(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】摩擦トルクを決定する方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230131BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230131BHJP
G01M 17/06 20060101ALI20230131BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230131BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
G01M17/06
B62D119:00
B62D113:00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022108319
(22)【出願日】2022-07-05
【審査請求日】2022-09-12
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラーミニー ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ブシェ アルノー
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-059362(JP,A)
【文献】特開2020-185933(JP,A)
【文献】特開2019-119277(JP,A)
【文献】特開2003-312512(JP,A)
【文献】特開2014-202594(JP,A)
【文献】特開2005-153779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
G01M 17/06
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の電動パワーステアリングシステム(1)のステアリングコラム(5)内で作用する摩擦トルク(FR1、FR2)を決定する方法であって、
前記パワーステアリングシステム(1)は、
モータによって回転駆動される減速ギア(6)によって加えられる瞬間ねじりトルク(Ct)を受けるトーションバー(11)を備え、ラック(8)を駆動することができるピニオンに連結されているステアリングコラムと、
前記トーションバー(11)にかかる瞬間ねじりトルク(Ct)を測定するためのトーションバーセンサ(12)とを備え、
前記決定の方法(100)は、
前記摩擦トルク(FR1、FR2)の少なくとも1つの値が前記トーションバーセンサ(12)によって測定される取得ステップ(103)を有し、前記取得ステップ(103)は取得モジュール(14)によるトリガ信号(DF)の受信に続いて実施され、トリガ信号の値は状態変数(VL、A、V、C、ΔC、ΔA)の値に依存し、
前記ステアリングシステム(1)は、ハンドル(3)によって作動され、前記方法は、分析モジュール(13)が検出手段によって検出された状態量(IVL、θ、VR、Ct、CΔθ)を受け取る分析ステップ(102)を有し、前記状態量(IVL、θ、VR、Ct、CΔθ)は、偽状態と真状態との間で変化する状態変数(VL、A、V、C、ΔC、ΔA)に関連付けられ、状態変数(VL、A、V、C、ΔC、ΔA)は、状態量(IVL、A、V、C、ΔC、ΔA)に関する状態が妥当であれば真状態に変化し、前記分析モジュール(13)は、前記状態変数(VL、A、V、C、ΔC、ΔA)が真状態であるときにトリガ信号(DF)を生成し、状態変数(VL、A、V、C、ΔC、ΔA)は、ハンドル(VL)へのユーザの手の接触がないこと、ピニオン(A)の回転角度の絶対値、ピニオン(V)の回転速度の絶対値、ねじりトルク(C)、ねじりトルクの変化(ΔC)、トルクの2つの極値間の角度の変化(ΔA)についての情報であることを特徴とし、
第1の状態変数(VL)は、開放されたハンドル(IVL)に関する情報が真である場合に真であり、かつ/又は
第2の状態変数(A)は、ピニオン角の絶対値(θ)が所定の閾値(θ_ref)、すなわちハンドル(3)の慣性中心の位置ずれが測定を妨害する閾値(Vref)未満である場合に真であり、かつ/又は
第3の状態変数(V)は、ピニオン(7)の回転速度絶対値(VR)が所定の閾値(Vref)未満である場合に真であり、前記所定の閾値(Vref)は、例えば粘性のある摩擦が測定を妨害する値に対応し、かつ/又は
第4の状態変数(C)は、所定の時間間隔で測定されたねじりトルク値(Ct)が最小値と最大値との間である場合に、真であり、その両値は、ねじりトルク値が一貫しているとみなされる範囲を定義するように定義され、
第5の状態変数(ΔC)は、所定の時間間隔で測定されたトーションバーのトルク(ΔCt)の変化が、安定であると考えられる十分に低いねじりトルク変化値に対応する基準変化値未満である場合に真であり、
