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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】焼結体、及び、それを含む切削工具
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20230131BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20230131BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019530116
(86)(22)【出願日】2018-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2018028011
(87)【国際公開番号】W WO2019087481
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017209056
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-082031(JP,A)
【文献】国際公開第2007/057995(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/039955(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5831
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材とを有する焼結体であって、
前記結合材は、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al及びSiからなる群より選ばれる1種以上の第1元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる1種以上の化合物、及びこれらの固溶体からなる群より選ばれる1種以上、並びに、Li、Ca、Na、Sr、Ba及びBeからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有し、
前記結合材は、前記金属元素を合計で0.001質量%以上0.5質量%以下含有し、
前記結合材は、酸素を0.1質量%以上10.0質量%以下含有する、焼結体。
【請求項2】
前記結合材は、前記Li及び前記Caの一方又は両方を合計で0.001質量%以上0.1質量%以下含有し、
前記結合材は、前記酸素を0.5質量%以上5.0質量%以下含有する、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記結合材は、Ti及びZrの一方又は両方の窒化物、前記Li及び前記Caの一方又は両方、前記酸素、並びに、炭素を含有し、
前記結合材は、前記Li及び前記Caの一方又は両方を合計で0.001質量%以上0.01質量%以下含有し、
前記結合材は、前記炭素を0.001質量%以上0.5質量%以下含有する、請求項1又は請求項2に記載の焼結体。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の焼結体を含む切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素粒子と結合材とを有する焼結体、及び、それを含む切削工具に関する。本出願は、2017年10月30日に出願した日本特許出願である特願2017-209056号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
鉄系難削材料加工、特に高硬度焼入鋼加工には、立方晶窒化硼素(以下、「cBN」とも表記する。)焼結体を用いた工具による切削仕上げが一般化しつつある。近年、cBN焼結体に対して、高能率加工へ利用する場合の要求が厳しくなる一方、工具寿命の向上も求められている。
【0003】
特開2005-187260号公報(特許文献1)、及び、国際公開第2006/112156号(特許文献2)には、cBN粒子に微量のアルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素等の元素を含有させることにより、cBN粒子間の結合力を高め、難削材料加工における工具寿命を向上させる技術が開示されている。
【0004】
国際公開第2008/093577号(特許文献3)には、結合材に微量の遷移金属元素等を配合することにより、難削材料加工におけるcBN焼結体の耐摩耗性や耐欠損性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-187260号公報
【文献】国際公開第2006/112156号
【文献】国際公開第2008/093577号
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様に係る焼結体は、3体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材とを有する焼結体であって、
前記結合材は、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al及びSiからなる群より選ばれる1種以上の第1元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる1種以上の化合物、及びこれらの固溶体からなる群より選ばれる1種以上、並びに、Li、Ca、Na、Sr、Ba及びBeからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有し、
前記結合材は、前記金属元素を合計で0.001質量%以上0.5質量%以下含有し、
前記結合材は、酸素を0.1質量%以上10.0質量%以下含有する、焼結体である。
【0007】
本開示の一態様に係る切削工具は、上記の焼結体を含む切削工具である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
しかしながら、特許文献1~3の技術によっても、昨今の高能率加工へ利用する場合の厳しい要求、及び、優れた工具寿命への要求の両方を満足することができず、更なる性能の向上が求められている。
【0009】
