(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】還元型グルタチオンの結晶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 5/037 20060101AFI20230131BHJP
C07K 5/08 20060101ALI20230131BHJP
C07K 1/18 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
C07K5/037
C07K5/08
C07K1/18
(21)【出願番号】P 2021155974
(22)【出願日】2021-09-24
(62)【分割の表示】P 2018505889の分割
【原出願日】2017-03-10
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2016053844
(32)【優先日】2016-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 一成
(72)【発明者】
【氏名】井口 茉耶
(72)【発明者】
【氏名】長野 宏
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-283994(JP,A)
【文献】特開昭61-027999(JP,A)
【文献】特開昭60-258199(JP,A)
【文献】特開昭52-131528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
CAPLUS/WPIDS/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、L-システイニル-L-グリシンのピーク面積が0.02以下であ
り、かつHPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、酸化型グルタチオンのピーク面積が0.7以下である、還元型グルタチオンの結晶。
【請求項2】
HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、他のピークの総面積が1.0以下である、請求項
1に記載の還元型グルタチオンの結晶。
【請求項3】
HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、酸化型グル タチオンのピーク以外の他のピーク面積が各々0.08以下である、請求項
1または2に記載の還元型グルタチオンの結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物、特にL-システイニル-L-グリシンの含有量が低減した還元型グルタチオンの結晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(γ-L-グルタミル-L-システイニル-L-グリシン)は生物に広く存在する還元性化合物であり、肝臓において解毒作用を有することが知られている。このため、グルタチオンは医薬品、健康食品及び化粧品等の製品、原料または中間体として広く用いられている。
【0003】
グルタチオンの製造方法としては、酵母などの微生物を用いた発酵法、及び酵素法(非特許文献1)などが知られているが、副生物として類似構造を持つ類縁不純物を生成するという問題がある。
【0004】
グルタチオンの精製法としては、亜酸化銅と銅塩を形成させる方法や強酸性イオン交換樹脂に吸着させて酸または塩基で溶出させる方法(特許文献1~3)、弱塩基性陰イオン交換樹脂を通過させる方法(特許文献4)が知られているが、グルタチオンは加熱、酸化、pH変動等により、容易に反応または分解して多数の不純物を生成させる。
【0005】
これらの不純物の中でも、特に、L-システイニル-L-グリシンは、様々な疾患の原因となるフリーラジカルを発生させることが知られている(非特許文献2、3)。また、厚生労働省による医薬品原薬の不純物に関するガイドラインでは、原薬の最大一日投与量によっては、グルタチオンに含まれるそれぞれの不純物を、最小で0.05%以下に低減することが求められている。
【0006】
このように、医薬品や食品原料としてのグルタチオンには、安全性の面から、不純物の低減が強く望まれている。グルタチオンの精製法として、特許文献5には、システインやγ-グルタミルシステインといった特定の不純物を除去する方法が開示されている。しかし、これまでに、L-システイニル-L-グリシンを除去する方法についての報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特公昭44-239号公報
【文献】日本国特公昭45-4755号公報
【文献】日本国特公昭46-2838号公報
【文献】日本国特公昭45-27797号公報
【文献】日本国特開昭61-282397号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Appl. Microbiol. Biotechnol., 66, 233 (2004)
【文献】J Investig Med., Vol 47,No.3, 151-160 (1999)
