(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】供試標本の電気特性を試験するためのプローブ及び関連する近接度検出器
(51)【国際特許分類】
G01R 1/073 20060101AFI20230131BHJP
【FI】
G01R1/073 D
(21)【出願番号】P 2020526477
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2018080782
(87)【国際公開番号】W WO2019096695
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-11
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】504262203
【氏名又は名称】カプレス・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】CAPRES A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オスターベルグ フレデリック ウエスターガード
(72)【発明者】
【氏名】ピーターセン ディルチ ヨルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリクセン ヘンリック ハートマン
(72)【発明者】
【氏名】カグリアニ アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン オーレ
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン ピーター フォルマー
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0261849(US,A1)
【文献】特開2000-284025(JP,A)
【文献】特開平06-097243(JP,A)
【文献】特開2007-311389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0047662(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/06-1/073
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試標本の電気特性を試験するため供試標本にプローブを接近させる方法であって、
第1カンチレバー支持用の平坦表面を定めるプローブ本体と第1熱検出器とを有するプローブを、設けるステップを有し、
前記第1カンチレバーが、前記平坦表面により支持された第1近位端とその第1近位端の逆側にある第1遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなして前記プローブ本体から延びており、その第1カンチレバーに備わるカンチレバー表面により第1接触プローブが支持されており、
前記第1熱検出器が、前記平坦表面により支持された第2近位端とその第2近位端の逆側にある第2遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなして前記プローブ本体から延びており、その第1熱検出器に備わる検出器表面により、温度依存性電気抵抗を有する導電体が支持されており、
更に、
前記導電体・前記供試標本間に温度差を確立するステップと、
電流を前記導電体内に注入するステップと、
電子回路を準備してその電子回路を前記導電体に接続し、前記プローブを前記供試標本の方へと動かしつつその電子回路により前記温度依存性電気抵抗を計測するステップと、
前記供試標本に対する前記接触プローブの接近又は接触の発生を示す第1閾値に前記温度依存性電気抵抗が達したときに、前記プローブを停止させるステップと、
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記プローブが、前記平坦表面に対し共平面関係をなし前記プローブ本体から延びる第2カンチレバーを有する方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記温度依存性電気抵抗上での電圧降下を計測することでその温度依存性電気抵抗を計測するステップを有する方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記プローブが、前記平坦表面に対し共平面関係をなし前記プローブ本体から延びる第2熱検出器を有する方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記第1熱検出器により、前記プローブ本体に関わるループが形成される方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記導電体・前記供試標本間に前記温度差を確立するヒータ又はクーラを設けるステップを有する方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記電流の大きさを、前記導電体が室温超の温度まで加熱されるようなものにする方法。
【請求項8】
供試標本の電気特性を試験するシステムであって、
第1カンチレバー支持用の平坦表面を定めるプローブ本体と第1熱検出器とを有するプローブを備え、
前記第1カンチレバーが、前記平坦表面により支持された第1近位端とその第1近位端の逆側にある第1遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなして前記プローブ本体から延びており、その第1カンチレバーに備わるカンチレバー表面により第1接触プローブが支持されており、
前記第1熱検出器が、前記平坦表面により支持された第2近位端とその第2近位端の逆側にある第2遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなして前記プローブ本体から延びており、その第1熱検出器に備わる検出器表面により、温度依存性電気抵抗を有する導電体が支持されており、
更に、
前記導電体・前記供試標本間に温度差を確立するヒータ又はクーラと、
前記導電体で以て相互接続されており、前記温度依存性の導電体内に電流を注入する電源と、
前記プローブを前記供試標本の方へと動かすアクチュエータと、
