(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】細胞観察装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
C12M1/34 A
(21)【出願番号】P 2018125387
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】化生 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小西 智滉
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-516999(JP,A)
【文献】特開2017-169479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0166305(US,A1)
【文献】国際公開第2016/158780(WO,A1)
【文献】特開2006-006282(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174356(WO,A1)
【文献】特開2004-344016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器に収容された細胞を撮影するカメラと、上記細胞に検査光を照射する照明とを備えた細胞観察装置において、
内部が無菌状態に維持されて上記培養容器を収容する無菌室と、当該無菌室の底部に設けられるとともに上記培養容器がその上方に載置される透明な観察窓とを備え、
上記カメラおよび照明を上記観察窓の下方に設け、上記カメラの焦点を上記培養容器の底面に設定して、培養容器の細胞を上記観察窓を介して撮影し、
上記照明は上記検査光を光が拡散しないスポット光にして照射し、上記培養容器の底面において検査光の照射範囲の内側に上記カメラの撮影範囲が位置するようにし、
かつ、培養容器の底面に直交する軸に対
して上記カメラの撮影方向を傾斜させるとともに、当該カメラの撮影方向と、照明の照射方向とが同じ角度とならないように設定したことを特徴とする細胞観察装置。
【請求項2】
上記カメラおよび照明を、当該カメラの撮影方向および照明の照射方向を維持したまま一体的に移動させる移動手段を備え、
上記移動手段は、上記カメラおよび照明を上下動させて、積層された培養容器の各段の底面に上記カメラの焦点を合わせることを特徴とする請求項1に記載の細胞観察装置。
【請求項3】
上記カメラおよび照明を、当該カメラの撮影方向および照明の照射方向を維持したまま一体的に移動させる移動手段を備え、
上記移動手段は、上記カメラおよび照明を横移動させて、上記培養容器の底面における検査光の照射範囲およびカメラの撮影範囲を変更することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の細胞観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞観察装置に関し、詳しくは培養容器に収容された細胞を撮影するカメラと、上記細胞に検査光を照射する照明とを備えた細胞観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養中の細胞の培養状態をカメラを用いて観察する細胞観察装置が知られ、このとき細胞の画像を鮮明に得るため、細胞に検査光を照射することが行われているが、このときのカメラの撮影方向に対する検査光の照射方向については様々な試みがなされている。
例えば、培養容器の側方に照明を設けて、培養容器に収容された培養液の液面の下方に検査光を入射させ、これを培養容器の下方に設けたカメラによって撮影する細胞観察装置が知られている(特許文献1)。この細胞観察装置によれば培養容器が積み重ねられた多段式の場合にも対応できるようになっている。
多段式培養容器については他にも、カメラと照明とを同軸上に対向した位置に設け、これらカメラと照明との間に上記培養容器を位置させた細胞観察装置も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015-174356号公報
【文献】特許第4049263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、再生医療等の治療に使用する細胞や組織については、無菌環境下で取り扱われるようになってきており、上記培養容器中の細胞を観察する作業も無菌環境が維持された無菌室で行うことが望ましい。
しかしながら、当該無菌室の無菌状態を維持するには定期的に過酸化水素蒸気等の除染媒体によって除染する必要があり、このため観察装置を構成する照明やカメラ等の光学系は熱や除染媒体から防護した構成としなければならないが、特許文献1、2の構成では無菌室での使用を考慮されていない。
また培養容器が多段式の場合には、各段の細胞を観察するために容器の高さ方向に沿ってカメラや照明を移動させる必要が生じ、装置が煩雑かつ大型化し、より無菌室に収容させることが困難になるという問題があった。
このような問題に鑑み、本発明はカメラおよび照明を無菌室の外部に設けることが可能で、かつ細胞を鮮明に撮影することが可能な細胞観察装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる細胞観察装置は、培養容器に収容された細胞を撮影するカメラと、上記細胞に検査光を照射する照明とを備えた細胞観察装置において、
