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特許7219349自動変速機の制御装置、制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20230131BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20230131BHJP
   F16H 61/686 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H59/70
F16H61/686
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021551618
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037630
(87)【国際公開番号】W WO2021070759
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019185706
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高村 卓哉
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-281111(JP,A)
【文献】特開2018-189194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 59/70
F16H 61/686
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数の摩擦締結要素の締結・解放状態を制御することで複数のギア段を設定する自動変速機の制御装置であって
記複数の摩擦締結要素への変速油圧をそれぞれ制御する複数の変速系ソレノイドのうち、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドにオフセット電流値を供給し、
現ギア段が1速段又は後退段であるとき、前記オフセット電流値を供給する前記解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへ供給する電流値を、前記オフセット電流値よりも下げて供給する
自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機の制御装置において、
現ギア段が1速段又は後退段であるとき、前記解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへ供給するオフセット電流値を、他の解放ソレノイドに供給する前記オフセット電流値よりも下げて供給する
自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された自動変速機の制御装置において、
現ギア段が1速段又は後退段であるとき、前記解放ソレノイドのうち現ギア段から移行する次ギア段で締結しない解放ソレノイドへ供給するオフセット電流値を下げる
自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載された自動変速機の制御装置において、
記解放ソレノイドへ供給するオフセット電流値を下げる場合、電流値をゼロにする
自動変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載された自動変速機の制御装置において、
現ギア段が1速段又は後退段であるとき、前記解放ソレノイドのうち現ギア段から移行する次ギア段で締結しない解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定し、
現ギア段が1速段と後退段以外であるとき、前記解放ソレノイドの全てに前記オフセット電流値を供給する
自動変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項に記載された自動変速機の制御装置において、
ギア段が1速段であるとき、次ギア段である2速段で締結しない解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定する
自動変速機の制御装置。
【請求項7】
請求項に記載された自動変速機の制御装置において、
ギア段が後退段であるとき、次ギア段である1速段で締結しない解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定する
自動変速機の制御装置。
【請求項8】
数の摩擦締結要素の締結・解放状態を制御することで複数のギア段を設定する自動変速機の制御方法において、
前記複数の摩擦締結要素への変速油圧をそれぞれ制御する複数の変速系ソレノイドのうち、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドにオフセット電流値を供給し、
現ギア段が1速段又は後退段であるとき、前記オフセット電流値を供給する前記解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへ供給する電流値を、前記オフセット電流値よりも下げて供給する
自動変速機の制御方法。
【請求項9】
複数の摩擦締結要素の締結・解放状態を制御することで複数のギア段を設定する自動変速機のコンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記複数の摩擦締結要素への変速油圧をそれぞれ制御する複数の変速系ソレノイドのうち、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドにオフセット電流値を供給するステップと、
現ギア段が1速段又は後退段であるとき、前記オフセット電流値を供給する前記解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへ供給する電流値を、前記オフセット電流値よりも下げて供給するステップと
を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速機のフェール判定装置として、ソレノイドバルブへ供給される電流値をモニタするモニタ部と、モニタ電流値がソレノイドバルブへの指示電流値と異なることからソレノイドバルブの電気異常発生を検知する電気異常検知部と、電気異常の検知後、選択したギア段と変速機構の状態とから、ソレノイドバルブの天絡異常又は断線異常を判定する第1異常判定部と、電気異常の検知後、ソレノイドバルブをオフしたときのモニタ電流値から、ソレノイドバルブの天絡異常又は断線異常を判定する第2異常判定部と、を有する装置が知られている(WO2016/152329参照)。
【発明の概要】
【0003】
上記従来装置において、ソレノイドバルブをオフ状態とするときに、完全に電流を流さないと断線などの診断ができないため、オフ状態でも診断用に電流を供給することが考えられる。しかし、自動変速機の多段化が進むと摩擦締結要素の数も多くなり、その分、変速系ソレノイドへ供給する電流量も増える。このため、多段化が進むほど全ての変速系ソレノイドへの供給電流を合算したトータル消費電流が上昇し、変速機コントロールユニットへのソレノイド負荷の増大を招く、という課題があった。
【0004】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、自動変速機の多段化が進んだ際、変速系ソレノイドの断線診断機能の低下を抑制しながら、変速機コントロールユニットのソレノイド負荷を低減することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のある態様によれば、自動変速機の制御装置は、複数の摩擦締結要素の締結・解放状態を制御することで複数のギア段を設定する。自動変速機の制御装置は、複数の摩擦締結要素への変速油圧をそれぞれ制御する複数の変速系ソレノイドのうち、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドにオフセット電流値を供給する。自動変速機の制御装置は、現ギア段が1速段又は後退段であると、前記オフセット電流値を供給する前記解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへ供給する電流値を、前記オフセット電流値よりも下げて供給する。
【0006】
上記態様によれば、上記解決手段を採用したため、自動変速機の多段化が進んだ際、変速系ソレノイドの断線診断機能の低下を抑制しながら、変速機コントロールユニットのソレノイド負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例1の制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。
図2図2は、自動変速機の一例を示すスケルトン図である。
