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特許7219180シールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】シールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20230131BHJP
   G06N 20/10 20190101ALI20230131BHJP
   G06N 3/08 20230101ALI20230131BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230131BHJP
【FI】
E21D9/093 C
G06N20/10
G06N3/08
G06N20/00 130
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019130125
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021014726
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】伊東 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 貴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英典
【審査官】大塚 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-158681(JP,A)
【文献】特開2018-021402(JP,A)
【文献】特開2019-039264(JP,A)
【文献】特開平04-309696(JP,A)
【文献】特開平06-307185(JP,A)
【文献】特開2017-207987(JP,A)
【文献】特開2019-049783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
G06N 20/10
G06N 3/08
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進工法において、シールド掘進管理システムから送られる施工計測データを教師データとして、人工知能による機械学習によりシールド掘進機の先端の偏差を予測する予測モデルを作成するための掘進予測モデルの作成方法であって、
施工現場におけるシールド掘進機の掘進計画延長線上に設定された学習領域において、掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データを説明変数として、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを作成する学習済みモデル作成工程と、
掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データから特定のパラメータに関するデータを削除したデータを確認用説明変数として、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を確認用目的変数とするパラメータ確認用モデルを、データを削除する特定のパラメータを入れ替えて複数作成するパラメータ確認用モデル作成工程と、
前記学習済みモデルによるシールド掘進機の先端の偏差の出力データと、各々の前記パラメータ確認用モデルによるシールド掘進機の先端の偏差の出力データとを比較して、採用すべき特定のパラメータを複数選択するパラメータ選択工程と、
選択された複数のパラメータに関する前記施工計測データを予測説明変数として入力して、出力データによりシールド掘進機の先端の偏差を予測する予測モデルを作成する予測モデル作成工程とを含んで構成されるシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法。
【請求項2】
前記機械学習が、サポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習である請求項1記載のシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法。
【請求項3】
目的変数となるシールド掘進機の先端の偏差が、水平偏差、垂直偏差、及び向きの偏差である請求項1又は2記載のシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法に関し、特に、人工知能による機械学習によりシールド掘進機の先端の偏差を予測する予測モデルを作成するためのシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進工法は、公知の土圧式や泥水式等のシールド掘進機の先端の切羽面を、泥土圧、泥水圧等によって押さえ付けて安定させつつ回転カッターによって地山を掘削すると共に、これらのシールド掘進機の後方にセグメントによるトンネル覆工体を一リング毎に組み立てながら、発進立坑から到達立坑に向けて、地中にトンネルを形成してゆく工法であり、都市部や平野部における主要なトンネル工事のための工法として広く採用されている。
【0003】