第6の状態変数(ΔA)は、2つの極値間の角度変化絶対値(Δθ)が、ねじりトルク(Ct)が安定することを保証することができる値(Δθ_ref)より大きい場合に、真であることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の決定方法(100)において、
前記取得ステップ(103)の間、前記ねじりトルク(Ct)が第1の方向(S1)に作用するときに第1の摩擦値(FR1)が記録され、前記ねじりトルク(Ct)が第2の方向(S2)に作用するときに第2の摩擦値(FR2)が記録され、前記第2の方向(S2)は前記第1の方向(S1)と反対であり、前記取得モジュール(14)は、それぞれ以下のように計算されるオフセット(D)、及び平均摩擦トルク(FR)の計算を行うことを特徴とする方法。
D=(FR1+FR2)/2、かつ
FR=|FR1-FR2|/2
【請求項3】
請求項1又は2に記載の決定の方法(100)において、
前記取得ステップ(103)の間に、コンテキスト量(T、D、TU)が摩擦トルク(FR1、FR2)の値と同時に測定されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の決定の方法(100)において、
コンテキスト量が、周囲温度(T)、前記車両が走行する距離(D)、前記パワーステアリングシステム(1)の使用の持続期間(TU)であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の決定の方法(100)において、
第1の摩擦トルク(FR1)及び第2の摩擦トルク(FR2)の値が、関連するコンテキスト量(T、D、TU)とともに保存される保存ステップ(105)を備え、前記保存ステップ(105)は、前記第1の摩擦トルク(FR1)及び前記第2の摩擦トルク(FR2)の値が所定の時間間隔(t)で前記取得ステップ(103)中に取得された場合に実行されることを特徴とする方法。
【請求項6】
コンピュータ装置上で実行されたときに、請求項
1に記載の方法(100)の制御を実施する命令を備える記憶媒体に埋め込まれたコンピュータプログラム製品。
【請求項7】
請求項6に記載のコンピュータプログラム製品を含む記憶媒体を備えるコンピュータ装置を有する電動パワーステアリングシステム(1)。
【請求項8】
請求項7に記載のパワーステアリングシステム(1)を搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、パワーステアリングシステムの分野に関する。本出願は特に、パワーステアリングシステム内のステアリングコラムの摩擦トルクの決定を可能にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
時間が経過し、技術が進歩するのにつれて、車両内において、自動化された先進運転支援システム(ADAS:advanced driver assistance systems)の数が増加する。
【0003】
このようなADASは、典型的には車両の戻り(ディスプレイ、インジケータライト、ラウドスピーカ等)、トラクション、制動、及び操舵の部材へのアクセスを有する電子システムであり、したがって、運転者が、特定の交通状況において、支援から利益を得ること、及び/又は運転を自動の副操縦士に一時的に委任することを可能にする。
【0004】
ADASはいくつかのカテゴリーに分類することができる。
【0005】
長手方向制御システムは、車両の速度に作用することを可能にし、例えば、非常ブレーキ支援、アンチロックブレーキシステム(ABS)、リミッタ、又はクルーズコントロールを含む。
【0006】
駐車支援システムは、車両を駐車したい運転者にとっての操縦を容易にし、例えば、バックレーダー、バックカメラ、又は自動駐車を容易にするためのデバイスを備える。
【0007】
横方向制御システムの目的は、車両の軌道に介入することである。ステアリングシステム上の動作原理に基づいて作動する横方向制御システムが存在し、例えば、運転者が車両を走行レーン内に維持するのを支援する。このようなシステムは、LKA(レーンキーピングアシスト:Lane-Keeping Assist)システムとも呼ばれる。電子軌道補正器(例えば、電子安定性プログラム、ESP(Electronic Stability Program)又は電子安定性制御、ESC(Electronic Stability Control)又はダイナミックスタビリティコントロール、DSC(Dynamic stability control))と呼ばれる他のシステムは、車両の滑りを防止するために、エンジントルク及びブレーキに作用する。
【0008】
本発明は、より詳細には、パワーステアリングシステム上での動作による横方向制御システムに関する。本文の残りの部分では、ADASは、パワーステアリングシステム上での動作による横方向制御システムのみを指す。
