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特許7219251多量のラウリン酸を含む中鎖脂肪酸トリグリセリドの調製及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】多量のラウリン酸を含む中鎖脂肪酸トリグリセリドの調製及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C11C 3/00 20060101AFI20230131BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230131BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20230131BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20230131BHJP
【FI】
C11C3/00
A23D9/00
A61K8/37
A61Q1/00
A23L5/00 L
【請求項の数】 3
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020164589
(22)【出願日】2020-09-30
(62)【分割の表示】P 2018238583の分割
【原出願日】2014-07-25
(65)【公開番号】P2021011576
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】1-2014-000195
(32)【優先日】2014-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PH
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516367110
【氏名又は名称】ラオ,ディーン,エー.ジュニア
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】ラオ,ディーン,エー.ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】サルバドール,ソニア,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】アポストル,グレン,シー.
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-008165(JP,A)
【文献】特開平02-231037(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0311367(US,A1)
【文献】ココナード(COCONARD) カタログ,花王の中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT),日本,花王株式会社 ケミカル事業ユニット,2000年07月01日,p.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
A23D 7/00- 9/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
45%のC8(カプリル酸)、35%のC10(カプリン酸)、及び20%のC12(ラウリン酸)を含む、中鎖脂肪酸トリグリセリド組成物。
【請求項2】
45%のC8(カプリル酸)、31%のC10(カプリン酸)、及び20%のC12(ラウリン酸)を含む、中鎖脂肪酸トリグリセリド組成物。
【請求項3】
35%のC8(カプリル酸)、35%のC10(カプリン酸)、及び30%のC12(ラウリン酸)を含む、中鎖脂肪酸トリグリセリド組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油及び脂肪の分野に関し、具体的には、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT:medium-chain triglyceride)の組成物及びその生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、グリセロールと炭素鎖長8~12の3つの脂肪酸とから得られるエステルである。主要な脂肪酸成分は、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、及びラウリン酸(C12)である。
【0003】
MCTは極めて有益である。商業的には、MCTは食品添加物における化学中間生成物として食品の調製に利用される。また、MCTは、焼いた食品、飲料、チューインガム、菓子類及び砂糖衣、乳製品の類似食品、油及び脂肪、冷凍乳製品デザート、フルーツ加工食品、スナック食品、大人用の栄養食品、チーズスプレッド及びソフトキャンディーの製造にも用いられる。機能的には、MCTはとりわけ、乳化剤、エネルギ源、配合補助剤(formulation aid)、潤滑剤、離型剤、栄養補助食品、加工助剤、溶剤、賦形剤、安定剤、増粘剤、表面処理剤、化粧品用のテクスチャライザ(texturizer)及び軟化剤(US FDA2014)として作用する。健康上、食品としてのMCTの利点には、腸管損傷の軽減、肝毒性からの保護、抗炎症、コレステロール血症及び高血糖症の軽減(Martens等、2006年)が含まれる。