【文献】BioFactors., 17, 187-198 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、従来の方法では、L-システイニル-L-グリシンを低減させることは困難であった。したがって、本発明は、不純物、特にL-システイニル-L-グリシンの含有量が低減した還元型グルタチオンの結晶及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の(1)~(7)に関する。
(1)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対してL-システイニル-L-グリシンのピーク面積が0.02以下である、還元型グルタチオンの結晶。
(2)HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、酸化型グルタチオンのピーク面積が0.7以下である、(1)に記載の還元型グルタチオンの結晶。
(3)HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、他のピークの総面積が1.0以下である、(1)または(2)に記載の還元型グルタチオンの結晶。
(4)HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、酸化型グルタチオンのピーク以外の他のピーク面積が各々0.08以下である、(1)~(3)のいずれか1に記載の還元型グルタチオンの結晶。
(5)HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対してL-システイニル-L-グリシンのピーク面積が0.02以下である還元型グルタチオンの結晶の製造方法であって、還元型グルタチオン含有水溶液を高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させた後、該水溶液を回収し、該水溶液中に還元型グルタチオンの結晶を析出させ、該水溶液から還元型グルタチオンの結晶を採取することを特徴とする製造方法。
(6)高架橋度陽イオン交換樹脂が、12%以上の架橋度を有する陽イオン交換樹脂である、(5)に記載の製造方法。
(7)陽イオン交換樹脂が、スルホン基を陽イオン交換基とする陽イオン交換樹脂である、(5)または(6)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、不純物、特にL-システイニル-L-グリシンの含有量が低減した還元型グルタチオンの結晶及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、還元型グルタチオン含有水溶液中のL-システイニル-L-グリシンの増加プロファイルを表わす。縦軸は、該水溶液のHPLC分析における、還元型グルタチオンのピーク面積100に対するL-システイニル-L-グリシンのピーク面積を、横軸は時間(h)を表わす。
図1において、白丸は40℃、黒ひし形は25℃の結果を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.本発明の結晶
本発明の還元型グルタチオンの結晶(以下、本発明の結晶ともいう)は、HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対してL-システイニル-L-グリシンのピーク面積が0.02以下、好ましくは0.015以下、より好ましくは0.01以下、最も好ましくは0.006以下である。
【0014】
本発明の結晶は、HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、酸化型グルタチオンのピーク面積が、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.5以下である。
【0015】
本発明の結晶は、HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、他のピークの総面積が、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下、最も好ましくは0.7以下である。
【0016】
本発明の結晶は、HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、酸化型グルタチオンのピーク以外の他のピーク面積が、各々好ましくは0.08以下、より好ましくは0.06以下、さらに好ましくは0.04以下、最も好ましくは0.02以下である。
【0017】
HPLC分析とは、分析対象である化合物を溶媒に溶解してHPLCによる分析に供することを意味する。HPLC分析としては、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン、及びL-システイニル-L-グリシンを同時に検出することができる分析方法であれば、分析条件等は特に限定されず、好ましくは210nmの吸光度を検出・測定するHPLC分析方法を挙げることができ、より好ましくは、以下のHPLC分析例に記載のHPLC分析方法を挙げることができる。
【0018】
[HPLC分析例]
HPLC分析中における不純物の増加を防止するために、サンプル溶解からHPLCで分析するまでの時間は10分以内とする。また、HPLCのサンプルラックは10℃以下に冷却する。当該条件における定量限界と検出限界は、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して0.001である。
