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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】送信装置及び送信方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 99/00 20090101AFI20230131BHJP
   H04L 27/26 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
H04J99/00 100
H04L27/26 111
H04L27/26 310
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019095636
(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公開番号】P2020191536
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
【審査官】玉田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03169030(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第107005359(CN,A)
【文献】特表2018-511188(JP,A)
【文献】岡田寛正(他6名),地上デジタル放送に対するLDM適用時の諸問題改善に関する一考察,映像情報メディア学会技術報告,日本,映像情報メディア学会,2018年08月31日,Vol.42, No.28,pp.13-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 99/00
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデータを階層分割多重方式で多重化して伝送するデータ伝送システムに使用される送信装置において、
周波数方向と時間方向に分散配置された第1のパイロットキャリアを含む第1のサブキャリア信号に第1ポイント数のIFFT処理を施して第1の変調信号を生成する第1の生成手段と、
第2のサブキャリア信号に第2ポイント数のIFFT処理を施して第2の変調信号を生成する第2の生成手段と、
前記第1の変調信号と前記第2の変調信号とを各々の開始タイミングが所定の周期で一致するようにタイミング調整して合成する合成手段と、
前記合成手段により合成された信号を送出する送出手段と、を備え、
前記第2の生成手段は、前記第2のサブキャリア信号に、前記第2の変調信号による前記第1のパイロットキャリアへの干渉を抑圧するための干渉抑圧用キャリアを含めることを特徴とする送信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送信装置において、
前記第2の生成手段は、前記第2のサブキャリア信号に含まれる複数のサブキャリアのうち、前記第1のパイロットキャリアに最も近い周波数のサブキャリアに、前記干渉抑圧用キャリアを割り当てることを特徴とする送信装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の送信装置において、
前記第2の生成手段は、前記干渉抑圧用キャリアを下記(式A)の演算により生成することを特徴とする送信装置。
【数1】
ここで、NULは前記第1ポイント数であり、NLLは前記第2ポイント数であり、ωX は前記干渉抑圧用キャリアのサブキャリア番号であり、ωLLはωX を中心とする所定の範囲のサブキャリア番号であり、DLL(ωLL)はサブキャリア番号ωLLのサブキャリアであり、DLL(ωX )は前記干渉抑圧用キャリアである。
【請求項4】
複数のデータを階層分割多重方式で多重化して伝送するデータ伝送システムの送信装置により実行される送信方法において、
周波数方向と時間方向に分散配置された第1のパイロットキャリアを含む第1のサブキャリア信号に第1ポイント数のIFFT処理を施して第1の変調信号を生成するステップと、
第2のサブキャリア信号に第2ポイント数のIFFT処理を施して第2の変調信号を生成するステップと、
前記第1の変調信号と前記第2の変調信号とを各々の開始タイミングが所定の周期で一致するようにタイミング調整して合成するステップと、
前記合成するステップにより合成された信号を送出するステップとを有し、
