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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】断熱シート
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20230131BHJP
   F16L 59/06 20060101ALI20230131BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20230131BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230131BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
F16L59/02
F16L59/06
B32B15/09 Z
B32B15/08 N
B32B15/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020507381
(86)(22)【出願日】2019-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2019002146
(87)【国際公開番号】W WO2019181186
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2018056073
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】596087214
【氏名又は名称】栃木カネカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 一昭
(72)【発明者】
【氏名】菊地 広幸
(72)【発明者】
【氏名】今井 周三
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-143574(JP,A)
【文献】特開平09-327887(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第02252237(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0118438(US,A1)
【文献】特表2001-505283(JP,A)
【文献】特開平08-300534(JP,A)
【文献】特開2003-247155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
F16L 59/06
B32B 15/09
B32B 15/08
B32B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層を有する樹脂フィルムと、
樹脂繊維を含む不織布と、
を備え、
前記樹脂フィルムと前記不織布とが、前記樹脂フィルムと前記不織布とを貫通する貫通孔により接合され、
前記樹脂フィルムにおける前記貫通孔間の平均距離(La)と前記不織布における前記貫通孔間の平均距離(Lb)との比率(La/Lb)が1.0010以上1.10以下であり、
前記平均距離(La)及び前記平均距離(Lb)は、前記樹脂フィルムと前記不織布とを分離し、前記樹脂フィルム及び前記不織布のシワを伸ばした状態でそれぞれの前記貫通孔間の距離を複数個所測定することにより算出される、断熱シート。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは、樹脂層と、前記樹脂層の一方の面側に配置された前記金属層とを有する、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項3】
前記樹脂フィルムは、前記樹脂層の他方の面側に配置された他の金属層をさらに有する、請求項2に記載の断熱シート。
【請求項4】
前記不織布は、前記樹脂フィルムの一方の面側に配置される、請求項1から3の何れか1つに記載の断熱シート。
【請求項5】
前記樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂を含む、請求項1から4の何れか1つに記載の断熱シート。
【請求項6】
前記金属層は、アルミニウム、金、銀、銅、白金、錫、及びニッケルの少なくとも1つを含む、請求項1から5の何れか1つに記載の断熱シート。
【請求項7】
前記金属層は、アルミニウムである請求項1から6の何れか1つに記載の断熱シート。
【請求項8】
前記不織布の密度は、2g/m以上150g/m以下である、請求項1から7の何れか1つに記載の断熱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱シート、断熱材、及び断熱シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂シートの両面にアルミニウム層を有する、金属層含有フィルムと、ポリエステルの繊維で編んだネットとを交互に積層することで構成した断熱材が知られている。例えば特許文献1には、低輻射率層と低熱伝導層とを交互に重ねた積層断熱材について開示されている。特許文献2には、金属層を有する樹脂フィルムと樹脂繊維を含む不織布とを相互に積層した後、貫通孔を介して接合された断熱シートが開示されている。非特許文献1には、MLIあるいはスーパーインシュレーションと称される多層断熱材が、真空断熱に及ぼす影響が詳細に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-78751号公報