【0004】
MCTの利点が認識されるにつれて、いくつかの追加の用途が発見されている。特許EP0923317号は、特に、過酷な運動中に体液、炭水化物、脂質、アミノ酸、及び無機イオンを置換するようにデザインされたエネルギドリンク又はスポーツドリンク内のMCTについて記載した。炭水化物、L-カルニチン、無機イオン、及びアミノ酸、及び少量のフルーツジュース濃縮物と人工香料に加えて、MCTは、オレイン酸、カプリン酸、もしくはカプリル酸によって、又はカプリン酸、カプリル酸、もしくは飽和ラウリン酸の任意の組み合わせによってエステル化されたグリセロールから成る大量の脂質を含む。別の用途は、優れた消化性、高いエネルギ利用率、及びその他の利点を含むMCTの健康上の利点を最適化するMCTの安定した一体化を可能とする。特許US20100119684A1号は、食品組成物の2~10%を構成するMCTを組み込んだ食品組成物について記載している。MCT成分の含有によって、より多量のMCTを食品組成物内に安定してうまく取り入れることができる。更に、特許US7470445B2号は、MCTで強化された(enriched)トリグリセリドから主に構成される油又は脂肪の組成物について記載した。この油又は脂肪の組成物は、体脂肪蓄積が少なく、従来の食用油と等しい調理特性を有し、香りが良く、更に安全性も高い(Traul等、2000年)。
【0005】
新たに出現しているMCTの用途は、神経変性疾患の治療の可能性である。特許US6835750B1号は、アルツハイマー病やその他のニューロン代謝低下から生じる病気の治療及び防止のためのMCTの使用を開示した。この特許は、MCTによって治療すると認知能力が改善することを実証している。最近、有効量のココナッツオイル及び有効量のMCTを含む組成物を用いたMCT調製物(preparation)が、脳の機能を改善及び維持することが開示された(US20130017278A1号)。
【0006】
MCTは、化粧品においても盛んに研究されている。特許US8586060B2号は、ワセリン(Vaseline)の野菜代替品として化粧品用又は薬剤用の調製物を提案している。MCTのトリグリセリドを用いると、元の油とは異なる物理特性が得られる。これは、粘度が低いので皮膚軟化剤として用いた場合に素早く広がる媒体となり、皮膚上でべたつきがなく油っこくない。トリグリセリド、特にMCTは、化粧品での利用において、化粧品成分審査委員会(CIR:Cosmetic Ingredient Review)専門家パネル(2003年)によって結論付けられたような用途及び濃度の実施に関して安全である。一般にMCT油は、US C.F.R.のTitle21、Part170のもとで、GRAS(Generally Regarded As Safe:一般に安全と認められる)と見なされ、米国食品医薬品局によって認証されている。
【0007】
本発明において特別なことは、組成物に含まれるようなC12(ラウリン酸)の強化された存在である。他のMCTと比べると、ラウリン酸は特別な用途を有する。これによって得られる本発明のMCTは、多量のラウリン酸によって強化された組成物を含み、食品調製における補助食品、サラダ油、フライ油及び調理油として、並びに化粧品、薬用化粧品及び薬剤用の目的に有用である。このMCTは、食品調製において適切な配合物に調製すること、及び組成成分として調製することも可能である。このMCTは、限定ではないが、溶剤、乳化剤、エネルギ源、配合補助剤、食品グレード潤滑剤、離型剤、栄養補助食品、加工助剤、溶剤、賦形剤、安定剤、増粘剤、表面処理剤、化粧品用のテクスチャライザ及び軟化剤として作用することができる。
【0008】
多量のラウリン酸を有する場合、MCT組成物は、毎日スプーン約1~2杯を経口摂取する補助食品として機能することができる。これは無味であり、迅速かつ手軽なエネルギ源であり、鋭敏さを高める脳の代替燃料であり、ラウリン酸は抗菌特性を有することが証明されているので、天然の抗菌剤となる。
【0009】
更に、大量のラウリン酸は、抗菌性、抗ウィルス性、及び抗真菌性の生物活性としてC8及びC10の酸との相乗作用を与え、天然の自己保存料(self-preservative)として用いることができる。従ってこれは、化粧品及び洗面用品、薬用化粧品及び製薬産業において特別な用途がある(Marten等、2006年)。
【0010】
多量のラウリン酸を有するMCTの用途の別の例として、ホットコーヒー及びその他の液体調製物用のレディーミックス油濃縮物の調製がある。多量のラウリン酸を有するレディーミックスMCT油は、オレイン酸の蒸留モノグリセリドとポリエトキシレート化ソルビタンエステルの乳化剤混合物を約20%加えることによって調製される。これは、ホットコーヒー又は同様の液体調製物に加えられると、MCTが浮かぶことなく安定した混合物を生成する。