また、シールド掘進工法に用いる土圧式や泥水式等のシールド掘進機は、スキンプレートと呼ばれる金属製の外殻体の前部に切羽面を切削する回転カッターや、隔壁、カッター駆動装置、排土機構等を備えると共に、スキンプレートの後部に、シールドジャッキ、エレクター装置等を備えており、エレクター装置を用いてセグメントによるトンネル覆工体を一リング毎に組み立て、組み立てたトンネル覆工体から反力をとりつつ、シールドジャッキによってスキンプレートと共に回転カッターを押し出すことで、切羽面を切削しながらシールドトンネルを掘進して行くようになっている。
【0004】
このようなシールド掘進工法では、地中に設定された掘進計画延長線に沿って、精度良くシールド掘進機を掘進させて行く必要があるが、地中での施工になるため、周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、個々のシールド掘進機の特性等に由来する何等かの種々の要因によって、掘進計画延長線に沿って精度良く掘進して行くように制御しながら運転することが難しく、一般に、掘進計画延長線に対する水平偏差や垂直偏差や向きの偏差が、シールド掘進機の先端に生じることになる。特に、個々のシールド掘進機の特性等に由来する何等かの種々の要因は、個々の施工現場におけるシールド掘進機の「クセ」と呼ばれて、正確に把握することが難しく、従来は、熟練の作業員による経験と勘による運転の制御によって、掘進計画延長線に対する偏差が大きくならないようにシールド掘進機を掘進させるようになっていた。
【0005】
また、近年、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能:Artificial Intelligence)の技術革新に基づき、大量のデータとAIの利用によって、第四次産業革命の実現が期待されており、シールド掘進工法においても、例えばAIを活用したシールド掘進計画支援システムが開発されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1のシールド掘進計画支援システムでは、AIが試行錯誤しながら自己学習することで最適解を導く強化学習手法により、シールドトンネルの線形に応じたシールド掘進機の操作の計画値や、セグメントの配置計画を導き出すことができるようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】AIを活用したシールド掘進計画支援システムを開発/企業情報/清水建設、2018年5月25日、〔2019年6月10日検索〕、インターネット(URL:https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2018/2018005.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1のシールド掘進計画支援システムは、施工現場で実際にシールド掘進工事を施工するのに先立って、計画線形に対するシールド掘進機の運転方法と、形状の異なる複数のセグメントの割り付け方法について事前シミュレーションを行って、これらの計画値を設定するものに過ぎないばかりか、学習済みモデルを作成するため教師データのデータ項目(パラメータ)は、限定された特定のものとなっているため、個々の施工現場において、周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいは個々のシールド掘進機の特性等に由来する種々の不確定な要因によるシールド掘進機の「クセ」と呼ばれる特質を反映させた精度の良い予測モデルを得て、地中に設定された掘進計画延長線に沿ってシールド掘進機が掘進して行くように、適切に管理することは困難である。
【0008】
一方、シールド掘進工法では、シールド掘進機の進行に応じた掘進状況を詳細に把握することを目的として、シールド掘進管理システムが導入されることが多くなっている。シールド掘進管理システムは、シールド掘進工事における測量データやシールド掘進機に設置した各種センサーによる計測データ等の各種のデータの収集を行って、シールド掘進機の管理の一元化を担う公知のシステムであり、施工時の計測データの経時的変化やデータの統計処理の結果によって、地山の掘削土砂の状況やシールドマシンの負荷状況などを推測できるようになっていると共に、測量結果が入力されることにより、シールド掘進機やセグメントの位置を計算して、掘進計画延長線からの偏差を求めることができるようになっている。
【0009】
また、シールド掘進管理システムでは、シールドトンネルを形成するセグメントによる覆工体の各々のリングに対応する掘進が行われる際に、多数のパラメータ(データ項目)に関するデータが、例えば5秒程度の時間間隔毎に、或いはシールドジャッキによる10mm程度のジャッキストロ-ク毎に収集されて、大量の数のデータとして記憶されている。これらの大量の数のデータをAIによって解析させることにより、個々の施工現場における周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいは個々のシールド掘進機の特性等に由来する種々の不確定な要因によるシールド掘進機の「クセ」と呼ばれる特質を反映させて、シールド掘進機が地中に設定された掘進計画延長線に沿って掘進して行くように適切に管理することが可能になると考えられる。
【0010】