【0009】
このような横方向制御システムは、運転者が不意に走行レーンを離れ、反対側のレーン内又は走行レーン外に移動した場合の事故の発生を低減する機能を有する。典型的には、そのような横方向制御システムは例えば、走行レーンから不意に出ることをすべて検出するように意図されたカメラ等の検出器を備える。このような状況が生じた場合、検出器は車輪の旋回を可能にするために、パワーステアリングのアクチュエータ(例えば、ギアモータ)に回転作用を及ぼすように命令を与えることができる車載コンピュータに情報を送信する。このようにして、車両によって追従される方向が自動的に補正される。
【0010】
横方向制御システムは、車両の運転者の快適性及び安全性の点で、実際の付加価値を提供する。
【0011】
2019年11月27日の欧州規則(EU)2019/2144は、ADASの新車におけるインテグレーションを今後数年間義務付ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
否定できない利点はあるが、このようなADASの使用は運転者の注意を低下させるという望ましくない結果をもたらす可能性があることが証明されている。2020年11月19日に発表された米国道路安全保険協会(IIHS:Insurance Institute for Highway Safety)とマサチューセッツ工科大学(MIT)の調査によると、運転者はレーン維持支援を含むADASを使用した1ヶ月の高速道路運転後に不注意の兆候を2倍示しやすくなると考えられる。しかし、運転中の不注意が多数の事故の原因であることが知られている。フランス高速道路会社協会が発見したように、2019年の高速道路における死亡事故のほぼ20%は、運転者の注意力の低下によるものである。
【0013】
さらに、現在の規制は運転者が注意を払い、自分の車両を制御する責任を負うことを要求し(特に、ハイウェイコードR412-6を参照)、ADASに関連する機能に応じて最大不注意期間を認可し、最大不注意期間は例えば、15秒になる。
【0014】
また、車両の要求に対する運転者の反応がない場合に、警告するか又は緊急時における反応(車両の軌道の修正)をするために、運転者の覚醒度をチェックすることを可能にする車載機能を車両に装備することが必要になる。
【0015】
この監視は特に、運転者の画像を取り込むことによって、例えば、車両の内部に配置された1つ以上のカメラを使用して実施することができる。例えばハンドル上の手の接触を検出するセンサを用いて、又は例えばトルクセンサをステアリングコラムに取り付けることによって、ハンドル上の運転者の機械的な動作の有無を検出することによって、ハンドル上の運転者による動作の有無を検出することも可能である。
【0016】
ステアリングコラム上のそのようなトルクセンサは、運転者によってハンドルに伝達されるトルクの推定を通して、ハンドル上の運転者の動作を決定する。ドライバトルクを知ることは、ユーザがハンドル上に自分の手を置いているかどうかを検出することを可能にする。
【0017】
ステアリングコラムに作用するトルクを決定するために、パワーステアリングシステムのステアリングコラムと減速ギアとの間にトーションバーを配置することが知られている。したがって、ステアリングトルクは、トーションバー上にセンサを配置することによって測定される。しかしながら、測定されるトルクは、運転者がハンドルに及ぼすトルク(以下、ドライバトルクと呼ぶ)に対応しない。ドライバトルクは実際にはステアリングシステムに関連する様々な機械的パラメータ、すなわち、トーションバーとハンドルとの間に配置された要素の慣性、剛性、及び摩擦トルクを考慮して、計算によってステアリングトルクの値から得られる。
【0018】
ドライバトルクは確実に計算されることが重要である。また、トーションバー上で測定されるトルクの様々な要素を形成する機械的パラメータ、すなわち、剛性、慣性、及び摩擦は、正確に決定されなければならない。
【0019】
ステアリングコラムの構成要素の剛性及び慣性の値は、ドライバトルクの計算に直接使用されるのに十分な精度で決定することができる。逆に、摩擦トルクの値を知ることはるかに困難である。
【0020】
実際、そのような摩擦トルク値はステアリングコラムの組立に依存し、ステアリングシステムの外部の多数の要因(例えば、温度、部品の摩耗状態等)に従って変化する。
【0021】
また、このような不正確さに起因して、また、ハンドル上にセンサがない場合には、運転者がハンドルに接触しているか否かを確実に知ることができない。
【0022】
このようなセンサが車両に実装されていると仮定することによって、いずれにせよ、例えば、運転者に聴覚的に、視覚的に、又はハンドルの振動によって警告することによって、運転者にハンドル上の手の存在を確認するように依頼することが必要である。このような状況を繰り返すことは運転者にとって、運転の快適性の点で満足のいくものではなく、ハンドルセンサを悪いタイミングでトリガする場合にはさらに満足のいくものではない。
