいまいなものとしないため、別の例では、周知の電気的構造または回路がブロック図の形で示される。例えば本明細書に記載された実施形態の実装がソフトウェアルーチンか、ハードウェア回路か、ファームウェアか、あるいはこれらの組み合わせかに関する特定の詳細は与えられない。
【0064】
前述の実施形態は、単なる例示であることが意図されている。添付の請求項のみで定義される発明の範囲を逸脱することなく、当業者による特定の実施形態の代替、改良あるいは変形が有効である。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10