(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】血液脳関門の透過性を増進させるW/O/W型トリオレインエマルジョンを利用した薬物伝達プラットホーム
(51)【国際特許分類】
A61K 9/113 20060101AFI20230131BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230131BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20230131BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230131BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
A61K9/113
A61K47/14
A61K31/573
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021539557
(86)(22)【出願日】2019-01-07
(86)【国際出願番号】 KR2019000201
(87)【国際公開番号】W WO2020145415
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】513281404
【氏名又は名称】プサン ナショナル ユニバーシティ インダストリー-ユニバーシティ コーポレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】キム ハクジン
(72)【発明者】
【氏名】キム チョルミン
(72)【発明者】
【氏名】ジューン ビョンハク
(72)【発明者】
【氏名】ユ ジンウック
(72)【発明者】
【氏名】リ ユホ
【審査官】阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102579353(CN,A)
【文献】特表2014-510045(JP,A)
【文献】Iran J Radiol.,2014年,Vol.11, No.4,e14887, pp.1-5
【文献】Journal of Colloid and Interface Science,2004年,Vol.270,pp.221-228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-33/44,47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相滴がトリオレインを含み、前記油相滴の内部に水滴を封入した内部水相/油相/外部水相(W/O/W)型構造のトリオレインエマルジョンを有効成分として含
み、前記油相に脂溶性薬物をさらに含む、脳、網膜または睾丸の組織への薬物伝達用組成物。
【請求項2】
前記油相滴の平均直径は、5μm超過15μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載
の薬物伝達用組成物。
【請求項3】
前記内部水相に水溶性薬物または水溶性色素をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載
の薬物伝達用組成物。
【請求項4】
前記脂溶性薬物は、デキサメタゾンであることを特徴とする、請求項
1に記載
の薬物伝達用組成物。
【請求項5】
前記組成物は、トリオレインが血液脳関門(BBB)の密着連接を緩くして薬物のBBB透過率を向上させることにより、薬物を脳に伝達することを特徴とする、請求項1に記載
の薬物伝達用組成物。
【請求項6】
トリオレインと、界面活性剤が含まれた水と、を混合して、1次トリオレインエマルジョンを製造する段階と、
前記1次トリオレインエマルジョンに水を添加した後、動力源を処理して、平均直径が5μm超過15μm未満であるトリオレイン滴を含むW/O/W型トリオレインエマルジョンを製造する段階と、
を含む、
脳、網膜または睾丸の組織への薬物伝達用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記1次トリオレインエマルジョンは、トリオレイン100重量部に対して、界面活性剤0.2重量部ないし0.8重量部及びそれを含む水20重量部ないし50重量部を混合して製造されることを特徴とする、請求項
6に記載
の薬物伝達用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が含まれた水は、水溶性薬物または水溶性色素をさらに含むことを特徴とする、請求項
6に記載
の薬物伝達用組成物の製造方法。
【請求項9】
前記動力源は、超音波発生器、均質化器及び注射器からなる群から選択されることを特徴とする、請求項
6に記載
の薬物伝達用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記トリオレイン滴は、脂溶性薬物をさらに含むことを特徴とする、請求項
6に記載
