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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】圧粉磁心、及び電磁部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20230131BHJP
   H01F 3/08 20060101ALI20230131BHJP
   H02K 1/02 20060101ALI20230131BHJP
   H02K 1/04 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
H01F27/255
H01F3/08
H02K1/02 A
H02K1/04 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020181742
(22)【出願日】2020-10-29
(62)【分割の表示】P 2019535075の分割
【原出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2021036600
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017156041
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】渡▲辺▼ 麻子
(72)【発明者】
【氏名】上野 友之
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-143406(JP,A)
【文献】特開2007-215334(JP,A)
【文献】特開2003-309015(JP,A)
【文献】特開2005-295684(JP,A)
【文献】特開2014-036156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/255
H01F 3/08
H02K 1/02
H02K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末を含有する圧粉体と、
前記圧粉体の表面の一部を覆う絶縁樹脂塗膜とを備え、
前記圧粉体の相対密度が90%以上であり、
前記圧粉体表面の凹凸の最大深さが50μm以下であり、
前記絶縁樹脂塗膜は、前記圧粉体の表面のうち、少なくとも電気的絶縁を要する部分に形成され、
前記圧粉体の表面積に対する前記絶縁樹脂塗膜の面積の割合が85%以下であり、
前記絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μm以下であり、
前記絶縁樹脂塗膜にピンホールが存在せず、
前記ピンホールは、前記絶縁樹脂塗膜の表面において100μm以上の直径を有し、
前記絶縁樹脂塗膜が600V超で1分間の絶縁破壊電圧を有する、
圧粉磁心。
【請求項2】
前記圧粉体と前記絶縁樹脂塗膜との間に配置されるリン酸塩皮膜を有し、
前記リン酸塩皮膜の膜厚が1μm以上10μm以下である請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記絶縁樹脂塗膜の絶縁破壊電圧の電圧値1000V以上である請求項1又は請求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記絶縁樹脂塗膜の厚さが25μm以上100μm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記絶縁樹脂塗膜がMg、Si、Al、Mo、Ca、Ti及びZnから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物又は窒化物からなるフィラーを含有する請求項1から請求項のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記圧粉体が平面部と角部とを有し、
前記角部を覆う前記絶縁樹脂塗膜の厚さが25μm以上100μm以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項7】
前記圧粉体が平面部と角部とを有し、
前記平面部を覆う前記絶縁樹脂塗膜の厚さが前記角部を覆う前記絶縁樹脂塗膜の厚さの0.7倍以上1.3倍以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の圧粉磁心と、前記圧粉磁心に配置されるコイルとを備える電磁部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧粉磁心、及び電磁部品に関する。本出願は2017年8月10日出願の日本特許出願第2017-156041号に基づく優先権を主張し、前記日本特許出願に記載された全ての内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁心(コア)にコイルを配置したモータやチョークコイル、リアクトルなどの電磁部品が知られている。近年、電磁部品の磁心として圧粉磁心が使用されている。一般に、圧粉磁心は、軟磁性粉末を加圧成形した圧粉体で構成されている。
【0003】
特許文献1には、軟磁性粉末の粒子表面に絶縁被覆を有する被覆軟磁性粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)と、成形体の表面全域を覆う防錆層とを備える圧粉磁心が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-72245号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示に係る圧粉磁心は、
軟磁性粉末を含有する圧粉体と、
前記圧粉体の表面の一部を覆う絶縁樹脂塗膜とを備え、
前記圧粉体の表面積に対する前記絶縁樹脂塗膜の面積の割合が85%以下、かつ、前記絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μm以下である。
【0006】
本開示に係る電磁部品は、
本開示に係る圧粉磁心と、前記圧粉磁心に配置されるコイルとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の実施形態に係る圧粉磁心の一例を示す概略説明図である。
図2図2は、図1における(II)-(II)線断面図である。
図3図3は、凹凸の最大深さの測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
電磁部品において、圧粉磁心とコイルとの間の電気的絶縁を確保する目的で、従来より圧粉磁心とコイルとの間に絶縁紙を挟んだり、樹脂製のボビンを介在させて配置したりすることが行われている。しかしながら、絶縁紙やボビンを使用して絶縁を確保する構成では、圧粉磁心とコイルとの間隔が大きくなって必要以上に大きな電流をコイルに流す必要が生じたり、組立作業の煩雑化を招いたりする場合がある。
