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  • 特許-車両の制御装置及び車両の制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20230131BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20230131BHJP
   B60W 10/101 20120101ALI20230131BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20230131BHJP
   B60W 10/107 20120101ALI20230131BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20230131BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20230131BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20230131BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
F02D29/00 C
B60W10/00 114
B60W10/06
B60W10/107
F16H59/44
F16H59/68
F16H61/662
F16H63/50
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021527570
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022100
(87)【国際公開番号】W WO2020261919
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019116617
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮石 広宣
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-128369(JP,A)
【文献】特開2008-128370(JP,A)
【文献】特開2008-144774(JP,A)
【文献】特開2009-287727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00
F02D 29/00
F16H 59/44
F16H 59/68
F16H 61/00
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源と駆動輪とを結ぶ動力伝達経路上、前記駆動源の下流に配置されたベルト無段変速機構と、
を有する車両の制御装置であって、
停車中に前記ベルト無段変速機構のベルトを径方向に移動させることで前記ベルト無段変速機構をダウンシフトするLOWスタンバイ制御を実行する制御部を有し、
前記制御部は、前記LOWスタンバイ制御を開始した後、前記ベルト無段変速機構のセカンダリプーリ油圧の実圧に基づき、前記ベルト無段変速機構のセカンダリプーリ油圧の実圧の上昇率が所定率以上になると前記駆動源の出力制限を解除する、
車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記制御部は、前記ベルト無段変速機構のセカンダリプーリ油圧の実圧と指示圧との差圧の絶対値が所定値未満になると前記駆動源の出力制限を解除する、
車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両の制御装置であって、
前記制御部は、前記LOWスタンバイ制御を開始した後に所定時間経過すると前記駆動源の出力制限を解除する、
車両の制御装置。
【請求項4】
駆動源と、前記駆動源と駆動輪とを結ぶ動力伝達経路上、前記駆動源の下流に配置されたベルト無段変速機構と、を有する車両の制御方法であって、
停車中に前記ベルト無段変速機構のベルトを径方向に移動させることで前記ベルト無段変速機構をダウンシフトするLOWスタンバイ制御を実行することと、
前記LOWスタンバイ制御を開始した後、前記ベルト無段変速機構のセカンダリプーリ油圧の実圧に基づき、前記ベルト無段変速機構のセカンダリプーリ油圧の実圧の上昇率が所定率以上になると前記駆動源の出力制限を解除することと、
を含む車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2008-128369Aにも開示されるように、ベルト無段変速機構では、停車中にベルトを縦方向(径方向)に移動させてベルト無段変速機構をダウンシフトするLOWスタンバイ制御が行われることがある。LOWスタンバイ制御により停車中の変速比LOW戻しを実施することで、ベルト無段変速機構の変速比を最LOW変速比つまり最大変速比近辺の変速比とし、再発進に向けてベルト無段変速機構をスタンバイさせることができる。