図3図3は、自動変速機での変速用の摩擦締結要素の各ギア段での締結状態を示す締結表図である。
図4図4は、自動変速機での変速マップの一例を示す変速マップ図である。
図5図5は、自動変速機のコントロールバルブユニットの詳細構成を示す図である。
図6図6は、変速機コントロールユニットの変速コントローラとソレノイド管理コントローラを示す制御ブロック図である。
図7図7は、変速機コントロールユニットのソレノイド管理コントローラにて実行されるソレノイド電流制限制御処理の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、自動変速機が1速段のときにオフセット電流値Iminをゼロにする解放ソレノイドの選択を示す締結表図である。
図9図9は、自動変速機が後退段のときにオフセット電流値Iminをゼロにする解放ソレノイドの選択を示す締結表図である。
図10図10は、1st→2nd変速時において上限リミット値の切り換えタイミングを示すタイムチャートである。
図11図11は、R→Dセレクト時において上限リミット値の切り換えタイミングを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
実施例1における制御装置は、前進9速・後退1速のギア段を有する自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「油圧制御系の詳細構成」、「電子制御系の詳細構成」、「ソレノイド電流制限制御処理構成」に分けて説明する。
【0010】
[全体システム構成]
図1は実施例1の制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。以下、図1に基づいて全体システム構成を説明する。
【0011】
エンジン車の駆動系には、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。トルクコンバータ2は、締結によりエンジン1のクランク軸と自動変速機3の入力軸INを直結するロックアップクラッチ2aを内蔵する。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧制御回路や油圧ソレノイドバルブ(以下、「油圧ソレノイド」という。)等により構成されるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。
【0012】
コントロールバルブユニット6は、油圧ソレノイドとして、摩擦締結要素毎に6個設けられるクラッチソレノイド20(変速系ソレノイド)と、それぞれ1個設けられるライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23を有する。即ち、合計9個の油圧ソレノイドを有する。これらの油圧ソレノイドは、何れも3方向リニアソレノイド構造であり、変速機コントロールユニット10からの制御指令を受けて作動する。
【0013】
エンジン車の電子制御系には、図1に示すように、変速機コントロールユニット10(略称:「ATCU」という。)と、エンジンコントロールユニット11(略称:「ECU」という。)と、CAN通信線12と、を備える。
【0014】
ここで、変速機コントロールユニット10は、コントロールバルブユニット6の上面位置に機電一体に設けられる。変速機コントロールユニット10には、ユニット基板の温度を検出する基板温度センサとして、温度情報を取得する制御で使用するメイン基板温度センサ31と、サブ基板温度センサ32と、を冗長系により備える。メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32とは、互いに独立性が担保されている。サブ基板温度センサ32は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略称:特定用途向け集積回路)による構成である。即ち、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32は、メイン温度センサ値とサブ温度センサ値を変速機コントロールユニット10に送出するが、周知の自動変速機ユニットとは異なり、オイルパン内で変速機作動油(ATF)に直接接触していない温度情報を送出する。
【0015】
自動変速機3の制御装置である変速機コントロールユニット10は、タービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、イグニッションスイッチ15、インヒビタースイッチ18、中間軸回転センサ19、等からの信号を入力する。
【0016】
タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転速度(=変速機入力軸回転速度)を検出し、タービン回転速度Ntの信号を変速機コントロールユニット10に送出する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の出力軸回転速度を検出し、出力軸回転速度No(=車速VSP)の信号を変速機コントロールユニット10に送出する。イグニッションスイッチ15は、イグニッションスイッチ信号(オン/オフ)を変速機コントロールユニット10に送出する。インヒビタースイッチ18は、運転者によるセレクトレバーやセレクトボタン等へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を検出し、レンジ位置信号を変速機コントロールユニット10に送出する。中間軸回転センサ19は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転速度を検出し、中間軸回転速度Nintの信号を変速機コントロールユニット10に送出する。
【0017】
変速機コントロールユニット10では、変速マップ(図4参照)上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。
【0018】
エンジンコントロールユニット11は、アクセル開度センサ16、エンジン回転センサ17、等からの信号を入力する。
【0019】
アクセル開度センサ16は、ドライバのアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOの信号をエンジンコントロールユニット11に送出する。エンジン回転センサ17は、エンジン1の回転速度を検出し、エンジン回転速度Neの信号をエンジンコントロールユニット11に送出する。
【0020】
エンジンコントロールユニット11では、エンジン単体の様々な制御に加え、変速機コントロールユニット10での制御との協調制御によりエンジントルク制限制御等を行う。変速機コントロールユニット10とエンジンコントロールユニット11は、双方向に情報交換可能なCAN通信線12を介して接続されている。よって、エンジンコントロールユニット11は、変速機コントロールユニット10から情報リクエストが入力されると、リクエストに応じてアクセル開度APOやエンジン回転速度NeやエンジントルクTeやタービントルクTtの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。また、変速機コントロールユニット10から上限トルクによるエンジントルク制限要求が入力されると、エンジントルクを所定の上限トルクにより制限したトルクとするエンジントルク制限制御が実行される。
【0021】
[自動変速機の詳細構成]
図2は自動変速機3の一例を示すスケルトン図であり、図3は自動変速機3での締結表であり、図4は自動変速機3での変速マップの一例を示す。以下、図2図4に基づいて自動変速機3の詳細構成を説明する。
【0022】
自動変速機3は、下記の点を特徴とする。
(a) 変速要素として、機械的に係合/空転するワンウェイクラッチを用いていない。
(b) 摩擦締結要素である第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチK1、第2クラッチK2、第3クラッチK3は、変速時にクラッチソレノイド20によってそれぞれ独立に締結/解放状態が制御される。
(c) 第2クラッチK2と第3クラッチK3は、クラッチピストン油室に作用する遠心力による遠心圧を相殺する遠心キャンセル室を有する。
【0023】
自動変速機3は、図2に示すように、ギアトレーンを構成する遊星歯車として、入力軸INから出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0024】
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギアS1と、第1サンギアS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギアR1と、を有する。
【0025】