【0009】
圧粉磁心とコイルとの間の絶縁を確保する手段の1つとして、例えば、圧粉体の表面に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜を形成することが考えられる。絶縁樹脂塗膜を形成した場合、圧粉磁心にコイルを直接配置することが可能であり、コイルに流す電流を必要以上に大きくする必要がなく、コイルの低電流化が図れる。更には、絶縁紙やボビンを使用する場合に比べて電磁部品を小型化できると共に、部品点数の削減、組立作業の簡素化を図ることができる。
【0010】
絶縁樹脂塗膜には、高い電気絶縁性が求められ、ピンホールや局所的に膜厚の薄い部分が存在しないことが望まれる。絶縁樹脂塗膜にピンホールや局所的に薄い部分が一箇所でも存在すると、その部分が絶縁破壊の起点になることから、電気絶縁性(耐電圧性)が劣化する。
【0011】
そこで、本開示は、電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜を備える圧粉磁心を提供することを目的の一つとする。また、圧粉磁心に備える絶縁樹脂被膜によって圧粉磁心とコイルとの間の電気的絶縁を確保できる電磁部品を提供することを別の目的の一つとする。
[本開示の効果]
【0012】
本開示の圧粉磁心は、電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜を備える。本開示の電磁部品は、圧粉磁心に備える絶縁樹脂被膜によって圧粉磁心とコイルとの間の電気的絶縁を確保できる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、圧粉体の表面に電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜を形成する方法について鋭意研究した結果、以下の知見を得た。
【0014】
圧粉体は、粉末を押し固めたものであるため、多数の気孔が存在し、表面に凹凸を有する。絶縁樹脂塗膜は、圧粉体の表面に樹脂を塗装した後、熱処理して樹脂を固化させることで形成できる。
【0015】
圧粉体表面に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜を形成する際、塗装後の熱処理時に圧粉体内部の気孔内の空気が熱膨張して外に逃げようとする。圧粉体表面の全面に樹脂を塗装した場合は、圧粉体の表面全体が樹脂で覆われることになるため、空気の逃げ道がなく、外に逃げようとする空気が樹脂を突き破ることによって、絶縁樹脂塗膜にピンホールが発生することがある。特に、ピンホールの直径が100μm以上の場合、電気絶縁性に与える影響が大きい。
【0016】
また、絶縁樹脂塗膜は、圧粉体の表面に倣って形成されるので、絶縁樹脂塗膜の表面にも凹凸が形成される。圧粉体の表面の凹凸が大きく、粗さが大きいほど、絶縁樹脂塗膜の表面の凹凸も大きくなる。つまり、表面粗さも大きくなる傾向がある。圧粉体表面の凹凸(粗さ)が大きい場合は、圧粉体表面に樹脂を塗装した際に樹脂の厚さが均一にならず、樹脂の薄い部分が形成されることがある。例えば、圧粉体表面の凹凸が深い部分(谷の部分)に樹脂が入り込み、その箇所で樹脂が薄くなることがある。この場合、絶縁樹脂塗膜表面に凹凸の深い部分が存在しており、絶縁樹脂塗膜に局所的に膜厚の薄い部分が形成される可能性が高い。場合によっては、凹凸の深い部分で絶縁樹脂塗膜の膜厚が極端に薄くなり過ぎて、ピンホールが形成される場合もあり得る。
【0017】
本発明者らは、以上の知見から、圧粉体表面の全面ではなく一部に絶縁樹脂塗膜が形成され、かつ、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の深さが小さい場合に、絶縁樹脂塗膜にピンホールや局所的に薄い部分が存在せず、電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜が得られることを見出した。最初に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0018】
(1)本開示に係る圧粉磁心は、
軟磁性粉末を含有する圧粉体と、
前記圧粉体の表面の一部を覆う絶縁樹脂塗膜とを備え、
前記圧粉体の表面積に対する前記絶縁樹脂塗膜の面積の割合が85%以下、かつ、前記絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μm以下である。
【0019】
上記圧粉磁心は、圧粉体表面の一部が絶縁樹脂塗膜で覆われている。圧粉体の表面に対する絶縁樹脂塗膜の面積割合が85%以下である。上記圧粉磁心では、圧粉体表面の一部に絶縁樹脂塗膜を形成するため、圧粉体表面の全面ではなく一部に樹脂を塗装する。つまり、圧粉体表面に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜を形成する際に、圧粉体表面において、樹脂を塗装する塗装面と樹脂を塗装しない非塗装面とが存在する。つまり、圧粉体の表面全体が樹脂で覆われることがない。そのため、塗装後の熱処理時に圧粉体内部の気孔内の空気が熱膨張しても、圧粉体表面の非塗装面から空気を逃すことができる。気孔内の熱膨張した空気が塗装面の樹脂を突き破って逃げることを回避できるので、ピンホールの発生を防止できる。そして、絶縁樹脂塗膜の面積割合が85%以下であることで、空気の逃げ道となる非塗装面の面積を十分に確保でき、絶縁樹脂塗膜にピンホールが発生することを効果的に防止できる。絶縁樹脂塗膜は、圧粉体表面のうち、少なくとも電気的絶縁を要する部分に形成されていればよい。例えば、圧粉磁心にコイルを配置して電磁部品を構成したとき、圧粉磁心におけるコイルとの接触面に設けられていることが挙げられる。絶縁樹脂塗膜の面積割合の下限は例えば25%以上である。
【0020】
更に、上記圧粉磁心によれば、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μm以下であることで、絶縁樹脂塗膜に局所的に膜厚の薄い部分が形成されている可能性が低い。これは、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μm以下であることから、圧粉体表面の凹凸(粗さ)が小さいため、圧粉体表面に樹脂を塗装した際に樹脂の薄い部分が形成され難いからである。絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さの下限は特に限定されないが、圧粉体の表面性状などの観点から、例えば1μm以上である。絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さの測定方法については後述する。
【0021】
したがって、上記圧粉磁心は、絶縁樹脂塗膜にピンホールや局所的に膜厚の薄い部分が形成されておらず、電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜を備える。
【0022】
