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  • 特許-窒素含有金属合金を精製するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】窒素含有金属合金を精製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/20 20060101AFI20230131BHJP
   C22B 23/06 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C22B9/20
C22B23/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020533825
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018085849
(87)【国際公開番号】W WO2019121921
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】17210039.8
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルデン, ベッティル
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-303016(JP,A)
【文献】米国特許第05930284(US,A)
【文献】特開昭53-046411(JP,A)
【文献】特開2000-273556(JP,A)
【文献】米国特許第04007770(US,A)
【文献】特表平09-501736(JP,A)
【文献】米国特許第04578795(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内で消耗電極のアーク再溶解を使用して窒素含有金属合金を精製するための方法であって、
金属合金の消耗電極を用意すること;
第2の電極を用意すること;
炉内に制御雰囲気を供給すること;
消耗電極と第2の電極の間にアークを生じさせて、消耗電極を溶融し、それによって溶融金属合金プールを形成させること;
消耗電極と溶融金属合金プールの間にアークを維持すること;
溶融金属合金を鋳型に送り、精製された金属合金のインゴットを鋳造すること
を含み、制御雰囲気を供給することが、1~500PaのArガス圧で炉にArガスを流すことを含む、方法。
【請求項2】
Arガス圧が2~500Paである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Arガス圧が、1~100Paである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
消耗電極と溶融金属合金プールの間の電極ギャップが、アークが安定で拡散した状態に維持されるように制御される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
電極ギャップが、5~15mmの範囲内である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
液滴短絡制御を用いて電極ギャップを制御することを含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
アークを生じさせる前に、炉を通るArガスの安定した流れを確立することを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
炉にArガスを流すことが、一定または本質的に一定のArガス圧でArガスを連続的に流すことを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アークを維持するために使用される平均アーク電圧が、20~25Vの範囲内である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
金属合金が、ステンレス鋼合金、超合金または高合金鋼合金である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
金属合金の窒素含有量が、0.001~0.20重量パーセント(重量%)である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極のアーク再溶解を使用して窒素含有金属合金を精製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空アーク再溶解(VAR)は、クリープおよび疲労に対するより優れた耐性を達成するための、金属合金を精製するために使用する方法である。VAR方法では、精製する金属合金の消耗電極は、VAR炉の真空チャンバー内に配置され、消耗電極の下に第2の電極が置かれ、電極間にアークが生じる。それによって、消耗電極は溶け始め、溶融金属合金プールが形成する。アークは、消耗電極と溶融金属合金プールの間に維持され、溶融金属合金は鋳型に送られ、精製された金属合金のインゴットが鋳造される。US4578795は、VAR方法および炉の例を開示している。
【0003】
特に、VARは、例えば航空宇宙用途、または石油およびガス産業に使用される金属合金、例えばステンレス鋼合金、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)をベースとした超合金、および高合金鋼合金などを精製するために使用されている。VAR方法では、非金属介在物ならびに有害元素、揮発性元素は、金属合金から除去することができる。しかしながら、VAR方法では、VAR炉内が低圧であるため、金属合金に有益な効果を有する揮発性元素も、揮発し失われることがある。例えば、金属合金の窒素(N)含有量は、通常、VAR方法中に減少する。多くの場合、金属合金の窒素溶解度を超えることなく消耗電極の金属合金中の窒素の含有量を増加させることは不可能であり、その結果、ブリスターが形成される。ブリスターは、炉室内に振動および不安定な真空圧を引き起こすことにより、VAR方法に悪影響を与える。