前記導電体で以て相互接続されており、前記温度依存性電気抵抗を計測してその温度依存性電気抵抗を閾値と比較する電子回路と、
を備えるシステム
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供試標本にプローブを接触させてその供試標本の電気特性を試験する方法に関し、具体的には熱検出器付のマイクロカンチレバーマルチポイントプローブを指向している。本発明は、更に、供試標本の電気特性を試験するシステム、熱検出器の計測値をリスケーリングして幾何ばらつきを補償する方法、並びに熱検出器・供試標本間近接度を判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
供試標本のなかには、半導体ウェハで構成され、その上に備わる薄い平坦連続導電膜又は薄い多層スタックで例えば磁気トンネル接合(MTJ)が形成されるものもある。
【0003】
供試標本のなかには、半導体シリコンウェハであり、CMOS集積回路を有し、それが例えば多数のCMOSトランジスタで以て実現されているものもある。この場合、その標本に個別的な試験パッドを組み込み、そこで試験下にある導電膜又はスタックのうち一部分を専用することで、電気的特性解明を図ることができる。それら試験パッドがfinFETトランジスタの濃密アレイで構成されることもある。
【0004】
マルチポイントプローブによる計測及び試験のルーチン、例えば4ポイントプローブ計測は4端子センシングとしても知られている;電気インピーダンス計測技術では、個別対をなす電流搬送及び電圧感知電極(供試標本接触用の尖端を有する接触プローブ)が用いられている。
【0005】
抵抗計測を実行し供試標本の電気特性を判別する際には、試験面への電気的接触確立用に1個又は複数個の電極を備える試験プローブを、その試験面に接触させる。
【0006】
マイクロ4ポイントプローブの一例が特許文献1に開示されている;その開示内容を、参照により本願に繰り入れるものとする。特許文献1にて開示されているプローブは、プローブ本体から延びる4個のカンチレバーを備えている。
【0007】
このプローブは試験装置又はシステムの一部分であり、それに備わるアクチュエータによりそのプローブを動かし、その試験装置内に置かれた供試標本に接触させることができる。
【0008】
その寸法がμm又はnmスケールであるため、供試標本上への尖端(接触プローブの突端)の制御精密着地を行うこと、ひいてはアクチュエータ停止に当たりその尖端が供試標本の表面から少なくとも200nm以内、好ましくは±50nm以内にあるようにすることが、重要となる。
【0009】
制御着地により、電極が破損しにくくなり、プローブデブリで供試標本汚染が汚染されにくくなり、また良好で安定なオーミック接触が確立されることとなろう。
【0010】
プローブの着地を制御する際には、歪ゲージ型検出器(機械的接触検出)を用いてもよいし、複数個の接触プローブ間の電気インピーダンスを計測することによる電気的接触検出を用いてもよい;例えば、複数個の接触プローブ間のインピーダンスが低下した場合、それら接触プローブが供試標本と接触して、少なくとも2個の接触プローブ間でその供試標本内に電流が流れたものと、推定することができる。
【0011】
これらの供試標本着地又は接触方法にはそれぞれ短所がある;例えば相対的に大きな総フットプリントであり、歪ゲージベース表面検出の場合、電気的検出に比べ多くのカンチレバーを標本表面に接触させる必要があるためそうなる。フットプリントが大きめであるということは、プローブとの接触による標本の汚染が起きやすいということである。他方、供試標本の非導電面(又は酸化面)に関しては電気的検出が稼働せず、その適用可能性が限られている。
【0012】
熱を用いエアギャップ越しに距離を計測する例が特許文献2に開示されている;参照によりこれを本件開示に繰り入れるものとする。しかしながら、特許文献2中の装置は、供試標本の電気特性を計測するための接触プローブを有しておらず、しかもその供試標本に自装置を接触させていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許第2293086号明細書
【文献】米国特許第7186019号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上掲の短所のうち少なくとも幾つかを軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明についての記述から明らかになる通り、上掲の目的及び長所並びに他の多くの目的及び長所は、本発明の第1態様に従い以下の手段で実現される。
【0016】
供試標本の電気特性を試験するため供試標本にプローブを接近させる方法であって、
第1カンチレバー支持用の平坦表面を定めるプローブ本体と第1熱検出器とを有するプローブを、設けるステップを有し、
第1カンチレバーが、前記平坦表面により支持された第1近位端とその第1近位端の逆側にある第1遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなしてプローブ本体から延びており、第1カンチレバーに備わるカンチレバー表面により第1接触プローブが支持されており、
第1熱検出器が、前記平坦表面により支持された第2近位端とその第2近位端の逆側にある第2遠位端の間でその平坦表面に対し共平面関係をなしてプローブ本体から延びており、第1熱検出器に備わる検出器表面により、温度依存性電気抵抗を有する導電体が支持されており、
更に、
前記導電体・供試標本間に温度差を確立するステップと、
電流をその導電体内に注入するステップと、
電子回路を準備してその電子回路を前記導電体に接続し、プローブを供試標本の方へと動かしつつその電子回路により前記温度依存性電気抵抗を計測するステップと、
供試標本に対する接触プローブの接近又は接触の発生を示す第1閾値に前記温度依存性電気抵抗が達したときに、前記プローブを停止させるステップと、
を有する方法である。
【0017】
接近とは、理解し得るように、接触プローブが供試標本にぶつかりそうなほど近付くことである。
【0018】
前記閾値は、供試標本の表面まで0~10μmの距離に達したときにプローブが停止するよう経験的計測を踏まえ選定すればよい。
【0019】