【0023】
最後に、ハンドルセンサは、故障又はエラーを経験する可能性がある。そたがって、ハンドル上の運転者の手の有無を確認するために、冗長性が必要であることを証明することができる。
【0024】
本発明は、上述の欠点に対処することを提案する。
【0025】
第1の目的は、外部パラメータの関数としてステアリングコラムに作用する摩擦力、特に摩擦トルクを決定する方法を提案することである。
【0026】
第2の目的は、ハンドル上における運転者の手の存在の有無に関する情報を完成又は検証することを可能にする、そのような方法を提案することである。
【0027】
第3の目的は、メモリ媒体上で実行されることが可能なコンピュータプログラム製品を提案することである。
【0028】
第4の目的は、そのようなコンピュータプログラム製品を組み込んだパワーステアリングシステムを提案することである。
【0029】
第5の目的は、上述のステアリングシステムを備える車両を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
この目的のために、車両の電動パワーステアリングシステムのステアリングコラム内で作用する摩擦トルクを決定するための方法が提案されており、前記パワーステアリングシステムは、モータによって回転駆動される減速ギアによって加えられる瞬間ねじりトルクを受けるトーションバーを備え、ラックを駆動することができるピニオンに連結されているステアリングコラムと、前記トーションバーにかかる瞬間ねじりトルクを測定するためのトーションバーセンサとを備え、前記決定の方法は、前記摩擦トルクの少なくとも1つの値が前記トーションバーセンサによって測定される取得ステップを有し、前記取得ステップは取得モジュールによるトリガ信号の受信に続いて実施され、トリガ信号の値は状態変数の値に依存する。
【0031】
この判定方法によれば、ステアリングコラムに作用する摩擦トルクをリアルタイムで知ることができる。このようにすれば、パワーステアリングシステムがADAS動作中であるときに、ハンドル上における運転者の手の存在の有無を、運転者に要求することなく確認することができる。
【0032】
有利には、前記方法は、分析モジュールが検出手段によって検出された状態量を受け取る分析ステップを有し、前記状態量は、偽状態と真状態との間で変化する状態変数に関連付けられ、状態変数は、状態量に関する状態が妥当であれば真状態に変化し、前記分析モジュールは、前記状態変数が真状態であるときにトリガ信号を生成し、状態変数は、ハンドルへのユーザの手の接触がないこと、ピニオンの回転角度の絶対値、ピニオンの回転速度の絶対値、トルク、トルクの変化、トルクの2つの極値間の角度の変化についての情報である。
【0033】
有利には、第1の状態変数は、開放されたハンドルに関する情報が真である場合に真であり、かつ/又は、第2の状態変数は、ピニオン角の絶対値が、回転軸に対するセンターフライホイールの位置ずれが測定を妨害しない所定の閾値未満である場合に真であり、かつ/又は、第3の状態変数は、ピニオンの回転速度絶対値が、粘性のある摩擦が測定を妨害しない所定の閾値未満である場合に真であり、かつ/又は、第4の状態変数は、所定の時間間隔で測定されたねじりトルク値が最小値と最大値との間である場合に、真であり、その両値は、トルク値が一貫しているとみなされる範囲を定義するように定義され、第5の状態変数は、所定の時間間隔で測定されたねじりトルクの変化が、安定であると考えられる十分に低いねじりトルク変化値に対応する基準変化値未満である場合に真であり、第6の状態変数は、2つの極値間の角度変化絶対値が、ねじりトルクが安定することを保証することができる値より大きい場合に、真である。
【0034】
有利には、前記取得ステップの間に、前記ねじりトルクが第1の方向に作用するときに第1の摩擦値が記録され、前記ねじりトルクが第2の方向に作用するときに第2の摩擦値が記録され、前記第2の方向は前記第1の方向と反対であり、前記取得モジュールは、それぞれ以下のように計算されるオフセット、及び平均摩擦トルクの計算を行う。
(数1)
D=(FR1+FR2)/2、かつ
(数2)
FR=|FR1-FR2|/2
一実施形態によれば、取得ステップ中に、コンテキスト量が摩擦トルクの値と同時に測定される。
【0035】
有利には、コンテキスト量が、周囲温度、車両が走行する距離、パワーステアリングシステムの使用の持続期間である。
【0036】
有利には、決定の方法が、第1の摩擦トルク及び第2の摩擦トルクの値が、関連するコンテキスト量とともに保存される保存ステップを備え、保存ステップは、前記第1の摩擦トルク及び前記第2の摩擦トルクの値が所定の時間間隔で前記取得ステップ中に取得された場合に実行される。