【文献】特開2015-143574号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】低温工学 Vol.51 No.6 p248 (2016)
【解決しようとする課題】
【0005】
金属層を有する樹脂フィルムと不織布からなる断熱シートが、複数枚積層された断熱材において、軽量化と断熱特性の両立が困難となる傾向が見られた。
【一般的開示】
【0006】
本発明の一態様に係る断熱シートは、金属層を有する樹脂フィルムと、樹脂繊維を含む不織布と、を備え、樹脂フィルムと不織布とが、樹脂フィルムと不織布とを貫通する貫通孔により接合されてよい。樹脂フィルムにおける複数の貫通孔間の平均距離(La)と不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)との比率(La/Lb)が1.0010以上1.10以下でよい。
【0007】
樹脂フィルムは、樹脂層を有してよい。樹脂フィルムは、樹脂層の一方の面側に配置された金属層を有してよい。
【0008】
樹脂フィルムは、樹脂層の他方の面側に配置された他の金属層を有してよい。
【0009】
不織布は、樹脂フィルムの一方の面側に配置されてよい。
【0010】
樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂を含んでよい。
【0011】
金属層は、アルミニウム、金、銀、銅、白金、錫、及びニッケルの少なくとも1つを含んでよい。
【0012】
金属層は、アルミニウムでよい。
【0013】
不織布の密度は、2g/m以上150g/m以下でよい。
【0014】
本発明の一態様に係る断熱材は、上記断熱シートが複数積層されてよい。
【0015】
平面上に断熱シートを60枚積層させた際の厚みを測定した場合の、初期厚み(T)/圧縮厚み(T)の比率が2.5以上でよい。
【0016】
本発明の一態様に係る断熱シートの製造方法は、金属層を有する樹脂フィルムと、樹脂繊維を含む不織布とを備える断熱シートの製造方法でよい。断熱シートの製造方法は、樹脂フィルムと不織布とを重ねた状態で、不織布を引っ張りながら、熱突起物により樹脂フィルム及び不織布を貫通する貫通孔を設ける貫通工程を含んでよい。
【0017】
断熱シートの製造方法は、熱処理により不織布を収縮させる不織布収縮工程を含んでよい。
【0018】
樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)と不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)との比率(La/Lb)が1.0010以上1.10以下でよい。
【0019】
金属層は、アルミニウムでよい。
【0020】
不織布の密度は、2g/m以上150g/m以下でよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】断熱シートの貫通孔周辺部分の断面図である。
図2】断熱材の部分断面図である。
図3】断熱シートの上面から見た拡大図である。
図4】不織布へのテンション、及び熱針の温度の少なくとも一方を変えて、断熱シートの断熱特性を測定した結果の一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、(A)金属層を有する樹脂フィルムと、(B)樹脂繊維を含む不織布と備え、(A)金属層を有する樹脂フィルムと(B)樹脂繊維を含む不織布とが、(A)金属層を有する樹脂フィルムと(B)樹脂繊維を含む不織布とを貫通する貫通孔により接合された断熱シートにおいて、(A)金属層を有する樹脂フィルムには弛みが少なく、かつ(B)不織布には弛みが多い構成とすることにより、熱伝導と輻射熱とを同時に大幅に抑制しながら、断熱シート断熱材を大幅に軽量化しうることを見出した。このような構成された断熱シートは、例えば、真空環境下あるいは低大気圧力環境下で使用されることで、優れた断熱性能を発揮する。
【0024】
<(A)金属層を有する樹脂フィルムの構成>
本発明における(A)金属層を有する樹脂フィルムにおいて、金属層は、樹脂フィルム層の両面に形成されてもよいし、樹脂フィルム層のいずれか一方の面にのみ形成されてもよい。
【0025】
(A)金属層を有する樹脂フィルムを形成する樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂からなることが好ましい。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、またはポリアミド6やポリアミド66等のポリアミド、等を用いることができる。
【0026】
融点、吸水性、金属の付着性、断裂強度、重量、またはコスト等の観点から、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、などを用いることが望ましい。
【0027】
<(A)金属層を有する樹脂フィルムに含まれる金属層>
(A)金属層を有する樹脂フィルムに含まれる金属層を構成する金属として、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、白金、ニッケル等を用いることができる。垂直赤外線反射率、金属層の設けやすさ、金属膜の均一性、重量、またはコスト等の観点から、金属としてアルミニウムを用いることが望ましい。
【0028】