シールド掘進管理システムから送られる大量の数のデータをAIにより解析させて、地中に設定された掘進計画延長線に沿ってシールド掘進機が掘進して行くように適切に管理できるようにするには、シールド掘進管理システムから送られるデータを教師データとして、例えばシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルを作成し、作成した予測モデルにシールド掘進管理システムから送られる例えば直近の1又は複数のリング分のデータを入力して、シールド掘進機の先端の偏差を出力させることで、シールド掘進機の掘進を管理する方法が考えられる。
【0011】
しかしながら、シールド掘進管理システムから送られるデータのデータ項目(パラメータ)は、例えば180項目といった多数のデータ項目となっているため、データ項目によっては、予測モデルの精度に却って悪影響を与えるものや、予測モデルの精度に殆ど影響のないものも含まれることから、これらの精度に悪影響を与えるデータ項目や、精度に影響のないデータ項目に関するデータを除いたものを教師データとして、例えばシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルを作成することで、シールド掘進機が地中に設定された掘進計画延長線に沿って掘進して行くように、さらに効率良く、且つ精度良く適切に管理してゆくことが可能になると考えられる。
【0012】
本発明は、シールド掘進管理システムから送られるデータから、例えばシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルの精度に悪影響を与えるパラメータや、精度に影響のないパラメータに関するデータを除いた教師データによる予測モデルを作成して、個々の施工現場における周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいは個々の施工現場におけるシールド掘進機の「クセ」を反映させつつ、シールド掘進機が地中に設定された掘進計画延長線に沿って掘進して行くように、さらに効率良く、且つ精度良く適切に管理してゆくことを可能にするシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、シールド掘進工法において、シールド掘進管理システムから送られる施工計測データを教師データとして、人工知能による機械学習によりシールド掘進機の先端の偏差を予測する予測モデルを作成するための掘進予測モデルの作成方法であって、施工現場におけるシールド掘進機の掘進計画延長線上に設定された学習領域において、掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データを説明変数として、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを作成する学習済みモデル作成工程と、掘進方向後方側の一又は複数のリングを施工した際の前記施工計測データから特定のパラメータに関するデータを削除したデータを確認用説明変数として、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機の先端の偏差を確認用目的変数とするパラメータ確認用モデルを、データを削除する特定のパラメータを入れ替えて複数作成するパラメータ確認用モデル作成工程と、前記学習済みモデルによるシールド掘進機の先端の偏差の出力データと、各々の前記パラメータ確認用モデルによるシールド掘進機の先端の偏差の出力データとを比較して、採用すべき特定のパラメータを複数選択するパラメータ選択工程と、選択された複数のパラメータに関する前記施工計測データを予測説明変数として入力して、出力データによりシールド掘進機の先端の偏差を予測する予測モデルを作成する予測モデル作成工程とを含んで構成されるシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0014】
そして、本発明のシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法は、前記機械学習が、サポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法は、目的変数となるシールド掘進機の先端の偏差が、水平偏差、垂直偏差、及び向きの偏差であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法によれば、シールド掘進管理システムから送られるデータから、例えばシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルの精度に悪影響を与えるパラメータや、精度に影響のないパラメータに関するデータを除いた教師データによる予測モデルを作成して、個々の施工現場における周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいはシールド掘進機の「クセ」を反映させつつ、シールド掘進機が地中に設定された掘進計画延長線に沿って掘進して行くように、さらに効率良く、且つ精度良く適切に管理してゆくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係る掘進予測モデルの作成方法が実施されるシステムネットワークの説明図である。
図2】学習済みモデル作成工程の説明図である。
図3】リング報の説明図である。
図4】施工データの位置関係の説明図である。
図5】学習済みモデル作成工程及びパラメータ確認用モデル作成工程の説明図である。