【0037】
第2に、コンピュータ装置上で実行されたときに前記決定の方法の制御を実行する命令を備える記憶媒体に埋め込まれたコンピュータプログラム製品が提案される。
【0038】
第3に、このような記憶媒体を備える電動パワーステアリングシステムが提案される。
【0039】
第4に、上述のパワーステアリングシステムを搭載した車両が提案される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照してなされる実施形態の以下の説明を読むことにより、より明確かつ具体的に明らかになるのであろう。
【
図1】
図1は、パワーステアリングシステムの全体概略図である。
【
図2】
図2は、ステアリングコラムの摩擦トルクを決定する方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、ハンドルが運転者によって保持されたときの、ドライバトルクの関数としてのトーションバーのトルクの変化を説明するグラフを概略的に表す。
【
図4】
図4は、ラックピニオンの回転速度の変化の関数として、トーションバーのトルクの変化を説明するグラフを概略的に表す。
【
図5】
図5は、摩擦トルクを決定するシステムの機能概略図である。
【
図6】
図6は、ラックピニオンの角度の変化の関数としてトーションバーのトルクを説明する概略的なグラフである。
【
図7】
図7は、状態変数と、摩擦トルクを決定するための方法によって決定された摩擦トルクとの変化を示す複数の経時的なグラフを表す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
摩擦トルクFR1、FR2の決定を可能にする決定システム2を備えた電動パワーステアリングシステム1(この文章の残りの部分を通してパワーステアリングシステムと称される)を表す
図1を参照する。
【0042】
自動車両(図示せず)は例えば、このような電動パワーステアリングシステム1を搭載している。
【0043】
自動車両とは、4つの車輪を備え、道路インフラストラクチャー上で走行することを意図された任意の電動車両、例えば乗用車、トラック、又は箱形バスを指す。
【0044】
パワーステアリングシステム1は、減速機6を介してステアリングコラム5に印加されるモータコンピュータ4の回転軸によって生じるトルクCmを印加することによって、方向性ハンドル3の操作を容易にすることを目的とする。
【0045】
ステアリングコラム5は、有利にはハンドル3を第1の上端に支持する。ハンドル3は、ドライバトルクCvのステアリングコラム5への伝達を可能にする。
【0046】
有利には、下端において、ステアリングシステム1はラック8に係合されるように意図されたステアリングピニオン7を備え、ラック8は、好適には、ケーシング9内に収容される。ステアリングコラム5によるステアリングピニオン7へのトルクの適用は、ラック8の並進を可能にする作用を有し、これは、ラック8の端部で関節で結ばれたロッド10によって、車両(図示せず)の車輪の旋回を引き起こす。
【0047】
モータコンピュータ4は、電気モータ、例えば、電子カード等の電子制御ユニット又はECU(図示せず)によって駆動されるブラシレスモータ(図示せず)を備える。
【0048】
モータコンピュータ4は一般に、ステアリングコラム5にモータ演算器トルクCmを作用させる機能を有する。パワーステアリングシステム1がアシスト運転モードにあるときに、このようなコンピュータトルクCmがステアリングコラム5上のドライバトルクCvに加えられることが意図される。
【0049】
運転者がハンドルにトルクCvを及ぼさないとき、このようなモータ-コンピュータトルクCmはドライバトルクCvに置き換わり、パワーステアリングシステム1はADAS動作モードとなる。
【0050】
ステアリングシステム1は、例えばステアリングコラム5と減速機7との間に配置されたトーションバー11を備える。このようなトーションバー11は、駆動トルクCvの運動に従うステアリングコラム5の回転運動、又はモータ-コンピュータセクションCmの運動に従うラック8上のピニオン7の運動、又はステアリングシステム1上での道路の作用に従うラック8からの力フィードバックによって変形することが意図されている。
【0051】
トーションバー11に配置されたトーションバーのセンサ12によって測定されるトーションバー11の変形は、トーションバーのトルクCtを測定することを可能にする。
【0052】
トーションバーのセンサ12によって記録された値は、ECU10に伝達され、モータコンピュータ4のサーボ制御を可能にする。したがって、このような測定は例えば、ドライバトルクCvの支援において及ぼされるモータ-コンピュータトルクCmを決定することを可能にする。
【0053】
