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特許7219212MHC結合ペプチドアレイおよびその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】MHC結合ペプチドアレイおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230131BHJP
   C07K 14/74 20060101ALI20230131BHJP
   C07K 1/04 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230131BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230131BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230131BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230131BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/74
C07K1/04
C12N15/09 Z
A61P37/04
A61P35/00
A61K39/00 H
A61K38/00
A61K38/17
G01N33/53 S
G01N37/00 102
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019512661
(86)(22)【出願日】2017-09-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017072165
(87)【国際公開番号】W WO2018046468
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-07-27
(31)【優先権主張番号】62/384,088
(32)【優先日】2016-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】クライン,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】リアミチェフ,ヴィクター
(72)【発明者】
【氏名】メスナー,エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】パテル,ジガー
(72)【発明者】
【氏名】リー,ハンイーン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-509583(JP,A)
【文献】特表2013-522276(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0019843(US,A1)
【文献】国際公開第2010/038027(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/151146(WO,A2)
【文献】特開2016-108250(JP,A)
【文献】国際公開第2004/094458(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 - 14/00
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のペプチドを含むペプチドマイクロアレイであって、前記ペプチドが、ペプチド-主要組織適合遺伝子複合体(ペプチド-MHC)会合体を形成し、それぞれの会合体がマイクロアレイペプチドおよび主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を含み、ここで、
前記ペプチドがMHCの必須構成要素であり、リンカーを介してそのC末端で前記ペプチドマイクロアレイの表面に結合され、
前記MHCは、α鎖およびβ鎖を含むクラスI MHCであり、 ここで、前記MHCのα鎖がヒト白血球抗原(HLA)遺伝子から誘導される配列によってコードされ、および前記MHCのα鎖は切断され、C末端のヒンジ領域、膜貫通領域または細胞質領域が除去されており、
前記複数のペプチドが前記表面上で合成され、
前記複数のペプチドが空間的に順序付けられており、それらの配列が事前に決定されている、前記ペプチドマイクロアレイ。
【請求項2】
MHCが、好ましくはウシ血清アルブミン(BSA)である担体分子を含む、請求項1に記載のペプチドマイクロアレイ。
【請求項3】
α鎖が、膜貫通領域または細胞質領域を含まない、請求項1または2に記載のペプチドマイクロアレイ。
【請求項4】
α鎖が、ヒンジ領域を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチドマイクロアレイ。
【請求項5】
前記ペプチドマイクロアレイが、少なくとも10個の特有のペプチドを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のペプチドマイクロアレイ。
【請求項6】
α鎖が、αドメイン、αドメインおよびαドメインを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のペプチドマイクロアレイ。
【請求項7】
前記MHCが、野生型クラスI MHCである、請求項1~6のいずれか1項に記載のペプチドマイクロアレイ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のペプチドマイクロアレイを作製する方法であって、複数のペプチドを含むマイクロアレイの表面と、MHC組成物とを、複数のペプチド-MHC会合体を生成するために適切な条件下で接触させる工程を含み、
ここで前記ペプチドがMHCの必須構成要素であり、リンカーを介してそのC末端で前記ペプチドマイクロアレイの表面に結合され、
前記MHCは、α鎖およびβ鎖を含むクラスI MHCであり、 ここで、前記MHCのα鎖がヒト白血球抗原(HLA)遺伝子から誘導される配列によってコードされ、および前記MHCのα鎖は切断され、C末端のヒンジ領域、膜貫通領域または細胞質領域が除去されており、
前記複数のペプチドが前記表面上で合成され、
前記複数のペプチドが空間的に順序付けられており、それらの配列が事前に決定されている、前記方法。
【請求項9】
表面に接触させる前に、MHC組成物が、
(a)MHC組成物を4℃で一晩インキュベートする工程、
(b)MHC組成物から沈殿物を分離する工程、および
(c)沈殿物を含まないMHC組成物を、表面に接触させるために回収する工程、
を含む方法によって作製される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
MHCによってin vivoで提示されるときに免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための、請求項1~7のいずれか一項に記載のペプチドマイクロアレイの使用。
【請求項11】
ペプチド抗原が、がん抗原である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
がん抗原を含むワクチンを調製するための、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
免疫応答を増強または誘導する医薬の製造のための、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
ペプチドマイクロアレイの少なくとも1つのペプチドによって刺激される少なくとも1つのT細胞の同定のための請求項1~7のいずれか一項に記載のペプチドマイクロアレイの使用であって、
(a)少なくとも1つのT細胞とペプチドマイクロアレイとを接触させる工程、
(b)活性化に際し、少なくとも1つのT細胞から分泌される少なくとも1つの分子を検出する工程、および、
(c)少なくとも1つのT細胞を画像化する工程、
を含む、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[01]本開示は、分子生物学、合成生物学、タンパク質アレイおよび免疫学、ならびに医学および研究ツールを対象とする。
【背景技術】
【0002】
[02]正確な生物学的状況でペプチドをin vitro分析するための、in situ合成することができる、適切に会合した主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示される表面結合ペプチドについて、当技術分野において長く切望されながら満たされていないニーズがあった。本開示は、この長く切望されながら満たされていないニーズに対する解決策を提供する。
【発明の概要】
【0003】
[03]本開示は、会合した主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示されるペプチドと免疫細胞(例えば、T細胞)との間の相互作用をアッセイして、in vivoで生物学的に関連するペプチドと細胞とを同定するためのin vitroシステムを提供する。本開示の組成物は、各ペプチドが空間的に順序付けられたアレイで表面に結合した表面を提供することによってin vivoで免疫優性である単一のペプチドを同定する特有の能力を提供する。ペプチドの空間的順序は、表面上で各ペプチドをin situ合成することによって可能となる。
【0004】
[04]本開示の組成物が成功したことは、他者が試みて失敗しただけでなく、現状技術で支配的な意見に対向するものである。例えば、クラスI MHCを含む組成物について、支配的な知識は、MHCにおいて適切に会合させるために、ペプチドのアミノ末端(N末端)とカルボキシ末端(C末端)の両方が、遊離、非結合、または非係留でなければならないことを指示する。
【0005】
[05]本開示の組成物を使用して、免疫優性ペプチドを、あらゆる状態について同定することができる。さらに、現状技術は、in vivoで関連するまたは関連しない可能性がある免疫優性ペプチドをコンピュータアルゴリズムに依存して予測する。対照的に、本開示の組成物は、免疫細胞を活性化する特有のペプチドを特異的に同定するために少なくとも10個の特有のペプチドを同時に分析する能力を有する。表面上のMHCが、アレイの表面上で、ペプチド-MHC会合体がin vivoで細胞の表面上に現れるようにペプチド-MHC会合体を正確に再現することから、本開示の組成物は、in vivoで関連するペプチドを同定し、したがって、さらなる実験的検証を必要とせず、既存の技術で必要とされる時間のかかる高価な工程を排除する。これらのペプチドはそれぞれ空間的に順序付けられており、それらの配列が事前に決定されているので、免疫優性ペプチドの配列はすぐに分かり、関連ペプチドの配列決定という、これまた既存の技術で必要とされる、別の時間のかかる高価な工程も排除する。
【0006】
[06]ペプチドバリアントを分析することによって、本開示の組成物は、各ペプチド-MHCの成功した会合について、クラス(例えば、MHCクラスIまたはII)にかかわらず、またどの白血球抗原(例えば、HLA-A、HLA-BまたはHLA-C)がMHCに寄与するかにかかわらず、必須のアミノ酸(「アンカーポイント」とも呼ばれる)を同定するために使用することができる。
【0007】
[07]詳細には、本開示は、ペプチドと主要組織適合遺伝子複合体(MHC)とを含む少なくとも1つの会合体を含む組成物であって、ペプチドがMHCの必須構成要素であり、ペプチドがリンカーを介してそのC末端で表面に結合しており、ペプチドが表面上で合成される、組成物を提供する。特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体は、複数の会合体である。
【0008】
[08]MHCは、ヒト(つまり、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子)、霊長類(例えば、類人猿、サル、チンパンジー、およびボノボ)、ならびにマウス(つまり、マウス白血球抗原(MLA)遺伝子)を含むがこれらに限定されない任意の哺乳動物種由来の白血球抗原遺伝子によってコードされ得る。
【0009】
[09]本開示の組成物の特定の実施形態では、MHCは、クラスI MHCである。
【0010】
[010]MHCがクラスI MHCである本開示の組成物の特定の実施形態では、MHCのα鎖は切断されていてもよい。例えば、特定の実施形態では、MHCのα鎖は、膜貫通領域または細胞質領域を含まない。MHCがクラスI MHCである特定の実施形態では、MHCのα鎖はヒンジ領域を含まない。MHCはクラスI MHCである特定の実施形態では、MHCのα鎖は、膜貫通領域、ヒンジ領域または細胞質領域を含まない。MHCがクラスI MHCである特定の実施形態では、MHCのα鎖は、αドメイン、αドメインおよびαドメインを含む。MHCがクラスI MHCである特定の実施形態では、MHCのα鎖は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、HLA-E遺伝子、HLA-F遺伝子、HLA-G遺伝子、HLA-K偽遺伝子およびHLA-L偽遺伝子からなる群から選択されるHLA遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。代替的に、MHCがクラスI MHCである場合、MHCのα鎖は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子およびHLA-C遺伝子からなる群から選択されるHLA遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。代替的に、MHCがクラスI MHCである場合、MHCのα鎖は、HLA-A遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。
【0011】
[011]本開示の組成物の特定の実施形態では、MHCは、クラスI MHCである。MHCのα鎖は、HLA-A遺伝子、特にHLA-A11:01から誘導される配列によってコードされ得る。HLA-A11:01のアミノ酸配列は、MGSHSMRYFYTSVSRPGRGEPRFIAVGYVDDTQFVRFDSDAASQRMEPRAPWIEQEGPEYWDQETRNVKAQSQTDRVDLGTLRGYYNQSEDGSHTIQIMYGCDVGPDGRFLRGYRQDAYDGKDYIALNEDLRSWTAADMAAQITKRKWEAAHAAEQQRAYLEGRCVEWLRRYLENGKETLQRTDPPKTHMTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWE(配列番号1)を含むまたはそれからなることができる。
【0012】
[012]本開示の組成物の特定の実施形態では、MHCは、クラスI MHCである。MHCのα鎖は、HLA-B遺伝子、特にHLA-B07:02から誘導される配列によってコードされ得る。HLA-B07:02のアミノ酸配列は、GSHSMRYFYTSVSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDSDAASPREEPRAPWIEQEGPEYWDRNTQIYKAQAQTDRESLRNLRGYYNQSEAGSHTLQSMYGCDVGPDGRLLRGHDQYAYDGKDYIALNEDLRSWTAADTAAQITQRKWEAAREAEQRRAYLEGECVEWLRRYLENGKDKLERADPPKTHVTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDRTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWE(配列番号2)を含むまたはそれからなることができる。
【0013】
[013]本開示の組成物の特定の実施形態では、MHCは、クラスI MHCである。MHCのα鎖は、HLA-C遺伝子、特にHLA-C07:02から誘導される配列によってコードされ得る。HLA-C07:02のアミノ酸配列は、SHSMRYFDTAVSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDSDAASPRGEPRAPWVEQEGPEYWDRETQKYKRQAQADRVSLRNLRGYYNQSEDGSHTLQRMSGCDLGPDGRLLRGYDQSAYDGKDYIALNEDLRSWTAADTAAQITQRKLEAARAAEQLRAYLEGTCVEWLRRYLENGKETLQRAEPPKTHVTHHPLSDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGQEQRYTCHMQHEGLQEPLTLSWE(配列番号3)を含むまたはそれからなることができる。