そこで、本目的は、切削工具に用いた場合に、高硬度焼入鋼の高能率加工においても、優れた工具寿命を示す焼結体、及び、それを含む切削工具を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
上記態様によれば、切削工具に用いた場合に、高硬度焼入鋼の高能率加工においても、優れた工具寿命を示す焼結体を提供することが可能となる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る焼結体は、3体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材とを有する焼結体であって、前記結合材は、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al及びSiからなる群より選ばれる1種以上の第1元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる1種以上の化合物、及びこれらの固溶体からなる群より選ばれる1種以上、並びに、Li、Ca、Na、Sr、Ba及びBeからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有し、前記結合材は、前記金属元素を合計で0.001質量%以上0.5質量%以下含有し、前記結合材は、酸素を0.1質量%以上10.0質量%以下含有する、焼結体である。
【0013】
本実施形態の焼結体は、切削工具に用いた場合に、高硬度焼入鋼の高能率加工において、優れた工具寿命を示す。なお、本実施形態の焼結体は、高硬度焼入鋼に限らず、鉄系耐熱合金、ニッケル基系耐熱合金、チタン合金等の難削材の高能率加工においても、優れた工具寿命を示す。
【0014】
(2)前記結合材は、前記Li及び前記Caの一方又は両方を合計で0.001質量%以上0.1質量%以下含有し、前記結合材は、前記酸素を0.5質量%以上5.0質量%以下含有することが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0015】
(3)前記結合材は、Ti及びZrの一方又は両方の窒化物、前記Li及び前記Caの一方又は両方、前記酸素、並びに、炭素を含有し、前記結合材は、前記Li及び前記Caの一方又は両方を合計で0.001質量%以上0.01質量%以下含有し、前記結合材は、前記炭素を0.001質量%以上0.5質量%以下含有することが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0016】
(4)本開示の一態様に係る切削工具は、上述の(1)から(3)に記載の焼結体を含む切削工具である。本実施形態の切削工具は、高硬度焼入鋼の高能率加工において、優れた工具寿命を示す。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態に係る焼結体の具体例を、以下に説明する。
【0018】
本明細書において化合物等を化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のものに限定されるものではない。例えば「TiCN」と記載されている場合、TiCNを構成する原子数の比はTi:C:N=1:0.5:0.5に限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。また、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0019】
[焼結体]
本実施形態に係る焼結体は、3体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子(以下、「cBN粒子」とも表記する。)と、結合材とを含む焼結体(以下、「cBN焼結体」とも表記する。)である。本実施形態に係る焼結体は、cBN及び結合材の2成分を含む限り他の成分を含んでいてもよく、また使用する原材料や製造条件等に起因する不可避不純物を含み得る。
【0020】
(立方晶窒化硼素粒子)
焼結体中の立方晶窒化硼素粒子の含有量は、3体積%以上80体積%以下である。cBN粒子は硬度、強度、靱性が高く、焼結体中の骨格として働き、高硬度焼入鋼の切削に耐えうる材料強度を保持する役割を果たす。
【0021】
cBN粒子の含有量が3体積%未満であると、高硬度焼入鋼の切削に耐えうる材料強度を保持することができない。一方、cBN粒子の含有量が80体積%を超えると、相対的に結合材の含有量が低くなり、耐摩耗性が低下する。cBN粒子の含有量は、工具寿命向上の観点から、20体積%以上75体積%以下が好ましく、45体積%以上65体積%以下が更に好ましい。
【0022】
焼結体中のcBN粒子の含有量(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM)付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、焼結体に対し、組織観察、元素分析等を実施することによって確認することができる。
【0023】
具体的には、次のようにしてcBN粒子の含有量(体積%)を求めることができる。まず、焼結体の任意の位置を切断し、断面を含む試料を作製する。焼結体の断面の作製には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、cBN焼結体の断面をSEMにて2000倍で観察して、反射電子像を得る。反射電子像においては、cBN粒子が存在する領域が黒色領域となり、結合材が存在する領域が灰色領域または白色領域となる。
【0024】
次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(例えば、三谷商事(株)の「WinROOF」)を用いて2値化処理を行い、2値化処理後の画像から各面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、cBNの含有量(体積%)を求めることができる。なお、これにより結合材の体積%を同時に求めることができる。
【0025】
焼結体中のcBN粒子の含有量(体積%)は、全原料粉末(以下、「完成粉末」とも表記する。)中のcBN粉末の含有量と同一の量となる。したがって、焼結体の製造時において、完成粉末中のcBN粉末の含有量を制御することにより、焼結体中のcBN粒子の含有量を、所望の範囲に調整することができる。
【0026】