その後は、プローブを供試標本の方へとある固定距離だけ動かし、その供試標本に物理的に接触させればよい。この固定距離は、0.5~8μm、0.5~6μm、0.5~4μm、0.5~2μm、1~7μm又は1~3μmなる諸範囲のうち何れから選定してもよい;その供試標本からどの程度遠くでそのプローブを停止させるかによる。
【0020】
或いは、前記閾値に達したときにプローブが供試標本に接触するようその閾値を選定してもよい。この場合、供試標本に接触させるため前記最終距離に亘りプローブを動かす必要はない。
【0021】
通常、接触の発生とは、プローブが供試標本上に着地し接触プローブの尖端がその供試標本の表面に接触していることを、意味している。
【0022】
とはいえ、一般に、接触は、必ずしも接触プローブが供試標本と物理的に接触しているという意味に解されるわけではない;そうではなく、その供試標本に非常に近いため接触プローブ・供試標本間間容量結合が存在していて、接触プローブ内交流電流が供試標本内に流れ込みうる、即ちその容量結合が0超1mF未満であるという意味にも解される。
【0023】
プローブが、前記平坦表面に対し共平面関係をなしプローブ本体から延びる第2カンチレバーを有していてもよい。プローブが、その平坦表面に対し共平面関係をなしプローブ本体から延びる第2熱検出器を有していてもよい。
【0024】
前記温度依存性電気抵抗は、その温度依存性電気抵抗上での電圧降下を計測することで陰に計測すればよい。
【0025】
第1熱検出器により、プローブ本体に関わるループを画定してもよい;即ち、第1熱検出器が第1点にてプローブ本体から離れる方に延び、第2点にてそのプローブ本体に戻る(熱検出器がプローブ本体上で始まりプローブ本体上で終わる)ようにしてもよい。
【0026】
前記温度差は、ヒータを設けそれにより前記導電体を供試標本に比し加熱すること、即ちその導電体の温度を供試標本の温度より高くすることで、確立すればよい。その逆も成り立ちうる;即ち、ヒータを設けそれにより供試標本をその導電体に比し加熱してもよい。
【0027】
これに代え、クーラを設けそれにより前記導電体を供試標本に比し除熱してもよい:或いは、クーラにより供試標本をその導電体に比し除熱してもよい。
【0028】
前記導電体に注入される電流を用いその導電体を加熱してもよい;即ち、その電流の大きさを、その導電体が室温超の温度まで加熱されるようなものとしてもよい。その電流を交流電流としてもよい。
【0029】
その電流は電流源により前記導電体内に注入すればよく、その電流源により一定電流を供給しその導電体内に導通させてもよい。
【0030】
第1閾値を、接触プローブ・供試標本間距離が第2閾値未満となるよう選定してもよい。
【0031】
第1閾値を、複数個のプローブによる計測間のばらつきを定める統計分布の関数となるよう、選定してもよい;但し、各プローブは本発明に従い作成する。
【0032】
本発明の第2態様によれば、上掲の目的及び長所が以下の手段で実現される。
【0033】
供試標本の電気特性を試験するシステムであって、
第1カンチレバー支持用の平坦表面を定めるプローブ本体と第1熱検出器とを有するプローブを備え、
第1カンチレバーが、前記平坦表面により支持された第1近位端とその第1近位端の逆側にある第1遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなしてプローブ本体から延びており、その第1カンチレバーに備わるカンチレバー表面により第1接触プローブが支持されており、
第1熱検出器が、前記平坦表面により支持された第2近位端とその第2近位端の逆側にある第2遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなしてプローブ本体から延びており、その第1熱検出器に備わる検出器表面により、温度依存性電気抵抗を有する導電体が支持されており、
更に、
前記導電体・前記供試標本間に温度差を確立するヒータ又はクーラと、
その導電体で以て相互接続されており、前記温度依存性の導電体内に電流を注入する電源と、
プローブを供試標本の方へと動かすアクチュエータと、
前記導電体で以て相互接続されており、前記温度依存性電気抵抗を計測してその温度依存性電気抵抗を閾値と比較する電子回路と、
を備えるシステムである。
【0034】
本発明の第3態様によれば、上掲の目的及び長所が以下の手段で実現される。
【0035】
熱検出器・供試標本間近接度を計測する熱検出器の計測値を正規化する方法であって、
熱検出器支持用の平坦表面を定めるプローブ本体を有するプローブを、準備するステップを有し、
その熱検出器が、前記平坦表面により支持された近位端とその近位端の逆側にある遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなしてプローブ本体から延びており、
その熱検出器により定まる検出器幾何が第1幾何寸法を有し、その熱検出器に備わる検出器表面により、温度依存性電気抵抗を有する導電体が支持されており、
更に、
前記導電体内に電流を注入するステップと、
電子回路を準備してその電子回路を前記導電体に接続し、その電子回路により前記電気抵抗を計測して出力を提供するステップと、
その出力が前記検出器幾何を基準として正規化されるよう、第1幾何寸法によるその出力の数学的正規化を実行するステップと、
を有する方法である。
【0036】
第1幾何寸法を、室温での前記温度依存性電気抵抗なる尺度によって、即ち前記導電体上での電圧降下及びその導電体内に導通された電流を計測することで、表してもよい;その電流が一定に保持されているときには、その電圧降下がその電気抵抗に正比例する。
【0037】
その電気抵抗計測値を、熱検出器の第2幾何寸法を用い正規化してもよい。
【0038】
その第2幾何寸法を、室温における前記温度依存性電気抵抗と、室温超の温度におけるその温度依存性電気抵抗と、の間の相違という尺度により表してもよい。
【0039】
電気抵抗計測値を、その熱検出器の第3幾何寸法であり前記導電体の厚みにより組成されるものを用い、正規化してもよい。
【0040】
本発明の第3態様によれば、上掲の目的及び長所が以下の手段で実現される。
【0041】
熱検出器・供試標本間近接度を判別する方法であって、
熱検出器支持用の平坦表面を定めるプローブ本体を有するプローブを、準備するステップを有し、
その熱検出器が、前記平坦表面により支持された近位端とその近位端の逆側にある遠位端との間でその平坦表面に対し共平面関係をなしてプローブ本体から延びており、
その熱検出器により定まる検出器幾何が第1幾何寸法を有し、その熱検出器に備わる検出器表面により、温度依存性電気抵抗を有する導電体が支持されており、