【0014】
[014]本開示の組成物の特定の実施形態では、UniProtデータベースからのHLA-A11:01、HLA-B07:02およびHLA-C07:02アミノ酸配列を切断して、C末端でヒンジ、膜貫通および細胞質領域を、N末端からリーダーペプチド配列を除去した。
【0015】
[015]本開示の組成物の特定の実施形態では、MHCは、クラスII MHCである。
【0016】
[016]MHCがクラスII MHCである本開示の組成物の特定の実施形態では、MHCのα鎖は切断されていてもよい。例えば、特定の実施形態では、MHCのα鎖は、膜貫通領域または細胞質領域を含まない。MHCがクラスII MHCである特定の実施形態では、MHCのα鎖は、αドメインおよびαドメインを含む。MHCがクラスII MHCである特定の実施形態では、MHCのα鎖は、HLA-DM遺伝子、HLA-DO遺伝子、HLA-DP遺伝子、HLA-DQ遺伝子およびHLA-DR遺伝子からなる群から選択されるHLA遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。MHCがクラスII MHCである特定の実施形態では、MHCのβ鎖は切断されている。例えば、特定の実施形態では、MHCのβ鎖は、膜貫通領域または細胞質領域を含まない。MHCがクラスII MHCである特定の実施形態では、MHCのβ鎖は、βドメインおよびβドメインを含む。MHCがクラスII MHCである特定の実施形態では、MHCのβ鎖は、HLA-DM遺伝子、HLA-DO遺伝子、HLA-DP遺伝子、HLA-DQ遺伝子およびHLA-DR遺伝子からなる群から選択されるHLA遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。
【0017】
[017]本開示の組成物の特定の実施形態では、MHCおよび/または少なくとも1つの会合体は、担体分子を含む。本開示の担体分子は、MHC成分と表面上の各ペプチドとが統合して少なくとも1つのペプチド-MHC会合体を形成することを促進する。この促進を達成し得る多くの機構があるが、特定の実施形態では、本開示の担体分子はMHCの1つまたは複数の成分が表面上のペプチドと接触する前に、該1つまたは複数の成分と結合することができる。MHCの1つまたは複数の成分が表面上のペプチドと接触する前に該1つまたは複数の成分と結合する担体分子は、ペプチドが該MHCの1つまたは複数の成分に結合するために必須の1つまたは複数の成分の残基および/または結合部位には結合しない。担体分子は、表面上の完全に会合したMHCに結合したままでもよく、またはMHCの成分が表面上のペプチドと会合した後、解離してもよい。本開示の担体分子は、表面上のMHCによって提示されるペプチドへのT細胞の応答を変化させない。
【0018】
[018]本開示の組成物の特定の実施形態では、担体分子は、ウシ血清アルブミン(BSA)を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。MHCがクラスI MHCである特定の実施形態では、担体分子は、ウシ血清アルブミン(BSA)を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0019】
[019]本開示の組成物の特定の実施形態では、リンカーは、ヘキサン酸を含む。特定の実施形態では、リンカーは、1~5個のモノマー単位を含んでもよい。特定の実施形態では、リンカーは、3~5個のモノマー単位を含んでもよい。特定の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位を含んでもよい。例えば、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位は、負に荷電されたアミノ酸を含むことができる。負に荷電されたアミノ酸は、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)であってもよい。特定の実施形態では、リンカーは、ヘキサン酸と、5個のモノマーの長さを有する少なくとも1つの負に荷電されたアミノ酸とを含み得る。リンカーの例には、(表面)-5HEX、(表面)-HEX-E-3HEX、(表面)-HEX-D-3HEX、(表面)-2HEX-E-HEXが含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
[020]本開示の組成物の特定の実施形態では、リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)を含む。特定の実施形態では、リンカーは、1~5個のモノマー単位を含んでもよい。特定の実施形態では、リンカーは、3~5個のモノマー単位を含んでもよい。特定の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位を含んでもよい。例えば、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位は、負に荷電されたアミノ酸を含むことができる。負に荷電されたアミノ酸は、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)であってもよい。
【0021】
[021]本開示の組成物の特定の実施形態では、リンカーは、グリシン(G)およびセリン(S)アミノ酸の混合物を含む。例えば、リンカーは、グリシン(G):セリン(S)アミノ酸の3:1比率の混合物を含んでもよい。特定の実施形態では、リンカーは、1~5個のモノマー単位を含んでもよい。特定の実施形態では、リンカーは、3~5個のモノマー単位を含んでもよい。特定の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位を含んでもよい。例えば、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位は、負に荷電されたアミノ酸を含むことができる。負に荷電されたアミノ酸は、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)であってもよい。
【0022】
[022]本開示の組成物の特定の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位を含み、会合体は、HLA2遺伝子によってコードされるMHCを含む。特定の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位を含み、リンカーは、3~5個のモノマーからなり、会合体は、HLA2遺伝子によってコードされるMHCを含む。特定の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位を含み、リンカーは、3個のモノマーからなり、会合体は、HLA2遺伝子によってコードされるMHCを含む。特定の実施形態では、リンカーは、少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位を含み、リンカーは、5個のモノマーからなり、会合体は、HLA2遺伝子によってコードされるMHCを含む。
【0023】
[023]本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体または複数の会合体の各ペプチドは、端点を含む6~30個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体または複数の会合体の各ペプチドは、端点を含む6~20個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体または複数の会合体の各ペプチドは、端点を含む6~12個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。MHCがクラスI MHCである本開示の組成物の特定の実施形態では、端点を含む6~12個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体または複数の会合体の各ペプチドは、9個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。MHCがクラスI MHCである本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体または複数の会合体の各ペプチドは、9個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体または複数の会合体の各ペプチドは、端点を含む12~30個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。MHCがクラスII MHCである本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体または複数の会合体の各ペプチドは、端点を含む12~30個のアミノ酸を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。
【0024】
[024]本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体のペプチドは、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を使用してin situ合成される。本開示の組成物の特定の実施形態では、複数の会合体のペプチドは、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を使用してin situ合成される。特定の実施形態では、DMDは、少なくとも1つのマイクロミラーを含む。特定の実施形態では、DMDは、複数のマイクロミラーを含む。特定の実施形態では、各マイクロミラーは、表面の微小領域に対応し、微小領域に対応するマイクロミラーは、微小領域における各ペプチドの合成に向けられる。特定の実施形態では、表面は、複数の微小領域を含み、ここでマイクロミラーの数は、微小領域の数に等しい。本明細書で使用されるとき、「微小領域(microarea)」という用語は、表面自体に存在する物理的境界でなく、仮想境界(virtual boundary)を記載することを意味する。マイクロミラーは表面の任意の部位におけるペプチドの合成に向けることができるが、マイクロミラーによって影響を受ける微小領域は、好ましくは、マイクロミラーと垂直に整列するように表面上に配置される。したがって、マイクロミラーによって影響を受ける微小領域は、マイクロミラーの真下またはマイクロミラーの縁部に垂直の配列から数ミリメートルまたは数センチメートル内にあることができる。
【0025】
[025]本開示の組成物の特定の実施形態では、特にペプチドがデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を使用してin situ合成される実施形態では、各微小領域は、10~10個のペプチドを含み得る。特定の実施形態では、表面は、1cmあたり1.24×1013個のアミン密度を有することができ、ここでアミンは、表面に結合した第1の官能基であり、これに対して後にリンカーおよびペプチドがin situ合成の間に結合する。表面が1cmあたり1.24×1013個のアミン密度を有するとき、表面は少なくとも10個のペプチドを含むことができ、これは少なくとも10個のペプチド-MHC会合体に対応する。表面が1cmあたり1.24×1013個のアミン密度を有するとき、表面は、1マイクロミラーあたり10~10個の「特有の」ペプチドを含むことができる。表面が1cmあたり1.24×1013個のアミン密度を有するとき、表面は、各微小領域が1つのマイクロミラーに対応する場合、1微小領域あたり10~10個の「特有の」ペプチドを含むことができる。「特有のペプチド」という用語は、特有のペプチド配列を記述することを意味する。特有のペプチドに加えて、各マイクロミラーは、複製ペプチド、つまり換言すると、同じ配列を有し、マイクロミラーを向けて同じ表面または同じ表面の区画のペプチドのうち特有の配列を有するペプチドを合成する特有のプログラムまたは特徴(指示のセット)によって作製される複数のペプチドを作製することができる。
【0026】
[026]本開示の組成物の特定の実施形態では、特にペプチドがデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を使用してin situ合成される実施形態では、第1の微小領域は、各第2のまたは次の微小領域内の少なくとも第2のまたは次のペプチドのアミノ酸配列と比較するとき特有のアミノ酸配列を有する第1のペプチドを少なくとも含む。特定の実施形態では、特有のアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドを含む第1の微小領域は、特有のアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つの複製をさらに含む。例えば、第2のまたは次の微小領域は、第1の微小領域に並置されてもよい。並置されるとは、第1および第2の微小領域の仮想境界が物理的に並置される(例えば、微小領域が隣接する)ことを意味する。特定の実施形態では、第1の微小領域は、第1の微小領域に並置される各第2のまたは次の微小領域内の少なくとも第2のまたは次のペプチドのアミノ酸配列と比較するとき特有のアミノ酸配列を有する第1のペプチドを少なくとも含む。特定の実施形態では、第1の微小領域は、表面上の各第2のまたは次の微小領域内の少なくとも第2のまたは次のペプチドのアミノ酸配列と比較するとき特有のアミノ酸配列を有する第1のペプチドを少なくとも含む。
【0027】
[027]本開示の組成物の特定の実施形態では、特にペプチドがデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を使用してin situ合成される実施形態では、表面は1平方センチメートルあたり1.24×1013個のペプチドを含み得る。
【0028】
[028]本開示の組成物の特定の実施形態では、表面は、2つ以上の区画を含む。本開示の組成物の特定の実施形態では、表面は、端点を含む2~48区画を含む。
【0029】
[029]本開示の組成物の特定の実施形態では、組成物は、少なくとも1つのT細胞をさらに含む。本開示の組成物の特定の実施形態では、組成物は、1区画あたり少なくとも1つのT細胞をさらに含む。任意選択的に、少なくとも1つのT細胞は表面に結合することができる。
【0030】
[030]特定の実施形態では、本開示の組成物は、表面上の少なくとも1つのペプチドによる少なくとも1個のT細胞の活性化に際し、少なくとも1つのT細胞から放出される分子を認識する検出可能な薬剤をさらに含んでもよい。検出可能な薬剤は、活性化に際し、少なくとも1つのT細胞から放出される少なくとも1つの分子に特異的に結合することができる検出可能な標識を有する任意の有機または無機分子であることができる。特定の実施形態では、検出可能な薬剤は、抗体である。少なくとも1つのT細胞から放出される分子は細胞のセクレトームの任意の分子であり得るが、特定の実施形態では、少なくとも1つのT細胞から放出される分子はサイトカインである。サイトカインの例としては、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン6(IL-6)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)およびインターフェロン-ガンマ(INFγ)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
[031]特定の実施形態では、本開示の組成物は、少なくとも2つの表面を含んでもよい。本開示の組成物の表面は、平坦でもよい。例えば、本開示の組成物の表面は、チップ、プレート、またはスライドでもよい。
【0032】
[032]特定の実施形態では、本開示の組成物は、少なくとも2つの表面を含んでもよい。本開示の組成物の表面は、湾曲していても、凸面でも、または凹面でもよい。特定の実施形態では、表面はビーズである。
【0033】
[033]本開示の組成物の特定の実施形態では、複数の会合体の各ペプチドは、空間的に順序付けられたアレイを生成するように表面上で合成される。DMD技術を使用する合成のコンテキストでは、各マイクロミラーは、表面上の光を反射するためのまたは表面からの光を偏光するための特有のプログラムを有する。本開示の表面上のペプチドは、光保護アミノ酸を使用して合成されてもよい。マイクロミラーが表面に光を向けるとき、成長するペプチドに付加される最後のアミノ酸は、脱保護され、別のアミノ酸に結合するために利用可能になる。特有の配列の移動を各マイクロミラーに提供することにより(「仕事(job)」とも呼ばれる)、DMDは、各マイクロミラーに対応する少なくとも1つの特有のペプチド配列を合成することができる。所定のパターンでミラーを事前プログラミングすることによって、表面上で合成される各ペプチドの配列は、それを合成するために使用されるマイクロミラーに対するその相対的位置によって分かる。