図6】パラメータ確認用モデル作成工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい一実施形態に係るシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法は、例えば図1に示す構成のシステムネットワークにおいて実施されるようになっている。本実施形態の掘進予測モデルの作成方法は、例えばシールド掘進機20(図4参照)の施工を管理するシールド掘進管理システム10とLAN12を介して接続する、AI(人工知能:Artificial Intelligence)として好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークを実装可能な公知の機械学習ツール(ソフトウェア)が組み込まれたサーバ11を用いて、シールド掘進機20の先端の偏差を目的変数(出力データ)とする予測モデルを作成するものである。本実施形態の掘進予測モデルの作成方法は、シールド掘進管理システム10から送られる大量のデータから、予測モデルの精度に悪影響を与えるパラメータ(データ項目)や、精度に影響のないパラメータ(データ項目)に関するデータを除いた教師データによる予測モデルを作成して、個々の施工現場における周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいはシールド掘進機20の「クセ」を反映させつつ、シールド掘進機20が地中に設定された掘進計画延長線に沿って掘進して行くように、さらに効率良く、且つ精度良く、適切に管理してゆくことができるようにするものである。
【0019】
ここで、本実施形態では、公知のシールド掘進管理システム10として、例えば商品名「Arigataya」(株式会社演算工房製)を好ましく用いることができる。また、サーバ11は、例えばコンピュータからなる。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)、HDD(Hard Disk Drive)、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を備えている。CPUは、ROMに組み込まれた各種のプログラムに従って、RAMをワークエリアとして使用しながら、AIによる機械学習を制御する。また、CPUは、各種のコンピュータプログラムがROMに組み込まれていることにより、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を機能させると共に、シールド掘進管理システム10から送られる大量のデータやAIによる解析結果等を、例えばデータベース部に記憶させたり、所定の情報として、LAN12や現場に設置されたパーソナルコンピュータ13等を介して、例えば現場のディスプレイ14に表示させたり、プリンタから出力させたりできるようになっている。
【0020】
そして、本実施形態のシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法は、シールド掘進工法において、シールド掘進管理システム10から送られる施工計測データを教師データとして、AIによる機械学習によりシールド掘進機20の先端の偏差を予測する予測モデルを作成するための掘進予測モデルの作成方法であって、図2に示すように、施工現場におけるシールド掘進機20の掘進計画延長線21上に設定された学習領域22において、掘進方向後方側の一又は複数のリングN-1~N-5を施工した際の施工計測データを説明変数として、掘進方向前方側の所定のリングN~N+5を施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを作成する学習済みモデル作成工程と、掘進方向後方側の一又は複数のリングN-1~N-5を施工した際の施工計測データから特定のパラメータに関するデータを削除したデータを確認用説明変数として、掘進方向前方側の所定のリングN~N+5を施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を確認用目的変数とするパラメータ確認用モデルを、データを削除する特定のパラメータを入れ替えて複数作成するパラメータ確認用モデル作成工程(図5図6参照)と、学習済みモデルによるシールド掘進機の先端の偏差の出力データと、各々のパラメータ確認用モデルによるシールド掘進機の先端の偏差の出力データとを比較して、採用すべき特定のパラメータを複数選択するパラメータ選択工程と、選択された複数のパラメータに関する施工計測データを予測説明変数として入力して、出力データによりシールド掘進機の先端の偏差を予測する予測モデルを作成する予測モデル作成工程とを含んで構成されている。
【0021】
本実施形態では、シールド掘進管理システム10から送られる教師データとなる施工計測データは、例えばシールド掘進管理システム10により「リング報」(図3参照)として出力可能な多数のデータ項目と同様の内容の、例えば180項目程度の多数のパラメータに関するデータとなっており、シールドトンネルを構成する覆工体の各々のリング毎に、まとまったデータとして収集されて、シールド掘進管理システム10の記憶部に記憶されている。すなわち、シールド掘進工法では、一リング分の長さに対応する掘進長で、シールド掘進機20の先端の回転カッター20aにより切羽面を掘削しつつ、シールドジャッキ20bを伸長させながら掘進したら、シールド掘進機20の掘進作業を一旦中断し、スキンプレート20cの後部において、エレクター装置20dを用いてセグメント20eによる一リング分のトンネル覆工体が組み立てられることで、一リング毎に掘進作業が行なわれることから、好ましくは施工計測データは、一リング毎にまとまったデータとして処理されるようになっている。