図2に示されるように、トーションバートルクCtは、ユーザの動きに対抗する摩擦トルクFR1、FR2に起因して、ドライバトルクCvに応答して即座に変化しない。このような摩擦対FR1、FR2は、特に、ステアリングコラム5を形成する様々な要素の摩擦に関連している。
【0054】
ユーザが、第1の方向、例えば左に向かう伝導トルクCvを加えると、伝導トルクCvに対して第1の摩擦トルクFR1が加えられる。ユーザが第2の方向、例えば、右に向かう伝導トルクCvを加えると、第2の摩擦トルクFR2が、伝導トルクCvに対して加えられる。また、第1の摩擦トルクFR1と第2の摩擦トルクFR2とは、反対の符号であり、例えば、摩擦トルクFR1の値が正であると、第2の摩擦トルクFR2の値は負である。
【0055】
摩擦トルクFR1、FR2の値は、トーションバーのセンサ12を用いて読み取ることができる。このような摩擦値を知ることは、ADAS動作においてステアリングシステム1を制御することをより容易にする。
【0056】
なお、ハンドル3に対する運転者の動作がないとき、一定速度において、トーションバーセンサ12によって測定されるトルクCtは、
図3に説明されるように、摩擦トルクFR1、FR2に対応する。このような特性は、トルクFR1、FRを決定する方法100によって摩擦トルクFR1、FR2を決定するために用いられる。
【0057】
ここで、対FR1、FRを決定するそのような方法100の例を説明し、そのために、
図4~
図7を参照する。
【0058】
このフローチャートは、決定の方法100の様々なステップ、すなわち、測定ステップ101、分析ステップ102、取得ステップ103、割り当てステップ104、保存ステップ105の進行の例を説明する。なお、順次説明するが、決定の方法100の各ステップの実行順序はこれに限定されるものではない。
【0059】
トルクFR1、FRを決定する方法100は、パワーステアリングシステム1が、トリガ信号DFの受信に続いて、ステアリングコラム5の摩擦トルクFR1、FR2の値を経験的に決定することを可能にする。トリガ信号DFの値は後述するように、パワーステアリングシステム1の状態を反映した状態変数VL、A、V、C、ΔC、ΔAの状態に依存する。
【0060】
有利には、摩擦トルクFR1、FR2の値はパワーステアリングシステム1の状態又は外部条件を反映するコンテキスト量T、D、TUに関連付けられる。これは、対FR1、FR2をそのようなコンテキスト量に関連付けるデータベースの形成を可能にする。
【0061】
有利には、このように構成されたデータベースは、パワーステアリングシステム1を形成する構成要素の経年変化を考慮して、例えばADAS動作における運転の信頼性を改善するために、パワーステアリングシステム1においてそのように使用される。
【0062】
収集されたデータは例えば、パワーステアリングシステム1の設計における統計的な目的のために使用される。
【0063】
次に、決定の方法100の様々なステップについて詳細に説明する。
【0064】
分析ステップ102では、状態変数VL、A、V、C、ΔC、ΔAが検出手段によって検出され、その後、分析モジュール13によって分析される。分析ステップ102は可能な限り信頼性のある摩擦トルク値FR1、FR2の取得を可能にするために、最適な状態に自身を置くことを可能にする。
【0065】
状態変数VL、A、V、C、ΔC、ΔAは例えば、真又は偽の状態の間で変化し、パワーステアリングシステム1の動作状態の妥当性確認を反映し、特に、取得ステップ103を実行するためのトリガの役割を有する。
【0066】
状態変数VL、A、V、C、ΔC、ΔAの状態は検出手段(図では見えない)によって測定される状態量IVL、θ、VR、Ct、ΔCt、Δθの値に依存し、それらの検出手段は当業者に知られている。
【0067】
状態変数VL、A、V、C、ΔC、ΔA及び状態量IVL、θ、VR、Ct、ΔCt、Δθの例を以下に詳述する。
【0068】
図5に示す実施形態では、第1の状態変数VLがハンドルがフリーであるという情報に依存する。第1の条件変数VLは、例えば、ユーザがハンドルに手を置かない場合に、値「1」又は「真」を有する。第1の条件変数VLは例えば、離されたハンドルIVLに関する情報を送り返すタッチセンサ(図示せず)等、ハンドル3に取り付けられたハンドルセンサの手段によって検出される。ハンドル3上に手がないことは、上述したように、摩擦トルクが決定可能な状況に対応するため、取得ステップ103を実行可能にするのに好ましい。
【0069】
図5に示す実施形態では、ピニオン7の回転角度θの絶対値がピニオンθ_refの基準回転角度値未満である情報に応じた第2の状態変数Aが示されている。ピニオン7の基準回転角度値θ_refは、それを超えるとハンドル3の回転中心軸に対するハンドルの慣性中心のアンバランスが摩擦トルクFR1、FR2の測定レベルで誤差を生じやすくなる所定の値である。このような基準角度θ_refは例えば、20°であると定義される。
【0070】