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギアS2と、第2サンギアS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギアR2と、を有する。
【0026】
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギアS3と、第3サンギアS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギアR3と、を有する。
【0027】
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギアS4と、第4サンギアS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギアR4と、を有する。
【0028】
自動変速機3は、図2に示すように、入力軸INと、出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦締結要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
【0029】
入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギアS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0030】
出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギア等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギアR4に断接可能に連結している。
【0031】
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギアR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦締結要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギアR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギアS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギアS4を、摩擦締結要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0032】
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギアR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギアS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。
【0033】
第1クラッチK1は、第4リングギアR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦締結要素である。第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦締結要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦締結要素である。
【0034】
図3は、自動変速機3において6つの摩擦締結要素のうち三つの同時締結の組み合わせによりDレンジにて前進9速後退1速を達成する締結表を示す。以下、図3に基づいて、各ギア段を成立させる変速構成を説明する。
【0035】
1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段~5速段が、ギア比が1を超えている減速ギア比によるアンダードライブギア段である。
【0036】
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギア比=1の直結段である。
【0037】
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段~9速段は、ギア比が1未満の増速ギア比によるオーバードライブギア段である。
【0038】
さらに、1速段から9速段までのギア段のうち、隣接するギア段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、図3に示すように、掛け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接するギア段への変速は、三つの摩擦締結要素のうち、二つの摩擦締結要素の締結は維持したままで、一つの摩擦締結要素の解放と一つの摩擦締結要素の締結を行うことで達成される。
【0039】
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、6つの摩擦締結要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
【0040】
そして、変速機コントロールユニット10には、図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の1速段から9速段までのギア段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
【0041】
[油圧制御系の詳細構成]
図5はコントロールバルブユニット6の詳細構成を示す。以下、図5に基づいて油圧制御系の詳細構成を説明する。
【0042】
コントロールバルブユニット6は、油圧源としてメカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62を備える。メカオイルポンプ61は、エンジン1によりポンプ駆動され、電動オイルポンプ62は、電動モータ63によりポンプ駆動される。
【0043】
コントロールバルブユニット6は、油圧制御回路に設けられる弁として、ライン圧ソレノイド21とライン圧調圧弁64とクラッチソレノイド20とロックアップソレノイド23とを備える。さらに、潤滑ソレノイド22と潤滑調圧弁65とブースト切換弁66とP-nP切換弁67とクーラー68を備える。
【0044】
ライン圧調圧弁64は、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62の少なくとも一方からの吐出油を、ライン圧ソレノイド21からのバルブ作動信号圧に基づいてライン圧PLに調圧する。
【0045】
クラッチソレノイド20は、ライン圧PLを元圧とし、摩擦締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に締結圧や解放圧を制御する変速系ソレノイドである。なお、図5ではクラッチソレノイド20が1個であるように記載しているが、摩擦締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に6個のソレノイドを有する。6個のクラッチソレノイド20は、第1ブレーキソレノイド、第2ブレーキソレノイド、第3ブレーキソレノイド、第1クラッチソレノイド、第2クラッチソレノイド、第3クラッチソレノイドである。
【0046】
ロックアップソレノイド23は、ライン圧調圧弁64によるライン圧PLの調圧時における余剰油を用いてロックアップクラッチ2aの差圧を制御する。
【0047】
潤滑ソレノイド22は、潤滑調圧弁65へのバルブ作動信号圧と、ブースト切換弁66への切換圧と、P-nP切換弁67への切換圧とを作り出し、摩擦締結要素へ供給する潤滑流量を、発熱を抑える適正な流量に調圧する機能を有する。そして、連続変速プロテクション以外のときに摩擦締結要素の発熱を抑える最低潤滑流量をメカ保証し、最低潤滑流量に上乗せされる潤滑流量分を調整するソレノイドである。
【0048】
潤滑調圧弁65は、潤滑ソレノイド22からのバルブ作動信号圧によって、摩擦締結要素とギアトレーンを含むパワートレーン(PT)へクーラー68を介して供給する潤滑流量をコントロールすることができる。そして、潤滑調圧弁65によってPT供給潤滑流量を適正化することでフリクションを低減する。
【0049】
ブースト切換弁66は、潤滑ソレノイド22からの切換圧によって、第2クラッチK2と第3クラッチK3の遠心キャンセル室の供給油量を増加する。このブースト切換弁66は、遠心キャンセル室の油量が不足しているシーンで一時的に供給油量を増やすときに使用する。
【0050】
P-nP切換弁67は、潤滑ソレノイド22からの切換圧によって、パーキングモジュールへ供給するライン圧の油路を切り換え、パークロックを行う。
【0051】
このように、コントロールバルブユニット6は、潤滑ソレノイド22と、潤滑調圧弁65と、ブースト切換弁66と、P-nP切換弁67とを備え、Dレンジ圧油路やRレンジ圧油路等を切り替えるマニュアルバルブを廃止していること特徴とする。
【0052】
[電子制御系の詳細構成]
【0053】