(2)上記圧粉磁心の一態様として、前記圧粉体の相対密度が90%以上で、前記圧粉体表面の凹凸の最大深さが50μm以下であることが挙げられる。
【0023】
圧粉体の相対密度が高いほど、圧粉体表面の凹凸(粗さ)が小さくなり易い。圧粉体の相対密度が90%以上で、圧粉体表面の凹凸の最大深さが50μm以下であることで、圧粉体表面に樹脂を塗装した際に樹脂の薄い部分が形成され難い。よって、絶縁樹脂塗膜に局所的に薄い部分が形成されることを効果的に防止できる。圧粉体の相対密度の上限は特に限定されないが、圧粉体の製造条件などの観点から、例えば99%以下である。ここでいう「相対密度」とは、真密度に対する実際の密度([圧粉体の実測密度/圧粉体の真密度]の百分率)のことを意味する。真密度は、圧粉体に含有する軟磁性粉末の密度とする。
【0024】
(3)上記圧粉磁心の一態様として、前記絶縁樹脂塗膜の厚さが25μm以上100μm以下であることが挙げられる。
【0025】
絶縁樹脂塗膜の厚さが25μm以上であることで、絶縁樹脂塗膜の電気絶縁性を十分に確保できる。絶縁樹脂塗膜の厚さが100μm以下であることで、絶縁樹脂塗膜が厚くなり過ぎず、電磁部品を構成したときに圧粉体とコイルとを近接して配置することができる。よって、コイルの低電流化や、電磁部品の小型化ができる。
【0026】
(4)上記圧粉磁心の一態様として、前記絶縁樹脂塗膜の絶縁破壊電圧が600Vを超えることが挙げられる。
【0027】
絶縁樹脂塗膜の絶縁破壊電圧が600Vを超えると、絶縁樹脂塗膜の電気絶縁性(耐電圧性)が十分に高い。絶縁樹脂塗膜の絶縁破壊電圧の上限は特に限定されないが、絶縁樹脂塗膜を構成する樹脂の絶縁特性や塗膜の厚さ(膜厚)などの観点から、例えば3000V以下である。絶縁樹脂塗膜の絶縁破壊電圧の測定方法については後述する。
【0028】
(5)上記圧粉磁心の一態様として、前記絶縁樹脂塗膜がエポキシ系、フッ素系及びポリイミド系の少なくとも1種の樹脂を含有することが挙げられる。
【0029】
絶縁樹脂塗膜は、電気絶縁性を有する樹脂を含有して形成されている。絶縁樹脂塗膜を構成する樹脂は、高い電気絶縁性を有し、圧粉体に対する付着性が良好であることが好ましい。また、絶縁樹脂塗膜を構成する樹脂は、電磁部品の使用時に圧粉磁心が高温状態になることから、高い耐熱性を有することが好ましい。エポキシ系、フッ素系及びポリイミド系の樹脂は、電気絶縁性に加え、密着性や耐熱性にも優れており、絶縁樹脂塗膜を構成する樹脂として好適である。
【0030】
(6)上記圧粉磁心の一態様として、前記絶縁樹脂塗膜がMg、Si、Al、Mo、Ca、Ti及びZnから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物又は窒化物からなるフィラーを含有することが挙げられる。
【0031】
絶縁樹脂塗膜が上記フィラーを含有することで、絶縁樹脂塗膜中にフィラーが複数分散して存在し、絶縁樹脂塗膜の電気絶縁性を向上させることができる。具体的には、絶縁樹脂塗膜の厚み方向に延びるピンホールがフィラーにより分断されるので、絶縁樹脂塗膜表面から圧粉体表面に至るように塗膜の厚み方向に貫通するピンホールの発生をより効果的に防止できる。また、Mg、Si、Al、Mo、Ca、Ti及びZnから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物又は窒化物からなるフィラーは、高い電気抵抗を有しているので、樹脂の絶縁特性の向上に寄与する。更に、絶縁樹脂塗膜がフィラーを含有することにより、圧粉体の角部の表面に絶縁樹脂塗膜を形成する際(特に、樹脂の塗装時)に角部から平面部への未固化の樹脂の移動を抑制し易い。そのため、圧粉体の角部を覆う絶縁樹脂塗膜が局所的に薄くなることを抑制できる。よって、平面部を覆う絶縁樹脂塗膜の厚さに対する角部を覆う絶縁樹脂塗膜の厚さの比率を向上させることができる。
【0032】
(7)上記圧粉磁心の一態様として、前記圧粉体が平面部と角部とを有し、
前記角部を覆う前記絶縁樹脂塗膜の厚さが25μm以上100μm以下であり、
前記平面部を覆う前記絶縁樹脂塗膜の厚さが前記角部を覆う前記絶縁樹脂塗膜の厚さの0.7倍以上1.3倍以下であることが挙げられる。
【0033】
圧粉体の角部を覆う絶縁樹脂塗膜の厚さが25μm以上であることで、角部における電気的絶縁を十分に確保できる。角部を覆う絶縁樹脂塗膜の厚さが100μm以下であることで、角部における絶縁樹脂塗膜が厚くなり過ぎない。よって、電磁部品を構成したときに圧粉体とコイルとを近接して配置することができるなど、コイルの低電流化が図れたり、電磁部品を小型化できる。また、圧粉体の平面部を覆う絶縁樹脂塗膜の厚さが角部を覆う絶縁樹脂塗膜の厚さの0.7倍以上1.3倍以下であることで、平面部における電気的絶縁を確保しつつ、コイルの低電流化や、電磁部品の小型化ができる。
【0034】
(8)上記圧粉磁心の一態様として、前記圧粉体がその表層にリン酸塩皮膜を有することが挙げられる。
【0035】
圧粉体がリン酸塩皮膜を有することで、圧粉体表面の凹凸(粗さ)が小さくなる。これは、圧粉体をリン酸塩処理して表面にリン酸塩皮膜を生成させることによって、圧粉体表面が封孔されるからである。また、リン酸塩皮膜を有することで、絶縁樹脂塗膜の付着性を高める効果も期待できる。リン酸塩皮膜としては、例えば、リン酸亜鉛系、リン酸鉄系、リン酸マンガン系、及びリン酸カルシウム系などの皮膜が挙げられる。
【0036】
(9)本開示に係る電磁部品は、
上記(1)から(8)のいずれか1つに記載の圧粉磁心と、前記圧粉磁心に配置されるコイルとを備える。
【0037】
上記電磁部品は、上述した本開示に係る圧粉磁心が使用され、圧粉磁心の表面に電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜が形成されている。したがって、上記電磁部品は、圧粉磁心に備える絶縁樹脂塗膜によって圧粉磁心とコイルとの間の電気的絶縁を確保できる。
電磁部品としては、例えば、モータやチョークコイル、リアクトルなどが挙げられる。
【0038】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る圧粉磁心、及び電磁部品の具体例を以下に説明する。本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0039】
<圧粉磁心>
図1図2を参照して、実施形態に係る圧粉磁心を説明する。図1は、圧粉磁心1の概略斜視図である。図2は、図1に示す(II)-(II)線で切断した断面を示している。圧粉磁心1は、軟磁性粉末を含有する圧粉体10と、圧粉体10の表面の一部を覆う絶縁樹脂塗膜20とを備える。実施形態の圧粉磁心1の特徴の1つは、圧粉体10の表面積に対する絶縁樹脂塗膜20の面積の割合が85%以下、かつ、絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さが20μm以下である点にある。以下、圧粉磁心1の構成について詳しく説明する。
【0040】
