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特許7219412エアフィルタ濾材、プリーツ状濾材、エアフィルタユニット、マスク用濾材、および、エアフィルタ濾材の再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】エアフィルタ濾材、プリーツ状濾材、エアフィルタユニット、マスク用濾材、および、エアフィルタ濾材の再生方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/32 20060101AFI20230201BHJP
   B01D 63/14 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 46/84 20220101ALI20230201BHJP
   B01D 46/52 20060101ALI20230201BHJP
   B01D 46/80 20220101ALI20230201BHJP
【FI】
B01D71/32
B01D63/14
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/26
B01D71/36
B01D71/48
B01D65/02 500
B01D46/84
B01D46/52 A
B01D46/80
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022090211
(22)【出願日】2022-06-02
(65)【公開番号】P2022186658
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2021094637
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】清谷 秀之
(72)【発明者】
【氏名】乾 邦彦
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-108881(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067182(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146847(WO,A1)
【文献】特開2013-173078(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157647(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104589(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230983(WO,A1)
【文献】特開平07-196831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
B01D 46/00-46/90
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
A62B 7/00-33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂多孔膜(31)と、支持材(32)と、が積層されたエアフィルタ濾材(30)であって、
前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率に対する、前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後の前記エアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率の比率である透過率比(除菌処理後の透過率/除菌処理前の透過率)が、5.0以下であり、
前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失に対する、前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後の前記エアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失の比率である圧力損失比(除菌処理後の圧力損失/除菌処理前の圧力損失)が、0.83以上1.15以下であり、
除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材について、前記圧力損失および粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される捕集効率を用いて、次式:PF値={-log((100-捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が19以上であり、
前記除菌処理後に再利用する用途で用いられる、
エアフィルタ濾材。
【請求項2】
前記フッ素樹脂多孔膜の表面に、イソプロピルアルコールと水の体積比率が60:40である混合液の液滴を静置し30秒放置した場合に、前記混合液が前記フッ素樹脂多孔膜に浸透する、
請求項1に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項3】
除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材の前記圧力損失が200Pa以下である、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項4】
除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材の前記圧力損失が80Pa以下であり、
マスクとして用いられる、
請求項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項5】
除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材について、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの前記ポリアルファオレフィン粒子の保塵量が、15.0g/m以上である、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項6】
前記除菌処理は、アルコールに曝すか、界面活性剤に曝すか、塩素系漂白剤に曝すか、次亜塩素酸水に曝すか、過酸化水素水に曝すか、75℃以上150℃以下の温度環境に曝すか、紫外線を照射するか、オゾンに曝すか、の少なくともいずれかである、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項7】
前記除菌処理は、アルコールに曝すか、界面活性剤に曝すか、の少なくともいずれかである、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項8】
前記支持材は、ポリエチレンテレフタレートと、ポリエチレンと、ポリプロピレンと、これらの複合材と、のいずれかを主成分として有する、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項9】
前記フッ素樹脂多孔膜は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、を含む、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項10】
前記フッ素樹脂多孔膜は、変性ポリテトラフルオロエチレンを含む、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項11】
請求項1に記載のエアフィルタ濾材が、山折り部および谷折り部を含んだ形状となっているプリーツ状濾材(20)。
【請求項12】
請求項1に記載のエアフィルタ濾材または請求項11に記載のプリーツ状濾材と、前記エアフィルタ濾材または前記プリーツ状濾材を保持する枠体(25)と、を備える、
エアフィルタユニット(1)。
【請求項13】
請求項1に記載のエアフィルタ濾材、または、請求項11に記載のプリーツ状濾材を備えたマスク用濾材。
【請求項14】
フッ素樹脂多孔膜(31)と、支持材(32)と、が積層されたエアフィルタ濾材(30)を用意する工程と、
前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する工程と、
を備え、
前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率に対する、前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後の前記エアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率の比率である透過率比(除菌処理後の透過率/除菌処理前の透過率)が、5.0以下であり、
前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失に対する、前記フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後の前記エアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失の比率である圧力損失比(除菌処理後の圧力損失/除菌処理前の圧力損失)が、0.83以上1.15以下であり、
除菌処理する前の前記エアフィルタ濾材について、前記圧力損失および粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される捕集効率を用いて、次式:PF値={-log((100-捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が19以上であり、
前記エアフィルタ濾材は、前記除菌処理後に再利用する用途で用いられる、
エアフィルタ濾材の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアフィルタ濾材、プリーツ状濾材、エアフィルタユニット、マスク用濾材、および、エアフィルタ濾材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという場合がある。)からなる多孔膜(以下、PTFE多孔膜という場合がある。)がエアフィルタとして用いられている。PTFE多孔膜は、ガラス繊維製濾材に比べて同じ圧力損失で比較したときの捕集効率が高いことから、特に、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルタ(Ultra low Penetration Air Filter)に好適に用いられている。
【0003】
このようなフィルタとしては、例えば、特許文献1(国際公開第2013/157647号)に記載のエアフィルタ濾材のように、性能が良好なPTFE多孔膜を有するエアフィルタ濾材が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような多孔膜を有するエアフィルタ濾材のうち、例えば、医療用として用いられるものは、使用を終えると廃棄されるのが現状である。
【0005】
これに対して、使用されたエアフィルタ濾材について、廃棄するのではなく、付着した菌やウイルスの数を減らす除菌処理または付着した菌やウイルスを無毒化させる消毒処理を行って、エアフィルタ濾材を再利用することが考えられる。
【0006】
ところが、除菌処理等を行ったエアフィルタ濾材は、その性能が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1観点に係るエアフィルタ濾材は、フッ素樹脂多孔膜と、支持材と、が積層されたエアフィルタ濾材である。エアフィルタ濾材は、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率の比率である透過率比(除菌処理後の透過率/除菌処理前の透過率)が、5.0以下である。エアフィルタ濾材は、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失の比率である圧力損失比(除菌処理後の圧力損失/除菌処理前の圧力損失)が、0.83以上1.15以下である。
【0008】
なお、エアフィルタ濾材の透過率および圧力損失は、いずれもフッ素樹脂多孔膜が帯電していない非帯電状態での値とすることができる。なお、非帯電状態のエアフィルタ濾材は、「JIS B 9908-4 第4部:換気用エアフィルタユニットの除電処理の試験方法」に準じた除電処理が施されることで帯電していない状態のエアフィルタ濾材をいう。なお、フッ素樹脂多孔膜は、エレクトレットフィルタ等と比較して、帯電状態から非帯電状態になったとしても捕集効率の低下が抑制され、捕集効率が維持される。
【0009】
なお、除菌処理前の透過率としては、特に限定されず、使用される前の初期のエアフィルタ濾材の透過率であってもよいし、使用された後であって除菌処理が行われる直前のエアフィルタ濾材の透過率であってもよいが、これらの透過率のうちより値の小さな透過率を「除菌処理前の透過率」として用いることが好ましい。
【0010】
なお、除菌処理前の圧力損失としては、特に限定されず、使用される前の初期のエアフィルタ濾材の圧力損失であってもよいし、使用された後であって除菌処理が行われる直前のエアフィルタ濾材の圧力損失であってもよいが、これらの圧力損失のうちより値の小さな圧力損失を「除菌処理前の圧力損失」として用いることが好ましい。
【0011】
このエアフィルタ濾材は、エアフィルタ濾材を除菌処理して再利用する場合であっても、エアフィルタ濾材の性能の低下を小さく抑えることができる。
【0012】
第2観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点のエアフィルタ濾材であって、フッ素樹脂多孔膜の表面に、イソプロピルアルコールと水の体積比率が60:40である混合液の液滴を静置し30秒放置した場合に、混合液がフッ素樹脂多孔膜に浸透する。
【0013】
このエアフィルタ濾材は、除菌処理のためにエアフィルタ濾材に用いられる薬液を浸透させやすく、エアフィルタ濾材の内部まで除菌を行いやすい。
【0014】
第3観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点または第2観点のエアフィルタ濾材であって、除菌処理する前のエアフィルタ濾材について、圧力損失および粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される捕集効率を用いて、次式:PF値={-log((100-捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められるPF値が19以上である。
【0015】
なお、エアフィルタ濾材の圧力損失、捕集効率およびPF値は、いずれもフッ素樹脂多孔膜が帯電していない非帯電状態での値とすることができる。
【0016】
このエアフィルタ濾材では、PF値が19以上であるような性能の高いエアフィルタ濾材を除菌処理して再利用する場合であっても、エアフィルタ濾材の性能の低下を小さく抑えることができる。
【0017】
第4観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第3観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、除菌処理する前のエアフィルタ濾材の圧力損失が200Pa以下である。