図6は変速機コントロールユニット10の変速コントローラ100とソレノイド管理コントローラ110を示す。以下、図6に基づいて電子制御系の詳細構成を説明する。
【0054】
変速機コントロールユニット10は、図6に示すように、自動変速機3の変速機能を分担する変速コントローラ100と、ソレノイド断線診断機能とソレノイド電流制限機能とお掃除機能を分担するソレノイド管理コントローラ110を備える。なお、「お掃除機能」とは、Pレンジ停車時に油圧ソレノイドへディザ電流を供給することで、バルブスプールにピストン運動を生じさせてコンタミと呼ばれる異物を除去する機能をいう。
【0055】
変速コントローラ100は、ギア段を移行する変速過渡期や所定のギア段に固定するとき、各摩擦締結要素への目標油圧を演算する。そして、演算結果の目標油圧を入力し、目標油圧を6個のクラッチソレノイド20への目標ソレノイド電流に変換するP-I変換部100aを有する。
【0056】
P-I変換部100aは、摩擦締結要素への目標油圧がゼロであるとき、目標ソレノイド電流としてオフセット電流値Imin(図6のIminに相当する)を出力する。そして、摩擦締結要素への目標油圧がゼロから最大圧までは、油圧上昇に比例した電流値を出力し、摩擦締結要素への目標油圧を最大圧にするインギア中、目標ソレノイド電流として最大指示電流値Imax(図6のImax)を出力する。
【0057】
ここで、「オフセット電流値Imin」は、解放側摩擦締結要素の解放を維持する上限域の電流値、つまり、摩擦締結要素の締結油圧までは出ないが摩擦締結要素へ連通する油圧回路内に作動油を充填したままとする電流値とされる。なお、解放ソレノイドにオフセット電流値Iminを供給する理由は、「ソレノイドOFF固着判定(ソレノイド断線診断)」と「油圧立ち上がり遅れ対策」にある。「最大指示電流値Imax」は、締結側摩擦締結要素のうち摩擦締結要素圧の最大圧に基づいて一律に決められた固定電流値である。なお、インギア中、締結ソレノイドに最大指示電流値Imaxを供給する理由は、高負荷で伝達トルクが高くなってもクラッチ滑りやブレーキ滑りを防止し、所望の許容トルク容量を確保するためである。
【0058】
ソレノイド管理コントローラ110は、基本制御として、複数の摩擦締結要素への変速油圧をそれぞれ制御する複数の変速系ソレノイドのうち、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドにオフセット電流値Iminを供給する。そして、温度補正部110aと、第1ソレノイド電流選択部110bと、第2ソレノイド電流選択部110cと、フェール処理部110dと、定数選択部110eと、最小値選択部110fと、を有する。
【0059】
温度補正部110aは、P-I変換部100aから出力される目標ソレノイド電流に温度補正を施し、温度補正ソレノイド電流を生成する。
【0060】
第1ソレノイド電流選択部110bは、温度補正部110aから温度補正ソレノイド電流を入力し、解放ソレノイドのOFF禁止判定に基づいて、温度補正ソレノイド電流を選択する。一方、解放ソレノイドのOFF許可判定に基づいて、3個の解放ソレノイドのうち2個の解放ソレノイドへの出力電流として0mA(ゼロ)を選択する。
【0061】
第2ソレノイド電流選択部110cは、第1ソレノイド電流選択部110bからの温度補正ソレノイド電流を入力し、お掃除作動条件の不成立判定に基づいて、温度補正ソレノイド電流を選択する。一方、お掃除作動条件の成立判定に基づいて、お掃除用ソレノイド指示電流(ディザ電流)を選択する。
【0062】
フェール処理部110dは、第2ソレノイド電流選択部110cにて温度補正ソレノイド電流が選択され、かつ、締結ソレノイドと解放ソレノイドへの出力電流が0mA(ゼロ)以外であるとき、ソレノイド断線診断を行う。そして、ソレノイド断線診断において、通電中であるのもかかわらず0mA(ゼロ)である状態が所定時間継続すると、ソレノイドが断線であると診断される。なお、ソレノイド断線でないとの診断結果であると、第2ソレノイド電流選択部110cからの温度補正ソレノイド電流を出力する。一方、ソレノイド断線であるとの診断結果であると、所定のフェールセーフ処理へ移行する。
【0063】
定数選択部110eは、自動変速機3のギア段を判定に基づいて、1速段用定数(1st用定数)と後退段用定数(R用定数)と1速段/後退段用以外用定数(1st/R以外用定数)の何れかを選択する。ここで、「定数」とは、各ギア段での締結ソレノイドへの温度補正ソレノイド電流の最大指示電流値Imaxを、各ギア段で締結側摩擦締結要素毎に決めた必要締結要素圧に基づく上限リミット値Ilmtに制限する定数である。
【0064】
最小値選択部110fは、フェール処理部110dからの温度補正ソレノイド電流と定数選択部110eからの上限リミット値Ilmtのうち最小値を選択し、最終のソレノイド出力電流とする。
【0065】
ソレノイド管理コントローラ110は、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)を制御対象とし、解放ソレノイドにオフセット電流値Iminを供給するという基本制御を踏まえながら下記のソレノイド電流制限制御を実行する。なお、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)以外のソレノイド(ライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23)は、それぞれの保証上限電流値内で使用している。
(a) 複数の摩擦締結要素のうち締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和が所定値を超えると、解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへのオフセット電流値Iminをゼロにする。
(b) 所定値を、発熱源であるソレノイド駆動ICを有するソレノイド駆動回路の温度上昇抑制を保証する保証上限電流値IMAXから、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給するときのオフセット電流総和ΣIminを差し引いた値に設定する。
(c) 締結ソレノイドに対してインギア中に供給する最大指示電流値Imaxを、全てのギア段での最大締結要素圧に基づく固定電流値Ifixから、各ギア段での締結側摩擦締結要素毎に決めた必要締結要素圧に基づく上限リミット値Ilmtに制限する。
(d) 締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えるギア段であるとき、解放ソレノイドのうち現ギア段から移行する次ギア段で締結しない解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定する。締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えないギア段であるとき、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給する。
【0066】
[ソレノイド電流制限制御処理構成]
上記(d)のソレノイド電流制限制御において、締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えるギア段を「1速段」と「後退段」としている。そして、締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えないギア段を「1速段/後退段以外(2速段~9速段)」としている。以下、これを反映して変速機コントロールユニット10のソレノイド管理コントローラ110にて実行されるソレノイド電流制限制御処理の流れを説明する。なお、図7のフローチャートによる処理は、所定の制御周期により繰り返し実行される。
【0067】
ステップS1では、スタートに続き、自動変速機3のギア段がDレンジン1速段であるか否かを判断する。YES(Dレンジン1速段である)の場合はステップS2へ進み、NO(Dレンジン1速段以外である)の場合はステップS5へ進む。なお、ギア段の検出は、インヒビタースイッチ18からのスイッチ信号によるレンジ位置の検出と、変速コントローラ100から出力されている変速指令信号、等に基づいて行う。
【0068】
ステップS2では、S1でのDレンジン1速段であるとの判断、或いは、S4での1速→2速の変速未終了であるとの判断に続き、1速段での締結ソレノイドに対しインギア中の最大指令電流値Imaxを1速用上限リミット値Ilmt(1st)に設定し、ステップS3へ進む。
【0069】