前記第2の変調信号を生成するステップにおいて、前記第2のサブキャリア信号に、前記第2の変調信号による前記第1のパイロットキャリアへの干渉を抑圧するための干渉抑圧用キャリアを含めることを特徴とする送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のデータを階層分割多重方式で多重化して伝送するデータ伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の地上デジタル放送への移行を進める一環として、現行の2K放送と異なる方式の放送波を周波数及び時間を共用して伝送する階層分割多重(Layered Division Multiplexing;LDM)方式の検討が進んでいる。非特許文献1では、上位階層(Upper Layer;UL)と下位階層(Lower Layer;LL)を同一のFFT(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)ポイント数でOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing;直交周波数分割多重)変調し、同一のサブキャリアにULとLLを異なるレベルで多重させる方式が提案されている。また、非特許文献2では、ULとLLを異なるFFTポイント数でOFDM変調し、時間領域で多重させる方式が提案されている。以下では、前者(非特許文献1)の方式を「同期LDM」と称し、後者(非特許文献2)の方式を「準同期LDM」と称する。
【0003】
準同期LDMでは、図3に示すように、例えば、ULについては8192のFFTポイントを用いて有効シンボルを生成し、1024サンプルのガードインターバルを付加することで、9216サンプルのOFDMシンボルを生成する。一方、LLについては32768のFFTポイントを用いて有効シンボルを生成し、ULと同一の1024サンプルのガードインターバルを付加することで、33792サンプルのOFDMシンボルを生成する。この場合、ULシンボルとLLシンボルは11:3の整数比が最小公倍数となり、それぞれの開始タイミングが所定の周期で一致することになる。
【0004】
このように、準同期LDMでは、ULとLLのガードインターバル長を同一とし、ULよりもLLの方が長い有効シンボル長とすることで、反射波の遅延時間耐性を同一とし、尚且つULよりもLLの方がビットレートを向上させることができる。この特徴を活かし、非特許文献2には、次世代の地上デジタル方式に準同期LDMを適用することが提案されている。なお、非特許文献2では、準同期LDMの効率性や特徴について述べられてはいるが、準同期LDMの詳細な復調方式については明らかにされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】佐藤明彦、外11名,“次世代地上放送に向けたLDMの適用に関する一検討”,映像情報メディア学会技術報告,vol.41,no.6,BCT2017-34,pp.45-48,2017年2月
【文献】岡田寛正、外6名,“地上デジタル放送に対するLDM適用時の諸問題改善に関する一考察 ~新放送方式受信エリア拡大手法と同期方式に関する検討~”,映像情報メディア学会技術報告,vol.42,no.28,BCT2018-76,pp.13-16,2018年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同期LDMでは、受信信号に対してUL、LL共に同一のFFT時間窓を設け、FFT時間窓内の信号に対してFFTを行うことで、各サブキャリアは直交関係が保たれたままで周波数領域の信号に変換される。しかしながら、準同期LDMではULとLLでFFTポイント数が異なるため、サブキャリア間の直交関係が崩れてしまい、同期LDMと同じ方式では復調することができない。
【0007】
準同期LDMの受信装置でも、同期LDMの受信装置と同様に、UL受信信号のレプリカを生成し、受信信号から減算することでLL信号を抽出することになる。このUL受信信号のレプリカを生成する際には、伝送路の特性を高精度に推定する必要がある。伝送路推定は、UL信号に周波数方向及び時間方向に分散配置されているパイロット信号から推定する手法が一般的に用いられる。しかしながら、準同期LDMにおけるLL信号はUL信号にとってノイズのように振舞うため、IL(Injection Level)に比例して等価的なCNR(Carrier to Noise Ratio)の低下が生じてしまう。ILとは、LL信号レベルに対するUL信号レベルの比率を表す値である。このような問題により、パイロットキャリアのCNRが低下して伝送路推定の精度も低下するので、受信側でUL受信信号のレプリカを正しく生成できないという課題がある。
【0008】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、LL信号の成分がUL信号のパイロットキャリアに及ぼす干渉を軽減することが可能な送信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、送信装置を以下のように構成した。