更に、
前記導電体・供試標本間に温度差を確立するステップと、
第1周波数を有する交流電流をその導電体内に注入するステップと、
電子回路を準備してその電子回路を前記導電体に接続し、プローブを供試標本の方へと動かしつつその電子回路により前記電気抵抗を計測して出力を提供するステップと、
第1周波数の2次高調波より低いカットオフ周波数を有するフィルタを準備し、そのハイパスフィルタにより前記出力をフィルタリングしてフィルタリング済の信号を提供するステップと、
そのフィルタリング済の信号を熱検出器・供試標本間近接度に係る尺度として用いるステップと、
を有する方法である。
【0042】
以下、ごく模式的な図面を参照し諸実施形態を例示することで、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】供試標本の電気特性を試験するためのプローブの斜視図である。
【
図3】突起付で熱検出器が設けられた代替実施形態を示す図である。
【
図4】そのプローブの代替実施形態を示す図である。
【
図5】単一の熱検出器を挟み逆側にカンチレバーが分配配置された代替実施形態を示す図である。
【
図6】単一のカンチレバーを用いる代替実施形態を示す図である。
【
図7】そのプローブの代替実施形態を示す図である。
【
図8】5個のプローブによる計測結果を示す図である。
【
図9】
図8に示した計測結果それぞれの正規化結果を示す図である。
【
図10】導電体の電気抵抗計測値の再リスケーリング結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の例示的諸実施形態を示す添付図面を参照し、本発明をより遺漏なく記述することにする。但し、本発明は、別の諸形態で実施してもよいので、本願中で説明される諸実施形態に限定して解されるべきではない。寧ろ、それら実施形態が提供されているのは、本件開示を一貫的且つ無欠なものとし、本発明の技術的範囲を本件技術分野に習熟した者(いわゆる当業者)へと存分に伝えるためである。類似する参照符号は全文を通じ類似要素を指すものとする。従って、類似要素を各図面の記述との関係で詳述することはしない。
【0045】
図1に、供試標本電気特性試験用プローブの斜視外観を示す。
【0046】
本プローブ10はプローブ本体12、例えば多数の半導体、金属及び/又は誘電体層で作成されうるそれを備えている。そのプローブ本体の第1側面により、実質的に平坦な本体表面が画定されている;即ち、製造プロセス上許容される限りでその面が平坦とされている。このプローブ本体は、その第1側面の逆側にある第2側面と、それら第1側面・第2側面間にあり前表面32を画定する前側面とを有している。
【0047】
【0048】
プローブ10はカンチレバー18を備えている。
図2では更に7個のカンチレバーが見えており、一般には1~16個のカンチレバーからなるカンチレバー群をプローブに具備させることができる。
【0049】
各カンチレバーは、供試標本表面上の点エリア又は小エリアに接触させる接触プローブ24を支持している;その接触により、その供試標本に対する電気的接続が確立される。
【0050】
供試標本の電気特性を計測する前に、その供試標本上の酸化物層を焼き切ることが、必要になるかもしれない。これは、(2個の接触プローブ間に)ブレークダウン電圧を印加したときに接触プローブに流れる電流で、なすことができよう;ブレークダウン電圧とは、その誘電体酸化物のブレークダウンを引き起こせるほど高い電圧、例えば5V超のそれのことである。
【0051】
接触プローブ又は電極は導電金属膜により構成されており、カンチレバー表面のうち試験実行時に供試標本の表面と対峙するところにその膜が堆積されている。通常、この金属膜はそのカンチレバーの全幅を覆っている;これは、その膜が上方から堆積されるためであり、パターンを用いず堆積される場合はその膜により着地先が覆われることとなる。
【0052】
これらカンチレバーは、接触プローブをプローブ本体から電気的に絶縁するため誘電素材で作成されている;これにより、そのプローブが複数個の接触プローブを有していても、ある接触プローブから別のそれへと電流が流れ込まないようにしている。
【0053】
図1及び
図2に示したプローブはマイクロ8ポイントプローブであるが、一般には、プローブが何個の接触プローブを有していてもよい;即ち、プローブが4個の接触プローブを有し、それによりマイクロ4ポイントプローブが構成されていてもよいし、12個の接触プローブを有し、それによりマイクロ12ポイントプローブが構成されていてもよい。
【0054】
各カンチレバーが複数個の接触プローブを支持していてもよい。
【0055】
各カンチレバーは、L字形状を有しているので、例えば直状カンチレバーよりも三次元的に可撓である。
【0056】
各カンチレバーの遠位端30(尖端を構成する突端)はプローブ本体12から最も遠くにあり、従ってそれら遠位端・プローブ本体間にはある程度の距離がある。遠位端・プローブ本体間距離は、典型的には5~200μmの範囲内である。
【0057】
カンチレバーの近位端は、遠位端の逆側にあるもの、即ち遠位端から最も遠いものとして定義されている。即ち、遠位端よりも近位端の方がプローブ本体の近くにある。
【0058】
各カンチレバーはその近位端にて平坦本体表面により支持されており、プローブ本体12の前表面32に対し垂直な方向に沿うベクトル成分と、そのプローブ本体の平坦表面に対し平行な(その平坦本体表面に対し共平面的な)カンチレバー平面に沿うそれとを有する態で、プローブ本体から離れる方へと延びている。カンチレバーは、供試標本22に接触すると撓んでそのカンチレバー平面外に出ることがある。
【0059】
それら近位端及び遠位端30を通り延びる軸でカンチレバー軸が構成されている。
図2では、そのカンチレバー軸が、プローブ本体の前表面32の法線に対し0超の角度をなしている(部分的には、そのカンチレバーがL字状なためである)。カンチレバーが直状であってもよく、その場合のカンチレバーは、そのカンチレバー軸が前表面法線に対し平行な態で延びることとなる。
【0060】
このプローブは第1熱検出器を備えている;これは、カンチレバーの左側に見えており、カンチレバーに対し平行に延びている。
【0061】
この熱検出器は、前記平坦表面に対し平行な(その平坦本体表面に対し共平面的な)検出器平面に沿い延びている。
【0062】