の薬物伝達用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部水相/油相/外部水相の構造を有するトリオレインエマルジョンを有効成分として含む薬物伝達用組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CNS関連疾病を治療するために、多種の治療剤が開発されてきたが、タンパク質、ペプチド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、抗ウイルス剤、腫瘍抑制剤、抗生剤など、及びプロドラッグ、前駆体、誘導体及びその中間体などを例として挙げられる。また、知られた多くの神経活性ペプチドは、有用な治療剤として付加的な可能性を提供する。前記神経活性ペプチドは、例えば、神経伝達物質及び/または神経調節物質のようにCNSで重要な生化学的役割を行うので、このような多様な配列のペプチドを前記CNSに伝達することは、治療的利得のための多くの機会を提供することができる。例えば、エンケファリン(enkephalin)のような内因性及び合成オピオイド(opioid)ペプチドの伝達が無痛覚(analgesia)を誘発するために使われる。
【0003】
しかし、多くの化合物をCNS治療剤として使用するには、多くの障害が存在するが、そのうち、最も主要なものが脳が障壁システムを設けているという点である。脳障壁システムは、2種の主要な構成要素を有しているが、脈絡叢(choroid plexus)及び血液脳関門(BBB)がそれである。前記脈絡叢は、脳脊髄液(CSF)と血液とを分離し、前記BBBは、血液と脳ISFとを分離する。特に、BBBは、血液から脳組織に物質の移行を制限する関門であって、高い選択的透過性を示して有害物質が脳に移動しないように保護する役割を果たす。BBBには、細胞と細胞との間に密着連接が形成されており、脂溶性物質はBBBを通過することができるが、水溶性物質または高分子物質はBBBを通過しにくいので、脳疾患治療用の薬物伝達に障害要素になる。
【0004】
したがって、このような限界を克服するために、BBBを通過して脳に薬物を伝達するための多様な技術が開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、血液脳関門の透過性を増進させて薬物を効果的に密着連接部を有する組織に伝達することができる薬物伝達用組成物を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、前記薬物伝達用組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を果たすために、本発明は、油相滴がトリオレインを含み、前記油相滴の内部に水滴を封入した内部水相/油相/外部水相(Water/Oil/Water;W/O/W)型構造のトリオレインエマルジョンを有効成分として含む密着連接部を有する組織への薬物伝達用組成物を提供する。
【0008】
前記他の目的を果たすために、本発明は、トリオレインと、界面活性剤が含まれた水と、を混合して、1次トリオレインエマルジョンを製造する段階;及び前記1次トリオレインエマルジョンに水を添加した後、動力源(power source)を処理して、平均直径が5μm超過15μm未満であるトリオレイン滴を含むW/O/W型トリオレインエマルジョンを製造する段階;を含む密着連接部を有する組織への薬物伝達用組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、水相/油相/水相(W/O/W)の構造を有するトリオレイン二重エマルジョンを有効成分として含む密着連接部を有する組織への薬物伝達用組成物に関するものであって、従来のトリオレインエマルジョンで水とトリオレインとの大きな密度差によって乳剤が迅速に破壊される問題点を解決し、製造時に粒子サイズの調節が可能であって、粒子間のサイズ偏差を減らし、安定した粒子を作ることができながら、同時にトリオレインのBBBの密着連接を緩くする活性をそのまま示すので、密着連接部を有する組織、すなわち、脳、網膜または睾丸への薬物伝達用組成物として有用に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例による二重構造のトリオレインエマルジョンの形状を図式的に示した図面である。
【
図2】本発明の一実施例で製造した赤色の色素を内部に封入したW/O/W二重構造のトリオレインエマルジョンを顕微鏡で観察した結果である。
【
図3】本発明の一実施例で製造したW/O/W二重構造のトリオレインエマルジョンの平均粒径を確認するために顕微鏡で観察した結果である。
【
図4】本発明の一実施例で製造したトリパンブルーを内部に封入したW/O/W二重構造のトリオレインエマルジョンがBBBを通過して脳の内部への伝達を確認した結果である。
【
図5】本発明の一実施例でW/O/W二重構造のトリオレインエマルジョンを注入した脳のMRI撮影写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発明者らは、トリオレインエマルジョンを脳に処理する時、BBBをオープニングすることができるが、水とトリオレイン(脂質)との密度差が過度に大きくて、剤型が不安定であって、実際、臨床に適用するのに限界があることを認知し、このような問題を解決するための研究を行っているうちに、副作用がなく、遥かに安定したトリオレインエマルジョンを製造して、本発明を完成した。