【0018】
このエアフィルタ濾材では、圧力損失が200Pa以下であるような性能の高いエアフィルタ濾材を除菌処理して再利用する場合であっても、エアフィルタ濾材の性能の低下を小さく抑えることができる。
【0019】
第5観点に係るエアフィルタ濾材は、第4観点のエアフィルタ濾材であって、除菌処理する前のエアフィルタ濾材の圧力損失が80Pa以下である。このエアフィルタ濾材は、マスクとして用いられる。
【0020】
マスクとしては、人間の鼻と口の少なくともいずれか一方を覆うようにして用いられる濾材が挙げられる。
【0021】
このエアフィルタ濾材は、圧力損失が80Pa以下であるため、人間のマスク用途で用いられる場合において息苦しさを小さく抑えることが可能になる。そして、この息苦しさを小さく抑えることが可能なエアフィルタ濾材を除菌処理して再利用する場合であっても、エアフィルタ濾材の性能の低下を小さく抑えることができる。
【0022】
第6観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第5観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、除菌処理する前のエアフィルタ濾材について、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときのポリアルファオレフィン粒子の保塵量が、15.0g/m以上である。
【0023】
なお、エアフィルタ濾材の保塵量は、フッ素樹脂多孔膜が帯電していない非帯電状態での値とすることができる。
【0024】
このエアフィルタ濾材では、保塵量が15.0g/m以上であるような性能の高いエアフィルタ濾材を除菌処理して再利用する場合であっても、エアフィルタ濾材の性能の低下を小さく抑えることができる。
【0025】
第7観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第6観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、除菌処理は、アルコールに曝すか、界面活性剤に曝すか、塩素系漂白剤に曝すか、次亜塩素酸水に曝すか、過酸化水素水に曝すか、75℃以上150℃以下の温度環境に曝すか、紫外線を照射するか、オゾンに曝すか、の少なくともいずれかである。
【0026】
このエアフィルタ濾材では、付着した菌やウイルスの数を有効に減らすことが可能な除菌処理を行った場合であっても、エアフィルタ濾材の性能の低下を小さく抑えて再利用することができる。
【0027】
第8観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第6観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、除菌処理は、アルコールに曝すか、界面活性剤に曝すか、の少なくともいずれかである。
【0028】
このエアフィルタ濾材では、一般的な従来のエレクトレットメルトブローン不織布については性能が大きく低下してしまうような除菌処理を行う場合であっても、エアフィルタ濾材の性能の低下を小さく抑えて再利用することができる。
【0029】
第9観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第8観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、支持材は、ポリエチレンテレフタレートと、ポリエチレンと、ポリプロピレンと、これらの複合材と、のいずれかを主成分として有する。
【0030】
また、支持材は、ポリエチレンテレフタレートと、ポリエチレンと、ポリプロピレンと、これらの複合材と、のいずれかのみから構成されていてもよい。
【0031】
このエアフィルタ濾材では、除菌処理を行った場合において支持材で生じうる性能への悪影響を小さく抑えることができる。
【0032】
第10観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第9観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、フッ素樹脂多孔膜は、繊維化し得るポリテトラフルオロエチレンと、繊維化しない非熱溶融加工性成分と、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分と、を含む。
【0033】
このエアフィルタ濾材は、フッ素樹脂多孔膜について、比較的太い繊維により空隙を多くして厚みを増やすことができ、保塵量を高めることが可能になる。
【0034】
第11観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第9観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、フッ素樹脂多孔膜は、変性ポリテトラフルオロエチレンを含む。
【0035】
このエアフィルタ濾材は、厚みを大きく確保しやすく、保塵量を高めることが可能になる。
【0036】
第12観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第11観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、除菌処理後に再利用する用途で用いられる。
【0037】
このエアフィルタ濾材は、使用した後に廃棄することなく、再度利用することが可能になるだけでなく、再利用時の性能の低下を小さく抑えることが可能になる。
【0038】
第13観点に係るプリーツ状濾材は、第1観点から第12観点のいずれかのエアフィルタ濾材が、山折り部および谷折り部を含んだ形状となっている。
【0039】
このプリーツ状濾材では、非処理流体の通過断面積当たりの有効濾材面を広く確保することができる。
【0040】
第14観点に係るエアフィルタユニットは、第1観点から第12観点のいずれかのエアフィルタ濾材とまたは第13観点のプリーツ状濾材と、エアフィルタ濾材またはプリーツ状濾材を保持する枠体と、を備える。
【0041】
このエアフィルタユニットでは、エアフィルタ濾材またはプリーツ状濾材が安定的に保持された状態で利用することができる。
【0042】
第15観点に係るマスク用濾材は、第1観点から第12観点のいずれかのエアフィルタ濾材、または、第13観点のプリーツ状濾材、を備える。
【0043】
このマスク用濾材は、除菌処理を行って再利用する場合であっても、性能の低下が小さく抑えられる。
【0044】
第16観点に係るエアフィルタ濾材の再生方法は、フッ素樹脂多孔膜と、支持材と、が積層されたエアフィルタ濾材を用意する工程と、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する工程と、を備える。この再生方法では、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率の比率である透過率比(除菌処理後の透過率/除菌処理前の透過率)が、5.0以下である。また、この再生方法では、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失の比率である圧力損失比(除菌処理後の圧力損失/除菌処理前の圧力損失)が、0.83以上1.15以下である。
【0045】
なお、エアフィルタ濾材の透過率および圧力損失は、いずれもフッ素樹脂多孔膜が帯電していない非帯電状態での値とすることができる。なお、非帯電状態のエアフィルタ濾材は、「JIS B 9908-4 第4部:換気用エアフィルタユニットの除電処理の試験方法」に準じた除電処理が施されることで帯電していない状態のエアフィルタ濾材をいう。なお、フッ素樹脂多孔膜は、エレクトレットフィルタ等と比較して、帯電状態から非帯電状態になったとしても捕集効率の低下が抑制され、捕集効率が維持される。
【0046】
なお、除菌処理前の透過率としては、特に限定されず、使用される前の初期のエアフィルタ濾材の透過率であってもよいし、使用された後であって除菌処理が行われる直前のエアフィルタ濾材の透過率であってもよいが、これらの透過率のうちより値の小さな透過率を「除菌処理前の透過率」として用いることが好ましい。
【0047】
なお、除菌処理前の圧力損失としては、特に限定されず、使用される前の初期のエアフィルタ濾材の圧力損失であってもよいし、使用された後であって除菌処理が行われる直前のエアフィルタ濾材の圧力損失であってもよいが、これらの圧力損失のうちより値の小さな圧力損失を「除菌処理前の圧力損失」として用いることが好ましい。
【0048】
このエアフィルタ濾材の再生方法は、エアフィルタ濾材の性能の低下を小さく抑えつつ、エアフィルタ濾材を除菌処理して再利用することができる。
【0049】
付記の観点に係るエアフィルタ濾材の使用は、利用した後に除菌処理を行うことで再利用する、フッ素樹脂多孔膜と支持材が積層されたエアフィルタ濾材の使用である。フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材の透過率に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材の透過率の比率である透過率比(除菌処理後の透過率/除菌処理前の透過率)が、5.0以下である。フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失の比率である圧力損失比(除菌処理後の圧力損失/除菌処理前の圧力損失)が、0.83以上1.15以下である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】エアフィルタ濾材(その1)の層構成を示す概略断面図である。
図2】エアフィルタ濾材(その2)の層構成を示す概略断面図である。
図3】エアフィルタ濾材(その3)の層構成を示す概略断面図である。
図4】プリーツ状濾材の外観斜視図である。
図5】台座に取り付けられた状態のプリーツ状濾材の正面図である。
図6】台座に取り付けられた状態のプリーツ状濾材の側面視断面図である。
図7】エアフィルタユニットの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、エアフィルタ濾材、プリーツ状濾材、エアフィルタユニット、マスク用濾材、および、エアフィルタ濾材の再生方法について、例を挙げて説明する。
【0052】
(1)エアフィルタ濾材
エアフィルタ濾材は、フッ素樹脂多孔膜と、支持材と、を備えている。支持材は、フッ素樹脂多孔膜に対して膜厚方向に積層されている。
【0053】
エアフィルタ濾材は、後述の除菌処理を施すことにより、付着していたウイルスや細菌を低減または除去した場合であっても、性能の低下を小さく抑えて再利用することが可能である。
【0054】
なお、本実施形態に記載のエアフィルタ濾材および後述のフッ素樹脂多孔膜の各物性は、特に断りの無い限り、いずれもエアフィルタ濾材およびフッ素樹脂多孔膜が帯電していない非帯電状態での値であって、未使用である初期の状態の値を示している。なお、非帯電状態は、「JIS B 9908-4 第4部:換気用エアフィルタユニットの除電処理の試験方法」に準じた除電処理が施されることで帯電していない状態をいう。公知の濾材としては、帯電状態で用いられることで捕集効率等を良好にしているものもあるが、このような濾材は、湿潤状態で用いられることや人間の呼気に含まれる水分等により帯電状態を維持できない場合には、捕集効率等が良好に維持されない。これに対して、本実施形態のエアフィルタ濾材およびフッ素樹脂多孔膜は、非帯電状態になったとしても捕集効率の低下が抑制され、捕集効率が良好に維持される。
【0055】
(1-1)透過率
フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材の透過率について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される比率である透過率比(除菌処理後の透過率/除菌処理前の透過率)が、5.0以下である。当該透過率比は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。なお、当該透過率比の下限は、特に限定されず、例えば、0.1であってよい。
【0056】
特に、除菌処理が界面活性剤を用いた除菌処理またはアルコールを用いた除菌処理の場合において当該透過率比が5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.0以下であることがさらに好ましい。
【0057】
透過率(%)は、粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される捕集効率(%)を100から差し引いて得られる値である。
【0058】
なお、ここでの「除菌処理前の透過率」としては、特に限定されず、使用される前の初期のエアフィルタ濾材の透過率であってもよいし、使用された後であって除菌処理が行われる直前のエアフィルタ濾材の透過率であってもよいが、これらの透過率のうちより値の小さな透過率を「除菌処理前の透過率」として用いて上記透過率比を特定することが好ましい。
【0059】
使用される前の初期のエアフィルタ濾材について、粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率は、特に限定されないが、10%以下であってよく、5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
【0060】
(1-2)圧力損失
エアフィルタ濾材は、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材の圧力損失に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材の圧力損失の比率である圧力損失比(除菌処理後の圧力損失/除菌処理前の圧力損失)が、0.83以上1.15以下である。当該圧力損失比の上限としては、1.1であることがより好ましく、1.05であることがさらに好ましい。
【0061】
特に、除菌処理が界面活性剤を用いた除菌処理またはアルコールを用いた除菌処理の場合において当該圧力損失比が0.83以上1.15以下であること、が好ましい。
【0062】
なお、ここでの「除菌処理前の圧力損失」としては、特に限定されず、使用される前の初期のエアフィルタ濾材の圧力損失であってもよいし、使用された後であって除菌処理が行われる直前のエアフィルタ濾材の圧力損失であってもよいが、これらの圧力損失のうちより値の小さな圧力損失を「除菌処理前の圧力損失」として用いて上記圧力損失比を特定することが好ましい。
【0063】
使用される前の初期のエアフィルタ濾材の圧力損失は、200Pa以下であることが好ましい。なお、エアフィルタ濾材をマスク用途で用いる場合には、ユーザの息苦しさを抑制して呼吸しやすくする観点から、圧力損失が80Pa以下であってよく、70Pa以下であることが好ましく、60Pa以下であることがより好ましい。なお、エアフィルタ濾材の圧力損失の下限は、特に限定されないが、20Paであってよい。エアフィルタ濾材の圧力損失は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失として測定することができる。
【0064】
(1-3)PF値
使用される前の初期のエアフィルタ濾材のPF値は、19以上であることが好ましく、21以上であることがより好ましい。
【0065】