その熱検出器は、カンチレバーと同じく前表面32から離れる方に延びている。
図2では、その熱検出器が前表面32の法線に対し平行に延びている。とはいえ、熱検出器が、検出器平面内で前表面32の法線に対し±60°以内の角度をなすこともある。
【0063】
この熱検出器は、プローブ本体に関わるループをなしている;即ち、プローブ本体上で始まりプローブ本体上で終わっている。
【0064】
図2では、その熱検出器が、第1アーム34、第2アーム36及び前セグメント38からなる3個の直状セグメントにより形成されている。2本のアームは前表面32に直交しており、前セグメントはその前表面に対し平行である。
【0065】
第1アームの近位端は前記平坦表面により支持されており、第2アームの近位端はその平坦表面により支持されている。前セグメント38は、第1アームの遠位端と、第2アームの遠位端との間に、延設されている。
【0066】
3個超のセグメントを用いループを形成してもよい;第1の代替例においては、ループがリング状に形成され、それにより円、楕円等の幾何(但し360°全域に亘らないもの)が画定されよう。第2の代替例においては、熱検出器が平板で形成され、その平板の幅及び長さが、3個の直状セグメントによる覆域と同程度以上とされよう。
【0067】
熱検出器の遠位端(検出器端により構成されるそれ)は、プローブ本体12に対しあるアンカー距離αを呈するアンカー位置をとっている。そのアンカー距離(その熱検出器の長さ)は、図上、カンチレバーの遠位端とプローブ本体との間の距離より小さくなっている。
【0068】
考察によれば、熱検出器がプローブ本体からカンチレバー18と同程度に遠くまで延びていてもよい;即ち、その熱検出器の長さが、そのカンチレバーの長さとほぼ同じであってもよい(実質的には、熱検出器の長さがカンチレバーの長さから10%を超えてずれない、という意味である)。
【0069】
同じく考察によれば、熱検出器の長さがカンチレバーの長さを上回っていてもよい。
【0070】
アンカー距離αを200μm未満、例えば180μm未満、160μm未満、140μm未満、120μm未満、100μm未満、更には50μm未満としてもよい。
【0071】
前セグメント38は、図上、あるライン幅βを有しており、これは20nm~20μmの範囲内、例えば100nm~10μm又は1μm~5μmのそれとすることができる。熱検出器の全セグメントをそうした幅範囲としてもよい。
【0072】
この熱検出器は導電体28を支持しており、その熱検出器の表面上に堆積された導電性金属膜によりそれが構成されている。この金属膜は、通常はその熱検出器の全幅を覆っている;即ち、その導電体の幅(例えば前セグメント上でのそれ)がライン幅βに相当しうる。
【0073】
この金属膜は接触プローブと同素材、例えばニッケル、タンタル、アルミニウム、プラチナ、ルテニウム、チタン、コバルト、鉄、タングステン等とすればよい。前記導電体は電気抵抗を有していて、それには温度依存性がある。
【0074】
各接触プローブ(金属膜)は、プローブ本体12上の対応する導電ラインに接続されている。それら導電ラインが接触プローブを接触パッドに接続している;即ち、第1カンチレバー18上の接触プローブ24が第1導電ライン16に電気的に接続され、それが第1接触パッド14に至っている(それら接触プローブ及び導電ラインは、接触パッドからカンチレバーの遠位端に至る連続的な金属膜として堆積させればよい)。
【0075】
同様に、導電体28は、プローブ本体上の第1接触パッドに発し第2接触パッドに戻る金属膜を、熱検出器上に堆積させることで形成すればよい;即ち、プローブ本体上の第1接触パッドとプローブ本体上の第2接触パッドとに関わるループを、第1及び第2接触パッドに接続された2個の端子を有する電気回路にて電気抵抗として用いうるよう、その導電体により形成すればよい。
【0076】
これら接触パッドは、プローブ・試験装置間に電気的接続を確立するためのものである;即ち、試験装置に備わる端子が、プローブがその試験装置内に置かれたときに、そのプローブ上の接触パッドに当接する。この試験装置は、また、電源例えば電流源又は電圧源と、熱検出器の導電体及び接触プローブ上に信号を送る1個又は複数個の電子回路とを、有している。それら電子回路を、1個又は複数個のマイクロプロセッサを以て実現してもよい。
【0077】
試験装置のアクチュエータは、プローブを保持すると共に、やはりその試験装置内に置かれている供試標本を基準としてそのプローブを動かす。
【0078】
そのプローブでの計測中には、一定振幅を有する交流電流が、導電体28内に、その導電体に接続されている電流源により注入される;例えば、その電流を、1Hz~10kHzの範囲内で選定された基本周波数(1次高調波)例えば1kHzを有しある位相を呈する正弦波としてもよい。これに代え、その電流を直流電流としてもよい。
【0079】
電流源に代え電圧源を前記導電体の両端間に接続し、それにより電流をその導電体に流してもよい。
【0080】
この電流は導電体28を室温超の温度まで加熱するためのものであり、10μA~10000μAの範囲内で例えば2000μAの如く選定された振幅を有する電流で以て、その加熱を達成することができる;即ち、その導電体の電気抵抗に送給された電力を熱として放散させることができる。
【0081】
本願の文脈でいう室温は、15℃~30℃の温度、例えば20℃~30℃、20℃~25℃又は25℃~30℃を指している。
【0082】
これに代え、供試標本を前記導電体のそれより高い温度まで加熱してもよい。
【0083】
室温付近では、通常、温度上昇につれて金属の比抵抗が増大する。温度Tが過度に変動しなければ、通常は、R(T)=R0(1+c(T-T0))という線形近似が用いられる;但しcは抵抗の温度係数、T0は固定な基準温度(普通は室温)、R0は温度T0での抵抗である。
【0084】
その上で、そのプローブを供試標本の方へと動かす;これは、初期的には室温である。
【0085】
プローブは、供試標本の表面に対し角度をなしてその供試標本の方へと動かされる;即ち、供試標本表面の法線に対し±90°の角度で以てプローブが動かされよう。或いは、供試標本の表面に対し45°±40°(例えば45°±30°又は45°±15°)なる角度で以てプローブを動かし、供試標本に沿い供試標本の表面に対し平行には動かさないようにしてもよい。
【0086】