ここで、「1速段での締結ソレノイド」とは、第2ブレーキB2を締結する第2ブレーキソレノイドと、第3ブレーキB3を締結する第3ブレーキソレノイドと、第3クラッチK3を締結する第3クラッチソレノイドとをいう。「1速用上限リミット値Ilmt(1st)」とは、保証上限電流値IMAXから解放ソレノイドの1個に供給するオフセット電流値Iminを差し引いた値を、許容トルク容量の大きさにしたがって1速段での3個のソレレノイドに分配した電流値をいう。例えば、保証上限電流値IMAXを3.60Aとしオフセット電流値Iminを0.05Aとしたとき、電流値差の3.55Aを第2ブレーキソレノイドに1.20A、第3ブレーキソレノイドに1.15A、第3クラッチソレノイドに1.20Aと分配する。
【0070】
ステップS3では、S2での1速段での締結ソレノイドに対する1速用上限リミット値Ilmt(1st)の設定に続き、1速段での3個の解放ソレノイドのうち1速段から移行する2速段で締結しない2個の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定する。
【0071】
ここで、「1速段での解放ソレノイド」とは、第1ブレーキB1を解放する第1ブレーキソレノイドと、第1クラッチK1を解放する第1クラッチソレノイドと、第2クラッチK2を解放する第2クラッチソレノイドとをいう。「2速段で締結しない2個の解放ソレノイド」とは、図8に示すように、第1ブレーキB1を解放する第1ブレーキソレノイドと第1クラッチK1を解放する第1クラッチソレノイドである。例えば、オフセット電流値Iminを0.05A(=50mA)としたとき、第1ブレーキソレノイド20aと第1クラッチソレノイド20dへの電流値を0mAにすることで、トータルで0.1A(=100mA)の電流値が削減される。
【0072】
ステップS4では、S3での1速段での解放ソレノイドに対する電流値の設定に続き、1速→2速の変速が終了したか否かを判断する。YES(1速→2速の変速終了)の場合はエンドへ進み、NO(1速→2速の変速未終了)の場合はステップS2へ戻る。
【0073】
ステップS5では、S1でのDレンジン1速段以外であるとの判断に続き、Rレンジの選択による後退段であるか否かを判断する。YES(後退段である)の場合はステップS6へ進み、NO(後退段以外である)の場合はステップS10へ進む。
【0074】
ステップS6では、S5での後退段であるとの判断、或いは、S8でのR→Dセレクトではないとの判断、或いは、S9での1速への変速未終了であるとの判断に続き、後退段での締結ソレノイドに対しインギア中の最大指令電流値ImaxをR用上限リミット値Ilmt(R)に設定し、ステップS7へ進む。
【0075】
ここで、「後退段での締結ソレノイド」とは、第1ブレーキB1を締結する第1ブレーキソレノイドと、第2ブレーキB2を締結する第2ブレーキソレノイドと、第3ブレーキB3を締結する第3ブレーキソレノイドとをいう。「R用上限リミット値Ilmt(R)」とは、保証上限電流値IMAXから解放ソレノイドの1個に供給するオフセット電流値Iminを差し引いた値を、許容トルク容量の大きさにしたがって後退段での3個のソレレノイドに分配した電流値をいう。例えば、保証上限電流値IMAXを3.60Aとしオフセット電流値Iminを0.05Aとしたとき、電流値差の3.55Aを第1ブレーキソレノイドに1.20A、第2ブレーキソレノイドに1.20A、第3ブレーキソレノイドに1.15Aと分配する。
【0076】
ステップS7では、S6での後退段での締結ソレノイドに対するR用上限リミット値Ilmt(R)の設定に続き、後退段での3個の解放ソレノイドのうち後退段から移行する1速段で締結しない2個の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定する。
【0077】
ここで、「後退段での解放ソレノイド」とは、第1クラッチK1を解放する第1クラッチソレノイドと、第2クラッチK2を解放する第2クラッチソレノイドと、第3クラッチK3を解放する第3クラッチソレノイドをいう。「1速段で締結しない2個の解放ソレノイド」とは、図9に示すように、第1クラッチK1を解放する第1クラッチソレノイドと第2クラッチK2を解放する第2クラッチソレノイドである。例えば、オフセット電流値Iminを0.05A(=50mA)としたとき、第1クラッチソレノイドと第2クラッチソレノイドへの電流値を0mAにすることで、トータルで0.1A(=100mA)の電流値が削減される。
【0078】
ステップS8では、S7での後退段での解放ソレノイドに対する電流値の設定に続き、R→Dセレクトであるか否かを判断する。YES(R→Dセレクトである)の場合はステップS9へ進み、NO(R→Dセレクトでない)の場合はステップS6へ戻る。
【0079】
ステップS9では、S8でのR→Dセレクトであるとの判断に続き、Dレンジへのセレクト後、1速段への変速が終了したか否かを判断する。YES(1速段への変速終了)の場合はエンドへ進み、NO(1速段への変速未終了)の場合はステップS6へ戻る。
【0080】
ステップS10では、S5での後退段以外であるとの判断に続き、Dレンジの2速段~9速段の何れかのギア段であるか否かを判断する。YES(Dレンジの2速段~9速段である)の場合はエンドへ進み、NO(Dレンジの2速段~9速段でない)の場合はエンドへ進む。
【0081】
ステップS11では、S10でのDレンジの2速段~9速段であるとの判断に続き、Dレンジの2速段~9速段での締結ソレノイドに対しインギア中の最大指令電流値Imaxを1st/R以外用上限リミット値Ilmt(2~9)に設定し、ステップS12へ進む。
【0082】
ここで、「Dレンジの2速段~9速段での締結ソレノイド」とは、図3に示すように、2速段~9速段のそれぞれのギア段で締結される締結ソレノイドをいう。「1st/R以外用上限リミット値Ilmt(2~9)」とは、保証上限電流値IMAXから解放ソレノイドの3個に供給するオフセット電流値Iminを差し引いた値を、2速段~9速段のそれぞれのギア段で締結される3個の締結ソレノイドに均等分配した電流値をいう。例えば、保証上限電流値IMAXを3.60Aとしオフセット電流値Iminを0.05A(3個で0.15A)としたとき、電流値差の3.45Aを2速段~9速段のそれぞれのギア段で締結される3個の締結ソレノイドに対して1.15Aずつ均等分配する。
【0083】
ステップS12では、S11での2速段~9速段での締結ソレノイドに対する1st/R以外用上限リミット値Ilmt(2~9)の設定に続き、Dレンジの2速段~9速段のそれぞれのギア段で解放される3個の解放ソレノイドに対しオフセット電流値Iminを供給する。ここで、「Dレンジの2速段~9速段での解放ソレノイド」とは、図3に示すように、2速段~9速段のそれぞれのギア段で解放される3個の解放ソレノイドをいう。
【0084】
次に、「背景技術の課題と課題解決方策」を説明する。そして、実施例1の作用を、「ソレノイド電流制限制御処理作用」、「基板温度センサの電気診断作用」に分けて説明する。
【0085】
[背景技術の課題と課題解決方策]
背景技術では、変速系ソレノイドのうち締結ソレノイドへのインギア中における最大指示電流は、全ギア段で許容トルク容量が最大の摩擦締結要素を基準とし、一律に決めた固定電流値を供給している。そして、変速系ソレノイドのうち解放ソレノイドへは、ソレノイド断線診断が行えるように、全ての解放ソレノイドに対してオフセット電流値を供給している。
【0086】
よって、自動変速機の多段化が進むと摩擦締結要素の数も多くなり、その分、変速系ソレノイドへ供給する電流量も増える。このため、多段化が進むほど全ての変速系ソレノイドへの供給電流を合算したトータル消費電流が上昇し、変速機コントロールユニットへのソレノイド負荷の増大を招く、という課題があった。
【0087】
上記ソレノイド負荷の増大という課題に対し、締結ソレノイドに対する固定電流値の供給はそのままで解放ソレノイドへの電流値の全てをゼロにする第1案がある。しかし、第1案の場合、副作用として、解放ソレノイドの断線診断ができないし、次ギア段への変速時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生する。
【0088】
上記ソレノイド負荷の増大という課題に対し、解放ソレノイドに対するオフセット電流値の供給はそのままで締結ソレノイドへの固定電流値を一律に下げる第2案がある。しかし、第2案の場合、副作用として、自動変速機での許容トルク容量が下がってしまう。
【0089】
上記ソレノイド負荷の増大という課題に対し、解放ソレノイドに対するオフセット電流値の供給はそのままで締結ソレノイドへの固定電流値を必要容量による電流値とする第3案がある。しかし、第3案の場合、副作用として、車種によってはATCUが保証している保証上限電流値を超えるシーンがあり、ソレノイド駆動ICの温度上昇によりソレノイド寿命が短くなる懸念がある。
【0090】
上記ソレノイド負荷の増大という課題に対し、解放ソレノイドに対するオフセット電流値の供給はそのままで締結ソレノイドへの上限電流値をシーン(例えば、ギア段毎のシーン)に応じて切り替える第4案がある。しかし、第4案の場合、副作用として、車種によってはATCUが保証している保証上限電流値を超えるシーンがあり、第3案と同様に、ソレノイド駆動ICの温度上昇によりソレノイド寿命が短くなる懸念がある。