立方晶窒化硼素(cBN)は、焼結体においてcBN粒子として存在する。cBN粒子の平均粒径(D50)は特に限定されず、例えば、0.1~10.0μmとすることができる。通常、平均粒径が小さい方がcBN焼結体の硬度が高くなる傾向があり、粒径のばらつきが小さい方が、cBN焼結体の性質が均質となる傾向がある。cBN粒子の平均粒径は、例えば、0.5~4.0μmとすることが好ましい。
【0027】
cBN粒子のD50は次のようにして求められる。まず上記のcBN粒子の含有量の求め方に準じて、基材の断面を含む試料を作製し、反射電子像を得る。次いで、画像解析ソフトを用いて反射電子像中の各黒色領域の円相当径を算出する。5視野以上を観察することによって100個以上のcBN粒子の円相当径を算出することが好ましい。
【0028】
次いで、各円相当径を最小値から最大値まで並べて累積分布を求める。累積分布において累積面積50%となる粒径がD50となる。なお円相当径とは、計測されたcBN粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0029】
(結合材)
結合材は、周期表の4族元素(Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)等)、5族元素(V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)等)、6族元素(Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)等)、Al(アルミニウム)及びSi(ケイ素)からなる群より選ばれる1種以上の第1元素と、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)及びB(硼素)からなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる1種以上の化合物、及びこれらの固溶体(以下、「結合材材料」とも表記する。)からなる群より選ばれる1種以上、並びに、Li(リチウム)、Ca(カルシウム)、Na(ナトリウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)及びBe(ベリリウム)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する。
【0030】
結合材は、難焼結性材料であるcBN粒子を工業レベルの圧力温度で焼結可能とする役割を果たす。更に、結合材は鉄との反応性がcBNより低い。よって、焼結体が結合材を含有すると、高硬度焼入鋼の切削に用いた場合、焼結体の化学的及び熱的摩耗が抑制される。また、焼結体が結合材を含有すると、高硬度焼入鋼の高能率加工における耐摩耗性が向上する。
【0031】
周期表の4族元素、5族元素、6族元素、Al及びSiからなる群より選ばれる第1元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる化合物の具体例について下記に説明する。
【0032】
第1元素とC(第2元素)とからなる化合物(炭化物)としては、例えば、チタン炭化物(TiC)、ジルコニウム炭化物(ZrC)、ハフニウム炭化物(HfC)、バナジウム炭化物(VC)、ニオブ炭化物(NbC)、タンタル炭化物(TaC)、クロム炭化物(Cr)、モリブデン炭化物(MoC)、タングステン炭化物(WC)、アルミニウム炭化物(Al)、ケイ素炭化物(SiC)を挙げることができる。
【0033】
第1元素とN(第2元素)とからなる化合物(窒化物)としては、例えば、チタン窒化物(TiN)、ジルコニウム窒化物(ZrN)、ハフニウム窒化物(HfN)、バナジウム窒化物(VN)、ニオブ窒化物(NbN)、タンタル窒化物(TaN)、クロム窒化物(CrN)、モリブデン窒化物(MoN)、タングステン窒化物(WN)、アルミニウム窒化物(AlN)、ケイ素窒化物(Si)、チタンジルコニウム窒化物(TiZrN)、チタンハフニウム窒化物(TiHfN)、チタンバナジウム窒化物(TiVN)、チタンニオブ窒化物(TiNbN)、チタンタンタル窒化物(TiTaN)、チタンクロム窒化物(TiCrN)、チタンモリブデン窒化物(TiMoN)、チタンタングステン窒化物(TiWN)、ジルコニウムハフニウム窒化物(ZrHfN)、ジルコニウムバナジウム窒化物(ZrVN)、ジルコニウムニオブ窒化物(ZrNbN)、ジルコニウムタンタル窒化物(ZrTaN)、ジルコニウムクロム窒化物(ZrCrN)、ジルコニウムモリブデン窒化物(ZrMoN)、ジルコニウムタングステン窒化物(ZrWN)、ハフニウムバナジウム窒化物(HfVN)、ハフニウムニオブ窒化物(HfNbN)、ハフニウムタンタル窒化物(HfTaN)、ハフニウムクロム窒化物(HfCrN)、ハフニウムモリブデン窒化物(HfMoN)、ハフニウムタングステン窒化物(HfWN)、バナジウムニオブ窒化物(VNbN)、バナジウムタンタル窒化物(VTaN)、バナジウムクロム窒化物(VCrN)、バナジウムモリブデン窒化物(VMoN)、バナジウムタングステン窒化物(VWN)、ニオブタンタル窒化物(NbTaN)、ニオブクロム窒化物(NbCrN)、ニオブモリブデン窒化物(NbMoN)、ニオブタングステン窒化物(NbWN)、タンタルクロム窒化物(TaCrN)、タンタルモリブデン窒化物(TaMoN)、タンタルタングステン窒化物(TaWN)、クロムモリブデン窒化物(CrMoN)、クロムタングステン窒化物(CrWN)、モリブデンタングステン窒化物(MoWN)を挙げることができる。
【0034】
第1元素とO(第2元素)とからなる化合物(酸化物)としては、例えば、チタン酸化物(TiO)、ジルコニウム酸化物(ZrO)、ハフニウム酸化物(HfO)、バナジウム酸化物(V)、ニオブ酸化物(Nb)、タンタル酸化物(Ta)、クロム酸化物(Cr)、モリブデン酸化物(MoO)、タングステン酸化物(WO)、アルミニウム酸化物(Al)、ケイ素酸化物(SiO)を挙げることができる。
【0035】
第1元素とB(第2元素)とからなる化合物(硼化物)としては、例えば、チタン硼化物(TiB)、ジルコニウム硼化物(ZrB)、ハフニウム硼化物(HfB)、バナジウム硼化物(VB)、ニオブ硼化物(NbB)、タンタル硼化物(TaB)、クロム硼化物(CrB、CrB)、モリブデン硼化物(MoB)、タングステン硼化物(WB)、アルミニウム硼化物(AlB12)、ケイ素硼化物(SiB)を挙げることができる。
【0036】