PF値は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失、および、粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される捕集効率を用いて、次式:PF値={-log((100-捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)で定められる値である。
【0066】
(1-4)厚み
エアフィルタ濾材の厚みは、例えば、200μm以上500μm以下であることが好ましい。エアフィルタ濾材の厚みは、特定の測定装置において、測定対象に0.3Nの荷重をかけたときの厚さの値である。
【0067】
(1-5)液体浸透性
エアフィルタ濾材は、イソプロピルアルコールと水の体積比率が60:40である混合液の液滴を静置し30秒放置した場合に、混合液がエアフィルタ濾材に浸透するものであることが好ましい。これにより、エアフィルタ濾材について薬液を用いた除菌処理を行う場合の作業効率を高め、内部まで十分に除菌することが可能になる。
【0068】
(1-6)エアフィルタ濾材の層構成
以上に述べたエアフィルタ濾材の具体的な層構成は、特に限定されるものではない。
【0069】
エアフィルタ濾材としては、例えば、図1に示すエアフィルタ濾材30のように、フッ素樹脂多孔膜31と、フッ素樹脂多孔膜31の空気流れ方向における下流側に積層された通気性支持材32と、を有するものであってもよい。また、例えば、図2に示すエアフィルタ濾材30のように、フッ素樹脂多孔膜31と、フッ素樹脂多孔膜31の空気流れ方向における上流側に積層された通気性支持材32と、を有するものであってもよい。また、例えば、図3に示すエアフィルタ濾材30のように、フッ素樹脂多孔膜31と、フッ素樹脂多孔膜31の空気流れ方向における上流側と下流側の両方に積層された通気性支持材32と、を有するものであってもよい。
【0070】
また、これらの各膜や層等の重ね合わせの仕方は、特に限定されず、加熱による一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融によるアンカー効果を利用した貼り合わせであってもよいし、反応性接着剤等を用いた貼り合わせであってもよいし、単に重ね置くだけであってもよい。
【0071】
以下、各層および各層間の関係について例示説明する。
【0072】
(2)フッ素樹脂多孔膜
フッ素樹脂多孔膜は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が200Pa以下であってよく、80Pa以下であることが好ましく、70Pa以下であることがより好ましい。なお、フッ素樹脂多孔膜の圧力損失は、特に限定されないが、20Pa以上であってよい。なお、捕集効率の低下を抑えつつ、膜全体における均質性が良好なフッ素樹脂多孔膜が得られやすい観点から、フッ素樹脂多孔膜の圧力損失は、40Pa以上であることが好ましい。
【0073】
フッ素樹脂多孔膜のPF値は、19以上であってよく、21以上であることがより好ましい。
【0074】
フッ素樹脂多孔膜の厚みは、10μm以上であることが好ましい。これにより、ポリアルファオレフィン粒子の保塵量を高めた多孔膜が得られやすい。また、フッ素樹脂多孔膜の厚みは、折り込んだ箇所を有する状態で用いられる場合に、折り込み箇所の厚みが大きくなりすぎることを抑制する観点から、50μm以下であることが好ましい。フッ素樹脂多孔膜の厚みは、特定の測定装置において、測定対象に0.3Nの荷重をかけたときの厚さの値である。
【0075】
フッ素樹脂多孔膜のポリアルファオレフィン粒子の保塵量が、15.0g/m以上であることが好ましい。ポリアルファオレフィン粒子の保塵量は、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒でフッ素樹脂多孔膜に連続通風し、フッ素樹脂多孔膜の圧力損失が250Pa分だけ上昇したときにフッ素樹脂多孔膜に保持されているポリアルファオレフィン粒子の単位面積当たりの重さを意味する。
【0076】
なお、圧力損失の変動係数は、6.0以下であることが好ましい。この圧力損失の変動係数(CV値)は、フッ素樹脂多孔膜の各所における圧力損失分布の標準偏差を、その圧力損失の平均値で除してなる値を意味する。一般に、圧力損失が小さく抑えられているフッ素樹脂多孔膜では、膜の箇所毎の圧力損失のバラツキが生じやすくなる。しかし、本実施形態のエアフィルタ濾材では、圧力損失の変動係数が6.0以下であり、圧力損失が低い多孔膜であっても、均一に延伸されることで、膜の均質性を良好にすることができている。特に、マスク用濾材は、濾材の総面積が比較的小さいため(例えば、500cm以下、または、350cm以下)、特に、部分的に質の悪い箇所の発生が抑制されることが望ましい。したがって、圧力損失の変動係数を小さく抑えることができているエアフィルタ濾材は、マスク用濾材として用いる場合に特に適している。
【0077】
なお、フッ素樹脂多孔膜は、厚み方向における充填率が概ね均一であってもよいし、厚み方向において充填率が変化しているものであってもよい。厚み方向における充填率が変化しているフッ素樹脂多孔膜としては、風上側の部分の方が風下側の部分よりも充填率が低いもの(傾斜密度多孔膜)であることが好ましい。
【0078】
また、フッ素樹脂多孔膜は、1枚だけ用いるものであってもよいし、2枚以上を積層した状態で用いるものであってもよい。
【0079】
フッ素樹脂多孔膜は、イソプロピルアルコールと水の体積比率が60:40である混合液の液滴を静置し30秒放置した場合に、混合液がフッ素樹脂多孔膜に浸透するものであることが好ましい。これにより、フッ素樹脂多孔膜に付着したウイルスや細菌について薬液を用いた除菌処理を行う場合の作業効率を高め、フッ素樹脂多孔膜の内部まで十分に除菌することが可能になる。
【0080】
フッ素樹脂多孔膜は、フッ素樹脂を含んで構成されており、主としてフッ素樹脂を含んで構成されていることが好ましく、図示しないフィブリル(繊維)とフィブリルに接続されたノード(結節部)とを有する多孔質な膜構造を有するものであることがより好ましい。ここで、「主として」とは、複数種類の成分を含有する場合にはフッ素樹脂が最も多く含有されていることを意味する。フッ素樹脂多孔膜は、例えば、フッ素樹脂多孔膜の重量に対して50重量%以上のフッ素樹脂を含んでいてもよいし、80重量%以上のフッ素樹脂を含んでいることが好ましく、95重量%以上のフッ素樹脂を含んでいることがより好ましく、フッ素樹脂のみから構成されていてもよい。フッ素樹脂は、耐薬品性が高いため、薬液を用いた除菌処理を行う場合においても濾材の劣化が抑制される。特に、フッ素樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の他の樹脂と比較して、より多様な除菌処理に対する耐性がある点で優れる。さらに、フッ素樹脂多孔膜は、他の樹脂により得られる濾材と比較して、固体粉塵負荷の使用環境下において圧力損失の増大を抑制しやすく、液体粉塵負荷の環境下において圧力損失の増大を十分に抑制しやすい点で優れる。また、フッ素樹脂多孔膜は、他の樹脂と比較して、耐熱性が高く、高温環境下での除菌処理においても性能の低下が小さく抑えられる点で優れる。
【0081】
フッ素樹脂多孔膜に含まれるフッ素樹脂と異なる成分としては、例えば、後述する繊維化しない非溶融加工性成分(B成分)である無機フィラーが挙げられる。
【0082】
フッ素樹脂多孔膜に用いられるフッ素樹脂は、1種類の成分からなってもよく、2種以上の成分からなってもよい。また、フッ素樹脂としては、例えば、繊維化し得るPTFE(以降、A成分ともいう)を含むものが挙げられる。また、フッ素樹脂としては、当該A成分と、繊維化しない非熱溶融加工性成分(以降、B成分ともいう)、および融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以降、C成分ともいう)の3成分の混合物が挙げられる。
【0083】
(2-1)A成分:繊維化し得るPTFE
繊維化し得るPTFEは、例えば、延伸性および非溶融加工性を有するものである。なお、「非溶融加工性」とは、高い溶融粘度を有するため、溶融状態において容易に流動せず、溶融加工することが困難であることを意味する。繊維化しうるPTFEとしては、380℃における溶融粘度が1×10Pa・S以上であることが好ましい。
【0084】
繊維化し得るPTFEは、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)の乳化重合、または懸濁重合から得られた高分子量PTFEである。ここでいう高分子量とは、多孔膜作成時の延伸の際に繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られるものであって、標準比重(SSG)が、2.130~2.230であり、溶融粘度が高いため実質的に溶融流動しない大きさの分子量をいう。繊維化し得るPTFEのSSGは、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、2.130~2.190が好ましく、2.140~2.170が更に好ましい。SSGが高すぎると、延伸性が悪化するおそれがあり、SSGが低すぎると、圧延性が悪化して、多孔膜の均質性が悪化し、多孔膜の圧力損失が高くなるおそれがある。上記標準比重(SSG)は、ASTM D 4895に準拠して測定される。
【0085】
また、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、乳化重合で得られたPTFEが好ましい。乳化重合は、一般に、TFE、又は、TFEとTFE以外の単量体と分散剤と重合開始剤とを含有する水性媒体中で行うことができる。なお、乳化重合は、生成したPTFE微粒子が凝集しないよう設定した撹拌条件下に、穏やかに撹拌して行うことが好ましい。乳化重合において、重合温度は、一般に20~100℃、好ましくは50~85℃であり、重合圧力は、一般に0.5~3.0MPaである。乳化重合における重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、レドックス系重合開始剤等が好ましい。重合開始剤の量は、少ないほど低分子量のPTFEの生成が抑制され、SSGが低いPTFEを得ることができる点で好ましいが、あまりに少ないと重合速度が小さくなり過ぎる傾向があり、あまりに多いと、SSGが高いPTFEが生成する傾向がある。
【0086】
PTFEは、乳化重合により得られるファインパウダーを構成するものであってもよい。ファインパウダーは、上述の乳化重合により得られるPTFE水性分散液からPTFE微粒子を回収し、凝析させたのち乾燥させることにより得ることができる。上記PTFEからなるファインパウダーは、押出加工性が良く、例えば、20MPa以下の押出圧力でペースト押出することができる。なお、押出圧力とは、リダクションレシオ100、押出速度51cm/分、25℃の条件で、オリフィス(直径2.5cm、ランド長1.1cm、導入角30゜)を通してペースト押出を行う際に測定したものである。ペースト押出し成形は、一般に、上記ファインパウダーと押出助剤(潤滑剤)とを混合したのち、予備成形を行い、押出しするものである。押出助剤は、特に限定されず従来公知のものを使用することができるが、ナフサ等、沸点が150℃以上である石油系炭化水素が好ましい。押出助剤の使用量は、押出助剤の種類等によって異なるが、通常、PTFEの粉末100重量部に対して、5重量部以上50重量部(P)以下である。なお、10重量部以上40重量部以下とすることが好ましく、25重量部以上35重量部以下であることがより好ましい。予備成形および押出しは、従来公知の方法で行うことができ、適宜条件を選択することができる。
【0087】
なお、繊維化性の有無、すなわち、繊維化し得るか否かは、TFEの重合体から作られた高分子量PTFE粉末を成形する代表的な方法であるペースト押出しが可能か否かによって判断できる。通常、ペースト押出しが可能であるのは、高分子量のPTFEが繊維化性を有するからである。ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがない場合、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れるような場合は繊維化性がないとみなすことができる。
【0088】
上記高分子量PTFEは、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、変性PTFEという)であってもよいし、ホモポリテトラフルオロエチレン(以下、ホモPTFEという)であってもよいし、変性PTFEとホモPTFEの混合物であってもよい。なお、高分子PTFEにおける変性PTFEの含有割合は、ポリテトラフルオロエチレンの成形性を良好に維持させる観点から、10重量%以上98重量%以下であることが好ましく、50重量%以上95重量%以下であることがより好ましい。ホモPTFEは、特に限定されず、特開昭53-60979号公報、特開昭57-135号公報、特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭62-190206号公報、特開昭63-137906号公報、特開2000-143727号公報、特開2002-201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2009/001894号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているホモPTFEを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭57-135号公報、特開昭63-137906号公報、特開2000-143727号公報、特開2002-201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット等で開示されているホモPTFEが好ましい。
【0089】
変性PTFEは、TFEと、TFE以外のモノマー(以下、変性モノマーという)とからなる。変性PTFEには、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期に変性されたもの、重合反応の終期に変性されたものなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。変性PTFEは、TFE単独重合体の性質を大きく損なわない範囲内で、TFEとともに微量のTFE以外の単量体をも重合に供することにより得られるTFE共重合体であることが好ましい。変性PTFEは、例えば、特開昭60-42446号公報、特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭62-190206号公報、特開昭64-1711号公報、特開平2-261810号公報、特開平11-240917、特開平11-240918、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているものを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭64-1711号公報、特開平11-240917、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット等で開示されている変性PTFEが好ましい。
【0090】