【発明の概要】
【0003】
LOWスタンバイ制御中は、アクセルペダルの踏み込みが生じる場合を想定して、少なくともLOWスタンバイ制御が完了するまでの間は駆動源の出力を制限することが好ましい。この場合、LOWスタンバイ制御の完了は所望の変速比までダウンシフトが完了したことを以て判断すればよいといえる。
【0004】
ところが、変速比は通常は回転速度センサを用いて演算される。そして、ベルト無段変速機構の回転が停止した状態においては、変速比に応じたベルト無段変速機構の入出力回転速度を回転速度センサにより検知することができない。このため、停車中に所望の変速比までダウンシフトが完了したかどうかの判断を回転速度センサからの信号に基づき判定することはできない。
【0005】
このことから、LOWスタンバイ制御の開始時から設定時間が経過したことを以て、駆動源の出力制限の解除を行うことが考えられる。しかしながら、設定時間はマージンをもって設定されるので、この場合には駆動源の出力制限が長引き、発進ラグが生じる場合がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、ベルト無段変速機構のLOWスタンバイ制御完了後の発進性を向上させることを目的とする。
【0007】
本発明のある態様の車両の制御装置は、駆動源と、前記駆動源と駆動輪とを結ぶ動力伝達経路上、前記駆動源の下流に配置されたベルト無段変速機構と、を有する車両の制御装置であって、停車中に前記ベルト無段変速機構のベルトを径方向に移動させることで前記ベルト無段変速機構をダウンシフトするLOWスタンバイ制御を実行する制御部を有し、前記制御部は、前記LOWスタンバイ制御を開始した後、前記ベルト無段変速機構のセカンダリプーリ油圧の実圧に基づき、前記ベルト無段変速機構のセカンダリプーリ油圧の実圧の上昇率が所定率以上になると前記駆動源の出力制限を解除する。
【0008】
本発明の別の態様によれば、上記車両の制御装置に対応する車両の制御方法が提供される。
【0009】
本発明者らは、プーリ(例えばプライマリプーリ)の物理的なストロークにより変速比が最LOW変速比つまり最大変速比に到達すると、セカンダリプーリの消費流量がなくなりセカンダリプーリ圧が急上昇することを見出した。このため、回転速度ではなく、セカンダリプーリ油圧の実圧に基づきLOWスタンバイ制御の完了を判断して駆動源の出力制限を解除するこれらの態様によれば、LOWスタンバイ制御完了後の発進性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、車両の概略構成図である。
図2図2は、実施形態で行われる制御の一例をフローチャートで示す図である。
図3図3は、実施形態で行われる制御の一例をタイミングチャートで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は車両の概略構成図である。車両は、エンジンENGと、トルクコンバータTCと、前後進切替機構SWMと、バリエータVAと、コントローラ100とを備える。車両では、変速機TMが、トルクコンバータTCと、前後進切替機構SWMと、バリエータVAとを有して構成される。変速機TMは自動変速機であり、本実施形態ではベルト無段変速機とされる。変速機TMは例えば、ステップ的な態様で変速を行うステップ自動変速機とされてもよい。
【0013】
エンジンENGは、車両の駆動源を構成する。エンジンENGの動力は、トルクコンバータTC、前後進切替機構SWM、バリエータVAを介して駆動輪DWへと伝達される。換言すれば、トルクコンバータTC、前後進切替機構SWM、バリエータVAは、エンジンENGと駆動輪DWとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。
【0014】
トルクコンバータTCは、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータTCでは、ロックアップクラッチLUを締結することで、動力伝達効率が高められる。
【0015】
前後進切替機構SWMは、エンジンENGとバリエータVAとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。前後進切替機構SWMは、入力される回転の回転方向を切り替えることで車両の前後進を切り替える。前後進切替機構SWMは、前進レンジ選択の際に係合される前進クラッチFWD/Cと、リバースレンジ選択の際に係合される後進ブレーキREV/Bとを備える。前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bを解放すると、変速機TMがニュートラル状態、つまり動力遮断状態になる。