ピニオン7の回転角度θの測定は、専用のセンサ(図示せず)によって実行されることが有利である。
【0071】
状態変数Aは、有利には、全か無のタイプであり、例えば、ピニオン7の回転角度θの絶対値がピニオンの基準回転角度θ_refの値よりも小さい場合には「1」の状態を有し、そうでない場合には「0」又は「偽」の状態を有する。
【0072】
図5に示す実施形態では、第3の状態変数Vが、ピニオン7の回転速度VRの絶対値が基準速度Vref未満であるか否かの情報を伝える。
【0073】
好ましくは、測定されるピニオン7の回転速度VRの値が、例えば20Hzでのローパスフィルタリングの使用によって補正され、測定を歪ませる可能性がある高すぎる周波数で読み取られた測定値から除去することを可能にする。
【0074】
最適な取得条件に置かれるために、ピニオンの基準回転速度Vrefの値は、それを超えると、ステアリングコラム5の移動に関連する粘性力がもはや無視できなくなる速度となる。基準速度Vrefの例は、10°/sである。
【0075】
第3の状態変数Vは、有利には、全か無のタイプであり、一例として、ピニオン7の回転速度VRの絶対値が基準速度Vref未満である場合には「1」の値を有し、そうでない場合には「0」又「偽」の値を有する。
【0076】
有利には、ピニオン7の回転速度VRは、例えば専用のセンサを用いて測定されたピニオン7の回転角度値θを導出することによって得られる。しかしながら、このような回転角θの測定は他の測定変数の桁数に関してノイズに左右されることが判明し、そのことが、このような方法で速度を得ることを複雑にしている。
【0077】
図5に示す実施形態では、第4の状態変数Cが、ステアリングコラム5の接着/滑り現象(スティッキング/アンスティッキング、又はスティック/滑りとしても知られる)によって生じる測定誤差の発生を回避するために、トーションバートルクCtが十分に安定した値を有する条件を反映する。このような過渡的なスティック/滑り現象はステアリングコラム5がその支持体内を摺動するとき、非常に低いハンドル速度で生じる。これらのスティッキング/アンスティッキング現象の間に観察されるぎくしゃくした動きは、測定を妨害する寄生雑音を生成する。
【0078】
図5に示す実施形態では、第5の状態変数ΔCが、トーションバートルクΔCtの変化、すなわちトーションバー11の2つの連続するトルク値間の差分が、ステアリングコラム5の接着/滑り現象(スティッキング/アンスティッキング、又はスティック/滑りという名称でも知られている)によって生じる測定誤差の発生を回避するのに十分に低い値を有する条件を反映する。このような過渡的なスティック/滑り現象は、ステアリングコラム5がその支持体内で摺動する間、非常に低いハンドル速度で生じる。これらのスティッキング/アンスティッキング現象の間に観察されるぎくしゃくした動きは、測定を妨害する寄生雑音を生成する。
【0079】
十分な安定性は例えば、所定の時間間隔の間に測定されたトーションバートルクCtの最小値と最大値との間の差が基準値を下回るときに観察される。典型的には、基準値は0.2Nmであり、数ミリ秒の範囲の時間範囲にわたって測定される。
【0080】
十分な安定性が観測される場合、上で定義された基準に従って、第4の状態変数Vは、有利には、全か無のタイプである、値「1」又は「真」の状態を有し、そうでなければ、「0」又は「偽」の状態を有する。
【0081】
図6に示す実施形態では、第6の状態変数ΔAが、2つの極値間の角度変化Δθの絶対値が値Δθ_refよりも大きいという条件を反映する。この値は、ねじりトルクCtが安定することを保証する。
【0082】
図6に示すように、トルクCtの第1の極値E1には、ギヤードモータ4がトーションバー11をFR1に対応する第1の方向S1に駆動するときに到達される。点P2で第2のトルク極値E2に達すると、ギヤードモータ4がトーションバー11を第2の方向S2に駆動するとき、角度変化ΔθがΔθ_refよりも大きいので、第6の状態変数ΔAは、値「1」又は状態「真」をとる。
【0083】
好ましくは、上述の状態変数は、摩擦トルクFR1、FR2の測定値の取得をトリガすることが可能な最も代表的な条件に置かれることを可能にするように組み合わされる。このような状況は、すべての測定条件が有効化される状況、すなわち、すべての状態変数VL、A、V、C、ΔC、ΔAが、例えば、値「1」又は「真」状態を有する状況に対応する。
【0084】
分析ステップ102において、分析モジュール13は様々な状態変数VL、A、V、C、ΔC、ΔAを受信し、それらの値に応じて、トリガ信号DF1、DF2を伝える。
【0085】
有利には、分析モジュール13は第1のトリガ信号DF1を伝え、その信号の機能は第1の方向S1に作用する摩擦トルクFR1の取得を実行するために取得モジュール14に命令を与えることであり、かつ/又は分析モジュール13は第2のトリガ信号DF2を伝え、その信号の機能は第2の方向S2に作用する摩擦トルクFR2の取得を実行するために取得モジュール14に命令を与えることである。このようにして、取得ステップ103の間に、測定された摩擦トルクFR1、FR2の方向が決定される。