変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。変性モノマー単位は、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分である。変性PTFEは、変性モノマー単位が全単量体単位の0.001~0.500重量%含まれることが好ましく、好ましくは、0.01~0.30重量%含まれる。全単量体単位は、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分である。
【0091】
変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)、エチレン等が挙げられる。用いられる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0092】
パーフルオロビニルエーテルは、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。
【0093】
CF=CF-ORf・・・(1)
式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。
【0094】
本明細書において、パーフルオロ有機基は、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基である。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0095】
パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。PAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0096】
上記パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)は、特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン(PFHE)等が挙げられる。
【0097】
変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0098】
ホモPTFEは、特に、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、後述のB成分およびC成分を用いてフッ素樹脂多孔膜を構成させる場合には、繊維化し得るPTFEの50重量%を超えて含有されていることが好ましい。
【0099】
フッ素樹脂多孔膜として、上記繊維化し得るPTFE(A成分)だけでなく、繊維化しない非熱溶融加工性成分(B成分)、および融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(C成分)も含んだものとする場合には、各B成分、C成分として、以下のものを用いることができる。これら3種の成分からなるフッ素樹脂多孔膜は、従来の繊維化し得るPTFE(高分子量PTFE)多孔膜と比べ、空隙が多く、膜厚の厚い膜構造を有していることで、気体中の微粒子を濾材の厚み方向の広い領域で捕集でき、これにより、保塵量を向上させることができる。フッ素樹脂多孔膜をこれら3種の成分から構成することにより、固体粒子よりも液体粒子の保塵量を特に増大させることが可能になる。
【0100】
(2-2)B成分:繊維化しない非熱溶融加工性成分
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、主に結節部において非繊維状の粒子として偏在し、繊維化し得るPTFEが繊維化されるのを抑制する働きをする。
【0101】
繊維化しない非熱溶融加工性成分としては、例えば、低分子量PTFE等の熱可塑性を有する成分、熱硬化性樹脂、無機フィラー、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0102】
熱可塑性を有する成分は、融点が320℃以上であり、溶融粘度が高い方が好ましい。例えば低分子量PTFEは溶融粘度が高いため、融点以上の温度で加工しても結節部に留まることができる。本明細書において、低分子量PTFEとは、数平均分子量が60万以下、融点が320℃以上335℃以下、380℃での溶融粘度が100Pa・s~7.0×10Pa・sのPTFEである(特開平10-147617号公報参照)。
【0103】
低分子量PTFEの製造方法としては、TFEの懸濁重合から得られる高分子量PTFE粉末(モールディングパウダー)またはTFEの乳化重合から得られる高分子量PTFE粉末(FP:ファインパウダー)と特定のフッ化物とを高温下で接触反応させて熱分解する方法(特開昭61-162503号公報参照)や、上記高分子量PTFE粉末や成形体に電離性放射線を照射する方法(特開昭48-78252号公報参照)、また連鎖移動剤とともにTFEを直接重合させる方法(国際公開第2004/050727号パンフレット、国際公開第2009/020187号パンフレット、国際公開第2010/114033号パンフレット等参照)等が挙げられている。低分子量PTFEは、繊維化し得るPTFEと同様、ホモPTFEであってもよく、前述の変性モノマーが含まれる変性PTFEでもよい。
【0104】
低分子量PTFEは繊維化性が無い。繊維化性の有無は、上述した方法で判断できる。低分子量PTFEは、ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがなく、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れる。
【0105】
低分子量PTFEは、特に限定されないが、380℃での溶融粘度が1000Pa・s以上であることが好ましく、5000Pa・s以上であることがより好ましく、10000Pa・s以上であることがさらに好ましい。このように、溶融粘度が高いと、多孔膜の製造時に、C成分として繊維化しない熱溶融加工可能な成分が溶融しても、繊維化しない非熱溶融加工性成分は結節部に留まることができ、繊維化を抑えることができる。
【0106】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ、シリコーン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、フェノール、およびこれらの混合物等の各樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、共凝析の作業性の観点から、未硬化状態で水分散された樹脂が望ましく用いられる。これら熱硬化性樹脂は、いずれも市販品として入手することもできる。
【0107】
無機フィラーとしては、タルク、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、およびこれらの混合物等が挙げられる。中でも、繊維化しうる高分子量のPTFEとの親和性および比重の点から、タルクが好ましく用いられる。無機フィラーは、多孔膜の製造時に安定な分散体を形成できる観点から、粒子径3μm以上20μm以下のものが好ましく用いられる。粒子径は、平均粒径であり、レーザー回折・散乱法によって測定される。これら無機フィラーは、いずれも市販品として入手することもできる。
【0108】
なお、繊維化しない非溶融加工性成分は、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
【0109】
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、多孔膜の1重量%以上50重量%以下含有されることが好ましい。繊維化しない非熱溶融加工性成分の含有量が50重量%以下であることで、多孔膜の繊維構造を維持させやすい。繊維化しない非熱溶融加工性成分は、好ましくは20重量%以上40重量%以下含有され、より好ましくは30重量%含有される。20重量%以上40重量%以下含有されることで、繊維化し得るPTFEの繊維化をより有効に抑えることができる。
【0110】
(2-3)C成分:融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分
融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以下、繊維化しない熱溶融加工可能な成分ともいう)は、溶融時に流動性を有することにより、多孔膜の製造時(延伸時)に溶融して結節部において固まることができ、多孔膜全体の強度を高めて、後工程で圧縮等されることがあってもフィルタ性能の劣化を抑えることができる。
【0111】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分は、380℃において10000Pa・s未満の溶融粘度を示すことが好ましい。なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の融点は、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度10℃/分で融点以上まで昇温して一度完全に溶融させ、10℃/分で融点以下まで冷却した後、10℃/分で再び昇温したときに得られる融解熱曲線のピークトップとする。
【0112】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分としては、熱溶融可能なフルオロポリマー、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリアミド等の各樹脂、あるいはこれらの混合物であり、多孔膜の製造時の延伸温度における溶融性、流動性を十分に発揮しうるものが挙げられる。中でも、多孔膜製造時の延伸温度での耐熱性に優れ、耐薬品性に優れる点から、熱溶融可能なフルオロポリマーが好ましい。熱溶融可能なフルオロポリマーは、下記一般式(2)
RCF=CR・・・(2)
(式中、Rはそれぞれ独立して、H、F、Cl、炭素原子1~8個のアルキル、炭素原子6~8個のアリール、炭素原子3~10個の環状アルキル、炭素原子1~8個のパーフルオロアルキルから選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2つのRが同じで残る1つのRがこれらと異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。)で示される少なくとも1種のフッ素化エチレン性不飽和モノマー、好ましくは2種以上のモノマー、から誘導される共重合単位を含むフルオロポリマーが挙げられる。
【0113】
一般式(2)で表される化合物の有用な例としては、限定されないが、フルオロエチレン、VDF、トリフルオロエチレン、TFE、HFP等のパーフルオロオレフィン、CTFE、ジクロロジフルオロエチレン等のクロロフルオロオレフィン、PFBE、PFHE等の(パーフルオロアルキル)エチレン、パーフルオロ-1,3-ジオキソールおよびその混合物等が挙げられる。
【0114】
また、フルオロポリマーは、少なくとも1種類の上記一般式(2)で示されるモノマーと、
上記一般式(1)および/または下記一般式(3)
C=CR・・・(3)
(式中、Rは、それぞれ独立して、H、Cl、炭素原子1~8個のアルキル基、炭素原子6~8個のアリール基、炭素原子3~10個の環状アルキル基から選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2以上のRが同じでこれら2以上のRと残る他のRとが異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。前記他のRは、複数ある場合は互いに異なってよい。)で示される少なくとも1種の共重合性コモノマーとの共重合から誘導されるコポリマーも含み得る。
【0115】
一般式(1)で表される化合物の有用な例としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。このPAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0116】
一般式(3)で表される化合物の有用な例としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0117】
フルオロポリマーのより具体的な例としては、フルオロエチレンの重合から誘導されるポリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)の重合から誘導されるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)の重合から誘導されるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、2種以上の異なる上記一般式(2)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマー、少なくとも1種の上記一般式(2)のモノマーと、少なくとも1種の上記一般式(1)および/または少なくとも1種の上記一般式(3)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマーが挙げられる。
【0118】
かかるポリマーの例は、VDFおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)から誘導される共重合体単位を有するポリマー、TFEおよびTFE以外の少なくとも1種の共重合性コモノマー(少なくとも3重量%)から誘導されるポリマーである。後者の種類のフルオロポリマーとしては、TFE/PAVE共重合体(PFA)、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/エチレン共重合体(ETFE)、TFE/HFP/エチレン共重合体(EFEP)、TFE/VDF共重合体、TFE/VDF/HFP共重合体、TFE/VDF/CTFE共重合体等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0119】
なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分は、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
【0120】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、0.1重量%以上20重量%未満であることが好ましい。20重量%未満であることで、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が多孔膜中の結節部以外の部分にも分散して多孔膜の圧力損失が高くなることが抑制される。また、20重量%未満であることで、伸長面積倍率が40倍以上の高倍率での延伸を行いやすくなる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量が0.1重量%以上であることで、後工程において圧縮力等が与えられたとしても多孔膜のフィルタ性能の劣化を十分に抑えやすくなる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、15重量%以下であるのが好ましく、10重量%以下であるのがより好ましい。また、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、多孔膜の強度を確保する観点から、0.5重量%以上であるのが好ましい。中でも、5重量%程度であるのが特に好ましい。
【0121】