【0034】
[034]特定の実施形態では、表面はチップであり、3つのチップが同時に製造および使用するためにスライド上に配置される。特定の実施形態では、これらの3つのチップのそれぞれに対する複数のペプチドの空間的配置は、実験的複製物を提供するように同一であり得る。特定の実施形態では、これらの3つのチップのそれぞれに対する複数のペプチドの空間的配置は、より高度なスループットアッセイを提供するように明確であり得る。
【0035】
[035]本開示は、本開示の組成物を作製する方法であって、少なくとも1つのペプチドを含む表面と、MHC組成物とを、少なくとも1つのペプチド-MHC会合体を生成するために適切な条件下で接触させる工程を含み、ペプチドが会合体の必須構成要素であり、少なくとも1つのペプチドがリンカーを介してそのC末端で表面に結合しており、少なくとも1つのペプチドが表面上で合成される、方法を提供する。特定の実施形態では、少なくとも1つの会合体は、複数の会合体である。
【0036】
[036]本開示の組成物を作製する方法の特定の実施形態では、接触工程の前に、表面を結合バッファーで処理してもよい。特定の実施形態では、結合バッファーは、1%のカゼイン、10mMのpH7.4のTris、および0.25%のTweenを含む。任意選択的に、結合バッファーは、ブロッキング剤をさらに含んでもよい。
【0037】
[037]本開示の組成物を作製する方法の特定の実施形態では、表面とMHC組成物とは、端点を含む8~24時間、接触したままである。本開示の組成物を作製する方法の特定の実施形態では、表面とMHC組成物とは約12時間、接触したままである。接触工程は、室温で行うことができる。代替的に、接触工程は、4℃で行うことができる。
【0038】
[038]本開示の組成物を作製する方法の特定の実施形態では、MHC組成物は、BSA、可溶化β2-ミクログロブリン(β2m)および可溶化α鎖を含む。特定の実施形態では、MHC組成物は、可溶化α鎖:可溶化β2mを、端点を含む1:1~1:2のモル:モル比で含む。可溶化α鎖は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子またはHLA-C遺伝子によってコードされ得る。特定の実施形態では、可溶化α鎖は、(a)可溶化α鎖をコードするアミノ酸配列を、コドン最適化デオキシリボ核酸(DNA)配列に逆翻訳する工程、(b)コドン最適化デオキシリボ核酸(DNA)配列を二本鎖DNA分子として合成する工程、(c)二本鎖DNA分子を封入体の形態で発現してα鎖を作製する工程、および(d)α鎖を可溶化する工程を含む方法によって作製される。可溶化α鎖を作製する方法の特定の実施形態では、コドン最適化デオキシリボ核酸(DNA)配列は、大腸菌での発現のために最適化される。可溶化α鎖を作製する方法の特定の実施形態では、発現工程は、二本鎖DNA分子を発現ベクターにクローニングする工程を含み、ここで、任意選択的に、発現ベクターは、プラスミドである。
【0039】
[039]本開示の組成物を作製する方法の特定の実施形態では、MHC組成物は、担体分子、可溶化β鎖、および可溶化α鎖を含む。MHCがクラスII MHCである特定の実施形態では、担体分子は、インバリアント鎖、CLIP、CD74ペプチドまたはその機能的断片であることができる。MHCがクラスII MHCである特定の実施形態では、担体分子は、BSAであることができる。
【0040】
[040]本開示の組成物を作製する方法の特定の実施形態では、MHC組成物は、端点を含む0.1%~10%のBSAを含む。MHC組成物は、端点を含む1%~5%のBSAを含むことができる。MHC組成物は、端点を含む2%~3%のBSAを含むことができる。任意選択的に、BSAは、BSAバッファー中に配合される。特定の実施形態では、BSAバッファーは、20mMのpH7.8のTris-HClを含む。
【0041】
[041]本開示の組成物を作製する方法の特定の実施形態では、MHC組成物は、バッファーをさらに含むことができる。MHCバッファーは、10mMのpH8.5のTris-HClを含むことができる。
【0042】
[042]本開示の組成物を作製する方法の特定の実施形態では、表面に接触させる前に、MHC組成物は、(a)MHC組成物を4℃で一晩インキュベートする工程、(b)MHC組成物から沈殿物を分離する工程、および(c)沈殿物を含まないMHC組成物を、表面に接触させるために回収する工程を含む方法によって作製される。特定の実施形態では、分離工程は、遠心分離工程を含むことができ、ここで沈殿物を含まないMHC組成物は、遠心分離から生じる上清である。分離工程の特定の実施形態では、回収工程は、沈殿物を含まないMHC組成物を濃縮する工程をさらに含む。特定の実施形態では、回収工程は、沈殿物を含まないMHC組成物を濾過する工程をさらに含む。
【0043】
[043]本開示は、MHCによってin vivoで提示されるときに免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための、本開示の組成物の使用を提供する。例えば、本開示は、MHCによってin vivoで提示されるときに免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用であって、(a)少なくとも1つのT細胞と組成物とを接触させる工程、(b)T細胞の活性化に際し、少なくとも1つのT細胞から分泌される少なくとも1つの分子を検出し、それにより、MHCによってin vivoで提示されるときに免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原を同定する工程を含む、使用を提供する。この使用の特定の実施形態では、免疫優性ペプチド抗原は、免疫原性である。
【0044】
[044]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、MHCは、クラスI MHCである。
【0045】
[045]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、MHCは、クラスII MHCである。
【0046】
[046]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、ペプチド抗原は、ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、MHCに結合するために必須の1つまたは複数のアミノ酸を含んでもよい。特定の実施形態では、MHCに結合するために必須ではないネオ抗原の1つまたは複数のアミノ酸(「非必須」アミノ酸)は、ペプチドの野生型配列と比較してアミノ酸配列に1つまたは複数の置換を含んでもよい。
【0047】
[047]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、ペプチド抗原は自己抗原である。特定の実施形態では、自己抗原は、T細胞を刺激し、自己免疫応答を誘導する。
【0048】
[048]本開示は、自己免疫応答を減少または予防する医薬の製造のための、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示の自己抗原、該自己抗原に相補的な配列、該自己抗原に特異的に結合する抗体、または該自己抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体の使用を提供する。
【0049】
[049]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、ペプチド抗原は、がん抗原である。特定の実施形態では、がん抗原は、T細胞を刺激し、免疫応答を誘導する。T細胞は、遺伝子修飾されてもよい。例えば、T細胞は、がん抗原に特異的に結合する遺伝子修飾T細胞受容体を含んでもよい。特定の実施形態では、T細胞は、がん抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体を含んでもよい。
【0050】
[050]本開示は、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示のがん抗原を含むワクチンを提供する。
【0051】
[051]本開示は、免疫応答を増強または誘導する医薬の製造のための、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示のがん抗原、該がん抗原に相補的な配列、該がん抗原に特異的に結合する抗体、または該がん抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体の使用を提供する。
【0052】
[052]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、ペプチド抗原は、細菌、ウイルス、または微生物抗原である。
【0053】
[053]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、ペプチド抗原はウイルス抗原であり、ここでウイルス抗原はT細胞を刺激し、免疫応答を誘導する。特定の実施形態では、ウイルス抗原は、サイトメガロウイルス(CMV)に由来する。T細胞は、遺伝子修飾されてもよい。例えば、T細胞は、ウイルス抗原に特異的に結合する遺伝子修飾T細胞受容体を含んでもよい。特定の実施形態では、T細胞は、ウイルス抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体を含んでもよい。
【0054】
[054]本開示は、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示のウイルス抗原を含むワクチンを提供する。特定の実施形態では、ウイルス抗原は、サイトメガロウイルス(CMV)に由来する。
【0055】
[055]本開示は、免疫応答を増強または誘導する医薬の製造のための、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示のウイルス抗原、該ウイルス抗原に相補的な配列、該ウイルス抗原に特異的に結合する抗体、または該ウイルス抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体の使用を提供する。特定の実施形態では、ウイルス抗原は、サイトメガロウイルス(CMV)に由来する。
【0056】
[056]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、ペプチド抗原は細菌抗原であり、ここで細菌抗原は、T細胞を刺激し、免疫応答を誘導する。T細胞は、遺伝子修飾されてもよい。例えば、T細胞は、細菌抗原に特異的に結合する遺伝子修飾T細胞受容体を含んでもよい。特定の実施形態では、T細胞は、細菌抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体を含んでもよい。
【0057】
[057]本開示は、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示の細菌抗原を含むワクチンを提供する。
【0058】
[058]本開示は、免疫応答を増強または誘導する医薬の製造のための、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示の細菌抗原、該細菌抗原に相補的な配列、該細菌抗原に特異的に結合する抗体、または該細菌抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体の使用を提供する。
【0059】
[059]MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性である1つまたは複数のペプチド抗原の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、ペプチド抗原は微生物抗原であり、ここで微生物抗原は、T細胞を刺激し、免疫応答を誘導する。T細胞は、遺伝子修飾されてもよい。例えば、T細胞は、微生物抗原に特異的に結合する遺伝子修飾T細胞受容体を含んでもよい。特定の実施形態では、T細胞は、微生物抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体を含んでもよい。
【0060】
[060]本開示は、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示の微生物抗原を含むワクチンを提供する。
【0061】
[061]本開示は、免疫応答を増強または誘導する医薬の製造のための、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性として同定される本開示の微生物抗原、該微生物抗原に相補的な配列、該微生物抗原に特異的に結合する抗体、または該微生物抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体の使用を提供する。
【0062】
[062]本開示は、(a)少なくとも1つのT細胞と該組成物とを接触させる工程、(b)活性化に際し、少なくとも1つのT細胞から分泌される少なくとも1つの分子を検出する工程、および(c)少なくとも1つのT細胞を画像化する工程を含む、少なくとも1つのペプチドによって刺激される少なくとも1つのT細胞の同定のための本開示の組成物の使用を提供する。
【0063】
[063]少なくとも1つのペプチドによって刺激される少なくとも1つのT細胞の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、少なくとも1つのT細胞は、遺伝子修飾されない。
【0064】
[064]少なくとも1つのペプチドによって刺激される少なくとも1つのT細胞の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、少なくとも1つのT細胞は、遺伝子修飾される。例えば、特定の実施形態では、少なくとも1つのT細胞は、少なくとも1つのペプチドに特異的に結合する修飾されたT細胞受容体を含んでもよい。特定の実施形態では、少なくとも1つのT細胞は、少なくとも1つのペプチドに特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0065】
[065]少なくとも1つのペプチドによって刺激される少なくとも1つのT細胞の同定のための本開示の組成物の使用の特定の実施形態では、画像化工程は、少なくとも1つのT細胞を、1つまたは複数の細胞表面マーカーを認識する1つまたは複数の検出可能な薬剤と接触させる工程を含む。検出可能な薬剤は、活性化に際し、少なくとも1つのT細胞から放出される少なくとも1つの分子に特異的に結合することができる検出可能な標識を有する任意の有機または無機分子であることができる。特定の実施形態では、検出可能な薬剤は、抗体である。細胞表面マーカーの例には、CD34、CD45、CD15、CD14、CD3、CD19、CD61、CD4、CD8およびCD25が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、幹細胞は、CD34の発現によって同定することができる。顆粒球は、CD45およびCD15の発現によって同定することができる。単球は、CD45およびCD14の発現によって同定することができる。T細胞(Tリンパ球とも呼ばれる)は、CD45およびCD3の発現によって同定することができる。B細胞(Bリンパ球とも呼ばれる)は、CD45およびCD19の発現によって同定することができる。血小板は、CD45およびCD61の発現によって同定することができる。T細胞のうち、ヘルパーT細胞は、CD45、CD3およびCD4の発現によって同定することができる。T細胞のうち、細胞傷害性T細胞は、CD45、CD3およびCD8の発現によって同定することができる。T細胞のうち、活性化T細胞は、CD45、CD3およびCD25の発現によって同定することができる。
【0066】