【0091】
本発明者等は、現状分析と課題検討の結果、変速系ソレノイドの高負荷シーンと低負荷シーンを切り分ける第4案に、解放ソレノイドへの電流値をオフセット電流値より下げるという第1案を組み合わせることがソレノイド負荷の低減に有効であるという点に着目した。
【0092】
上記着目点に基づいて、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置は、自動変速機3のギアトレーンに有する複数の摩擦締結要素の締結・解放状態を制御することで複数のギア段を設定する変速機コントロールユニット10を備える。この自動変速機3の制御装置において、変速機コントロールユニット10に、複数の摩擦締結要素への変速油圧をそれぞれ制御する複数のクラッチソレノイド20のうち、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドにオフセット電流値Iminを供給するソレノイド管理コントローラ110を有する。ソレノイド管理コントローラ110は、クラッチソレノイド20に供給する電流値の総和が所定値を超えると、オフセット電流値Iminを供給する解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへ供給する電流値を、オフセット電流値Iminよりも下げて供給する、という課題解決方策を採用した。
【0093】
即ち、複数の摩擦締結要素のうち締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和が所定値を超えると、ソレノイド高負荷シーンであると判断できる。一方、複数の摩擦締結要素のうち締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和が所定値以下であると、ソレノイド低負荷シーンであると判断できるというように、ソレノイド高負荷シーンとソレノイド低負荷シーンの切り分けができる。
【0094】
そして、ソレノイド高負荷シーンと判断される場合は、解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへの電流値がオフセット電流値Iminよりも下げて供給される。このため、解放ソレノイドに供給していたオフセット電流値Iminを下げることにより、全ての変速系ソレノイドへの供給電流を合算したトータル消費電流が低減される。一方、ソレノイド低負荷シーンと判断される場合は、基本制御に基づいて解放ソレノイドにオフセット電流値Iminを供給する。このため、解放ソレノイドの断線診断が確保されるし、次ギア段への変速時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生するのが防止される。
【0095】
この結果、自動変速機3の多段化が進んだ際、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の断線診断機能の低下を抑制しながら、変速機コントロールユニット10のソレノイド負荷を低減することができる。つまり、単純に解放ソレノイドに供給していたオフセット電流値Iminを下げることで、変速機コントロールユニット10のソレノイド負荷を低減するのではなく、オフセット電流値Iminを削減するシーンをソレノイド高負荷シーンに限っている。このため、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の断線診断機能確保と、変速機コントロールユニット10のソレノイド負荷低減との両立が達成される。なお、例えば、解放ソレノイドへの電流値をゼロにすると、そのギア段が維持されている間のみ断線診断機能を一時的に失うが、他のギア段へ移行して解放ソレノイドへ電流値が供給されると直ちに断線診断機能が回復するため、断線診断機能を損なうことにはならない。
【0096】
[ソレノイド電流制限制御処理作用]
実施例1でのソレノイド電流制限制御処理作用を、図7に示すフローチャートに基づいて説明する。まず、自動変速機3の現ギア段が1速段であるとき、S1→S2→S3→S4へと進む。そして、S4にて1速→2速の変速未終了と判断されている間は、S2→S3→S4へと進む流れが繰り返される。
【0097】
S2では、1速段での締結ソレノイドに対しインギア中の最大指令電流値Imaxが1速用上限リミット値Ilmt(1st)に設定される。S3では、1速段での3個の解放ソレノイドのうち1速段から移行する2速段で締結しない2個の解放ソレノイドへの電流値がゼロに設定される。
【0098】
そして、S4にて1速→2速の変速終了と判断されると、S4からエンドへと進む。このように、自動変速機3の現ギア段が1速段であるときは、図10に示すように、目標ギア段が時刻t1にて1速段から2速段に切り替わっても、1速→2速の変速終了と判断される時刻t2までは1速用上限リミット値Ilmt(1st)の設定が維持される。そして、1速→2速の変速終了判断時刻t2になると、1速用上限リミット値Ilmt(1st)から1st/R以外用上限リミット値Ilmt(2~9)に切り替えられる。
【0099】
次に、自動変速機3の現ギア段が後退段であるとき、S1→S5→S6→S7→S8へと進む。そして、S8にてR→Dセレクトでないと判断されている間は、S6→S7→S8へと進む流れが繰り返される。そして、S8にてR→Dセレクトであると判断されるとS8からS9へと進み、S9にて1速段への変速未終了と判断されている間は、S6→S7→S8→S9へと進む流れが繰り返される。
【0100】
S6では、後退段での締結ソレノイドに対しインギア中の最大指令電流値ImaxがR用上限リミット値Ilmt(R)に設定される。S7では、後退段での3個の解放ソレノイドのうち後退段から移行する1速段で締結しない2個の解放ソレノイドへの電流値がゼロに設定される。
【0101】
そして、S9にて1速段への変速終了と判断されると、S9からエンドへと進む。このように、自動変速機3の現ギア段が後退段であるときは、図11に示すように、レンジ位置が時刻t1にてRレンジからDレンジに切り替わっても、Dレンジ1速段への変速終了と判断される時刻t2まではR用上限リミット値Ilmt(R)の設定が維持される。そして、Dレンジ1速段への変速終了判断時刻t2になると、R用上限リミット値Ilmt(R)から1速用上限リミット値Ilmt(1st)に切り替えられる。
【0102】
次に、自動変速機3の現ギア段がDレンジの2速段~9速段の何れかのギア段であるとき、S1→S5→S10→S11→S12→エンドへと進む。そして、S10にてDレンジの2速段~9速段でないと判断されるまで、S1→S5→S10→S11→S12→エンドへと進む流れが繰り返される。
【0103】
S11では、Dレンジの2速段~9速段での締結ソレノイドに対しインギア中の最大指令電流値Imaxが1st/R以外用上限リミット値Ilmt(2~9)に設定される。S12では、Dレンジの2速段~9速段のそれぞれのギア段で解放される3個の解放ソレノイドに対しオフセット電流値Iminが供給される。
【0104】
上記のように、自動変速機3の現ギア段が1速段であるとき、次ギア段である2速段で締結しない解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定している。
【0105】
即ち、許容トルク容量が高くなる1速段では、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給すると、締結ソレノイドへ上限リミット値Ilmt(1st)を供給したとき、変速系ソレノイドの電流値総和が保証上限電流値IMAXを超えてしまうことがある。したがって、少なくとも1つの解放ソレノイドへの電流値をゼロにして超過分の電流値を削減する必要がある。しかし、次ギア段である2速段で締結する解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロにすると、1速段から2速段への変速時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生する。よって、電流値をゼロにする解放ソレノイドを、次ギア段である2速段で締結しない解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドとしている。
【0106】
このため、現ギア段が1速段のとき、クラッチソレノイド20の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、1速段から2速段への変速時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生するのが防止される。
【0107】
上記のように、自動変速機3の現ギア段が後退段であるとき、次ギア段である1速段で締結しない解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定している。