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の含有率は、伸長面積倍率40倍以上800倍以下での延伸を良好に行うために、10重量%以下であるのが好ましい。
【0122】
(2-4)フッ素樹脂多孔膜の製造方法
次に、エアフィルタ用濾材の製造方法について、例を挙げて説明する。
【0123】
フッ素樹脂多孔膜の作製においては、フッ素樹脂を用いることができるが、例えば、上述したA成分または上記説明した3種の成分を用いることが好ましい。
【0124】
上記説明したA~Cの3種の成分の形態は、特に限定されず、例えば、後述する組成物、混合粉末、成形用材料である。組成物、混合粉末、成形用材料はいずれも、上記した、A成分、B成分、C成分を含み、C成分を、例えば、全体の0.1重量%以上20重量%未満含有する。
【0125】
多孔膜の原料の形態は、後述する混合粉末であってもよく、粉末でない混合物であってもよく、また、後述する成形用材料あるいは組成物であってもよい。混合粉末としては、例えば、後述する実施例で用いられる共凝析によって得られるファインパウダーや、3種の原料のうち2種を共凝析で混合し、もう1種の成分を混合機を用いて混合した粉体、3種の原料を混合機で混合した粉体などが挙げられる。粉末でない混合物としては、例えば、多孔体(例えば多孔膜)等の成形体、3種の成分を含む水性分散体が挙げられる。
【0126】
成形用材料は、組成物を成形するために、加工のための調整を行ったものをいい、例えば、加工助剤(液体潤滑剤等)等を添加したもの、粒度を調整したもの、予備的な成形を行ったものである。成形用材料は、例えば、上記3種の成分に加え、公知の添加剤等を含んでもよい。公知の添加剤としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の炭素材料、顔料、光触媒、活性炭、抗菌剤、吸着剤、防臭剤等が挙げられる。
【0127】
組成物は、種々の方法により製造することができ、例えば、組成物が混合粉末である場合、A成分の粉末、B成分の粉末、およびC成分の粉末を一般的な混合機等で混合する方法、A成分、B成分、およびC成分をそれぞれ含む3つの水性分散液を共凝析することによって共凝析粉末を得る方法、A成分、B成分、C成分のいずれか2成分を含む水性分散液を予め共凝析することにより得られた混合粉末を残る1成分の粉末と一般的な混合機等で混合する方法、等により製造できる。なかでも、3種の異なる成分が均一に分散し易い点で、組成物は、A成分、B成分、およびC成分をそれぞれ含む3つの水性分散液を共凝析することにより得られるものであることが好ましい。
【0128】
共凝析によって得られる混合粉末のサイズは、特に限定されず、例えば、平均粒径が100μm以上1000μm以下であり、300μm以上800μm以下であることが好ましい。この場合、平均粒径は、JIS K6891に準拠して測定される。共凝析によって得られる混合粉末の見掛密度は、特に限定されず、例えば、0.40g/ml以上0.60g/ml以下であり、0.45g/ml以上0.55g/ml以下であることが好ましい。見掛密度は、JIS K6892に準拠して測定される。
【0129】
上記共凝析の方法としては、例えば、
(i)A成分の水性分散液、B成分の水性分散液、およびC成分の水性分散液を混合した後に凝析する方法、
(ii)A成分、B成分、C成分のうちいずれか1つの成分の水性分散液に、残る2成分の粉末を添加した後に凝析する方法、
(iii)A成分、B成分、C成分のうちいずれか1つの成分の粉末を、残る2成分の水性分散液を混合した混合水性分散液に添加した後に凝析する方法、
(iv)予めA成分、B成分、C成分のうちいずれか2つの成分の各水性分散液を混合した後に凝析させて得られた2成分の混合粉末を、残る1成分の水性分散液に添加した後に凝析する方法、
が挙げられる。
【0130】
上記共凝析の方法としては、3種の成分が均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0131】
上記(i)~(iv)の方法による共凝析では、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等の酸;塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の金属塩;アセトン、メタノール等の有機溶剤、のいずれかを添加して凝析させることが好ましい。
【0132】
上記A成分の混合前の形態は、特に限定されないが、上述の繊維化し得るPTFEの水性分散液であってもよいし、粉体であってもよい。粉末(特に、上述のFP:ファインパウダー)としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン6-J」(以下テフロンは登録商標)、「テフロン6C-J」、「テフロン62-J」等、ダイキン工業社製「ポリフロンF106」、「ポリフロンF104」、「ポリフロンF201」、「ポリフロンF302」等、旭硝子社製「フルオンCD123」、「フルオンCD1」、「フルオンCD141」、「フルオンCD145」等、デュポン社製「Teflon60」、「Teflon60 X」、「Teflon601A」、「Teflon601 X」、「Teflon613A」、「Teflon613A X」、「Teflon605XT X」、「Teflon669 X」等が挙げられる。ファインパウダーは、TFEの乳化重合から得られる繊維化し得るPTFEの水性分散液(重合上がりの水性分散液)を凝析、乾燥することで得てもよい。
【0133】
繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、上述の重合上がりの水性分散液であってもよいし、市販品の水性分散液であってもよい。重合上がりの繊維化し得るPTFE水性分散液の好ましい作製方法としては、ホモPTFEを開示するものとして列挙した上記公報等に開示されている作製方法が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、ダイキン工業社製「ポリフロンD-110」、「ポリフロンD-210」、「ポリフロンD-210C」、「ポリフロンD-310」等、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン31-JR」、「テフロン34-JR」等、旭硝子社製「フルオンAD911L」、「フルオンAD912L」、「AD938L」等の水性分散液が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液はいずれも、安定性を保つために、水性分散液中のPTFE 100重量部に対して、非イオン性界面活性剤等を2~10重量部添加しているため、共凝析によって得られる混合粉末に非イオン性界面活性剤が残留しやすく、多孔体が着色する等の問題を起こすおそれがある。このため、繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、重合上がりの水性分散液が好ましい。
【0134】
B成分の混合前の形態は、特に限定されないが、B成分が低分子量PTFEである場合、混合前の形態は特に限定されないが、水性分散体であってもよいし、粉体(一般的にPTFEマイクロパウダー、またはマイクロパウダーと呼ばれる)であってもよい。低分子量PTFEの粉体としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「MP1300-J」等、ダイキン工業社製「ルブロンL-5」、「ルブロンL-5F」等、旭硝子社製「フルオンL169J」、「フルオンL170J」、「フルオンL172J」等、喜多村社製「KTL-F」、「KTL-500F」等が挙げられる。
【0135】
低分子量PTFEの水性分散液としては、上述のTFEの乳化重合から得られた重合上がりの水性分散液であってもよいし、市販品の水性分散液であってもよい。また、マイクロパウダーを界面活性剤を使うなどして水中に分散したものも使用できる。重合上がりの繊維化し得るPTFE水性分散液の好ましい作製方法としては、特開平7-165828号公報、特開平10-147617号公報、特開2006-063140号公報、特開2009-1745号公報、国際公開第2009/020187号パンフレット等に開示されている作製方法が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、ダイキン工業社製「ルブロンLDW-410」等の水性分散液が挙げられる。市販品の低分子量PTFEの水性分散液は安定性を保つために、水性分散液中のPTFE 100重量部に対して、非イオン性界面活性剤等を2~10重量部添加しているため、共凝析によって得られる混合粉末に非イオン性界面活性剤が残留しやすく、多孔体が着色する等の問題を起こすおそれがある。このため、低分子量PTFEの水性分散液としては、重合上がりの水性分散液が好ましい。
【0136】
また、B成分として無機フィラーを用いる場合も混合前の形態は特に限定されないが、水性分散体が好ましい。無機フィラーとしては、日本タルク株式会社製「タルクP2」、富士タルク工業社製「LMR-100」等が挙げられる。これらは適宜シランカップリング剤などによる表面処理等を施し水中に粉体を分散して用いられる。中でも、水への分散性の理由から、ジェットミルによる2次粉砕品(「タルクP2」など)が好ましく用いられる。
【0137】
C成分としては、例えば、FEP,PFAなどのフッ素樹脂の他,アクリル,ウレタン,PET等の各樹脂が挙げられる。混合前の形態は特に限定されないが水性分散体が好ましい。水性分散体は、乳化重合によって得られる樹脂の場合は、その重合上がり分散体をそのまま使えるほか,樹脂粉を界面活性剤などを使い、水分中に分散した物も使用できる。C成分は、多孔膜において0.1重量%以上20重量%未満含有されるよう、所定量が水中に分散されて水性分散体が調製される。
【0138】
共凝析の方法は、特に限定されないが、3つの水性分散体を混合したのち機械的な撹拌力を作用させるのが好ましい。
【0139】
共凝析後は、脱水、乾燥を行なって、液体潤滑剤(押出助剤)を混合し、押出を行う。液体潤滑剤としては、PTFEの粉末の表面を濡らすことが可能であり、共凝析により得られた混合物をフィルム状に成形した後に除去可能な物質であるものであれば、特に限定されない。例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどの炭化水素油、アルコール類、ケトン類、エステル類などが挙げられる。
【0140】
共凝析により得られた混合物は、液体潤滑剤と混合された後、従来公知の方法で押出、圧延されることにより、フィルム状物に成形される。ここで、フッ素樹脂(例えば、共凝析により得られた混合物)に対して混合される液体潤滑剤の量は、フッ素樹脂100重量部に対して10重量部以上40重量部以下にすることができ、25重量部以上35重量部以下であることが好ましい。液体潤滑剤の量を多くすることにより、得られるフッ素樹脂多孔膜について充填率を小さく抑えつつ厚みを大きく確保し、圧力損失を小さく抑えやすい。また、液体潤滑剤の量を少なくすることにより、得られるフッ素樹脂多孔膜の捕集効率を高めやすく、圧力損失の変動係数も小さく抑えやすい。
【0141】
押出は、ペースト押出、ラム押出等により行えるが、好ましくはペースト押出により行われる。ペースト押出により押し出されたシート状の押出物は、加熱下、例えば40℃以上80℃以下の温度条件の下、カレンダーロール等を用いて圧延される。得られるフィルム状の圧延物の厚さは、目的の多孔膜の厚さに基づいて設定され、通常100μm以上1000μm以下であり、100μm以上400μm以下であってよく、150μm以上350μm以下であることが好ましい。
【0142】
次いで、圧延物である未焼成フィルムから液体潤滑剤が除去される。液体潤滑剤の除去は、加熱法又は抽出法により、或いはこれらの組み合わせにより行われる。加熱法による場合の加熱温度は、A~Cの3種の成分を用いる場合には繊維化しない熱溶融加工性成分の融点より低ければ特に限定されず、例えば、100℃以上250℃以下であり、180℃以上200℃以下であってもよい。
【0143】
ここで、液体潤滑剤が除去された圧延物は、得られるフッ素樹脂多孔膜の厚みを十分に確保し、圧力損失を低減させる観点から、延伸を行う前に、250℃以上325℃以下の温度雰囲気下で1分以上加熱するという熱処理を行うことが好ましい。当該熱処理の温度は、例えば、320℃以下であってもよく、フッ素樹脂多孔膜の作製に用いられるフッ素樹脂の融点未満であることが好ましく、上記圧延物を示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分の条件で昇温させた場合に結晶融解曲線上に複数の吸熱カーブ(一次融点、二次融点)が現れる場合にはより低い最大ピーク温度(一次融点)以下であってもよい。また、当該熱処理の温度は、厚みを十分に確保しつつ圧力損失を十分に小さくする観点から、例えば、260℃以上であってもよく、280℃以上であってもよく、圧延物である未焼成フィルムから加熱法により液体潤滑剤を除去する場合の温度以上であってもよく、延伸温度(二軸延伸の場合には先に行われる一次延伸の温度)以上であってもよい。なお、熱処理の継続時間は、特に限定されないが、所望する熱処理の効果に応じて、例えば、1分以上2時間以下としてもよく、30分以上1時間以下としてもよい。
【0144】
なお、厚み方向において充填率が異なるフッ素樹脂多孔膜を得るためには、特に限定されないが、上記熱処理の際に、充填率を低くする方の温度が充填率を高くする方の温度よりも高くなるように熱処理することが好ましく、風上側の部分の方が風下側の部分の方よりも熱処理時の温度が高くなるように熱処理することが好ましい。なお、風下側の部分については、常温よりも低い温度まで冷却させる冷却処理を行うようにしてもよい。なお、熱処理時の温度に関して、風上側の部分と風下側の部分の温度差は、十分な密度差を生じさせる観点から、100℃以上であってよく、200℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。また、上記熱処理の際に、充填率を低くする方の加熱時間を長くし、充填率を高くする方の加熱時間を短くするように熱処理することが好ましい。これにより、得られる圧延物を延伸することで、風上側の方の充填率を低くし、風下側の方の充填率を高くすることが可能になる。
【0145】
以上のようにして液体潤滑剤が除去された圧延物またはさらに熱処理された圧延物は、延伸される。なお、繊維化しない熱溶融加工性成分と繊維化しない非熱溶融加工性成分が含まれている場合には、繊維化しない熱溶融加工性成分の融点以上かつ繊維化しない非熱溶融加工性成分の分解温度以下の温度下で延伸される。
【0146】
なお、フッ素樹脂多孔膜の作製において繊維化しない熱溶融加工性成分を用いている場合には、この延伸過程で、繊維化しない熱溶融加工性成分が溶融し、後に結節部において固まることで、多孔膜の厚み方向の強度を強化することができる。この時の延伸温度は、延伸を行う炉の温度、又は圧延物を搬送する加熱ローラの温度によって設定されてもよく、或いは、これらの設定を組み合わせることで実現されてもよい。
【0147】
延伸は、第1の方向への延伸と、好ましくは第1の方向と直交する第2の方向への延伸とを含む。ここで、第1の方向への延伸の後に第2の方向への延伸を行ってもよい。また、第1の方向への延伸と第2の方向への延伸とが同時に実現されてもよい。さらに、第1延伸速度で第1の方向への延伸を行った後に、第2延伸速度でさらに第1の方向への延伸を行い、その後に、第2の方向への延伸を行ってもよい。本実施形態では、第1の方向は、圧延物の長手方向(縦方向:MD方向)であり、第2の方向は、圧延物の幅方向(横方向:TD方向)である。なお、延伸は、複数枚の圧延物を重ねた状態として、同時に延伸するようにしてもよい。