(A)樹脂フィルムに金属層を形成させる方法は、特に限定されないが、連続式またはバッチ式真空蒸着機により、電熱加熱、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビーム等により行ってもよい。金属層の厚さは特に限定されないが、10nm以上250nm以下が望ましい。金属層の厚さを、10nm以上にすることにより、金属層から透過する赤外線量をより抑制し、断熱特性の低下をより抑制できる。また、金属層の厚さを250nm以下にすることで、金属層における熱伝導率の増加をより抑制し、また、施工時に折り曲げ等によるクラックの発生をより抑制できる。
【0029】
(A)金属層を有する樹脂フィルムの厚みは、3μm以上100μm以下が望ましく、5μm以上60μm以下がさらに望ましい。(A)金属層を有する樹脂フィルムの厚みを、3μm以上にすることにより、金属層にシワが発生することをより抑制できる。(A)金属層を有する樹脂フィルムの厚みを5μm以上にすることにより、金属層にシワが発生することをより抑制できる。また、(A)金属層を有する樹脂フィルムの厚みを、100μm以下にすることにより、重量の増加をより抑制でき、不織布への接触面積の増加をより抑制し、断熱特性の低下をより抑制できる。また、(A)金属層を有する樹脂フィルムの厚みを、60μm以下にすることにより、重量の増加をよりさらに抑制でき、不織布への接触面積の増加をより抑制し、断熱特性の低下をよりさらに抑制できる。
【0030】
なお、金属層の厚みは、四点式低抵抗計(ダイアインスツルメンツ製ロレスターEP)で面抵抗値を計測し、面抵抗値と金属膜固有抵抗値を用いて金属膜厚を算出することで得られる。(A)金属層を有する樹脂フィルムの厚みは、JIS L 1913の6.1項の方法で測定できる。
【0031】
[(B)樹脂繊維を含む不織布]
1<(B)不織布の構造>
本発明における(B)樹脂繊維を含む不織布の構造は、特に限定されないが、樹脂繊維を多重に重ね合わせた構造を有してもよい。
【0032】
2<(B)不織布に含まれる樹脂繊維>
また、樹脂繊維は、熱可塑性樹脂で形成されてもよい。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレン若しくはポリプロピレン等のポリオレフィン、またはポリアミド6若しくはポリアミド66等のポリアミド等の樹脂を用いることができる。融点、吸水性、伸縮性、断裂強度、重量、またはコスト等の観点から、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、などを用いることが望ましい。
【0033】
3<(B)不織布の密度(目付)>
(B)樹脂繊維を含む不織布の密度(目付)は、2g/m以上150g/m以下が好ましく、3g/m以上100g/m以下がより好ましく、3g/m以上70g/m以下がさらに好ましい。
【0034】
熱伝導を防止するためには、密度が低い、つまり目付が軽いほうが望ましい。不織布の密度を、2g/m以上にすれば、(B)不織布を間に挟む(A)金属層を有する樹脂フィルム同士がより接触しにくくなるので好ましい。
【0035】
不織布の密度を、3g/m以上にすれば、(B)不織布を間に挟む(A)金属層を含むシート同士がより接触しにくくなるので好ましい。不織布の密度を、150g/m以下にすれば、断熱特性がより良好になるので好ましい。なお、不織布の密度(目付)は、JIS L 1913の6.2項の方法で測定できる。
【0036】
図1は、本実施形態に係る断熱シート300の部分断面図の一例を示す。断熱シート300は、(A)金属層を有する樹脂フィルム100及び不織布200を備える。(A)金属層を有する樹脂フィルム100は、樹脂層102と、金属層104及び106とを有する。金属層104は、樹脂層102の一方の面側に配置される。金属層106は、樹脂層102の他方の面側に配置される。樹脂層102は、金属層104と金属層106との間に挟まれる。不織布200は、金属層106の樹脂層102側と反対の面側に配置される。
【0037】
断熱シート300は、(A)金属層を有する樹脂フィルム100及び不織布200を貫通する貫通孔302を備える。貫通孔302は、開口の一例である。
【0038】
断熱シート300は、貫通孔302の外周に沿って形成されている突出部304を備えていても良い。突出部304は、(A)金属層を有する樹脂フィルム100の不織布200が積層される面と反対の面101より突出していても良いし、不織布200の(A)金属層を有する樹脂フィルム100が積層される面と反対の面201より突出してもよい。
【0039】
断熱シート300は、複数の貫通孔302を有する。そして、断熱シート300を複数積層することにより断熱材を構成することができる。断熱材は、断熱シート300を例えば1枚から1000枚、2枚から100枚、あるいは3枚から75枚重ねることで構成してもよい。
【0040】
ここで、貫通孔302は、(A)金属層を有する樹脂フィルム100と不織布200とを重ね合わせた状態で、不織布200の(A)金属層を有する樹脂フィルム100が積層される面と反対の面から熱針を刺し込んだ後、抜き出すことにより、形成されてもよい。貫通孔302は、(A)金属層を有する樹脂フィルム100と不織布200とを重ね合わせた状態で、(A)金属層を有する樹脂フィルム100の不織布200が積層される面と反対の面から熱針を刺し込んだ後、抜き出すことにより、形成されてもよい。なお、貫通孔302は、熱針の刺し抜き以外の手法で形成されてもよい。
【0041】