使用機器:システムコントローラ(CBM-20A)、検出器(SPD-20A)、ポンプ(LC-20AD)、オートサンプラー(SIL-20ACHT)、カラムオーブン(CTO-20AC)、デガッサ(DGU-20A)(いずれも島津製作所社製)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長210nm)カラム:Inertsil ODS-3 粒径3μm 3.0×150mm(GL Sciences Inc.)
移動相:0.20W/V%の1-ヘプタンスルホン酸ナトリウム、0.66W/V%のリン酸二水素カリウムを含む、3W/V%メタノール溶液(リン酸でpH3.0に調整)
リン酸二水素カリウム 6.8g、1-へプタスルホン酸ナトリウム 2.02gをPFW1000mLに溶解し、リン酸を加えてpH3.0に調整し、この液970mLにメタノール30mLを加えることにより、移動相を調製する。
カラム温度:35℃流速:0.4~0.7mL/min(還元型グルタチオンの保持時間が約5分になるように調整する)
試料注入量:30μL試料調製方法:サンプル約0.05gを秤量し、移動相100mLに溶解したものを試料とする。
【0019】
ピーク面積とは、HPLC分析を行ったとき、ベースラインとピークラインで囲まれた部分の面積のことをいい、HPLC分析によって検出された化合物ごとに求めることができる。
【0020】
本発明の結晶としては、HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、L-システイニル-L-グリシンのピーク面積が0.02以下であることに加え、さらに酸化型グルタチオンのピーク面積が好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.5以下である、還元型グルタチオンの結晶が挙げられる。
【0021】
また、本発明の結晶としては、HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面100に対して、L-システイニル-L-グリシンのピーク面積が0.02以下であることに加え、さらに他のピークの総面積が、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下、最も好ましくは0.7以下である、還元型グルタチオンの結晶が挙げられる。
【0022】
また、本発明の結晶としては、HPLC分析において、還元型グルタチオンのピーク面積100に対して、L-システイニル-L-グリシンのピーク面積が0.02以下であることに加え、さらに酸化型グルタチオンのピーク以外の他のピーク面積が、各々好ましくは0.08以下、より好ましくは0.06以下、さらに好ましくは0.04以下、最も好ましくは0.02以下である、還元型グルタチオンの結晶が挙げられる。
【0023】
本発明の結晶としては、具体的には、例えば、HPLC分析における各化合物の保持時間とピーク面積が、表3(実施例3及び4)に示す数値で表される還元型グルタチオンの結晶を挙げることができる。
【0024】
2.本発明の結晶の製造方法
本発明の結晶の製造方法は、還元型グルタチオン含有水溶液を高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させた後、該水溶液を回収し、該水溶液中に還元型グルタチオンの結晶を析出させ、該水溶液から還元型グルタチオンの結晶を採取することを特徴とする、還元型グルタチオンの結晶の製造方法である。
【0025】
本発明の製造方法に用いる還元型グルタチオン含有水溶液は、発酵法、酵素法、天然物からの抽出法、化学合成法等のいずれの製造方法によって製造されたものであってもよいが、例えば、グルタチオンを生産する能力を有する微生物を培養して得られる還元型グルタチオンを含有する培養物(国際公開第2008/126784号)、及び酵素法で得られる還元型グルタチオン含有水溶液[Appl. Microbiol. Biotechnol., 66, 233 (2004)、日本国特開昭60-105499号公報等]等から不溶物を除去する等して得られる溶液を挙げることができる。
【0026】
また、還元型グルタチオン含有水溶液は、酸化型グルタチオン・6水和物を還元して得られる還元型グルタチオンを含有する水溶液であってもよい。酸化型グルタチオン・6水和物は、国際公開第2011/132724号に記載の方法に従って取得することができる。
【0027】
酸化型グルタチオン・6水和物を水溶液に溶解し、国際公開第2012/137824号、国際公開第2010/140625号、または、国際公開第2014/133129号に記載の方法に従って酸化型グルタチオン含有水溶液を電解還元することにより、還元型グルタチオン含有水溶液を取得することができる。酸化型グルタチオンは、酸化型グルタチオン・6水和物の結晶として取得することで、不純物をより効率的に除去することができる(国際公開第2011/132724号)。
【0028】
本明細書において不純物とは、還元型グルタチオンの結晶に含まれる、還元型グルタチオン以外の全ての化合物のことをいう。
【0029】