プローブが供試標本に達すると、前記導電体にて生じた熱の放散具合が変化する。熱検出器が標本表面から遠く離れているときには、主に、その熱検出器構造に沿った熱伝導を通じプローブ本体内へと熱が放散される。熱検出器が標本表面に近づけば近づくほど、生じた熱のうち空気を通じて標本自体の内部に放散されるものの割合が高くなる。この場合の標本は、一定温度のヒートシンクと見なすことができる。
【0087】
考察によれば、プローブが供試標本に近づくにつれ前記導電体の温度が低下する(その導電体内に注入される電流又はその導電体に加わる電圧は一定に保てる)。この導電体温度低下は、その導電体の電気抵抗低下を意味している。
【0088】
試験装置に備わる電子回路を用い、プローブを供試標本の方へと動かしつつ前記導電体の電気抵抗を計測することができる。その電気抵抗は、その導電体の電気抵抗をそのブリッジ内で用いられる4個の電気抵抗のうち一つとして、ホイートストンブリッジを用い計測すればよい。
【0089】
これに代え、電圧計を用い、前記導電体上での電圧降下を計測してもよい(電流が一定に保持されているときには、その電圧の計測値が電気抵抗の尺度となる)。
【0090】
電圧源を用い一定電圧を前記導電体に印加する場合、その導電体における電流計測値が、導電体28の電気抵抗の尺度となる。
【0091】
電気抵抗の尺度(その電子回路に備わる計測回路により提供される出力)は、供試標本に対しプローブがいかなる近さかについての尺度として用いられる;即ち、その尺度を閾値τと比較すればよい。電気抵抗の尺度が閾値に達したらプローブを停止させる。
【0092】
これに代え、電気抵抗の尺度の変化、或いは電圧降下の変化といった、等価な尺度を、供試標本にプローブがいかなる近さかについての尺度として用いてもよい。
【0093】
前記閾値は、その閾値に達したとき接触プローブが供試標本のそばにあるよう、ひいてはその供試標本に向かう残り行程をある固定距離動かすだけでよいよう、選定される。
【0094】
前記閾値は、或いは、その閾値に達したときに接触プローブが供試標本に接触するよう選定される。
【0095】
接触プローブが供試標本と接触したときに、それら接触プローブ・供試標本間に電気的接続が確立されよう。
【0096】
熱検出器・標本表面間距離は、着地毎且つプローブ毎に300nm以内、好ましくは50nm以内で再現可能とすべきである。
【0097】
前記閾値は、経験的計測を通じ決定してもよいし、熱検出器の長さ(アンカー距離)とカンチレバーの長さ(そのカンチレバーの遠位端・近位端間距離)との間の差異の関数としてそれを判別することにより決定してもよい。
【0098】
或いは、前記導電体内の電流をある値、即ち供試標本が加熱されるほど多くはその導電体が加熱されない値に保ちつつ、その供試標本を加熱してもよい;即ち、その電流を例えば100μA以下としてもよい。
【0099】
プローブを供試標本の方へと動かすにつれ、その供試標本から放散される熱により前記導電体が加熱され、その導電体の電気抵抗が上昇することとなろう。これを前記電子回路で以て計測し、供試標本に対し熱検出器がどれくらい近いかについての尺度として用いればよい;即ち、本方法は導電体加熱時の方法の逆である。
【0100】
同じく考察によれば、供試標本を室温未満の温度まで除熱して熱検出器・供試標本間に温度差をもたらしてもよい。
【0101】
図3に、熱検出器が突起付で提供される代替実施形態を示す。
【0102】
突起40は熱検出器の長さ方向に延びており、ひいてはその熱検出器の遠位端(今や突起40の遠位端に対応)がプローブ本体12からカンチレバーと同程度以上遠くまで延びている;即ち、熱検出器の遠位端がカンチレバーの遠位端と整列している。このようにすると、熱検出器とカンチレバーがほぼ同時に供試標本に接触することになる;プローブが幾らか傾斜しているか否かにより左右される。その上で、その熱検出器を歪ゲージとして代用し、プローブ・供試標本間距離を判別すればよい。
【0103】
更に或いは、その突起があるため、熱検出器を接触プローブとして用いることが可能となる;即ち、その熱検出器に二重又は三重の目的を持たせてもよい。
【0104】
【0105】
このプローブは、第1熱検出器26及びカンチレバーに加え第2熱検出器42を備えているので、そのプローブの潜在的な傾斜、即ちカンチレバーの尖端(遠位端)が供試標本表面に対し平行か否かを、識別することができる。これにより、外寄りのカンチレバーのうち1個が供試標本内に所望より深く入り込むリスクが、低減される。
【0106】
カンチレバーは第1熱検出器・第2熱検出器間にある。
【0107】
第2熱検出器は、先に説明した第1熱検出器と同じやり方で第2導電体を支持している;即ち、温度依存性の電気抵抗を有する第2導電体が、プローブ本体上の第3接触パッドとそのプローブ本体上の第4接触パッドとに関わるループを形成しているので、それを電気回路内で電気抵抗として用いることができる。第2熱検出器の存在により、プローブ本体上の接触パッドの個数が2倍になる。
【0108】
これら2個の熱検出器はできるだけ似せて、即ち同じアンカーポイント/距離及びライン幅で以て、作成するのが理想である。
【0109】
図5に、単一の熱検出器を挟み逆側にカンチレバーが分配配置された代替実施形態を示す。
【0110】
図6に、単一のカンチレバーが用いられる代替実施形態を示す。
【0111】
この単一カンチレバーは、電気絶縁性のメンブレン44、例えば酸化膜で構成されている。この単一カンチレバーは第1接触プローブ24を支持している。その第1接触プローブの隣には他の7個の接触プローブが示されている。メンブレン44は、図上、熱検出器の導電体28を支持しているが、その第1メンブレンとは別の第2メンブレンにより導電体28を支持してもよい。
【0112】
第1接触プローブは自身の遠位端を有しており、その遠位端がメンブレンエッジ46まで、即ちプローブ本体から最も遠いところまで延びている。他の接触プローブもそのメンブレンエッジまで延びている。
【0113】
熱検出器26の遠位端は、メンブレンエッジ46に対しある距離を有しているが、そのメンブレンエッジに至る全行程に亘り延びていてもよい。
【0114】
このメンブレンがあるため、接触プローブを小さめのライン幅で以て堆積させることが可能となる;即ち、カンチレバー同士を近づけることができ、個別の接触プローブそれぞれに係るカンチレバー幅が他より狭いためそれらが破壊することもない。その第1エッジに沿った接触プローブ尖端間距離を、1μm未満としてもよい。
【0115】