[066]少なくとも1つのペプチドによって刺激される少なくとも1つのT細胞の同定のための本開示の組成物の特定の実施形態では、少なくとも1つのT細胞は、細胞集団に含まれてもよい。細胞集団は、全血、血清、血漿、末梢血、臍帯血、リンパ液、脳脊髄液(CSF)、および羊水を含むがこれらに限定されない任意の生体液から単離することができる。細胞集団は、リンパ組織、骨髄、腫瘍組織、および生検組織を含むがこれらに限定されない、任意の生体組織から単離することができる。細胞集団は、均一であっても不均一であってもよい。細胞集団は、免疫細胞またはT細胞を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。細胞集団は、本開示の組成物を接触させる前に、ヘルパーT細胞と細胞傷害性T細胞との混合物を含む、それから本質的になる、またはそれからなることができる。特定の実施形態では、細胞集団は、本開示の組成物を接触させる前に、任意の活性化T細胞を含まない。したがって、本発明は、ペプチドと主要組織適合遺伝子複合体(MHC)とを含む少なくとも1つの会合体または複数の会合体を含む組成物であって、ペプチドがMHCの必須構成要素であり、ペプチドがリンカーを介してそのC末端で表面に結合しており、ペプチドが表面上で合成される、組成物を提供する。
【0067】
[067]MHCは、クラスIまたはクラスII MHCであることができる。MHCは、ウシ血清アルブミン(BSA)であってもよい担体分子を含むことができる。リンカーは、ヘキサン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、またはグリシン(G):セリン(S)アミノ酸の3:1比率の混合物を含むことができる。リンカーは、1~5モノマー単位、好ましくは3~5モノマー単位を含むことができる。リンカーは、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)などの負に荷電されたアミノ酸であり得る少なくとも1つの負に荷電されたモノマー単位を含むことができる。一実施形態では、リンカーは、ヘキサン酸と、好ましくは5モノマー単位内である少なくとも1つのアスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)とを含む。
【0068】
[068]MHCは、ヒト白血球抗原2(HLA2)遺伝子によって、別のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子によって、哺乳類白血球抗原遺伝子によって、霊長類白血球抗原遺伝子によって、マウス白血球抗原(MLA)遺伝子によって、またはヒト白血球抗原(HLA)遺伝子によってコードされ得、ここでMHCのα鎖は切断されている。後者の場合に、α鎖は、膜貫通領域または細胞質領域を含まない。α鎖は、ヒンジ領域を含まなくてもよい。α鎖は、α1ドメイン、α2ドメインおよびα3ドメインを含むことができる。α鎖は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、HLA-E遺伝子、HLA-F遺伝子、HLA-G遺伝子、HLA-K偽遺伝子およびHLA-L偽遺伝子からなる群から選択されるHLA遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。α鎖は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子およびHLA-C遺伝子からなる群から選択されるHLA遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。またα鎖は、α1ドメインおよびα2ドメインを含むことができる。一実施形態(ewmbodiment)では、α鎖は、HLA-DM遺伝子、HLA-DO遺伝子、HLA-DP遺伝子、HLA-DQ遺伝子およびHLA-DR遺伝子からなる群から選択されるHLA遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。
【0069】
[069]MHCのβ鎖は切断されていてもよく、例えば、膜貫通領域または細胞質領域を含まなくてもよい。β鎖は、β1ドメインおよびβ2ドメインを含むことができる。β鎖は、HLA-DM遺伝子、HLA-DO遺伝子、HLA-DP遺伝子、HLA-DQ遺伝子およびHLA-DR遺伝子からなる群から選択されるHLA遺伝子から誘導される配列によってコードされ得る。
【0070】
[070]複数の会合体の各ペプチドは、端点を含む6~30、好ましくは6~20、より好ましくは6~12、最も好ましくは9アミノ酸で構成することができる。少なくとも1つの会合体のペプチドは、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を使用してin situ合成することができ、ここで各マイクロミラーは表面の微小領域に対応し、微小領域に対応するマイクロミラーは、微小領域における各ペプチドの合成に向けられる。
【0071】
[071]この状況において、本発明は、上記に開示される組成物を作製する方法であって、少なくとも1つのペプチドを含む表面と、MHC組成物とを、少なくとも1つのペプチド-MHC会合体を生成するために適切な条件下で接触させる工程を含み、ペプチドがMHCの必須構成要素であり、ペプチドがリンカーを介してそのC末端で表面に結合しており、ペプチドが表面上で合成される、方法も提供する。接触工程の前に、表面は、結合バッファー、例えば、1%のカゼイン、10mMのpH7.4のTris、0.25%のTween20、および任意選択的にブロッキング試薬を含むバッファーで処理されてもよい。表面とMHC組成物とは、端点を含む8~24時間、例えば約12時間、例えば室温でまたは4℃で、接触したままであってもよい。MHC組成物は、BSA、可溶化β2-ミクログロブリン(β2m)および可溶化α鎖を含んでもよい。また前記組成物は、担体分子、可溶化β鎖、および可溶化α鎖を含んでもよい。担体分子は、インバリアント鎖、CLIP、CD74ペプチドまたはその機能的断片、またはウシ血清アルブミン(BSA)、好ましくは、端点を含む0.1%~10%のBSA、より好ましくは1%~5%のBSA、最も好ましくは、2%~3%のBSAであることができる。BSAは、例えば、20mMのpH7.8のTris-HClを含むBSAバッファー中に配合されてもよい。またMHC組成物は、バッファー、例えば10mMのpH8.5のTris-HClをさらに含む。
【0072】
[072]表面に接触させる前に、MHC組成物は、
(a)MHC組成物を4℃で一晩インキュベートする工程、
(b)MHC組成物から沈殿物を分離する工程、および
(c)沈殿物を含まないMHC組成物を、表面に接触させるために回収する工程
を含む方法によって作製される。
【0073】
[073]分離工程は、遠心分離工程をさらに含んでもよく、ここで沈殿物を含まないMHC組成物は、遠心分離から生じる上清である。回収工程は、沈殿物を含まないMHC組成物を濃縮する工程をさらに含んでもよい。回収工程は、沈殿物を含まないMHC組成物を濾過する工程をさらに含んでもよい。MHC組成物は、可溶化α鎖:可溶化β2mを、端点を含む1:1~1:2のモル:モル比で含んでもよい。可溶化α鎖は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子またはHLA-C遺伝子によってコードされ得る。前記可溶化α鎖は、
(a)可溶化α鎖をコードするアミノ酸配列を、コドン最適化デオキシリボ核酸(DNA)配列に逆翻訳する工程、
(b)コドン最適化デオキシリボ核酸(DNA)配列を二本鎖DNA分子として合成する工程、
(c)二本鎖DNA分子を封入体の形態で発現してα鎖を作製する工程、および
(d)α鎖を可溶化する工程
を含む方法によって作製される。
【0074】
[074]任意選択的に、コドン最適化デオキシリボ核酸(DNA)配列は、大腸菌での発現のために最適化される。
【0075】
[075]上記に開示される組成物は、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性であり、任意選択で(optionall)免疫原性である、1つまたは複数のペプチド抗原の同定のために使用することができる。MHCは、クラスIまたはII MHCであってもよく、ペプチド抗原は、MHCに結合するために必須の1つまたは複数のアミノ酸を含み得るネオ抗原(neoantige)であってもよい。MHCに結合するために必須ではないネオ抗原の1つまたは複数のアミノ酸は、ペプチドの野生型配列と比較してアミノ酸配列に1つまたは複数の置換を含み得る。またペプチド抗原は、T細胞を刺激することができ、自己免疫応答を誘導する、自己抗原であってもよい。
【0076】
[076]自己抗原、該自己抗原に相補的な配列、該自己抗原に特異的に結合する抗体、または該自己抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体は、自己免疫応答を減少または予防する医薬の製造のために使用することができる。
【0077】
[077]ペプチド抗原は、T細胞を刺激することができ、免疫応答を誘導するがん抗原であってもよく、ワクチンに含めてもよい。またがん抗原、該がん抗原に相補的な配列、該がん抗原に特異的に結合する抗体、または該がん抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体は、免疫応答を増強または誘導する医薬の製造のために使用することができる。T細胞は、遺伝子修飾されてもよく、がん抗原に特異的に結合する遺伝子修飾T細胞受容体を含むことができる。T細胞は、がん抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体を含んでもよい。
【0078】
[078]ペプチド抗原は、細菌、ウイルス、または微生物抗原であってもよい。ウイルス抗原は、T細胞を刺激し、免疫応答を誘導することができる。ウイルス抗原は、サイトメガロウイルス(CMV)に由来してもよく、および/またはワクチンまたはワクチンの一部として機能してもよい。ウイルス抗原、該ウイルス抗原に相補的な配列、該ウイルス抗原に特異的に結合する抗体、または該ウイルス抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体は、免疫応答を増強または誘導する医薬の製造のために使用することができる。T細胞は、遺伝子修飾されてもよく、ウイルス抗原に特異的に結合する遺伝子修飾T細胞受容体を含んでもよい。T細胞は、ウイルス抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体を含んでもよい。
【0079】
[079]細菌抗原も、T細胞を刺激し、ワクチンまたはワクチンの一部として機能することができるように免疫応答を誘導する。該細菌抗原に相補的な配列、該細菌抗原に特異的に結合する抗体、または該細菌抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体を、免疫応答を増強または誘導する医薬の製造のために使用してもよい。T細胞は、遺伝子修飾されてもよく、細菌抗原に特異的に結合する遺伝子修飾T細胞受容体を含んでもよい。T細胞は、細菌抗原に特異的に結合するキメラ抗原受容体を含んでもよい。
【0080】
[080]また上記に開示される組成物は、
(a)少なくとも1つのT細胞と組成物とを接触させる工程、
(b)活性化に際し、少なくとも1つのT細胞から分泌される少なくとも1つの分子を検出する工程、および
(c)少なくとも1つのT細胞を画像化する工程
を含む組成物の少なくとも1つのペプチドによって刺激される少なくとも1つのT細胞の同定のために使用されてもよい。
【0081】
[081]少なくとも1つのT細胞は、遺伝子修飾されてもよく、少なくとも1つのT細胞が、組成物の少なくとも1つのペプチドに特異的に結合する修飾されたT細胞受容体を含んでもよい。また、組成物の少なくとも1つのペプチドに特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)を含んでもよい。画像化工程は、少なくとも1つのT細胞を、1つまたは複数の細胞表面マーカーを認識する1つまたは複数の検出可能な薬剤と接触させる工程を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】[082]図1は、b2mサブユニット有り(上部プロット)またはb2mサブユニット無し(下部プロット、陰性対照)のいずれかでの、pCy5抗体(W6/32)で標識された9マー・ペプチド(配列番号7)-MHCI会合体についての位置の関数としての蛍光強度を示す一対のプロットである。実施例1のセット1は、このデータが由来する組成物についての実験的セットアップを提供する。抗体に関するさらなる情報については、Daoら(Science Translational Medicine 2013年3月13日:第5巻、第176号、176ra33頁)を参照。
図2】[083]図2は、それぞれ9アミノ酸長であり、それぞれがWT1タンパク質の野生型配列に沿った特有の配列を有し、本開示の表面上のMHCIに結合し、標識抗体によって検出されるときのそのシグナル強度、またはNetMHC3.4(ペプチド抗原を同定するために当分野で広く使用されているアルゴリズム)によって評価されるその予測される結合親和性に基づいて、象限に組織化される、複数のWT1ペプチドを示すプロットである。完全に会合したMHCI複合体を特異的に認識する任意の抗体を、MHCIによってin vivoで提示されるであろうそれらのペプチドを同定するために使用することができる。この分析を行い、結果を、NetMHC3.4によってMHCIと複合体を形成すると同定される予測ペプチドと比較し、NetMHC3.4によってMHCIと複合体を形成すると予測されるペプチドと比較した。プロットされた440種のペプチドのうち、NetMHC3.4により、433種のペプチドは親和性が低すぎてMHCIと結合できないと同定され、対照的に、7つのみのペプチドが、MHCIと結合する理論的能力を有するとして同定された。際立って対照的に、本開示の組成物および方法は、NetMHC3.4アルゴリズムが破棄するであろう13種のペプチド(右上の象限)を含む、MHCIと実際に結合する18種のペプチドを同定した。
図3】[084]図3は、図2に示されるのと同じプロットであるが、左上の象限を特に強調している。この象限は、免疫優性ペプチドを同定する現行の業界標準方法NetMHCを使用して分析するときMHCIに十分な親和性で結合するとアルゴリズムによって予測されるであろう、本開示の組成物および方法にしたがってMHCIへの実証された結合能力を有するペプチドを表す。特に興味深いのは、本明細書でWT1ペプチド126と参照される(アミノ酸配列RMFPNAPYL(配列番号7)を有する)、強調されたペプチドである。
図4】[085]図4は、図2に示されるのと同じプロットであるが、右上の象限を特に強調している。この象限は、免疫優性ペプチドを同定する現行の業界標準方法NetMHCを使用して分析するときMHCIに十分な親和性で論理的に結合できないとアルゴリズムによって破棄されるであろう、本開示の組成物および方法にしたがってMHCIへの実証された結合能力を有するペプチドを表す。換言すれば、本開示の組成物および方法は、NetMHCプログラムのみを使用して分析するとき偽陰性であろう、13種のペプチドを経験的に検証した。
図5】[086]図5は、図2に示されるのと同じプロットであるが、左下の象限を特に強調している。この象限は、免疫優性ペプチドを同定する現行の業界標準方法NetMHCを使用して分析するときMHCIに十分な親和性で結合すると予測されるが、本開示の組成物および方法を使用して試験するとき、完全に会合したペプチド-MHCI複合体を形成しないと経験的に示されたペプチドを表す。換言すれば、本開示の組成物および方法は、NetMHCプログラムのみを使用して分析するとき偽陽性であろう、2つのペプチドを経験的に同定した。
図6】[087]図6は、HLA-A2と共に会合した十分に研究されたワクシニアウイルスペプチドLMYDIINSV(配列番号8)のHLA-A2ローディング特異性を示すプロットである。重要な残基の相互作用の特異性は、置換プロットで確かめることができる。[088]9つのアミノ酸ペプチドのそれぞれのアミノ酸を、可能性のある20種のアミノ酸のそれぞれに置換して、適切なペプチド-MHCI複合体を形成するために必須である、このペプチド内のアミノ酸の位置を同定した。図は、20種のアミノ酸全てを、1列で、アミノ酸1文字コードによって、特徴によってグループ分けして示す:AFILMVWPGSYCQTNRKHDE。アミノ酸A、F、I、L、M、V、WおよびPは、非極性アミノ酸である。アミノ酸G、S、Y、C、Q、T、Nは、極性アミノ酸である。アミノ酸R、KおよびHは、塩基性アミノ酸である。アミノ酸DおよびEは、酸性アミノ酸である。
図7】[089]図7は、WT1の9マー・ペプチドについてのペプチド-MHC会合体に対するESK1抗体結合特異性を示すプロットである。データは、特定の標的(RMFPNAPYL(配列番号7))および交差反応標的(RVPGVAPTL(配列番号9))についての相対蛍光強度を示す。