第1元素とC(第2元素)とN(第2元素)とからなる化合物(炭窒化物)としては、例えば、チタン炭窒化物(TiCN)、ジルコニウム炭窒化物(ZrCN)、ハフニウム炭窒化物(HfCN)、チタンジルコニウム炭窒化物(TiZrCN)、チタンニオブ炭窒化物(TiNbCN)、チタンハフニウム炭窒化物(TiHfCN)を挙げることができる。
【0037】
第1元素とO(第2元素)とN(第2元素)とからなる化合物(酸窒化物)としては、例えば、チタン酸窒化物(TiON)、ジルコニウム酸窒化物(ZrON)、ハフニウム酸窒化物(HfON)、バナジウム酸窒化物(VON)、ニオブ酸窒化物(NbON)、タンタル酸窒化物(TaON)、クロム酸窒化物(CrON)、モリブデン酸窒化物(MoON)、タングステン酸窒化物(WON)、アルミニウム酸窒化物(AlON)を挙げることができる。
【0038】
上記の化合物の固溶体とは、2種類以上のこれらの化合物が互いの結晶構造内に溶け込んでいる状態を意味し、浸入型固溶体や置換型固溶体を意味する。
【0039】
上記の化合物は、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のものに限定されるものではない。例えば「TiN」と記載されている場合、TiNを構成する原子数の比はTi:N=1:1に限られず、従来公知のあらゆる原子比(例えば、TiN及びTi)が含まれる。
【0040】
上記の化合物は、公知のあらゆる結晶構造を有することができる。上記の化合物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
結合材は、Li、Ca、Na、Sr、Ba及びBeからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を合計で0.001質量%以上0.5質量%以下含有する。結合材にこれらの金属元素を前記の量で含有させることにより、高硬度焼入鋼の高能率加工において、工具寿命が飛躍的に向上する。
【0042】
本発明者らは、従来のcBN焼結体を用いた切削工具で高硬度焼入鋼の高効率加工を行い、寿命に至った工具の刃先を詳細調査した。その結果、結合材が選択的に微小破損及び摩耗する様子が確認された。更に透過型電子顕微鏡により損傷の起点を調査した結果、結合材の一次粒子の内部を起点として亀裂が発生していることを突き止めた。結合材の一次粒子は単結晶であり、亀裂の起点は単結晶の格子欠陥であると推定される。したがって、この格子欠陥に、適切な元素を置換することができれば、結合材の耐欠損性と耐摩耗性を飛躍的に改善できるとの仮説に至った。本発明者らは、様々な添加元素を試行した結果、結合材中にLi、Ca、Na、Sr、Ba及びBeからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を所定量含有させることで、微小破壊を抑制し、大幅な工具寿命の延長を達成できることを見出した。
【0043】
結合材中の金属元素の合計含有量が0.001質量%未満であると、結合材の微小破損及び摩耗を効果的に抑制することができない。一方、結合材中の金属元素の合計含有量が0.5質量%を超えると、金属の弱点である低硬度性が顕在化し、焼結体の硬度低下を招くおそれがある。結合材中の金属元素の合計含有量は、工具寿命向上の観点から、0.002質量%以上0.1質量%以下が好ましく、0.004質量%以上0.01質量%以下が更に好ましい。
【0044】
結合材は、Li及びCaの一方又は両方を合計で0.001質量%以上0.1質量%以下含有することが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。Li及びCaの一方又は両方の合計含有量は、0.002質量%以上0.01質量%以下がより好ましく、0.004質量%以上0.01質量%以下が更に好ましい。
【0045】
結合材は、Li及びCaの一方又は両方を合計で0.001質量%以上0.1質量%以下含有し、かつ、結合材は、酸素を0.5質量%以上5.0質量%以下含有することが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。結合材中のLi及びCaの一方又は両方の合計含有量は、0.002質量%以上0.01質量%以下がより好ましく、0.004質量%以上0.01質量%以下が更に好ましい。結合材中の酸素含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下が更に好ましい。
【0046】
結合材は、Ti及びZrの一方又は両方の窒化物、前記Li及び前記Caの一方又は両方、前記酸素、並びに、炭素を含有し、かつ、結合材は、前記Li及び前記Caの一方又は両方を合計で0.001質量%以上0.01質量%以下含有し、かつ、結合材は、前記炭素を0.001質量%以上0.5質量%以下含有することが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。結合材中の前記Li及び前記Caの一方又は両方の合計含有量は、0.002質量%以上0.007質量%以下が更に好ましい。結合材中の炭素の含有量は、0.01質量%以上0.20質量%以下が更に好ましい。
【0047】
結合材に含まれる金属元素の種類及び含有量(質量%)は次のようにして特定する。まず、焼結体を密閉容器内で弗硝酸(濃硝酸(濃度60%):蒸留水:濃弗酸(濃度47%)=2:2:1の体積比混合の混合酸)に48時間浸漬する。これにより、結合材は弗硝酸にすべて溶解し、cBN粒子は溶解せずに溶液中に残る。結合材が溶解した溶液に対して、高周波誘導プラズマ発光分析法(ICP法)により、Li、Ca、Na、Sr、Ba及びBeの金属元素の定量測定を行い、結合材中の各金属元素の含有量を算出する。
【0048】
結合材中の金属元素の含有量(質量%)は、焼結体の製造工程において、結合材原料粉末に、Li、Ca、Na、Sr、Ba、Beの金属元素の粉末、又はこれらの金属元素の窒化物や硼窒化物の粉末を、焼結体における結合材中の金属元素の含有量が所望の質量%となる量で添加することにより制御することができる。
【0049】
Li源としては、リチウム金属、窒化リチウム、硼窒化リチウム、硼窒化リチウムカルシウム等の粉末を用いることができる。Ca源としては、窒化カルシウム、硼窒化カルシウム、硼窒化リチウムカルシウム等の粉末を用いることができる。Na源としては、窒化ナトリウム、硼窒化ナトリウム等の粉末を用いることができる。Sr源としては、窒化ストロンチウム、硼窒化ストロンチウム等の粉末を用いることができる。Ba源としては、窒化バリウム、硼窒化バリウム等の粉末を用いることができる。Be源としては、窒化ベリリウム、硼窒化ベリリウム等の粉末を用いることができる。なお、金属元素の添加方法は、上記の方法に限定されず、結合材中の金属元素の含有量を所望の範囲に設定できる方法であれば、いずれの方法も採用することができる。