【0016】
バリエータVAは、プライマリプーリPRIと、セカンダリプーリSECと、プライマリプーリPRI及びセカンダリプーリSECに巻き掛けられたベルトBLTとを有するベルト無段変速機構を構成する。プライマリプーリPRIにはプライマリプーリPRIの油圧であるプライマリ圧Ppriが、セカンダリプーリSECにはセカンダリプーリSECの油圧であるセカンダリ圧Psecが、後述する油圧制御回路11からそれぞれ供給される。
【0017】
変速機TMは、メカオイルポンプ21と、電動オイルポンプ22と、モータ23とをさらに有して構成される。
【0018】
メカオイルポンプ21は、油圧制御回路11に油を圧送する。メカオイルポンプ21は、エンジンENGの動力により駆動される機械式オイルポンプである。
【0019】
電動オイルポンプ22は、メカオイルポンプ21とともに、或いは単独で油圧制御回路11に油を圧送する。電動オイルポンプ22は、メカオイルポンプ21に対して補助的に設けられる。モータ23は、電動オイルポンプ22を駆動する。電動オイルポンプ22は、モータ23を有して構成されると把握されてもよい。
【0020】
変速機TMは、油圧制御回路11と、変速機コントローラ12とをさらに有して構成される。
【0021】
油圧制御回路11は、複数の流路、複数の油圧制御弁で構成され、メカオイルポンプ21や電動オイルポンプ22から供給される油を調圧して変速機TMの各部位に供給する。
【0022】
変速機コントローラ12は、変速機TMを制御するためのコントローラであり、エンジンENGを制御するためのエンジンコントローラ13と相互通信可能に接続される。エンジンコントローラ13から変速機コントローラ12には例えば、エンジンENGのトルクTRQを表す出力トルク信号が入力される。
【0023】
変速機コントローラ12は、エンジンコントローラ13とともに、車両の制御装置であるコントローラ100を構成する。コントローラ100は例えば、変速機コントローラ12、エンジンコントローラ13等の統合制御を司る統合コントローラをさらに有した構成とされてもよい。
【0024】
コントローラ100には、各種センサ・スイッチを示すセンサ・スイッチ群40からの信号が入力される。センサ・スイッチ群40は例えば、車速VSPを検出する車速センサ、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ、エンジンENGの回転速度NEを検出するエンジン回転速度センサ、ブレーキ液圧を検出するブレーキセンサを含む。
【0025】
センサ・スイッチ群40はさらに例えば、プライマリ圧Ppriを検出するプライマリ圧センサ、セカンダリ圧Psecを検出するセカンダリ圧センサ、プライマリプーリPRIの入力側回転速度である回転速度Npriを検出するプライマリ回転速度センサ、セカンダリプーリSECの出力側回転速度である回転速度Nsecを検出するセカンダリ回転速度センサ、変速レバーの操作位置を検出する位置センサ、変速機TMの油温を検出する油温センサを含む。回転速度Npriは例えば、プライマリプーリPRIの入力軸の回転速度であり、回転速度Nsecは例えば、セカンダリプーリSECの出力軸の回転速度である。
【0026】
変速機コントローラ12には、これらの信号が直接入力されるか、エンジンコントローラ13等を介して入力される。変速機コントローラ12は、これらの信号に基づき変速機TMの制御を行う。変速機TMの制御は、これらの信号に基づき油圧制御回路11や電動オイルポンプ22を制御することで行われる。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの指示に基づき、ロックアップクラッチLU、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/B、プライマリプーリPRI、セカンダリプーリSEC等の油圧制御を行う。
【0027】
変速機TMの制御はLOWスタンバイ制御を含む。LOWスタンバイ制御は、停車中にベルトBLTを縦方向(径方向)に移動させてバリエータVAをダウンシフトする制御である。LOWスタンバイ制御により停車中の変速比IPのLOW戻しを実施することで、変速比IPを最LOW変速比つまり最大変速比近辺の変速比とし、再発進に向けてバリエータVAをスタンバイさせることができる。変速比IPはバリエータVAの変速比であり、回転速度Npriを回転速度Nsecで除算して得られる値とされる。変速比IPはLOWスタンバイ制御により、好ましくは最大変速比まで戻される。
【0028】