【0012】
したがって、本発明は、油相滴がトリオレインを含み、前記油相滴の内部に水滴を封入した内部水相/油相/外部水相(W/O/W)型構造のトリオレインエマルジョンを有効成分として含む密着連接部を有する組織への薬物伝達用組成物を提供する。
【0013】
この際、前記密着連接部を有する組織は、脳、網膜または睾丸の組織である。
【0014】
トリオレインは、臨床で脂肪塞栓症シンドロームを起こす代表的な脂質であって、特定サイズのトリオレインエマルジョンを一定量頸動脈に注射すれば、脳血管に一時的な脂肪塞栓症を起こして密着連接を緩くすることにより、BBBを一時的にオープニングすることができるので、本発明によるW/O/W型構造のトリオレインエマルジョンは、このようなBBBオープニング活性を保持しながらも、トリオレイン滴内に界面活性剤を含むことができて、粒子の安定性が向上し、トリオレイン滴の内部に水滴が封入されており、トリオレインと水との密度差による剤型破壊現象を最小化することができるので、密着連接部を有する組織のうち、特に、脳への薬物伝達のための組成物として有用に活用されうる。
【0015】
また、密着連接を緩くする効果は、BBBと類似した膜を含む網膜ないし睾丸の組織でまた同様に表われるので、本発明による組成物は、脳だけではなく、網膜または睾丸にも効果的に薬物を伝達することができる。
【0016】
この際、前記油相滴の平均直径は、5μm超過15μm未満であり、望ましくは、全ての油相滴の直径が5μm超過10μm未満であるところ、平均直径が5μm未満である場合には、一時的血管詰まり現象が起こらず、15μm超過である場合には、一時的な血管詰まり現象が激しく起こり、安全性が低下するので、望ましくない。
【0017】
本発明の一実施例において、前記内部水相に水溶性薬物または水溶性色素をさらに含みうるので、このようにトリオレイン滴に封入された内部水相に水溶性物質を含むことにより、トリオレインがBBBの密着連接を緩くして脳などの密着連接部を有する組織内部に浸透すれば、内部水相に含まれた薬物が組織内部に効果的に伝達されて、望ましい。
【0018】
本発明で使われる前記薬物は、動物またはヒトの体内で生理的な機能を促進または抑制して、所望の生物学的または薬理学的効果を誘導することができる物質であって、動物またはヒトに投与に適した化学的または生物学的物質または化合物を意味し、感染予防のような所望していない生物学的効果を予防して有機物に対する予防効果を有し、疾病で生じるコンディションを軽減させ、例えば、疾病の結果として生じる苦痛または感染を緩和させ、有機物から疾病を緩和、減少または完全に除去することができる役割を行える。
【0019】
この際、前記水溶性薬物は、抗癌剤、アミノグリコシド系抗生剤、抗真菌剤、抗老化剤または抗体薬物であり、より望ましくは、ドキソルビシン(Doxorubicin)、シタラビン(cytarabine)、ビンブラスチン(vinblastine)、リツキシマブ(rituximab)、トラスツズマブ(trastuzumab)、ゲンタマイシン(gentamicin)、及びトブラマイシン(tobramycin)からなる群から選択される何れか1つ以上であるが、これらに制限されるものではない。
【0020】
また、前記水溶性色素は、トリパンブルー、エバンスブルー、コンゴーレッド、及びメチレンブルーからなる群から選択される何れか1つ以上であるが、これらに制限されるものではない。
【0021】
本発明の一実施例において、前記油相に脂溶性薬物をさらに含み、より望ましくは、前記脂溶性薬物は、デキサメタゾンであるので、デキサメタゾンのようなBBB-クロジング活性を示す薬物をさらに封入することにより、トリオレインでBBBをオープニングした後、脳に薬物を伝達し、また迅速にBBBをクロジングして副作用なしに効果的に薬物を伝達することができるので、望ましい。
【0022】
すなわち、前記組成物は、トリオレインが血液脳関門(Blood-Brain Barrier;BBB)の密着連接を緩くして薬物のBBB透過率を向上させることにより、薬物を脳に伝達することができる。
【0023】
本発明において、前記薬物伝達用組成物は、薬学的に有効な量のW/O/W型構造のトリオレインエマルジョンないし薬物の以外に1つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤をさらに含みうる。
【0024】
本発明において、前記「薬学的に有効な量」は、薬物が動物またはヒトに投与されて所望の生理学的または薬理学的活性を示すのに十分な量を意味し、投与対象の年齢、体重、健康状態、性別、投与経路及び治療期間などによって適切に変化される。
【0025】
また、本発明において、前記「薬学的に許容される」は、生理学的に許容され、ヒトに投与される時、通常の胃腸障害、めまいのようなアレルギー反応またはこれと類似した反応を起こさないことを意味する。
【0026】
前記担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油が挙げられる。