(A)金属層を有する樹脂フィルム100と不織布200とを重ね合わせた状態で、熱針を刺し抜きすることにより、貫通孔302が形成される。そして、熱針により溶融した(A)金属層を有する樹脂フィルム100及び不織布200を構成する樹脂の一部により、(A)金属層を有する樹脂フィルム100と不織布200とが溶着される。以上の工程により、(A)金属層を有する樹脂フィルム100と不織布200とが貫通孔302を介して連結される。さらに、貫通孔302の周縁部に、熱針により溶融した(A)金属層を有する樹脂フィルム100及び不織布200を構成する樹脂の一部が固化することで、突出部304が形成されてもよい。
【0042】
[(A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)と(B)不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)との比率(La/Lb)]
本実施形態に係る断熱シートは、(B)不織布と(A)金属層を有する樹脂フィルムとが貫通孔により連結されている断熱シートにおいて、隣接する貫通孔間に存在する材料を平面上に展開した際の距離を、該貫通孔間の任意に選択された10か所で(B)不織布と(A)金属層を有する樹脂フィルムの各々について測定し、(A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)及び(B)不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)を算出したとき、(A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)と(B)不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)との比(La/Lb)が1.001以上1.10以下であることを特徴とする。
【0043】
(A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)/(B)不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)との比(La/Lb)が1.001以上1.10以下であることにより、(B)不織布は貫通孔と貫通孔との間でピンと張った状態となるのに対し、(A)金属層を有する樹脂フィルムは貫通孔と貫通孔との間で弛んだ状態となる。これにより断熱シートにおいて、(A)金属層を有する樹脂フィルムにのみシワが発生するため、(A)金属層を有する樹脂フィルムと(B)不織布とが点でのみ接触する状態となり、(A)金属層を有する樹脂フィルムと(B)不織布との間の熱伝導を妨げることができるため、真空状態に置ける断熱性能を著しく向上させることができる。
【0044】
本実施形態に係る断熱シートによれば、熱伝導と輻射熱とを同時に大幅に抑制しながら、断熱シート及び断熱材全体を大幅に軽量化し得る。さらに、断熱材を現場施工する際の取扱い性、真空減圧に要する時間と効率などをいずれも大幅に改善することができる。また、特に優れた断熱性能が要求されるような大型真空断熱容器において、高断熱性と設計施工の効率化とを達成し得る。
【0045】
((A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)/(B)不織布における貫通孔間の平均距離(Lb))は、両者が貫通孔を通じて連結している状態では正確に測定するのが難しいため、一旦貫通孔における連結を外したのち、(A)金属層を有する樹脂フィルム及び(B)不織布のシワを伸ばしてから、両者の貫通孔間の距離を同じ貫通孔の間で10点以上測定し、平均値を算出する方法で測定することができる。
【0046】
((A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)/(B)不織布における貫通孔間の平均距離(Lb))は、1.001以上1.10以下であることが必要である。比率(La/Lb)が1.001未満では熱伝導抑制効果が優れないため好ましくない。比率(La/Lb)は好ましくは1.0015以上、より好ましくは1.002以上、最も好ましくは1.0025以上である。一方、比率(La/Lb)は、断熱材の取扱い性または、狭い場所への収納性に優れることから、1.10以下であることが好ましい。比率(La/Lb)は好ましくは1.05以下、より好ましくは1.02以下、最も好ましくは1.01以下である。
【0047】
また、比率(La/Lb)が1.001以上であることにより、断熱シートを複数層積層させて断熱材とし平面上に設置させた際に、(A)金属層を有する樹脂フィルムのシワが原因となって、積層時の厚みが厚くなる。但し積層時の厚みは(A)金属層を有する樹脂フィルムのシワにより厚くなるものであるから、平面上で断熱材に圧力をかけると、シワが潰されて断熱材全体の厚みが薄くなる現象が生じる。
【0048】
断熱シートを複数枚積層して形成された断熱材において、平面上に断熱シートを60枚積層させた際の厚みを測定した際、(自重によってのみ圧縮された場合の厚み)/(1kPaの圧力で圧縮した場合の厚み)の比率は、2.5以上であることが好ましい。各層の断熱シートそれぞれに大きなシワが発生する事で、この比率が2.5以上となる。(自重によってのみ圧縮された場合の厚み)/(1kPaの圧力で圧縮した場合の厚み)の比率は、より好ましくは3.0以上、最も好ましくは4.0以上である。一方、自重によってのみ圧縮された場合の厚み)/(1kPaの圧力で圧縮した場合の厚み)の比率は、断熱材の取扱い性や、狭い場所への収納性に優れることから、50.0以下であることが好ましい。厚みの比率は好ましくは40.0以下、より好ましくは30.0以下、最も好ましくは25.0以下である。
【0049】
[断熱シートの製造方法]