【0011】
更に、本発明は、堅さ等のいくつかの利点を与えるMCTの生成を含む。これらの利点によってMCTは、記載される用途及び美容業向けの増粘剤及びゲル化剤として有用となり、保存期間が長くなり、腐敗臭に対する回復性(resilience)が高まり、更に風味が良くなる。
【0012】
また、組成物においてラウリン酸に言及される場合、通常、ミリスチン酸のような非MCFAを大量に含むことが述べられる(GB879211号、JP2009142185号)。これは、一般にMCTの利点を失わせる可能性があり、特に食品調製及び生物活性の用途における有用性を失わせる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
1. EP0923317. Gordeladze JO. Energy drink. Jun 23 1999
2. EP2636307. Lobee HWJ, Kruidenberg MB. Antimicrobial composition containing free fatty acids and method for its production. Sep 11 2013
3. GB879211. Crawford RV, Southern CW. Improvements in or relating to glyceride esters. Oct 4 1961
4. JP2009142185. Onishi K, Shono Y, Suzuki K, Toda T, Haruna H. Oil And fat composition for cream, and cream containing the same. Jul 2 2009
5. US2006817558. Beetham P; Beetham pPR; Gocal G; Gocal GFV; Gocal GFW; Knuth M; Knuth ME; Walker K; Walker KA. Fatty acid mixtures and use thereof. May 27 2013
6. US20100119684A1. Santana RD et al. Food compositions incorporating medium chain triglycerides. May 13 2010
7. US20130017278A1. Keller A. Composition and method for improving brain function. Jan 17 2013
8. US2238442. DREW ERNEST F.Mixed capric-caprylic esters and method of making same. Apr 15 1941
9. US6835750B1. Henderson ST. Use of medium chain triglycerides for the treatment and prevention of alzheimer's disease and other diseases resulting from reduced neuronal metabolism II. Dec 28 2004
10. US7470445B2. Takeuchi H. Oil or fat composition. Dec 30 2008
11. US8586060B2. Brinkmann B. Cosmetic or pharmaceutical preparation. Nov 19 2013
【非特許文献】
【0014】
1. Cosmetic Ingredient Review (CIR) Expert Panel. Annual review of cosmetic ingredient safety assessments - 2001/2002. International Journal of Toxicology 22(Suppl 1):1-35 2003
2. Lindqvist B, Sjogren I, Nordin R. Preparative fractionation of triglyceride mixtures according to acyl carbon number, using hydroxyalkoxypropyl Sephadex. J Lipid Res. 1974 Jan; 15(1):65-73.
3. Marten B, Pfeuffer M, Schrezenmeir J. Medium-chain triglycerides. International Dairy Journal 16 (2006) 1374-1382.
4. Traul KA, Driedger A, Ingle DL, Nakhasi D. Review of the toxicologic properties of medium-chain triglycerides. Food Chem Toxicol. 2000 Jan;38(1):79-98.