【0050】
(炭素)
窒化物を主成分とする結合材では、炭素(C)を0.001質量%以上0.5質量%以下含有することが好ましい。炭素の含有量が0.001質量%未満であると、炭素が固溶することによる焼結体の強度向上の効果を得られないおそれがある。一方、炭素の含有量が0.5質量%を超えると、炭素が結合材材料中で完全に固溶した形態が維持できずに、遊離炭素として存在し、焼結体の強度を低下させるおそれがある。結合材中の炭素の含有量は、0.01質量%以上0.20質量%以下が更に好ましい。
【0051】
結合材中の炭素(C)の含有量(質量%)は次のようにして測定する。まず、焼結体を密閉容器内で弗硝酸(濃硝酸(濃度60%):蒸留水:濃弗酸(濃度47%)=2:2:1の体積比混合の混合酸)に48時間浸漬する。これにより、結合材は弗硝酸にすべて溶解し、cBN粒子は溶解せずに溶液中に残る。結合材が溶解した溶液に対して、赤外線吸収法により、炭素の定量測定を行い、炭素含有量を算出する。
【0052】
結合材中の炭素(C)の含有量(質量%)は、結合材原料粉末及び金属元素の粉末等を含む結合材混合粉末に、メラミン(C)やポリアミド([-NH(CHCO-])等の有機物を添加し、その後の焼結工程における熱処理温度、時間、雰囲気を制御することにより、所望の範囲に調整することができる。また、結合材混合粉末とcBN粉末とを超硬合金製のボールミルで混合する際に、ボールミルからコンタミとして混入するWC(炭化タングステン)を炭素供給源とすることもできる。
【0053】
(酸素)
本実施形態の焼結体には、焼結体の製造工程中に酸素が混入する。例えば、結合材原料粉末の粉砕及び混合工程中、cBN粉末と結合材原料粉末との混合工程中、cBN粉末と結合材原料粉末とを含む完成粉末の保管中に、これらの粉末が空気中の酸素に暴露されることにより、酸素が混入する。
【0054】
結合材中の酸素(O)の含有量は、0.1質量%以上10.0質量%以下である。結合材中の酸素の含有量を0.1質量%未満にするには、製造コストが高くなりすぎるおそれがある。一方、結合材中の酸素の含有量が10.0質量%を超えると、実質的に酸化物の特性、すなわち脆さが顕在化し、焼結体の耐欠損性が低下するおそれがある。結合材中の酸素の含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下が更に好ましい。
【0055】
結合材中の酸素(O)の含有量(質量%)は次のようにして測定する。まず、焼結体を密閉容器内で弗硝酸(濃硝酸(濃度60%):蒸留水:濃弗酸(濃度47%)=2:2:1の体積比混合の混合酸)に48時間浸漬する。これにより、結合材は弗硝酸にすべて溶解し、cBN粒子は溶解せずに溶液中に残る。結合材が溶解した溶液に対して、赤外線吸収法により、酸素の定量測定を行い、酸素含有量を算出する。
【0056】
結合材中の酸素(O)の含有量(質量%)は、焼結体の製造工程における製造条件の制御や、cBN粉末と結合材原料粉末とを含む完成粉末中の酸素量の制御等によって行うことができる。焼結体の均一性や構成粒子の微細化の観点から、完成粉末に還元処理を行うことにより、酸素量を制御することが好ましい。
【0057】
還元処理は、例えば、完成粉末を、低酸素分圧である窒素雰囲気下で加熱して行う。加熱温度は1500~2000℃が好ましく、1800~2000℃が更に好ましい。1800℃以上に加熱することにより、効率よく還元処理を行なうことができる。また、加熱温度を2000℃以下にすることで、完成粉末中の粒子が溶融して粗大化することを防ぐことができる。よって、加熱後の完成粉末の平均粒径が、加熱前より増大することを防ぐことができる。
【0058】
加熱時間は、完成粉末の酸素含有量が10.0質量%以下となるまで継続すれば特に制限はなく、例えば、1~12時間とすることができる。還元処理時の酸素分圧は、1×10-29atm以下の低酸素分圧とすることが好ましい。このような低酸素分圧下で加熱することにより、酸素の含有量が10.0質量%以下となるような還元処理を、効率よく進めることができる。その他、水素雰囲気やアンモニア雰囲気下での還元熱処理も有効である。
【0059】
[焼結体の製造方法]
本実施形態の焼結体は、例えば下記の方法で製造することができる。
【0060】
結合材原料粉末である、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al及びSiからなる群より選ばれる1種以上の第1元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる1種以上の第2元素とからなる1種以上の化合物、又はこれらの固溶体の粉末を準備する。
【0061】
上記の結合材原料粉末に、Li、Ca、Na、Sr、Ba及びBeからなる群より選ばれる1種以上の金属元素、又はこれらの金属元素の窒化物や硼窒化物からなる金属元素含有粉末を、結合材中の金属元素の含有量が合計で0.001質量%以上0.5質量%以下となるような量で添加し、ボールミルで混合し、結合材混合粉末を得る。この際、炭素源となるメラミンやポリアミド等の有機物を添加して、混合してもよい。
【0062】
結合材混合粉末中の酸素の含有量が10質量%を超える場合は、結合材混合粉末を低酸素分圧である窒素雰囲気下で加熱し、還元処理を行う。例えば、還元処理時の酸素分圧1×10-29atm以下、還元温度1800℃、還元時間2時間とすることで、結合材混合粉末中の酸素の含有量を10質量%以下に低減することができる。同じ条件で、還元時間が5時間の場合、酸素の含有量を5質量%以下に低減することができ、還元時間が10時間の場合、酸素の含有量を1~3質量%に低減することができる。
【0063】
次に、結合材混合粉末とcBN粉末とを、所望の体積比で準備して、ボールミルやビーズミルを用いて混合して完成粉末を得る。cBN粒子の極表面は、焼結後に副生成物となる。このため、焼結体中のcBN粒子の含有率(体積%)は、完成粉末中のcBN粉末の含有率(体積%)よりも0~2%程度低下する。よって、完成粉末中のcBN粉末の仕込み含有率は、焼結によるcBNの減少量を考慮して決定する。
【0064】
上記の完成粉末に対し、上記の結合材混合粉末に対する還元処理と同様の処理を行うことにより、結合材中の酸素量を低減し、狙いの酸素量に調整することも可能である。