内部が無菌状態に維持されて上記培養容器を収容する無菌室と、当該無菌室の底部に設けられるとともに上記培養容器がその上方に載置される透明な観察窓とを備え、
上記カメラおよび照明を上記観察窓の下方に設け、上記カメラの焦点を上記培養容器の底面に設定して、培養容器の細胞を上記観察窓を介して撮影し、
上記照明は上記検査光を光が拡散しないスポット光にして照射し、上記培養容器の底面において検査光の照射範囲の内側に上記カメラの撮影範囲が位置するようにし、
かつ、培養容器の底面に直交する軸に対して上記カメラの撮影方向を傾斜させるとともに、当該カメラの撮影方向と、照明の照射方向とが同じ角度とならないように設定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、上記カメラおよび照明を無菌室の外部に設けることが可能で、かつ細胞を鮮明に撮影することが可能な細胞観察装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、
図1は培養容器1の内部で培養される細胞を観察する細胞観察装置2の構成図を示している。
上記細胞観察装置2は、内部が無菌状態に維持されて上記培養容器1を収容する無菌室3と、上記無菌室3の下方に設けられたカメラ4と、同じく無菌室3の下方に設けられた照明5と、上記カメラ4と照明5とを移動させる移動手段6とを備えている。
上記培養容器1は透明な素材からなる箱状の容器となっており、その内部には5段の収容部1aを備え、各段の収容部1aには上記細胞が培養液Lに浸された状態で収容されている。
上記培養容器1における上記各収容部1aに隣接した位置には、上下方向に貫通する通路1bが形成されており、当該通路1bの上部には開閉可能なキャップ1cが設けられている。
本実施例で観察する細胞および培養液は
図2に示すように透明であり、細胞は各収容部1aの底面1dに薄く接着した状態で培養されている。
【0009】
上記無菌室3は、例えば細胞を扱うアイソレータや培養を行うインキュベータとして構成され、内部が無菌状態に維持されるとともに、定期的に当該無菌室3の内部を過酸化水素蒸気等の除染媒体によって除染することが可能となっている。
上記無菌室3の底部3aには、その少なくとも一部分にガラスやポリカーボネートなどからなる無色透明な観察窓11が形成されており、当該観察窓11は水平に設けられている。
本実施例では、上記培養容器1を上記観察窓11の上面に設けた位置決め支持部材11aに載置した状態で、無菌室3の外部から培養容器1に収容された細胞を観察することが可能となっている。
そして上記培養容器1を上記観察窓11上に載置する作業は、上記無菌室3に設けた図示しないグローブを用いた手作業や、ロボットならびにその他の搬送手段によって自動的に行ってもよい。
【0010】
上記カメラ4は、上記観察窓11の下方に設けられており、上記観察窓11を介して培養容器1の内部の細胞を撮影するよう、上記培養容器1の下面1eに向けられている。
具体的には、最も下方の収容部1aの底面1dに接着した細胞を撮影するために、焦点を当該収容部1aの底面1dに設定している。また、上記カメラ4は高倍率の短焦点レンズ4aを備えており、このため当該カメラ4の撮影範囲は上記収容部1aの底面1dに対して極めて狭い範囲、例えば2.1mm×1.7mmの範囲で撮影されることとなる。
また上記カメラ4の撮影角度αは、上記培養容器1の下面1eに対して大きく傾けると、上記撮影範囲において、焦点が合う範囲が狭くなり、垂直すなわち0°に近づくと上記収容部1aの底面1dに接着している透明な細胞の反射光が受光しづらくなることから、当該カメラ4の撮影角度αは上記培養容器1の下面1eに直交する仮想軸N(下面1eの法線)に対して10~30°の範囲、望ましくは20°前後で設定するようになっている。
【0011】
上記照明5は、LEDスポット照明からなり、本体部5aと、本体部5aから伸びるフレキシブルアーム部5bと、上記検査光Lを培養容器1の下面1eに向けて照射する照射部5cとから構成されている。
上記照射部5cが照射する検査光Lの照射角度βは、上記培養容器1の下面1eに直交する上記仮想軸Nに対して傾斜するように設定され、かつ上記照明5の照射端と、上記カメラ4の受光端は上記仮想軸Nを挟んで対向するように設けられている。
また照明5は光が拡散しないスポット状に検査光Lを照射し、収容部1aの底面1dの一部となる狭い範囲に検査光Lを照射することで、例えば直径6mm程度の円形の範囲が検査光Lの照射範囲となるようになっている。
このとき、検査光Lの照射範囲の内側に上記カメラ4による撮影範囲が位置するよう、上記カメラ4の撮影方向と上記照明5の照射方向とが設定されており、これにより上記カメラ4は検査光Lが照射された細胞を撮影することが可能となっている。
ここで、上記照明5が照射した検査光Lは、上記収容部1aの内部で主に透明な上記培養液と細胞の境界部分で反射して上記カメラ4に受光されるが、上記検査光Lを拡散しないスポット光にすることで、細胞に照射される検査光Lの方向を揃えることができ、またカメラ4に受光される反射光の方向も揃えられて明暗差が大きくなることから、培養液と細胞の境界すなわち細胞の輪郭を際立たせることが可能となる。
これに対し、検査光Lを拡散させて照射すると、培養液中で検査光Lが様々な方向に反射してしまい、カメラ4に様々な方向から反射光が入射してしまうことから、上述したような明暗差が得られず、全体的に明るい画像となって細胞の輪郭が不鮮明になってしまう。