5. US FDA. http://www.accessdata.fda.gov/scripts/fdcc/?set=GRASNotices&id=449. July 7, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、生成物に加えて、多量のラウリン酸を含有するMCTを生成及び製造するいっそう効率的な方法を提供する。当技術分野で典型的に既知であるように、市販のMCTのほとんどは、グリセロール及びC8~C12の脂肪酸をエステル化することによって得られる(US2238442号、WO2013126990A1号)。これは、140℃~260℃の範囲の温度において酸触媒の存在下で、又はより低い40℃~90℃の温度でリパーゼ等の酵素を用いて行われる。
【0016】
従来のMCTは、50%~70%のC8と、30%~50%のC10と、更に2%未満のC12と、3%未満のC6(カプロン酸)とを含む。本発明の目的は、ココナッツオイル及び/又はパーム核オイル由来の脂肪酸メチルエステルのエステル化によって、C8(カプリル)、C10(カプリン)、及び多量のC12(ラウリン)酸を含むMCTの製造プロセスを確立することである。この場合、好適な供給原料は、より安定した非腐食性の脂肪酸メチルエステルであるので、必要な製造機器及びパラメータの保守及び動作が容易となる。欠点として、脂肪酸メチルエステルによってMCT油を生成するこのプロセスでは、有毒であることが知られているメタノールが副生成物として発生する。このため、本発明は、生成物中のメタノールを確実に除去する効果的な蒸留及び脱臭プロセスを提案する。
【0017】
従来技術とは対照的に、脂肪酸メチルエステルを用いて前述のプロセスから得られるMCT油は、グリセロールでエステル化された多量のC12を含む。従来のMCTプロセスは、2%のラウリン酸を有する脂肪酸を用いて調製される。更に、この新しいMCT油は、C8、C10、及びC12を多く含み、C12は2~70%であり、更にC6及びC14を少量含む。従来のプロセスによるMCT油もC8、C10、及びC12を有するが、C12の量はより少ない。
【0018】
前述のことから、本発明の精神又は本質的な特徴から逸脱することなく、本発明を他の特定の形態でも具現化できることは当業者には明らかであろう。本発明に与えられる法律的な保護範囲は特許請求の範囲に示したので、記載される実施形態は、限定でなく例示としてのみ検討されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、グリセロールと脂肪酸メチルエステル及び/又はココナッツオイル及び/又はパーム核オイル由来の脂肪酸とのエステル化により得られる中鎖脂肪酸トリグリセリドの商業生産のための合成に関する。この脂肪酸メチルエステル又は脂肪酸は、エステル交換又は分解プロセスによって製造される。これによって得られた脂肪酸メチルエステルを更に分留してC8~C12留分を得て、これらを用いて最終的な中鎖脂肪酸トリグリセリドを生成する。C8~C12留分は、C8含有率が13~45%、C10が8~35%、C12が2~70%である。C8~C12留分は、C6(カプロン酸)を2%未満、及びC14(ミリスチ酸ン)を8%未満含む。
【0020】
このような組成によって、多量のラウリン酸を含有する生成されたMCTの使用は、補助食品、食品調製物、サラダ油、フライ油及び調理油として、並びに化粧品、薬用化粧品及び薬剤用の目的に有用となる。好ましくは、これは様々な食品調製物における組成成分、健康補助食品、及び機能性油として極めて有用であり得る。
【0021】
生成プロセスがメタノールを生じさせるので、そのような汚染物質を除去する方法も提示して、安全な食用MCT油を発生する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】C8~C12メチルエステル留分の分留プロセスを示す。高温、真空圧、及び調節流量で動作する分留カラムに、ココメチルエステル(CME:Coco methyl ester)が連続的に供給される。
図2】グリセロールとC8~C12メチルエステル留分の反応によってMCTを調製する全体的なプロセスを示す。粗(crude)MCTは、一連の精製プロセス、具体的には漂白及び脱臭プロセスを経て、食用となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、多量のラウリン酸を含有する全く新しいMCT組成物を提供する。また、本発明は、MCTを生成するための、触媒条件下における脂肪酸メチルエステル及びグリセロールの直接エステル化の代替的なプロセスも提供する。連続的もしくは半連続的なプロセスを用いて、又はバッチ処理によって、分縮器を用いて約200℃~220℃でグリセロールをC8~C12メチルエステル留分及び精製グリセリンと反応させ、反応の経過中及び全縮器でメチルエステルを還流させ、メタノールのような反応副生成物を連続的に除去する(図2)。
【0024】