【0148】
前記圧延物は、延伸させる伸長面積倍率が、40倍以上800倍以下であることが好ましい。延伸倍率を十分に高くすることにより、フッ素樹脂多孔膜がより多くの繊維を有することが可能になり、捕集効率を向上させやすく、延伸の均一性を高めて圧力損失の変動係数を小さく抑えることが可能になる点で好ましい。また、延伸倍率を十分に低くすることにより、フッ素樹脂多孔膜の厚みが小さくなりすぎることを抑制し、保塵量が小さくなることを抑制することが可能になる点で好ましい。
【0149】
延伸の際には、得られるフッ素樹脂多孔膜の厚みを大きくして保塵量を向上させ、圧力損失を低減させつつ、圧力損失の変動係数を小さく抑えやすい観点から、延伸方向への延伸速度が30%/秒以下で延伸された部分が生じるように延伸することが好ましく、延伸速度が20%/秒以下で延伸された部分が生じるように延伸することがより好ましい。二軸延伸の場合には縦方向と横方向のいずれかで30%/秒以下の延伸速度が実現されていればよいが、十分な厚みを確保しつつ圧力損失を低減させる観点から、先に行われる縦方向の延伸の際に30%/秒以下の延伸速度が実現されていることが好ましい。異なる延伸速度により2段階に縦方向の延伸を行う場合には、そのいずれかで延伸方向における延伸速度が30%/秒以下の延伸が行われることが好ましい。また、テーブルテスト装置等を用いて平面的に縦方向と横方向とを同時に延伸させる場合においては、縦方向か横方向のいずれかの延伸方向において30%/秒以下の延伸速度が実現されていることが好ましい。なお、延伸速度は、縦方向と横方向に限らず、例えば、延伸方向における延伸速度が1%/秒以上とすることができる。
【0150】
なお、延伸速度とは、延伸倍率(%)を、その延伸に要した時間(秒)で除して得られる値であり、延伸倍率(%)とは、延伸前の長さに対する延伸後の長さの比(延伸後の長さ/延伸前の長さ)である。なお、このように延伸速度を遅くさせる場合には、さらに得られる多孔膜の圧力損失を低減させることができる点で好ましい。
【0151】
なお、得られるフッ素樹脂多孔膜の厚みを大きくし、圧力損失をより低減させる観点から、延伸を行う前に、圧延物を上記熱処理しつつ、さらに、上述のように低速で延伸を行うことが好ましい。
【0152】
二軸延伸の場合において、第1の方向への延伸時の温度は、好ましくは200℃以上300℃以下、より好ましくは230℃以上270℃以下である。また、第2の方向への延伸時の温度は、好ましくは200℃以上300℃以下、より好ましくは250℃以上290℃以下である。
【0153】
なお、前記圧延物(フッ素樹脂未焼成物ともいう)の延伸に関して、延伸時の温度、延伸倍率、延伸速度が延伸物の物性に影響を与えることが知られている。フッ素樹脂未焼成物のS-Sカーブ(引張張力と伸びの関係を示すグラフ)は、他の樹脂とは異なる特異な特性を示す。通常、樹脂材料は伸びに伴って引張張力も上昇する。弾性領域の範囲、破断点などは、材料、評価条件によって異なる一方で、引張張力は、伸び量に伴って上昇傾向を示すのが極めて一般的である。これに対してフッ素樹脂未焼成物は、引張張力は、ある伸び量においてピークを示した後、緩やかな減少傾向を示す。このことは、フッ素樹脂未焼成物には、「延伸された部位よりも延伸されていない部位の方が強くなる領域」が存在することを示している。
【0154】
このことを延伸時の挙動に置き換えると、一般的な樹脂の場合、延伸時は、延伸面内で最も弱い部分が伸び始めるが、延伸された部分の方が延伸されていない部分より強くなるため、次に弱い未延伸部が延伸されていくことで、延伸された領域が広がって、全体的に延伸される。一方、フッ素樹脂未焼成物の場合、伸び始める部分が、上記「延伸された部位よりも延伸されていない部位の方が強くなる領域」に差し掛かると、既に伸びた部分が更に延伸され、この結果、延伸されなかった部分がノード(結節部、未延伸部)として残る。延伸速度が遅くなると、この現象は顕著になり、より大きいノード(結節部、未延伸部)が残る。このような現象を延伸時に利用することにより、種々の用途に応じて延伸体の物性調整が行われている。
【0155】
本実施形態のフッ素樹脂多孔膜については、より低密度の延伸体を得ることが好ましく、二軸延伸の場合には、低延伸速度を特に第1の延伸に適用することが有効である。ここで、大きいノード(結節部、未延伸部)を残し、従来のPTFEのみを原料とした場合と比べて、繊維化しない非熱溶融加工性成分が用いられている場合には、低延伸速度による上記現象がより顕著になり、厚みの大きな成形体を得ようとする場合であっても、PTFEのみを原料とする場合よりも延伸速度を高めることが可能になる。
【0156】
こうして得られた多孔膜は、機械的強度、寸法安定性を得るために、好ましくは熱固定される。熱固定の際の温度は、PTFEの融点以上又はPTFEの融点未満であってよく、好ましくは250℃以上400℃以下である。
【0157】
フッ素樹脂多孔膜は、単層であってもよいし、第1フッ素樹脂多孔膜と第2フッ素樹脂多孔膜とを積層させた複層であってもよい。作製時に用いられる液体潤滑剤の量は、それぞれ、フッ素樹脂100重量部に対して25重量部以上35重量部以下であることが好ましい。25重量部以上用いることで、圧力損失を低くでき、濾材全体としての圧力損失を80Pa以下に調整しやすい。また、35重量部以下用いることで、未焼成フィルム(生テープ)の成形性を確保でき、第1フッ素樹脂多孔膜の孔径が大きくなりすぎて微粒子が捕集されずに通過して下流側に流れ、下流側の第2フッ素樹脂多孔膜の負担が大きくなりすぎることを抑制できる。
【0158】
特に、第1フッ素樹脂多孔膜の作製時に用いられる液体潤滑剤量は、フッ素樹脂100重量部に対し、例えば30重量部以上35重量部以下であることが好ましい。例えば、液体潤滑剤量差1~4重量部を満たす範囲で、第2フッ素樹脂多孔膜を作製するのに26重量部以上31重量部以下用いるのに対し、第1フッ素樹脂多孔膜を作製するのに30重量部以上35重量部以下用いることで、濾材の保塵量を大幅に高めることができる。
【0159】
なお、第1フッ素樹脂多孔膜と第2フッ素樹脂多孔膜との平均孔径の差を生じさせることは、上記3種の成分の配合比を、2枚の多孔膜の間で異ならせることで達成させてもよい。
【0160】
(3)通気性支持材
通気性支持材は、フッ素樹脂多孔膜の上流側もしくは下流側または上流側と下流側の両方に配置されており、フッ素樹脂多孔膜を支持する。このためフッ素樹脂多孔膜の膜厚が薄い等で自立が困難であっても、通気性支持材の支持によりフッ素樹脂多孔膜を立たせることが可能になる。また、エアフィルタ濾材としての強度が確保され、特定の形状に折り込んだ場合であっても当該形状が保たれやすい。
【0161】
通気性支持材の材質及び構造は、特に限定されないが、例えば、不織布、織布、樹脂ネットなどが挙げられる。なかでも、強度、捕集性、柔軟性、作業性の点からは熱融着性を有する不織布が好ましい。不織布の材質としては、薬液を用いた除菌処理を行う場合において、薬剤の浸透性が良好であり、通気性支持材が溶けずに形状変化や劣化が抑制されるという観点から、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、またはこれらの複合材などを主成分として用いることが好ましい。
【0162】
不織布は、構成繊維の一部または全てが芯/鞘構造を有する不織布、低融点材料からなる繊維の層と高融点材料からなる繊維の層の2層からなる2層不織布、表面に熱融着性樹脂が塗布された不織布が好ましい。このような不織布としては、例えば、スパンボンド不織布が挙げられる。また、芯/鞘構造の不織布は、芯成分が鞘成分よりも融点が高いものが好ましい。例えば、芯/鞘の各材料の組み合わせとしては、例えば、PET/PE、高融点ポリエステル/低融点ポリエステルが挙げられる。2層不織布の低融点材料/高融点材料の組み合わせとしては、例えば、PE/PET、PP/PET、低融点PET/高融点PETが挙げられる。表面に熱融着性樹脂が塗布された不織布としては、例えばPET不織布にオレフィン樹脂が塗布されたものが挙げられる。
【0163】
通気性支持材は、加熱により通気性支持材の一部が溶融することで、或いはホットメルト樹脂の溶融により、アンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等の接着を利用して、フッ素樹脂多孔膜に接合することができる。
【0164】
通気性支持材は、上述したフッ素樹脂多孔膜と比較すると、圧力損失、捕集効率および保塵量のいずれも極めて低く、実質的に0とみなすこともできるものであってもよい。通気性支持材の圧力損失は、例えば、10Pa以下であることが好ましく、5Pa以下であることがより好ましく、1Pa以下であることがさらに好ましい。また、通気性支持材の捕集効率は、例えば、実質的に0あるいは略0とみなすことができるものであってもよい。
【0165】
通気性支持材の厚みは、例えば、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。なお、フッ素樹脂多孔膜を折り込んでプリーツ状にして用いる際については、プリーツ形状を維持させやすくする観点から、通気性支持材の厚みは、200μm以上であることが好ましい。
【0166】
(4)プリーツ状濾材
本実施形態のプリーツ状濾材は、上述のエアフィルタ濾材を用いて、濾材面が互いに対向するように山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工(プリーツ加工)することによりプリーツ部分を形成し、山折り部が風上面を構成して谷折り部が風下面を構成する全体が略直方体形状となったものか、または、複数の山折り部が風上側で同心円となるように設けられており複数の谷折り部が風下側で同心円となるように設けられた同心円型のプリーツ形状となったもの等が挙げられる。
【0167】
プリーツ状濾材としては、例えば、人間の鼻または口を覆うマスク用に用いられるプリーツ状マスク用濾材であってもよい。
【0168】
本実施形態のプリーツ状濾材の例を、図4に外観斜視図を示す。また、図5に、台座に取り付けられた状態のマスク用途のプリーツ状濾材の正面図を示し、図6に台座に取り付けられた状態のマスク用途のプリーツ状濾材の側面視断面図を示す。
【0169】
プリーツ状濾材は、図4-6に示すように、濾過機能を有しない樹脂等で構成された台座2の開口2aに対して取り付けて用いられるプリーツ状濾材20であってよい。より好ましくは、プリーツ状濾材20は、濾材交換式の取り付け開口2aを備えた台座2に取り付けて用いられる。なお、台座2からは、耳にかけて装着するための紐3が設けられていてよい。
【0170】
プリーツ状濾材の隣り合う山折り部と谷折り部との距離である折高さは、10mm以上40mm以下とすることが好ましい。折高さを10mm以上とすることで、エアフィルタ濾材の山折り部や谷折り部を形成する際の折り曲げ加工を容易にすることができる。また、折高さを40mm以下にすることで、プリーツ状濾材のプリーツ形状の構造に起因する圧力損失の増大を抑制することが可能になる。
【0171】
プリーツ状濾材の隣り合う山折り部と山折り部との距離または谷折り部と谷折り部との距離であるプリーツ間隔は、2.0mm以上4.5mm以下とすることが好ましい。プリーツ間隔が2.0mm以上であることで、プリーツ形状の構造に起因する圧力損失の増大を抑制できる。また、プリーツ間隔が4.5mm以下であることで、プリーツ状濾材に用いることができるエアフィルタ濾材の総面積を十分に広く確保することができる。
【0172】
なお、プリーツ状濾材において互いに対向する濾材面同士の間隔は、例えば、間隔保持部材としてのホットメルト樹脂等のセパレータを用いて確保されていてもよいし、濾材面にエンボス加工を施すことで形成される突起を用いて確保されていてもよい。また、プリーツ状濾材としては、セパレータやエンボス加工を施すことなく単に折り込まれたものであってもよい。この場合であっても、気流は風上側の山折り部同士の間を通過することができる。
【0173】
なお、台座に形成された開口に取り付けられるプリーツ状濾材の風上面の面積としては、例えば、22cm以上、61cm以下とすることができる。なお、当該風上面を矩形とする場合には、例えば、対角線の長さを4.5cm以上11cm以下としてもよい。
【0174】
プリーツ状濾材の総面積は、捕集対象をある程度保持した後であっても圧力損失を低く維持しやすく、捕集効率も良好な状態を維持しやすい観点から、200cm以上とすることが好ましく、300cm以上とすることがより好ましい。また、プリーツ状濾材の総面積は、プリーツ状濾材の風上面の面積と折高さが使いやすい大きさであることと有効なプリーツ間隔を実現する観点から1300cm以下とすることが好ましい。
【0175】
プリーツ状濾材は、個数中位径0.25μmのポリアルファオレフィン粒子を含む空気を流速85L/分で連続通風することでポリアルファオレフィン粒子が200mg負荷された状態としたものについて、空気を流速40L/分で通風した時の圧力損失が120Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましく、80Pa以下であることがさらに好ましい。これにより、使用を継続した場合であっても、使用時に息苦しさを感じにくいものとすることができる。
【0176】
(5)エアフィルタユニット
次に、図7を参照して、エアフィルタユニット1について説明する。
【0177】
エアフィルタユニット1は、上記説明したプリーツ状濾材20と、プリーツ状濾材20を収容する枠体25と、を備えている。
【0178】
枠体25は、例えば、樹脂や金属等の板材を組み合わせて作られ、プリーツ状濾材20と枠体25の間は好ましくはシール剤によりシールされる。シール剤は、プリーツ状濾材20と枠体25の間のリークを防ぐためのものであり、例えば、エポキシ、アクリル、ウレタン系などの樹脂製のものが用いられる。
【0179】
プリーツ状濾材20と枠体25とを備えるエアフィルタユニット1は、平板状に延在する1つのプリーツ状濾材20を枠体25の内側に収納するように保持させたミニプリーツ型のエアフィルタユニットであってもよく、平板状に延在するプリーツ状濾材を複数並べて枠体に保持させたVバンク型エアフィルタユニットあるいはシングルヘッダー型エアフィルタユニットであってもよい。
【0180】
(6)エアフィルタ濾材の用途
本実施形態のエアフィルタ濾材は、捕集された細菌やウイルスの数を低減または除去する除菌処理を行った場合であっても、性能が劣化し難いことから、除菌処理により再利用される用途のエアフィルタ濾材として用いることができる。
【0181】
より具体的には、アルコールに曝す除菌処理により再利用されるエアフィルタ濾材か、界面活性剤に曝す除菌処理により再利用されるエアフィルタ濾材か、塩素系漂白剤に曝す除菌処理により再利用されるエアフィルタ濾材か、次亜塩素酸水に曝す除菌処理により再利用されるエアフィルタ濾材か、過酸化水素水に曝す除菌処理により再利用されるエアフィルタ濾材か、75℃以上150℃以下の温度環境に曝す除菌処理により再利用されるエアフィルタ濾材か、紫外線を照射する除菌処理により再利用されるエアフィルタ濾材か、オゾンに曝す除菌処理により再利用されるエアフィルタ濾材か、の少なくともいずれかとすることができる。
【0182】
また、エアフィルタ濾材は、圧力損失が低いため、使用時の息苦しさを抑制することができる観点から、マスク用に用いられることが好ましい。