図1に例示する圧粉磁心1(圧粉体10)は、アキシャルギャップ型モータに用いられるステータコアの一部を構成する部品であり、扇状のヨーク部2と、ヨーク部2から突出するティース部3とを備える。この圧粉磁心1を6個一組として円環状に組み付けることにより、ステータコアが構成され、各ティース部3の外周には、図示しないコイルが巻回されて配置される。また、圧粉磁心1は、圧粉体10の表面の一部が絶縁樹脂塗膜20で覆われており、この例では、圧粉体10の表面のうち、ティース部3の外周面、及びティース部3が突出するヨーク部2の上面が絶縁樹脂塗膜20で覆われている。圧粉磁心1(圧粉体10)の形状は、用途などに応じて適宜選択することができ、例えば、円筒状や角筒状といった筒状、円柱や角柱といった柱状などが挙げられる。
【0041】
〈圧粉体〉
圧粉体10は、例えば軟磁性粉末を金型に充填して加圧成形することで製造される。圧粉体10は、軟磁性粉末を含有する。軟磁性粉末は、軟磁性材料からなる粉末である。軟磁性粉末は、複数の粒子で構成されている。軟磁性材料としては、例えば、純鉄(純度99質量%以上)や、Fe-Si-Al系合金(センダスト)、Fe-Si系合金(ケイ素鋼)、Fe-Al系合金、Fe-Ni系合金(パーマロイ)などの鉄基合金が挙げられる。軟磁性粉末には、例えば、アトマイズ粉(水アトマイズ粉、ガスアトマイズ粉)、カルボニル粉、還元粉などが利用できる。
【0042】
軟磁性粉末の粒子表面には、絶縁皮膜が被覆されていてもよい。これにより、圧粉体10を構成する軟磁性粉末の粒子間に絶縁皮膜が介在して粒子間の電気絶縁性を高めることができる。よって、圧粉磁心1の渦電流損を低減できる。絶縁皮膜としては、例えば、リン酸塩皮膜、シリコーンなどの樹脂皮膜、シリカなどの無機酸化物皮膜などが挙げられる。絶縁皮膜の膜厚は、例えば20nm以上1μm以下である。軟磁性粉末には、公知のものを利用できる。
【0043】
(軟磁性粉末の平均粒子径)
軟磁性粉末の平均粒子径は、例えば20μm以上300μm以下であることが好ましい。軟磁性粉末の平均粒子径が20μm以上であることで、加圧成形する際に軟磁性粉末の酸化を抑制できる。また、粉末の流動性が良く、金型への粉末の充填性を高めることができる。軟磁性粉末の平均粒子径が300μm以下であることで、加圧成形する際に粉末の圧縮性が良く、圧粉体10を高密度化できる。また、軟磁性粉末の平均粒子径が小さいほど、圧粉体10表面の凹凸(粗さ)が小さくなり易い。軟磁性粉末の平均粒子径は、圧粉体10の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)などの顕微鏡で観察し、視野内の軟磁性粉末の全粒子について各粒子の断面積に等しい円相当径(断面円相当径)を測定して、その平均値を算出することにより求めることができる。本実施形態では、視野サイズを1視野内に100個以上の粒子が観察されるように設定し、異なる10視野を観察して測定した粒子の断面円相当径の平均値を軟磁性粉末の平均粒子径とする。例えば、視野サイズは1.0~4.5mm、倍率は50~100倍とすることが挙げられる。なお、軟磁性粉末の粒子表面に絶縁皮膜を有する場合、軟磁性粉末の平均粒子径には、絶縁皮膜を含まないものとする。軟磁性粉末の平均粒子径は、加圧成形の前後でほぼ同じである。軟磁性粉末の平均粒子径は、例えば40μm以上250μm以下がより好ましい。
【0044】
(圧粉体の表面性状)
圧粉体10表面の凹凸(粗さ)は小さいことが好ましい。例えば、圧粉体10表面の凹凸の最大深さが50μm以下、更に35μm以下であることが好ましい。圧粉体10表面の凹凸(粗さ)が小さいほど、圧粉体10表面に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜20を形成する際に樹脂の薄い部分が形成され難く、絶縁樹脂塗膜20にピンホールや局所的に膜厚の薄い部分が形成されることを効果的に防止できる。圧粉体10表面の凹凸の最大深さが50μm以下の場合、絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の深さが十分に小さくるので、絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さが20μm以下を実現できる。圧粉体10表面の凹凸の最大深さの下限は特に限定されないが、圧粉体10の製造条件などの観点から、例えば5μm以上である。圧粉体10表面の凹凸の最大深さは、例えば30μm以下、更に25μm以下がより好ましい。
【0045】
圧粉体表面の凹凸の最大深さは、圧粉体10表面の粗さ曲線要素の高さの最大値として求めることができる。「粗さ曲線要素」とは、粗さ曲線における一組の隣り合う山と谷からなる曲線部分のことであり、「山」とは、粗さ曲線のX軸(平均線)より上側の部分、「谷」とは、粗さ曲線のX軸(平均線)より下側の部分を指す。「粗さ曲線要素の高さ」は、一つの粗さ曲線要素における山高さと谷深さとの和で表され、「山高さ」はX軸から山頂までの高さ、「谷深さ」はX軸から谷底までの深さいう。図3を参照して、圧粉体10表面の凹凸の最大深さの測定方法を説明する。図3に示すように、圧粉体10表面の粗さ曲線を取得し、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線をX軸、高さ方向をZ軸として、それぞれの粗さ曲線要素における山高さと谷深さとを測定して、各粗さ曲線要素の高さZt(=Zt,Zt,Zt,…Zt,…Zt)を求める。そして、基準長さLにおける粗さ曲線要素の高さZtの最大値(図3の場合、Zt)を凹凸の最大深さとする。
【0046】
圧粉体10表面の粗さ曲線は、圧粉体10表面を表面粗さ測定器で測定して取得する他、圧粉体10の断面をSEMなどで観察し、観察像から表面の輪郭線を抽出して取得するようにしてもよい。表面粗さ測定器には、触針を用いた接触式やレーザ光を用いた非接触式のものなど、公知のものを利用できる。
【0047】
(圧粉体の相対密度)
圧粉体10の相対密度は、90%以上であることが好ましい。圧粉体10の相対密度が高いほど、気孔が減少するため、圧粉体10表面の凹凸(粗さ)が小さくなり易い。圧粉体10の相対密度が90%以上の場合、圧粉体10表面の凹凸(粗さ)が十分に小さくなり、圧粉体10表面に樹脂を塗装した際に樹脂の薄い部分が形成され難く、絶縁樹脂塗膜20に局所的に膜厚の薄い部分が形成されることを効果的に防止できる。圧粉体10の相対密度は、圧粉体10の実測密度を真密度で除することにより求めることができる。本実施形態では、軟磁性粉末を構成する軟磁性材料の密度を真密度とする。圧粉体10の相対密度の上限は特に限定されないが、圧粉体10の製造条件などの観点から、例えば99%以下である。圧粉体10の相対密度は、例えば92%以上、更に94%以上がより好ましい。
【0048】