還元型グルタチオン含有水溶液を高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させる方法としては、例えば、還元型グルタチオン含有水溶液を、高架橋度イオン交換樹脂を充填したカラムに通過させる方法を挙げることができる。
【0030】
高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させるときに障害となる固形物が還元型グルタチオン含有水溶液に含まれる場合には、予め遠心分離、濾過またはセラミックフィルタ等を用いて当該固形物を除去することができる。
【0031】
また、高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させるときに障害となる水溶性の不純物が還元型グルタチオン含有水溶液に含まれる場合には、還元型グルタチオン含有水溶液を、イオン交換樹脂等を充填したカラムに通過させる等により、当該不純物を除去することができる。
【0032】
また、高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させるときに障害となる疎水性の不純物が還元型グルタチオン含有水溶液に含まれる場合には、還元型グルタチオン含有水溶液を合成吸着樹脂や活性炭等を充填したカラムに通過させる等により、当該不純物を除去することができる。
【0033】
還元型グルタチオン含有水溶液の還元型グルタチオンの濃度としては、通常25g/L以上、好ましくは50g/L以上、より好ましくは100g/L以上を挙げることができる。
【0034】
上記濃度の還元型グルタチオン含有水溶液は、該水溶液を加熱濃縮法または減圧濃縮法などの一般的な濃縮方法により濃縮することで取得できる。
【0035】
還元型グルタチオン含有水溶液のpHは、通常pH2.0~10.0、好ましくはpH2.0~7.0であり、必要に応じて該水溶液のpHを塩酸、硫酸、酢酸、リンゴ酸等の無機または有機の酸、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて上記の範囲に調整することができる。
【0036】
水に対するグルタチオンの飽和溶解度は、10℃で83g/L、25℃で130g/Lであるが、pHを上げると上昇することが知られている(国際公開第2011/137824)。したがって、グルタチオン含有水溶液に塩基を添加してpHを上昇させることで、グルタチオン濃度をさらに高めることができる。
【0037】
本発明の製造方法に用いられる高架橋度陽イオン交換樹脂の架橋度としては、例えば、通常12%以上、好ましくは14%以上、より好ましくは15%以上、最も好ましくは16%以上を挙げることができる。架橋度とは、イオン交換樹脂において、架橋剤が該樹脂を構成する全原料中に占める重量比率のことをいう。
【0038】
高架橋度陽イオン交換樹脂の架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼンを挙げることができる。高架橋度陽イオン交換樹脂の陽イオン交換基としては、例えば、スルホン基を挙げることができる。
【0039】
高架橋度陽イオン交換樹脂のイオン型としては、L-システイニル-L-グリシンを吸着する能力があれば特に限定されないが、例えば、水素イオン型を挙げることができる。高架橋度陽イオン交換樹脂の粒子径としては、例えば、通常300~900μm、好ましくは400~800μm、最も好ましくは500~700μmを挙げることができる。
【0040】
本発明の製造方法で用いられる高架橋度陽イオン交換樹脂としては、具体的には、例えば、UBK12、UBKN1U、UBK16、SK110、SK112、PK220、PK228(いずれも三菱化学社製)、C100×16MBH、C100×12、C100×10(いずれもPuroite社製)、アンバーライト(商標) 200CT、アンバーライト(商標) 252(いずれもロームアンドハース社製)からなる群より選ばれる高架橋度陽イオン交換樹脂を、好ましくは、UBK12、UBKN1U、UBK16(いずれも三菱化学社製)を挙げることができる。
【0041】
本発明の製造方法において、高架橋度陽イオン交換樹脂の量は、当業者であれば、高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させる還元型グルタチオン含有水溶液のpHや量に応じて容易に設定することができ、例えば、該水溶液の通常0.1~5倍量を挙げることができる。
【0042】
還元型グルタチオン含有水溶液を高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させるときの温度としては、通常5~40℃、好ましくは10~35℃、最も好ましくは15~30℃を挙げることができる。
【0043】
還元型グルタチオン含有水溶液を高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させるときの速度としては、L-システイニル-L-グリシンの除去能力が低下しない限り特に制限はなく、液空間速度(SV)で、通常0.1~10.0、好ましくは0.2~9.0、より好ましくは0.3~8.0、最も好ましくは0.5~5.0を挙げることができる。液空間速度(SV)とは、通液量(L/h)を樹脂充填量(L)で割った値のことをいう。