すなわち、複数のデータを階層分割多重方式で多重化して伝送するデータ伝送システムに使用される送信装置において、周波数方向と時間方向に分散配置された第1のパイロットキャリアを含む第1のサブキャリア信号に第1ポイント数のIFFT処理を施して第1の変調信号を生成する第1の生成手段と、第2のサブキャリア信号に第2ポイント数のIFFT処理を施して第2の変調信号を生成する第2の生成手段と、前記第1の変調信号と前記第2の変調信号とを各々の開始タイミングが所定の周期で一致するようにタイミング調整して合成する合成手段と、前記合成手段により合成された信号を送出する送出手段と、を備え、前記第2の生成手段は、前記第2のサブキャリア信号に、前記第2の変調信号による前記第1のパイロットキャリアへの干渉を抑圧するための干渉抑圧用キャリアを含めることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記第2の生成手段は、前記第2のサブキャリア信号に含まれる複数のサブキャリアのうち、前記第1のパイロットキャリアに最も近い周波数のサブキャリアに、前記干渉抑圧用キャリアを割り当てる構成としてもよい。
【0011】
また、前記第2の生成手段は、前記干渉抑圧用キャリアを後述の(式8)又は(式9)に示す演算により生成する構成としてもよい。なお、本記載は、後述の(式8)又は(式9)と同一の演算に限定することを意図するものではなく、これに相当する他の演算(すなわち、後述の(式8)又は(式9)と同様の結果が得られる他の演算)により前記干渉抑圧用キャリアを生成することも含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、LL信号の成分がUL信号のパイロットキャリアに及ぼす干渉を軽減することが可能な送信装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るデータ伝送システムにおける送信装置の構成例を示す図である。
図2図1の送信装置におけるダミーマッピング部の構成例を示す図である。
図3】準同期LDMの変調信号の一例を示す図である。
図4】パイロットシンボルの分散配置の例を示す図である。
図5】OFDMにおける各サブキャリアの直交関係について説明する図である。
図6】LLの信号成分によるULの干渉について説明する図である。
図7】LLの信号成分によるULの干渉を軽減するためのダミーマッピング信号について説明する図である。
図8】ULとLLのサブキャリア配置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係るデータ伝送システムについて、図面を参照して説明する。
以下では、ULとLLを異なるFFTポイント数でOFDM変調し、時間領域で多重化して伝送する準同期LDM伝送システムを例にして説明する。図1には、準同期LDM伝送システムに使用される送信装置の構成例を示してある。
【0015】
送信装置は、誤り訂正符号化部11と、データマッピング部12と、パイロットマッピング部13と、選択部14と、NULポイントOFDM変調部15と、合成部16と、誤り訂正符号化部17と、データマッピング部18と、パイロットマッピング部19と、ダミーマッピング部20と、選択部21と、NLLポイントOFDM変調部22と、アンテナ23とを備える。
【0016】
最初にUL信号の生成方式について説明を行う。UL信号の生成には一般的なOFDMの変調方式を用いることができ、地上デジタル放送方式ではARIB STD-B31に規定されている。
【0017】
地上デジタル放送に本システムを適用する場合、外部の映像符号化器などからのUL情報符号(例えば、2K放送のデータ)が、誤り訂正符号化部11に入力される。誤り訂正符号化部11は、入力されたUL情報符号に対して誤り訂正符号化を施す。地上デジタル放送方式を規定しているARIB STD-B31では、RS(Reed-Solomon)符号と畳み込み符号の連接符号化を行っている。誤り訂正符号化方式は、上記の符号化方式以外にも、ターボ符号やLDPC(Low Density Parity Check;低密度パリティ検査)符号などの他の誤り訂正方式を用いても差し支えない。
【0018】
誤り訂正符号化部11による誤り訂正符号化結果の信号は、データマッピング部12に入力される。データマッピング部12は、ULの誤り訂正符号を、64QAM(Quadrature Amplitude Modulation;直角位相振幅変調)や16QAMなどを用いてI/Q複素平面上にマッピングする。マッピング方式に関しても、上記以外の方式を用いてもよい。
【0019】
パイロットマッピング部13では、振幅と位相が既知であるパイロット信号を、データマッピング部12と同様にI/Q複素平面上にマッピングする。一般的に、パイロット信号のマッピングにはBPSK(Binary Phase Shift Keying;二位相偏移変調)が用いられているが、それ以外のマッピングを用いても差し支えない。
【0020】
選択部14では、所定の規則に従って、データマッピング部12とパイロットマッピング部13の各出力を選択する。具体的には、選択部14は、図4に示すように、周波数方向と時間方向に分散させたサブキャリア(図中の黒ブロック)にパイロット信号を配置し、それ以外のサブキャリア(図中の白ブロック)にデータ信号を配置する規則に従って動作する。パイロット信号が割り当てられたサブキャリアは「パイロットキャリア」とも称され、データ信号が割り当てられたサブキャリアは「データサブキャリア」とも称される。詳細は割愛するが、本例の送信装置に対応して配置される受信装置では、規則的に分散配置される既知のパイロット信号と送信装置から実際に受信したパイロット信号とを比較することで、送信装置と受信装置の間の伝送路の特性を推定する。