【0004】
合金によっては、アーク再溶解は、窒素損失を減らすために、炉内で例えば30kPaのArガス圧で行なわれる。しかしながら、これは、不安定なアークおよびかなりの振動を生じさせ、生成し得るインゴットの大きさを制限することが分かっている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第一の目的は、消耗電極のアーク再溶解を使用して窒素含有金属合金を精製するための方法を提供することであり、その少なくとも一部の態様では、上述の欠点が軽減される。特に、1つの目的は、精製された金属合金が精製前の金属合金のものに近い窒素含有量を得ることができるように、金属合金の窒素含有量の減少を低下させることができる方法を提供することである。
【0006】
少なくとも第一の目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。方法の有利な実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0007】
1~500Paの比較的低圧で炉にArガスを流すことによって、窒素(N)の揮発が防止され、それによってアーク再溶解方法中の金属合金中のNの減少が低下する。精製された金属合金は、消耗電極の非精製の金属合金のものに近いN含有量を得ることができる。
【0008】
アルゴン(Ar)圧力および他の方法パラメーター、例えば消耗電極と溶融金属合金プールの間のアーク電圧および電極ギャップは、安定で拡散したアークが消耗電極と溶融金属合金プールの間で維持されるようなものでなければならない。Arガス圧は、プラズマが発生しないように十分に低くしなければならない。プラズマは、アークが収縮し、それによって静止することになり、消耗電極の望ましくない溶融および窒素揮発の増加をもたらす可能性がある。Arガス圧を十分に低く保持することによって、アークは、消耗電極の表面をすぐにスキャンでき、それによって溶融方法は、制御が容易である。
【0009】
一実施形態によれば、Arガス圧(PAr)>2Paである。別の実施形態によれば、PAr≧5Paである。別の実施形態によれば、PAr≧10Paである。別の実施形態によれば、PAr≧20Paであり、さらに別の実施形態によれば、PAr≧50Paである。十分なArガス圧が存在すると、目的とする技術的効果、すなわち金属合金中のNの揮発の大幅な防止が達成されることが保証されることになる。
【0010】
前述のように、Arガス圧は、高すぎないほうがよい。一実施形態によれば、PAr≦500Paである。一実施形態によれば、PAr≦400Paである。一実施形態によれば、PAr≦300Paである。一実施形態によれば、PAr≦200Paである。
【0011】
一実施形態によれば、Arガス圧は、2~500Paである。一実施形態によれば、Arガス圧は、1~100Paである。別の実施形態によれば、Arガス圧は、2~50Paであり、さらに別の実施形態によれば、Arガス圧は、5~50Paである。
【0012】
電極ギャップは、好ましくは5~15mm、より好ましくは7~12mm、さらにより好ましくは8~10mmの範囲内であってもよい。
【0013】
アークを維持するのに使用される平均アーク電圧は、20~25Vの範囲内であってもよい。
【0014】
一実施形態によれば、方法は、液滴短絡制御によって電極ギャップを制御することを含む。本明細書において、液滴短絡制御とは、液滴短絡設定値、すなわち液滴短絡頻度または液滴短絡期間を維持することによって電極ギャップが制御される方法を意図している。液滴短絡制御は、電極ギャップの制御を促進する。例えば、液滴短絡頻度は、0.5~10秒-1、例えば1~4秒-1に設定することができる。電極ギャップは、あるいは、電圧制御を使用して、すなわち電圧設定値を維持することによって制御することができる。
【0015】
一実施形態によれば、方法は、アークを生じさせる前に、炉を通るArガスの安定した流れを確立することを含む。この点に関して、安定は、定義されたArガス圧範囲内、またはその事前定義された部分領域内を単に変動していると言うことができる。これは、安定で拡散したアークを生じさせて維持し、安定した溶融速度を得るための条件を改善することになる。
【0016】
一実施形態によれば、炉にArガスを流すことは、一定または本質的に一定のArガス圧でArガスを連続的に流すことを含む。「本質的に一定」とは、本明細書において、Arガス圧が、所望のArガス圧値から±10%を超えて逸脱できないことを意味するものである。溶融中に一定または本質的に一定なArガス圧を維持することによって、不安定なアークを生じ得る振動を防ぐ。
【0017】
金属合金は、ステンレス鋼合金、鉄(Fe)、コバルト(Co)もしくはニッケル(Ni)をベースとした超合金、または高合金鋼合金であってもよい。特に、金属合金は、窒素含有量が少なくとも0.001~0.20重量パーセント(重量%)、好ましくは0.025~0.10重量%の金属合金であってもよい。溶存窒素は金属窒化物に固定された窒素よりもVAR中に散逸する可能性が高いので、方法は、窒素が金属合金に溶解している金属合金に特に有用である。
【0018】
本発明のさらなる利点ならびに有利な特徴は、以下の詳細な説明から明らかになる。
【0019】
本発明の実施形態を、以下において、添付図を参照して例を用いてさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態による方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態による、炉内で消耗電極のアーク再溶解を使用して窒素含有金属合金を精製するための方法を、図1のフローチャートに概略的に示す。この方法は、以下の工程:
A:金属合金の消耗電極を用意する工程;
B:第2の電極を用意する工程;
C:1~500PaのArガス圧で炉にArガスを流すことを含む、炉内に制御雰囲気を供給する工程;
D:消耗電極と第2の電極の間にアークを生じさせて、消耗電極を溶融し、それによって溶融金属合金プールを形成させる工程;
E:消耗電極と溶融金属合金プールの間にアークを維持する工程;および
F:溶融金属合金を鋳型に送り、精製された金属合金のインゴットを鋳造する工程
を含む。
【0022】
精製する金属合金からなる消耗電極は、例えばステンレス鋼合金、鉄(Fe)、コバルト(Co)もしくはニッケル(Ni)をベースとした超合金、または高合金鋼合金であってもよい。金属合金は、窒素含有量が少なくとも0.001~0.20重量パーセント(重量%)、例えば0.025~0.10重量%であってもよい。消耗電極は、円筒形であってもよい。
【0023】
消耗電極は、VAR炉の炉室内の冷却したるつぼ、例えば水ジャケットに囲まれた水冷るつぼ内に配置される。るつぼの内径は、消耗電極の直径よりも大きい。駆動機構は、炉内の消耗電極の位置を制御するために使用され、消耗電極が溶けるにつれてそれを下げるために使用される。
【0024】
第2の電極は、一実施形態によれば、消耗電極と同じ金属合金を含むが、別の実施形態によれば、異なる金属合金から形成してもよく、それは、第2の電極からの金属合金を含む形成されたインゴットの一部は、精製された金属合金の残りのインゴットから容易に分離できるからである。第2の電極は、冷却されたるつぼ内の消耗電極の下に配置されている。ギャップは、電極間に形成され、そのギャップは駆動機構を使用して制御することができる。
【0025】
Arガス圧は、1Paまで低くなることがあるが、他の実施形態によれば、少なくとも2Paまたは少なくとも5Paとなり得る。Arガス圧は、500Pa以下であってもよいが、最大100Paまたは50Paに制限される場合がある。Arガスは、第2の電極の上の位置で炉に入れることができるので、アークが生じたときにArガスは溶融金属合金プールの上に流れる。アークを生じさせる前に安定なArガス圧が確立されることが好ましい。Arガス圧は、Arガスを溶融金属合金プール上に連続的に流すことにより、好ましくはアーク再溶解方法中に一定または本質的に一定に維持され、それによってアークを安定に保つことに寄与する。
【0026】
アークは、消耗電極に電流を通すことにより生じさせることができる。第2の電極を地電位に維持しながら、負電圧を消耗電極に印加する。電圧、電流および/または電極ギャップは、安定で拡散したアークを維持するために制御することができる。一実施形態によれば、電極ギャップは、液滴短絡制御を用いて、すなわち液滴短絡の所望の検出速度に基づいて電極ギャップを制御することによって制御される。そのような液滴短絡制御は、例えばUS4578795に記載されている。
【0027】
電極が配置されている冷却されたるつぼは、鋳型を形成し、その中で溶融金属合金が凝固してインゴットが鋳造される。鋳造されたインゴットは、したがって、直径が消耗電極よりも大きい。
【実施例
【0028】
実施例1
直径が400mmの2つの消耗電極は、標準UNS N06985に対応する元素組成をもつ試験合金、すなわちMo含有量が比較的高く、CoおよびCuを添加した安定化オーステナイトNiCrFe合金で作製された。再溶解前に、試験合金は、0.037重量パーセント(重量%)のNを含有していた。
【0029】
1つ目の消耗電極は、真空中、すなわち溶融金属合金プール上にArを流さずにVARを使用して再溶解した。炉内の圧力は、約0.15Paであった。安定した溶融速度は、9kAの電流、20~21Vの電圧および6kg/分の溶融速度で液滴短絡制御(3.5秒-1)を使用して達成された。
【0030】
2つ目の消耗電極は、溶融金属合金プール上にArを流しながらアーク再溶解を使用して再溶解した。再溶解方法中、Arガス圧を変化させ、異なるレベルで安定化させた。Arガス圧が200Paを超えて増加するにつれてアークが不安定になり(溶融速度が減少)、プラズマは10kPaのArガス圧で生成され、液滴短絡頻度が急速に増加したことに留意した。
【0031】
得られた再溶解した試験合金のインゴットから、炉内の種々のArガス圧に対応する位置で試料を採取し、元素組成に関して分析した。N含有量に関する分析の結果を表Iに示す。見てわかるように、5Paおよび170PaのArガス圧は、再溶解前と同様のN含有量を維持するために特に有益であると思われることがわかった。試験合金の他の合金化元素は、再溶解方法に大幅に影響を受けなかった。
【0032】
実施例2
消耗電極は、Sanicro 28(標準UNS N08028)に基づく組成をもつ試験合金、すなわちMo、MnおよびCuを添加したオーステナイトNiCrFe合金から形成した。再溶解前に、試験合金は、0.085重量パーセント(重量%)のNを含有していた。
【0033】
消耗電極は、5Paの安定したArガス圧で溶融金属合金プール上にArを流しながらアーク再溶解を使用して再溶解した。7.5kAの電流および22.2Vの電圧で液滴短絡制御(3秒-1)を使用して4.8kg/分の安定した溶融速度を達成した。10.5kAの電流および22.5Vの電圧で液滴短絡制御(1.5秒-1)を使用して7.5kg/分の第2の安定した溶融速度を達成した。
【0034】
再溶解後、再溶解したインゴットから試料を採取し、元素組成に関して分析した。N含有量が0.085重量%から0.077重量%に減少し、すなわち9%低下したことがわかった。相対的に、対応する合金の真空での再溶解中、N含有量が0.096重量%から0.080重量%に減少し、すなわち17%低下した。
【0035】
本発明は、当然上述の実施形態に決して限定されるものではないが、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱しない、その変更に対する多くの可能性が当業者には明らかであろう。
図1