【0044】
高架橋度陽イオン交換樹脂に通過させて得られる還元型グルタチオンを含有する水溶液をイオン交換樹脂に通過させて脱塩し、脱塩された還元型グルタチオンを含有する水溶液をそのまま還元型グルタチオンの結晶の析出に用いることができる。
【0045】
脱塩に用いるイオン交換樹脂としては、例えば、WA-30、WA-21に代表される弱塩基性イオン交換樹脂[いずれもダイヤイオン(商標)、三菱化学社製]を挙げることができる。
【0046】
還元型グルタチオンの結晶を析出させる方法としては、還元型グルタチオンを結晶として析出させることができる方法であればいずれの方法でもよく、例えば、日本国特許第5243963号明細書に記載された、還元型グルタチオン含有水溶液に還元型グルタチオンの種晶及び溶媒を添加する方法を挙げることができる。
【0047】
また、還元型グルタチオン含有水溶液にグルタチオンのα晶の結晶を選択的に起晶させ(日本国特許第5243963号明細書)、該グルタチオンのα晶の結晶を含む水溶液に、グルタチオンの濃度を飽和溶解度以上に高めた水溶液を連続または分割しながら添加して還元型グルタチオンの結晶を析出させる方法を用いてもよい。
【0048】
還元型グルタチオンの結晶を採取する方法としては、特に限定はなく、濾取、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等を挙げることができる。さらに結晶への母液の付着を低減し、結晶の品質を向上させるために、結晶を採取した後、適宜、該結晶を洗浄することができる。
【0049】
洗浄に用いる溶液は、特に制限はなく、水、メタノール、エタノール、アセトン、n-プロパノール、イソプロピルアルコール及びそれらから選ばれる1種類の溶液または複数種類を任意の割合で混合した溶液を用いることができる。
【0050】
上記した方法により本発明の還元型グルタチオンの結晶を取得することができ、得られた結晶が湿晶である場合は、乾燥することにより取り扱いやすい結晶を取得することができる。乾燥条件としては、還元型グルタチオンの結晶の形態を保持できる方法ならばいずれでもよく、例えば、減圧乾燥、真空乾燥、流動層乾燥、通風乾燥等が挙げられる。
【0051】
乾燥温度としては、付着水分や溶液を除去でき、還元型グルタチオンの結晶が分解しない範囲ならばいずれでもよいが、通常70℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下を挙げることができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[参考例]
還元型グルタチオンのα晶の結晶(興人社製)を水に溶解してから100g/Lに調整して密閉し、撹拌しながら25℃と40℃の恒温槽に設置した。これらの還元型グルタチオン水溶液を経時で採取し、HPLC分析した。
図1に示す結果より、還元型グルタチオンは経時で温度依存的に分解し、L-システイニル-L-グリシンを生成することが分かった。
【0053】
[比較例]
日本国特許第5243963号明細書の実施例1に記載された方法に従い、還元型グルタチオンを183g/Lの濃度で含む水溶液を調製した。当該水溶液を、そのまま加熱減圧下で539g/Lまで濃縮し、得られた濃縮溶液を25℃に保ちつつ、還元型グルタチオンのα晶の結晶(興人社製)を該濃縮液に種晶として添加した。種晶添加後、25℃で10時間撹拌することで、還元型グルタチオンのα晶の結晶が起晶した水溶液が得られた。
【0054】
得られた水溶液を10℃まで冷却した後、0.3倍等量のエタノールを該水溶液に添加することにより還元型グルタチオンのα晶の結晶を晶析させた。得られたスラリーを遠心分離して水溶液層を除去した後に60v/v%エタノールを用いて結晶を洗浄してから、40℃で減圧乾燥させ、還元型グルタチオンのα晶の結晶を取得した。
【0055】
[実施例1]
日本国特許第5243963号明細書に記載の方法で取得した還元型グルタチオンの結晶を水に溶解した後、60℃で1時間加熱することでL-システイニル-L-グリシンの含有量を増加させた後、還元型グルタチオンを100g/L、50g/L、25g/Lの濃度で含む各水溶液を調製した。
【0056】
これらの水溶液それぞれ670mL、1340mL、2680mLを、水素イオン型に再生した100mLのUBK16(三菱化学社製)を充填した直径2cmのガラスカラムに、室温下、液空間速度SV1.0(100mL/h)の流速で通過させた。還元型グルタチオン水溶液を通過させた後は、糖度(Brix)が1%以下になるまでUBK16の水洗を行い、還元型グルタチオン画分を回収した。還元型グルタチオンの収率、L-システイニル-L-グリシンの除去率及び液量増加率の結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
表1に示すように、高架橋度陽イオン交換樹脂を用いることにより、還元型グルタチオン含有水溶液の還元型グルタチオン濃度がいずれの濃度であっても、還元型グルタチオン含有水溶液を通過させた後の液量の増加を抑え、かつ還元型グルタチオンの収率を大きく落とすことなく、L-システイニル-L-グリシンを選択的に吸着、除去できることが分かった。
【0059】
[実施例2]