【0021】
選択部14から出力されるULのサブキャリア信号は、NULポイントOFDM変調部15によって周波数領域の信号から時間領域の信号に変換される。また、NULポイントOFDM変調部15は、シンボルの時間領域の後半部分をシンボル先頭にガードインターバル信号として巡回コピーする。このようにして、ULのOFDM変調信号が生成される。
【0022】
次に、LL信号の生成方式について説明を行う。
ULと同様に、外部の映像符号化器などからのLL情報符号(例えば、4K放送のデータ)が、誤り訂正符号化部17に入力される。誤り訂正符号化部17は、誤り訂正符号化部11と同様に、入力されたLL情報符号に対して誤り訂正符号化を施す。このとき、ULの誤り訂正符号と同一の方式である必要はない。
【0023】
誤り訂正符号化部17による誤り訂正符号化結果の信号は、データマッピング部18に入力される。データマッピング部18は、データマッピング部12と同様に、LLの誤り訂正符号をI/Q複素平面上にマッピングする。また、パイロットマッピング部19においても、パイロットマッピング部12と同様のマッピング処理を行う。
【0024】
次に、ダミーマッピング部20に関する説明を行う。ダミーマッピング部20による処理は、本発明の主眼となる処理であり、ULのパイロット信号に干渉を生じさせないようにI/Q複素平面上にダミー信号をマッピングすることを目的としている。
まず、OFDM信号の周波数領域での表現について説明し、次に、LL信号の成分がUL信号のパイロットキャリアに及ぼす干渉について説明する。最後に、この干渉を抑圧するためのダミーマッピング処理について言及する。
【0025】
OFDMのサブキャリア信号は周波数領域でsinc関数により表現することができ、各サブキャリアは直交していることがOFDMの特徴である(図5参照)。しかしながら、前述したように、ULとLLで異なるFFTポイント数を用いる場合には、ULとLLではサブキャリア間の直交関係が崩れてしまう。具体例を用いて説明すると、NULとNLLが例えば1:4の比率になっていたとすると、サブキャリア番号が4の倍数のLLサブキャリアはULサブキャリアに直交し、それ以外のLLサブキャリアはULサブキャリアに直交しない。このため、UL信号に対して非直交の関係にあるLL信号の成分が、UL信号に干渉として混入してしまう(図6参照)。
【0026】
特に、準同期LDMにおいて、受信装置が受信信号からUL受信信号をキャンセルしてLL受信信号を抽出するためには、伝送路推定の高精度化が必要である。しかしながら、LL信号の成分が、伝送路推定に必要となるUL信号のパイロットキャリアへ干渉してしまうことにより、その推定精度が低下してしまう。
【0027】
そこで、本発明におけるダミーマッピング部20は、LL信号の成分がUL信号のパイロットキャリアに及ぼす干渉を軽減すべく、図7の下図の点線で示したサブキャリア(ダミーキャリア)に、ULのパイロットキャリアへの干渉成分を打ち消すようなダミー信号をマッピングする。
【0028】
以下、このダミー信号の生成について、数式を用いて説明する。
まず、ULのパイロット信号の定式化を行う。ULサブキャリア番号ωULのUL信号のサブキャリアSUL(ωUL)は、下記(式1)で表される。
【数1】
【0029】
ここで、sinc(・)を、下記(式2)と定義する。
【数2】
【0030】
sinc関数は、括弧内が0以外の整数の場合に0となり、括弧内が0の場合に1となる関数である。また、ωは周波数を示し、OFDMではωが整数となる位置にサブキャリアが配置される。すなわち、ω=ωULの場合のみsinc(・)の値は1となり、それ以外のωが整数となる周波数ではsinc(・)の値は0となる。これは、図5に示したOFDMの各サブキャリアが直交していることを示している。また、DUL(ωUL)はサブキャリア番号ωULに割り当てられているデータ信号やパイロット信号のマッピングを示している。
【0031】
次に、ULのサブキャリア間隔で正規化した、LLサブキャリア番号ωLLのLL信号のサブキャリアSLL(ω,ωLL)は、下記(式3)で表される。
【数3】
【0032】
上記(式3)において、LLサブキャリア番号ωULがNLL/NULの整数倍の場合に、sinc関数の括弧内が整数となり、LLのサブキャリアがULのサブキャリアと直交する。逆に、それ以外の場合には、LLのサブキャリアがULのサブキャリアに直交せずに干渉として混入してしまうことを意味している(図6参照)。NULとNLLが例えば1:4の比率であれば、ωLLが4の倍数の場合にLLのサブキャリアがULのサブキャリアと直交し、それ以外であればLLのサブキャリアはULのサブキャリアと直交しない。
【0033】
ここで、ULサブキャリア番号ωP のサブキャリアへのLL信号の干渉成分I(ωP )は、下記(式4)に示すように、LLのマッピング値DLL(ωLL)とsinc関数の畳み込み演算で表される。