LOWスタンバイ制御中は、アクセルペダルの踏み込みが生じる場合を想定して、少なくともLOWスタンバイ制御が完了するまでの間はエンジンENGの出力を制限することが好ましい。この場合、LOWスタンバイ制御の完了は所望の変速比IPまでダウンシフトが完了したことを以て判断すればよいといえる。
【0029】
ところが、変速比IPは通常はプライマリ回転速度センサ、セカンダリ回転センサ等の回転センサを用いて演算される。そして、バリエータVAの回転が停止した状態においては、変速比IPに応じたバリエータVAの入出力回転速度を回転速度センサにより検知することができない。このため、停車中に所望の変速比IPまでダウンシフトが完了したかどうかの判断を回転速度センサからの信号に基づき判定することはできない。
【0030】
このことから、LOWスタンバイ制御の開始時から設定時間が経過したことを以て、駆動源の出力制限の解除を行うことが考えられる。しかしながら、設定時間はマージンをもって設定されるので、この場合にはエンジンENGの出力制限が長引き、発進ラグが生じる場合がある。
【0031】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ100が次に説明する制御を実行する。
【0032】
図2は、コントローラ100が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ100は、本フローチャートの処理を実行するようプログラムされることで、制御部を有した構成とされる。コントローラ100は、本フローチャートの処理を繰り返し実行することができる。
【0033】
ステップS1で、コントローラ100は、車速センサからの信号に基づき車速VSPがゼロ以下であるか否かを判定する。ステップS1で否定判定であれば、処理は一旦終了する。ステップS1で肯定判定であれば、停車中と判断されて処理はステップS2に進む。
【0034】
ステップS2で、コントローラ100は、変速比IPが所定変速比IP1よりも小さいか否かを判定する。所定変速比IP1は、LOWスタンバイ制御を実行する必要があるか否かを判定するための判定値であり、予め設定される。ステップS2で否定判定であれば、変速比IPが十分LOW側にあることから、LOWスタンバイ制御の実行は不要と判断され、処理は一旦終了する。ステップS2で肯定判定であれば、処理はステップS3に進む。
【0035】
ステップS3で、コントローラ100は、エンジンENGの出力制限を開始する。これにより、バリエータVAへの入力トルクが制限される。エンジンENGの出力を制限するとは、トルクTRQ及び回転速度NEのうち少なくともいずれかを制限することを意味する。
【0036】
例えば、トルクTRQを制限する場合、エンジンENGの出力を制限するとは、トルクTRQに閾値を設け、アクセル開度APOに関わらず当該閾値を上回らないようにトルクTRQを制御することを意味する。当該閾値は一定値であってもよく、最大上限閾値を設けた上での可変値であってもよい。例えば、バリエータVAではセカンダリ圧Psecの大きさに応じて許容できるトルクTRQの高低が変化することから、セカンダリ圧Psecの大きさに応じて当該閾値を可変としてもよい。
【0037】
ステップS3で、コントローラ100はさらに、アイドルUPつまりエンジンENGのアイドル回転速度上昇を開始する。アイドルUPは、エンジンENGの出力制限の範囲内で行われる。これにより、エンジンENGの出力制限の範囲内でメカオイルポンプ21の回転速度Nmpを極力高めることで、メカオイルポンプ21の吐出油量を極力大きくすることが可能になる。
【0038】
ステップS3で、コントローラ100はさらに、電動オイルポンプ22を駆動する。これにより、電動オイルポンプ22の吐出油量が増加される。電動オイルポンプ22の駆動は、変速機TMの必要油量からメカオイルポンプ21の吐出油量を減算して得られる差分を補填するように行われる。従って、電動オイルポンプ22の吐出油量は、メカオイルポンプ21の吐出油量に応じて変更される。
【0039】
これにより、電動オイルポンプ22の駆動を必要最低限の駆動に抑えることが可能になるので、電動オイルポンプ22の消費電力が低減される。メカオイルポンプ21の吐出油量に応じて変更される電動オイルポンプ22の吐出流量は、ゼロとされる場合を含んでもよい。すなわち、メカオイルポンプ21で必要油量を十分賄える車両状態のときは、電動オイルポンプ22の駆動は禁止されてもよい。
【0040】
ステップS3では、LOWスタンバイ制御を適切に実行するためにこれらの処理が行われる。以下では、ステップS3に示されるこれらの処理を運転設定とも称す。
【0041】