【0065】
次に、完成粉末をMo製カプセルに充填し、超高圧装置によって、圧力5.0~8.0GPa、温度1400℃まで加圧昇温し、この圧力及び温度で1~30分間維持して焼結させることにより、焼結体を得る。
【0066】
[切削工具]
本実施形態の切削工具は、上記焼結体を含む切削工具である。本実施形態の切削工具は、工具の全体が上記焼結体からなるものに限らず、工具の一部(特に刃先部位(切れ刃部)等)のみが上記焼結体からなるものも含む。例えば、超硬合金等からなる基体(支持体)の刃先部位のみが上記焼結体で構成されるものも、本実施形態に係る切削工具に含まれる。この場合は、文言上、その刃先部位を切削工具とみなすものとする。換言すれば、上記焼結体が切削工具の一部のみを占める場合であっても、切削工具と呼ぶものとする。
【0067】
本実施形態に係る切削工具の形状及び用途は特に制限されない。例えばドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、クランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等を挙げることができる。
【実施例
【0068】
本実施形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施形態が限定されるものではない。
【0069】
<試料1-1>
超硬合金製のポット及びボールを用いてTiN0.5とAlを88:12の質量比で混合した粉末を、真空中で1200℃、30分間熱処理した後、粉砕し、結合材原料粉末A(表1において、結合材原料粉末の項目に「TiN0.5:Al」と表記する。以下、「TiN0.5:Al」とも表記する。)を得た。同様に、ZrN0.5とAlを88:12の質量比で混合した粉末を、真空中で1200℃、30分間熱処理をした化合物を粉砕し、結合材原料粉末B(表1において、結合材原料粉末の項目に「ZrN0.5:Al」と表記する。以下、「ZrN0.5:Al」とも表記する。)を得た。
【0070】
結合材原料粉末A(TiN0.5:Al)と結合材原料粉末B(ZrN0.5:Al)を質量比1:1で混合して、結合材原料の混合粉末を得た。この結合材原料の混合粉末に、窒化リチウム粉末(表1において、金属元素含有粉末の項目に「LiN」と表記する。)を添加した後、再度混合して結合材混合粉末を得た。窒化リチウム粉末の添加量は、結合材混合粉末中の窒化リチウム粉末の量が0.005質量%となる量を添加した。
【0071】
次に平均粒径3μmのcBN粉末と上記の結合材混合粉末とを、体積比で55:45の配合比で混合し、完成粉末を得た。この完成粉末をMo製カプセルに充填後、超高圧装置によって、圧力7GPa、温度1400℃まで加圧昇温し、この圧力及び温度で15分間維持して、焼結体を得た。
【0072】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、試料1-1では、結合材中の主要な材料は、チタン窒化物、及び、ジルコニウム窒化物であった。
【0073】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-1では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン硼化物、ジルコニウム硼化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0074】
<試料1-2~試料1-6>
基本的に、試料1-1と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-1と異なる点は、混合粉末に添加する窒化リチウム粉末を、試料1-2では窒化カルシウム粉末(表1において、金属元素含有粉末の項目に「Ca」と表記する。)、試料1-3では窒化ナトリウム粉末(表1において、金属元素含有粉末の項目に「NaN」と表記する。)、試料1-4では窒化ストロンチウム粉末(表1において、金属元素含有粉末の項目に「Sr」と表記する。)、試料1-5では窒化バリウム粉末(表1において、金属元素含有粉末の項目に「Ba」と表記する。)、試料1-6では窒化ベリリウム粉末(表1において、金属元素含有粉末の項目に「Be」と表記する。)にそれぞれ置き換えたことである。更に、試料1-2では、結合材中の炭素含有量が0.100質量%となるように、結合材原料の混合粉末にメラミン(C)を添加した。
【0075】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、試料1-2~試料1-6では、結合材中の主要な材料は、チタン窒化物、及び、ジルコニウム窒化物であった。
【0076】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-2~試料1-6では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム硼化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0077】
<試料1-7~試料1-12>
基本的に、試料1-1と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-1と異なる点は、結合材原料粉末として、以下に説明する結合材原料粉末A~Fを用いた点である。これらの結合材原料粉末と、金属元素含有粉末(窒化リチウム粉末)を用いて完成粉末を作製し、この完成粉末を焼結して焼結体を得た。
【0078】
試料1-7では結合材原料粉末A(TiN0.5:Al)のみを用いた。試料1-8では結合材原料粉末B(ZrN0.5:Al)のみを用いた。
【0079】
試料1-9では、TiNとZrNとを混合した後に、アルゴン雰囲気中で2000℃、30分間熱処理することで、チタンジルコニウム窒化物(TiZrN)を作製した。結合材原料粉末A(TiN0.5:Al)とチタンジルコニウム窒化物(表1において、結合材原料粉末の項目に「TiZrN」と表記する。)とを質量比1:2で混合して、結合材原料粉末C(以下、「TiN0.5:Al、TiZrN」とも表記する。)を得た。
【0080】
試料1-10では、ZrOと炭素(カーボン)とを混合した後に、窒素雰囲気中で1800℃、30分間熱処理して、還元炭窒化することで、ジルコニウム炭窒化物(ZrCN)を作製した。結合材原料粉末A(TiN0.5:Al)とジルコニウム炭窒化物(表1において、結合材原料粉末の項目に「ZrCN」と表記する。)とを質量比1:2で混合して、結合材原料粉末D(以下、「TiN0.5:Al、ZrCN」とも表記する。)を得た。