【数4】
【0034】
上記(式4)において、ULサブキャリア番号ωP のサブキャリアにパイロット信号が割り当てられていたとすると、ωP と直交するLLサブキャリア番号でωP に最も近いLLサブキャリア番号ωX は、下記(式5)で表される。
【数5】
【0035】
このLLサブキャリア番号ωX に、UL信号のパイロットキャリアに対するLL信号の干渉を軽減するためのダミー信号を割り当てる。このダミー信号を導出する前に、UL信号のパイロットキャリアへの干渉成分を下記(式6)に示す。下記(式6)は、上記(式5)を上記(式4)に代入することで得られる。
【数6】
【0036】
ULサブキャリア番号ωP のサブキャリアへの干渉量を0とするためには、I(ωP )=0であり、上記(式6)は下記(式7)となる。
【数7】
【0037】
上記(式7)において、LLサブキャリア番号ωX のサブキャリアのみを移行して整理すると、下記(式8)のように変換される。
【数8】
【0038】
以上の導出から、ULサブキャリア番号ωP のサブキャリアへの干渉量を0とするためのダミー信号DLL(ωX )は、上記(式8)の演算により算出できる。このように、ダミー信号DLL(ωX )は、LLのマッピング信号DLL(ωLL)とsinc関数の畳み込みで表されることが分かる。
したがって、ダミーマッピング部20は、上記(式8)を満たすダミー信号DLL(ωX )を生成する。ダミーマッピング部20により生成されたダミー信号DLL(ωX )は、その後段の選択部21によってLLのサブキャリア番号ωX のサブキャリアに割り当てられる。
【0039】
ここで、上記(式8)において、積分範囲ωLLは信号帯域幅全体であり、LL信号の全てのサブキャリアであるため、キャンセル成分であるダミー信号DLL(ωLL)の算出には多くの演算が必要となってしまう。LL信号の周波数広がりはsinc関数で表されるが、sinc関数の特性から明らかなように、パイロットキャリアの周波数から離れるにしたがって、その干渉量は低減していく。
【0040】
このため、UL信号のパイロットキャリア(ULサブキャリア番号ωP のサブキャリア)周辺のLL信号のサブキャリアのみを用いるだけであっても、UL信号のパイロットキャリアへの影響を軽減することができる。そこで、下記(式9)に示すように、ダミー信号DLL(ωX )の生成に使用するLL信号のサブキャリアを、サブキャリア番号ωX を中心とする所定範囲α内のものに制限することで、演算規模の削減を図る。
【0041】
【数9】
【0042】
図2には、ダミーマッピング部20の構成例を示してある。ダミーマッピング部20は、シフトレジスタ31と、乗算器32と、積分器33と、反転器34とを有する。ダミーマッピング部20には、上記(式9)におけるLLのデータ信号DLL(ωLL)の値が入力され、シフトレジスタ31にセットされる。
【0043】
シフトレジスタ31は、LL信号のサブキャリアのタイミングでシフト動作を行う。シフトレジスタ31の各タップのうち、ダミーキャリアのサブキャリア番号の前後αの範囲のタップが演算対象となる。ダミーマッピング部20は、シフトレジスタ31のセンタータップを除く各タップに上記(式9)の「sinc(・)」に相当する所定の係数を乗算器32で乗じた後、積分器33で積分処理を行う。ここで、シフトレジスタ31のセンタータップが演算に寄与していないことは、上記(式9)の「ωLL≠ωX 」の部分に相当する。積分器33の出力は反転器34に入力され、反転器34にて「-1」の乗算により符号が反転される。反転器34の処理は、上記(式9)の「-」に相当する。
【0044】
以上が、本発明の主眼であるダミーマッピング部20の処理に関する説明である。このような処理を行うダミーマッピング部20を使用することで、UL信号のパイロットキャリアに対するLL信号の成分の干渉を軽減することが可能となる。
【0045】
データマッピング部18、ダミーマッピング部20、パイロットマッピング部19の各出力は、選択部21に入力される。選択部21は、所定のサブキャリア配置になるように各入力信号を選択する(図8参照)。図8の例では、LL信号のダミーキャリアを、UL信号のパイロットキャリアに開始タイミングが一致するように配置している。
【0046】
2K放送から4K放送への移行期間では、2K解像度の映像を放送しているUL信号と4K解像度を放送するLL信号のILを可変にし、徐々にILを小さくしていき、4K放送に完全移行した段階では、UL信号が無くなってLL信号のみとなる。UL信号が存在する期間では、UL信号のパイロット信号を用いて伝送路推定を行うため、LL信号のパイロット信号は不必要である。また、UL信号が無くなった段階では、ダミー信号が不要となるため、ダミー信号を割り当てていたサブキャリアに既知信号であるパイロット信号を割り当てることが可能となる。そこで、選択部21では、移行段階に応じて、ダミーマッピング部20とパイロットマッピング部19の各出力の選択の仕方を切り替えるようにしてもよい。