メンブレン44上の導電体28は、図上、プローブ本体12に関わるループをなしている。
【0116】
【0117】
メンブレン44はカンチレバー18により支持されている。合計8個のカンチレバーが、
図7に描かれている通り、そのメンブレンを支持するのに用いられている。
【0118】
それらカンチレバー及びメンブレンによりプローブ本体に関わるループが形成されるので、メンブレンがプローブ本体により支持される
図6に示したプローブに比べ、その構造がより可撓になる。
【0119】
第1カンチレバー18は接触プローブを支持しており、それがメンブレン上へと延びメンブレンエッジ46に至る全行程に亘っている。
【0120】
真ん中にある2個のカンチレバーはそれぞれ金属膜を支持しており、それがメンブレン上へと延びそのメンブレン上で一体化されることで、プローブ本体に関わるループを形成する導電体28が形成されている。導電体28が温度依存性電気抵抗を有していてもよく、
図1~
図6に関し上述したのと同じやり方でそれを熱検出器として用いてもよい。
【0121】
それら金属膜はメンブレン上で接合されており、そこはメンブレンエッジからある距離のところにある。その接合点からは、突起40がメンブレンエッジに向かい接触プローブ24と平行に延びている;即ち、導電体28に突起40が組み込まれている。突起40に歪ゲージの機能を担わせてもよく、またそれを用いプローブ・供試標本間距離を判別してもよい。加えて、導電体28を他の接触プローブと共に接触プローブとして用いてもよい;即ち、
図3との関連でも述べた通り、この導電体は三重の目的を有している。
【0122】
メンブレン44があるため、接触プローブ同士を近付けて配置することができる。導電体28も接触プローブとして働くため、
図7中のプローブには合計7個の接触プローブが備わることとなり、またそれらがそのメンブレン上で互いに平行に且つ近接して延びている(接触プローブが個別のカンチレバーにより支持される場合よりも近接している)。
【0123】
【0124】
各プローブは、
図2~
図7のうち何れかとの関連で述べたプローブのうち一つ、例えば
図2との関連で述べたプローブに相当している。計測ルーチンも、
図2との関連で述べた如く実行されている。
【0125】
それら5個のプローブには製造公差に係る違いがある;即ち、アンカー位置(その熱検出器の遠位端からプローブ本体までのアンカー距離α)、その熱検出器の遠位端における導電体のライン幅β、並びに導電体28の厚みが、プローブ毎に異なっている(プローブの寸法はμm域であり、これは厳密に同じアンカー距離及びライン幅で以て各プローブを製造するのが難しいことを意味している)。
【0126】
プローブ1、2及び3に備わる熱検出器は、Ni製で90nm厚の導電体28を有している。
【0127】
プローブ4及び5に備わる熱検出器は、Ni製で110nm厚の導電体28を有している。
【0128】
計測の際には、各プローブを供試標本の方へと動かしつつ、熱検出器に備わる導電体を電流で以て加熱する。各グラフは、電気抵抗計測値を供試標本までの距離の関数として示したものである。プローブが供試標本に近づくにつれ電気抵抗は低下している。
【0129】
これら5個のグラフは、5個のプローブの幾何寸法が異なるため、互いにオフセットしている。更に、各プローブの感度には違いがあり、傾斜の異なる接線で以てそのことが描かれている(
図8ではプローブ3及び5に関し0mの距離付近に接線が示されている)。
【0130】
図9に、
図8に示した計測結果それぞれの正規化結果を示す。この記述中、語「正規化」及び「リスケーリング」は互換的に用いられている。
【0131】
図8中のグラフと比べ、
図9中のグラフはオフセットが小さく且つ接線の差異が小さい。
【0132】
正規化の際には、
図8中でΩと表記されている電気抵抗計測値R(T)が検出器幾何の幾何寸法、即ちアンカー距離及びライン幅に関し正規化される。電気抵抗計測値を単一のパラメタで以て正規化してもよい。
【0133】
図8中のグラフ間のオフセットはライン幅及び金属(この場合Ni)膜厚の関数、感度はアンカー距離、ライン幅及び金属膜厚の関数である。
【0134】
各プローブの熱検出器のライン幅は、メートル単位の物理寸法として計測すればよい。これに代え、熱検出器の温度を可計測形態にて変化させないよう十分小さな電流で以て室温にて計測された電気抵抗により、ライン幅を表してもよい(室温における導電体上での電圧降下であり、これを値V0とする)。
【0135】
各プローブの熱検出器のアンカー距離も、メートル単位の物理寸法として計測すればよい。これに代え、室温にて計測された電気抵抗と、室温超の温度(例えば室温を5℃又は10℃上回る温度であり、その熱検出器内を通る電流により左右される)にて計測された電気抵抗と、の差異により、アンカー距離を表してもよい。
【0136】
例えば、1回目の計測では、第1振幅(例えば100μA)を有する第1電流を前記導電体内に注入し、その導電体の相当な電気抵抗を計測する。
【0137】
2回目の計測では、第2振幅(例えば1000μA)を有する第2電流をその導電体内に注入し、その導電体の相当な電気抵抗を計測する(より高い温度における導電体上での電圧降下であり、これを値VTとする)。第2電流によりその導電体の温度が室温超の温度に高まる。
【0138】
この後は、これら二通りの計測結果間の相違を値ΔV=V0-VTとし用いることで、アンカー距離を表すことができる。
【0139】
それら計測値V0及びΔVを用いることで、その導電体の電気抵抗の尺度を、例えば各出力の二乗で以てそれを除することでリスケーリングすることができる。
y=f(R,V0,VT)=R(T)/(V0
2ΔV2)
【0140】
この電気抵抗リスケーリング値yは、電気抵抗計測値、室温にて計測された電気抵抗、並びに室温超の温度での電気抵抗の関数である。
【0141】
これに代え、電気抵抗計測値R(T)とR’との差異を用い、電気抵抗リスケーリング値を計算してもよい;但し、R’は、前記導電体の電気抵抗が供試標本の近接度に影響されないようその標本から十分遠い距離にて計測された電気抵抗である。
図8におけるR’は、その標本から最大限に遠くでなされた計測、例えば100μmでの計測で得られた電気抵抗とされよう。
【0142】
この場合は
y=f(R,V0,VT)=(R(T)-R’)/(V0
2ΔV2)
となる。
【0143】
上掲の電気抵抗リスケーリング値y、即ち