【0081】
試料1-11では、市販のチタン炭窒化物(表1において、結合材原料粉末の項目に「TiCN」と表記する。)原料と結合材原料粉末D(「TiN0.5:Al、ZrCN」)とを質量比1:1で混合して、結合材原料粉末E(以下、「TiN0.5:Al、ZrCN、TiCN」とも表記する。)を得た。
【0082】
試料1-12では、TiOとZrOと炭素(カーボン)とを混合した後に、窒素雰囲気中で2200℃、30分間熱処理して、還元炭窒化することで、チタンジルコニウム炭窒化物(TiZrCN)を作製した。結合材原料粉末A(TiN0.5:Al)とチタンジルコニウム炭窒化物(表1において、結合材原料粉末の項目に「TiZrCN」と示す。)とを質量比1:2で混合して、結合材原料粉末F(以下、「TiN0.5:Al、TiZrCN」とも表記する。)を得た。
【0083】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、結合材中の主要な材料は、試料1-7ではチタン窒化物、試料1-8ではジルコニウム窒化物、試料1-9ではチタンジルコニウム窒化物、試料1-10ではジルコニウム炭窒化物、試料1-11ではチタン炭窒化物及びジルコニウム炭窒化物、試料1-12ではチタンジルコニウム炭窒化物であった。
【0084】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-7~試料1-12では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0085】
<試料1-13~試料1-18>
基本的に、試料1-1と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-1と異なる点は、結合材原料粉末として、試料1-13は結合材原料粉末A(TiN0.5:Al)のみ、試料1-14は結合材原料粉末B(ZrN0.5:Al)のみ、試料1-15は結合材原料粉末C(TiN0.5:Al、TiZrN)のみ、試料1-16は結合材原料粉末D(TiN0.5:Al、ZrCN)のみ、試料1-17は結合材原料粉末E(TiN0.5:Al、ZrCN、TiCN)のみ、試料1-18は結合材原料粉末F(TiN0.5:Al、TiZrCN)のみを用いたこと、及び、混合粉末に添加する窒化リチウム(LiN)粉末を、窒化カルシウム(Ca)粉末に置き換えたことである。更に、試料1-13~1-15では、結合材中の炭素含有量が0.100質量%となるように、結合材原料の混合粉末にメラミン(C)を添加した。
【0086】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、結合材中の主要な材料は、試料1-13ではチタン窒化物、試料1-14ではジルコニウム窒化物、試料1-15ではチタンジルコニウム窒化物、試料1-16ではジルコニウム炭窒化物、試料1-17ではチタン炭窒化物及びジルコニウム炭窒化物、試料1-18ではチタンジルコニウム炭窒化物であった。
【0087】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-13~試料1-18では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0088】
<試料1-19~試料1-21>
基本的に、試料1-1と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-1と異なる点は、結合材原料の混合粉末に添加する窒化リチウム(LiN)粉末の量を、結合材中のリチウム(Li)の量が表1に示される量となるように変更したこと、結合材中の炭素含有量が表1に示される量となるように、結合材原料の混合粉末にメラミン(C)を添加したことである。
【0089】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、試料1-19~試料1-21は、結合材中の主要な材料は、チタン窒化物及びジルコニウム窒化物であった。
【0090】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-19~試料1-21では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0091】
<試料1-22~試料1-24>
基本的に、試料1-2と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-2と異なる点は、結合材原料の混合粉末に添加する窒化カルシウム(Ca)粉末の量を、結合材中のカルシウム(Ca)の量が表1に示される量となるように変更したこと、結合材中の炭素含有量が表1に示される量となるように、結合材原料の混合粉末にメラミン(C)を添加したことである。
【0092】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、試料1-22~試料1-24は、結合材中の主要な材料は、チタン窒化物及びジルコニウム窒化物であった。
【0093】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-22~試料1-24では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0094】
<試料1-25>
基本的に、試料1-2と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-2と異なる点は、cBN粉末と結合材混合粉末との混合比を、体積比で3:97に変更したこと、結合材中の炭素含有量が表1に示される量となるように、結合材原料の混合粉末にメラミン(C)を添加したことである。
【0095】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、試料1-25は、結合材中の主要な材料は、チタン窒化物及びジルコニウム窒化物であった。
【0096】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-25では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0097】
<試料1-26>