【0108】
即ち、許容トルク容量が高くなる後退段では、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給すると、締結ソレノイドへ上限リミット値Ilmt(R)を供給したとき、変速系ソレノイドの電流値総和が保証上限電流値IMAXを超えてしまうことがある。したがって、少なくとも1つの解放ソレノイドへの電流値をゼロにして超過分の電流値を削減する必要がある。しかし、次ギア段である1速段で締結する解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロにすると、後退段から1速段への変速時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生する。よって、電流値をゼロにする解放ソレノイドを、次ギア段である1速段で締結しない解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドとしている。
【0109】
このため、現ギア段が後退段のとき、クラッチソレノイド20の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、RレンジからDレンジ1速段への変速時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生するのが防止される。
【0110】
上記のように、自動変速機3のギア段が1速段と後退段以外であるとき、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給するようにしている。
【0111】
即ち、1速段や後退段に比べて許容トルク容量が低くなるDレンジの2速段~9速段では、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給し、締結ソレノイドへ上限リミット値Ilmt(2~9)を供給したとき、変速系ソレノイドの電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えることが可能である。よって、3個の解放ソレノイドのオフセット電流値Iminを供給した分を、3個の締結ソレノイドでの均等分担により吸収し、変速系ソレノイドの電流値総和を保証上限電流値IMAXになるようにしている。
【0112】
このため、現ギア段がDレンジ2速段~9速段のとき、クラッチソレノイド20の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、クラッチソレノイド20の全てに対してソレノイド断線診断を行える。加えて、Dレンジ2速段~9速段でのアップシフト時やダウンシフト時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生するのが防止される。
【0113】
[ソレノイド電流制限制御作用]
ソレノイド電流制限制御では、複数の摩擦締結要素のうち締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和が「所定値」を超えると、解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへのオフセット電流値Iminをゼロにする制御を採用している。このとき、「所定値」を、ソレノイド駆動回路の温度上昇抑制を保証する保証上限電流値IMAXから、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給するときのオフセット電流総和ΣIminを差し引いた値に設定している。
【0114】
即ち、締結ソレノイドに供給する電流値の総和の大きさの判断閾値になる「所定値」の設定は、ソレノイド高負荷シーンとソレノイド低負荷シーンとを区別可能な範囲で自由度がある。これに対し、「所定値」を、保証上限電流値IMAXを基準とし、かつ、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給すると仮定して決めるようにしている。よって、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給する制御としても、クラッチソレノイド20の電流値総和が保証上限電流値IMAXを超えることはない。また、解放ソレノイドの一部について電流値をゼロにする制御とすると、電流値をゼロにした個数分のオフセット電流値分を締結ソレノイドに上乗せしてもクラッチソレノイド20の電流値総和が保証上限電流値IMAXを超えることはない。
【0115】
このため、ソレノイド電流制限制御を行う際、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給する制御を許容しながら、ソレノイド駆動ICの温度上昇によりソレノイド寿命が短くなるのが防止される。
【0116】
実施例1のソレノイド電流制限制御では、締結ソレノイドに対してインギア中に供給する最大指示電流値Imaxを、各ギア段での締結側摩擦締結要素毎に決めた必要締結要素圧に基づく上限リミット値Ilmtに制限している。
【0117】
例えば、締結ソレノイドに対してインギア中に供給する最大指示電流値Imaxを、全てのギア段での最大締結要素圧に基づく固定電流値Ifixにすると、全てのギア段で締結ソレノイドに供給する電流値の総和が「所定値」を超えてしまうことがある。これに対し、最大指示電流値Imaxを、各ギア段での締結側摩擦締結要素毎に決めた必要締結要素圧に基づく上限リミット値Ilmtに制限すると、締結ソレノイドに供給する電流値の総和が「所定値」を超えることが減少し、ギア段によっては締結ソレノイドに供給する電流値の総和を「所定値」以下にすることが可能である。
【0118】
このため、ソレノイド電流制限制御を行う際、締結側摩擦締結要素の締結による伝達トルク容量を目標容量から下げることなく、電流値をゼロにする解放ソレノイドの個数が最小限に抑えられる。
【0119】
実施例1のソレノイド電流制限制御では、締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えるギア段であるとき、解放ソレノイドのうち現ギア段から移行する次ギア段で締結しない解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定している。締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えないギア段であるとき、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給している。
【0120】
このため、締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えるギア段のときは、クラッチソレノイド20の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、油圧立ち上がり遅れ対策が発揮される。加えて、締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値以下のギア段のときは、クラッチソレノイド20の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、ソレノイド断線診断機能と油圧立ち上がり遅れ対策が発揮される。
【0121】
以上述べたように、実施例1の自動変速機3の制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0122】
(1) 自動変速機3のギアトレーンに有する複数の摩擦締結要素の締結・解放状態を制御することで複数のギア段を設定する変速機コントロールユニット10を備える自動変速機3の制御装置において、
変速機コントロールユニット10に、複数の摩擦締結要素への変速油圧をそれぞれ制御する複数の変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)のうち、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドにオフセット電流値Iminを供給するソレノイド管理コントローラ110を有し、
ソレノイド管理コントローラ110は、複数の変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)に供給する電流値の総和が所定値を超えると、オフセット電流値Iminを供給する解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへ供給する電流値を、オフセット電流値Iminよりも下げて供給する。
このため、自動変速機3の多段化が進んだ際、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の断線診断機能の低下を抑制しながら、変速機コントロールユニット10のソレノイド負荷を低減することができる。
【0123】