【0022】
また、本実施形態では、施工計測データは、多数のデータ項目(パラメータ)の各々に関する測量データやシールド掘進機に設置した各種センサーによる計測データ等として、例えば5秒程度の時間間隔毎にシールド掘進管理システム10に送られることで、経時的変化を伴うデータとして収集されて記憶部に記憶されるようになっている。これらの施工計測データは、好ましくはセグメント20eの組立て位置のリングNo.を表題として収集されるようになっている。すなわち、図4に示すように、データ項目によっては、データが収集される位置が、例えば回転カッター20aが配置されるシールド掘進機20の先端の切羽面の位置やスキンプレート20cの後方の裏込め材の注入位置と、シールドジャッキ20bの伸縮部に配置されるセグメント20eによる各リングの組立て位置とが、1リング分の長さよりも離れた位置となっており、これらの1リング分の長さよりも離れた位置のデータについても、セグメントの組立て位置のリングNo.を表題とする、当該リングNo.の組立て位置のリング幅を確保するための切羽面の掘削作業中のデータや、当該リングNo.の組立て位置のリングにおける組立て作業中のデータとして、シールド掘進管理システム10に送られて収集されるようになっている。
【0023】
本実施形態では、掘進予測モデルの作成方法の学習済みモデル作成工程おいて、例えば施工延長が8600m程度のシールド工事におけるシールド掘進機20の掘進計画延長線21上に設定された、例えば70リング分(1リング=1.5m)の延長の初期の施工区間を第1週の学習領域(例えば125m)として、図2に示すように、掘進方向後方側の好ましくは5リングN-1~N-5を施工した際の施工計測データを説明変数として、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差を目的変数とする学習済みモデルを各々作成する。ここで、説明変数は、掘進方向後方側の5リングN-1~N-5を施工する際の、経時的変化を伴う全てのデータとすることができる。目的変数であるシールド掘進機20の先端の偏差は、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際に得られた施工計測データに基づいて、例えばシールド掘進機20に取り付けられたジャイロコンパスによる計測データ等の、所定の測量データに関するデータから、所定の計算式に従って算定された、好ましくはシールド掘進機20の先端のカッター中心の、シールドトンネルの掘進計画延長線21からの水平偏差や垂直偏差や向きの偏差の値とすることができる。
【0024】
本実施形態では、これらの説明変数や目的変数を教師データとして、好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習を行うことで、掘進方向後方側の5リングN-1~N-5の施工計測データを入力データとし、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする、学習済みモデルを作成する。これらの学習済みモデルは、第1週の学習領域においては、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする学習済みモデルとして、6モデル作成することができる(図5参照)。
【0025】
また、本実施形態では、第1週の学習領域に後続して、シールド掘進機20の掘進計画延長線21上に、第1週の学習領域と同様の例えば70リング分の延長(例えば125m)の区間を、第2週~第4週の学習領域として設定して、第1週の学習領域と同様に、図5に示すように、第2週~第4週の学習領域の各々について、6モデルの学習済みモデルを作成する。すなわち、第2週~第4週の各々の学習領域において、図2に示すように、掘進方向後方側の好ましくは5リングN-1~N-5を施工した際の施工計測データを説明変数とし、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際の、シールド掘進機20の先端の偏差を目的変数として、好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習を行うことで、掘進方向後方側の5リングN-1~N-5の施工計測データを入力データとし、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を各々施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする、6モデルの学習済みモデルを作成する。
【0026】
これらによって、本実施形態では、図5に示すように、第1週~第4週を予測期間とし、各予測期間における未来6リング(N~N+5)を予測区間として、6箇所のリングN~N+5を施工する際の、各々のシールド掘進機20における先端を予測先地点とする、偏差を出力するための合計24モデルの学習済みモデルが作成されることになる。
【0027】
また、本実施形態では、学習済みモデル作成工程おいて、これらの合計24モデルの学習済みモデルから、最も精度の良い予測期間、予測区間の学習済みモデルを選択して、パラメータ確認用モデル作成工程においてパラメータ確認用モデルを作成する際の基準となる、基準学習済みモデルとすることが好ましい。ここで、基準学習済みモデルとなる最も精度の良い予測期間、予測区間の学習済みモデルの選択は、例えば一の学習済みモデルを得た週とは別の週における学習領域で得られた施工計測データを当該一の学習済みモデルに入力した際の出力データを、当該別の週における学習領域で得られた施工計測データにおけるシールド掘進機の先端の偏差に関する既知の値と比較することによって、容易に行うことができる。