日本国特許第5243963号明細書に記載の方法で取得した還元型グルタチオンの結晶を水に溶解し、60℃で1時間加熱してL-システイニル-L-グリシンの含有量を増加させた後、還元型グルタチオンを100g/Lの濃度で含む水溶液を調製した。
【0060】
水素イオン型に再生したUBKN1U(架橋度14%)、UBK12(架橋度12%)、UBK08(架橋度8%)、UBK06(架橋度6%)(いずれも三菱化学社製)各100mLを充填した直径2cmのガラスカラムを用意し、UBKN1Uには643mL、UBK12には616mL、UBK08には536mL、UBK06には482mLの該水溶液を、室温下、SV1.0(100mL/h)の流速で通過させた。通過させる還元型グルタチオン含有水溶液の量は、それぞれの樹脂が持つ総交換容量に応じて調整した。
【0061】
還元型グルタチオン含有水溶液を通過させた後は、糖度(Brix)が1%を切るまで各樹脂の水洗を行い、還元型グルタチオン画分を回収した。還元型グルタチオンの収率、L-システイニル-L-グリシンの除去率及び液量増加率の結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
表2に示すように、12%以上の架橋度を有する高架橋度陽イオン交換樹脂を用いることにより、還元型グルタチオン含有水溶液を通過させた後の液量増加を抑え、かつ還元型グルタチオンの収率を大きく落とすことなく、L-システイニル-L-グリシンを選択的に吸着、除去できることがわかった。
【0064】
[実施例3]本発明の結晶の製造-1
国際公開第2011/132724号に記載された方法で取得した酸化型グルタチオンを、国際公開第2012/137824号に記載された方法で還元し、還元型グルタチオンを164g/Lの濃度で含む水溶液を得た。得られた還元型グルタチオン含有水溶液を25℃に保ちつつ、水素イオン型に再生したUBK16(三菱化学社製)を充填したカラムに液空間速度SV2.5で通過させて還元型グルタチオンを含む画分を得た。
【0065】
この画分を加熱減圧下で530g/Lまで濃縮し、得られた濃縮溶液を25℃に保ちつつ、これに還元型グルタチオンのα晶の結晶(興人社製)を種晶として添加した。種晶添加後、25℃で17時間撹拌することで、還元型グルタチオンのα晶の結晶が起晶した水溶液を得た。得られた水溶液を10℃まで冷却した後、0.3倍等量のエタノールを該水溶液に添加することにより還元型グルタチオンのα晶の結晶を晶析させた。
【0066】
得られたスラリーを遠心分離することにより水溶液層を除去した後に30v/v%エタノールで結晶を洗浄し、40℃の空気を通風させることで乾燥させ、本発明の結晶である還元型グルタチオンのα晶の結晶を取得した。
【0067】
[実施例4]本発明の結晶の製造-2
国際公開第2011/132724号に記載された方法で取得した酸化型グルタチオンを、国際公開第2012/137824号に記載された方法で還元し、還元型グルタチオンを173g/Lの濃度で含む水溶液を得た。
【0068】
得られた還元型グルタチオン含有水溶液を25℃に保ちつつ、水素イオン型に再生したUBK16(三菱化学社製)を充填したカラムに液空間速度SV2.5で通過させて還元型グルタチオンを含む画分を得た。この画分を加熱減圧下で426g/Lまで濃縮し、得られた濃縮溶液を25℃に保ちつつ、これに還元型グルタチオンのα晶の結晶(興人社製)を種晶として添加した。種晶添加後、25℃で19時間撹拌することで、還元型グルタチオンのα晶の結晶が起晶した水溶液を得た。
【0069】
得られた水溶液を10℃まで冷却した後、0.3倍等量のエタノールを該水溶液に添加することにより還元型グルタチオンのα晶の結晶を晶析させた。得られたスラリーを遠心分離することにより水溶液層を除去した後に30v/v%エタノールで結晶を洗浄し、40℃の空気を通風させることで乾燥させ、本発明の結晶である還元型グルタチオンのα晶の結晶を取得した。
【0070】
市販の還元型グルタチオンの結晶(市販品A及びB)、比較例で得られた還元型グルタチオンの結晶、並びに、実施例3及び4で得られた本発明の結晶をHPLCで分析し、該結晶に含有される不純物を測定した。HPLC分析の結果を表3に示す。表3において、還元型グルタチオンのピーク面積を100としたときの各ピークの面積を示す。
【0071】
また、表3において、「N.D」は検出限界以下、「グルタチオン」は還元型グルタチオン、「γGC-Ala」はγ-L-グルタミル-L-システイニル-L-アラニン、「CysGly」はL-システイニル-L-グリシン、「GSSG」は酸化型グルタチオンをそれぞれ示す。
【0072】
【0073】
表3に示すように、本発明の結晶は、市販品A及びB、並びに比較例で得られた還元型グルタチオンの結晶と比較して、L-システイニル-L-グリシンの含有量が顕著に低く、さらに酸化型グルタチオン及びγ-L-グルタミル-L-システイニル-L-アラニンなどの他の不純物の含有量も大幅に低いことが分かった。
【0074】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2016年3月17日付けで出願された日本特許出願(特願2016-53844号)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、不純物、特にL-システイニル-L-グリシンの含有量が低減した還元型グルタチオンの結晶、及びその製造方法が提供される。