図8】[090]図8は、「RMFPNAPYL」(配列番号7)バリアントについて、ESK1抗体結合特異性を示すプロットである。9つのアミノ酸ペプチドのそれぞれのアミノ酸を、可能性のある20種のアミノ酸のそれぞれに置換して、適切なペプチド-MHCI複合体を形成するために必須であるこのペプチド内のアミノ酸の位置を同定した。図は、20種のアミノ酸全てを、1列で、アミノ酸1文字コードによって、特徴によってグループ分けして示す:AFILMVWPGSYCQTNRKHDE。アミノ酸A、F、I、L、M、V、WおよびPは、非極性アミノ酸である。アミノ酸G、S、Y、C、Q、T、Nは、極性アミノ酸である。アミノ酸R、KおよびHは、塩基性アミノ酸である。アミノ酸DおよびEは、酸性アミノ酸である。
図9】[091]図9は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)をどのように使用して、表面上の各ペプチドをin situ合成することにより本開示の組成物を作製し得るかを実証する一連の模式図である。左のパネルは、ガラススライド上に含まれる一連の3つの表面の1つの表面の上に直接位置する複数のマイクロミラーを含む例示的なDMDを示す。光が複数のマイクロミラー上へ示されるように、複数のマイクロミラーのそれぞれが傾斜するように独立してプログラムされ、マイクロミラーの下の表面の領域に向けて光を反射するか、またはマイクロミラーの下の表面の領域から光を偏光する。個々のマイクロミラーの傾斜を中央パネルに示す。右側のパネルは、それぞれのマイクロミラーの傾斜によって制御される光のパルスがどのように表面上のペプチドをin situで構築するかを示す。本開示の組成物のペプチドは、そのC末端でリンカーによって表面に結合する。ペプチドに付加される各アミノ酸は、光の非存在下で、ペプチドへの別のアミノ酸の付加を予防する光不安定性保護基を含む。しかし、光が保護基に接触するとき、アミノ酸は脱保護され、アミノ酸が付加され得る。アミノ酸が表面を横切って流れるとき、それぞれのマイクロミラーは、ペプチド配列で意図される次のアミノ酸が表面を横切って流れるときアミノ酸を脱保護するように、予めプログラムされた時間で光を反射する。任意の所与のマイクロミラーによって制御される表面の領域は、本明細書で「微小領域」と呼ばれる。本開示の微小領域は、物理的境界でなく、仮想境界を有する。この図の右側のパネルで示されるように、本開示の表面の好ましい実施形態では、ペプチド合成の間に表面を横切るアミノ酸の流れを妨害する物理的境界は存在しない。
図10】[092]図10Aは、標準5HEXリンカーを使用するHLA-A2/RLYDYFTRVペプチド-MHC会合体形成を示すプロットである(「RLYDYFTRV」は配列番号10として開示される)。結合は、pH6.5で、4℃で一晩行った。[093]図10Bは、負に荷電されたHEX-asp-3HEXリンカーを使用するHLA-A2/RLYDYFTRVペプチド-MHC会合体形成を示すプロットである(「RLYDYFTRV」は配列番号10として開示される)。結合は、pH6.5で、4℃で一晩行った。破線は、標準5HEXリンカーとは反対に、負に荷電されたリンカーを使用するときの元のペプチド配列に対するペプチド-MHC会合シグナルの増加を示す。
【発明を実施するための形態】
【0083】
[094]T細胞(胸腺細胞またはTリンパ球としても知られる)は、1種のリンパ球(1種の白血球)であり、ファゴサイトーシス、抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球、および抗原に応答した様々なサイトカインの放出が関与する細胞媒介免疫において中心的な役割を果たす。B細胞による抗原認識と異なり、抗原のT細胞認識は、目障りな抗原への直接結合には関与しないが、T細胞受容体と病原体由来ペプチドエピトープおよびエピトープを細胞表面に移動させる主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の複合表面との相互作用に関与する。ヒト免疫系は、自己および外来抗原に対する細胞性免疫応答の進展する広範囲のレポジトリを定義する明確な特異性を有する約2500万個のT細胞クローンを宿すと推定される。したがって、これらのT細胞集団を検出および調査することは、根本的および治療的に重要である。残念なことに、ヒトT細胞レパートリーの広範囲の認識能力は、免疫モニタリングおよびT細胞エピトープ発見のための現行の確立された方法にはあまり適合しない。
【0084】
[095]抗原特異的T細胞応答を分析するためにしばしば使用される方法には、細胞内サイトカイン染色、CD107細胞傷害性アッセイ、ELISpot、殺傷アッセイなどが含まれる。これらのアッセイは、ある特定のT細胞機能に対処する点で全て非常に有用であるが、労働集約的であることが多く、大量の臨床末梢血単核細胞(PBMC)検体を必要とし、空間解像度が乏しく、および/または分泌応答に対して感度が低い。最近、蛍光標識多量体ペプチド-MHC複合体(p/MHC)を用いた抗原特異的T細胞の染色が、抗原の小セットに対するT細胞応答の分析のために広範囲に使用されるようになっている。しかしながら、pMHC四量体の合成は、時間がかかり、容易にスケール変更できない。結果として、限られた数のpMHC複合体しか調査できず、したがって、異なる機能性事象について複数のT細胞特異性を追跡することは困難である。
【0085】
[096]前記制限を克服するために、本開示は、TCR、TCR様抗体、および抗原特異的T細胞を、それらのp/MHC複合体への接着性に基づいて捕捉および特性決定するためのアレイベースのアプローチを提供する。
【0086】
[097]スケール変更可能なペプチドマイクロアレイは、タンパク質科学において、パラダイムシフト的に進歩している。例えば、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を使用して、最大で290万個の特有のおよび空間的に順序付けられたペプチドを単一の表面上で合成することにより、何千のもの標的を同時に試験することができる。加えて、本開示の組成物および方法は、リン酸化などの修飾、シトルリンなどの非天然アミノ酸、ならびに拘束性ペプチド(例えば、環状ペプチド)をペプチドに組み込むことができる。
【0087】
[098]本開示の組成物の別の特有の特徴は、表面でのp/MHC複合体の直接形成である。伝統的に、p/MHC複合体をハイスループット形式で試験する場合、それぞれ個々のp/MHC複合体が最初に構築される。MHC分子の(適切なペプチドの存在無しの)欠如は不安定であるので、ペプチドとMHC成分との両方が折り畳み反応において存在する必要がある。次いで、多量体を形成し、処理されたおよび/または誘導体化された表面上にスポッティングする。複数のp/MHCを試験する必要があるとき、この製造プロセスは、実に大変な作業となり得る。さらに、処置されたおよび/または誘導体化された表面上にp/MHCをスポッティングすることにより、既存の技術は、タンパク質変性およびタンパク質吸着を含む表面が不活性な方向に誘導される作用を被る。
【0088】
[099]本開示の組成物を作製する方法は、適切なMHC結合ペプチドの非存在下でさえ、タンパク質を変性から効果的に救済するMHCαおよびβサブユニット混合物の調製プロセスへ担体分子を導入することによって、既存の技術の技術的ハードルを克服する。次いで、混合物をアレイ表面に直接適用し、ここでの結合ペプチドの存在がMHCリフォールディングをもたらす。このように、何千ものpMHCが同時に会合する。T細胞、T細胞受容体(TCR)(例えば、天然および/またはキメラ抗原受容体)またはTCR様抗体が表面に適用され得る。インキュベーション後、ペプチド標的特異的T細胞を、例えば、対応するp/MHC分子に接着させると、異なる抗原特異的T細胞/TCR集団の空間的分離を生じる。アッセイの読み出しは、全体的な蛍光シグナルよりむしろ位置に依存するので、本開示の組成物および方法は、高度に多重性の反応を特有に行うことができる。
【0089】
ペプチドのin situ合成
[0100]本開示のペプチドまたは複数のペプチドの表面上のin situ合成は、パターニングプロセスを使用して、迅速かつ効率的に行われる。プロセスは、ペプチドの一または二次元アレイの作製が可能になるように自動化およびコンピュータ制御されてもよい。リソグラフィーマスクは必要でなく、したがってリソグラフィーマスクの作製に関連する多大なコストおよび時間的遅延がなくなり、ペプチドアレイの作製プロセスの間の時間のかかる操作および複数のマスクの整列が不要となる。
【0090】
[0101]ペプチド合成リンカーが適用された活性表面を使用して、作製されるペプチドを支持してもよい。活性表面から開始して第1のレベルのアミノ酸を提供するために、高精度二次元光像を表面上に投影し、第1のアミノ酸に結合するように活性化される活性表面上のアレイの微小領域(例えば参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,375,903号および米国特許第8,030,477号において、ピクセルまたはタイルとも称される)を照射する。光が適用されるアレイの微小領域に入射する光は、結合したアミノ酸を脱保護し、さらなるアミノ酸の結合に利用できるようにする。この発展工程の後に、適切なアミノ酸を含有する流体が活性表面に適用され、選択されたアミノ酸が露出部位に結合する。その後、このプロセスを繰り返して、別のアミノ酸を異なる微小領域位置のセットに結合させ、表面上の二次元アレイの全ての要素がそれに結合する適切なアミノ酸を有するまで行う(例えば、図9参照)。基板上に結合したアミノ酸は、アミノ酸に結合することができる化学物質、または結合アミノ酸の全てを覆うフォトレジストの層で保護されており、その後、新たなアレイパターンが表面上へ投影および結像され、第1の新たなアミノ酸が付加されるそれらの微小領域における保護材料を活性化させる。次いでこれらの微小領域を露出させ、選択されたアミノ酸を含有する溶液を、アミノ酸が露出された微小領域位置に結合するように、アレイに適用する。次いで、このプロセスを、第2のレベルのアミノ酸の他の微小領域の全てに対して繰り返す。その後、ペプチド配列の選択された二次元アレイの全てが完了するまで、各所望のレベルのアミノ酸に対して、記載されたプロセスを繰り返すことができる。
【0091】
[0102]画像は、それぞれが選択的に少なくとも二つの別々の位置のうちの1つとの間に傾斜されることができる電子的にアドレス指定可能なマイクロミラーの二次元アレイを含むマイクロミラーデバイスへ光を提供する適切な光源を有する画像形成機を利用して、表面上に投影される。各マイクロミラーの位置の1つでは、マイクロミラー上の入射源からの光は、光軸から外して、表面から離して偏光され、各マイクロミラーの少なくとも2つの位置の第2の位置では、光が、光軸に沿って、表面に向けて反射される。投影光学系は、マイクロミラーから反射された光を受け、活性表面上にマイクロミラーを正確に結像する。コリメート光学系を使用して、光源からの光を、マイクロミラーアレイまたはビームスプリッタへ直接提供されるビームへコリメートすることができ、ここでビームスプリッタは、ビームの一部をマイクロミラーアレイへ反射し、マイクロミラーアレイから反射された光を、ビームスプリッタを通じて送る。マイクロミラーから直接反射される光またはビームスプリッタを通じて送られる光は、投影光学系レンズに向けられ、投影光学系レンズは、活性表面上でマイクロミラーアレイを結像する。マイクロミラーアレイにおける選択的にアドレス指定可能なマイクロミラーはそれに提供される光を完全に反射または完全に偏光し得るので、マイクロミラーアレイの画像は「オン」と「オフ」の微小領域の間で非常に高いコントラストを示す。またマイクロミラーは、3つ以上の位置にインデックスすることができ、この場合、追加の光学系を与えて、単一のマイクロミラーアレイデバイスを使用して2つ以上の表面の露出を可能にすることができる。さらにマイクロミラーは、それらを損傷することなく任意の波長の光を反射することができるので、紫外線から近紫外線の範囲の光を含む短波長の光を光源から利用することを可能にする。
【0092】
[0103]マイクロミラーアレイを、適切な微小領域アドレスシグナルをマイクロミラーアレイに与えるコンピュータの制御下で操作して、適切なマイクロミラーをその「反射」または「偏光」位置にさせることができる。ペプチドに添加されるアミノ酸の各レベルでの各活性化工程のための適切なマイクロミラーアレイパターンが、コンピュータ制御装置にプログラムされる。このようにコンピュータ制御装置は、表面に提供される試薬と協調して、マイクロミラーアレイによって提示される画像の配列を制御する。
【0093】
[0104]表面は、マイクロミラーアレイの画像を、表面を通して投影することができるように透明であってもよい。表面は、フローセル内にアレイの活性表面を囲い込み封入してマウントされてもよく、フローセルを通じて適切な試薬をアレイの活性表面にわたって適切な順序で流して、アレイにペプチドを構築することができる。
【0094】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)
[0105]MHCのクラスIまたはクラスIIは、ヒトの全ての有核細胞の表面にわたって発現される。MHCクラスI(MHCI)複合体は、全ての有核細胞に存在するが、MHCクラスII(MHCII)複合体は、免疫系の細胞(つまり、マクロファージおよびリンパ球)にのみ存在する。MHC複合体は細胞内の中身のペプチド断片を提示して、免疫系が、非自己ペプチド配列の提示によって決定される外来の侵略者の存在についての本体の調査を行うことを可能にする。自己免疫状態の場合には、MHCが自己ペプチドを提示するとき、免疫系は、免疫系が非自己ペプチドに反応するのと同様の様式で刺激される。MHCの成分をコードする、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子を含む白血球抗原遺伝子は非常に多様で、MHCIおよびMHCII両方のMHCの多くの可能な順列をもたらす。
【0095】
[0106]ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子配列を含む白血球抗原遺伝子配列は、IPD-IMGT/HLAデータベース(www.ebu.ac.uk/ipd/imgt/hla/)およびUNIPROT(www.uniprot.org)を含むいくつかの公的に利用可能なデータベースで見出すことができる。本開示のMHCI複合体のα鎖は、膜貫通、ヒンジおよび/または細胞質領域を除去するように修飾されてもよい。この修飾を達成するために、MHCI複合体のα鎖の全長核酸配列を公的データベースから取得し、膜貫通、ヒンジおよび/または細胞質領域をコードする配列を除去するように編集し、任意選択的に核酸が発現される宿主T細胞(例えば、大腸菌)のために最適化されたコドン表を使用して、逆翻訳する。本開示のMHCII複合体のα鎖は、膜貫通および/または細胞質領域を除去するように修飾されてもよい。この修飾を達成するために、MHCII複合体のα鎖の全長核酸配列を公的データベースから取得し、膜貫通および/または細胞質領域をコードする配列を除去するように編集し、任意選択的に核酸が発現される宿主T細胞(例えば、大腸菌)のために最適化されたコドン表を使用して、逆翻訳する。本開示のMHCII複合体のβ鎖は、膜貫通および/または細胞質領域を除去するように修飾されてもよい。この修飾を達成するために、MHCII複合体のβ鎖の全長核酸配列を公的データベースから取得し、膜貫通および/または細胞質領域をコードする配列を除去するように編集し、任意選択的に核酸が発現される宿主T細胞(例えば、大腸菌)のために最適化されたコドン表を使用して、逆翻訳する。
【0096】
[0107]ペプチドおよびMHC成分は、各細胞の小胞体(ER)で会合してから、細胞表面に提示される。in vivoでは、MHCと複合体を形成するペプチドは、プロテアソームによる細胞質タンパク質の分解の副産物である。本開示のペプチドは、任意の配列を含むまたはそれからなることができ、配列は、任意のポリペプチドから誘導することができる。例えば、本開示のペプチドは、各工程で1つのアミノ酸(または2、3、4、5、6、7、8、9、10など)を、ポリペプチドの配列のN末端からC末端へ、例えば6~30アミノ酸の間隔(つまり、本開示の組成物の表面で合成することが意図されるペプチドの長さ)で、ポリペプチドの長さが横断されるまで、組織的に移動させることによって設計することができる。さらに、工程で配列に沿って移動させることによって生成されるペプチド配列のセットを使用して、さらなるペプチドのセットを、例えば、それらのペプチドの各1つの配列に存在するアミノ酸を可能性のある20のアミノ酸の各1つに置換することによって展開し、全ての可能な配列バリエーションを提供することができる。この例では、実施例1と同様に、WT1タンパク質が、各工程で1個のアミノ酸が移動する9個のアミノ酸を有するペプチドに分割される場合、図1で提供されるペプチドのセットが生成されるであろう。その後、これらのペプチドが実施例1に示されるように置換される場合、さらなるペプチドのセット、つまり置換セットが生成され得る。このプロセスを任意のポリペプチドに適用して、本開示の組成物の少なくとも1つのペプチドまたは複数のペプチドを生成することができる。