軟磁性粉末を加圧成形する際の成形圧力を高くするほど、圧粉体10を高密度化でき、圧粉体10の相対密度が高くなる。成形圧力は、例えば600MPa以上1500MPa以下とすることが挙げられる。また、軟磁性粉末の成形性を高めるため、例えば金型を加熱して温間で加圧成形を行ってもよい。温間加圧成形する場合、成形温度(金型温度)は、例えば60℃以上200℃以下とすることが挙げられる。その他、軟磁性粉末を加圧成形する際に、軟磁性粉末と金型、並びに軟磁性粉末の粒子同士の摩擦を低減する目的で、軟磁性粉末に潤滑剤を添加してもよい。潤滑剤には、脂肪酸アミドや金属石鹸などの固体潤滑剤を利用できる。脂肪酸アミドとしては、例えば、ステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸リチウムなどのステアリン酸金属塩が挙げられる。
【0049】
加圧成形後、加圧成形時に導入された歪を除去する目的で、圧粉体10を熱処理してもよい。これにより、圧粉磁心1の磁気特性を改善できる。加熱温度は、例えば300℃以上900℃以下とすることが挙げられる。
【0050】
(リン酸塩皮膜)
圧粉体10は、その表層にリン酸塩皮膜(図示せず)を有していてもよい。圧粉体10をリン酸塩処理して表面にリン酸塩皮膜を生成させることによって、圧粉体10表面が封孔され、圧粉体10表面の凹凸(粗さ)が小さくなる。また、リン酸塩皮膜を有することで、絶縁樹脂塗膜20の付着性を高める効果も期待できる。リン酸塩皮膜としては、例えば、リン酸亜鉛系、リン酸鉄系、リン酸マンガン系、及びリン酸カルシウム系などの皮膜が挙げられる。
【0051】
リン酸塩皮膜は、リン酸塩の溶液を用いて圧粉体10をリン酸塩処理することで形成できる。リン酸塩処理は、具体的には、リン酸塩溶液を圧粉体10の表面にスプレーで塗布する、リン酸塩溶液に圧粉体10を浸漬するなどである。リン酸塩処理によって、圧粉体10の表面に化学的にリン酸塩皮膜を生成させる。
【0052】
リン酸塩皮膜の膜厚は特に限定されないが、薄過ぎると十分な効果が得られず、厚過ぎると処理時間が長くなることから、リン酸塩皮膜の膜厚は、例えば1μm以上10μm以下、更に2μm以上7μm以下であることが好ましい。
【0053】
リン酸塩皮膜の膜厚は、リン酸塩皮膜の表面に直交する断面をSEMなどで観察して膜厚を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。本実施形態では、1視野あたり10点の膜厚を測定し、異なる10視野を観察して測定した膜厚の平均値をリン酸塩皮膜の膜厚とする。例えば、SEMの倍率は1000倍(7000μm/視野)とすることが挙げられる。
【0054】
〈絶縁樹脂塗膜〉
絶縁樹脂塗膜20は、圧粉体10の表面の一部(この例では、ティース部3の外周面及びヨーク部2の上面)に電気絶縁性を有する樹脂を塗装することで形成され、圧粉体10の表面の一部を覆う。絶縁樹脂塗膜20は、圧粉体10表面のうち、少なくとも電気的絶縁を要する部分に形成されていればよく、例えば、圧粉磁心1にコイルを配置して電磁部品を構成したときにコイルと接触する面に設けられている。
【0055】
絶縁樹脂塗膜20は、電気絶縁性を有する樹脂を含有して形成されている。絶縁樹脂塗膜20は、例えば、エポキシ系、フッ素系及びポリイミド系の少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。絶縁樹脂塗膜20を構成する樹脂は、高い電気絶縁性を有し、圧粉体に対する付着性が良好であることが好ましい。また、絶縁樹脂塗膜20を構成する樹脂は、電磁部品の使用時に圧粉磁心が高温状態になることから、高い耐熱性を有することが好ましい。エポキシ系、フッ素系及びポリイミド系の樹脂は、電気絶縁性に加え、密着性や耐熱性にも優れているので、絶縁樹脂塗膜20を構成する樹脂として好適である。絶縁樹脂塗膜20を構成する樹脂には、後述するフィラーを含有してもよい。
【0056】
(絶縁樹脂塗膜の形成方法)
絶縁樹脂塗膜20は、圧粉体10の表面に樹脂を塗装した後、熱処理して樹脂を固化させることで形成できる。樹脂の塗装方法としては、例えば、樹脂を溶剤に溶かした樹脂溶液を圧粉体10の表面にスプレーで塗布することや、樹脂溶液に圧粉体10を浸漬することが挙げられる。その他、樹脂の塗装は、電着塗装や粉体塗装などでも可能である。本実施形態では、圧粉体10表面の一部に絶縁樹脂塗膜20を形成するため、圧粉体10表面の一部に樹脂を塗装する。そこで、圧粉体10表面に樹脂を塗装する際、圧粉体10表面のうち、樹脂を塗装しない非塗装面(この例では、ティース部3の上端面、並びに、ヨーク部2の周面及び下面)をマスキングすることが好ましい。マスキング方法としては、例えば、カプトン(登録商標)テープなどのマスキングテープを非塗装面に貼り付けることが挙げられる。マスキングテープは塗装後の熱処理前に剥がし、熱処理時は非塗装面を露出させておく。樹脂を固化させる熱処理温度は、樹脂の種類にもよるが、例えば40℃以上150℃以下とすることが挙げられる。
【0057】
(絶縁樹脂塗膜の面積割合)
圧粉体10の表面積に対する絶縁樹脂塗膜20の面積の割合は85%以下である。圧粉磁心1では、圧粉体10表面の一部に絶縁樹脂塗膜20が形成されているため、圧粉体10表面に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜20を形成する際に、樹脂を塗装する塗装面と樹脂を塗装しない非塗装面とが存在する。この非塗装面は、塗装後の熱処理時に圧粉体10内部の気孔内の空気の逃げ道として機能するため、熱膨張した空気が塗装面の樹脂を突き破って逃げることを回避して、ピンホールの発生を防止する。絶縁樹脂塗膜20の面積割合が85%以下である場合、空気の逃げ道となる非塗装面の面積を十分に確保でき、絶縁樹脂塗膜20にピンホールが発生することを効果的に防止できる。絶縁樹脂塗膜20の面積割合の下限は、圧粉体10(圧粉磁心1)における少なくとも電気的絶縁を要する部分(例えば、コイルとの接触面)の面積によって決まり、例えば25%以上である。
【0058】
絶縁樹脂塗膜20の面積割合は、絶縁樹脂塗膜20の面積(圧粉体10表面の塗装面の面積)を圧粉体10の表面積で除することにより求めることができる。
【0059】
(絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さ)
絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さは20μm以下である。絶縁樹脂塗膜20は圧粉体10の表面に倣って形成されることから、絶縁樹脂塗膜20の表面性状は圧粉体10の表面性状に依存する。例えば、上述した圧粉体10表面の凹凸の最大深さが小さいほど、絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さが小さくなる傾向がある。絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さが20μm以下である場合、絶縁樹脂塗膜20に局所的に膜厚の薄い部分が形成されている可能性が低い。絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さが20μm以下であることから、圧粉体10表面の凹凸の最大深さが小さい。よって、圧粉体10表面に樹脂を塗装した際に樹脂の薄い部分が形成され難いからである。また、樹脂の厚みが極端に薄くなり過ぎることが回避されるので、ピンホールが形成されることもない。絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さの下限は特に限定されないが、圧粉体10の表面性状などの観点から、例えば1μm以上である。絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さは、例えば15μm以下、更に10μm以下が好ましい。