C8~C12メチルエステル留分は、ホールカットココナッツメチルエステルの分留から得られ、当業者に知られる「分留カラム」と一般に称される蒸留ユニットによって達成される。分留カラムは、塔の上部では95℃~100℃の温度で55~65ミリバール圧力に、塔の下部では170℃~180℃の温度に維持した。短い鎖長は、まとめてC8からC12(C8~C12)メチルエステルカット(cut)と称する。下部のカットは、粗形態のC12~C18メチルエステルの留分であり、油脂化学及び界面活性剤のような他の用途のため更に蒸留又は分留することができる。C8~C12メチルエステルカットは、ココナッツメチルエステルの全供給量の約16%~18%、及び粗C12~C18のメチルエステルカットの84%~88%に対応する。C8~C12留分は、C8(カプリル酸)13~45%、C10(カプリン酸)8%~35%、及びC12(ラウリン酸)2~70%から成る。C8~C12アルキル基は、2%以下のC6(カプロン酸)、及び8%以下のC14(ミリスチン酸)を含み得る。好ましくは、C8~C12留分は、1%以下のC6、35~45%のC8、25~31%のC10、20~30%のC12、及び0~4%のC14から成る。この組成は最終的なMCT油の調製のために理想的である。あるいは、様々な溶剤の使用のような他の手段によって、異なる脂肪酸又はそれらのエステルの分留を達成することも可能である(Lindqvist等、1974年)。
【0025】
C8~12留分は、供給原料としてココナッツ脂肪酸を用いて、又はパーム核脂肪酸又はそのメチルエステル誘導体を用いて、同様の分留カラムで調製することも可能である。得られるC8~C12留分のカットはこの場合も、好ましくは、1%以下のC6、35~45%のC8、25~31%のC10、20~30%のC12、及び0~4%のC14から構成される。
【0026】
次いで、C8~C12メチルエステル留分をグリセロールと反応させ、続いてそれを精製することによって、MCTオイルを調製する(図2)。グリセロール対C8~C12メチルエステル留分のモル比は、グリセロール1モル対C8~C12メチルエステル3~4モルであり、好ましくはグリセロール1モル対C8~C12メチルエステル3.3~3.9モルである。本発明に従って、反応は触媒の存在下で実行される。反応は140℃~260℃、より好ましくは180℃~220℃、最も好ましくは200℃~220℃内で、60~80ミリバールの真空下で、調節された窒素ブローを用いて、トリグリセリドへの変換が95%以上に達するまで行われる。あるいは、そのようなプロセスは大気条件下で達成することも可能である。グリセロール及びメチルエステルの凝縮の結果として生じるメタノールは、連続的に反応混合物から凝縮されて除去され、余分なメチルエステルは、トリグリセリド形成への反応を促進するために還流させる。当業者には、変換の高速化及びエステル化プロセスの反応時間の短縮を可能とする温度、触媒、及び使用する真空の正しいバランスが分かるであろう。余分なC8~12メチルエステルを収集し、エステル化段階中に再使用することができる。5mgKOH/gm以下のレベルが達成されるまで、ヒドロキシル価(OHV)を連続的に監視する。好ましくは、OHVは1~3が望ましい。
【0027】
本発明の触媒は、無機酸触媒(均一系及び不均一系)、アルカリ系触媒、及び金属酸化物触媒から選択された。均一系無機酸触媒の例は、限定ではないが、H3PO4、H2SO4、スルホン酸、並びにメタンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸のような誘導体を含む。アルカリ系触媒の例は、限定ではないが、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート又はカリウムメチラートを含む。不均一系の酸ベース触媒の例は、限定ではないが、ブチルスタンノン酸のようなチタン酸塩を含む。金属酸化物又は混合金属酸化物触媒の例は、限定ではないが、酸化亜鉛、酸化第一スズ、酸化クロム、及び酸化ジルコニウムを含む。
【0028】
新しいMCT油の調製において、好適な触媒は以下のうち1つとすることができる。すなわち、メタンスルホン酸70%、ナトリウムメチラート30%、及び混合物全体の0.30%~0.50%w/wの適用量のブチルスタンノン酸のチタン酸塩である。
【0029】
グリセロールとC8~C12メチルエステル留分のエステル化の本発明は、食用MCT油を生成するために精製プラントに組み込まれる。グリセロールとC8~C12メチルエステルの直接エステル化から得られた粗MCTは、余分なモル比からの未反応のC8~C12メチルエステル、メタノールのような微量のアルコール、C8~C12メチルエステルとの不完全な凝縮により生じる高レベルのモノグリセリド及びジグリセリドを有することで特徴付けられる。
【0030】