【0183】
マスクとしては、人間の口、鼻を介した、埃、油煙、菌、ウイルス等の体内への侵入を抑制するものであることが好ましい。
【0184】
マスクの種類としては、汎用マスクであってもよいし、防じん用のマスクであってもよいし、医療用のマスクであってもよい。また、マスクの形態としては、平型、プリーツ型、立体型のいずれであってもよい。プリーツ型のマスクについては、折りたたまれたプリーツ部分を広げた状態で用いられるものであってよい。立体型のマスクとしては、前側にいくほど先細りした形状のくちばし型であってもよい。
【0185】
(7)エアフィルタ濾材の再生方法
本実施形態のエアフィルタ濾材の再生方法では、フッ素樹脂多孔膜と、支持材と、が積層されたエアフィルタ濾材を用意する工程と、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する工程と、を備える。
【0186】
この再生方法では、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材について粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて把握される透過率の比率である透過率比(除菌処理後の透過率/除菌処理前の透過率)が、5.0以下である。
【0187】
この再生方法では、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理する前のエアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失に対する、フッ素樹脂多孔膜を除菌処理した後のエアフィルタ濾材に空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失の比率である圧力損失比(除菌処理後の圧力損失/除菌処理前の圧力損失)が、0.83以上1.15以下である。
【0188】
この再生方法によれば、付着していたウイルスや細菌を低減または除去するための除菌処理を施した場合であっても、性能の低下を小さく抑えて再利用することが可能である。
【0189】
(8)除菌処理
エアフィルタ濾材の除菌処理は、エアフィルタ濾材に付着した細菌とウイルスの少なくともいずれかの数を減らすかこれらを除去することが可能な処理であれば特に限定されない。このような除菌処理としては、例えば、アルコール、界面活性剤、塩素系漂白剤、次亜塩素酸水、過酸化水素水、高温環境、紫外線、オゾンの少なくともいずれかをエアフィルタ濾材に作用させる処理が挙げられる。
【0190】
なお、エアフィルタ濾材のうち細菌やウイルスを主として保持するのはフッ素樹脂多孔膜であることから、除菌処理は、エアフィルタ濾材の全体ではなく、フッ素樹脂多孔膜に対して行うようにしてもよい。
【0191】
これらの除菌処理のうち、アルコール、界面活性剤、塩素系漂白剤、次亜塩素酸水、過酸化水素水のように流体を用いてエアフィルタ濾材を処理する場合には、内部まで除菌の効果を得るために、エアフィルタ濾材の内部に流体が入り込むことが望ましい。この場合、エアフィルタ濾材が良好な液体浸透性を備えていることが好ましい。例えば、エアフィルタ濾材としては、イソプロピルアルコールと水の体積比率が60:40である混合液の液滴を静置し30秒放置した場合に、混合液がエアフィルタ濾材に浸透するものであることが好ましい。細菌やウイルスがフッ素樹脂多孔膜において主として保持されることを考慮すると、フッ素樹脂多孔膜が上記浸透性を備えるものであることが好ましい。なお、従来の濾材であるガラス繊維により構成されるガラス濾材は、液体に濡れると機械的強度が顕著に落ちてしまうが、フッ素樹脂多孔膜と支持材により構成されるフッ素樹脂濾材では除菌処理時に液体に濡れることがあっても機械的強度を維持しやすい。また、従来の濾材であるエレクトレット濾材は、液体を用いた除菌処理が行われると静電気が消滅し、捕集効率が大きく低下するが、フッ素樹脂多孔膜と支持材により構成されるフッ素樹脂濾材では除菌処理時に液体に濡れることがあっても性能の低下が抑えられる。
【0192】
なお、エアフィルタ濾材では、耐薬品性が高いフッ素樹脂で構成されたフッ素樹脂多孔膜が用いられている。このため、これらの除菌処理が施されたとしても、性能の低下を小さく抑えることが可能である。特に、フッ素樹脂多孔膜を含むエアフィルタ濾材については、従来のエレクトレットメルトブローンで作成された膜を含むエアフィルタ濾材と比較して、除菌処理のなかでもアルコールと界面活性剤を用いた除菌処理については、処理後の性能維持特性に優れる。
【0193】
(8-1)アルコール
アルコールを用いた除菌処理としては、アルコールにエアフィルタ濾材を含浸させるか、アルコールをエアフィルタ濾材に対して噴霧することが挙げられる。アルコールの種類は、例えば、エタノールが挙げられる。アルコールの濃度としては、例えば、60重量%以上99重量%以下であってよく、70重量%以上95重量%以下であることが好ましい。なお、アルコールを用いた除菌処理は、エアフィルタ濾材の表面および内部が十分に濡れた状態が例えば20秒以上継続されるように処理してもよい。
【0194】
(8-2)界面活性剤
界面活性剤を用いた除菌処理としては、界面活性剤が配合された液体にエアフィルタ濾材を含浸させるか、界面活性剤が配合された液体をエアフィルタ濾材に対して噴霧することが挙げられる。界面活性剤の種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1重量%以上)、アルキルグリコシド(0.1重量%以上)、アルキルアミンオキシド(0.05重量%以上)、塩化ベンザルコニウム(0.05重量%以上)、塩化ベンゼトニウム(0.05重量%以上)、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01重量%以上)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2重量%以上)、純石けん分(脂肪酸カリウム)(0.24重量%以上)、純石けん分(脂肪酸ナトリウム)(0.22重量%以上)等のいずれかまたはこれらの組合せが挙げられる。ここで、括弧内の数値は、好ましい配合量の下限を示す。なお、界面活性剤を用いた除菌処理は、エアフィルタ濾材の表面および内部が十分に濡れた状態が例えば20秒以上継続されるように処理してもよく、処理は1分以内であってもよい。
【0195】
(8-3)塩素系漂白剤
塩素系漂白剤を用いた除菌処理としては、例えば、塩素系漂白剤が配合された液体にエアフィルタ濾材を含浸させるか、塩素系漂白剤が配合された液体をエアフィルタ濾材に対して噴霧することが挙げられる。塩素系漂白剤の種類としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。塩素系漂白剤の濃度は、例えば、0.01重量%以上7.0重量%以下であってよく、0.05重量%以上6.0重量%以下であることがより好ましい。なお、塩素系漂白剤を用いた除菌処理は、エアフィルタ濾材の表面および内部が十分に濡れた状態が例えば20秒以上継続されるように処理してもよく、処理は1時間以内であってもよい。
【0196】
(8-4)次亜塩素酸水
次亜塩素酸水を用いた除菌処理としては、例えば、次亜塩素酸が配合された液体にエアフィルタ濾材を含浸させるか、次亜塩素酸が配合された液体をエアフィルタ濾材に対して噴霧することが挙げられる。次亜塩素酸の濃度は、例えば、有効塩素重量濃度として、30ppm以上であってよく、35ppm以上であることが好ましく、50ppm以上であることがより好ましく、200ppm以上であってもよい。なお、次亜塩素酸の濃度の上限は、例えば、有効塩素重量濃度として、200ppmであってよい。なお、次亜塩素酸水を用いた除菌処理は、エアフィルタ濾材の表面および内部が十分に濡れた状態が例えば20秒以上継続されるように処理してもよく、処理は1時間以内であってもよい。
【0197】
(8-5)過酸化水素水
過酸化水素水を用いた除菌処理としては、例えば、過酸化水素水が配合された液体にエアフィルタ濾材を含浸させることが挙げられる。過酸化水素水の濃度は、例えば、2.5w/v%以上3.5w/v%以下であってよい。このような過酸化水素水は、創傷・潰瘍部位などの消毒に使用され、オキシドールとして公知である。なお、w/v%は、weight/volume%であり、溶液100ml中の過酸化水素のg数を示す。なお、過酸化水素水を用いた除菌処理は、エアフィルタ濾材の表面および内部が十分に濡れた状態が例えば1分以上継続されるように処理してもよく、10分以上継続されるように処理されることが好ましく、30分以上継続されるように処理されることがより好ましく、処理は5時間以内であってもよく、3時間以内であることがより好ましい。
【0198】
(8-6)高温環境
高温環境を用いた除菌処理としては、高温の流体にエアフィルタ濾材を含浸させるか、高温の流体をエアフィルタ濾材に対して噴霧することが挙げられる。流体としては、例えば、空気、水、水蒸気が挙げられる。
【0199】
高温の流体の温度としては、例えば、75℃以上150℃以下であってよい。なお、高温の流体の温度は、例えば、80℃以上であることが好ましい。また、高温の流体の温度は、135℃以下であることが好ましく、125℃以下であることがより好ましく、例えば121℃であってもよい。なお、高温環境を用いた除菌処理は、エアフィルタ濾材の表面および内部の温度が十分に高まるように、例えば、1分以上継続されるように処理してもよく、10分以上継続されるように処理されることが好ましく、60分以上継続されるように処理されることがより好ましい。なお、高温環境を用いた除菌処理は、例えば、2時間以内であってもよい。
【0200】
なお、上記の高温環境を用いた除菌処理としては、例えば、オートクレーブ処理と、高温空気加熱処理と、アルミ袋内に密封させたエアフィルタ濾材を対象としてオートクレーブ処理と、が挙げられる。オートクレーブ処理は、高温高圧の蒸気を用いた除菌処理である。オートクレーブ処理における蒸気の圧力は、例えば、1.5気圧以上であってよく、2.0気圧以上であることが好ましい。また、高温空気加熱処理は、エアフィルタ濾材を高温の乾燥空気環境下に曝す除菌処理である。また、アルミ袋内に密封させたエアフィルタ濾材を対象としてオートクレーブ処理では、エアフィルタ濾材に蒸気を直接触れさせることなく、エアフィルタ濾材の除菌を行うことができる。
【0201】
(8-7)紫外線
紫外線を用いた除菌処理としては、紫外線領域の波長を有する光をエアフィルタ濾材に照射することにより行われる。照射時間は、例えば、1分以上1時間以下であってもよいし、5分以上30分以下であってもよい。
【0202】
(8-8)オゾン
オゾンを用いた除菌処理としては、エアフィルタ濾材をオゾンに曝すことが挙げられる。オゾンの濃度としては、例えば、1ppm以上100ppm以下であってよく、5ppm以上50ppm以下であることが好ましく、10ppmであってもよい。曝す時間としては、例えば、10分以上100時間以内であってよく、1時間以上70時間以下であることが好ましく、2時間であってもよい。
【実施例
【0203】
以下、実施例および比較例を示して、本開示の内容を具体的に説明する。
【0204】
(実施例1)
実施例1のエアフィルタ濾材に用いられるフッ素樹脂多孔膜のFP原料としては、3種の成分(繊維化し得るPTFE(A成分)、繊維化しない非熱溶融加工性成分(B成分)、および融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(C成分))から構成される混合粉末を用いた。
【0205】
より具体的には、まず、国際公開第2005/061567号パンフレットの比較例3に記載の方法に準拠して作製されたSSGが2.160のPTFE水性分散体(A成分)66.5重量%(ポリマー換算)、国際公開第2009/020187号パンフレット記載の方法に準拠して作製された380℃におけるフローテスター法を用いて測定される溶融粘度が20000Pa・sの低分子量PTFE水性分散体(B成分)28.5重量%(ポリマー換算)、及び特開2010-235667号公報に記載の方法に準拠して作製された融点が215℃のFEP水性分散体(C成分)5重量%(ポリマー換算)を混合し、凝析剤として1%硝酸アルミニウム水溶液500mlを添加し、攪拌することにより共凝析を行った。そして、生成した粉をふるいを用いて水切りをした後、さらに、熱風乾燥炉により135℃で18時間乾燥し、上記3成分の混合粉末を得た。
【0206】
次いで、混合物100重量部当たり押出液状潤滑剤として炭化水素油(出光興産株式会社製「IPソルベント2028」)を20℃において27.0重量部(混合粉末100重量部に対して27.0重量部)を加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出してシート状の成形体を得た。このシート状の成型体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形しPTFEフィルムを得た。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ200μm、平均幅150mmの帯状の未焼成PTFEフィルム(生テープ)を得た。次に、未焼成PTFEフィルムを、所定温度環境下(250℃)、長手方向(MD方向)に所定の延伸倍率(7.5倍)、所定の延伸速度(13.8%/秒)で延伸した。次に、延伸した未焼成フィルムをクリップできるテンターを用いて、所定温度環境下(288℃)、幅方向(TD方向)に所定の延伸倍率(45倍)、所定の延伸速度(330%/秒)で延伸し、390℃の温度で熱固定を行った。これによりフッ素樹脂多孔膜を得た。
【0207】
その上流側と下流側の両方に通気性支持材を熱融着させることにより、フラットな形状である実施例1のエアフィルタ濾材を得た。なお、通気性支持材は、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径24μm、目付30g/m2、厚さ0.2mm)を用いた(なお、捕集効率は、実質的に0あるいは略0とみなすことができるものであった)。
【0208】
以上のようにして得られた実施例1のエアフィルタ濾材における圧力損失の変動係数は、4.1であった。また、実施例1のエアフィルタ濾材におけるポリアルファオレフィン粒子の保塵量は、17g/mであった。
【0209】
なお、実施例1のエアフィルタ濾材は、実施例1の同一の濾材ロールから各サンプルを切り出して、それぞれのサンプルについて後述の除菌処理を行った。ただし、圧力損失の変動係数とポリアルファオレフィン粒子の保塵量については、当該実施例1の同一の濾材ロールを対象として測定した値を、各サンプルに共通の値として示している。
【0210】
(実施例2)
実施例2のエアフィルタ濾材に用いられるフッ素樹脂多孔膜のFP原料としては、3種の成分(繊維化し得るPTFE(A成分)、繊維化しない非熱溶融加工性成分(B成分)、および融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(C成分))から構成される混合粉末を用いた。
【0211】
より具体的には、まず、国際公開第2005/061567号パンフレットの比較例3に記載の方法に準拠して作製されたSSGが2.160のPTFE水性分散体(A成分)66.5重量%(ポリマー換算)、国際公開第2009/020187号パンフレット記載の方法に準拠して作製された380℃におけるフローテスター法を用いて測定される溶融粘度が20000Pa・sの低分子量PTFE水性分散体(B成分)28.5重量%(ポリマー換算)、及び特開2010-235667号公報に記載の方法に準拠して作製された融点が215℃のFEP水性分散体(C成分)5重量%(ポリマー換算)を混合し、凝析剤として1%硝酸アルミニウム水溶液500mlを添加し、攪拌することにより共凝析を行った。そして、生成した粉をふるいを用いて水切りをした後、さらに、熱風乾燥炉により135℃で18時間乾燥し、上記3成分の混合粉末を得た。