【0060】
絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さは、絶縁樹脂塗膜20表面の粗さ曲線要素の高さの最大値として求めることができる。絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さは、上述した圧粉体10表面の凹凸の最大深さの測定方法と同様にして測定することができる。具体的には、図3に示すように、絶縁樹脂塗膜20表面の粗さ曲線を取得し、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線をX軸、高さ方向をZ軸として、それぞれの粗さ曲線要素における山高さと谷深さとを測定して、各粗さ曲線要素の高さZt(=Zt,Zt,Zt,…Zt,…Zt)を求める。そして、基準長さLにおける粗さ曲線要素の高さZtの最大値(図3の場合、Zt)を凹凸の最大深さとする。より詳細には、絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さは、株式会社 東京精密製の表面粗さ測定機(SURFCOM1400D-3DF)を用いて、JIS B601:2001に従って測定する。粗さ曲線における基準長さ0.8mm、測定長さ4.0mm(基準長さの5倍)として、粗さ曲線の最大高さRz値を凹凸の最大深さとする。なお、測定長さは2.0mm以上とすることが求められる。
【0061】
(絶縁樹脂塗膜の厚さ)
絶縁樹脂塗膜20の厚さは、25μm以上100μm以下であることが好ましい。絶縁樹脂塗膜20の膜厚が厚いほど、局所的に膜厚の薄い部分が形成され難い。絶縁樹脂塗膜20の電気絶縁性(耐電圧性)が高くなると共に、絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さが小さくなる傾向がある。絶縁樹脂塗膜20の厚さが25μm以上であることで、絶縁樹脂塗膜20の電気絶縁性を十分に確保できる。絶縁樹脂塗膜20の厚さが100μm以下であることで、絶縁樹脂塗膜20が厚くなり過ぎず、圧粉磁心1を用いて電磁部品を構成したとき、コイルの低電流化や、電磁部品の小型化ができる。絶縁樹脂塗膜20の厚さは、例えば30μm以上、更に45μm以上がより好ましい。
【0062】
絶縁樹脂塗膜20の厚さは、絶縁樹脂塗膜20の表面に直交する断面を光学顕微鏡などで観察して膜厚を測定し、膜厚測定値の平均値を算出することにより求めることができる。本実施形態では、1視野あたり10点の膜厚を測定し、異なる10視野を観察して測定した膜厚の平均値を絶縁樹脂塗膜20の厚さとする。例えば、光学顕微鏡の倍率は450倍(0.14mm/視野)とすることが挙げられる。
【0063】
圧粉体10が平面部と角部とを有する場合、圧粉体10の角部を覆う絶縁樹脂塗膜(以下、「角部塗膜」ということがある)の厚さは、電気絶縁性を確保する観点から厚いほど好ましい。角部塗膜の厚さは、例えば25μm以上、更に40μm以上であることが好ましい。一般に、圧粉体10の表面に絶縁樹脂塗膜20を形成すると、圧粉体10の角部以外の箇所、即ち平面部を覆う絶縁樹脂塗膜(以下、「平面部塗膜」ということがある)は、角部塗膜よりも厚く形成される傾向がある。そのため、角部塗膜の厚さが25μm以上の場合、圧粉体10の平面部から角部に亘って十分な厚さの絶縁樹脂塗膜20が形成されることになる。つまり、圧粉体10の角部の有無にかかわらず、圧粉体10の表面に形成される絶縁樹脂塗膜20の厚さは25μm以上であることが好ましく、これにより、圧粉体10とコイルとの間の電気的絶縁を十分に確保できる。角部塗膜の厚さの上限は、例えば100μm程度が好ましい。一方、平面部塗膜の厚さは、例えば、角部塗膜の厚さに対して0.7倍以上1.3倍以下程度であることが挙げられる。
【0064】
ここでいう「角部」とは、隣り合う2つの平面部が交差することにより形成される稜線部分のことをいう。角部塗膜の厚さは、例えば圧粉体10の角部がR面取りされている場合、圧粉磁心1の断面において、R面取りにより形成された曲線状の稜線に対する法線方向における絶縁樹脂塗膜20の厚さを指す。また、圧粉体10の角部がC面取りされている場合であれば、C面取りにより形成された直線状の稜線に直交する方向における絶縁樹脂塗膜20の厚さを指す。特に、R面取りの場合、複数の法線方向における絶縁樹脂塗膜20の厚さの平均値を角部塗膜の厚さとするとよい。一方、面取り部を有しない場合は、角部を形成する2つの平面部のそれぞれの延長面同士の間を2等分する方向における絶縁樹脂塗膜20の厚さを角部塗膜の厚さとする。角部塗膜の厚さは、例えば、光学顕微鏡などによる圧粉磁心1の断面観察により測定できる。C面取りとは、端部となる角を取り除き平面にしたものである。また、R面取りとは、端部となる角を取り除き曲面にしたものである。C面取り、R面取りの具体的方法は、端部の角を直接取り除く場合に限定されるものではなく、面取り部に対応する部分が形成された金型等を用いて形成されるものであってもよい。
【0065】
(フィラー)
絶縁樹脂塗膜20は、絶縁性フィラーを含有してもよい。これにより、絶縁樹脂塗膜20中にフィラーが複数分散して存在し、絶縁樹脂塗膜20の電気絶縁性を向上させることができる。具体的には、絶縁樹脂塗膜20の厚み方向に延びるピンホールがフィラーにより分断され、絶縁樹脂塗膜20表面から圧粉体10表面に至る厚み方向に貫通するピンホールの発生をより効果的に防止できる。また、圧粉体10の角部の表面に絶縁樹脂塗膜20を形成する場合、樹脂がフィラーを含有することで、樹脂の塗装時に角部から平面部への未固化の樹脂の移動を抑制し易い。そのため、角部塗膜が局所的に薄くなることを抑制でき、平面部塗膜の厚さに対する角部塗膜の厚さの比率を向上させることができる。
【0066】
フィラーの材質としては、電気抵抗の高いセラミックスが挙げられる。例えば、Mg、Si、Al、Mo、Ca、Ti及びZnから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物又は窒化物が挙げられる。より具体的には、ケイ酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、酸化チタン、窒化アルミニウムなどが挙げられる。
【0067】