【0086】
取得ステップ103の間、入力DF1、DF2のうちの1つでの信号の受信に続いて、取得モジュール14は瞬間トルクCtの値を取得する。信号が第1の入力DF1及び/又は第2の入力DF2のどちらで受信されるかに応じて、それが第1の方向S1における摩擦トルク値FR1であるか、又は第2の方向S2における第2の摩擦トルクFR2であるかが決定される。
【0087】
有利には、分析ステップ102の間に、取得モジュール14は、オフセットD、ならびに平均摩擦トルク値FRを決定する。分析ステップ102は、第1の摩擦対FR1及び第2の摩擦対FR2が取得されたときに実行され、摩擦対FR1、FR2は、反対方向に取得される。
【0088】
オフセットDはトーションバーの理論トルク値に対応し、摩擦が作用しない場合はゼロであり、以下の式で求められる。
(数3)
D=(FR1+FR2)/2
このようなオフセットDは、通常対称な第1の摩擦トルクFR1と第2の摩擦トルクFR2とが異なる値で測定される場合の補正を行うことを可能にする。このようにして、測定誤差に起因する非対称性が補正される。
【0089】
平均摩擦トルクFRは、有利には以下のように分析ステップ102の間に決定される。
(数4)
FR=|FR1-FR2|/2
パラメータA及びFRの使用は、測定された摩擦値FR1、FR2の利用を容易にする。
【0090】
状況データの収集を可能にするために、取得ステップ103の間に、コンテキスト量T、D、TUが、摩擦対FR1、FR2、特に温度T、車両の走行距離D、パワーステアリングシステム1の使用時間TUの取得と同時に測定される。このようなコンテキスト量T、D、TUは、割り当てステップ104で取得された摩擦トルク値FR1、FR2に関連付けられる。
【0091】
割り当てステップ104の性能とは無関係に、収集されたデータ、言い換えれば、摩擦トルクFR1、FR2の値、及び/又はオフセットD、及び/又は割り当てられたか、又は割り当てられていない摩擦トルクFRの平均値、コンテキスト量T、D、TUは、取得モジュール14によって保存モジュール15に送信された保存要求信号DMの受信に続いて、保存ステップ105中に保存モジュール15に保存され得る。
【0092】
有利には、このような保存ステップ105は、第1のトルク値FR1及び第2のトルク値FR2が所定の時間間隔tで取得されたときに実行される。
【0093】
データの保存は特に、例えばADAS動作におけるパワーステアリングシステムのサーボ制御又は操縦において、ECU10によるリアルタイムでの即時再使用の可能性を提供する。
【0094】
データの保存は例えば、トーションバーの摩擦に対するコンテキスト量T、D、TUの影響を知ることを可能にする統計の実現のために、特にチャートの構築のために使用することができる。
【0095】
上述した決定の方法100の動作の一例について、上述した全ての状態変数VL、A、V、C、ΔC、ΔAを用いた方法の実行中に描かれるグラフを表す
図7を参照して説明する。
【0096】
したがって、第1の期間t1が経過する前には、第1の状態変数VLが0であり、ユーザがハンドルに手を置いているため、取得ステップ103を実行することができないことが分かる。
【0097】
ユーザが、時刻t1においてハンドルから手を離すと、第1の状態変数VLは「1」に変化し、トルクCtは、第2の状態変数もまた「1」の値をとるのに十分安定していると考えられる。この時点で、他の状態変数が値「1」又は「真」をとることを可能にする状態が存在し、その結果、第1の摩擦トルクFR1の取得が可能になる。
【0098】
なお、第2の摩擦トルクFR2の値は、第6の状態変数ΔAに関する条件、すなわち、両極値間における十分に大きな角度変化Δθの存在が検証されていないため、取得されない。
【0099】
時間t2において、第6の条件変数ΔAが値1をとるのに十分な大きな角度変化Δθが観測される。他の状態値も値「1」又は「真」を有し、第2の摩擦トルクFR2の取得を達成することができる。
【0100】
上述の決定の方法100は、有利にはメモリ媒体(図示せず)に記録され、例えば、コンピュータ又はECU等の電子手段によって実行される。
【0101】
上述の決定の方法100は、パワーステアリングシステム1を備えた任意の車両、特に自動車両のための興味深い用途を見出す。
【0102】
決定の方法100は、多くの利点、特に、
ステアリングコラム1に作用する摩擦トルクFR1、FR2の経験的ではあるが正確な決定、
追加のセンサを設置する必要なく、摩擦トルクFR1、FR2を決定すること、
ADAS運転中、及び/又は後続の統計的使用のための、パワーステアリングシステム1によるデータのリアルタイムでの可能な使用を提供する。