(2) ソレノイド管理コントローラ110は、複数の摩擦締結要素のうち締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和が所定値を超えると、解放ソレノイドのうち少なくとも1つのソレノイドへ供給するオフセット電流値Iminを、他の解放ソレノイドに供給するオフセット電流値Iminよりも下げて供給する。
このため、締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和が所定値を超えた場合、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の断線診断機能の低下を抑制しながら、変速機コントロールユニット10のソレノイド負荷を低減することができる。
【0124】
(3) ソレノイド管理コントローラ110は、現ギア段で締結する締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和が所定値を超えた場合、解放ソレノイドのうち現ギア段から移行する次ギア段で締結しない解放ソレノイドへ供給するオフセット電流値Iminを下げる。
このため、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の断線診断機能の低下抑制と、変速機コントロールユニット10のソレノイド負荷低減とを両立することができる。
【0125】
(4) ソレノイド管理コントローラ110は、解放ソレノイドへ供給するオフセット電流値Iminを下げる場合、電流値をゼロにする。
このため、変速機コントロールユニット10のソレノイド負荷を有効に低減することができる。
【0126】
(5) ソレノイド管理コントローラ110は、所定値を、ソレノイド駆動回路の温度上昇抑制を保証する保証上限電流値IMAXから、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給するときのオフセット電流総和ΣIminを差し引いた値に設定する。
このため、ソレノイド電流制限制御を行う際、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給する制御を許容しながら、ソレノイド駆動回路の温度上昇によりソレノイド寿命が短くなるのを防止することができる。
【0127】
(6) ソレノイド管理コントローラ110は、締結ソレノイドに対してインギア中に供給する最大指示電流値Imaxを、各ギア段での締結側摩擦締結要素毎に決めた必要締結要素圧に基づく上限リミット値Ilmtに制限する。
このため、ソレノイド電流制限制御を行う際、締結側摩擦締結要素の締結による伝達トルク容量を目標容量から下げることなく、電流値をゼロにする解放ソレノイドの個数を最小限に抑えことができる。
【0128】
(7) ソレノイド管理コントローラ110は、締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えるギア段であるとき、解放ソレノイドのうち現ギア段から移行する次ギア段で締結しない解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定し、
締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えないギア段であるとき、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給する。
このため、締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値を超えるギア段のとき、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、油圧立ち上がり遅れ対策を発揮することができる。加えて、締結ソレノイドへ供給する上限リミット値Ilmtの総和ΣIlmtが所定値以下のギア段のとき、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、ソレノイド断線診断機能と油圧立ち上がり遅れ対策を発揮することができる。
【0129】
(8) ソレノイド管理コントローラ110は、自動変速機3の現ギア段が1速段であるとき、次ギア段である2速段で締結しない解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定する。
このため、現ギア段が1速段のとき、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、1速段から2速段への変速時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生するのを防止することができる。
【0130】
(9) ソレノイド管理コントローラ110は、自動変速機3の現ギア段が後退段であるとき、次ギア段である1速段で締結しない解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定する。
このため、現ギア段が1速段のとき、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、RレンジからDレンジ1速段への変速時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生するのを防止することができる。
【0131】
(10) ソレノイド管理コントローラ110は、自動変速機3のギア段が1速段と後退段以外であるとき、解放ソレノイドの全てにオフセット電流値Iminを供給する。
このため、現ギア段が1速段と後退段以外(Dレンジ2速段~9速段)のとき、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)の電流値総和を保証上限電流値IMAX以下に抑えながら、変速系ソレノイドの全てに対してソレノイド断線診断を行うことができる。加えて、1速段と後退段以外(Dレンジ2速段~9速段)でのアップシフト時やダウンシフト時に油圧の立ち上がり遅れやバラツキが発生するのを防止することができる。
【0132】
以上、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0133】
実施例1では、ソレノイド管理コントローラ110として、締結ソレノイドに供給する電流値の総和の判断閾値である所定値を、ソレノイド駆動回路の温度上昇抑制を保証する保証上限電流値IMAXを基準として決める例を示した。しかし、ソレノイド管理コントローラとしては、保証上限電流値とは別の目標上限電流値や保証上限電流値を一部に含む目標上限電流値を基準として所定値を決める例としても良い。さらに、変速系ソレノイドの負荷変動状態やソレノイド駆動回路の温度を監視し、負荷の大きさや回路温度に応じて可変値により所定値を決める例としても良い。
【0134】
実施例1では、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへの電流値をゼロに設定する例を示した。しかし、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドへ供給する電流値を他のオフセット電流値より下げて、変速系ソレノイドに供給する電流を全体として下げられれば良く、解放ソレノイドへの電流値をゼロにしなくても良い。
【0135】
実施例1では、締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和が所定値を超える場合に、オフセット電流値をゼロに設定する例を示した。しかし、締結側摩擦締結要素の締結ソレノイドに供給する電流値の総和に限らず、解放側摩擦締結要素の解放ソレノイドに供給するオフセット電流値も加えた変速系ソレノイドに供給する電流値の総和が所定値を超える場合に、オフセット電流値を下げるようにしても良い。
【0136】
実施例1では、自動変速機として、前進9速後退1速の自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段ギア段を持つ自動変速機の例としても良いし、ベルト式無段変速機と有段変速機とを組み合わせた副変速機付き無段変速機としても良い。
【0137】
実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機の制御装置の例を示した。しかし、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車等に搭載される自動変速機の制御装置としても適用することが可能である。
【0138】
本願は、2019年10月9日付けで日本国特許庁に出願した特願2019-185706号に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
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