本発明における断熱シートの製造方法は、樹脂繊維を含む不織布よりなる(B)不織布と、(A)金属層を有する樹脂フィルムとを、(B)不織布に含まれる樹脂と(A)金属層を有する樹脂フィルムを構成する樹脂フィルムとを貫通孔を通じて融解させることで連結させる工程を含むことが好ましい。
【0050】
ここで、貫通孔は、(A)金属層を有する樹脂フィルムと(B)不織布とを重ね合わせた状態で、(B)不織布の(A)金属層を有する樹脂フィルムが積層される面と反対の面から、(A)金属層を有する樹脂フィルム及び(B)不織布両者の融点を超える温度に加熱された熱針を刺し込んだ後、抜き出すことにより、形成されてもよい。貫通孔は、(A)金属層を有する樹脂フィルムと(B)不織布とを重ね合わせた状態で、(A)金属層を有する樹脂フィルムの(B)不織布が積層される面と反対の面から熱針を刺し込んだ後、抜き出すことにより、形成されてもよい。なお、貫通孔は、熱針の刺し抜き以外の手法で形成されてもよい。
【0051】
((A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離/(B)不織布における貫通間の平均距離)を1.001以上1.10以下とする製造方法としては、種々の方法を例示することができる。例えば、樹脂フィルムを含む(A)金属層を有する樹脂フィルムよりも、樹脂繊維を含む(B)不織布の方が、熱収縮率が大きくなる現象を用いる方法を例示することができる。この方法により、断熱シートを特定条件で熱処理するだけで、((A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離/(B)不織布における貫通孔間の平均距離)を1.001以上1.10以下とすることができるため、好ましい。
【0052】
断熱シートを熱処理する方法としては、樹脂繊維を含む(B)不織布と、(A)金属層を有する樹脂フィルムとを、融解させることで連結させる工程において、高温で短時間加熱することにより、(B)不織布が熱収縮することで、それぞれの貫通孔間の距離の比率を好ましい範囲とする方法を例示することができる。
【0053】
また断熱シートを熱処理する別の方法として、貫通孔を介して連結された断熱シートの状態において、樹脂繊維を含む不織布が熱収縮を起こす温度以上に断熱シートを加熱することにより、(B)不織布が熱収縮することで、それぞれの貫通孔間の距離の比率を好ましい範囲とする方法を例示することができる。
【0054】
((A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離/(B)不織布における貫通孔間の平均距離)を1.001以上1.10以下とする別の製造方法としては、例えば、樹脂繊維を含む(B)不織布と、(A)金属層を有する樹脂フィルムとを、融解させることで連結させる工程において、樹脂フィルムを含む(A)金属層を有する樹脂フィルムよりも、樹脂繊維を含む(B)不織布の方を強い張力でテンションをかけながら連結させる方法を例示することができる。この方法により、断熱シート製造後に別途処理することなく、((A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離/(B)不織布における貫通孔間の平均距離)を1.001以上1.10以下とすることができるため、好ましい。
【0055】
[断熱材]
図2は、本実施形態に係る断熱シート300を複数積層した断熱材400の部分断面図の一例である。断熱材400は、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eを積層することで構成されている。ここで、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eは、貫通孔302A、302B、302C、302D、及び302Eを有する。貫通孔302A、302B、302C、302D、及び302Eは、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eを重ね合わせた場合に、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eの間に残留する空気を外部に排出するための通路として機能する。これにより、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eの間の隙間を真空状態にすることができ、断熱材400の断熱特性を向上させることができる。
【0056】
断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eは、熱針等の方法により形成された複数の貫通孔を有していても良い。しかし、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eのそれぞれに形成される貫通孔の少なくとも一部は、それぞれの位置が一致するように形成されていないことが望ましい。これにより、少なくとも一部の貫通孔が互いに積層方向において重なることを防止でき、貫通孔を介して赤外線が通過することをより抑制することができる。なお、貫通孔は、溶射、レーザ加工など熱針以外の手法を用いて形成してもよい。
【0057】
例えば、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eに形成されたそれぞれの貫通孔302A、302B、302C、302D、及び302Eは、積層方向において重ならない位置に設けられてもよい。これにより、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eのそれぞれに複数の貫通孔が形成されていたとしても、貫通孔302A、302B、302C、302D、及び302Eを介して赤外線が通過することをより抑制できる。よって、断熱シート300A、300B、300C、300D及び300Eにそれぞれ複数の貫通孔が形成されることによる断熱材400の断熱特性の低下はほとんどない。