本発明の精製スケールのプラントは、圧力リーフフィルタ、漂白タンク、スチーム脱臭器、及び収集タンクを有することによって特徴付けることができる。未反応メチルエステル及び微量のメタノールを含むと述べた粗MCT油は、60~80ミリバールの真空下で調節された窒素ブローを用いて、約2時間200℃~220℃に加熱するものとする。未反応メチルエステルの大部分は、残留メタノールを含めて剥ぎ取られる。使用済みの触媒は、50℃~60℃に加熱された圧力リーフフィルタに粗MCTを通過させることで除去され、漂白タンクに収集される。漂白タンクでは、これを60から80ミリバールの真空下で約30~60分間、約90℃~110℃に加熱する。混合物全体の0.30~0.50%w/wまでの量の漂白土及び活性炭を加える。必要な滞留時間の後、真空を停止する。50℃~60℃で圧力リーフフィルタを通過させることで、使用済みの漂白剤を除去する。スチーム脱臭では、漂白したMCTを約170℃~200℃で加熱する。まず、これを4~8ミリバールで約2時間、170℃に加熱する。最後に、4~8ミリバールの真空を使用して更に4時間、200℃に加熱する。最終的な精製MCT油に、クエン酸のような安定剤又は酸化防止剤を100~200ppmで添加する。
【0031】
本発明は、グリセロールとC8~C12メチルエステルの反応から、トリグリセリド、具体的にはMCTの大規模な調製プロセスを開示した。本発明の特許請求の範囲外であるが、それにもかかわらず明白であり、本発明の範囲内に該当する特定の油及び脂肪の変形(modification)が存在することは当業者に認められよう。例えばMCTは、個別のC8、C10、及びC12のカット並びに微量のC6及びC14によって調製することができる。これらの個別のカットは、脂肪酸メチルエステル又は脂肪酸の形態とすることができ、所望の比で混合して、本発明によって特許請求されるものと同一のMCT油組成物を得ることができる。更に、カプリン酸のトリグリセリド、カプリル酸のトリグリセリド、及びラウリン酸のトリグリセリドの混合物を、様々な比率で混合することも可能である。
【0032】
商用のMCTは、主としてC8~C10の脂肪酸のグリセロールとのエステル化によって調製される。C8~C10脂肪酸は、ココナッツオイルや、極めて一般的なパーム核油からのものとすればよい。ココナッツオイルは、収集プロセスの方法及び効率に応じて約10%~13%のC8~C10脂肪酸留分を有するのに対し、パーム核油は、より低い約7%~9%のC8~C10留分を有する。本発明では、これらより多いC12(ラウリン酸)留分が提供され、これは最終C8~C12留分で抽出される。
【0033】
ラウリン酸油は、当然、MCTである。既知の油のうち、ココナッツオイル又はパーム核油はラウリン酸の含有量が最も多い。ココナッツオイルは約45~52%がラウリン酸であり、パーム核油では43~48%である。双方の油はC8~C12の留分が最も多く、様々な特性及び形態のMCTを注文製作するための高い柔軟性が得られる。従って、本発明は、C8~C12留分を用いて多量のラウリン酸を有するMCTを調製することを開示した。
【0034】
本発明の別の好適な実施形態は、食用MCTを生成するためにメチルエステル留分を用いて大規模な商用プロセスによって、C8~C12メチルエステル留分とグリセロールをエステル化するプロセスである。好ましくは、多量のラウリン酸を有するMCTは、1%以下のC6、35~45%のC8、25~31%のC10、20~30%のC12、及び0~4%のC14を有する。トリグリセリド含有量は95%以上であり、モノグリセリド及びジグリセリドは合わせて約5%である。理想的には、これは0℃~15℃のスリップ融点を有し、室温からより低い温度条件において液体のままである。一人前の分量100ml当たりの栄養価は750~860kcal、好ましくは約840kcal(一人前の分量15mlでは110~135kcal、好ましくは約130kcal)である。総脂肪は90~100グラム、好ましくは約93グラム(一人前の分量15mlでは12~15グラム、好ましくは約14グラム)であり、飽和脂肪は90~100グラム(一人前の分量15mlでは12~15グラム、好ましくは約14グラム)であり、トランス脂肪、多価不飽和脂肪、及び一価飽和脂肪はそれぞれ0グラムである。コレステロール、ナトリウム、カリウム、繊維を含む全炭水化物、水溶性繊維、糖、タンパク、ビタミンA、C、及び鉄はゼロから微量であり、チアミン、リボフラビン、ナイアシンは微量であり、灰、水分、及びリンはゼロから微量である。
【0035】
代替的な実施形態
トリグリセリド形態に加えて、本明細書に提示されるMCT油は更に、好ましくは、高純度ベントナイト粘土、ヒュームドシリカ、及びケイ酸アルミニウムマグネシウムを混合物全体の3.5%w/w以下で組み込むことによって、皮膚化粧品用途向けの軟質ゲルにするために化粧品グレードの増粘剤/ゲル化剤と混合することにより調製可能である。
【0036】
更に、本明細書に提示されるMCT油は、飲料、コーヒークリーマー、又は同様の液体のためのレディーミックス調製物用の食品乳化剤と混合することによって調製可能であり、好ましくは80%以上のMCT油と20%以下の食品乳化剤混合物から成る。食用乳化剤混合物は、限定ではないが、ステアリン酸又はオレイン酸の蒸留モノグリセリド、ポリグレセロール脂肪酸エステル、及びポリエトキシレート化ソルビタンエステルの群を含む。
図1
図2