【0212】
次いで、混合物100重量部当たり押出液状潤滑剤として炭化水素油(出光興産株式会社製「IPソルベント2028」)を20℃において29.0重量部(混合粉末100重量部に対して29.0重量部)を加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出してシート状の成形体を得た。このシート状の成型体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形しPTFEフィルムを得た。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ300μm、平均幅150mmの帯状の未焼成PTFEフィルム(第1の生テープ)を得た。
【0213】
また、液状潤滑剤の混合量を33.0重量部とした点を除き、第1の生テープと同様にして、平均厚さ300μm、平均幅150mmの帯状の未焼成PTFEフィルム(第2の生テープ)を得た。
次に、第1の生テープと第2の生テープを重ねて所定温度環境下(250℃)、長手方向(MD方向)に所定の延伸倍率(6.7倍)、所定の延伸速度(13.8%/秒)で延伸した。次に、延伸した未焼成フィルムをクリップできるテンターを用いて、所定温度環境下(288℃)、幅方向(TD方向)に所定の延伸倍率(11.5倍)、所定の延伸速度(280%/秒)で延伸し、390℃の温度で熱固定を行った。これによりフッ素樹脂多孔膜を得た。
【0214】
このフッ素樹脂多孔膜の上流側と下流側の両方に通気性支持材を熱融着させることにより、フラットな形状である実施例2のエアフィルタ濾材を得た。なお、通気性支持材は、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径24μm、目付40g/m、厚さ0.2mm)を用いた(なお、捕集効率は、実質的に0あるいは略0とみなすことができるものであった)。
【0215】
以上のようにして得られた実施例2のエアフィルタ濾材における圧力損失の変動係数は、4.8であった。また、実施例2のエアフィルタ濾材におけるポリアルファオレフィン粒子の保塵量は、28g/mであった。
【0216】
なお、実施例2のエアフィルタ濾材についても、実施例1と同様に、実施例2の同一の濾材ロールから各サンプルを切り出して、それぞれのサンプルについて後述の除菌処理を行った。圧力損失の変動係数とポリアルファオレフィン粒子の保塵量については、当該実施例2の同一の濾材ロールを対象として測定した値を、各サンプルに共通の値として示している。
【0217】
(実施例3)
実施例3では、液状潤滑剤の混合量を31重量部とした点を除き、実施例2の第1の生テープと同様にして、平均厚さ300μm、平均幅150mmの帯状の未焼成フッ素樹脂フィルムを得た。そして、この1枚の第1の生テープを実施例2と同様に延伸してフッ素樹脂多孔膜を得た。実施例2と同様に、この1枚のフッ素樹脂多孔膜について、その上流側と下流側の両方に通気性支持材を熱融着させることにより、実施例3のエアフィルタ濾材を得た。なお、通気性支持材は、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径24μm、目付40g/m、厚さ0.2mm)を用いた(なお、捕集効率は、実質的に0あるいは略0とみなすことができるものであった)。
【0218】
以上のようにして得られた実施例3のエアフィルタ濾材における圧力損失の変動係数は、5.4であった。また、実施例3のエアフィルタ濾材におけるポリアルファオレフィン粒子の保塵量は、19g/mであった。
【0219】
なお、実施例3のエアフィルタ濾材についても、実施例1と同様に、実施例3の同一の濾材ロールから各サンプルを切り出して、それぞれのサンプルについて後述の除菌処理を行った。圧力損失の変動係数とポリアルファオレフィン粒子の保塵量については、当該実施例3の同一の濾材ロールを対象として測定した値を、各サンプルに共通の値として示している。
【0220】
(除菌処理)
以上の実施例1-3について、以下に述べる各種除菌処理を施し、その除菌処理前後の各物性の測定を行った。
【0221】
除菌処理としては、以下に述べるようにして、界面活性剤を用いた除菌処理、アルコールを用いた除菌処理、次亜塩素酸ナトリウムを用いた除菌処理、次亜塩素酸水を用いた除菌処理、85℃の熱水を用いた除菌処理、オートクレーブ処理による除菌処理、高温空気加熱処理による除菌処理、アルミ袋に密封された状態でのオートクレーブ処理による除菌処理、紫外線を照射させる除菌処理、過酸化水素水を用いた除菌処理、オゾンを用いた除菌処理をそれぞれ行った。
【0222】
界面活性剤を用いた除菌処理では、有効成分ポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.2重量%以上となるように水で薄めた液体をエアフィルタ濾材の両面に6回ずつ噴霧し、その後、風乾した。なお、液体の噴霧量は、エアフィルタ濾材の直径60mmに対して1.5gであった。
【0223】
アルコールを用いた除菌処理では、80重量%のエタノールをエアフィルタ濾材の両面に6回ずつ噴霧し、その後、風乾した。なお、液体の噴霧量は、エアフィルタ濾材の直径60mmに対して1.5gであった。
【0224】
次亜塩素酸ナトリウムを用いた除菌処理では、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05重量%である液体をエアフィルタ濾材の両面に6回ずつ噴霧し、その後、風乾した。なお、液体の噴霧量は、エアフィルタ濾材の直径60mmに対して1.5gであった。
【0225】
次亜塩素酸水を用いた除菌処理では、次亜塩素酸水の濃度が50ppmである液体をエアフィルタ濾材の両面に6回ずつ噴霧し、その後、風乾した。なお、液体の噴霧量は、エアフィルタ濾材の直径60mmに対して1.5gであった。
【0226】
85℃の熱水を用いた除菌処理では、エアフィルタ濾材を85℃の熱水の中に10分間浸漬させる除菌処理と、60分間浸漬させる除菌処理と、をそれぞれ行った。
【0227】
オートクレーブ処理による除菌処理では、「JIS Z2801 抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果 5.3 殺菌方法b) 高圧蒸気殺菌」に記載の条件に準じて、エアフィルタ濾材を、温度121℃(ゲージ圧力で圧力103kPa相当)の高温水蒸気環境下に、20分間曝す除菌処理と、100分曝す除菌処理と、をそれぞれ行った。なお、オートクレーブ処理による除菌処理は、実施例1のエアフィルタ濾材についてのみ行っているが、エアフィルタ濾材を構成する成分が同等であることから、実施例2、3のエアフィルタ濾材についても同様の傾向を示すものと考えられる。
【0228】
高温空気加熱処理による除菌処理では、エアフィルタ濾材を、温度120℃の乾燥空気で満たされた恒温槽内に100分間曝す除菌処理を行った。なお、高温空気加熱処理による除菌処理は、実施例1のエアフィルタ濾材についてのみ行っているが、エアフィルタ濾材を構成する成分が同等であることから、実施例2、3のエアフィルタ濾材についても同様の傾向を示すものと考えられる。
【0229】
アルミ袋に密封された状態でのオートクレーブ処理による除菌処理では、エアフィルタ濾材をアルミ袋内に密封させたものを、温度121℃(ゲージ圧力で圧力103kPa相当)の高温水蒸気環境下に、100分間曝す除菌処理を行った。なお、アルミ袋に密封された状態でのオートクレーブ処理による除菌処理は、実施例1のエアフィルタ濾材についてのみ行っているが、エアフィルタ濾材を構成する成分が同等であることから、実施例2、3のエアフィルタ濾材についても同様の傾向を示すものと考えられる。
【0230】
紫外線を照射させる除菌処理では、波長254nmの紫外線をエアフィルタ濾材に対して5分間照射させる除菌処理と、30分間照射させる処理と、をそれぞれ行った。
【0231】
過酸化水素水を用いた除菌処理では、エアフィルタ濾材を、過酸化水素水の濃度が3w/v%である液体の中に10分間浸漬させる除菌処理と、30分間浸漬させる除菌処理と、をそれぞれ行った。
【0232】
オゾンを用いた除菌処理では、エアフィルタ濾材を、オゾンの濃度6ppmの環境下に、66時間曝す除菌処理を行った。なお、オゾンを用いた除菌処理は、実施例1のエアフィルタ濾材についてのみ行っているが、エアフィルタ濾材を構成する成分が同等であることから、実施例2、3のエアフィルタ濾材についても同様の傾向を示すものと考えられる。
【0233】
なお、実施例1-3において測定した各物性は、以下の通りである。
【0234】
(エアフィルタ濾材における圧力損失)
エアフィルタ濾材の測定サンプルを、直径100mmのフィルタホルダにセットし、コンプレッサで入口側を加圧し、流速計で空気の透過する流量を5.3cm/秒に調整した。そして、この時の圧力損失を差圧計で測定した。
【0235】
(エアフィルタ濾材における粒子径0.1μmのNaCl粒子の捕集効率と透過率)
JIS B9928附属書5(規定)NaClエアロゾルの発生方法(加圧噴霧法)記載の方法に準じて、アトマイザーで発生させたNaCl粒子を、静電分級器(TSI社製)で、粒径0.1μmに分級し、アメリシウム241を用いて粒子帯電を中和した後、透過する流量を5.3cm/秒に調整し、パーティクルカウンター(TSI社製、CNC)を用いて、測定試料である濾材の前後での粒子数を求め、次式により捕集効率を算出した。
透過率(%)=(CO/CI)×100
捕集効率(%)=100-透過率(%)
CO=測定試料の下流側のNaCl 0.1μmの粒子数
CI=測定試料の上流側のNaCl 0.1μmの粒子数
(エアフィルタ濾材における粒子径0.1μmのNaCl粒子のPF値)
粒子径0.1μmのNaCl粒子を用いて、エアフィルタ濾材の圧力損失及び捕集効率(粒子径0.1μmのNaCl粒子の捕集効率)とから、次式に従いPF値を求めた。
PF値={-log((100-捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)
【0236】
(エアフィルタ濾材における圧力損失の変動係数(CV値))
ロール状に巻き取られた長尺のエアフィルタ濾材(幅方向長さ650mm)から、先端部を含む5m程度の部分を引き出し、エアフィルタ濾材の長手方向に200mmごとに25個に分割しかつ幅方向に両端部を除き130mmごとに4個に分割してなる格子状の100箇所について直径100mmのフィルタホルダを用いて圧力損失を測定した。ここでの圧力損失の測定は、濾材の幅方向に5個以上のフィルタホルダを備える測定装置を用いて、上記濾材を長手方向に移動させて複数の格子状の箇所について連続して測定することにより行った。次いで、これら測定した圧力損失からなる圧力損失分布から標準偏差を求め、求めた標準偏差を、測定した全ての箇所の圧力損失の平均値で割ることにより、変動係数(CV値)(%)を求めた。
【0237】
(エアフィルタ濾材におけるポリアルファオレフィン粒子の保塵量:PHC)
ポリアルファオレフィン(PAO)粒子(液体粒子)透過時の圧力損失上昇試験で評価した。即ち、PAO粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したときの圧力損失を差圧計で経時的に測定し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときに、濾材に保持されているPAO粒子の濾材の単位面積当たりの重量である保塵量(g/m2)を求めた。なお、PAO粒子は、ラスキンノズルで発生させたPAO粒子(個数中位径0.25μm)を用い、PAO粒子の濃度は、約100万~600万個/cm3とした。
【0238】
各実施例1-3のエアフィルタ濾材について、各除菌処理の前と後の諸物性を、以下の表に示す。
【0239】
なお、表中、圧力損失比は、除菌処理後圧力損失(Pa)/初期圧力損失(Pa)であり、捕集効率比は、除菌処理後捕集効率(%)/初期捕集効率(%)であり、透過率比は、100-除菌処理後捕集効率(%)/100-初期捕集効率(%)であり、PF値比は、除菌処理後PF値/初期PF値である。
【0240】
【表1】
【0241】
【表2】
【0242】
【表3】
【0243】
(比較例1)
なお、比較例1として、フッ素樹脂多孔膜を用いないエアフィルタ濾材を用いて、界面活性剤による除菌処理を行った場合と、アルコールによる除菌処理を行った場合と、について、それぞれ除菌処理の前後の物性変化を測定した。
【0244】
比較例1では、エレクトレット処理されたPPメルトブローンの市販マスクの部材を用いた。当該マスクの部材は、厚みが130μmであり、目付が23g/mであった。当該マスクの部材を3枚重ねたものを比較例1のエアフィルター濾材とした。
【0245】
以上の比較例1のエアフィルタ濾材について、上記実施例1~3と同様にして、界面活性剤による除菌処理とアルコールによる除菌処理の前後の物性変化を測定した。
【0246】
比較例1のエアフィルタ濾材について、界面活性剤による除菌処理を行った場合については、初期圧力損失が58Pa、除菌処理後の圧力損失が54Pa、圧力損失比が0.93であった。また、初期捕集効率は97.5161%、除菌処理後捕集効率が59.0323%、捕集効率比が0.6、透過率比が16.5であった。また、初期PF値は27.7、除菌処理後PF値は7.2、PF値比が0.3であった。
【0247】
また、比較例1のエアフィルタ濾材について、アルコールによる除菌処理を行った場合については、初期圧力損失が58Pa、除菌処理後の圧力損失が54Pa、圧力損失比が0.93であった。また、初期捕集効率は97.5161%、除菌処理後捕集効率が86.4516%、捕集効率比が0.9、透過率比が5.5であった。また、初期PF値は27.7、除菌処理後PF値は16.1、PF値比が0.6であった。
【0248】
(比較例2)
比較例2として、ナノファイバー複合濾材であるN95マスクを用いて、上記実施例1と同様に、オートクレーブ処理による除菌処理(20分)を行った。
【0249】
比較例2のマスクでは、初期圧力損失が57Pa、除菌処理後の圧力損失が60Pa、圧力損失比が1.0であった。また、比較例2のマスクについて、初期捕集効率は99.25%、除菌処理後捕集効率が63.58%、捕集効率比0.6、透過率比が48.8であった。さらに、比較例2のマスクについて、初期PF値は36.4、除菌処理後PF値は7.2、PF値比は0.2であった。比較例2のマスクは、オートクレーブ処理によって帯電効果が減少し、捕集効率が大幅に低下したものと思われる。
【0250】
(付記)
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0251】
1 エアフィルタユニット
2 台座
2a 開口
3 紐
20 プリーツ状マスク用濾材(プリーツ状濾材)
25 枠体
30 エアフィルタ濾材
31 フッ素樹脂多孔膜
32 通気性支持材(支持材)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0252】
【文献】国際公開第2013/157647号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7