【0058】
断熱シートに形成された少なくとも一部の貫通孔は、隣接する他の断熱シートに形成された少なくとも一部の貫通孔と重ならない位置に形成されていてもよい。つまり、断熱材の断熱特性の低下が抑制されていれば、断熱シートに形成された一部の貫通孔が、隣接する他の断熱シートに形成された一部の貫通孔と重なる位置に形成されていてもよい。なお、重ならない位置とは、断熱シートに形成されたすべての貫通孔のうち少なくとも70%以上の貫通孔が、隣接する他の断熱シートに形成された貫通孔と重ならない位置にあればよい。
【0059】
図3は、断熱シート300の上面から見た拡大図である。断熱シート300に形成される複数の貫通孔302は、千鳥格子状に配列されてよい。第1の方向(X方向)における貫通孔302間の距離と、第1の方向に垂直な第2の方向(Y方向)における貫通孔302間との距離とは異なってよい。例えば、第1の方向(X方向)における貫通孔302間の距離は、25mmでよい。第2の方向(Y方向)における貫通孔302間との距離は、20mmでよい。
【0060】
断熱シート300は、樹脂フィルム100と、不織布200とを重ねた状態で不織布200を引っ張りながら、樹脂フィルム100の不織布200が配置される面と反対側の面、または不織布200の樹脂フィルム100が配置される面と反対側の面から、熱針などの熱突起物を指し込んだ後、抜き出すことにより、複数の貫通孔302を形成することで、製造されてよい。複数の貫通孔302が形成されることで、樹脂フィルム100と不織布200とが複数の貫通孔302により接合される。熱突起物により融解した樹脂フィルム100及び不織布200に含まれる樹脂の一部により、樹脂フィルム100と不織布200とが接合される。
【実施例1】
【0061】
以下に本発明の実施例を示す。
なお、断熱シートの作製に使用した部材は以下のとおりである。
(A)金属層を有する樹脂フィルム
(A1)両面にアルミニウム層を有する厚み9μmのポリエステル樹脂フィルムである(株)カネカ製KF-9B 表面抵抗値0.6Ω/□(Ω/sq)。
(B)樹脂繊維を含む不織布
(B1)目付け5g/平米のポリエステル製の湿式不織布である、廣瀬製紙(株)製05TH-5
【0062】
<実施例1>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に60Nのテンションをかけながら、加工温度290℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。
【0063】
<実施例2>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に50Nのテンションをかけながら、加工温度290℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。
【0064】
<実施例3>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に40Nのテンションをかけながら、加工温度290℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。
【0065】
<実施例4>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に20Nのテンションをかけながら、加工温度290℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。
【0066】
<実施例5>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に80Nのテンションをかけながら、加工温度290℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。
【0067】
<実施例6>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に20Nのテンションをかけながら、加工温度330℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。
【0068】
<実施例7>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に1Nのテンションをかけながら、加工温度290℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。さらに、断熱シート300の後処理加工として、表面を180℃に温調した加熱ロールに断熱シート300を1分間接触させながら連続的に巻き取る方法により、不織布を熱収縮させる処理を行った。
【0069】
<実施例8>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に1Nのテンションをかけながら、加工温度290℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。さらに、断熱シート300の後処理加工として、60層の断熱シート300で構成された断熱材を密封容器に挿入した後、減圧させ、10-5Pa以下の高真空状態に保つよう減圧を続けながら、真空容器全体を80℃に加熱し20日間保持することにより、不織布を熱収縮させる処理を行った。