【0027】
また、それ以外にも、前記薬物伝達用組成物は、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含みうる。
【0028】
本発明による薬物伝達用組成物は、経口、経皮、皮下、静脈または筋肉を含んだ多様な経路を通じて投与され、薬物の投与量は、投与経路、患者の年齢、性別、体重及び患者の重症度などの多様な因子によって適切に選択されうる。また、本発明の薬物伝達用組成物は、薬物が所望の効果を上昇させることができる公知の化合物とも並行して投与される。
【0029】
また、本発明は、トリオレインと、界面活性剤が含まれた水と、を混合して、1次トリオレインエマルジョンを製造する段階;及び前記1次トリオレインエマルジョンに水を添加した後、動力源を処理して、平均直径が5μm超過15μm未満であるトリオレイン滴を含むW/O/W型トリオレインエマルジョンを製造する段階;を含む密着連接部を有する組織への薬物伝達用組成物の製造方法を提供する。
【0030】
従来、3方注射器弁(3-way syringe valve)を用いてトリオレインと水とを数回混合してトリオレインエマルジョンを製造したが、トリオレインと水は、全く混ざらないので、非常に迅速に層分離が起こりながら、エマルジョンシステムが破壊されるという限界があった。しかも、このような方式としては、トリオレインエマルジョンの粒子サイズを調節することも非常に難しいという問題がある。
【0031】
一方、本発明によれば、前記製造過程で粒子の平均直径を容易に調節することができて、最も効果に優れた平均直径の粒子のみを多量製造することができるので、少量のトリオレインでも十分なBBBオープニング効果を示すことができるので、効果的に脳、網膜または睾丸などの密着連接部を有する組織に薬物を伝達することができるW/O/W型トリオレインエマルジョンを製造することができる。また、よく使われる注射器を用いて容易かつ簡便に製造することができ、再現性も非常に優れている。
【0032】
この際、前記1次トリオレインエマルジョンは、トリオレイン100重量部に対して、界面活性剤0.2重量部ないし0.8重量部及びそれを含む水20重量部ないし50重量部を混合して製造可能であるが、これらに制限されるものではない。
【0033】
本発明の一実施例において、前記界面活性剤が含まれた水は、水溶性薬物または水溶性色素をさらに含みうる。
【0034】
この際、前記水溶性薬物は、抗癌剤、アミノグリコシド系抗生剤、抗真菌剤、抗老化剤または抗体薬物であり、より望ましくは、ドキソルビシン、シタラビン、ビンブラスチン、リツキシマブ、トラスツズマブ、ゲンタマイシン、及びトブラマイシンからなる群から選択される何れか1つ以上であるが、これらに制限されるものではない。
【0035】
また、前記水溶性色素は、トリパンブルー、エバンスブルー、コンゴーレッド、及びメチレンブルーからなる群から選択される何れか1つ以上であるが、これらに制限されるものではない。
【0036】
本発明の一実施例において、前記動力源は、超音波発生器(sonicator)、均質化器(homogenizer)及び注射器からなる群から選択されうるが、これらに制限されるものではない。
【0037】
本発明の一実施例において、前記トリオレイン滴は、脂溶性薬物をさらに含み、望ましくは、前記脂溶性薬物は、デキサメタゾンであるが、これに制限されるものではない。
【0038】
また、望ましくは、前記トリオレイン滴の平均直径は、5μm超過10μm未満である。
【0039】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例を挙げて詳細に説明する。但し、下記の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものであり、本発明の内容を例示するものであり、本発明の範囲が、下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>W/O/W二重構造のトリオレインエマルジョンの製造
【0041】
図1に開示された模式図のように、従来のトリオレインエマルジョン(左側)よりも安定化されたW/O/W二重構造のトリオレインエマルジョン(右側)を製造するために、まず、界面活性剤であるspan 80と水溶性色素であるコンゴーレッドを入れた少量の水とトリオレイン(sigma aldrich)とを混合した後、超音波発生器を用いて、トリオレイン溶液中に赤色を帯びる水相滴を乳化させることにより、1次エマルジョンを製造した。
【0042】
この際、光学顕微鏡を用いてエマルジョンを観察した結果、
図2の(A)に示されたように、赤色の水溶性色素が滴状にトリオレインの内部に位置することを確認することができた。
【0043】
以後、前記1次エマルジョンに1%のポリビニルアルコール(poly vinyl alcohol)を含有する水を一定量添加し、動力源として注射器を用いて混ぜて5μm超過20μm未満の平均粒径を有しながら、内部に水相滴が含まれたトリオレイン滴を含むW/O/W構造のトリオレインエマルジョンを製造した。この際、コンゴーレッドを用いて二重エマルジョンを観察した結果、