ステップS4で、コントローラ100は、アクセルペダルがON又はブレーキペダルがOFFか否かを判定する。アクセルペダルがOFF且つブレーキペダルがONであれば、車両の再発進は行われないと判断される。この場合、処理はステップS5に進む。
【0042】
ステップS5で、コントローラ100は、所定時間TAが経過したか否かを判定する。所定時間TAは、運転設定が完了したか否かを判定するための判定値であり、予め設定される。ステップS5で否定判定であれば、処理はステップS4に戻る。そしてその後、所定時間TAが経過するまで、アクセルペダルがOFF且つブレーキペダルがONの状態が継続すると、ステップS5で肯定判定され、処理はステップS6に進む。
【0043】
ステップS6で、コントローラ100は、目標セカンダリ圧Psec_Tの上昇を開始するとともに、目標プライマリ圧Ppri_Tの低下を開始する。目標セカンダリ圧Psec_Tはセカンダリ圧Psecの指示圧であり、目標セカンダリ圧Psec_Tを上昇させることより、セカンダリプーリSECの推力が上昇し、ベルトBLTの周方向の滑りが抑制される。目標プライマリ圧Ppri_Tはプライマリ圧Ppriの指示圧である。目標プライマリ圧Ppri_Tを低下させることにより、ベルトBLTが縦方向に移動される。LOWスタンバイ制御はこれらの処理により行われる。
【0044】
LOWスタンバイ制御中には、前進クラッチFWD/Cの完全締結状態が維持される。これにより、前進クラッチFWD/Cをスリップ又は解放させる場合よりも車両の再発進性向上が図られる。前進クラッチFWD/Cの完全締結状態は、少なくとも道路勾配が正の所定勾配以上の場合に維持することができる。所定勾配は予め設定することができる。
【0045】
ステップS7で、コントローラ100は、アクセルペダルがON又はブレーキペダルがOFFか否かを判定する。つまり、車両の再発進が行われないか否かはLOWスタンバイ制御中にも判定される。ステップS7で否定判定であれば、車両の再発進は行われないと判断され、処理はステップS8に進む。
【0046】
ステップS8で、コントローラ100は、所定時間TBが経過したか否かを判定する。所定時間TBは、LOWスタンバイ制御が完了したか否かを判定するための判定値であり、予め設定される。ステップS8で否定判定であれば、処理はステップS9に進む。
【0047】
ステップS9で、コントローラ100は、実セカンダリ圧Psec_Aの上昇率ΔPsec_Aが所定率α以上か否かを判定する。所定率αは、プーリ(例えばプライマリプーリPRI)の物理的なストロークにより変速比IPが最大変速比に到達したか否かを判定するための判定値であり、予め設定される。これは、プーリの物理的なストロークにより変速比IPが最大変速比に到達すると、セカンダリプーリSECの消費流量がなくなりセカンダリ圧Psecが急上昇することによる。ステップS9で肯定判定であれば、変速比IPが最大変速比に到達したと判断され、処理はステップS11に進む。
【0048】
ステップS11で、コントローラ100は、変速比IPの演算値を更新する。これは、停車中はバリエータVAの回転が停止しているので、プライマリ回転速度センサ及びセカンダリ回転速度センサからの信号に基づき変速比IPを演算することができないためである。ステップS9では、LOWスタンバイ制御実行前の変速比IPからLOWスタンバイ制御によりLOW戻しが行われた後の変速比IPつまり最大変速比に変速比IPの演算値が更新される。
【0049】
ステップS12で、コントローラ100は、エンジンENGの出力制限、アイドルUPを解除するとともに、電動オイルポンプ22を停止する。また、ステップS12では、目標セカンダリ圧Psec_Tの上昇及び目標プライマリ圧Ppri_Tの低下が解除される。ステップS12の後には、処理は一旦終了する。
【0050】
ステップS9で否定判定の場合、処理はステップS10に進む。この場合、コントローラ100は、実セカンダリ圧Psec_Aが所定値P1よりも高いか否かを判定する。所定値P1は、所定率αと同様、プーリの物理的なストロークにより変速比IPが最大変速比に到達したか否かを判定するための判定値であり、予め設定される。ステップS10で肯定判定であれば、変速比IPが最大変速比に到達したと判断され、処理はステップS11、さらにはステップS12に進む。従ってこの場合は、実セカンダリ圧Psec_Aが所定値P1よりも高くなると、変速比IPの演算値更新やエンジンENGの出力制限解除等が行われる。
【0051】
ステップS10で否定判定の場合、変速比IPが最大変速比に到達していないと判断され、処理はステップS7に戻る。この場合、上昇率ΔPsec_Aが所定率α未満且つ実セカンダリ圧Psec_Aが所定値P1以下の状態で、アクセルペダルがOFF且つブレーキペダルがONの状態が所定時間TBを超えて継続すると、ステップS8で肯定判定され、処理はステップS11、さらにはステップS12に進む。従って、この場合は所定時間TBが経過すると、変速比IPが最大変速比に到達したと判断され、変速比IPの演算値更新やエンジンENGの出力制限解除等が行われる。