図9に示したそれは、電気抵抗計測値R(T)とR’との差異、室温にて計測された電気抵抗、並びに室温超の温度での電気抵抗の関数である。
【0144】
図8中のグラフに比べると、このリスケーリングにより計測結果同士が近くなっている;即ち、
図9中のグラフ間のオフセットは小さくなっており、5個のプローブ間の感度差も小さくなっている。
【0145】
図10に、前記導電体の電気抵抗計測値の再リスケーリング結果を示す。
【0146】
図9中のリスケーリング後グラフに比べ、
図10中のグラフは、更にオフセットが小さく接線の差異が小さいものとなっている。
【0147】
再リスケーリングの際には、前記導電体の厚みω、即ち熱検出器上に堆積された金属膜層の厚みにより電気抵抗計測値がリスケーリングされる(両者が乗算される)。この厚みは、堆積プロセスでわかることもあれば、電気計測にて求まることもある。
【0148】
厚みωを用い、前記導電体の電気抵抗正規化値y1を再スケーリングするには、例えばその厚みの二乗をそれに乗ずればよい。
y1’=f(R,V0,VT,ω)=R(T)/(V0
2ΔV2)ω2
【0149】
即ち、電気抵抗再リスケーリング値y1’は、電気抵抗計測値、室温にて計測された電気抵抗、室温超の温度での電気抵抗、並びに前記導電体の厚みの関数である。
【0150】
別例に係る再リスケーリングでは、電気抵抗リスケーリング値yが前記導電体の厚みω、即ち熱検出器上に堆積された金属膜層の厚みの二乗によりリスケーリングされる(両者が乗算される)。
y’=f(R,V0,VT)=(R(T)-R’)/(V0
2ΔV2)ω2
【0151】
即ち、
図10に示した電気抵抗再リスケーリング値y’は、電気抵抗計測値とR’との差異、室温にて計測された電気抵抗、室温超の温度での電気抵抗、並びに前記導電体の厚みの関数である。
【0152】
図9中のグラフに比べると、この正規化により計測結果同士が近くなっている;即ち、
図10中のグラフ間のオフセットは小さくなっており、5個のプローブ間の感度差も小さくなっている。
【0153】
【0154】
各プローブは、閾値(-1.000~-2.000の範囲内で選択される値であり、この場合はτ=-1.600としてある)に達すると停止される。
【0155】
この拡大図に示す通り、正規化しても、5個のプローブによる計測結果がそっくりになるとは限らないし、それらプローブが止まるところが、供試標本に対し異なる位置/距離となる。どういった閾値でプローブを停止させても、接触プローブが供試標本に最も近い状態で止まったプローブ(プローブ1)と、接触プローブが供試標本から最も遠い状態で止まったプローブ(プローブ5)と、の間には相応の差異(誤差ε)が生じる。閾値τ=-1.600ではその差異が200nmとなる。
【0156】
どういった閾値にすれば誤差εがある特定の(第2)閾値未満になるかを判別するには、多数のプローブで以て多数回の計測を実行すればよい。プローブが供試標本内に深く入り過ぎるのは望ましくないので、ある程度の誤差(例えば200nm)は許容されうる。
【0157】
即ち、そのプローブをいつ止めるかを決定付ける閾値τを、誤差εの関数として、例えば上述した5個のプローブによる経験的実験により決定すればよい;即ち、誤差εがある値(例えば200nm、100nm又は50nm)を下回っているときに、前記導電体の電気抵抗、即ちその誤差がその値未満となったときに計測された電気抵抗を、そのプローブをいつ止めるかに関する閾値として、計測対象となる供試標本の実計測にて用いればよい。
図11に示した経験的実験では、決定される閾値が上述の如くτ=-1.600となる。
【0158】
リスケーリングを実行し終えた後は、同じ設計を有する熱検出器、即ち同じ幾何、同じ寸法、例えば製造公差内のアンカー距離及びライン幅、同じ素材を有する熱検出器全てで、それを用いればよい。熱検出器が突起を有している場合は、その突起の幾何も(製造公差内で)同じでなければならない。
【0159】
熱検出器を校正し終えたら、即ち距離対熱信号関係を計測し終えたら、同じ設計を有する他の全ての熱検出器を、そのリスケーリングの益を受けつつ校正する。熱信号とは前記導電体の抵抗計測値R(T)のことであり、一例が
図8に示されている。
【0160】
即ち、重要なことに、その校正によって、その設計を有する熱検出器全てに関し計測された所与熱信号の何れでも、供試標本の表面までの距離を知ることが可能となる。
【0161】
前記導電体の電気抵抗の温度依存成分に関する代替的な計測手順として、高次高調波フィルタリングを提案する。
【0162】
この方法では、導電体28の電気抵抗が、その導電体に注入された交流電流を用い計測される;即ち、その電流を、1Hz~10kHzの範囲内で選定された基本周波数(1次高調波)例えば1kHzを有しある位相を呈する正弦波とすればよい。
【0163】
その電流を用い前記導電体を加熱すること、或いはその他の手段を用いることで、上述の通り導電体・供試標本間に温度差を確立することができる。
【0164】
その後は、その導電体の電気抵抗を、電子回路例えばホイートストンブリッジ又は電圧計を用い計測する。
【0165】
その後、その電気抵抗計測値を、1次高調波の2次高調波より低いカットオフ周波数を有するハイパスフィルタによりフィルタリングする;即ち、より高次な高調波に対し1次高調波を抑圧する。これに代え、ある特定の高次高調波(例えば2次高調波)を中心とするバンドパスフィルタで以てその電気抵抗計測値をフィルタリングすることで、選定された高調波成分が1次高調波に対し増幅されるようにすることもできる。
【0166】
その後は、そのフィルタリング済信号を、熱検出器・供試標本間近接度に係る尺度として用いればよい。即ち、プローブを供試標本の方へと動かしているときに、そのフィルタリング済信号が閾値に達したら、そのプローブを止める。こうした閾値は、上述の通り経験的に決めればよい。
【0167】
以下に示すのは、本発明の詳細記述にて、また本発明の詳細記述中で参照された図面にて、用いられている参照符号のリストである。
【符号の説明】
【0168】
α アンカー距離、β 熱検出器のライン幅、ω 導電体の厚み即ち金属膜厚、10 プローブ、12 プローブ本体、14 接触パッド、16 導電ライン、18 カンチレバー、22 供試標本、24 接触プローブ、26 熱検出器、28 導電体、30 遠位端、32 前表面、34 第1アーム、36 第2アーム、38 前セグメント、40 突起、42 第2熱検出器、44 メンブレン、46 メンブレンエッジ、48 検出器端。