図2の(B)と同じであり、前述したように、水溶性色素がほとんどトリオレイン滴の内部に封入されていることを確認した。
【0044】
以後、実験に使用時には、生理食塩水に溶かして所望の濃度に希釈して使用し、この際、光学顕微鏡を用いてエマルジョンを観察した結果が、
図2の(C)に示されたようである。
【0045】
<実施例2>W/O/W二重構造トリオレインエマルジョンの平均粒径の分布測定
【0046】
前記実施例1で開始した方法通りに製造したW/O/W二重構造トリオレインエマルジョンの平均粒径を光学顕微鏡を用いて200個以上の粒子をランダムにサンプリングし、image Jプログラムを用いてスケールバー(scale bar)との長さ比較を通じて粒子直径を測定、統計処理を行って測定した。
【0047】
その結果、
図3及び下記表1に示されたように、前記トリオレインエマルジョンは、5~20μmの平均粒径を主に示し、平均は、約7.58μmであった。この際、5~20μmの平均粒径を有する粒子が、一時的なBBBオープニングに関与すると推定されるので、20μm以上の大きな粒子が多く存在するエマルジョンを使用する場合には、むしろ安全性に影響を与えることができる。
【0048】
【0049】
<実施例3>W/O/W二重構造トリオレインエマルジョンの脳への薬物伝達効果の確認
【0050】
(1)トリオレインエマルジョンのBBBオープニング活性の確認
【0051】
まず、前記実施例1で行った方法通りにトリオレインエマルジョンを製造するが、平均直径を7μmになるようにし、エマルジョンの濃度を2%に合わせた。セムタコから分譲されたウサギ(1.7Kg、雄)を対象にして微細導管を大腿動脈に注入して、その先端を一側頸動脈に位置させた後、前記で製造したエマルジョンをウサギ一匹当たり7mlずつ注入した。以後、直ちに3mlのトリパンブルーをウサギに注入し、2時間が経った後、ウサギの脳を摘出して青く染色された箇所を観察した。この際、BBBがオープニングされる場合、そのオープニングされる部位が青く染色される原理を利用した。
【0052】
その結果、
図4に示されたように、トリオレインエマルジョンによって右脳組織のBBBがオープニングされた部位が、トリパンブルーで青く染色されたと表われた。左脳で青く染色された部分は、血管の側部循環のためであると確認された。
【0053】
(2)脳への薬物伝達活性の確認
【0054】
前記と同じ方法で、W/O/W二重構造の、平均粒径が7μmであるトリオレインエマルジョンを製造した。生理食塩水10mlに前記エマルジョン0.2ml(2%)を混合して希釈した後、セムタコから分譲された1.7kgの雄ウサギに、前記トリパンブルーを投入した実験と同じ過程で希釈したエマルジョン7ml及び水溶性薬物であるドキソルビシンを注入し、2時間後、前記ウサギの脳を摘出してドキソルビシンの濃度をフルオロメーターを用いて測定した。この際、脳組織を3個所取り外して3回測定した。
【0055】
その結果、下記表2に示されたように、右脳でドキソルビシンの濃度が左脳でのドキソルビシンの濃度の平均6.12倍ぐらいさらに多く含まれていることを確認することができた。
【0056】
【0057】
(*:相対的蛍光ユニット(relative fluorescence unit))
【0058】
(3)脳磁気共鳴映像を通じたトリオレイン油相液のBBBオープニングの確認
【0059】
前記と同じ方法で、W/O/W二重構造の、平均粒径が7μmであり、造影剤が封入されたトリオレインエマルジョンを製造した。生理食塩水10mlに前記エマルジョン0.2ml(2%)を混合して希釈した後、セムタコから分譲された1.7kgの雄ウサギに、希釈したエマルジョン7mlを注入し、2時間後、前記ウサギの脳を対象にして造影増強磁気共鳴映像撮影を行った。これは、脳のBBBがオープニングされる場合に脳組織に染み込む造影剤の性質を利用した撮影法であり、脳組織に浸み込んだ造影剤は、造影増強磁気共鳴映像で白く表われる。
【0060】
その結果、
図5に示されたように、トリオレイン油相液によって開かれたBBBによって左脳組織が右脳に比べて白く造影増強されて表われることが分かった(矢印)。
【0061】
したがって、前記の実験の結果を総合すれば、内部に水相滴が封入されているトリオレインW/O/W二重鈴構造のエマルジョンは、トリオレインが密着連接(tight junction)を緩くしてBBBをオープニングする活性をそのまま示しながらも、安定した剤型で製造可能であるので、密着連接部を有する組織、すなわち、脳、網膜または睾丸への薬物伝達を効率的に行うことができる。
【0062】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者にとって、このような具体的な記述は、単に望ましい実施形態に過ぎず、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないという点は明白である。すなわち、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とそれらの等価物とによって定義される。