【0028】
本実施形態の掘進予測モデルの作成方法のパラメータ確認用モデル作成工程では、図5及び図6に示すように、基準学習済みモデルにおける掘進方向後方側の5リングN-1~N-5の全ての区間で施工した際の施工計測データから、特定のパラメータに関するデータを削除したデータを確認用説明変数として、掘進方向前方側の6箇所のリングN~N+5を施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を確認用目的変数とするパラメータ確認用モデルを、データを削除する特定のパラメータ(説明変数)を入れ替えて複数作成する。本実施形態では、データを削除する特定のパラメータ(説明変数)は、施工計測データとして送られるデータに関する例えば180のデータ項目のうち、シールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルの精度に影響がないと予想されるパラメータや、精度に悪影響を与えると予想されるパラメータがある場合はそのパラメータを、好ましくは作業員が40項目程度選択して、パラメータ確認用モデルを作成することができる。例えばシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルの精度に影響がないと予想されるパラメータとしては、スクリュコンベヤ回転数やスクリュゲートの開度、多段導通摩耗(多段導通型の検知装置で測定したビットの摩耗量)、裏込め液の注入量等のデータ項目を挙げることができる。
【0029】
これらによって、本実施形態では、パラメータ確認用モデル作成工程において、精度に影響がないと予想されるデータや、予測モデルの精度に悪影響を与えると予想されるデータに関する、選択された40項目のパラメータを各々削除した40モデルのパラメータ確認用モデルが、データを削除する特定のパラメータを入れ替えて作成されることになる。
【0030】
また、本実施形態では、好ましくはパラメータ確認用モデル作成工程において、図5に示すように、基準学習済みモデルにおける掘進方向後方側の5リングN-1~N-5を施工した際の施工計測データから、特定の1リングに関するデータを削除したデータをリング確認用説明変数として、掘進方向前方側の精度の良い特定のリングを施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差をリング確認用目的変数とするリング確認用モデルを、データを削除するリングを入れ替えて複数(5モデル)作成することもできる。
【0031】
本実施形態の掘進予測モデルの作成方法のパラメータ選択工程では、上述の学習済みモデル作成工程で得られた、基準学習済みモデルによるシールド掘進機の先端の偏差の出力データと、上述のパラメータ確認用モデル作成工程で得られた、40モデルの各々のパラメータ確認用モデルによるシールド掘進機20の先端の偏差の出力データとを比較して、採用すべき特定のパラメータを複数選択する。すなわち、パラメータ選択工程では、基準学習済みモデルに、好ましくは当該基準学習済みモデルを得た週とは別の週における学習領域で得られた施工計測データを入力して、シールド掘進機20の先端の偏差に関する出力値を得ると共に、基準学習済みモデルに入力したデータと同様の施工計測データを各々のパラメータ確認用モデルに入力して、各々のパラメータ確認用モデルから出力されるシールド掘進機の先端の偏差に関する出力値を得て、これらのシールド掘進機の先端の偏差に関する出力値を比較する。
【0032】
基準学習済みモデルからのシールド掘進機の先端の偏差に関する出力値と、各々のパラメータ確認用モデルからのシールド掘進機の先端の偏差に関する出力値とを比較して、例えばこれらの出力値に差がない場合には、基準学習済みモデルと比較されたパラメータ確認用モデルにおいて削除されたデータに係るパラメータは、出力値であるシールド掘進機の先端の偏差の精度に寄与しないパラメータであるとして、選択されるべきパラメータから除くことができる。
【0033】
基準学習済みモデルからのシールド掘進機の先端の偏差に関する出力値と、各々のパラメータ確認用モデルからのシールド掘進機の先端の偏差に関する出力値とを比較して、例えばこれらの出力値に適度な誤差がある場合には、基準学習済みモデルと比較されたパラメータ確認用モデルにおいて削除されたデータに係るパラメータは、出力値であるシールド掘進機の先端の偏差の精度に寄与するパラメータであるとして、パラメータ確認用モデル作成工程において、シールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルの精度に影響がないと予想されたり、精度に悪影響を与えると予想された、40項目以外のパラメータと共に、選択されるべきパラメータとして選択される。
【0034】
上述のようにしてパラメータ選択工程で選択された、出力値であるシールド掘進機の先端の偏差の精度の値に寄与しないと判断されたパラメータや、悪影響を与えると判断されたパラメータを除いたデータ項目は、選択されるべきパラメータとして、パラメータ確認用モデル作成工程において、シールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルの精度に悪影響を与えると予想されたり、精度に影響がないと予想された、40項目以外のパラメータと共に、後述の予測モデル作成工程において、予測説明変数として入力されるべき施工計測データに係るパラメータであるとして用いることができる。