フィラーの形状は、特に限定されるものではない。フィラーは、薄片状のものでも粒子状のものでもよい。例えば、フィラーが薄片状である場合、厚さが0.1μm以上5μm以下、幅が5μm以上30μm以下、長さが5μm以上30μm以下であることが好ましい。また、フィラーが粒子状である場合、平均粒径が0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。薄片状フィラーの厚さが0.1μm以上で幅及び長さが5μm以上、或いは、粒子状フィラーの平均粒径が0.1μm以上であることで、ピンホールを分断し易く、絶縁樹脂塗膜20の電気絶縁性を向上させる効果が得られ易い。一方、薄片状フィラーの厚さが5μm以下で幅及び長さが30μm以下、或いは、粒子状フィラーの平均粒径が10μm以下であることで、フィラーが大き過ぎず、絶縁樹脂塗膜20中にフィラーを均一に分散させ易い。よって、絶縁樹脂塗膜20の厚さを極力薄くできながら、電気絶縁性に優れる絶縁樹脂塗膜20とすることができる。
【0068】
フィラーの含有量は、フィラーの材質や形状などにもよるが、例えば、絶縁樹脂塗膜20を100質量%とするとき、30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。絶縁樹脂塗膜20に占めるフィラーの含有量が30質量%以上であることで、絶縁樹脂塗膜20中にフィラーが十分に存在し、絶縁樹脂塗膜20の電気絶縁性を十分に向上させることができる。一方、フィラーの含有量が70質量%以下であることで、絶縁樹脂塗膜20を形成する際、樹脂の塗装時の流動性を確保し易い。そのため、絶縁樹脂塗膜20の厚さが全体的に均一で、電気絶縁性に優れる絶縁樹脂塗膜20とすることができる。
【0069】
(絶縁樹脂塗膜の絶縁破壊電圧)
絶縁樹脂塗膜20の絶縁破壊電圧は、600Vを超えることが好ましい。絶縁樹脂塗膜20の絶縁破壊電圧が600Vを超えると、絶縁樹脂塗膜20の電気絶縁性(耐電圧性)が十分に高い。絶縁樹脂塗膜20の絶縁破壊電圧の上限は特に限定されないが、絶縁樹脂塗膜20を構成する樹脂の絶縁特性や塗膜の厚さ(膜厚)などの観点から、例えば3000V以下である。絶縁樹脂塗膜20の絶縁破壊電圧は、圧粉磁心1の使用条件などにもよるが、例えば700V以上、更に1000V以上がより好ましい。
【0070】
絶縁樹脂塗膜20の絶縁破壊電圧は、次のようにして測定する。絶縁樹脂塗膜20の表面に電極を取り付けると共に、圧粉体10における絶縁樹脂塗膜20で覆われていない面(圧粉体10表面の非塗装面)に電極を取り付ける。両電極間に一定電圧を1分間印加したときの両電極間に流れる検出電流を側定する。そして、印加する電圧を段階的に上げ、検出電流が1mA以上になったときの電圧値を絶縁破壊電圧とする。
【0071】
上述した実施形態の圧粉磁心1は、圧粉体10表面の一部が絶縁樹脂塗膜20で覆われている。圧粉体10表面に対する絶縁樹脂塗膜20の面積割合が85%以下である。そのため、圧粉体10表面に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜20を形成する際に、圧粉体10表面の全面ではなく一部に樹脂を塗装することから、圧粉体10の表面全体が樹脂で覆われることがない。よって、塗装後の熱処理時に圧粉体10内部の気孔内の空気が熱膨張しても、圧粉体10表面の非塗装面から空気を逃すことができる。熱膨張した空気が塗装面の樹脂を突き破って逃げることを回避できるので、ピンホールの発生を防止できる。絶縁樹脂塗膜20の面積割合が85%以下であることで、空気の逃げ道として機能する非塗装面の面積を十分に確保できる。よって、絶縁樹脂塗膜20にピンホールが発生することを効果的に防止できる。
【0072】
また、絶縁樹脂塗膜20表面の凹凸の最大深さが20μm以下であることで、絶縁樹脂塗膜20に局所的に膜厚の薄い部分が形成されている可能性が低い。したがって、絶縁樹脂塗膜20にピンホールや局所的に膜厚の薄い部分が存在していない。よって、圧粉磁心1は電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜20を備える。
【0073】
《圧粉磁心の用途》
上述した実施形態の圧粉磁心1は、電磁部品(図1に示す例ではモータ)の磁心(コア)に利用できる。圧粉磁心1は、電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜20を備えることから、コイルを配置して電磁部品を構成したとき、コイルとの間の電気的絶縁を確保できる。
【0074】
<電磁部品>
実施形態に係る電磁部品は、上述した実施形態の圧粉磁心1と、圧粉磁心1に配置されるコイルとを備える。図1に示す圧粉磁心1を用いて電磁部品を構成する場合、絶縁樹脂塗膜20が設けられた圧粉磁心1のティース部3の外周にコイル(図示せず)が配置される。
【0075】
上述した実施形態の電磁部品は、圧粉磁心1に備える絶縁樹脂塗膜20によって圧粉磁心1とコイルとの間の電気的絶縁を確保できる。
【0076】
[試験例1]
圧粉体の表面に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜を形成することで、表1に示す圧粉磁心の試料をそれぞれ作製した。
【0077】
(圧粉体)
軟磁性粉末として、純鉄からなる粉末(平均粒子径(D50):200μm)を用意した。このときの平均粒子径(D50)は、レーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定した積算質量が50%となる粒径を意味する。用意した軟磁性粉末は、水アトマイズ法により製造したものである。また、軟磁性粉末の粒子表面に、リン酸塩皮膜を被覆して絶縁皮膜を形成した。絶縁皮膜の膜厚は、約100nmとした。
【0078】
用意した軟磁性粉末を金型に充填して加圧成形し、内径20mm、外径30mm、高さ20mmの円筒状の圧粉体を複数作製した。加圧成形後、圧粉体を窒素雰囲気中、500℃で15分間熱処理した。ここでは、加圧成形時の成形圧力を変えることにより、相対密度が異なる種々の圧粉体を得た。また、一部の圧粉体について、圧粉体をリン酸マンガン溶液に浸漬してリン酸マンガン処理し、圧粉体の表層にリン酸マンガン系のリン酸塩皮膜を形成した。リン酸塩皮膜の膜厚は、約3μmとした。
【0079】
作製した各々の圧粉体について、圧粉体の重量と体積とを測定して実測密度を算出し、実測密度と真密度(絶縁皮膜付き純鉄粉の密度)とから相対密度を求めた。また、各々の圧粉体表面の凹凸の最大深さを評価した。ここでは、圧粉体表面の凹凸の最大深さは、圧粉体の内周面の表面粗さを測定し、取得した粗さ曲線から粗さ曲線要素の高さの最大値として求めた。粗さ曲線の基準長さは、4mmとし、粗さ曲線の評価長さは、基準長さの5倍とした。
【0080】
表1に示す圧粉磁心の各試料に用いた圧粉体の相対密度、及び圧粉体表面の凹凸の最大深さを表1に示す。
【0081】
(絶縁樹脂塗膜)
次に、エポキシ系、フッ素系及びポリイミド(PI)系の樹脂をそれぞれ用意した。次に、作製した圧粉体の表面に各種樹脂を塗装した後、熱処理して樹脂を硬化させることより、絶縁樹脂塗膜を形成した。エポキシ系樹脂及びフッ素系樹脂については、溶剤に溶かして圧粉体表面にスプレーで塗布した。ポリイミド系樹脂については、圧粉体表面に電着塗装した。
【0082】