基本的に、試料1-1と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-1と異なる点は、cBN粉末と結合材混合粉末との混合比を、体積比で80:20に変更したこと、結合材中の炭素含有量が表1に示される量となるように、結合材原料の混合粉末にメラミン(C)を添加したことである。
【0098】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、試料1-26は、結合材中の主要な材料は、チタン窒化物及びジルコニウム窒化物であった。
【0099】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-26では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0100】
<試料1-27>
基本的に、試料1-1と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-1と異なる点は、窒化リチウム粉末等の金属元素の粉末を添加しないこと、結合材中の炭素含有量が表1に示される量となるように、結合材原料の混合粉末にメラミン(C)を添加したことである。
【0101】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、試料1-27は、結合材中の主要な材料は、チタン窒化物及びジルコニウム窒化物であった。
【0102】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-27では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0103】
<試料1-28>
基本的に、試料1-1と同様の方法で焼結体を作製した。試料1-1と異なる点は、結合材原料の混合粉末に添加する窒化リチウム粉末の量を、結合材中のリチウム(Li)の量が表1に示される量となるように変更したこと、結合材中の炭素含有量が表1に示される量となるように、結合材原料の混合粉末にメラミン(C)を添加したことである。
【0104】
得られた焼結体に含まれる結合材中の主要な材料を表1に示す。表1に示されるように、試料1-28は、結合材中の主要な材料は、チタン窒化物及びジルコニウム窒化物であった。
【0105】
焼結により、cBN粉末と結合材混合粉末は反応して、副生成物が生成される。副生成物は結合材中に含まれる。試料1-28では、副生成物は、例えば、アルミニウム窒化物、アルミニウム硼化物、アルミニウム酸化物、チタン窒化物、チタン硼化物、チタン酸化物、ジルコニウム窒化物、ジルコニウム酸化物であった。これらの副生成物は、XRDで同定できる。
【0106】
<焼結体中の立方晶窒化硼素粒子含有量の測定>
試料1-1~試料1-28の各焼結体の任意の位置をアルゴンイオンビーム装置を用いて切断し、断面を含む試料を作製した。次に、cBN焼結体の断面をSEMにて2000倍で観察して、反射電子像を得た。
【0107】
次に、得られた反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事(株)の「WinROOF」)を用いて2値化処理を行い、2値化処理後の画像からcBN粒子が存在する黒色領域の面積比率を算出することにより、cBN粒子の含有量(体積%)を求めた。各試料の焼結体中のcBN粒子の含有率は、表1に示される完成粉末中のcBN含有率とほぼ同一(焼結体中のcBN粒子の含有率は、完成粉末中のcBN粉末の含有率よりも、0~2%程度低下していた。)になっていることを確認した。
【0108】
<結合材中の炭素含有量の測定>
試料1-1~試料1-28の各焼結体を密閉容器内で弗硝酸(濃硝酸(濃度60%):蒸留水:濃弗酸(濃度47%)=2:2:1の体積比混合の混合酸)に48時間浸した。48時間後に観察したところ、結合材は弗硝酸にすべて溶解し、cBN粒子は溶解せずに残っていた。結合材が弗硝酸に溶解している溶液に対して、炭素を赤外線吸収法により定量測定し、結合材中の炭素含有量を算出した。各試料の炭素含有量は、表1に示される結合材中の炭素含有量と同一になっていることを確認した。なお、表1中「-」で表記された箇所は、焼結体の作製時に炭素源を添加しないことを意味している。したがって、このような試料では、本測定において炭素含有量が検出限界以下であった。
【0109】
<結合材中の金属元素の含有量の測定>
上記の炭素含有量の測定方法において得られた結合材が溶解した弗硝酸溶液に対して、Li、Ca、Na、Sr、Ba及びBeの各金属元素を高周波誘導プラズマ発光分析法(ICP法)により定量測定し、結合材中の各金属元素の含有量を算出した。各試料の各金属元素の含有量は、表1に示される結合材中の金属元素の含有量と同一になっていることを確認した。なお、表1中「-」で表記された箇所は、焼結体の作製時に金属元素源を添加しないことを意味している。したがって、このような試料では、本測定において金属元素の含有量が検出限界以下であった。
【0110】
<結合材中の酸素含有量の測定>
上記の炭素含有量の測定方法において得られた結合材が溶解した弗硝酸溶液に対して、酸素を赤外線吸収法により定量測定し、結合材中の酸素含有量を算出した。各試料の酸素含有量を、表1に示す。
【0111】
<切削試験>
試料1-1~試料1-28の各焼結体を超硬合金製の基材にロウ付けし、所定の形状(ISO型番:CNGA120408)に成型することにより切削工具を作製した。この切削工具を用いて、下記の条件にて0.1km切削した。
【0112】
被削材:浸炭焼入鋼 SCM415H、硬度 HRC60、φ100×300L、丸棒
切削条件:切削速度Vc=250m/min.、送りf=0.1mm/rev.、切込みd=0.1mm、DRY
0.1km切削後に、刃先の逃げ面側を光学顕微鏡で観察し、逃げ面摩耗幅を測定した。逃げ面摩耗幅が0.1mmを超えるまで、0.1km切削、及び、逃げ面摩耗幅の測定のサイクルを繰り返し、逃げ面摩耗幅が0.1mmを超えた時点での切削距離を工具寿命と判定した。
【0113】
【表1】
【0114】
試料1-1~試料1-26は、実施例に該当し、試料1-27及び試料1-28は比較例に該当する。試料1-1~試料1-26の工具は、試料1-27、1-28に比べて、高硬度焼入鋼の高能率加工において、工具寿命が長いことが分かった。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。