【0035】
また、本実施形態では、パラメータ確認用モデル作成工程において作成された、5モデルのリング確認用モデルを用いることで、例えば説明変数となる掘進方向後方側の5リングN-1~N-5の施工計測データに関して、掘進方向後方側の何リング前のどの説明変数が、出力値であるシールド掘進機の先端の偏差の精度に寄与しているかを分析することが可能になると考えられ、またパラメータ毎に、説明変数の影響が出るまでの時間(掘進距離)を分析することが可能になると考えられる。
【0036】
本実施形態の掘進予測モデルの作成方法の予測モデル作成工程では、パラメータ選択工程で選択されたパラメータ及びパラメータ確認用モデル作成工程において選択されなかった40項目以外のパラメータに関する、好ましくは基準学習済みモデルを作成した際の予測期間、予測区間で掘進方向後方側の好ましくは5リングN-1~N-5を施工した際の施工計測データを説明変数とし、掘進方向前方側の所定のリングを施工した際のシールド掘進機20の先端の偏差を目的変数として、好ましくはサポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによる機械学習を行うことで、掘進方向後方側の5リングN-1~N-5の施工計測データを入力データとし、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機20の先端の偏差を出力データとする、シールド掘進機の先端の偏差を予測する予測モデルを作成することができる。
【0037】
本実施形態では、予測モデル作成工程で作成した学習済みの予測モデルを用いることで、例えば施工延長が8600m程度のシールド工事における、初期の施工区間である第1週~第4週の学習領域よりも掘進方向前方側の、相当の延長の本掘進領域において、掘進方向後方側の5リングN-1~N-5の施工計測データを入力し、掘進方向前方側の所定のリングを施工する際のシールド掘進機20の先端の掘進計画延長線21からの偏差を出力させて予測することで、シールド掘進機20が地中に設定された掘進計画延長線21に沿って掘進して行くように、適切に管理してゆくことが可能になる。
【0038】
これらによって、本実施形態のシールド掘進工法における掘進予測モデルの作成方法によれば、シールド掘進管理システム10から送られる多数のパラメータに関する大量の施工計測データから、例えばシールド掘進機の先端の偏差を目的変数とする予測モデルの精度に悪影響を与えるパラメータや、精度に影響のないパラメータに関するデータを除いた教師データによる予測モデルを作成して、個々の施工現場における周囲の地盤の地質の変化や環境状態の変化、あるいはシールド掘進機20の「クセ」を反映させつつ、シールド掘進機20が地中に設定された掘進計画延長線21に沿って掘進して行くように、さらに効率良く、且つ精度良く適切に管理してゆくことが可能になる。
【0039】
また、本実施形態によれば、シールド掘進管理システム10から送られる大量の施工計測データに対して、例えば統計フィルタや条件フィルタによるデータクレンジングを行うこともできる。統計フィルタによるデータクレンジングは、例えば施工計測データを取得した後の分散や外れ値を鑑みて、ルールを規定するものであり、なるべく初期の段階で設定し、途中で変えないようにすることが好ましい。条件フィルタによるデータクレンジングは、例えば掘進状態について、掘進off状態のジャッキストローク等は水平偏差に影響しないので、掘進off状態のレコードを除外するものであり、また例えば補正について、片番切り替えのタイミングで、再測量による補正が行われる際に、補正値を正の値としたり、ノイズの乗り次第では、補正値の間を線形で繋ぐモデルの使用を検討したりするものである。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、学習済みモデルやパラメータ確認用モデルや予測モデルを作成するための説明変数となる施工計測データは、掘進方向後方側の直前の5リングから得られるものである必要は必ずしもなく、掘進方向後方側の一又は複数のリングを適宜選択して、これらのリングから得られる施工計測データとすることもできる。説明変数となるシールド掘進機の先端の偏差が計測されるリングは、掘進方向前方側の直後の6リングうちのいずれかである必要は必ずしも無く、7リング以上前方側のリングにおけるシールド掘進機の先端の偏差であっても良い。学習済みモデルやパラメータ確認用モデルや予測モデルを作成するための機械学習は、サポートベクターマシンをアルゴリズムとするニューラルネットワークによるものである必要は必ずしも無く、大量の施工計測データを解析することが可能な、その他の種々のアルゴリズムによるものであっても良い。
【符号の説明】
【0041】
10 シールド掘進管理システム
11 サーバ
12 LAN
13 パーソナルコンピュータ
14 ディスプレイ
20 シールド掘進機
20a 回転カッター
20b シールドジャッキ
20c スキンプレート
20d エレクター装置
20e セグメント
21 掘進計画延長線
22 学習領域
N~N+5,N-1~N-5 リング
図1
図2
図3
図4
図5
図6