【0052】
ステップS4又はステップS7で肯定判定の場合、車両の再発進が行われると判断される。この場合、処理はステップS12に進む。つまり、車両の再発進が行われるときには、運転設定及びLOWスタンバイ制御は中止される。これにより、車両を再発進させようとするドライバの意思に反して、LOWスタンバイ制御が継続されることが防止される。
【0053】
図3は、図2に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
【0054】
タイミングT1では、ブレーキペダルがONになる。結果、車速VSPが大きく低下し始める。また、タイミングT1からは、車両走行中の変速比IPのLOW戻しが開始される。車両走行中のLOW戻しは車速VSPに応じて行われる。このため、実線で示す目標変速比IP_Tは、急低下する車速VSPに応じた傾きで大きくなり始める。その一方で、破線で示す実変速比IP_Aは目標変速比IP_Tに追従できずに、タイミングT1から目標変速比IP_Tよりも緩やかな傾きで大きくなる。
【0055】
タイミングT2では、車速VSPがゼロになる。このため、タイミングT2からはバリエータVAの回転が停止する。結果、車両走行中のLOW戻しができなくなり、実変速比IP_Aは最大変速比まで戻らずに一定になる。このとき、実変速比IP_Aは所定変速比IP1よりも小さくなっている。
【0056】
タイミングT2では、このような状況でエンジンENGの出力制限が開始される。これにより、バリエータVAへの入力トルクが制限され、ベルトBLTの周方向の滑りが抑制される。タイミングT2では、アイドルUPも開始される。これにより、エンジンENGの出力制限の範囲内でメカオイルポンプ21の回転速度Nepが上昇する。
【0057】
タイミングT3では、タイミングT2から所定時間TAが経過する。このため、目標セカンダリ圧Psec_Tの上昇、及び目標プライマリ圧Ppri_Tの低下が行われる。つまり、LOWスタンバイ制御が開始される。停車中のため、LOWスタンバイ制御では、バリエータVAのプライマリプーリPRI及びセカンダリプーリSECが無回転のまま、ベルトBLTを縦方向に移動させることによりダウンシフトが行われる。
【0058】
タイミングT3では、LOWスタンバイ制御の開始により、セカンダリ圧Psecの実圧である実セカンダリ圧Psec_Aが上昇し始めるとともに、プライマリ圧Ppriの実圧である実プライマリ圧Ppri_Aが低下し始める。結果、周方向のベルトBLTの滑りが抑制されるとともに、ベルトBLTが縦方向に移動してバリエータVAがダウンシフトする。これにより、停車中でも実変速比IP_Aを大きくすることができる。
【0059】
タイミングT4では、プーリの物理的なストロークにより変速比IPが最大変速比に到達し、LOWスタンバイ制御が完了する。このため、実セカンダリ圧Psec_Aが急上昇し始め、上昇率ΔPsec_Aが所定率α以上になる。なお、LOWスタンバイ制御時の実変速比IP_Aは実際に計測されているわけではない。
【0060】
タイミングT5では、上昇率ΔPsec_Aが所定率α以上になったことに応じて、エンジンENGの出力制限及びアイドルUPが解除される。また、電動オイルポンプ22が停止されるとともに、セカンダリ圧Psecの上昇及びプライマリ圧Ppriの低下が解除される。これにより、LOWスタンバイ制御が解除される。セカンダリ圧Psecの上昇解除は、目標セカンダリ圧Psec_Tを次第に低下させることにより行われる。
【0061】
エンジンENGの出力制限の解除等を上記のように行うには、上昇率ΔPsec_Aが所定率α以上になってから予め設定した所定時間が経過した場合に、エンジンENGの出力制限の解除等を行うことができる。当該所定時間は、急上昇する実セカンダリ圧Psec_Aが目標セカンダリ圧Psec_Tになるまでの時間を想定した待機時間であり、マージンを持って予め設定されるが、所定時間TBよりはるかに短い。当該所定時間は特段設定されなくてもよい。この例では、タイミングT3から所定時間TBが経過する前に、タイミングT5でエンジンENGの出力制限の解除等が行われる。
【0062】
ここで、プーリの物理的なストロークにより変速比IPが最大変速比に到達した際の実セカンダリ圧Psec_Aの上昇は急なものになる。このため、油温や油圧制御弁の経年的摩耗等の影響も相俟って、例えば演算上、上昇率ΔPsec_Aが想定以上にばらつき、変速比IPが最大変速比に到達しても上昇率ΔPsec_Aが所定率α以上にならない事態も想定され得る。
【0063】