【0047】
選択部21から出力されるLLのサブキャリア信号は、NLLポイントOFDM変調部22によって周波数領域の信号から時間領域の信号に変換される。また、NLLポイントOFDM変調部22は、シンボルの時間領域の後半部分をシンボル先頭にガードインターバル信号として巡回コピーする。このようにして、LLのOFDM変調信号が生成される。
【0048】
その後、合成部16で、NULポイントOFDM変調部15とNLLポイントOFDM変調部22の各出力をILに応じて重み付け合成することで、LDM信号を生成する。合成部16から出力されるLDM信号は、アンテナ23により空間に送出される。以上のようにして、準同期LDMにおける送信処理が完了する。
【0049】
以上説明したように、本例の送信装置では、誤り訂正符号化部11~NULポイントOFDM変調部15などのUL用処理部にて、周波数方向と時間方向に分散配置されたULパイロットキャリアを含むULのサブキャリア信号にNULポイントのIFFT処理を施してULのOFDM変調信号を生成し、誤り訂正符号化部17~NLLポイント変調部22などのLL用処理部にて、LLのサブキャリア信号にNLLポイントのIFFT処理を施してLLのOFDM変調信号を生成し、合成部16にて、これらのOFDM変調信号を各々の開始タイミングが所定の周期で一致するようにタイミング調整して合成し、この合成により得られたLDM信号をアンテナ23より空間に送出する。このとき、LL用処理部では、LLのサブキャリア信号に、LLのOFDM変調信号によるULパイロットキャリアへの干渉を抑圧するための干渉抑圧用キャリアであるダミーキャリアを含める構成となっている。
【0050】
このような構成の送信装置により、所定のILでLLのOFDM変調信号をULのOFDM変調信号に合成しても、LLのOFDM変調信号がULパイロットキャリアに及ぼす干渉を大幅に軽減することが可能となる。また、ダミーキャリアを割り当てていないLLのサブキャリアにはデータを割り当てることが可能であり、伝送効率も向上させることが可能となる。
【0051】
また、本例では、LL用処理部が、LLのサブキャリア信号に含まれる複数のサブキャリアのうち、ULパイロットキャリアに最も近い周波数のサブキャリアに、ダミーキャリアを割り当てる構成となっている。このような構成により、LLのOFDM変調信号の成分がULのOFDM変調信号のパイロットキャリアに及ぼす干渉の軽減を効率的に実現することができる。
【0052】
また、本例では、LL用処理部が、上記(式8)又は(式9)に示したような演算(又はこれらに相当する演算)によりダミーキャリアを生成する構成となっている。このような構成により、ダミーキャリアの算出の演算規模を削減することができる。
【0053】
ここで、上記の説明では、上位階層(UL)と下位階層(LL)の2階層を用いて2種類のデータを送信しているが、3階層以上に分けて3種類以上のデータを送信する準同期LDM方式のデータ伝送システムとしてもよい。例えば、それぞれに電力差を設けた3階層を用いて3種類のデータを伝送する場合において、第1~第2層の関係または第2~第3層の関係の少なくとも一方について本発明を適用することが可能である。
【0054】
また、上記の説明では、送信装置と受信装置の間の通信を無線により行う構成となっているが、送信装置と受信装置の間をケーブル接続して有線で通信する構成にも本発明を適用することが可能である。
【0055】
また、上記の説明では、ULのFFTポイント数(NULポイント)とLLのFFTポイント数(NLLポイント)とを異ならせた準同期LDMによりデータ伝送する構成となっているが、これらのポイント数を一致させる構成(すなわち、同期LDMへの本発明の適用)を排除するものではない。
【0056】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、上記以外にも広く適用することができることは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、上記のような処理を実行する方法や方式、そのような方法や方式を実現するためのプログラム、そのプログラムを記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、複数のデータを階層分割多重方式で多重化して伝送するデータ伝送システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
11:誤り訂正符号化部、 12:データマッピング部、 13:パイロットマッピング部、 14:選択部、 15:NULポイントOFDM変調部、 16:合成部、 17:誤り訂正符号化部、 18:データマッピング部18、 19:パイロットマッピング部、 20:ダミーマッピング部、 21:選択部、 22:NLLポイントOFDM変調部、 23:アンテナ、 31:シフトレジスタ、 32:乗算器、 33:積分器、 34:反転器
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