ここでは、圧粉体の表面に樹脂を塗装する際に、圧粉体表面に対する塗装面の面積割合や単位面積あたりの塗装量(樹脂の付着量)を変えることにより、絶縁樹脂塗膜の面積割合や絶縁樹脂塗膜の膜厚を異ならせた。具体的には、表1に示すような種々の圧粉磁心の試料を作製した。圧粉体表面の一部に樹脂を塗装する場合、圧粉体表面の非塗装面にマスキングテープを貼り付けてマスキングした。
【0083】
表1に示す試料のうち、絶縁樹脂塗膜の面積割合が100%の試料(No.12,16,17)は、圧粉体の全面に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜を形成した。絶縁樹脂塗膜の面積割合が52.0%の試料(No.1~4,7~10,14,15)は、圧粉体の内周面及び両端面にのみ樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜を形成した。絶縁樹脂塗膜の面積割合が85.0%の試料(No.5)及び90.0%の試料(No.13)は、圧粉体の内周面及び両端面と、外周面の一部に樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜を形成した。絶縁樹脂塗膜の面積割合が32.0%の試料(No.6)は、圧粉体の内周面にのみ樹脂を塗装して絶縁樹脂塗膜を形成した。絶縁樹脂塗膜の面積割合が0%の試料(No.11a,11b)は、圧粉体表面に樹脂を塗装せず、絶縁樹脂塗膜を形成しなかった。
【0084】
絶縁樹脂塗膜の表面をSEMで観察して、絶縁樹脂塗膜におけるピンホールの有無を評価した。ピンホールの有無は、1cm角の視野中に直径100μm以上のピンホールが存在するか否かを調べ、異なる10視野でピンホールが1個でも存在する場合は「ピンホールあり」、存在しない場合は「ピンホールなし」とした。その結果、絶縁樹脂塗膜の面積割合が100%の試料(No.12,16,17)及び90.0%の試料(No.13)は「ピンホールあり」であった。また、絶縁樹脂塗膜の面積割合が85%以下であっても、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μmを超える試料(No.14、15)は「ピンホールあり」であった。これに対し、絶縁樹脂塗膜の面積割合が85%以下で、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μm以下である試料(No.1~10)は「ピンホールなし」であった。
【0085】
絶縁樹脂塗膜を形成した各々の圧粉磁心の試料について、絶縁樹脂塗膜の膜厚を測定して平均厚さを求めた。また、各々の圧粉磁心における絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さを評価した。ここでは、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さは、圧粉体の内周面に形成された絶縁樹脂塗膜の表面粗さを測定した後、取得した粗さ曲線から粗さ曲線要素の高さの最大値として求めた。粗さ曲線の基準長さは、4mmとし、粗さ曲線の評価長さは、基準長さの5倍とした。なお、絶縁樹脂塗膜にピンホールが存在する試料(No.12~17)については、絶縁樹脂塗膜表面におけるピンホールがない部分の表面粗さを測定して、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さを求めた。
【0086】
表1に示す圧粉磁心の各試料における絶縁樹脂塗膜の面積割合、絶縁樹脂塗膜の厚さ、及び絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さを表1に示す。
【0087】
表1に示す圧粉磁心の各試料について、絶縁破壊電圧を測定して電気絶縁性(耐電圧性)を評価した。絶縁破壊電圧の測定は、次のように行った。圧粉体の内周面に形成された絶縁樹脂塗膜の表面に電極を取り付ける。圧粉体の外周面の絶縁樹脂塗膜で覆われていない面に電極を取り付ける。両電極間に一定電圧を1分間印加する。そして、両電極間に印加する電圧を100Vずつ段階的に上げていく。両電極間に流れる検出電流が1mA以上になったときの電圧値(耐電圧)を測定する。その結果を表1に示す。なお、圧粉体の全面に絶縁樹脂塗膜を形成した試料(No.12,16,17)及び絶縁樹脂塗膜を形成しなかった試料(No.11a、11b)については、圧粉磁心の内周面と外周面にそれぞれ電極を取り付けて行った。なお、絶縁樹脂塗膜を形成しなかった試料では、印加電圧が100Vの段階で検出電流が1mA以上になり、絶縁破壊電圧が100V未満であった。
【0088】
【表1】
【0089】
表1から、絶縁樹脂塗膜の面積割合が85%以下で、かつ絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μm以下である試料No.1~10は、絶縁樹脂塗膜の絶縁破壊電圧が600Vを超える高い電気絶縁性(耐電圧性)を有していた。これは、これらの試料では、絶縁樹脂塗膜にピンホールや局所的に薄い部分が存在しておらず、電気絶縁性の高い絶縁樹脂塗膜が得られたためと考えられる。
【0090】
中でも、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが15μm以下である試料は、絶縁破壊電圧が1000V以上であることから、絶縁樹脂塗膜の電気絶縁性がより高い。特に、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが10μm以下である試料は、絶縁破壊電圧が2000V以上である。このことから、絶縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが小さいほど、絶縁樹脂塗膜に局所的に膜厚の薄い部分が形成されている可能性が低く、電気絶縁性が向上するものと考えられる。また、凹凸の最大深さが小さい絶縁樹脂塗膜を得るためには、圧粉体の表面性状が重要であり、圧粉体の相対密度が高く(90%以上)、圧粉体表面の凹凸の最大深さが小さい(50μm以下、特に35μm以下)ことが望ましいことが分かる。
【0091】
絶縁樹脂塗膜を備えていない試料11a,11b、或いは、絶縁樹脂塗膜の面積割合が85%超、又は、縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μmを超える試料No.12~17はいずれも、絶縁樹脂塗膜の絶縁破壊電圧が600V以下であり、十分な電気絶縁性を有していなかった。これは、絶縁樹脂塗膜の面積割合が85%超である試料では、絶縁樹脂塗膜にピンホールが存在することから、電気絶縁性が低下したものと考えられる。一方、縁樹脂塗膜表面の凹凸の最大深さが20μmを超える試料の場合、絶縁樹脂塗膜に局所的に膜厚の薄い部分が形成されたり、ピンホールが存在したりするため、電気絶縁性が低下したものと考えられる。
【符号の説明】
【0092】
1 圧粉磁心
10 圧粉体
20 絶縁樹脂塗膜
2 ヨーク部
3 ティース部
図1
図2
図3