本実施形態では、タイミングT4でプーリの物理的なストロークにより変速比IPが最大変速比に到達し、タイミングT4の直後に所定値P1より高くなった場合にも、エンジンENGの出力制限が解除される。実セカンダリ圧Psec_Aが所定値P1より高くなることとは換言すれば、実セカンダリ圧Psec_Aと目標セカンダリ圧Psec_Tとの差圧の絶対値が所定値P2未満になることである。
【0064】
上記のような差圧のみを用いてLOWスタンバイ制御の完了を判断する場合、上昇率ΔPsec_Aが高くても実セカンダリ圧Psec_Aが上がり切っていないという状況も考えられる。このため、上昇率ΔPsec_Aを用いた制御は、上記のような差圧を用いた制御と組み合わせられることで、LOWスタンバイ制御完了のより確実な検知を可能にする。
【0065】
油圧制御弁のボア摩耗などの経年的摩耗に応じて目標セカンダリ圧Psec_Tと実セカンダリ圧Psec_Aとの乖離が大きくなる事態が生じる場合がある。本実施形態では、タイミングT3から所定時間TBが経過した場合にも、エンジンENGの出力制限が解除される。これにより、上記のような事態においてエンジンENGの出力制限が解除されなくなる事態を回避することも可能となる。
【0066】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0067】
本実施形態にかかる車両の制御装置は、エンジンENGと、エンジンENGと駆動輪DWとを結ぶ動力伝達経路上、エンジンENGの下流に配置されたバリエータVAと、を有する車両の制御装置であって、停車中にバリエータVAのベルトBLTを縦方向に移動させることでバリエータVAをダウンシフトするLOWスタンバイ制御を実行するコントローラ100を有する。コントローラ100は、LOWスタンバイ制御を開始した後、バリエータVAの実セカンダリ圧Psec_Aに基づきエンジンENGの出力制限を解除する。
【0068】
このような構成によれば、回転速度ではなく、実セカンダリ圧Psec_Aに基づきLOWスタンバイ制御の完了を判断してエンジンENGの出力制限を解除するので、LOWスタンバイ制御完了後の発進性を向上させることができる。
【0069】
本実施形態では、コントローラ100は、実セカンダリ圧Psec_Aの上昇率ΔPsec_Aが所定率α以上になるとエンジンENGの出力制限を解除する。
【0070】
このような構成によれば、プーリの物理的なストロークにより変速比IPが最大変速比に到達するとセカンダリプーリSECの消費流量がなくなりセカンダリ圧Psecが急上昇を開始するという傾向を直接検知して対応することができる。
【0071】
コントローラ100は、実セカンダリ圧Psec_Aと目標セカンダリ圧Psec_Tとの差圧の絶対値が所定値P2未満になるとエンジンENGの出力制限を解除する。
【0072】
このような構成でも、実セカンダリ圧Psec_Aに基づきLOWスタンバイ制御の完了を判断してエンジンENGの出力制限を解除するので、LOWスタンバイ制御完了の際の発進性を向上させることができる。また、このような構成によれば、上昇率ΔPsec_Aを用いた制御と差圧を用いた制御とが互いを補完するように組み合わせられることにより、LOWスタンバイ制御のより確実な検知が可能になる。
【0073】
本実施形態では、コントローラ100は、LOWスタンバイ制御を開始した後に所定時間TBが経過するとエンジンENGの出力制限を解除する。
【0074】
このような構成によれば、エンジンENGの出力制限の解除の機会を増やすことができる。このため、上昇率ΔPsec_Aを用いた制御と差圧を用いた制御とでLOWスタンバイ制御の完了を検知できなかった場合でも、エンジンENGの出力制限が解除されなくなる事態を回避することが可能となる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0076】
上述した実施形態では、LOWスタンバイ制御の完了を判断するにあたり、上昇率ΔPsec_Aを用いた制御と、差圧を用いた制御と、所定時間TBを用いた制御とが互いを補完するように組み合わされる場合について説明した。しかしながら、上昇率ΔPsec_Aを用いた制御と差圧を用いた制御とは組み合わせて用いられなくてもよい。また、所定時間TBは、実セカンダリ圧Psec_Aに基づきエンジンENGの出力制限を解除する場合にともに用いられればよい。
【0077】
上述した実施形態では、制御部がコントローラ100により実現される場合について説明した。しかしながら、制御部は例えば、単一のコントローラにより実現されてもよい。
【0078】
本願は2019年6月24日に日本国特許庁に出願された特願2019-116617に基づく優先権を主張し、この出願のすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3