【0097】
[0108]免疫系を阻害するかまたは免疫系を刺激する介入点を同定するための課題は、いくつかのペプチドがMHCにローディングされる一方で他のペプチドはローディングされないことを許可する規則を定義することである。高度に多重化された形式を使用して、本開示の組成物および方法は、ペプチドのMHCIおよび/またはMHCIIと会合する実証された能力または無能力を示す経験的な証拠を提供する。
【0098】
[0109]ペプチドが、安定なMHC複合体の一部として細胞の表面に提示されると、免疫系(例えば、T細胞)は、外来または非自己抗原である配列を見い出すためにペプチド-MHC複合体をサンプリングする。自己免疫条件では、免疫系が自己抗原と非自己抗原とを区別することができず、最終的に自己抗原を示す細胞を外来侵略者として扱い、健康な組織を攻撃する。免疫優性ペプチドを同定するために使用されるのと同じ高度に多重化された反応では、本開示の組成物および方法は、対象をがん細胞に対する免疫系とするまたは免疫系を感染とより良好に戦うように刺激するために使用することができる合成ペプチド、修飾ペプチドおよび/またはネオ抗原を含む免疫系を刺激するペプチドを同定するために使用することができる。本開示の組成物および方法は、天然の免疫系が認識しない細胞上のペプチド-MHC複合体、例えば、がん細胞上のペプチド-MHC複合体を同定するキメラ抗原受容体を含むT細胞の能力を検証するために使用することができる。
【0099】
定義
[0110]本開示で使用されるとき、単数形「a」、「and」および「the」は、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、複数の参照物を含む。したがって、例えば、「方法」への参照は、複数のそのような方法を含み、「用量」への参照は、1つまたは複数の用量および当業者に既知の同等物を含むなどである。
【0100】
[0111]「約」または「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値の許容可能な誤差範囲内であることを意味し、値を測定し、または決定する方法、例えば、測定系の限界に部分的に依存する。例えば、「約」は、1以上の標準偏差内を意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%、最大10%、最大5%、または最大1%の範囲を意味することができる。あるいは、特に生物学的系またはプロセスに関して、該用語は、好ましくは値の5倍以内、より好ましくは2倍以内の桁内を意味することができる。別段に記載がない限り、本出願および特許請求の範囲に特定の値が記載される場合、「約」という用語は、特定の値について許容可能な誤差範囲内にあることを意味すると推定される。
【0101】
[0112]本開示は、単離されたまたは実質的に精製されたポリヌクレオチドまたはタンパク質組成物を提供する。「単離された」または「精製された」ポリヌクレオチドまたはタンパク質またはその生物学的に活性な部分は、天然の環境で見出されるポリヌクレオチドまたはタンパク質に通常付随するまたはそれらと相互作用する成分を実質的にまたは本質的に含まない。したがって、単離されたまたは精製されたポリヌクレオチドまたはタンパク質は、組換え技術によって生成されるとき、他の細胞材料または培養培地を実質的に含まず、化学的に合成されるとき、化学物質前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。最適には、「単離された」ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドが由来する生物のゲノムDNAにおけるポリヌクレオチドにおいて天然に隣接する配列(つまり、ポリヌクレオチドの5’および3’端に位置する配列)を含まない(最適にはタンパク質コード配列)。例えば、様々な実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドが由来する細胞のゲノムDNAのポリヌクレオチドに天然に隣接するヌクレオチド配列を約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満含むことができる。細胞物質を実質的に含まないタンパク質は、混入タンパク質が(乾燥重量で)約30%、20%、10%、5%または1%未満であるタンパク質の調製物を含む。本発明のタンパク質またはその生物学的に活性な部分が組換え的に産生されるとき、最適な培養培地は、化学物質前駆体または目的のタンパク質以外の化学物質が(乾燥重量で)約30%、20%、10%、5%または1%未満である。
【0102】
[0113]本開示は、これらのDNA配列によってコードされる開示されたDNA配列およびタンパク質の断片およびバリアントを提供する。本開示全体にわたって使用されるとき、「断片」という用語は、DNA配列の一部、またはアミノ酸配列したがってそれによってコードされるタンパク質の一部を指す。コード配列を含むDNA配列の断片は、天然のタンパク質の生物学的活性、したがって本明細書に記載される標的DNA配列へのDNA認識または結合活性を保持するタンパク質断片をコードすることができる。代替的に、ハイブリダイゼーションプローブとして有用であるDNA配列の断片は、一般的に、生物学的活性を保持するタンパク質をコードしないまたはプロモーター活性を保持しない。したがって、DNA配列の断片は、少なくとも約20ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約100ヌクレオチドから、最大で本発明の全長ポリヌクレオチドまでの範囲であり得る。
【0103】
[0114]本開示の核酸またはタンパク質は、後に最終的な目的ベクターに組み立てることができる標的ベクターにおける仮組み立てのモノマー単位および/または反復単位を含むモジュラーアプローチによって構築することができる。本開示のポリペプチドは、本開示の反復モノマーを含んでもよく、後に最終的な目的ベクターに組み立てることが可能な標的ベクターにおける仮組み立て反復単位によるモジュラーアプローチによって構築することができる。本開示は、本方法によって作製されるポリペプチド、ならびにこれらのポリペプチドをコードする核酸配列を提供する。本開示は、このモジュラーアプローチによって作製されるポリペプチドをコードする核酸配列を含む宿主生物および細胞を提供する。
【0104】
[0115]本明細書で使用されるとき、「発現」は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写されるプロセス、および/または転写されたmRNAがその後にペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含み得る。
【0105】
[0116]「結合」は、巨大分子間(例えば、タンパク質と核酸との間)の配列特異的非共有結合性相互作用を指す。相互作用が全体として配列特異的である限り、結合の相互作用の全ての成分が配列特異的である必要はない(例えば、DNA骨格におけるリン酸残基と接触する)。
【0106】
[0117]「結合タンパク質」は、別の分子に非共有結合的に結合することができるタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA結合タンパク質)、RNA分子(RNA結合タンパク質)および/またはタンパク質分子(タンパク質結合タンパク質)に結合することができる。タンパク質結合タンパク質の場合に、タンパク質は、それ自身に結合する(そしてホモ二量体、ホモ三量体などを形成する)ことができ、および/または異なるタンパク質(1種または複数種)の1つまたは複数の分子に結合することができる。結合タンパク質は、1種より多くの結合活性を有することができる。例えば、ジンクフィンガータンパク質は、DNA結合、RNA結合およびタンパク質結合活性を有する。
【0107】
[0118]「含む」という用語は、組成物および方法が、列挙された要素を含むが他を排除しないことを意味することが意図される。組成物および方法を定義するために使用される場合の「から本質的になる」とは、意図する目的のために使用するときの組合せに何らかの重要な意義を持つ他の要素を排除することを意味する。したがって、本明細書で定義される要素から本質的になる組成物は、微量混入物質または不活性担体を排除しない。「からなる」とは、他の成分の微量を超える要素および実質的な方法工程を排除することを意味するものとする。これらの移行句のそれぞれによって定義される実施形態は、本発明の範囲内にある。
【0108】
[0119]「連結された」または「作動可能に連結された」またはその等価物(例えば、「作動可能的に連結された」)は、2つ以上の分子が、1つまたは両方の分子またはその組合せに起因する機能に影響を与えるために相互作用することができるように互いに配置されることを意味する。ペプチドとそれに対応するリンカーは、作動可能に連結することができる。
【0109】
[0120]本開示のペプチドは、ペプチドまたはペプチド-MHC複合体を検出するために使用される抗体のエピトープを含むことができる。さらに、抗体は、天然に存在する抗体を含む抗体のエピトープを決定するために、本開示の組成物に接触することができる。「エピトープ」という用語は、ポリペプチドの抗原決定基を指す。エピトープは、エピトープに特有の空間的コンフォメーションで3個のアミノ酸を含むことができる。一般に、エピトープは少なくとも4、5、6または7個のそのようなアミノ酸からなり、より通常は、少なくとも8、9または10個のそのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の空間的コンフォメーションを決定する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、X線結晶学および二次元核磁気共鳴を含む。
【0110】
[0121]「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、具体的に、単一のモノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)ならびにポリエピトープ特異性を有する抗体組成物を包含する。本明細書に定義されるその抗体の天然または合成のアナログ、変異体、バリアント、対立遺伝子、ホモログおよびオルソログ(本明細書中で集約的に「アナログ」と呼ばれる)を使用することもその範囲内である。したがって、その一実施形態によれば、その最も広い意味での「その抗体」という用語は、そのようなアナログも包含する。一般に、そのようなアナログでは、1つまたは複数のアミノ酸残基が、本明細書に定義される抗体と比較して、置換、欠失および/または付加されてもよい。
【0111】
[0122]本開示のペプチドおよび/またはペプチド-MHC複合体を検出するために使用される抗体を任意の種から惹起させてもよい。特定の実施形態では、これらの抗体は、フレームワーク領域が非ヒト種由来であっても、ヒトCDR配列を有する。特定の実施形態では、これらの抗体は完全にヒトであるが、非天然であるように1つまたは複数の修飾を含んでもよい。特定の実施形態では、これらの抗体は、ヒト免疫系が本開示の組成物の表面に結合した本開示のペプチドおよび/またはペプチド-MHC複合体を認識する能力をin vitroで模倣するように完全にヒトである。
【0112】
[0123]抗体断片は、本開示の組成物の表面に結合した本開示のペプチドおよび/またはペプチド-MHC複合体を認識するための検出可能な薬剤に組み込まれてもよい。「抗体断片」およびその文法的変形は、本明細書で使用されるとき、インタクト抗体の抗原結合部位または可変領域を含むインタクト抗体の一部として定義され、ここでその一部は、インタクト抗体のFc領域の定常重鎖ドメイン(つまり、抗体アイソタイプに依存してCH2、CH3、およびCH4)を含まない。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、およびFv断片;ダイアボディ;連続するアミノ酸残基の1つの中断されない配列からなる一次構造を有するポリペプチドである任意の抗体断片(本明細書で「一本鎖抗体断片」または「一本鎖ポリペプチド」として参照される)、例えば、限定されないが、(1)一本鎖Fv(scFv)分子、(2)1つの軽鎖可変ドメインのみを有する一本鎖ポリペプチド、または関連する重鎖部分なしで軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含有するその断片、および(3)1つの重鎖可変領域のみを含有する一本鎖ポリペプチド、または関連する軽鎖部分なしで重鎖可変ドメインの3つのCDRを含有する断片;ならびに抗体断片から形成される多重特異性または多価構造が含まれる。1つまたは複数の重鎖を含む抗体断片では、重鎖は、インタクト抗体の非Fc領域で見出される任意の定常ドメイン配列(例えば、IgGアイソタイプのCHI)を含むことができ、および/またはインタクト抗体で見出される任意のヒンジ領域配列を含むことができ、ならびに/あるいは重鎖のヒンジ領域配列に融合もしくは配置されたロイシンジッパー配列または定常ドメイン配列を含むことができる。該用語はさらに、一般的に単一のモノマー可変抗体ドメイン(例えば、ラクダ科由来)を有する抗体断片を指す単一のドメイン抗体(「sdAB」)をさらに含む。そのような抗体断片のタイプは、当業者によって容易に理解される。
【0113】
[0124]用語「scFv」は、一本鎖可変断片を指す。scFvは、リンカーペプチドによって接続された、免疫グロブリンの重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質である。リンカーペプチドは、長さが約5~40アミノ酸、または約10~30アミノ酸、または約5、10、15、20、25、30、35もしくは40アミノ酸であり得る。一本鎖可変断片は、完全な抗体分子で見出される定常Fc領域、したがって抗体を精製するために使用される共通の結合部位(例えば、プロテインG)を欠く。この用語はさらに、イントラボディ、つまり細胞の細胞質内で安定であり、細胞内タンパク質に結合し得る抗体であるscFvを含む。
【0114】
[0125]「単一ドメイン抗体」という用語は、特定の抗原に選択的に結合することができる単一のモノマー可変抗体ドメインを有する抗体断片を意味する。単一ドメイン抗体は、一般的に、重鎖抗体の可変ドメイン(VH)または一般的なIgGの可変ドメインを含む約110アミノ酸長のペプチド鎖であり、一般的に、全抗体と同様の抗原に対する親和性を有するが、より耐熱性であり、界面活性剤および高濃度の尿素に対してより安定である。例として、ラクダ科または魚の抗体から誘導される抗体がある。あるいは、単一ドメイン抗体は、4本の鎖を有する一般的なマウスまたはヒトIgGから作製することができる。
【0115】
[0126]本明細書で使用される「特異的に結合する」および「特異的結合」という用語は、異なる抗原の均質な混合物中に存在する特定の抗原に優先的に結合する抗体、抗体断片またはナノボディの能力を指す。特定の実施形態では、特異的な結合作用は、試料中の望ましい抗原と望ましくない抗原とを、一部の実施形態では、約10倍を超えて100倍またはより高く(例えば、約1000倍もしくは10,000倍を超えて)識別することができる。「特異性」は、様々な抗原標識に対して1つの抗原標的に優先的に結合する免疫グロブリンまたはナノボディなどの免疫グロブリン断片の能力を指し、必ずしも高親和性を示唆するものではない。
【0116】
[0127]「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」という用語は、共有結合的に一緒に連結された少なくとも2つのヌクレオチドを指す。一本鎖の記述は、相補鎖の配列も定義する。したがって、核酸は、示された一本鎖の相補鎖を包含することができる。本開示の核酸は、同じ構造を保持するまたは同じタンパク質をコードする実質的に同一の核酸またはその相補物も包含する。
【0117】
[0128]本開示の核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。本開示の核酸は、分子の大部分が一本鎖であっても二本鎖配列を含むことができる。本開示の核酸は、分子の大部分が二本鎖であっても一本鎖配列を含むことができる。本開示の核酸は、ゲノムDNA、cDNA、RNAまたはそれらのハイブリッドを含むことができる。本開示の核酸は、デオキシリボ-およびリボ-ヌクレオチドを含むことができる。本開示の核酸は、ウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシンおよびイソグアニンを含む塩基の組合せを含むことができる。本開示の核酸は、非天然アミノ酸修飾を含むように合成することができる。本開示の核酸は、化学的合成方法または組換え方法によって得ることができる。