上記照明5の照射角度βは、上記培養容器1の下面1eに対して大きく傾けると、検査光Lのスポット径が大きくなり拡散しながら入射されてしまう。また、垂直すなわち0°に近づくと、透明な細胞の上方に抜ける光が多くなって反射光量が低下してしまう。このため照明5の照射角度βについては、上記仮想軸Nに対して0~40°の範囲、より望ましくは10~30°の範囲で設定するようになっている。
【0012】
さらに本実施例では、上記培養容器の下面1eに直交する仮想軸Nに対する、上記カメラ4の撮影角度αおよび照明5の照射角度βを異ならせるように設定している。
これは、上記カメラ4の撮影角度αと照明5の照射角度βとを同じにしてしまうと、境界面としての培養容器1の下面1eの法線(仮想軸N)となす入射角と反射角が等しくなり、下面1eで反射した反射光が直接カメラ4で受光されてしまい、画像全体が真白になって白飛びしてしまうことから、細胞の画像を全く得ることができなくなってしまう。
そこで、上記カメラ4の撮影方向と、上記照明5の照射方向とが同じ角度とならないよう設定して、カメラ4の撮影角度αを照明5の照射角度βとは異ならせることで、培養容器1の下面1eで反射した反射光を直接カメラ4で受光しないようにしている。
具体的には、上記カメラ4の撮影角度αを上記仮想軸Nに対して20°に設定した場合には、上記照明5の照射角度βを仮想軸Nに対して20°以外で、かつ0~40°の範囲で設定するようになっている。
【0013】
上記移動手段6は、上記カメラ4の撮影角度αによる撮影方向および照明5の照射角度βによる照射方向が変化しないように維持したまま、上記カメラ4および照明5を一体的に上下方向および横方向に移動させるようになっている。
具体的には、上記カメラ4および照明5は移動テーブル21に対してそれぞれ角度調節機構22、23を介して固定されており、当該角度調節機構22、23によって、上述したようにカメラ4の撮影角度αおよび照明5の照射角度βを調節することが可能となっている。
上記移動テーブル21は、昇降手段24によって上下動するとともに、横移動手段25によって横移動可能に設けられている。
上記昇降手段24は、上記移動テーブル21を上下動させる上下駆動装置24aから構成されている。
上記横移動手段25は、上記上下駆動装置24aを支持する左右移動テーブル25aを図示左右方向に往復動させる左右駆動装置25bと、当該左右駆動装置25bを図示前後方向に往復動させる前後駆動装置25cとによって構成されている。
上述したように、上記カメラ4による撮影範囲は極めて狭く、培養容器1の収容部1aの底面1dの一部であるため、培養容器1内の細胞をより正確に観察するためには、底面1dの複数の部分を撮影する必要がある。
そこで、上記カメラ4および照明5を上記移動手段6の横移動手段25によって、撮影方向および検査光Lの照射方向を維持したまま一体的に横移動させることにより、収容部1aの底面1dを複数の箇所で撮影することが可能となっている。
【0014】
さらに本実施例では、上記移動手段6により撮影方向および検査光Lの照射方向を維持したまま、上記カメラ4と照明5とを一体的に上下方向に移動させることで、多段式の培養容器1対して、最下段の収容部1aだけでなく、その上段の下から二段目の収容部1aに収容された細胞も観察することが可能となっている。
すなわち、上記カメラ4および照明5を上記移動手段6の昇降手段24によって、撮影方向および検査光Lの照射方向を維持したまま一体的に上方へ移動させて、上記カメラ4の焦点を最下段の収容部1aの底面1dに設定した状態から、下から二段目の収容部1aの底面1dに設定するように変更できるようになっている。
また照明5から照射される検査光Lは、最下段の収容部1aを通過し、下から二段目の収容部1aの収容部1aの底面1dに接着している細胞にスポット状に照射され、上記カメラ4はその照射範囲の内側を撮影範囲として細胞を撮影する。
下から2段目の画像は最下段の画像に比べると鮮明ではないものの、細胞の状態(例えば増殖の度合)を確認するには十分なものであった。
なお本実施例の構成では、下から三段目の収容部1aの細胞については、観察に十分な鮮明さで撮影することができなかったが、カメラ4の解像度や照明5の検査光Lの強度を調整することで、より上方に積層された収容部1aの細胞についても観察することができると考えられる。
しかしながら、多段式の培養容器1に対する細胞の観察において、必ずしも全段の収容部1aを対象に撮影を行う必要はなく、本実施例のように細胞の増殖の度合を確認する場合であれば、最下段と下から二段目を観察することで十分である。
なお、移動手段6は、無菌室3の内部に設けて、カメラ4および照明5を固定して培養容器1を保持して移動させる構成とすることも可能であり、またカメラ4および照明5と培養容器1とを相互に移動させても良く、カメラ4および照明5が培養容器1に対して、相対的に移動(上下動および横移動)するよう構成されていればよい。
また、多段式の培養容器1として、実施例のような内部に収容部1aを多段に形成した構成に限らず、多段式でない収容部が一段の培養容器を複数段積層させた場合であっても同様に観察することは可能である。
【符号の説明】
【0015】
1 培養容器 2 観察装置
3 無菌室 4 カメラ
5 照明 11 観察窓
L 検査光 α カメラの撮影角度
β 照明の照射角度