【0070】
<比較例1>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に1Nのテンションをかけながら、加工温度290℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。
【0071】
<比較例2>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で約20m/minの線速で搬送しながら、(B1)不織布に1Nのテンションをかけながら、加工温度330℃とした熱針を20mmごとに突き刺して、複数の貫通孔302を有する断熱シート300を作製した。
【0072】
<断熱材の製造例>
まず、得られた断熱シート300を幅1000mm、長さ800mmにカットした。カットした断熱シート300(幅1000mm、長さ800mmの長方形の形状)を20枚積層し、一辺の幅1000mm部位を20層縫製を行った後、直径200mmの巻き付け棒に巻き付けた。さらに、同様に作製した20層の断熱シートからなる断熱材を、2回巻きつけて、60層の断熱シート300で構成された断熱材を用意した。
【0073】
<断熱材の初期厚み(T)測定方法>
得られた断熱シート300は、幅1000mm、長さ800mmの断熱シート300を60枚積層し、縫製せずに厚みを鋼尺にて10箇所測定し、その平均値を断熱材の初期厚み(T)とした。
【0074】
<断熱材の圧縮厚み(T)測定方法>
得られた断熱シート300は、幅1000mm、長さ800mmの断熱シート300を60枚積層し、縫製せずに、圧力が1kPaとなるように圧縮したときの断熱材の厚みを鋼尺にて10箇所測定し、その平均値を断熱材の厚み(T)とした。
【0075】
<(A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)>
(A)金属層を有する樹脂フィルムにおける貫通孔間の平均距離(La)は、貫通孔を設けた断熱シートを(A)金属層を有する樹脂フィルムと(B)不織布に分離し、(A)金属層を有する樹脂フィルムにある貫通孔のうち、50箇所の隣り合う貫通孔の距離を測定し、それらの平均値を測定した。
【0076】
<(B)不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)>
(B)不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)は、貫通孔を設けた断熱シートを(A)金属層を有する樹脂フィルムと(B)不織布に分離し、(B)不織布にある貫通孔のうち、50箇所の隣り合う貫通孔の距離を測定し、それらの平均値を測定した。
【0077】
<熱流束の測定方法>
得られた60層よりなる断熱材を、ジェック東理社製のボイルオフ式カロリーメータ試験機に挿入し、カロリーメータ内の液体窒素の蒸発量をマスフローメーターにより測定した。液体窒素の蒸発に要する熱量が、断熱材を通じて侵入した熱量であると仮定することで、断熱材の単位面積当たりの侵入熱量(W/m)を測定し、その測定結果を断熱材の断熱特性とした。測定は、以下の条件で行った。
(1)温度条件:77K(低温側)/300K(高温側)
(2)真空度:1×10-4Pa~1×10-5Pa
(3)計測時間:断熱材の中間層温度が飽和(Δ1℃/1h)状態に達し、且つ、蒸発窒素ガス量の1時間当たり平均が飽和(Δ10cc/1h)状態に達してから24h
(4)計測間隔:20sec
(5)窒素ガスの流量測定に用いた機器:堀場エスペック製マスフローメーターSEF-405(標準流量レンジ100SCCM、流量精度±1%)
(6)窒素ガスの温度計測に用いた機器:チノー製 JIS1級 シース型K熱電対
(7)データロガー:KEYENCE製NR-1000
【0078】
図4は、不織布へのテンション、及び熱針の温度の少なくとも一方を変えて、断熱シートの断熱特性を測定した結果の一例を示す表である。なお、図4に示す表中の断熱特性は、60層の断熱シートで構成された断熱材について測定された侵入熱量の平均の値を示す。
【0079】
比較例では熱流束の値が大きく、実施例との比較において断熱性能が劣っていることがわかる。
【0080】
<比較例3>
(A1)樹脂フィルム100と、(B1)不織布200とを、重ねた状態で、搬送する線速及び(B1)不織布のテンションの少なくとも一方を種々変化させ、貫通孔間の平均距離(La)と不織布における貫通孔間の平均距離(Lb)との比率(La/Lb)が1.12となるような断熱シートの作製を試みた。しかし、フィルムの巻き取り及び取り扱いが困難であったため、良好な断熱シートを得る製造条件を見出すことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の断熱シート及び断熱材を用いることで、真空環境下及び高減圧環境下において輻射熱を反射させつつ、熱伝導も非常に低い値に抑えることができ、非常に優れた真空断熱特性を得ることができる。従い、極低温物質を貯蔵運搬するための真空断熱容器、超電導分野における低温環境の維持、高温物質を貯蔵運搬するための真空断熱容器、宇宙衛星やロケット分野など、低大気圧条件における断熱材として優れた断熱性能を発揮することから、産業上非常に有用である。
【符号の説明】
【0082】
100 金属層を有する樹脂フィルム
102 樹脂層
104 金属層
106 金属層
200 不織布
300 断熱シート
302 貫通孔
304 突出部
400 断熱材
図1
図2
図3
図4