【0118】
[0129]本開示の核酸は、その配列全体またはその任意の部分が、天然に存在しないものであってもよい。本開示の核酸は、核酸配列全体を天然に存在しないものにする、天然に存在しない1つまたは複数の変異、置換、欠失または挿入を含んでもよい。本開示の核酸は、核酸配列全体を天然に存在しないものにする、結果となる配列が天然に存在しない1つまたは複数の重複、反転または反復配列を含むことができる。本開示の核酸は、核酸配列全体を天然に存在しないものにする、天然に存在しない修飾、人工または合成ヌクレオチドを含むことができる。
【0119】
[0130]遺伝暗号における縮重を考慮すると、複数のヌクレオチド配列が、任意の特定のタンパク質をコードすることができる。そのようなヌクレオチド配列の全てが本明細書で企図される。
【0120】
[0131]本開示全体にわたって使用されるとき、核酸を記載するために使用される「バリアント」という用語は、(i)参照ヌクレオチド配列の部分もしくは断片、(ii)参照ヌクレオチド配列もしくはその部分の相補物、(iii)参照核酸もしくはその相補物と実質的に同一の核酸、または(iv)参照核酸、その相補物もしくはそれと実質的に同一の配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を指す。
【0121】
[0132]本開示全体にわたって使用されるとき、「ベクター」という用語は、複製起点を含む核酸配列を指す。ベクターは、DNAまたはRNAベクターであることができる。ベクターは、自己複製染色体外ベクターであってもよく、好ましくは、DNAプラスミドである。
【0122】
[0133]本開示全体にわたって使用される場合、ペプチドまたはポリペプチドを記載するために使用されるときの「バリアント」という用語は、アミノ酸の挿入、欠失または保存的置換によってアミノ酸配列が異なるが、少なくとも1つの生物学的活性を保持するペプチドまたはポリペプチドを指す。さらにバリアントは、少なくとも1つの生物学的活性を保持するアミノ酸配列を有する参照タンパク質と実質的に同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質も意味することができる。
【0123】
[0134]アミノ酸の保存的置換、つまりアミノ酸を同様の特性(例えば、親水性、荷電領域の程度および分布)の異なるアミノ酸に置き換えることは、典型的に、軽微な変化を伴うものとして認識される。当技術分野で理解されるように、これらの軽微な変化は、部分的に、アミノ酸のヒドロパシー指標を考慮することによって同定することができる。Kyteら、J.Mol.Biol.、157:105-132(1982)。アミノ酸のヒドロパシー指数は、その疎水性および電荷の考慮に基づく。ヒドロパシー指数が類似のアミノ酸は、置換しても依然としてタンパク質機能を保持することができる。一態様では、±2のヒドロパシー指数を有するアミノ酸が置換される。アミノ酸の親水性も、生物学的機能を保持するタンパク質をもたらす置換を明らかにするために使用することができる。ペプチドのコンテキストでアミノ酸の親水性を考慮することは、抗原性および免疫原性とよく相関することが報告されている有用な尺度であるペプチドの最大局所平均親和性の計算を可能にする。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,554,101号。
【0124】
[0135]類似の親水性値を有するアミノ酸の置換は、生物学的活性、例えば免疫原性を保持するペプチドをもたらすことができる。置換は、互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸で行うことができる。アミノ酸の疎水性指数および親水性値の両方が、アミノ酸の特定の側鎖によって影響を受ける。その観察と一致して、生物学的機能に適合するアミノ酸置換は、アミノ酸、特にアミノ酸側鎖の疎水性、親水性、電荷、大きさおよび他の特性によって明らかにされる相対的類似性に依存すると理解される。
【0125】
[0136]本明細書で使用されるとき、「保存的」アミノ酸置換は、下記の表A、B、またはCに示されるように定義され得る。一部の実施形態では、融合ポリペプチドおよび/またはそのような融合ポリペプチドをコードする核酸は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの修飾によって導入された保存的置換を含む。アミノ酸は、物理的特性ならびに二次および三次タンパク質構造への寄与にしたがって分類することができる。保存的置換は、1つのアミノ酸を類似の特性を有する別のアミノ酸に置換することである。例示的な保存的置換を表Aに示す。
【0126】
[0137]
【表1】
【0127】
[0138]代替的に、保存的アミノ酸は、表Bに示されるように、Lehninger(Biochemistry、第2版;Worth Publishers、Inc.、NY、N.Y.(1975)、71~77頁)に記載されるように分類することができる。
【0128】
[0139]
【表2】
【0129】
[0140]代替的に、例示的な保存的置換を表Cに示す。
【0130】
[0141]
【表3】
【0131】
[0142]本開示のポリペプチドは、アミノ酸残基の1つまたは複数の挿入、欠失もしくは置換、またはその任意の組合せ、ならびにアミノ酸残基の挿入、欠失もしくは置換以外の修飾を保持するポリペプチドを含むことが意図されると理解されるべきである。本開示のポリペプチドまたは核酸は、1つまたは複数の保存的置換を含むことができる。
【0132】
[0143]本開示全体にわたって使用されるとき、「1つより多くの」前述のアミノ酸置換という用語は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはより多くの参照されたアミノ酸置換を指す。「1より多くの」という用語は、2、3、4または5より多くの参照されたアミノ酸置換を指すことができる。
【0133】
[0144]本開示のポリペプチドおよびタンパク質は、その配列全体またはその任意の部分が天然に存在しないものであってもよい。本開示のポリペプチドおよびタンパク質は、アミノ酸配列全体を天然に存在しないものにする天然に存在しない1つまたは複数の変異、置換、欠失または挿入を含んでもよい。本開示のポリペプチドおよびタンパク質は、アミノ酸配列全体を天然に存在しないものにする、結果となる配列が天然に存在しない1つまたは複数の重複、反転または反復配列を含んでもよい。本開示のポリペプチドおよびタンパク質は、アミノ酸配列全体を天然に存在しないものにする、天然に存在しない修飾、人工または合成アミノ酸を含んでもよい。
【0134】
[0145]本開示全体にわたって使用されるとき、「配列同一性」は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のftpサイトから、デフォルトパラメータを使用して検索することができる2つの配列をブラストするための独立型の実行可能なBLASTエンジンプログラム(bl2seq)を使用して決定することができる(参照によりその全体が本明細書に組み込まれるTatusova and Madden、FEMS Microbiol Lett.、1999、174、247-250)。2つ以上の核酸またはポリペプチド配列のコンテキストで使用されるとき、「同一」または「同一性」とは、配列のそれぞれの指定された領域にわたって同一である残基の指定されたパーセンテージを指す。パーセンテージは、2つの配列を最適に整列させ、特定の領域にわたって2つの配列を比較し、両方の配列において同一の残基が存在する位置の数を決定して一致した位置の数を得、一致した位置の数を特定の領域における位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることにより、算出することができる。2つの配列が異なる長さであるまたはアライメントが1つもしくは複数の食違い末端を生じ、比較の特定の領域に単一の配列のみが含まれる場合には、該単一の配列の残基は計算の分母に含まれるが、分子には含まれない。DNAとRNAとを比較する場合、チミン(T)とウラシル(U)とは同等と考えることができる。同一性は、手動で行われるものでもよく、BLASTまたはBLAST2.0などのコンピュータ配列アルゴリズムを使用するものでもよい。
【0135】
[0146]特に断らない限り、全てのパーセンテージおよび比率は、重量基準で計算される。
【0136】
[0147]特に断らない限り、全てのパーセンテージおよび比率は、全組成物に基づいて計算される。
【0137】
[0148]本開示全体を通じて記載されるあらゆる最大数値限定は、あらゆる低い数値限定が本明細書に明確に記載されるかのように、そのような低い数値限定を含む。本開示を通じて記載される所与の最小数値限定のいずれも、それより大きいあらゆる数値限定を、そのような大きい数値限定が本明細書に明確に記載されるかのように含む。本開示を通じて記載される所与の数値範囲のいずれも、そのような広い数値範囲内に入るあらゆる狭い数値範囲を、そのような狭い数値範囲が全て本明細書に明確に記載されるかのように含む。
【0138】
[0149]本明細書に開示された値は、列挙した正確な数値に厳密に制限されるものとして理解されるべきではない。代わりに、特に断りのない限り、そのような値のそれぞれは、列挙された値とその値周辺の機能的に同等の範囲との両方を意味することが意図される。例えば、「20μm」として開示される値は、「約20μm」を意味することを意図する。
【実施例
【0139】
実施例1:HLAクラスI調製およびアレイ上の会合
ヒト白血球抗原(HLA)およびβミクログロブリン(b2m)タンパク質の起源:
[0150]クローニングおよび大腸菌における発現
[0151]HLA-A02:01およびb2mは、Roche Glycart AG(Schlieren、スイス)およびRoche Diagnostics GmbH(Penzberg、ドイツ)によって提供された。
【0140】
[0152]UniProtデータベースからのHLA-A11:01、HLA-B07:02およびHLA-C07:02アミノ酸配列を切断して、C末端でヒンジ、膜貫通および細胞質領域を、N末端からリーダーペプチド配列を除去した。
【0141】
[0153]HLA-A*11:01:
MGSHSMRYFYTSVSRPGRGEPRFIAVGYVDDTQFVRFDSDAASQRMEPRAPWIEQEGPEYWDQETRNVKAQSQTDRVDLGTLRGYYNQSEDGSHTIQIMYGCDVGPDGRFLRGYRQDAYDGKDYIALNEDLRSWTAADMAAQITKRKWEAAHAAEQQRAYLEGRCVEWLRRYLENGKETLQRTDPPKTHMTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWE(配列番号1)
【0142】
[0154]HLA-B*07:02:
GSHSMRYFYTSVSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDSDAASPREEPRAPWIEQEGPEYWDRNTQIYKAQAQTDRESLRNLRGYYNQSEAGSHTLQSMYGCDVGPDGRLLRGHDQYAYDGKDYIALNEDLRSWTAADTAAQITQRKWEAAREAEQRRAYLEGECVEWLRRYLENGKDKLERADPPKTHVTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDRTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPKPLTLRWE(配列番号2)
【0143】
[0155]HLA-C*07:02
SHSMRYFDTAVSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDSDAASPRGEPRAPWVEQEGPEYWDRETQKYKRQAQADRVSLRNLRGYYNQSEDGSHTLQRMSGCDLGPDGRLLRGYDQSAYDGKDYIALNEDLRSWTAADTAAQITQRKLEAARAAEQLRAYLEGTCVEWLRRYLENGKETLQRAEPPKTHVTHHPLSDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQRDGEDQTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGQEQRYTCHMQHEGLQEPLTLSWE(配列番号3)
【0144】
[0156]HLA-A11:01、HLA-B07:02およびHLA-C07:02タンパク質についてのアミノ酸配列を、大腸菌最適コドン表を使用してDNA配列に逆翻訳し、二本鎖DNAとして合成し、DNA2.0(www.dna20.com)によってプラスミドDNAにクローニングした。タンパク質を、DNA2.0(HLA-A11:01)またはPenzberg(HLA-B07:02およびHLA-C07:02)のいずれかによって、封入体の形態で、大腸菌で発現した。発現したタンパク質を有する封入体を、可溶化の前に-80℃で保存した。
【0145】
[0157]封入体の可溶化
[0158]100mgの封入体を、2.0mlのエッペンドルフチューブに移し、1mlのpH7.8の50mM Tris-HCl、5mMのEDTA、1%のTween20、2mMのDTT中に再懸濁し、2,000×gで2分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットをボルテックスによってほぐした。
【0146】
[0159]ペレットを、1mlのpH7.8の25mM Tris-HCl、2MのNaCl、2Mの尿素、2mMのDTTと混合し、4,000×gで2分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットをボルテックスによってほぐした。
【0147】
[0160]ペレットを、1mlの1×PBS、0.5 mMのPMSFと混合し、2,000×gで2分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットをボルテックスによってほぐした。
【0148】
[0161]ペレットを、1mlのpH7.8の20mM Tris-HCl、8Mの尿素、100μMのβ-メルカプトエタノール中に溶解し、完全に溶解させるために4℃で一晩保存した。タンパク質濃度は、280nmの吸光度で、1つのA280単位=1mg/mlと仮定して決定した。タンパク質の純度は、EZblue染色試薬(Sigma)で染色して、12%のNuPAGE Bis-TrisゲルおよびMESランニングバッファー(Novex)を用いて試験した。
【0149】
HLAクラスI複合体の調製およびアレイ上の会合
[0162]HLA/b2m複合体の調製
[0163]典型的には、630μlのpH8.5の10mM Tris-HClを、20μlのpH7.8の20mM Tris-HCl中10% BSA、300μgの30mg/ml可溶化b2mおよび600μgの15~40mg/ml可溶化α鎖と室温(RT)で示された順序で混合した。対照試料は、b2mタンパク質を含めなかった。混合試料を4℃で一晩インキュベートし、12,000×gで4分間遠心分離して沈殿物を除去した。上清を、およそ400μlの2回の試料ロードを使用してAmiconUltra 10Kフィルター(Millipore)で濃縮し、それぞれ12,000×gで2分間遠心分離した。試料バッファーを、350μlのpH8.8の10mM Tris-HClをフィルター保持体積に加えることによってpH8.5の10mM Trisに置き換え、12,000×gで4分間の遠心分離によって濃縮した。バッファー交換手順をさらに2回、各回で350μlのpH8.5の10mM Tris-HClを使用して、繰り返した。最終の遠心分離工程後、保持体積(およそ100μl)を1,000×gで2分間の遠心分離によって新鮮なチューブに回収し、5.0μmのUltrafreeフィルター(Millipore)を通して濾過し、4℃で保存した。
【0150】
[0164]HLAクラスIのアレイ上の複合体会合および検出
[0165]合成および脱保護後のペプチドアレイスライドを、密封された容器に-20℃で保存するかまたは直ぐに使用した。試料を適用する前に、スライドを、アレイブロッキングおよび基準マークの染色のために、0.7μg/mlのCy-5標識ストレプトアビジン(Amersham)1×結合バッファー(1%カゼイン、10mM Tris pH7.4、0.25% Tween20)中で1時間、室温でインキュベートし、水で濯ぎ、スライドホルダーを備えた卓上遠心分離機を使用して30秒間の遠心分離によって乾燥させた。
【0151】
[0166]調製されたHLAクラスI試料を、何ら追加の処理または希釈なしに、ペプチドアレイの表面に付けたインキュベーションチャンバーに装填した。室温で一晩インキュベーションした後、インキュベーションチャンバーを除去し、アレイを水で濯ぎ、HLA複合体を室温で抗HLA-A、B、Cコンフォメーション抗体(Alexa647-MEM123(Novus)1×結合バッファー中で300倍希釈)を用いて1時間染色した。染色後、アレイを水で濯ぎ、乾燥し、635nmでスキャンした。
【0152】
アレイ上のペプチド/HLA複合体会合に影響を与えるパラメータ:
[0167]ペプチド/HLA/b2m会合が成功するための影響力のあるパラメータ:
[0168]本実施例に関して、BSAの最適濃度は、HLA/b2m混合物に対して2~3%の添加であることが分かった。BSAなしでは、複合体形成は観察されなかった。
【0153】
[0169]本実施例に関して複合体調製物のためのb2mモル/モル比に対する最適HLAは、1:1~1:2であることが分かった。
【0154】
[0170]HLA/b2m混合物調製のプロセスでは、HLA-B07:02およびHLA-C07:02タンパク質は、8M尿素ストックから希釈する間に沈殿物を形成した。この効果はpH依存性であり、10mMのpH8.5のTris-HClバッファーを使用して最小化することができる。
【0155】
[0171]複合体会合強度シグナルは、HLA/b2m濃度に比例する。最適濃度のために、2つの因子、つまり、第1にHLA/b2m漸増濃度は特異的および非特異的シグナル(バックグラウンド)の両方を増加させること、第2にHLA対立遺伝子はHLA/b2m濃度に対するシグナルに依存して変動することを考慮すべきである。このことは、最適濃度が、各対立遺伝子に対して独立して見出されるべきであることを意味する。「HLA/b2m複合体調製」セクションに記載する条件は、最適化のためのテンプレートとして使用することができる。
【0156】
[0172]少なくとも一晩のインキュベーションが、HLA/b2m複合体調製およびアレイ上のペプチド/HLA/b2m複合体会合両方の工程のために推奨される。
【0157】
[0173]スライド表面へのペプチド結合のためにリンカーを最適化するために、3つの異なるリンカー、ヘキサン酸、PEGおよびG/Sアミノ酸の3:1比率のミックスを、1~5の5つの異なる長さで試験した。3つのヘキサン酸分子からなるリンカーが、メトリックとしてシグナル/バックグラウンド比を使用して最適であることが分かった。さらに、特に表面が正味の正電荷を有する場合、リンカーは、少なくとも1つの負のモノマーを含むように最適化することができる。例えば、リンカーは、少なくとも1つの負に荷電されたアミノ酸を含んでもよい。
【0158】
[0174]HLA/b2m複合体を検出するコンフォメーション抗体のCy5-標識W6/32(NBP2-00439)またはAlexa647-標識MEM123(NB500-505AF647)(いずれもNovus Biological製)を、ペプチドアレイ上で会合したHLA/b2mの検出のために、それぞれ最適抗体希釈係数1:100および1:300で使用することができる。
【0159】
[0175]ペプチド/HLA/b2m会合に対して最小または負の効果を有するパラメータ:
[0176]いくつかの試薬が、効率的なペプチド/HLA/b2m複合体会合のために重要であるとして文献で報告された。それらの中には、0.4MのL-アルギニン、0.25%のグルコピラノシド、5mMの還元型L-グルタチオン(glutathatione)/0.5mMの酸化型L-グルタチオン(glutathatione)、L-GLジペプチドなどの補助ペプチドおよび低親和性ペプチドがある。これらの試薬は、ペプチドアレイ上のHLA/b2m複合体会合に対して最小限の効果または阻害性効果を有することが分かった。
【0160】
[0177]5.5~8.5の範囲のpH、20mM~1MのNaClまたはKCl、1mMのMgClまたはCaCl、0.1%カゼイン、60mMの尿素を含む他のパラメータを試験し、ペプチドアレイ上のHLA/b2m複合体会合に対して最小限の効果または阻害性効果を有することが分かった。
【0161】
[0178]いくつかの他の抗体を、会合したHLA/b2m複合体:抗b2m、抗HLA MEM81、MEM147およびBB7.2の検出のために試験した。これらの抗体は、良好なシグナル/バックグラウンド比を示したBB7.2を除き、全てw6/32およびMEM123抗体と比較して低いシグナルまたは高いバックグラウンドを示した。しかし、BB7.2は、HLA-Aに制限があり、ならびにHLA-BおよびHLA-C対立遺伝子を検出不能であることから、この試験では使用しなかった。
【0162】
実施例2:MHCI表面アレイ設計
セット1
[0179]12プレックスのレイアウト:
[0180]バッチ処理9マー・ペプチド(123,675ペプチド):5つの対照タンパク質;NY-ES01、WT1、MAGE3、MAGE4、FOXP3;3つの異なるリンカーのタイプ(PEG8、6-アミノヘキサン酸、Gly:SER 4:1ミックス)および5つの異なるリンカーの長さを表す、1アミノ酸工程サイズのタイル状の9マー・ペプチド。
【0163】
[0181]
【表4】
【0164】
[0182]pMHC形成および検出を最適化するための最初の実験設計は、5つの既知のがんタンパク質、3つの異なるペプチドリンカーのタイプ、および5つの異なるリンカーの長さ(1~5反復/モノマー)を含んだ。
【0165】
セット2
[0183]12プレックスのレイアウト:Wilms腫瘍からの2つのペプチドおよび1つの他のペプチド。Wilms腫瘍は、腎芽腫としても知られる稀な腎臓がんである。
【0166】
[0184]単一アミノ酸置換分析(40,500ペプチド):対応する抗体が利用可能であり、MHCIに結合したペプチドを認識することができる3つのよく研究された対照ペプチドを合成する。抗体はナノモル結合親和性を有し、したがって、抗体は、ペプチド-MHCI複合体に特異的に結合すると予測される。9マー・ペプチドの各位置について、全部で20種のアミノ酸に置換することによって、20個のペプチドを合成する。9マーでは、209=180個のペプチドが、完全な単一アミノ酸置換分析を実行するために必要とされる。3つの異なるペプチドリンカーのタイプ(PEG8、6-アミノヘキサン酸、Gly:SER 4:1ミックス)および5つの異なるリンカーの長さ(リンカーの長さは、各リンカーモノマーの合成サイクルの数1/2/3/4/5として定義される)も含める。全てのペプチドを、5反復で、各リンカーのタイプおよび長さで試験する。
【0167】
セット1および2の最適化のもとでの変数
【0168】
[0185]
【表5】
【0169】
[0186]セット1および2の両方について、pMHC複合体が表面上で上手く形成された。
【0170】
[0187]セット1に関して、pCy5で標識した抗体W6/32(Novus Biosciences)を、表面に加え、任意の適切に会合したpMHC複合体に結合させた。図1の上部パネルで、各ピークは、別個のpMHC複合体である。一部の複合体は文献で報告されているが、他の複合体は報告されていない。ほとんどの複合体が、2番目の位置にロイシンを有する(位置2および8はアンカー位置と考えられる)。図1(下部パネル)は、HLAαサブユニットのみ(「b2m」またはβサブユニットなし)の陰性対照である。
【0171】
実施例3:免疫優性ペプチドの同定およびNetMHC3.4との比較
[0188]本開示の組成物および方法は、MHCによってin vivoで提示されるとき免疫優性であろうこれらのペプチドを同定するために使用することができる。本開示の組成物は、少なくとも10個の特有のペプチドを、表面に同時に含むことができるので、目的の任意の抗原を、例えば、表面上のMHCI複合体に結合した9アミノ酸配列の全ての順列で提示することができる。単一の高度多重化実験では、完全かつ適切に会合したペプチド-MHCI複合体を特異的に認識する任意の抗体を使用して、in vivoで提示され得るペプチドが容易に同定される。同じ実験で、1つまたは複数のT細胞を表面に導入して、適切に会合したペプチド-MHCI複合体に含まれるペプチドのどれが1つまたは複数のT細胞を刺激するかを決定することができる。いずれも少なくとも10個の特有のペプチドについて単一の実験で決定することができる、これらの2つの基準(ペプチドが適切なペプチド-MHC複合体を形成するかおよびT細胞を刺激するかの基準)のみに基づいて、本開示の組成物および方法は、MHCによってin vivoで提示される場合に免疫優性であろうこれらのペプチドをin vitroで同定するための優れた手段を提供する。
【0172】
[0189]本開示の組成物および方法の能力を、免疫優性ペプチドを予測するための現行の業界標準方法であるコンピュータアルゴリズムNetMHC3.4の能力と比較した。
【0173】
[0190]図2は、それぞれ9アミノ酸長であり、それぞれがWT1タンパク質の野生型配列に沿った特有の配列を有し、本開示の表面上のMHCIに結合し、標識抗体によって検出されるときのそのシグナル強度、またはNetMHC3.4によって評価されるその予測される結合親和性に基づいて象限に組織化される複数のWT1ペプチドを示すプロットを提供する。完全に会合したMHCI複合体を特異的に認識する任意の抗体を、MHCIによってin vivoで提示されるであろうそれらのペプチドを同定するために使用することができる。
【0174】
[0191]プロットされた440種のペプチドのうち、NetMHC3.4により、433種のペプチドは親和性が低すぎてMHCIと結合できないと同定され、対照的に、7つのみのペプチドが、MHCIに結合する理論的能力を有するとして同定された。際立って対照的に、本開示の組成物および方法は、NetMHC3.4アルゴリズムが破棄するであろう13種のペプチド(右上の象限)を含む、MHCIに実際に結合する18種のペプチドを同定した。
【0175】
[0192]図3は、左上の象限を強調している。左上の象限は、免疫優性ペプチドを同定する現行の業界標準方法NetMHCを使用して分析するときMHCIに十分な親和性で結合するとアルゴリズムによって予測されるであろう、本開示の組成物および方法にしたがって実証されるMHCIへの結合能力を有するペプチドを表す。特に興味深いのは、本明細書でWT1ペプチド126として参照される、強調されたペプチドである。
【0176】
[0193]図4は、右上の象限を強調している。右上の象限は、免疫優性ペプチドを同定する現行の業界標準方法NetMHCを使用して分析するときMHCIに十分な親和性で論理的に結合できないとアルゴリズムによって破棄されるであろう、本開示の組成物および方法にしたがって実証されるMHCIへの結合能力を有するペプチドを表す。換言すれば、本開示の組成物および方法は、NetMHCプログラムのみを使用して分析するとき偽陰性であろう、13種のペプチドを経験的に検証した。
【0177】
[0194]図5は、左下の象限を強調している。左下の象限は、免疫優性ペプチドを同定する現行の業界標準方法NetMHCを使用して分析するときMHCIに十分な親和性で結合すると予測されるであろうが、本開示の組成物および方法を使用して試験するとき、完全に会合したペプチド-MHCI複合体を形成しないと経験的に示されるペプチドを表す。換言すれば、本開示の組成物および方法は、NetMHCプログラムのみを使用して分析するとき偽陽性であろう2つのペプチドを経験的に同定した。
【0178】
[0195]MHC成分は多様であり、MHCと複合体を形成するペプチドについてほぼ無限の考えられる配列があるため、ERの環境を再現することができ、MHCのどの成分が利用可能なペプチドの広大なアレイと複合体を形成することができるか、その後ペプチド-MHC複合体のいずれが免疫系(例えば、T細胞)を刺激することができるかを経験的に迅速に決定することができる、高度に多重化されたシステムについて、長く切望され、満たされていない必要性がある。
【0179】
[0196]この複合体システムについてコンピュータモデリングは不十分である。その理由は、本開示に示されるように、実際に形成される多くのペプチド-MHC複合体が、既存のアルゴリズムの使用では会合すると予測されないからである。逆に、会合すると予測されるペプチド-MHC複合体の一部は、本開示で示される試験によって、不安定な複合体を形成すると示された。
【0180】
[0197]本開示の高度に多重化された経験ベースの方法の能力をさらに実証するために、図7および図8は、ESK1が様々な親和性で結合することができる「RMFPNAPYL」(配列番号7)バリアントの配列分析を提供する。表面上のペプチドのアレイは空間的に順序付けられるので、あらゆるペプチドの配列がすぐに分かる。9つのアミノ酸ペプチドのそれぞれのアミノ酸を、可能性のある20種のアミノ酸のそれぞれに置換して、適切なペプチド-MHCI複合体を形成するために必須である、このペプチド内のアミノ酸の位置を同定した。図8は、20種のアミノ酸全てを、1列で、アミノ酸1文字コードによって、特徴によってグループ分けして示す:AFILMVWPGSYCQTNRKHDE。アミノ酸A、F、I、L、M、V、WおよびPは、非極性アミノ酸である。アミノ酸G、S、Y、C、Q、T、Nは、極性アミノ酸である。アミノ酸R、KおよびHは、塩基性アミノ酸である。アミノ酸DおよびEは、酸性アミノ酸である。
【0181】
実施例4:負に荷電されたモノマーを有するリンカー
[0198]先に、いくつかのリンカーを、会合体の表面上の最適化されたペプチド-MHC会合体に対するアレイ表面へのペプチドの結合について評価した。その試験から、3~5個のHEX部分(各部分が6アミノヘキサン酸を含む)からなるリンカーが、HLA特異的抗体でのpMHC複合体検出後の最も高いシグナルおよび低バックグラウンドの基準に基づいて好ましいリンカーとして選択された。
【0182】
[0199]継続試験は、強力なHLA2結合剤であるだけでなく、強力な免疫原性効果を有する、生物学的に関連するペプチドであると十分に特徴づけられたHLA2特異的ペプチドを用いたアレイ実験を含んだ。正の「黄金基準」対照としてこれらのペプチドの15種を使用するとき、これらのペプチドの7種のみが、好ましいHEXリンカーを使用して、本開示の表面上でpMHC複合体の形成を示すと分かった。
【0183】
[0200]pMHC形成に対する対照ペプチドの各位置での20種のアミノ酸全ておよび欠失の効果を示す置換プロットの分析は、7つのHLA2結合ペプチドの一部に対する複数の位置での負に荷電されたアミノ酸であるアスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)の嗜好性を明らかにした。理論に縛られることを望まないが、表面は過剰の正電荷を有することができ、ペプチド上の好ましい負の電荷は、電荷代償的役割を果たし得る。
【0184】
[0201]電荷の効果を調べるために、負電荷および正電荷の両方を有する下記に列挙される様々なリンカーを本開示の組成物に導入した:
1.表面-5HEX-ペプチド
2.表面-HEX-E-3HEX-ペプチド
3.表面-HEX-D-3HEX-ペプチド
4.表面-HEX-K-3HEX-ペプチド
5.表面-2HEX-E-HEX-ペプチド
6.表面-3HEX-GluB-ペプチド(GluB=側鎖を介して連結されたt-ブチル保護グルタミン酸)
【0185】
[0202]リンカー1は、5ヘキサン(HEX)部分を含有する。リンカー2~4は、3つのHEX部分によってペプチドからそれぞれ分離された負に荷電されたグルタミン酸(E)もしくはアスパラギン酸(D)部分または正に荷電されたリジン(K)を有する。リンカー5は、リンカー2に類似するが、Eとペプチドとの間にHEXを1つのみ有する。リンカー6は、負の電荷を有する遊離カルボキシル基を有するアミノ酸アナログGluBの側鎖に接続された3つのHEX部分を有する別の負に荷電したリンカーである。
【0186】
[0203]15種の対照ペプチドについてのペプチド-MHC会合体形成の分析は、HEXのみのリンカーで検出される7種のペプチドと比較して、11種のペプチドの検出を可能にする負に荷電されたリンカーが結合したペプチドの改善された結合を示した。この改善は、GluBアミノ酸を有するリンカー6についてはあまり顕著でなかった。対照的に、正に荷電されたリンカー4の使用は、検出可能なペプチドの数を7から5に減少させた。
【0187】
[0204]図10Aおよび10Bは、この例ではアスパラギン酸(D)である少なくとも1つの負に荷電されたモノマーを組み込むリンカーが使用されるとき、ペプチド-MHC会合体から観察される増加したシグナル強度を示す。図10Bで試験されたリンカーは、上記リンカー3に相当する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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